(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】部屋の気流形成方法および空調設備を設けた部屋
(51)【国際特許分類】
F24F 13/068 20060101AFI20240410BHJP
F24F 7/003 20210101ALI20240410BHJP
F24F 7/08 20060101ALI20240410BHJP
F24F 7/10 20060101ALI20240410BHJP
F24F 8/20 20210101ALI20240410BHJP
F24F 13/02 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
F24F13/068 A
F24F7/003
F24F7/08
F24F7/10
F24F8/20
F24F13/02 G
(21)【出願番号】P 2022070736
(22)【出願日】2022-04-22
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301052515
【氏名又は名称】ダイリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089934
【氏名又は名称】新関 淳一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100092945
【氏名又は名称】新関 千秋
(72)【発明者】
【氏名】神山 和世
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-178824(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101982704(CN,A)
【文献】特公昭36-004564(JP,B1)
【文献】特開平06-066439(JP,A)
【文献】特開2006-112716(JP,A)
【文献】特開2013-253761(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107714(WO,A1)
【文献】中国実用新案第206037330(CN,U)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0096586(KR,A)
【文献】特開平03-031622(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0150407(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0049911(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給気装置と吸気装置を有する空調設備を設けた部屋であって、該給気装置を、給気主管1と、該給気主管1から枝分かれし、部屋上部に設けられた給気枝管3と、該給気枝管3に設けられ、部屋下部に向かって空気を供給する複数の給気口4とを有して構成し、前記吸気装置は、吸気主管5と、該吸気主管5から枝分かれし、部屋下部に設けられた吸気枝管6と、該吸気枝管6に設けられた複数の吸気口7とを有する構成とし、部屋の上部に設けられた下側のみ開口させた給気口4と、部屋の下部に設けられた吸気口7とを、部屋内の空気の流れが部屋全体にわたって上から下への垂直下向きとなるように、上下に向き合うように設置し、部屋全体において垂直下向きの空気の流れを常時形成する部屋。
【請求項2】
請求項1において、給気枝管3の給気口4と吸気枝管6の吸気口7とは、少なくとも、平面視において、互いに上下に向き合うように配置した部屋。
【請求項3】
請求項1または請求項2の何れかにおいて、給気主管1には滅菌フィルタ2を設けた部屋。
【請求項4】
請求項3において、給気主管1には熱交換器8を設けた部屋。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一項において、部屋の一側上部に給気主管1を設け、該給気主管1に給気主管1と交差する方向に給気枝管3を、給気主管1の長さ方向に所定間隔を置いて複数設けた構成とした部屋。
【請求項6】
請求項5において、前記吸気枝管6の幅が、端部から前記吸気主管5との連結部に向かうに従い徐々に狭くなる構成とした部屋。
【請求項7】
請求項6において、吸気主管5に一端を接続した吸気枝管6の他端に、吸気主管5に向けて吸気枝管6内に送風する送風機を設けた部屋。
【請求項8】
請求項6~請求項7の何れか一項において、部屋の床下方に吸気主管5に接続した吸気枝管6を配置し、吸気枝管6の吸気口7とを部屋内と連絡するスリット9を床に形成した部屋。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか一項において、部屋が前記空調設備を有するブースを設けた部屋である部屋。
【請求項10】
請求項1~請求項8の何れか一項において、部屋が教室である、部屋。
【請求項11】
請求項1~請求項9の何れか一項において、部屋が病室である、部屋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィルス・細菌、ホコリ等の拡散や、それによる汚染・感染の拡大を抑えることのできる空調設備を設けた教室、ブース、病室等の部屋の気流形成方法および空調設備を設けた部屋に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウィルス(COVID-19)、SARS(重症急性呼吸器症候群)、新型インフルエンザ等の大流行によって、ウィルスの拡散、感染の拡大を如何にして防ぐかが、喫緊の課題となっている。
特に職場や学校、病院、公共機関、店舗等の不特定多数の人が集合する屋内におけるウィルスの拡大や感染を防止することが重要である。
また飲食品を扱う店舗、工場等の衛生管理を必須とする室内において、人や物品に付着して、ウィルスや細菌、ホコリ等が仮に侵入しても、その影響を最小限に留めることも重要である。
ここで、研究機関や学校での実験の際に、意図せぬ塵芥や細菌・ウィルス等の混入を防ぐための、いわゆるクリーンベンチは公知である(例えば特許文献1等参照)。
また特許文献2には、医療の分野で求められる細菌・ウィルス等が除去された清浄空間を提供する空間清浄度保持装置が記載されている。
しかしこれらの装置等は比較的狭い空間を清浄にすることを目的としたものであり、職場や学校等の広い空間を清浄にすることは難しい。
特許文献3には、新型インフルエンザ等のパンデミックが発生した場合に、管理対象区画における感染症による汚染を防止し、該区画の保全を行うための管理対象区画保全方法が記載されており、パーソナル執務スペースで用いる空気清浄装置が開示されている。
しかしながら、これら設備では、様々な機構を必要とし、また各区画で気圧を変えるなど、設置にかなりの費用が掛かると思われる。またクリーンベンチは実験用に手元を隔離するに留まる。
またいずれの先行技術においても、給気口と吸気口の位置が完全には対応していないため、空気の流れが一方向とはならず、乱流等により細菌・ウィルス等の一部が拡散してしまう恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-224819号公報
【文献】特開2001-219018号公報
【文献】特開2010-286165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウィルスが空気感染・プラズマ感染・マイクロ飛沫感染する場合には、特に、室内や一部ブースを十分に換気したとしても、雰囲気中で乱流が生じたり、空気が水平方向に流れることにより、周囲の人や風下にいる人への感染リスクが大きくなる可能性がある。本発明は、この可能性を無くすために、より広い空間での下向きの空気流を可能な限り維持するものである。
そして、学校や職場、病院、公共機関、店舗等の不特定多数の人が集まる、屋内の比較的広い空間、例えば部屋全体、又は室内の特に限定されたブースにおけるウィルスや細菌の拡散、感染の拡大を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、給気装置と吸気装置を有する空調設備を設けた部屋であって、該給気装置を、給気主管1と、該給気主管1から枝分かれし、部屋上部に設けられた給気枝管3と、該給気枝管3に設けられ、部屋下部に向かって空気を供給する複数の給気口4とを有して構成し、前記吸気装置は、吸気主管5と、該吸気主管5から枝分かれし、部屋下部に設けられた吸気枝管6と、該吸気枝管6に設けられた複数の吸気口7とを有する構成とし、部屋の上部に設けられた下側のみ開口させた給気口4と、部屋の下部に設けられた吸気口7とを、部屋内の空気の流れが部屋全体にわたって上から下への垂直下向きとなるように、上下に向き合うように設置し、部屋全体において垂直下向きの空気の流れを常時形成する部屋としたものである。
請求項2の発明は、給気枝管3の給気口4と吸気枝管6の吸気口7とは、少なくとも、平面視において、互いに上下に向き合うように配置した部屋としたものである。
請求項3の発明は、給気主管1には滅菌フィルタ2を設けた部屋としたものである。
請求項4の発明は、給気主管1には熱交換器8を設けた部屋としたものである。
請求項5の発明は、部屋の一側上部に給気主管1を設け、該給気主管1に給気主管1と交差する方向に給気枝管3を、給気主管1の長さ方向に所定間隔を置いて複数設けた構成とした部屋としたものである。
請求項6の発明は、前記吸気枝管6の幅が、端部から前記吸気主管5との連結部に向かうに従い徐々に狭くなる構成とした部屋としたものである。
請求項7の発明は、吸気主管5に一端を接続した吸気枝管6の他端に、吸気主管5に向けて吸気枝管6内に送風する送風機を設けた部屋としたものである。
請求項8の発明は、部屋の床下方に吸気主管5に接続した吸気枝管6を配置し、吸気枝管6の吸気口7とを部屋内と連絡するスリット9を床に形成した部屋としたものである。
請求項9の発明は、部屋が前記空調設備を有するブースを設けた部屋である部屋としたものである。
請求項10の発明は、部屋が教室である、部屋としたものである。
請求項11の発明は、部屋が病室である、部屋としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、給気装置と吸気装置を有する空調設備を設けた部屋であって、部屋の上部に設けられた給気口と、部屋の下部に設けられた吸気口とを、部屋内の空気の流れが、部屋全体にわたって上から下への垂直下向きとなるように、吸気口の場所を給気口の場所に上下に対応設置し、部屋全体において垂直下向きの空気の流れを常時形成するので、ウィルス・細菌やホコリ等の拡散、感染の拡大を防止したい部屋の上部に設けられた給気口と、下部に設けられた吸気口によって、部屋全体において垂直下向きの空気の流れを形成することにより、部屋内の空気の流れが乱されることがなく、垂直下向きの空気の流れを確実に担保することができ、これにより、仮に部屋内の保菌者がウィルス等を放出したとしても、ウィルスはすぐに下部の吸気口から吸い込まれ、ウィルス等の拡散を防止することができる。そして、ひいてはウィルス感染の拡大等を防止するという効果が得られる。しかも、給気口と吸気口の場所を対応させることによって、家具等の障害物がない箇所は、空気の流れが乱されることがなく、垂直下向きの空気の流れを確実に担保することができる。
これにより、仮に保菌者がウィルス等を放出したとしても、ウィルスはすぐに下部の吸気口から吸い込まれ、ウィルス等の拡散を防止することができる。そして、ひいてはウィルス感染の拡大等を防止するという効果が得られる。
また、吸気枝管の幅が、端部から吸気主管との連結部に向かって徐々に狭くなる場合では、吸気枝管の全長にわたって同じ強さでの空気の吸引が可能となるため、部屋全体における垂直下向きの空気の流れを更に担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図5】本発明の給気枝管を天井よりも上部に設けた場合の透視図。
【
図6】本発明の吸気枝管を床よりも下部に設けた場合の透視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を示して本発明の部屋を実施するための形態を説明する。
図1は、本発明の部屋の空調設備の一例である。
図1における給気装置は、給気主管1と、該給気主管1に設けられた滅菌フィルタ2、該給気主管1から枝分かれし、部屋の上部に設けられた複数の給気枝管3と、該給気枝管3に設けられ、部屋の下部に向かって空気を供給する複数の給気口4を有する。
給気主管1、滅菌フィルタ2、給気枝管3、給気口4を設ける場所は任意であるが、滅菌フィルタ2を通過したきれいな空気が部屋全体にまんべんなく供給されるように、給気口4が部屋の上部全体に配置されることが好ましい。また給気枝管3、給気口4の数も部屋の大きさによって適宜決定することができる。
滅菌フィルタ2としては、ウィルスや細菌を透過しないものであれば、何でもよく、HEPAフィルタ等の任意のものが使用できる。
図1における吸気装置は、吸気主管5と、該吸気主管5から枝分かれし、部屋の下部に設けられた複数の吸気枝管6と、該吸気枝管6に設けられた複数の吸気口7を有する。
吸気主管5、吸気枝管6、吸気口7を設ける場所は任意であるが、部屋内の空気の流れが、部屋全体にわたって上から下への垂直下向きになるように、吸気口7の場所を給気口4の場所に対応させることが好ましい。
部屋の大きさや空調設備の構造等により、供給する空気の量を調整することが好ましい。
また前記給気装置及び前記吸気装置は熱交換器8を有してもよい。
図1においては、給気主管1と吸気主管5は連結していない。
図1~6において、矢印は空気の流れを示す。
【0009】
本発明の部屋としては、学校や職場、病院、公共機関、店舗等の部屋の他に、バス等の乗り物等も考えられる。
【0010】
図2は、本発明の部屋の空調設備の他の例である。
図1の部屋の空調設備では給気主管1と吸気主管5は連結していないが、
図2の部屋の空調設備では連結して空気を循環させている例である。
【0011】
図3は、本発明の吸気枝管の一例の断面図である。
吸気枝管6には吸気口7が設けられている。
図3においては、吸気口7が吸気枝管6の両側に設けられているが、片側だけに設けても構わない。
図3の上部部材Aの上面は平面でもよい。このとき、この上部部材Aの上面は部屋の床材表面を兼ねることができる。
また上部部材Aの上面を曲面にすることもできる。その場合、部屋の吸気枝管6全てを覆うように、小さな穴が多数空いた床板を設けることによって、部屋下部で発生する可能性のある乱流や上昇流を抑え、垂直下向きの空気の流れを担保することができる。
さらに上部部材Aをメッシュ状とすることによっても、垂直下向きの空気の流れを担保することができる。この場合、上部部材Aが吸気口7も兼ねるので、別に吸気口7を設ける必要はない。
【0012】
図4は、本発明の吸気装置の一例の一部の上面図である。
本発明の吸気枝管6は、幅が端部から前記吸気主管5との連結部に向かって徐々に狭くなる場合もある。本発明の吸気装置は、吸気主管5を通して部屋内の空気を吸引するものであるが、仮に吸気枝管6の幅が全長において同じであると、吸気主管5から遠い吸気口7’では、近い吸気口7”に比べて空気の吸引力が弱くなる可能性があり、部屋内の垂直下向きの空気の流れが乱れる原因となる。
本発明では、吸気枝管6の幅を端部から前記吸気主管5との連結部に向かって徐々に狭くした場合、吸気枝管6の全長にわたって同じ強さでの空気の吸引が可能となるため、部屋全体における垂直下向きの空気の流れを担保することができる。
また、吸気枝管6の長さが長くなる場合は、吸気枝管6の、吸気主管5との連結部と反対側の端にさらに送風機を設けて吸気枝管6内に空気を供給して、吸引した空気の排出を促すこともできる。
あるいは、吸気枝管6の両側に吸気主管5を設けて両側の吸気主管5により吸引する構造としたり、一本の吸気主管5の両側に吸気枝管6を設けるような構造としたりすることもできる。
【0013】
図5は、本発明の給気枝管を天井よりも上部に設けた場合の透視図である。
本発明の給気枝管3は、天井よりも上部に設けることもできる。この場合、部屋内に該給気主管1から送られてくるきれいな空気を供給するために、給気口4の開口部は天井の表面又は下部に露出させることが好ましい。
給気枝管3を天井よりも上部に設けた場合は、配管が目に触れないため、見た目が良くなるが、給気枝管3を天井よりも下部の部屋の空間内に設けても構わない。
【0014】
図6は、本発明の吸気枝管を床よりも下部に設けた場合の透視図である。
本発明の空調設備においては、吸気口7を通して部屋内の空気を吸引するものであるが、吸気主管5に接続した、円筒管状及び/又は外形直方体状の吸気枝管6を床よりも下部に設けた場合、吸気口7を部屋内と連絡させる方法としては、
図6に記載のように、吸気枝管6に沿って床にスリット9を形成するものがある。
【0015】
この他、床パネルを使って吸気枝管と吸気口を形成する方法もある。床パネルの内部を貫く管と、床パネル表面に開口した、管と表面をつなぐ穴を複数有する床パネルを用意して、管と管が連結するように床パネルを繋げる。この繋げた床パネルを、部屋の下部に設置し、管の片方の末端は別に設けた吸気主管と連結させ、反対の末端は閉じておく。この結果、管は吸気枝管として、穴は吸気口として機能する。
ただし、この方法に限らず、他の方法を採用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、屋内空間においてウィルスや細菌の拡散や、感染の拡大を抑えるために利用することができる。
【符号の説明】
【0017】
1…給気主管、2…滅菌フィルタ、3…給気枝管、4…給気口、5…吸気主管、6…吸気枝管、7、7’、7”…吸気口、8…熱交換器、9…スリット、A…上部部材。