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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】プラズマ源及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240410BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240410BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240410BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H01L21/31 C
H01L21/302 101C
C23C16/505
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020071545
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021168276
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-254188(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0097752(US,A1)
【文献】特開2013-129897(JP,A)
【文献】特開2020-004534(JP,A)
【文献】特開2016-143616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/46
H01L 21/31
H01L 21/3065
C23C 16/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器の外部に設けられたアンテナに高周波電流を流して前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ源であって、
前記真空容器の前記アンテナに臨む位置に形成された開口を塞ぐとともに、前記アンテナの長手方向に沿って複数のスリットが形成されたスリット部材と、
前記スリット部材の外側を向く外向き面に載せられ、前記スリットを前記真空容器の外側から塞ぐ誘電体板とを具備し、
前記スリット部材の外向き面において、互いに隣り合う前記スリットに挟まれた領域には、前記誘電体板に接触して前記誘電体板を支持する接触領域と、当該接触領域よりも内側に向かって凹ませた凹部からなり、前記誘電体板に接触しない非接触領域とが形成されている、プラズマ源。
【請求項2】
前記凹部が、前記スリットと空間的につながっている請求項1記載のプラズマ源。
【請求項3】
前記凹部の前記長手方向に沿った寸法が、当該凹部の深さ寸法の3倍以上である、請求項2記載のプラズマ源。
【請求項4】
前記スリットが、前記アンテナの長手方向と直交する方向に延びており、
前記凹部が、前記スリットの延在方向に沿って形成されている、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載のプラズマ源。
【請求項5】
前記スリット部材には、前記外向き面における前記スリットの延在方向外側の領域を内側に向かって凹ませた第2凹部が形成されている、請求項4記載のプラズマ源。
【請求項6】
前記スリット部材が、
前記複数のスリットが前記アンテナの長手方向に沿って形成されたスリット板と、
前記スリット板と前記誘電体板との間に介在し、前記スリット板における少なくとも1つの前記スリットとその周囲とに重なり合う開口が複数形成されたシール部材とを有し、
前記スリット及び前記開口との重なりにより生じる段差が前記凹部として形成されている、請求項1乃至5のうち何れか一項に記載のプラズマ源。
【請求項7】
前記真空容器と、
請求項1乃至6のうち何れか一項に記載のプラズマ源とを備える、プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器内にプラズマを発生させるためのプラズマ源、及び、このプラズマ源を備えたプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンテナに高周波電流を流し、それによって生じる誘導電界によって誘導結合型のプラズマ(略称ICP)を発生させ、この誘導結合型のプラズマを用いて基板等の被処理物に処理を施すプラズマ処理装置が従来から提案されている。このようなプラズマ処理装置として、特許文献1には、アンテナを真空容器の外部に配置し、真空容器の側壁の開口を塞ぐように設けた誘電体窓を通じてアンテナから生じた高周波磁場を真空容器内に透過させることで、真空容器内にプラズマを発生させるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-004665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述のプラズマ処理装置では、誘電体窓を真空容器の側壁の一部として用いるため、誘電体窓は真空容器内を真空排気した際に真空容器の内外の差圧に耐えられるよう十分な強度を有する必要がある。特に誘電体窓を構成する誘電体材料は靭性が低いセラミックスやガラスであるので、上述した差圧に耐えられる十分な強度を備えるためには誘電体窓の厚みを十分に大きくする必要がある。それ故、アンテナから真空容器内の処理室までの距離が遠くなってしまい、処理室における誘導電界の強度が弱くなり、プラズマの生成効率が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明者は、本発明の開発にあたって、図10に示すように、真空容器の開口を塞ぐ金属製のスリット板と、スリット板に形成されたスリットを真空容器の外側から塞ぐ誘電体板とを備えたプラズマ源を中間的に考えた。
このような構成であれば、金属製のスリット板と、このスリット板に重ね合わせた誘電体板とに磁場透過窓としての機能を担わせているので、誘電体板のみに磁場透過窓としての機能を担わせる場合に比べて磁場透過窓の厚みを小さくすることができる。これにより、アンテナから真空容器内までの距離を短くすることができ、アンテナから生じた高周波磁場を効率良く真空容器内に供給することができる。
【0006】
しかしながら、上述した構成であると、図11に示すように、スリット近傍に生成されたプラズマによる堆積物やスパッタ等による粒子の回り込みによる堆積物が誘電体板に堆積してしまい、そうした堆積物が導電性であると、スリットを形成する内側面が堆積物を介して導電してしまう。そうすると、アンテナから生じる高周波磁場により、スリット板にもアンテナの長手方向に沿った高周波電流が流れてしまい、スリット板や堆積物の発熱により誘電体板が加熱される。その結果、誘電体板の熱歪みが生じたり、誘電体板と堆積物との化学反応による強度低下が生じたりして、誘電体板が破損する恐れなどが生じる。
【0007】
しかも、上述したようにスリット間が堆積物により導電すると、誘電体板の表面が導電化されることになるので、アンテナから生じる高周波磁場がシールドされてしまい、真空容器内に透過する高周波磁場が低下し、プラズマ密度の低下や不安定性を引き起こす。
【0008】
そこで、本発明は、かかる問題を一挙に解決するべくなされたものであり、真空容器の外部にアンテナを配置する構成において、スリットが形成されたスリット部材を用いることで、アンテナから真空容器内までの距離を短くし、これによりアンテナから生じた高周波磁場を効率良く真空容器内に供給できるようにするとともに、誘電体板への堆積物に起因した高周波電流がスリット部材に流れることを抑制することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係るプラズマ源は、真空容器の外部に設けられたアンテナに高周波電流を流して前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ源であって、前記真空容器の前記アンテナに臨む位置に形成された開口を塞ぐとともに、前記アンテナの長手方向に沿って複数のスリットが形成されたスリット部材と、前記スリットを前記真空容器の外側から塞ぐ誘電体板とを具備し、前記スリット部材には、外側を向く外向き面において互いに隣り合う前記スリットに挟まれた領域を内側に向かって凹ませた凹部が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
このように構成されたプラズマ源であれば、スリット部材の外向き面において互いに隣り合うスリットに挟まれた領域を内側に向かって凹ませた凹部を形成しているので、誘電体板に導電性の付着物が堆積したとしても、この凹部がスリット部材に流れるアンテナの長手方向に沿った高周波電流を少なくとも抑制し、凹部の構成によっては高周波電流を遮断することができる。
これにより、真空容器の外部にアンテナを配置する構成において、スリットが形成されたスリット部材を用いることで、アンテナから真空容器内までの距離を短くし、これによりアンテナから生じた高周波磁場を効率良く真空容器内に供給できるようにするとともに、誘電体板への堆積物に起因した高周波電流がスリット部材に流れることを抑制することができる。
【0011】
より具体的な態様としては、前記凹部が、前記スリットと空間的につながっていることが好ましい。
このような構成であれば、誘電体板に導電性の付着物が堆積したとしても、その堆積物がスリット部材の凹部を形成する内側面に接触しなければ、堆積物と内側面との間には電流が流れないので、堆積物に起因した高周波電流を遮断することができる。
【0012】
堆積物が凹部を形成する内側面により確実に接触しないようにするためには、前記凹部の前記長手方向に沿った寸法が、当該凹部の深さ寸法の3倍以上であることが好ましい。
これならば、堆積物に起因した高周波電流の発生をより確実に遮断することができる。
【0013】
より具体的な実施態様としては、前記スリットが、前記アンテナの長手方向と直交する方向に延びており、前記凹部が、前記スリットの延在方向に沿って形成されている構成を挙げることができる。
【0014】
前記スリット部材には、前記外向き面における前記スリットの延在方向外側の領域を内側に向かって凹ませた第2凹部が形成されていることが好ましい。
このような構成であれば、スリットの延在方向外側の領域に高周波電流が流れることをも抑制することができる。これにより、アンテナから生じた高周波磁場に対するシールド作用を低減することができ、高周波磁場をより効率良く真空容器内に供給することが可能となる。
【0015】
前記スリット部材が、前記複数のスリットが前記アンテナの長手方向に沿って形成されたスリット板と、前記スリット板と前記誘電体板との間に介在し、前記スリット板における少なくとも1つの前記スリットとその周囲とに重なり合う開口が複数形成されたシール部材とを有し、前記スリット及び前記開口との重なりにより生じる段差が前記凹部として形成されていることが好ましい。
このような構成であれば、スリット部材と誘電体板との間の気密性を担保しつつ、凹部を形成することができる。
【0016】
また、真空容器と、上述したプラズマ源とを備えるプラズマ処理装置も本発明の1つであり、かかるプラズマ処理装置であれば、上述したプラズマ源と同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、真空容器の外部にアンテナを配置する構成において、スリットが形成されたスリット部材を用いることで、アンテナから真空容器内までの距離を短くし、これによりアンテナから生じた高周波磁場を効率良く真空容器内に供給できるようにするとともに、スリット部材のスリット間が導電されてしまうことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す縦断面図。
図2】同実施形態のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す横断面図。
図3】同実施形態におけるスリット部材の構成を模式的に示す断面図。
図4】同実施形態におけるスリット部材の構成を模式的に示す平面図。
図5】その他の実施形態におけるスリット部材の構成を模式的に示す断面図。
図6】その他の実施形態におけるスリット部材の構成を模式的に示す断面図。
図7】その他の実施形態におけるスリット部材の構成を模式的に示す断面図。
図8】その他の実施形態におけるスリット部材の構成を模式的に示す断面図。
図9】その他の実施形態におけるシール部材の構成を模式的に示す平面図。
図10】本発明の開発にあたり中間的に検討されたプラズマ処理装置の構成を示す模式図。
図11】本発明の開発にあたり中間的に検討された構成による課題を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係るプラズマ源及びプラズマ処理装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
<装置構成>
本実施形態のプラズマ処理装置100は、誘導結合型のプラズマPを用いて基板Wに処理を施すものである。ここで、基板Wは、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等である。また、基板Wに施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0021】
なお、このプラズマ処理装置100は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0022】
具体的にプラズマ処理装置100は、図1及び図2に示すように、真空排気され且つガスGが導入される真空容器1と、真空容器1の内部にプラズマを発生させるプラズマ源200とを具備してなり、プラズマ源200は、真空容器1の外部に設けられたアンテナ2と、アンテナ2に高周波を印加する高周波電源3とを備えたものである。かかる構成において、アンテナ2に高周波電源3から高周波を印加することによりアンテナ2には高周波電流IRが流れて、真空容器1内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0023】
真空容器1は、例えば金属製の容器であり、その壁(ここでは上壁1a)には、厚さ方向に貫通する開口1xが形成されている。この真空容器1は、ここでは電気的に接地されており、その内部は真空排気装置4によって真空排気される。
【0024】
また、真空容器1内には、例えば流量調整器(図示省略)や真空容器1に設けられた1又は複数のガス導入口11を経由して、ガスGが導入される。ガスGは、基板Wに施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVD法によって基板に膜形成を行う場合には、ガスGは、原料ガス又はそれを希釈ガス(例えばH)で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiHの場合はSi膜を、SiH+NHの場合はSiN膜を、SiH+Oの場合はSiO膜を、SiF+Nの場合はSiN:F膜(フッ素化シリコン窒化膜)を、それぞれ基板上に形成することができる。
【0025】
この真空容器1の内部には、基板Wを保持する基板ホルダ5が設けられている。この例のように、基板ホルダ5にバイアス電源6からバイアス電圧を印加するようにしても良い。バイアス電圧は、例えば負の直流電圧、負のバイアス電圧等であるが、これに限られるものではない。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマP中の正イオンが基板Wに入射する時のエネルギーを制御して、基板Wの表面に形成される膜の結晶化度の制御等を行うことができる。基板ホルダ5内に、基板Wを加熱するヒータ51を設けておいても良い。
【0026】
アンテナ2は、図1及び図2に示すように、真空容器1に形成された開口1xに臨むように配置されている。なお、アンテナ2の本数は1本に限らず、複数本のアンテナ2を設けても良い。
【0027】
アンテナ2は、図2に示すように、その一端部である給電端部2aが、整合回路31を介して高周波電源3が接続されており、他端部である終端部2bが、直接接地されている。なお、終端部2bは、コンデンサ又はコイル等を介して接地されてもよい。
【0028】
高周波電源3は、整合回路31を介してアンテナ2に高周波電流IRを流すことができる。高周波の周波数は例えば一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではなく適宜変更してもよい。
【0029】
ここで、本実施形態のプラズマ源200は、真空容器1の壁(上壁1a)に形成された開口1xを真空容器1の外側から塞ぐスリット部材7と、スリット部材7に形成されたスリット7xを真空容器1の外側から塞ぐ誘電体板8とをさらに備えている。
【0030】
スリット部材7は、その厚み方向に貫通してなるスリット7xがアンテナ2の長手方向に沿って複数形成されたものであり、アンテナ2から生じた高周波磁場を真空容器1内に透過させるとともに、真空容器1の外部から真空容器1の内部への電界の入り込みを防ぐものである。
【0031】
具体的にこのスリット部材7は、互いに平行な複数のスリット7xが形成された平板状のものであり、後述する誘電体板8よりも機械強度が高いことが好ましく、誘電体板8よりも厚み寸法が大きいことが好ましい。
【0032】
より具体的に説明すると、スリット部材7は、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、W又はCoを含む群から選択される1種の金属又はそれらの合金(例えばステンレス合金、アルミニウム合金等)等の金属材料を圧延加工(例えば冷間圧延や熱間圧延)などにより製造したものであり、例えば厚みが約5mmのものである。ただし、製造方法や厚みはこれに限らず仕様に応じて適宜変更して構わない。
【0033】
このスリット部材7は、平面視において真空容器の開口1xよりも大きいものであり、上壁1aに支持された状態で開口1xを塞いでいる。スリット部材7と上壁1aとの間には、Oリングやガスケット等のシール部材S(図1及び図2参照)が介在しており、これらの間は真空シールされている。
【0034】
誘電体板8は、スリット部材7において真空容器1の外側を向く外向き面71(真空容器1の内部を向く内向き面の裏面)に設けられて、スリット部材7のスリット7xを塞ぐものである。
【0035】
誘電体板8は、全体が誘電体物質で構成された平板状をなすものであり、例えばアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、石英ガラス、無アルカリガラス等の無機材料、フッ素樹脂(例えばテフロン)等の樹脂材料等からなる。なお、誘電損を低減する観点から、誘電体板8を構成する材料は、誘電正接が0.01以下のものが好ましく、0.005以下のものがより好ましい。
【0036】
ここでは誘電体板8の板厚をスリット部材7の板厚よりも小さくしているが、これに限定されず、例えば真空容器1を真空排気した状態において、スリット7xから受ける真空容器1の内外の差圧に耐え得る強度を備えれば良く、スリット7xの数や長さ等の仕様に応じて適宜設定されてよい。ただし、アンテナ2と真空容器1との間の距離を短くする観点からは薄い方が好ましい。
【0037】
かかる構成により、スリット部材7及び誘電体板8は、磁場を透過させる磁場透過窓9として機能を担う。すなわち、高周波電源3からアンテナ2に高周波を印加すると、アンテナ2から発生した高周波磁場が、スリット部材7及び誘電体板8からなる磁場透過窓9を透過して真空容器1内に形成(供給)される。これにより、真空容器1内の空間に誘導電界が発生し、誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0038】
然して、上述したスリット部材7には、図3に示すように、上述した外向き面71において互いに隣り合うスリット7xに挟まれた領域を内側に向かって凹ませた凹部72が形成されている。
【0039】
より具体的に説明すると、スリット部材7は、図4に示すように、例えば矩形状の枠要素73と、この枠要素73の内側にアンテナ2の長手方向に沿って例えば等間隔に設けられた複数の柵状要素74とを有し、これらの柵状要素74の間それぞれがスリット7xとして形成されている。
【0040】
スリット7xは、アンテナ2の長手方向と直交する方向に沿って延びており、凹部72は、スリット7xの延在方向(すなわち、アンテナ2の長手方向と直交する方向)に沿って形成された座ぐりや座掘りや切り欠きなどの窪みである。
【0041】
本実施形態では、図3に示すように、柵状要素74の外向き面71が、誘電体板8に接触して該誘電体板8を支持する接触領域71aと、接触領域71aよりも内側に窪んで誘電体板8とは接触しない非接触領域71bとからなり、この非接触領域71bが、上述した凹部72の底面として形成されている。
【0042】
すなわち、本実施形態の凹部72は、非接触領域71bと、この非接触領域71bから接触領域71aに延びる内側面71cとに囲まれた断面略四角形状の段差部であり、ここではスリット7xと空間的につながるように形成されている。
【0043】
ここでの凹部72は、図3及び図4に示すように、柵状要素74それぞれに設けられており、接触領域71aに対してアンテナ2の長手方向片側に設けられている。すなわち、本実施形態では、アンテナ2の長手方向に沿って、スリット7x、凹部72、及び接触領域71aが繰り返し配列されている。
【0044】
凹部72の寸法について述べると、ここではアンテナ2の長手方向に沿った寸法が、深さ寸法の3倍以上となるようにしてあり、また、アンテナ2の長手方向と直交する方向に沿った寸法が、同方向に沿ったスリット7xの寸法と同じ或いはそれ以上になるようにしてある。
【0045】
ここで、本実施形態のスリット部材7には、図4に示すように、外向き面71におけるスリット7xの延在方向外側の領域を内側に向かって凹ませた第2凹部75が形成されている。
【0046】
より具体的に説明すると、この第2凹部75は、スリット7xの延在方向と直交する方向(すなわち、アンテナ2の長手方向)に沿って枠要素73の外向き面71に形成された座ぐりや座掘りや切り欠きなどの窪みである。
【0047】
この第2凹部75は、ここでは上述した凹部72と一体的(連続的)に形成されており、凹部72と同じ深さ寸法であって、それぞれのスリット7xに対応して設けられている。
【0048】
本実施形態では、スリット7xの延在方向一端部の外側及び延在方向他端部の外側それぞれに第2凹部75が形成されており、かかる構成により、スリット7xの3辺、すなわちスリット7xの一方の長辺及び対向する一対の短辺が、凹部72及び一対の第2凹部75により囲われている。
【0049】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のプラズマ処理装置100及びプラズマ源200によれば、スリット部材7の外向き面71において互いに隣り合うスリット7xに挟まれた領域を内側に向かって凹ませた凹部72を形成しているので、誘電体板8に導電性の付着物が堆積したとしても、この凹部72がスリット部材7に流れるアンテナの長手方向に沿った高周波電流を少なくとも抑制することができる。
これにより、真空容器1の外部にアンテナ2を配置する構成において、スリット部材7を用いることで、アンテナ2から真空容器1内までの距離を短くし、これによりアンテナ2から生じた高周波磁場を効率良く真空容器1内に供給できるようにするとともに、誘電体板8への堆積物に起因した高周波電流がスリット部材7に流れることを抑制することができる。
【0050】
また、アンテナ2の長手方向に沿った凹部72の寸法が、当該凹部72の深さ寸法の3倍以上であるので、誘電体板8に導電性の付着物が堆積したとしても、その堆積物が凹部72を形成する内側面71cに接触せず、堆積物に起因した高周波電流の発生を遮断することができる。
【0051】
さらに、第2凹部75が外向き面71におけるスリット7xの延在方向外側に形成されているので、スリット7xの延在方向外側の領域に高周波電流が流れることをも抑制することができる。これにより、アンテナ2から生じた高周波磁場に対するシールド作用を低減することができ、高周波磁場をより効率良く真空容器1内に供給することができる。
【0052】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0053】
例えば、前記実施形態では、凹部72が接触領域71aに対してアンテナの長手方向片側に設けられていたが、凹部72は、図5に示すように、接触領域71aに対してアンテナ2の長手方方向両側に設けられていても良い。
【0054】
また、前記実施形態の凹部72は、スリット7xと空間的につながっていたが、図6に示すように、凹部72に対してアンテナ2の長手方向両側に接触領域71aを形成して、凹部72をスリット7xから空間的に隔てても良い。
【0055】
さらに、前記実施形態の凹部72は、非接触領域71bと内側面71cとに囲まれた断面略四角形状の段差部であったが、図7に示すように、非接触領域71bは傾斜していても良く、この場合の凹部72は断面略三角形状のものとなる。また、非接触領域71bは例えば曲面であっても良いし、凹部72の形状も種々変更して構わない。
【0056】
加えて、前記実施形態では平板状のスリット部材7の外側に誘電体板8が設けられていたが、スリット部材7としては、図8に示すように、複数のスリット7xが形成されたスリット板7Aと、このスリット板7Aと誘電体板8との間に設けられたシール部材7Bとから構成されていても良い。
【0057】
より具体的に説明すると、このシール部材7Bは例えば単体のシート状のものであり、同図8に示すように、スリット板7Aにおける少なくとも1つのスリット7xとその周囲とに重なり合う開口7yが複数形成されたものである。ここでの開口7yは、1つのスリット7xよりも開口面積が大きく、1つのスリット7xとともに、該スリット7xの一方の長辺の外側と、互いに対向する一対の短辺それぞれの外側とに重なり合うように形成されている。
かかる構成において、スリット7xと開口7yとの重なりにより生じる段差が凹部72として形成されている。
【0058】
また、上述したシール部材7Bは単体のシート状のものとして説明したが、図9に示すように、枠体7B1と、枠体7B1内に設けられて上述した開口7yを形成する柵体7B2とから構成されていても良い。
【0059】
このようにシール部材7Bを用いてスリット部材7を構成することにより、スリット部材7と誘電体板8との間の気密性を担保しつつ、凹部72を形成することができる。
【0060】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
100・・・プラズマ処理装置
W ・・・基板
P ・・・誘導結合プラズマ
2 ・・・真空容器
3 ・・・アンテナ
7 ・・・スリット部材
7x ・・・スリット
71 ・・・外向き面
71a・・・接触領域
71b・・・非接触領域
71c・・・内側面
72 ・・・凹部
73 ・・・枠要素
74 ・・・柵状要素
75 ・・・第2凹部
8 ・・・誘電体板
9 ・・・磁場透過窓
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11