IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-パラメータ決定方法 図1
  • 特許-パラメータ決定方法 図2
  • 特許-パラメータ決定方法 図3
  • 特許-パラメータ決定方法 図4
  • 特許-パラメータ決定方法 図5
  • 特許-パラメータ決定方法 図6
  • 特許-パラメータ決定方法 図7
  • 特許-パラメータ決定方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】パラメータ決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/04 20060101AFI20240410BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20240410BHJP
【FI】
G01N11/04 Z
B29C48/92
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020096806
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021189104
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 秀憲
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-101939(JP,A)
【文献】特許第2771195(JP,B2)
【文献】特開2016-043545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/04
B29C 48/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムの流動についての複数の実験のそれぞれについて測定値を取得する測定ステップと、
シミュレーションモデルに設定され前記未加硫ゴムのパラメータおよび壁面境界条件のパラメータを含む複数のパラメータの組であって、互いにいずれかのパラメータの値が異なる複数の組を決定する決定ステップと、
前記複数の組のそれぞれに含まれるパラメータが設定された前記シミュレーションモデルを用いて前記複数の実験における前記未加硫ゴムの流動をシミュレートし、前記測定値に対応する計算値であって、前記複数の実験のそれぞれについてシミュレートされた計算値を取得する計算ステップと、
前記シミュレートされた計算値と、前記計算値に対応する測定値とに基づいて、前記複数の組から他のシミュレートに用いるパラメータの組を選択する選択ステップと、
を含むパラメータ決定方法であって、
前記複数の実験は、前記未加硫ゴムを通過させる流路であって互いに異なる流路を有し、
前記複数の実験のそれぞれでは、前記流路の入口に対して前記未加硫ゴムを流入させ、当該流路の出口である1以上の吐出口から前記未加硫ゴムを吐出させ、
前記測定ステップでは、前記1以上の吐出口からの前記未加硫ゴムの吐出速度を測定値として取得する、
パラメータ決定方法。
【請求項2】
請求項に記載のパラメータ決定方法において、
前記測定ステップでは、前記複数の実験のそれぞれについて圧力計により取得される圧力測定値としてさらに取得する、
パラメータ決定方法。
【請求項3】
請求項に記載のパラメータ決定方法において、
前記測定ステップでは、前記複数の実験のそれぞれについて圧力計により取得される圧力と、度計により取得される温度と、を測定値としてさらに取得する、
パラメータ決定方法。
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載のパラメータ決定方法において、
前記選択ステップでは、前記シミュレートされた計算値と、前記計算値に対応する測定値との違いが所定の条件を満たす場合に、前記所定の条件を満たすパラメータの組を他のシミュレートに用いるパラメータの組として選択する、
パラメータ決定方法。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載のパラメータ決定方法において、
前記決定ステップでは、前記複数のパラメータの1つの組を決定し、
前記計算ステップでは、決定された組のパラメータが設定された前記シミュレーションモデルを用いて前記複数の実験における前記未加硫ゴムの流動をシミュレートし、前記測定値に対応する計算値であって、前記複数の実験のそれぞれについてシミュレートされた計算値を取得し、
前記選択ステップでは、シミュレートされた計算値と、前記計算値に対応する測定値との違いが所定の条件を満たす場合に、前記計算値の計算に用いられた複数のパラメータの組を他のシミュレートに用いるパラメータの組として選択し、
前記決定ステップでは、前記計算値が計算されかつ前記組が選択されなかった場合に、前記取得された計算値と、前記計算値に対応する測定値と、前記シミュレートに用いられたパラメータとに基づいて、次にシミュレートする前記シミュレーションモデルに設定する新たな複数のパラメータの組を決定する、
パラメータ決定方法。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載のパラメータ決定方法において、
前記複数の実験は、第1の未加硫ゴムについての実験と第1の未加硫ゴムと異なる特性を有する第2の未加硫ゴムについての実験とを含み、
前記決定ステップでは、前記第1の未加硫ゴムのパラメータ、前記第2の未加硫ゴムのパラメータおよび壁面境界条件のパラメータの組を決定する、
パラメータ決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、タイヤの製造において押出機から出力されるゴムの品質を向上させるため、押出機内部の流路におけるゴムの流動をシミュレートしている。
【0003】
特許文献1には、ゴムのような粘弾性体の流動をシミュレートすることにより、押出機の口金の断面形状を設計することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、粘弾性体の流路における流動をシミュレートすることにより、管路を設計する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、粘弾性体の流動をシミュレートする前に、ニュートン流体または純粘性流体についてシミュレートし、粘弾性体のシミュレートに用いる計算格子を更新することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5946627号
【文献】特開2019-93566号公報
【文献】特許第4800776号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粘弾性体といった材料の流動のシミュレーションにおいては、例えば粘弾性にかかわるパラメータおよび壁面境界条件のような、シミュレーションに用いるパラメータを理論のみで決定することは容易でない。そのため、材料が流動する流路において実験的に計測される値と、シミュレーションの結果とを比較してパラメータを調整することが行われる。
【0008】
一方、ある流路において調整されたパラメータを用いて他の流路におけるシミュレーションを行った場合に、シミュレーションの結果と測定結果とが大きく異なることがあった。
【0009】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、流路などのシミュレーションの条件が変化した場合であっても材料の流動を適正にシミュレートすることを可能にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるパラメータ決定方法は、粘弾性体の流動についての複数の実験のそれぞれについて測定値を取得する測定ステップと、シミュレーションモデルに設定され前記粘弾性体のパラメータおよび壁面境界条件のパラメータを含む複数のパラメータの組であって、互いにいずれかのパラメータの値が異なる複数の組を決定する決定ステップと、前記複数の組のそれぞれに含まれるパラメータが設定された前記シミュレーションモデルを用いて前記複数の実験における前記粘弾性体の流動をシミュレートし、前記測定値に対応する計算値であって、前記複数の実験のそれぞれについてシミュレートされた計算値を取得する計算ステップと、前記シミュレートされた計算値と、前記計算値に対応する測定値とに基づいて、前記複数の組から他のシミュレートに用いるパラメータの組を選択する選択ステップと、を含む。
【0011】
本発明の一形態では、前記複数の実験は、前記粘弾性体を通過させる流路であって互いに異なる流路を有し、前記複数の実験のそれぞれでは、前記流路の入口に対して粘弾性体を流入させ、当該流路の出口のそれぞれから前記粘弾性体を吐出させてもよい。
【0012】
本発明の一形態では、前記測定ステップでは、前記複数の実験のそれぞれについて圧力計により取得される圧力と、吐出速度とを測定値として取得してもよい。
【0013】
本発明の一形態では、前記測定ステップでは、前記複数の実験のそれぞれについて圧力計により取得される圧力と、吐出速度と、温度計により取得される温度と、を測定値として取得してもよい。
【0014】
本発明の一形態では、前記選択ステップでは、前記シミュレートされた計算値と、前記計算値に対応する測定値との違いが所定の条件を満たす場合に、前記所定の条件を満たすパラメータの組を他のシミュレートに用いるパラメータの組として選択してもよい。
【0015】
本発明の一形態では、前記決定ステップでは、前記複数のパラメータの1つの組を決定し、前記計算ステップでは、決定された組のパラメータが設定された前記シミュレーションモデルを用いて前記複数の実験における前記粘弾性体の流動をシミュレートし、前記測定値に対応する計算値であって、前記複数の実験のそれぞれについてシミュレートされた計算値を取得し、前記選択ステップでは、シミュレートされた計算値と、前記計算値に対応する測定値との違いが所定の条件を満たす場合に、前記計算値の計算に用いられた複数のパラメータの組を他のシミュレートに用いるパラメータの組として選択し、前記決定ステップでは、前記計算値が計算されかつ前記組が選択されなかった場合に、前記取得された計算値と、前記計算値に対応する測定値と、前記シミュレートに用いられたパラメータとに基づいて、次にシミュレートする前記シミュレーションモデルに設定する新たな複数のパラメータの組を決定してもよい。
【0016】
本発明の一形態では、前記複数の実験は、第1の粘弾性体についての実験と第1の粘弾性体と異なる特性を有する第2の粘弾性体についての実験とを含み、前記決定ステップでは、前記第1の粘弾性体のパラメータ、前記第2の粘弾性体のパラメータおよび壁面境界条件のパラメータの組を決定してもよい。
【0017】
本発明により、流路が変化した場合であっても材料の流動を適正にシミュレーションをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態にかかる押出機の一例を概略的に示す平面図である。
図2】情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】本発明の実施形態にかかるパラメータセットの選定手順の一例を示す図である。
図4】流路の一例を示す図である。
図5】流路の一例を示す図である。
図6】取得される測定値の一例を説明する図である。
図7】取得される測定値の一例を説明する図である。
図8】取得される測定値の他の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態においては、試験的な流路の形状を用いて実際の材料を流動させる実験から測定値を取得し、シミュレーションにおいてその測定値をよく再現できるパラメータの組(以下では「パラメータセット」と記載する)を決定する。材料は粘弾性体であり、例えば未加硫ゴムおよび樹脂である。以下では、特に未加硫ゴムを押出機により加工する際の未加硫ゴムの挙動をシミュレーションする場合の例について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかる押出機1の一例を概略的に示す平面図である。図1にかかる押出機1は、実験を行い測定値を取得する対象となる。その測定値に適合するように選択されたパラメータセットにより押出機の他の流路における流動のシミュレーションが行われ、そのシミュレーションに基づいて流路が設計される。設計された流路は押出機に反映される。
【0021】
押出機1は、筒状のシリンダ2と、シリンダ2の内部に配置されるスクリュー4と、シリンダ2の先端に設置されるヘッド3とを備えている。ヘッド3の先端にはダイ5が取り付けられている。ダイ5には吐出口6が形成されていている。ゴム押出物Rは吐出口から押し出され、接続部9の上を移動する。
【0022】
粘弾性体は流路7の内部を流動する。流路7の外縁は、ヘッド3および第5の内壁により構成されている。流路7の入口にはシリンダ2から材料が流入し、流路7の吐出口6から材料が流出する。流路7の詳細については後述する。
【0023】
図2は、情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。図2に示される情報処理装置10は、シミュレーションやパラメータセットの決定に用いられる。情報処理装置10は、例えばパーソナルコンピュータなどのコンピュータである。流路7における流動は、いわゆる流体の数値解析の手法でシミュレートされてよい。
【0024】
情報処理装置10は、例えば、プロセッサ11、記憶部12、通信部13、入出力部14を含む。プロセッサ11は、例えばCPUのように、記憶部12に記憶されたプログラムやデータに従って処理を実行する。またプロセッサ11は通信部13、入出力部14を制御する。
【0025】
記憶部12は、RAMなどの揮発性メモリと、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリと、ハードディスクなどの記憶装置と、を含む。記憶部12は、上記プログラムを格納する。また、記憶部12は、プロセッサ11、通信部13、入出力部14から入力される情報や演算結果を格納する。上記プログラムは、インターネット等を介して提供されてもよいし、フラッシュメモリや光ディスク等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に格納されて提供されてもよい。
【0026】
通信部13は、無線通信用の通信インタフェースを実現する集積回路等を含む。通信部13は、プロセッサ11の制御に基づいて、他の装置から受信した情報をプロセッサ11や記憶部12に入力し、他の装置に情報を送信する。
【0027】
入出力部14は、出力デバイスおよび入力デバイスへのインタフェースにより構成される。出力デバイスは例えば表示装置やスピーカであり、入力デバイスは例えばキーボードやマウスなどである。
【0028】
以下では、パラメータセットを決定する手順の概要について説明する。図3は、本発明の実施形態にかかるパラメータの組の選定手順の一例を示す図である。ステップS102からステップS107までの処理は、プロセッサ11が記憶部12に格納されそれぞれのステップに対応するプログラムを実行することにより実現されてよい。また、ステップS104を除く処理は、作業者が行ってよい。
【0029】
はじめに、作業者は、材料(粘弾性体)の流動についての複数の実験を行い、測定値を取得する(ステップS101)。ここでは、作業者は、複数の流路7a,7bについて実験を行う。
【0030】
図4および5は流路7a,7bの一例を示す図である。流路7aは、3つの吐出口6a,6b,6cを有し、流路7bは吐出口6d,6eを有する。また流路7a,7bの吐出口6がある第1の端の反対側にある第2の端から材料が流入する。なお、ステップS101において、1つの流路7について異なる特性を有する材料が投入される複数の実験が行われてもよい。
【0031】
図6および7は、それぞれ流路7a,7bにおいて取得される測定値の一例を説明する図である。図6,7は、流路7a,7bのうち吐出口6a~6eの側の端部を示し、流路7aについては、速度Va~Vc、圧力P1,P2といった計測値が取得される。速度Va~Vcはそれぞれ吐出口6a~6cから出力される粘弾性体の吐出速度である。圧力P1,P2は、図6の矢印の先の位置に設けられた圧力計により取得される。流路7bについては、速度Vd,Ve、圧力P4,P5といった計測値が取得される。速度Vd,Vecはそれぞれ吐出口6d,6eから出力される粘弾性体の吐出速度であり、圧力P4,P5は、図7の矢印の先の位置に設けられた圧力計により取得される。吐出速度、圧力のほかに、測定値として流路7に設けられる温度計により計測される温度が取得されてもよい。
【0032】
ステップS101において、3つ以上の流路7について実験が行われ、測定値が取得されてもよい。図8は、取得される測定値の他の一例を説明する図である。図8は、流路7cのうち図6,7に対応する端部を示す。流路7cには、より大きく三角の形状の吐出口6fが設けられており、測定値として、その吐出口6fから粘弾性体が吐出する速度Vf、圧力P7,P8が取得される。
【0033】
複数の流路7について測定値が取得されると、作業者はその測定値を情報処理装置10に入力し、情報処理装置10のプロセッサ11は入力された測定値をデータベースに格納する(ステップS102)。データベースは主に記憶部12により構成される。
【0034】
測定値がデータベースに格納されると、作業者またはプロセッサ11は、パラメータセットの候補を決定する(ステップS103)。候補となるパラメータセットは、材料(粘弾性体)自体に関するパラメータと、境界条件に関するパラメータとを含む。例えば、材料自体に関するパラメータは、粘性または粘弾性に関するパラメータであり、境界条件に関するパラメータは、スリップに関するパラメータである。なお、複数の材料について実験が行われた場合は、パラメータセットの候補に含まれる材料に関するパラメータは材料のそれぞれについて決定される。
【0035】
【数1】
【0036】
上記の式は材料の流動のシミュレーションにおける粘性係数ηを示す式であり、パラメータはシミュレーションの結果が測定値に適合するように決定される。実際にはさらに温度や弾性が考慮された式が用いられ、その式は適合すべき複数のパラメータを含む。
【0037】
材料の粘性や粘弾性に関するパラメータの候補、特に初期の候補については、実験室における計測器の計測結果から取得される測定値に基づいて決定されてよい。ただし、測定条件が限られるため、材料の特性に関するパラメータを測定結果から完全に特定することは難しい。そのため、材料の粘性や粘弾性に関するパラメータも調整(パラメータフィッティング)の対象とすることが望ましい。
【0038】
スリップに関するパラメータは、例えば、壁面近傍の粘弾性体の速度を示す関数のパラメータ、または、滑り係数である。滑り係数は、壁面において粘弾性体にかかるせん断応力とスリップ速度との関係を決めるパラメータである。滑り係数は、測定値との関係で調整されるパラメータであってよい。また滑り係数が、材料の特性に応じて算出され複数の内部パラメータを含む関数により定義され、その内部パラメータが調整されてもよい。
【0039】
後述するように、ステップS103は実質的に複数回実行されるため、複数のパラメータセットの候補が決定される。また、2回目以降のステップS103では、以前に決定された候補と少なくとも1つのパラメータの値が異なるパラメータセットの候補が決定される。これにより、ステップS103により、互いにいずれかのパラメータの値が異なる複数のパラメータセットが決定される。なお、ステップS103の1回の実行において複数のパラメータセットが決定されてもよい。
【0040】
パラメータセットの候補は、実数値遺伝的アルゴリズムやベイズ最適化といった公知のアルゴリズムが実装されたプログラムを情報処理装置10が実行することにより決定されてもよいし、人手で決定されてもよい。実数値遺伝的アルゴリズムやベイズ最適化といった手法により、情報処理装置10のプロセッサ11がパラメータセットの候補を自動的に探索することが可能になる。
【0041】
パラメータセットの候補が決定されると、プロセッサ11は、そのパラメータセットの候補が設定されたシミュレーションモデルを用いて、複数の実験のそれぞれについて材料の流動をシミュレートする(ステップS104)。また、プロセッサ11は、シミュレートの結果に基づいて、測定値に対応し、かつ、シミュレーションにより算出される計算値を取得する(ステップS105)。
【0042】
複数のシミュレーションモデルは、複数の実験にそれぞれ対応するシミュレーションモデルが存在する。シミュレーションモデルのそれぞれは、対応する実験における流路7の形状が設定され、さらに、その壁面境界条件および粘性、粘弾性のパラメータに、決定されたパラメータセットが設定されている。シミュレーションモデルは、例えば、ナビエストークス方程式を数値的に解くものであってよい。例えば、シミュレーションモデルとして、公知の流体解析プログラムにパラメータを設定し、そのプログラムを実行することにより流動がシミュレートされてよい。
【0043】
計算値が取得されると、プロセッサ11または作業者は、測定値と、その測定値に対応する計算値とが適合しているか否か判定する(ステップS106)。測定値と、その測定値に対応する計算値とが適合するとは、複数の測定値のそれぞれとそれに対応する計算値とが互いに近似することを示す所定の条件を満たすことである。所定の条件は、例えば、複数の測定値のそれぞれとそれに対応する計算値との誤差が1%以内であることでもよい。
【0044】
測定値と、その測定値に対応する計算値とが適合しない場合には(ステップS106のN)、ステップS103以降の、他のパラメータセットを決定し計算値を取得する処理が繰り返される。
【0045】
一方、測定値と、その測定値に対応する計算値とが適合する場合には(ステップS106のY)、作業者またはプロセッサ11は、その計算値を算出したパラメータセットの候補を、正式なパラメータセットとして選択する(ステップS107)。選択されたパラメータセットは、シミュレーションモデルに設定され、そのシミュレーションモデルにより他の流路7における材料の流動がシミュレートされる。
【0046】
本実施形態では、複数の実験における測定値に適合する計算値が算出されるようにパラメータセットが選定される。これにより、流路7などの条件が変化してもより適切に材料の流動をシミュレートすることが可能になる。一方、1つの実験における測定値に対してパラメータセットが選定される場合、その実験における流路7などの条件にのみ適したパラメータセットが選定されることがある。この場合、流路7などの条件を変えるとシミュレーションの結果と現実の値とが乖離することがあった。本実施形態では、例えば流路7が異なるような実験の結果を用いることにより、パラメータセットがいわゆるオーバーフィッティングのような状態になることを防ぎ、シミュレートの精度を向上させることが可能になる。
【0047】
なお、これらのパラメータ設定の結果を用いた機械学習により、新たなパラメータが決定されてもよい。より具体的には、実験による測定値および実験の特性と、選択されたパラメータセットと、を含む教師データにより機械学習モデルを学習する。学習された機械学習モデルに新たな実験の特性および測定値を入力し、パラメータセットを取得する。実験の特性は、例えばシミュレーションモデルや流路7のような実験の条件の特徴が1または複数の数値に変換された情報である。
【0048】
機械学習モデルは、例えば、アダブースト、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、サポートベクタマシン(SVM)、最近傍識別器、などの機械学習が実装された機械学習モデルである。
【0049】
機械学習モデルの教師あり学習において、実験による測定値および実験の特性を機械学習モデルに入力した際の出力と、当該学習データに含まれる教師データ(パラメータセット)と、の差が特定され、その特定される差に基づいて機械学習モデルのパラメータの値が更新されてよい。
【符号の説明】
【0050】
1 押出機、2 シリンダ、3 ヘッド、4 スクリュー、5 ダイ、6,6a,6b,6c,6d,6e,6f 吐出口、7,7a,7b,7c 流路、9 接続部、R ゴム押出物、10 情報処理装置、11 プロセッサ、12 記憶部、13 通信部、14 入出力部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8