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特許7469667真空脱ガス装置用スピネル-アルミナ-カーボン煉瓦及び真空脱ガス装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】真空脱ガス装置用スピネル-アルミナ-カーボン煉瓦及び真空脱ガス装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/103 20060101AFI20240410BHJP
   C04B 35/443 20060101ALI20240410BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20240410BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20240410BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C04B35/103
C04B35/443
F27D1/00 N
C21C7/10 P
C21C7/00 Q
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020157349
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051079
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】山内 潤
(72)【発明者】
【氏名】筒井 雄史
(72)【発明者】
【氏名】原田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一茉
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-055726(JP,A)
【文献】特開2016-060651(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102627463(CN,A)
【文献】特開2012-036064(JP,A)
【文献】特開平03-205354(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137333(WO,A1)
【文献】特開昭58-115073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/515
F27D 1/00
C21C 7/00-7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネルを13.0質量%以上95.9質量%以下、アルミナを1質量%以上70質量%以下、黒鉛を3質量%以上15質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を0.1質量%以上2.0質量%以下含有し、
脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり80%以上実施する操業であって、下記(2)-(7)を満たす操業を行う真空脱ガス装置の下部槽側壁にライニングされる、
スピネル-アルミナ-カーボン煉瓦。
0.10≦平均槽内スラグインデックス(以下平均RSI)[-]≦0.30 (2)
平均RSI [-]=Σ各処理におけるスラグインデックス[-]/1炉代の処理回数[ch/炉代] (3)
各処理におけるスラグインデックス[-]=(投入カルシア量[kmol/ch]+投入アルミナ量[kmol/ch]×0.2)/(投入カルシア量[kmol/ch]+投入シリカ量[kmol/ch]+投入アルミナ量[kmol/ch]) (4)
投入カルシア量[kmol/ch]=Ca含有物の投入量[kg/ch]×Ca含有物のカルシウム含有率[mass%]÷40.08 (5)
投入シリカ量[kmol/ch]=Si含有物の投入量[kg/ch]×Si含有物のシリコン含有率[mass%]÷28.09 (6)
投入アルミナ量[kmol/ch]=Al含有物の投入量[kg/ch]×Al含有物のアルミニウム含有率[mass%]÷53.96 (7)
【請求項2】
請求項1に記載のスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦を下部槽側壁にライニングしてなる、
真空脱ガス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DHやRH等の真空脱ガス装置、特にアルミニウムにより脱酸処理を行うRHの内張りに適したスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦、及びこの煉瓦を下部槽側壁に使用した真空脱ガス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DHやRHのような真空脱ガス装置は、耐火物への負荷が大きく、耐用性に優れた材料の供給が望まれてきた。従来、真空脱ガス装置用耐火物としてはスピネル-マグネシア-カーボン煉瓦が使用されてきた。スピネル-マグネシア-カーボン煉瓦においては、スラグによる溶損が損傷の主因であるが、高温において発生するマグネシア-カーボン反応(下記(1)の反応)により損傷が助長されると考えられてきた。
MgO(固体) + C(固体)→ Mg(ガス)+ CO(ガス) (1)
【0003】
マグネシア-カーボン反応は高温ほど起こりやすい。加えて、処理中に脱ガスや脱炭のために減圧を伴う真空脱ガス装置では生成したMg(ガス)やCO(ガス)が真空引きによって系外に取り出されるため、(1)の反応が促進されると考えられる。このため、スピネル-マグネシア-カーボン煉瓦の耐用性が向上しない理由は、スラグに対する耐食性と共にマグネシア-カーボン反応にあると考えられた。
【0004】
真空脱ガス装置内でのスラグに対する耐食性とマグネシア-カーボン反応の抑制とを同時に達成するために、いくつかの手法が提案されている。特許文献1には、スピネルを65質量%以上98質量%以下、マグネシアを1質量%以上3質量%以下、黒鉛を0.1質量%以上15質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を0.1質量%以上2.0質量%以下含有する真空脱ガス装置用のスピネル-マグネシア-カーボン煉瓦が開示されている。特許文献1によれば、煉瓦の耐用性を伸ばすには、使用条件での損傷要因の大小によって、MgOとスピネルの配合を調整することが重要とされている。つまり、高温でのマグネシア-カーボン反応に対する耐用性を重視する場合はスピネルの配合を増やし、スラグに対する耐食性を重視する場合はマグネシアの配合を増やすことが有効である。しかしながら、特許文献1の煉瓦はマグネシアを含有しており、マグネシア-カーボン反応は必ず発生するため、更なる耐用の向上には限界がある。
【0005】
特許文献2には、スピネル75~99.5質量%及びカーボン0.5~25質量%を含有するスピネル-カーボン質煉瓦からなることを特徴とする、減圧を伴う二次精錬設備用内張り耐火物が開示されている。特許文献2によれば、転炉スラグと類似する高塩基度、低アルミナ含有スラグに対する耐食性は、マグネシア-カーボン煉瓦が優れるが、低塩基度、高アルミナ含有スラグに対する耐食性は、マグネシア-カーボン煉瓦よりスピネル-カーボン煉瓦の方が優れると示されている。また、二次精錬処理後のスラグを連続鋳造操作における取鍋内に残留するスラグと実質上同一とみなしたうえで、連続鋳造後に残留する取鍋スラグを分析することによって、スラグの塩基度とアルミナ含有量とを規定することができ、低塩基度、高アルミナ含有スラグとは、前記方法によって採取した減圧を伴う二次精錬処理後の取鍋スラグにおいて、塩基度が0.5~3.0で、アルミナ含有量が20~40質量%の範囲内にあるものとの記載がある。しかしながら、本発明者等がこのスピネル-カーボン煉瓦を前記範囲内の操業を行う真空脱ガス装置で使用したところ、下部槽側壁においては耐用がマグネシア-カーボン煉瓦に劣った。特許文献2においては、真空脱ガス装置内で発生するスラグ(以下槽内スラグ)成分を連続鋳造後に残留する取鍋スラグを分析することにより推定しているが、槽内スラグは槽内で投入した原料の影響を強く受けるために、連続鋳造後の取鍋スラグでは槽内スラグの推定精度が非常に低く、煉瓦の損傷因子とは結びつかない場合がある。したがって、真空脱ガス槽内でのスラグ耐食性を評価するためには新たな評価指標が必要である。
【0006】
また特許文献3には、アルミナおよびスピネル原料の1種または2種を80~95質量%と、カーボン3~15質量%および2~30ミクロンの微粒子が85%以上である炭化ケイ素を2~5質量%含むことを特徴とするアルミナ-スピネル-カーボン系耐火物が開示されている。耐食性は、溶銑予備処理炉にて溶銑の脱燐、脱硫処理をした際の侵食量で評価を行っているが、具体的な操業指標は示されておらず、また、真空脱ガス炉内のような減圧下もしくは真空環境での使用は想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6600729号公報
【文献】特許第5967160号公報
【文献】特開昭58-115073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特に脱酸材としてアルミニウムを添加した場合等に生じるアルミナ含有スラグに対する耐食性の向上と、マグネシア-カーボン反応の抑制と、さらには煉瓦内の熱応力低減とにより煉瓦の耐用向上を可能としたスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦及びこれを下部槽側壁に使用した真空脱ガス装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり80%以上実施する操業であって、下記(2)-(7)を満たす操業を行う真空脱ガス装置において、特に下部槽側壁の内張り材として、スピネルを13.0質量%以上95.9質量%以下、アルミナを1質量%以上70%質量以下、黒鉛を3質量%以上15質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を0.1%質量%以上2.0質量%以下含有するスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦を適用することで、当該煉瓦の耐用性が向上することを知見した。
【0010】
0.10≦平均槽内スラグインデックス(以下平均RSI)[-]≦0.30 (2)
【0011】
平均RSI [-]
=Σ各処理における槽内スラグインデックス[-]/1炉代の処理回数[ch/炉代] (3)
【0012】
各処理におけるスラグインデックス[-]
=(投入カルシア量[kmol/ch]+投入アルミナ量[kmol/ch]×0.2)/(投入カルシア量[kmol/ch]+投入シリカ量[kmol/ch]+投入アルミナ量[kmol/ch]) (4)
【0013】
投入カルシア量[kmol/ch]=Ca含有物の投入量[kg/ch]×Ca含有物のカルシウム含有率[mass%]÷40.08 (5)
【0014】
投入シリカ量[kmol/ch]=Si含有物の投入量[kg/ch]×Si含有物のシリコン含有率[mass%]÷28.09 (6)
【0015】
投入アルミナ量[kmol/ch]=Al含有物の投入量[kg/ch]×Al含有物のアルミニウム含有率[mass%]÷53.96 (7)
【発明の効果】
【0016】
脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり80%以上実施する操業であって、上記(2)-(7)を満たす操業を行う真空脱ガス装置において、特に下部槽側壁の内張り材として、所定の組成を有するスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦を適用することで、スラグに対する耐食性の向上と、マグネシア-カーボン反応抑制と、さらには煉瓦内の熱応力低減とが可能となり、当該煉瓦の耐用性が大幅に向上する。さらに、このスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦を使用した真空脱ガス装置は、下部槽側壁の寿命が各段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】RH真空槽の断面構成を概略的に示す図である。
図2】実機RHの平均槽内スラグインデックス(RSI)と各種煉瓦の指数で比較した損傷速度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.スピネル-アルミナ-カーボン煉瓦
以下、本発明に係るスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦の構成について説明する。本発明に係るスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦は、スピネルを13質量%以上95.9質量%以下、アルミナを1質量%以上70質量%以下、黒鉛を3質量%以上15質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を0.1質量%以上2.0質量%以下含有する。また、本発明に係るスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦は、脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり80%以上実施する操業であって、下記(2)-(7)を満たす操業を行う真空脱ガス装置の下部槽側壁にライニングされる。
【0019】
スピネルはマグネシアと比較し、耐熱衝撃性に優れ、しかもマグネシア-カーボン反応を抑制できる点から使用する。また、アルミナと比較し高強度であり、使用中に発生する熱応力に耐用するために使用する。スピネルの含有量は13.0質量%以上である。スピネルが少な過ぎると、煉瓦の強度が得られず熱応力による損耗が大きくなる。また、スピネル含有量は95.9質量%以下である。スピネルが多過ぎると熱膨張が大きくなり、熱応力により損耗が大きくなる。スピネル含有量は30.0質量%以上であってもよく、40.0質量%以上であってもよく、80.0質量%以下であってもよく、65.0質量%以下であってもよい。スピネルはアルミナとマグネシアとを主体とし、アルミナとマグネシアとを合計量で95質量%以上含むものである。スピネルの理論組成は、質量%でアルミナ:マグネシア=71.7:28.3であるが、種々の組成のものがあり、理論組成よりアルミナを多く含むものはアルミナリッチスピネル、マグネシアを多く含むものはマグネシアリッチスピネルと呼ばれる。本発明においては、いずれのスピネルをも使用することができ、併用してもよい。スピネルの製法は、焼結、電融の別を問わず、これらを併用してもよい。より高い耐食性を得るためにはカルシアやシリカなどの不純物は少ないことが好ましく、例えば、不純物成分を5質量%以下、更には2質量%以下としてもよい。尚、スピネル中のアルミナと、下記の単独でのアルミナとは、結晶構造が明確に異なり、X線回折測定等によって容易に区別することができる。また、煉瓦におけるスピネル含有量と下記の単独でのアルミナ含有量とは、EPMA(プローブマイクロアナライザ)やXRF(蛍光X線分析)等の公知の測定手法によって、各々独立して容易に測定可能である。スピネル中のマグネシアと、下記の単独でのマグネシアとに関しても同様である。
【0020】
アルミナは、高アルミナ含有スラグに対しての耐食性に優れ、かつ1500℃を超える高温での熱膨張が小さく寸法安定性に優れ、煉瓦に生じる熱応力を低減できることから使用する。アルミナの含有量は1質量%以上である。アルミナが少な過ぎると、高アルミナ含有スラグに対する耐用性が低下し、さらに熱膨張の抑制による熱応力の低減改善効果が得られず耐用の向上が見込めない。また、アルミナ含有量は70質量%以下である。アルミナが多過ぎると、高カルシア含有スラグとの低融点化合物の形成の影響が大きくなり、損耗が大きくなる。アルミナ含有量は10質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよい。アルミナは、耐火物に一般的に使用されているものを採用でき、例えば電融アルミナ及び焼結アルミナのいずれでもよく、これらを併用してもよい。その組成も特に限定されるものではないが、より高い耐食性を得るために純度が高いアルミナを用いることができ、例えばアルミナ純度96質量%以上、更には98質量%以上のアルミナを用いてもよい。
【0021】
黒鉛は、煉瓦の耐熱衝撃性を向上させる。真空脱ガス装置は間欠操業になるため耐熱衝撃性も重要である。黒鉛の含有量は3質量%以上である。黒鉛が少な過ぎると、耐熱衝撃性の低下により煉瓦に割れが発生し、耐用性が低下する。また、黒鉛の含有量は15質量%以下である。黒鉛が多過ぎると、黒鉛の酸化による耐用性低下の影響が大きくなり、損耗が大きくなる。黒鉛含有量は5質量%以上であってもよく、11質量%以下であってもよい。黒鉛は、例えば、鱗状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛など市販されている固体状黒鉛を使用可能であり、これらを単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
アルミニウム及び/又はアルミニウム合金は、煉瓦の耐酸化性を向上させる。アルミニウム及び/又はアルミニウム合金の含有量は0.1質量%以上である。アルミニウム及び/又はアルミニウム合金の含有量が少な過ぎると、耐酸化性の低下により煉瓦中の炭素が酸化し、耐用性が低下する。また、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金の含有量は2.0質量%以下である。アルミニウム及び/又はアルミニウム合金の含有量が多過ぎると、過焼結を起こすことで耐熱衝撃性が大幅に低下する。アルミニウム合金は、アルミニウムを含むものであればよい。アルミニウム及び/又はアルミニウム合金の含有量は0.5質量%以上であってもよく、1.0質量%以下であってもよい。アルミニウム合金は、例えば、アルミニウムを49質量%以上含んでいてもよい。アルミニウム合金の具体例としては、アルミニウムとシリコンとの合金、アルミニウムとマグネシウムとの合金などが挙げられる。
【0023】
本発明の煉瓦は、スピネル、アルミナ、黒鉛、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金以外に、一般的なスピネル-マグネシア-カーボン煉瓦に含有されている、炭素質原料、酸化防止材、及び/又は金属等のその他の成分を更に含有することができる。その他の成分の含有量は、例えば、5質量%以下であってよい。その他の成分の具体例としては、例えばカーボンブラック、ピッチ、SiC、B4C、及びSi等を含有することができる。また、結合組織を形成するための有機バインダー由来の非晶質カーボンも含有することができる。
【0024】
本発明の煉瓦は、マグネシアを実質的に含まなくてもよい。マグネシアを多量に含む煉瓦は、高温環境下において、マグネシア-カーボン反応による損傷が発生し易い。また、マグネシアを多量に含む煉瓦は、熱膨張率が大きく寸法安定性に劣り、煉瓦内に応力が生じて亀裂等が発生し易い。本発明の煉瓦におけるマグネシア含有量は、例えば、1質量%未満であってもよく、0.5質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0025】
本発明のスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦は、一般的なスピネル-マグネシア-カーボン煉瓦などの製造方法と同様の方法によって製造することができる。すなわち、本発明のスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦は、例えば、耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理することで得ることができる。熱処理温度は、例えば、200℃~800℃の範囲とすることができる。
【0026】
有機バインダーとしては、一般的なスピネル-マグネシア-カーボン煉瓦などで使用されている有機バインダーを使用することができ、例えばフラン樹脂やフェノール樹脂等が使用可能である。また、有機バインダーは、粉末又は適当な溶剤に溶かした液状、更に液状と粉末の併用のいずれも形態でも使用可能である。混練、成形及び熱処理の方法及び条件も、一般的なスピネル-マグネシア-カーボン煉瓦などの製造方法に準じる。
【0027】
本発明のスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦は、真空脱ガス装置の下部槽側壁にライニングして用いる。図1にRHの真空槽の断面図を示す。同図に示すように、本願にいう下部槽側壁とは、敷部よりも上で上部槽と接合するフランジ部までの耐火物で構成される側壁部(図1のハッチング部分)のことである。
【0028】
上記スピネル-アルミナ-カーボン煉瓦を、脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり80%以上実施する操業であって、下記(2)-(7)を満たす操業を行う真空脱ガス装置において、特に下部槽側壁の内張り材として適用することで、下部槽側壁の損傷が抑制され、下部槽の寿命を延長することができる。尚、下記(3)において「炉代」とは、真空脱ガス装置において耐火物を施工して使用を開始してから、耐火物が損耗し、新たに耐火物を施工する必要が生じるまでの1サイクルのことを意味する。
【0029】
0.10≦平均槽内スラグインデックス(以下平均RSI)[-]≦0.30 (2)
【0030】
平均RSI [-]=Σ各処理におけるスラグインデックス[-]/1炉代の処理回数[ch/炉代] (3)
【0031】
各処理におけるスラグインデックス[-]=(投入カルシア量[kmol/ch]+投入アルミナ量[kmol/ch]×0.2)/(投入カルシア量[kmol/ch]+投入シリカ量[kmol/ch]+投入アルミナ量[kmol/ch]) (4)
【0032】
投入カルシア量[kmol/ch]=Ca含有物の投入量[kg/ch]×Ca含有物のカルシウム含有率[mass%]÷40.08 (5)
【0033】
投入シリカ量[kmol/ch]=Si含有物の投入量[kg/ch]×Si含有物のシリコン含有率[mass%]÷28.09 (6)
【0034】
投入アルミナ量[kmol/ch]=Al含有物の投入量[kg/ch]×Al含有物のアルミニウム含有率[mass%]÷53.96 (7)
【0035】
真空脱ガス装置の下部槽煉瓦の耐用性には、真空脱ガス装置内で発生するスラグ(以降、槽内スラグと称する)が直接的な影響を及ぼしていると考えられるが、採取が非常に困難である。したがって、特許文献2においては連続鋳造後に残留する取鍋スラグで代替している。
【0036】
槽内スラグの発生源は、取鍋スラグの真空脱ガス装置内への一部吸い込み、溶鋼成分の酸化、処理中に投入した副材の酸化と考えられるが、発生と同時に真空脱ガス装置内から取鍋へ排出されるために、時間変化と共にスラグ成分が変動する。特許文献2で代替されている連続鋳造後に残留する取鍋スラグは、槽内スラグと成分が大きく異なると推測される。実際に本発明者が真空脱ガス処理を行ったところ、特許文献2で示された範囲内の操業条件において、耐用性に優れるとされたスピネルーカーボン煉瓦が、マグネシアーカーボン煉瓦よりも耐用性に劣る結果となった。
【0037】
本発明者が鋭意検討したところ、真空脱ガス装置の下部槽側壁に使用される煉瓦の損傷速度が副材にアルミニウムとシリコンを使用するアルミニウム-シリコン脱酸鋼処理の実施率と正の相関関係にあったことから、耐用性に影響する槽内スラグ成分として、投入する副材の量や種類に着目すればよいことを知見した。
【0038】
そこで本発明では、代表的な投入物であるカルシウム、アルミニウム、シリコンを考慮した平均槽内スラグインデックス(平均RSI)を指標として用いることで、真空脱ガス装置の下部槽側壁材に適した材質選定を可能とした。投入物するカルシウム、アルミニウム、シリコンの酸化物であるカルシア、アルミナ、シリカはいずれもアルミナとスピネルの溶損量に大きな影響を及ぼす成分である。本発明者のラボ実験により、真空脱ガス装置内のようなマグネシア-カーボン反応が非常に発生しやすい環境において、低カルシア、高アルミナ、高シリカ含有スラグに対しては、アルミナおよびスピネルがマグネシアより溶損し難く有利であることが判明した。一方で高カルシア、低アルミナ、低シリカ含有スラグに対しては、マグネシアがスピネルおよびアルミナよりも溶損し難く有利であることが判明した。アルミナおよびスピネルはマグネシアと比較して、高カルシア含有スラグに対して溶解しやすいからである。つまり、真空脱ガス装置の下部槽側壁に用いる耐火物のスラグ耐食性を決定する因子として、スラグ中のアルミナ含有率を考慮することで、より最適な煉瓦の配合を決定することはできることが判った。
【0039】
実機RH使用後下部槽側壁材に付着していたスラグ成分を分析すると、平均RSIが0.10未満の場合、低カルシア、低アルミナ、高シリカ含有となり、平均RSIが0.30超の場合、高カルシア、低アルミナ、低シリカ含有となる傾向があった。また、上記(2)のように平均RSIが0.10以上0.30以下である場合、高アルミナ含有となる傾向があった。上述したように、高アルミナ含有スラグに対しては、アルミナおよびスピネルがマグネシアよりも溶損し難い。すなわち、真空脱ガス装置において、平均RSIが0.10以上0.30以下を満たす操業を行う場合に、本発明の煉瓦を下部槽側壁にライニングしておくことで、高アルミナ含有スラグによる溶損が抑制され、下部槽側壁の耐用性が顕著に向上するものと考えられる。本発明において、平均RSIは0.15以上であってもよいし、0.25以下であってもよい。
【0040】
また、本発明は、真空脱ガス装置において、1炉代において複数回の操業を行う際、脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を行う頻度が高い(1炉代の全操業回数に占める、アルミニウムの添加を伴う操業の回数が多い)場合に高い効果が発揮される。アルミニウム脱酸によって高アルミナ含有スラグが一層生成し易くなることから、アルミニウムの添加を伴う操業回数が多いほど、アルミナに対する煉瓦の耐用向上が重要となる。本発明者の新たな知見によれば、高アルミナ含有スラグに対しては、スピネル-マグネシア-カーボン煉瓦であっても損耗が低減される余地があるものの、上記したスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦の方が、高アルミナ含有スラグに対する損耗低減効果が高い。
【0041】
具体的には、本発明は、真空脱ガス装置において、脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり80%以上実施する場合に、より顕著な効果が発揮される。「アルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり80%以上実施」とは、例えば、1炉代で100回の操業を行う場合、アルミニウムを添加することを含む操業を80回以上行うことを意味する。本発明においては、真空脱ガス装置において、脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり85%以上実施してもよいし、90%以上実施してもよいし、95%以上実施してもよいし、100%実施(1炉代の全操業機会においてアルミニウムを槽内で添加)してもよい。
【0042】
真空脱ガス装置の槽内において脱酸材としてアルミニウムを添加する方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法を採用すればよい。例えば、真空脱ガス装置に公知の脱酸材投入装置を接続して、当該投入装置を介してアルミニウムを槽内に投入することがあり得る。1回の操業においてアルミニウムは1度だけ添加されてもよいし、複数回に分けて添加されてもよいし、連続的に添加されてもよいし、断続的に添加されてもよい。
【0043】
2.真空脱ガス装置
本発明は真空脱ガス装置としての側面も有する。本発明に係る真空脱ガス装置は、上記本発明に係るスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦を下部槽側壁にライニングしてなることを特徴とする。煉瓦の組成や真空脱ガス装置の操業条件については上述した通りである。
【0044】
3.真空脱ガス装置の操業方法
本発明は真空脱ガス装置の操業方法としての側面も有する。本発明に係る真空脱ガス装置の操業方法は、
上記組成を有するスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦が下部槽側壁にライニングされた真空脱ガス装置を用いること、及び
脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加することを含む操業を1炉代の操業機会あたり80%以上実施する操業であって、上記(2)-(7)を満たす操業を行うこと、
を含む。
【実施例
【0045】
1.実施例・比較例に係る煉瓦の製造条件
表1~3に実施例及び比較例に係るスピネル-アルミナ-カーボン煉瓦の組成及び物性を示す。表1~3の煉瓦は、耐火原料配合物に有機バインダーとしてフェノール樹脂を適量添加して混練し、オイルプレスによって230mm×114mm×110mmの形状に成形後、最高温度250℃で5時間保持の熱処理を施すことで製造した。
【0046】
2.槽内スラグインデックスの一例
表4に各処理における槽内スラグインデックス(RSI)と副材投入量の一例を示す。アルミニウム-シリコン脱酸鋼処理では、一例として表4に示す構成で副材が投入されるが、処理条件によっては各副材の投入量が変更される。本実施例では、ch毎に若干変動するRSIを1炉代にわたって平均した平均RSI(上記(2)~(7))を用いる。
【0047】
3.実施例・比較例に係る煉瓦の評価
3.1 耐食性(損耗速度)
耐食性は、脱酸材としてアルミニウムを槽内で添加する操業を全操業の80%以上実施する実機RH下部槽の側壁材として各種煉瓦を適用し、損傷速度から評価した。適用時の平均槽内スラグインデックスは0.10から0.39の範囲内であった。また、損傷速度は稼働前と稼働後の煉瓦寸法の変化を総処理回数により除した値である。比較例1煉瓦の各平均槽内スラグインデックスでの損傷速度を100とした。図2に各種煉瓦を実機RHに適用した際の損傷速度と平均RSIとの関係を示す。平均RSIが0.10以上0.30以下であった時、実施例に係る煉瓦は、同時に内張りしていた比較例に係る煉瓦より損傷速度が低かった。尚、図2には代表例として、実施例1、3、5及び比較例1、2の結果のみ示したが、平均RSIが0.10以上0.30以下の範囲内においては、実施例1~13のいずれの煉瓦についても、比較例1~6に係る煉瓦よりも損耗速度指数が小さく、耐食性に優れるものであった。
【0048】
実機での損傷速度以外に、真空脱ガス装置の下部槽側壁に用いる耐火物として必要な基本特性も評価した。具体的には、上述のようにして製造した煉瓦から、物性測定用の試料を切り出して、耐熱衝撃性、耐マグネシア-カーボン反応性、耐酸化性、寸法安定性を評価した。
【0049】
3.2 耐熱衝撃性
耐熱衝撃性は、溶銑浸漬スポーリング試験にて評価した。この試験は、40×40×190mmの試料を1500℃で10時間還元雰囲気下において焼成し、この試料を1650℃に昇温した溶銑中に10分間浸漬後、1分間水冷するサイクルを5回繰り返した。試験終了後、試料を切断し断面を観察して評価した。表1~3において、◎のものは亀裂が見られなかった試料であり、○のものは使用上問題無い程度の微亀裂が発生した試料、×のものは亀裂が観察された試料で実炉使用には適さないと判断した。
【0050】
3.3 マグネシア-カーボン反応性
マグネシア-カーボン反応性は、Ar中高温加熱試験で評価した。この高温加熱試験は、雰囲気調整可能な電気炉を用いて実施した。試験温度は1700℃に設定し、Ar雰囲気にすると共に、Arを吹き込むことでPMg(Mgガス分圧)やPCO(COガス分圧)を下げ、減圧下ないし真空下での処理と同様にマグネシア-カーボン反応を促進させた。マグネシア-カーボン反応は固体のマグネシアとカーボンがMgガスとCOガスとなる反応であり、質量減少を伴うため、この質量減少率を用いてマグネシア-カーボン反応性を評価した。つまり、質量減少率の数値が小さいほどマグネシア-カーボン反応が抑制されている。また、試料は事前処理として、炭材中において温度1500℃で10時間還元焼成することで樹脂中の揮発成分を除去している。表1~3において、◎のものは質量減少率が0質量%以上3質量%未満の試料であり、○のものは質量減少率が3質量%以上10質量%未満の試料であり、×のものは質量減少率が10質量%以上の試料である。×の試料では端部に欠けが生じており、実炉での耐用の向上が困難であると判断した。
【0051】
3.4 耐酸化性
耐酸化性は、大気中高温加熱試験で評価した。この高温加熱試験は、雰囲気調整可能な電気炉を用いて実施した。試験温度は1700℃に設定し、大気雰囲気とすると共に、圧縮空気を吹き込むことで炭素の酸化反応を促進させた。炭素の酸化反応は、炭素がCOガスもしくはCO2ガスとなる反応であり、質量減少を伴うため、この質量減少率を用いて耐酸化性を評価した。つまり、質量減少率の数値が小さいほど炭素の酸化反応が抑制されている。また、試料は事前処理として、炭材中において温度1500℃で10時間還元焼成することで樹脂中の揮発成分を除去している。表1~3において、◎のものは質量減少率が0質量%以上3質量%未満の試料であり、○のものは質量減少率が3質量%以上10質量%未満の試料であり、×のものは質量減少率が10質量%以上の試料である。×の試料では端部に欠けが生じており、実炉使用には適さないと判断した。
【0052】
3.5 寸法安定性
寸法安定性はAr中熱膨張測定試験で評価した。熱膨張率が小さく寸法安定性に優れるほど、煉瓦に生じる熱応力を低減できるといえる。この高温加熱試験は、雰囲気調整可能な電気炉を用いて実施した。室温から1500℃まで5℃/minで昇温し、1500℃での膨張率から寸法安定性を評価した。表1~3において、◎のものは1500℃での膨張率が1.00%以下の試料であり、○のものは膨張率が1.00%以上1.20%未満の試料であり、×のものは膨張率が1.20%以上の試料である。×の試料では実炉適用時の煉瓦稼働面に亀裂および端部に欠けが生じており、実炉使用には適さないと判断した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
実施例1から実施例5はアルミナの含有率を1質量%以上70質量%以下の範囲内で変化させたものであり、表1~3および図2に示すように、耐熱衝撃性、耐マグネシア-カーボン反応性、耐酸化性、寸法安定性、耐食性のいずれも良好な結果となった。これに対して、比較例1はアルミナを含まず、且つ、マグネシアの含有率が多いため、寸法安定性に劣る結果となった。さらに、図2に示すように、平均RSIが(2)の範囲内で比較的低い場合に耐食性が低下した。比較例2はアルミナの含有率が多いため、平均RSIが(2)の範囲内で比較的高い場合に耐食性が低下した。
【0058】
実施例6から実施例9は黒鉛の含有率を3質量%以上15質量%以下の範囲内で変化させたものであり、表1~3に示すように、耐熱衝撃性、耐マグネシア-カーボン反応性、耐酸化性、寸法安定性がいずれも良好な結果となった。これに対して、比較例3は黒鉛の含有率が少ないため、耐熱衝撃性が低下した。比較例4は黒鉛の含有率が多いため耐酸化性が低下した。
【0059】
実施例10から実施例13はアルミニウムの含有率を0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲内で変化させたものであり、表1~3に示すように、耐熱衝撃性、耐マグネシア-カーボン反応性、耐酸化性、寸法安定性がいずれも良好な結果となった。これに対して、比較例5はアルミニウムの含有率が少ないため、耐酸化性が低下した。比較例6はアルミニウムの含有率が多いため、耐熱衝撃性が低下した。
【0060】
比較例7は、アルミナ及びスピネルを含まず、且つ、マグネシアの含有率が多いため、熱応力による損耗が大きくなり、さらには、熱膨張の抑制による熱応力の低減改善効果が得られず、耐熱衝撃性及び寸法安定性に劣る結果となった。
【0061】
尚、上記実施例では、黒鉛として鱗状黒鉛を用いた場合を例示したが、本発明にて使用され得る黒鉛は鱗状に限定されるものではない。土状黒鉛、人造黒鉛等、鱗状黒鉛以外の種々の黒鉛を用いた場合にも、同様の効果が奏される。
【0062】
また、上記実施例では、煉瓦の耐酸化性を向上させるために煉瓦中にAlを含有させるものとしたが、Alに替えて、或いは、Alとともに、Al合金を用いた場合にも同様の効果が奏される。
図1
図2