(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】焼結用炭材の製造方法及び焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20240410BHJP
C10B 57/04 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C22B1/16 G
C10B57/04
(21)【出願番号】P 2020067421
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060937(JP,A)
【文献】特開2013-087342(JP,A)
【文献】特開2014-133937(JP,A)
【文献】特開平06-179872(JP,A)
【文献】特開2012-255189(JP,A)
【文献】特開昭55-142095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも瀝青炭を含む石炭のロガ指数を算出し、このロガ指数が10以下である
前記石炭を乾留してチャーを製造し、
前記チャーに石灰系原料を付着させることにより、CaO濃度が4~30質量%である焼結用炭材を製造することを特徴とする焼結用炭材の製造方法。
【請求項2】
前記石灰系原料が生石灰であることを特徴とする請求項1に記載の焼結用炭材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造された焼結用炭材を用いて焼結鉱を製造することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結用炭材を製造する方法と、この焼結用炭材を用いた焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、焼結鉱の製造時における窒素酸化物の排出量を低減することを目的として、所定の性質を有する焼結用炭材を用いることが記載されている。具体的には、反応開始温度が550℃以下、揮発分が1.0%以上、H/C(水素及び炭素の原子数比)が0.040以上、水銀圧入法で測定される孔径0.1~10μmの気孔量が50mm3/g以上である焼結用炭材を用いている。
【0003】
特許文献2には、急速熱分解反応器の内壁にチャーが融着することを防止するために、ロガ指数が10以下である石炭を原料として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4681688号
【文献】特開平6-179872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、焼結用炭材の原料となる石炭のロガ指数に着目したところ、ロガ指数が所定値以下である石炭を用いて焼結用炭材を製造することにより、焼結用炭材を用いた焼結鉱の製造時に発生するNOx(NOやNO2)の排出量を低減できることが分かった。
【0006】
特許文献1では、焼結用炭材が所定の性質を有することを特定しているが、この性質は、焼結用炭材を製造した後でなければ確認することができない。言い換えれば、焼結用炭材が所定の性質を有するか否かを判別するためには、焼結用炭材を製造しなければならない。
【0007】
特許文献2は、石炭を液化及びガス化するための急速熱分解を前提として、急速熱分解反応器の内壁にチャーが融着することを防止する技術である。このため、特許文献2では、焼結鉱の製造時に発生するNOxの排出量を低減することについては何ら認識していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願第1の発明である焼結用炭材の製造方法では、少なくとも瀝青炭を含む石炭のロガ指数を算出し、このロガ指数が10以下である石炭(少なくとも瀝青炭を含む)を乾留してチャーを製造し、このチャーに石灰系原料を付着させることにより、CaO濃度が4~30質量%である焼結用炭材を製造する。石灰系原料としては、生石灰を用いることができる。
【0009】
本願第2の発明である焼結鉱の製造方法では、本願第1の発明によって製造された焼結用炭材を用いて焼結鉱を製造する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロガ指数が10以下である石炭から製造されたチャーに石灰系原料を付着させた焼結用炭材を用いることにより、焼結鉱を製造するときに発生するNOxの排出量を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態は、ロガ指数が10以下である石炭を乾留してチャーを製造し、このチャーに石灰系原料を付着させることにより、CaO濃度が4~30質量%である焼結用炭材を製造する方法である。この焼結用炭材を用いて焼結鉱を製造することにより、焼結鉱の製造時(焼結工程)に発生するNOxの排出量を低減することができる。
【0012】
本願発明者は、チャーの原料となる石炭のロガ指数に着目したところ、ロガ指数が10以下である石炭から製造されたチャーに石灰系原料を付着させた焼結用炭材を用いて焼結鉱を製造すると、焼結時におけるNOxの排出量を低減できることが分かった。また、本実施形態である焼結用炭材を用いて焼結鉱を製造すれば、副次的な効果として、焼結鉱の生産率を向上できることが分かった。
【0013】
(焼結用炭材)
本実施形態である焼結用炭材は、ロガ指数が10以下である石炭から製造されたチャーと、このチャーに付着する石灰系原料とを含有する。この焼結用炭材としては、チャーの表面が石灰系原料によって被覆された被覆型の焼結用炭材と、チャー及び石灰系原料が混合された混合型の焼結用炭材とがある。被覆型の焼結用炭材では、この焼結用炭材を形成する疑似粒子の内部がチャーによって構成されているとともに、疑似粒子の表層部が石灰系原料によって構成されている。混合型の焼結用炭材では、この焼結用炭材を形成する疑似粒子の全体において、チャー及び石灰系原料が混在している。
【0014】
被覆型の焼結用炭材は、チャーを造粒して疑似粒子を形成した後、この疑似粒子の表面に石灰系原料を付着させることにより製造することができる。混合型の焼結用炭材は、チャー及び石灰系原料を混合して造粒することにより製造することができる。焼結用炭材の製造においては、ドラムミキサーやパンペレタイザーなどの混合造粒機を用いることができる。また、チャーに石灰系原料を付着させやすくするために、焼結用炭材の製造時に水分を添加することが好ましい。
【0015】
(チャー)
チャーは、原料となる石炭を無酸素又は低酸素雰囲気にて加熱することによって製造される。例えば、石炭を熱分解炉(ロータリーキルン)に装入し、石炭を撹拌させながら熱分解させることにより、チャーを製造することができる。ここで、石炭を熱分解炉に装入する前に、石炭を予熱炉で加熱して石炭中の水分を除去することもできる。
【0016】
チャーを製造する方法としては、様々な方法が提案されており、これらの方法を適宜採用することができる。例えば、熱分解炉としてロータリーキルン以外の形式、すなわち流動層、移動層(シャフト炉)、固定層等のいずれのタイプを用いても構わない。また既設のコークス炉(室炉式)や付帯設備(コークス乾式消火設備など)を用いてチャーを製造することも可能である。本発明は、上述したようにロガ指数が10以下である石炭からチャーを製造すればよく、チャーを製造する方法は、特に限定されるものではない。また、チャーの粒径は、適宜決めることができ、5mm以下であることが好ましい。
【0017】
チャーの原料となる石炭としては、1種類の石炭を用いたり、2種類以上の石炭を混合した混炭を用いたり、同一種類であるが石炭性状(工業分析値や元素分析値)が互いに異なる複数の石炭を混合した混炭を用いたりすることができる。1種類の石炭を用いる場合には、この石炭のロガ指数が10以下であればよい。また、混炭を用いる場合には、混炭のロガ指数が10以下であればよい。ここで、チャーの原料となる石炭のロガ指数は、好ましくは6以下、より好ましくは2以下である。
【0018】
石炭のなかでも、瀝青炭については、ロガ指数が変動しやすく、ロガ指数が10より大きくなるものや、ロガ指数が10以下となるものがある。そこで、チャーの原料となる石炭として、瀝青炭を用いる場合には、ロガ指数を算出した上で、ロガ指数が10以下である瀝青炭を用いればよい。
【0019】
ロガ指数は、JIS M8801に規定されているロガ試験方法によって算出される。以下、ロガ試験方法について、簡単に説明する。
【0020】
粒径が200μm以下である石炭(チャーの原料)1gと標準無煙炭5gを、るつぼ中で十分混合する。標準無煙炭としては、灰分(無水ベース)が4.0%以下であり、揮発分(無水ベース)が5.0~6.5%であり、粒径が300~400μmである無煙炭が用いられる。次に、耐熱鋼おもりを用いて、るつぼ中の石炭及び標準無煙炭に対して、所定時間(少なくとも30秒)の間、一定の荷重(59N)を加える。
【0021】
次に、炉内温度が850±10℃に設定された電気炉内に上述したるつぼを配置して、15分間、石炭及び標準無煙炭を加熱(乾留)する。そして、加熱したるつぼを耐熱板に配置して45分間冷却した後、るつぼの内容物(るつぼコークス)の質量を測定するとともに、1mmの円孔板ふるいを用いて、篩上のコークスの質量を測定する。
【0022】
次に、るつぼの内容物(コークス)をドラムに入れて、ドラムを所定の回転速度(50rpm)で5分間回転させることにより、コークスに対して破壊処理を行う。ドラムの内径は200mm、ドラムの深さは70mmであり、ドラムの内周壁には、長さ70mm、幅30mmの2枚の羽根が対称に配置されている。
【0023】
次に、1mmの円孔板ふるいを用いて、破壊処理後のコークスの篩い分けを行い、篩上の質量を測定する。上述した破壊処理を3回繰り返して行い、下記式(1)に基づいてロガ指数を算出する。
【0024】
【0025】
上記式(1)において、RIはロガ指数である。m1は、乾留後のるつぼコークスの全質量[g]、m2は、1回目の破壊処理を行う前における篩上のコークスの質量[g]、m3は、1回目の破壊処理を行った後における篩上のコークスの質量[g]である。m4は、2回目の破壊処理を行った後における篩上のコークスの質量[g]、m5は、3回目の破壊処理を行った後における篩上のコークスの質量[g]である。
【0026】
チャーの原料となる石炭を選定するときには、選定対象の石炭について、上述したロガ試験方法を行うことによりロガ指数を算出する。そして、ロガ指数が10以下である石炭をチャーの原料として選定する。
【0027】
一方、チャーの原料として、複数の石炭を混合した混炭を用いる場合には、上述したロガ試験方法によってロガ指数を算出し、ロガ指数が10以下である混炭を選定すればよい。混炭を用いる場合には、複数の石炭の配合割合(重量比)に応じて、混炭のロガ指数が変動するため、複数の石炭の配合割合を調整することにより、混炭のロガ指数を10以下に調整することができる。特に、ロガ指数が10より大きい値を示す石炭が混炭に含まれていても、ロガ指数が10以下である値を示す石炭と混合することにより、混炭のロガ指数を10以下に調整することができる。
【0028】
(石灰系原料)
石灰系原料としては、石灰石(CaCO3)、石灰石を焼成した生石灰(CaO)、生石灰を水和した消石灰(Ca(OH)2)が挙げられる。これらの原料は、一種類だけを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。本実施形態では、焼結用炭材に含まれるCaO濃度が4~30質量%である。そこで、CaO濃度が4~30質量%となるように石灰系原料の配合量を調整すればよい。石灰系原料として生石灰を用いた場合には、焼結用炭材における生石灰の含有量がCaO濃度となる。一方、石灰系原料として、石灰石又は消石灰を用いた場合には、石灰系原料の配合量からCaO濃度に換算した値が4~30質量%であればよい。
【0029】
被覆型の焼結用炭材を製造する場合には、石灰系原料の粒径をチャーの粒径よりも小さくすることが好ましい。これにより、石灰系原料をチャーの表面に効率的に付着させて、チャーの表面を石灰系原料で被覆しやすくなる。上述したようにチャーの粒径を5mm以下とする場合には、石灰系原料の粒径を0.25mm以下とすることが好ましい。混合型の焼結用炭材を製造する場合には、チャー及び石灰系原料が混合しやすくなるように、石灰系原料の粒径及びチャーの粒径を等しくすることが好ましい。例えば、石灰系原料の粒径及びチャーの粒径を共に0.25mm以下とすることができる。
【0030】
(焼結鉱の製造方法)
本実施形態である焼結用炭材を鉄鉱石及び副原料と混合して加熱することにより、焼結鉱を製造することができる。焼結鉱の原料となる鉄鉱石としては、1種類の鉄鉱石を用いることもできるし、複数種類の鉄鉱石を用いることもできる。副原料としては、例えば、石灰石、生石灰、蛇紋岩が挙げられる。焼結鉱の原料には、鉄鉱石、副原料及び焼結用炭材に加えて、返鉱を含めることができる。
【0031】
焼結鉱の配合原料は、造粒された後に、ホッパーを介して焼結機に装入される。これにより、焼結機内では原料充填層が形成され、原料充填層の上部に点火することにより、原料充填層が燃焼して焼結ケーキが生成される。焼結ケーキを解砕及び整粒することにより、所定粒径の焼結鉱が得られる。
【0032】
焼結鉱製造の際の凝結材(燃料)となる炭材としては、本実施形態である焼結用炭材だけを用いることもできるし、本実施形態である焼結用炭材に加えて、この焼結用炭材以外の炭材を用いることもできる。ただし、本実施形態である焼結用炭材の配合量が少なすぎると、本実施形態の効果(NOxの排出量の低減)が得られにくくなる。この点を考慮すると、本実施形態である焼結用炭材の配合量は、凝結材の全量に対して10質量%以上であることが好ましい。
【0033】
焼結鉱の配合原料を造粒する工程においては、一般的に、配合原料に水分を添加して造粒を行う。配合原料に水分を添加して造粒を行うことにより、水がバインダーとなって比較的粗い粒子の周囲に比較的細かい粒子が付着する。これにより見掛けの配合原料粒径が増大し、配合原料が焼結機に装入された際に原料充填層の空隙率および空隙径が増加して通気性が向上する。通気性が向上すれば焼結の進行が速くなり、焼結鉱の生産率も向上する。
【0034】
本実施形態である焼結用炭材とその他の配合原料とを同時に混合・造粒すると、本実施形態である焼結用炭材が造粒物の内部に埋没又は内装されて、焼結時の通気性及び焼結用炭材の燃焼性が阻害される結果、NOxの排出量の低減効果や焼結鉱の生産率向上効果が十分に得られないおそれがある。
【0035】
上述した問題を解消するために、焼結用炭材を後添加することができる。ここでいう後添加には、焼結用炭材の全量を後添加する場合と、焼結用炭材の全量の一部を後添加する場合とが含まれる。一部の焼結用炭材を後添加する場合には、残りの焼結用炭材は、焼結用炭材を除いた原料と同時に混合することができる。
【0036】
上述したように焼結用炭材を後添加すれば、後添加された焼結用炭材(チャーを含む)は造粒物に内包されることはなく、造粒物の表面に付着したり、造粒物の表面に付着せずに独立した粒子として存在したりする。つまり、焼結用炭材の後添加では、吸水性が大きく造粒を阻害するチャーを除いて造粒できるため、見掛けの配合原料粒径を増大させて通気性の向上や燃焼性の改善が期待できる。また、チャーは従来の焼結用炭材(粉コークスや無煙炭)よりも反応性が高いため、焼結用炭材(チャーを含む)を造粒物の表面に付着させることにより、炭素と鉄鉱石(酸化鉄)の間の反応を抑制して焼結鉱中のFeOの上昇を抑えることができ、焼結鉱の被還元性を向上させる効果も期待できる。
【0037】
上述した焼結用炭材の後添加の効果を十分に発現するためには、鉄鉱石及び副原料に添加される焼結用炭材の全体の質量に対して、後添加される焼結用炭材の質量の割合が30質量%以上であることが好ましい。また、焼結用炭材(チャーを含む)が造粒物に内包されることを十分に回避するため、造粒を開始してから焼結用炭材を添加するまでの時間を全造粒時間に対して80%以上95%以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0039】
5種類の石炭を用意し、各石炭について、ロガ指数を算出した。また、各石炭から製造されたチャーを用いて焼結用炭材を製造し、この焼結用炭材を使用した焼結工程におけるNOxの排出量等を測定した。
【0040】
(石炭の種類)
5種類の石炭(石炭A~D及び混炭E)の分析値(工業分析値及び元素分析値)を下記表1に示す。混炭Eは、石炭C及び石炭Dを重量比1:1の割合で混合したものである。石炭A~D及び混炭Eについては、上述したロガ試験方法を行うことにより、ロガ指数を算出した。表1には、石炭A~D及び混炭Eのロガ指数も示している。
【0041】
【0042】
上記表1によれば、石炭A(褐炭)や石炭B(亜瀝青炭)については、軟化溶融性をほとんど示さず、ロガ指数はほぼゼロであった。石炭C(瀝青炭)については、軟化溶融性をほとんど示さず、ロガ指数は10以下の値(すなわち、1.9)であった。一方、石炭D(瀝青炭)については、若干の軟化溶融性を示し、ロガ指数は10よりも大きい値(すなわち、16.4)であった。
【0043】
混炭Eについては、ロガ指数が10よりも大きい値(すなわち、16.4)である石炭Dが含まれているが、ロガ指数が10以下の値(すなわち、1.9)である石炭Cを混合させることにより、混炭Eのロガ指数を10以下とすることができる。このように、ロガ指数が異なる複数の石炭を混合することにより、ロガ指数が10以下となる石炭(混炭)を調整することができる。
【0044】
(チャーの製造)
石炭A~D及び混炭Eのそれぞれを用いて、チャーを製造した。具体的には、石炭A~Dや混炭Eのそれぞれを乾燥させた後に、粒径が10mm以下になるまで粉砕し、適量の粉砕物を反応容器内に充填した。次に、窒素ガスを反応容器内で流通させながら、10℃/minの昇温速度において、反応容器内の温度を目標温度(600℃又は700℃)まで上昇させた。そして、反応容器内の温度を目標温度に維持しながら1時間放置することにより、チャーを製造した。
【0045】
一方、大型実機設備(竪型シャフト炉)において、石炭Cから製造されたチャーを入手した。このチャーには、いわゆるむら焼けの部分が一定量含有されているため、分析値(揮発分)以上の揮発分を有するチャーが一部混在しているものと考えられる。
【0046】
下記表2には、チャーの原料である石炭の種類と、チャーを製造したときの目標温度(反応容器内の温度又は、大型実機設備での温度)と、チャーA~Eの分析値(工業分析値及び元素分析値)を示す。また、下記表2では、比較のために、焼結用炭材である粉コークスの分析値(工業分析値及び元素分析値)も示す。ここで、下記表2に示す石炭A~D及び混炭Eは、上記表1に示した石炭である。
【0047】
【0048】
(焼結用炭材の製造)
各チャーA~E又は粉コークスを混練機に投入し、水を添加しながら3分間混錬した。ここで、焼結用炭材に生石灰(石灰系原料)を含有させる場合には、各チャーA~E又は粉コークスとともに生石灰を混練機に投入した。また、水の添加量は、各チャーA~E又は粉コークスの質量(生石灰を含有した場合には生石灰の質量も含む)に対して24質量%とした。混錬後、パンペレタイザーを用いて5分間造粒することにより、焼結用炭材を製造した。以下、参考例、比較例及び実施例における焼結用炭材について説明する。
【0049】
(参考例)
焼結用炭材として、参考例1では、生石灰を含有していない粉コークスを用い、参考例2では、生石灰を含有していないチャーDを用いた。
【0050】
(比較例)
焼結用炭材として、比較例1では、生石灰を含有していないチャーAを用い、比較例2では、生石灰を含有していないチャーBを用い、比較例3では、生石灰を含有していないチャーC1を用い、比較例4では、生石灰を含有していないチャーC2を用いた。また、比較例5では、生石灰を含有していないチャーC3を用い、比較例6では、2質量%の生石灰(CaO濃度)を含有したチャーC3を用い、比較例7では、40質量%の生石灰(CaO濃度)を含有したチャーC3を用いた。比較例8では、生石灰を含有していないチャーEを用いた。
【0051】
(実施例)
焼結用炭材として、実施例1~4では、20質量%の生石灰(CaO濃度)を含有したチャーA,B,C1,C2をそれぞれ用いた。実施例5~7では、生石灰を含有したチャーC3を用い、生石灰の含有量(CaO濃度)を4,20,30質量%と異ならせた。実施例8では、20質量%の生石灰(CaO濃度)を含有したチャーEを用いた。
【0052】
(焼結試験)
焼結機を小型サイズにした実験設備(以下、「鍋」という)を用いて、焼成処理を行うことにより、燃焼進行速度(FFS;Flame Front Speed)、成品歩留、生産率及びNOx排出量を評価した。鍋の直径は300mmであり、鍋の厚みは600mmである。また、焼成処理における燃焼ガスの吸引圧を1530kPaとした。
【0053】
焼結試験で用いられた原料を下記表3に示す。
【0054】
【0055】
鉄鉱石として、銘柄A~Fの鉄鉱石を用意した。これらの鉄鉱石の配合量(質量%)は上記表3に示す通りである。副原料として、石灰石、生石灰及び蛇紋岩を用意した。これらの副原料の配合量(質量%)は上記表3に示す通りである。一方、鉄鉱石及び副原料に対して、返鉱及び焼結用炭材を配合したり、返鉱及び粉コークスを配合したりした。
【0056】
返鉱の配合量は、鉄鉱石及び副原料の総質量に対して15質量%とした。粉コークスの配合量は、鉄鉱石及び副原料の総質量に対して4.5質量%とした。焼結用炭材の配合量については、4.5質量%の粉コークスと固定炭素の量が等しくなるように、焼結用炭材の配合量を調整した。粉コークス及び焼結用炭材の粒度分布は同一であり、下記表4に示す通りである。
【0057】
【0058】
焼結用炭材以外の他の焼結用原料をドラムミキサー(直径1m、回転数23rpm)に投入し、1分間混合した。次に、ドラムミキサーに目標水分が7.5質量%(外数)となるように水を添加した後に、ドラムミキサー内の混合物を一定時間造粒した。次に、ドラムミキサー内の混合物を更に4分間の間混合(造粒)した。ここで、4分間が経過する30秒前に焼結用炭材又は粉コークスを添加した。焼結用炭材や粉コークスを添加するときには、ドラムミキサーを一時的に停止させた。
【0059】
上述した造粒物を用いた焼結試験を実施することにより、焼結用炭材及び粉コークスについて、燃焼進行速度(FFS)、成品歩留、生産率、NOxの排出量を算出した。
【0060】
燃焼進行速度(FFS)とは、鍋に焼結用原料を充填したときの焼結原料層の層厚(焼結鍋の高さ方向のサイズ)を、焼結原料層の点火を開始した時刻から燃焼帯が焼結原料層の最下部に到達した時刻(到達時刻という)までの時間で除算した値である。本実施例では、到達時刻として、排ガスの温度が最高温度を示す点(BTP;Burn Through Point)に到達した時刻とした。
【0061】
成品歩留とは、焼結鉱成品の歩留であり、篩目の大きさが5mmの篩により篩い分けた篩上の焼結鉱の質量Msを、元の焼結ケーキの質量Mtで除算した値(mass%)である。具体的には、下記式(2)に基づいて、成品歩留Rが算出される。
【0062】
【0063】
生産率とは、焼結鉱の生産率[t/d/m2]である。生産率Pは、5mmの篩により篩い分けた篩上の焼結鉱の質量Ms[t]を、焼結機(ここでは鍋)の有効面積S[m2]及び焼結時間ts[h]により除算したものであり、下記式(3)に基づいて算出される。
【0064】
【0065】
NOxの排出量とは、鍋の点火を開始してから、排ガスの温度がBTPに到達するまでの間に排出された排ガス中に含有されるNOxの量(NO及びNO2の総量)を窒素重量(酸素を含まない)[g]として表したものである。
【0066】
参考例1,2、比較例1~8及び実施例1~8である焼結用炭材を用いた焼結試験において、燃焼進行速度、成品歩留、生産率及びNOx排出量の測定結果を下記表5に示す。下記表5に示すチャーA~E及び粉コークスは、上記表2に示すチャーA~E及び粉コークスにそれぞれ相当する。
【0067】
【0068】
上記表5によれば、ロガ指数が10以下の値を示す石炭(混炭含む)から製造したチャー(チャーA,B,C1~C3,E)を使用して焼結鉱を製造した場合(比較例1~8及び実施例1~8)には、粉コークスを用いて焼結鉱を製造した場合(参考例1)や、チャーD(ロガ指数が16.4)を用いて焼結鉱を製造した場合(参考例2)と比べて、NOxの排出量を低減することができた。そして、実施例1~4,8によれば、焼結用炭材に生石灰を含有させることにより、比較例1~4,8(生石灰を含有しない焼結用炭材)のそれぞれと比べて、NOxの排出量を更に低減することができた。
【0069】
一方、比較例6によれば、焼結用炭材に2質量%の生石灰を含有させても、NOxの排出量及び生産率は、焼結用炭材に生石灰を含有させない比較例5とほぼ同様であった。一方、実施例5,6,7のように、生石灰の含有量が4,20,30質量%であれば、比較例5,6と比べて、生産率を維持しながら、NOxの排出量を低減することができた。比較例7のように、生石灰の含有量が40質量%である場合には、比較例5,6と比べて、NOxの排出量を低減することができたものの、生産率が低下した。