(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】モールドパウダー及び焼結原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/108 20060101AFI20240410BHJP
B22D 11/16 20060101ALI20240410BHJP
B22D 11/07 20060101ALI20240410BHJP
C21C 7/076 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B22D11/108 F
B22D11/16 E
B22D11/07
C21C7/076 P
(21)【出願番号】P 2020045356
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 郁也
(72)【発明者】
【氏名】岩本 行正
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 純哉
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-115695(JP,A)
【文献】特開2000-169136(JP,A)
【文献】特開2005-169488(JP,A)
【文献】特開平05-038560(JP,A)
【文献】特開2011-245503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
B22D 11/16
B22D 11/07
C21C 7/076
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算の組成として10~40質量%のNa
2O、25~60質量%のCaO、20~45質量%のSiO
2及び6%以下(0%を含む)のAl
2O
3を含み、かつ、主たる結晶
がaNa
2O・bCaO・cSiO
2(a,b,cは1~8の任意の整数)
の焼結原料
と、
合計含有量が20質量%以下(0質量%を含む)の炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムと、を含み、
Fを含まないことを特徴とするモールドパウダー。
【請求項2】
請求項
1に記載のモールドパウダーであって、
酸化物換算の組成として4質量%以下(0質量%を含む)のAl
2O
3を含むことを特徴とするモールドパウダー。
【請求項3】
酸化物換算の組成として10~40質量%のNa
2
O、25~60質量%のCaO、20~45質量%のSiO
2
及び6%以下(0%を含む)のAl
2
O
3
を含み、かつ、主たる結晶がaNa
2
O・bCaO・cSiO
2
(a,b,cは1~8の任意の整数)の焼結原料の製造方法であって、
ウォラストナイト、ポルトランドセメント、珪石及び炭酸カルシウムから選ばれる2種以上と、炭酸ナトリウムと、3質量%以下(0質量%を含む)の酸化アルミニウムとを含む原料混合物を800~1200℃で焼成する工程を含むことを特徴とする焼結原料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼の連続鋳造に好適なモールドパウダー、それに含まれる焼結原料及び焼結原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造プロセスでは、モールド内の溶鋼の表面にモールドパウダーが投入される。モールドパウダーは溶鋼からの熱を受けて溶融して(以下、溶融状態のモールドパウダーを「パウダースラグ」という)溶鋼の表面を覆い、パウダースラグはモールドと凝固シェルの間隙に流れ込んでスラグフィルムとなり、モールド下端から排出されて消費される。このプロセスにおけるモールドパウダーの主な役割は以下のとおりである。
・溶鋼表面の保温
・大気の遮断による溶鋼の酸化防止
・溶鋼から浮上する介在物の溶解及び吸収による溶鋼の浄化
・モールドと凝固シェルの間の潤滑
・凝固シェルの冷却速度のコントロール
【0003】
モールドパウダーは、主成分としてSiO2とCaOを含み、パウダースラグの特性や溶融速度の調整等のための副成分としてAl2O3、MgO、Na2O、Li2O、フッ素(F)、B2O3、炭素(C)等を含む。
【0004】
主成分の原料としては、一般にモールドパウダーに使用されているものであれば特に制限はなく、SiO2-CaO原料、SiO2原料、CaO原料が使用される。SiO2-CaO原料としては合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、燐スラグ、高炉スラグ、ポルトランドセメント等が使用され、SiO2原料としては珪砂、珪石、珪藻土、長石等が使用され、CaO原料としては石灰石(炭酸カルシウム)、生石灰(酸化カルシウム)等が使用される。
【0005】
副成分の原料としては、アルミナ(酸化アルミニウム)、MgO原料(マグネシア)、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カルシウム(CaF2)、氷晶石、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト、炭素原料(カーボンブラック、黒鉛、木炭、コークス)等が使用される。
【0006】
主成分の原料である合成珪酸カルシウムは、主成分としてSiO2とCaOを含み、必要に応じてNa2OやFが添加される。合成珪酸カルシウムの製造方法としては、電気炉やシャフト炉で原料混合物を高温で溶融した後、水中急冷却によりガラス化し、乾燥、粉砕するプリメルトタイプが知られている(特許文献1)。
【0007】
ほぼ全てのモールドパウダーにFが添加されている。Fはモールドパウダーの融点と粘度を低下させ、結晶化挙動を向上させる重要な役割を果たす。Fを供給する原料(F源)としてはフッ化ナトリウム(NaF)が使用されることが多い。その理由は、Naもモールドパウダーの融点や粘度を下げる等、モールドパウダーの機能を向上させるからである。NaFは工業的に合成されるため、高純度で組成が安定していることも理由である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-169136号公報
【文献】特開2011-245503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、NaFは健康や環境への有害性が指摘されている。そのため、NaFを使用しないモールドパウダーが設計されている。
【0010】
NaFに代わるF源としてはフッ化カルシウム(CaF2)が使用される。また、NaFに代わるNa源としては、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、氷晶石(Na3AlF6)、ソーダ長石(NaAlSi3O8)、珪酸ナトリウム(Na2O・nSiO2)等が使用される。しかし、これらのNa源の含有量が多すぎると、以下のような問題が発生する。
【0011】
・炭酸ナトリウムが多すぎる場合
炭酸ナトリウムが低融点であることからモールドパウダーの溶融性が悪化し、モールド壁面に大きなスラグベアが形成され、連続鋳造の操業トラブルの原因になる。また、炭酸ナトリウムが分解する際、CO2ガスを放出する。この反応は吸熱反応であるため、溶鋼表面を冷やす。さらに、顆粒タイプのモールドパウダーを造粒するために水を添加すると発熱し、造粒性が悪化する。
【0012】
・氷晶石やソーダ長石が多すぎる場合
Al2O3の含有量が多くなり、パウダースラグの結晶の生成を阻害してしまう。モールドパウダーの結晶の生成は、凝固シェルの冷却速度の抑制(緩冷却効果)に重要な役割を果たすため、中炭素鋼や珪素鋼等の連続鋳造には強く求められる。したがって、鋼の種類によっては、低Al2O3のモールドパウダーが設計しにくい。
【0013】
・珪酸ナトリウムが多すぎる場合
他の原料より低融点であることからモールドパウダーの溶融性が悪化し、モールド壁面に大きなスラグベアが形成され、連続鋳造の操業トラブルの原因になる。
【0014】
さらに、Fの含有量が少ない又は含まないモールドパウダーは、Fの代わりに粘度や融点を調整するため、通常のFを含むモールドパウダーより多量のNaを含有することがある。氷晶石はFを含むため、Na源は実質的に炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムに限られる。それらはより多くの含有量が必要とされるが、多すぎる場合の問題は上記のとおりであるから、モールドパウダーの設計はより一層困難になる。
【0015】
Na源として、Na化合物を添加した合成珪酸カルシウムのプリメルトを使用することがある(例えば、特許文献2)。プリメルトは溶融性が良好でCO2ガスを放出せず、造粒性も良好である。しかし、プリメルトの製造過程で溶融が必要であり、融液からNa化合物が揮発し、歩留まりや周囲の環境を悪化させることがある。
【0016】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、本開示のいくつかの態様は、溶鋼の表面に投入される際に溶融性が良好でCO2ガスを放出せず、造粒性が良好で、Al2O3の含有量を低減しやすく、Fの含有量が少ない又は含まない場合でも炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムが多すぎる場合の問題を生じず、さらに、Na源を製造する際にNa化合物を揮発させないモールドパウダー、それに含まれる焼結原料及び焼結原料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)本開示の第1の態様は、酸化物換算の組成として10~40質量%のNa2O、25~60質量%のCaO、20~45質量%のSiO2及び6%以下(0%を含む)のAl2O3を含み、かつ、主たる結晶はaNa2O・bCaO・cSiO2(a,b,cは1~8の任意の整数)であることを特徴とする焼結原料に関する。
【0018】
Na源としてこの焼結原料を使用すると、溶融性が良好でCO2ガスを放出せず、また、造粒性が良好で、NaF原料を必要としないモールドパウダーや、高Na、低F、低Al2O3組成のモールドパウダーを提供することができる。
【0019】
(2)本開示の第2の態様は、第1の態様の焼結原料と、合計含有量が20質量%以下(0質量%を含む)の炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムとを含むことを特徴とするモールドパウダーに関する。
【0020】
Na源の焼結原料はNaの含有量(10~40質量%)は多いが、主たる結晶はaNa2O・bCaO・cSiO2(a,b,cは1~8の任意の整数)であるため、融点が1200℃以上であり、炭酸ナトリウムや珪酸ナトリウムほど低くない。したがって、Na源としてこの焼結原料を含み、他のNa源である炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムが少ない(合計含有量が20質量%以下)モールドパウダーは、溶鋼の表面に投入される際の溶融性が良好である。また、炭酸成分を含まないためCO2ガスを放出しない。さらに、高Na組成の焼結原料を使用すると炭酸ナトリウムを過剰に添加する必要がないことからモールドパウダーの造粒性を悪化させない。
【0021】
(3)本開示の第2の態様のモールドパウダーは、Fを含まなくてもよい。第1の態様の焼結原料をNa源として使用すると、炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムが少量でよい、又は、必要ないため、それらが多すぎる場合の問題を回避することができる。したがって、NaFやFを含まないモールドパウダーの設計が可能になる。また、Al2O3の含有量が比較的少ない(酸化物換算の組成として5質量%以下)モールドパウダーを設計することもできる。このようにモールドパウダーの設計自由度を高めることができる。
【0022】
(4)本開示の第2の態様のモールドパウダーは、酸化物換算の組成として4質量%以下(0質量%を含む)のAl2O3を含むことが好ましい。パウダースラグの結晶の生成が阻害されないため、幅広い種類の鋼に使用することができる。
【0023】
(5)本開示の第3の態様は、本開示の第1の態様の焼結原料の製造方法であって、ウォラストナイト、ポルトランドセメント、珪石及び炭酸カルシウムから選ばれる2種以上と、炭酸ナトリウムと、3質量%以下(0質量%を含む)の酸化アルミニウムとを含む原料混合物を800~1200℃で焼成する工程を含むことを特徴とする焼結原料の製造方法に関する。
【0024】
原料混合物を800~1200℃で焼成し、Na源の炭酸ナトリウムを高温で溶融しないので、Na化合物が揮発せず、歩留まりや周囲の環境を悪化させることなく焼結原料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0026】
<焼結原料>
本実施形態の焼結原料は、酸化物換算の組成として10~40質量%のNa2O、25~60質量%のCaO、20~45質量%のSiO2及び6質量%以下(0質量%を含む)のAl2O3を含み、かつ、焼結原料の主たる結晶はaNa2O・bCaO・cSiO2(a,b,cは1~8の任意の整数)である。
【0027】
焼結原料は酸化物換算の組成として、Na2Oの含有量は10~40質量%が好ましく、12~35質量%がより好ましく、15~30質量%がさらに好ましい。Na2Oの含有量がこの範囲を満たすと、モールドパウダーの溶融性が良好である。Na2Oの含有量が多すぎると目的のNa2O-CaO-SiO2複合酸化物の融点が低くなりすぎ、この焼結原料を含むモールドパウダーは溶融性が悪化し、操業トラブルの原因になる。
【0028】
焼結原料は酸化物換算の組成として、CaOの含有量は25~60質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましく、35~47質量%がさらに好ましい。SiO2の含有量は20~45質量%が好ましく、25~40質量%がより好ましく、28~38質量%がさらに好ましい。CaO及びSiO2の含有量がこの範囲を満たすと目的のNa2O-CaO-SiO2複合酸化物の合成が進み、未反応の原料が残りにくい。
【0029】
焼結原料は酸化物換算の組成として、Al2O3の含有量は6%以下(0%を含む)が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。Al2O3の含有量がこの範囲であれば、焼結原料の原料として安価なソーダ長石等を使用することもできる。一方、Al2O3の含有量が多すぎると目的の低Al2O3、高Na2Oの焼結原料が得られない。
【0030】
焼結原料の主たる結晶はaNa2O・bCaO・cSiO2(a,b,cは1~8の任意の整数)である。この結晶は融点が1200℃以上であり、炭酸ナトリウムや珪酸ナトリウムほど低くない。したがって、Na源としてこの焼結原料を含み、他のNa源である炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムが少ない(合計含有量が20質量%以下)モールドパウダーは造粒性に優れ、溶鋼の表面に投入される際の溶融性も良好である。また、炭酸成分を含まないためCO2ガスを放出しない。
【0031】
焼結原料の強熱減量(Loss on Ignition:LOI)は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。LOIは脱CO2反応に起因し、CO2反応は吸熱反応であるため、LOIが少ないほど、溶鋼の表面に投入する際、吸熱反応に伴う溶鋼表面の冷却を抑制することができる。
【0032】
<モールドパウダー>
本実施形態のモールドパウダーは、本実施形態の焼結原料と、合計含有量が20質量%以下(0質量%を含む)の炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムとを含む。
【0033】
モールドパウダーの原料の割合としては、焼結原料の含有量は0質量%超が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましい。一方、炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムの合計含有量は20質量%以下(0質量%を含む)が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。また、炭酸ナトリウム及び珪酸ナトリウムの合計含有量は15質量%以下(0質量%を含む)が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。モールドパウダーは、融点が1200℃以上の焼結原料をNa源として含むことによって融点が過度に低いNa源の含有量を抑えられるため、溶融性が良好である。また、CO2ガスを放出するNa源の含有量を抑えられるため、溶鋼の表面に投入すると、溶鋼表面の冷却を抑制し、綱の品質を維持することができる。さらに、Na含有量が多い焼結原料を含むことによって炭酸ナトリウムを過剰に添加する必要がないため、造粒性を悪化させない。
【0034】
モールドパウダーの原料は、既述のものを含め、一般にモールドパウダーに用いられ、かつ、上記の組成や特性を満足するものであれば特に制限はなない。
【0035】
モールドパウダーはFを含まなくてもよい。本実施形態の焼結原料をNa源として使用すると、炭酸ナトリウム、ソーダ長石及び珪酸ナトリウムが少量でよい、又は、必要ないため、それらが多すぎる場合の問題を回避することができる。したがって、NaFやFを含まないモールドパウダーの設計が可能になる。また、Al2O3の含有量が比較的少ない(酸化物換算の組成として5質量%以下)モールドパウダーを設計することもできる。このようにモールドパウダーの設計自由度を高めることができる。
【0036】
モールドパウダーは酸化物換算の組成としてAl2O3の含有量が6質量%以下(0質量%を含む)であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。パウダースラグの結晶の生成が阻害されないため、幅広い種類の鋼に使用することができる。
【0037】
モールドパウダーの形態は、一般にモールドパウダーに用いられる形態であれば特に制限はなく、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等を用いることができる。
【0038】
<焼結原料の製造方法>
本実施形態の焼結原料の製造方法は、ウォラストナイト、ポルトランドセメント、珪石及び炭酸カルシウムから選ばれる2種以上と、炭酸ナトリウムと、3質量%以下(0質量%を含む)の酸化アルミニウムとを含む原料混合物を、800~1200℃で焼成する工程を含む。
【0039】
原料混合物は、CaOやSiO2の供給原料としてウォラストナイト、ポルトランドセメント、珪石及び炭酸カルシウム(石灰石)から選ばれる2種以上を含むことが好ましいが、これらに限定されることはなく、他に高炉スラグ、燐スラグ等を含んでもよい。Na源としては炭酸ナトリウムが好ましいが、珪酸ナトリウム等他のNa源を含んでもよい。原料混合物は酸化アルミニウムの含有量が3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下がより好ましく、0質量%がさらに好ましい。焼結原料の主たる結晶として融点が適度に低いaNa2O・bCaO・cSiO2(a,b,cは1~8の任意の整数)を得ることができるため、モールドパウダーの溶融性を良好にすることができる。
【0040】
焼成温度は800~1200℃が好ましく、900~1100℃がより好ましく、950~1050℃がさらに好ましい。800℃以上で焼成することによりNa2O-CaO-SiO2複合酸化物の合成、即ち、焼結が進むとともに、CO2ガスが放出され、炭酸成分が残りにくい。また、複合酸化物は融点が1200℃以上のため、1200℃以下の焼成では溶融しない。したがって、Na化合物が揮発せず、歩留まりや周囲の環境を悪化させないとともに、焼成設備を痛めない。さらに、燃料コストを抑制することができる。焼成時間はNa2O-CaO-SiO2複合酸化物の合成が進行すればよく、合成完了以降まで長くする必要はない。後述の実施例では1時間に設定した。加熱方法は一般に焼成を行うことができれば特に限定されず、例えば、内燃式ロータリーキルン、外熱式ロータリーキルン、トンネルキルン、バッチ式焼成炉等を用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0042】
(1)焼結原料
ウォラストナイト、ポルトランドセメント、珪石及び炭酸カルシウムから選ばれる2種以上と、炭酸ナトリウムとを含む原料混合物に焼結助剤として珪酸ソーダを添加し、1000℃で1時間焼成、粉砕し、焼結原料を得た。実験に用いた原料の配合と、酸化物換算の組成(焼結原料の組成)を表1に示す。
【表1】
【0043】
実施例1~3は本開示の実施例である。比較例は6質量%の酸化アルミニウムを含む。
【0044】
得られた焼結原料について、生成した結晶をX線回折法により同定した。同定結果を表1に示す。結晶の「+」記号の数が多いほど生成量が多いことを意味する。
【0045】
実施例1~3で得られた焼結原料の主たる結晶はいずれもaNa2O・bCaO・cSiO2(a,b,cは1~8の任意の整数)であった。一方、比較例はNaAlSi2O6、Al2Ca2O15Si5が晶出した。これらはパウダースラグの緩冷却効果を阻害するおそれがある。
【0046】
本開示では原料混合物を溶融することなく、主たる結晶がaNa2O・bCaO・cSiO2(a,b,cは1~8の任意の整数)の焼結原料を得ることができる。即ち、Na化合物が揮発せず、歩留まりや周囲の環境を悪化させることがなく、Na源の焼結原料を製造することができる。
【0047】
(2)モールドパウダー
表2に示す原料の配合に基づき、焼結原料を含むモールドパウダーを得た。焼結原料は表1の実施例2を用いた。各モールドパウダーの酸化物換算の組成を表2に示す。組成の単位は質量%だが、「質量比(CaO/SiO
2)」はCaOのSiO
2に対する質量比であり、他成分の質量%表示と単位が異なるためカッコ書きとした。
【表2】
【0048】
実施例1~6は本開示の実施例であって焼結原料を含み、比較例1~3は焼結原料を含まない。モールドパウダーの組成として実施例1~4はFを含み、実施例5~6はFを含まない(フッ素レス)。また、実施例1~5はAl2O3の含有量が少なく、実施例6はAl2O3の含有量が多い。
【0049】
得られたモールドパウダーについて、以下の評価を行った。
【0050】
<造粒性>
モールドパウダーの造粒性について、粒強度が高く、粉塵がほとんど発生しないものを優(◎)、許容できる粒強度を持ち、粉塵を若干発生するものの作業上問題のないレベルのものを良(○)、粒強度がほとんどなく、粉塵を多く発生するものを不可(×)と評価した。
【0051】
<溶融性>
高周波誘導炉で1500℃に加熱した溶鉄の表面にモールドパウダーを投入し、その溶融性を以下のように評価した。溶融からパウダースラグの生成が円滑に進むものを優(◎)、多少焼結や溶融遅れが見られるものの問題のないレベルのものを良(○)、焼結やパウダースラグの粘り等が発生し溶融性状が悪いものを不良(△)、焼結やパウダースラグの粘り等が発生し溶融性状が著しく悪いものを不可(×)とした。
【0052】
実施例及び比較例の評価結果を表2に示す。
【0053】
実施例1~6は造粒性が良好であった。これは造粒時に水と反応して発熱する炭酸ナトリウムが少ないためと考えられる。また、実施例1~6は溶融性が良好であった。実施例1~6の焼結原料はNaの含有量は多いが、主たる結晶はaNa2O・bCaO・cSiO2(a,b,cは1~8の任意の整数)であるため、融点が1200℃以上であり、比較的融点が低い炭酸ナトリウムやソーダ長石、珪酸ナトリウムが少ないためと考えられる。一方、比較例1~3は炭酸ナトリウムやソーダ長石、珪酸ナトリウムの含有量が過剰であるため造粒性、溶融性が実施例より劣る結果となった。
【0054】
本開示の焼結原料を用いると、モールドパウダーの組成として、Fの有無やAl2O3の多少によらず、造粒性、溶融性が良好なモールドパウダーを得ることができる。即ち、モールドパウダーの設計自由度が高く、多様なモールドパウダーを製造することができる。さらに、本開示のモールドパウダーは、焼結原料が炭酸成分を含まないため、溶鋼の表面に投入される際にCO2ガスを放出しない。CO2反応は吸熱反応であるため、吸熱反応に伴う溶鋼表面の冷却を抑制することができる。
【0055】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。