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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】研磨パッド、及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/26 20120101AFI20240410BHJP
   B24B 37/22 20120101ALI20240410BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B24B37/26
B24B37/22
C03C19/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020031164
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021133456
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】早川 俊文
(72)【発明者】
【氏名】山岡 一郎
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098480(JP,A)
【文献】特表2019-510650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 3/00-3/60,21/00-39/06;
C03C 15/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の主面に積層された研磨層とを有してなり、被研磨物との相対回転により前記被研磨物を研磨する研磨パッドであって、
前記研磨層は、複数の突出部と、前記突出部の間に配された溝部とを備え、
前記突出部は、先端側に開口する凹部と、平面視において前記凹部を囲む環状をなし、先端面が平面状である環状壁部とを備え、
前記凹部は、平面視において、当該研磨パッドの相対回転方向に交差する方向に延びる細長形状であり、
前記溝部の底は、前記基材層に配置されてなる研磨パッド。
【請求項2】
基材層と、前記基材層の主面に積層された研磨層とを有してなり、被研磨物との相対回転により前記被研磨物を研磨する研磨パッドであって、
前記研磨層は、複数の突出部と、前記突出部の間に配された溝部とを備え、
前記突出部は、先端側に開口する凹部と、平面視において前記凹部を囲む環状をなし、先端面が平面状である環状壁部とを備え、
前記凹部における当該研磨パッドの相対回転方向の前方側を向く内側面は、基端側から先端側に向かって、前記相対回転方向の後方側に傾斜する傾斜面であり、
前記溝部の底は、前記基材層に配置されてなる研磨パッド。
【請求項3】
基材層と、前記基材層の主面に積層された研磨層とを有してなり、被研磨物との相対回転により前記被研磨物を研磨する研磨パッドであって、
前記研磨層は、複数の突出部と、前記突出部の間に配された溝部とを備え、
前記突出部は、先端側に開口する凹部と、平面視において前記凹部を囲む環状をなし、先端面が平面状である環状壁部とを備え、
一つの前記突出部に対して複数の前記凹部が設けられており、
前記溝部の底は、前記基材層に配置されてなる研磨パッド。
【請求項4】
前記基材層は、硬質層と、前記硬質層の表面に積層された弾性層とを備え、
前記研磨層は、前記弾性層の主面に積層されてなる請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記溝部の底は、前記弾性層に配置されてなる請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の研磨パッドと、前記被研磨物とを相対回転させることにより前記被研磨物を研磨する研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド、及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、板ガラス等の被研磨物の表面における平滑性を高めるためには、研磨パッドを用いて被研磨物の表面が研磨される。研磨パッドを用いて被研磨物を研磨するには、回転している研磨パッドを、被研磨物の表面に当接する。このとき、研磨パッドと、被研磨物との間には、研磨用スラリーが供給され、その研磨用スラリーに含まれる研磨材により被研磨物の表面が研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-145402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研磨パッドが被研磨物に押し当てられた際には、研磨パッドの突出部における先端面が被研磨物に押圧されることから、突出部の形状は、研磨の効率に大きな影響を与える。従来の研磨パッドの突出部の形状には、研磨の効率を高めるという観点、及び研磨パッドの寿命を延ばす観点から、未だ改善の余地があった。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、研磨の効率を高め、かつ長期間使用可能な研磨パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する研磨パッドは、基材層と、前記基材層の主面に積層された研磨層とを有してなり、被研磨物との相対回転により前記被研磨物を研磨する研磨パッドであって、前記研磨層は、複数の突出部と、前記突出部の間に配された溝部とを備え、前記溝部の底は、前記基材層に配置されてなる。
【0007】
従来、研磨パッドが回転する際において、遠心力に起因する力により被研磨物と研磨パッドとの密着性が低下する。そのため、被研磨物を均一に研磨することができない場合がある。本構成のように基材層まで溝が形成されることにより、被研磨物が溝に引っ掛かりやすくなり、密着性が良好となる。
【0008】
前記基材層は、硬質層と、前記硬質層の表面に積層された、弾性層とを備え、前記研磨層は、前記弾性層の主面に積層されてなることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、被研磨物が研磨の際に傷付くのを抑制できる。
【0010】
前記溝部の底は、前記弾性層に配置されてなることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、被研磨物が研磨の際に傷付くのを抑制できる。また、硬質層を有するために、研磨パッドにより被研磨物を押圧しやすくなり、研磨効率を高めることができる。
【0012】
前記突出部は、先端側に開口する凹部と、平面視において前記凹部を囲む環状をなし、先端面が平面状である環状壁部とを備えることが好ましい。
【0013】
被研磨物は、研磨パッドの研磨層に設けられた突出部の先端における相対回転方向の前方側の角部の付近にて集中的に研磨される。上記構成のように、先端側に開口する凹部を有する突出部は、相対回転方向の前方側を向く側面に連なる角部に加えて、凹部における相対回転方向の前方側を向く内側面に連なる角部の一部も、突出部の先端における相対回転方向の前方側の角部になる。突出部における研磨が強く行われる部位である相対回転方向の前方側の角部が増加することにより、突出部による研磨効率が向上する。
また、突出部に対して、凹部を囲む環状をなし、先端面が平面状である環状壁部を設けている。これにより、凹部の形成に起因する突出部の強度の過度な低下が抑制されて、突出部が早期に壊れること、例えば、突出部の形状が崩れたり、突出部が研磨層から剥離したりすることを抑制できる。そのため、角部を増加させるために突出部の数を増やした場合と比較して長期間使用可能となる。
【0014】
前記凹部は、平面視において、当該研磨パッドの相対回転方向に交差する方向に延びる細長形状であることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、突出部に対して、凹部における研磨パッドの相対回転方向の前方側を向く内側面に連なる角部を、相対回転方向に交差する方向の広範囲に形成できる。これにより、突出部による研磨効率が更に向上する。
【0016】
前記凹部における当該研磨パッドの相対回転方向の前方側を向く内側面は、基端側から先端側に向かって、前記相対回転方向の後方側に傾斜する傾斜面であることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、研磨パッドと被研磨物とが相対回転された際に、突出部の傾斜面状の内側面に連なる角部の付近が被研磨物に好適に押圧されて、当該角部の付近が被研磨物の研磨に利用され易くなる。
【0018】
一つの前記突出部に対して複数の前記凹部が設けられていることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、一つの大きな凹部を形成した場合と比較して、突出部の強度が向上する。また、突出部における研磨が強く行われる部位である相対回転方向の前方側の角部が増加することにより、突出部による研磨効率が向上する。
【0020】
上記課題を解決する研磨方法は、上記研磨パッドと、前記被研磨物とを相対回転させることにより前記被研磨物を研磨する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、研磨の効率を高めることができるとともに、より長期間の使用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】研磨パッドを示す平面図。
図2図1のA部分の拡大図。
図3図2の3-3線断面図。
図4】研磨パッドの使用状態の一例を示す概略正面図。
図5】研磨時の突出部を示す説明図。
図6】変更例の突出部の断面図。
図7】変更例の突出部の平面図。
図8】変更例の突出部の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、研磨パッドの一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0024】
図1図3に示すように、研磨パッド11は、円形状の内周端11aと、円形状の外周端11bとを有する。研磨パッド11は、基材層12と、基材層12の主面PSに積層された研磨層13とを有している。研磨パッド11は、被研磨物との相対回転により被研磨物を研磨するために用いられる。
【0025】
<基材層>
図3に示すように、研磨パッド11の基材層12は、硬質層12aと、研磨層13よりも圧縮変形し易い弾性層12bとを備える二層構造である。硬質層12aは、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等から構成される。弾性層12bは、ゴム又はエラストマーから構成される。弾性層12bは、非発泡体であってもよいし発泡体であってもよい。弾性層12bは、硬質層12aよりも硬度が小さい。硬質層12aと弾性層12bとは図示しない接着層を介して接着されている。
【0026】
<研磨層>
図3に示すように、研磨層13は、基材層12の弾性層12b側の面に積層されて、研磨パッド11の一方側(図3の紙面上側)の主面を形成している。研磨層13は、基材層12に支持される平板状の支持部14と、この支持部14から、研磨パッド11の一方の主面側に突出する複数の突出部15とを備えている。支持部14と複数の突出部15とは、ウレタンゴム等の弾性材料から一体に構成されている。研磨層13と基材層12とは図示しない接着層を介して接着されている。
【0027】
図2及び図3に示すように、研磨層13の突出部15は、平行四辺形状の先端面20と、先端面20に連なる第1側面21と、その第1側面21の反対側の面である第2側面22と、第1側面21と第2側面22とを接続する第3側面23及び第4側面24とを有する。突出部15の先端面20は、基材層12の主面PSに平行な平面状である。なお、先端面20は、基材層12の主面PSの状態や研磨層13の寸法誤差により、例えば、±5°以内の程度の角度で傾斜していてもよい。
【0028】
図1に示すように、研磨層13は、突出部15の配置が異なる複数の領域を有している。上記複数の領域は、研磨層13の平面視において、中心角を60°として6等分した扇形の各領域であって、研磨パッド11は、図1における時計回りの順で領域A1,A2,A3,A4,A5,A6に区分される。領域A1と領域A4、領域A2と領域A5、及び領域A3と領域A6は、研磨パッド11の平面視において、それぞれ中心を挟んで対向するように配置されている。
【0029】
図1及び図2に示すように、図1の上下方向を基準の径方向D1とした場合、領域A1,A4の各突出部15は、第1側面21及び第2側面22が径方向D1に沿って延在するように設けられている。図1に示すように、領域A1,A4においては、径方向D1に離間して配置される複数の突出部15からなる列が、径方向D1と直交する方向に離間して複数、配置されている。
【0030】
領域A2,A5の各突出部15は、第1側面21及び第2側面22が、径方向D1から時計回りに60°回転した径方向D2に沿って延在するように設けられている。そして、領域A2,A5においては、径方向D2に離間して配置される複数の突出部15からなる列が、径方向D2と直交する方向に離間して複数、配置されている。
【0031】
領域A3,A6の各突出部15は、第1側面21及び第2側面22が、径方向D1から時計回りに120°回転した径方向D3に沿って延在するように設けられている。そして、領域A3,A6においては、径方向D3に離間して配置される複数の突出部15からなる列が、径方向D3と直交する方向に離間して複数、配置されている。
【0032】
上記のとおり、各突出部15の第1側面21及び第2側面22は、径方向D1,D2,D3のいずれかの方向に延在している。したがって、各突出部15の第1側面21及び第2側面22は、図1に矢印で示す相対回転方向RDと異なる方向、即ち、相対回転方向RDに交差する方向に延在している。本実施形態において、相対回転方向RDは、研磨パッド11の周方向に一致する。
【0033】
<突出部>
図3に示すように、各突出部15の第1側面21は、相対回転方向RDの前方側を向く側面であり、基材層12の主面PSに対する角度である第1角度θ1が鋭角となる傾斜面である。第1角度θ1は、例えば、80°以下であることが好ましく、より好ましくは70°以下であり、さらに好ましくは60°以下である。この第1角度θ1は、10°以上であることが好ましく、より好ましくは20°以上であり、さらに好ましくは30°以上である。
【0034】
各突出部15において、基材層12の主面PSに対する第2側面22の角度である第2角度θ2は特に限定されないが、上記の第1角度θ1よりも大きいことが好ましく、上記の第1角度θ1よりも大きく、かつ直角又は鋭角であることがより好ましい。
【0035】
なお、上述した第1角度θ1及び第2角度θ2は、各突出部15において第1側面21が延在する方向に対して直交する断面における角度を示す。また、基材層12の主面PSが凹凸を有する場合は、研磨パッド11と被研磨物との相対回転の軸方向に対して直交する仮想面が角度の基準となる主面PSに相当する。
【0036】
図2及び図3に示すように、各突出部15は、先端面20に開口する凹部25と、平面視において、凹部25を囲む環状の環状壁部とを備えている。環状壁部は、第1側面21を形成する壁部21aと、第2側面22を形成する壁部22aと、第3側面23を形成する壁部23aと、第4側面24を形成する壁部24aとからなる。突出部15の平面状の先端面20は、環状壁部を構成する壁部21a~24aの各先端面によって形成されている。
【0037】
平面視において、凹部25は、突出部15の第1側面21及び第2側面22が延在する方向に延びる細長形状に形成されている。なお、本実施形態において細長形状は、長円形状である。すなわち、凹部25における第1側面21及び第2側面22が延在する方向の長さL1は、同方向に直交する方向の長さL2よりも長い。例えば、長さL1は、長さL2の2~5倍の長さであることが好ましい。また、長さL1は、突出部15の第1側面21に沿う方向の長さに対して、20~90%となる長さであることが好ましい。
【0038】
凹部25の深さL3は、突出部15の基端である支持部14の主面から先端面20までの長さに対して、50~100%となる長さであることが好ましい。
凹部25は、突出部15の第1側面21側に位置する第1内側面26、及び突出部15の第2側面22側に位置する第2内側面27を有している。第1内側面26は、相対回転方向RDの後方側を向く内側面であり、第2内側面27は、相対回転方向RDの前方側を向く内側面である。基材層12の主面PSに対する第1内側面26の角度である第3角度θ3は、特に限定されないが、上記の第1角度θ1よりも大きいことが好ましく、上記の第1角度θ1よりも大きく、かつ直角又は鋭角であることがより好ましい。基材層12の主面PSに対する第2内側面27の角度である第4角度θ4は直角である。
【0039】
<研磨パッドの溝>
図1に示すように、研磨パッド11の溝16は、研磨パッド11の内周端11aから外周端11bへ向かって直線状に延びる主幹溝16aと、主幹溝16aと研磨パッド11の外周端11bとを直線状に連結する分岐溝16bとを備えている。主幹溝16a及び分岐溝16bは、研磨パッド11の内周端11aと外周端11bとの間において連続した溝16を構成している。
【0040】
図3に示すように、研磨パッド11の溝16は、突出部15と、これに隣り合う突出部15との間に形成されている。研磨パッド11の溝16は、研磨層13からなる内底を有する第1溝16cと、基材層12からなる内底を有する第2溝16dとから構成されている。第2溝16dは、研磨層13と研磨層13とが離間した部分に形成され、突出部15とこれに隣り合う突出部15との間において基材層12が露出している部分である。換言すると、研磨層13は、基材層12上に離間して配置された複数の研磨層13から構成されることで、研磨パッド11は、基材層12を内底として構成された第2溝16dを有している。なお、図1では、第1溝16cと第2溝16dと区別するために第2溝16dを梨地模様で示している。そして、第2溝16dに対応する位置の基材層12の主面PSは、他の部分と比較して凹んでいる。そして、この凹んだ部分が第2溝16dの底Bとなる。なお、第2溝16dの底Bは、弾性層12bに配置されている。
【0041】
<研磨パッドの各寸法>
研磨パッド11、及び研磨パッド11の各部位の寸法は限定されないが、例えば、以下に記載する寸法とすることができる。
【0042】
研磨パッド11の直径は、例えば、10~1000mm程度である。
突出部15の大きさは、例えば、平面視において、第1側面21に沿う方向の長さが5~50mm程度であり、第1側面21に沿う方向に直交する方向の長さが3~20mm程度であり、高さが主面PSを基準として5~30mm程度である。
【0043】
突出部15の凹部25の長さL1は、例えば、3~15mm程度であり、凹部25の長さL2は、例えば、1.5~5mm程度であり、凹部25の深さL3は、例えば、3~8mm程度である。
【0044】
突出部15の先端面20における壁部21a,22aの幅H1は、例えば、3mm以上であり、壁部23a,24aの幅H2は、例えば、1.5mm以上である。この場合には、突出部15の強度を確保することが容易である。また、突出部15の先端面20における壁部21a,22aの幅H1は、例えば、8mm以下であり、壁部23a,24aの幅H2は、例えば、3mm以下である。この場合には、凹部25をより大きく形成することが容易である。
【0045】
<研磨パッドの使用方法及び研磨パッドの作用>
研磨パッド11は、例えば、回転駆動装置を備えた周知の研磨機に取り付けられる。被研磨物の表面は、研磨パッド11と被研磨物との相対回転により研磨される。被研磨物としては、ガラス板、ステンレス板、アルミニウム板等の板材が挙げられる。なお、こうした研磨では、砥粒を含む研磨用スラリーが用いられる。
【0046】
図4に、研磨パッド11の使用状態の一例を示す。研磨パッド11は、研磨機の回転軸RSに取り付けられる。被研磨物としてのガラス板GSは、支持台B上に固定されている。研磨用スラリーSLは、回転軸RSの中空部、及び研磨パッド11の中央の貫通孔を通じてガラス板GSの上面と研磨層13との間に供給される。研磨パッド11は、研磨層13における各突出部15の第1側面21が先頭になってガラス板GSに対して進行する方向に回転される。これにより、ガラス板GSの上面が研磨される。このとき、研磨パッド11の有する溝16は、研磨用スラリーの流路となる。また、第2溝16dの底Bは、基材層12に配置されるため、第2溝16dは従来よりも深い。そのため、ガラス板GSに研磨パッド11を押し当てて回転させた際において、ガラス板GSと第2溝16dの底Bとが引っ掛かりやすくなる。研磨パッド11の回転により発生する遠心力に起因する力より、ガラス板GSと研磨パッド11との密着性が低下するのを抑制できる。特に、第2溝16dの底Bが弾性層12bに配置されているため、ガラス板GSと基材層12との接触に起因する傷の発生を抑制できる。また、弾性層12bが圧縮変形し易い材質により構成した場合、ガラス板GSが弾性層12bに食い込みやすくなるため、より引っ掛かりが良くなり、より密着性の低下を抑制できる。第2溝16dを深くする方法としては、研磨層13を高くして、第2溝16dの底を研磨層13に配置することも考えられる。しかし、この場合、研磨用スラリーSLが排出されにくくなる。
【0047】
ここで、ガラス板GSに対する突出部15による研磨は、突出部15の先端における相対回転方向RDの前方側の角部の付近にて強く行われる。
図5に示すように、本実施形態の研磨パッド11の研磨層13における各突出部15は、先端面20に開口する凹部25を有している。そのため、突出部15の先端には、相対回転方向RDの前方側の角部として、第1側面21に連なる角部C1、及び第2内側面27に連なる角部C2の二つの角部が存在することになり、これら二つの角部C1,C2の付近のそれぞれにて強い研磨が行われる。突出部15における強い研磨が行われる部分が増加することにより、突出部15による研磨効率が向上する。
【0048】
また、各突出部15の凹部25は、研磨用スラリーSLを一時的に保持するスラリーポケットとしても機能する。つまり、ガラス板GSの上面と研磨層13との間に供給された研磨用スラリーSLが凹部25に入り込み、その一部が凹部25内に保持される。これにより、突出部15における上記の角部C1,C2の付近とガラス板GSとの間に研磨用スラリーSLが存在する状況が確保されやすくなる。
【0049】
なお、各突出部15に凹部25が設けられているか否かの点のみが異なる二種類の研磨パッドを作製し、両研磨パッドの研磨効率を比較したところ、各突出部15に凹部25を設けることによって8~9%程度の研磨効率の向上が確認できた。
【0050】
詳述すると、一定の速度で連続的に搬送されるガラス板に対して、研磨パッドを取り付けた研磨機を用いて8時間の研磨を行った。上記の操作を、各突出部15に凹部25が設けられている研磨パッド、及び各突出部15に凹部25が設けられていない研磨パッドを用いて、それぞれ21回ずつ行い、研磨によるガラス板の厚さの減少量を測定した。各突出部15に凹部25が設けられていない研磨パッドを用いた場合の上記減少量の平均値は、9.02μmであったのに対して、各突出部15に凹部25が設けられている研磨パッドを用いた場合の上記減少量の平均値は、9.75μmであった。
【0051】
なお、図5においては、突出部15を模式的に記載するために研磨時における研磨パッドの形状変化を考慮に入れていない。しかし、実際は研磨層13が変形し、第2溝16dの底Bとガラス板GSとが接することになる。基材層12は、研磨層13の突出部15と比較してガラス板GSに押圧力が伝わりやすいため、ガラス板GSが第2溝16dに引っ掛かりやすくなる。そのため、ガラス板GSと研磨パッド11との密着性が良好となる。また、第2溝16dの底Bは、弾性層12bに配置されるため、ガラス板が傷付きにくく、かつ押圧しやすい。そのため、研磨時における研磨パッド11と被研磨物であるガラス板GSとの密着性が良好となる。
【0052】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)研磨層13は、複数の突出部15と、突出部15の間に配された第2溝16dとを備え、第2溝16dの底Bは、基材層12の弾性層12bに配置されてなる。
【0053】
上記構成によれば、研磨時において被研磨物であるガラス板GSが第2溝16dに引っ掛かりやすくなるため、研磨パッド11とガラス板GSとの密着性が良好となる。
【0054】
(2)基材層12は、硬質層12aと、硬質層12aの表面に積層された弾性層12bとを備え、研磨層13は、弾性層12bの主面に積層されている。
【0055】
上記構成によれば、ガラス板GSが研磨パッド11の基材層12と接触することにより傷付くのを抑制できる。
【0056】
(3)第2溝16dの底Bは、弾性層12bに配置されてなることが好ましい。
【0057】
上記構成によれば、ガラス板GSが研磨パッド11の基材層12と接触することにより傷付くのを抑制できる。また、硬質層12aを有するために、研磨パッド11によりガラス板GSを押圧しやすくなり、研磨効率を高めることができる。
【0058】
(4)研磨パッド11は、突出部15を有する研磨層13を備えている。突出部15は、先端側に開口する凹部25と、平面視において凹部25を囲む環状をなし、先端面20が平面状である環状壁部とを備えている。
【0059】
上記構成によれば、突出部15における研磨が強く行われる部位である相対回転方向RDの前方側の角部が増加する。これにより、突出部15による研磨効率が向上する。
また、突出部15に対して、凹部25を囲む環状壁部が設けられている。これにより、凹部25の形成に起因する突出部15の強度の過度な低下が抑制されて、突出部15が早期に壊れること、例えば、突出部15の形状が崩れたり、突出部15が研磨層13から剥離したりすることを抑制できる。そのため、角部を増加させるために突出部の数を増やした場合と比較してより長期間の使用が可能となる。
【0060】
(5)凹部25は、平面視において、研磨パッド11の相対回転方向RDに交差する方向に延びる形状である。
【0061】
上記構成によれば、突出部15における第2内側面27に連なる角部C2を、相対回転方向RDに交差する方向の広範囲に形成できる。これにより、突出部15による研磨効率が更に向上する。
【0062】
(6)凹部25は、平面視において、細長形状であり、その角部が丸まっている。
【0063】
上記構成によれば、研磨時に突出部15に作用する負荷が環状壁部の全体に分散しやすくなる。これにより、突出部15が早期に壊れることを更に抑制できる。
【0064】
(7)研磨パッド11の研磨層13における各突出部15は、基材層12の主面PSに平行な先端面20と、その先端面20に連なるとともに基材層12の主面PSに対する角度が鋭角となる傾斜面状の第1側面21とを有している。この第1側面21は、研磨パッド11とガラス板GSとの相対回転方向RDとは異なる方向に延在している。
【0065】
上記構成によれば、研磨パッド11とガラス板GSとが相対回転された際に、各突出部15の傾斜面状の第1側面21に連なる角部C1の付近がガラス板GSに好適に押圧される。これにより、突出部15の角部C1の付近がガラス板GSの研磨に利用され易くなる。
【0066】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・凹部25の形状は特に限定されるものではなく、その平面視形状や断面形状等の各種形状を適宜変更してもよい。
【0067】
例えば、図6に示すように、凹部25の第2内側面27を、基材層12の主面PSに対する角度である第4角度θ4が鋭角となる傾斜面としてもよい。第4角度θ4は、例えば、80°以下であることが好ましく、より好ましくは70°以下であり、さらに好ましくは60°以下である。また、第4角度θ4は、10°以上であることが好ましく、より好ましくは20°以上であり、さらに好ましくは30°以上である。第4角度θ4を上記の角度とすることにより、突出部15における第2内側面27に連なる角部C2の付近における研磨に関しても、上記(7)と同様の効果が得られる。
【0068】
また、上記実施形態の凹部25は、平面視において、研磨パッド11の相対回転方向RDに交差する方向に延びる細長形状であり、細長形状を長円形状としていたが、例えば、細長形状を、相対回転方向RDに交差する方向に延びる長四角形状等の多角形状としてもよいし、正円形状、正方形状のように、相対回転方向RDに交差する方向に延びる形状以外の形状としてもよい。なお、本明細書において、多角形状や長円形状の環状も、環状に該当する。
【0069】
・凹部25は、研磨層13を貫通して基材層12に達する貫通孔であってもよい。
・各突出部15に設けられる各凹部25は全て同じ形状であってもよいし、一部又は全部が異なる形状であってもよい。
【0070】
・一つの突出部15に対して、2以上の凹部25を設けてもよい。複数の凹部25を設ける場合、突出部15における各凹部25の配置は特に限定されるものではない。
例えば、図7に示すように、相対回転方向RDに重なるように並ぶ複数の凹部25を有する突出部15としてもよいし、図8に示すように、相対回転方向RDに重ならないように並ぶ複数の凹部25を有する突出部15としてもよい。また、相対回転方向RDに重なるように並ぶ複数の凹部25と、相対回転方向RDに重ならないように並ぶ複数の凹部25とを有する突出部15としてもよい。
【0071】
突出部15に対して、一つの大きな凹部25を設けた場合と比較して、複数の凹部25を設けた場合には、突出部15の各側面を形成する壁部21a~24aの間を接続する壁部が形成されることにより、突出部15の強度が向上する。
【0072】
また、図7に示すように、突出部15に対して、複数の凹部25を相対回転方向RDに重なるように設けた場合には、凹部25の形成数に応じて、突出部15における研磨が強く行われる部位である相対回転方向RDの前方側の角部が更に増加する。これにより、突出部15による研磨効率が更に向上する。
【0073】
・突出部15の形状は特に限定されるものではなく、その平面視形状や断面形状等の各種形状を適宜変更してもよい。例えば、上記実施形態の突出部の第1側面21は、基材層12の主面PSに対する角度である第1角度θ1が鋭角となる傾斜面であったが、第1角度θ1が直角となる垂直面であってもよい。
【0074】
・突出部15は全て同じ形状であってもよいし、一部又は全部が異なる形状であってもよい。
・前記研磨パッド11の基材層12は、金属層12aまたは弾性層12bが省略されたものであってもよい。
【0075】
・研磨パッド11は、各突出部15の延在する方向に基づいて領域A1~A6に区分されているが、これに限定されず、区分する領域の数や形状は変更されてもよい。また、研磨パッド11における領域を特に設定せずに、各突出部15を研磨パッドの中心から放射状となるように延在してもよい。
【0076】
・研磨パッド11は、研磨層13側から見た平面視(図1)において反時計回りとなるように相対回転させて使用するが、時計回りとなるように相対回転させて使用する研磨パッドに変更されてもよい。
【0077】
・前記研磨パッド11の研磨層13の各突出部15に砥粒を含有させることで、研磨用スラリーを用いずに水等を研磨用液として被研磨物を研磨してもよい。
・前記研磨パッド11を回転させずに、被研磨物を回転させることで被研磨物を研磨してもよい。また、研磨パッド11は、複数の研磨パッドを遊星歯車機構により同時に回転させて用いる研磨機に装着して用いてもよい。
【符号の説明】
【0078】
GS…ガラス板、PS…主面、RD…相対回転方向、11…研磨パッド、12…基材層、13…研磨層、15…突出部、20…先端面、21…第1側面、22…第2側面、23…第3側面、24…第4側面、21a~24a…壁部、25…凹部、26…第1内側面、27…第2内側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8