IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社MFCテクノロジーの特許一覧

特許7469790金属膜用スラリーの製造方法および製造装置
<>
  • 特許-金属膜用スラリーの製造方法および製造装置 図1
  • 特許-金属膜用スラリーの製造方法および製造装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】金属膜用スラリーの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240410BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240410BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019235305
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021103753
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】519228669
【氏名又は名称】株式会社MFCテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】村田 誠
(72)【発明者】
【氏名】松尾 喬
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 修
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-197573(JP,A)
【文献】特開平10-036819(JP,A)
【文献】特開平11-300352(JP,A)
【文献】特開平11-347569(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0157671(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CMPプロセスに使用する金属膜用スラリーの製造方法であって、
該方法は、アルカリ性スラリーを出発原料として、砥粒を含む酸性の金属膜用スラリーを製造する方法であり、
前記アルカリ性スラリーを純水により希釈する希釈工程と、
前記希釈工程後の希釈スラリーから陽イオンを除去する陽イオン除去工程と、
前記陽イオン除去工程で得られたスラリーに対して、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する調整工程とを備え、
前記陽イオン除去工程には、(1)砥粒に対して不透過である透過膜を有する限外濾過装置に、スラリーを通過させて、水溶性のイオン成分や化学物質が溶解する透過液を排出して濃縮する工程Aと、工程Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する工程Bを、そのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮工程、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換工程、が含まれ
前記希釈濃縮工程が、該希釈濃縮工程を行う前のスラリーのpHの値に対し、前記工程B後のpH値が1~3小さくなるまで、前記工程Aと前記工程Bを繰り返す希釈濃縮工程であることを特徴とする金属膜用スラリーの製造方法。
【請求項2】
CMPプロセスに使用する金属膜用スラリーの製造方法であって、
該方法は、アルカリ性スラリーを出発原料として、砥粒を含む酸性の金属膜用スラリーを製造する方法であり、
前記アルカリ性スラリーを純水により希釈する希釈工程と、
前記希釈工程後の希釈スラリーから陽イオンを除去する陽イオン除去工程と、
前記陽イオン除去工程で得られたスラリーに対して、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する調整工程とを備え、
前記陽イオン除去工程には、(1)砥粒に対して不透過である透過膜を有する限外濾過装置に、スラリーを通過させて、水溶性のイオン成分や化学物質が溶解する透過液を排出して濃縮する工程Aと、工程Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する工程Bを、そのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮工程、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換工程、が含まれ、
前記希釈濃縮工程において、
前記工程Bの希釈率が1.5~3.0倍であることを特徴とする金属膜用スラリーの製造方法。
【請求項3】
CMPプロセスに使用する金属膜用スラリーの製造方法であって、
該方法は、アルカリ性スラリーを出発原料として、砥粒を含む酸性の金属膜用スラリーを製造する方法であり、
前記アルカリ性スラリーを純水により希釈する希釈工程と、
前記希釈工程後の希釈スラリーから陽イオンを除去する陽イオン除去工程と、
前記陽イオン除去工程で得られたスラリーに対して、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する調整工程とを備え、
前記陽イオン除去工程には、(1)砥粒に対して不透過である透過膜を有する限外濾過装置に、スラリーを通過させて、水溶性のイオン成分や化学物質が溶解する透過液を排出して濃縮する工程Aと、工程Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する工程Bを、そのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮工程、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換工程、が含まれ、
前記イオン交換工程後に得られるスラリー中の陽イオンの濃度が10ppm以下であることを特徴とする金属膜用スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記出発原料が、アルカリ金属イオン、または、アンモニウムイオンを含むアルカリ性スラリーであることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属膜用スラリーを用いて研磨される金属膜が、Cu、W、Ta、またはAlのうちから選択される金属の膜であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項記載の金属膜用スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記砥粒が、シリカ粒子、セリア粒子、またはアルミナ粒子のうちの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1から請求項までのいずれか1項記載の金属膜用スラリーの製造方法。
【請求項7】
CMPプロセスに使用する金属膜用スラリーの製造装置であって、
該装置は、アルカリ性スラリーを出発原料として、砥粒を含む酸性の金属膜用スラリーを製造する装置であり、
前記アルカリ性スラリーを純水により希釈する希釈手段と、
前記希釈手段で希釈されたスラリーから陽イオンを除去する陽イオン除去手段と、
前記陽イオン除去手段で陽イオン除去されたスラリーに対して、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する調整手段とを備え、
前記陽イオン除去手段は、(1)砥粒に対して不透過である透過膜を有する限外濾過装置に、スラリーを通過させて、水溶性のイオン成分や化学物質が溶解する透過液を排出して濃縮する手段Aと、手段Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する手段Bを、スラリーのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮手段、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換手段を有し、
前記希釈濃縮手段が、該希釈濃縮手段による処理を行う前のスラリーのpHの値に対し、前記手段Bによる希釈後のpH値が1~3小さくなるまで、前記手段Aと前記手段Bを繰り返す希釈濃縮手段であることを特徴とする金属膜用スラリーの製造装置。
【請求項8】
CMPプロセスに使用する金属膜用スラリーの製造装置であって、
該装置は、アルカリ性スラリーを出発原料として、砥粒を含む酸性の金属膜用スラリーを製造する装置であり、
前記アルカリ性スラリーを純水により希釈する希釈手段と、
前記希釈手段で希釈されたスラリーから陽イオンを除去する陽イオン除去手段と、
前記陽イオン除去手段で陽イオン除去されたスラリーに対して、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する調整手段とを備え、
前記陽イオン除去手段は、(1)砥粒に対して不透過である透過膜を有する限外濾過装置に、スラリーを通過させて、水溶性のイオン成分や化学物質が溶解する透過液を排出して濃縮する手段Aと、手段Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する手段Bを、スラリーのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮手段、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換手段を有し、
前記希釈濃縮手段において、
前記手段Bの希釈率が1.5~3.0倍であることを特徴とする金属膜用スラリーの製造装置。
【請求項9】
CMPプロセスに使用する金属膜用スラリーの製造装置であって、
該装置は、アルカリ性スラリーを出発原料として、砥粒を含む酸性の金属膜用スラリーを製造する装置であり、
前記アルカリ性スラリーを純水により希釈する希釈手段と、
前記希釈手段で希釈されたスラリーから陽イオンを除去する陽イオン除去手段と、
前記陽イオン除去手段で陽イオン除去されたスラリーに対して、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する調整手段とを備え、
前記陽イオン除去手段は、(1)砥粒に対して不透過である透過膜を有する限外濾過装置に、スラリーを通過させて、水溶性のイオン成分や化学物質が溶解する透過液を排出して濃縮する手段Aと、手段Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する手段Bを、スラリーのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮手段、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換手段を有し、
前記イオン交換手段による処理後に得られるスラリー中の陽イオンの濃度が10ppm以下であることを特徴とする金属膜用スラリーの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMPプロセスを備えた半導体集積回路製造に用いられる金属膜用スラリーの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造において、ウェハー基板表面の平坦化に加えて、近年はダマシン法における基板に埋め込まれた導体金属の平坦化、SiOに比較して低い比誘電率をもつ絶縁材料の平坦化、セルの積層数を増やすためのビアホールの平坦化など、高密度セルの製造および100nm以下のより微細なパターンの製造などの方法が重要となってきている。ウェハーおよびこの基板上に形成された部材の平坦化は化学機械研磨法(以下、CMPプロセスという)が広く採用され、半導体製造プロセスにおいてより重要となっている。半導体材料の平坦化がより重要となるに従って、CMPプロセスに使用されるCMPスラリーの量が増えるとともに、半導体集積回路の製造コストに占める割合も高まっている。このため、CMPスラリーの品質を維持しながら価格を低減することが求められている。
【0003】
CMPスラリーの価格を低減するための一つの方法として、使用済みのCMPスラリーを再生する方法が知られている。CMPスラリーを再生する方法として、例えば、砥粒、分散媒および不純物を含む使用済CMPスラリーより分散媒の一部を除去する濃縮工程と、濃縮されたスラリーのpHを調整するpH調整工程と、pHが調整されたスラリーより所定粒径以下の砥粒および分散媒を回収する回収工程とを有するCMPスラリー再生方法が知られている(特許文献1)。この特許文献1は、固液分離により砥粒(研磨剤)を効率的に回収することを目的としている。
【0004】
また、CMPスラリー再生方法として、タンクに回収された使用済CMPスラリーを、限外濾過ユニットを通じて水を除去しながら循環濃縮し、濃縮物のpHを調整してCMPスラリーを再生させる方法も知られている(特許文献2)。限外濾過ユニットとしては、セラミックフィルターなどの膜フィルターが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-331456号公報
【文献】特表2013-535848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなCMPスラリー再生方法が知られているが、実際にCMPプロセスを行う施設にCMPスラリー再生システムを構築することは容易ではなく、システムの大型化や、複雑化などが懸念される。また、CMPスラリー再生システムを運転するための人員や、薬品注入、消耗品交換作業などが必要となり、CMPプロセス施設における人的労力が増大するおそれがある。
【0007】
さらに、金属膜用スラリーは酸性であることが一般的で、砥粒の良好な分散性を確保することが難しく、上記のようなCMPスラリー再生方法では、再生後のCMPスラリーの品質がばらついてしまうおそれがある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、低価格で、安定した品質の金属膜用スラリーの製造方法および製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属膜用スラリーの製造方法は、CMPプロセスに使用する金属膜用スラリーの製造方法であって、該方法は、砥粒の分散性が良好なアルカリ性スラリーを出発原料として、酸性の金属膜用スラリーを製造する方法であり、上記アルカリ性スラリーをより分散性を向上させるための純水により希釈する希釈工程と、上記希釈工程後の希釈スラリーから水酸化物イオンのカウンターイオンであるところの陽イオンを除去する陽イオン除去工程と、上記陽イオン除去工程で得られたスラリーに対して、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する調整工程とを備え、上記陽イオン除去工程には、(1)砥粒に対して不透過である透過膜を有する限外濾過装置に、スラリーを通過させて、水溶性のイオン成分や化学物質が溶解する透過液を排出して濃縮する工程Aと、工程Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する工程Bを、そのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮工程、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換工程、が含まれることを特徴とする。
【0010】
上記希釈濃縮工程が、該希釈濃縮工程を行う前のスラリーのpHの値に対し、上記工程B後のpH値が1~3小さくなるまで、上記工程Aと上記工程Bを繰り返す希釈濃縮工程であることを特徴とする。
【0011】
上記希釈濃縮工程において、上記工程Bの希釈率が1.5~3.0倍であることを特徴とする。ここで、希釈率とは、希釈後のスラリーの体積を希釈前のスラリーの体積で割った値のことをいう、以下同じ。
【0012】
上記イオン交換工程後に得られるスラリー中の陽イオンの濃度が10ppm以下であることを特徴とする。
【0013】
上記出発物質が、アルカリ金属イオン、または、アンモニウムイオンを含むアルカリ性スラリーであることを特徴とする。
【0014】
上記金属膜用スラリーを用いて研磨される金属膜が、Cu、W、Ta、またはAlのうちから選択される金属の膜であることを特徴とする。
【0015】
上記砥粒が、シリカ粒子、セリア粒子、またはアルミナ粒子のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0016】
本発明の金属膜用スラリーの製造装置は、CMPプロセスに使用する金属膜用スラリーの製造装置であって、該装置は、砥粒の分散性が良好なアルカリ性スラリーを出発原料として、酸性の金属膜用スラリーを製造する装置であり、上記アルカリ性スラリーをより分散性を向上させるための純水により希釈する希釈手段と、上記希釈手段で希釈されたスラリーから水酸化物イオンのカウンターイオンであるところの陽イオンを除去する陽イオン除去手段と、上記陽イオン除去手段で陽イオン除去されたスラリーに対して、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する調整手段とを備え、上記陽イオン除去手段は、(1)砥粒に対して不透過である透過膜を有する限外濾過装置に、スラリーを通過させて、水溶性のイオン成分や化学物質が溶解する透過液を排出して濃縮する手段Aと、手段Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する手段Bを、スラリーのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮手段、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の金属膜用スラリーの製造方法は、CMPプロセスに使用する砥粒を含む酸性の金属膜用スラリーを、砥粒の分散性が良好なアルカリ性スラリーを出発原料として製造する方法であり、アルカリ性スラリーをより分散性を向上させるための希釈する希釈工程と、希釈工程後の希釈スラリーから水酸化物イオンのカウンターイオンであるところの陽イオンを除去する陽イオン除去工程と、陽イオン除去工程で得られたスラリーに対して、酸化剤などを添加する調整工程とを備えてなり、上記の陽イオン除去工程には、(1)所定の限外濾過装置にスラリーを通過させて、水溶性の成分などが溶解する透過液を排出して濃縮する工程Aと、工程Aで得られた濃縮スラリーを希釈する工程Bを、そのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮工程、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換工程が含まれるので、短時間で処理できるため、砥粒の分散性が良好な組成が一定であるアルカリ性スラリーを原料に用いて、金属膜用スラリーを製造することができる。これにより、低価格で、安定した品質の金属膜用スラリーを製造することができる。
【0018】
希釈濃縮工程が、希釈濃縮工程を行う前のスラリーのpHの値に対し、工程B後のpH値が1~3小さくなるまで、工程Aと工程Bを繰り返す希釈濃縮工程であるので、アルカリ性スラリー中のイオン成分や化学物質の除去に過大な時間を要せず、プロセス負担を軽減できる。これにより、製造全体に要する時間を短縮できるため、金属膜用スラリーの製造コストをさらに低減することができる。また、イオン成分を効率よく低減できるため、イオン交換処理負担も軽減される。
【0019】
希釈濃縮工程において、工程Bの希釈率は任意に設定が可能であるが、除去対象物の除去効果と希釈時に投入する水量間の関係を検討した結果、1.5~3.0倍が適当であった。この希釈率では、再度工程Aを実施する際に排出される透過液の排出量を低減することができ、透過液の排水処理負担も軽減される。
【0020】
イオン交換工程後に得られるスラリー中の陽イオンの濃度が10ppm以下であるので、後のpH調整時に悪影響を及ぼすことは無い。
【0021】
出発物質が、アルカリ金属イオン、または、アンモニウムイオンを含むアルカリ性スラリーであるので、陽イオン交換樹脂でのイオン交換が速やかに進行し、製造に要する時間を短縮することができる。
【0022】
金属膜用スラリーを用いて研磨される金属膜が、Cu、W、Ta、またはAlのうちから選択される金属の膜であるので、これらの金属膜を研磨するための一般的なCMPスラリーと同等の研磨速度を有し、低価格な、金属膜用スラリーを提供することができる。
【0023】
砥粒が、シリカ粒子、セリア粒子、またはアルミナ粒子のうちの少なくとも1種であるので金属膜に適した砥粒を選択することで、金属膜用スラリーの価格と研磨性能の両立を図ることができる。
【0024】
本発明の金属膜用スラリーの製造装置は、CMPプロセスに使用する砥粒を含む酸性の金属膜用スラリーを、砥粒の分散性が良好なアルカリ性スラリーを出発原料として製造する装置であり、アルカリ性スラリーをより分散性を向上させるための希釈する希釈手段と、希釈手段で希釈されたスラリーから水酸化物イオンのカウンターイオンであるところの陽イオンを除去する陽イオン除去手段と、陽イオン除去手段で陽イオン除去されたスラリーに対して、酸化剤などを添加する調整手段とを備えてなり、上記の陽イオン除去手段は、(1)所定の限外濾過装置にスラリーを通過させて、水溶性のイオン成分などが溶解する透過液を排出して濃縮する手段Aと、手段Aで得られた濃縮スラリーに純水を加えて希釈する手段Bを、スラリーのpHが所定の値となるまで繰り返す希釈濃縮手段、および、(2)スラリーを陽イオン交換樹脂に通液させることで、陽イオンの濃度を低下させて、そのpHを所定の値とするイオン交換手段を有するので、価格が安く、砥粒の分散性が良好な組成が一定であるアルカリ性スラリーを原料に用いて、金属膜用スラリーを製造することができる。これにより、低価格で、安定した品質の金属膜用スラリーを製造することができる。
なお、良好な砥粒の分散性はそのゼータ電位の絶対値を大きくすることが有効であり、ゼータ電位はスラリーのpHを10~12とすることで大きくすることが可能となる。本発明の工程はpHが10よりも小さな中性のスラリーを経るものであるが、本発明の工程で得られるスラリーは、出発物質であるアルカリ性スラリー同様の良好な砥粒分散性を保持していることが確認できている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の金属膜用スラリーの製造方法を示す工程図である。
図2】製造装置の概要と配管系統を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
CMPプロセスに使用されるCMPスラリーは、分散性がよく粒子径が揃っているシリカ微粒子(ヒュームドシリカ、コロイダルシリカなど)や、研磨速度の大きいセリア微粒子、硬度が高く安定なアルミナ微粒子などが研磨剤として使用されている。これらCMPスラリーは、所定粒子径、濃度の微粒子が水中に分散されてCMPスラリーメーカーにより提供され、各現場(客先工場施設)に応じた濃度に希釈されてCMPプロセスマシンに供給される。なお、このCMPスラリー中には研磨剤の他に、水酸化カリウム、アンモニア、有機酸、無機酸、アミン類などのpH調整剤、界面活性剤などの分散剤、過酸化水素、ヨウ素酸カリウム、硝酸鉄(III)などの酸化剤、などが予め添加されたり、あるいは、研磨時に別途添加されたりする。
【0027】
本発明の金属膜用スラリーの製造方法の一形態の概略を図1に基づいて説明する。図1に示すように、本発明の金属膜用スラリーの製造方法は、市販のアルカリ性スラリー1を、金属膜用のスラリーとして使用可能な程度までイオン成分を低減するとともに、その液性をアルカリ性から酸性にする技術である。具体的には、図1の金属膜用スラリー10の製造方法は、アルカリ性スラリー1を純水により希釈する希釈工程2と、希釈工程2で得られた希釈スラリーを希釈濃縮する希釈濃縮工程3と、希釈濃縮工程3で得られたスラリーを陽イオン交換樹脂に通液させるイオン交換工程4と、イオン交換工程4により含有イオン成分の濃度が低下したスラリーに各種添加剤を添加する調製工程5と、調製工程5で得られたスラリーから、過大な凝集物などの異物を濾過により除去するための濾過工程6とを備える。
【0028】
ここで、希釈濃縮工程3とイオン交換工程4の2つの工程で陽イオンを除去することから、これら2つの工程を合わせて、陽イオン除去工程と呼ぶ。陽イオン除去工程では、希釈濃縮工程とイオン交換工程を行う順番、およびそれぞれの回数は、上記に限らず、自由に設定することができる。
【0029】
希釈工程2は、次工程の陽イオン除去工程での陽イオン除去を効率的に行うための工程である。アルカリ性スラリーを希釈しないまま濃縮しようとした場合、希釈濃縮工程3における工程Aで用いられる膜フィルターが目詰まりを起こしやすく、イオン成分や低分子の除去がされ難くなる。
【0030】
希釈濃縮工程3は、希釈工程2で得られた希釈スラリーを、膜フィルターを用いたクロスフロー濾過方式によって濃縮する工程A(以下、限外濾過ともいう)と、工程Aで濃縮されたスラリーに純水を加えて希釈する工程Bと、を含む。工程Bでの希釈の後には、該スラリーのpH測定7を行う。所定のpH値まで低下していなかった場合は、再度工程A、工程B、およびpH測定7を繰り返す。所定のpH値に達した場合は、イオン交換工程4へと移行する。イオン交換工程4の後には、イオン交換されたスラリー中のイオンクロマトグラフィー測定8を行うことにより、スラリー中の各イオン成分の濃度を確認する。イオン濃度が所定の値以下であることを確認した後、調整工程5へ移行する。調整工程5では、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を添加する。調整工程5で得られたスラリーは、pH測定9が行われ、所定のpH値であることが確認された後に、濾過工程6へと移行する。濾過工程6において、該スラリーは過大な凝集物などの異物を除去され、清浄かつ、イオン溶出の無い容器へと充填される。上記工程を経ることにより、初期のアルカリ性スラリー1に比べ大幅にイオン成分が低減し、液性が酸性となった金属膜用スラリー10を得ることができる。
【0031】
金属膜用スラリー10の原料となるアルカリ性スラリー1は、アルカリ性成分として、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの水酸化物や、アンモニア、アミン、アンモニウムヒドロキシドなどの有機塩基を含有することができる。アルカリ性成分がスラリー中に溶解した結果、アルカリ性スラリー1が含有するイオンは、アルカリ金属イオン、または、アンモニウムイオンであることが好ましい。それらである場合、陽イオン除去工程での陽イオンの除去が速やかに進行する。
【0032】
アルカリ性成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどが好適に用いられ、それらは水中で、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、および水酸化物イオンに解離する。
【0033】
アルカリ性スラリーとしては、シリカや、アルミナ、セリアなどの金属酸化物微粒子を含んだアルカリ性のスラリーを用いることもできるし、粒子だけでなく各種添加剤も含有した、絶縁膜用のCMPスラリーを用いてもよい。これらは、スラリー中の陽イオンが1000ppmを超えるものもあるため、CMPにおける金属膜用のスラリーの原料として用いるためには、イオン濃度を大幅に低減する必要がある。
【0034】
本発明の希釈濃縮工程で用いられる限外濾過は、一般的に、大量のスラリーに対してイオン成分の除去処理を行うことができるが、金属膜用のスラリーとして使用可能なレベルまでイオン成分を低減しようとする場合には、大量の排水が発生するとともに、イオン成分の除去処理に長時間を要する。
一方、イオン交換工程は、一定量の陽イオン交換樹脂を用いることにより短時間でイオン成分の除去を行うことができるが、陽イオン交換樹脂が高価であることから、本プロセスに要するコストが上がってしまう。
【0035】
そこで、希釈濃縮工程と、イオン交換工程を併用することにより、1000ppm以上の陽イオンを含有するアルカリ性スラリーを原料としても、イオン成分の濃度を金属膜用のスラリーとして使用可能なレベルまで低くすることができる。また、希釈濃縮工程のみで金属膜用のスラリーを製造した場合に比べ、イオン成分低減に要する時間が短縮され、製造工程全体に要する時間が短縮される。さらに、希釈濃縮工程の回数も低減できることにより、発生する排水の量も低減することが可能である。イオン交換工程においては、イオン成分の全量を交換しなくてよいため、必要な陽イオン交換樹脂の量が少なくなり、コストへの影響も抑えることができる。これにより低価格で、安定した品質の金属膜用スラリーを製造することができる。
【0036】
陽イオン除去工程における、希釈濃縮工程とイオン交換工程の順番としては、上述のように、どちらを先に行ってもよく、交互に行ってもよい。例えば、希釈濃縮工程を行った後にイオン交換工程を行ってもよいし、逆に、イオン交換工程を行った後に希釈濃縮工程を行ってもよい。もしくは、希釈濃縮工程を行った後にイオン交換工程を行い、さらにもう一度希釈濃縮工程を行うなどしてもよい。このような、陽イオン除去工程内での各工程の順番は、希釈濃縮工程で用いるフィルターの種類、限外濾過装置の大きさ、イオン交換工程で用いるイオン交換樹脂の種類や量、イオン交換樹脂が充填されたイオン交換カラムの大きさなどの条件に応じて、品質とプロセス負担を両立できる最適な条件を設定することができる。
【0037】
特に、CMP用スラリーに求められる低価格化の観点からは、希釈濃縮工程を行った後に、イオン交換工程を行うことが、イオン交換樹脂の使用量を低減でき、製造プロセスに要するコストを低減できるため、好ましい。
例えば、カリウムイオン濃度が4000ppmのアルカリ性スラリーを出発原料とした場合、金属膜用スラリー製造過程でのスラリー中の陽イオン濃度は、希釈工程で4倍に希釈されることで1000ppmとなり、希釈濃縮工程後に約100ppmとなり、イオン交換工程後には10ppm以下まで低減させることができる。
【0038】
初期の陽イオン濃度が数千ppmのアルカリ性スラリーから、酸性の金属膜用スラリーを製造するためには、陽イオン濃度を最終的に数ppmレベルまで低下させる必要がある。しかし、希釈濃縮工程のみで陽イオン濃度を初期濃度の約1/1000まで低下させようとすると、上述のようにその処理に長時間を要するため、生産性が低く、数ppmレベルまでの低減は現実的に困難である。スラリーからのイオン除去の方法が記載された、上記スラリー廃液の再生方法(特許文献2)は、研磨により発生した金属膜由来のイオン成分の除去を想定しており、大量に存在する陽イオン濃度を数ppmレベルまで低減するための方法は開示されていない。そのため、既知の方法では、希釈濃縮工程を多数回繰り返さなくてはならないため長時間を要したり、或は、多数回繰り返しても、イオン成分の十分な濃度低減には限界があったりした。
本発明では、希釈濃縮工程とイオン交換工程を併用し、所定のプロセスでアルカリ性スラリーを処理することにより、上述の課題を解決することができる。
【0039】
再度図1により、希釈濃縮工程3において、膜フィルターを用いたクロスフロー濾過方式によって濃縮する工程Aについて説明する。工程Aで用いるフィルターとしては、砥粒は透過せず、イオン成分や低分子成分を透過するものであれば、自由に選択することができる。スラリー中の砥粒の粒径は数十nm~数百nmであるため、フィルターの孔径は10nm~100nmであることが好ましい。この程度の孔径のフィルターとしては、いわゆる限外濾過用のフィルターを用いることができる。耐久性の観点からは、セラミックフィルターを用いることが好ましい。
【0040】
希釈濃縮工程3において、工程Aで濃縮されたスラリーに純水を加えて希釈する工程Bについて説明する。本工程における希釈率は、1.1~5.0倍の範囲であることが好ましい。より好ましくは、1.5~3.0倍の希釈率であり、さらに好ましくは1.8~2.2倍の希釈率である。希釈率が小さいと、工程一回当たりの処理量が少なくて済むが、工程一回(工程Aと工程Bをそれぞれ一回行うこと)当たりのイオン成分の濃度低減効果が低いため、回数による段取り工数が増え、次の工程で要する時間が増える。また、希釈率が大きいと、処理量が多くなるため、次の工程の装置をより大きくする必要がある。希釈率が1.5~3.0倍の場合、装置の大きさが小型で済み、工程にかかる費用を抑制することができる。 一回当たりの希釈を上記のような希釈率で行った場合、希釈のために使用する純水の使用量が過大にならず、次のイオン交換工程において、少量のイオン交換樹脂で、所望のイオン濃度まで低減することができる。
【0041】
工程Bで希釈後のスラリーはpH測定7が行われ、所定のpH値に達しているか確認される。該所定のpH値は、前述の工程Bで希釈後のスラリーのpH値が、工程Aで濃縮される前のスラリーに対して、1~3小さい値の範囲内であることが好ましい。希釈濃縮工程によって、この範囲までスラリーのpHを低下させることで、本工程に要する時間が長時間化せず、かつ、イオン交換工程では少量のイオン交換樹脂で、陽イオンを除去することができる。
【0042】
pH測定7で得られたpH値が所定の範囲内にある場合、希釈濃縮工程3を経たスラリーは、次のイオン交換工程4へ移液され、陽イオン交換樹脂によるイオン交換処理が行われる。
一方、pH測定7で得られたpH値が所定の範囲内に達していない場合、再度、工程A、工程B、pH測定7の順に、所定のpH値に達するまで、希釈濃縮工程3を繰り返す。この場合、該所定のpH値は、前述の工程Bで希釈後のスラリーのpH値が、希釈濃縮工程3において最初に工程Aが行われる前のスラリーに対して、1~3小さい値の範囲内であることが好ましい。
また、pH測定だけでなく、導電率測定、密度測定を併せて行ってもよい。これにより、スラリーの状況を、より正確にモニタリングすることができる。
【0043】
イオン交換工程4では、希釈濃縮工程3で得られたスラリーを陽イオン交換樹脂に接触させることにより、スラリー中の陽イオンの濃度を数ppmレベルまで低減させる。具体的には、陽イオン交換樹脂を充填したイオン交換カラムの中を、所定の流速でスラリーを通液させることにより、例えば、カリウムイオンやアンモニウムイオンなどの陽イオンが、陽イオン交換樹脂中の水素イオンと入れ替わることで、イオン成分(ここでは水素イオン以外を指す)が除去される。通液時のスラリーの流速は、SV2~15の範囲内であることが好ましく、SV5~10程度であることがさらに好ましい。
【0044】
イオン交換工程4で用いるイオン交換カラムには、陽イオン交換樹脂とともに、陰イオン交換樹脂を混合して充填したイオン交換カラムを用いても良い。スラリー中のイオン成分として、陽イオンだけでなく、陰イオンも含有することがあるため、両方のイオン成分を除去するために、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0045】
イオン交換工程4の後に得られるスラリー中の陽イオンの濃度は、10ppmよりも小さい値であることが好ましく、3ppm以下であることがさらに好ましい。金属膜用のスラリーは、酸化剤を含むため酸性で用いられることが一般的であるが、水酸化物イオンのカウンターイオンとなる陽イオン濃度が3ppm以下であれば、後のpH調整時に悪影響を及ぼすことは無い。
【0046】
イオン交換工程4を経たスラリーは、イオンクロマトグラフィー測定8により、各イオン成分の濃度が測定される。その結果、所定のイオン濃度以下であることが確認されたスラリーは調整工程5へ移行する。スラリーには、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤などの薬品が投入、撹拌されることで、金属膜用のスラリーが調整される。
【0047】
調整工程5では、貯液タンク中のスラリーに、事前に調合された酸化剤、添加剤、および純水を投入し、その後にpH調整剤を添加し、撹拌することで、均一なスラリー溶液とする。調整手順はこれに限られず、酸化剤、添加剤、およびpH調整剤を一括で、直接貯液タンク中のスラリーへへ投入し、調整してもよい。薬品は全てを一括でスラリーへ直接投入するよりも、pH調整剤以外を事前に調合したものをスラリーへ添加し、最後にpH調整剤を添加してpH調整する方法が好ましい。一括での薬品の投入は、計量ミスなど、作業を誤った場合に、スラリー全量を廃棄しなければなら無くなるリスク回避のためである。
【0048】
pH調整剤としては、各種有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基などのうちから、幅広く選択して用いることができる。酸性のpH調整剤としては、少量の添加でもpH調整できることから、硝酸や硫酸などの無機酸が好ましい。アルカリ性のpH調整剤としては、金属イオンを生成しない有機塩基が好ましい。酸化剤としては、例えば、硝酸鉄(III)、ヨウ素酸カリウム、過酸化水素、などから選択することができる。添加剤としては、界面活性剤、有機酸、防腐剤などを目的に応じて選択することができる。有機酸としては、例えば、マロン酸、リンゴ酸、クエン酸、マレイン酸、シュウ酸、フマル酸、フタル酸、乳酸、および酒石酸などから選択することができる。金属膜表面や、金属膜からイオン化した金属イオンに配位し、研磨の促進と洗浄性の観点から、低分子量で、多価の有機酸であるマロン酸であることが好ましい。
【0049】
調整工程5で調整されたスラリーはpH測定9が行われ、所定の範囲内にあるか確認される。この際、pH測定だけでなく、導電率測定、密度測定も併せて行ってもよい。これにより、調整されたスラリーの状態をより正確に把握することができる。スラリーのpH値が所定の範囲内にあった場合、該スラリーは、ろ過工程6へ移行する。所定の範囲内の値でなかった場合、pH調整剤を添加して、所定の範囲内の値となるようにpH調整する。
【0050】
調整されたスラリーは、濾過フィルターを通液することによって濾過され、金属膜用スラリー10として容器に充填される。濾過フィルターとしては、砥粒は補足せず、粗大な凝集粒子や異物のみを補足するよう、適切な孔径、構造、素材から構成されたフィルターを選択する。フィルターの種類としては、ポリプロピレン不織布製のデプスフィルターが好適に用いられる。また、濾過量が多い場合には、濾過詰まりや濾過速度の低下が起こらないように、フィルターを多段に備えてもよい。
【0051】
金属膜用スラリー10を用いて研磨される金属膜は、金属配線として使用可能な金属の膜であれば、幅広く選択することができる。電気抵抗、価格、プロセス性などの観点から、Cu、W、Ta、またはAlのうちから選択される金属の膜であることが好ましい。
【0052】
本発明における金属膜用スラリーが含有する砥粒としては、各種粒子を選択することができる。砥粒の種類としては、研磨速度の観点から、無機粒子が好ましく、特に金属酸化物微粒子が好ましい。金属酸化物微粒子の具体例として、シリカ(例えば、コロイド状シリカ、ヒュームドシリカ)、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、酸化スズなどが挙げられる。また、その粒径は1μm以下であることが好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0053】
砥粒としてフュームドシリカを選択した場合、スラリー中でのフュームドシリカ粒子の存在状態はスラリーの液性、イオン濃度などの影響を大きく受ける。
液中の粒子間に働く相互作用に関する理論であるDLVO理論(Derjaguin-Landau-Verwey-Overbeek theory)によると、シリカ粒子濃度が高い場合、電気二重層が薄くなることにより粒子表面の電荷同士の反発力を受けずに粒子同士が近付くので、ファンデルワールス力による粒子間の引力の寄与が大きくなり、粒子凝集が起こりやすくなる。また、液中のpHが低い場合(酸性の場合)も、シリカ粒子表面の電気二重層が薄くなり、粒子表面の電荷同士の反発力が低下し、凝集しやすくなると考えられている。
従って、金属膜用スラリーの製造工程中に粒子凝集がおこらないよう、スラリー中のイオン濃度とpH値は適時確認し、工程管理する必要がある。
【0054】
次に、本発明の金属膜用スラリーの製造方法および製造装置の一実施形態について、図2を用いて説明する。図2において、P01~P03はポンプ、V01~V07は液の流れる方向および流量を調節するためのバルブである
【0055】
金属膜用スラリーの製造装置11は、貯液する貯液タンク12を有している。貯液タンク12は処理すべきスラリーの量、種類等により2個以上備えていてもよい。出発原料となるアルカリ性スラリー13は、バルブV01~V07のすべてのバルブを閉じて、ポンプP01を稼働させることにより貯液タンク12に貯液される。その後、バルブV04のみを開くことにより、純水が純水ラインから貯液タンク12に供給され、スラリーは希釈される。希釈されたスラリーは、バルブV02およびV07を開き、ポンプP02を稼働させることで、限外濾過装置14(膜フィルターを用いたクロスフロー濾過の装置)を通過し、配管を循環して、貯液タンク12へ戻る(工程A)。限外濾過装置14からは、イオン成分を含んだ水が、透過水としてV07を通って排出される。貯液タンク12に戻ったスラリーは、限外濾過装置14でイオン成分を含んだ水が排出されることで濃縮され、イオン成分の量も低減している。次に、再度バルブV04のみを開くことにより、純水ラインより純水が貯液タンク12へ供給されることで、濃縮されたスラリーは希釈される(工程B)。
【0056】
工程Aおよび工程Bを行った後のスラリーは、バルブV02のみを開き、ポンプP02を稼働させることで、pH計15により希釈後のpH値を測定する。この際、密度計16で密度を、導電率計17で導電率を測定することができる。測定されたpH値が所定の範囲内であれば、バルブV01のみを開き、ポンプP02を稼働させることで、スラリーは、陽イオン交換樹脂の充填されたイオン交換カラム18を通液し、イオン交換される。イオン交換カラム18は、1または2以上のイオン交換カラムから構成される。イオン交換カラム18を通液し、貯液タンク12へ戻ったスラリー中のイオン成分の濃度は、イオンクロマトグラフィーを用いて測定される。所定のイオン濃度以下であることを確認した後、金属膜用スラリーの調整へ移行する。
【0057】
スラリーには、酸化剤、添加剤、pH調整剤を配合して金属膜用スラリーが調整される。具体的には、酸化剤として硝酸鉄(III)、添加剤としてマロン酸が、調合タンク19へ投入され、バルブV06のみを開くことにより、純水が調合タンク19に供給される。調合タンク19では、撹拌羽根により撹拌することで硝酸鉄(III)とマロン酸を含む均一な溶液が調合される。調合された溶液は、バルブV05のみを開き、ポンプP03を稼働させることで、貯液タンク12へ移液される。貯液タンク12では、イオン成分が除去されたスラリーと、前述の溶液が撹拌羽根により撹拌される。その後、pH調整剤として硝酸が投入され、貯液タンク内の液全体が撹拌されることで、金属膜用スラリーの組成が調整される。
【0058】
調整された金属膜用スラリーは、バルブV02のみを開き、ポンプP02を稼働させることで、pH計15により、そのpH値が測定される。この際、密度計16で密度を、導電率計17で導電率も測定することができる。調整後のスラリーのpH値が所定の範囲内であることを確認後、バルブV03のみを開き、ポンプP02を稼働させることで、濾過フィルター20を通液させ、金属膜用スラリー21を得た。
【0059】
金属膜用スラリーの製造装置11において、貯液タンク12と各設備の間を、配管を通って循環するスラリーの化学的および/または物理的性質は、装置を稼働している間、常時または適時、監視することができる。監視する性質としては、例えば、pH、密度、導電率に限らず、1種もしくは2種以上の選択されたイオンの濃度、屈折率、濁度、粒子濃度、粘度、砥粒の粒子径などを監視することができる。
装置の稼働は、作業員がポンプや、バルブ、各機器を、現場または遠隔により操作して行ってもよいし、装置に設置された各種測定機器から得られる情報を基に、プログラムにより全自動化された機械によって行われてもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0061】
〔実施例1〕
濃度22.5質量%のアルカリ性の原料スラリー(以下、原料スラリー)を純水で希釈した濃度5.3質量%の希釈スラリー液200L(カリウムイオン約1000ppm含有)を希釈濃縮後、イオン交換樹脂に通液し、マロン酸、硝酸鉄(III)およびpH調整剤を添加し、実施例1の金属膜用スラリー(以下、研磨スラリー)を得た。
希釈濃縮は、濃縮時200Lと希釈時400Lになる条件で行い、希釈のために追加した合計純水量が希釈スラリー量に対して10倍になるまで10回繰り返し操作を行った。イオン交換樹脂は、三菱ケミカル製強酸性陽イオン交換樹脂SK110と強塩基性陰イオン交換樹脂SA10Aを1:2で混合したもの0.6Lを用いて、SV10すなわち流速6L/時で希釈スラリー液を通液した。この段階で、希釈スラリー液のカリウムイオン(K)および塩化物イオン(Cl)を、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製イオンクロマトグラフィーを用いて測定した。得られた希釈スラリー液にマロン酸および硝酸鉄九水和物をそれぞれ600ppm、鉄分相当45ppmになるように添加した。フィルタリング後、得られた研磨スラリーのLPC(粗大粒子数)は、日本インテグリス合同会社製アキュサイザーを用いて測定した。
【0062】
〔実施例2〕
濃度22.5質量%の原料スラリーを純水で希釈した濃度5.3質量%の希釈スラリー液200L(カリウムイオン約1000ppm含有)を希釈濃縮(希釈濃縮1)後、イオン交換樹脂に通液し、さらに希釈濃縮(希釈濃縮2)を行い、マロン酸、硝酸鉄(III)およびpH調整剤を添加し、実施例2の研磨スラリーを得た。
希釈濃縮1は、濃縮時200Lと希釈時400Lになる条件で行い、希釈のために追加した合計純水量が希釈スラリー量に対して8倍になるまで8回繰り返し操作を行った。イオン交換樹脂は、三菱ケミカル製強酸性陽イオン交換樹脂SK110と強塩基性陰イオン交換樹脂SA10Aを1:2で混合したもの0.8Lを用いて、SV10すなわち流速8L/時で希釈スラリー液を通液した。希釈濃縮2は、濃縮時200Lと希釈時400Lになる条件で行い、希釈のために追加した合計純水量が希釈スラリー量に対して2倍になるまで2回繰り返し操作を行った。この段階で、希釈スラリー液のカリウムイオンおよび塩化物イオンを、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製イオンクロマトグラフィーを用いて測定した。得られた希釈スラリー液にマロン酸および硝酸鉄九水和物をそれぞれ600ppm、鉄分相当45ppmになるように添加した。フィルタリング後、得られた研磨スラリーのLPC(粗大粒子数)は、日本インテグリス合同会社製アキュサイザーを用いて測定した。
【0063】
〔比較例1〕
濃度22.5質量%の原料スラリーを純水で希釈した濃度5.3質量%の希釈スラリー液200L(カリウムイオン約1000ppm含有)を希釈濃縮し、マロン酸、硝酸鉄(III)およびpH調整剤を添加し、比較例1の研磨スラリーを得た。
希釈濃縮は、濃縮時200Lと希釈時400Lになる条件で行い、希釈のために追加した合計純水量が希釈スラリー量に対して30倍になるまで30回繰り返し操作を行った。この段階で、希釈スラリー液のカリウムイオンおよび塩化物イオンを、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製イオンクロマトグラフィーを用いて測定した。得られた希釈スラリー液にマロン酸および硝酸鉄九水和物をそれぞれ600ppm、鉄分相当45ppmになるように添加した。フィルタリング後、得られた研磨スラリーのLPC(粗大粒子数)は、日本インテグリス合同会社製アキュサイザーを用いて測定した。
【0064】
〔比較例2〕
濃度22.5質量%の原料スラリーを純水で希釈した濃度5.3質量%の希釈スラリー液200L(カリウムイオン約1000ppm含有)をイオン交換樹脂に通液し、マロン酸、硝酸鉄(III)およびpH調整剤を添加し、比較例2の研磨スラリーを得た。
イオン交換樹脂は、三菱ケミカル製強酸性陽イオン交換樹脂SK110と強塩基性陰イオン交換樹脂SA10Aを1:2で混合したもの8Lを用いて、SV20すなわち流速160L/時で希釈スラリー液を通液した。この段階で、希釈スラリー液のカリウムイオンおよび塩化物イオンを、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製イオンクロマトグラフィーを用いて測定した。得られた希釈スラリー液にマロン酸および硝酸鉄九水和物をそれぞれ600ppm、鉄分相当45ppmになるように添加した。フィルタリング後、得られた研磨スラリーのLPC(粗大粒子数)は、日本インテグリス合同会社製アキュサイザーを用いて測定した。
【0065】
〔比較例3〕
濃度22.5質量%の原料スラリーを純水で希釈した濃度5.3質量%の希釈スラリー液200L(カリウムイオン約1000ppm含有)をイオン交換樹脂に通液し、マロン酸、硝酸鉄(III)およびpH調整剤を添加し、比較例3の研磨スラリーを得た。
イオン交換樹脂は、三菱ケミカル製強酸性陽イオン交換樹脂SK110と強塩基性陰イオン交換樹脂SA10Aを1:2で混合したもの8Lを用いて、SV5すなわち流速40L/時 で希釈スラリー液を通液した。この段階で、希釈スラリー液のカリウムイオンおよび塩化物イオンを、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製イオンクロマトグラフィーを用いて測定した。得られた希釈スラリー液にマロン酸および硝酸鉄九水和物をそれぞれ600ppm、鉄分相当45ppmになるように添加した。フィルタリング後、得られた研磨スラリーのLPC(粗大粒子数)は、日本インテグリス合同会社製アキュサイザーを用いて測定した。
【0066】
表1には、上記実施例と比較例で得られた研磨スラリーの、イオン濃度(カリウムイオンおよび塩化物イオンの濃度)、LPC、陽イオン除去に要した純水の使用量、イオン交換樹脂量を示す。また、各スラリーの品質、製造に要したコスト、および時間、それらの総合評価結果を示す。
【0067】
品質は、不純物(K、Cl)およびLPCの検査結果により評価した。
品質の評価結果は、以下の判断基準に従って評価した。
◎:規格を十分満足している
〇:規格を満足している
△:規格を辛うじて満足している
×:規格を満足していない
【0068】
コストは、純水使用量およびイオン交換樹脂使用量により評価した。
コストの評価結果は、以下の判断基準に従って評価した。
〇:想定を十分満足している
△:想定を満足している
×:想定を満足していない
【0069】
時間は、不純物イオン除去の工程に掛かる想定時間により評価した。
時間の評価結果は、以下の判断基準に従って評価した。
◎:想定を十分に満足している
〇:想定を満足している
△:想定を辛うじて満足している
×:想定を満足していない
【0070】
総合での評価は、品質・コスト・時間の総合判断により評価した。
総合評価の結果は、以下の判断基準に従って評価した。
〇:量産方法として十分満足している
△:量産方法として満足している
×:量産方法として満足していない
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1は、比較例1に対し、時間とコストに優れており、希釈濃縮工程のみの場合に比べて、イオン交換工程を併用することの効果が確認できる。また、実施例1は、比較例2および3に対し、コストが優れるとともに、品質も同等以上であり、イオン交換樹脂のみで陽イオン交換をする場合の高コスト化の課題を解決できることを示している。また、実施例2は、実施例1に対し、時間は若干劣るものの、品質がより優れる結果であることから、イオン交換樹脂量を少量増量し、希釈濃縮工程とイオン交換工程を繰り返すことで、コスト上昇を抑えつつ、品質が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の金属膜用スラリーの製造方法および製造装置は、低価格で、安定した品質の金属膜用スラリーを製造することができるので、近年の高密度セルなどの半導体集積回路の製造に利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 アルカリ性スラリー
2 希釈工程
3 希釈濃縮工程
4 イオン交換工程
5 調整工程
6 濾過工程
7 pH測定
8 イオンクロマトグラフィー測定
9 pH測定
10 金属膜用スラリー
11 金属膜用スラリーの製造装置
12 貯液タンク
13 アルカリ性スラリー
14 限外濾過装置
15 pH計
16 密度計
17 導電率計
18 イオン交換カラム
19 調合タンク
20 濾過フィルター
21 金属膜用スラリー
図1
図2