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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】筋ジストロフィーの新規マーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240410BHJP
   G01N 33/70 20060101ALI20240410BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240410BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240410BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/70
G01N33/50 Z
G01N30/72 A
G01N30/88 E
G01N27/62 X
G01N27/62 C
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020050904
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021148708
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 尚巳
(72)【発明者】
【氏名】笠原 優子
(72)【発明者】
【氏名】林 真広
(72)【発明者】
【氏名】中石 智之
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-130773(JP,A)
【文献】松田力哉,グアニジノコハク酸生合成経路に関する実験的研究,1988年,599-608
【文献】廣谷真、佐々木秀直,11.筋疾患(ミオパチー),日本内科学会雑誌,2013年08月10日,102巻、第8号,1986-1993
【文献】平田昌義,腎不全時のグアニジン代謝-骨格筋におけるクレアチン代謝についての検討-,透析会誌,1988年12月06日,22(6),617-622
【文献】吉田克法,血漿濾液中でのグアニジノ化合物の測定,透析会誌,23(2),173-176
【文献】久留聡,筋疾患の診断と治療,神経治療,vol.33 No.3,2016年,328-331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体におけるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を判定するための、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分のバイオマーカーとしての使用。
【請求項2】
前記バイオマーカーとしての使用が、
前記被検体由来の血液試料中の前記血液成分を測定すること、及び
前記血液成分の測定値を参照値と比較すること
を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記血液成分の測定が、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)、又はキャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析法(CE-TOFMS)により行われる、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記血液試料が、全血、血漿及び血清からなる群より選択される試料である、請求項2又は3に記載の使用。
【請求項5】
前記デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の判定が、被検体におけるDMDの発症の判定、被検体におけるDMDの発症リスク予測、被検体におけるDMDの重症度の判定、被検体におけるDMDについてのモニタリング、及び/又は被検体におけるDMDに対する治療の効果のモニタリングである、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
被検体におけるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を判定するために該被検体由来の血液試料を分析する方法であって、
前記血液試料中の、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分を測定する工程、
前記血液成分の測定値を参照値と比較する工程
を含む方法。
【請求項7】
前記血液成分を測定する工程が、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)、又はキャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析法(CE-TOFMS)により行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記血液試料が、全血、血漿及び血清からなる群より選択される試料である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の判定が、被検体におけるDMDの発症の判定、被検体におけるDMDの発症リスク予測、被検体におけるDMDの重症度の判定、被検体におけるDMDについてのモニタリング、及び/又は被検体におけるDMDに対する治療の効果のモニタリングである、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記グアニジノコハク酸の測定値が、健常者由来の参照値よりも低い場合、及び/又はDMD患者由来の参照値と同等若しくはそれ以下である場合、前記被検体がDMDを発症している又は発症リスクがあることを示す、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ホスホクレアチンの測定値が、健常者由来の参照値よりも高い場合、及び/又はDMD患者由来の参照値と同等若しくはそれ以上である場合、前記被検体がDMDを発症している又は発症リスクがあることを示す、請求項6~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療の有効性の評価方法であって、
被験治療薬又は治療法による処置を受けたDMDを有する動物からの血液試料において、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分を測定する工程、
前記測定結果に基づいてDMDに対する被験治療薬又は治療法の有効性を評価する工程
を含む方法。
【請求項13】
前記被験治療薬又は治療法による処置を行う前に、DMDを有する動物からの血液試料において前記血液成分を測定する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
DMDを有する動物が、DMDを発症したヒト若しくはDMDの発症リスクがあるヒト、又はDMDモデル動物である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
グアニジノコハク酸について、処置後の測定値が処置前の測定値より高いことが、前記被験治療薬又は治療法が、DMDによる症状若しくは重症度の改善、又はDMDの進行若しくは発症の停止若しくは減速化に有効であることを示す、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ホスホクレアチンについて、処置後の測定値が処置前の測定値より低いことが、前記被験治療薬又は治療法が、DMDによる症状若しくは重症度の改善、又はDMDの進行若しくは発症の停止若しくは減速化に有効であることを示す、請求項12~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中バイオマーカーに基づいて、被検体におけるミオパチー、特に筋ジストロフィーを判定するための方法、使用、キット及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミオパチーの1つであるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィン遺伝子の変異が原因で発症する先天性疾患であり、成長に伴って筋肉が壊死・変性することで次第に全身の筋力が低下する。DMDのバイオマーカー(診断マーカー)としては、血清クレアチンキナーゼ(血清CK)が多用される(値が高いほど重症度が高い)。しかし、血清CK値は10歳以降は徐々に低下し、重症度と相関しなくなる。
【0003】
DMDのバイオマーカーとして、例えば特定のmiRNA(特許文献1)、c-Fos、EGR1、IL-6及びIL-8からなる群より選択される少なくとも1つのマーカー(特許文献2)、ガレクチン-1又はガレクチン-3(特許文献3)、サルコリピン(特許文献4)などの報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2012-527873号公報
【文献】特開2013-007724号公報
【文献】特表2015-528442号公報
【文献】特開2017-214337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DMDを含むミオパチーの分野では、新たなバイオマーカーの設定が依然として望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、本発明者は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に特異的な代謝産物因子群を抽出し、その中で、病態重症度や治療効果を予測できる新規バイオマーカー候補物質を明らかにし、かかるバイオマーカーを使用することによりDMDなどのミオパチーを簡便に判定し得るという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0007】
例えば、本発明は以下の実施形態を包含する:
[1]被検体におけるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を判定するための、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分のバイオマーカーとしての使用。
[2]前記バイオマーカーとしての使用が、
前記被検体由来の血液試料中の前記血液成分を測定すること、及び
前記血液成分の測定値を参照値と比較すること
を含む、[1]に記載の使用。
[3]前記血液成分の測定が、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)、又はキャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析法(CE-TOFMS)により行われる、[2]に記載の使用。
[4]前記血液試料が、全血、血漿及び血清からなる群より選択される試料である、[2]又は[3]に記載の使用。
[5]前記デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の判定が、被検体におけるDMDの発症の判定、被検体におけるDMDの発症リスク予測、被検体におけるDMDの重症度の判定、被検体におけるDMDについてのモニタリング、及び/又は被検体におけるDMDに対する治療の効果のモニタリングである、[1]~[4]のいずれかに記載の使用。
【0008】
[6]被検体におけるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を判定するために該被検体由来の血液試料を分析する方法であって、
前記血液試料中の、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分を測定する工程、
前記血液成分の測定値を参照値と比較する工程
を含む方法。
[7]前記血液成分を測定する工程が、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)、又はキャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析法(CE-TOFMS)により行われる、[6]に記載の方法。
[8]前記血液試料が、全血、血漿及び血清からなる群より選択される試料である、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]前記デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の判定が、被検体におけるDMDの発症の判定、被検体におけるDMDの発症リスク予測、被検体におけるDMDの重症度の判定、被検体におけるDMDについてのモニタリング、及び/又は被検体におけるDMDに対する治療の効果のモニタリングである、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記グアニジノコハク酸の測定値が、健常者由来の参照値よりも低い場合、及び/又はDMD患者由来の参照値と同等若しくはそれ以下である場合、前記被検体がDMDを発症している又は発症リスクがあることを示す、[6]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記ホスホクレアチンの測定値が、健常者由来の参照値よりも高い場合、及び/又はDMD患者由来の参照値と同等若しくはそれ以上である場合、前記被検体がDMDを発症している又は発症リスクがあることを示す、[6]~[10]のいずれかに記載の方法。
【0009】
[12]デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療の有効性の評価方法であって、
被験治療薬又は治療法による処置を受けたDMDを有する動物からの血液試料において、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分を測定する工程、
前記測定結果に基づいてDMDに対する被験治療薬又は治療法の有効性を評価する工程
を含む方法。
[13]前記被験治療薬又は治療法による処置を行う前に、DMDを有する動物からの血液試料において前記血液成分を測定する工程をさらに含む、[12]に記載の方法。
[14]DMDを有する動物が、DMDを発症したヒト若しくはDMDの発症リスクがあるヒト、又はDMDモデル動物である、[12]又は[13]に記載の方法。
[15]グアニジノコハク酸について、処置後の測定値が処置前の測定値より高いことが、前記被験治療薬又は治療法が、DMDによる症状若しくは重症度の改善、又はDMDの進行若しくは発症の停止若しくは減速化に有効であることを示す、[12]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]ホスホクレアチンについて、処置後の測定値が処置前の測定値より低いことが、前記被験治療薬又は治療法が、DMDによる症状若しくは重症度の改善、又はDMDの進行若しくは発症の停止若しくは減速化に有効であることを示す、[12]~[15]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、簡便にミオパチー(特にDMD)を判定するためのバイオマーカーが提供される。このバイオマーカーは、血液検査によって簡便にDMDの発症又は重症度などを評価することができるため、疾患の早期発見及び早期治療に有効である。また、本バイオマーカーは、DMD治療の有効性を評価するための指標としても使用することができる。したがって、本発明は、ミオパチー(特にDMD)の診断、検査、治療評価、創薬などの分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】血漿中グアニジノコハク酸の量を示すグラフである。
図2】血漿中ホスホクレアチンの量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、ミオパチー、特に遺伝性ミオパチー、例えば筋ジストロフィーに関連する新規なバイオマーカーを利用する。このバイオマーカーは、野生型(WT)マウス、mdxマウス(DMDモデルマウス)、及び歯髄由来間葉系幹細胞(DPSC)を投与したmdxマウスの血清成分のメタボローム解析を行うことにより見出された血液成分であり、DMDを含むミオパチーに関連してその血中レベルに差異がある血液成分である。そのため、本発明に係るバイオマーカーは、ミオパチーの発症の判定若しくは発症リスク予測、ミオパチーの重症度の判定、ミオパチーについてのモニタリング、又はミオパチーに対する治療効果のモニタリングなどに有用である。
【0013】
一態様において、本発明は、被検体におけるミオパチー(特にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD))を判定するための、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分のバイオマーカーとしての使用に関する。
【0014】
本発明に係るミオパチーを判定するためのバイオマーカーとしての使用は、
前記被検体由来の血液試料中の前記血液成分を測定すること、及び
前記血液成分の測定値を参照値と比較すること
を含む。
【0015】
別の態様において、本発明は、
被検体におけるミオパチー(特にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD))を判定するために該被検体由来の血液試料を分析する方法であって、
前記血液試料中の、ホスホクレアチン及びグアニジノコハク酸からなる群より選択される1以上の血液成分を測定する工程、
前記血液成分の測定値を参照値と比較する工程
を含む方法に関する。
【0016】
本発明では、被検体におけるミオパチー(筋炎)を判定する。ミオパチーとは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)やベッカー型筋ジストロフィー(BMD)に代表される筋疾患の総称である。ミオパチーには、先天性(遺伝子変異が原因であり、出生後まもなく発症するもの)と後天性(他の疾患の発症に付随して起こる筋炎)のものがある。例えば、先天性疾患としては、先天性ミオパチー、代謝性ミオパチー、ミトコンドリアミオパチー、筋原線維性ミオパチーなどがあり、後天性疾患としては炎症性ミオパチー、内分泌性ミオパチー、薬剤性ミオパチーなどがある。しかしながら、ミオパチーの分類は多用であり、先述したものに限られない。最も代表的なミオパチーであるDMDの症状としては、限定されるものではないが、筋力低下、筋委縮、運動能力の低下、歩行障害、心筋疾患などが知られている。
【0017】
本発明において測定する対象となる血液成分、すなわちバイオマーカーは、グアニジノコハク酸、ホスホクレアチン、又はそれらの組み合わせである。グアニジノコハク酸(Guanidinosuccinic acid)はアミノ酸代謝物であり、化学式C5H9N3O4で、分子量175.14である。グアニジノコハク酸の血中濃度は、野生型マウスに対してDMDモデルマウスでは低下しており、モデルマウスに治療処置(DPSC投与)を行うことによって上昇することが見出された。ホスホクレアチン(Phosphocreatine)はクレアチンリン酸とも呼ばれ、筋細胞の高エネルギー化合物であり、化学式C4H16N3Na2O9Pで、分子量327.14である。ホスホクレアチンの血中濃度は、野生型マウスに対してDMDモデルマウスでは上昇しており、モデルマウスに治療処置(DPSC投与)を行うことによって低下することが見出された。
【0018】
本発明では、バイオマーカーである血液成分を測定する。「測定する」とは、血液試料中のその量又は濃度を、好ましくは半定量的又は定量的に測定することを意味し、その量は、絶対量であってもよいし又は相対量であってもよい。相対量とは、意図的に添加した標準物質に対して、目的とする血液成分の測定強度の比である。一方、絶対濃度とは、目的とする血液成分に対して、あらかじめ同じ血液成分を用いて検量線(血液成分の濃度と血液成分の測定強度との関係)を作成し、測定された強度からその絶対濃度を算出する方法である。また本発明では、「血液成分を測定する」とは、血液成分そのものを測定してもよいし、又はその派生物若しくは誘導体を測定してもよい。「派生物」及び「誘導体」とは、バイオマーカーである血液成分から派生する物質及び当該血液成分に由来する物質をそれぞれ意味する。「派生物」及び「誘導体」には、例えば、修飾された血液成分などが含まれるが、これに限定されるものではない。血液成分の測定は、直接的又は間接的に行うことができる。直接的な測定は、血液試料中に存在する血液成分の分子数と直接相関するシグナルに基づいて、その量又は濃度を測定することを含む。そのようなシグナルは、例えば血液成分の特定の物理的又は化学的な特性に基づいている。間接的な測定は、二次成分(すなわち血液成分以外の成分)、例えばリガンド、標識又は酵素反応生成物から得られるシグナルの測定である。
【0019】
一実施形態において、バイオマーカーとして、グアニジノコハク酸を測定する。すなわち、CE-TOFMSのカチオンモードで質量電荷比(m/z; 176.067)として計測される化合物を測定する。また別の実施形態において、バイオマーカーとして、ホスホクレアチンを測定する。すなわち、CE-TOFMSのアニオンモードで質量電荷比(m/z;210.029)として計測される化合物を測定する。さらに別の実施形態では、バイオマーカーとして、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンを測定する。バイオマーカーである血液成分を2つ組み合わせて使用することによって、より正確かつ高精度な判定や、治療の効果のモニタリングが可能となる。
【0020】
血液試料とは、対象から採取される血液(全血)、及び血液を処理して得られる血清又は血漿を意味する。血漿を使用する場合には、抗凝固剤としてEDTAを使用することが好ましいが、ヘパリン、クエン酸ナトリウムなど当該分野で公知又は汎用されているものを使用することができる。血液試料は、採血後に氷冷又は冷蔵保存することが好ましい。
【0021】
また被検体は、ヒト、及びその他の哺乳動物、例えば霊長類(サル、チンパンジーなど)、家畜動物(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなど)、ペット用動物(イヌ、ネコなど)、実験動物(マウス、ラット、ウサギなど)であり、さらには爬虫類及び鳥類などであってもよい。特に、ヒトを対象とすることが好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態では、バイオマーカー、すなわち血液成分を測定するが、その測定方法は、当技術分野で公知の方法又は手段を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)、又はキャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析法(CE-TOFMS)などを採用することができる。血液成分の測定は、その血液成分に特有の物理的又は化学的特性を測定するための手段、例えば正確な分子量又はNMRスペクトル等を測定するための手段によって行うことができ、そのような手段としては、質量分析計、二次元電気泳動装置、クロマトグラフ、液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC/MS)、NMR分析計等の分析装置が挙げられる。これら分析装置を単独で使用して血液成分を測定してもよいが、複数の分析装置により血液成分を測定してもよい。
【0023】
あるいは、測定対象の血液成分を検出するための試薬、例えば免疫反応試薬、酵素反応試薬などが利用できる場合には、そのような試薬を利用して血液試料中の血液成分を測定することができる。
【0024】
以上のようにして、被検体から採取した血液試料に含まれる血液成分を測定し、その結果に基づいて被検体におけるミオパチー(例えば筋ジストロフィー、特にDMD)を判定することが可能である。さらに、被検体から複数の時点に採取した血液試料において血液成分を測定してもよい。
【0025】
本明細書中、「ミオパチーを判定する」又は「DMDを判定する」とは、被検体におけるミオパチー又はDMDの発症を判定することだけではなく、被検体におけるミオパチー又はDMDの発症リスクを予測すること、被検体におけるミオパチー又はDMDの重症度を判定すること、被検体においてミオパチー又はDMDについてモニタリングすること、被検体におけるミオパチー又はDMDに対する治療の効果をモニタリングすること、さらにはミオパチー又はDMDの診断を補助することを含む意味である。また本発明において「判定」は、既に検出又は診断されたミオパチー又はDMDの継続的なモニタリング、及び既に行ったミオパチー又はDMDの診断の確認も包含する。
【0026】
なお、本発明において「判定」は、統計学的に有意な割合の対象を判定できることを意図している。よって本発明に係るミオパチーの判定方法、判定用キット及び判定装置による「判定」には、対象の全て(すなわち100%)について必ず正しい結果が得られない場合も含まれる。統計的に有意な割合は、様々な周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定等を用いて決定することができる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%である。p値は、好ましくは、0.1、0.01、0.05、0.005又は0.0001である。より好ましくは、対象の少なくとも60%、少なくとも80%又は少なくとも90%を、本発明にしたがって適切に判定することができる。
【0027】
ミオパチー(特にDMD)の判定では、上述のように測定した血液成分の測定値を参照値と比較する。複数の血液成分を測定する場合には、それぞれの血液成分をそれぞれの参照値と比較する。
【0028】
参照値(基準値)は、ミオパチー(特にDMD)の発症の指標となる血液成分の量若しくは濃度、又はその量若しくは濃度の範囲、あるいは異常なしの指標となる血液成分の量若しくは濃度、又はその量若しくは濃度の範囲である。例えば、参照値は、健常者(集団)又はミオパチー(特にDMD)の低リスク者(集団)に由来するものとすることができる。あるいは、参照値は、ミオパチー(特にDMD)を発症した又は特定の重症度のミオパチー(特にDMD)を有する患者(患者集団)に由来するものとすることができる。個々の被検体に適用する参照値は、対象動物の種類、年齢、性別などの様々な生理学的パラメータに応じて変化しうる。
【0029】
好ましくは、血液成分の量又は濃度と、ミオパチー(特にDMD)の発症若しくは特定の重症度との相関をデータベースとして記録する。そして、測定された血液試料中の血液成分の測定値を、データベース中の参照値と比較することができる。このようなデータベースは、ミオパチー(特にDMD)発症の有無やその重症度の指標となる参照値又は参照範囲として有用である。
【0030】
グアニジノコハク酸は、ミオパチー(特にDMD)の発症の有無及び発症後の重症度においてその量又は濃度に差があり、ミオパチー(特にDMD)の発症により、また治療の開始前又は開始後に、その量又は濃度が変化する。具体的には、グアニジノコハク酸は、健常者と比較してミオパチー(特にDMD)患者においてその量又は濃度が低下し、治療後にその量又は濃度が上昇する。したがって、グアニジノコハク酸の測定値が、健常者由来の参照値よりも低い場合、及び/又はミオパチー(特にDMD)患者由来の参照値と同等若しくはそれ以下である場合には、被検体がミオパチー(特にDMD)を発症している又は発症リスクがあるといえる。
【0031】
またホスホクレアチンは、ミオパチー(特にDMD)の発症の有無及び発症後の重症度においてその量又は濃度に差があり、ミオパチー(特にDMD)の発症により、また治療の開始前又は開始後に、その量又は濃度が変化する。具体的には、ホスホクレアチンは、健常者と比較してミオパチー(特にDMD)患者においてその量又は濃度が上昇し、治療後にその量又は濃度が低下する。したがって、ホスホクレアチンの測定値が、健常者由来の参照値よりも高い場合、及び/又はミオパチー(特にDMD)患者由来の参照値と同等若しくはそれ以上である場合、被検体がミオパチー(特にDMD)を発症している又は発症リスクがあるといえる。
【0032】
別の実施形態では、被検体から複数の時点で血液試料を採取し、それぞれの測定時点における血液試料に含まれる血液成分を測定し、血液成分の測定値をそれぞれの測定時点で比較する。より具体的には、第1の時点における血液成分の量又は濃度と第2の時点における血液成分の量又は濃度とを比較する。測定は、経時的に少なくとも2回、3回、4回、5回、10回、15回、20回、30回、又はそれ以上の回で、例えば1日、2日、5日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、半年、1年、2年、3年、5年、又はそれ以上の期間を空けて、行うことができる。この比較によって、経時的なモニタリングを行うことができ、ミオパチー(特にDMD)の進行又は治癒、異常なしからのミオパチー(特にDMD)の発症などを評価することができる。
【0033】
本発明のミオパチーの判定方法によって、ミオパチーの発症や進行を早期に判定することができ、詳細な検査や治療方針の決定に役立つ。また被検体は、ミオパチーの治療を早期に受けたり、ミオパチーの進行を経過観察することが可能となる。また、治療の効果についてモニタリングすることができ、治療の効果に応じて治療の停止、継続又は変更を検討することが可能となる。
【0034】
本発明のミオパチーの判定方法は、血液成分であるバイオマーカーを測定するための手段を備えた診断薬若しくはキット及び/又は装置を用いることによって、容易かつ簡便に行うことができる。
【0035】
本発明に係るミオパチー(特にDMD)の判定用キット又は診断薬は、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分を測定するための手段を少なくとも含む。
【0036】
本発明のキット又は診断薬の一例は、質量分析用試薬セットであり、例えば同位体標識試薬、分画用ミニカラム、緩衝液等により構成される。別の例は、酵素反応用試薬セットであり、例えば、酵素、緩衝液等により構成される。本発明のキット又は診断薬は、本発明の方法を実施するための手順及びプロトコールを記載した説明書、ミオパチーの判定において使用する参照値又は参照範囲を示した表などを含んでもよい。
【0037】
本発明のキット又は診断薬に含まれる構成要素は、個別に提供されてもよいし、又は単一の容器内に提供されてもよい。好ましくは、本発明のキット又は診断薬は、本発明の方法を実施するために必要な構成要素の全てを、即時に使用することができるように、例えば調整された濃度の構成要素として含む。
【0038】
本発明に係るミオパチー(特にDMD)の判定装置は、以下の手段を備える:
グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分を血液試料中で測定する測定部と、
上記測定部で測定した血液成分の測定値を参照値又は前回の測定値と比較する比較部と、
上記比較部で得られた比較結果からミオパチーを判定する判定部。
【0039】
本発明の装置は、好ましくは、本発明の方法を実施することができるように、上記の測定部、比較部及び判定部が互いに動作可能なように連結されたシステムである。ここで、測定部は、上述のように、血液試料中の血液成分を測定するための手段を含み、例えば質量分析計、二次元電気泳動装置、クロマトグラフ、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)装置、NMR分析計等の分析装置を備えている。測定部は、上述したような分析装置等から得られた測定値を処理するソフトウエアと計算機よりなるデータ解析部を備えている。データ解析部は、上述したような分析装置等から得られた測定値に基づいて検量線等のデータを参照することで、血液試料に含まれる血液成分の量若しくは濃度を算出する。データ解析部は、例えば、シグナル表示部分、測定値を分析するユニット、コンピュータユニット等を含むことができる。また、比較部は、血液成分の量若しくは濃度に関する参照値を記憶装置(データベース)等から読み出し、上記測定部で測定した血液成分の測定値と参照値とを比較する。このとき、比較部は、血液成分の種類に応じて適切な参照値を選択して読み出す。あるいは、同一対象における経時的モニタリングの場合には、比較部は、前回の測定値を記憶装置(データベース)等から読み出し、測定部で測定した血液成分の測定値と比較する。
【0040】
さらに、判定部は、比較部において血液成分の測定値と参照値とを比較した結果に基づいて、あるいは比較部において複数の時点における血液成分の測定値を比較した結果に基づいて、ミオパチー(特にDMD)を判定する。ここで、判定部は、被検体におけるミオパチー(特にDMD)の発症や進行段階、異常なし等を示す情報を取得する。好ましい装置は、専門の臨床医の知識がなくても使用することができるものであり、例えば、単に試料を付加すればよい電子的装置がある。
【0041】
例えば、判定部は、
血液成分グアニジノコハク酸の測定値が、健常者由来の参照値よりも低い場合、及び/又はミオパチー(特にDMD)患者由来の参照値と同等若しくはそれ以下である場合、被検体がミオパチー(特にDMD)を発症している又は発症リスクがあると判定し、
血液成分ホスホクレアチンの測定値が、健常者由来の参照値よりも高い場合、及び/又はミオパチー(特にDMD)患者由来の参照値と同等若しくはそれ以上である場合、被検体がミオパチー(特にDMD)を発症している又は発症リスクがあると判定し、
血液成分グアニジノコハク酸の測定値が参照値よりも高い場合及び/又は血液成分ホスホクレアチンの測定値が参照値よりも低い場合、被検体がミオパチー(特にDMD)について異常なしの可能性があると判定する。
【0042】
本発明の装置は、データ保存部、データ出力・表示部などをさらに備えるものであってもよい。
【0043】
また別の態様では、本発明に使用されるバイオマーカーを利用して、被検体におけるミオパチー(特にDMD)に対する治療(治療薬又は治療法)の効果をモニタリングすることができる。具体的には、
(a)治療薬又は治療法による処置を受ける前に、ミオパチー(特にDMD)患者からの血液試料においてグアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分を測定する工程、
(b)治療薬又は治療法による処置を受けた後に、ミオパチー(特にDMD)患者からの血液試料において上記血液成分を測定する工程、
(c)必要に応じて、工程(b)を繰り返す工程、
(d)(a)~(c)の測定結果に基づいてミオパチー(特にDMD)に対する治療薬又は治療法の効果をモニタリングする工程
を含む。
【0044】
上記方法では、治療薬又は治療法による処置を受ける前に、ミオパチー(特にDMD)患者から血液試料を採取し、血液試料中の血液成分を測定する。ミオパチー(特にDMD)患者に治療薬又は治療法による処置が行われた後、適当な時期に血液試料を採取して、血液試料中の血液成分を測定する。例えば、処置の直後、30分後、1時間後、3時間後、5時間後、10時間後、15時間後、20時間後、24時間(1日)後、2~10日後、10~20日後、20~30日後、1ヶ月~6ヶ月後に血液試料を採取する。血液試料中の血液成分の測定については前記と同様に行うことができる。治療前後に血液成分を測定することによって、その治療薬又は治療法による処置の効果をモニタリングすることが可能となる。モニタリングの結果に基づいて、治療の停止、継続又は変更を検討する一助となる。
【0045】
さらにミオパチー(特にDMD)の判定方法は、他の従来公知の診断方法と組み合わせて行ってもよい。そのような公知のミオパチーの診断方法としては、問診、画像検査(例えばMRI等)、血液・尿検査、筋電図検査、筋生検、遺伝子解析、血中クレアチンキナーゼ(CK)の測定などが挙げられる。
【0046】
上述の判定結果に基づいて、医師は、被検体のミオパチー(特にDMD)について診断を行い、適切な処置を行うことができる。すなわち本発明は、被検体においてミオパチー(特にDMD)を判定し、治療する方法にも関する。例えば、本発明に係る方法に従って被検体におけるミオパチー(特にDMD)を判定し、被検体がミオパチー(特にDMD)を発症している可能性が高いと評価された場合、被検体においてミオパチー(特にDMD)を治療する又はその進行を予防する処置を行う。また、被検体におけるミオパチー(特にDMD)が進行している又は重症度が高いと評価された場合には、治療を継続したり、必要であれば治療法の変更を検討する。また、被検体においてミオパチー(特にDMD)の発症可能性が高いと評価された場合には、上述したような他のミオパチー(特にDMD)の診断方法を行って、ミオパチー(特にDMD)の発症を確定する。さらに、治療前後での評価結果に基づいて、治療の効果をモニタリングし、治療の停止、継続又は変更を決定する。また、異常なしと判定された場合には、血液成分の測定を経時的に行って、経過観察することができる。
【0047】
また、本発明に使用されるバイオマーカーを利用して、ミオパチーの治療(治療薬又は治療法)の有効性を評価する、あるいはミオパチーの治療薬候補をスクリーニングすることができる。具体的には、ミオパチー(特にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD))の治療の有効性を評価する方法、又はミオパチーの治療薬候補をスクリーニング方法は、
被験治療薬又は治療法による処置を受けたミオパチー(特にDMD)を有する動物からの血液試料において、グアニジノコハク酸及びホスホクレアチンからなる群より選択される1以上の血液成分を測定する工程、
前記測定結果に基づいてミオパチー(特にDMD)に対する被験治療薬又は治療法の有効性を評価する工程
を含む。
【0048】
本発明の方法では、ミオパチー(特にDMD)を有する動物から血液試料を採取し、血液試料中の血液成分を測定する。好ましくは、被験治療薬又は治療法による処置を行う前に、ミオパチー(特にDMD)を有する動物から血液試料を採取し、血液試料中の血液成分を測定する。ミオパチー(特にDMD)を有する動物に被験治療薬又は治療法による処置が行われた後、適当な時期に血液試料を採取して、血液試料中の血液成分を測定する。例えば、処置の直後、30分後、1時間後、3時間後、5時間後、10時間後、15時間後、20時間後、24時間(1日)後、2~10日後、10~20日後、20~30日後、1ヶ月~6ヶ月後に血液試料を採取する。血液試料中の血液成分の測定、ミオパチー(特にDMD)の判定については前記と同様に行うことができる。
【0049】
対象となる動物は、ミオパチー(特にDMD)を発症したヒトであってもよいし、あるいはミオパチー(特にDMD)モデル動物(マウス、ラット、イヌなど)であってもよい。あるいは、筋ジストロフィーを保因する動物(ジストロフィン遺伝子欠損を有する動物)を使用してもよい。一般的には、モデル動物において被験治療薬又は治療法の有効性が確認された後に、ヒトにおいて、例えば臨床試験などにより有効性の評価が行われる。
【0050】
評価又はスクリーニングの対象となる被験治療薬又は治療法の種類は特に限定されるものではない。例えば、被験治療薬又は治療法は、任意の物質的因子、具体的には、天然に生じる分子、例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、脂質、炭水化物(糖等)、ステロイド、グリコペプチド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど;天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体、例えば、ペプチド擬態物、核酸分子(アプタマー、アンチセンス核酸、二本鎖RNA(RNAi)等)など;天然に生じない分子、例えば低分子有機化合物(無機及び有機化合物ライブラリー、又はコンビナトリアルライブラリー等)など;並びにそれらの混合物を挙げることができる。
【0051】
動物の被験治療薬又は治療法による処置は、その治療薬又は治療法の種類により異なるが、当業者であれば容易に決定することができる。例えば、被験治療薬の投与量、投与期間、投与経路などの投与条件は、当業者であれば適切に決定することができる。また、被験治療薬又は治療法の有効性は、いくつかの条件で検討することも可能である。そのような条件としては、被験治療薬又は治療法で処置する時間又は期間、量(大小)、回数などが挙げられる。さらに、複数の治療薬又は治療法を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
被験治療薬又は治療法の処置後の動物から採取した血液試料中の血液成分を測定し、処置前の量又は濃度と比較することによって、被験治療薬又は治療法が、ミオパチー(特にDMD)による症状若しくは重症度の改善、ミオパチー(特にDMD)の進行若しくは発症の停止又は減速化に有効であるか否かを評価することができる。
【0053】
例えば、グアニジノコハク酸の場合には、健常者と比較してミオパチー(特にDMD)患者において、処置後の測定値が処置前の測定値より高いことは、被験治療薬又は治療法が、ミオパチー(特にDMD)による症状若しくは重症度の改善、その進行の停止に有効であることを示す。一方、処置後の測定値が処置前の測定値より低い又は処置前の測定値と有意差がないことは、被験治療薬又は治療法がミオパチー(特にDMD)の治療に有効でないことを示す。
【0054】
一方、ホスホクレアチンの場合には、健常者と比較してミオパチー(特にDMD)患者において、処置後の測定値が処置前の測定値より低いことは、被験治療薬又は治療法が、ミオパチー(特にDMD)による症状若しくは重症度の改善、その進行の停止に有効であることを示す。一方、処置後の測定値が処置前の測定値より高い又は処置前の測定値と有意差がないことは、被験治療薬又は治療法がミオパチー(特にDMD)の治療に有効でないことを示す。
【0055】
以上から、本発明に係るミオパチー(特にDMD)の治療の有効性の評価方法により、ミオパチー(特にDMD)を治療又は予防するための治療薬又は治療法を見出し、さらには治療薬又は治療法の有効性を確認することができる。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例及び図面によりさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0057】
[実施例1]DMDモデルマウスを用いた新規バイオマーカー候補の探索
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の病態を反映するバイオマーカーを獲得するため、DMDモデルであるmdxマウス(ジストロフィン遺伝子エクソン23ナンセンス変異を有する;Dis Model Mech. 2015)の血漿及び骨格筋組織を用いたメタボローム解析を行った。
【0058】
C57BL/6J遺伝子背景のmdxマウス(病態群)と野生型C57BL/6Jマウス(正常群)において、若年個体(30日齢、雄)及び成獣個体(60及び90日齢、雄)より、血漿を採取した。心臓採血後にK2EDTA、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete;Roche)含有採血管に回収した全血より、冷却遠心後の血漿を回収した。
【0059】
マーカー候補の有用性を検証するため、歯髄由来間葉系幹細胞(DPSC)の細胞移植を実施したmdxマウスにおける代謝産物について、正常及び病態群と比較し、候補物質として探索した。なお、DMD対するDPSC移植の有用性は、WO2016/076434号において報告されている。DPSCは、成人由来歯髄組織より採取した。採取・単離方法は、WO2016/076434号を参考に行った。DPSCをフラスコ内に播種し、10%FBS(Gibco)含有DMED/F-12(1:1)(Gibco)培地を用いて、5%CO2存在下37℃で培養した。コンフルエントに達したDPSCは、トリプシン-EDTA処理(0.25%)して培養液中に回収し、PBSで洗浄後、氷冷PBSで懸濁して細胞数1×106個/100μLとなるように調整した。mdx/C57BL/6Jマウス(4~5週齢、体重10g以上、雄)を固定し、回収した細胞懸濁液を速やかに尾部微静脈より緩徐に投与した。
【0060】
マウス試料について各々前処理を行った後、CE-TOFMS(イオン性代謝物質)及びLC-TOFMS(脂溶性代謝物質)を用いたカチオンモード、アニオンモードで測定した。Human Metabolome Technology社における標準プロコトールに従った。上記CE-TOFMS及びLC-TOFMS測定にて検出されたピークは、自動積分ソフトウエア(MasterHands)を用いて、ピーク面積値などを計測した。検出されたピークに対して、ヒューマン・メタボローム(HMT)ライブラリ及びKEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)ライブラリに登録された全物質との照合、探索を行った。
【0061】
マウス血漿試料について、CE-TOFMS及びLC-TOFMSによるメタボローム解析を行った結果、計451種類の候補化合物が付与された。DMDマーカーとして使用する候補化合物は下記に示す(1)又は(2)を選別基準とした。
【0062】
<選別基準>
(1)Human metabolite data base物性分析において、30、60、90日齢(P30、P60、P90)の正常群と病態群とを比較した場合に、病態群で減少し、かつ治療群で回復する代謝産物。
(2)正常群と比較して病態群で増加し、かつ治療群で減少する代謝産産物。
【0063】
メタボローム解析の結果、グアニジノコハク酸(Guanidinosuccinic acid)は正常群(コントロール)と比べて病態群(DMD)で減少し(60日齢で0.5倍)、治療群(治療DMD)は正常と同程度に回復した(1.1倍)(図1)ため、(1)に該当するDMDマーカー候補として選択した。90日齢の治療群において再度病態群と同程度まで血漿中のグアニジノコハク酸量が減少しているが、これは、移植したDPSCの効果が薄れてきており、再びDMDの症状が出てきているためである。したがって、血漿中のグアニジノコハク酸量を測定することによって、DMDの発症の判定や治療効果を評価、モニタリングすることができ、グアニジノコハク酸はDMDマーカーとして使用できる。
【0064】
また、ホスホクレアチン(Phosphocreatin)は正常群(コントロール)と比べて病態群(DMD)で増加し(60日齢で4.4倍)、治療群(治療DMD)は減少傾向を示した(3.5倍)(図2)ため、(2)に該当するDMDマーカー候補として選択した。したがって、血漿中のホスホクレアチン量を測定することによってもDMDの発症の判定や治療効果を評価、モニタリングすることができる。そのため、ホスホクレアチンはDMDマーカーとして使用できる。
図1
図2