(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
F16L 11/06 20060101AFI20240410BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240410BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240410BHJP
C08K 13/02 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
F16L11/06
C08L101/12
C08L23/00
C08K13/02
(21)【出願番号】P 2023024834
(22)【出願日】2023-02-21
(62)【分割の表示】P 2018243519の分割
【原出願日】2018-12-26
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】友井 修作
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-265662(JP,A)
【文献】特開2010-215724(JP,A)
【文献】特表2016-501310(JP,A)
【文献】特開平06-294485(JP,A)
【文献】特開2013-189526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
F16L 9/00-11/26
C08J 3/00-3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂が150℃以上の融点を有し、ゴムがブチル系ゴムまたはオレフィン系ゴムであり、マトリックスが粘度安定剤を含み、マトリックス中の粘度安定剤の含有量が5~20質量%であり、粘度安定剤が酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化銅
(II)、酸化カルシウム、酸化鉄
(II)、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、アルキルアンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸亜鉛、酢酸銅、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カルシウムおよびシュウ酸鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、熱可塑性樹脂組成物がフェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤およびトリアジン骨格を有する3価のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびに加工助剤を含み、加工助剤がステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセリンモノステアレート、ソルビタンステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノアミド、オレイン酸モノアミドおよびエチレンビスステアリン酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、ゴムの少なくとも一部は架橋している、冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
架橋がフェニレンジアミン系老化防止剤またはキノリン系老化防止剤による化学的架橋またはトリアジン骨格を有する3価のアルコールによる水素結合による架橋である、請求項1に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物中に占めるマトリックスの体積比率が30~70体積%であり、ドメインの体積比率が70~30体積%であり、熱可塑性樹脂組成物中に占める熱可塑性樹脂の質量比率が30~80質量%であり、ゴムの質量比率が15~65質量%である、請求項1または2に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド系樹脂が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9TおよびナイロンMXD6からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートおよびポリエステルエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、ポリビニルアルコール系樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ブチル系ゴムが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムおよびスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、オレフィン系ゴムが、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-アクリル酸エチル共重合体およびエチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
フェニレンジアミン系老化防止剤が、N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンおよびN,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、キノリン系老化防止剤が2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体であり、トリアジン骨格を有する3価のアルコールがトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートである、請求項1~6のいずれか1項に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車への軽量化要求が高まる中、これまで自動車に使われていたゴム製のホースを、ゴムに代えてバリア性の高い樹脂で作製し、薄肉化することにより、軽量化を実現しようとする取り組みがある。特に、現行の自動車のエアコンディショナーの冷媒輸送用ホースは主材料がゴムであり、その主原料をバリア性の高い樹脂で置き換えることができれば、軽量化が実現できる。
たとえば、特許文献1には、フレオンガスのような冷媒輸送用のホースとして、内管、補強層および外管を有するホースであって、内管の内層がポリアミド系樹脂で形成され、内管の外層がポリアミド/アクリルゴムグラフトポリマーアロイまたは熱可塑性ポリオレフィン樹脂とEPDM、ブチル系ゴムもしくはアクリロニトリルブタジエンゴムとからなる熱可塑性エラストマーで形成され、外管が熱可塑性ポリオレフィン樹脂とEPDMもしくはブチル系ゴムとからなる熱可塑性エラストマーで形成されたホースが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のホースを構成する樹脂材料は、バリア性が高く、柔軟性に優れるが、押出加工性は必ずしも満足できるものではない。
本発明は、バリア性が高く、柔軟であり、かつ押出加工性が良好な冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂が150℃以上の融点を有し、ゴムがブチル系ゴムまたはオレフィン系ゴムであり、マトリックスが粘度安定剤を含み、熱可塑性樹脂組成物がフェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤およびトリアジン骨格を有する3価のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびに加工助剤を含み、ゴムの少なくとも一部は架橋していることを特徴とする。
本発明は、また、熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、該方法は、
(1)熱可塑性樹脂に粘度安定剤を加え混練する工程、
(2)工程(1)で得られた混練物にゴムを加え混練する工程、
(3)工程(2)で得られた混練物に架橋剤を加える工程、および
(4)工程(3)で得られた架橋剤を含む混練物中のゴムの少なくとも一部を架橋させる工程
を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明は、次の実施態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂が150℃以上の融点を有し、ゴムがブチル系ゴムまたはオレフィン系ゴムであり、マトリックスが粘度安定剤を含み、熱可塑性樹脂組成物がフェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤およびトリアジン骨格を有する3価のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびに加工助剤を含み、ゴムの少なくとも一部は架橋している、冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[2]粘度安定剤が2価金属酸化物、アンモニウム塩およびカルボン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、マトリックス中の粘度安定剤の含有量が0.5~30質量%である、[1]に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[3]2価金属酸化物が酸化亜鉛および酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[2]に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[4]架橋がフェニレンジアミン系老化防止剤またはキノリン系老化防止剤による化学的架橋またはトリアジン骨格を有する3価のアルコールによる水素結合による架橋である、[1]~[3]のいずれかに記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[5]熱可塑性樹脂組成物中に占めるマトリックスの体積比率が30~70体積%であり、ドメインの体積比率が70~30体積%であり、熱可塑性樹脂組成物中に占める熱可塑性樹脂の質量比率が30~80質量%であり、ゴムの質量比率が15~65質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[6]熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリビニルアルコール系樹脂である、[1]~[5]のいずれかに記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[7]ポリアミド系樹脂が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9TおよびナイロンMXD6からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[8]ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートおよびポリエステルエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[9]ポリビニルアルコール系樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[10]ブチル系ゴムが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムおよびスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[9]のいずれかに記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[11]オレフィン系ゴムが、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-アクリル酸エチル共重合体およびエチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[10]のいずれかに記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[12]フェニレンジアミン系老化防止剤が、N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンおよびN,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、キノリン系老化防止剤が2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体である、[1]~[11]のいずれかに記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[13]トリアジン骨格を有する3価のアルコールがトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートである、[1]~[12]のいずれかに記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[14]加工助剤が、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドから選ばれる少なくとも1種である、[1]~[13]のいずれかに記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物。
[15]熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、該方法は、
(1)熱可塑性樹脂に粘度安定剤を加え混練する工程、
(2)工程(1)で得られた混練物にゴムを加え混練する工程、
(3)工程(2)で得られた混練物に架橋剤を加える工程、および
(4)工程(3)で得られた架橋剤を含む混練物中のゴムの少なくとも一部を架橋させる工程
を含む、冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[16]熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、該方法は、
(1′)熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマスターバッチを作製する工程、
(2′)工程(1′)で作製したマスターバッチおよびゴムを熱可塑性樹脂に加え混練する工程、
(3′)工程(2′)で得られた混練物に架橋剤を加える工程、および
(4′)工程(3′)で得られた架橋剤を含む混練物中のゴムの少なくとも一部を架橋させる工程
を含む、冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[17]マスターバッチ中の粘度安定剤の含有量が10~80質量%である、[16]に記載の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物は、バリア性が高く、柔軟であり、押出加工性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂が150℃以上の融点を有し、ゴムがブチル系ゴムまたはオレフィン系ゴムであり、マトリックスが粘度安定剤を含み、熱可塑性樹脂組成物がフェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤およびトリアジン骨格を有する3価のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびに加工助剤を含み、ゴムの少なくとも一部は架橋していることを特徴とする。
【0009】
本発明は、冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物に関する。冷媒輸送配管とは、エアコンディショナー等の冷媒を輸送するための配管をいう。配管は、可撓性を有するホースであってもよいし、堅く容易に変形しないパイプであってもよい。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特に、自動車のエアコンディショナーの冷媒を輸送するためのホースを作製するのに好適に使用することができる。冷媒輸送用ホースは、通常、内管と補強層と外管からなるが、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特に、冷媒輸送用ホースの内管を作製するのに好適に使用することができる。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、マトリックスとマトリックス中に分散したドメインとからなる。換言すれば、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、いわゆる海島構造を有する。マトリックスが海であり、ドメインが島である。マトリックスとドメインの比率は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは、熱可塑性樹脂組成物中に占めるマトリックスの体積比率が30~70体積%であり、ドメインの体積比率が70~30体積%である。熱可塑性樹脂組成物中に占めるマトリックスの体積比率は、より好ましくは30~60体積%であり、さらに好ましくは35~50体積%である。マトリックスの体積比率が少なすぎるとマトリックスとドメインの相反転が生じ海島構造が逆転する懸念があり、多すぎるとマトリックスを構成する熱可塑性樹脂の含有量が多くなるため所望の柔軟性を得られない懸念がある。
【0011】
マトリックスは熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂は150℃以上の融点を有する。本発明の熱可塑性樹脂組成物を自動車のエアコンディショナーの冷媒を輸送するための配管に用いるときは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて作製された冷媒輸送配管は自動車のエンジンルーム内に配置されるが、エンジンルーム内は150℃近くの温度になる部分もあるので、150℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂を用いる必要がある。熱可塑性樹脂は、好ましくは150~300℃の融点、より好ましくは170~270℃の融点を有する。熱可塑性樹脂の融点が高すぎると、熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が悪化する。
【0012】
熱可塑性樹脂は、150℃以上の融点を有する限り限定されないが、好ましくはポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリビニルアルコール系樹脂である。
【0013】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン66(融点265℃)、ナイロン11(融点187℃)、ナイロン12(融点176℃)、ナイロン610(融点225℃)、ナイロン6/66共重合体(融点195℃)、ナイロン6/12共重合体(融点201℃)、ナイロン46(融点295℃)、ナイロン6T(融点320℃)、ナイロン9T(融点300℃)、ナイロンMXD6(融点243℃)などが挙げられるが、好ましくはナイロン6、ナイロン11、ナイロン6/66共重合体である。
【0014】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(融点256℃)、ポリブチレンテレフタレート(融点225℃)、ポリエチレンナフタレート(融点265℃)、ポリブチレンナフタレート(融点243℃)、ポリエステルエラストマー(融点160~227℃、結晶相と非晶相の共重合割合による。)などが挙げられるが、好ましくはポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマーである。
【0015】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(融点230℃)、エチレンビニルアルコール共重合体(融点158~195℃、エチレンとビニルアルコールの共重合割合による。)、変性エチレンビニルアルコール共重合体(融点はエチレンとビニルアルコールの共重合割合および変性種類と変性率による。)などが挙げられるが、好ましくはエチレンビニルアルコール共重合体である。
【0016】
マトリックスに含まれる熱可塑性樹脂は1種類でもよいし、2種類以上の熱可塑性樹脂がマトリックスに含まれていてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲において、150℃未満の融点を有する熱可塑性樹脂がマトリックスに含まれていてもよい。
【0017】
ドメインはゴムを含む。ゴムはブチル系ゴムまたはオレフィン系ゴムである。
ブチル系ゴムとは、ポリマーの主鎖にイソブチレン骨格を有するゴムをいうが、好ましくは、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムおよびスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
オレフィン系ゴムとは、アルケン(オレフィン)をモノマーとする重合物でゴム弾性を有するものをいうが、好ましくは、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-アクリル酸エチル共重合体およびエチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
ゴムは、より好ましくは、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴム、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、またはハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムと無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の組み合わせである。
ドメインは、好ましくは、ブチル系ゴムとオレフィン系ゴムの両方を含む。ブチル系ゴムだけでゴム量を増やすと流動性が低下するが、熱可塑性のオレフィン系ゴムを併用することでゴム量の増大と流動性確保が両立できる。ドメインは、より好ましくは、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムと無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の両方を含む。
【0018】
ドメインに含まれるゴムは1種類でもよいし、2種類以上のゴムがドメインに含まれていてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲において、ブチル系ゴムおよびオレフィン系ゴム以外のゴムがドメインに含まれていてもよい。
【0019】
熱可塑性樹脂組成物中に占める熱可塑性樹脂の質量比率は、好ましくは30~80質量%であり、より好ましくは30~70質量%であり、さらに好ましくは35~60質量%である。熱可塑性樹脂組成物中に占める熱可塑性樹脂の質量比率が少なすぎると、マトリックスとドメインの相反転が生じ海島構造が逆転する懸念があり、多すぎると、マトリックスを構成する熱可塑性樹脂の含有量が多くなるため所望の柔軟性を得られない懸念がある。
熱可塑性樹脂組成物中に占めるゴムの質量比率は、好ましくは15~65質量%であり、より好ましくは30~65質量%であり、さらに好ましくは40~60質量%である。熱可塑性樹脂組成物中に占めるゴムの質量比率が少なすぎると、所望の柔軟性を得られない懸念があり、多すぎると、マトリックスとドメインの相反転が生じ海島構造が逆転する懸念がある。
【0020】
マトリックスは粘度安定剤を含む。マトリックスに粘度安定剤を含めることにより、熱可塑性樹脂組成物を押出成形する際に粘度の上昇が抑えられ、滞留粒発生を効果的に減らすことができる。
粘度安定剤としては、2価金属酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩などが挙げられる。
2価金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化カルシウム、酸化鉄などが挙げられるが、好ましくは酸化亜鉛または酸化マグネシウムであり、より好ましくは酸化亜鉛である。
アンモニウム塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、アルキルアンモニウムなどが挙げられる。
カルボン酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸亜鉛、酢酸銅、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸鉄などが挙げられる。
粘度安定剤は、もっとも好ましくは酸化亜鉛である。
【0021】
マトリックス中の粘度安定剤の含有量は、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~25質量%であり、さらに好ましくは5~20質量%である。マトリックス中の粘度安定剤の含有量が少なすぎると熱可塑性樹脂組成物の粘度上昇が抑えられない懸念があり、多すぎるとマトリックスの樹脂比率が少なくなり押出加工性が悪化する懸念がある。
【0022】
マトリックス中の粘度安定剤の含有量は、次のようにして、測定することができる。
まずマトリックスを構成する熱可塑性樹脂を溶解させ、ドメインであるゴムを溶解しない溶剤を用いてマトリックスを溶解し、ゴム成分を分離除去する。得られたマトリックス溶液に対して酸処理などの処理を実施し分析試料溶液とする。分析試料溶液に対しICP発光分光分析、原子吸光分光分析などを行うことにより粘度安定剤の含有量を測定する。マトリックスを構成する熱可塑性樹脂を溶解させる溶剤としてはヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、トリフルオロ酢酸(TFA)、蟻酸、クレゾールなどが利用できる。
【0023】
熱可塑性樹脂組成物は、フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤およびトリアジン骨格を有する3価のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
フェニレンジアミン系老化防止剤とは、二級アミンを置換基として2つ有する芳香族環を分子構造に持つ老化防止剤をいうが、好ましくは、N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンおよびN,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはN-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンである。
キノリン系老化防止剤とは、キノリン骨格を分子構造に持つ老化防止剤をいうが、好ましくは、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体である。
トリアジン骨格を有する3価のアルコールは、特に限定するものではないが、好ましくは、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートである。
【0024】
フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤およびトリアジン骨格を有する3価のアルコールは、ゴムの架橋剤として機能する。フェニレンジアミン系老化防止剤およびキノリン系老化防止剤は、特に、ブチル系ゴムの化学的架橋に寄与する。トリアジン骨格を有する3価のアルコールは、特に、オレフィン系ゴムを水素結合により架橋するのに寄与する。
【0025】
フェニレンジアミン系老化防止剤またはキノリン系老化防止剤の配合量は、ブチル系ゴム100質量部を基準として、好ましくは0.5~20質量部であり、より好ましくは1~15質量部であり、さらに好ましくは2~5質量部である。フェニレンジアミン系老化防止剤またはキノリン系老化防止剤の配合量が少なすぎるとゴムの架橋が不足し熱可塑性樹脂組成物の耐久性が低下する懸念があり、多すぎると混練または押出加工中のスコーチや、フィッシュアイなどの外観不良が生じる懸念がある。
【0026】
トリアジン骨格を有する3価のアルコールの配合量は、オレフィン系ゴム100質量部を基準として、好ましくは0.5~20質量部であり、より好ましくは1~15質量部であり、さらに好ましくは2~5質量部である。トリアジン骨格を有する3価のアルコールの配合量が少なすぎるとゴムの架橋が不足し熱可塑性樹脂組成物の耐久性が低下する懸念があり、多すぎると混練または押出加工中のスコーチや、フィッシュアイなどの外観不良が生じる懸念がある。
【0027】
ゴムの少なくとも一部は架橋している。ゴムを架橋させることにより、疲労性を改善することができる。
架橋は、好ましくは、フェニレンジアミン系老化防止剤もしくはキノリン系老化防止剤による化学的架橋またはトリアジン骨格を有する3価のアルコールによる水素結合による架橋である。ブチル系ゴムの架橋は、好ましくは、フェニレンジアミン系老化防止剤またはキノリン系老化防止剤による化学的架橋である。オレフィン系ゴムの架橋は、好ましくは、トリアジン骨格を有する3価のアルコールによる水素結合による架橋である。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物は、加工助剤を含む。加工助剤は、粘度安定剤とともに、熱可塑性樹脂組成物の押出加工性の改善に寄与する。
加工助剤は、特に限定するものではないが、好ましくは、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドから選ばれる少なくとも1種である。
脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられるが、好ましくはステアリン酸である。
脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられるが、好ましくはステアリン酸カルシウムである。
脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノステアレート、ソルビタンステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールジステアレートなどが挙げられる。
脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸モノアミド、オレイン酸モノアミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0029】
加工助剤の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、好ましくは0.2~10質量%であり、より好ましくは1~8質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%である。加工助剤の含有量が少なすぎると押出加工性が低下する懸念があり、多すぎると熱可塑性樹脂組成物のバリア性が低下する懸念がある。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記した成分以外に、種々の添加剤を含むことができる。
たとえば、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、可塑剤を含んでもよい。可塑剤としては、多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等)、多価アルコールのエステル類(グリセリントリアセテート等)、アミド化合物(N-ブチルベンゼンスルホンアミド、N-メチルピロリドン等)、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)、安息香酸エステル類(パラオキシ安息香酸オクチル、パラオキシ安息香酸2-エチルヘキシル等)、フタル酸エステル類(フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル等)、リン酸エステル類(リン酸トリフェニル等)などが挙げられるが、好ましくはN-ブチルベンゼンスルホンアミド、グリセリントリアセテートである。可塑剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部を基準として、好ましくは0~25質量部であり、より好ましくは1~20質量部であり、さらに好ましくは2~15質量部である。可塑剤の含有量が多すぎると可塑性樹脂組成物のバリア性が低下する懸念がである。
【0031】
本発明の製造方法は、熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマトリックスとマトリックス中に分散したゴムを含むドメインとからなる冷媒輸送配管用熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、該方法は、
(1)熱可塑性樹脂に粘度安定剤を加え混練する工程、
(2)工程(1)で得られた混練物にゴムを加え混練する工程、
(3)工程(2)で得られた混練物に架橋剤を加える工程、および
(4)工程(3)で得られた架橋剤を含む混練物中のゴムの少なくとも一部を架橋させる工程
を含む。
【0032】
熱可塑性樹脂にゴムと粘度安定剤を同時に加え混練すると、粘度安定剤は熱可塑性樹脂相(マトリックス)とゴム相(ドメイン)の両方に分布することになるが、あらかじめ熱可塑性樹脂に粘度安定剤を加え混練した後、その混練物にゴムを加え混練した場合は、粘度安定剤の大部分は、ゴム相(ドメイン)に移行することなく、熱可塑性樹脂相(マトリックス)中に留まる。すなわち、ゴムを加える前に、あらかじめ熱可塑性樹脂に粘度安定剤を加え混練することにより、マトリックスが粘度安定剤を含む熱可塑性樹脂組成物を調製することができる。
【0033】
工程(1)は、熱可塑性樹脂に粘度安定剤を加え混練する工程である。熱可塑性樹脂に粘度安定剤を加え混練する方法は、限定するものではないが、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸混練押出機、二軸混練押出機等を用いて行うことができるが、好ましくは二軸混練押出機を用いて行う。混練温度および時間は、十分に均一な混練物が得られる限り限定されないが、二軸混練押出機を用いる場合は、混練温度は好ましくは160~300℃であり、混練時間(滞留時間)は好ましくは10秒~5分である。
【0034】
工程(2)は、工程(1)で得られた混練物にゴムを加え混練する工程である。ゴムを加え混練する方法は、限定するものではないが、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸混練押出機、二軸混練押出機等を用いて行うことができるが、好ましくは二軸混練押出機を用いて行う。混練温度および時間は、十分に均一な混練物が得られる限り限定されないが、二軸混練押出機を用いる場合は、混練温度は好ましくは160~300℃であり、混練時間(滞留時間)は好ましくは10秒~5分である。
【0035】
工程(3)は、工程(2)で得られた混練物に架橋剤を加える工程である。架橋剤を加える方法は、限定するものではないが、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸混練押出機、二軸混練押出機等を用いて行うことができる。
【0036】
工程(4)は、工程(3)で得られた架橋剤を含む混練物中のゴムの少なくとも一部を架橋させる工程である。架橋させる方法は、限定するものではないが、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸混練押出機、二軸混練押出機等を用いて加熱混練することにより行うことができる。好ましくは、二軸混練押出機を用いて、160~300℃で混練することにより、動的架橋する。混練時間(滞留時間)は好ましくは10秒~5分である。
【0037】
工程(1)~(4)は、それぞれ別々の装置を用いて回分式で実施してもよいし、1つの混練押出機を用いて連続的に実施してもよい。連続的に実施する場合は、たとえば、少なくとも3つの供給口を有する二軸混練押出機を用い、第1の供給口に熱可塑性樹脂と粘度安定剤を供給し、第1の供給口よりも下流にある第2の供給口にゴムを供給し、第2の供給口よりも下流にある第3の供給口に架橋剤を供給する。
【0038】
本発明の方法においては、あらかじめ、熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマスターバッチを作製してもよい。マスターバッチを作製する場合は、本発明の方法は、
(1′)熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマスターバッチを作製する工程、
(2′)工程(1′)で作製したマスターバッチおよびゴムを熱可塑性樹脂に加え混練する工程、
(3′)工程(2′)で得られた混練物に架橋剤を加える工程、および
(4′)工程(3′)で得られた架橋剤を含む混練物中のゴムの少なくとも一部を架橋させる工程
を含む。
【0039】
あらかじめ熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマスターバッチを作製した後、そのマスターバッチとゴムを熱可塑性樹脂に加え混練した場合は、粘度安定剤の大部分は、ゴム相(ドメイン)に移行することなく、熱可塑性樹脂相(マトリックス)中に留まるので、マトリックスが粘度安定剤を含む熱可塑性樹脂組成物を調製することができる。
【0040】
工程(1′)は、熱可塑性樹脂および粘度安定剤を含むマスターバッチを作製する工程である。マスターバッチは熱可塑性樹脂に粘度安定剤を加え混練することにより作製することができる。
マスターバッチ中の粘度安定剤の含有量は、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは20~70質量%であり、さらに好ましくは40~60質量%である。マスターバッチ中の粘度安定剤の含有量が少なすぎると熱可塑性樹脂組成物を混練する際に添加するマスターバッチ量が増加し製造効率が低下するし、多すぎると熱可塑性樹脂が粘度安定剤を取り込みきれずマスターバッチとならない懸念がある。
混練は、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸混練押出機、二軸混練押出機等を用いて行うことができるが、好ましくは二軸混練押出機を用いて行う。混練温度および時間は、十分に均一な混練物が得られる限り限定されないが、二軸混練押出機を用いる場合は、混練温度は好ましくは160~300℃であり、混練時間(滞留時間)は好ましくは1分~5分である。マスターバッチは、好ましくは、ストランドカッターやペレタイザーを用いてペレット化しておく。
【0041】
工程(2′)は、工程(1′)で作製したマスターバッチおよびゴムを熱可塑性樹脂に加え混練する工程である。混練する方法は、限定するものではないが、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸混練押出機、二軸混練押出機等を用いて行うことができるが、好ましくは二軸混練押出機を用いて行う。混練温度および時間は、十分に均一な混練物が得られる限り限定されないが、二軸混練押出機を用いる場合は、混練温度は好ましくは160~300℃であり、混練時間(滞留時間)は好ましくは10秒~5分である。
【0042】
工程(3′)は、工程(2′)で得られた混練物に架橋剤を加える工程である。架橋剤を加える方法は、限定するものではないが、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸混練押出機、二軸混練押出機等を用いて行うことができる。
【0043】
工程(4′)は、工程(3′)で得られた架橋剤を含む混練物中のゴムの少なくとも一部を架橋させる工程である。架橋させる方法は、限定するものではないが、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸混練押出機、二軸混練押出機等を用いて加熱混練することにより行うことができる。好ましくは、二軸混練押出機を用いて、160~300℃で混練することにより、動的架橋する。混練時間(滞留時間)は好ましくは10秒~5分分である。
【0044】
工程(1′)と工程(2′)~(4′)とは、別個の装置で行う。
工程(2′)~(4′)は、それぞれ別々の装置を用いて回分式で実施してもよいし、1つの混練押出機を用いて連続的に実施してもよい。連続的に実施する場合は、たとえば、少なくとも2つの供給口を有する二軸混練押出機を用い、第1の供給口に熱可塑性樹脂とゴムとマスターバッチを供給し、第1の供給口よりも下流にある第2の供給口に架橋剤を供給する。また、工程(2′)~(4′)は、1つの装置で同時に(一工程で)実施してもよい。すなわち、工程(1′)で作製したマスターバッチ、熱可塑性樹脂、ゴム、その他の原料をすべて同時に混練機に供給してもよい。この場合は混練温度を適宜調節し、マスターバッチと熱可塑性樹脂のマトリックスにゴムが分散した後、ゴムの架橋が進むようにするとよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基いて、さらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(1)原料
以下の実施例および比較例において使用した原料は次のとおりである。
ナイロン-1: ナイロン11、アルケマ社製「RILSAN」(登録商標)BESNO TL、融点187℃
ナイロン-2: ナイロン6、宇部興産株式会社製「UBEナイロン」1011FB、融点225℃
ナイロン-3: ナイロン6/66共重合体、宇部興産株式会社製「UBEナイロン」5023B、融点195℃
EVOH: エチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン量48%)、日本合成化学工業株式会社製「ソアノール」(登録商標)H4815、融点158℃
ポリエステル: ポリブチレンテレフタレート、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバデュラン」(登録商標)5010R、融点224℃
ブチル系ゴム: 臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体ゴム、エクソンモービル・ケミカル社製「EXXPRO」(登録商標)3745
オレフィン系ゴム: マレイン酸変性α-オレフィン共重合体、三井化学株式会社製「タフマー」(登録商標)MH7020
酸化亜鉛: 正同化学工業社製、酸化亜鉛3種
ステアリン酸: 千葉脂肪酸株式会社製、工業用ステアリン酸
ステアリン酸カルシウム: 堺化学工業株式会社製、ステアリン酸カルシウム SC-PG
フェニレンジアミン系老化防止剤: N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、Solutia社製「SANTOFLEX」(登録商標)6PPD
キノリン系老化防止剤: 2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、大内新興化学工業株式会社製「ノクラック」(登録商標)224
トリアジン骨格を有する3価のアルコール: トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、四国化成工業株式会社製「セイク」
可塑剤: N-ブチルベンゼンスルホンアミド、大八化学工業株式会社製「BM-4」
【0047】
(2)熱可塑性樹脂組成物の調製
表1および表2に示す熱可塑性樹脂組成物を次の方法にて調製した。まず、ブチル系ゴムをゴムペレタイザー(株式会社森山製作所製)によりペレット状に加工した。次いで、熱可塑性樹脂と酸化亜鉛(粘度安定剤)を酸化亜鉛含有量が50質量%となるように混合し、粘度安定剤マスターバッチを作製した。このとき複数の熱可塑性樹脂を用いる配合においては、配合量の多いものでマスターバッチを作製した。次に、各原料を、表1または表2に示す配合比率で、二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に投入し、235℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断することにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。このとき粘度安定剤(酸化亜鉛)はマスターバッチで所望の配合量になるように添加した。一旦熱可塑性樹脂とマスターバッチ化して添加することで、粘度安定剤は熱可塑性樹脂相に存在する。
比較例4および5においては所望の配合量の粘度安定剤(酸化亜鉛)を初めにゴムと混練し、そのゴムを用いて熱可塑性樹脂組成物を作製した。これにより比較例4および5は粘度安定剤がゴム相に配合されている。
【0048】
(3)粘度変化率の測定
上記(2)で調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を100℃で4時間事前乾燥し、キャピラリー・レオメーター(株式会社東洋精機製作所)にて、温度250℃において、ピストンスピード5mm/分、キャピラリ長さ10mm、キャピラリ内径1mmの条件で荷重を検出することにより溶融粘度(Pa・S)の測定を行った。押出し開始から200秒時点での溶融粘度をη1、800秒時点での溶融粘度をη2として、η2/η1×100を粘度変化率とした。粘度変化率は100を超えないことが好ましい。測定結果を表1および表2に示す。
【0049】
(4)押出性評価
上記(2)で調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、Tダイシート成形装置(トミー機械工業株式会社製)を使用して235℃で押出し、金属の冷却ロール上に引き落とし、ピンチロールで引取り、巻取機で巻き取ることにより、熱可塑性樹脂組成物のフィルムを作製した。フィルムの厚みは100μmとし、問題なく成形できる場合を○、軽微な粒や穴開きやシート端部の切れなどが発生する場合は△、深刻な粒や穴開きやシート端部の切れなどが発生する場合を×として評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0050】
【0051】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、冷媒輸送配管を作製するのに好適に利用することができる。