(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】エクオールを有効成分として含む腸内細菌に対する抗菌剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20240410BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240410BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
A61K31/353
A23L33/105
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2020553923
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2019042299
(87)【国際公開番号】W WO2020090789
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2018203055
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508227938
【氏名又は名称】舘田 一博
(73)【特許権者】
【識別番号】519311189
【氏名又は名称】木村 聡一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】519310702
【氏名又は名称】田中 裕美
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舘田 一博
(72)【発明者】
【氏名】木村 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕美
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】VAZQUEZ, L. et al,Effect of Soy Isoflavones on Growth of Representative Bacterial Species from the Human Gut,Nutrients,2017年,Vol. 9, Issue 7, No. 727,p. 1-9
【文献】CHUNG, L. et al,Bacteroides fragilis Toxin Coordinates a Pro-carcinogenic Inflammatory Cascade via Targeting of Colo,Cell Host & Microbe,2018年02月14日,Vol. 23, Issue 2,p. 203-214
【文献】CAI, YF et al,Effects of equol on colon cancer cell proliferation,JOURNAL OF PEKING UNIVERSITY (HEALTH SCIENCES),2017年,Vol. 49, No. 3,p. 383-387
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクオールを有効成分として含む腸内細菌に対する抗菌剤
を含むクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)又はクロストリディウム・パーフリンゲンス(C. perfringens)である腸内細菌の感染症の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項2】
エクオールを有効成分として含む腸内細菌に対する抗菌剤を含むクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)又はクロストリディウム・パーフリンゲンス(C. perfringens)である腸内細菌の感染症を改善するための食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腸内細菌、特にクロストリディオイデス・ディフィシルに対する抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリディオイデス・ディフィシル(C. difficile)は下痢や腹痛を症状とし、死に至ることもあるクロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)の原因菌である。クロストリディオイデス・ディフィシル感染症は院内感染症として問題となっている(非特許文献1参照)。
【0003】
クロストリディオイデス・ディフィシル(C. difficile)感染症に対しては、メトロニダゾール等の抗原虫薬やバンコマイシン等の抗生物質が抗菌薬として用いられるが、クロストリディオイデス・ディフィシルが芽胞を形成した場合、これらの抗菌薬の効果は低減してしまう。
【0004】
クロストリディオイデス・パーフリンゲンス(C. perfringens)は、ヒト常在菌であり、家畜や魚からも検出される。クロストリディウム・パーフリンゲンスは、熱に強く食中毒の原因菌として知られている。
【0005】
バクテロイデス・フラジリス(B. fragilis)は、ヒト常在菌であり、毒素型の菌も存在する。バクテロイデス・フラジリスは大腸癌の原因とも言われている。
【0006】
エクオールは、ダイズの代謝最終産物であり、腸内細菌によりダイズイソフラボンより生合成される。エクオールは女性ホルモンであるエストロゲンに構造が類似しているため、ダイズ由来のエクオールの製造方法が確立され(特許文献1参照)、骨の強化等に有用なサプリメントの有効成分として利用されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-18120号公報
【文献】特開2013-184959号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】神谷茂、モダンメディア、56巻 10号 2010 [話題の感染症] pp.233-241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ヒトに感染症を引き起こすクロストリディオイデス・ディフィシル等の腸内細菌の抗菌薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ヒトの腸内で合成されるエクオールについて、腸内細菌に対する影響を調べた。その結果、エクオールが濃度依存的にクロストリディオイデス・ディフィシル等の腸内細菌の成長を阻害し、さらにクロストリディオイデス・ディフィシルの芽胞形成を阻害することを確認し、エクオールをクロストリディオイデス・ディフィシル等の腸内細菌の抗菌剤として用い得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] エクオールを有効成分として含む腸内細菌に対する抗菌剤。
[2] 腸内細菌がクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)、クロストリディウム・パーフリンゲンス(C. perfringens)及びバクテロイデス・フラジリス(B. fragilis)からなる群から選択される、[1]の抗菌剤。
[3] クロストリディオイデス・ディフィシルの成長を阻害し、かつクロストリディオイデス・ディフィシルの芽胞形成を阻害する[1]又は[2]の抗菌剤。
[4] [1]~[3]のいずれかの抗菌剤を含むクロストリディオイデス・ディフィシル感染症の予防又は治療剤。
[5] エクオールを有効成分として含む整腸剤。
[6] 整腸剤が、腸内細菌における下痢及び/又は腹痛の症状を緩和する、[5]の整腸剤。
[7] エクオールを有効成分として含む大腸癌予防及び/又は治療剤。
【0012】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-203055号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0013】
クロストリディオイデス・ディフィシルは芽胞を形成することで抗菌薬に対し耐性を示し、また毒素分泌により感染症を引き起こす。また、クロストリディオイデス・ディフィシルは院内感染を引き起こす。エクオールは、濃度依存的にクロストリディオイデス・ディフィシルの成長を阻害するとともに、クロストリディオイデス・ディフィシルの芽胞形成を阻害することができるので、クロストリディオイデス・ディフィシルの抗菌薬として用いることができ、クロストリディオイデス・ディフィシルの院内感染も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】エクオールによるクロストリディオイデス・ディフィシル027株の成長阻害効果を示す図である。
【
図2】大豆イソフラボンのクロストリディオイデス・ディフィシルの成長への影響を示す図である。
【
図3】エクオールによるクロストリディオイデス・ディフィシル4菌株に対する成長阻害効果を示す図である。
【
図4】エクオールによる他菌種に対する成長阻害効果を示す図である。
【
図5】エクオールによるクロストリディオイデス・ディフィシル形態への影響を示す図である。
【
図6】エクオールによるクロストリディオイデス・ディフィシル芽胞形成阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、エクオール(Equal、4',7-イソフラバンジオール)を有効成分として含む腸内細菌に対する抗菌剤である。
【0017】
本発明において、「抗菌」とは、菌を殺すのではなく、菌の成長及び増殖を抑制し、又は阻害することをいい、「殺菌」や「除菌」とは異なる。
【0018】
エクオールは、ダイズの代謝最終産物であり、腸内細菌によりダイズイソフラボンより生合成される。エクオールの化学式はC15H14O3であり、構造式を以下に示す。
【0019】
【0020】
腸内でエクオールを合成できるヒトとできないヒトがあり、腸内細菌叢の中にエクオール産生菌を有するか否かに依存する。
【0021】
エクオールは、腸内細菌の一部に対して抗菌活性を有する。エクオールが抗菌活性を有する腸内細菌として、クロストリディオイデス・ディフィシル(C. difficile (Clostridioides difficile), CD)、クロストリディウム・パーフリンゲンス(C. perfringens(Clostridium perfringens))、バクテロイデス・フラジリス(B. fragilis(Bacteroides fragilis))等が挙げられ、この中でもクロストリディオイデス・ディフィシルに対して効果的である。
【0022】
クロストリディオイデス・ディフィシルは、代表的な院内感染症であるクロストリディオイデス・ディフィシル感染症(Clostridioides difficile infection, CDI)の原因となることが知られている。クロストリディオイデス・ディフィシル感染症は、消化管感染症であり腸炎を起こし、下痢や腹痛の症状を伴うとともに、発熱や白血球増多も伴うこともあり、重篤な場合は死に至ることもある。クロストリディオイデス・ディフィシルは芽胞を形成し、CDI患者の排泄物にクロストリディオイデス・ディフィシルやその芽胞、特に芽胞(spore)が含まれていると、排泄物を通してトイレ、ベッド、床等の病院内環境中に残存し、院内感染という大きな問題を引き起こすこともある。クロストリディオイデス・ディフィシルに対しては、メトロニダゾール等の抗原虫薬やバンコマイシン等の抗生物質が抗菌薬として用いられるが、芽胞を形成した場合、抗菌薬に対して耐性を示し、これらの抗菌薬の効果は低減してしまう。残存した芽胞は、発芽しクロストリディオイデス・ディフィシル感染症が再発する。
【0023】
クロストリディウム・パーフリンゲンス(C. perfringens(Clostridium perfringens))はウェルシュ菌とも呼ばれ、ヒトや家畜、魚等の動物の腸内に存在し、毒素であるエンテロトキシンを放出し、食中毒を引き起こす。クロストリディウム・パーフリンゲンスは土壌、河川、海等に広く分布しているため、食品や調理器具に混入しやすく、また芽胞状態では耐熱性を有するため食中毒を誘発しやすい。さらに、クロストリディウム・パーフリンゲンスは老化や癌などにも関与していることが報告されている。
【0024】
バクテロイデス・フラジリス(B. fragilis(Bacteroides fragilis))はヒトの腸内に存在する偏性嫌気性グラム陰性桿菌であり、芽胞を形成しない。血管や腹腔内に侵入した場合に感染症を引き起こすことがある。バクテロイデス・フラジリスが大腸癌の発症に関与していることが報告されている。
【0025】
エクオールは、濃度依存的に、上記の腸内細菌、特にクロストリディオイデス・ディフィシルの成長を阻害し、さらに芽胞の形成を阻害する。腸内でのクロストリディオイデス・ディフィシルの成長を阻害することにより、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症を改善し、予防することができる。また、腸内でのクロストリディオイデス・ディフィシルの成長を阻害することにより、院内感染等により、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症が拡大するのを防止することができる。さらに、エクオールは、腸内でのクロストリディオイデス・ディフィシルの芽胞形成を阻害することができるので、芽胞によりクロストリディオイデス・ディフィシル感染症が拡大するのを予防することができる。
【0026】
エクオールは、腸内細菌叢にエクオール産生菌が存在しない被験体、及びエクオール産生菌が存在する被験体に対して有用である。
【0027】
エクオールが腸内細菌に対して抗菌活性を有するか否かは、腸内細菌を一定の菌量まで培養し、その培地に各濃度のエクオールを加え、続けて培養し、成長への影響を確認することにより調べることができる。培養は、例えば、嫌気的条件で30~40℃で行えばよい。
【0028】
エクオールは、ダイズに含まれるダイジンを出発物質として、腸内細菌の作用により、ダイジン→ダイゼイン→ジヒドロダイゼイン→エクオールという経路で合成される。これらの反応に関与する細菌や細菌から抽出した酵素を用いてエクオールを合成することができる。エクオールの製造方法は、例えば特開2017-205117号公報、特開2017-18120号公報、特開2013-188220号公報、WO2009/084603等に記載されており、これらの記載に従って製造することができる。
【0029】
エクオールは合成品でも、発酵により得られた物のいずれでもよい。発酵により得られた物として、発酵する素材はダイゼインを含む素材であれば何でもよく、例えば大豆及び又は大豆胚軸に由来する素材であり、エクオール含有大豆胚軸発酵物、エクオール含有大豆胚軸抽出物発酵物、エクオール含有大豆発酵物、エクオール含有大豆抽出物発酵物等の発酵物中のエクオールが挙げられる。
【0030】
本発明のエクオールを有効成分として含む腸内細菌に対する抗菌剤は、病院内の施設や機器に適用することにより、クロストリディオデス・ディフィシル、クロストリディオデス・パーフリンゲンスあるいはバクテロイデス・フラジリスによる汚染拡大を防止することが出来、例えば、クロストリディオイデス・ディフィシルに対してはその成長を阻害し、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症の拡大を防止することもできる。この場合、エクオールを10μg/mL~100g/mLを含む水和剤、液剤、油剤、粉剤、粒剤、ゾル剤(フロアブル剤)、ゲル剤等の剤型に製剤して使用することができる。
【0031】
また、本発明のエクオールを有効成分として含む腸内細菌に対する抗菌剤は、クロストリディオデス・ディフィシル、クロストリディオデス・パーフリンゲンスあるいはバクテロイデス・フラジリスに感染した被験体に医薬組成物として投与して用いることが出来、例えば、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症の予防又は治療剤である。
【0032】
また、エクオールを有効成分として含む医薬組成物は、整腸剤として用いることができる。該整腸剤は、腸内細菌における下痢及び/又は腹痛の症状を緩和するために用いることができる。
【0033】
さらに、エクオールが抗菌活性を有する腸内細菌には、大腸癌の発症に関連することが知られている。したがって、エクオールを有効成分として含む医薬組成物は、大腸癌予防及び/又は治療剤として用いることができる。
【0034】
これらの抗菌剤や予防又は治療剤は、生理学的に許容され得る担体又は希釈剤を含んでいてもよい。担体としては、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、グルコース液、緩衝生理食塩水等が挙げられる。クロストリディオデス・ディフィシル、クロストリディオデス・パーフリンゲンスあるいはバクテロイデス・フラジリスに感染した被験体に用いる感染症の予防又は治療のための医薬組成物は、種々の形態で投与することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等の形態で経口投与により、あるいは、注射剤、点滴剤、坐薬等の形態で非経口投与により投与することができる。投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、通常、経口投与では、成人に対して、1日約0.01mg~1000mgであり、これらを1回又は数回に分けて投与することができる。また、非経口投与では、1回約0.01mg~1000mgを皮下注射、筋肉注射又は静脈注射によって投与すればよい。
【0035】
本発明はエクオールを含む食品組成物も包含する。食品組成物として、菓子類(クッキー、ビスケット、チョコレート菓子、チップス、ケーキ、ガム、キャンディー、グミ、饅頭、羊羹、プリン、ゼリー、ヨーグルト、アイスクリーム、シャーベットなど)、パン、麺類、ご飯類、シリアル食品、飲料(液剤、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、粉末飲料、果実飲料、乳飲料、ゼリー飲料など)、スープ(粉末、フリーズドライ)、味噌汁(粉末、フリーズドライ)等が挙げられる。
【0036】
食品組成物は、通常の食品だけではなく機能を有する食品を含み、例えば健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品等を含む。ここで、特定保健用食品とは、食生活において特定の保健の目的で摂取をし、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品をいう。これらの食品には、例えば整腸のために用いられるものである旨の表示や下痢や腹痛を緩和するために用いられるものである旨の表示が付されていてもよい。
【0037】
本発明の食品組成物において、エクオールは1回の摂取あたり、例えば、好ましくは0.1mg~30mg、より好ましくは2mg~20mg、さらに好ましくは3mg~10mg摂取されうる。エクオールの1回の摂取量の下限値の例として、0.2mg、0.5mg、1mg、2mg、3mg、4mg、及び5mgが挙げられ、上限値の例として、30mg、20mg、10mg、6mg、5mgが挙げられ、エクオールの1回あたりの摂取量の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。
【0038】
本発明の食品組成物においてエクオールの1日あたりの摂取量は、上述のとおり30mg以下であることが好ましい。エクオールの1日あたりの摂取量はとして、好ましくは0.1mg~30mg、よりこの好ましくは2mg~20mg、さらに好ましくは3mg~10mgである。エクオールの1日あたりの摂取量の下限値の例として、0.2mg、0.5mg、1mg、2mg、3mg、4mg、及び5mgが挙げられ、上限値の例として、30mg、20mg、10mg、6mg、5mgが挙げられ、エクオールの1日あたりの摂取量の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。1日あたりに摂取されうるエクオールが1回の摂取で摂取されても、複数回(例えば2回、3回、4回、及び5回)に分けて摂取されてもよい。
【実施例】
【0039】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
[実施例1] エクオールによるクロストリディオイデス・ディフィシル(C. difficile)027株の成長阻害
クロストリディオイデス・ディフィシル(NAP1/027株)を、100μg/mL、75μg/mL、50μg/mL及び25μg/mLの濃度のエクオールを含む培地に添加し(0時間)、続けて培養し、培養開始後24時間までの成長への影響を確認した。培養条件は、すべて嫌気下、35℃で実施した。
【0041】
また、エクオールはDMSOに溶解して使用したため、コントロールとして、DMSOのみを加えたものも測定した。
【0042】
菌の成長は、培地の600 nmにおける吸光度(OD600)を測定することにより調べた。
【0043】
結果を
図1に示す。
図1に示すように、エクオールを添加したものはコントロールよりもクロストリディオイデス・ディフィシルの成長が遅く、エクオールに阻害されていると考えられた。また,エクオールの添加濃度が進むにつれて、クロストリディオイデス・ディフィシルの成長速度が遅くなっているため、阻害はエクオールの濃度依存であった。
【0044】
[実施例2] 大豆イソフラボンのクロストリディオイデス・ディフィシル(NAP1/027株)の成長への影響
エクオールは腸内細菌によって、ダイジン(daizine)からダイゼイン(daidzein),ジヒドロダイゼイン(dihydro daidzein)を経て生成される最終産物である。実施例1と同様の方法で、エクオール(100μg/mL、50μg/mL)、ダイゼイン(50μg/mL)及びジヒドロダイゼイン(100μg/mL、50μg/mL)のクロストリディオイデス・ディフィシルの成長への阻害を測定した。
【0045】
結果を
図2に示す。
図2に示すように、ダイゼイン、 ジヒドロダイゼイン50μg/mlを添加した培地では、コントロールとの明確な差は確認できなかったが、ジヒドロダイゼイン(dihydrodaidzein)100μg/mlとエクオール50μg/mlが同程度にクロストリディオイデス・ディフィシルの成長を阻害し、エクオール100μg/mlはそれよりもさらに阻害の度合いが大きかった。
【0046】
[実施例3] クロストリディオイデス・ディフィシル4菌株での成長阻害
027株以外のクロストリディオイデス・ディフィシルの臨床分離株(TUM12745株、TUM12806株及びTUM12855株)もエクオール(100μg/mL)の成長阻害を受けるかどうかを、実施例1と同様の方法で検証した。
【0047】
結果を
図3に示す。
図3に示すように、実験に使ったすべての菌株で同様の阻害を確認した。
【0048】
[実施例4] 他菌種での成長阻害
クロストリディオイデス・ディフィシル以外の菌にもエクオール(100μg/mL)は阻害するかどうかを、実施例1と同様の方法で検証した。
【0049】
結果を
図4に示した。
図4に示すように、大腸菌(エシェリヒア・コリ(E. coliまたは、Escherichia coli)には影響は見られなかった。
クロストリディウム・パーフリンゲンス(C. perfringens(Clostridium perfringens))とバクテロイデス・フラジリス(B. fragilis(Bacteroides fragilis))は、影響が観察された。特に、バクテロイデス・フラジリスは全く増殖が確認されなかったが、試験終了の52時間の時点で、エクオールの入っていない培地に移したところ、コロニーを形成したため、成長が阻害されたのみで、殺菌されてはいないことが分かった。
【0050】
[実施例5] 形態への影響(グラム染色)
エクオールのクロストリディオイデス・ディフィシル(NAP1/027株)の形態への影響を実施例1と同様の方法で、エクオール(100μg/mL)を作用させ、クロストリディオイデス・ディフィシルをグラム染色により染色することにより検証した。
【0051】
染色像を
図5に示す。
図5は、培養から8日目のグラム染色の画像である。エクオールを100μg/ml添加した細胞は、コントロールの細胞に比べて、細長い形態を呈していた。
【0052】
[実施例6] 芽胞形成阻害
クロストリディオイデス・ディフィシルの芽胞形成へのエクオール(100μg/mL)の影響を検証するため、飽和状態までクロストリディオイデス・ディフィシルが成長した培地にエクオールを加えて、形成される芽胞の数を数えた。
【0053】
結果を
図6に示した。
図6に示すように、2日目からすべての日数において、コントロールでは芽胞が多数あったのに対し、エクオールを加えた培地では芽胞は少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のエクオールを有効成分として含む抗菌剤は、クロストリディオデス・ディフィシル、クロストリディオデス・パーフリンゲンス及びバクテロイデス・フラジリスからなる群から選択される微生物に対して抗菌作用を有し、例えば、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症を予防又は治療することができ、クロストリディオイデス・ディフィシルにより院内感染を防止することができる。
【0055】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。