(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】エレクトレット化装置
(51)【国際特許分類】
H01T 19/04 20060101AFI20240410BHJP
【FI】
H01T19/04
(21)【出願番号】P 2020199346
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】弁理士法人アイリンク国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 學
(72)【発明者】
【氏名】岡村 善次
(72)【発明者】
【氏名】橋元 文秋
(72)【発明者】
【氏名】山崎 宏海
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 輝夫
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-219687(JP,A)
【文献】特開2000-58290(JP,A)
【文献】特開2017-155231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
H01G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源に接続された放電電極針と、
上記放電電極針に対向した接地電極とを備え、
上記接地電極上に支持された処理対象に向かって上記放電電極針からイオンを照射するエレクトレット化装置であって、
上記放電電極針の基端と電源との間には高抵抗体を直列に接続し、
上記高抵抗体から上記放電電極針の先端までの部分を電極側浮遊容量とするとともに、
上記高抵抗体から上記放電電極針の先端までの長さを浮遊容量設定長さとし、
この浮遊容量設定長さによって、
上記電極側浮遊容量の大きさを、上記電極側浮遊容量に蓄電される最大電荷の放電エネルギーが上記接地電極上に支持された処理対象を損傷させない大きさになるように設定したエレクトレット化装置。
【請求項2】
上記高抵抗体から上記放電電極針の先端までの浮遊容量設定長さは、
上記電極側浮遊容量の大きさが0.1[pF]~5[pF]となる長さである請求項1に記載のエレクトレット化装置。
【請求項3】
電気的絶縁体で構成され、上記高抵抗体を内部に埋め込んで保持する保持手段を備え、
上記保持手段が上記高抵抗体の表面を経由する沿面放電を防止する請求項1または2に記載のエレクトレット化装置。
【請求項4】
上記放電電極針の基端を上記保持手段内に設けるとともに、上記高抵抗体と上記放電電極針の基端とを、直接または微小間隔を維持して電気的に接続した請求項3に記載のエレクトレット化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂シートなどに、半永久的に帯電状態を保持させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂シートや不織布などを、帯電状態を維持するように処理するために、放電エネルギーを利用したエレクトレット化装置が知られている。
例えば、
図4に示すエレクトレット化装置は、電源4が接続された放電電極針1と、この放電電極針1に対向する接地電極2とを備えている。
上記接地電極2には樹脂シートなどの処理対象3を載置し、放電電極針1に電源4で高電圧を印加してコロナ放電で生成されたイオンを処理対象3に照射し、上記処理対象3に電荷を注入して処理対象3をエレクトレット化する。
【0003】
エレクトレット化された処理対象は半永久的に静電気力を保持しているので、その静電気力が、例えばマイクロフォンやスピーカーの振動膜、静電フィルターなど様々な用途に利用される。これらのエレクトレット製品は、いずれの用途においても電荷保持能力が高く、長期にわたって性能が劣化しないことが要求される。
【0004】
エレクトレット化された処理対象3の電荷保持能力の高さは、エレクトレット化において処理対象3内のトラップで捕獲された電荷の逃げにくさに相当し、これは電荷のトラップの深さに依存する。
また、電荷を深いトラップで捕獲するためには、処理対象に対してより高速でイオンを衝突させる必要がある。具体的には、放電電極針1の先端と接地電極2との間の電界強度V/dを高くして処理対象3に高速でイオンを衝突させることが考えられる。なお、上記Vは放電電極針1の電位、dは放電電極針1の先端と接地電極2との距離である。
【0005】
イオンが高速になれば、処理対象3に対する衝突エネルギーが大きくなるため、それだけ電荷のトラップが深くなって電荷保持能力の高いエレクトレットを得ることができる。
一方、上記電界強度V/dが高過ぎると、放電電極針1の先端から接地電極2に向かって火花放電のようなエネルギーの大きな異常放電が発生し、その放電エネルギーによって処理対象3を損傷させてしまうことがあった。
【0006】
そこで、従来は、上記電界強度V/dを、異常放電が発生しない範囲で、できるだけ高くなるように設定するようにしていた。言い換えれば、電界強度V/dが、異常放電を発生させない上限ぎりぎりの大きさになるように、上記距離dや電源4の出力を設定していた。
【0007】
しかし、上記のように異常放電が発生しない範囲に電界強度V/dを設定したとしても、実際にはエネルギーの大きな異常放電が発生し、処理対象3が損傷してしまうことがあった。
本発明者らは、処理対象3を損傷させるような異常放電が発生するメカニズムを次のように推察した。
【0008】
例えば、上記装置で放電電極針1の先端にコロナ放電が安定して発生しているときには、放電電極針1から接地電極2まで達する火花放電のような異常放電は発生しない。しかし、コロナ放電に基づくエレクトレット化の過程で処理対象3の表面は放電電極針1から照射されるイオンの電荷によってチャージアップする。処理対象3の表面がチャージアップしして処理対象3の表面と接地電極2との電位差が一定値を超えると、処理対象3の表面から接地電極2への放電が発生する。
【0009】
この放電によって、処理対象3の表面電位が接地電位近くまで一気に下がる。そのため、処理対象3の部分で放電電極針1との間の電界強度が急激に上昇する。このような電界強度の急激な上昇が起こると、それがきっかけとなって、放電電極針1の先端から接地電極2へ向かう異常放電が発生する。この異常放電では、放電電極針1の先端から電源4までの間の浮遊容量SC1に蓄電された電荷が一気に放出され、その放電エネルギーは非常に大きくなる。その結果、処理対象3が損傷してしまう。
【0010】
また、エレクトレット化の効果を高める目的で、処理対象3を加熱することがある。処理対象3が加熱されて処理対象3の内部電荷が活性化すれば、処理対象3を構成する樹脂の高次構造が変化して深いトラップが増加し、照射されたイオンの電荷をより多く深いトラップで捕獲できるようになるからである。
このように処理対象3を加熱して処理対象3の内部電荷が活性化すれば、その分処理対象3の電気抵抗値が初期よりも低下することがある。電気抵抗値が下がれば、放電電極針1から照射されたイオンの電荷が、処理対象3を介して接地電極2へ流れることがある。このような電流が、上記浮遊容量SC1に蓄電された電荷を一気に放出させる異常放電のきっかけになることもある。
【0011】
さらに、処理対象3の材質によっては、加熱部分が熱膨張して変形してしまうことがある。処理対象3が変形すると、部分的に処理対象3の表面と放電電極針1との距離dが設定値より小さくなってしまう。その結果、部分的に電界強度V/dが高くなって、その部分で異常放電が発生してしまうことがある。
【0012】
なお、処理対象3は、積極的に加熱しなくてもイオンが衝突することによっても温度上昇することがある。その場合にも、処理対象3の電気抵抗値が低下したり、変形したりして局所的に異常放電を誘発することがある。
さらに、処理対象を搬送しながらエレクトレット化する装置では、搬送中の振動などで処理対象がバタついて処理対象と放電電極針の先端との距離が変化し、異常放電が発生しやすくなることもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記したように、従来のエレクトレット化装置では放電電極針の先端と接地電極との間の電界強度V/dは、異常放電が発生しない範囲でできるだけ高く設定されている。しかし、電界強度V/dは様々な要因によって変化することがある。そのため、放電電極針1から接地電極2に向かう異常放電を完全に防止することはできなかった。
また、処理対象に損傷を与えるような異常放電の放電エネルギーは、電界強度だけでなく放電電極針側の浮遊容量SC1にも依存する。それにもかかわらず、従来の装置では、浮遊容量SC1の大きさは無視されていた。
【0015】
このように、従来の装置では、エレクトレット化の効果を上げるために、電界強度を上げることだけに力が注がれていたので、放電エネルギーの大きな異常放電によって処理対象が損傷してしまうという問題が発生していた。
【0016】
また、一方で、処理対象を損傷させるような異常放電を防止しようとして電界強度V/dを低く設定すれば、エレクトレット化の効果を十分に発揮させることができなくなってしまっていた。
そのために、従来の装置では、高いエレクトレット化を実現しながら、処理対象の損傷を防止することはできなかった。
【0017】
なお、ここでいう異常放電とは、放電電極針1の先端から接地電極2へ向かう火花放電のような放電のことで、安定したコロナ放電以外の放電である。したがって、この異常放電には、火花が接地電極2まで到達するようなエネルギーの大きな放電も、発光が途中で消えてしまうような比較的エネルギーの小さな放電も含まれる。異常放電のなかで、火花が接地電極2まで達するような異常放電は特に放電エネルギーが大きく、処理対象3を損傷してしまう。
【0018】
この発明の目的は、高いエレクトレット化を実現しながら、異常放電の放電エネルギーによって処理対象が損傷することを防止できるエレクトレット化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の発明は、電源に接続された放電電極針と、上記放電電極針に対向した接地電極とを備え、上記接地電極で支持された処理対象に上記放電電極針からイオンを照射するエレクトレット化装置であって、上記放電電極針の基端と電源との間には高抵抗体を直列に接続し、上記高抵抗体から上記放電電極針の先端までの部分を電極側浮遊容量とするとともに、上記高抵抗体から上記放電電極針の先端までの長さを浮遊容量設定長さとし、この浮遊容量設定長さによって、上記電極側浮遊容量の大きさを、上記電極側浮遊容量に蓄電される最大電荷の放電エネルギーが上記接地電極に支持された処理対象を損傷させない大きさになるように設定した。
【0020】
第2の発明は、上記高抵抗体から上記放電電極針の先端までの浮遊容量設定長さが、上記電極側浮遊容量の大きさが0.1[pF]~5[pF]となる長さである。
【0021】
第3の発明は、電気的絶縁体で構成され、上記高抵抗体を内部に埋め込んで保持する保持手段を備え、上記保持手段が上記高抵抗体の表面を経由する沿面放電を防止する。
【0022】
第4の発明は、上記放電電極針の基端を上記保持手段内に設けるとともに、上記高抵抗体と上記放電電極針の基端とを、直接または微小間隔を維持して電気的に接続している。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、電源と放電電極針との間に接続された高抵抗体から放電電極針の先端までの長さである浮遊容量設定長さに対応した電極側浮遊容量の大きさを微小に設定して、そこに蓄積された電荷が放出される異常放電の放電エネルギーを、処理対象を損傷させない大きさに保つことができる。
上記のように電極側浮遊容量の大きさを微小に設定したので、たとえ異常放電が発生したとしても、その放電エネルギーが処理対象を損傷させるほどの大きさにはならない。したがって、放電電極針の先端と接地電極との間に生成される電界の強度はエレクトレット化の効果を高めることだけ考慮して決めることができる。
そのため、高いエレクトレット化と処理対象の損傷の防止とを同時に達成することができる。
【0024】
第2の発明によれば、電極側浮遊容量の大きさが微小になるので、異常放電が発生して、電極側浮遊容量の電荷が放電電極針の先端から放出されたとしても、異常放電の放電エネルギーを小さく保つことができる。
【0025】
第3の発明によれば、高抵抗体を電気的絶縁体内に埋め込むことで高抵抗体の表面の沿面放電を防止することができる。
【0026】
第4の発明によれば、高抵抗体とともに放電電極針を保持し、放電電極針の先端と処理対象との位置関係を適切に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1はこの発明の第1実施形態のエレクトレット化装置の概略図である。
【
図2】
図2は高抵抗体と放電電極針とを保持する保持部材の断面図である。
【
図3】
図3は第2実施形態のエレクトレット化装置の概略図である。
【
図4】従来のエレクトレット化装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下に、第1実施形態を説明する。
図1は、この発明の第1実施形態のエレクトレット化装置を模式的に示しているが、従来の装置と同じ構成要素には
図4と同じ符号を用いている。
図2は、高抵抗体Rと放電電極針1とを保持する保持部材6の断面図である。
【0029】
図1に示すように、第1実施形態のエレクトレット化装置は、樹脂シートなどの処理対象3を載置し、処理対象3より一回り大きい平板状の接地電極2とこれに対向する放電電極針1とを備えている。放電電極針1には電源4が接続されている。放電電極針1に電圧を印加して先端でコロナ放電を発生させると、このコロナ放電で生成されたイオンが接地電極2に載置された処理対象3に照射され、処理対象3をエレクトレット化する。なお、上記電源4は必要に応じて、例えば、数十[kV]の正または負の直流高電圧を出力する電源である。
【0030】
また、この第1実施形態では、上記放電電極針1と電源4に接続されるケーブル5との間に高抵抗体Rを直列に接続し、この高抵抗体Rに放電電極針1を接続している。
この高抵抗体Rは、
図2に示すように、放電電極針1とともに保持部材6で保持されている。
上記保持部材6は、電気的絶縁性を有する樹脂などで形成された本体7を備え、本体7には保持空間7aが形成されている。上記保持空間7aは、高抵抗体Rを収容可能な容積及び形状と開口7bとを備えている。また、本体7において開口7bと対向する側には、保持空間7aと外部と連通させる貫通孔7cが形成されている。
このような保持空間7aに、放電電極針1が接続された高抵抗体Rが収容され、開口7bから放電電極針1の先端部分1aを外部に突出させている。また、高抵抗体Rの放電電極針1が接続されていない側の接続端子r1を貫通孔7cから外部へ突出させている。
【0031】
そして、保持空間7a内には、高抵抗体Rや放電電極針1の外周との間に充填材8が充填されている。この充填材8は例えばウレタンやシリコーンなど絶縁性の樹脂材であって、溶融状態で充填した後に硬化し、電気的絶縁体となる材質である。これにより、保持部材6と高抵抗体R及び放電電極針1とが一体とされている。また、高抵抗体R及び放電電極針1を保持した保持部材6は、図示していないフレームなどに固定されている。
【0032】
上記のようにして、保持部材6によって放電電極針1と接地電極2との相対位置関係を保つようにしている。また、貫通孔7cから本体7の外に突出した接続端子r1には、ケーブル5が接続されている。
【0033】
上記高抵抗体Rは、放電電極針1に流れる電流を制限するとともに、電源4の出力端子から放電電極針1の先端までの導体を区切り、当該高抵抗体Rから放電電極針1の先端までの部分を電極側浮遊容量として区画する機能を発揮する。
このような機能を発揮するための高抵抗体Rの抵抗値としては、電源4の出力電圧にもよるが100[MΩ]~500[MΩ]程度が必要である。
【0034】
上記高抵抗体Rの放電電極針1側の端部r2から放電電極針1の先端までの導体部分には、接地との間に電極側浮遊容量である浮遊容量SC2が生成される。この浮遊容量SC2の大きさは、上記高抵抗体Rの端部r2から放電電極針1の先端までの長さLに依存する。つまり、この長さLが浮遊容量設定長さである。
この第1実施形態ではこの長さLをできるだけ小さくして浮遊容量SC2を微小に設定している。
【0035】
ただし、上記浮遊容量SC2の大きさは浮遊容量設定長さLだけで決まるのではない。浮遊容量SC2は、上記浮遊容量設定長さLに対応する電極側浮遊容量部分の断面積や、電極側浮遊容量と外部の接地体との距離、放電電極針1を囲む保持部材6の形状や材質などにも依存する。例えば、放電電極針1が太くなるほど浮遊容量SC2は大きくなり、接地体との距離が大きいほど浮遊容量SC2は小さくなる。また、放電電極針1において保持部材6で保持されている部分が多い場合には、浮遊容量SC2は保持部材6の誘電率の影響を受けて大きくなる。このように浮遊容量SC2は様々なパラメータの影響を受けるが、いずれにしても浮遊容量設定長さLを小さくすることで浮遊容量SC2を小さくすることができる。
【0036】
このように浮遊容量SC2を微小に設定したのは、浮遊容量SC2が微小であれば、浮遊容量SC2に蓄電される最大電荷量が小さくなるからである。浮遊容量SC2に蓄電された電荷量が小さければ、放電電極針1と接地電極2との間に発生する異常放電によって上記浮遊容量SC2に蓄電された電荷が一気に放電されたとしてもその放電エネルギーは小さくなる。
【0037】
異常放電の放電エネルギーが小さければ、たとえ、放電電極針1の先端から接地電極2に向かって異常放電が発生したとしても、その異常放電で処理対象3が損傷する可能性は低い。
したがって、上記浮遊容量SC2が小さければ小さいほど処理対象3に損傷を与える可能性は低くなる。
【0038】
なお、浮遊容量SC2の大きさを限りなくゼロに近づければ、上記放電エネルギーも微小に保つことができる。浮遊容量SC2を限りなくゼロに近づけるためには、高抵抗体Rの端部r2と放電電極針1の先端までの長さLをゼロに近づける必要がある。ただし、上記長さLを限りなくゼロに近づけることは装置の構造要因などから不可能である。例えば、安定したコロナ放電を維持するために必要な放電電極針1の形状やその取り付け性を考慮すれば、上放電電極針1には数[mm]程度の長さが必要である。
【0039】
また、上記保持部材6に保持された高抵抗体Rの端部r2と放電電極針1との接続部分をできるだけ短くするためには、両部材を直接接続することが好ましい。それでも接続部分をゼロにすることは難しく、高抵抗体Rの端部r2と放電電極針1の基端との間には微小間隔が維持される場合が多い。
したがって、上記長さLを小さくするのにも限界があり、浮遊容量SC2の大きさを、少なくとも処理対象3を損傷させない放電エネルギーに基づいて決めるのが現実的である。
【0040】
第1実施形態では、上記浮遊容量SC2の大きさを、処理対象3を損傷させない放電エネルギーに基づいて決め、この浮遊容量SC2を実現するように、高抵抗体Rから放電電極針1の先端までの長さLが浮遊容量設定長さとして設定されている。
上記処理対象3を損傷させない大きさの放電エネルギーは、処理対象3の特性によっても異なる。
例えば、処理対象3の厚みが薄い場合や、処理対象3が電気抵抗や耐熱性の低い材質で形成されている場合には、小さめの放電エネルギーでも損傷する可能性がある。反対に、処理対象3が、厚いシートや電気抵抗や耐熱性の高い材質で形成されている場合には、大きめの放電エネルギーでも損傷しにくい。
【0041】
したがって、上記処理対象3を損傷させない大きさの放電エネルギーを維持する浮遊容量SC2の大きさは、処理対象3の材質などの特性を考慮して決めればよい。
この第1実施形態では、浮遊容量SC2の静電容量C=5[pF]、放電電極針1の先端と接地電極2との距離d=25[mm]、放電電極針1への印加電圧V=30[kV]に設定した。
【0042】
(作用、効果等)
上記した条件で、厚さが約0.5[mm]のポリテトラフルオロエチレン製のシートを接地電極2上に載置して異常放電を発生させたところ、接地電極2上の処理対象3に損傷はみられなかった。
上記異常放電の放電エネルギーを、W=C×V2/2として算出すると、放電エネルギーW=2.25[mJ]となる。つまり、2.25[mJ]の放電エネルギーなら、厚さが約0.5[mm]のポリテトラフルオロエチレン製のシートを損傷させないことが確認できた。
上記のように、浮遊容量SC2の大きさを小さく設定すれば、放電電極針1への印加電圧が高くても異常放電の放電エネルギーを小さくできるので、異常放電による処理対象3の損傷を防止することは可能である。
【0043】
このように浮遊容量SC2の大きさが微小に設定された第1実施形態の装置では、たとえ異常放電が発生しても、その放電エネルギーが処理対象3を損傷するほど大きくはならない。したがって、放電電極針1と接地電極2との間の電界強度V/dは、異常放電の発生に関係なく、安全性などを考慮した現実的な範囲で、処理効果を基準にした高い値に設定することができる。
言い換えれば、上記放電エネルギーWが同じでも、上記浮遊容量SC2の静電容量Cを小さくすれば、その分電界強度V/dを高くすることができる。そのため、より高い処理効果を実現することができる。
【0044】
したがって、この第1実施形態のエレクトレット化装置では、イオンの処理対象3に対する衝突速度を高速にして高い処理効果を維持しながら、処理対象の損傷も防止できる。
さらに、上記放電エネルギーを小さく維持できれば、放電電極針1の劣化も抑制でき、放電電極針1の寿命も長くできる。
【0045】
また、上記保持部材6が高抵抗体Rとともに、放電電極針1を保持することで、エレクトレット化装置における放電電極針1の位置を維持することができる。その結果、放電電極針1から接地電極2や処理対象3までの距離を管理しやすくなり、安定した処理効果が得られる。
【0046】
さらに、高抵抗体Rが電気的絶縁体に埋め込まれているため、接続端子r1側の高電圧部分から高抵抗体R表面を経由する沿面放電を起こりにくくすることができる。このように、保持部材6が高抵抗体Rの表面を覆って沿面放電を防止する機能を発揮すれば、高抵抗体R自体の絶縁被覆部分はそれほど大きくなくても沿面放電を防止できる。そのため、高抵抗体Rとして体積の大きな部品を用いる必要がなく、部品選択の自由度を上げることもできる。
【0047】
(第2実施形態)
以下に第2実施形態を説明する。
図3は、第2実施形態の概略図である。そして、この第2実施形態にて上記第1実施形態と同様の構成要素には、
図1と同じ符号を用いている。
この第2実施形態は、樹脂シートや不織布などからなる長尺の処理対象9を、連続搬送する過程でエレクトレット化する装置である。
【0048】
第2実施形態は、
図3に示すように処理対象9の搬送経路に沿って、回転可能にした第1~第3の温調ローラ10~12と、これらの温調ローラ間に配置されたガイドローラ13,14とを備えている。処理対象9は、これらのローラに架け渡され、図示の矢印x方向へ搬送される。
上記第1,第2の温調ローラ10,11はそれぞれ内部に図示していない加熱機構を備え、外周面に接触した処理対象9を加熱する機能を発揮する。上記加熱機構としては、ローラの内部にヒーターを設けたり、熱媒を流通させたりすることが考えられる。
【0049】
また、第3の温調ローラ12は、例えば内部に冷媒を流通させるなどする冷却機構を備えたローラで、第1,2の温調ローラ10,11によって加熱された処理対象9を所定の温度まで冷却する機能を備えている。
また、上記ガイドローラ13,14は、処理対象9にテンションを付与して、処理対象9が安定して搬送されるようにしている。
なお、上記ローラ10~14は全て接地されている。
【0050】
一方、処理対象9が架け渡された上記第2,第3の温調ローラ11,12それぞれの外周面に対向する位置には、第1,第2電極部15,16が設けられている。これら第1,第2電極部15,16は、いずれも、第1実施形態と同じ保持部材6(
図2参照)を備え、保持部材6から突出した放電電極針1の先端を第2,第3の温調ローラ11,12の外周面に対向させている。
上記保持部材6には、
図2に示すように高抵抗体Rと、これに直接接続した放電電極針1の基端とが埋め込まれている。この第2実施形態においても、高抵抗体Rの端部r2から放電電極針1の先端までの距離L(
図1参照)に対応した電極側浮遊容量の大きさは微小に設定されている。具体的には、処理対象9を損傷させない大きさの放電エネルギーに基づいて上記浮遊容量の大きさが設定されている。
【0051】
また、第1,第2電極部15,16には、ケーブル5を介して電源4の出力端子が接続され、処理対象9の搬送中には、予め設定された値の高電圧が各電極部15,16に印加され、放電電極針1の電位を保つようにしている。
【0052】
この第2実施形態では、第2の温調ローラ11が、第1電極部15の放電電極針1と対向し、処理対象9を支持する接地電極である。
また、第3の温調ローラ12が、第2電極部16の放電電極針1と対向し、処理対象9を支持する接地電極である。
さらに、第1の温調ローラ10は、第1加熱手段による加熱前であってイオンを照射しないプロセスで処理対象9を予め加熱するようにしている。
【0053】
(作用、効果等)
第2実施形態では、搬送される処理対象9は第1の温調ローラ10で加熱されて温度が上昇する。温度が上昇した処理対象9は第2の温調ローラ11に到達してさらに加熱された状態で、第1電極部15からイオンが照射される。その後、処理対象9は第3の温調ローラ12で冷却されながら、第2電極部16からイオンが照射される。
【0054】
この第2実施形態でも、処理対象9にイオンが照射される過程で、上記した種々の要因で第1,第2電極部15,16の放電電極針1から接地電極である第2,第3の温調ローラ11,12へ向かう異常放電が発生する可能性がある。しかし、第2実施形態においても、放電電極針1の先端から高抵抗体Rまでの距離L(
図1,2参照)に対応した部分である電極側浮遊容量の大きさが微小に設定されているため、異常放電の放電エネルギーは大きくならない。したがって、処理対象9が損傷する可能性は低い。
そのため、放電電極針1と第2,第3の温調ローラ11,12との間の電界強度を必要以上に低くすることなく、高い電界強度でエレクトレット化の効果を維持しながら、処理対象9の損傷を防止できる。
【0055】
さらに、第2実施形態では、第1,第2の温調ローラ10,11によって処理対象9を加熱し、処理対象9の内部電荷が活性化し、深いトラップが増加した状態でイオンが照射されるようにしているので、照射イオンの電荷は浅いトラップからより深いトラップへ移り、電荷を深いトラップで捕獲することができる。特に、第1電極部15からイオンが照射されるプロセスの前に、処理対象9が第1の温調ローラ10で予め加熱されるため、内部電荷が十分に活性化して深いトラップが増加した状態で処理対象9にイオンが照射されることになり、照射されたイオンが効率的にエレクトレット化に寄与し、高いエレクトレット化の効果を実現できるようになる。
【0056】
また、電荷を捕獲した処理対象9は第3の温調ローラ12で冷却されて内部電荷の活性が下がる。そのため、捕獲された電荷が逃げにくくなって、第1,第2電極部15,16によるエレクトレット化の効果が維持される。
特に、第3の温調ローラ12で冷却しながらイオンの照射も同時に行なっているので、処理対象9の内部電荷の活性が十分に下がりきるまでの間に、処理対象9に照射されたイオンの電荷を深いトラップで捕獲することができる。したがって、エレクトレット化の効果をより高くすることができる。
【0057】
上記のように、処理対象9に熱エネルギーを付与すれば、イオン照射のみを行なう場合と比べて、電荷をより深いトラップで捕獲でき、処理効果を高めることができる。
また、処理対象9に熱エネルギーを付与した場合、その分、上記電界強度V/dを多少低くしても、高いエレクトレット化の効果を得ることができる。電界強度を低くできれば、電源4の出力電圧を低くでき、安全性も上がる。
【0058】
(上記実施形態の他の例)
上記第1実施形態では、特に処理対象3を加熱するプロセスを設けていないが、処理対象3を加熱して所定の温度に維持する加熱手段を設けてもよい。例えば接地電極2をホットプレートにして、処理対象3に対するイオン照射ととともに熱エネルギーを付与するようにすれば、イオン照射のみの場合と比べてより多くの電荷のトラップを深くでき、処理効果を高めることができる。また、熱エネルギーを付与した分、電界強度V/dを低くして安全性を上げることもできる。
【0059】
また、接地電極2によって処理対象3を加熱し始めるタイミングと放電電極針1がイオン照射を開始するタイミングとをずらしてもよい。処理対象の温度が上昇して深いトラップが増加するとともに、内部電荷が十分に活性化してからイオンを照射するようにすれば、イオンの照射時間を短くしてエレクトレット化の効果を上げることができ、効率的な処理ができる。
なお、処理対象に熱エネルギーを付与する手段としては、接地電極2をホットプレートにするだけでなく、熱放射装置など、接地電極とは別の加熱手段を用いても良い。ただし、接地電極2をホットプレートにすれば、加熱手段を別に設けるより装置を単純化できる。
【0060】
さらに、接地電極2に冷却手段を設けて、加熱手段を停止した後に冷却手段を作動させて捕獲された電荷を維持するようにしてもよい。このとき用いる冷却手段の冷却能力が高くて、加熱された処理対象3が速やかに冷却されるようであれば、冷却しながらイオンを照射しなくてもよい。冷却によって処理対象3の内部電荷の活性が直ちに下がれば、捕獲された電荷が逃げてしまうこともないし、内部電荷の活性が低ければ、処理対象3にイオンを照射しても、電荷を深いトラップで捕獲することも難しくなるからである。
【0061】
また、第2実施形態のように、処理対象を搬送する装置においても、加熱手段や冷却手段の構成は自由で、上記した構成に限定されない。さらに、加熱手段や冷却手段を設けなくてもよい。
【0062】
また、上記第1,2実施形態では、高抵抗体Rを保持する保持手段として、高抵抗体Rと放電電極針1とを一組だけ保持する保持部材6を用いているが、上記のような保持部材6を、処理対象の幅や大きさに合わせて線状あるいはマトリックス状に複数配置して、複数の放電電極針1を処理対象3,9に対向させてもよい。
さらに、高抵抗体Rと放電電極針1との組を同時に複数保持する保持部材によって保持手段を構成してもよい。
【0063】
また、上記保持部材6は、放電電極針1の基端を接続した高抵抗体Rを保持するようにしているが、高抵抗体Rを保持した保持部材6に対し、放電電極針1を着脱可能にすれば、劣化した放電電極針1の交換が容易になる。例えば、高抵抗体Rの端部r2に、放電電極針1の基端を抜き差し可能な筒部材などを接続し、この筒部材に対して放電電極針1を着脱するようにすればよい。
さらに、保持部材6の本体7を構成する絶縁性材材料は樹脂に限らず、例えば絶縁性セラミックなどでもよい。ただし、保持された高抵抗体Rの外周には空隙ができないように絶縁性の充填材(電気的絶縁体)を充填する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0064】
電荷保持能力の高いエレクトレット化を効率的に実現する装置として有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 放電電極針
2 接地電極
3,9 処理対象
4 電源
6 保持部材
15 (放電電極針)第1電極部
16 (放電電極針)第2電極部
R 高抵抗体
SC2 (電極側)浮遊容量
L (浮遊容量設定)長さ