(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】構造物診断システム、構造物診断方法、および構造物診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240410BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2022550593
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021033999
(87)【国際公開番号】W WO2022059720
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020154971
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523402132
【氏名又は名称】株式会社 日本構造分析舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 哲佑
(72)【発明者】
【氏名】五井 良直
(72)【発明者】
【氏名】河邊 大剛
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-99/00
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に関する情報の時系列から生成された該構造物の状態を示す特徴量について、前記構造物が健全状態であると仮定した場合における該特徴量の尤度を表す第1の周辺尤度と、前記構造物が前記健全状態でないと仮定した場合における該特徴量の尤度を表す第2の周辺尤度と、の比率である評価指標を算出し、前記評価指標に基づいて前記構造物の状態を診断する診断部を有し、
前記診断部は、
ベイズ推定を用いて、前記特徴量から前記第1の周辺尤度と前記第2の周辺尤度を推定し、
前記評価指標として、前記第2の周辺尤度を前記第1の周辺尤度で除算したベイズファクターを算出する
ことを特徴とする構造物診断システム。
【請求項2】
前記情報の時系列は、前記構造物における位置毎に取得されたものであり、
前記診断部は、前記構造物における位置毎の前記時系列に基づいて位置毎の前記ベイズファクターを算出し、位置毎の前記ベイズファクターに基づいて、前記構造物の位置毎に状態を診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物診断システム。
【請求項3】
前記情報の時系列は、複数種類の前記情報の種類毎に取得されたものであり、
前記診断部は、種類毎の前記時系列に基づいて種類毎の前記ベイズファクターを算出し、種類毎の前記ベイズファクターに基づいて前記構造物の状態を診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物診断システム。
【請求項4】
前記構造物に取り付けられたセンサからセンサ情報を時系列で取得する取得部と、
前記取得部によって或る時刻において取得された前記センサ情報を、該或る時刻以前において取得された前記センサ情報の時系列の線形結合で表現する自己回帰モデルを生成する自己回帰モデル生成部と、
前記自己回帰モデルの回帰係数に基づいて、前記或る時刻における前記構造物の状態を示す前記特徴量を生成する特徴量生成部と、をさらに有する
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の構造物診断システム。
【請求項5】
前記構造物診断システムは、
前記取得部と、前記自己回帰モデル生成部と、前記特徴量生成部と、前記特徴量生成部によって生成された前記特徴量を前記診断部へ送信する送信部と、を含んで構成されるセンサノードを有することを特徴とする請求項4に記載の構造物診断システム。
【請求項6】
前記特徴量生成部は、
前回生成の前記特徴量の確率分布を事前分布とするベイズ推定によって求まる事後分布を今回生成の前記特徴量の確率分布とする処理を繰り返す逐次学習によって前記特徴量を生成する
ことを特徴とする請求項4
または5に記載の構造物診断システム。
【請求項7】
前記特徴量は、該特徴量の観測点における前記構造物の変位、速度、加速度、質量、剛性、および減衰係数の情報のうちの少なくとも一つを含んだことを特徴とする請求項1~
6の何れか1項に記載の構造物診断システム。
【請求項8】
前記診断部は、前記構造物に対する実地点検による点検結果を用いて前記評価指標を補正し、該補正した前記評価指標に基づいて前記構造物の状態を診断する
ことを特徴とする請求項1~
7の何れか1項に記載の構造物診断システム。
【請求項9】
前記診断部は、前記評価指標と閾値との比較に基づいて前記構造物の状態を診断し、
前記閾値は、前記構造物の過去の所定期間の複数の計測データの平均及び分散に基づいて決定されたものである
ことを特徴とする請求項1~
8の何れか1項に記載の構造物診断システム。
【請求項10】
前記閾値は、前記平均及び前記分散に基づいて複数決定され、
前記診断部は、前記評価指標と複数の前記閾値に基づく範囲との比較に基づいて前記構造物の状態を診断する
ことを特徴とする請求項
9に記載の構造物診断システム。
【請求項11】
構造物の状態を診断する構造物診断システムが行う構造物診断方法であって、
前記構造物に関する情報の時系列から生成された該構造物の状態を示す特徴量について、前記構造物が健全状態であると仮定した場合における該特徴量の尤度を表す第1の周辺尤度と、前記構造物が前記健全状態でないと仮定した場合における該特徴量の尤度を表す第2の周辺尤度と、の比率である評価指標を算出し、
前記評価指標に基づいて前記構造物の状態を診断する
各処理を含み、
前記構造物診断システムは、
ベイズ推定を用いて、前記特徴量から前記第1の周辺尤度と前記第2の周辺尤度を推定し、
前記評価指標として、前記第2の周辺尤度を前記第1の周辺尤度で除算したベイズファクターを算出する
ことを特徴とする構造物診断方法。
【請求項12】
コンピュータを、
構造物に関する情報の時系列から生成された該構造物の状態を示す特徴量について、前記構造物が健全状態であると仮定した場合における該特徴量の尤度を表す第1の周辺尤度と、前記構造物が前記健全状態でないと仮定した場合における該特徴量の尤度を表す第2の周辺尤度と、の比率である評価指標を算出し、前記評価指標に基づいて前記構造物の状態を診断する診断部
として機能させるための構造物診断プログラムであって、
前記診断部は、
ベイズ推定を用いて、前記特徴量から前記第1の周辺尤度と前記第2の周辺尤度を推定し、
前記評価指標として、前記第2の周辺尤度を前記第1の周辺尤度で除算したベイズファクターを算出する
構造物診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物診断システム、構造物診断方法、および構造物診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、橋梁などの構造物の加速度をもとに、振動の固有振動数や、減衰係数、モード形状などの特徴量(振動特性)を推定し、推定した振動特性の変化に基づいて構造物の異常を診断する技術がある。
【0003】
例えば特許文献1には、次の技術が開示されている。すなわち橋梁の複数個所に設置された加速度センサから取得された振動を示すセンサ信号に対して独立成分分析(ICA)を行い、独立成分分析によって得られた独立な振動成分についてスペクトル解析を行って橋梁の固有振動数を求める。そして、予め取得しておいた健全状態時の橋梁の固有振動数と現在の橋梁の固有振動数との比較に基づいて、橋梁全体の異常診断および異常箇所の特定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、振動計測を行う個所や振動モードに応じて、損傷に対する変化の感度に違いが生じる。さらに,先行の技術は、振動計測時の環境条件(外力、温度など)によっても推定のばらつきが生じる。しかし、加速度センサの設置個所や振動モードを適切に事前設定することは、熟練者であっても難しい。このようなことから、固有振動数に基づく例えば橋梁の異常診断では、例えば振動モードの設定を誤ると、橋梁の異常による振動特性の変化と、橋梁の異常以外による振動特性の偶発的変化とを判別できないといったように、定量的な異常診断を高精度に行い得ないという問題がある。
【0006】
本発明は上述の点を考慮して、構造物の定量的な異常診断を高精度に行い得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、本発明の構造物診断システムは、構造物に関する情報の時系列から生成された該構造物の状態を示す特徴量について、前記構造物が健全状態であると仮定した場合における該特徴量の確率分布を表す第1の周辺尤度と、前記構造物が前記健全状態でないと仮定した場合における該特徴量の確率分布を表す第2の周辺尤度と、の比率である評価指標を算出し、前記評価指標に基づいて前記構造物の状態を診断する診断部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構造物の定量的な異常診断を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1の診断システムの概略構成を示す図。
【
図2】実施形態1のセンサノードの構成を示すブロック図。
【
図3】実施形態1の診断装置の構成を示すブロック図。
【
図4】実施形態1の診断システムにおける基準時処理を示すシーケンス図。
【
図5】実施形態1の診断システムにおける診断時処理を示すシーケンス図。
【
図6】実施形態1の診断システムにおける診断時処理の説明図。
【
図7】実施形態1と従来技術における係数行列と主成分行列のデータ量をセンサ数ごとに比較して示す図。
【
図8】実施形態2の診断システムにおける診断処理を示すフローチャート。
【
図9A】実施形態2の異常判定の閾値の算出方法を説明するための図。
【
図9B】実施形態2の複数の閾値を用いた異常判定方法の他例を説明するための図。
【
図10】実施形態2の診断システムを用いて行った異常判定の実験結果を説明するための図。
【
図11】実施形態2の診断システムを用いて行った実験の実行条件を示す図。
【
図12】実施形態2の診断システムを用いて行った実験結果を示す図。
【
図13】実施形態2の診断システムを用いて行った実験と同条件で測定した振動モードに応じて異なる橋梁の固有振動数の変化を示す図。
【
図14】橋梁のある桁のある期間における外気温とベイズファクターの値の経時変化を示す図。
【
図15】橋梁のある期間におけるたわみとベイズファクターの値の経時変化を示す図。
【
図16】橋梁の2つの径間のベイズファクターの値の経時変化の比較を示す図。
【
図17】実施形態3の診断システムにおける係数行列の逐次更新の説明図。
【
図18】実施形態3の診断システムにおける係数行列の逐次更新による係数行列の確率分布の収束を示す図。
【
図19】実施形態のセンサノードとして用いるセンサノード端末の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。以下の実施形態は、本発明を必要十分に説明するための例示であって、適宜省略および簡略化がなされている。以下の実施形態で説明する構成および処理のうち、全てが本発明の実施において必須ではなく、適宜省略可能である。本発明は、以下の実施形態の他、本発明の目的を達成できる様々な他の形態で実施することができる。また、本発明の技術思想の範囲内で整合する限りにおいて、各実施形態および変形例の一部または全部を組合せた形態も、本発明の実施形態に含まれる。
【0011】
以下の実施形態では、既出の構成および処理と同様の後出の構成および処理には、同一の符号を付与して説明を省略し、差分のみを説明する場合がある。
【0012】
以下の実施形態では、亀裂などの損傷や劣化といった異常の有無を診断する対象の構造物として、橋梁を例として説明する。しかし本発明は、橋梁に限らず、トンネル、道路構造物、河川構造物、港湾構造物、上下水道、ビルといった社会基盤を担うあらゆる土木構造物あるいは建築構造物に適用し、その異常の有無を診断することができる。
【0013】
なお、以下の実施形態の説明において、例えば“A^”のように第1の記号に第2の記号を続けて記載した表現は、第1の記号の直上に第2の記号を記載した表現と同一である。
【0014】
<本発明の数理的背景>
先ず、実施形態の説明に先立ち、本発明の数理的背景を説明する。本発明では、構造物の状態空間モデルにおける状態方程式のシステム行列が、或る時刻における観測信号を或る時刻以前の観測信号の時系列の線形結合として表現する自己回帰モデルの回帰係数の行列によって近似できることを用いている。本発明では、回帰係数の行列がシステム行列に含まれる構造物の状態に関する様々な情報を含んでいる点に着目し、回帰係数の行列を用いて構造物の状態を表し、この回帰係数の行列を解析することで構造物の状態を評価する。
【0015】
以下では、センサによって取得されたセンサ情報を加速度として説明するが、加速度に限らず、他の物理量であってもよい。
【0016】
一般的に、構造物の運動方程式は、下記式(1)のように表される。構造物にはn個(nは1以上の自然数)のセンサが各位置に設置され、設置位置を観測点としてn次の観測ベクトルの時系列が取得されるとする。
【0017】
【0018】
上記(1)式の運動方程式は、下記式(2-1)および式(2-2)のように状態方程式として変換できる。
【0019】
【0020】
ここで、上記式(2-2)のyは観測ベクトルを、上記式(2-3)のzは状態変数ベクトルを、上記式(2-5)のAsは状態空間におけるシステム(診断対象の構造物)の状態を表すシステム行列をそれぞれ表す。上記式(2-2)におけるCは観測ベクトルyとシステムの状態とを関連付ける行列であり、観測点における計測情報をそのままシステムの状態とみなす場合は単位行列になる。
【0021】
さて、上記式(2-1)および式(2-2)の状態方程式は、下記式(3)のように離散化した観測信号の時系列の線形結合である自己回帰モデルで表現できることが知られている。
【0022】
【0023】
上記式(3)において、kは時刻インデックス、y(k)は時刻kにおけるセンサ情報ベクトル、pは自己回帰モデルの次数、Aiは回帰係数の行列、e(k)は時刻kにおける自己回帰モデルの誤差項である。行列Aiは、自己回帰モデルにおいて線形結合されたセンサ情報ベクトルy(k-i)の時系列のそれぞれに乗じられている回帰係数である。
【0024】
上記式(3)の自己回帰モデルにおける回帰係数である行列Aiの各要素は、上記式(2-1)のシステム行列Asに含まれる構造物の物理量と関連付けられ、センサが設置されている観測点における変位、速度、加速度、質量マトリクスm、減衰係数マトリクスc、および剛性マトリクスkの情報のうちの少なくとも一つを含んでいる。よって、行列Aiを用いることで、振動に関する様々な情報を含むように構造物の状態を表現することができる。すなわち行列Aiの変化を捉えることで構造物の状態の変化を捉えることが可能になる。
【0025】
ただし、センサが1つ(n=1)の場合では、自己回帰モデルにおける行列Aiは、スカラーとなる。
【0026】
ここで行列Aiは、下記式(4)のようにn次の正方行列である。下記式(4)におけるnは構造物の各位置に設置されたセンサの数である。
【0027】
【0028】
そしてn個のセンサにより計測されたセンサ情報ベクトルy(k)の時系列から生成した上記式(3)に示すp次の自己回帰モデルを行列式で表すと、下記式(5)のようになる。
【0029】
【0030】
ここで、上記式(5)における左辺のYfは予測状態を、右辺第1項のYpはp次の過去の加速度を、右辺第2項のEは構造物の状態観測の不確定性に起因する誤差を表す。また、上記式(5)における右辺第1項の係数行列Aは、1からpまでのiについての行列Aiを結合したn×(n×p)行列であり、下記式(6)のように表される。
【0031】
【0032】
なお、係数行列Aは、システム行列Asの情報を引き継ぐが、例えば時刻kにおけるシステムの固有振動数ωkおよび減衰係数hkを用いて表される時刻kにおけるシステムの極zk,zk
*は、上記式(5)から、下記式(7)のように求まる。
【0033】
【0034】
係数行列Aの事後分布を極の事後分布に変換し、上記式(7)のように求まる固有振動数ωkおよび減衰係数hkも、構造物の診断に用いることができる。このようにして求めた固有振動数ωkおよび減衰係数hkは、従来技術と比較して、固有振動数や減衰係数といった振動特性を、ばらつきを考慮して同定できるという優位性がある。また、係数行列Aの事後分布を極の事後分布に変換し、分散が小さい極から振動特性を求めることで、物理的に意味がある振動特性の選定を自動化できる。また、BIC(Bayesian information criterion)に基づいてモデル次数pの選定を自動化できる。
【0035】
上述のようにして求められた係数行列Aを構造物の状態を表す特徴量として診断装置へ送信することで、診断装置において構造物の振動特性を有する時系列を再現し、構造物の状態の診断が可能となる。
【0036】
しかし、係数行列Aには診断結果に関わらない質が劣る情報の成分が含まれている。この質が劣る情報の成分を除去して再構築された行列A^を診断装置へ送信することで、データの送受信量を減らすことができる。この行列A^は、係数行列Aの主成分分析によって求められるので、主成分行列という。
【0037】
例えば構造物の基準時(例えば健全時)において推定された係数行列Aを、下記式(8)のように特異値分解する。
【0038】
【0039】
上記式(8)における行列Uおよび行列PT(ただしPTは行列Pの転置行列)は直交行列であり、行列Λは係数行列Aの固有値である。そして上記式(8)の右辺は、下記式(9)のように、主成分分析によって、行列Uがn×N行列U1(N<n)と、n×(np-N)行列U2とに分解される。
【0040】
【0041】
この基準時(例えば健全時)における行列U1が、確率空間における係数行列Aを主成分空間へ射影する行列である。下記式(10)に示すように、基準時以降の各時刻において推定された係数行列Aに対して、行列U1の転置行列U1
Tを作用させることで、質が劣る情報の成分を除去したN×np行列である主成分行列A^が生成される。
【0042】
【0043】
以上のようにシステム行列Asの情報を受け継ぐ係数行列Aを推定し、係数行列Aから主成分行列A^を生成し、主成分行列A^の変化を捉えることで、構造物の異常を検知することができる。本発明では、下記式(11)に示すように、ベイズ推定によって、主成分行列A^の要素の確率分布を推定する。そして、推定した確率分布を構造物の状態診断に用いることで、上記式(5)に含まれる不確定性を考慮しつつ構造物の異常検知を行うことができる。
【0044】
【0045】
本発明では、平均値と分散を持つ確率分布を、構造物の状態を評価する評価指標としているため、構造物の健全時に対する損傷時の評価指標の平均値の微小な変化を捉えることができるだけでなく、分散で評価指標の確からしさを示すことができる。
【0046】
なお、主成分行列A^ではなく、係数行列Aを特徴量として用いても構造物の状態診断を行うことができるが、その場合は、上記式(11)は、A^をAに置き換えた式になる。
【0047】
<実施形態1>
以下、
図1~
図7を参照して実施形態1を説明する。
【0048】
(実施形態1の診断システムSの構成)
図1は、実施形態1の診断システムSの概略構成を示す図である。診断システムSは、センサノード1と、診断装置2とを有する。センサノード1は、橋梁4に設置されたセンサ3から無線通信(または有線通信)を介して取得したセンサ情報に基づいて橋梁4の状態を示す特徴量を生成する。診断装置2は、センサノード1において生成された橋梁4の状態を示す特徴量を無線通信(または有線通信)を介して取得し、この特徴量を用いて橋梁4の異常の有無を診断する。
【0049】
センサ3は、例えば加速度センサであり、橋梁4の各部位に設置されている。本実施形態では、センサ3は橋梁4の複数の部位に設置された複数のセンサであるとするが、これに限らず1つの部位に設置された1つのセンサでもよい。また本実施形態では、センサ3は加速度を検知する加速度センサであるとするが、これに限らず、その他の物理量(例えば歪み、変位、速度等)を測定できるセンサでもよい。
【0050】
なお本実施形態では、説明の分かりやすさのため、
図1に示すように、センサ3から取得されたセンサ情報をセンサノード1が処理した結果を診断装置2へ送信する構成を例として説明している。しかし、これに限らず、センサ3がセンサネットワークを形成し、分散協調処理を行うことでセンサノード1と同等の機能を実現する分散協調システムの構成であってもよい。なおセンサ3が1つの場合は、1つのセンサ3がセンサノード1と同等の機能を実現する。
【0051】
(実施形態1のセンサノード1の構成)
図2は、実施形態1のセンサノード1の構成を示すブロック図である。センサノード1は、センサ3から取得したセンサ情報から、橋梁4の状態を表す特徴量として係数行列A(または主成分行列A^)を生成するエッジ処理を行う。センサノード1は、プロセッサ11と、メモリ12と、ストレージ13と、通信I/F(Inter/Face)部14とを有する。
【0052】
プロセッサ11は、CPU(Central Processing Unit)やPLD(Programmable Logic Device)、マイクロプロセッサなどの演算処理装置である。メモリ12は主記憶装置である。ストレージ13は補助記憶装置である。通信I/F部14は、センサノード1がセンサ3および診断装置2と無線通信(または有線通信)を行うための通信インターフェースである。
【0053】
プロセッサ11は、メモリ12と協働してプログラムを実行することで、センサ情報取得部111と、自己回帰モデル生成部112と、特徴量生成部113と、特徴量送信部114との各機能部を実現する。
【0054】
センサ情報取得部111は、通信I/F部14を介して、センサ3によって橋梁4の各設置位置において観測された観測信号を時系列で取得し、センサ情報131としてストレージ13に格納する。本実施形態では、センサ情報取得部111によって取得されるセンサ情報131は、連続時刻の時系列情報であるとするが、離散時刻の時系列情報であってもよい。またセンサ情報131は、常時取得されるものでも、取得指示を契機として一定時間取得されるものでもよい。
【0055】
自己回帰モデル生成部112は、ストレージ13に格納されたセンサ情報131を時刻で離散化する。そして自己回帰モデル生成部112は、上記式(3)に示すように、或る時刻kにおけるセンサ情報131を、或る時刻k以前のp個の時刻k-i(i=1,・・・,p)におけるセンサ情報131の時系列の線形結合で表現する自己回帰モデルを生成する。自己回帰モデル生成部112の処理の詳細は、フローチャートを参照して後述する。
【0056】
特徴量生成部113は、自己回帰モデル生成部112によって生成された自己回帰モデルの線形結合の回帰係数を結合した係数行列A(上記式(6))から、或る時刻kにおける橋梁4の状態を表す特徴量を生成する。特徴量は、係数行列Aそのものでもよいし、係数行列Aを主成分分析に基づく主成分空間へ射影した主成分行列A^(上記式(10))でもよい。後述のように、このような特徴量に基づいて、橋梁4の表面や内部の状態を確率分布として表すことができる。特徴量生成部113の処理の詳細は、フローチャートを参照して後述する。
【0057】
特徴量送信部114は、特徴量生成部113によって生成された特徴量を、通信I/F部14を介して診断装置2へ送信する。
【0058】
(実施形態1の診断装置2の構成)
図3は、実施形態1の診断装置2の構成を示すブロック図である。診断装置2は、プロセッサ21と、メモリ22と、ストレージ23と、通信I/F部24と、出力部25とを有する。プロセッサ21は、メモリ22と協働してプログラムを実行することで、特徴量受信部211と、診断部212との各機能部を実現する。
【0059】
プロセッサ21は、CPUやPLD、マイクロプロセッサなどの演算処理装置である。メモリ22は主記憶装置である。ストレージ23は補助記憶装置である。通信I/F部24は、診断装置2がセンサノード1と無線通信(または有線通信)を行うための通信インターフェースである。出力部25は、モニタやディスプレイ等であり、各種情報を出力する。
【0060】
特徴量受信部211は、通信I/F部24を介して、センサノード1から各時刻kにおける橋梁4の状態を示す特徴量231を受信する。特徴量受信部211は、受信した特徴量231を、ストレージ23に格納する。
【0061】
診断部212は、評価指標として、ベイズ推定を用いて、ストレージ23に格納されている特徴量231から各時刻kにおける特徴量の確率分布(上記式(11))を求める。そして診断部212は、下記式(12)に示すように、各時刻kにおける評価指標として求めた確率分布のマハラノビス距離MDを算出する。
【0062】
【0063】
上記式(12)において、行列Xは係数行列A(または主成分行列A^)、行列Sは行列Xの共分散行列である。診断部212は、基準時(例えば健全時)の橋梁4の係数行列A(または主成分行列A^)のマハラノビス距離MDを基準評価指標232として予め求めておきストレージ23に保存しておく。また診断部212は、損傷の有無や程度が不明な診断時の橋梁4の係数行列A(または主成分行列A^)のマハラノビス距離MDを算出する。
【0064】
そして診断部212は、診断時のマハラノビス距離MDと基準評価指標232とを比較し、それらの差や比といった統計的距離が一定値以上の場合に、基準時と比較して橋梁4に損傷などの異常が発生または進行していると診断する。診断部212は、診断結果をディスプレイ等の出力部25に出力する。
【0065】
なお診断部212は、マハラノビス距離MDに代えて、Z値やその他の統計指標を用いて、基準時と診断時のそれぞれの統計指標間の統計的距離を閾値判定することで、橋梁4の異常や劣化の進行を診断してもよい。
【0066】
(実施形態1の診断システムSにおける基準時処理)
図4は、実施形態1の診断システムSにおける基準時処理を示すシーケンス図である。診断システムSにおける基準時処理では、センサ3から基準時(例えば橋梁4の健全時)取得されたセンサ情報の時系列から係数行列Aおよび主成分行列A^を生成し、主成分行列A^をもとに基準評価指標232を算出する処理を行う。
【0067】
先ずステップS101では、センサノード1のセンサ情報取得部111は、センサ3からセンサ情報131を取得し、ストレージ13に格納する。次にステップS102では、自己回帰モデル生成部112は、上記式(3)に基づいて、ステップS101で取得したセンサ情報131を離散化した或る時刻kにおけるセンサ情報ベクトルy(k)のp次の自己回帰モデルを生成する。自己回帰モデルの次数pは、適宜定められるものであるが、例えば上述したように、BICに基づいて上記式(5)から自動決定してもよい。
【0068】
次にステップS103では、特徴量生成部113は、上記式(6)のように、センサ情報ベクトルy(k)のp次の自己回帰モデルの回帰係数を表す行列Aiを結合した係数行列Aを生成する。次にステップS104では、特徴量生成部113は、上記式(8)~式(9)に基づいて、基準時における橋梁4の状態を表す確率空間における係数行列Aを主成分空間へ射影する主成分空間行列U1
Tを生成する。
【0069】
次にステップS106では、特徴量生成部113は、上記式(10)に示すように、ステップS105で生成した主成分空間行列U1
Tを係数行列Aに作用させて、特徴量として主成分行列A^を生成する。次にステップS106では、特徴量送信部114は、ステップS105で生成された特徴量を診断装置2へ送信する。
【0070】
次にステップS201では、診断装置2の特徴量受信部211は、センサノード1から特徴量231を受信し、ストレージ23に格納する。次にステップS202では、診断部212は、上記式(11)のように、特徴量231の確率分布p(A^|Σ,Y)を求め、確率分布p(A^|Σ,Y)のマハラノビス距離MDを基準評価指標232として算出する。次にステップS203では、診断部212は、ステップS202で算出された基準評価指標232をストレージ23に格納する。
【0071】
なお
図4の図示に限らず、基準時処理において、センサノード1が実行するステップを診断装置2が実行してもよいし、診断装置2が実行するステップをセンサノード1が実行してもよい。すなわち、
図4に示す各ステップの実行主体が、センサノード1および診断装置2の何れであるかは、限定されない。
【0072】
例えば、ステップS102~S105のうちの何れかのステップ以降の処理を、センサノード1ではなく診断装置2が行ってもよい。また例えば、ステップS202の処理を、診断装置2ではなくセンサノード1が行ってもよく、算出された基準評価指標は、診断装置2へ送信され、診断装置2において橋梁4の状態診断に用いられる。
【0073】
(実施形態1の診断システムSにおける診断時処理)
図5は、実施形態1の診断システムSにおける診断時処理を示すシーケンス図である。
図5の診断時処理は、
図4の基準時処理と比較して、基準時ではなく診断時のセンサ情報および特徴量を取り扱う点が異なるのみで、ステップS111~S116は、
図4のステップS101~S106と同様である。
【0074】
なお、
図4の基準時処理のステップS104で主成分空間行列U
1
Tが生成された場合には、
図5の診断時処理では、ステップS114の主成分空間行列U
1
Tを生成するステップを省略可能である。ステップS114が省略された場合、ステップS113に続くステップS115では、特徴量生成部113は、
図4の基準時処理のステップS104で生成された主成分空間行列U
1
TをステップS113で生成された係数行列Aに作用させて、特徴量として主成分行列A^を生成する。次にステップS116では、特徴量送信部114は、ステップS115で生成された特徴量を診断装置2へ送信する。
【0075】
次にステップS211では、診断装置2の特徴量受信部211は、センサノード1から特徴量を受信する。次にステップS212では、診断部212は、ステップS211で受信した特徴量に基づいて、上記式(11)のように、ベイズ推定を用いて特徴量の確率分布p(A^|Σ,Y)を算出する。そして診断部212は、上記式(12)に基づいて診断時のマハラノビス距離MDを評価指標として算出し、評価指標と基準評価指標232を比較し、それらの差または比が一定値以上の場合に、基準時と比較して橋梁4に損傷などの異常が発生または進行していると診断する。
【0076】
なお
図5も
図4と同様に、各ステップの実行主体がセンサノード1および診断装置2の何れであるかは、限定されない。例えば評価指標の算出は、診断装置2ではなくセンサノード1が行ってもよい。このようにして算出された評価指標は、診断装置2へ送信され、診断装置2において橋梁の状態診断に用いられる。
【0077】
なお、
図4および
図5に示す処理では、主成分行列A^を特徴量としているが、係数行列Aを特徴量としてもよい。この場合、上記式(11)においてA^をAに置き換えて確率分布p(A|Σ,Y)が算出される。
【0078】
図6は、実施形態1の診断システムSにおける診断時処理の説明図である。
図6の図示部分601は、橋梁4の基準時の振動を表す観測データから特徴量を抽出し、この特徴量に基づく統計指標を基準評価指標として算出する基準時処理(
図4)の概略を示している。また図示部分602は、橋梁4の診断時の振動を表す観測データから特徴量を抽出し、この特徴量に基づく統計指標を診断時評価指標として算出する診断時処理(
図5)の概略を示している。
【0079】
そして、診断時処理(
図5)において、基準評価指標と診断時評価指標の比較結果に基づいて、橋梁4の異常の有無やその進行が判別される。すなわち、
図6の図示部分603に示すように、確率空間において、基準特徴量の確率分布に基づく基準評価指標と、診断時特徴量の確率分布に基づく診断時評価指標の比較により、橋梁4の異常が診断される。基準評価指標と診断時評価指標の比較では、診断時評価指標が基準評価指標からどれだけ乖離しているかの状況をマハラノビス距離などの統計指標を用いて評価する。診断時評価指標と基準評価指標間の統計的距離が一定値以上の場合に、診断時の橋梁4の状態が基準時から変化していると判断するように、橋梁4の異常の有無の判定を行うことができる。
【0080】
なお本実施形態では、橋梁4の異常の有無の判別を、基準時と診断時のそれぞれの評価指標の統計的距離に基づいて行うとしたが、これに限らない。例えば各時刻における係数行列A(または主成分行列A^)をクラスタリングし、新規の観測データに基づく係数行列Aが既存クラスタに分類されず新規クラスタに分類される場合に、係数行列Aの特徴量のパターンが変化したとして、橋梁4に異常が生じたと判断してもよい。
【0081】
(実施形態1の効果)
上述の実施形態1では、構造物の状態を表す特徴量に基づく状態評価を、構造物の種々の物理量を含んだ確率分布であって、計測個所によって異なる損傷に対する計測値の変化の敏感さの違いを吸収しつつ、計測値の推定誤差を考慮できる確率分布に基づく評価指標を用いて行う。よって実施形態1によれば、設定に高度な専門知識を要する損傷に敏感な振動モードの設定を必要とせず、構造物の損傷に対して敏感な特徴量に基づく平均と分散を持つ確率分布を用いて、数値解析を行わず低コストかつ高い精度で構造物の状態を評価できる。また、評価の妥当性を分散で表すことができる。
【0082】
また、実施形態1で用いる確率分布の評価指標は、計測時のノイズや活荷重などの強制振動などにより埋もれやすい、構造物の損傷に伴ってゆっくりと進行して行く微小な変化を捉えるので、構造物の状態診断を高精度に行うことができる。
【0083】
また実施形態1では、構造物の状態を表す係数行列Aを、質が劣る情報を除去するため主成分空間へ射影して次数を落とした主成分行列A^を生成する。よって、構造物の状態を表す特徴量を、構造物の状態を再現可能な特徴量へ情報の質を落とさずデータ圧縮するので、エッジ処理により特定小電力無線(Low Power Wide Area)などの廉価な先端技術による方法で特徴量の転送が可能となり、センサおよび転送システムを安価に構成し、管理費の大幅な削減が期待できる。
【0084】
より具体的には、従来、このような振動状態を評価する場合に数分間の加速度データを用いることが必要であったために、大きな通信量が必要であった。しかし、本手法では、必要な情報は主成分行列A^の値だけであるため、計測機内でのエッジ処理により、主成分行列A^を求め、小さなデータにすることにより特定小電力無線などの安価な先端技術の利用が可能となり、
図7に示すように管理コストにおいて利点があると考えられる。
図7は、実施形態1と従来技術における係数行列Aと主成分行列A^のデータ量をセンサ数ごとに比較して示す図である。
図7は、周期5msで60s計測したデータを送信する場合を示す。
図7によれば、8個、4個、1個の何れのセンサ数の場合でも、主成分行列A^によって、センサノード1から転送するデータ量を大幅に削減できることが分かる。
【0085】
<実施形態2>
実施形態1では、基準時と診断時の橋梁4の特徴量に基づく確率分布のマハラノビス距離などの統計的指標を用いて橋梁4の異常診断を行うのに対し、実施形態2では、橋梁4の特徴量に基づくベイズファクターを評価指標として用いて橋梁4の異常診断を行う。なお、実施形態2の診断システムSの構成は、診断装置2の診断部212の処理の一部が異なる点を除いて、実施形態1の診断システムの構成と同様である。
【0086】
(実施形態2の診断システムSにおける診断処理)
図8は、実施形態2の診断システムSにおける診断処理を示すフローチャートである。
図8に示すフローチャートは、
図5に示す実施形態1の診断時処理のステップS212の処理の別例である。すなわち実施形態2では、診断装置2は、ステップS211に引き続いて
図8に示す診断処理を実行する。なお、実施形態2では、診断装置2は、
図4の基準時処理を行うことなく、
図5の診断時処理を実行可能である。
【0087】
先ずステップS2121では、診断装置2の診断部212は、ステップS211で受信した特徴量である係数行列A(または主成分行列A^)に基づいて、評価指標として、下記式(13)で定義されるベイズファクターBを算出する。後述のローカルベイズファクターBjと区別する場合には、ベイズファクターBをグローバルベイズファクターと呼ぶ。
【0088】
【0089】
上記式(13)において、H0は帰無仮説(本実施形態では橋梁4の健全状態)、H1は対立仮説(本実施形態では橋梁4の異常・損傷状態)、Ytは仮説検定の対象とする特徴量(本実施形態では係数行列Aまたは主成分行列A^)、ΦtはH0あるいはH1の仮説のもとでのパラメータ(例えば特徴量の確率分布の平均値や標準偏差)である。
【0090】
上記式(13)に示すベイズファクターBにおいて、分母p(Yt|Φt,H0)は診断時の特徴量Ytが橋梁4の基準時における状態(健全状態)と同じ特徴量である周辺尤度を示し、分子p(Yt|Φt,H1)は診断時の特徴量Ytが橋梁4の基準時における状態と異なる特徴量である周辺尤度を示す。よってp(Yt|Φt,H0)に対するp(Yt|Φt,H1)の比であるベイズファクターBが閾値を超えると、或る特徴量に基づいて橋梁4に異常や損傷が発生していると判断できる。
【0091】
次にステップS2122では、診断部212は、ステップS2121で算出したベイズファクターBが閾値より大であるか否かを判定する。この閾値は、過去の点検データなどから、橋梁4の点検技術者が異常と判定した区分が設定されたものである。診断部212は、ベイズファクターBが閾値より大である場合(ステップS2122Yes)に橋梁4に異常があると判定し(ステップS2123)、ベイズファクターBが閾値以下である場合(ステップS2122No)に橋梁4が正常であると判定する(ステップS2124)。
【0092】
なお、
図8に示す診断処理は、診断装置2ではなく、センサノード1で行われてもよい。
【0093】
(異常判定の閾値の算出方法)
ここで、診断処理(
図8)のステップS2122で用いた異常判定の閾値の算出方法について説明する。
図9Aは、実施形態2の異常判定の閾値の算出方法を説明するための図である。
図9Aの左側のグラフ(a)では、横軸を時間、縦軸をベイズファクターBの対数とし、各時刻におけるベイズファクターBの値がプロットされている。また
図9Aの右側のグラフ(b)では、横軸を度数、縦軸をベイズファクターBの対数とし、ベイズファクターBの各値の度数分布が表されている。異常判定の閾値の算出は、診断装置2が行ってもよいし、その他の情報処理装置が行ってもよい。
【0094】
実際の橋梁においては、例えば大きな荷重のトラックが通過したり橋梁上でブレーキをかけたりするといった、異常判定に影響を与える様々な状況が発生する。ベイズファクターBは、様々な状況下で、特異的なデータを含むバラつきを持った値となる。ベイズファクターBの閾値を算出する際に、過去の所定期間の複数の計測データの特異的なデータや、データのバラつきを排除するのではなく、閾値算出の基礎に含めることで、実際の橋梁で生起する様々な状況を考慮した閾値を算出することができる。
【0095】
橋梁4の過去の計測データのうち、基準となる所定期間(例えば1年間)の計測データ(
図9Aのグラフ(a)参照)を上記式(13)にあてはめてベイズファクターBの値の分布を作成する(
図9Aのグラフ(b)参照)。ベイズファクターBの値の分布の平均値μ、分散σを基に、例えばμ、μ+σ、μ+2σと等の何れかの値を閾値として決定することができる。
図9Aのグラフ(b)では、ベイズファクターBの値を正規化しているので、平均μ=0の正規分布となっており、閾値を平均μとした場合を示している。ベイズファクターBの閾値は、橋梁4の特性や、使用条件、地理的条件、気象条件等の指標値に基づいて、平均μ及び分散σを用いて定量的に定めることができる。このように実際の橋梁で生起する様々な状況を考慮した閾値を用いて異常判定の精度を高めることができる。
【0096】
(異常診断の閾値の他例)
異常診断の閾値の他例を説明する。
図9Bは、実施形態2の複数の閾値を用いた異常判定方法の他例を説明するための図である。
図9Bの(グラフa)では、横軸を度数分布、縦軸をベイズファクターBの対数とし、ベイズファクターBの各値の度数分布が表されている。
図9Bの(グラフb)では、横軸を日、縦軸をベイズファクターBの対数とし、各日におけるベイズファクターBの各値がプロットされている。
【0097】
ベイズファクターBの値は、閾値を超えると異常と判定されるものである。このことから、
図9Aを参照して上述した計測データに基づくベイズファクターBの値の分布の中で、平均μより大きい値について、平均μ及び標準偏差σを用いて複数の閾値を定め、異常を段階的に判定することができる。複数の閾値に基づいて、例えば「正常」の範囲、「要注意」の範囲、及び「異常」の範囲のように、診断レベルを表す範囲を定めてもよい。
【0098】
例えば、ベイズファクターBの値の分布の平均値μ及び分散σに基づく複数の値(
図9Bの(グラフa)のμ、μ+σ、μ+2σ等)を、ベイズファクターBに基づく橋梁4の異常診断の段階的な複数の閾値と決定する。
図14の(グラフa)に示すように、ベイズファクターBがB≦μ+σであれば「正常」と診断し、μ+σ<B≦μ+2σであれば「要注意」と診断し、μ+2σ<Bであれば「異常」と診断することができる。
図9Bの例では、異常診断の段階的な複数の閾値の数は“2”としているがこれに限定されない。ベイズファクターBの段階的な閾値及びその数は、橋梁4の特性や、使用条件、地理的条件、気象条件等の指標値に基づいて、平均μ及び分散σを用いて定量的に決定することができる。
【0099】
このように実際の橋梁で生起する様々な状況を考慮した複数の閾値を用いて異常判定の精度を高めることができる。またベイズファクターBに基づく橋梁4の異常診断の閾値を段階的に決定することで、橋梁4の管理者は、時間経過と共に徐々に進行する橋梁4の異常を段階的に捉えることができ、計画的に橋梁4の保守を行うことができる。
【0100】
(ローカルベイズファクターB)
さて、上記式(13)に基づくベイズファクターBは、橋梁4を全体的に見て異常を検知するための評価指標である。一方、橋梁4に設置されている個々のセンサ3のセンサ情報の時系列から得られる特徴量に基づいて個別のベイズファクターを算出することもできる。個別のベイズファクターをローカルベイズファクターと呼ぶ。例えば橋梁4に設置されている複数のセンサ3のうちのj番目(j=1,・・・,n)のセンサ3のセンサ情報の時系列の特徴量に基づくローカルベイズファクターBjは、下記式(14)で定義される。
【0101】
【0102】
ローカルベイズファクターB
jをベイズファクターBに代えて、
図8に示す診断処理を行うことで、異常を示すローカルベイズファクターB
jのインデックスjから、j番目のセンサ3の設置個所において橋梁4の異常や損傷が発生していると識別できる。
【0103】
また、ローカルベイズファクターBjは、次のような使い方もできる。橋梁4などの構造物や、構造物において発生する異常や損傷の種別によって、ベイズファクターを用いて異常を敏感に検出できるセンサ情報の種別が異なる場合がある。そこで、橋梁4などの構造物に複数のセンサ種別のセンサ3を設置し、センサ種別ごとに生成した特徴量に基づくローカルベイズファクターBjに基づいて診断を行う。
【0104】
すなわち検知する物理量が異なる(センサ種別が異なる)センサ3が橋梁4に設置されており、センサ種別ごとのセンサ情報の時系列の特徴量に基づいてローカルベイズファクターBjを算出する。j番目のセンサ種別のローカルベイズファクターBjに基づいて異常が判断される場合、ローカルベイズファクターBjのインデックスjから、j番目のセンサ種別のセンサ3のセンサ情報に基づいて異常や損傷が発生していると識別できる。このようにローカルベイズファクターBjを用いることで、複数の物理量のうち何れかの物理量が異常を感知するようにできることから、異常検出の感度を高めることができる。
【0105】
(実施形態2の橋梁診断システムSにおける異常判定)
図10は、実施形態2の診断システムSを用いて行った異常判定の実験結果を説明するための図である。
図10は、横軸を時刻、縦軸をローカルベイズファクターB
jの二進対数軸として、A1~A10の10種類のローカルベイズファクターB
jの二進対数の時間推移を示す。
図10では、A1~A10は、一例としてセンサ3の設置位置を示す。
図10のINT(初期)、DMG1、DMG2は、各期間を表す。
【0106】
INTにおいては、橋梁4に損傷を加えていないので、何れの設置位置のセンサ3のセンサ情報に基づくローカルベイズファクターB
jも、概ね0であり閾値を超えていない。逆に、ローカルベイズファクターB
jが
図10に示すINTのような値であれば、橋梁4は異常や損傷が発生していない健全状態であると推定できる。
【0107】
INTに続く、橋梁4のA6付近の部位に損傷を加えたDMG1においては、A1~A10の中でも特にA6のセンサ3のセンサ情報に基づくローカルベイズファクターの値がINTと比較して閾値を超えて大きくなっている。逆に、ローカルベイズファクターBjがINTと比較してDMG1のような値であれば、橋梁4のA6付近の部位に損傷が発生したと推定できる。
【0108】
またDMG1に続く、橋梁4のA6付近の部位にさらに損傷を加えたDMG2においては、A6のセンサ3のセンサ情報に基づくローカルベイズファクターBjがDMG1と比較してさらに大きくなっている。逆に、ローカルベイズファクターBjがDMG1と比較してDMG2のような値であれば、橋梁4のA6付近の部位に発生した損傷がさらに進行したと推定できる。また、DMG1のローカルベイズファクターBjの和や平均と、DMG2のローカルベイズファクターBjの和や平均とを比較することで、DMG1からDMG2への損傷の進行程度を評価することができる。
【0109】
なおグローバルベイズファクターを用いても、
図10と同様の評価を行うことができる。
【0110】
このようにベイズファクターBまたはローカルベイズファクターBjを用いることで、橋梁4が健全状態から異常状態へ変化したことを検出し、また点検などで既に判明している損傷の進行を評価することができる。
【0111】
(実施形態2の実験結果)
図11は、実施形態2の診断システムSを用いて行った実験の実行条件を示す図である。
図12は、実施形態2の診断システムSを用いて行った実験結果を示す図である。
【0112】
図11は、横軸を時刻、縦軸を負荷とし、時間経過に応じて橋梁に対して加える負荷のパターンを示す。
図11に示すように、時刻t0~t1(Stage1)、t2~t3(Stage2)、t4~t5(Stage3)、t6~t7(Stage4)、t7~t8(Stage5)、t9~t10(Stage6)、t10~t11(Stage7)、t12~(Stage8)では、橋梁に対して振動を加えた。時刻t1~t2(Loading1)では、橋梁に対してひび割れ荷重を加えた。時刻t3~t4(Loading2)では、橋梁に対して降伏荷重を加えた。時刻t5~t6(Loading3)は、橋梁に対する荷重継続期間である。時刻t8~t9(Loading4)では、橋梁に対して設計荷重を加えた。時刻t11~t12(Loading5)では、橋梁に対して最大荷重を加えた。
【0113】
このような実行条件で実験を行った結果、
図12に示すように、ベイズファクターは、加負荷(Loading)を伴うStageの進行につれて概ね増加傾向にあると言える。よって、ベイズファクターの変化の観察結果に対して明確な解釈を与えることができるため、橋梁に発生した異常や損傷の検出を容易に行うことができる。
【0114】
このように、橋梁の固有振動数の増加および低下に関係なく、橋梁に発生した異常や損傷の検出を簡易に行い得るという本実施形態の利点は、
図13からも分かる。
図13は、比較例として、
図12に示した実施形態2の診断システムSを用いて行った実験と同条件で測定した振動モードに応じて異なる橋梁の固有振動数の変化を示す図である。
【0115】
図13のグラフ1101は、Stage1~Stage8における一次曲げモードの固有振動数の変化を示す。また
図13のグラフ1102は、Stage1~Stage8における二次曲げモードの固有振動数の変化を示す。グラフ1101,1102に示すように、橋梁の状態変化により、固有振動数は増加または低下する。理論的には、損傷による剛性低下により固有振動数は低下するが、例えば橋梁の支承部の状態変化を伴う場合は固有振動数が増加することがある。またグラフ1101,1102に示すように、モードによっても固有振動数の変化が異なる。
【0116】
このように固有振動数に基づく異常診断は、損傷の部位や振動モードによって固有振動数の変化の態様が異なることから、適切な振動モードを設定し、損傷の有無および部位を判定することが難しい。この点、本実施形態によるベイズファクターを用いた異常診断は、振動モードの設定を必要とせず、橋梁に発生した異常や損傷の検出を定量的に行うことができる。
【0117】
(温度とベイズファクターの値の経時変化)
図14は、橋梁4のある桁のある期間における外気温とベイズファクターの値の経時変化を示す図である。
図14の(グラフa)はある期間の外気温の経時変化を示すグラフであり、(グラフb)は外気温のベイズファクターBの経時変化を示すグラフである。
図14の(グラフb)における実線はベイズファクターBの異常判定の閾値を示し、この閾値を超えた場合に異常と判定される。
【0118】
図14では、構造物自体に異常がないことを確認した橋梁4の桁の外気温の変化のデータを例示している。外気温は1年周期で変動するが、本実施形態を外気温に適用した場合の異常判定では異常を判定する対象期間の外気温の変化は異常な変化ではないと判定する。すなわち
図14から、本実施形態では、温度変化等の自然界に起こる定期的な変動の影響の有無を考慮して構造物の異常判定が可能であることが分かる。
【0119】
(橋梁4のたわみとベイズファクターの値の経時変化)
図15は、橋梁のある期間におけるたわみとベイズファクターの値の経時変化を示す図である。たわみは連通管を用いて検出している。
図15は、4月から翌年3月までの1年を年度単位とし、(グラフa)にはある期間のたわみの経時変化を示し、(グラフb)にはたわみのベイズファクターBの経時変化を示す。
図15の(グラフb)における実線はベイズファクターBの異常判定の閾値を示し、この閾値を超えた場合に異常と判定される。基準年度の1年間の測定データを基に異常判定の閾値を定めている。
【0120】
年間を通じて気温が変動するが、
図15の(グラフa)に示すように、本実施形態による判定結果ではたわみ量が大きくなる時期(例えば第4年度の9月から翌年1月まで)に異常と判定されていることが分かる。また、第5年度以降は、明確に異常と判定されていることが分かる。
【0121】
(橋梁の2つの径間のベイズファクターの値の経時変化の比較)
図16は、橋梁の2つの径間のベイズファクターの値の経時変化の比較を示す図である。
図16では、5月から翌年4月までの1年を年度単位としている。
図16にデータを示す橋梁4は、
図15にデータを示した橋梁4と同一である。
【0122】
図16の(グラフa)及び(グラフb)では、同一の橋梁4の異なる2地点(損傷した第1径間と損傷が比較的少ない第2径間)における加速度の計測結果を基に異常判定の結果を算出している。
図16では、基準年度の1年分の計測データを基に閾値を設定している。但し、
図16の基準年度、第1年度、第2年度、第3年度は、
図15とは異なるため、例えば
図15の第1年度、
図16の第1年度のように表記して区別する。
【0123】
本実施形態による異常判定では、損傷した第1径間の異常を
図16の第1年度の9月に検知しており、以後経年的な劣化を捉えることができている。一方、損傷が比較的少ない第2径間では、
図16の第1径間に異常が検出された年度でも、一時的な異常値を除いて正常と判断されている。この第1径間の結果は、
図15に示したたわみ量の変動が大きくなった時期(
図15の第4年度、第5年度以降)と同じであることから、適切な異常値を判断できると考えられる。
【0124】
(実施形態2の変形例)
本実施形態では、診断装置2は、橋梁4の係数行列Aまたは主成分行列A^を橋梁4の状態を表す特徴量とし、特徴量に基づくベイズファクターBまたはローカルベイズファクターBjを用いて橋梁の異常診断を行うとした。しかしこれに限らず、構造物の各部位の1または複数の物理量を継続的に測定した時系列データから特徴量を抽出し、この特徴量に基づくベイズファクターを用いて構造物の異常診断を行ってもよい。物理量は、変位、速度、加速度、外力、歪み、温度などである。例えば橋梁4の温度を定点観測した時系列データのうちの所定期間のデータから抽出した特徴量に基づくベイズファクターを用いて構造物の異常診断を行ってもよい。
【0125】
また、診断部は、橋梁4に対する点検作業者による実地点検の結果を用いてベイズファクターを補正し、補正したベイズファクターに基づいて橋梁4の状態の診断を行ってもよい。例えば、ある特徴量のベイズファクターに基づいて異常と判断されたが、実地点検を行った結果、異常なしであった場合に、以後、同じ特徴量で異常と判断されないようにベイズファクターが補正される。あるいは、実地点検を行った結果、異常があった場合に、この異常が検出された部位の近傍に設置されたセンサに基づくベイズファクターを参照して、閾値が設定または補正されてもよい。
【0126】
(実施形態2の効果)
実施形態2では、各時間領域での構造物の観測データの時系列から算出される健全状態と異常状態の確率の比であるベイズファクターと、高度な専門知識を持つ点検技術者が過去に異常とした損傷状態から設定された閾値とに基づいて、構造物の状態診断を行う。よって、高度な専門知識を持たない者であっても、数値解析などの高コスト処理を必要とせず、定量的な評価指標を用いて、高度な専門知識を持つ点検技術者と同等に、構造物の健全性評価を高精度に行うことができる。
【0127】
<実施形態3>
実施形態3では、実施形態1または2において、橋梁4の状態を表す特徴量である係数行列Aをベイズ推定を用いて逐次学習することで、橋梁4の異常検知精度の向上を図る。係数行列Aの逐次学習は、センサノード1(例えば特徴量生成部113)が行っても、診断装置2(例えば診断部212)が行ってもよい。なお、係数行列Aに代え、主成分行列A^でも同様の処理を行っても、同様の効果が得られる。
【0128】
図17は、実施形態3の診断システムSにおける係数行列Aの逐次更新の説明図である。
図17では、センサ3で検知した加速度を縦軸に示し、時刻を横軸としている。
図17に示す時間iにおける係数行列Aの事後確率p(A,Σ|Y)
iは、下記式(15-1)のように、ベイズ推定を用いて求められる。ただし、時間iにおける事前確率p(A,Σ)
iは、下記式(15-2)に示すように、時間(i-1)における事後確率p(A,Σ|Y)
i-1である。下記式(15-1)および式(15-2)のiをi+1に置き換えることで、同様にして、時間(i+1)における係数行列Aの事後確率p(A,Σ|Y)
i+1が求められる。
【0129】
【0130】
(実施形態3の効果)
図18は、実施形態3の診断システムにおける係数行列の逐次更新による係数行列の確率分布の収束を示す図である。
図18では、横軸を特徴量(例えば係数行列A)の要素が取りうる値とし、縦軸を要素の各値における事後確率としている。実施形態3では、係数行列Aの確率分布を逐次学習することで、
図18に示すように、確率分布の平均値が真値へ近づき分散が小さくなる方向へ収束(
図18に示す確率分布が細線から破線そして太線へと収束)していくので、係数行列Aが構造物の状態をより高精度に表すようになる。そして、診断部212は、逐次学習後の係数行列Aまたは主成分行列A^を特徴量として用いて構造物の状態を診断する。よって、構造物の状態の異常推定の高精度化を図ることができる。係数行列Aは、構造物の振動データの種々の特徴を含んだ特徴量であるため、固有振動数などを用いて異常判定を行う従来技術よりも、より微細な構造物の状態変化を捉えて異常判定を行うことが可能になる。
【0131】
(その他の実施形態)
上述した実施形態では、診断システムSは、センサノード1と、診断装置2とを有するものとして説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、診断システムSは、診断装置2を有さずに構成されてもよい。かかる場合、診断システムSは、取得部と、自己回帰モデル生成部と、特徴量生成部と、診断部とを有するセンサノード1を含んで構成される。すなわち、センサノード1は、構造物に取り付けられたセンサからセンサ情報を時系列で取得する取得部と、取得部によって或る時刻において取得されたセンサ情報を、或る時刻以前において取得されたセンサ情報の時系列の線形結合で表現する自己回帰モデルを生成する自己回帰モデル生成部と、自己回帰モデルの回帰係数に基づいて、或る時刻における構造物の状態を示す特徴量を生成する特徴量生成部と、構造物に関する情報の時系列から生成された該構造物の状態を示す特徴量について、構造物が健全状態であると仮定した場合における該特徴量の確率分布を表す第1の周辺尤度と、構造物が健全状態でないと仮定した場合における該特徴量の確率分布を表す第2の周辺尤度と、の比率である評価指標を算出し、評価指標に基づいて構造物の状態を診断する診断部とを有する。
【0132】
上述した実施形態では、自己回帰モデルの回帰係数に基づいて、或る時刻における構造物の状態を示す特徴量を生成する場合について説明したが実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、自己回帰モデルの回帰係数以外から、構造物の状態を示す特徴量を生成してもよい。
【0133】
(センサノード1の実装例)
図19は、実施形態のセンサノード1として用いるセンサノード端末1Bの構成を示すブロック図である。センサノード1として実装するセンサノード端末1Bは、センサノード1(
図2)の構成と比較して、加速度センサ15をさらに有する。このようなセンサノード端末1Bでは、所定のアプリケーションを実行することでセンサノード1及びセンサ3と同様の機能を発揮する。すなわちセンサノード端末1Bは、センサ3と同様に橋梁4に設置され、取得した加速度データから橋梁4の特徴量を生成し、診断装置2へ送信する。
【0134】
診断装置2は、例えばクラウドサーバ上に構築されて、クラウドサービスとして、特徴量に基づく診断結果を提供する。診断装置2は、センサノード端末1Bまたはその他の端末装置へ診断結果を送信する。ユーザは、センサノード端末1Bまたはその他の端末装置の画面出力を見て診断結果を確認する。
【0135】
また複数のセンサノード端末1Bが、複数のセンサノード1として実装され、センサ3と同様に橋梁4の複数箇所に設置されてもよい。この場合、複数のセンサノード端末1Bを代表する1つのセンサノード端末1Bの単独処理または所定数のセンサノード1の協調処理によって、複数のセンサノード端末1Bの全てによって取得された加速度データから橋梁4の特徴量が生成され、診断装置2へ送信される。
【0136】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の構成について、追加、削除、置換、統合、または分散をすることが可能である。また実施形態で示した構成および処理は、処理または実装の効率に基づいて適宜分散、統合、または入れ替えることが可能である。上述の実施形態で説明した診断システムの各処理を実行するプログラムは、記録媒体あるいは伝送媒体を介して1または複数のコンピュータにインストールされる、もしくは組み込みプログラムとして提供される。
【符号の説明】
【0137】
S:診断システム、1:センサノード、2:診断装置、3:センサ、4:橋梁、111:センサ情報取得部、112:自己回帰モデル生成部、113:特徴量生成部、114:特徴量送信部、131:センサ情報、211:特徴量受信部:212:診断部、231:特徴量、232:基準評価指標