(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ゲノム編集方法、組成物、細胞、細胞製剤、及び細胞製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240410BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240410BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240410BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240410BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240410BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240410BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20240410BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20240410BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20240410BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20240410BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N5/10
A61K31/7088
A61K35/15
A61K35/17
A61P37/04
C12N15/55 ZNA
C12N9/16 Z
C12N5/078
C12N5/0789
(21)【出願番号】P 2020509319
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013602
(87)【国際公開番号】W WO2019189573
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018066174
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】花園 豊
(72)【発明者】
【氏名】原 弘真
(72)【発明者】
【氏名】魚崎 英毅
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/183345(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/014564(WO,A1)
【文献】SUZUKI, Keiichiro et al.,In vivo genome editing via CRISPR/Cas9 mediated homology-independent targeted integration,Nature,2016年,Vol. 540,pp. 144-149
【文献】MORGAN, Richard A. et al.,Hematopoietic Stem Cell Gene Therapy : Progress and Lessons Learned,Cell Stem Cell,2017年,Vol. 21,pp. 574-590
【文献】HENDEL, Ayal et al.,Quantifying genome-editing outcomes at endogenous loci with SMRT sequencing,Cell Rep.,2014年,Vol. 7,pp. 293-305
【文献】ZHANG, Jian-Ping et al.,Efficient precise knockin with a double cut HDR donor after CRISPR/Cas9-mediated double-stranded DNA cleavage,Genome Biology,2017年,Vol.18: 35,pp. 1-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された細胞(但し、ヒト生殖細胞、ヒト生殖系列細胞、ヒト受精卵を除く。)中のゲノム編集方法であって、外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、前記外来DNAの5’端と3’端のうち、一方を非相同組換えにより、他方を相同組換えにより前記標的ゲノムに導入することを特徴とし、
前記外来DNAは、
5’端と3’端のうち、一方は長さが100bp以下の相同アームを有し、他方の相同アームの長さが一方の相同アームの長さの2倍以上
且つ30bp以上であるか、又は、
5’端と3’端のうち、一方は相同アームを有しないか又は長さが10bp以下の相同アームを有し、他方は長さが50bp以上の相同アームを有する、ゲノム編集方法。
【請求項2】
前記外来DNAは、5’端と3’端のうち、一方は相同アームを有しないか又は長さが10bp以下の相同アームを有し、他方は長さが50bp以上500bp未満の相同アームを有する、請求項1に記載のゲノム編集方法。
【請求項3】
前記外来DNAは、5’端と3’端のうち、一方は相同アームを有さず、他方は長さが50bp以上の相同アームを有する、請求項1に記載のゲノム編集方法。
【請求項4】
前記細胞が、血球系細胞、未分化細胞又は神経細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載のゲノム編集方法。
【請求項5】
前記細胞が、幹細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載のゲノム編集方法。
【請求項6】
前記細胞が、造血幹細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載のゲノム編集方法。
【請求項7】
単離された細胞中のゲノム編集方法であって、前記細胞は、血球系細胞又は造血幹細胞であり、500bp未満の長さの相同アームを5’端と3’端に有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、両側を相同組換えにより、標的ゲノムに導入し、
前記相同アームは、HITI塩基配列からなるDNAを両端に付加され、前記相同アームの長さは、10bp以上60bp以下であり、前記細胞は、T細胞又は造血幹細胞である、ゲノム編集方法。
【請求項8】
5’端と3’端のうち、一方は長さが100bp以下の相同アームを有し、他方の相同アームの長さが一方の相同アームの長さの2倍以上
且つ30bp以上である、外来DNA、又は、5’端と3’端のうち、一方は相同アームを有しないか又は長さが10bp以下の相同アームを有し、他方は長さが50bp以上の相同アームを有する、外来DNAを含有することを特徴とし、
標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、前記外来DNAの5’端と3’端のうち、一方を非相同組換えにより、他方を相同組換えにより前記標的ゲノムに導入するための組成物。
【請求項9】
前記外来DNAが、5’端と3’端のうち、一方は相同アームを有しないか又は長さが10bp以下の相同アームを有し、他方は長さが50bp以上500bp未満の相同アームを有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記外来DNAが、5’端と3’端のうち、一方は相同アームを有さず、他方は長さが50bp以上の相同アームを有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
更に標的ゲノムDNA切断酵素又は前記酵素をコードするDNA若しくはmRNAを含有する、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
医薬用である、請求項8~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
重症複合免疫不全症治療用である、請求項8~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
重症複合免疫不全症を治療するための細胞製剤の製造方法であって、細胞(但し、ヒト生殖細胞、ヒト生殖系列細胞、ヒト受精卵を除く。)において、5’端と3’端のうち、一方は長さが100bp以下の相同アームを有し、他方の相同アームの長さが一方の相同アームの長さの2倍以上
且つ30bp以上である、外来DNA、又は、5’端と3’端のうち、一方は相同アームを有しないか又は長さが10bp以下の相同アームを有し、他方は長さが50bp以上の相同アームを有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、前記外来DNAの5’端と3’端のうち、一方を非相同組換えにより、他方を相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入することを特徴とする細胞製剤の製造方法。
【請求項15】
重症複合免疫不全症を治療するための細胞製剤の製造方法であって、前記細胞は、血球系細胞又は造血幹細胞であり、細胞において、500bp未満の長さの相同アームを有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、両側を相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入し、
前記相同アームは、HITI塩基配列からなるDNAを両端に付加され、前記相同アームの長さは、10bp以上60bp以下であり、前記細胞は、T細胞又は造血幹細胞である、細胞製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム編集方法、組成物、細胞、細胞製剤、及び細胞製剤の製造方法に関する。
本願は、2018年3月29日に、日本に出願された特願2018-66174号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞のゲノムの特定部位に、特定遺伝子を挿入して、標的ゲノムDNAを所望の塩基配列にそっくり置換したい場合、一般に相同組換えが利用される。具体的には、挿入したい外来DNAの両端(5’末端及び3’末端)に、ゲノム上の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNA(以下、相同アームという。)を備えた遺伝子導入用ベクター(以下、ターゲティングベクターという。)を用いることが行われている。係るベクターを対象細胞に導入すると、ゲノムDNAとベクターとの間で相同組換えが生じ、標的ゲノムDNAの所望の塩基配列を置換することができる。この置換はエラーフリーが特徴である。
【0003】
しかしながら、哺乳類由来の細胞では、この相同組換えが生じる頻度は、100万分の1と極めて低いため、相同組換えの実用化、特に医療応用面での実用化は非常に困難であった。
近年、ゲノム編集ヌクレアーゼの発見により、ゲノム上の任意の箇所でDNA二重鎖を切断することができるようになった。この結果、ゲノムDNAと導入外来遺伝子との間で相同組換えを誘導しやすくなった(例えば、特許文献1、非特許文献1~2参照。)。
【0004】
特許文献1においては、1細胞期胚の細胞のゲノムをCas9タンパク質で切断し、標的配列の5’末端及び3’末端にそれぞれハイブリダイズする相同アームと、当該相同アームに隣接する核酸インサート(導入外来遺伝子)とを備えるターゲティングベクターを用いて、前記核酸インサートを前記細胞中に導入する方法が開示されている。
【0005】
非特許文献1においては、β-サラセミア患者に由来する造血幹細胞に対して、Cas9タンパク質とアデノウイルス随伴ベクターとを組み合わせたCRISPR/Cas9システムを用い、相同組換えにより正常HBB(haemoglobin beta)遺伝子を導入したことが開示されている。
【0006】
しかしながら、近年の技術においても、相同組換えの発生頻度よりも非相同組換えの発生頻度が高く、相同組換えの発生頻度は最も高い場合でも10分の1程度である。従って、相同組換えの実用化を目指すにあたっては、更なる相同組換え頻度の向上が必要である。
相同組換えの頻度を上げる試みとして、例えば非特許文献3~4に挙げられる方法が提案されている。
【0007】
非特許文献2においては、CRISPR/Cas9システムを用いた相同組換えによる遺伝子導入において、非相同末端結合を抑制するか、又は相同組換えを促進する低分子化合物の探索がなされている。このような低分子化合物として、Scr7、L755507及びレスベラトールを使用し、ピッグ胎児線維芽細胞において相同組換えを促進したことが開示されている。
【0008】
非特許文献3においては、KU70やDNAリガーゼIV等の発現をRNA干渉により抑制して、非相同組換えの頻度を下げることにより、相対的に相同組換えの頻度を上げる方法が開示されている。
【0009】
非特許文献4においては、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集において、二重鎖DNAからCas9が解離する前に非対称的に放出される、sgRNAと相補的でない切断DNAの3’末端に対して、相補的な1本鎖DNAを供与することにより、相同組換えの頻度を上げる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Nature. 2016 Nov 17;539(7629):384-389. CRISPR/Cas9 β-globin gene targeting in human haematopoietic stem cells. Dever D. et al.
【文献】Sci Rep. 2017; 7: 8943. Small molecules enhance CRISPR/Cas9-mediated homology-directed genome editing in primary cells Guoling Li, et al.
【文献】Nat Biotechnol. 2015 May;33(5):543-548. Increasing the efficiency of homology-directed repair for CRISPR-Cas9-induced precise gene editing in mammalian cells. Chu VT., et al.
【文献】Nat Biotechnol. 2016;34:339-344, Enhancing homology-directed genome editing by catalytically active and inactive CRISPR-Cas9 using asymmetric donor DNA. Richerdson C, et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献3~4における方法によっても、相同組換えの頻度は依然として低く、未だ改善の余地がある。
【0013】
DNA二重鎖切断に対するDNA修復機序には、非相同末端結合と相同組換えとが知られている。非相同末端結合は相同組換えより短時間で進行する。従って、相同組換えの頻度を上げるためには、非相同末端結合の発生頻度を相対的に低減させる工夫が必要となる。しかし、非相同末端結合の機構そのものを抑制すると、DNAの二重鎖切断に対する細胞の修復能を大きく損なうこととなるため、生命体に対するリスク(生存不能や腫瘍化)が過大となる。この結果、この方向性での実用化・臨床応用は困難である。
【0014】
本発明は、細胞が本来有する非相同末端結合の能力を損なわず、相同組換えの頻度を上昇させることができる、ゲノム編集方法、組成物、細胞、細胞製剤、及び細胞製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、外来DNAの5’末端と3’末端において、一般には相同組換えに用いないような短い相同アームをターゲッティングベクターに採用すると、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、非相同組換えに対する相同組換えの頻度が著しく高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]単離された細胞中のゲノム編集方法であって、500bp未満の長さの相同アームを5’端と3’端に有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、少なくとも一方を相同組換えにより、標的ゲノムに導入することを特徴とするゲノム編集方法。
[2]前記外来DNAの5’端と3’端のうち、両方を相同組換えにより、外来DNAを前記標的ゲノム導入する、[1]に記載のゲノム編集方法。
[3]前記細胞が、血球系細胞又は未分化細胞である、[1]又は[2]に記載のゲノム編集方法。
[4]前記細胞が、幹細胞である、[1]~[3]のいずれかに記載のゲノム編集方法。
[5]前記細胞が、造血幹細胞である、[1]~[4]のいずれかに記載のゲノム編集方法。
[6]前記外来DNAの5’端と3’端のうち、一方を相同組換えにより、他方を非相同組換えにより、外来DNAを前記標的ゲノムに導入する、[1]に記載のゲノム編集方法。
【0017】
[7]単離された細胞中のゲノム編集方法であって、500bp未満の長さの相同アームを有する外来DNAを、外来DNAの5’側と3’側のうち、両側を相同組換えにより、標的ゲノムに導入することを特徴とするゲノム編集方法。
[8]前記細胞が、血球系細胞又は未分化細胞である、[7]に記載のゲノム編集方法。
[9]前記細胞が、幹細胞である、[7]又は[8]に記載のゲノム編集方法。
[10]前記細胞が、造血幹細胞である、[7]~[9]のいずれかに記載のゲノム編集方法。
【0018】
[11]500bp未満の長さの相同アームを両端に有する外来DNAを含有することを特徴とする組成物。
[12]更に標的ゲノムDNA切断酵素又は前記酵素をコードするDNA若しくはmRNAを含有する、[11]に記載の組成物。
[13]医薬用である、[11]又は[12]に記載の組成物。
[14]重症複合免疫不全症治療用である、[11]~[13]のいずれかに記載の組成物。
【0019】
[15]重症複合免疫不全症を治療するための細胞製剤の製造方法であって、細胞において、500bp未満の長さの相同アームを有し且つ前記標的ゲノムDNAの野生型DNAの少なくとも一部を有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、少なくとも一方を相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入することを特徴とする細胞製剤の製造方法。
[16]前記外来DNAの5’端と3’端のうち、両方を相同組換えにより、外来DNAを標的ゲノムDNAに導入する、[15]に記載の細胞製剤の製造方法。
[17]前記細胞が、血球系細胞又は未分化細胞である、[15]又は[16]に記載の細胞製剤の製造方法。
[18]前記細胞が、幹細胞である、[15]~[17]のいずれかに記載の細胞製剤の製造方法。
[19]前記細胞が、造血幹細胞である、[15]~[18]のいずれかに記載の細胞製剤の製造方法。
[20]前記外来DNAの5’端と3’端のうち、一方を相同組換えにより、他方を非相同組換えにより、外来DNAを標的ゲノムDNAに導入する、[15]に記載の細胞製剤の製造方法。
【0020】
[21]重症複合免疫不全症を治療するための細胞製剤の製造方法であって、細胞において、500bp未満の長さの相同アームを有し且つ前記標的ゲノムDNAの野生型DNAの少なくとも一部を有する外来DNAを、前記外来DNAの5’側と3’側のうち、両方を相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入することを特徴とする細胞製剤の製造方法。
[22]前記細胞が、血球系細胞又は未分化細胞である、[21]に記載の細胞製剤の製造方法。
[23]前記細胞が、幹細胞である、[21]又は[22]に記載の細胞製剤の製造方法。
[24]前記細胞が、造血幹細胞である、[21]~[23]のいずれかに記載の細胞製剤の製造方法。
[25]細胞の標的ゲノム上、外来DNAのゲノム挿入部位の5’側又は3’側に、外来DNA由来の断片を有することを特徴とする細胞。
[26][25]に記載の細胞を含有することを特徴とする細胞製剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、細胞が本来有する非相同末端結合の能力を損なわず、標的ゲノムにおいて、非相同組換えに比して高い相同組換え頻度を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】SCIDピッグのIL2RG遺伝子変異を、相同組換えにより修復する概略図である。短い相同アームを備えるターゲティングベクターにより、相同組換えのみが検出された。
【
図2】SCIDピッグ由来の造血幹細胞のIL2RG遺伝子変異が、相同組換えのみにより修復されたことを、ゲノムPCRによって確認した電気泳動の結果である。
【
図3】本発明のゲノム編集方法によりゲノム修復された造血幹細胞を自家移植したSCIDピッグにおいて、当該造血幹細胞が生着し、相同組換えによってゲノム修復された血液細胞だけが検出されていることをゲノムPCRによって確認した電気泳動の結果である。
【
図4】SCIDピッグのIL2RG遺伝子変異を、外来DNAの片端のみで相同組換えを生じさせて修復する概略図である。外来DNAの5’端を非相同組換えにより、3’端を相同組換えにより修復する。この場合、当該標的ゲノム上、外来DNA挿入部位5’側に外来DNA由来の断片が残存する。
【
図5】SCIDピッグ由来の骨髄間質細胞のIL2RG遺伝子変異が、5’端は相同組換えにより、3’端は非相同組換えにより修復されたことを、ゲノムPCRによって確認した電気泳動の結果である。
【
図6】マウス造血幹細胞ゲノムのRosa26領域に、GFP遺伝子が相同組換えのみにより挿入されたことを、ゲノムPCRによって確認をした電気泳動の結果である。
【
図7A】本発明のゲノム編集ツールをマイクロインジェクションしたマウス受精卵の蛍光画像である。GFPが検出された受精卵では、GFP遺伝子の少なくとも5’端は相同組換えによりβ-Actin (Actb)遺伝子座に挿入されている。
【
図7B】マウス受精卵のActb遺伝子座に、GFP遺伝子の5’端は相同組換えにより、3’端は非相同組換えにより挿入されたことを、ゲノムPCRによって確認した電気泳動の結果である。
【
図8】ヒトT細胞性白血病細胞株(Jurkat細胞)のhypoxanthine phosphoribosyltransferase (HPRT)遺伝子座に、GFP遺伝子が相同組換えのみにより挿入されたことを、ゲノムPCRによって確認をした電気泳動の結果である。
【
図9A】ヒト胎児腎臓細胞株(HEK293T細胞)のLamin B1 (LMNB1)遺伝子座に、GFP遺伝子が相同組換えのみにより挿入されたことを、ゲノムPCRによって確認した電気泳動の結果である。
【
図9B】HEK293T細胞のLMNB1遺伝子座にGFP遺伝子が挿入されたHEK293T細胞の蛍光画像である。相同組換えによってLMNB1とGFPの融合タンパク質が発現し、それは核膜に局在する。すべてのGFP陽性細胞でGFPが核膜に局在していることから、相同組換えのみによりGFP遺伝子がLMNB1遺伝子座に挿入されていることがわかる。
【
図9C】HEK293T細胞における、LMNB1遺伝子座へのGFP遺伝子の挿入効率を、フローサイトメトリーにより確認した結果である。
【
図10】ヒト由来の骨髄間質細胞のHPRT遺伝子座に、GFP遺伝子が相同組換えのみにより挿入されたことを、ゲノムPCRによって確認した電気泳動の結果である。
【
図11】ヒトiPS細胞のHPRT遺伝子座に、GFP遺伝子が相同組換えのみにより挿入されたことを、ゲノムPCRによって確認した電気泳動の結果である。
【
図12】マウス造血幹細胞において、ZFNおよびTALENを用いた場合でも、相同組換えのみによる遺伝子挿入が生じることを、ゲノムPCRによって確認した電気泳動の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[ゲノム編集方法]
本発明のゲノム編集方法は、500bp未満の長さの相同アームを有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、少なくとも一方を相同組換えにより、標的ゲノムに導入する方法である。
【0024】
<第一実施形態>
一実施形態において、本発明は、細胞中のゲノム編集方法であって、500bp未満の長さの相同アームを有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’末端と3’末端における相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入する方法を提供する。
【0025】
本実施形態において、先ず、標的ゲノムDNA上の、外来DNAを導入したい箇所で、係る標的ゲノムDNAの二重鎖を切断する。標的ゲノムDNAの二重鎖切断に用いるシステムとしては、特に限定されず、CRISPR-Cas9システム、Transcription activator-like effector nuclease(TALEN)システム、及びZnフィンガーヌクレアーゼシステム等が挙げられる。これらのシステムの細胞への導入方法としては、特に限定されず、標的ゲノムDNA切断酵素自体を細胞に導入してもよく、標的ゲノムDNA切断酵素発現ベクターを細胞に導入してもよい。標的ゲノムDNAの二重鎖切断に用いるシステムは、外来DNAと同時又は外来DNAの前若しくは後に細胞に導入される。
【0026】
例えば、CRISPR-Cas9システムにおいては、Cas9発現ベクターと、切断したい箇所にCas9を誘導するガイドRNAをコードする発現ベクターと、を細胞に導入する方法や、発現精製した組み換えCas9タンパク質と、ガイドRNAと、を細胞に導入する方法等が挙げられる。ガイドRNAはtracrRNAとcrRNAの2つに分かれていてもよく、1本につながっているsgRNAであっても良い。
本実施形態において、標的ゲノムDNAの二重鎖切断に用いるシステムは、CRISPR-Cas9システムが好ましい。
【0027】
本実施形態において、外来遺伝子、核酸及びタンパク質の細胞への導入手段としては、特に限定されず、ウイルスベクターを用いる方法、又は非ウイルス導入法、又はその他公知の方法のいずれであってもよい。ウイルスベクターを用いる方法としては、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴(AAV)ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター等が挙げられる。非ウイルス導入法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、ウィスカー法、プラズマ法、レーザーインジェクション法、パーティクルガン法及びアグロバクテリウム法等が挙げられる。
【0028】
本実施形態において、本発明のゲノム編集方法の対象となる細胞は、特に限定されない。単離された細胞が好ましく、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、酵母及びカビ等の真菌、並びに大腸菌等の細菌等が挙げられる。
動物細胞の例として、動物由来の幹細胞、生殖細胞、生殖系列細胞、株化細胞、初代培養細胞、及び、幹細胞から誘導された細胞又は初代培養細胞から作製された細胞が挙げられる。前記幹細胞はまた、株化された細胞であっても、初代培養細胞であってもよい。
本発明のゲノム編集方法は、必ずしも単離された細胞に限らない。動物個体そのものあるいは個体内の体細胞や幹細胞も対象となる。
【0029】
動物由来の細胞としては、幹細胞が好ましい。動物由来の幹細胞は、(i)自己複製能を有し、(ii)多分化能を有するという特徴を有する。
【0030】
動物の幹細胞は、その分化能の違いによって、多能性(pluripotent)幹細胞、多能性(multipotent)幹細胞、少能性(oligopotent)幹細胞、及び単能性(unipotent)幹細胞に分けられる。
【0031】
動物の幹細胞の例として、ES細胞及びEG細胞等の胚性幹細胞、誘導多能性(induced pluripotent)幹細胞(iPS細胞)等のES様幹細胞、胎生幹細胞、ミューズ細胞、胎盤幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞(歯髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞及び滑膜由来間葉系幹細胞等)、毛包幹細胞、乳腺幹細胞、神経幹細胞、サテライト細胞及び腸管上皮幹細胞等の成体幹細胞、並びにGS細胞等の生殖系幹細胞が挙げられる。
動物の幹細胞は、幹細胞に対して遺伝子操作を加えた細胞であってもよい。このような細胞として、例えば、ヒト白血球型抗原(HLA)を改編することにより免疫拒絶反応を抑えた多能性幹細胞等が挙げられる。
動物細胞としては、造血幹細胞が好ましい。
生殖細胞、生殖系列細胞の例として、卵子、卵母細胞、卵原細胞、精子、精母細胞、精原細胞、精子幹細胞(精原幹細胞)、始原生殖細胞等が挙げられる。卵子と精子が受精した受精卵でもよい。また、受精卵が分裂した、2細胞~8細胞胚でもよく、着床するまでの桑実胚~胚盤胞でもよい。
【0032】
動物の株化細胞は、特に限定されない。動物の株化細胞の例として、チャイニーズハムスター卵巣組織由来細胞(CHO細胞)、アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞(Vero細胞)、ヒト肝癌由来細胞(HepG2細胞)、イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株(MDCK細胞)、ヒト胎児腎細胞株(HEK293細胞)及びヒト肝癌組織由来樹立細胞株(huGK-14)等が挙げられる。
【0033】
動物の初代培養細胞は、特に限定されず、正常組織由来又は疾患組織由来のいずれであってもよい。動物の初代培養細胞の例として、毛乳頭細胞、内皮細胞、上皮細胞、表皮角化細胞、メラノサイト、心筋細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、骨格筋芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、肝細胞、神経細胞、並びに、制御性T細胞、キラーT細胞及びガンマ・デルタT細胞等の免疫細胞等が挙げられる。
【0034】
動物の幹細胞から誘導された細胞は、幹細胞であっても、分化した細胞であってもよい。動物の幹細胞から誘導された細胞の例として、iPS細胞由来網膜色素上皮細胞、iPS細胞由来神経細胞、iPS細胞由来キラーT細胞等のiPS細胞由来免疫系細胞、iPS細胞由来心筋前駆細胞及びiPS細胞由来肝細胞等が挙げられる。
【0035】
動物の初代培養細胞から作製された細胞は、特に限定されない。典型的には、動物の初代培養細胞から作製された細胞は、動物の初代培養細胞に遺伝子操作を加えた細胞である。動物の初代培養細胞から作製された細胞の例として、CAR(chimeric antigen receptor)-T細胞等が挙げられる。
【0036】
実施例において後述するように、本発明者は、相同組換えの起きやすさは、動物種や標的遺伝子座や導入遺伝子や、標的ゲノムを切断するヌクレアーゼの種類によらないことを見出した。
本実施形態においては、血球系細胞又は未分化細胞が好ましい。未分化細胞としては、幹細胞がより好ましく、造血幹細胞が特に好ましい。
【0037】
植物細胞は、特に限定されない。植物細胞の例として、植物の分裂組織又は種子に由来する細胞及びカルス等が挙げられる。カルスは、植物組織片から誘導されたもの、傷害誘導性のもの、細菌誘導性のもの、種間交雑において形成されたもの、及び培養細胞のいずれであってもよい。典型的には、植物の分裂組織又は種子に由来する細胞及びカルスは、PLT1、PLT5、LBD16、LBD17、LBD18、LBD29、ARR1、ARR21、ESR1、ESR2、WIND1、WIND2、WIND3、WIND4、LEC1、LEC2、AGL15、BBM、RKD1、RKD2、及びWUS等の多能性マーカーの少なくとも1つを発現するという特徴を有する。植物細胞におけるゲノム編集方法については、後述する。
【0038】
次いで、本実施形態において、外来DNAの両端に、500bp未満の相同アームを備えるターゲティングベクターを細胞に導入する。相同アームとは、挿入しようとする外来DNAの5’端及び3’端に設けられ、ゲノム上の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAをいう。
【0039】
相同アームの長さの上限値は、500bp未満であり、300bp以下が好ましく、100bp以下がより好ましく、50bp以下が特に好ましく、10bp以下であってもよい。導入された相同アームは、5’端及び3’端の両側において相同組換えに寄与する。
相同アームの長さの下限値は、5bp以上が好ましく、10bp以上がより好ましい。
【0040】
相同アームの長さは、5~499bpが好ましく、5~300bpがより好ましく、5~100bpがさらに好ましく、5~50bpが特に好ましく、10~50bpが最も好ましい。
【0041】
外来DNAの長さは、ゲノム上に挿入できる長さであれば特に限定されない。前記外来DNAの長さとしては、例えば、50bp~10kbp、100~5kbp、100~1kbp及び100~500bp等が挙げられる。外来DNAの例としては、標的配列の野生型DNA、コドン最適化配列DNA、タグ付加外来DNA、プロモーター配列、転写終結配列、機能的遺伝子配列、蛍光タンパク質マーカー遺伝子配列、薬剤選択遺伝子配列、マルチクローニングサイト配列、及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0042】
本実施形態において、使用するターゲティングベクターの種類は、特に限定されず、プラスミドベクター、ウイルスベクター等、従来公知のものを用いることができる。
ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴(AAV)ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター、等が挙げられる。
ターゲティングベクターの例として、CRISR/Cas9システムを利用したゲノム編集用の各種ベクターが挙げられ、例えば、HITI(Homology-independent targeted integration)システムを利用したターゲティングベクターが挙げられる。
【0043】
通常、相同組換えのための遺伝子ターゲティングベクターにおける相同アームの長さは、相同領域の比率を上げるという観点から、長い方が効率よく相同組換えが行われると考えられる。しかしながら、本発明者らは、5’末端及び3’末端の両方に短い相同アームを備える外来DNAが、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、非相同組み換えよりも著しく高い頻度で相同組み換えを生じるという、全く予想外の結果が得られることを見出した。
【0044】
本実施形態のゲノム編集方法により、外来DNAの5’末端及び3’末端の両側において、非相同組換えに対して極めて高い頻度の相同組換えを実現できる。具体的には、本発明の方法において、500bp未満の短い相同アームを使用したターゲティングベクターを使用することにより、細胞が本来有する非相同末端結合の機構を抑制することなく、DNAの二重鎖切断に対する細胞の修復能を維持したまま、非相同組み換えよりも著しく高い相同組換えの頻度を実現する。
【0045】
従って、本実施形態のゲノム編集方法は、医療及び産業へのゲノム編集技術の応用可能性を広げるものである。本発明は、遺伝子変異に起因する疾患を有する個体を治療するために用いることのできる血液系細胞を作製することができる。遺伝子変異に起因する疾患は、特に限定されないが、例えば、先天性免疫不全症(実施例のX-SCIDのほか、 アデノシンデアミナーゼ[ADA]欠損症、慢性肉芽腫症、X連鎖無γ-グロブリン血症[XLA]、ZAP-70欠損症、高IgM症候群、IgA欠損症、IgGサブクラス欠損症、Bloom症候群、Wiscott-Aldrich症候群、Ataxia telangiectasia、DiGeorge症候群)、Fanconi貧血、サラセミア、鎌状赤血球貧血症、白質ジストロフィー、血友病、ムコ多糖症等のいずれであってもよい。本発明が非相同組換えに比して高い相同組換え頻度を実現するものであることから、非相同組換えでは治療が難しいが相同組換えによって治療の期待される各種疾患、たとえば、巨大遺伝子に変異のある疾患(筋ジストロフィーなど)や、遺伝子変異が長大な疾患(ハンチントン病等のトリプレット・リピート病など)の治療に極めて有用である。本発明の適応は、必ずしも遺伝子変異に起因する疾患の治療に限らない。たとえば、本発明は、間葉系幹細胞やT細胞の機能改変のために広く利用できる。たとえば、間葉系幹細胞やCAR-T細胞のHLA遺伝子座の改変など。これら本発明によって作成したゲノム改変細胞は、各種がん、白血病、造血障害、骨髄異形成症候群、心筋梗塞・脳梗塞・閉塞性動脈硬化症等の虚血性疾患、バージャー病、末梢疾患、重症下肢虚血、肺高血圧症、自己免疫疾患、ルーブス腎炎、クローン病、角膜疾患、角膜障害、緑内障、視神経障害、網膜色素変性症、黄斑変性等の治療に供することができる。本発明の応用は医療に限らない。たとえば、高不飽和脂肪酸を多く含み食味に優れた肉牛及び大トロの比率を増したマグロの作出等への、本発明による動物細胞のゲノム編集方法の応用可能性等が挙げられる。
【0046】
<第二実施形態>
一実施形態において、本発明は、細胞中のゲノム編集方法であって、500bp未満の長さの相同アームを有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、一方を相同組換えにより、他方を非相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入する方法を提供する。
【0047】
本実施形態の例としては、マウス受精卵やピッグ骨髄間質細胞等が挙げられる。
【0048】
本実施形態のゲノム編集の効率を上げる一手段として、外来DNAにおける一方の相同アームの長さは、他方の相同アームの長さの2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましく、4倍以上であることが更に好ましく、5倍以上であることが特に好ましい。
短い相同アームの長さとしては、50bp以下が好ましく、30bp以下がより好ましく、10bp以下が特に好ましく、0bpであってもよい。長い相同アームの長さとしては、30bp以上が好ましく、40bp以上がより好ましく、50bp以上が特に好ましい。
導入された短い相同アームは、非相同組換えに寄与し、長い相同アームは、相同組換えに寄与する。本実施形態において、非相同組換えとは、非相同末端結合を意味する。
外来DNAの長さとしては、ゲノム上に挿入できる長さであれば特に限定されず、例えば100bp~10kbpが挙げられる。
【0049】
本実施形態のゲノム編集方法における、片側相同組換えの発生機序は不明だが、次のように推測している。短い相同アームは、長い相同アームに比べれば相同組換えが起こりづらく、ゲノムDNAの二重鎖切断された箇所と、短い相同アームとが非相同組換えの機序(非相同末端結合)によってつながる。こうして、導入遺伝子の一端がゲノムDNAにつながったことで、そこが支点となって、他端の長い相同アームは、ゲノム上の相同配列近傍に位置するようになり、相同組換えが生じやすくなる。即ち、外来DNAの一端がまず非相同組換えによってつながり、その後他端側の相同組換えによって、外来DNAがゲノムに組み込まれるものと考えられる。
【0050】
<第三実施形態>
一実施形態において、本発明は、単離された細胞中のゲノム編集方法であって、500bp未満の長さの相同アームを有する外来DNAを、外来DNAの5’側と3’側のうち、両側を相同組換えにより、標的ゲノムに導入する方法を提供する。
【0051】
本実施形態においては、ターゲティングベクターとして、標的ゲノムDNAを二重鎖切断せずとも、相同組換えを起すものを用いる。係るターゲティングベクターとしては、一本鎖DNAを包含するAAVベクターが挙げられる。
標的ゲノムDNAを二重鎖切断しないこと以外は、第一実施形態と同様である。
【0052】
[組成物]
本発明の組成物は、500bp未満の長さの相同アームを両端に有する外来DNAを含有する。
【0053】
本発明の組成物は、標的ゲノムDNA切断酵素又は前記酵素をコードするDNA若しくはmRNAを含有してもよく、DNA切断酵素ではなく、二本鎖DNAの片側にニックを入れるニッケースや、二本鎖DNAを一本鎖に分離するヘリケースでもよい。
【0054】
本発明において、標的ゲノムDNA切断酵素としては、Cas9、Transcription activator-like effector nuclease(TALEN)、Znフィンガーヌクレアーゼ等が挙げられる。また、前記酵素をコードするDNA又はmRNAとしては、これらのタンパク質をコードするDNA又はmRNAが挙げられる。
【0055】
標的ゲノムDNA切断酵素として、Cas9を用いる場合には、組成物は、Cas9を誘導するガイドRNAを含有することが好ましい。また、組成物は、ガイドRNAをコードする発現ベクターを含有してもよい。
【0056】
本発明において、外来DNAの両端に設けられる相同アームの長さは500bp未満であり、300bp以下であることが好ましく、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。
【0057】
本発明において、外来DNAは、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様であり、本発明の組成物は、外来DNAを含むターゲティングベクターを含んでいてもよい。ターゲティングベクターについては、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。
【0058】
本発明において、上述した外来DNAは、一種のベクターに含まれるものでもよく、複数種のベクターに含まれるものでもよい。ベクターは特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。
【0059】
本発明の組成物は、医薬用であることが好ましく、薬学的に許容される担体を含むことがより好ましい。本実施形態の医薬用組成物は、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の形態で経口的に、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の形態で、非経口的に投与される。
【0060】
薬学的に許容される担体としては、医薬組成物の製剤に通常用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム及びアラビアゴム等の結合剤;デンプン及び結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール及びグリセリン等の注射剤用溶剤;ゴム系粘着剤及びシリコーン系粘着剤等の粘着剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で又は2種以上を混合することにより用いられる。
【0061】
本発明の組成物は、更に添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン及びマルチトール等の甘味剤;ペパーミント及びアカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール及びフェノール等の安定剤;リン酸塩及び酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル及びベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
添加剤は、1種を単独で又は2種以上を混合することにより用いられる。
【0062】
本発明の組成物は、重症複合免疫不全症治療用であることが好ましい。重症複合免疫不全症(SCID)において、最も頻度の高い病型は、X鎖連鎖型であり、IL-2受容体γ遺伝子(IL2RG)の変異に起因する。
【0063】
本発明において、X鎖連鎖型重症複合免疫不全症治療用組成物に含まれる外来DNAは、野生型IL-2受容体γ遺伝子の少なくとも一部を含むことが好ましい。また、標的ゲノムDNA切断酵素として、Cas9を用いる場合には、標的ゲノム上のIL-2受容体γ遺伝子にハイブリダイズするガイドRNA又はガイドRNAをコードする発現ベクターを含有することが好ましい。
【0064】
本発明の組成物を使用することにより、本発明のゲノム編集方法を提供することが可能となる。
【0065】
[遺伝子治療方法]
本発明の遺伝子治療方法は、変異を有する標的ゲノムDNAを切断する酵素又は前記酵素をコードするDNA若しくはmRNAと、500bp未満の長さの相同アームを両端に備えた、前記標的ゲノムDNAの野生型DNAの少なくとも一部を有する外来DNAと、を含有する医薬組成物を対象に投与する方法である。
【0066】
本発明において、変異は、標的ゲノムDNAのエクソン及びイントロン、又は標的ゲノムDNAの発現調節領域における、一部又は全部の欠失、置換、任意の配列の挿入等により生じる。
【0067】
本発明において、投与方法は特に限定されず、患者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等は経口投与される。また、注射剤は、単独で、又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて、骨髄内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下又は腹腔内投与される。
【0068】
本発明において、医薬組成物の投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば1日あたり1μg~10g、例えば1日あたり0.01~2000mgの有効成分を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば1日あたり0.1μg~1g、例えば1日あたり0.001~200mgの有効成分を投与すればよい。
【0069】
[細胞]
第二実施形態において、本発明の細胞は、その標的ゲノム上、外来DNAのゲノム挿入部位の5’側又は3’側に、外来DNA由来の断片が残存することを特徴とする。上述した第二実施形態のゲノム編集方法によれば、外来DNAの一端がまず非相同組換えによって、二重鎖切断によって生じた標的ゲノムDNAの一端とつながる。そのため、本発明の細胞は、外来DNAのゲノム挿入部位の5’側または3’側に、外来DNA由来の断片をもつ。
図4の結果に示されるように、標的ゲノムDNAの5’端で非相同組換えが起きた場合には、外来DNAのゲノム挿入部位の5’側に外来DNA由来の断片を有する。標的ゲノムDNAの3’側で非相同組換えが起きた場合には、外来DNAのゲノム挿入部位の3’側に外来DNA由来の断片を有する。
【0070】
[細胞製剤]
本発明の細胞製剤は、上述した第二実施形態のゲノム編集方法を用いることにより、例えば、変異を有する標的ゲノムDNAが野生型に編集された細胞を含有する。更に、上記[細胞]で述べたように、本発明の細胞製剤は、その標的ゲノム上、外来DNAのゲノム挿入部位の5’側又は3’側に、外来DNA由来の断片が残存する細胞を含む。
【0071】
[細胞製剤の製造方法]
本発明の細胞製剤の製造方法は、重症複合免疫不全症を治療するための細胞製剤の製造方法であって、細胞において、500bp未満の長さの相同アームを有し且つ前記標的ゲノムDNAの野生型DNAの少なくとも一部を有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、少なくとも一方を相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入する方法である。
【0072】
一実施形態において、本発明は、重症複合免疫不全症を治療するための細胞製剤の製造方法であって、細胞において、500bp未満の長さの相同アームを有し且つ前記標的ゲノムDNAの野生型DNAの少なくとも一部を有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、両方を相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入する細胞製剤の製造方法を提供する。
【0073】
一実施形態において、本発明は、重症複合免疫不全症を治療するための細胞製剤の製造方法であって、細胞において、500bp未満の長さの相同アームを有し且つ前記標的ゲノムDNAの野生型DNAの少なくとも一部を有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’端と3’端のうち、一方を相同組換えにより、他方を非相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入する細胞製剤の製造方法を提供する。
【0074】
一実施形態において、本発明は、重症複合免疫不全症を治療するための細胞製剤の製造方法であって、細胞において、500bp未満の長さの相同アームを有し且つ前記標的ゲノムDNAの野生型DNAの少なくとも一部を有する外来DNAを、前記外来DNAの5’側と3’側のうち、両方を相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入する細胞製剤の製造方法を提供する。
【0075】
細胞製剤の宿主となる細胞は、特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様のものが挙げられ、人体から取り出した骨髄由来細胞でもよい。
【0076】
このようにして、ゲノム編集した細胞を体外で増殖させた後、細胞製剤として、静脈注射等により、患者に投与する。
【0077】
本発明の細胞製剤の製造方法を用いることにより、標的ゲノムにおいて、非相同組換えに比して高い相同組換え頻度を実現する。この結果、効率よく細胞製剤を製造することができる。
【0078】
本発明の細胞製剤の製造方法により、重症複合免疫不全症の患者の骨髄由来細胞における変異を有する標的ゲノムDNAを相同組換えによってエラーなく健常の塩基配列に修復し、重症複合免疫不全症を根治する細胞製剤を提供することが可能となる。
【0079】
[植物細胞のゲノム編集方法]
一実施形態において、植物細胞中のゲノム編集方法であって、500bp未満の長さの相同アームを有する外来DNAを、標的ゲノムDNAの二重鎖切断時、外来DNAの5’末端と3’末端における相同組換えにより、前記細胞のゲノム中に導入する方法を提供する。
【0080】
本実施形態において、標的ゲノムDNAの二重鎖切断に用いるシステムは、特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。これらのシステムの細胞への導入方法についても、特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。
【0081】
本実施形態において、外来遺伝子の細胞への導入手段については、特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。
【0082】
植物細胞は、特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。植物細胞としては、植物の分裂組織又は種子に由来する細胞及びカルス等が好ましい。
【0083】
相同アームの長さの上限値は、500bp未満であり、300bp以下が好ましく、100bp以下がより好ましく、50bp以下が特に好ましく、10bp以下であってもよい。相同アームの長さの下限値は、5bp以上が好ましく、10bp以上がより好ましい。相同アームの長さは、この上限値と下限値との間の範囲で特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。
【0084】
外来DNAの長さとしては、ゲノム上に挿入できる長さであれば特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。
【0085】
本実施形態において、使用するターゲティングベクターの種類は、特に限定されず、上述した[ゲノム編集方法]におけるものと同様である。
【0086】
植物細胞におけるゲノム編集は、in vitro培養系で行われても、in plantaで行われてもよい。in vitro培養系でのゲノム編集方法においては、外来遺伝子、核酸及びタンパク質の細胞への導入は、カルス又は組織片に対して、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法及びウィスカー法等の公知の方法を用いて行われる。in plantaにおけるゲノム編集方法においては、外来遺伝子、核酸及びタンパク質の細胞への導入は、露出させた未熟胚や完熟胚の茎頂に対して、公知の方法を用いて行われる。コムギ、イネ、トウモロコシ又はダイズ等の穀物類では、植物体への導入効率から、パーティクルガン法を用いて完熟種子胚に導入する方法が好ましい。その他、穀物類として大麦、ジャガイモ、野菜類としてトマト、アブラナ、また花卉類としてカーネーション、バラ、スイートピー、キク等に適用される。
【0087】
本実施形態の植物細胞におけるゲノム編集方法は、農業分野でのゲノム編集技術の応用可能性を広げるものである。具体的には、炭水化物が少なく二日酔いしにくい酒米の作出等が挙げられる。
【実施例】
【0088】
以下、実験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0089】
<実験例1>
[ドナープラスミドの構築]
Watanabe M et al., PLoS One., 2013 Oct 9;8(10):e76478.に記載されるSCIDモデルピッグ由来造血幹細胞のゲノム上のInterleukin-2 receptor gamma遺伝子(以下、IL2RGともいう。)における5’制御領域からエクソン1途中までの変異(85bp及び1bpの欠損、2bp及び1bpの塩基置換)を修復すべく、ドナープラスミド(HITIターゲティグベクター)を用いてドナープラスミドを作製した。ドナープラスミドの構造を
図1に示す。ドナープラスミドは、変異部位を含む155bpの外来DNAに、以下の組合せの相同アームを付加した構造を有する。
(a)5’末端が10bp、3’末端が50bpの相同アーム
(b)5’末端、3’末端ともに50bpの相同アーム
(c)5’末端が50bp、3’末端が10bpの相同アーム
(d)5’末端、3’末端ともに10bpの相同アーム
【0090】
5’側の10bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-GGCCCAGGTT-3’(配列番号1)
5’側の50bpの相同アームを含む塩基配列を以下に示す。
5’-CAAAAGGAAATGTGTGGGTGGGGAGGGGTAGTGGGTAAGGGGCCCAGGTT-3’(配列番号2)
【0091】
外来DNAの塩基配列を以下に示す。なお、小文字がSCIDピッグで欠損している5’制御領域、大文字がコドンオプティマイズされたEx1(エクソン1)の塩基配列である。
5’-cctgacacagtctacacccaggaaacaaggagtaagcgccATGCTCAAACCCCCCCTCCCCGTCAAGTCTCTCCTCTTCCTCCAGCTCCCTCTGCTCGGCGTCGGCCTCAATCCTAAGGTCCTCACCCACAGCGGCAACGAGGACATCACCGCTG-3’(配列番号3)
【0092】
3’側の50bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-GTGGGAAACTGGGACGTTGGGGGTAGGGTTGGTGAGCCGGGGGAGGCTGG-3’(配列番号4) 3’側の10bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-GTGGGAAACT-3’(配列番号5)
相同アームの両端に付加するHITI塩基配列を以下に示す。
5’-CCTTCGGGTTCAGTCCCACCCCA-3’(配列番号6)
【0093】
[CRISPR-Cas9を用いた、野生型IL2RG-Ex1遺伝子のIL2RG欠損ピッグ造血幹細胞への導入]
Cas9タンパク質、配列番号7(5’-UGGGGUGGGACUGAACCCGAGUUUUAGAGCUAUGCU-3’)に示されるcrRNA、tracrRNA(Alt-R(登録商標) CRISPR-Cas9 tracrRNA、カタログ番号1072534、Integrated DNA Technologies社製)、及び上記ドナープラスミドを、エレクトロポレーションによりIL2RG欠損ピッグ造血幹細胞へ導入した。ピッグ造血幹細胞は、ピッグ骨髄中の各種(CD3、CD16、及びCD45RA)分化マーカー陰性細胞(Lin-)を用いた。
【0094】
[ゲノムPCRによる挿入の確認]
エレクトロポレーションの7日後に細胞からゲノムDNAを精製し、PCRによる外来DNA挿入の確認を行った。挿入確認に用いたプライマーは
図1に示すAとBの組み合わせ、及びCとDの組み合わせを用いた。5’端の相同組換えが起きると、プライマーAとBの組み合わせによるPCRにより335bpのDNAが増幅される。3’端の相同組換えが起きると、プライマーCとDの組み合わせによるPCRにより、197bpのDNAが増幅される。
図2に、増幅されたPCR産物を電気泳動した結果を示す。
図2に示されるように、5’末端及び3’末端において、相同組換えが生じたこと示すサイズのバンドのみが認められた。
図2中、NHEJ(Non-homologous end joining)は非相同組換えに相当するバンドサイズを示し、HDR (Homology directed repair)は相同組換えに相当するバンドサイズを示す。
【0095】
[シーケンスによる組み換え方法の確認]
TAクローニングしたPCR産物を大腸菌に導入し、形成された各コロニーのシーケンスを行った。
使用した相同アームの組合せは以下の通りである。
(a)5’末端が10bp、3’末端が50bpの相同アーム
(b)5’末端、3’末端ともに50bpの相同アーム
(c)5’末端が50bp、3’末端が10bpの相同アーム
(d)5’末端、3’末端ともに10bpの相同アーム
5’末端では、組み換えが生じた(a)4クローン、(b)8クローン、(c)7クローン、(d)6クローン中、全てのクローンにおいて相同組換えが起きており、3’末端では、組み換えが生じた(a)8クローン、(b)7クローン、(c)8クローン、(d)10クローン中、全てのクローンにおいて相同組換えが起きており、5’末端、3’末端共に極めて高い頻度(100%)で、相同組換えが起きていることが確認された。また、かかる相同組換えにより修復された変異配列は、野生型IL2RGのエクソン1をコードする配列であること(エラーフリーの修復)が確認された。
【0096】
[IL2RG-Ex1遺伝子を導入したIL2RG欠損ピッグ造血幹細胞のSCIDピッグへの移植及び検出]
上記のゲノム修復を行ったIL2RG欠損ピッグ造血幹細胞を、同一個体のIL2RG欠損ピッグへ自家移植した。移植の4週間後、当該個体の末梢血由来の細胞を採取し、相同組換えによってゲノム修復された細胞の有無をPCR解析で確認した。その結果、相同組換えに相当するバンドのみが検出され、非相同組換えに相当するバンドは検出されなかった(
図3)。さらに、得られたPCR産物のシーケンス解析を行ったところ、SCIDピッグの遺伝子変異が、相同組換えによりエラーフリーで健常塩基配列に修復されていることが確認された。これは、当該ピッグの遺伝子異常がもっぱらターゲティングベクターの相同組換えによって修復されたことを示す。
【0097】
<実験例2>
[ドナープラスミドの構築]
Watanabe M et al., PLoS One., 2013 Oct 9;8(10):e76478.に記載されるSCIDモデルピッグ由来骨髄間質細胞のゲノム上のIL2RGを修復すべく、
図4に示すドナープラスミド(ターゲティグベクター)を作製した。
【0098】
5’側の相同アーム(10bp)の塩基配列は、配列番号1と同様である。
【0099】
Ex1(エクソン1)の塩基配列は、配列番号3と同様である。
【0100】
3’側の相同アーム(50bp)の塩基配列は、配列番号4と同様である。
【0101】
相同アームの両端に付加するHITI塩基配列は、配列番号6と同様である。
【0102】
[CRISPR-Cas9を用いた、野生型IL2RG-Ex1遺伝子のIL2RG欠損ピッグ細胞への挿入]
Cas9タンパク質、配列番号7に示されるcrRNA、tracrRNA、及び上記ドナープラスミドをエレクトロポレーションにより導入した。ピッグ由来骨髄間質細胞は、ピッグ骨髄単核球を液体培養して得られる付着細胞を用いた。
【0103】
[ゲノムPCRによる挿入の確認]
エレクトロポレーション3日後の細胞からゲノムDNAを精製し、PCRによるDNA挿入の確認を行った。挿入確認に用いたプライマーは
図4に示すAとBの組み合わせ、及びCとDの組み合わせを用いた。プライマーAとBの組み合わせによるPCRでは、非相同組換えが起きると389bpのDNAが増幅される。プライマーCとDの組み合わせによるPCRでは、非相同組換えが起きると399bpのDNAが増幅され、相同組換えが起きると301bpのDNAが増幅される。
図5に、PCR産物を電気泳動した結果を示す。
図5に示されるように、5’末端では、非相同組換えに相当するサイズのバンドが、3’末端では、相同組換え及び非相同組換えに相当するサイズのバンドが認められた。
図5中、NHEJは非相同組換えに相当するバンドサイズを示し、HDRは相同組換えに相当するバンドサイズを示す。すなわち、ピッグ由来骨髄間質細胞では、外来DNAの5’端では非相同組換え、3’端では相同組換えという片側相同組み換えを生じた。これは、相同アームの短い側の5’端(10bp)では非相同組換えが、相同アームの長い側の3’端(50bp)では相同組換えが生じたことを示す。
【0104】
[シーケンスによる組み換え方法の確認]
TAクローニングしたPCR産物を大腸菌に導入し、形成された各コロニーのシーケンスを行った。5’末端では、5クローン中、全てのクローンにおいて、非相同組換えが起きており、3’末端では、7クローン中、6クローンという高い頻度で、相同組換えが起きていることが確認された。
【0105】
<実験例3>
マウス造血幹細胞ゲノムのRosa26領域、β-Actin (Actb)遺伝子座に、MCS (Multicloning Site)、GFP、blasticidin S deaminase (BSR)遺伝子をノックインすべく、両端10bpの相同アームを含むドナープラスミド、両端50bpの相同アームを含むドナープラスミド、及び両端100bpの相同アームを含むドナープラスミドを作製した。マウス造血幹細胞は、マウス骨髄中の各種(CD5、CD45R、CD11b、Gr-1、7-4、及びTer-119)分化マーカー陰性細胞(Lin-)を用いた。
【0106】
Rosa26領域をターゲットとする、5’側の10bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’- TGCAACTCCA-3’(配列番号8)
【0107】
Rosa26領域をターゲットとする、5’側の50bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-TGGGCCTGGGAGAATCCCTTCCCCCTCTTCCCTCGTGATCTGCAACTCCA-3’(配列番号9)
【0108】
Rosa26領域をターゲットとする、5’側の100bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-AATACCTTTCTGGGAGTTCTCTGCTGCCTCCTGGCTTCTGAGGACCGCCCTGGGCCTGGGAGAATCCCTTCCCCCTCTTCCCTCGTGATCTGCAACTCCA-3’(配列番号10)
【0109】
Rosa26領域をターゲットとする、3’側の10bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’- ACAGGTGTAA-3’(配列番号11)
【0110】
Rosa26領域をターゲットとする、3’側の50bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-ACAGGTGTAAAATTGGAGGGACAAGACTTCCCACAGATTTTCGGTTTTGT-3’(配列番号12)
【0111】
Rosa26領域をターゲットとする、3’側の100bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-ACAGGTGTAAAATTGGAGGGACAAGACTTCCCACAGATTTTCGGTTTTGTCGGGAAGTTTTTTAATAGGGGCAAATAAGGAAAATGGGAGGATAGGTAGT-3’(配列番号13)
【0112】
GFP遺伝子を含む外来DNAの塩基配列を以下に示す。
5’-actagttctagcatctgtagggcgcagtagtccagggtttccttgatgatgtcatacttatcctgtcccttttttttccacagctcgcggttgaggacaaactcttcgcgcatgcggatccggtaccATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTCACCGGGGTGGTGCCCATCCTGGTCGAGCTGGACGGCGACGTAAACGGCCACAAGTTCAGCGTGTCCGGCGAGGGCGAGGGCGATGCCACCTACGGCAAGCTGACCCTGAAGTTCATCTGCACCACCGGCAAGCTGCCCGTGCCCTGGCCCACCCTCGTGACCACCCTGACCTACGGCGTGCAGTGCTTCAGCCGCTACCCCGACCACATGAAGCAGCACGACTTCTTCAAGTCCGCCATGCCCGAAGGCTACGTCCAGGAGCGCACCATCTTCTTCAAGGACGACGGCAACTACAAGACCCGCGCCGAGGTGAAGTTCGAGGGCGACACCCTGGTGAACCGCATCGAGCTGAAGGGCATCGACTTCAAGGAGGACGGCAACATCCTGGGGCACAAGCTGGAGTACAACTACAACAGCCACAACGTCTATATCATGGCCGACAAGCAGAAGAACGGCATCAAGGTGAACTTCAAGATCCGCCACAACATCGAGGACGGCAGCGTGCAGCTCGCCGACCACTACCAGCAGAACACCCCCATCGGCGACGGCCCCGTGCTGCTGCCCGACAACCACTACCTGAGCACCCAGTCCGCCCTGAGCAAAGACCCCAACGAGAAGCGCGATCACATGGTCCTGCTGGAGTTCGTGACCGCCGCCGGGATCACTCTCGGCATGGACGAGCTGTACAAGTAAgaattc-3’(配列番号14)
【0113】
Rosa26領域をターゲットとする場合の、相同アームの両端に付加するHITI塩基配列を以下に示す。
5’-CCATCTTCTAGAAAGACTGGAGT-3’(配列番号15)
【0114】
実験例1及び2と同様の方法で、Cas9タンパク質、Rosa26領域をターゲットとする配列番号16(5’- ACUCCAGUCUUUCUAGAAGAGUUUUAGAGCUAUGCU-3’)に示されるcrRNA、tracrRNA、及び上記ドナープラスミドをエレクトロポレーションによりマウス造血幹細胞に導入した。
エレクトロポレーション3日後に細胞からゲノムDNAを精製し、PCRによるDNA挿入の確認を行った。
図6に示されるように、5’末端及び3’末端で、相同組換えに相当するサイズのバンドだけが認められた。すなわち、マウス造血幹細胞ゲノムのRosa26領域に、GFP遺伝子が相同組換えのみにより挿入された。
【0115】
<実験例4>
マウス受精卵のActb遺伝子座に、GFP遺伝子をノックインすべく、両端100bpの相同アームを含むドナープラスミドを作製した。5’側の相同アームの外側(5’端側)に、ストップコドンを備えているため、5’端で相同組換えが生じた場合にGFPが発現する。
【0116】
5’側の100bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-GGATCGGTGGCTCCATCCTGGCCTCACTGTCCACCTTCCAGCAGATGTGGATCAGCAAGCAGGAGTACGATGAGTCCGGCCCCTCCATCGTGCACCGCAA-3’(配列番号17)
【0117】
3’側の100bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-GGACTGTTACTGAGCTGCGTTTTACACCCTTTCTTTGACAAAACCTAACTTGCGCAGAAAAAAAAAAAATAAGAGACAACATTGGCATGGCTTTGTTTTT-3’(配列番号18)
【0118】
相同アームの両端に付加するHITI塩基配列を以下に示す。
5’-AGTCCGCCTAGAAGCACTTGCGG-3’(配列番号19)
【0119】
GFP遺伝子を含む外来DNAの塩基配列は、実験例3と同様である。
Cas9タンパク質、配列番号20(5’-AGUCCGCCUAGAAGCACUUGGUUUUAGAGCUAUGCU-3’)に示されるcrRNA、tracrRNA、及び上記ドナープラスミドを、マイクロインジェクションによりマウス受精卵に導入した。
マイクロインジェクション6日後に細胞からゲノムDNAを抽出し、PCRによるDNA挿入の確認を行った。
図7Aに示されるように、蛍光顕微鏡で観察すると細胞が緑色蛍光を呈していることから、5’端ではGFP遺伝子が相同組換えによりノックインされていることが確認された。また、
図7Bに示されるように、5’末端では相同組換えに相当するサイズのPCRバンドが認められ、3’末端では、非相同組換えに相当するサイズのPCRバンドが認められた。すなわち、マウス受精卵では片側相同組換えによりノックインされた。この結果は、片側相同組換えには、相同アームの長さが両端で必ずしも異なる必要はないことを示す。
【0120】
<実験例5>
ヒトT細胞性白血病細胞(Jurkat細胞)ゲノムのHPRT遺伝子座に、GFP遺伝子をノックインすべく、両端約60bpの相同アームを含むドナープラスミド、両端約240bpの相同アームを含むドナープラスミドを作製した。
【0121】
5’側の60bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-GATGAACCAGGTTATGACCTTGATTTATTTTGCATACCTAATCATTATGCTGAGGATTTG-3’(配列番号21)
【0122】
5’側の244bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-CCGGCCTGTTGTTTTCTTACATAATTCATTATCATACCTACAAAGTTAACAGTTACTAATATCATCTTACACCTAAATTTCTCTGATAGACTAAGGTTATTTTTTAACATCTTAATCCAATCAAATGTTTGTATCCTGTAATGCTCTCATTGAAACAGCTATATTTCTTTTTCAGATTAGTGATGATGAACCAGGTTATGACCTTGATTTATTTTGCATACCTAATCATTATGCTGAGGATTTG-3’(配列番号22)
【0123】
3’側の61bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’- GAAAGGGTGTTTATTCCTCATGGACTAATTATGGACAGGTAAGTAAGATCTTAAAATGAGG-3’(配列番号23)
【0124】
3’側の239bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-GAAAGGGTGTTTATTCCTCATGGACTAATTATGGACAGGTAAGTAAGATCTTAAAATGAGGTTTTTTACTTTTTCTTGTGTTAATTTCAAACATCAGCAGCTGTTCTGAGTACTTGCTATTTGAACATAAACTAGGCCAACTTATTAAATAACTGATGCTTTCTAAAATCTTCTTTATTAAAAATAAAAGAGGAGGGCCTTACTAATTACTTAGTATCAGTTGTGGTATAGTGGGACTC-3’(配列番号24)
【0125】
GFP遺伝子を含む外来DNAの塩基配列を以下に示す。
5’-gaattcATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTCACCGGGGTGGTGCCCATCCTGGTCGAGCTGGACGGCGACGTAAACGGCCACAAGTTCAGCGTGTCCGGCGAGGGCGAGGGCGATGCCACCTACGGCAAGCTGACCCTGAAGTTCATCTGCACCACCGGCAAGCTGCCCGTGCCCTGGCCCACCCTCGTGACCACCCTGACCTACGGCGTGCAGTGCTTCAGCCGCTACCCCGACCACATGAAGCAGCACGACTTCTTCAAGTCCGCCATGCCCGAAGGCTACGTCCAGGAGCGCACCATCTTCTTCAAGGACGACGGCAACTACAAGACCCGCGCCGAGGTGAAGTTCGAGGGCGACACCCTGGTGAACCGCATCGAGCTGAAGGGCATCGACTTCAAGGAGGACGGCAACATCCTGGGGCACAAGCTGGAGTACAACTtCAACAGCCACAACGTCTATATCATGGCCGACAAGCAGAAGAACGGCATCAAGGcGAACTTCAAGATCCGCCACAACATCGAGGACGGCAGCGTGCAGCTCGCCGACCACTACCAGCAGAACACCCCCATCGGCGACGGCCCCGTGCTGCTGCCCGACAACCACTACCTGAcCACCCAGTCCGCCCTGAGCAAAGACCCCAACGAGAAGCGCGATCACATGGTCCTGgTGGAGTTCGTGACCGCCGCCGGGATCACTCTCGGCATGGACGAGCTGTACAAGTAAggatcc-3’(配列番号25)
【0126】
相同アームの両端に付加するHITI塩基配列を以下に示す。
5’-ACCCTTTCCAAATCCTCAGCATAATG-3’(配列番号26)
【0127】
Cas9タンパク質と配列番号27(5’-UUAUGCUGAGGAUUUGGAAA-3’)に示される認識配列を持つsgRNAを共発現するプラスミド(px330-HPRT)、及び上記ドナープラスミドをエレクトロポレーションによりJurkat細胞に導入した。
エレクトロポレーション3日後に細胞からゲノムDNAを精製し、PCRによるDNA挿入の確認を行った。
図8に示されるように、5’末端及び3’末端で、相同組換えに相当するサイズのバンドが認められた。すなわち、ヒトT細胞性白血病細胞では、両側相同組換えによるノックインが認められた。当該ノックインがエラーフリーの相同組換えによるものであることは、下記の通りシーケンスによって確認した。
【0128】
TAクローニングしたPCR産物を大腸菌に導入し、形成された各コロニーのシーケンスを行った。60bpアームの場合、5’末端では、8クローン中、全てのクローンにおいて、相同組換えが起きており、3’末端では、7クローン中、全てのクローンにおいて、相同組換えが起きていることが確認された。240bpアームの場合、5’末端では、6クローン中、全てのクローンにおいて、相同組換えが起きており、3’末端では、8クローン中、全てのクローンにおいて、相同組換えが起きていることが確認された。
【0129】
<実験例6>
ヒト胎児腎臓細胞株(HEK293T)ゲノムのLMNB1遺伝子座に、GFP遺伝子をノックインすべく、両端101bpの相同アームを含むドナープラスミドを作製した。
【0130】
5’側の101bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-CGCCGGTTTGTGCCTTCGGTCCCCGCTTCGCCCCCTGCCGTCCCCTCCTTATCACGGTCCCGCTCGCGGCCTCGCCGCCCCGCTGTCTCCGCCGCCCGCCA-3’(配列番号28)
【0131】
3’側の101bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’-acCCCCGTGCCGCCGCGGATGGGCAGCCGCGCTGGCGGCCCCACCACGCCGCTGAGCCCCACGCGCCTGTCGCGGCTCCAGGAGAAGGAGGAGCTGCGCGA-3’(配列番号29)
【0132】
GFP遺伝子を含む外来DNAの塩基配列を以下に示す。
5’-gatcTGACAATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTCACCGGGGTGGTGCCCATCCTGGTCGAGCTGGACGGCGACGTAAACGGCCACAAGTTCAGCGTGTCCGGCGAGGGCGAGGGCGATGCCACCTACGGCAAGCTGACCCTGAAGTTCATCTGCACCACCGGCAAGCTGCCCGTGCCCTGGCCCACCCTCGTGACCACCCTGACCTACGGCGTGCAGTGCTTCAGCCGCTACCCCGACCACATGAAGCAGCACGACTTCTTCAAGTCCGCCATGCCCGAAGGCTACGTCCAGGAGCGCACCATCTTCTTCAAGGACGACGGCAACTACAAGACCCGCGCCGAGGTGAAGTTCGAGGGCGACACCCTGGTGAACCGCATCGAGCTGAAGGGCATCGACTTCAAGGAGGACGGCAACATCCTGGGGCACAAGCTGGAGTACAACTtCAACAGCCACAACGTCTATATCATGGCCGACAAGCAGAAGAACGGCATCAAGGcGAACTTCAAGATCCGCCACAACATCGAGGACGGCAGCGTGCAGCTCGCCGACCACTACCAGCAGAACACCCCCATCGGCGACGGCCCCGTGCTGCTGCCCGACAACCACTACCTGAcCACCCAGTCCGCCCTGAGCAAAGACCCCAACGAGAAGCGCGATCACATGGTCCTGgTGGAGTTCGTGACCGCCGCCGGGATCACTCTCGGCATGGACGAGCTGTACAAGGCCGGCTCCGgtac-3’(配列番号30)
【0133】
相同アームの両端に付加するHITI塩基配列を以下に示す。
5’-GGGGTCGCAGTCGCCATGGCGGG-3’(配列番号31)
【0134】
相同アームの両端に付加するrcHITI塩基配列(HITIのreverse complement、つまりPAM配列を含むガイドRNA認識配列が外来DNA両端にゲノムと同方向となっている)を以下に示す。
5’-CCCGCCATGGCGACTGCGACCCC-3’(配列番号32)
【0135】
Cas9タンパク質と配列番号33(5’-GGGGUCGCAGUCGCCAUGGC-3’)に示される認識配列を持つsgRNAを共発現するプラスミド(px330-LMNB1)、及び上記ドナープラスミドをリポフェクションにより導入した。
図9Aに示されるように、HITIまたはrcHITIのどちらのガイドRNA認識配列を備える場合においても、相同組換えに相当するバンドのみが認められた。
図9Bに示されるように、リポフェクション4日後にGFP陽性細胞をFACSによりGFP陽性細胞を純化し、更に1週間培養した後、蛍光顕微鏡で観察すると核膜が緑色を呈していることからGFPが核膜に局在していることが確認された。上記ドナープラスミドは、両端相同組換えが起きるとLMNB1遺伝子とGFP遺伝子が融合し、その産物は核膜に局在するように設計されているため、5’末端及び3’末端で相同組換えが起きていることが蛍光画像からも確認された。
また、
図9Cに示されるように、リポフェクション後1週間でフローサイトメトリーを用いてGFP発現細胞を定量したところ、HITIまたはrcHITIの塩基配列を付加したドナープラスミドを用いた場合、8.9~9.2%で相同組換えが起きていることが確認された。
【0136】
<実験例7>
ヒト由来骨髄間質細胞のHPRT遺伝子座に、GFP遺伝子をノックインすべく、両端10bpの相同アームを含むドナープラスミド、両端約60bpの相同アームを含むドナープラスミド、両端約240bpの相同アームを含むドナープラスミドを作製した。
【0137】
5’側の10bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’- TGAGGATTTG-3’(配列番号34)
【0138】
3’側の10bpの相同アームの塩基配列を以下に示す。
5’- GAAAGGGTGT-3’(配列番号35)
【0139】
両端約60bp~約240bpの相同アームの塩基配列、HITIの塩基配列、及び外来DNAの塩基配列は、実験例6と同様である。
Cas9タンパク質と配列番号27に示される認識配列を持つsgRNAを共発現するプラスミド(px330-HPRT)、及び上記ドナープラスミドを、リポフェクションによりヒト由来骨髄間質細胞に導入した。
リポフェクション3日後に細胞からゲノムDNAを精製し、PCRによるDNA挿入の確認を行った。
図10に示されるように、5’末端及び3’末端で、相同組換えに相当するサイズのバンドが認められた。すなわち、ヒト由来骨髄間質細胞におけるノックインは両側相同組換えであった。
【0140】
<実験例8>
ヒトiPS細胞のHPRT遺伝子座に、GFP遺伝子をノックインすべく、両端10bpの相同アームを含むドナープラスミド、両端約60bpの相同アームを含むドナープラスミド、両端約240bpの相同アームを含むドナープラスミドを作製した。
【0141】
両端10bp~約240bpの相同アームの塩基配列、HITIの塩基配列、及び外来DNAの塩基配列は、実験例7と同様である。
実験例1同様、Cas9タンパク質、配列番号36 (5’- UUAUGCUGAGGAUUUGGAAAGUUUUAGAGCUAUGCU -3’)に示されるcrRNA、tracrRNA、及び上記ドナープラスミドをエレクトロポレーションによりヒトiPS細胞に導入した。
エレクトロポレーション4日後に細胞からゲノムDNAを精製し、PCRによるDNA挿入の確認を行った。
図11に示されるように、5’末端及び3’末端で、相同組換えに相当するサイズのバンドが認められた。また、シーケンスにより相同組換えであることを確認した。すなわち、ヒトiPS細胞におけるノックインは両側相同組換えであった。
【0142】
<実験例9>
<実験例3>における実験を、ZFNやTALENを用いて行った。両端100bpの相同アームを含むドナープラスミドを用いた。結果を
図12に示す。ZFNやTALENを用いた場合にも同様に、5’末端及び3’末端で、相同組換えに相当するサイズ
のバンドが認められた。本発明において、標的ゲノムDNA切断酵素としては、CRISPR/Cas9に限らず、ZFNまたはTALENのいずれを使用してもかまわないことが明らかとなった。
【0143】
上記実験例において、<実験例1>と同様に、シーケンスにより組み換え方法を確認した結果を表1に示す。カッコ内は相同組換えの効率を示す。
表1に示すように、動物種や標的遺伝子座によらず、相同組換えによるノックインが行われることが確認された。
【0144】
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明によれば、細胞が本来有する非相同末端結合の能力を損なわず、標的ゲノムにおいて、非相同組換えに比して高い相同組換え頻度を実現できる。
【配列表】