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特許7469748シアン酸エステル化合物及びその製造方法、樹脂組成物、並びに硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】シアン酸エステル化合物及びその製造方法、樹脂組成物、並びに硬化物
(51)【国際特許分類】
   C07C 261/02 20060101AFI20240410BHJP
   C08G 61/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C07C261/02
C08G61/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023122193
(22)【出願日】2023-07-27
【審査請求日】2023-07-28
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】片桐 誠之
(72)【発明者】
【氏名】岩本 慎平
(72)【発明者】
【氏名】安田 祥宏
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/065422(WO,A1)
【文献】特開2016-141700(JP,A)
【文献】特開2015-145487(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203866(WO,A1)
【文献】特開2015-196820(JP,A)
【文献】特開2017-007953(JP,A)
【文献】特開2005-187335(JP,A)
【文献】特開平09-249746(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059476(WO,A1)
【文献】特開2019-189761(JP,A)
【文献】特表平05-500079(JP,A)
【文献】特開2017-031275(JP,A)
【文献】特表2013-518102(JP,A)
【文献】国際公開第2004/029127(WO,A1)
【文献】特開2015-209381(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158066(WO,A1)
【文献】特開2021-084900(JP,A)
【文献】特開2018-168085(JP,A)
【文献】特開2018-070553(JP,A)
【文献】特開2018-070552(JP,A)
【文献】特開2016-222833(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163456(WO,A1)
【文献】特開2005-264154(JP,A)
【文献】小池 常夫,“エポキシ樹脂用硬化剤としてのシアネートエステルの進歩(上)”,ネットワークポリマー論文集,2019年11月10日,第40巻, 第6号,pp. 287-300,DOI: 10.11364/networkedpolymer.40.6_287
【文献】小池 常夫,“エポキシ樹脂用硬化剤としてのシアネートエステルの進歩(下)”,ネットワークポリマー論文集,2020年03月10日,第41巻, 第2号,pp. 72-82,DOI: 10.11364/networkedpolymer.41.2_72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 261/00
C08G 61/00
C08G 73/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(17)で表されるシアン酸エステル化合物であって、下記式(18)で表されるカルバメート基を1つ有する化合物の含有量がHPLC面積百分率で0.001面積%以上0.5面積%以下である、シアン酸エステル化合物の製造方法であって、
ハロゲン化水素と、有機溶媒と、水と、を含む混合溶媒中で、ハロゲン化シアンとヒドロキシ置換芳香族化合物とを塩基性化合物の存在下で反応させて、シアネート化することにより前記シアン酸エステル化合物を含む反応液を得るシアネート化工程と、
前記反応液から、前記ハロゲン化水素と、前記水と、を含む第1の水相と、前記シアン酸エステル化合物と、前記有機溶媒と、を含む第1の有機相とを、前記第1の有機相に前記第1の水相の一部が混入するように分液して、第2の水相と第2の有機相とを有する第1の溶液を得る工程と、
前記第2の水相に水を供給して、前記第2の水相を希釈することで、第3の水相と第3の有機相とを有する第2の溶液を得る工程と、
前記第2の溶液から、前記第3の水相と、前記第3の有機相とを、前記第3の有機相に前記第3の水相の一部が混入するように分液して、第4の水相と第4の有機相とを有する第3の溶液を得る工程と、を含み、
前記ヒドロキシ置換芳香族化合物の使用量に対する、前記第3の溶液における前記第4の有機相へのハロゲン化水素混入率が、1.00%以下である、製造方法。
【化1】
(式(17)中、nは、1以上50以下の整数を示す。)。
【化2】
【請求項2】
前記シアネート化工程において、
前記ハロゲン化シアンと、前記ハロゲン化水素と、前記水と、を含むハロゲン化シアン溶液と、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物と、前記塩基性化合物と、前記有機溶媒と、を含む溶液Aと、を接触させる、
請求項に記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記シアネート化工程において、
前記ハロゲン化シアンと、前記ハロゲン化水素と、前記水と、を含むハロゲン化シアン溶液と、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物と、前記塩基性化合物と、前記有機溶媒と、を含む溶液Aと、を接触させて溶液Bを得た後、前記溶液Bに、前記塩基性化合物と、前記有機溶媒と、を含む溶液Cを注下させる、
請求項に記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記シアネート化工程において、
前記ハロゲン化シアンの原料仕込み量が、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物のヒドロキシ基1molに対して、0.5mol以上5.0mol以下である、
請求項に記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記シアネート化工程において、前記混合溶媒における温度が5.0℃以下である、請求項に記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、炭素数1個以上2個以下のハロゲン化炭化水素系溶媒である、請求項に記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン酸エステル化合物及びその製造方法、樹脂組成物、並びに硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン酸エステル化合物は、硬化によってトリアジン環を形成する熱硬化性樹脂として知られている。シアン酸エステル化合物により得られる硬化物は、ガラス転移温度が高く、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性や難燃性にも優れるなどの性質を有する。従来、シアン酸エステル化合物は、構造用複合材料、接着剤、電気絶縁材料、及び電気電子部品など、種々の機能性高分子材料の原料として幅広く用いられている。
【0003】
そのため、より優れた性質を有するシアン酸エステル及びその製造方法の開発が進められている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-264154号公報
【文献】WO2014/065422A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のシアン酸エステル化合物では、硬化物製造時における重合反応を制御し難く、所望の特性を有する硬化物が得られ難い。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物及びその製造方法、樹脂組成物、並びに硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた結果、特定のシアン酸エステル化合物を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
[1]分子内に2個以上のシアナト基を有するシアン酸エステル化合物であって、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量がHPLC面積百分率で0.5面積%以下である、シアン酸エステル化合物。
【0010】
[2]前記シアン酸エステル化合物が、下記式(1)で表される化合物、又は下記式(2)で表される化合物である、[1]に記載のシアン酸エステル化合物。
【0011】
【化1】
【0012】
(式(1)中、Arは、各々独立に、芳香環を表し、Raは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、aは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、各々独立に、1以上3以下の整数であり、bは、Arに対するRaの結合個数を示し、各々独立に、Arの置換可能基数から(a+2)を引いた数を示し、cは、1以上50以下の整数であり、Xは、各々独立に、単結合、水素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい炭素数1以上50以下の2価の有機基、窒素数1以上10以下の2価の有機基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボニルジオキサイド基、スルホニル基、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子を示す。)。
【0013】
【化2】
【0014】
(式(2)中、Arは、芳香環を示し、Rbは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、dは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、2以上3以下の整数であり、eは、Arに対するRbの結合個数を示し、Arの置換可能基数から(d+2)を引いた数を示す。)。
【0015】
[3]前記式(1)におけるXが、各々独立に、
下記式(3):
【0016】
【化3】
【0017】
(式(3)中、Arは、各々独立に、芳香環を示し、Rc、Rd、Rg、及びRhは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、又は炭素数6以上12以下のアリール基を示し、Re及びRfは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、fは0以上5以下の整数を示す。)で表される炭素数1以上50以下の2価の有機基、
下記式(4):
【0018】
【化4】
【0019】
(式(4)中、Arは、各々独立に、芳香環を示し、Ri及びRjは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、gは0以上5以下の整数を示す。)で表される炭素数1以上50以下の2価の有機基、並びに、
下記式(5)乃至(14):
【0020】
【化5】
【0021】
(式(8)中、hは4以上7以下の整数を示し、式(13)中、Rkは、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を示す。)で表される2価の基からなる群より選ばれる、[2]に記載のシアン酸エステル化合物。
【0022】
[4]前記シアン酸エステル化合物が、下記式(15)で表される化合物、又は下記式(16)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のシアン酸エステル化合物。
【0023】
【化6】
【0024】
(式(15)中、Arは、各々独立に、芳香環を表し、Rlは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基、あるいは、オキシメチレン基、又はこれらの2つ以上が連結した基を示し、Rm及びRnは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、iは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、各々独立に、1以上3以下の整数であり、jは、Arに対するRmの結合個数を示し、Arの置換可能基数から(i+2)を引いた数を示し、kは、Arに対するRnの結合個数を示し、Arの置換可能基数から2を引いた数を示し、lは、1以上の整数を示し、mは、1以上の整数を示し、各繰り返し単位の配列は任意である。)。
【0025】
【化7】
【0026】
(式(16)中、Arは、各々独立に、芳香環を示し、Roは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基、あるいは、オキシメチレン基、又はこれらの2つ以上が連結した基を示し、Rp及びRqは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、nは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、2以上3以下の整数であり、oは、Arに対するRpの結合個数を示し、Arの置換可能基数から(n+2)を引いた数を示し、pは、Arに対するRqの結合個数を示し、Arの置換可能基数から2を引いた数を示し、iは、1以上の整数を示す。)。
【0027】
[5]前記シアン酸エステル化合物が、下記式(17)で表される化合物である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のシアン酸エステル化合物。
【0028】
【化8】
【0029】
(式(17)中、nは、1以上50以下の整数を示す。)。
【0030】
[6]前記カルバメート基を1つ有する化合物が、下記式(18)で表される化合物である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のシアン酸エステル化合物。
【0031】
【化9】
【0032】
[7][1]~[6]のいずれか1つに記載のシアン酸エステル化合物の製造方法であって、ハロゲン化水素と、有機溶媒と、水と、を含む混合溶媒中で、ハロゲン化シアンとヒドロキシ置換芳香族化合物とを塩基性化合物の存在下で反応させて、シアネート化することにより前記シアン酸エステル化合物を含む反応液を得るシアネート化工程と、前記反応液から、前記ハロゲン化水素と、前記水と、を含む第1の水相と、前記シアン酸エステル化合物と、前記有機溶媒と、を含む第1の有機相とを、前記第1の有機相に前記第1の水相の一部が混入するように分液して、第2の水相と第2の有機相とを有する第1の溶液を得る工程と、前記第2の水相に水を供給して、前記第2の水相を希釈することで、第3の水相と第3の有機相とを有する第2の溶液を得る工程と、前記第2の溶液から、前記第3の水相と、前記第3の有機相とを、前記第3の有機相に前記第3の水相の一部が混入するように分液して、第4の水相と第4の有機相とを有する第3の溶液を得る工程と、を含み、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物の使用量に対する、前記第3の溶液における前記第4の有機相へのハロゲン化水素混入率が、1.00%以下である、製造方法。
【0033】
[8]前記シアネート化工程において、前記ハロゲン化シアンと、前記ハロゲン化水素と、前記水と、を含むハロゲン化シアン溶液と、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物と、前記塩基性化合物と、前記有機溶媒と、を含む溶液Aと、を接触させる、[7]に記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【0034】
[9]前記シアネート化工程において、前記ハロゲン化シアンと、前記ハロゲン化水素と、前記水と、を含むハロゲン化シアン溶液と、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物と、前記塩基性化合物と、前記有機溶媒と、を含む溶液Aと、を接触させて溶液Bを得た後、前記溶液Bに、前記塩基性化合物と、前記有機溶媒と、を含む溶液Cを注下させる、[7]又は[8]に記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【0035】
[10]前記シアネート化工程において、前記ハロゲン化シアンの原料仕込み量が、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物のヒドロキシ基1molに対して、0.5mol以上5.0mol以下である、[7]~[9]のいずれか1つに記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【0036】
[11]前記シアネート化工程において、前記混合溶媒における温度が5.0℃以下である、[7]に記載のシアン酸エステル化合物の製造方法。
【0037】
[12][1]~[6]のいずれか1つに記載のシアン酸エステル化合物を含む、樹脂組成物。
【0038】
[13][12]に記載の樹脂組成物を硬化させた、硬化物。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物及びその製造方法、樹脂組成物、並びに硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で、適宜に変形して実施できる。
【0041】
本実施形態において、「樹脂固形分」又は「樹脂組成物中の樹脂固形分」とは、特に断りのない限り、樹脂組成物における、充填材、添加剤(シランカップリング剤、湿潤分散剤、硬化促進剤、及びその他の成分)、並びに溶剤(溶媒)を除いた樹脂成分をいう。「樹脂固形分100質量部」又は「樹脂組成物中の樹脂固形分の合計100質量部」とは、樹脂組成物における、充填材、添加剤(シランカップリング剤、湿潤分散剤、硬化促進剤、及びその他の成分)、並びに溶剤(溶媒)を除いた樹脂成分の合計が100質量部であることをいう。
【0042】
本明細書において、置換基としては、特に限定されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、複素環基、直鎖状脂肪族炭化水素基、分岐状脂肪族炭化水素基、環状脂肪族炭化水素基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキロイルオキシ基、アリーロイルオキシ基、及びアルキルシリル基が挙げられる。これらの置換基の具体例は、例えば、本明細書に記載の基の例示を参照してもよい。
【0043】
[シアン酸エステル化合物]
本実施形態のシアン酸エステル化合物は、分子内に2個以上のシアナト基を有するシアン酸エステル化合物であって、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量がHPLC面積百分率で0.5面積%以下である。
【0044】
本実施形態によれば、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物、及びそのシアン酸エステル化合物を含む樹脂組成物を提供することができる。本実施形態のシアン酸エステル化合物及び樹脂組成物を用いることにより、硬化時における重合反応を好適に制御できるため、所望の用途に応じた特性を有する硬化物を製造しやすくなる。この理由について定かではないが、本発明者らは次のように推定している。
【0045】
即ち、カルバメート基を1つ有する化合物は、硬化時の加熱によりアミン化合物に分解する傾向にある。アミン化合物は、シアン酸エステル化合物の重合を促進するが、本実施形態のシアン酸エステル化合物は、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量を好適に制御しており、HPLC面積百分率で0.5面積%以下と抑制されている。そのため、硬化物製造時の重合反応を好適に制御することができる。
【0046】
それゆえ、本発明者らは、本実施形態によれば、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物、及びそのシアン酸エステル化合物を含む樹脂組成物を提供することができると推定している。ただし、理由はこれに限定されない。なお、本実施形態のシアン酸エステル化合物は、例えば、後記の製造方法を用いることで好適に得ることができる。
【0047】
硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量は、HPLC面積百分率で0.4面積%以下であることが好ましく、0.3面積%以下であることがより好ましく、0.2面積%以下であることが更に好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、HPLCの定量下限を考慮すると、通常0.001面積%以上である。
【0048】
カルバメート基を1つ有する化合物の含有量の測定方法は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて測定される。そのような測定方法としては、例えば、以下の条件により含有量を測定する方法が挙げられるが、具体的な測定方法は、実施例の記載を参照すればよい。
即ち、得られたシアン酸エステル化合物の含有量が50質量%の2-ブタノン溶液0.3gを100gのテトラヒドロフラン(溶媒)に溶解させて、溶液を得る。その溶液2.0μLを、高速液体クロマトグラフィーに注入し、分析を実施する。なお、測定条件としては、例えば、カラムとして、東ソー(株)製TSKgel ODS-120T(長さ25cm×内径4.6mm)を用い、移動相として、アセトニトリル/水(80/20体積比)を用い、流速は1.0mL/min.とし、検出波長は274nmとし、カラム温度は35℃とする。例えば、シアン酸エステル化合物が式(17)で表される化合物である場合、その条件において、保持時間(RT)が5.6分で観測されるピークを、式(18)で表されるカルバメート基を1つ有する化合物(モノカルバメート)由来のピークとして、そのピーク面積値から、シアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(モノカルバメート)の含有量を算出する。
【0049】
カルバメート基を1つ有する化合物としては、例えば、下記式(19)で表される基を有する化合物が挙げられる。
【0050】
【化10】
【0051】
式(19)中、Rは、有機基又は水素原子を示し、「-*」は結合部位を示す。
【0052】
有機基としては、例えば、1個以上の炭素原子を含有する基、又は有機化合物から1個の水素原子を除去して形成される基が挙げられる。そのような有機基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、及びアルキルカルボニルオキシ基が挙げられる。これらの基は、エーテル結合やカルボニル基を有していてもよい。
【0053】
本実施形態において、カルバメート基を1つ有する化合物は、分液工程の後工程において、シアン酸エステル化合物を含む溶液を加熱蒸留して溶媒を留去する際に生じる副生物である。カルバメート基を1つ有する化合物は、ハロゲン化水素などの酸の存在下での加熱により、シアン酸エステル化合物におけるシアナト基の水和反応が進行することでより多く生成する傾向にある。その水和反応により生成したカルバメート基を1つ有する化合物は、ヒドロキシ置換芳香族化合物のヒドロキシ基の1つが、カルバメート基に置換され、その他のヒドロキシル基がシアネート化された化合物である。その場合、上記結合部位は、シアン酸エステル化合物における芳香環と結合する。式(19)中の「-*-O」における酸素原子は、ヒドロキシ基における酸素原子である。ヒドロキシ置換芳香族化合物については、後述する。
【0054】
硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、式(19)中のRが水素原子であるカルバメート基を1つ有する化合物の含有量が、上記範囲にあることが好ましい。
【0055】
硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、カルバメート基を1つ有する化合物として下記式(18)で表される化合物の含有量が、上記範囲にあることがより好ましい。
【0056】
【化11】
【0057】
硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、シアン酸エステル化合物は、下記の式(1)で表される化合物、又は下記の式(2)で表される化合物であることが好ましく、式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0058】
(式(1)で表される化合物)
式(1)で表される化合物を下記に示す。
【0059】
【化12】
【0060】
式(1)中、Arは、各々独立に、芳香環を表し、Raは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、aは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、各々独立に、1以上3以下の整数であり、bは、Arに対するRaの結合個数を示し、各々独立に、Arの置換可能基数から(a+2)を引いた数を示し、cは、1以上50以下の整数であり、Xは、各々独立に、単結合、水素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい炭素数1以上50以下の2価の有機基、窒素数1以上10以下の2価の有機基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボニルジオキサイド基、スルホニル基、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子を示す。式(1)中のそれぞれの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0061】
式(1)中、Arは、各々独立に、芳香環を表す。Arが表す芳香環としては、例えば、フェニル基、及びナフチル基が挙げられる。硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、Arは、フェニル基が好ましい。
【0062】
Raは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示す。硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、Raは、水素原子、又は炭素数2以上6以下のアルケニル基が好ましい。
【0063】
炭素数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよい。
【0064】
炭素数2以上6以下のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、及びヘキセニル基が挙げられる。硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、炭素数2以上6以下のアルケニル基としては、炭素数2以上5以下のアルケニル基が好ましい。アルケニル基は、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよい。
【0065】
炭素数6以上20以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、及びナフチル基が挙げられる。
【0066】
炭素数1以上4以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及びブトキシ基が挙げられる。アルコキシ基は、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよい。
【0067】
aは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、各々独立に、1以上3以下の整数である。硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、aは、好ましくは1以上2以下の整数であり、より好ましくは1である。
【0068】
bは、Arに対するRaの結合個数を示し、各々独立に、Arの置換可能基数から(a+2)を引いた数を示す。
【0069】
cは、1以上50以下の整数である。硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、cは、好ましくは1以上10以下の整数であり、より好ましくは1以上5以下の整数であり、更に好ましくは1である。
【0070】
Xは、各々独立に、単結合、水素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい炭素数1以上50以下の2価の有機基、窒素数1以上10以下の2価の有機基(-N-R-N-、ここでRは有機基を示す)、カルボニル基(-CO-)、カルボキシ基(-C(=O)O-)、カルボニルジオキサイド基(-OC(=O)O-)、スルホニル基(-SO-)、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子を示す。
【0071】
水素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい炭素数1以上50以下の2価の有機基としては、例えば、式(3)乃至(14)で表される2価の基からなる群より選ばれる連結基が挙げられる。
【0072】
硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、式(1)で表される化合物におけるXは、各々独立に、
下記式(3):
【0073】
【化13】
【0074】
(式(3)中、Arは、各々独立に、芳香環を示し、Rc、Rd、Rg、及びRhは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、又は炭素数6以上12以下のアリール基を示し、Re及びRfは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、fは0以上5以下の整数を示す。)で表される炭素数1以上50以下の2価の有機基、
下記式(4):
【0075】
【化14】
【0076】
(式(4)中、Arは、各々独立に、芳香環を示し、Ri及びRjは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、gは0以上5以下の整数を示す。)で表される炭素数1以上50以下の2価の有機基、並びに、
下記式(5)乃至(14):
【0077】
【化15】
【0078】
(式(8)中、hは4以上7以下の整数を示し、式(13)中、Rkは、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を示す。)で表される2価の基からなる群より選ばれることが好ましい。
【0079】
式(3)及び(4)中、Ar及びArで表される芳香環としては、Arで例示したものと同様のものを例示することができる。式(3)及び(4)中、Rc、Rd、Rg、及びRhで表される、炭素数1以上6以下のアルキル基、又は炭素数6以上12以下のアリール基、並びにRe、Rf、Ri、及びRjで表される、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基としては、Raで例示したものと同様のものを例示することができる。式(3)及び(4)中のそれぞれの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0080】
式(1)で表される化合物としては、例えば、ビスフェノールA型シアネート、ビスフェノールE型シアネート、及びジアリルビスフェノールA型シアネートが挙げられる。
【0081】
硬化物製造時における重合反応をより制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造により好適に用いられることから、式(1)で表される化合物としては、下記式(15)で表される化合物が好ましい。
【0082】
【化16】
【0083】
式(15)中、Arは、各々独立に、芳香環を表し、Rlは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基、あるいは、オキシメチレン基、又はこれら2つ以上が連結した基を示し、Rm及びRnは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、iは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、各々独立に、1以上3以下の整数であり、jは、Arに対するRmの結合個数を示し、Arの置換可能基数から(i+2)を引いた数を示し、kは、Arに対するRnの結合個数を示し、Arの置換可能基数から2を引いた数を示し、lは1以上の整数を示し、mは1以上の整数を示し、各繰り返し単位の配列は任意である。式(15)中のそれぞれの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0084】
式(15)中、Arで表される芳香環としては、Arで例示したものと同様のものを例示することができる。式(15)中、Rm及びRnで表される、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、及び炭素数1以上4以下のアルコキシ基としては、Raで例示したものと同様のものを例示することができる。lは1以上の整数を表し、好ましくは1以上10以下の整数であり、より好ましくは1以上5以下の整数である。mは1以上の整数を表し、好ましくは1以上10以下の整数であり、より好ましくは1以上5以下の整数である。
【0085】
(式(2)で表される化合物)
式(2)で表される化合物を下記に示す。
【0086】
【化17】
【0087】
式(2)中、Arは芳香環を示し、Rbは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上12以下のアリール基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、dは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、2以上3以下の整数であり、eは、Arに対するRbの結合個数を示し、Arの置換可能基数から(d+2)を引いた数を示す。式(2)におけるそれぞれの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0088】
式(2)中、Arで表される芳香環としては、Arで例示したものと同様のものを例示することができる。式(2)中、Rbで表される、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上12以下のアリール基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基としては、Raで例示したものと同様のものを例示することができる。
【0089】
本実施形態のシアン酸エステル化合物としては、下記式(16)で表される化合物が好ましい。
【0090】
【化18】
【0091】
式(16)中、Arは、各々独立に、芳香環を示し、Roは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基、あるいは、オキシメチレン基、又はこれらの2つ以上が連結した基を示し、Rp及びRqは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、nは、Arに対するシアナト基の結合個数を示し、2以上3以下の整数であり、oは、Arに対するRpの結合個数を示し、Arの置換可能基数から(n+2)を引いた数を示し、pは、Arに対するRqの結合個数を示し、Arの置換可能基数から2を引いた数を示し、iは1以上の整数を示す。式(16)におけるそれぞれの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0092】
式(16)中、Arで表される芳香環としては、Arで例示したものと同様のものを例示することができる。式(16)中、Rp及びRqで表される、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、及び炭素数1以上4以下のアルコキシ基としては、Raで例示したものと同様のものを例示することができる。iは1以上の整数を示し、好ましくは1以上10以下の整数であり、より好ましくは1以上5以下の整数である。
【0093】
硬化物製造時における重合反応を更に制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に更に好適に用いられることから、式(1)で表される化合物としては、下記式(17)で表される化合物が好ましい。
【0094】
【化19】
【0095】
式(17)中、nは、1以上50以下の整数を示す。硬化物製造時における重合反応を更により制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に更により好適に用いられるシアン酸エステル化合物が得られることから、nは、1以上10以下の整数であることが好ましい。
【0096】
[シアン酸エステル化合物の製造方法]
本実施形態のシアン酸エステル化合物の製造方法は、ハロゲン化水素と、有機溶媒と、水と、を含む混合溶媒中で、ハロゲン化シアンとヒドロキシ置換芳香族化合物とを塩基性化合物の存在下で反応させて、シアネート化することによりシアン酸エステル化合物を含む反応液を得るシアネート化工程(以下、「シアネート化工程」とも称する)と、反応液から、ハロゲン化水素と、水と、を含む第1の水相(以下、「水相1」と称する)と、シアン酸エステル化合物と、有機溶媒と、を含む第1の有機相(以下、「有機相1」と称する)とを、有機相1に水相1の一部が混入するように分液して、第2の水相(以下、「水相2」と称する)と第2の有機相(以下、「有機相2」と称する)とを有する第1の溶液(以下、「溶液1」と称する)を得る工程(以下、「分液工程1」とも称する)と、水相2に水を供給して、水相2を希釈することで、第3の水相(以下、「水相3」と称する)と第3の有機相(以下、「有機相3」と称する)とを有する第2の溶液(以下、「溶液2」と称する)を得る工程(以下、「水相希釈工程」とも称する)と、溶液2から、水相3と、有機相3とを、有機相3に水相3の一部が混入するように分液して、第4の水相(以下、「水相4」と称する)と第4の有機相(以下、「有機相4」と称する)とを有する第3の溶液(以下、「溶液3」と称する)を得る工程(以下、「分液工程2」とも称する)と、を含み、ヒドロキシ置換芳香族化合物の使用量に対する、溶液3における有機相4へのハロゲン化水素混入率が、1.00%以下である。
【0097】
そのような特定の工程を経ることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量がHPLC面積百分率で0.5面積%以下であって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物を好ましく製造することができる。この理由について定かではないが、本発明者らは次のように推定している。
【0098】
即ち、本実施形態のシアン酸エステル化合物は、液相反応であるハロゲン化水素水共存法を用いて、脱塩剤として塩基性化合物の存在下にて、ハロゲン化シアンとヒドロキシ置換芳香族化合物とのシアネート化により得られる。ハロゲン化水素水共存法では、シアン酸エステル化合物を、分液にて有機相側に抽出することで得ているが、通常、実機スケールにてシアン酸エステル化合物を製造する場合、有機相と水相とを界面で分離することは困難である。そのため、分液する際に、水相の一部が有機相に混入する結果、水相中に含まれるハロゲン化水素も有機相に混入する。有機相にハロゲン化水素が存在すると、ハロゲン化水素が酸として作用し、分液工程後の加熱蒸留過程において、シアン酸エステル化合物におけるシアナト基の水和反応が引き起こされ、カルバメート基を1つ有する化合物が生成しやすくなる。
【0099】
そこで、本実施形態の製造方法では、シアネート化工程の後に、分液工程1と、水相希釈工程と、分液工程2とを含む。本実施形態では、分液工程の終了時に、有機相に混入している水相中のハロゲン化水素濃度を低減させることで、カルバメート基を1つ有する化合物の生成を抑制している。より詳しくは、本実施形態では、分液工程1において、有機相に、ハロゲン化水素を含む水相が一定量混入するが、水相希釈工程にて、水相中のハロゲン化水素濃度を低下させることにより、分液工程2において、有機相に混入する水相中のハロゲン化水素濃度を、分液工程1と比較して低減できる。その結果、ヒドロキシ置換芳香族化合物の使用量に対する、有機相へのハロゲン化水素混入率を1.00%以下に制御することが可能となる。そのため、有機相におけるハロゲン化水素の量を好適に低減でき、分液工程後の加熱蒸留過程において、シアン酸エステル化合物におけるシアナト基の水和反応を好適に抑制できる。それにより、カルバメート基を1つ有する化合物の副生を好適に抑制することができる。なお、分液工程において、有機相に水相の一部を混入させる本実施形態の製造方法は、水相に有機相を混入させてシアン酸エステル化合物を得る方法に比して、シアン酸エステル化合物をより多く回収できる。また、本実施形態の製造方法は、水相に有機相を混入させる方法に比して、水相中に混入する有機溶媒の量が少ない。そのため、本実施形態の製造方法は、排水規制の観点からも利点を有する。
【0100】
以上から、本発明者らは、本実施形態の製造方法によれば、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量がHPLC面積百分率で0.5面積%以下であって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物を好ましく製造できると推定している。ただし、理由はこれに限定されない。
【0101】
まず、シアン酸エステル化合物の製造方法における各工程について説明し、シアネート化工程等に供する各成分については後述する。
【0102】
〔シアネート化工程〕
シアン酸エステル化合物の製造方法は、ハロゲン化水素と、有機溶媒と、水と、を含む混合溶媒中で、ハロゲン化シアンとヒドロキシ置換芳香族化合物とを塩基性化合物の存在下で反応させて、シアネート化することによりシアン酸エステル化合物を含む反応液を得るシアネート化工程を含む。
【0103】
ハロゲン化シアンとヒドロキシ置換芳香族化合物とを塩基性化合物の存在下で反応させる方法としては、例えば、塩基性化合物の存在下で、ハロゲン化シアンとヒドロキシ置換芳香族化合物とを攪拌させることで両成分を接触させて、反応させる方法が挙げられる。
【0104】
シアネート化工程は、ハロゲン化シアンと、ハロゲン化水素と、水と、を含むハロゲン化シアン溶液(以下、「ハロゲン化シアン溶液」とも称する)と、ヒドロキシ置換芳香族化合物と、塩基性化合物と、有機溶媒と、を含む溶液A(以下、「溶液A」とも称する)と、を接触させ、反応させて、シアネート化することによりシアン酸エステル化合物を含む反応液を得るシアネート化工程であることが好ましい。シアネート化工程が、そのような特定の工程であることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造することができる。
【0105】
シアネート化工程において、混合溶媒及び反応液における温度は、好ましくは5.0℃以下であり、より好ましくは-20℃以上3.0℃以下であり、更に好ましくは-10℃以上2.0℃以下である。混合溶媒及び反応液の温度が上記範囲にあることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造することができる傾向にある。
【0106】
シアネート化工程において、容器内の圧力は、所望のシアン酸エステル化合物を含む反応液が得られる圧力であれば特に限定されない。また、必要に応じて、反応系内に窒素、ヘリウム、及びアルゴンなどの不活性ガスを通気してもよい。
【0107】
シアネート化工程において、ハロゲン化シアン溶液と、溶液Aと、を接触させる操作方法としては、半回分形式又は連続流通形式のいずれでも行うことができる。具体的には、接触操作方法としては、撹拌混合中のハロゲン化シアン溶液に溶液Aを滴下する方法(a)、撹拌混合中の溶液Aにハロゲン化シアン溶液を滴下する方法(b)、ハロゲン化シアン溶液の一部と溶液Aの一部とを、連続的又は断続的に、交互に又は同時に、反応容器に供給する方法(c)等が挙げられる。これらの方法では、適宜分割して滴下してもよい。例えば、方法(a)であれば、撹拌混合中のハロゲン化シアン溶液に溶液Aを分割して滴下する方法が挙げられる。なお、分割滴下の回数は、例えば、通常2回以上5回以下である。
【0108】
方法(a)乃至(c)の中でも、方法(a)が好ましい。接触操作方法として方法(a)を用いると、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造することができる。
【0109】
シアネート化工程において、反応時間は特に限定されないが、接触操作が方法(a)及び方法(b)の場合の滴下時間、並びに方法(c)の場合の接触時間として、好ましくは1分間以上20時間以下であり、より好ましくは3分間以上10時間以下である。さらに、その後10分間以上10時間以下で反応温度を保ちながら撹拌することが好ましい。反応時間が上記範囲内であることにより、目的とするシアン酸エステル化合物が経済的に、かつ工業的により効率よく得られる傾向にある。なお、攪拌方法は、上記を参照すればよい。
【0110】
攪拌方法としては、例えば、攪拌羽、スターラー、パドル、リボン、スクリュー、及びミキサー等の公知の攪拌機を使用して行う方法が挙げられる。攪拌時間は、上記の反応時間を参照すればよく、好ましくは1分間以上20時間以下であり、より好ましくは3分間以上10時間以下である。
【0111】
シアネート化工程では、ハロゲン化シアンと、ハロゲン化水素とを、水に溶解させたハロゲン化シアン溶液と、ヒドロキシ置換芳香族化合物と、塩基性化合物とを、有機溶媒に溶解させた溶液Aとを別々に工程に供して、シアネート化を行うことが好ましい。そのような工程を経ることで、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物を更に好ましく製造できる傾向にある。
【0112】
ハロゲン化シアン溶液において、ハロゲン化シアン及びハロゲン化水素の配合量は、それぞれ、後述のハロゲン化水素の使用量及びハロゲン化シアンの原料仕込み量を参照してもよい。水は、ハロゲン化水素を溶解できる量であることが好ましい。ハロゲン化シアン溶液は、有機溶媒を含んでもよい。ハロゲン化シアン溶液に含まれる有機溶媒は、溶液Aに含まれる有機溶媒と同一の成分であっても異なる成分であっていてもよいが、同一の成分であることが好ましい。ハロゲン化シアン溶液が有機溶媒を含む場合、その有機溶媒に対する水の質量比(水/有機溶媒)は、特に限定されないが、好ましくは1/100~100/1であり、より好ましくは1/10~10/1であり、さらに好ましくは1/5~5/1である。
【0113】
溶液Aにおいて、塩基性化合物の含有量は、後述の塩基性化合物の使用量を参照してもよい。有機溶媒の含有量は、塩基性化合物及びヒドロキシ置換芳香族化合物を溶解できる量であることが好ましい。有機溶媒の含有量は、通常、溶液Aの100質量%に対して、50質量%以上90質量%以下である。
【0114】
溶液Aにおいて、塩基性化合物の含有量は、ヒドロキシ置換芳香族化合物のヒドロキシル基1molに対して、0.1mol以上8mol以下であることが好ましく、0.5mol以上3mol以下であることがより好ましい。塩基性化合物とヒドロキシ置換芳香族化合物との含有量が上記範囲内であることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造できる傾向にある。
【0115】
シアネート化工程は、ハロゲン化シアンと、ハロゲン化水素と、水と、を含むハロゲン化シアン溶液と、ヒドロキシ置換芳香族化合物と、塩基性化合物と、有機溶媒と、を含む溶液Aと、を接触させて、シアネート化することによりシアン酸エステル化合物を含む溶液Bを得た後、その溶液Bに、塩基性化合物と、有機溶媒と、を含む溶液C(以下、「溶液C」とも称する)を注下させて、反応液を得る工程であることがより好ましい。溶液Bを得た後に、その溶液Bに溶液Cを加えることで、高純度のシアン酸エステル化合物を高収率で得ることができる傾向にある。なお、反応液は、溶液Bに溶液Cを注下させて溶液Dを得た後、その溶液Dを攪拌して反応を完結させることで得てもよい。
【0116】
溶液Cに含まれる塩基性化合物及び有機溶媒は、それぞれ、溶液Aに含まれる塩基性化合物及び有機溶媒と同一の成分であっても異なる成分であっていてもよいが、同一の成分であることが好ましい。溶液Cに含まれる有機溶媒は、ハロゲン化シアン溶液に含まれる有機溶媒と同一の成分であっても異なる成分であっていてもよいが、同一の成分であることが好ましい。シアネート化工程が、そのような特定の工程であることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物を更に好ましく製造することができる。
【0117】
溶液Cにおいて、塩基性化合物の配合量は、ヒドロキシ置換芳香族化合物のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは0.05mol以上2.5mol以下であり、より好ましくは0.1mol以上2.3mol以下である。塩基性化合物の使用量が上記範囲内であることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物を、高収率で更に好ましく製造できる傾向にある。
【0118】
溶液Cにおいて、有機溶媒は、塩基性化合物を溶解できる量であることが好ましい。有機溶媒の含有量は、通常、溶液Cの100質量%に対して、50質量%以上90質量%以下である。
【0119】
溶液Bに溶液Cを加える際の温度は、上記の混合溶媒及び反応液の温度を参照すればよい。高純度のシアン酸エステル化合物を高収率で得られる傾向にあることから、溶液Bに溶液Cを加える際の温度は、上記の混合溶媒及び反応液の温度と同じ温度であることが好ましい。
【0120】
溶液Bに溶液Cを加える際の圧力は、所望の溶液が得られる圧力であれば特に限定されない。また、必要に応じて、系内に窒素、ヘリウム、及びアルゴンなどの不活性ガスを通気してもよい。
【0121】
溶液Cを溶液Bへ添加する時間は、好ましくは1分間以上20時間以下であり、より好ましくは1.5分間以上10時間以下である。更に、その後10分間以上10時間以下で、溶液Bに溶液Cを加える際の温度と同じ温度を保ちながら撹拌することが好ましい。溶液Cを溶液Bへ添加する時間が上記範囲内であることにより、目的とするシアン酸エステル化合物が経済的に、かつ工業的により効率よく得られる傾向にある。
【0122】
〔分液工程1〕
シアン酸エステル化合物の製造方法は、反応液から、ハロゲン化水素と、水と、を含む水相1と、シアン酸エステル化合物と、有機溶媒と、を含む有機相1とを、有機相1に水相1の一部が混入するように分液して、水相2と有機相2とを有する溶液1を得る工程を含む。
【0123】
有機相1への水相1の混入量は、特に限定されないが、有機相1の100質量部に対して、通常、水相1の水を1.0質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。
【0124】
分液方法としては、例えば、分液工程1において、有機相1に水相1の一部が混入するように分液し、有機相1を水相1から分液できる方法が挙げられる。そのような分液方法としては、例えば、実験室レベルであれば分液ロートや、実機レベルであれば釜などの容器を用いて、上層の水相1と、下相の有機相1とを分ける方法、及びポンプを用いて水相1を除去する方法、並びにこれらの方法を適宜組み合わせる方法が挙げられる。
【0125】
分液工程1における温度は、好ましくは15℃以上40℃以下であり、より好ましくは20℃以上37℃以下であり、更に好ましくは25℃以上35℃以下である。分液工程1における温度は、水相希釈工程及び分液工程2における温度と、それぞれ同じであっても異なってもよい。
【0126】
分液工程1における圧力は、所望の溶液が得られる圧力であれば特に限定されない。また、必要に応じて、系内に窒素、ヘリウム、及びアルゴンなどの不活性ガスを通気してもよい。
【0127】
〔水相希釈工程〕
シアン酸エステル化合物の製造方法は、水相2に水を供給して、水相2を希釈することで、水相3と有機相3とを有する溶液2を得る工程を含む。分液工程1で得られた溶液1における水相2に水を供給することで、有機相2に混入する水相2中のハロゲン化水素を希釈することが可能となる。
【0128】
水相2への水の供給量は、特に限定されないが、水相2の100質量部に対して、通常、水を50質量部以上400質量部以下であることが好ましい。水相2への水の供給量が上記範囲であると、有機相2に混入する水相2中のハロゲン化水素をより十分に希釈することができる傾向にある。
【0129】
水を供給する方法としては、分液において、水を供給する公知の方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、実験室レベルであれば分液ロートの上部から水を供給する方法や、実機レベルであればポンプなどを用いて釜などの容器に水を供給する方法、並びにこれらの方法を適宜組み合わせる方法が挙げられる。
【0130】
水相希釈工程における温度は、好ましくは15℃以上40℃以下であり、より好ましくは20℃以上37℃以下であり、更に好ましくは25℃以上35℃以下である。
【0131】
水相希釈工程における圧力は、所望の溶液が得られる圧力であれば特に限定されない。また、必要に応じて、系内に窒素、ヘリウム、及びアルゴンなどの不活性ガスを通気してもよい。
【0132】
なお、水としては、下記のシアネート化工程に供する水を参照すればよい。
【0133】
水相希釈工程の後に、有機相と水相とを攪拌及び混合して、水相3と有機相3とを有する溶液2を得ることが好ましい。攪拌方法としては、上記を参照してもよい。
【0134】
〔分液工程2〕
シアン酸エステル化合物の製造方法は、溶液2から、水相3と、有機相3とを、有機相3に水相3の一部が混入するように分液して、水相4と有機相4とを有する溶液3を得る工程を含む。
【0135】
有機相3への水相3の混入量は、特に限定されないが、有機相3の100質量部に対して、通常、水相3の水を1.0質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。
【0136】
分液方法、分液工程2における温度、及び分液工程2における圧力については、上記の分液工程1を参照できる。
【0137】
〔ハロゲン化水素混入率〕
本実施形態の製造方法では、ヒドロキシ置換芳香族化合物の使用量に対する、溶液3における有機相4へのハロゲン化水素混入率が、1.00%以下である。ハロゲン化水素混入率の具体的な算出方法は、実施例の記載を参照すればよい。
【0138】
本実施形態の製造方法によれば、有機相へのハロゲン化水素が低減された溶液を得ることが可能となる。そのため、分液工程後の加熱蒸留過程において、シアン酸エステル化合物におけるシアナト基の水和反応を好適に抑制でき、カルバメート基を1つ有する化合物の副生を好適に抑制することができる。
【0139】
ハロゲン化水素混入率は、0.01%以上0.95%以下であることが好ましく、0.01%以上0.90%以下であることがより好ましい。
【0140】
〔その他の工程〕
分液工程2の後には、通常の後処理操作、並びに、所望により分離操作及び/又は精製操作を行うことにより、目的とするシアン酸エステル化合物を単離することができる。具体的には、シアン酸エステル化合物を含む有機相4と水相4とを含む溶液3を加熱蒸留することで、ハロゲン化シアンと、有機溶媒とを留去させる。その後、更に有機溶媒を加え、水洗及び濃縮することで、目的物であるシアン酸エステル化合物を沈殿化又は晶析化させることができる。あるいは、水洗及び濃縮後に、有機相中の溶媒をシアン酸エステル化合物が不溶又は難溶である溶媒に置換することによりシアン酸エステル化合物を沈殿化又は晶析化させることもできる。洗浄の際には、過剰のアミン類を除去するため、薄い塩酸などの酸性水溶液を用いてもよい。また、充分に洗浄された有機相から水分を除去するために、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムなどを用いる一般的な方法により乾燥操作をすることもできる。
【0141】
また、濃縮及び溶媒置換の際には、シアン酸エステル化合物の重合をより好適に抑えるため、減圧下、かつ、90℃以下の温度にて、加熱して有機溶媒を留去することが好ましい。沈殿化又は晶析化は、シアン酸エステル化合物に対する溶解度の低い溶媒を、シアン酸エステル化合物を含む溶液中に滴下することや、シアン酸エステル化合物を含む溶液を、シアン酸エステル化合物に対する溶解度の低い溶媒中に滴下することで行うことができる。シアン酸エステル化合物に対する溶解度の低い溶媒としては、例えば、エーテル系溶媒;ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アルコール系溶媒が挙げられる。
【0142】
得られた粗生成物を洗浄するために、反応液の濃縮物や、沈殿又は晶析した結晶をシアン酸エステル化合物に対する溶解度の低い溶媒を用いて洗浄してもよい。反応液を濃縮して得られた結晶を再度溶解させた後、再結晶させることもできる。晶析する場合は、反応液を単純に濃縮又は冷却してもよい。
【0143】
得られたシアン酸エステル化合物の純度は、例えば、液体クロマトグラフィー、又はFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)等で分析することができる。シアン酸エステル化合物中のジアルキルシアノアミド等の副生物や残存溶媒等の揮発成分については、ガスクロマトグラフィーで定量分析することができる。シアン酸エステル化合物中に残存するハロゲン化物については、液体クロマトグラフ-質量分析計で同定することができ、硝酸銀溶液を用いた電位差滴定又は燃焼法による分解後イオンクロマトグラフィーで定量分析することができる。シアン酸エステル化合物の重合反応性は、熱板法又はトルク計測法によるゲル化時間で評価することができる。
【0144】
次に、シアネート化工程に供する各成分について説明する。
【0145】
(ハロゲン化水素)
シアネート化工程において、ハロゲン化水素は、pHの調整、及び不純物の副生を抑制するために用いられる。
【0146】
シアネート化工程において、反応液のpHは、好ましくは7.0未満であり、より好ましくは6.5以下であり、更に好ましくは6.0以下である。反応液のpHは、適宜pHメーターでpHを測定しながら調整してもよい。その際に用いる酸としては、ハロゲン化水素の他に、例えば、硝酸、硫酸、及び燐酸等の無機酸、酢酸、乳酸、及びプロピオン酸等の有機酸を用いてもよい。
【0147】
ハロゲン化水素としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、及びヨウ化水素が挙げられる。ハロゲン化水素は、フッ酸、及び塩酸などの酸性水溶液であってもよい。これらのハロゲン化水素は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0148】
カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造することができることから、ハロゲン化水素としては、塩酸が好ましい。ハロゲン化水素が塩酸の場合、反応液中において、その濃度は、例えば、1.0%以上10%以下であることが好ましい。そのような濃度の塩酸を用いると、高純度のシアン酸エステルが得られる傾向にある。
【0149】
ハロゲン化水素の使用量は、ヒドロキシ置換芳香族化合物のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは0.5mol以上5.0mol以下であり、より好ましくは1.0mol以上3.5mol以下である。ハロゲン化水素の使用量が上記範囲内であることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造できる傾向にある。
【0150】
(有機溶媒)
溶液A、C、及びハロゲン化シアン溶液で用いられる有機溶媒としては、水と非混和性で、シアネート化反応に不活性なものであれば一般的に公知のものを用いることができる。そのような有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、及びブロモベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、及びイソオクタンなどの脂肪族系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンなどの芳香族系溶媒;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロぺンタノン、及びメチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、及びテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、及び安息香酸エチル等のエステル系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、有機溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、及びトリクロロエタンなどの炭素数1個以上2個以下のハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましい。
【0151】
本実施形態では、本発明の効果を奏する限り、有機溶媒として、例えば、水と混和する溶媒などの上記以外の有機溶媒を、上記の有機溶媒に混合して用いてもよい。そのような有機溶媒としては、例えば、アセトン、ジメチルセルソルブ、ジグライム、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、ジメチルスルホキシド、及びアセトニトリルが挙げられる。
【0152】
(水)
水としては、例えば、水道水、蒸留水、及び脱イオン水が挙げられる。これらの中でも、効率よく目的とするシアン酸エステル化合物を得る観点から、不純物の少ない蒸留水や脱イオン水を使用することが好ましい。
【0153】
シアネート化工程に用いられる溶媒の総量、即ち、溶液A、C、及びハロゲン化シアン溶液で用いられる有機溶媒と水との合計量は、ヒドロキシ置換芳香族化合物1質量部に対し、好ましくは1.0質量部以上200質量部以下であり、より好ましくは1.5質量部以上150質量部以下であり、更に好ましくは2.5質量部以上100質量部以下である。溶媒の総量が上記範囲内であることにより、ヒドロキシ置換芳香族化合物を均一に溶解させ、シアン酸エステル化合物の製造効率がより向上する傾向にある。
【0154】
(ハロゲン化シアン)
シアネート化工程において、ハロゲン化シアンは、ヒドロキシ置換芳香族化合物のシアネート化のために用いられる。
【0155】
ハロゲン化シアンとしては、例えば、フッ化シアン、塩化シアン、臭化シアン、及びヨウ化シアンが挙げられる。カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造することができることから、ハロゲン化シアンとしては、塩化シアンが好ましい。
【0156】
ハロゲン化シアンの原料仕込み量は、ヒドロキシ置換芳香族化合物のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは0.5mol以上5mol以下であり、より好ましくは1.0mol以上3.5mol以下である。ハロゲン化シアンの使用量が上記範囲内であることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造できる傾向にある。
【0157】
(ヒドロキシ置換芳香族化合物)
ヒドロキシ置換芳香族化合物としては、例えば、フェノール性ヒドロキシ基を少なくとも1個有する芳香族化合物が挙げられる。そのようなヒドロキシ置換芳香族化合物としては、例えば、ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂、及び式(27)で表される化合物等が挙げられる。式(27)で表される化合物としては、(27a)1-ナフトールアラルキル樹脂、(27b)アダマンタン構造を有するフェノール樹脂、(27c)これらの(27a)及び(27b)以外の化合物(以下、「その他のヒドロキシ置換芳香族化合物」とも称する)が挙げられる。これらのヒドロキシ置換芳香族化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0158】
・ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂
ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂としては、例えば、ナフタレン環がオキシ基を介して他のナフタレン環と結合したポリナフチレンエーテル構造と、ナフタレン環にフェノール性ヒドロキシ基と、を有するものが挙げられる。1分子あたりのナフタレン環の総数は、好ましくは2以上8以下である。ポリナフチレンエーテル構造を有することにより、シアン酸エステルにより得られる硬化物の燃焼時においてチャー(炭化残渣)の形成が促進され、優れた難燃性を発現すると共に、耐熱性も良好となる。
【0159】
ナフタレン環1つ当たりに結合するオキシ基の数は、1個以上3個以下であることが好ましく、ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂の流動性の観点から2個がより好ましい。このとき、ナフタレン環上のオキシ基の結合位置が、1,3位、1,6位、1,7位、1,8位、2,3位、又は2,7位であることが好ましい。この中でも、製造が容易である観点から、ナフタレン環上のオキシ基の結合位置が、1,6位、又は2,7位であることがより好ましく、流動性と難燃性とのバランスに優れる観点から、2,7位であることが更に好ましい。また、ナフタレン環はオキシ基の他のナフタレン環上の置換基に関しては、難燃効果の観点から、当該置換基を有していないことが好ましい。
【0160】
ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂は、複数のナフタレン環が直接結合を形成した分子構造を有していてもよい。
【0161】
ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂としては、例えば、下記式(21)で表される化合物、及び特許4259536号公報に開示されている下記式(23)乃至(26)で表される化合物からなる群より選ばれる1つ以上が挙げられる。ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂としては、市販品も用いてもよく、そのようは市販品としては、例えば、DIC(株)のEXB-6000が挙げられる。
【0162】
【化20】
【0163】
式(21)中、Rは、各々独立に、水素原子、ベンジル基等のアリール基及びアルキル基、又は下記式(22)で表される基であり、nは1以上20以下の整数であり、より好ましくは1以上10以下の整数である。式(21)中のそれぞれの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0164】
【化21】
【0165】
式(22)中、Arは、各々独立に、フェニレン基及びナフチレン基等のアリール基であり、mは1又は2の整数である。
【0166】
【化22】
【0167】
【化23】
【0168】
【化24】
【0169】
【化25】
【0170】
ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂は、脱水縮合反応により得ることができる。脱水縮合反応は、シアネート化工程前に、フェノール性ヒドロキシ基を1分子中に2つ以上有する多価ヒドロキシナフタレン化合物を、塩基性触媒の存在下に脱水縮合反応させて、ヒドロキシ置換芳香族化合物を得る反応である。得られるヒドロキシ置換芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン環が酸素原子(以下、「オキシ基」とも称する)を介して他のナフタレン環と結合した構造(以下、「ポリナフチレンエーテル構造」とも称する)を有するフェノール樹脂が挙げられる。
【0171】
脱水縮合反応で用いる多価ヒドロキシナフタレン化合物としては、例えば、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、及び2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン;1,2,3-トリヒドロキシナフタレン等のトリヒドロキシナフタレン;これら化合物の芳香環に炭素数1以上4の以下アルキル基又はフェニル基を置換基として有する化合物が挙げられる。これらの多価ヒドロキシナフタレン化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0172】
脱水縮合反応で用いる塩基性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;トリフェニルホスフィン等のリン系化合物が挙げられる。これらの塩基性触媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0173】
塩基性触媒の使用量は、その種類や目標とする反応率などにより、適宜選択することができる。例えば、塩基性触媒としてアルカリ金属水酸化物を用いる場合、塩基性触媒の使用量は、多価ヒドロキシナフタレン化合物のフェノール性ヒドロキシ基1molに対して、好ましくは0.01mol以上0.5mol以下であり、より好ましくは0.01mol以上0.1mol以下である。
【0174】
脱水縮合反応は、用いる多価ヒドロキシナフタレン化合物に応じて、無溶媒下又は溶媒存在下で行うことができる。無溶媒下で行うことにより、溶剤回収工程などが不必要となる。また、溶媒存在下で行うことにより、均一な反応液を形成しやすくなるため、反応が安定的に進行しやすくなる傾向にある。
【0175】
脱水縮合反応において用いる溶媒としては、例えば、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、及びアミルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びポリエチレングリコール等のエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及びジエチレングリコールジプロピルエーテル等のエチレングリコールやジエチレングリコールのモノ又はジエーテル;クロロベンゼン、及びニトロベンゼン等が挙げられる。また、これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような溶媒を使用することにより、脱水縮合反応中における多価ヒドロキシナフタレン化合物の塩の析出が防止され、安定的にポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂を得ることができる。
【0176】
脱水縮合反応の反応温度は、好ましくは100℃以上300℃以下であり、より好ましくは150℃以上250℃以下である。反応時間も、上記反応温度条件を維持できる範囲であることが好ましく、通常1分間以上10時間以下である。脱水縮合反応において、反応を速やかに進行させ生産性をより向上させる観点から、脱水縮合反応に伴い反応中で生成する水を系外に分留管等を用いて留去することが好ましい。
【0177】
脱水縮合反応終了後は、生成物をそのまま固形化してポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂を取り出すか、あるいは生成物中の触媒を、中和処理、水洗処理、又は分解することで除去し、抽出又は蒸留などの一般的な操作により、ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂を分離することができる。中和処理や水洗処理は常法に従って行えばよく、例えば、塩酸、シュウ酸、酢酸、第一リン酸ソーダ、及び炭酸ガス等の酸性物質を用いることができる。
【0178】
このようにして得られたポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂は、そのまま各種用途に使用することができるが、必要に応じて、蒸留やカラム処理、アルカリ水溶液抽出等の分別操作を加え、未反応物である多価ヒドロキシナフタレン化合物の含有量を低減させてもよいし、各生成物を単一の成分に単離してもよい。
【0179】
・式(27)で表される化合物
次に、下記式(27)で表される化合物について説明する。
【0180】
【化26】
【0181】
式(27)中、Arは、各々独立に、フェニレン基、ナフチレン基、又はビフェニレン基を示し、Raは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基を示し、lは、Arに対するヒドロキシ基の結合個数を示し、各々独立に、1以上3以下の整数であり、mは、Arに対するRaの結合個数を示し、各々独立に、Arの置換可能基数から(a+2)を引いた数を示し、即ち、Arがフェニレン基のときは4-lの整数であり、ナフチレン基のときは6-lの整数であり、ビフェニレン基のときは8-lの整数であり、nは、0以上50以下の整数であり、Xは、各々独立に、単結合、水素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい炭素数1以上50以下の2価の有機基、窒素数1以上10以下の2価の有機基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボニルジオキサイド基、スルホニル基、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子を示す。ただし、式(27)中、nが0の場合、lは2以上3以下の整数である。また、式(27)中のそれぞれの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0182】
Arは、各々独立に、任意の位置の水素原子がRa基及びヒドロキシ基で置換された、フェニレン基、ナフチレン基、又はビフェニレン基を表す。これらの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0183】
式(27)中、Ra及びXとしては、式(1)におけるRa及びXで例示したものと同様のものを例示することができ、繰り返し数l、m、及びnについては、それぞれ式(1)におけるa、b、及びcを参照してよい。
【0184】
式(27)中のXとしては、下記式(28)で表される炭素数1以上50以下の2価の有機基、並びに下記式(28a)、(28b)、(28c)、(28d)、(28e)、(28f)、(28g)、(28h)、(28i)、及び(28j)で表される2価の基からなる群より選ばれることが好ましい。
【0185】
【化27】
【0186】
式(28)中、Arは、各々独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基を示し、Rb、Rc、Rf、及びRgは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、又は炭素数6以上12以下のアリール基を示し、Rd及びReは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、又はヒドロキシ基を示し、pは0以上5以下の整数を示す。式(28)中のそれぞれの基は、各々置換基を有していてもよい。
【0187】
【化28】
【0188】
式(28d)中、qは4以上7以下の整数を示し、式(28i)中、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を示す。
【0189】
式(28)のArは、各々独立に、フェニレン基、ナフチレン基、又はビフェニレン基を表す。Arとしては、例えば、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、2,6-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、1,6-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、1,3-ナフチレン基、1,4-ナフチレン基、4,4’-ビフェニレン基、2,4’-ビフェニレン基、2,2’-ビフェニレン基、2,3’-ビフェニレン基、3,3’-ビフェニレン基、及び3,4’-ビフェニレン基が挙げられる。
【0190】
式(28)のRb、Rc、Rd、Re、Rf、及びRgは、それぞれ、式(3)におけるRc、Rd、Re、Rf、Rg、及びRhで例示したもと同様のものを例示することができる。
【0191】
・(27a)1-ナフトールアラルキル樹脂
1-ナフトールアラルキル樹脂としては、例えば、ヒドロキシ基を有したナフタレン環と、ベンゼン環がアルキル基を介して結合した構造を有するものが挙げられる。そのような1-ナフトールアラルキル樹脂としては、例えば、式(27)においてArがナフチレン基であり、Xが式(28)で示され、Arがフェニレン基であるものが挙げられる。1-ナフトールアラルキル樹脂としては、下記式(29)で表される化合物が好ましい。式(29)で表される化合物において、ベンゼン環に結合する2つのメチレン基は、オルト位、メタ位、又はパラ位に結合することができる。この中でも、ベンゼン環に結合する2つのメチレン基がベンゼン環のメタ位及び/又はパラ位に結合していることが好ましい。そのような1-ナフトールアラルキル樹脂を用いることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造できる傾向にある。
【0192】
【化29】
【0193】
式(29)中、nは1以上50以下の整数であり、好ましくは1以上10以下の整数である。
【0194】
1-ナフトールアラルキル樹脂は、例えば、公知の方法により、Ar-(CHY)で表されるようなビスハロゲノメチル化合物とナフトール化合物とを酸性触媒もしくは無触媒で反応させたもの、Ar-(CHOR)で表されるようなビス(アルコキシメチル)化合物やAr-(CHOH)で表されるようなビス(ヒドロキシメチル)化合物とナフトール化合物とを酸性触媒の存在下に反応させて、得ることができる。ここで、Yは、ハロゲン原子である。また、Rは、アルキル基である。Arは、式(28)で述べたものと同様である。
【0195】
1-ナフトールアラルキル樹脂としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、SN4シリーズフェノール樹脂(商品名、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)が挙げられる。
【0196】
・(27b)アダマンタン構造を有するフェノール樹脂
アダマンタン構造を有するフェノール樹脂としては、例えば、ヒドロキシ基を有した芳香環と、アダマンチル基が結合した構造を有するものが挙げられる。そのようなフェノール樹脂としては、例えば、式(27)において、Xが式(28i)で表される基であるものが挙げられる。具体的には、下記式(30)で表される化合物が挙げられる。そのような化合物を用いることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物をより好ましく製造できる傾向にある。
【0197】
【化30】
【0198】
式(30)中、Arは、各々独立に、フェニレン基、ナフチレン基、又はビフェニレン基を表し、Rは、式(28i)中のRと同様であり、Raは、式(27)中のRaと同様であり、lはArに結合するヒドロキシ基の数を表し、1以上3以下の整数であり、mはArに結合するRaの数を表し、Arがフェニレン基のときは5-lの整数であり、ナフチレン基のときは7-lの整数であり、ビフェニレン基のときは9-lの整数である。
【0199】
そのようなアダマンタン構造を有するフェノール樹脂としては、例えば、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-メチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-エチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-エチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジイソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジ-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-エチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジエチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジイソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-シヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジ-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-エチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジエチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジイソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジ-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-エチルアダマンタン、
【0200】
1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジエチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジイソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジ-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-エチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジエチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジイソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジ-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-メチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-エチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-エチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジエチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-プロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-イソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジイソプロピルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-メチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-エチル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-プロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-イソプロピル-7-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(4-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジ-t-ブチルアダマンタン、1,3-ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)-アダマンタンが挙げられる。
【0201】
・(27c)その他のヒドロキシ置換芳香族化合物
式(27)で表される化合物のうち、1-ナフトールアラルキル樹脂及びアダマンタン構造を有するフェノール樹脂以外のその他のヒドロキシ置換芳香族化合物としては、例えば、2,3-,2,4-,2,5-,2,6-,3,4-又は3,5-キシレノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、2-tert-ブチルヒドロキノン、2,4-ジメチルヒドロキノン、テトラメチルヒドロキノン、2,4,6-トリメチルレゾルシノール、3,5-ジヒドロキシトルエン、2,2’-ジヒドロキシ-1,1'-ビナフチル、1,3-,1,4-,1,5-,1,6-,1,7-,2,3-,2,6-又は2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2’-又は4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシオクタフルオロビフェニル、2,2’-又は4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(2-ヒドロキシ-5-ビフェニルイル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)イソブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジメチルプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルヘキサン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジメチルペンタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジメチルヘキサン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,4-ジメチルヘキサン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2,4-トリメチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ビフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン、1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4-[ビス(4-ヒドロキシフェニル)メチル]ビフェニル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロペン-1-オン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、4-ヒドロキシ安息香酸-4-ヒドロキシフェニルエステル(4-ヒドロキシフェニル-4-ヒドロキシベンゾエート)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)カーボネート、フェノールフタレイン、o-クレゾールフタレイン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-ヒドロキシ-5-ビフェニルイル)フルオレン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,3-トリス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、α,α,α'-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’,4’’,4’’’-メタンテトライルテトラキスフェノール、2,4,6-トリス(N-メチル-4-ヒドロキシアニリノ)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(N-メチル-4-ヒドロキシアニリノ)-6-(N-メチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ビス(N-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-4,4’-オキシジフタルイミド、ビス(N-3-ヒドロキシ-4-メチルフェニル)-4,4’-オキシジフタルイミド、ビス(N-4-ヒドロキシフェニル)-4,4’-オキシジフタルイミド、ビス(N-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタルイミド、トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2-フェニル-3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2-(4-メチルフェニル)-3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2-フェニル-3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フタルイミジン、1-メチル-3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)インドリン-2-オン、2-フェニル-3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)インドリン-2-オン、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、フェノール変性キシレンホルムアルデヒド樹脂、及びフェノール変性ジシクロペンタジエン樹脂などが挙げられる。
【0202】
フェノールノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂としては、例えば、公知の方法により、フェノール、アルキル置換フェノール、又はハロゲン置換フェノールと、ホルマリンやパラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒド化合物とを、酸性溶液中で反応させたものが挙げられる。
【0203】
フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、及びビフェニルアラルキル樹脂としては、例えば、公知の方法により、Ar-(CHY)で表されるようなビスハロゲノメチル化合物とフェノール化合物とを酸性触媒もしくは無触媒で反応させたもの、Ar-(CHOR)で表されるようなビス(アルコキシメチル)化合物やAr-(CHOH)で表されるようなビス(ヒドロキシメチル)化合物とフェノール化合物とを酸性触媒の存在下に反応させたものが挙げられる。ここで、Yは、ハロゲン原子である。また、Rは、アルキル基である。Arは、式(28)で述べたものと同様である。
【0204】
フェノール変性キシレンホルムアルデヒド樹脂としては、例えば、公知の方法により、キシレンホルムアルデヒド樹脂とフェノール化合物とを酸性触媒の存在下に反応させたものが挙げられる。
【0205】
(塩基性化合物)
シアネート化工程において、溶液A及びCで用いられる塩基性化合物は、ハロゲン化シアンと、ヒドロキシ置換芳香族化合物とのシアネート化における脱塩剤として用いられる。そのような塩基性化合物としては、例えば、有機塩基、及び無機塩基が挙げられる。なお、塩基性化合物は、固体状態で用いても、溶液状態で用いてもよい。
【0206】
有機塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリアミルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチル-n-ブチルアミン、メチルジ-n-ブチルアミン、メチルエチル-n-ブチルアミン、ドデシルジメチルアミン、トリベンジルアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ジフェニルメチルアミン、ピリジン、ジエチルシクロヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、及び1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン等の3級アミンが好ましい。この中でも、塩基性化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、及びジイソプロピルエチルアミンからなる群より選ばれる1つ以上がより好ましく、トリエチルアミンが更に好ましい。それらの塩基性化合物を用いることで、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物を、高収率でより好ましく製造できる傾向にある。
【0207】
無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましい。この中でも、安価に入手できる観点から、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0208】
シアネート化工程において、溶液A及びCで用いられる塩基性化合物の使用量(合計量)は、ヒドロキシ置換芳香族化合物のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは0.1mol以上8.0mol以下であり、より好ましくは1.0mol以上6.0mol以下である。塩基性化合物の使用量が上記範囲内であることにより、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量が上記範囲にあって、硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物を、高収率で更に好ましく製造できる傾向にある。
【0209】
シアネート化工程において、塩基性化合物は、水又は有機溶媒に溶解させた溶液として用いることができるが、塩基性化合物が有機塩基の場合には有機溶媒を用いることが好ましく、塩基性化合物が無機塩基の場合には水を用いることが好ましい。
【0210】
塩基性化合物を含む溶液がヒドロキシ置換芳香族化合物を含む場合、塩基性化合物を含む溶液中の溶媒の含有量は、ヒドロキシ置換芳香族化合物1質量部に対して、好ましくは0.10質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは0.10質量部以上80質量部以下である。なお、この塩基性化合物を含む溶液は、例えば、シアネート化工程における溶液Aになる。
【0211】
塩基性化合物を含む溶液がヒドロキシ置換芳香族化合物を含まない場合、塩基性化合物を含む溶液中の溶媒の含有量は、塩基性化合物1質量部に対して、好ましくは0.10質量部以上100質量部以下である。なお、この塩基性化合物を含む溶液は、例えば、シアネート化工程における溶液Cになる。
【0212】
なお、有機溶媒及び水の例示については、上記を参照してもよい。
有機溶媒としては、水と非混和性で、シアネート化反応に不活性なものであることが好ましい。水と非混和性の有機溶媒を用いることによって、シアネート化工程の終点において、有機溶媒及び水混合系である反応液からシアン酸エステル化合物を含む有機溶媒層を分取することができ、シアン酸エステル化合物の分離を行うことができる。
【0213】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態のシアン酸エステル化合物を含む。
シアン酸エステル化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0214】
シアン酸エステル化合物の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上100質量部以下である。シアン酸エステル化合物の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性、低誘電、及び低誘電正接等により優れる傾向にある。
【0215】
樹脂組成物は、必要に応じて、本実施形態のシアン酸エステル化合物以外のシアン酸エステル化合物(以下、「他のシアン酸エステル化合物」とも称する)、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、マレイミド化合物、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン化合物、重合可能な不飽和基を有する化合物、及び充填材からなる群より選択される1種以上を更に含んでもよい。樹脂組成物は、上記構成を有することにより、難燃性、低吸水性、吸湿耐熱性、耐熱性、低熱膨張性、低誘電性、及び低誘電正接等に優れる硬化物を得ることができる。
【0216】
(エポキシ樹脂)
樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含んでもよい。樹脂組成物がエポキシ樹脂を含むことにより、接着性、吸湿耐熱性、及び可撓性等により優れる傾向にある。
エポキシ樹脂としては、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば、一般に公知のものを用いることができる。その具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、キシレンノボラック型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、3官能フェノール型エポキシ樹脂、4官能フェノール型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、グリシジルアミン、ブタジエンなどの二重結合をエポキシ化した化合物、水酸基含有シリコーン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物、あるいはこれらのハロゲン化物等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0217】
これらのなかでも、エポキシ樹脂が、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。樹脂組成物がそのようなエポキシ樹脂を含むことにより、得られる硬化物の難燃性及び耐熱性がより向上する傾向にある。
【0218】
エポキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.0質量部以上99質量部以下であり、より好ましくは1.0質量部以上90質量部以下である。エポキシ樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、接着性や可撓性等により優れる傾向にある。
【0219】
(オキセタン樹脂)
樹脂組成物は、オキセタン樹脂を含んでもよい。樹脂組成物がオキセタン樹脂を含むことにより、接着性や可撓性等により優れる傾向にある。
オキセタン樹脂としては、一般に公知のものを使用できる。その具体例としては、オキセタン、2-メチルオキセタン、2,2-ジメチルオキセタン、3-メチルオキセタン、3,3-ジメチルオキセタン等のアルキルオキセタン、3-メチル-3-メトキシメチルオキセタン、3,3’-ジ(トリフルオロメチル)パーフルオキセタン、2-クロロメチルオキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、ビフェニル型オキセタン、OXT-101(東亞合成製商品名)、及びOXT-121(東亞合成製商品名)等が挙げられる。これらのオキセタン樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0220】
オキセタン樹脂の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.0質量部以上99質量部以下であり、より好ましくは1.0質量部以上90質量部以下である。オキセタン樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、密着性や可撓性等により優れる傾向にある。
【0221】
(マレイミド化合物)
樹脂組成物は、マレイミド化合物を含んでもよい。樹脂組成物がマレイミド化合物を含むことにより、耐熱性、吸湿耐熱性、及び靱性等により優れる傾向にある。
マレイミド化合物としては、1分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば、一般に公知のものを使用できる。その具体例としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、フェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル)プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ポリフェニルメタンマレイミド、及びこれらマレイミド化合物のプレポリマー、もしくはマレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマー等が挙げられる。これらのマレイミド化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0222】
マレイミド化合物の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.0質量部以上99質量部以下であり、より好ましくは1.0質量部以上90質量部以下である。マレイミド化合物の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性等により優れる傾向にある。
【0223】
(フェノール樹脂)
樹脂組成物は、フェノール樹脂を含んでもよい。樹脂組成物がフェノール樹脂を含むことにより、接着性や可撓性等により優れる傾向にある。
フェノール樹脂としては、1分子中に2個以上のヒドロキシ基を有するフェノール樹脂であれば、一般に公知のものを使用できる。その具体例としては、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールE型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂、ビスフェノールS型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック型フェノール樹脂、アラルキルノボラック型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、多官能フェノール樹脂、ナフトール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、多官能ナフトール樹脂、アントラセン型フェノール樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環骨格含有フェノール樹脂、リン含有フェノール樹脂、水酸基変性シリコーン樹脂類等が挙げられる。これらのフェノール樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0224】
フェノール樹脂の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.0質量部以上99質量部以下であり、より好ましくは1.0質量部以上90質量部以下である。フェノール樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、接着性や可撓性等により優れる傾向にある。
【0225】
(ベンゾオキサジン化合物)
樹脂組成物は、ベンゾオキサジン化合物を含んでもよい。樹脂組成物がベンゾオキサジン化合物を含むことにより、難燃性、耐熱性、低吸水性、及び低誘電等により優れる傾向にある。
ベンゾオキサジン化合物としては、1分子中に2個以上のジヒドロベンゾオキサジン環を有する化合物であれば、一般に公知のものを用いることができる。その具体例としては、ビスフェノールA型ベンゾオキサジンBA-BXZ(小西化学製商品名)ビスフェノールF型ベンゾオキサジンBF-BXZ(小西化学製商品名)、及びビスフェノールS型ベンゾオキサジンBS-BXZ(小西化学製商品名)等が挙げられる。これらのベンゾオキサジン化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0226】
ベンゾオキサジン化合物の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.0質量部以上99質量部以下であり、より好ましくは1.0質量部以上90質量部以下である。ベンゾオキサジン化合物の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性等により優れる傾向にある。
【0227】
(重合可能な不飽和基を有する化合物)
樹脂組成物は、重合可能な不飽和基を有する化合物を含んでもよい。樹脂組成物が重合可能な不飽和基を有する化合物を含むことにより、耐熱性や靱性等により優れる傾向にある。
重合可能な不飽和基を有する化合物としては、一般に公知のものを使用できる。その具体例としては、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル等のビニル化合物;メチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の1価又は多価アルコールの(メタ)アクリレート類;ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート類;ベンゾシクロブテン樹脂等が挙げられる。これらの重合可能な不飽和基を有する化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0228】
重合可能な不飽和基を有する化合物の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.0質量部以上99質量部以下であり、より好ましくは1.0質量部以上90質量部以下である。重合可能な不飽和基を有する化合物の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性や靱性等により優れる傾向にある。
【0229】
(充填材)
樹脂組成物は、充填材を含んでもよい。樹脂組成物が充填材を含むことにより、難燃性、低熱膨張性、高熱伝導性、及び靱性等により優れる傾向にある。
充填材としては、無機充填材、及び有機充填材が挙げられる。これらの充填材は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0230】
無機充填材としては、一般に公知のものを使用できる。その具体例としては、カオリン、焼成カオリン、タルク、焼成タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、Eガラス、Aガラス、NEガラス、Cガラス、Lガラス、Dガラス、Sガラス、MガラスG20、ガラス短繊維(Eガラス、Tガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラスなどのガラス微粉末類を含む。)、中空ガラス、球状ガラス等のケイ酸塩;ホワイトカーボン(湿式シリカ)、天然シリカ、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、アエロジル、中空シリカ等のシリカ類;酸化チタン、アルミナ、ベーマイト、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩又は亜硫酸塩;ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩;窒化アルミニウム、窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素等の窒化物;チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩;錫酸亜鉛等の錫酸塩;酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン化合物が挙げられる。これらの無機充填材は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0231】
有機充填材としては、例えば、スチレン型パウダー、ブタジエン型パウダー、アクリル型パウダーなどのゴムパウダー;コアシェル型ゴムパウダー;シリコーンレジンパウダー;シリコーンゴムパウダー;シリコーン複合パウダーなどが挙げられる。これらの有機充填材は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0232】
充填材は、シランカップリング剤や湿潤分散剤を併用して用いてもよい。また、樹脂組成物は、シランカップリング剤及び湿潤分散剤らなる群より選ばれる1種以上を含んでもよい。
【0233】
シランカップリング剤としては、一般に無機物又は有機物の表面処理に使用されているものを好適に用いることができる。その具体例としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシランなどのアミノシラン系、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系、γ-メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニル-トリ(β-メトキシエトキシ)シランなどのビニルシラン系、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系、フェニルシラン系などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0234】
湿潤分散剤としては、一般に塗料用に使用されているものを好適に用いることができる。好ましくは、共重合体ベースの湿潤分散剤が使用される。その具体例としては、ビックケミー・ジャパン(株)製のDisperbyk(登録商標)-110、111、161、180(以上、商品名)、BYK(登録商標)-W996、BYK-W9010、BYK-W903、BYK-W940(以上、商品名)などが挙げられる。これらの湿潤分散剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0235】
充填材の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.0質量部以上1600質量部以下であり、より好ましくは50質量部以上1600質量部以下である。充填材の含有量が上記範囲内であることにより、難燃性、低熱膨張性、及び靱性等により優れる傾向にある。
【0236】
(重合触媒及び硬化促進剤)
樹脂組成物には、上記した化合物乃至樹脂に加えて、更に、重合触媒、及び/又は硬化速度を適宜調整するための硬化促進剤を配合してもよい。
重合触媒及び硬化促進剤としては、一般に公知のものを使用できる。その具体例としては、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、アセチルアセトン鉄、オクチル酸ニッケル、オクチル酸マンガン等の有機金属塩類;フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等のフェノール化合物;1-ブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール類;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;これらのイミダゾール類のカルボン酸もしくはその酸無水類の付加体等の誘導体;ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物;ホスフィン系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、ホスホニウム系化合物、ダイホスフィン系化合物等のリン化合物;エポキシ-イミダゾールアダクト系化合物、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシカーボネート等の過酸化物;及びアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらの重合触媒及び硬化促進剤は、市販品を用いてもよく、そのような市販品としては、例えば、アミキュア(登録商標)PN-23(商品名、味の素ファインテクノ社製)、ノバキュア(登録商標)HX-3721(商品名、旭化成(株)社製)、フジキュアー(登録商標)FX-1000(商品名、富士化成工業(株)社製)が挙げられる。これらの重合触媒及び硬化促進剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0237】
重合触媒及び硬化促進剤の含有量は、樹脂の硬化度や樹脂組成物の粘度等を考慮して適宜調整できるが、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、それぞれ、通常0.005質量部以上10質量部以下である。
【0238】
(その他の添加剤)
樹脂組成物には、必要に応じて、上記した化合物乃至樹脂、並びに重合触媒及び硬化速度以外の添加剤を配合してもよい。
そのような添加剤としては、例えば、上記した化合物乃至樹脂以外の他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びそのオリゴマー、エラストマー類などの種々の高分子化合物、着色顔料、消泡剤、表面調整剤、難燃剤、溶媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤、及び重合禁止剤等の公知の添加剤を含有していてもよい。これら添加剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0239】
添加剤の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、それぞれ、通常0.005質量部以上10質量部以下である。
【0240】
(有機溶媒)
樹脂組成物には、必要に応じて、有機溶媒を含んでもよい。この場合、樹脂組成物は、上述した各種樹脂成分の少なくとも一部、好ましくは全部が有機溶媒に溶解あるいは相溶した態様(溶液あるいはワニス)として用いることができる。
【0241】
有機溶媒としては、上述した各種樹脂成分の少なくとも一部、好ましくは全部を溶解あるいは相溶可能なものであれば、一般に公知のものを使用できる。その具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ系溶媒;乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、ヒドロキシイソ酪酸メチル等のエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類などの極性溶剤類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶媒;トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系炭化水素等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0242】
樹脂組成物は、本実施形態のシアン酸エステル化合物、並びに必要に応じて、その他の成分を、有機溶媒と共に、公知のミキサー、例えば、高速ミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、ニーダー、インテンシブミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、スタティックミキサー等を用いて混合することにより得ることができる。混合の際の、シアン酸エステル化合物、各種添加剤、及び溶媒の添加方法は、特に限定されない。
【0243】
〔用途〕
本実施形態のシアン酸エステル化合物、及び樹脂組成物は、例えば、硬化物、プリプレグ、積層板、金属箔張積層板、多層版、封止用材料、繊維強化複合材料、接着剤、樹脂複合シート、フィルム、プリント配線板に好適に用いられる。また、シアン酸エステル化合物、及び樹脂組成物は、例えば、低熱膨張性、難燃性、及び耐熱性を有するため、高機能性高分子材料として有用である。また、シアン酸エステル化合物、及び樹脂組成物は、例えば、熱的、電気的、及び機械物性に優れた材料として用いることができる。そのような材料としては、電気絶縁材料、封止用材料、接着剤、積層材料、レジスト、ビルドアップ積層板材料のほか、土木・建築、電気・電子、自動車、鉄道、船舶、航空機、スポーツ用品、美術・工芸などの分野における固定材、構造部材、補強剤、型どり材等が挙げられる。これらの中でも、低熱膨張性、耐熱性、及び高度の機械強度が要求される、電気絶縁材料、半導体封止用材料、電子部品の接着剤、航空機構造部材、衛星構造部材及び鉄道車両構造部材に好適である。
【0244】
〔硬化物〕
本実施形態の硬化物は、本実施形態の樹脂組成物を硬化させてなる。
硬化物の製造方法としては、例えば、樹脂組成物を溶融又は溶媒に溶解させた後、型内に流し込み、熱や光などを用いて通常の条件で硬化させることにより得ることができる。熱硬化の場合、硬化温度は、硬化が効率的に進み、かつ得られる硬化物の劣化を防止する観点から、120℃以上300℃以下の範囲内であることが好ましい。光硬化の場合、光の波長領域は、例えば、光重合開始剤等により効率的に硬化が進む100nm以上500nm以下の範囲で硬化させることが好ましい。
【0245】
〔プリプレグ〕
プリプレグは、基材と、該基材に含浸又は塗布された本実施形態の樹脂組成物と、を有する。プリプレグは、プリント配線板の絶縁層、及び半導体パッケージ用材料として用いることができる。
【0246】
(基材)
基材としては、プリプレグに要求される性能、例えば、強度、吸水率、及び熱膨張係数等に応じて、一般的に公知のものを適宜選択して用いることができる。その具体例としては、ガラス繊維基材、合成繊維基材、有機繊維基材、及び無機繊維基材が挙げられる。ガラス繊維基材を構成するガラス繊維としては、例えば、Aガラス、Cガラス、Dガラス、Eガラス、Hガラス、Lガラス、NEガラス、Qガラス、Sガラス、Tガラス、UNガラス、及び球状ガラスが挙げられる。合成繊維基材を構成する合成繊維としては、例えば、ポリアミド樹脂繊維、芳香族ポリアミド樹脂繊維、全芳香族ポリアミド樹脂繊維等のポリアミド系樹脂繊維;ポリエステル樹脂繊維、芳香族ポリエステル樹脂繊維、全芳香族ポリエステル樹脂繊維等のポリエステル系樹脂繊維;ポリイミド樹脂繊維;フッ素樹脂繊維等が挙げられる。有機繊維基材としては、例えば、クラフト紙、コットンリンター紙、リンターとクラフトパルプの混抄紙等を主成分とする紙基材が挙げられる。無機繊維基材を構成する無機繊維としては、例えば、クォーツなどのガラス以外の無機繊維が挙げられる。基材の形状としては、例えば、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェンシングマットなどが挙げられる。基材は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、基材の厚みは、積層板用途であれば0.01mm以上0.2mm以下の範囲が好ましい。基材が上記厚みの範囲にあると、開繊処理や目詰め処理を施した織布が、寸法安定性の観点から好適となる。更に、エポキシシラン処理、アミノシラン処理などのシランカップリング剤などで表面処理したガラス織布は、吸湿耐熱性の観点から好ましい。また、液晶ポリエステル織布は、電気特性の面から好ましい。
【0247】
プリプレグを製造する方法としては、一般に公知の方法を適宜適用できる。例えば、樹脂組成物を用いて樹脂ワニスを調製し、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法、各種コーターにより樹脂ワニスを基材に塗布する方法、スプレーにより樹脂ワニスを基材に吹き付ける方法等を適用して、プリプレグを製造することができる。この中でも、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、基材に対する樹脂組成物の含浸性を向上させることができる。なお、基材を樹脂ワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布設備を使用することができる。例えば、含浸塗布設備を使用して、樹脂ワニスを無機及び/又は有機繊維基材に含浸させて120℃以上220℃以下で、2分間以上15分間以下程度で乾燥し、Bステージ化してプリプレグを製造する方法等が適用できる。このとき、基材に対する樹脂組成物の付着量、すなわち半硬化後のプリプレグの総量(100質量%)に対する樹脂組成物量(充填材を含む。)は、20質量%以上99質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0248】
〔積層板〕
積層板は、プリプレグを少なくとも1枚以上含む層と、該層の片面又は両面に積層された金属箔と、を有する。
積層板の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用できる。そのような製造方法としては、例えば、プリプレグと金属箔とを積層し、加熱加圧成形することで積層板を得ることができる。このとき、加熱する温度は、65℃以上300℃以下が好ましく、120℃以上270℃以下がより好ましい。また、加圧する圧力は、2.0MPa以上5.0MPa以下が好ましく、2.5MPa以上4.0MPa以下がより好ましい。積層板は、金属箔張積層板及び多層板として使用することもできる。
【0249】
〔金属箔張積層板〕
金属箔張積層板は、プリプレグを少なくとも1枚以上重ね、その片面もしくは両面に金属箔を配して積層成形したものである。具体的には、プリプレグを一枚あるいは複数枚重ね、その片面もしくは両面に銅やアルミニウムなどの金属箔を配置して、積層成形することにより作製することができる。金属箔は、プリント配線板材料に用いられているものが挙げられる。そのような金属箔としては、圧延銅箔や電解銅箔等の銅箔が好ましい。また、金属箔の厚みは、2.0μm以上70μm以下が好ましく、3.0μm以上35μm以下がより好ましい。成形条件としては、通常のプリント配線板用積層板及び多層板の手法が適用できる。例えば、多段プレス機、多段真空プレス機、連続成形機、オートクレーブ成形機などを使用し、温度180℃以上350℃以下で、加熱時間100分間以上300分間以下で、面圧20kg/cm以上100kg/cm以下で、積層成形することにより金属箔張積層板を製造することができる。
【0250】
〔多層板〕
多層版は、プリプレグと、別途作製した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することで得られる。
多層板の製造方法としては、例えば、プリプレグ1枚の両面に35μmの銅箔を配置し、上記条件にて積層形成した後、内層回路を形成し、この回路に黒化処理を実施して内層回路板を形成する。その後、この内層回路板と上記のプリプレグとを交互に1枚ずつ配置し、更に最外層に銅箔を配置して、上記条件にて、好ましくは真空下で積層成形することにより、作製することができる。
【0251】
〔封止用材料〕
封止用材料は、樹脂組成物を含む。
封止用材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用できる。そのような製造方法としては、例えば、樹脂組成物と、封止用材料の用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤、あるいは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合する方法が挙げられる。なお、混合の際の、シアン酸エステル化合物、各種添加剤、溶媒の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用できる。
【0252】
〔繊維強化複合材料〕
繊維強化複合材料は、樹脂組成物と、強化繊維とを含む。
強化繊維としては、一般的に公知のものを用いることができる。その具体例としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維などが挙げられる。強化繊維の形態や配列については、例えば、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップドから適宜選択できる。強化繊維の形態としては、プリフォーム(強化繊維からなる織物基布を積層したもの、又はこれをステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物や編組物などの繊維構造物)を適用することもできる。
【0253】
繊維強化複合材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用できる。その具体例としては、リキッド・コンポジット・モールディング法、レジン・フィルム・インフュージョン法、フィラメント・ワインディング法、ハンド・レイアップ法、プルトルージョン法等が挙げられる。これらの中でも、リキッド・コンポジット・モールディング法の一つであるレジン・トランスファー・モールディング法は、金属板、フォームコア、ハニカムコア等、プリフォーム以外の素材を成形型内に予めセットしておくことができることから、種々の用途に対応可能である。そのため、比較的、形状が複雑な複合材料を短時間で大量生産する場合に好ましく用いられる。
【0254】
〔接着剤〕
接着剤は、本実施形態の樹脂組成物を含む。
接着剤の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用できる。そのような製造方法としては、例えば、樹脂組成物と、接着剤用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤、あるいは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合する方法が挙げられる。なお、混合の際の、シアン酸エステル化合物、各種添加剤、溶媒の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用できる。
【0255】
〔樹脂複合シート〕
樹脂複合シートは、支持体と、該支持体の表面に配された樹脂層と、を含み、樹脂層が、本実施形態の樹脂組成物を含む。樹脂複合シートは、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を支持体に塗布し乾燥することで得ることもできる。
支持体としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム、並びにこれらのフィルムの表面に離型剤を塗布した離型フィルム、ポリイミドフィルム等の有機系のフィルム基材、銅箔、アルミ箔等の導体箔、ガラス板、SUS板、FRP等の板状のものが挙げられる。塗布方法としては、例えば、樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、バーコーター、ダイコーター、ドクターブレード、ベーカーアプリケーター等で支持体上に塗布する方法が挙げられる。また、乾燥後に、積層シートから支持体を剥離又はエッチングすることで、単層シート(樹脂シート)とすることもできる。なお、樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、シート状のキャビティを有する金型内に供給し乾燥する等してシート状に成形することで、支持体を用いることなく単層シート(樹脂シート)を得ることもできる。
【0256】
単層あるいは積層シートの作製において、溶剤を除去する際の乾燥条件は、低温であると樹脂組成物中に溶剤が残りやすく、高温であると樹脂組成物の硬化が進行することから、20℃以上200℃以下の温度で、1分間以上90分間以下であることが好ましい。単層あるいは積層シートの樹脂層の厚みは、樹脂組成物の溶液の濃度と塗布厚みにより調整することができるが、一般的には塗布厚みが厚くなると乾燥時に溶剤が残りやすくなることから、0.1μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0257】
〔フィルム〕
フィルムは、樹脂組成物をシート状に成形してなる。
このようなフィルムは、例えば、ビルドアップ用フィルム又はドライフィルムソルダーレジストとして用いることができる。フィルムの製造方法としては、例えば、基材として剥離可能なプラスチックフィルムを用いて樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液をプラスチックフィルムに塗布し乾燥する方法が挙げられる。溶剤は20℃以上150℃以下の温度で、1分間以上90分間以下加熱することで乾燥することができる。フィルムは、樹脂組成物から溶剤を乾燥しただけの未硬化の状態で使用することもできるし、必要に応じて、半硬化(Bステージ化)の状態にして使用することもできる。
【0258】
〔プリント配線板〕
プリント配線板は、絶縁層と、該絶縁層の表面に形成された導体層と、を含み、絶縁層が、樹脂組成物を含む。即ち、絶縁層が、本実施形態の樹脂組成物を含む絶縁層から構成されることが好ましい。
【0259】
金属箔張積層板は、プリント配線板として好適に使用することができる。プリント配線板は、常法にしたがって製造することができる。以下、プリント配線板の製造方法の一例を示す。まず、銅張積層板等の金属箔張積層板を用意する。次に、金属箔張積層板の表面にエッチング処理を施して内層回路の形成を行い、内層基板を作製する。この内層基板の内層回路表面に、必要に応じて接着強度を高めるための表面処理を行い、次いでその内層回路表面にプリプレグを所要枚数重ね、更にその外側に外層回路用の金属箔を積層し、加熱加圧して一体成形する。このようにして、内層回路と外層回路用の金属箔との間に、基材及び樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された多層の積層板が製造される。次いで、この多層の積層板にスルーホールやバイアホール用の穴あけ加工を施した後、この穴の壁面に内層回路と外層回路用の金属箔とを導通させるめっき金属皮膜を形成し、さらに外層回路用の金属箔にエッチング処理を施して外層回路を形成することで、プリント配線板が製造される。
【実施例
【0260】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【0261】
〔算出及び測定方法〕
(1)ハロゲン化水素混入率(塩酸混入率)
実施例及び比較例において、1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量に対する、分液工程後の溶液3における有機相(ジクロロメタン相)への塩酸混入率(%)を、下記のようにして算出した。
【0262】
即ち、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸量(1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対するmol比)A(mol比)は、系全体(本反応)で使用した全てのトリエチルアミンの量(1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対するmol比)をB(mol比)とし、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対するシアネート化に使用されたトリエチルアミンの量を1.2mol比とし、反応前に仕込んだ塩酸量(1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対するmol比)をC(mol比)として、式(i)で定義した。
A=C-(B-1.2)…(i)
【0263】
シアネート化は、ジクロロメタン相中で、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基を塩化シアンとトリエチルアミンとによる脱塩反応により進行し、トリエチルアミンは、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.2mol比が必要となる。一方、水相中では、塩酸とトリエチルアミンとの中和反応も進行するため、系全体(本反応)で使用した全てのトリエチルアミンは、シアネート化反応と中和反応との両反応で消費されたことになる。よって、水相において、塩酸との中和反応で消費されたトリエチルアミン(1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対するmol比)は、系全体(本反応)で使用した全てのトリエチルアミンの量(B-1.2)であり、中和反応後に残った塩酸量、即ち反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸量A(1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対するmol比)は、式(i)であるC-(B-1.2)と定義できる。
【0264】
反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸濃度D(%)は、1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量をE(g)とし、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基当量をF(g/eq.)とし、反応後(分液前)の反応液1における水相の質量をG(g)として、式(ii)で定義した。
D=[〔{A×(E/F)}×36.46〕/G]×100…(ii)
【0265】
系全体(本反応)で使用したヒドロキシ基の量(mol)は、(E/F)で表されるから、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸量(mol)は、{A×(E/F)}となる。これに塩酸の分子量36.46(g/mol)を掛けた〔{A×(E/F)}×36.46〕が、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸量(g)となる。この式を反応後(分液前)の反応液1における水相の質量G(g)で除した百分率(%)である、[〔{A×(E/F)}×36.46〕/G]×100が、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸濃度D(%)を表す式(ii)で定義できる。
【0266】
反応液1の後処理は、以下のとおりである。反応液1を静置して、下相の有機相(ジクロロメタン相)を釜底部から抜き、別の釜に移すことで、反応液1を水相1とジクロロメタン相1とに分液する(分液1)。その際、反応液1の上相の水相1の一定量を、反応液1のジクロロメタン相1に混入させて、水相1の混入に由来する水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1を得る。溶液1の水相2に水の一定量を更に加え、撹拌及び混合し、水相2中の塩酸を希釈することで、水相2の希釈に由来する水相3とジクロロメタン相3とを有する溶液2を得る。溶液2を静置して、下相のジクロロメタン相を釜底部から抜き、別の釜に移すことで、溶液2を分液する(分液2)。その際、溶液2の上相の水相3の一定量を、溶液2のジクロロメタン相3に混入させて、水相3の混入に由来する水相4とジクロロメタン相4とを有する溶液3を得る。
【0267】
1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量に対する、分液2後の溶液3におけるジクロロメタン相4への塩酸混入率H(%)は、溶液1の水相2希釈後の溶液2における水相3への希釈倍率をIとし、分液2における溶液2の上相の水相3の混入量[溶液3における水相4に相当]をJ(g)として、下記式(iii)で定義した。
H=D/I×J/E…(iii)
【0268】
シアネート化反応完結後、反応液1を静置して、反応液1の下相のジクロロメタン相を釜底部から抜き、別の釜に移す際、反応液1の上相の水相1のj(g)を混入させた。分液1後の溶液1における水相2に水のK(g)を更に加え、撹拌及び混合して、水相2中の塩酸を希釈した。溶液1の水相2希釈後の溶液2における水相3への希釈倍率Iは、下記式(iv)で定義した。なお、比較例1~3では、水相2に水のK(g)を加えていないため、Kを0(g)とした。
I={j+K}/j…(iv)
尚、反応液1の上相の水相1の混入量j(g)[溶液1における水相2に相当]と、分液2における溶液2の上相の水相3の混入量J(g)[溶液3における水相4に相当]とは、等しい。
【0269】
(2)カルバメート基を1つ有する化合物の含有量
実施例及び比較例で得られたシアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(モノカルバメート)の含有量(面積%)を、下記のようにして測定した。
即ち、シアン酸エステル化合物の含有量が50質量%の2-ブタノン溶液0.3gを100gのテトラヒドロフラン(溶媒)に溶解させて、溶液を得た。その溶液2.0μLを、高速液体クロマトグラフィー((株)日立ハイテク社、高速液体クロマトグラフChromaster(商品名))に注入し、分析を実施した。なお、カラムは東ソー(株)製TSKgel ODS-120T(長さ25cm×内径4.6mm)を用い、移動相はアセトニトリル/水(80/20体積比)を用い、流速は1.0mL/min.とし、検出波長は274nmとし、カラム温度は35℃とした。保持時間(RT)が5.6分のピークにおいて、そのピーク面積値から、シアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(モノカルバメート)の含有量を算出した。
【0270】
(3)ピークトップ温度
実施例及び比較例で得られたシアン酸エステル化合物について、その発熱ピークの温度(ピークトップ温度、℃)を、下記のようにして測定した。
まず、前処理として、シアン酸エステル化合物が50質量%の2-ブタノン溶液5.0gを減圧下で濃縮し、更に、70℃で1時間濃縮乾固させることでシアン酸エステル化合物を2.7g得た。示差走査熱量計((株)エスアイアイ・ナノテクノロジー社、DSC7020(商品名))を用いて、開始温度40℃、終了温度380℃、昇温速度3.0℃/分の測定条件にて、得られたシアン酸エステル化合物の発熱挙動を観察することで、ピークトップ温度(単位:℃)を測定した。なお、ピークトップ温度が高いほど、重合反応を制御しやすいことを示す。
【0271】
〔実施例1〕
ヒドロキシ置換芳香族化合物として1-ナフトールアラルキル樹脂(SN495V、商品名、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)700g(ヒドロキシ基当量:233g/eq.、ヒドロキシ基換算:3.01mol)と、塩基性化合物としてトリエチルアミン406.0g(4.01mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.35molとなる量)とを、有機溶媒としてジクロロメタン4200gに溶液温度0℃を保持したまま溶解させ、これを溶液Aとした。
【0272】
ハロゲン化シアンとして塩化シアン295.6g(4.81mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.60mol)と、有機溶媒としてジクロロメタン689.7gと、ハロゲン化水素として36%の塩酸487.0g(4.81mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.60mol)と、水3019.6gとの混合液(ハロゲン化シアン溶液)を、撹拌下、液温-5~1℃に保ちながら、その混合液に、上記で得られた溶液Aを70分間かけて注下し、溶液Bを得た。その後、液温-5~1℃に保ちながら、溶液Bを5分間更に撹拌した後、その溶液Bに、液温-5~1℃に保ちながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン273.7g(2.71mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して0.90mol)を有機溶媒としてジクロロメタン273.7gに溶解させた溶液Cを15分間かけて注下し、溶液Dを得た。その後、液温-5~1℃に保ちながら、30分間更に溶液Dを撹拌することで反応を完結させ、反応液1を得た。反応液1における水相(上相)側のpHをpHメーター(IQ Scientific Instruments社、IQ150(商品名))で測定したところ、0.9であった。
【0273】
その後、反応液1を静置して、下相の有機相(ジクロロメタン相)6055gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、反応液1を水相1とジクロロメタン相1とに分液した(分液1)。その際、反応液1の上相の水相1の605gを、反応液1のジクロロメタン相1に混入させて、水相1の混入に由来する水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1を得た。溶液1の水相2に水1000gを更に加え、撹拌及び混合し、水相2中の塩酸を希釈することで、水相2の希釈に由来する水相3とジクロロメタン相3とを有する溶液2を得た。溶液2を静置して、下相のジクロロメタン相の6055gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、溶液2を分液した(分液2)。その際、溶液2の上相の水相3の605gを、溶液2のジクロロメタン相3に混入させて、水相3の混入に由来する水相4とジクロロメタン相4とを有する溶液3を得た。
【0274】
反応後(分液前)の反応液1における水相の質量Gは4739gであり、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸濃度Dは1.27%であった。分液1における混入水相量jは605gであり、溶液1の水相2希釈後の溶液2における水相3への希釈倍率Iは2.7であった。分液2における溶液2の上相の水相3の混入量J(溶液3における水相4に相当)は605gであった。1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量に対する、分液2後の溶液3におけるジクロロメタン相4への塩酸混入率Hは、0.41%であった。
【0275】
得られた溶液3を加熱蒸留して、ボトム液温が最高温度の46℃にて、塩化シアンとジクロロメタンとを留去させた後、留去質量分の新たなジクロロメタンを基質へ追加し、溶液4を得た。その後、溶液4を水2000gで5回洗浄し、溶液5を得た。なお、水洗5回目の廃水の電気伝導度を、ポータブルEC計(HI8733N、商品名、ハンナインスツルメンツ社製)により測定したところ、その電気伝導度は10μS/cmであった。その電気伝導度の値から、水による洗浄により、イオン性化合物は十分に除去できており、溶液5中のイオン性化合物の含有量は、十分に少ないことを確認した。
【0276】
溶液5のジクロロメタン相を減圧下で濃縮し、2-ブタノン溶液への溶媒置換を5回行うことで、目的とするシアン酸エステル化合物(式(17)で表される化合物)が50質量%の2-ブタノン溶液1442gを得た。
得られたシアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(式(18)で表される化合物)の含有量は、HPLC面積百分率で0.09面積%であり、ピークトップ温度は277℃であった。これらの結果を表1に示す。
【0277】
〔実施例2〕
ヒドロキシ置換芳香族化合物として1-ナフトールアラルキル樹脂(SN495V、商品名、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)700g(ヒドロキシ基当量:236g/eq.、ヒドロキシ基換算:2.97mol)と、塩基性化合物としてトリエチルアミン451.5g(4.46mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.50molとなる量)とを、有機溶媒としてジクロロメタン4200gに溶液温度0℃を保持したまま溶解させ、これを溶液Aとした。
【0278】
ハロゲン化シアンとして塩化シアン256.0g(4.16mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.40mol)と、有機溶媒としてジクロロメタン597.4gと、ハロゲン化水素として36%の塩酸421.8g(4.16mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.40mol)と、水2615.2gとの混合液(ハロゲン化シアン溶液)を、撹拌下、液温-2~-0.5℃に保ちながら、その混合液に、上記で得られた溶液Aを71分間かけて注下し、溶液Bを得た。その後、液温-2~-0.5℃に保ちながら、溶液Bを5分間更に撹拌した後、その溶液Bに、液温-2~-0.5℃に保ちながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン150.5g(1.49mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して0.50mol)を有機溶媒としてジクロロメタン150.5gに溶解させた溶液Cを12分間かけて注下し、溶液Dを得た。その後、液温-2~-0.5℃に保ちながら、30分間更に溶液Dを撹拌することで反応を完結させ、反応液1を得た。反応液1における水相(上相)側のpHをpHメーター(IQ Scientific Instruments社IQ150(商品名))で測定したところ、0.9であった。
【0279】
その後、反応液1を静置して、下相の有機相(ジクロロメタン相)5940gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、反応液1を水相1とジクロロメタン相1とに分液した(分液1)。その際、反応液1の上相の水相1の300gを、反応液1のジクロロメタン相1に混入させて、水相1の混入に由来する水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1を得た。溶液1の水相2に水150gを更に加え、撹拌及び混合し、水相2中の塩酸を希釈することで、水相2の希釈に由来する水相3とジクロロメタン相3とを有する溶液2を得た。溶液2を静置して、下相のジクロロメタン相の5940gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、溶液2を分液した(分液2)。その際、溶液2の上相の水相3の300gを、溶液2のジクロロメタン相3に混入させて、水相3の混入に由来する水相4とジクロロメタン相4とを有する溶液3を得た。
【0280】
反応後(分液前)の反応液1における水相の質量Gは3649gであり、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸濃度Dは1.78%であった。分液1における混入水相量jは300gであり、溶液1の水相2希釈後の溶液2における水相3への希釈倍率Iは1.5であった。分液2における溶液2の上相の水相3の混入量J(溶液3における水相4に相当)は300gであった。1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量に対する、分液2後の溶液3におけるジクロロメタン相4への塩酸混入率Hは、0.51%であった。
【0281】
得られた溶液3を加熱蒸留して、ボトム液温が最高温度の46℃にて、塩化シアンとジクロロメタンとを留去させた後、留去質量分の新たなジクロロメタンを基質へ追加し、溶液4を得た。その後、溶液4を水2000gで5回洗浄し、溶液5を得た。なお、水洗5回目の廃水の電気伝導度を、ポータブルEC計(HI8733N、商品名、ハンナインスツルメンツ社製)により測定したところ、その電気伝導度は10μS/cmであった。その電気伝導度の値から、水による洗浄により、イオン性化合物は十分に除去できており、溶液5中のイオン性化合物の含有量は、十分に少ないことを確認した。
【0282】
溶液5のジクロロメタン相を減圧下で濃縮し、2-ブタノン溶液への溶媒置換を5回行うことで、目的とするシアン酸エステル化合物(式(17)で表される化合物)が50質量%の2-ブタノン溶液1439gを得た。
得られたシアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(式(18)で表される化合物)の含有量は、HPLC面積百分率で0.16面積%であり、ピークトップ温度は272℃であった。これらの結果を表1に示す。
【0283】
〔実施例3〕
ヒドロキシ置換芳香族化合物として1-ナフトールアラルキル樹脂(SN495V、商品名、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)700g(ヒドロキシ基当量:236g/eq.、ヒドロキシ基換算:2.97mol)と、塩基性化合物としてトリエチルアミン451.5g(4.46mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.50molとなる量)とを、有機溶媒としてジクロロメタン4200gに溶液温度0℃を保持したまま溶解させ、これを溶液Aとした。
【0284】
ハロゲン化シアンとして塩化シアン256.0g(4.16mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.40mol)と、有機溶媒としてジクロロメタン597.4gと、ハロゲン化水素として36%の塩酸421.8g(4.16mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.40mol)と、水2615.2gとの混合液(ハロゲン化シアン溶液)を、撹拌下、液温-6~-1℃に保ちながら、その混合液に、上記で得られた溶液Aを71分間かけて注下し、溶液Bを得た。その後、液温-6~-1℃に保ちながら、溶液Bを5分間更に撹拌した後、その溶液Bに、液温-6~-1℃に保ちながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン90.3g(0.89mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して0.30mol)を有機溶媒としてジクロロメタン90.3gに溶解させた溶液Cを16分間かけて注下し、溶液Dを得た。その後、液温-6~-1℃に保ちながら、30分間更に溶液Dを撹拌することで反応を完結させ、反応液1を得た。反応液1における水相(上相)側のpHをpHメーター(IQ Scientific Instruments社IQ150(商品名))で測定したところ、0.9であった。
【0285】
その後、反応液1を静置して、下相の有機相(ジクロロメタン相)6322gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、反応液1を水相1とジクロロメタン相1とに分液した(分液1)。その際、反応液1の上相の水相1の300gを、反応液1のジクロロメタン相1に混入させて、水相1の混入に由来する水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1を得た。溶液1の水相2に水150gを更に加え、撹拌及び混合し、水相2中の塩酸を希釈することで、水相2の希釈に由来する水相3とジクロロメタン相3とを有する溶液2を得た。溶液2を静置して、下相のジクロロメタン相の6322gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、溶液2を分液した(分液2)。その際、溶液2の上相の水相3の300gを、溶液2のジクロロメタン相3に混入させて、水相3の混入に由来する水相4とジクロロメタン相4とを有する溶液3を得た。
【0286】
反応後(分液前)の反応液1における水相の質量Gは3575gであり、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸濃度Dは2.43%であった。分液1における混入水相量jは300gであり、溶液1の水相2希釈後の溶液2における水相3への希釈倍率Iは1.5であった。分液2における溶液2の上相の水相3の混入量J(溶液3における水相4に相当)は300gであった。1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量に対する、分液2後の溶液3におけるジクロロメタン相4への塩酸混入率Hは、0.69%であった。
【0287】
得られた溶液3を加熱蒸留して、ボトム液温が最高温度の50℃にて、塩化シアンとジクロロメタンとを留去させた後、留去質量分の新たなジクロロメタンを基質へ追加し、溶液4を得た。その後、溶液4を水2000gで5回洗浄し、溶液5を得た。なお、水洗5回目の廃水の電気伝導度を、ポータブルEC計(HI8733N、商品名、ハンナインスツルメンツ社製)により測定したところ、その電気伝導度は10μS/cmであった。その電気伝導度の値から、水による洗浄により、イオン性化合物は十分除去できており、溶液5中のイオン性化合物の含有量は、十分に少ないことを確認した。
【0288】
溶液5のジクロロメタン相を減圧下で濃縮し、2-ブタノン溶液への溶媒置換を5回行うことで、目的とするシアン酸エステル化合物(式(17)で表される化合物)が50質量%の2-ブタノン溶液1442gを得た。
得られたシアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(式(18)で表される化合物)の含有量は、HPLC面積百分率で0.16面積%であり、ピークトップ温度は273℃であった。これらの結果を表1に示す。
【0289】
〔比較例1〕
ヒドロキシ置換芳香族化合物として1-ナフトールアラルキル樹脂(SN495V、商品名、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)700g(ヒドロキシ基当量:236g/eq.、ヒドロキシ基換算:2.97mol)と、塩基性化合物としてトリエチルアミン361.2g(3.57mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.20molとなる量)とを、有機溶媒としてジクロロメタン4200gに溶液温度0℃を保持したまま溶解させ、これを溶液Aとした。
【0290】
ハロゲン化シアンとして塩化シアン292.6g(4.76mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.60mol)と、有機溶媒としてジクロロメタン682.7gと、ハロゲン化水素として36%の塩酸482.07g(4.76mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.60mol)と、水2988.8gとの混合液(ハロゲン化シアン溶液)を、撹拌下、液温-4~-1℃に保ちながら、その混合液に、上記で得られた溶液Aを72分間かけて注下し、溶液Bを得た。その後、液温-4~-1℃に保ちながら、溶液Bを5分間更に撹拌した後、その溶液Bに、液温-4~-1℃に保ちながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン120.4g(1.19mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して0.40mol)を有機溶媒としてジクロロメタン120.4gに溶解させた溶液Cを12分間かけて注下し、溶液Dを得た。その後、液温-4~-1℃に保ちながら、30分間更に溶液Dを撹拌することで反応を完結させ、反応液1を得た。反応液1における水相(上相)側のpHをpHメーター(IQ Scientific Instruments社IQ150(商品名))で測定したところ、0.3であった。
【0291】
その後、反応液1を静置して、下相の有機相(ジクロロメタン相)5557.6gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、反応液1を水相1とジクロロメタン相1とに分液した(分液1)。その際、反応液1の上相の水相1の314gを、反応液1のジクロロメタン相1に混入させて、水相1の混入に由来する水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1を得た。溶液1の水相2には水を加えず、二相のまま別の釜に移すことで、水相3とジクロロメタン相3とを有する溶液2(即ち、水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1に相当する)を得た。溶液2を静置して、下相のジクロロメタン相の5557.6gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、溶液2を分液した(分液2)。その際、溶液2の上相の水相3の314gを、溶液2のジクロロメタン相3に混入させて、水相3の混入に由来する水相4とジクロロメタン相4とを有する溶液3を得た(即ち、水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1に相当する)。
【0292】
反応後(分液前)の反応液1における水相の質量Gは3948gであり、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸濃度Dは3.3%であった。分液1における混入水相量jは314gであり、溶液1の水相2希釈後の溶液2における水相3への希釈倍率Iは1.0であった。分液2における溶液2の上相の水相3の混入量J(溶液3における水相4に相当)は314gであった。1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量に対する、分液2後の溶液3におけるジクロロメタン相4への塩酸混入率Hは、1.48%であった。
【0293】
得られた溶液3を加熱蒸留して、ボトム液温が最高温度の55℃にて、塩化シアンとジクロロメタンとを留去させた後、留去質量分の新たなジクロロメタンを基質へ追加し、溶液4を得た。その後、溶液4を水2000gで6回洗浄し、溶液5を得た。なお、水洗6回目の廃水の電気伝導度を、ポータブルEC計(HI8733N、商品名、ハンナインスツルメンツ社製)により測定したところ、その電気伝導度は10μS/cmであった。その電気伝導度の値から、水による洗浄により、イオン性化合物は十分に除去できており、溶液5中のイオン性化合物の含有量は、十分に少ないことを確認した。
【0294】
溶液5のジクロロメタン相を減圧下で濃縮し、2-ブタノン溶液への溶媒置換を5回行うことで、目的とするシアン酸エステル化合物(式(17)で表される化合物)が50質量%の2-ブタノン溶液1439gを得た。
得られたシアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(式(18)で表される化合物)の含有量は、HPLC面積百分率で3.40面積%であり、ピークトップ温度は250℃であった。これらの結果を表1に示す。
【0295】
〔比較例2〕
ヒドロキシ置換芳香族化合物として1-ナフトールアラルキル樹脂(SN495V、商品名、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)700g(ヒドロキシ基当量:236g/eq.、ヒドロキシ基換算:2.97mol)と、塩基性化合物としてトリエチルアミン361.2g(3.57mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.20molとなる量)とを、有機溶媒としてジクロロメタン4200gに溶液温度0℃を保持したまま溶解させ、これを溶液Aとした。
【0296】
ハロゲン化シアンとして塩化シアン274.3g(4.46mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.50mol)と、有機溶媒としてジクロロメタン640.0gと、ハロゲン化水素として36%の塩酸451.9g(4.46mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.50mol)と、水2802.0gとの混合液(ハロゲン化シアン溶液)を、撹拌下、液温-2~-0.5℃に保ちながら、その混合液に、上記で得られた溶液Aを70分間かけて注下し、溶液Bを得た。その後、液温-2~-0.5℃に保ちながら、溶液Bを5分間更に撹拌した後、その溶液Bに、液温-2~-0.5℃に保ちながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン167.2g(1.65mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して0.55mol)を有機溶媒としてジクロロメタン167.2gに溶解させた溶液Cを12分間かけて注下し、溶液Dを得た。その後、液温-2~-0.5℃に保ちながら、30分間更に溶液Dを撹拌することで反応を完結させ、反応液1を得た。反応液1における水相(上相)側のpHをpHメーター(IQ Scientific Instruments社IQ150(商品名))で測定したところ、0.2であった。
【0297】
その後、反応液1を静置して、下相の有機相(ジクロロメタン相)5571.5gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、反応液1を水相1とジクロロメタン相1とに分液した(分液1)。その際、反応液1の上相の水相1の314gを、反応液1のジクロロメタン相1に混入させて、水相1の混入に由来する水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1を得た。溶液1の水相2には水を加えず、二相のまま別の釜に移すことで、水相3とジクロロメタン相3とを有する溶液2(即ち、水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1に相当する)を得た。溶液2を静置して、下相のジクロロメタン相の5571.5gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、溶液2を分液した(分液2)。その際、溶液2の上相の水相3の314gを、溶液2のジクロロメタン相3に混入させて、水相3の混入に由来する水相4とジクロロメタン相4とを有する溶液3を得た(即ち、水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1に相当する)。
【0298】
反応後(分液前)の反応液1における水相の質量Gは3920.5gであり、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸濃度Dは2.77%であった。分液1における混入水相量jは314gであり、溶液1の水相2希釈後の溶液2における水相3への希釈倍率Iは1.0であった。分液2における溶液2の上相の水相3の混入量J(溶液3における水相4に相当)は314gであった。1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量に対する、分液2後の溶液3におけるジクロロメタン相4への塩酸混入率Hは、1.24%であった。
【0299】
得られた溶液3を加熱蒸留して、ボトム液温が最高温度の55℃にて、塩化シアンとジクロロメタンとを留去させた後、留去質量分の新たなジクロロメタンを基質へ追加し、溶液4を得た。その後、溶液4を水2000gで6回洗浄し、溶液5を得た。なお、水洗6回目の廃水の電気伝導度を、ポータブルEC計(HI8733N、商品名、ハンナインスツルメンツ社製)により測定したところ、その電気伝導度は10μS/cmであった。その電気伝導度の値から、水による洗浄により、イオン性化合物は十分に除去できており、溶液5中のイオン性化合物の含有量は、十分に少ないことを確認した。
【0300】
溶液5のジクロロメタン相を減圧下で濃縮し、2-ブタノン溶液への溶媒置換を5回行うことで、目的とするシアン酸エステル化合物(式(17)で表される化合物)が50質量%の2-ブタノン溶液1440gを得た。
得られたシアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(式(18)で表される化合物))の含有量は、HPLC面積百分率で2.50面積%であり、ピークトップ温度は256℃であった。これらの結果を表1に示す。
【0301】
〔比較例3〕
ヒドロキシ置換芳香族化合物として1-ナフトールアラルキル樹脂(SN495V、商品名、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)700g(ヒドロキシ基当量:236g/eq.、ヒドロキシ基換算:2.97mol)と、塩基性化合物としてトリエチルアミン361.2g(3.57mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.20molとなる量)とを、有機溶媒としてジクロロメタン4200gに溶液温度0℃を保持したまま溶解させ、これを溶液Aとした。
【0302】
ハロゲン化シアンとして塩化シアン292.6g(4.76mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.60mol)と、有機溶媒としてジクロロメタン682.7gと、ハロゲン化水素として36%の塩酸482.07g(4.76mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して1.60mol)と、水2988.8gとの混合液(ハロゲン化シアン溶液)を、撹拌下、液温-4~-3℃に保ちながら、その混合液に、上記で得られた溶液Aを74分間かけて注下し、溶液Bを得た。その後、液温-4~-3℃に保ちながら、溶液Bを5分間更に撹拌した後、その溶液Bに、液温-4~-3℃に保ちながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン211.2g(2.08mol、1-ナフトールアラルキル樹脂のヒドロキシ基1molに対して0.70mol)を有機溶媒としてジクロロメタン211.4gに溶解させた溶液Cを21分間かけて注下し、溶液Dを得た。その後、液温-4~-3℃に保ちながら、30分間更に溶液Dを撹拌することで反応を完結させ、反応液1を得た。反応液1における水相(上相)側のpHをpHメーター(IQ Scientific Instruments社IQ150(商品名))で測定したところ、0.4であった。
【0303】
その後、反応液1を静置して、下相の有機相(ジクロロメタン相)5777gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、反応液1を水相1とジクロロメタン相1とに分液した(分液1)。その際、反応液1の上相の水相314gを、反応液1のジクロロメタン相1に混入させて、水相1の混入に由来する水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1を得た。溶液1の水相2には水を加えず、二相のまま別の釜に移すことで、水相3とジクロロメタン相3とを有する溶液2(即ち、水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1に相当する)を得た。溶液2を静置して、下相のジクロロメタン相の5777gを釜底部から抜き、別の釜に移すことで、溶液2を分液した(分液2)。その際、溶液2の上相の水相3の314gを、溶液2のジクロロメタン相3に混入させて、水相3の混入に由来する水相4とジクロロメタン相4とを有する溶液3を得た(即ち、水相2とジクロロメタン相2とを有する溶液1に相当する)。
【0304】
反応後(分液前)の反応液1における水相の質量Gは3937gであり、反応後(分液前)の反応液1における水相中の塩酸濃度Dは2.5%であった。分液1における混入水相量jは314gであり、溶液1の水相2希釈後の溶液2における水相3への希釈倍率Iは1.0であった。分液2における溶液2の上相の水相3の混入量J(溶液3における水相4に相当)は314gであった。1-ナフトールアラルキル樹脂の使用量に対する、分液2後の溶液3におけるジクロロメタン相5への塩酸混入率Hは、1.11%であった。
【0305】
得られた溶液3を加熱蒸留して、ボトム液温が最高温度の55℃にて、塩化シアンとジクロロメタンとを留去させた後、留去質量分の新たなジクロロメタンを基質へ追加し、溶液4を得た。その後、溶液4を水2000gで6回洗浄し、溶液5を得た。なお、水洗6回目の廃水の電気伝導度を、ポータブルEC計(HI8733N、商品名、ハンナインスツルメンツ社製)により測定したところ、その電気伝導度は10μS/cmであった。その電気伝導度の値から、水による洗浄により、イオン性化合物は十分に除去できており、溶液5中のイオン性化合物の含有量は、十分に少ないことを確認した。
【0306】
溶液5のジクロロメタン相を減圧下で濃縮し、2-ブタノン溶液への溶媒置換を5回行うことで、目的とするシアン酸エステル化合物(式(17)で表される化合物)が50質量%の2-ブタノン溶液1439gを得た。
得られたシアン酸エステル化合物中の、カルバメート基を1つ有する化合物(式(18)で表される化合物)の含有量は、HPLC面積百分率で0.70面積%であり、ピークトップ温度は267℃であった。これらの結果を表1に示す。
【0307】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0308】
本発明のシアン酸エステル化合物は、例えば、硬化物、プリプレグ、積層板、金属箔張積層板、多層版、封止用材料、繊維強化複合材料、接着剤、樹脂複合シート、フィルム、プリント配線板に好適に用いられる。
【要約】
【課題】硬化物製造時における重合反応を制御しやすく、所望の特性を有する硬化物の製造に好適に用いられるシアン酸エステル化合物及びその製造方法、樹脂組成物、並びに硬化物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のシアン酸エステル化合物は、分子内に2個以上のシアナト基を有するシアン酸エステル化合物であって、カルバメート基を1つ有する化合物の含有量がHPLC面積百分率で0.5面積%以下である。
【選択図】なし