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特許7469840溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置及び提供方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置及び提供方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/10 20230101AFI20240410BHJP
   C02F 3/08 20230101ALI20240410BHJP
【FI】
C02F3/10 Z
C02F3/08 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023211595
(22)【出願日】2023-12-14
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】202311671663.1
(32)【優先日】2023-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520272961
【氏名又は名称】ウェンジョウ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Wenzhou University
【住所又は居所原語表記】Chashan Academic Town, Ouhai, Wenzhou, Zhejiang, China
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】井芹 寧
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 愛民
(72)【発明者】
【氏名】鄭 向勇
(72)【発明者】
【氏名】趙 敏
(72)【発明者】
【氏名】久場 隆広
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 俊介
(72)【発明者】
【氏名】ポディアペン タネン ナイサン
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0248688(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0048122(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103289887(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0023360(US,A1)
【文献】特開2007-068419(JP,A)
【文献】特開2000-126789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/00-3/34
C12N1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部横支柱と、下部横支柱と、前記上部横支柱と前記下部横支柱とを支持する縦支柱とを備えるフレームと、
前記フレームの底部に近い位置に設置され、水域の底質のニッチアに青色光を照射する青色光照射モジュールと、
それぞれ前記上部横支柱及び前記下部横支柱の各端部に回転可能に軸支されている複数のローラと、
前記複数のローラに張架され、前記底質からニッチアを付着、担持して前記複数のローラの回転に伴って循環移動するニッチア担体と、
前記ニッチア担体の移動経路上に設置され、内部に溶藻細菌を収容して、その内部を通過する前記ニッチア担体に担持された前記ニッチアを該溶藻細菌に接触させる溶藻細菌収容ボックスと、
を備えることを特徴とする溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項2】
溶藻細菌を保存し、前記溶藻細菌収容ボックスに前記溶藻細菌を供給する溶藻細菌供給タンクをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項3】
前記ニッチア担体は、
前記複数のローラに張架され、前記複数のローラの回転に伴って循環移動するベルト状担体と、
前記ベルト状担体の表面に設けられ、前記底質と接触することにより前記ニッチアを付着するニッチア誘導担体と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項4】
前記ニッチア誘導担体は、一端がベルト状担体の表面に固定され、他端が自由端となる形で、前記ベルト状担体の表面に繊維状に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項5】
前記ニッチア担体は、1つであるか又は複数並設されていることを特徴とする請求項1に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項6】
前記ベルト状担体は、光透過性樹脂フィルムで形成されていることを特徴とする請求項3に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項7】
前記青色光照射モジュールは、青色LEDを備えることを特徴とする請求項1に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項8】
前記上部横支柱は水平に伸縮可能な支柱であり、前記縦支柱は上下に伸縮可能な支柱であり、
前記ニッチア担体の最上部より所定距離高い位置に支持アームを介して鉛直方向に上下に並べて設置され、水に接触するか否かを示す電気信号を出力する上部及び下部水位センサーと、
前記上部及び下部水位センサーから出力される前記電気信号を受信し、受信した前記電気信号に基づいて、前記ニッチア担体の前記最上部が所定の水深位置になるように前記上部横支柱及び前記縦支柱の伸縮を制御する制御部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項9】
前記支持アームは、伸縮することにより前記所定の水深位置を調整する伸縮可能なアームであることを特徴とする請求項8に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置を前記水域の底層に放置し、
前記青色光照射モジュールにより前記水域の底質に青色光を照射して、前記底質におけるニッチアを活性化させ、
前記複数のローラを回転駆動して、前記ニッチア担体を循環移動させることにより、前記ニッチア担体が前記底質と接触して活性化された前記ニッチアを付着し、前記ニッチアを担持したまま溶藻細菌が収容されている前記溶藻細菌収容ボックスを通過することにより溶藻細菌キャリア化ニッチアを生成して前記水域の表層に搬送し該表層における藍藻に接触させる
ことを特徴とする溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、本発明は、アオコの対策における微生物の応用分野に関し、特に、溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置及び提供方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、湖沼の汚染により富栄養化した水におけるアオコの発生事例は増加する傾向にある。アオコが異常発生すると、生態を破壊し、景観を損ねるだけでなく、水道水の異臭味問題も引き起こす。特に、アオコ中の優勢種である藍藻(Microcystis)、特にミキロキスチス属の藍藻(Microcystis spp.)は有毒なミクロシスチン(microcystin)を生成し、ヒトや家畜の健康に影響を与える。
【0003】
そのため、様々なアオコの対策方法の開発が長年にわたって行われている。現在、アオコの現地における直接対策として、殺藻剤散布法等の化学的手法、濾過・凝集沈殿分離回収等の物理的手法、生態系制御(biomanipulation、水生植物植栽等)などの生物的手法が知られている。また、現場の底質から藍藻増殖促進栄養塩の供給を抑制する、底質浚渫法、覆砂法、底層酸素導入法もある。さらに、水面を遮光幕でカバーしたり、曝気やプロペラで水域を鉛直混合することで、暗黒底層に藍藻を送り込み、光合成を不活性化させ、同時に表層の水温やpHを低下させ、藍藻の増殖を抑制する手法などが実施されている。
【0004】
しかしながら、従来の対策は、大規模な工事や費用が必要であったり、周辺水質に二次的な汚染問題を引き起こしたり、藍藻以外の在来の生物群にも悪影響を及ぼすなど、多くの問題を抱えている。また、効果が対策を実施した範囲の小水域に限られ、広範囲の対策効果が得られない。
【0005】
また、アオコの対策実施による周辺水質生物環境への影響を最も低くするために、アオコに特異的に作用する殺藻細菌やウィルス散布法も研究されているが、元々、対策対象水域に存在しない外来の微生物を導入する問題を抱えている。また、殺藻菌やウイルスは、多くの藻類に作用するため、他の在来の藻類も殺してしまうという問題もある。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本出願は、上記課題の少なくとも一部を解決するために、現場に既に存在する藍藻に特異的に作用するニッチア(Nitzschia)を活用してそれに溶藻細菌を担持させることにより、藍藻に特異的に作用する目的を達成する溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置及び提供方法を提出する。
【0007】
本願発明の一態様によれば、上部横支柱と、下部横支柱と、上部横支柱と下部横支柱とを支持する縦支柱とを備えるフレームと、フレームの底部に近い位置に設置され、水域の底質のニッチアに青色光を照射する青色光照射モジュールと、それぞれ上部横支柱及び下部横支柱の各端部に回転可能に軸支されている複数のローラと、複数のローラに張架され、底質からニッチアを付着、担持して複数のローラの回転に伴って循環移動するニッチア担体と、ニッチア担体の移動経路上に設置され、内部に溶藻細菌を収容して、その内部を通過するニッチア担体に担持されたニッチアを該溶藻細菌に接触させる溶藻細菌収容ボックスと、を備える溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置を提供する。
【0008】
本願発明の他の態様によれば、上記溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置を水域の底層に放置し、青色光照射モジュールにより水域の底質に青色光を照射して、底質におけるニッチアを活性化させ、複数のローラを回転駆動して、ニッチア担体を循環移動させることにより、ニッチア担体が底質と接触して活性化されたニッチアを付着し、ニッチアを担持したまま溶藻細菌が収容されている溶藻細菌収容ボックスを通過することにより溶藻細菌キャリア化ニッチアを生成して水域の表層に搬送し該表層における藍藻に接触させる溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、水域の底質に青色光を照射することにより、底質におけるニッチアを優占的に活性化させ、活性化されたニッチアをニッチア担体で担持して搬送し、溶藻細菌と接触させて溶藻細菌キャリア化ニッチアを形成し、溶藻細菌キャリア化ニッチアを水域の表層に搬送し、最終的に藍藻に感染させ、藍藻を分解、溶藻し、抑制する。
【0010】
既に存在する藍藻に特異的に作用するニッチアを活用してそれに溶藻細菌を担持させることにより藍藻に特異的に作用するので、外来の生物種の持ち込みを防ぎ、他の在来の藻類への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本出願の実施形態に係る溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置の構成を示す模式図である。
図2】上記溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置を左側から見た構成を示す模式図である。
図3A】本出願の実施形態に係る溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置の水位による変形を示す模式図である。
図3B】本出願の実施形態に係る溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置の水位による変形を示す模式図である。
図4】上記溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置の水位による変形を制御する制御構成の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願の発明目的、技術手段及び有益な技術的効果をより明確にするために、以下、図面を参照して本願発明の実施形態を詳細に説明する。本明細書に記載された実施形態は、単に本願発明を説明するためのものであり、本願発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0013】
本願発明者らは、従来の技術に存在する課題に直面して、アオコの微生物による対策について長期間の鋭意研究を行ったところ、ニッチアがアオコにおける藍藻(Microcystis)に特異的に作用することを発見した。
【0014】
この知見を確認するため、本願発明者らは、ニッチアの藍藻(Microcystis)群体への付着特性に関する培養実験を行った。この実験では、1.藍藻単独系と、2.藍藻とニッチアを同じ容器内に入れた共存系と、3.上記2系にニッチアが表層へ移動し藍藻と接触可能なように直径が2mmで高さが培養液の液面に近い竹支柱を入れた系とを設計した。100ml培養液の上記3種類の培養系を用意し、白色蛍光灯2000lux、光周期12h明/12h暗、温度25℃の培養条件下で14日間静置培養したことろ、下記表1に示すような実験結果を得た。
【0015】
【表1】
【0016】
実験により、1系では藍藻の増殖が生じたのに対し、その他のニッチアとの共存系では藍藻の減少が確認された。特に、藍藻とニッチアとが接触する3系では藍藻細胞群体表面や内部に付着侵入し増殖する現象が認められ、多くの群体が沈降し、藍藻の単独培養と比較して1/10に浮遊藍藻が抑制されたことが確認された。これにより、ニッチアは特異的に藍藻群体に付着する性質があることが明らかとなった。
【0017】
しかし、自然界では、藍藻は水域の表層に浮遊し、ニッチアは主に底層の底質中及び底質表面に分布し、付着移動性を有するため、両者はほとんど接触することはない。水域底層の底質上又は底質中のニッチアは光が当たらないか光照射不足のため、休眠状態で増殖しない。水域の底層では栄養塩が豊富に存在するので、ニッチアの増殖にとっては光以外の条件が満たされている。そのため、底質における休眠状態のニッチアは、光が当たると活性化して増殖する。本願発明者らは、光照射による増殖について、青色光照射はニッチアを優先的に増殖促進させる効果があることを発見した。この知見を確認するため、本願発明者らは、次のような培養照合実験を行った。100mLの培養液に富栄養化湖沼の底質を2g投入し、温度25℃で、白色LEDと青色LEDのそれぞれで光子量約100μmol・m-2・s-1、光周期12h明/12h暗で照射した条件で7日間培養したところ、下記表2に示すような実験結果を得た。
【0018】
【表2】
【0019】
実験の結果は、白色光照射では各種藻類が増殖したのに対し、青色照明では緑藻藍藻はほとんど増殖していないのに対し、ニッチアは約100倍増殖した。これにより、青色光照射は、ニッチアを優先的に増殖促進させる効果があることが確認できた。
【0020】
以上の知見に基づいて、本願発明者らは、さらに、対策対象水域の底質におけるニッチアにより藍藻に特異的に作用する解決手段を提出した。
【0021】
以下、図1図4を参照して、本願解決手段の実施形態に係るア溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置及び提供方法を説明する。図1は、本出願の実施形態に係る溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置の構成を示す模式図であり、図2は、上記溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置の左側から見た構成を示す模式図である。図3A及び図3Bは、本出願の実施形態に係る溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置の水位による変形を示す模式図であり、図4は、上記溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置の水位による変形を制御する制御構成の模式図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10は、上部横支柱11と、下部横支柱12と、上部横支柱11及び下部横支柱12を支持する縦支柱13とを含むフレームを備えている。ここで、図1における紙面の手前側と奥側にそれぞれ上、下部の横支柱11、12と縦支柱13を設け、装置をより安定的かつ強固に支持することが好ましい。2つの上部横支柱11の各端部の間、および、2つの下部横支柱12の各端部の間には、それぞれローラ14が回転可能な軸支されている。例えば、図1の4隅部に4つのローラ14が取り付けられている。
【0023】
これらのローラ14には、水域の底質からニッチアを付着、担持して複数のローラ14の回転に伴って循環移動するニッチア担体15が張架されている。具体的には、ニッチア担体15は、複数のローラ14に張架され、複数のローラ14の回転に伴って循環移動するベルト状担体151と、ベルト状担体151の表面に設けられ、水域の底質と接触することによりニッチア1を付着するニッチア誘導担体152とを備えている。ニッチアは、付着性珪藻類に分類され、細胞外部に細い繊維状物を有して、化学繊維、天然繊維、硝子、自然の土壌、石、水草などあらゆる物に付着しその表面で動く特性を有する。ベルト状担体151は、ニッチアが付着して脱落しないつるつるでなければどの物質で形成しても良いが、例えば、樹脂フィルムで形成することができ、光照射を最大限に遮断しないように、光透過性樹脂フィルムで形成することが好ましく、さらには、青色光を透過させる樹脂フィルムで形成することが好ましい。ベルト状担体151の表面には、多数のニッチア誘導担体152が設けられており、その一端がベルト状担体151の表面に固定され、他端が自由端となることで、それ自身の重みで下方へ垂れ下がる。ニッチア誘導担体152は、ニッチアが繊維間を移動できるように繊維状に形成されることが好ましい。ニッチア誘導担体152は、ベルト状担体151と同じく、ニッチアが付着して脱落しないつるつるでなければどの物質で形成しても良く、ベルト状担体151と同じ材料で形成されてもよいし、異なる材料で形成されてもよい。
【0024】
図2に示しているように、ニッチア担体15は、1つ設けられていてもよいし、複数並設されていてもよい。
【0025】
溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10は、溶藻細菌2を収容する溶藻細菌収容ボックス16をさらに備える。溶藻細菌収容ボックス16はニッチア担体15の循環経路に配置され、ニッチア担体15がこの溶藻細菌収容ボックス16を通して循環移動することで、ボックス内の溶藻細菌2がニッチア担体15に接触し該ニッチア担体15に担持されたニッチア1に付着して、溶藻細菌がキャリアされたニッチア(溶藻細菌キャリア化ニッチア)が形成される。
【0026】
溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10は、溶藻細菌2を保存し、ホースなどを介して溶藻細菌収容ボックス16に溶藻細菌2を供給する溶藻細菌供給タンク17をさらに備えてもよい。溶藻細菌供給タンク17は、水面上に設けられ、水頭差を利用して溶藻細菌2を溶藻細菌収容ボックス16に供給することができる。溶藻細菌供給タンク17は水面下に設置しても良く、この場合は、ポンプ等により溶藻細菌2を供給することが可能である。溶藻細菌は、対象水域から分離し大量培養して使うこともできるし、外部から購入して使うこともできる。
【0027】
溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10は、フレームの底部に近い位置に青色光照射モジュール18が設けられ、該青色光照射モジュール18は、水域の底質におけるニッチア1に青色光を照射して、該ニッチア1を活性化させる。青色光照射モジュール18は、例えば、ニッチア担体15の上方に設けられていてもよく、この場合、ニッチア担体15は、光の照射を最大限に遮断しないように、光透過性樹脂フィルムで形成されることが好ましい。青色光照射モジュール18の光源として、青色LEDを利用することができ、具体的には、基板に搭載された青色LEDアレイによって形成することができる。また、該光源は、白色LEDと青色フィルタとで構成されたものであってもよく、具体的には、白色LEDアレイを基板上に搭載し、このLEDアレイ上に青色フィルタ層を塗布したり、青色フィルタを被覆して形成することができる。青色光の照射はこれに限定されず、既存の任意の青色光照射手段を利用することができる。
【0028】
溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10は、底部に、装置を支持し動かしやすくする役割をする車輪19が設置されてもよい。
【0029】
また、底層から表層に移動させたニッチア1を水面近くの藍藻3に十分に接触させるためには、ニッチア担体15を常に水面直下に位置させることが必要となる。溶藻細菌キャリア化ニッチアがキャリアされたニッチア担体15を常に所定の水深に位置させるために、本実施形態では、図1図3A及び図3Bに示すように、溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10の上部横支柱11を水平に伸縮可能な支柱とし、縦支柱13を上下に伸縮可能な支柱として形成している。また、溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10は、ニッチア担体15の最上部と同一高さの位置に支持アーム20が立設され、支持アーム20には、上部水位センサー21及び下部水位センサー22がニッチア担体15の最上部から所定の距離を保ったまま、鉛直方向に上下に並んで設けられている。図面では、溶藻細菌供給タンク17が支持アーム20に、水位センサ21、22が溶藻細菌供給タンク17に設けられているが、溶藻細菌供給タンク17は、水位センサ21、22とは別の位置に設けられていてもよい。この上部及び下部水位センサー21、22は、水と接触しているか否かを示す電気信号を出力する。図4に示しているように、提供装置10は、制御部23を更に備え、該制御部23は、上部及び下部水位センサー21、22から出力される電気信号を受信し、受信した電気信号に基づいて、ニッチア担体15の最上部が所定の水深位置になるように、図1ではニッチア担体15のうち2つの上部のローラの間の溶藻細菌キャリア化ニッチアが担持された部分を所定の水深位置になるように、上部横支柱11及び縦支柱13の伸縮を制御する。
【0030】
本実施形態では、制御部23は、上部水位センサー21から受信した電気信号が水と接触していることを示している場合には、図3Aに示すように、上部水位センサー21から受信された電気信号が水と接触しないことを示す電気信号になるまで、上部横支柱11が収縮するとともに、縦支柱13が伸長するように、上部横支柱11と縦支柱13の伸縮を制御する。また、制御部23は、下部水位センサー22から受信された電気信号が水と接触しないことを示している場合には、図3Bに示すように、下部水位センサー22から受信された電気信号が水と接触していることを示す電気信号になるまで、上部横支柱11が伸長するとともに、縦支柱13が収縮するように、上部横支柱11と縦支柱13の伸縮を制御する。このように、制御部23は、上部水位センサー21が空気中、下部水位センサー22が水中に位置するように、自動的に上部横支柱11と縦支柱13を伸び縮みさせることにより、ニッチア担体15のうち溶藻細菌キャリア化ニッチアが担持された部分、即ち、図1図3A及び図3Bに示すニッチア担体15のうちの2つの上方ローラ14の間の部分が常に所定の水深に位置させることができる。
【0031】
ここで、例えば、上部、下部水位センサー21、22として、水と接触すると電流が流れる導電率センサーを利用することができ、この場合、制御部23は、導電率センサーからの電気信号を受信した場合、当該導電率センサーが水と接触していると判定し、導電率センサーからの電気信号を受信していない場合、当該導電率センサーが水と接触しないと判定する。
【0032】
ニッチア担体15の最上部、すなわち図1において溶藻細菌キャリア化ニッチアが担持された部分の水深位置は、水位センサーを支持する支持アーム20により決定される。支持アーム20は、伸縮可能な調整アームとして形成することができ、伸縮することによりニッチア担体15の最上部を所定の水深に調整することができる。例えば、所定の水深位置は、藍藻群体が凝集する水層が好ましい。例えば、2cm~10cmの水深位置とすることができる。
【0033】
以上、溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10の構成について説明した。次に、溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10による藍藻の対策について説明する。
【0034】
藍藻3を処理する場合、本出願の実施形態による溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置10を、対策対象水域の水底に放置し、電源を投入して装置を起動する。よって、装置底部の青色光照射モジュール18は、水底の底質に青色光を照射して、底質浅層中及び底質上のニッチア1を活性化し、増殖させる。同時に、上部、下部横支柱11、12の各端部に軸支されたローラ14は、これらのローラの少なくとも1つに接続されているモータ(図示せず)の駆動で回転し、ニッチア担体15をゆっくり循環移動させる。ニッチア担体15が水底に移動すると、その表面上のニッチア誘導担体152は底質と接触し、底質における活性化され増殖したニッチア1はニッチア誘導担体152に付着し、青色光の照射下で増殖を継続する。次に、ニッチア担体15の水面方向への移動に伴い、ニッチア1が水域表層に運搬される。水域表層への移動時には、ニッチア誘導担体152がベルト状担体151に被さることで、ニッチア1の逸脱が防止される。ニッチア担体15は引き続き表層に移動し、表層に近い位置に設置された溶藻細菌収容ボックス16を通過することにより、溶藻細菌収容ボックス16内の溶藻細菌供給タンク17から供給された藍藻を分解する作用をもつ溶藻細菌2は、ニッチア担体15上のニッチア1に接触して付着して、溶藻細菌キャリア化ニッチアを形成する。溶藻細菌キャリア化ニッチアは、ニッチア担体15の移動に伴って、水域の表層に運搬され、表層に浮遊している藍藻の細胞群体に特異的に付着し、内部に侵入することにより、藍藻に溶藻細菌2を感染させ、藍藻を分解し、殺藻しやすくなる。また、ニッチアに感染した藍藻は、表層水の流れに伴い広い範囲に拡散することができ、接触する健全な藍藻に引き続き感染を広げ、さらに溶藻細菌2の感染がより広い範囲に拡大し、水域全体の藍藻を抑えるのに役立つことができる。
【0035】
以上のように、本願発明によれば、ニッチアを優占的に活性化し増殖させる青色光照射と、底質上のニッチアを付着させ、ひいては藍藻が存在する表層に移動させるニッチア担体とを組み合わせることにより、現地に既に存在するニッチアを利用して藍藻に特異的に作用することができる。
【0036】
また、本願発明の実施形態では、LEDにより光照射し、ニッチア担体を緩やかに動かすので、僅かなエネルギーと小規模設備で実施が可能である。例えば、現地の太陽光や風力による発電、蓄電で、グリーンエネルギーのみで実施が可能である。
【0037】
また、本願発明によれば、光照射のみで、外部から一切の物質や薬品は持ち込まないため、周辺水環境に影響を与えることはない。しかも、対策対象水域の底質中に既に存在するニッチアを利用するので、外来の生物種は全く持ち込まない。
【0038】
また、本願発明によれば、藍藻類のアオコに特異的に作用するニッチアを十分に活用して溶藻細菌を付着させ担持することにより、藍藻類のアオコを特異的に分解、溶藻することができる。
【0039】
以上、本願発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更、修正が可能である。上述した各実施形態は、実質的に同一の態様を含み、適宜組み合わせることもできる。当業者が、本願発明の実施形態に基づいて創造的な労働をせずに得られたすべての他の実施形態も、本出願の保護の範囲内に含まれることは明らかである。
【符号の説明】
【0040】
1-ニッチア、2-溶藻細菌、3-藍藻、10-溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置、 11-上部横支柱、12-下部横支柱、13-縦支柱、14-ローラ、15-ニッチア担体、 151-ベルト状担体、152-ニッチア誘導担体、16-溶藻細菌収容ボックス、17-溶藻細菌供給タンク、18-青色光照射モジュール、19-車輪、20-支持アーム、21-上部水位センサー、22-下部水位センサー、23-制御部。
【要約】      (修正有)
【課題】周辺水環境に影響を与えることのない、溶藻細菌キャリア化ニッチアの提供装置及び提供方法を提供する。
【解決手段】上部横支柱11と下部横支柱12と上部横支柱と下部横支柱とを支持する縦支柱13とを備えるフレームと、フレームの底部に近い位置に設置され、水域の底質のニッチアに青色光を照射する青色光照射モジュール18と、それぞれ上部横支柱及び下部横支柱の各端部に回転可能に軸支されている複数のローラ14と、複数のローラに張架され、底質からニッチア1を付着、担持して複数のローラの回転に伴って循環移動するニッチア担体15と、ニッチア担体の移動経路上に設置され、内部に溶藻細菌2を収容して、その内部を通過するニッチア担体に担持されたニッチアを該溶藻細菌に接触させる溶藻細菌収容ボックス16とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3A
図3B
図4