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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】抗微生物特性を有する化合物
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20240410BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240410BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240410BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240410BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240410BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240410BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240410BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240410BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240410BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20240410BHJP
   C12P 1/04 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
C07K7/06
A61P31/04 ZNA
A61K38/08
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P17/00
A61P1/04
A61P1/00
A61P29/00
A61P37/06
C12N15/31
C12P21/02 A
C12P1/04 A
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021502945
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 US2019032806
(87)【国際公開番号】W WO2020018173
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】62/700,746
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/789,313
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592233750
【氏名又は名称】ノースイースタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,キム
(72)【発明者】
【氏名】今井 優
(72)【発明者】
【氏名】ファーブル-ゴーダル,クェンティン
(72)【発明者】
【氏名】飯西 輝
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,キルステン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500283(JP,A)
【文献】YE, Y. et al.,Unveiling the Biosynthetic Pathway of the Ribosomally Synthesized and Post-translationally Modified Peptide Ustiloxin B in Filamentous Fungi,Angewandte Chemie International Edition,2016年,Vol. 55, Iss. 28,P. 8072-8075,https://doi.org/10.1002/anie.201602611
【文献】HUDSON, G. A. et al.,RiPP antibiotics: biosynthesis and engineering potential,Current Opinion in Microbiology,2018年,Vol. 45,P. 61-69,https://doi.org/10.1016/j.mib.2018.02.010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
【化1】


の化合物および/またはその薬剤的に許容可能な塩。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物またはその薬剤的に許容可能な塩の治療有効量を含む、医薬組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの薬剤的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
局所投与、全身投与、非経口投与、皮下投与、経皮投与、直腸内投与、経口投与、腟内投与、鼻腔内投与、気管支内投与、眼内投与、耳内投与、静脈内投与、筋肉内投与、または腹腔内投与の形態である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの追加の治療薬をさらに含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか一項に記載の医薬組成物の製造方法であって、
前記式(II)の化合物またはその薬剤的に許容可能な塩は、培養液中で前記化合物を産生する能力を有する微生物を培養することによって得られる、
製造方法。
【請求項7】
前記微生物は、フォトラブダス・カニ(Photorhabdus khanii)DSM3369である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
グラム陰性菌を原因とする動物における感染症を治療するための、請求項2~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
対象における細菌感染症または疾病の治療、寛解または予防のための医薬品の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬剤的に許容可能な塩の使用。
【請求項10】
前記細菌感染症の原因となる細菌は、グラム陰性菌を含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記グラム陰性菌は、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、カンジダタス・リベリバクター(Candidatus liberibacter)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、ブランハメラ・カタラーリス(Branhamella catarrhalis)、シトロバクター・ジベルサス(Citrobacter diversus)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)、シゲラ・ボイディ(Shigella boydii)、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteriditis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ベイロネラ・パルブラ(Veillonella parvula)、アクチノバチルス・アクチノミセタムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、エルシニア・ペスチス(Yersinia pestis)、ビブリオ・コレラエ(Vibrio cholera)、モルガネラ・モルガニー(Morganella morganii)、エドワージエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)、またはエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記細菌感染症の原因となる細菌は、多剤耐性細菌を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記細菌感染症の原因となる細菌は、ポリミキシン耐性変異体細菌を含む、請求項9~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記細菌感染症の原因となる細菌は、カルバペネム耐性細菌、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、バンコマイシン耐性エンテロコッカス(Enterococci)または多剤耐性ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)を含む、請求項9~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記細菌感染症は、呼吸器感染症、皮膚もしくは皮膚組織感染症、尿路感染症、腹腔内感染症、血感染症、または胃腸感染症である、請求項9~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記疾病は、皮膚炎症性疾患、炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎、クローン病、およびセリアック病から成る群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項17】
前記対象は、哺乳類である、請求項9~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記対象は、ヒトである、請求項16に記載の使用。
【請求項19】
前記対象は、非ヒトである、請求項16に記載の使用。
【請求項20】
前記細菌感染症の原因となる細菌は、抗菌薬に対する感受性がある細菌または多剤耐性細菌を含む、請求項9~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記医薬品は、局所投与、全身投与、非経口投与、皮下投与、経皮投与、直腸内投与、経口投与、腟内投与、鼻腔内投与、気管支内投与、眼内投与、耳内投与、静脈内投与、筋肉内投与、または腹腔内投与を含むステップによって投与される、請求項9~19のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年7月19日に出願された米国特許仮出願第62/700,746号および2019年1月7日に出願された米国特許仮出願第62/789,313号の優先権を主張し、これらは参照することにより本明細書に組み入れられるものとする。
【0002】
本開示は、新規抗微生物化合物およびその類似体、前記化合物を含む医薬組成物ならびに前記化合物および医薬組成物の治療のための使用に関する。本発明は、米国国立衛生研究所により認められた助成金番号P01-AI118687の下で政府支援を受けて成された。政府は本発明における特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
特定のグラム陰性菌は、感受性の高い個体における、肺炎、尿路感染症、創傷感染症、耳感染症、眼感染症、腹腔内感染症、口腔細菌異常増殖および敗血症などの重篤な合併症および感染症の原因となり得る。診療における重篤な細菌感染症の治療は、抗生物質耐性によって複雑となり得る。近年、アミノグリコシド、セファロスポリンおよび更にカルバペネムなどの広域スペクトル抗菌薬を含む多種類の抗菌薬に対する耐性があるグラム陰性菌による感染症が増えてきた。この警戒すべき傾向は、グラム陰性菌、特に、多剤耐性グラム陰性菌に対して効果的な新規抗菌薬を特定する必要性を強調する。
【0004】
ポリミキシンは、グラム陽性菌バシラス・ポリミキサ(Bacillus polymyxa)によって産生される抗菌薬の分類である。1940年代後期に最初に同定されたポリミキシン、特に、ポリミキシンBおよびポリミキシンE(コリスチン)は、グラム陰性感染症の治療において、かつて使用された。しかしながら、これらの抗菌薬は、腎毒性などの副作用を示した。結果として、治療におけるこれらの使用は、最後の手段の治療に限定された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特にグラム陰性病原体に対する優れた抗菌活性を示す、新規化合物およびその類似体に関する。新規化合物およびその類似体を含む医薬組成物は、皮膚および皮膚組織感染症、呼吸器感染症、敗血症、菌血症、および炎症性腸疾患(IBD)を含む様々な感染性疾患の治療または予防に有用である。本発明の実施形態は、細菌感染症の治療または予防にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、本発明は、次式(II):
【0007】
【化1】

【0008】
および/またはその薬剤的に許容可能な塩、立体異性体(鏡像異性体を含む)、互変異性体、もしくは水和物、ならびに式(II)のアナログ(以後、まとめて「式(II)化合物」と呼ぶ)により表される新規化合物を含む、該化合物から本質的に成るまたは該化合物から成る。本発明はまた、式(II)化合物、式(II)化合物の使用、および1つ以上の式(II)化合物を用いた細菌感染症の治療方法または予防方法を含む、またはこれらから本質的に成る医薬組成物を含む。
【0009】
別の態様では、本発明は、次式(I):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中:
、R、R、R、R、およびRは、各々独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、ハロゲン、-CN、-O-アルキル、-C(O)-アルキル、-C(O)O-アルキル、-C(O)OH、-C(O)NH、-C(O)NH-アルキル、-NH、-NO、-CF、-NH-アルキル、-N-(アルキル)、-NHC(O)-アルキルおよびアリールから成る群から選択され、前記アルキル、アルケニル、アルキニルおよびアリールは各々置換されていてもよく;
およびRは、各々独立して、水素、直鎖または分岐鎖C1~C5アルキル、直鎖または分岐鎖C2~C6アルケニル、直鎖または分岐鎖C2~C6アルキニルから成る
群から選択され;前記アルキル、アルケニルおよびアルキニルは各々置換されていてもよく;
、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19およびR20は、各々独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、ハロアルキル、ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、ハロゲン、-CN、-O-アルキル、-C(O)-アルキル、-C(O)O-アルキル、-C(O)OH、-C(O)NH、-C(O)NH-アルキル、-NH、-NO、-CF、-NH-アルキル、-NHC(O)-アルキルから成る群から選択され;前記アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、ハロアルキルは各々置換されていてもよく;
Aは、結合または-(CH-であり、nは、0~10の整数であり;
Xは、-C(O)-、-CH-、-C(OH)-、-C(O)O-アルキル、-C((O)アルキル)-である)
および/またはその薬剤的に許容可能な塩、立体異性体(鏡像異性体を含む)、互変異性体、もしくは水和物、ならびに類似体式(I)(以後、まとめて「式(I)化合物」と呼ぶ)、により表される新規化合物を含む、該化合物から本質的に成るまたは該化合物から成る。本発明はまた、式(I)化合物、式(I)化合物の使用、および1つ以上の式(I)化合物を用いた細菌感染症の治療方法または予防方法を含む、またはこれらから本質的に成る医薬組成物を含む。
【0012】
式(I)化合物、そのプロドラッグ、薬剤的に許容可能な塩、鏡像異性体、立体異性体、回転異性体、互変異性体、ジアステレオマー、およびラセミ体は、様々なグラム陰性菌に対する有利な抗菌活性を示し、ヒトおよび他の動物における様々な細菌により誘発された様々な感染性疾患の治療または予防に有用である。
【0013】
式(I)の化合物は、次式(Ia):
【0014】
【化3】

【0015】
(式中:
、R、R、R、RおよびRは、上記に定義されている通りである)
および/またはその薬剤的に許容可能な塩、立体異性体(鏡像異性体を含む)、互変異性体、もしくは水和物、ならびに類似体式(Ia)(以後、まとめて「式(Ia)化合物」と呼ぶ)を含む。本発明はまた、式(Ia)化合物、式(Ia)化合物の使用、および1つ以上の式(Ia)化合物を用いた細菌感染症の治療方法または予防方法を含む、ま
たはこれらから本質的に成る医薬組成物を含む。
【0016】
本発明の別の態様は、グラム陰性菌を原因とする動物における感染症の治療のための医薬組成物に関する。様々な実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の式(I)、(Ia)もしくは(II)化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩の治療有効量、ならびに薬剤的に許容可能な担体、界面活性剤、固体希釈剤、および液体希釈剤から成る群から選択される1つ以上の追加の化合物を含む。式(I)、(Ia)または(II)化合物は、必要に応じて、水和物などの薬剤的に許容可能な溶媒和物の形態で存在してよい。
【0017】
概して、本明細書で使用されるとき、用語「実質的に」は、±10%、場合によっては、±5%を意味する。加えて、本明細書全体を通して、「一例(one example)」、「例(an example)」、「1つの実施形態(one embodiment)」、または「実施形態(an embodiment)」への言及は、実施例との関連で記載された特定の特徴、構造、または特性が、本技術の少なくとも1つの実施例に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な場所に記載された言い回し「一例では(in one example)」、「例では(in an example)」、「1つの実施形態(one embodiment)」、または「実施形態(an embodiment)」は、必ずしも全てが同じ実施例を参照しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、ルーチン、ステップまたは特性を、本技術の1つ以上の実施例においていずれかの適切な方法で組み合わせてもよい。本明細書で提供される見出しは便宜のみを目的とし、クレームされた技術の範囲または意味を限定も解釈もする意図はない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】式(II)の化合物を254nm、保持時間12.25分においてモニターした、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)のクロマトグラムを図示する。
図2】式(II)に記載の化合物の化学構造を図示する。
図3】大腸菌(E.Coli)に対する式(II)の化合物のインビトロ活性の結果を示すグラフである。式(II)の化合物は、殺菌作用を示した。大腸菌(E.Coli)を、指数増殖期初期まで生育し、式(II)の化合物の2×MICで処置した。20時間のインキュベーション後、生細胞を計数するために大腸菌(E.Coli)培養液を蒔いた。
図4】ダロバクチンA生合成遺伝子クラスターおよび配列比較を図表で示す。
図5A図5Aは、大腸菌(E.Coli)敗血症モデルにおけるダロバクチンAのインビボ有効性の結果を示すグラフである。グラフは、大腸菌(E.Coli)敗血症を有するマウスの生存率を示す。ダロバクチンAは、2.5mg/kg(腹腔内)において、ATCC25922またはポリミキシン耐性臨床分離菌AR350大腸菌(E.Coli)敗血症のマウスの両方を治癒することができた(治療群あたりn=3)。治療は、感染の1時間後であった。1mg/kg(腹腔内)においてダロバクチンAは、生存時間を延長し、5時間において血液中のCFU負荷量を著しく低減した。ゲンタマイシンを、ポジティブコントロールとして使用し、20mg/kgで与えた。
図5B図5Bは、大腸菌(E.Coli)敗血症を有するマウスの血液中のコロニー形成単位/ミリリットル(CFU/mL)の結果を示すグラフである。ダロバクチンAは、2.5mg/kg(腹腔内)において、ATCC25922またはポリミキシン耐性臨床分離菌AR350大腸菌(E.Coli)敗血症のマウスの両方を治癒することができた(治療群あたりn=3)。治療は、感染の1時間後であった。1mg/kg(腹腔内)においてダロバクチンAは、生存時間を延長し、5時間において血液中のCFU負荷量を著しく低減した。ゲンタマイシンを、ポジティブコントロールとして使用し、20mg/kgで与えた。
図5C図5Cは、緑膿菌(P.aeruginosa)敗血症モデルにおけるダロバクチンAのインビボ有効性の結果を示すグラフである。緑膿菌(P.aeruginosa)P7-PA01(ポリミキシン耐性の研究室単離菌)敗血症に対して50mg/kgにおいてダロバクチンAを試験し、マウスを完全治癒(群あたりn=3)することができた。ゲンタマイシンを、ポジティブコントロールとして使用し、20mg/kgで与えた。
図5D図5Dは、大腸菌(E.Coli)好中球減少大腿感染症モデルにおけるダロバクチンAのインビボ有効性の結果を示すグラフである。大腿モデルでは、感染の2時間後における50mg/kg(腹腔内)ダロバクチンAは、24時間後に未治療コントロールと比較して大腿におけるCFU負荷量を10分の1に低減し、2時間後、8時間後、および14時間後に3回与えられた25mg/kg(腹腔内)は、2マウスにおける検出限界未満を含み、CFU負荷量を100分の1に低減した。ゲンタマイシンを、ポジティブコントロールとして使用し、20mg/kgで与えた。
図6】サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella Typhimurium)のマウス胃腸感染症における式(II)の化合物のインビボ有効性の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「本発明の化合物」は、まとめて、式(I)、(Ia)および(II)ならびにその薬剤的に許容可能な塩ならびに本明細書に示されている特定の化合物を意味する。本明細書において、本発明の化合物を、化学構造および/または化学名により同定する。化合物を化学構造および化学名により表し、化学構造および化学名が矛盾する場合、化学構造が化合物の同定を決定する。本発明の化合物は、1つ以上のキラル中心および/または二重結合を含んでよく、したがって、二重結合異性体(すなわち、幾何異性体)、鏡像異性体、またはジアステレオマーなどの立体異性体として存在しうる。本発明によれば、本明細書に示されている化学構造、したがって、本発明の化合物は、対応する化合物の鏡像異性体および立体異性体の全て、すなわち、立体異性的に純粋な形態(例えば、幾何的に純粋、鏡像異性的に純粋、またはジアステレオマーとして純粋)ならびに鏡像異性体および立体異性体混合物の両方を包含する。キラル相ガスクロマトグラフィー、キラル相高速液体クロマトグラフィー、キラル塩錯体として化合物を結晶化、またはキラル溶媒中で化合物を結晶化などの周知の方法によって、鏡像異性体および立体異性体混合物を、これらの成分の鏡像異性体または立体異性体に分離することができる。鏡像異性体および立体異性体を、周知の不斉合成法によって、立体異性的または鏡像異性的に純粋な中間体、試薬、および触媒から得ることもできる。本発明の化合物は、重要なグラム陰性病原体に対して有効である。これらの化合物は、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella Typhimurium)およびシゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)に対して優れた活性を有する。さらに、本発明の化合物は、グラム陽性病原体に対する活性を有さず、グラム陰性腸内常在菌、バクテロイデス(Bacteroides)に対して不活性である。後述するように、この選択性は、薬理学的に有益である。トリプトファンおよびリジン間のC-C結合を含むその通常と異なる構造に基づいて、本発明の化合物は、抗菌薬の新規分類に属する。事実、グラム陰性菌に対して作用する化合物の最後の新規分類は、50年前に発見された。
【0020】
グラム陰性病原体に対する選択的活性は極めてまれであり、事実、かかる特性を有する公知化合物はたった1つ-細菌性リポ多糖(LPS)と結合することにより作用するポリミキシンしかない。本明細書による化合物はLPSと結合せず、重要なことに、ポリミキシン耐性変異体に対して活性である。ポリミキシンは、多剤耐性(MDR)グラム陰性菌
に対する最後の手段の抗菌薬である。
【0021】
本発明の化合物は、非常に低い耐性を有し、検出可能な細胞毒性を有しない。これらを使用して、皮膚および皮膚組織感染症、呼吸器感染症、敗血症および菌血症などのグラム陰性病原体の局所および全身感染症を治療してよい。
【0022】
本発明の化合物の別の重要な応用は、大腸の腸内細菌の病原性共生生物に対するこれらの選択的活性から得られる。炎症性腸疾患(IBD)患者において、腸内細菌科の叢、詳細には、大腸菌(E.Coli)叢は、炎症サイクルを煽る。広域スペクトル抗菌薬は、共生細菌叢を害するので、効き目が限られる。本発明の化合物は、グラム陽性菌に対して不活性であり、胃腸管の主要なグラム陰性共生成物であるバクテロイデス(Bacteroides)に対して不活性である。本発明の化合物を使用して、IBD患者の腸内細菌叢を排除し得る。腸内細菌の有病率は、腸内菌共生バランス失調した腸の一般的特徴でもあり、本発明の化合物の1つ以上で治療する。
【0023】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「アルキル」は、置換または非置換、飽和、直鎖または分岐鎖炭化水素鎖ラジカルを意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、2-メチル-1-プロピル、2-メチル-2-プロピル、2-メチル-1-ブチル、3-メチル-1-ブチル、2-メチル-1-ブチル、2,2-ジメチル-1-プロピル、2-メチル-1-ペンチル、3-メチル-1-ペンチル、4-メチル-1-ペンチル、2-メチル-2-ペンチル、3-メチル-2-ペンチル、4-メチル-2-ペンチル、2,2-ジメチル-1-ブチル、3,3-ジメチル-1-ブチル、2-エチル-1-ブチル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、シクロブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、およびシクロヘキシルなどのC1~15直鎖、分岐鎖または環式アルキルならびにヘプチル、オクチル、ノニルおよびデシルなどの長鎖アルキル基が挙げられるが、これらに限定されない。アルキルは、非置換であってもよく、1つまたは2つの適切な置換基で置換されていてもよい。
【0024】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「アルコキシ」または「アルキルオキシ」は、-O-アルキルを意味し、アルキルは本明細書で定義されている通りである。アルコキシは、非置換であってもよく、1つまたは2つの適切な置換基で置換されていてもよい。好ましくは、アルキルオキシのアルキル鎖は、1~5炭素原子長であり、本明細書では、例えば、「C1~5アルコキシ」と呼ぶ。1つの実施形態では、アルキルオキシのアルキル鎖は、1~10炭素原子長であり、本明細書では、例えば、「C1~10アルコキシ」と呼ぶ。
【0025】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「アルケン」または「アルケニル基」は、その中に1つ以上の二重結合を有する一価直鎖、分岐鎖または環式炭化水素鎖を意味する。アルケンの二重結合は、別の不飽和基と非共役であっても共役していてもよい。アルケンは、非置換であってもよく、1つまたは2つの適切な置換基で置換されていてもよい。適切なアルケンとしては、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ブタンジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、2-エチルヘキセニル、2-プロピル-2-ブテニル、4-(2-メチル-3-ブテン)ペンテニルなどのC2~8アルケニル基が挙げられるが、これらに限定されない。アルケンは、非置換であってもよく、1つまたは2つの適切な置換基で置換されていてもよい。
【0026】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する不飽和直鎖または分岐鎖炭化水素を意味する。アルキニル基の例としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル
、メチルプロピニル、4-メチル-1-ブチニル、4-プロピル-2-ペンチニル、および4-ブチル-2-ヘキシニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「アリール」または「芳香環」は、当技術分野において周知である単環式または多環式共役環構造を意味する。適切なアリール基または芳香環の例としては、フェニル、トリル、アントラセニル、フルオレニル、インデニル、アズレニル、およびナフチルが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基は、非置換であってもよく、1つまたは2つの適切な置換基で置換されていてもよい。1つの実施形態では、アリール基は単環式環であり、環は6炭素原子を含み、本明細書では「Cアリール」と呼ぶ。
【0028】
「置換アリール」としては、ハロ、アルキル、ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、アルコキシ、ハロアルコキシ(例えば、ジフルオロメトキシ)、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、アリールアルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アリールアルケニル、アミノカルボニルアリール、アリールチオ、アリールスルフィニル、アリールアゾ、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールオキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、アミノ、アミノは1もしくは2置換基(置換してもよいアルキル、アリールまたは本明細書に記載されている他の置換基のいずれかである)を含む置換アミノ、チオール、アルキルチオ、アリールチオ、ヘテロアリールチオ、アリールチオアルキル、アルコキシアリールチオ、アルキルアミノカルボニル、アリールアミノカルボニル、アミノカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、アリールスルフィニル、アリールスルフィニルアルキル、アリールスルホニルアミノ、もしくはアリールスルホンアミノカルボニルなどの1つ以上の官能基、および/または本明細書に記載されているアルキル置換基のいずれかによって置換されていてもよいアリール基が挙げられる。
【0029】
本明細書で使用されるとき、単独または別の基の一部として、用語「ヘテロアリール」は、窒素、酸素または硫黄などの1、2、3または4個のヘテロ原子を含む5~7員芳香環ならびにアリール、シクロアルキル、ヘテロアリールまたはヘテロシクロアルキル環(例えば、ベンゾチオフェニル、インドリル)と縮合されたかかる環を表し、可能なNオキシドを含む。「置換ヘテロアリール」としては、「置換アルキル」および「置換シクロアルキル」の定義で上記に含まれる置換基など、1~4つの置換基で置換されていてもよいヘテロアリール基が挙げられる。置換ヘテロアリールとしては、例えば、キノリン、イソキノリン、インドール、イソインドール、カルバゾール、アクリジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ベンゾチオフェン、フェナントロリン、プリンなどを含む縮合ヘテロアリール基も挙げられる。
【0030】
さらに、本明細書で使用されるとき、用語「ヘテロシクロ」、「複素環」、または「複素環式環」は、飽和であってもよく不飽和であってもよく、炭素原子およびN、OまたはSから選択される1~4ヘテロ原子から成り、窒素および硫黄ヘテロ原子が酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は四級化されていてもよい、非置換または置換安定5~7員単環式環構造を表す。複素環式環は、安定構造生成をもたらすいずれかのヘテロ原子または炭素原子において結合されていてもよい。かかる複素環式基の例としては、ピペリジニル、ピペラジニル、オキソピペラジニル、オキソピペリジニル、オキソピロリジニル、オキソアゼピニル、アゼピニル、ピロリル、ピロリジニル、フラニル、チエニル、ピラゾリル、ピラゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニル、イソオキサゾリル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリル、チアゾリジニル、イソチアゾ
リル、チアジアゾリル、テトラヒドロピラニル、チアモルホリニル、チアモルホリニルスルホキシド、チアモルホリニルスルホン、およびオキサジアゾリルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で使用されるとき、用語「置換されていてもよい」は、例えば、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す化学部分は、非置換であってもよく、これらに限定されないが、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリールアルキル、アリール、複素環、ヘテロアリール、ヒドロキシル、アミノ、アルコキシ、ハロゲン、カルボキシ、カルバルコキシ、カルボキサミド、モノアルキルアミノスルフィニル、ジアルキルアミノスルフィニル、モノアルキルアミノスルホニル、ジアルキルアミノスルホニル、アルキルスルホニルアミノ、ヒドロキシスルホニルオキシ、アルコキシスルホニルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、ヒドロキシスルホニル、アルコキシスルホニル、アルキルスルホニルアルキル、モノアルキルアミノスルホニルアルキル、ジアルキルアミノスルホニルアルキル、モノアルキルアミノスルフィニルアルキル、ジアルキルアミノスルフィニルアルキルなどを含む1つ以上の基によって置換されていてもよい。式Iの化学部分は、置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリールアルキル、アリール、複素環またはヘテロアリールであってよい。例えば、置換されていてもよいアルキルは、プロピルおよび2-クロロプロピルの両方を含んでよい。加えて、「置換されていてもよい」は、命名された置換基または置換基が単純に単一の置換基よりむしろ複数の置換基を有する場合の実施形態も含む。例えば、置換されていてもよいアリールは、フェニルおよび3-メチル-5-エチル-6-クロロフェニルの両方を含んでよい。
【0032】
用語「シクロアルキル」としては、単環式アルキル、二環式アルキルおよび三環式アルキルを含む1~3環を含み、環を形成する合計3~20個の炭素、または環を形成し、かつ、アリールに関して記載されているように1もしくは2個の芳香族環と縮合していてもよい約3~10個の炭素を含む飽和または部分的に不飽和(1つ以上の二重結合を含む)環式炭化水素基が挙げられる。
【0033】
「置換シクロアルキル」としては、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、アリール、置換アリール、アリールオキシ、シクロアルキル、アルキルアミド、アルカノイルアミノ、オキソ、アシル、アリールカルボニルアミノ、アミノ、ニトロ、シアノ、チオールおよび/もしくはアルキルチオなどの1つ以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、ならびに/または「置換アルキル」の定義に含まれる置換基のいずれかが挙げられる。
【0034】
用語「シクロアルケニル」は、少なくとも1つの二重結合を含む非芳香族単環式または二環式炭素環式環を含む。シクロアルケニル基の例としては、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「アリールオキシ」は、アリールが本明細書で定義されている通りである-O-アリール基を意味する。アリールオキシ基は、非置換であってもよく、1つまたは2つの適切な置換基で置換されていてもよい。好ましくは、アリールオキシ基は単環式環であり、環は6炭素原子を含み、本明細書では「Cアリールオキシ」と呼ぶ。
【0036】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「エーテル」は、式アルキル-O-アルキル、アルキル-O-アルキニル、アルキル-O-アリール、アルケニル-O-アルケニル、アルケニル-O-アルキニル、アルケニル-O-アリール、アルキニル-O-アルキニル、アルキニル-O-アリール、アリール-O-アリールの基を意味し
、「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」および「アリール」は本明細書で定義されている。
【0037】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「カルボキシ」は、式:-COOHのラジカルを意味する。
【0038】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を意味する。同様に、用語「ハロ」および「Hal」の意味は、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを包含する。
【0039】
本明細書で使用されるとき、特に別段の指定がない限り、用語「置換」および「適切な置換基」は、本発明の化合物またはこれらの製造に有用な中間体の合成または医薬有用性を無効にしない基を意味する。置換基または適切な置換基の例としては、C1~10アルキル;C1~10アルケニル;C1~10アルキニル;Cアリール;C3-5ヘテロアリール;C3-7シクロアルキル;C1~10アルコキシ;Cアリールオキシ;-CN;-OH;SH;オキソ;ハロ;-NO;-COH;-NH;-NHOH;-NH(C1~10アルキル);-N(C1~10アルキル);-NH(Cアリール);-NHO(C1~10アルキル);-N(OC1~10アルキル);-NH(OCアリール);-S(C1~10アルキル);-S(Cアリール);(=O);-N(Cアリール);-CHO;-C(O)(C1~10アルキル);-C(O)(Cアリール);-C(O)O(C1~10アルキル);および-C(O)O(Cアリール)、-C(S)(C1~10アルキル);-C(S)(Cアリール);-SO(C1~10アルキル);-SO(Cアリール)、-SO(C1~10アルキル);-SO(Cアリール)、および-SOH、-C(S)O(C1~10アルキル);-C(S)OCアリールが挙げられるが、これらに限定されない。特定の例証となる実施形態では、置換基は、これらに限定されないが、-F、-Cl、-Br、-I、-OH、アジド、-SH、アルキル、アリール、ヘテロアルキル、アルキルオキシ、アルキルチオール、アミノ、ヒドロキシルアミノ、N-アルキルアミノ、-N,N-ジアルキルアミノ、-N,N-ジメチルアミノ、アシル、アルキルオキシカルボニル、スルホニル、ウレア、-NO、およびトリアゾリルなどの1つまたは1つより多い適切な基であり得る。当業者は、本発明の化合物の安定性ならびに薬剤的活性および合成活性に基づいて適切な置換基を容易に選択することができる。
【0040】
本明細書で使用されるとき、言い回し「薬剤的に許容可能な塩」としては、本組成物中に使用される化合物(本発明の化合物を含む)において存在してよい酸性または塩基性基の塩が挙げられるが、これらに限定されない。本来塩基性である本組成物に含まれる化合物は、様々な無機酸および有機酸と広範囲の塩を生成することができる。かかる塩基性化合物の薬剤的に許容可能な酸付加塩を製造するために使用してよい酸は、無毒性酸付加塩を生成するもの、すなわち、これらに限定されないが、硫酸、クエン酸、マレイン酸、酢酸、シュウ酸、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩(gentisinate)、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩(glucaronate)、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩(すなわち、1,1’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸)塩)を含む薬剤的に許容可能なアニオンを含む塩である。アミノ部分を含む本組成物中に含まれる化合物は、上記酸に加えて、様々なアミノ酸と薬剤的に許容可能な塩を生成し得る。本来酸性である本組成物に含まれる化合物は、様々な薬剤的に許容可能なカチオンと塩基性塩を生成す
ることができる。かかる塩の例としては、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、特に、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、亜鉛、カリウムおよび鉄塩が挙げられる。
【0041】
本明細書で使用されるとき、用語「薬剤的に許容可能なプロドラッグ」は、インビトロまたはインビボの生物学的条件下、加水分解、酸化、あるいは他の反応をして、化合物を得ることができる化合物の誘導体を意味する。プロドラッグの例としては、生加水分解性アミド、生加水分解性エステル、生加水分解性カルバメート、生加水分解性カルボネート、生加水分解性ウレイドおよび生加水分解性ホスフェート類似体などの生加水分解性部分を含む化合物が挙げられるが、これらに限定されない。プロドラッグの他の例としては、オリゴヌクレオチド、ペプチド、脂質、脂肪族および芳香族基、またはNO、NO、ONO、およびONO部分を含む化合物が挙げられるがこれらに限定されない。プロドラッグは、通常、周知の方法を使用して製造することができる。
【0042】
1つの態様では、本明細書において、式(I)、式(Ia)もしくは式(II)の化合物の少なくとも1つ、または本明細書に記載されている特定の化合物の少なくとも1つの治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、該対象の細菌感染症の治療方法、寛解方法、または予防方法を提供する。化合物の投与は、皮下、経皮、直腸、腟内、鼻腔内、気管支内、眼内、または耳内など局所的であってよい。あるいは、投与は、経口投与など全身的であってよい。さらに他の代替では、投与は、非経口、静脈内、筋肉内、または腹腔内であってよい。
【0043】
本明細書で使用されるとき、用語「投与」は、化合物の組合せを投与することも含むことができる。したがって、投与は、化合物または化合物の組合せを生物に投与する形態であってよく、その結果、生物の循環系は、化合物または化合物の組合せを、これらに限定されないが、細胞もしくは複数の細胞、シナプス接合部および循環を含む標的領域へ送達する。投与は、これに限定されないが、化合物の組合せを直接注射するなど、化合物または化合物の組合せを、臓器、組織、領域、範囲、細胞もしくは細胞群と直接的に接触させることも意味し得る。
【0044】
選択された実施形態では、化合物の組合せを投与することができ、したがって、個々の化合物は互いと共に同時投与されると言うことができる。本明細書で使用されるとき、「同時投与する」は、少なくとも2つの化合物の各々を、生物活性または効果のそれぞれの期間が重複する時間枠の間に投与することを意味する。したがって、用語同時投与するは、個々の化合物の逐次ならびに同時(coextensive)投与を含み、化合物の少なくとも1つは本発明の化合物である。したがって、本発明の方法のいくつかにより化合物の組合せを「投与すること」は、本発明の個々の化合物の逐次ならびに同時(coextensive)投与を含む。同様に、言い回し「化合物の組合せ」は、個々の化合物を同時投与することを意味し、言い回し「化合物の組合せ」は、化合物を必ず同時に(contemporaneously)または同時に(coextensively)投与しなければならないことを意味しない。加えて、個々の化合物の投与経路は、同じである必要はない。
【0045】
本明細書で使用されるとき、用語「治療する」および「治療」は、疾病もしくは感染症の進行を遅延させるまたは疾病もしくは感染症から回復させることを表す。疾病を治療することは、疾病もしくは感染症の症状を治療することおよび/または症状を低減することを含む。用語「予防すること」は、疾病の遅延すること、または疾病、感染症もしくはこれらの症状の発症の遅延することを表す。疾病または感染症を予防することは、疾病、感染症もしくはこれらの症状の発症を止めることを含み得る。
【0046】
本明細書で使用されるとき、用語「対象」は、動物、脊椎動物、哺乳類、げっ歯目(例えば、モルモット、ハムスター、ラット、マウス)、ネズミ科(murine)(例えば、マウス)、イヌ科(canine)(例えば、イヌ)、ネコ科(feline)(例えば、ネコ)、ウマ科(equine)(例えば、ウマ)、霊長類、サル(simian)(例えば、マーモセット、ヒヒ)、類人猿(例えば、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)、またはヒトであり得る。
【0047】
本明細書で使用されるとき、用語「投与単位」は、対象のための単位投与として適切なカプセル剤または錠剤などの物理的に分離した単位を表す。各単位は、所望の治療効果を得る所望の薬物動態プロファイルを得ると発見されたまたは思われる式(I)、(Ia)もしくは(II)の化合物の所定量を含む。投与単位は、少なくとも1つの薬剤的に許容可能な担体、塩、賦形剤またはこれらの組合せと共に式(I)、(Ia)もしくは(II)の化合物から成る。用語「用量」または「投与量」は、一度で個体が摂取するまたは投与される有効成分量を表す。
【0048】
用語「治療有効量」は、対象における所望の生物学的効果を得るのに充分な量を表す。したがって、化合物の治療有効量は、疾病もしくは感染症に罹患しているもしくは罹患しやすい対象に投与される場合、この疾病もしくは感染症を治療もしくは予防、および/またはこの疾病もしくは感染症の発症もしくは進行を遅延、および/またはこの疾病もしくは感染症の1つ以上の症状を軽減するのに充分である量であってよい。本明細書において、「薬剤的に許容可能な担体」または「薬剤的に許容可能な賦形剤」は、医薬品の製剤で使用される崩壊剤、結合剤、および潤滑剤などの非API(APIは活性医薬成分を表す)物質を表す。これらは、概して、ヒトへの投与に対して安全である。
【0049】
用語「薬剤的に許容可能な」は、連邦もしくは州政府規制機関により承認されている、または米国薬局方もしくは動物、より特にヒトにおける使用のための他の一般的に承認された薬局方にリストされていることを意味する。用語「媒体」は、本発明の化合物を共に投与する希釈剤、アジュバント、賦形剤、または担体を表す。かかる薬剤媒体は、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油および同様のものなど、石油、動物、植物由来または合成起源のものを含む、水、油などの液体であり得る。薬剤媒体は、食塩水、アカシアゴム、ゼラチン、デンプンのり、タルク、ケラチン、コロイドシリカ、ウエアなどであり得る。加えて、助剤、安定剤、増粘剤、潤滑剤および着色料を使用してよい。1つの実施形態では、患者に投与される場合、本発明の化合物および薬剤的に許容可能な媒体の組合せは滅菌されている。本発明の化合物の組合せが静脈内投与される場合、水および/または油は1つの媒体である。生理食塩水ならびにブドウ糖およびグリセロール水溶液を、特に注射可能な液剤用の液体媒体として使用してもよい。適切な薬剤媒体としては、デンプン、グルコース、ラクトース、ショ糖、ゼラチン、麦芽、コメ、コムギ、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールおよび同様のものなどの賦形剤も挙げられる。必要に応じて、化合物の本組合せは、少量の湿潤剤または乳化剤、またはpH緩衝剤を含むこともできる。
【0050】
概して、本発明の個々の化合物の各々を、いずれかの簡便な経路、例えば、経口、点滴もしくはボーラス注入、または上皮もしくは皮膚粘膜ライニング(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜、他)によって投与してもよく、別の生物活性薬と共に投与してよい。投与は、全身的または局所的であり得る。様々な送達系は公知であり、例えば、リポソームへのカプセル化、マイクロパーティクル、マイクロカプセル、カプセルなどがあり、本発明の化合物の少なくとも1つを投与するために使用することができる。個々の化合物の投与方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、脳内、腟内、経皮、直腸内、肺内または局所、詳細には、耳、鼻、眼、もしくは
皮膚が挙げられるが、これらに限定されない。投与の好ましい方法は、開業医の裁量に任されており、部分的に、内科的疾患の部位に依存するだろう。
【0051】
特定の実施形態では、組合せの1つ以上の化合物を、治療を必要とする領域に局所投与することが望ましいかもしれない。例えば、限定するわけではないが、外科手術中の局所注入により、局所塗布、例えば、外科手術後創傷被覆材と共に、注射により、カテーテルを用いて、坐薬を用いて、またはシラスチック(sialastic)膜などの膜を含む多孔質、非多孔質、もしくはゼラチン材、もしくは繊維から成るインプラントによって、これを達成し得る。
【0052】
例えば、吸入器もしくはネブライザーの使用、およびエアロゾル化剤を含む製剤、またはフルオロカーボンもしくは合成肺サーファクタント中にパーフュージョンすることによって、肺内投与を使用することもできる。特定の実施形態では、本発明の化合物を、従来の結合剤およびトリグリセリドなどの媒体と共に坐薬として製剤することができる。
【0053】
別の実施形態では、本発明の化合物を、媒体、特に、リポソームで送達することができる(Langer,1990,Science 249:1527-1533;Treat et al.,in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez-Berestein and Fidler (eds.),Liss,New York,pp.353-365(1989);Lopez-Berestein,ibid.,pp.317-327参照)。
【0054】
更に別の実施形態では、本発明の方法で使用される化合物の少なくとも1つを、放出制御系で送達することができる。1つの実施形態では、ポンプを使用してよい(Langer,supra;Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201;Buchwald et al.,1980,Surgery 88:507 Saudek et al.,1989,N.Engl.J.Med.321:574参照)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release,
Langer and Wise (eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.(1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York(1984);Ranger and Peppas,1983,J.Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61参照;Levy et al.,1985,Science 228:190;During et al.,1989,Ann.Neurol.25:351 Howard et al.,1989,J.Neurosurg.71:105も参照)。更に別の実施形態では、放出制御系を、臓器、例えば、肝臓の近くに配置することができ、したがって、僅かな全身投与量しか必要としない(例えば、Goodson,in Medical Applications of Controlled Release,supra,vol.2,pp.115-138(1984)参照)。Langer,1990,Science 249:1527-1533によるレビューで考察されている他の放出制御系を使用してよい。
【0055】
投与しようとする個々の化合物の各々は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、ペレット剤、カプセル剤、液剤を含むカプセル剤、散剤、徐放性製剤、坐薬、乳剤、エアロゾル剤、スプレー剤、懸濁剤、または使用に適切な他の剤形の形態をとることができる。1つの実施形態では、薬剤的に許容可能な媒体は、カプセル剤である(例えば、米国特許第5,698,155号参照)。適切な薬剤媒体の一例は、Remington’s Scie
nce and Practice of Pharmacy(21st ed.,Hendrickson,R.,et al.,Eds.,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD (2006)、参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている。
【0056】
通常、本発明の個々の化合物を静脈内投与する場合、化合物は、滅菌等張性緩衝水溶液となる。必要な場合、本発明の個々の化合物は、安定剤を含むこともできる。静脈内投与用の本発明の個々の化合物は、必要に応じて、注射部位の痛みを和らげるためのリドカインなどの局所麻酔薬を含んでよい。
【0057】
1つの実施形態では、個々の化合物を、単位剤形で一緒にまたは別々のいずれかで供給する。とにかく、例えば、活性薬の量を示しているアンプルなどの密封容器中の凍結乾燥散剤または無水濃縮物として、化合物を供給してよい。本発明の化合物または化合物の組合せを点滴により投与しようとする場合、例えば、滅菌医薬品グレードまたは生理食塩水を含む点滴ボトルを用いて分注することができる。本発明の化合物または化合物の組合せを注射により投与する場合、成分を投与前に混合し得るように、滅菌注射用水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0058】
経口送達用組成物は、例えば、錠剤、トローチ剤、水性もしくは油性懸濁剤、顆粒剤、散剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤、またはエリキシル剤の形態であってよい。経口投与組成物は、1つ以上の必要に応じて使用する薬剤、例えば、フルクトース、アスパルテームまたはサッカリンなどの甘味料;ペパーミント、ウインターグリーン油、またはサクランボなどの香料;着色料;および保存料を含み、薬剤的に美味な製剤を提供してよい。経口用途の即効型製剤としては、無毒性薬剤的に許容可能な賦形剤を含む混合物中に有効成分を含む錠剤またはカプセル剤が挙げられる。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤または結合剤(例えば、ショ糖、ソルビトール、糖、マンニトール、結晶セルロース、ジャガイモデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム);顆粒化剤および崩壊剤(例えば、結晶セルロースを含むセルロース誘導体、ジャガイモデンプンを含むデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩、またはアルギン酸);結合剤(例えば、ショ糖、グルコース、マンニトール、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、結晶セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、またはポリエチレングリコール);ならびに潤滑剤、流動促進剤、および抗接着剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、硬化植物油、またはタルク)であってよい。他の薬剤的に許容可能な賦形剤は、例えば、The Handbook of Pharmaceutical Excipients,third edition,edited by Arthur H.Kibbe, American Pharmaceutical Association Washington DCに見られるように、着色料、香料、可塑剤、保水剤、緩衝剤、および同様のものであり得る。
【0059】
さらに、錠剤または丸剤の形態では、組成物を被覆して胃腸管内での崩壊および吸収を遅延させて、長時間にわたって持続的活性を提供してもよい。浸透圧的に活性駆動する化合物の周囲の選択的透過膜も、経口投与される本発明の化合物に適している。これらの後者のプラットフォームでは、カプセルの周囲の環境からの体液を、駆動化合物により吸収され、膨潤して薬剤または薬剤組成物を開口部を通って置き換わる。これらの送達プラットフォームは、即効型製剤のスパイクプロファイルとは対照的に殆ど0次送達プロファイルを提供することができる。グリセロールモノステアレートまたはグリセロールステアレ
ートなどの時間遅延材料を使用してもよい。経口用組成物は、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、他などの標準的媒体を含むことができる。かかる媒体は、好ましくは、医薬品グレードである。
【0060】
経口送達には、活性化合物を、結合剤(例えば、ゼラチン、セルロース、トラガカントゴム)、賦形剤(例えば、デンプン、ラクトース)、崩壊剤(例えば、アルギン酸塩、Primogel、およびトウモロコシデンプン)、および甘味料または香料(例えば、グルコース、ショ糖、サッカリン、サリチル酸メチル、およびペパーミント)など、薬剤的に許容可能な担体を含む製剤に組み込むことができる。密閉ゼラチンカプセルまたは圧縮錠剤の形態で、製剤を経口送達することができる。カプセル剤および錠剤を当技術分野において公知の様々なコーティングで被覆して、カプセル剤および錠剤の香り、味、色、および形状を修飾することもできる。担体は固体もしくは液体、または両方であってよく、少なくとも1つの活性化合物の約0.05重量%~約95重量%を含んでよい活性化合物として本明細書に記載されている少なくとも1つの化合物と共に製剤してよい。適切な経口製剤は、懸濁剤、シロップ剤、チューインガム剤、ウエハー剤、エリキシル剤などの形態であってもよい。
【0061】
必要に応じて、特定の形態の香り、味、色、および形状を修飾するための従来の薬剤が含まれていてもよい。加えて、嚥下することができない患者の経腸栄養管による便利な投与のため、活性化合物を、オリーブ油、トウモロコシ油およびベニバナ油などの許容可能な親油性植物油媒体に溶解することができる。
【0062】
活性化合物を、液剤もしくは懸濁剤の形態で、または使用前に液剤もしくは懸濁剤の形態に転換することができる凍結乾燥剤形で非経口的に投与することもできる。かかる製剤では、滅菌水および生理食塩水緩衝剤などの希釈剤または薬剤的に許容可能な担体を使用することができる。他の従来の溶媒、pH緩衝剤、安定剤、抗菌薬、界面活性剤、および酸化防止剤を全て含むことができる。例えば、有用な成分としては、塩化ナトリウム、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸緩衝剤、グリセリン、デキストロース、不揮発性油、メチルパラベン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、重硫酸ナトリウム、ベンジルアルコール、アスコルビン酸などが挙げられる。非経口製剤を、バイアルおよびアンプルなどのいずれもの従来の容器中で貯蔵することができる。
【0063】
局所投与の経路としては、鼻腔、口腔、粘膜、直腸、または腟塗布が挙げられる。局所投与のため、活性化合物を、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤、散剤、ペースト剤、懸濁剤、ドロップ剤およびエアロゾル剤に製剤することができる。したがって、1つ以上の増粘剤、保水剤、および安定剤を製剤に含めることができる。かかる薬剤の例としては、ポリエチレングリコール、ソルビトール、キサンタンガム、ワセリン、ミツロウ、または鉱油、ラノリン、スクワレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。局所投与の特定の形態は、経皮パッチ剤による送達である。経皮パッチ剤の製剤方法は、例えば、Brown, et al.(1988) Ann.Rev.Med.39:221-229(参照により本明細書に組み入れられる)に開示されている。使用してよい担体および賦形剤としては、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール類、およびこれらの2つ以上の組合せが挙げられる。活性化合物は、概して、組成物の約0.1%~約80%(重量/重量)の濃度、例えば、約0.2%~50%で存在する。
【0064】
活性化合物の徐放性のための皮下移植も、適切な投与経路であり得る。これは、皮下腔、例えば、前腹壁真下に適切な製剤中の活性化合物を移植するための外科手術手順を必要とする。例えば、Wilson et al.(1984)J.Clin.Psych.45:242-247参照。ハイドロゲルを、活性化合物の徐放性のための担体として使
用することができる。ハイドロゲルは、概して、当技術分野において公知である。ハイドロゲルは、通常、ネットワーク中に高分子量生体適合性ポリマーを架橋することによって製造し、水中で膨潤してゲル様物質を生成する。好ましくは、ハイドロゲルは、生分解性または生体吸収性である。本発明の目的のため、ポリエチレングリコール、コラーゲン、またはグリコール酸/L-乳酸共重合体から製造されたハイドロゲルは有用であり得る。例えば、Phillips et al.(1984)J.Pharmaceut.Sci.,73:1718-1720参照。
【0065】
投与しようとする各個々の化合物の量は、症状の性質または重症度に依存し、標準的臨床秘術によって決定することができる。加えて、インビトロまたはインビボアッセイを、必要に応じて使用して、組合せの成分の各々についての最適投薬量範囲を決定する助けとしてよい。使用しようとする各成分の正確な用量は、疾病または障害の投与経路および重篤度にも依存し、開業医は各患者の環境に基づいてこれらの用量を決定することができる。しかしながら、概して、式(I)化合物、式(Ia)化合物、および式(II)化合物の各々の経口投与のための適切な投与量範囲は、通常、体重キログラム当たり本発明の化合物約0.001mg~1000mgである。本発明の特定の実施形態では、各成分の経口用量は、体重キログラム当たり0.01mg~100mg、より特に、体重キログラム当たり0.1mg~50mg、より特に、体重キログラム当たり0.5mg~20mg、なお更により特に体重キログラム当たり1mg~10mgである。1つの実施形態では、式(I)化合物、式(Ia)化合物、および式(II)化合物の各々の経口投与量は、少なくとも約1、5、10、25、50、100、200、300、400、または500mg/日であり、3~15日間に600、700、800、900、1000mg/日までとなる。式(I)化合物、式(Ia)化合物、および式(II)化合物の各々を、毎日(例えば、毎日1回、2回、3回または4回)またはそれほど頻繁ではなく(例えば、隔日に1回、または週に1回もしくは2回)与えてもよい。本明細書に記載されている投与量は、投与される個々の量を表す。1つより多い化合物を投与する場合、好ましい投与量は、投与される本発明の化合物の総量に相当する。本明細書に記載されている経口用組成物は、約10重量%~約95重量%の有効成分を含んでよい。
【0066】
概して、個々の成分の静脈内(i.v.)投与のための適切な投与量範囲は、体重キログラム当たり0.001mg~1000mg、体重キログラム当たり0.01mg~100mg、体重キログラム当たり0.1mg~50mg、および体重キログラム当たり1mg~10mgである。概して、個々の成分の鼻腔内投与のための適切な投与量範囲は、通常、約0.01pg/体重kg~1mg/体重kgである。概して、坐薬は、通常、体重キログラム当たり0.01mg~50mgの化合物を含み、0.5重量%~10重量%の範囲の有効成分を含み得る。有効投与量は、インビトロまたは動物モデル試験システムから誘導される用量反応曲線から外挿してよい。かかる動物モデルおよびシステムは、当技術分野において周知である。
【0067】
本発明は、本発明の方法の実行において投与しようとする1つ以上の化合物を充填した1つ以上の容器を備える医薬パックまたはキットにも関する。必要に応じてかかる容器に添付されているものは、医薬品または生物製品の製造者、使用または販売を規制する政府機関により指定された書式の通知であり得、この通知は、ヒト投与に関する製造者、使用または販売の機関による承認を反映する。特定の実施形態では、キットは、1つより多い化合物を収容する。
【0068】
本明細書に記載されている化合物は、感受性のある細菌または多剤耐性、ポリミキシン耐性変異体、カルバペネム耐性細菌、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、バンコマイシン耐性エンテロコッカス(Enterococci)または多剤耐性ナイセリア・ゴノレア(Neisseria
gonorrhoeae)による感染症の治療に有用である。
【0069】
グラム陰性菌の例としては、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、カンジダタス・リベリバクター(Candidatus liberibacter)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、ブランハメラ・カタラーリス(Branhamella catarrhalis)、シトロバクター・ジベルサス(Citrobacter diversus)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)、シゲラ・ボイディ(Shigella boydii)、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteriditis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ベイロネラ・パルブラ(Veillonella parvula)、アクチノバチルス・アクチノミセタムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、エルシニア・ペスチス(Yersinia pestis)、ビブリオ・コレラエ(Vibrio cholera)、モルガネラ・モルガニー(Morganella morganii)、エドワージエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、またはヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、および多数の他のものが挙げられるが、これらに限定されない。グラム陰性菌の他の注目すべき群としては、シアノバクテリア、スピロヘータ、緑色硫黄細菌および緑色非硫黄細菌が挙げられる。
【0070】
医学的に関連するグラム陰性球菌としては、性行為感染症(ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae))、髄膜炎(ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis))、および呼吸器症状(モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis))の原因となる3種の生物が挙げられる。
【0071】
医学的に関連するグラム陰性桿菌としては、数多くの種が挙げられる。これらのいくつかは、主に、呼吸障害((ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa))、主に泌尿器系障害(エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae))、および主に胃腸系障害(ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica))の原因と
なる。
【0072】
院内感染症に関連するグラム陰性菌としては、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)が挙げられ、病院施設の集中治療室における菌血症、続発性髄膜炎、および人工呼吸器関連肺炎の原因となる。1つの実施形態では、本発明の化合物および組成物は、次のグラム陰性菌:大腸菌(E.Coli)、S.エンテリカ(S.enterica)、クレブシエラ(Klebsiella):K.ニューモニエ(K.pneumoniae)、K.オキシトカ(K.oxytoca);エンテロバクター:E.クロアカ(E.cloacae)、E.エロゲネス(E.aerogenes);アシネトバクター(Acinetobacter):A.カルコアセティカス(A.calcoaceticus)、A.バウマンニ(A.baumannii);シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophila)、プロビデンシア・スチュアルティ(Providencia stuartii);プロテウス(Proteus):P.ミラビリス(P.mirabilis)、P.ブルガリス(P.vulgaris)の1つ以上の感染症の治療に有用である。
【0073】
1つの実施形態では、式(I)、(Ia)もしくは(II)の化合物もしくはその薬剤的に許容可能な塩またはこれを含む組成物は、緑膿菌(P.aeruginosa)感染症を含むシュードモナス(Pseudomonas)感染症、例えば、皮膚軟組織感染、胃腸感染症、尿路感染症、肺炎および敗血症の治療に有用である。
【0074】
1つの実施形態では、式(I)、(Ia)もしくは(II)の化合物もしくはその薬剤的に許容可能な塩またはこれを含む組成物は、A.バウマンニ(A.baumannii)感染症を含むアシネトバクター(Acinetobacter)感染症、例えば、肺炎、尿路感染症および敗血症の治療に有用である。
【0075】
1つの実施形態では、式(I)、(Ia)もしくは(II)の化合物もしくはその薬剤的に許容可能な塩またはこれを含む組成物は、K.ニューモニエ(K.pneumoniae)感染症を含むクレブシエラ(Klebsiella)感染症、例えば、肺炎、尿路感染症、髄膜炎および敗血症の治療に有用である。
【0076】
1つの実施形態では、式(I)、(Ia)もしくは(II)の化合物もしくはその薬剤的に許容可能な塩またはこれを含む組成物は、大腸菌(E.Coli)感染症を含む大腸菌(E.Coli)感染症、例えば、菌血症、胆嚢炎、胆管炎、尿路感染症、新生児髄膜炎および肺炎の治療に有用である。
【0077】
本発明の化合物を、制御された条件下、微生物フォトラブダス・カニ(Photorhabdus khanii)DSM3369の株を生育することにより製造してよい。本明細書に記載されているように、発酵および実質的に純粋な形態で回収することにより、化合物を得る。特に、本化合物を、以後に記載される条件下適切な培養液の好気発酵中にフォトラブダス(Photorhabdus)P.カニ(P.khanii)DSM3369の株により製造してよい。多くの抗菌物質の製造に使用されるものなど培地は、本化合物の製造のためのこの方法における使用のために適している。
【0078】
本発明の1つの実施形態は、フォトラブダス・カニ(Photorhabdus khanii)DSM3369の液内好気発酵による抗生物質製剤、例えば、式(II)の製造に適した方法を含む。式(II)の化合物を、樹脂吸収による発酵ブロスから回収し、様々な極性の溶媒を用いて洗浄することによって樹脂から溶出してよい。逆相高性能クロマトグラフィー(RP-HPLC)などのクロマトグラフィー分離法によって、精製を進
めてよい。
【0079】
本発明の1つ以上の化合物を製造することができる更なる微生物としては、当技術分野で公知の種と比較して有利な特性を示す変異種が挙げられる。かかる細菌株を、親株の変異誘発によって生成することができる。本発明の変異株の製造に使用される変異誘発のストラテジーおよび方法、変異細菌株のスクリーニングおよび単離の手順、培地の組成は、当技術分野において公知である。
【0080】
好ましい実施形態では、式(II)の化合物の製造のためのフォトラブダス・カニ(Photorhabdus khanii)DSM3369の培養を、適切な通気条件下、滅菌環境において混合しながら、1つ以上の吸収剤と共に容易に同化可能な炭素源、窒素源、無機塩および他の有機成分を含む培養液中で行う。本発明の抗生物質製剤の製造で使用される培養液の組成物を、実施例において詳述する。(本明細書で使用されるとき、用語「培養液)は、合成または天然成分の混合物を意味する。概して、培養液は、炭素源、窒素源、無機塩などの微量元素、および必要に応じてビタミン類または他の成長因子を含む。)
【0081】
本明細書に記載されている化合物の類似体を、本化合物をコードする野生型ゲノム配列の直接得られた変化形を使用して生合成して製造してよい。フォトラブダス・カニ(Photorhabdus khanii)DSM3369のゲノム配列によれば、図4に示されているように、式(II)の化合物(WNWSKSF(配列番号1))ダロバクチンAの直鎖アミノ酸配列と、RiPP(リボソーム翻訳系翻訳後修飾ペプチド)型抗菌薬をコードするのが典型的なオペロンに属する遺伝子の一部との一致がある。オペロンは、本発明者らが本明細書に取り入れている命名法による、darA(ダロバクチンAの前駆体ペプチド、ダロバクチンA、式(II)の化合物をコードする)、darBCD(明白にダロバクチンAの排出のための輸送体をコードする)、darE(ダロバクチンAのトリプトファン-リジンC-C結合などの不活性化C-C結合の生成に必要なラジカルSAM酵素)をコードする生合成遺伝子クラスターを含む。ダロバクチンAの7aa配列を、前駆体ペプチド内に示す。配列アライメントは、保存されているコアペプチドと共に多くのフォトラブダス(Photorhabdus)におけるdarオペロンの存在を示す。
【0082】
ダロバクチンに対する耐性を有する大腸菌(E.coli)を得た。これらは、フォールドしてタンパク質を外膜に挿入するのを助けるBam複合体の必須成分であるBamAに位置する。
【0083】
ダロバクチンAコアペプチドのリボソームコード化は、全アミノ酸はL体であることを明白に意味する。リボソームコード化は、前駆体ペプチドをコードするdarA遺伝子におけるヌクレオチド置換によるダロバクチンAの類似体の製造を可能とする。かかる置換を、様々な標準的生化学方法のいずれかを使用して行ってよい。ダロバクチンAのコード領域のヌクレオチドの特異的およびランダム置換の両方を有するオリゴヌクレオチドの合成は、大きい配列のフラグメントを得る。これらのオリゴヌクレオチドは、前駆体ペプチドをコードする上流および下流配列でライゲートし、発現ベクターにクローン化し、崩壊前駆体ペプチド遺伝子と共にdarオペロンを保有する細胞に形質転換する。ダロバクチンA類似体を、この組換えライブラリーのクローンから単離し、活性について試験する。細菌に対する増大された効力または改良された薬理学的特性を有する類似体を単離し、薬剤中に展開してよい。
【0084】
技術的に適切な場合、実施形態を組合せてもよく、したがって本開示は本明細書で提供された実施形態の全ての並べ替え/組合せにまで及ぶ。本明細書における実施例は例証する目的だけのものであり、とにかく、本発明の範囲を限定する意図はない。
【実施例
【0085】
発酵
フォトラブダス・カニ(Photorhabdus khanii)DSM3369を、10mlのLuria Bertani培地(LBB)に播種し、50mlのファルコンチューブ中で振盪(200rpm)しながら28℃においてインキュベートした。10ミリリットルの一晩培養した培養液を、2Lエルレンマイヤーフラスコ中、1Lのトリプシンソイ培地(TSB)に播種し、8~10日間振盪(200rpm)しながら28℃においてインキュベートした。
【0086】
単離
細菌細胞を、遠心分離(8,000xg、10分)により取り除き、上澄み液を回収した。上澄み液を活性化されたスチレン-ジビニルベンゼン樹脂(AMBERLITE XAD16N、SIGMA-ALDRICH)と共に混合し(4:1、体積/体積)、次いで、周囲温度下で一夜緩やかに振盪した。デカンテーションにより非結合物質を除去し、樹脂に吸着された化合物、ダロバクチンA(式(II)に相当)を、樹脂体積の6倍量のDD水で洗浄した。ダロバクチンAを、30分間ロータリーシェーカーで緩やかに振盪することによって、樹脂体積の0.1%(体積/体積)ギ酸を含む4倍量の50%メタノールを用いて溶出した。有機溶媒を除去するためにロータリーエバポレーターによって溶出液を濃縮した。残水性溶出液を、0.1%(体積/体積)ギ酸で酸性化し、次いで、ルーズレジンバルク法(loose-resin bulk process)で陽イオン交換(SPセファロースXL、GE Healthcare)クロマトグラフィーに付した。活性化陽イオン交換樹脂を酸性化水性溶出液に添加し、4℃で一夜緩やかに振盪した。非結合物質をデカントして、樹脂を0.1%(体積/体積)ギ酸DD水で洗浄した。抗菌活性物を、pH5の50mM酢酸アンモニウム、pH7の50mM酢酸アンモニウム、およびpH8の50mM酢酸アンモニウムのステップグラジエントにより溶出した。抗菌活性溶出物を合わせて、凍結乾燥し、次いで、0.1%(体積/体積)ギ酸DD水中に再懸濁した。再懸濁液を、段階pH勾配を有する溶離によって直列接続された4HiTrap
SP XLの第二陽イオン交換クロマトグラフィー(カートリッジ当たり5mL;合計20mLの総容積)に付した。非結合物質を0.1%(体積/体積)ギ酸DD水で洗浄し、次いで、pH5の50mM酢酸アンモニウム、pH7の50mM酢酸アンモニウム、およびpH8の50mM酢酸アンモニウムのステップグラジエントにより溶出した。抗菌活性溶出物を合わせて、凍結乾燥し、次いで、0.1%(体積/体積)ギ酸DD水中に再懸濁して、C18半分取カラム(Agilent、C18、5μm;250×10mm、Restek)で、流速5mL/分で14分間、溶媒Aとして水+0.1%(体積/体積)ギ酸/溶媒Bとしてアセトニトリル+0.1%(体積/体積)ギ酸を2%Bから開始して14%Bまでの直線勾配、ダイオードアレイ検出器でモニターする210~400nmのUV検出を使用した逆相高性能クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して、12.25分にダロバクチンAを得た(純度:95%UV)。
【0087】
ダロバクチンAの構造
ダロバクチンAを凍結乾燥後、非結晶白色粉末として単離した。
【0088】
ダロバクチンAに対する化学試験は、ニンヒドリン試薬で陽性反応を示したので、第一級アミンの存在を示した。フェノールの存在を示す塩化第二鉄試験に対しても陽性に反応した。
【0089】
1μg/mlの濃度でダロバクチンAを直接注入することにより、THERMO SCIENTIFIC LTQ Orbitrap XLハイブリッドイオントラップオービトラップ型質量分析計で得られた高解像度エレクトロスプレーイオン化質量分析(HRE
SIMS)は、m/z483.70874における[M+2H]2+ピークおよびm/z966.41046における[M+H]ピークを示した。同位体パターンは、ClまたはBrが存在しないことを示した。正確な質量および同位体分布は、元素式C47551211と一致した。
【0090】
500μLの水+3%(体積/体積)重水および0.25%(体積/体積)重水素化ギ酸に溶解された5mgのダロバクチンAの、Bruker500MHzにおける一次元および二次元各磁気共鳴(1Dおよび2D NMR)分析は、ペプチドを示し、フェニルアラニン、2セリン、リジン、2トリプトファンおよびアスパラギンの存在を明らかにした。COSY、TOCSY、NOESYおよびHMBCスペクトルは、ペプチド結合による異なるアミノ酸の結合を決定することを可能とし、異常なリジン-トリプトファン架橋を明らかにした。この結合は、リジンおよびトリプトファンの側鎖内の2個の不活性炭素間の共有結合を含む、R.Schramma et al.(2015)により以前に記載された翻訳後修飾によって生じると思われる。
【0091】
ダロバクチンAの酸加水分解、次いで、マーフィー試薬を用いた誘導体化ならびにLC-MSアミノ酸決定実験およびタンデム質量分析(MS/MS)による化合物全体のフラグメンテーションパターン分析は、新規天然産物を示すペプチドパターンを確証させた。
【0092】
抗菌スペクトル
ダロバクチンAの最小発育阻止濃度(MIC)を、ブロス微量希釈アッセイによって決定した。次の試験生物をダロバクチンAのスペクトルの評価に使用した:シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobactor baumannii)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella Typhimurium)、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、およびエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)。
【0093】
試験生物を、好気条件の場合は5mLのミューラーヒントンII培地(MHIIB)に、嫌気条件の場合はブレインハートインフュージョン培地(BHI)に播種し、細胞密度がOD600=0.1~0.9に達するまで生育した。細胞懸濁液を、OD600=0.001まで希釈し、96μLの細菌培養液を、96ウェルプレート中の4μLのダロバクチンAに添加した(最終濃度0.5~128μg/mL)。37℃で20時間のインキュベーション後、試験生物の成育を目視で決定した(表1)。
【0094】
【表1】
【0095】
細胞毒性
HepG2およびFaDu細胞を、75cm組織培養フラスコに20mLの最小必須培地(MEM)+10%ウシ胎仔血清(FBS)および1%抗菌・抗真菌抗生物質中で培養し、37℃、5%COにおいて5日間インキュベートした(細胞が70%コンフルエントに達するまで)。増殖培地を取り出し、細胞を5mLの1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。洗浄後、PBSを取り出し、2mLの0.25%トリプシンを含む1×EDTA溶液を添加した。細胞を、37℃、5%COにおいて2分間インキュベートして、細胞をフラスコから剥がした。フラスコに6mLの培養培地の添加によって、トリプシンを不活化し、細胞を、凝集を避けるために緩やかにピペッティングすることによって剥がした。細胞を計数し、MEM+10%FBS中に2×10細胞/mLに希釈し、この懸濁液100μlを、透明平底組織培養治療96ウェルプレートに添加した。プレートを、37℃、5%COにおいて一晩インキュベートして、細胞をプレートに接着させた。
【0096】
別々の透明丸底非組織培養処理96ウェルプレート中、4μlのダロバクチンAを、96μlの培養培地と混合した。上澄み液を各組織培養プレートから取り出し、ダロバクチンAを含む培養培地を、丸底プレートから組織培養プレートに移動した。細胞を、ダロバクチンAの存在下、37℃、5%COにおいて3日間インキュベートし、この時点で、5μlの3mMレサズリン(アラマーブルー)を添加した。プレートを、37℃、5%COにおいて3時間インキュベートした。各細胞株の生存率を、プレートリーダーで蛍光(554nm/590nm)を読むことによって評価した(表2)。
【0097】
【表2】
【0098】
ダロバクチンAの殺活性
大腸菌(E.coli)を、5mLのミューラーヒントンII培地(MHIIB)に播種し、OD600=0.1~0.9まで生育した。細胞懸濁液を、OD600=0.001まで希釈した。98μLの大腸菌(E.coli)培養液を、96ウェルプレートにおいて、2μLのダロバクチンA(16μg/mL、2×MICに相当)で処置し、37℃で20時間インキュベートした。大腸菌(E.coli)培養液を、抗菌薬を含まないLuria Broth寒天上に播き、コロニー形成単位(CFU)を、生細胞計数のためにカウントした(図3)。
【0099】
リポ多糖(LPS)によるアンタゴナイゼーションアッセイ
ダロバクチンAは、分子量966Daの大きな化合物である。グラム陰性菌への侵入限界は、およそ500Daである。したがって、ダロバクチンAは、リポ多糖(LPS)を標的とするポリミキシンと同様に、細胞表面上で作用する可能性があると思われた。これを試験するために、ダロバクチンAの活性をLPSの存在下試験した。大腸菌(E.coli)を、5mLのMHIIBに播種し、細胞密度がOD600=0.1~0.9に達するまで生育した。細胞懸濁液を、2×MHIIBでOD600=0.002まで希釈した。40μLのLPS溶液(最終濃度範囲0~800μg/mL)および2μLの2×MIC抗菌液剤(最終濃度:ポリミキシン;0.5μg/mL、アンピシリン;16μg/mL、ダロバクチンA;16μg/mL)を、96ウェルプレートにおいて混合し、滅菌DI水によって50μLまで満たした。LPSおよび抗菌液剤を、50μLの大腸菌(E.coli)細胞懸濁液と共に混合し、37℃で20時間インキュベートした。大腸菌(E.coli)の生育を、目視で決定した(表3)。
【0100】
【表3】
【0101】
動物有効性
ダロバクチンAを、2動物有効性モデルにおいて試験した(図5)。敗血症モデルでは、マウスに、24時間以内に未治療群において100%死亡率の原因となる接種菌液として、5%ムチン中の10個の細菌を注射した(腹腔内)(図5A、5C)。感染の1時
間後、3つの群において、ポジティブコントロールとしてのゲンタマイシン20mg/kg、または様々な用量レベルのダロバクチンAで、マウスを治療した。5日間にわたって、生存率をモニターした。ダロバクチンAは、感染症を効果的に治療し、2.5mg/kgにおいて、一般的に使用されるATCC25922株およびポリミキシンに耐性を有する臨床分離株AR350の両方の大腸菌(E.coli)に対して、100%の生存率を示した(図5A)。5時間後、CFU測定のために尾から採血し、ダロバクチンA治療を受けた大腸菌(E.coli)の有意な減少を示した(図5B)。1mg/kgにおいて、ダロバクチンAは生存時間をなお延長したが、もはや100%治癒しなかった(図5A)。ポリミキシンに耐性を有する実験室株を使用して、緑膿菌(P.aeruginosa)敗血症に対してダロバクチンAを50mg/kgで試験し、100%生存率を示した(図5C)。次いで、ダロバクチンAを、好中球減少性マウス大腿モデルにおいて有効性について試験した。マウスに、シクロホスファミドを与えて好中球減少症を誘発(-3日目、0日目)し、次いで、マウスの右大腿において10CFU大腸菌(E.coli)AR350を感染させて、感染の2時間後に治療を開始した。未治療コントロール、群当たり4匹のマウスを、0、2、および24時間において袋詰にして、感染症の進行をモニターした。治療群当たり4匹のマウスにおいて、2時間後に50mg/kg単回注射されたダロバクチンA(腹腔内)を、感染の2、8、14時間後に3回与えられた25mg/kgのダロバクチンA(腹腔内)、および2時間後に20mg/kg単回注射されたゲンタマイシン(腹腔内)と比較した。マウスを24時間において袋詰にして、無菌的に取り出した大腿をホモジナイズして寒天プレートに蒔いてCFUを計数した(図5D)。50mg/kgのダロバクチンAは、未治療コントロールと比較して感染症負荷量を10分の1に低減し、25mg/kgを3回与えると、感染症を100分の1に低減し、2匹のマウスにおける検出限界未満までをも含んだ。
【0102】
したがって、ダロバクチンAは、2.5mg/kg(腹腔内)、ATCC25922およびポリミキシン耐性臨床分離菌AR350、n=3/治療群(感染の1時間後に治療)において大腸菌(E.Coli)敗血症のマウスを治癒することができた。1mg/kg(腹腔内)においてダロバクチンAは、生存時間を延長し、5時間において血液中のCFU負荷量を著しく低減した(A、B)。
【0103】
本明細書において使用された用語および表現は、説明のための用語および表現として使用されており、限定するものではなく、かかる用語および表現の使用において、示されているおよび記載されている特徴のいずれもの等価物またはその部分を排除する意図はない。加えて、本発明の記載されている特定の実施形態があれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に開示されている概念を含む他の実施形態を使用してもよいことは、当業者には明白であろう。したがって、記載されている実施形態は、あらゆる点において、例証するだけのものであり、限定するものではないと見做されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
【配列表】
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