(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ガラス溶融炉及びガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/027 20060101AFI20240410BHJP
【FI】
C03B5/027
(21)【出願番号】P 2020207473
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】愛内 孝介
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-002895(JP,A)
【文献】特開2012-162422(JP,A)
【文献】特開昭60-053780(JP,A)
【文献】米国特許第02859261(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/02,5/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に延出する2本又は3本の電極で組をなす複数の電極組と、前記複数の電極組のそれぞれに電力を供給する複数の電気回路とを備え、前記電気回路により電力が供給された前記電極組で通電することにより、炉内で溶融ガラスを加熱するガラス溶融炉において、
前記電極の対地電圧を測定する測定部と、前記測定部で測定された前記電極の対地電圧の変動に基づいて前記電極の損耗を判定する判定部とを備えることを特徴とするガラス溶融炉。
【請求項2】
前記判定部は、前記測定部で測定された前記電極の対地電圧の上昇に基づいて前記電極の損耗を判定する請求項1に記載のガラス溶融炉。
【請求項3】
前記判定部は、炉内に延出する部分の長さが損耗のない標準電極長であるときの前記電極の対地電圧と、前記測定部で測定された前記電極の対地電圧との差が閾値を超えた場合に、前記電極が損耗していると判定する請求項1又は2に記載のガラス溶融炉。
【請求項4】
ガラス溶融炉内に延出する2本又は3本の電極で組をなす複数の電極組、及び、前記複数の電極組のそれぞれに電力を供給する複数の電気回路が設けられ、前記電気回路により電力が供給された前記電極組で通電することにより、前記ガラス溶融炉内で溶融ガラスを加熱する溶融工程と、前記溶融工程で加熱された前記溶融ガラスからガラス物品を成形する成形工程とを備えるガラス物品の製造方法であって、
前記溶融工程は、前記電極の対地電圧を測定する測定工程と、前記測定工程で測定された前記電極の対地電圧の変動に基づいて前記電極の損耗を判定する判定工程を含むことを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記溶融工程は、前記判定工程で前記電極の損耗があると判定された場合に、損耗があると判定された前記電極を、炉内に延出する部分の長さが増加するように延出方向に移動させる調整工程を含む請求項4に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記調整工程では、損耗があると判定された前記電極の移動量を対地電圧に基づいて調整する請求項5に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶融炉及びこれを用いたガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や板ガラス等のガラス物品の製造方法には、ガラス原料を溶解して、溶融ガラスを得る溶融工程が含まれる。溶融工程では、炉内の底部から延出する2本又は3本の電極で組をなす複数の電極組と、複数の電極組のそれぞれに電力を供給する複数の電気回路とを備えたガラス溶融炉が利用される場合がある。この種のガラス溶融炉では、電気回路により電力が供給された電極組で通電加熱することにより、炉内でガラス原料を溶解し、溶融ガラスを得る。このような通電加熱は、LPGや重油等を燃料として用いるバーナー加熱と比較し、燃料起源の排ガスが発生せず、ガラス原料の飛散も抑えることができる。また、通電加熱は、環境保護の観点で優れ、高温化が容易で、均熱加熱が行い易い等の利点もある。なお、通電加熱を用いるガラス溶融炉は、バーナー加熱が併用されることもある。
【0003】
一方、通電加熱を用いるガラス溶融炉の場合、電極が溶融ガラスと直接接触した状態となるため、電極が損耗し易いという欠点がある。特に、電極が炉内で折損して極端に短くなると、電極の根元付近を加熱し過ぎ、炉内の底部を構成する耐火物や電極を含む加熱設備が破損するという重大なトラブルを招くおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1には、通電加熱を用いるガラス溶融炉において、電極の損耗を早期に検知する技術が開示されている。詳細には、同文献に開示の方法では、炉内に複数の電極対(2本で一組の電極組)として配置された複数の電極のそれぞれに主回路から分岐された分岐回路を介して電力を供給する。そして、分岐回路の電力情報と主回路の電力情報とをそれぞれ検出し、これら2つの電力情報に基づいて電極の損耗を判定するようにしている。この方法は、実際に電極の損耗が生じると、分岐回路と主回路の双方の電力情報が変動(例えば、電流値の低下)するという現象を利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】P. Simons, K. Jochem, and K. Aiuchi, A power consistent mathematical formulation for Joulean heat release, Glass Technol.: Eur. J. Glass Sci. Technol. A, 49 (3), 109-118 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、電極に電力を供給するための電気回路の構成が、主回路と、主回路から分岐された分岐回路とを備えたものに限定される。つまり、複数の電極対にそれぞれ独立した電源から電力が供給される場合のように、分岐回路を用いない構成とした場合には、特許文献1に開示の方法は適用できない。例えば複数の電極対にそれぞれ独立した電源から電力が供給される場合、ある特定の電極対のいずれか一方が損耗すると、この電極対の電流値の変化は確認できるが、この電極対を構成する2本の電極の電流値は等しいため、いずれの電極が損耗しているかを判定できないという問題が生じ得る。
【0008】
本発明は、ガラス溶融炉内の電極の損耗を確実に判定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、炉内に延出する2本又は3本の電極で組をなす複数の電極組と、複数の電極組のそれぞれに電力を供給する複数の電気回路とを備え、電気回路により電力が供給された電極組で通電することにより、炉内で溶融ガラスを加熱するガラス溶融炉において、電極の対地電圧を測定する測定部と、測定部で測定された電極の対地電圧の変動に基づいて電極の損耗を判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【0010】
電極に損耗が生じた場合、損耗が生じた電極の対地電圧は大きく上昇する。また、損耗が生じた電極が属する電極組の他の電極の対地電圧は下降する場合がある。加えて、損耗が生じた電極が属する電極組以外の電極の対地電圧はほとんど変動しない場合がある。したがって、電極に損耗が生じた場合には、電極の対地電圧に特徴的な変動が生じるため、判定部において、測定部で測定された電極の対地電圧の変動に基づいて電極の損耗を確実に判定できる。
【0011】
(2) 上記の(1)の構成において、判定部は、測定部で測定された電極の対地電圧の上昇に基づいて電極の損耗を判定することが好ましい。
【0012】
上述のように、電極が損耗した場合、損耗が生じた電極の対地電圧は大きく上昇する。そのため、対地電圧の上昇に基づいて電極の損耗を判定すれば、電極の損耗をより確実に判定できる。
【0013】
(3) 上記の(1)又は(2)の構成において、判定部は、炉内に延出する部分の長さが損耗のない標準電極長であるときの電極の対地電圧と、測定部で測定された電極の対地電圧との差が閾値を超えた場合に、電極が損耗していると判定することが好ましい。
【0014】
このようにすれば、電極が損耗した場合の電極の対地電圧の変動をより正確に把握できるため、電極の損耗をより確実に判定できる。
【0015】
(4) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、ガラス溶融炉内に延出する2本又は3本の電極で組をなす複数の電極組、及び、複数の電極組のそれぞれに電力を供給する複数の電気回路が設けられ、電気回路により電力が供給された電極組で通電することにより、ガラス溶融炉内で溶融ガラスを加熱する溶融工程と、溶融工程で加熱された溶融ガラスからガラス物品を成形する成形工程とを備えるガラス物品の製造方法であって、溶融工程は、電極の対地電圧を測定する測定工程と、測定工程で測定された電極の対地電圧の変動に基づいて電極の損耗を判定する判定工程を含むことを特徴とする。
【0016】
このようによれば、上述した対応する構成と同様の効果を享受できる。
【0017】
(5) 上記の(4)の構成において、溶融工程は、判定工程で電極の損耗があると判定された場合に、損耗があると判定された電極を、炉内に延出する部分の長さが増加するように延出方向に移動させる調整工程を含むことが好ましい。
【0018】
このようにすれば、電極に損耗が生じた場合でも、その電極の炉内に延出する部分の長さを適切に維持できる。
【0019】
(6) 上記の(5)の構成において、調整工程では、損耗があると判定された電極の移動量を対地電圧に基づいて調整することが好ましい。
【0020】
このようにすれば、電極の炉内に延出する部分の長さを正確に調整できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電極の損耗を確実に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す縦断面図である。
【
図3】
図1の電極周辺を拡大して示す縦断面図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す横断面図である。
【
図5】本発明の実施例1における電極A~Hの対地電圧の数値シミュレーション結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例2における電極A~Hの対地電圧の数値シミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るガラス物品の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組合せることができる。
【0024】
(第一実施形態)
図1及び
図2に示すように、第一実施形態に係るガラス物品の製造方法は、ガラス物品の製造装置1を用いて、ガラス物品としてのガラス繊維Gfを製造するものである。ガラス物品の製造装置1は、ガラス原料Grを溶融して溶融ガラスGmを形成するガラス溶融炉2と、ガラス溶融炉2の下流側の端部に接続され、ガラス溶融炉2から供給される溶融ガラスGmを流通させるフォアハース3とを備えている。ガラス溶融炉2の溶融空間やフォアハース3の流通空間を区画形成する壁部は、煉瓦等の耐火物で形成されている。
【0025】
ガラス溶融炉2の上流側の端部には、珪砂、石灰石、ソーダ灰、カレット等を混合したガラス原料Grを炉内に投入するための投入口2aが設けられている。投入口2aには、スクリューフィーダ等の原料供給手段4が配置されている。なお、ガラス原料Grには、カレットが含まれていてもよい。
【0026】
ガラス溶融炉2の底部2bには、加熱手段として、溶融ガラスGm中に浸漬された複数本の電極A~Hが配置されている。各電極A~Hは、例えば、棒状のモリブデン(Mo)から形成される。そして、複数の電極A~Hを用いて溶融ガラスGmを通電加熱することによって、投入口2aから投入されたガラス原料Grを溶解する。これにより、ガラス原料Grから溶融ガラスGmが連続的に形成される。溶融ガラスGmは、ガラス溶融炉2の下流側の端部からフォアハース3内へと流入する。なお、ガラス溶融炉2は、通電加熱のみを用いる全電気溶融に限らず、バーナー加熱(ガス燃焼)と通電加熱を併用するものであってもよい。
【0027】
この実施形態では、
図3に示すように、各電極A~Hは、鉄材(例えばステンレス鋼)等の金属で形成された筒状の電極ホルダ5により保持された状態で、ガラス溶融炉2の底部2bに配置されている。詳細には、電極A~Hの外周面は、筒状の電極ホルダ5の内周面5aによって保持されており、電極ホルダ5の外周面5bは、ガラス溶融炉2の底部2bに形成された貫通孔2cによって保持されている。電極ホルダ5は、各電極A~Hの熱による損耗を抑制するために、電極A~Hを冷却するための冷却手段(図示省略)を備えている。冷却手段は、例えば、電極ホルダ5の内部に水や空気等の冷媒を流通させる流路で構成される。各電極A~Hは、電極ホルダ5に保持された状態で、ガラス溶融炉2の底部2bを貫通すると共に、上下方向に移動可能とされている。つまり、電極A~Hは、上下方向に移動させることにより、炉内に延出する部分の長さを調整可能となっている。なお、図中の一点鎖線で図示する電極A~Hの炉内に延出する部分の長さL0が、電極A~Hに損耗のない標準電極長を示している。
【0028】
フォアハース3の天井部3aには、溶融ガラスGmを加熱して保温するヒータ6が設けられている。フォアハース3の底部3bには、溶融ガラスGmの流れ方向Xに間隔をおいて、白金又は白金合金で形成された複数のブッシング7が設けられている。各ブッシング7には、複数のノズル(図示省略)が設けられている。各ノズルは、溶融ガラスGmを流下してガラス繊維Gfを成形する。なお、各ノズルから流下した溶融ガラスGmは下方に延伸されつつ所定径のガラス繊維Gfに成形される。その後、ガラス繊維Gfは集束剤を塗布されることで複数本が集束されてガラス繊維束となる。なお、この実施形態では、フォアハース3の下流側端部は、電気的に接地された状態となっている。フォアハース3の下流側端部の接地は省略してもよい。
【0029】
図2に示すように、ガラス溶融炉2は、炉内の底部2bから延出する複数の電極A~Hのうちの2本又は3本で一組をなす複数の電極組8~11のそれぞれに電力を供給する複数の電気回路12~15を備えている。
【0030】
この実施形態では、計8本の電極A~Hが、炉内の幅方向Yに等間隔に4本、炉内の流れ方向Xに等間隔に2本並んだ状態で配置されている。そして、流れ方向Xに対向する2本の電極A,Eが、第1電極組8とされる。同様に、流れ方向Xに対向する2本の電極B,Fが第2電極組9とされる。流れ方向Xに対向する2本の電極C,Gが第3電極組10とされる。流れ方向Xに対向する2本の電極D,Hが第4電極組11とされる。なお、電極の本数、配置位置等の配列態様及び/又は各電極組における電極の組合せは、特に限定されるものではなく、ガラス溶融炉2の大きさ等に応じて適宜変更できる。
【0031】
第1電極組8の電極A,Eに連結する端子a1,b1には、第1単相交流電源16を含む第1電気回路12が接続されている。同様に、第2電極組9の電極B,Fに連結する端子a2,b2には、第2単相交流電源17を含む第2電気回路13が接続されている。第3電極組10の電極C,Gに連結する端子a3,b3には、第3単相交流電源18を含む第3電気回路14が接続されている。第4電極組11の電極D,Hに連結する端子a4,b4には、第4単相交流電源19を含む第4電気回路15が接続されている。つまり、各電極組8~11に電力を供給する電気回路12~15は、互いに独立している。
【0032】
ガラス溶融炉2は、各電極A~Hの対地電圧を測定する複数の測定部20~27と、各測定部20~27で測定された各電極A~Hの対地電圧の変動に基づいて各電極A~Hの損耗を判定する判定部28とを備えている。この実施形態では、8本の電極A~Hが設けられているため、それぞれの電極A~Hに対応した計8つの測定部20~27が設けられている。なお、
図2では、1つの測定部25が判定部28に接続された状態を例示しているが、実際には、全ての測定部20~27が判定部28に接続され、各測定部20~27で測定された対地電圧が判定部28に入力されるようになっている。判定部28と各測定部20~27の接続方法は、有線と無線のいずれであってもよい。判定部28としては、パーソナルコンピュータ等が利用できる。
【0033】
ここで、ある特定の1本の電極(例えば、電極A)に損耗が生じた場合、その損耗が生じた電極の対地電圧は上昇する。また、その損耗が生じた電極が属する電極組の他の電極(例えば、電極Aと対をなす電極E)の対地電圧は下降する。上記の対地電圧の上昇は、上記の対地電圧の下降に比べて変動量が大きくなり易い。さらに、その損耗が生じた電極が属する電極組以外の電極(例えば、電極Aとは異なる電極組に属する電極B,C,D,F,G,H)の対地電圧はほとんど変動しない。したがって、各測定部20~27により各電極A~Hの対地電圧を測定すれば、判定部28において、測定された各電極A~Hの対地電圧の変動に基づいて各電極A~Hの損耗を確実に判定できる。
【0034】
上述のように、損耗が生じた電極の対地電圧は大きく上昇するため、判定部28は、各測定部20~27で測定された各電極A~Hの対地電圧の上昇に基づいて各電極A~Hの損耗を判定することが好ましい。つまり、判定部28は、例えば、ある特定の1本の電極(例えば電極A)につき、炉内に延出する部分の長さが損耗のない標準電極長L0であるときの対地電圧V10(以下、標準対地電圧ともいう)と、測定部(例えば測定部20)で測定された対地電圧V11との差が閾値VT1を超えた場合(つまり、V11-V10>VT1)に、その特定の電極に損耗が生じたと判定することが好ましい。閾値VT1は、例えば、標準対地電圧の5%~100%の大きさの電圧であることが好ましく、標準対地電圧の10%~80%の大きさの電圧であることがさらに好ましく、標準対地電圧の20%~50%の大きさの電圧であることが最も好ましい。この場合、判定部28は、各電極A~Hの標準対地電圧及び閾値をメモリ等の記憶手段に予め記憶している。なお、標準対地電圧が電極ごとに異なることを考慮し、閾値VT1として電極ごとに異なる値を設定してもよい。
【0035】
なお、判定部28は、各測定部20~27で測定された各電極A~Hの対地電圧の上昇及び下降に基づいて各電極A~Hの損耗を判定するようにしてもよい。つまり、ある特定の1本の電極の対地電圧が上昇し、且つ、その対地電圧が上昇した電極が属する電極組の残りの電極の対地電圧が下降した場合に、対地電圧が上昇した電極に損耗が生じたと判定してもよい。この場合も、上昇した対地電圧V21とその標準対地電圧V20との差が第一閾値VT2を超え、且つ、下降した対地電圧V31とその標準対地電圧V30との差が第二閾値VT3を超えた場合(つまり、V21-V20>VT2、且つ、V30-V31>VT3)に、対地電圧が上昇した電極に損耗が生じたと判定することが好ましい。なお、第一閾値VT2は、第二閾値VT3よりも大きいことが好ましい。
【0036】
また、単相交流電源を用いる場合、判定部28は、各測定部20~27で測定された各電極A~Hの対地電圧の下降に基づいて各電極A~Hの損耗を判定するようにしてもよい。つまり、ある特定の電極組において、ある特定の1本の電極を除く残りの電極の対地電圧が下降した場合に、その特定の電極に損耗が生じたと判定してもよい。この場合も、下降した対地電圧V41とその標準対地電圧V40との差が閾値VT4を超えた場合(つまり、V40-V41>VT4)に、上記の特定の電極(対地電圧が下降した電極を除く残りの電極)に損耗が生じたと判定することが好ましい。
【0037】
次に、以上のように構成されたガラス物品の製造装置1を用いたガラス物品の製法方法を説明する。
【0038】
図1に示すように、本実施形態に係るガラス物品の製造方法は、ガラス溶融炉2でガラス原料Grを溶融して溶融ガラスGmを形成する溶融工程と、溶融ガラスGmをフォアハース3の内部に流通させて、フォアハース3の底部3bに設けられたブッシング7に供給する供給工程と、ブッシング7に設けられたノズル(図示省略)から溶融ガラスGmを流下してガラス繊維Gfを成形する成形工程とを備えている。
【0039】
溶融工程は、複数の測定部20~27によって、各電極A~Hの対地電圧を測定する測定工程と、判定部28によって、各測定部20~27で測定された各電極A~Hの対地電圧の変動に基づいて各電極A~Hの損耗を判定する判定工程と、判定工程で電極の損耗が生じたと判定された場合に、損耗が生じたと判定された電極(例えば電極A)を、炉内に延出する部分の長さが増加するように上方に移動させる調整工程とを含む。
【0040】
判定工程では、例えば、ある特定の1本の電極(例えば、電極A)につき、標準対地電圧と、測定部(例えば、測定部20)で測定された対地電圧との差が閾値を超えた場合に、その特定の電極に損耗が生じたと判定する。なお、電極の損耗の判定方法は、これに限定されず、上記の判定部28の説明で例示した他の方法も適用できる。
【0041】
調整工程では、損耗が生じたと判定された電極(例えば、電極A)の移動量を、測定部(例えば、測定部20)で測定される対地電圧に基づいて調整する。詳細には、例えば、測定部(例えば、測定部20)で測定される対地電圧が、損耗のない標準電極長L0であるときの標準対地電圧と略一致するまで、損耗が生じたと判定された電極(例えば、電極A)を炉内側に押し上げる(
図3の矢印Pを参照)。
【0042】
(第二実施形態)
図4に示すように、第二実施形態に係るガラス物品の製造装置及び製造方法が、第一実施形態と相違するところは、ガラス溶融炉2の電極組31~34の構成(電極の組合せ)と、各電極組31~34に電力を供給する電気回路35~38の構成である。
【0043】
この実施形態では、第一実施形態と同様に、計8本の電極A~Hが、炉内の幅方向Yに等間隔に4本、炉内の流れ方向Xに等間隔に2本並んだ状態で配置されている。そして、第一実施形態とは異なり、幅方向Yに対向する2本の電極A,Cが第1電極組31とされる。幅方向Yに対向する2本の電極D,Bが第2電極組32とされる。幅方向Yに対向する2本の電極E,Gが第3電極組33とされる。幅方向Yに対向する2本の電極H,Fが第4電極組34とされる。なお、電極の本数、配置位置等の配列態様及び/又は各電極組における電極の組合せは、特に限定されるものではなく、ガラス溶融炉2の大きさ等に応じて適宜変更できる。
【0044】
第1電極組31の電極A,Cに連結する端子o1,u1には、第1三相交流電源39を含む第1電気回路35が第1スコット結線変圧器40を介して接続されている。同様に、第2電極組32の電極D,Bに連結する端子o1’,v1には、第1三相交流電源39を含む第2電気回路36が第1スコット結線変圧器40を介して接続されている。また、第3電極組33の電極E,Gに連結する端子o2,u2には、第2三相交流電源41を含む第3電気回路37が第2スコット結線変圧器42を介して接続されている。同様に、第4電極組34の電極H,Fに連結する端子o2’,v2には、第2三相交流電源41を含む第4電気回路38が第2スコット結線変圧器42を介して接続されている。そして、各スコット結線変圧器40,42では、三相交流を2組の単相交流に変換している。つまり、2つのスコット結線変圧器40,42によって計4組の単相交流に変換し、各電極組31~34に単相交流で電力を供給している。なお、各電極組31~34に電力を供給する電気回路35~38は、互いに独立している。
【0045】
このようにスコット結線変圧器40,42を用いて三相交流を単相交流に変換する場合も、ある特定の1本の電極(例えば、電極A)に損耗が生じたときに、その損耗が生じた電極の対地電圧は大きく上昇する。また、その損耗が生じた電極が属する電極組の他の電極(例えば、電極Aと対をなす電極C)の対地電圧は下降する。上記の対地電圧の上昇は、上記の対地電圧の下降に比べて変動量が大きくなり易い。さらに、その損耗が生じた電極が属する電極組以外の電極(例えば、電極Aとは異なる電極組に属する電極B,D,E,F,G,H)の対地電圧はほとんど変動しない。したがって、第一実施形態と同様に、各測定部20~27により各電極A~Hの対地電圧を測定すれば、判定部28において、測定された各電極A~Hの対地電圧の変動に基づいて各電極A~Hの損耗を確実に判定できる。
【0046】
なお、三相交流を単相交流に変換する方法としては、スコット結線変圧器に代えて、ウッドブリッジ結線変圧器、変形ウッドブリッジ結線変圧器、ルーフデルタ結線変圧器等も利用できる。
【0047】
本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0048】
上記の実施形態では、2本の電極により1つの電極組を構成する場合を説明したが、3本の電極により1つの電極組を構成し、各電極に三相交流電源を用いて電力を供給してもよい。この場合も、損耗した電極の対地電圧が上昇する傾向があるので、本発明が適用できる。
【0049】
上記の実施形態では、ガラス溶融炉2は、ガラス原料Grの溶融空間が一つだけのシングルメルターであるが、複数の溶融空間を連ねたマルチメルターであってもよい。
【0050】
上記の実施形態では、ガラス物品がガラス繊維Gfである場合を説明したが、ガラス物品は、例えば、板ガラス(ガラスロールを含む)、光学ガラス部品、ガラス管、ガラスブロック等であってもよい。
【実施例1】
【0051】
以下、本発明に係る実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0052】
本発明の実施例1は、第一実施形態と同様に、
図2に示す構成を備えたガラス物品の製造装置1である。ガラス溶融炉2の溶融ガラスGmが貯留されているガラス領域の寸法は、幅方向5m、流れ方向5m、上下方向(高さ)1mである。フォアハース3の寸法は、幅方向1m、流れ方向5m、上下方向(高さ)1mである。本実施例ではフォアハース3の下流側の端部がアース電極により電気的に接地されている。
【0053】
溶融ガラスGmは1300℃のソーダ石灰ガラスであり、その導電率は16S/mである。ガラス溶融炉2の炉内には8本の電極A~Hが1m間隔にて流れ方向Xに2本、幅方向Yに4本並んだ状態で配置されている。電極A~Hは直径100mmの円柱形状の導体であり、その導電率は3×106S/mである。各電極A~Hは、標準電極長の状態では、ガラス領域の底面から500mmの高さまで存在している。
【0054】
ここで、第1電極組8の電極A及び電極Eに連結する端子a1とb1の間に単相交流電源16を接続し、50kWの電力を供給する。同様に、第2電極組9の電極B及び電極Fに連結する端子a2とb2、第3電極組10の電極C及び電極Gに連結する端子a3とb3、第4電極組11の電極D及び電極Hに連結する端子a4とb4のそれぞれの間にも単相交流電源17~19を接続し、50kWの電力を供給する。ここで、a1-b1間、a2-b2間、a3-b3間、a4-b4間の電圧は同位相となるよう制御されているが、これらに電力を供給する4つの電気回路12~15はそれぞれ独立している。
【0055】
このとき、ある特定の電極が損耗した場合の対地電圧の変化を確認するため、以下の5条件を対象として数値シミュレーションにより各電極の対地電圧を求めた。
ケース1:全電極が標準電極長
ケース2:電極Aのみ長さが標準電極長の1/5
ケース3:電極Bのみ長さが標準電極長の1/5
ケース4:電極Eのみ長さが標準電極長の1/5
ケース5:電極Fのみ長さが標準電極長の1/5
【0056】
数値シミュレーションにより対地電圧を求めるためには、ある時刻における電極の電位ψReと、その時刻から交流の1/4周期ずれた時刻における電位ψImを用いて、[(ψRe
2+ψIm
2)/2]0.5により対地電圧を計算することができる。各時刻の電位の計算方法は、例えば非特許文献1に記載されている。
【0057】
ケース1~5の各条件において得られた電極A~Hの対地電圧を
図5に示す。電極A,B,E,Fのいずれの電極の長さが短くなった場合でも、標準電極長の条件に比べて、短くなった電極そのものの対地電圧が上昇していることが分かる。これに対して、短くなった電極と対をなす対向側の電極(例えば電極Aと対をなす電極E)の対地電圧はやや低下し、またその他の電極の対地電圧の変化は非常に小さい。ここで本発明を適用し、例えば8本の電極のうちいずれか特定の電極が所定の閾値以上に上昇した場合に、該特定の電極が損耗したと判定する。本実施例の場合は、例えば対地電圧の10V以上の上昇により損耗を判定できる。ただし、判定値(閾値)は、溶融するガラスの種類、ガラス溶融炉の寸法、電極間の距離等に応じて適切な値を選択するのが好ましい。判定値は、例えば、標準電極長における対地電圧の5%の大きさの電圧またはそれより大きい値に設定することが好ましい。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2は、第二実施形態と同様に、
図4に示す構成を備えたガラス物品の製造装置1である。本実施例では、ガラス溶融炉2の寸法、溶融ガラスGmの物性及び各電極A~Hの配置は、実施例1と同一であるが、各電極A~Hに接続される電源(電気回路)の構成が異なる。
【0059】
ここで、第1電極組31の電極A及び電極Cに連結する端子o1とu1の間には、第1スコット結線変圧器40を介して第1三相交流電源39を接続し、50kWの電力(単相交流)を供給する。第2電極組32の電極D及び電極Bに連結する端子o’1とv1の間には、第1スコット結線変圧器40を介して第1三相交流電源39を接続し、o1-u1間とは交流の位相が1/4周期ずれた50kWの電力(単相交流)を供給する。第3電極組33の電極E及び電極Gに連結する端子o2とu2の間には、第2スコット結線変圧器42を介して第2三相交流電源41を接続し、o1-u1間と交流の位相が同位相の50kWの電力(単相交流)を供給する。第4電極組34の電極H及び電極Fに連結する端子o’2とv2の間には、第2スコット結線変圧器42を介して第2三相交流電源41を接続し、o’1-v1間と交流の位相が同位相の50kWの電力(単相交流)を供給する。o1-u1間、o’1-v1間、o2-u2間、o’2-v2間に電力を供給する電気回路35~38はそれぞれ独立している。
【0060】
このとき、ある特定の電極が損耗した場合の対地電圧の変化を確認するため、以下の5条件を対象として数値シミュレーションにより各電極の対地電圧を求めた。
ケース6:全電極が標準電極長
ケース7:電極Aのみ長さが標準電極長の1/5
ケース8:電極Bのみ長さが標準電極長の1/5
ケース9:電極Cのみ長さが標準電極長の1/5
ケース10:電極Dのみ長さが標準電極長の1/5
【0061】
ケース6~10の各条件において得られた電極A~Hの対地電圧を
図6に示す。電極A,B,C,Dのいずれの電極の長さが短くなった場合でも、標準電極長の条件に比べて、短くなった電極そのものの対地電圧が上昇していることが分かる。これに対して、短くなった電極と対をなす対向側の電極(例えば電極Aと対をなす電極C)の対地電圧はやや低下し、またその他の電極の対地電圧の変化は非常に小さい。ここで本発明を適用し、例えば8本の電極のうちいずれか特定の電極が所定の閾値以上に上昇した場合に、該特定の電極が損耗したと判定する。本実施例の場合は、例えば対地電圧の10V以上の上昇により損耗を判定することができる。ただし、判定値(閾値)は溶融するガラスの種類、溶融炉の寸法、電極間の距離等に応じて適切な値を選択するのが好ましい。判定値は、例えば、標準電極長における対地電圧の5%の大きさの電圧またはそれより大きい値に設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
1 ガラス物品の製造装置
2 ガラス溶融炉
3 フォアハース
4 原料供給手段
5 電極ホルダ
6 ヒータ
7 ブッシング
8~12 電極組
12~15 電気回路
16~19 単相交流電源
20~27 測定部
28 判定部
31~34 電極組
35~38 電気回路
39,41 三相交流電源
40,42 スコット結線変圧器
A~H 電極
Gf ガラス繊維
Gm 溶融ガラス
Gr ガラス原料