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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】魚釣り用のスピニングリール
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/027 20060101AFI20240410BHJP
【FI】
A01K89/027 501
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019200574
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021073850
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】318000064
【氏名又は名称】株式会社スタジオオーシャンマーク
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隆
(72)【発明者】
【氏名】宇野 正晃
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-137240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル操作をすることで、スプール軸と共に前後方向に移動するスプールに対して、スプール軸の軸心周りに回転するロータによりテグスを巻回するよう構成した魚釣り用のスピニングリールにおいて、
該スピニングリールを、スプールに形成される凹陥状部内に、スプール軸に対するスプールの回転に制動を与えるためのドラグ機構を設けた構成にするにあたり、
前記ドラグ機構は、
スプール軸の前端部に前後方向移動自在に螺合されるドラグ調整具と、
該ドラグ調整具の後端面部に前端面部が当接してドラグ調整具側からの押圧力を受ける前端側制動板と、を備えて構成され、
前端側制動板の外周面部とスプール凹陥状部の内周面部とのあいだの間隙を塞ぐシール手段を備える、
ことを特徴とする魚釣り用のスピニングリール。
【請求項2】
前記ドラグ調整具と前端側制動板とのあいだの当接面部に前記押圧力を受けて弾性変形する第一のシール手段が介装され、
前記シール手段を第二のシール手段とする、
ことを特徴とする請求項1記載の魚釣り用のスピニングリール。
【請求項3】
ドラグ機構は、スプール凹陥状部に回り止め状に内嵌し、前記前端側制動板以外の制動板が収容されるドラグケースを備えて構成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の魚釣り用のスピニングリール。
【請求項4】
ドラグ機構は、スプール凹陥状部に回り止め状に内嵌し、前記前端側制動板以外の制動板が収容されるドラグケースを備えて構成され、
前記ドラグケースと前記スプール凹陥状部とのあいだの間隙に、前端縁部が前記ドラグケースの前端縁部よりも前方に突出する状態のシール材本体が組込まれ、該シール材本体の前端縁部が前端側制動板の外周面部に弾圧状に当接することで前記第二のシール手段を構成している
ことを特徴とする請求項記載の魚釣り用のスピニングリール。
【請求項5】
シール材本体は、内周面部が前端側制動板の外周面部とのあいだに間隙を存するようにして設けられ、
シール材本体は、前端縁部に前端側制動板の外周面部に弾圧状に当接して第二のシール手段を構成するための凸状部が設けられている
ことを特徴とする請求項4記載の魚釣り用のスピニングリール。
【請求項6】
シール材本体は、内周面部がドラグケースの外周面部とのあいだに間隙を存するようにして設けられ、該内周面部にドラグケースの外周面部に弾圧状に当接してドラグケースの外周面部とのあいだの間隙を塞ぐ第三のシール手段が設けられている
ことを特徴とする請求項4または5記載の魚釣り用のスピニングリール。
【請求項7】
シール材本体は、外周面部がスプール凹陥状部の内周面部に遊嵌している
ことを特徴とする請求項4乃至6の何れか1記載の魚釣り用のスピニングリール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣りに用いられるスピニングリールの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚釣り用のスピニングリールは、ハンドル操作に伴い、前後方向に移動するスプール軸に支持されたスプールに対し、スプール軸を軸心として回転する起倒自在に設けたロータに係止してピックアップされるテグス(道糸、ライン)が巻回されることで、放出されたテグスをスプールに巻き取ることができるようになっている。
このようなスピニングリールにおいて、スプールは、スプール軸に対しては一体的ではなく、ドラグ機構を介して制動された状態で回転自在に支持された構成になっていて、例えば大物が釣れたりしてテグスの先端部に設けた仕掛け側からの引張り力がドラグ機構のドラグ力(制動力)を越えた(勝った)場合、スプールを、スプール軸に対してテグス繰り出し方向に回転させるようにし、これによって、例えば仕掛けに設けたハリスの切断を回避することができるように配慮されている。
そしてこのようなドラグ機構の中には、スプールに形成される凹陥状部に内装されたものとし、そしてスプールと一体になったスプール側制動板と、スプール軸と一体になったスプール軸側制動板とのあいだ(両制動板同士を直接摺接してもよいが、あいだにフエルトのような介装材(中間材)を介装する場合もある。)の摺動抵抗によりドラグ力を得ることになるが、このドラグ力の調整(調節)を、スプール軸の前端部(先端部)に前後方向移動自在に螺合するドラグ調整具の回転操作により行うことができるようにしたものが従来から知られている(例えば特許文献1、2参照。)。
ところでスピニングリールのような魚釣り用のリールは、海水や泥水、泥土や砂、さらにはゴミ等の各種の異物の存在する厳しい環境下で使用されることが想定され、このためスピニングリールにおいては、ドラグ調整具の外周縁部とスプール凹陥状部の内周面との間に形成される間隙から前記異物(侵入物、浸入物)が侵入(浸入)しないよう該間隙にシール材(防水材)を設けたもの(前記特許文献1参照。)が従来から知られている。
ところが特許文献1のものは、シール位置がスプール凹陥状部の前端開口部近傍であって、前記異物が外から浸入しやすい位置でもあることから高いシール効果を発揮させることが難しいだけでなく、シール材の先端縁部が相手側部材(例えばスプール凹陥状部の内周面)に単に弾圧状に当接(摺接)することでシールしているだけであるから、どうしても高いシール効果を発揮することが難しく、このシール部位を突破した異物がスプール凹陥状部内に深く浸入してドラグ機構にまで達してしまうという問題がある。
そこで、スプール凹陥状部の内側(奥側)に有底円筒状のドラグ収容室を形成し、該ドラグ収容室の前端開口端部を蓋状のシール部材で覆蓋する構成にし、これによってシール部位を、スプール凹陥状部の開口部近傍ではなく奥側に位置するようにしてシール効果を高めるようにしたものが提唱されている(例えば特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-318285号公報
【文献】特開2011-135847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記特許文献2のものは、スプール凹陥状部の奥側でシールをするようにしてはいるものの、シール部材の先端縁部(内端縁部)が自然状態で相手側部材(ドラグ調整具の外周面)に弾圧状に当接することでシールする構成のものであるため、前記特許文献1のものと同様、シール部材の弾圧力を受けた当接によるシール効果しか期待ができないことになって高いシール効果を発揮することが難しいという問題が依然としてあり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、ハンドル操作をすることで、スプール軸と共に前後方向に移動するスプールに対して、スプール軸の軸心周りに回転するロータによりテグスを巻回するよう構成した魚釣り用のスピニングリールにおいて、該スピニングリールを、スプールに形成される凹陥状部内に、スプール軸に対するスプールの回転に制動を与えるためのドラグ機構を設けた構成にするにあたり、前記ドラグ機構は、スプール軸の前端部に前後方向移動自在に螺合されるドラグ調整具と、該ドラグ調整具の後端面部に前端面部が当接してドラグ調整具側からの押圧力を受ける前端側制動板と、を備えて構成され、前端側制動板の外周面部とスプール凹陥状部の内周面部とのあいだの間隙を塞ぐシール手段を備える、ことを特徴とする魚釣り用のスピニングリールである。
請求項2の発明は、前記ドラグ調整具と前端側制動板とのあいだの当接面部に前記押圧力を受けて弾性変形する第一のシール手段が介装され、前記シール手段を第二のシール手段とする、ことを特徴とする請求項1記載の魚釣り用のスピニングリールである。
請求項3の発明は、ドラグ機構は、スプール凹陥状部に回り止め状に内嵌し、前記前端側制動板以外の制動板が収容されるドラグケースを備えて構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の魚釣り用のスピニングリールである。
請求項4の発明は、ドラグ機構は、スプール凹陥状部に回り止め状に内嵌し、前記前端側制動板以外の制動板が収容されるドラグケースを備えて構成され、前記ドラグケースと前記スプール凹陥状部とのあいだの間隙に、前端縁部が前記ドラグケースの前端縁部よりも前方に突出する状態のシール材本体が組込まれ、該シール材本体の前端縁部が前端側制動板の外周面部に弾圧状に当接することで前記第二のシール手段を構成していることを特徴とする請求項記載の魚釣り用のスピニングリールである。
請求項5の発明は、シール材本体は、内周面部が前端側制動板の外周面部とのあいだに間隙を存するようにして設けられ、シール材本体は、前端縁部に前端側制動板の外周面部に弾圧状に当接して第二のシール手段を構成するための凸状部が設けられていることを特徴とする請求項4記載の魚釣り用のスピニングリールである。
請求項6の発明は、シール材本体は、内周面部がドラグケースの外周面部とのあいだに間隙を存するようにして設けられ、該内周面部にドラグケースの外周面部に弾圧状に当接してドラグケースの外周面部とのあいだの間隙を塞ぐ第三のシール手段が設けられていることを特徴とする請求項4または5記載の魚釣り用のスピニングリールである。
請求項7の発明は、シール材本体は、外周面部がスプール凹陥状部の内周面部に遊嵌していることを特徴とする請求項4乃至6の何れか1記載の魚釣り用のスピニングリールである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、前端側制動板とスプール凹陥状部とのあいだにある間隙についてもシール手段により塞がれることになって、高いシール効果を発揮できることになる。
請求項2の発明とすることにより、ドラグ調整具と前端側制動板とのあいだの摺接面部に、ドラグ機構の押圧力を受けて弾性変形した第一のシール手段が介装されることになる結果、第一のシール手段は、スプール凹陥状部の奥側において、しかもドラグ機構の押圧力を受けて弾性変形したものになって高いシール性能を長期に亘って発揮できることになる。
請求項3の発明とすることにより、ドラグ機構を、ドラグケースと、該ドラグケースに収容される制動板と、前端側制動板とを備え、このものに第一、第二シール手段が備えられたものを一つのキットとして提供できることになって、購入したスピニングリールに対して、シール機能のより優れたドラグ製品を一組のキットとする交換部品として提供できることになる。
請求項4の発明とすることにより、ドラグケースとスプール凹陥状部とのあいだの間隙に組込まれたシール材本体の前端縁部が、前端側制動板の外周面部に弾圧状に当接して第二のシール手段を構成することになり、この結果、前記ドラグ機構を一組のキットとする場合に、シール材本体がドラグケースと前端側制動板とを仮組みして一体化するための部材にでき、キットとしての取扱いが容易になる。
請求項5の発明とすることにより、シール材本体の前端縁部に設けた凸状部がリング状になって前端側制動板の外周面部に弾圧状に当接してシールできる結果、簡単な構造でありながら、優れたシール効果を発揮できることになる。
請求項6の発明とすることにより、ドラグケースとシール材本体とのあいだの隙間をシール材本体に形成された第三のシール手段によってシールできる結果、スプールの後端側からスプール凹陥状部内に浸入した異物がドラグ機構に達することを防止できることになる。
請求項7の発明とすることにより、ドラグケースとスプール凹陥状部内とのあいだの間隙にシール材本体が設けられたものでありながら、該シール材本体はスプール凹陥状部の内周面に対して遊嵌している結果、ドラグ機構のドラグ力に変化を与えることがないか、与えても僅かなものとなって、ドラグ機構の性能低下を来すことがないものにできることになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】スピニングリールの概略横断面図である。
図2】スピニングリールのスプール部位の横断面図である。
図3】スプール部位の拡大横断面図である。
図4】ドラグ機構の分解斜視図である。
図5】(A)(B)は第二、第三の実施の形態を示すスプール部位の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図面において、1は図示しない釣竿に設けられる魚釣り用のスピニングリールのリール本体であって、該リール本体1の後半部1aの左右方向両側面にはハンドル軸2が回転自在に設けられており、該ハンドル軸2にハンドル3が取付けられ、該ハンドル3を回転操作することで、リール本体1から前方に突出するスプール軸4が前後方向に往復移動するようになっており、このスプール軸4の前端部に、後述するスプール5が着脱自在に取付けられ、該スプール5の外周に設けた糸巻き部5aにテグス(道糸、ライン)Lが巻回されている。
【0009】
またリール本体1には、前後方向中間部位にロータ6がスプール軸4の軸心Oを回転心として回転自在に設けられているが、該ロータ6は、前記ハンドル3の回転操作に連動して回転するように設定されると共に、該ロータ6は、ベール7が起立姿勢、倒伏姿勢に切換え操作自在な状態で備えられている。
そして斯かるスピニングリールにおいて、倒伏姿勢(通常姿勢)に保持されたベール7にテグスLが係止(懸回)されており、この状態でハンドル3を回転操作すると、ロータ6と一体にベール7がスプール軸4の軸心Oを中心とした回転をすると共にスプール5が前後方向に往復移動することになり、これによって前記ベール7に係止するテグスLが糸巻き部5aに巻取られる(巻回される、巻装される)構成になっている。
【0010】
一方、テグスLは、ベール7を操作して起立姿勢に保持させることで該ベール7による係止が解除されて自由な繰出し状態になり、これによって、例えばテグスLの先端部に設けた仕掛けを投擲(放擲)した場合の投擲力や仕掛けに設けた錘による自重垂下力等の引出し力を受けて糸巻き部5aから引出されることになること等は何れも従来通りであるので、その詳細説明についてこれ以上の記載は省略する。尚、1cはリール本体1に設けた切換えレバーであって、該切換えレバー1cを左右切換え操作することにより、ハンドル3を、スプール5をテグスLの巻取り方向にしか回転操作することができない一方向回転と、スプールをテグスLの巻取り、繰出しの両方向の回転操作ができる両方向回転との操作が選択切換えできるようになっている。
【0011】
前記スプール5は、前記リール本体1の円筒状(前端が底面板によって塞がれている)になっていて、図示しないクラッチ機構等のスピニングリールを作動させるために設けられる部材(機構)の一部が収容された前半部1bに遊嵌状に外嵌するスカート部5bが後半部となり、前記巻取り部5aが前半部となる状態で設けられ、そして巻取り部5aは、スカート部5bとのあいだに形成される段差状の後側フランジ部5cと、巻取り部5aの前端部に円盤状に形成された前側フランジ部5dとが前後設けられたボビン形状(鼓形状)をしたものとなっている。
【0012】
前記スプール5は前後方向に貫通した筒状(円筒状)をし、巻取り部5a部位においてスプール5内を前後に仕切る仕切り部5eが筒状内に設けられているが、該仕切り部5eには、前記スプール軸4が遊嵌状に貫通する貫通孔5fが形成され、そして仕切り部5eを底面部5gとし、その前側部位が後述するようにドラグ機構Dを内装するための凹陥状部5hとなっている。
【0013】
前記凹陥状部5hには、前側が開放(開口)した有底円筒状のドラグケース8が内嵌状に組込まれるが、該ドラグケース8の底板面部8aの後面部(外側面部)には、周回り方向に間隔を存して複数の係止突起8bが設けられている。そしてドラグケース8を、底板面部8aが底面部5gに当接するよう凹陥状部5hに組込んだ場合に、係止突起8bが底面部5gに形成した係止凹部5iに嵌入することになり、これによってドラグケース8は、スプール5に対して回り止め状に一体化された状態で組込まれるようになっている。さらにドラグケース8には、前記組み込まれた状態でスプール軸4が自由回転状態で遊嵌する貫通孔8eが底面部8aに形成されている。
【0014】
このようにして凹陥状部5hに組込まれたドラグケース8には、スプール軸4に設けた面取り部(回り止め部、本実施の形態では左右方向に対向する二面の面取りとなっている。)4aに対応する形状の貫通孔9aに面取り部4aが貫通することで、スプール軸4に対して回り止め状に一体化されるスプール軸側制動板9と、スプール軸4が自由回転するよう遊嵌状に貫通する貫通孔10aが形成されると共に、ドラグケース外周面部8cの内周面に形成された係止凹部8dに係合することで、前記スプール5に対して回り止め状に一体化するための係止突部10bが形成されたスプール側制動板10とがドラグ機構Dを構成するための制動板(摩擦板)として前後方向に交互に積層された状態で内装(収容)されている。
【0015】
さらに本実施の形態では、スプール側制動板10の前側に底面板部11aが摺動する状態で積層状に配された前端側制動板11が設けられるが、該前端側制動板11の底板面部11aには、スプール軸側制動板9と同様、スプール軸4の面取り部4aが回り止め状に貫通する貫通孔11bが形成されると共に、底板面部11bの外周縁からは、凹陥状部5hの内周面から離間する状態で内嵌する側面板部11cが形成されていることで、前端側制動板11は、前端側が開口した有底円筒状に形成され、ドラグ機能Dにおいてスプール軸側制動板9と同様の機能を発揮するものであるが、該前端側制動板11は、ドラグケース8に対して前方にはみ出た状態で凹陥状部5hに組込まれる構成になっている。因みに、本実施の形態で採用される制動板9、10、11は何れも金属製(例えば鋼製、ステンレス製)のものとなっているが、金属製に限定されず、汎用の摩擦クラッチ機構に採用される摩擦板を用いて形成してもよいことはいうまでもない。
そのうえこのものでは、スプール軸側制動板9とドラグケース8の底板面部8aとのあいだ、スプール軸側制動板9とスプール側制動板10とのあいだ、スプール側制動板10と前端側制動板11とのあいだには、それぞれフェルト製の介装材(中間材)12が介装された構造のドラグ機構Dとなっているが、該介装材12にも、スプール軸4が遊嵌状に貫通する貫通孔12aが形成されている。
【0016】
一方、ドラグ調節具13は、スプール5の前側フランジ部5dから前方に突出する状態で、指での回し操作が可能となる操作部14と、該操作部14の後面にビス15dを介して固定される円板状の基板部15a、該基板部15aから後方に延びていて、前記スプール軸4の螺子部4bが螺合(螺入)する雌螺子部15bが嵌入する円筒状の脚片部15cが設けられた中間部材15と、前側が開口し、前記脚片部15cに間隙を存して外嵌する一方で前端側制動板11の側面板部11cに間隙を存して内嵌する側片部16a、前記前端側制動板11の底面板部11bに当接(摺接)する底面板部16bを備え、該底面板部16bにスプール軸4が遊嵌状に貫通する貫通孔16cが設けられた有底円筒状の底板部材16とを備えて構成されている。この場合に、底板部材16は、操作部14、中間部材15と共に一体回動するように構成されていると共に、中間部材15の雌螺子部15bに遊嵌状に外嵌し、脚片部15cに遊嵌状に内嵌する状態で中間部材15の基板部15aと底板部材16の底面板部16bのあいだに、ドラグ機構Dにおけるドラグ力を付与するための弾機17が介装されている。
【0017】
本実施の形態では、このようにしてドラグ機構Dが構成されたものであって、次にドラグ機構Dの作動について説明する。前述した操作部14を回し操作した場合に、スプール軸4に対してドラグ調整具13が前後方向に移動することになる。
そしてこの移動が後方への移動(リール本体1側への移動)であった場合、該移動は、ドラグ調整具13の構成部材である底板部材16の底面板部16bが前端側制動板11の底面板部11bを後方に向けて押圧する方向の移動となり、この移動は、弾機17の付勢力を増大するための移動になって前端側制動板11、スプール側制動板10、スプール軸側制動板9の押し付け力が強くなり各制動板11、10、9に摺接する介装材12とのあいだの摺接部位の摺動抵抗が大きくなってドラグ力が増大する。
これに対し、ドラグ調整具13の移動が前方の移動であった場合、これとは逆に弾機17の付勢力が低減して各制動板11、10、9に摺接する介装材12とのあいだの摺動抵抗が小さくなってドラグ力が減少することになり、このようにしてドラグ力調整ができるようになっている。そしてこのようなドラグ力の調整機能は、何れも従来公知の構成である。
【0018】
次に、本発明が実施されたシール(防水)手段について説明をする。本実施の形態では、ドラグ機構を保護するため、前記特許文献1に記載される従来のものと同等のシール手段に加えて、本発明が実施された三種類のシール手段の都合四種類のシール手段を採用している。
【0019】
まず、前記従来のシール手段は、ドラグ調整具13とスプール5の内周面部5hの開口端縁部位とのあいだに形成される間隙をシールするためのものであり、そのため、中間部材基板部15aの外周部に基部18aが内嵌組込みされ、先端側の襞状部18bがスプール内周面部5hの開口側内周面に弾圧状に当接することで、ドラグ調整具13とスプール内周面部5hとのあいだの間隙を塞いでシールする従来と同様の円環状(リング状、円弧状)のシール材(防水材)18が設けられた構成になっている。
【0020】
次に、本発明が実施された第一のシール手段について説明するが、このものは、スプール軸4に回転自在に設けられる前述したドラグ調整具13の構成部材である底板部材16の底面板部16bと前端側制動板11の底面板部11bとのあいだの摺動面部に第一のシール材19が第一のシール手段を構成するものとして介装されている。
この第一のシール材19は本実施の形態ではO-リングを用いており、前端側制動板11の底面板部11bに形成されたシール溝11dに嵌合された状態で、該シール溝11dからはみ出た部位が前記ドラグ力調節された状態の底板部材16の底面板部16bに押圧されることで弾圧変形し、これによって底板部材16の底面板部16bと前端側制動板11の底面板部11bとのあいだの摺動面部のシールをすることになって、該摺動面部を通して異物がドラグケース8内に侵入するのを防止する構成になっている。
尚、第一のシール材19は、前端側制動板11に設けたシール溝11dに嵌合する構成になっているが、シール溝は、第一のシール材19の位置決め取付けをするため設けたものであり、このためシール溝を、ドラグ調整具13側に設けた構成、さらには前端側制動板11、ドラグ調整具13の両者に設けた構成にしてもよいことは勿論である。
【0021】
さらに本実施の形態では、前記ドラグケース8の外周面部8cとスプール前側フランジ部5dの内周面部5hとのあいだの間隙に、第二、第三のシール手段を構成するための第二のシール材20が介装されている。該第二シール材20は、前記内周面部5hからドラグケース8の上端縁を越えて前端側制動板11の底面板部11b位置にまで至る円筒形状をした本体(シール材本体)20aを備えているが、該本体20aは、外周面部が凹陥状部5hの内周面に対して遊嵌状態で内嵌し、内周面部が前端側制動板11およびドラグケース8の外周面に間隙を存する状態で外嵌している。因みに本体20aの凹陥状部5hに対する遊嵌状態の内嵌は、本体20aの外周面が凹陥状部5hの内周面から離間していることが好ましいが、当接している場合においては、軽く当接する程度であって、ドラグ力に影響を殆ど与えない(実釣りをしている場合にドラグ機能に影響がない)程度の摺動抵抗を有するものであれば問題となることはない。
そして本体20aの内周面部には、前端側に位置していて前端側制動板底面板部11bの外周面に弾圧状に当接して凹陥状部9hの内周面部と前端側制動板11の外周面部とのあいだの隙間Jをシールして第二のシール手段を構成する凸状の前端側凸状部19bと、後端側に位置していてドラグケース8の外周面部8cに弾圧状に当接して本体20aとドラグケース8とのあいだの間隙をシールして第三のシール手段を構成する凸状の後端側凸状部20cとが形成されている。
【0022】
そしてこのように第二シール材20を構成することにより、該第二シール材本体20aに設けた前端側凸状部20bが前端側制動板11の外周面部に弾圧状に当接することにより前端側制動板11部位でのシール機能が発揮され、これによって、前端側制動板側面板部11cの外周面を通り、ドラグケース8の前端を通ってドラグ機構Dに浸入しようとする異物の侵入を防止することになり、このようにして第二のシール手段が実施されている。
さらに第二シール材本体20aに設けた後端側凸状部20cがドラグケース8の外周面部8cに弾圧状に当接することによりドラグケース8部位でのシール機能が発揮され、これによって、前端側制動板側面板部11cの外周面、第二シール材20の本体20aの外周面と凹陥状部5hとのあいだから該本体20aの後端縁部とスプール底面部5gとのあいだ、そして本体20aの内周面とドラグケース8の外周面とのあいだを経由してドラグ機構Dに侵入しようとする異物の侵入を防止することになり、このようにして第三のシール手段が構成されている。
【0023】
叙述の如く構成された本発明の実施の形態において、ベール7を倒伏姿勢にした状態でハンドル3を巻き操作することによりスプール5が前後方向に往復移動すると共にロータ6が回転することになってテグスLが糸巻き部5aに巻装されることになるが、このような使用状態で、テグスL側からの引張り力が大きくなってドラグ機構Dのドラグ力に勝ると、スプール5は、前記引張り力を受けてスプール軸4に対して回転することになってテグスLが繰出されることになる。
【0024】
このようにしてスピニングリールは機能することになるが、斯かるスピニングリールの使用中において、凹陥状部5hの前端縁部とドラグ調整具13とのあいだの間隙から凹陥状部5h内に浸入しようとする異物は、ドラグ調整具13と凹陥状部5hとのあいだをシールする従来のシール材18によって侵入が最初に阻止されることになるが、このシール材18によるシールを破って異物が凹陥状部5h内に浸入した場合に、該浸入した異物は、前記ドラグ調整具13の構成部材である底板部材16の底板面部16bと前端側制動板11の前端面部とのあいだの当接面部を通ってドラグ機構Dに侵入しようとする。
この場合に、底板部材16の底板面部16bと前端側制動板11の前端面部とのあいだの当接面部に、前記ドラグ調整具13側からの押圧力(弾機17の付勢力を受けたドラグ力)を受けて弾性変形する第一のシール材19が介装されている結果、第一のシール材19は、スプール凹陥状部5hの奥側において、しかもドラグ機構Dのドラグ力を受けて弾性変形したものになって高いシール性能を長期に亘って発揮できることになる。しかも第一のシール材19の弾性変形は、ドラグ機構Dのドラグ力を利用しているため、別途、専用の押圧手段を設けて弾圧する必要がないため、構造の複雑化を回避することもできる。
【0025】
さらにこのものでは、前端側制動板11の外周面部とスプール凹陥状部5hの内周面部とのあいだの間隙を塞ぐ第二のシール手段を備えている。具体的には、スプール凹陥状部5hに回り止め状に内嵌し、前記前端側制動板11以外の制動板9、10が収容されるドラグケース8を備え、そしてこのドラグケース8とスプール凹陥状部5hとのあいだの間隙に、前端縁部が前記ドラグケース8の前端縁部よりも前方に突出する状態の第二のシール材20の本体20aが組込まれているが、該本体20aの前端縁部に形成された前端側凸状部20bが前端側制動板11の外周面部に弾圧状に当接して第二のシール手段を構成している結果、前端側制動板11の外周を通ってドラグ機構D側に侵入しようとする異物の侵入を防止できることになる。
【0026】
しかもこのものでは、第二のシール材20の本体20aに設けられる後端側凸状部20cがドラグケース8の外周面に弾圧状に当接していることで第三のシール手段を構成している結果、本体20aの外周、本体20aの前端縁を経由してドラグ機構Dに侵入しようとする異物の侵入を防止できることになる。
【0027】
そしてこのものでは、ドラグケース8に前端側制動板11以外の制動板9、10が内装され、そして本体部20aに設けた前後両端側の凸状部20b、20cが前端側制動板11とドラグケース8との外周面に弾圧状に当接していることで、第二のシール材20が前端側制動板11とドラグケース8とを一連状に連結し、そして前端側制動板11がドラグケース8の前端開口を塞ぐ蓋体として機能することになるため、これらが一体化した一つの組み物(アッシー)として提供できることになり、この結果、ドラグケース8がない既存のドラグ機構に換えて、シール効果の優れたドラグ機構の交換品として提供できることになる。
【0028】
しかもこの場合に、第二のシール材20の本体20aは、凹陥状部5hに対して遊嵌する状態で内嵌しているため、凹陥状部5hとのあいだの摺動抵抗はないか、あっても僅かなものとなって、第二、第三のシール手段を構成するため第二のシール材20を、ドラグケース8の外周面と凹陥状部5hの内周面とのあいだに設けたものでありながらドラグ力に影響を与えることが実質的にないものとなる。
【0029】
尚、本発明は前記実施の形態のものに限定され<ものでないことは勿論であって、例えば図5(A)に示す第二の実施の形態のもののように、前端側制動板11の外周面に第三のシール材21を取付け、該第三のシール材21の先端縁を凹陥状部5hの内周面に弾圧状に当接するようにして前端側制動板11と凹陥状部5hの内周面とのあいだを直接シールするようしてもよく、このようにした場合には、ドラグケース8のないものであっても本発明の第一、第二のシール手段を構成することができる。尚、このようなシール構成としては、第三のシール材を逆に凹陥状部5h側に取付けても実施することができる。
また図5(B)に示す第三の実施の形態のものでは、後端側凸状部がないものとしているが、このものでは、前端側制動板11が第四のシール材22の前端縁部に対して後方側に向けて押圧状に当接することで、第四のシール材22の前端縁部、後端縁部がそれぞれ前端側制動板11、スプール底面部5gに弾圧状に当接することになって前後のシール機能を発揮したものになっており、このようにしても本発明を実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、魚釣りに用いられるスピニングリールに利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 リール本体
3 ハンドル
4 スプール軸
5 スプール
5a 糸巻き部
5h 凹陥状部
6 ロータ
8 ドラグケース
9 スプール軸側制動板
10 スプール側制動板
11 前端側制動板
13 ドラグ調整具
18 従来のシール材
19 第一のシール材
20 第二のシール材
20a 本体
20b 前端側凸状部
20c 後端側凸状部
D ドラグ機構
図1
図2
図3
図4
図5