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  • 特許-被洗浄物の洗浄方法 図1
  • 特許-被洗浄物の洗浄方法 図2
  • 特許-被洗浄物の洗浄方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】被洗浄物の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/08 20060101AFI20240410BHJP
   B08B 3/10 20060101ALI20240410BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20240410BHJP
   C23G 5/02 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
B08B3/08 A
B08B3/10 Z
B08B3/02 A
C23G5/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020139826
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035480
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】武部 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 剛士
(72)【発明者】
【氏名】西村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】谷沢 広大
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-231272(JP,A)
【文献】特開2011-131176(JP,A)
【文献】特開2008-093577(JP,A)
【文献】特開2017-029954(JP,A)
【文献】米国特許第05345958(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/00 - 3/14
C23G 5/00 - 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で被洗浄物を洗浄する洗浄室と、前記洗浄室内を減圧する減圧ポンプと、前記洗浄室内で洗浄液を散布する散布部と、前記洗浄室外で前記洗浄液を貯留する貯留タンクと、前記洗浄室外で前記洗浄液を加温する熱交換器と、を有する洗浄装置を用いた洗浄方法であって、前記洗浄液を前記散布部から散布することで前記被洗浄物を洗浄する第1洗浄工程と、前記第1洗浄工程後に、前記洗浄液の液温を少なくとも20℃以上加温した前記洗浄液を前記散布部から散布することで前記被洗浄物を洗浄する第2洗浄工程と、を有しており、前記第1洗浄工程で用いる洗浄液の液温は40℃~80℃の範囲であり、前記第2洗浄工程で用いる洗浄液の液温は100℃~125℃の範囲であることを特徴とする被洗浄物の洗浄方法。
【請求項2】
前記第1洗浄工程の前工程として、液温が100℃~125℃の範囲である前記洗浄液を用いて前記被洗浄物を洗浄する予備洗浄工程と、前記予備洗浄工程後に、前記減圧ポンプを用いて前記洗浄室内を減圧雰囲気にすることで前記被洗浄物を乾燥する予備乾燥工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項3】
前記被洗浄物は止まり穴を有しており、前記止まり穴を上方にした状態で前記被洗浄物を前記洗浄室内に設置して洗浄することを特徴とする請求項1または2に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分が付着した被洗浄物を減圧雰囲気下で洗浄する洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品などの被洗浄物は、射出成型または鋳造後に余分な部分を切削加工により切断する工程を得ることで製造される。その後の工程中で被洗浄物に付着した潤滑剤や焼入油を有機溶剤で除去する(洗浄する)工程が必要になる。
【0003】
洗浄する工程で有機溶剤を使用する場合、一般的には洗浄室内が減圧された雰囲気で行なう。また、洗浄する方式は、洗浄室内の被洗浄物に対して有機溶剤を噴霧したり、噴射方式(シャワー)で洗浄したり、または被洗浄物を有機溶剤中に浸漬させる方式など様々な方法がある。
【0004】
被洗浄物には種々の形態があり、断面形状が複雑に入り組んだ形状の製品や開口部が狭くて内部に大きな空洞(凹部)を有している場合、特に焼入処理時に使用した焼入油などの油分が製品の内部に一旦侵入すると、それらを完全に取り除くことは非常に困難である。
【0005】
この問題に対して、例えば特許文献1ないし4では被洗浄物を洗浄液内に完全に浸漬した状態で不活性ガスを注入したり、洗浄液を高温かつ高圧状態にしたり、もしくは洗浄液を噴霧して凹部内に付着させる方法などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-44927号公報
【文献】特開2001-340818号公報
【文献】特開2006-231272号公報
【文献】特開2015-54288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1ないし4に開示された洗浄液内に被洗浄物を浸漬する、もしくは洗浄液を噴霧する洗浄方法では、例えば止まり穴を有する被洗浄物に対しては止まり穴の開口部付近は洗浄できるが、穴径が小さい場合や穴の深さが深い場合には、止まり穴の底部まで洗浄液が到達し難い。そのため、穴底部に焼入油等の油分が残存することで、止まり穴の穴底部まで完全に洗浄することは困難であった。また、洗浄液内に被洗浄物を浸漬する方法では、洗浄室内を洗浄液で充満し、その後に抜き取る作業に時間を要し、同時に多量な洗浄液を要することから設備装置が大型化するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は減圧雰囲気で被洗浄物を有機溶剤等の洗浄液を散布することで洗浄する洗浄方法において、特に止まり穴を有する被洗浄物に対して、止まり穴に残存する焼入油等の油分を洗浄することのできる洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために本発明においては、内部で被洗浄物を洗浄する洗浄室、洗浄室内を減圧する減圧ポンプ、洗浄室内で洗浄液を散布する散布部、洗浄室外で洗浄液を貯留する貯留タンク、洗浄室外で洗浄液を加温する熱交換器を有する洗浄装置を用いて、被洗浄物を洗浄室内に搬入した後、洗浄液を用いて被洗浄物を洗浄する第1洗浄工程、その第1洗浄工程後に洗浄液の液温を少なくとも20℃以上加温して被洗浄物を洗浄する第2洗浄工程、を有する洗浄方法とする。特に、第1洗浄工程で用いる洗浄液の液温については40℃~80℃の範囲として、第2洗浄工程で用いる洗浄液の液温については100℃~125℃の範囲とすることが好ましい。
【0010】
また、第1洗浄工程の前工程として、液温が100℃~125℃の範囲である洗浄液を用いて被洗浄物を洗浄する予備洗浄工程、および予備洗浄工程後に減圧ポンプを用いて洗浄室内を減圧雰囲気にした状態で被洗浄物を乾燥する予備乾燥工程を追加することもできる。さらに、洗浄対象である被洗浄物が止まり穴を有している場合には、その止まり穴を上方にした状態で被洗浄物を洗浄室内に設置して洗浄することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の洗浄方法は、液温が異なる2種類の洗浄液を利用して被洗浄物を洗浄することで、被洗浄物の止まり穴の底部に残存する焼入油等の油分に溶け込み、流動させることができる。したがって、穴径の小さい場合や穴深さが深い場合の止まり穴であっても、穴底まで完全に洗浄できるという効果を奏する。
【0012】
また、比較的に高温の洗浄液のみを用いた従来の洗浄方法では、洗浄液による洗浄とその後に続く乾燥工程を複数回繰り返す必要があったので、洗浄工程が完了するまで多大な時間を要したが、本発明の洗浄方法では、液温の異なる2種類の洗浄液を順に使用するだけで洗浄工程が完了するので、洗浄時間の大幅な短縮になった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の洗浄方法に用いる洗浄装置1の模式図である。
図2】本発明の洗浄方法に係る洗浄工程(第1実施形態)を示すフロー図である。
図3】本発明の洗浄方法に係る洗浄工程(第2実施形態)を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。本発明の洗浄方法に使用する一実施形態である洗浄装置1の模式図を図1に示す。洗浄装置1は、図1に示すように主として、内部で被洗浄物Wを洗浄する洗浄室2、洗浄室2内を減圧する減圧ポンプ3、洗浄室2内で有機溶剤等の洗浄液Lを散布する複数の散布部(ノズル)4、洗浄室2外で洗浄液Lを貯留する貯留タンク5、洗浄室2外で洗浄液Lを加温する熱交換器6などから構成されている。
【0015】
その他、洗浄装置1には洗浄後の洗浄液Lを再利用するために蒸留することで再生する蒸留再生器機7、蒸留再生器機7で再生した洗浄液Lを一時的に貯留する再生液タンク8、蒸留再生器7へ送るために洗浄後の洗浄液Lを一時的に貯留する汚液タンク9等の機器も必要に応じて付帯することができる。また、洗浄装置1の大きさ(サイズ)に合わせて複数の熱交換器6,16や常圧下の洗浄を行うために洗浄室内へ窒素(N)ガス等の不活性ガスを導入できる設備を付帯することもできる。
【0016】
次に、図1に示す洗浄装置を用いた本発明の洗浄方法(第1実施形態)ついて、図面を用いて説明する。本発明の洗浄方法に係る第1実施形態の洗浄工程を図2に示す。まず、被洗浄物である被洗浄物(ワーク)Wを図1に示すように洗浄装置1の洗浄室2内に搬入する。その後、図1に示す減圧ポンプ3を用いて、洗浄室2内をゲージ圧で-50kPa程度まで減圧する(洗浄室の真空引き)。その後、洗浄液Lを複数の散布部(ノズル)4を介して、被洗浄物Wに散布する(第1洗浄工程)。この際に使用する洗浄液Lは、洗浄室2から排出されて貯留タンク5、汚液タンク9および蒸留再生器機7から配管Pを経由して、その後に再生液タンク8から熱交換器6内を通過してノズル4へ圧送されるものを使用することもできる。この際、洗浄液Lは熱交換器6内で加温されないまま通過するので、液温は常温よりも少し高い温度域である。
【0017】
被洗浄物Wに止まり穴がある場合には、止まり穴の開口部は上方に向けて(上向き)、設置されている。そのため、洗浄液が被洗浄物Wの上方から散布されると、止まり穴の内部に浸透する。止まり穴の内部には焼入油等の油分が残存している場合、止まり穴の内部では焼入油と洗浄液Lが混じり合う。
【0018】
洗浄液Lの液温が、例えば60℃程度であると、焼入油の比重よりも洗浄液Lの比重が大きくなる。そのため、止まり穴に侵入した洗浄液Lは、焼入油よりも重たくなるので、止まり穴の底部に移動する。つまり、止まり穴の内部では焼入油と洗浄液Lが一時的に混合された状態になる。したがって、比較的に低温の洗浄液Lを用いて被洗浄物Wを洗浄する工程(第1洗浄工程)では、止まり穴の底部に洗浄液Lが入るので、止まり穴の上方だけでなく、下方まで洗浄効果を発揮する。
【0019】
第1洗浄工程が終了後、洗浄室2から排出されて貯留タンク5から配管Pを経由した洗浄液Lを熱交換器6で加温した状態で複数のノズル4から散布して被洗浄物Wを洗浄する。この場合に、洗浄液Lの温度は第1洗浄工程時の液温よりも少なくとも20℃以上高くする(加温する)。例えば、第1洗浄工程の洗浄液Lの液温が80℃である場合には、本工程(第2洗浄工程)で使用する洗浄液Lの液温は100℃以上にした状態で洗浄を行う。第2洗浄工程が終了後、減圧ポンプ3を用いて洗浄室2内を絶対圧で300Pa程度までさらに減圧にする(洗浄室の追加真空引き)。これにより、被洗浄物Wの止まりの内部に溜まった洗浄液Lと共に焼入油も気化して、乾燥する。
【0020】
次に、第2実施形態の洗浄方法について図面を用いて説明する。本発明の洗浄方法に係る第2実施形態の洗浄工程を図3に示す。第2実施形態の洗浄工程は、前述の第1実施形態の洗浄工程の前にいくつかの予備工程を含むものである。第1実施形態の場合と同様に、まず被洗浄物Wを洗浄装置1の洗浄室2内に搬入する。その後、図1に示す減圧ポンプ3を用いて洗浄室2内をゲージ圧で-50kPa程度まで減圧し(洗浄室の真空引き)、洗浄液Lを散布部(ノズル)4を介して被洗浄物Wへ散布する。
【0021】
この際に使用する洗浄液は、図1に示す熱交換器6によって100℃以上125℃以下の範囲で加温された洗浄液Lとする。この加温された洗浄液Lは、熱交換器6内を通過して、洗浄室2内のノズル4へ圧送された後、ノズル4から被洗浄物Wに散布される(予備洗浄工程)。その後、洗浄室2内を減圧ポンプ3により絶対圧で600~800Pa程度までさらに減圧する(洗浄室の追加真空引き)ことで、先に散布された洗浄液Lおよび焼入油を気化して乾燥させる(予備乾燥工程)。本予備乾燥工程以降については、第1実施形態と同じ工程であり、第1洗浄工程、第2洗浄工程、乾燥工程の順で行う。
【0022】
第2実施形態の洗浄方法は、第1実施形態の洗浄工程の前工程として加温された洗浄液による洗浄を行うことで、被洗浄物およびそれに付着している焼入油の温度が上がる。その結果、予備乾燥工程に続いて行う洗浄液を用いて被洗浄物を洗浄する(第1洗浄工程)際に、焼入油が洗浄液よりも軽くなるので、特に止まり穴に残存する焼入油が洗浄液の侵入により焼入油が洗浄液と一緒に止まり穴から排出される点で有効である。
【符号の説明】
【0023】
1 洗浄装置
2 洗浄室
3 減圧ポンプ
4 散布部(ノズル)
5 貯留タンク
6,16 熱交換器
7 蒸留再生器
8 再生液タンク
9 汚液タンク
L 洗浄液
PC 洗浄液用配管
PH 洗浄液用配管
W 被洗浄物(ワーク)

図1
図2
図3