(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ボルナウイルス感染を診断する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20240410BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240410BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240410BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
G01N33/569 L ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018237968
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-12-20
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516125624
【氏名又は名称】ユーロイミューン・メディツィニシェ・ラボルディアグノシュティカ・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】エーリク・ラットヴァイン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング・マイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング・シュルムベルガー
(72)【発明者】
【氏名】ユリア・ヤンツ
(72)【発明者】
【氏名】アントニーナ・オット
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・シェーパー
(72)【発明者】
【氏名】ヨナス・シュミット‐シャーナシット
(72)【発明者】
【氏名】デニス・タッペ
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01460426(EP,A1)
【文献】特表2002-500363(JP,A)
【文献】国際公開第99/034216(WO,A1)
【文献】特表2001-502701(JP,A)
【文献】国際公開第98/018457(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101967525(CN,A)
【文献】特開平11-180998(JP,A)
【文献】特開2004-309477(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0072582(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0155261(US,A1)
【文献】K. M. Carbone, et al.,BORNA DISEASE: ASSOCIATION WITH A MATURATION DEFECT IN THE CELLULAR IMMUNE RESPONSE,Journal of Virology,1991年,Vol. 65, No. 11,6154-6164
【文献】L. Stitz, et al.,Inhibition of immune-mediated meningoencephalitis in persistently Borna disease virus-infected rats by cyclosporine A,Journal of immunology,1989年,Vol. 143, No. 12,4250-4256
【文献】Q. Li, et al.,Detection and analysis of Borna disease virus in Chinese patients with neurological disorders,European Journal of Neurology,2009年,Vol. 16, No. 3,399-403
【文献】Zhang et al,Evidence for Borna disease virus infection in neuropsychiatric patients in three western China provinces,European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Disease,2014年,Vol. 33,pp.621-627
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
C12Q 1/6851
C12Q 1/686
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
辺縁系脳炎、PNS、脳脊髄炎、白質脳症、網膜炎または視神経萎縮を診断するためのデータを提供するための方法であって、ヒト試料中のボルナウイルスを検出するステップを含み、前記検出するステップが、前記試料中のボルナウイルスに特異的なポリペプチドに対する抗体を検出することによって達成され、前記ポリペプチドが、BoDV-1-N(Uniprot P0C796)、BoDV-1-P(Uniprot P0C798)、VSBV-N(Uniprot A0A0H5BWK0)、VSBV-P(Uniprot A0A0H5BWK0)、VSBV-X(Uniprot ART67059.1)およびBoDV-1-X(Uniprot AIK27011.1)を含む群から選択される、方法。
【請求項2】
神経移植後合併症を予測する、または臓器ドナーもしくはドナー臓器をスクリーニングする
ためのデータを提供するための方法であって、ヒト試料中のボルナウイルスを検出するステップを含む方法。
【請求項3】
自己免疫性脳炎と、感染によって引き起こされる脳炎とを区別するための方法であって、ヒト試料中のボルナウイルスを検出するステップを含む方法。
【請求項4】
前記検出は、前記試料中のボルナウイルス特異的ポリペプチドに対する抗体を検出することによって達成される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記試料は、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-Xを含む群から選択される少なくとも1つのポリペプチドに対する抗体を捕捉するための手段を含む担体と接触される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
捕捉された抗体は、酵素活性、蛍光または化学発光によって検出される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記担体が、膜ベースのイムノブロット、1つまたは複数のビーズ、免疫蛍光のために配置されたバイオチップ、およびELISAマイクロタイタープレートを含む群から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-Xを含む群から選択される少なくとも1つのポリペプチドに対する抗体を捕捉するための手段を含む担体。
【請求項9】
前記担体が、単純ヘルペスHSV-1、単純ヘルペスHSV-2、ヒトヘルペスウイルスHHV-6、ヒトヘルペスウイルスHHV-7、狂犬病ウイルス、LCMV、西ナイルウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、ウスツウイルス、トスカーナウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン-バールウイルス、サイトメガロウイルス、ウマ脳炎ウイルス、チクングンヤウイルス、ラクロスウイルス、リフトバレー熱ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、A型インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、ヘンドラウイルス、ニパウイルス、エンテロウイルス、カリフォルニア脳炎ウイルス、ポワッサンウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルスおよび日本脳炎ウイルスを含む群からの少なくとも1つのウイルスに対する抗体を捕捉するための手段をさらに含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の方法または担体。
【請求項10】
前記担体が、NMDAR、AMPAR、GAD65、アンフィファイシン、GABA(A)、GABA(B)、DPPX、LgI1、CASPR2、IGLON5、SNARE、NBC1、フロチリンおよびITPRを含む群からの神経学的抗原に対する抗体を捕捉するための手段をさらに含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の方法または担体。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の担体、およびさらに、捕捉された抗体を検出するための手段または試料の存在を検出するための対照を含むキット。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項に記載の担体もしくはキットの、またはボルナウイルスの検出に適したプライマーの、またはヒトにおける脳炎、PNS、脳脊髄炎、白質脳症、網膜炎もしくは視神経萎縮を診断するため、ヒトにおける移植後合併症を予測するため、脳炎もしくは移植後合併症の療法をモニタリングするため、もしくはヒトにおける自己免疫性脳炎と感染によって引き起こされる脳炎とを区別するための、まさにそのようなプローブの、使用。
【請求項13】
請求項8~11のいずれか1項に記載の担体もしくはキット、または自己免疫性脳炎と、感染によって引き起こされる脳炎とを区別するための、NMDARに対する抗体を捕捉するための手段を含む担体の使用。
【請求項14】
脳炎の診断のための診断薬またはキットの製造のための、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-P、VSBV-X、NMDAR、AMPAR、GAD65、アンフィファイシン、GABA(A)、GABA(B)、DPPX、LgI1、CASPR2、IGLON5、SNARE、NBC1、フロチリンおよびITPRまたはそれらのバリアントを含む群からの抗原性ポリペプチドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、辺縁系脳炎、腫瘍随伴症候群(PNS)、脳脊髄炎(encephaloymyelitis)、白質脳症、網膜炎または視神経萎縮を診断する方法であって、好ましくは哺乳類2型ボルナウイルス、さらにより好ましくはVSBV-1、および哺乳類1型ボルナウイルス、さらにより好ましくはBoDV-1を含む群からの、試料中のボルナウイルスを検出するステップを含む方法;BoDV-1-N、BoDV-1-P、VSBV-NおよびVSBV-Pを含む群から選択される少なくとも1つのポリペプチドに対する抗体を捕捉するための手段を含む担体;本発明による担体、ならびにさらに、捕捉した抗体を検出するための手段および試料の存在を検出するための対照を含むキット;ならびに担体またはキットあるいはボルナウイルスの検出に適したプライマーあるいは脳炎を検出するため、移植後合併症を予測するため、脳炎の療法もしくは移植後合併症をモニタリングするため、または自己免疫性脳炎と、感染によって引き起こされる脳炎とを区別するためのまさにそのようなプローブの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳炎は、感染、腫瘍随伴疾患または自己免疫疾患によって引き起こされる脳の炎症である。患者は、発熱、頭痛、麻痺、視覚障害、痙攣、意識消失、ならびに知覚および見当識障害などの多数の非特異的症状に悩まされる。
【0003】
時宜にかなった同定により、多くの脳炎に効果的であるが、疾患の原因に依存してかなり異なる治療アプローチが存在する。細菌によって引き起こされる脳炎は抗生物質により治療でき、ウイルス性脳炎は、アシクロビルなどの抗ウイルス剤の静脈内投与により治療できるが、自己免疫によって引き起こされる脳炎の場合に示されているものは免疫抑制剤の投与である。
【0004】
多くの場合、脳炎は軽度の兆候の場合では全く気付かれない。疾患の治療は早いほどよく、したがって、症状が非特異的で場合によっては軽度であったとしても、早期に確実な方法で診断を行うことができることは特に重要である。不正確に治療されるか、または治療されないと、麻痺、発話障害および精神障害などの永続的な損傷を伴う重篤な疾患を引き起こす可能性がある。細菌性脳炎の場合、死亡率は最大で50%であり、単純ヘルペスによって引き起こされる脳炎の場合、実に70%である。
【0005】
近年、ウイルスまたは自己免疫によって引き起こされる脳炎、例えば、NMDAR(欧州特許第2057466B1)、GABA(A)(欧州特許第2863231A1)、GABA(B)(欧州特許第2483417B1)、DPPX(米国特許第9719993BB)、LgI1(米国特許第9250250BB)、IGLON5(欧州特許第2905622A1)、SNARE(欧州特許第17001205)、NBC1(欧州特許第3026434A1)、フロチリン(欧州特許第3101424A1)およびITPR(欧州特許第3018478A1)に対する自己抗体によって引き起こされる脳炎の多様な兆候が発見されている。
【0006】
それにもかかわらず、脳炎に特有な症状を有する疾患に罹患しているが、正確に診断され得ない多数の患者が依然として存在している(Bloch and Glaser (2007) Diagnostic approaches for patients with suspected encephalitis. Current Infectious Disease Reports (4):315-22)。これは特に辺縁系脳炎を有する患者の群に関係しており、例外なく自己免疫によって引き起こされると文献に記載されている(Melzer et al.(2015)Limbic Encephalitis:Potential Impact of Adaptive Autoimmune Inflammation on Neuronal Circuits of the Amygdala.Front.Neurol.3;6:171)。
【0007】
特に脆弱な群は臓器移植を受ける患者である。いずれにせよ前記患者の弱体化した状態とは別に、長年にわたる薬剤、移植後の高用量の免疫抑制剤の投与は、日和見感染症などの非常に多様な疾患の突然発生を促進する。固形臓器を移植するときの特に重大な問題は神経学的合併症であり、いずれにしても受容者の10%~59%に影響を及ぼす(Senzolo et al.(2009)Neurologic complications after solid organ transplantation. Transpl.Int.(3):269-78,10-59%)。
【0008】
多くの場合、これらの神経学的合併症が何によって引き起こされるのかは不明である。可能性としては、神経学的感染症の症状だけでなく、投与された免疫抑制剤の神経毒性も含まれる。例えば、コルチコステロイドの投与はミオパチーのリスクの増加をもたらす。肝不全もまた、神経学的症状の形態で現れ得る(Shalimar et al.(2015)Management in Acute Liver Failure. J.Clin.Exp.Hepatol.(5):S104-S115)。
【0009】
哺乳動物におけるボルナウイルス感染は100年以上前に既に記載されていた。ウマの場合、哺乳動物ボルナウイルスBoDV-1は脳炎を引き起こすことが知られている。この症例において発症するものは中枢神経系の持続性疾患であり、その結果として、非化膿性髄膜脳炎(脳および脳膜の炎症)が発症する。病気の動物は、行動上の問題によって識別される運動障害を発症し、多くの場合、感染の結果として死亡する。
【0010】
Hoffmann et al.(2015)A variegated squirrel bornavirus associated with fatal human encephalitis, N Engl J Med 2015;373,pages 154-162は、カワリリス(variegated squirrel)に影響を及ぼすボルナウイルス(「VSBV-1」、すなわち、カワリリスボルナウイルス-1)による、既存の状態(高血圧、糖尿病および/または肥満)を有する複数の高齢の男性患者の末期ウイルス感染を記載している。全ての患者は血栓症に罹患し、肺塞栓症を引き起こした。患者は脳炎に罹患したが、その脳炎は辺縁系脳炎ではなく、辺縁系が分布していない大脳皮質領域において浮腫病変を伴う症候群であった。完全BoDV-1ウイルスに感染したネコ細胞株に基づく間接蛍光抗体試験(IIFT)が、ボルナウイルスに対する抗体を検出するために使用された。
【0011】
2000年代初頭、ある研究グループが、精神障害と、ウマに影響を及ぼす種のボルナウイルスによる感染との間の推定される関連性について報告した。これらの結果は、独立した専門家によって再現され得ず、したがって専門分野においては認められていない。それどころか、Robert Koch Instituteは、「現在の見解によれば、Bode et al.(2001)に記載されている試験は、意味のある診断には不適切であると見なさなければならない。」という結論に達している(2017年12月14日に検索した、https://www.rki.de/DE/Content/Forsch/Forschungsschwerpunkte/NeueRisiken/NeuartigeErreger/Einstellung_Projekt_Bornavirus.html)。ヒトにおけるBoDV-1によって引き起こされる脳炎は、これまで、先行技術には記載されていない。
【0012】
プレス声明において、Friedrich Loffler Instituteは、VSBV-1を検出するための試験の開発について報告している(2017年12月14日に検索した、http://www.wir-sind-tierarzt.de/2015/07/bestaetigt-bunthoernchen-uebertragen-bornaviren/)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許第2057466B1
【文献】欧州特許第2863231A1
【文献】欧州特許第2483417B1
【文献】米国特許第9719993BB
【文献】米国特許第9250250BB
【文献】欧州特許第2905622A1
【文献】欧州特許第17001205
【文献】欧州特許第3026434A1
【文献】欧州特許第3101424A1
【文献】欧州特許第3018478A1
【非特許文献】
【0014】
【文献】Bloch and Glaser (2007) Diagnostic approaches for patients with suspected encephalitis. Current Infectious Disease Reports (4):315-22
【文献】Melzer et al.(2015)Limbic Encephalitis:Potential Impact of Adaptive Autoimmune Inflammation on Neuronal Circuits of the Amygdala.Front.Neurol.3;6:171
【文献】Senzolo et al.(2009)Neurologic complications after solid organ transplantation. Transpl.Int.(3):269-78,10-59%
【文献】Shalimar et al.(2015)Management in Acute Liver Failure. J.Clin.Exp.Hepatol.(5):S104-S115
【文献】Hoffmann et al.(2015)A variegated squirrel bornavirus associated with fatal human encephalitis, N Engl J Med 2015;373,pages 154-162
【文献】https://www.rki.de/DE/Content/Forsch/Forschungsschwerpunkte/NeueRisiken/NeuartigeErreger/Einstellung_Projekt_Bornavirus.html
【文献】http://www.wir-sind-tierarzt.de/2015/07/bestaetigt-bunthoernchen-uebertragen-bornaviren/
【発明の概要】
【0015】
これを背景として、本発明の目的は、好ましくは、先行技術に記載されているシステムと比較して、特に、特異性および/または感受性に関して改善された診断確実性により、ウイルス感染、より特にはボルナウイルス感染を診断するための改善された検出システムを提供することである。
【0016】
さらに、本発明の目的は、特に、自己免疫性脳炎と、感染によって引き起こされる脳炎、特にウイルス感染によって引き起こされる脳炎、さらにより好ましくは辺縁系脳炎とを区別することを可能にする、辺縁系脳炎に焦点を当てた、脳炎の診断、より特には鑑別診断のための検出システムを提供することである。
【0017】
さらに、本発明の目的は、移植後合併症、特に神経症状を伴う合併症を診断、治療および予防することを可能にする検出システムを提供することである。
【0018】
本発明の目的は、添付の独立請求項および従属請求項の主題によって達成される。
【0019】
第1の態様では、本発明の目的は、辺縁系脳炎、PNS、脳脊髄炎、白質脳症、網膜炎または視神経萎縮を診断する方法であって、試料、好ましくはヒト試料中の、好ましくは哺乳類2型ボルナウイルス、さらにより好ましくはVSBV-1、および哺乳類1型ボルナウイルス、さらにより好ましくはBoDV-1を含む群からのボルナウイルスを検出するステップを含む方法によって達成される。
【0020】
第2の態様では、本発明の目的は、神経移植後合併症を予測する方法または臓器ドナーもしくはドナー臓器をスクリーニングする方法であって、試料、好ましくはヒト試料中のボルナウイルスを検出するステップを含む方法によって達成される。
【0021】
第3の態様では、本発明の目的は、自己免疫性脳炎と、感染によって引き起こされる脳炎とを区別するための方法であって、試料、好ましくはヒト試料中のボルナウイルスを検出するステップを含む方法によって達成される。
【0022】
好ましい実施形態では、検出は、好ましくはボルナウイルスのN、PおよびXタンパク質を含む群からの、試料中のボルナウイルス特異的ポリペプチドに対する抗体を検出することによって達成される。
【0023】
さらなる好ましい実施形態では、試料は、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-Xを含む群から選択される少なくとも1つのポリペプチドに対する抗体を捕捉するための手段を含む担体と接触される。
【0024】
さらに好ましい実施形態では、捕捉された抗体は、酵素活性、蛍光または化学発光によって検出される。
【0025】
さらなる好ましい実施形態では、担体は、膜ベースのイムノブロット、好ましくはウェスタンブロットまたはラインブロット、1つまたは複数のビーズ、免疫蛍光のために配置されたバイオチップ、およびELISAマイクロタイタープレートを含む群から選択される。
【0026】
第4の態様では、本発明の目的は、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-Xを含む群から選択される少なくとも1つのポリペプチドに対する抗体を捕捉するための手段を含む担体によって達成される。
【0027】
好ましい実施形態では、担体は、単純ヘルペスHSV-1、単純ヘルペスHSV-2、ヒトヘルペスウイルスHHV-6、ヒトヘルペスウイルスHHV-7、狂犬病ウイルス、LCMV、西ナイルウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、ウスツウイルス、トスカーナウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン-バールウイルス、サイトメガロウイルス、ウマ脳炎ウイルス、チクングンヤウイルス、ラクロスウイルス、リフトバレー熱ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、A型インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、ヘンドラウイルス、ニパウイルス、エンテロウイルス、カリフォルニア脳炎ウイルス、ポワッサンウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルスおよび日本脳炎ウイルスを含む群からの少なくとも1つのウイルスに対する抗体を捕捉するための手段をさらに含む。
【0028】
好ましい実施形態では、担体は、NMDAR、AMPAR、GAD65、アンフィファイシン、GABA(A)、GABA(B)、DPPX、LgI1、CASPR2、IGLON5、SNARE、NBC1、フロチリンおよびITPRを含む群からの神経学的抗原に対する抗体を捕捉するための手段をさらに含む。
【0029】
第5の態様では、本発明の目的は、本発明による担体、およびさらに、捕捉された抗体を検出するための手段または試料の存在を検出するための対照を含むキットによって達成される。
【0030】
第6の態様では、本発明の目的は、本発明による担体またはキット、あるいはボルナウイルスの検出に適したプライマー、あるいは脳炎、PNS、脳脊髄炎、白質脳症、網膜炎もしくは視神経萎縮を診断するため、移植後合併症を予測するため、脳炎もしくは移植後合併症の療法をモニタリングするため、または自己免疫性脳炎と、感染によって引き起こされる脳炎とを区別するためのボルナウイルスに対する抗体を検出するためのまさにそのようなプローブまたは手段の使用によって達成される。
【0031】
第7の態様では、本発明の目的は、本発明による担体もしくはキットまたは自己免疫性脳炎と、感染によって引き起こされる脳炎、好ましくは辺縁系脳炎とを区別するための、NMDARに対する抗体を捕捉するための手段を含む担体の使用によって達成される。
【0032】
第8の態様では、本発明の目的は、脳炎の診断、好ましくは辺縁系脳炎の鑑別診断のための診断薬またはキットの調製のための、BoDV-1-N、BoDV-1-P、VSBV-N、VSBV-P、NMDAR、AMPAR、GAD65、アンフィファイシン、GABA(A)、GABA(B)、DPPX、LgI1、CASPR2、IGLON5、SNARE、NBC1、フロチリンおよびITPRまたはそれらのバリアントを含む群からの抗原性ポリペプチドの使用によって達成される。
【0033】
第9の態様では、本発明の目的は、移植後合併症または脳炎、好ましくは辺縁系脳炎の予防または治療のためのボルナウイルスに対して効果的な薬剤の使用によって達成される。
【0034】
本発明は、患者、特にヒト患者におけるボルナウイルスによる感染が、関連試料がボルナウイルスの種に対する抗体だけでなく、BoDV-1およびVSBVに対する抗体についても試験される場合、特に確実に診断され得るという本発明者らの驚くべき発見に基づく。
【0035】
さらに、本発明は、辺縁系脳炎が自己免疫疾患の形態で発症するだけでなく、ウイルス感染、特にボルナウイルスによる感染の結果として発症する可能性があり、それがボルナウイルスに対する抗体の検出によって診断され得るという本発明者らの驚くべき発見に基づく。
【0036】
さらに、本発明は、神経学的症状および疾患、それぞれ脳脊髄炎、白質脳症、網膜炎または視神経萎縮を含む移植後合併症が、ボルナウイルス、特にBoDV-1の伝染によって引き起こされる可能性があり、ボルナウイルスに対する抗体の検出を介して診断および適切に治療され得るという本発明者らの驚くべき発見に基づく。さらに、ボルナウイルスに対する抗体をその試料中で検出することによって、臓器ドナーおよびドナー臓器の品質を検査することが可能である。同様に、臓器受容者の予防的抗ウイルス治療または免疫化が適応されるかどうかを明らかにすることが可能である。
【0037】
好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「辺縁系脳炎」という用語は、MRI検査が、辺縁系に属する脳領域における異常なシグナル強度、特に内側側頭(temporo-medial)シグナルの上昇であって、より特には数日以内に正常化しないものを示す、中枢神経系の神経疾患を意味すると理解される。さらにより好ましくは、短期記憶障害、側頭葉発作および情動障害からなる群からの3つの症状のうちの少なくとも1つが発症する。特徴的なMRI記録は、文献、例えば、Simon/Greenberg/Aminoff, Clinical Neurology,7th edition,2009,page 66(
図1~23)に開示されている。
【0038】
好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「診断する」という用語は、対象が疾患に罹患しているか、または一般の人よりも高い確率で疾患に罹患しているか、または過去に罹患していたか、または将来罹患するかどうかについて、およびさらに疾患が進行中であるかどうか、もしくは疾患が将来どのように発症するかについて、またはある特定の治療が有効であるかどうかを評価するために、評価を支援するか、または最初に評価を可能にする情報が得られている処置を意味すると理解される。例えば、ドナーまたはドナー臓器からの試料中のボルナウイルスの検出は、ボルナウイルスによって引き起こされる移植後合併症の確率が増加することを示す。さらに、このような検出は、患者が、例えばリバビリンによる抗ウイルス治療から利益を受けることができるが、自己抗体の形成を阻止または低減させることを目的とする、免疫抑制処置から利益を受けることができないことを示す。言い換えれば、「診断する」という用語は、診断を行うことだけでなく、疾患の進行または疾患の場合の療法の成功の予測およびモニタリングも包含する。
【0039】
好ましくは、診断は、抗体が存在するかどうかを単に検出し、抗体の検出可能な濃度が試料中に存在するかどうかを決定できれば十分である。好ましい実施形態では、診断される患者における抗体の相対濃度が平均的な健康なヒトよりも高いかどうかが決定される。濃度が平均的な健康なヒト由来の試料におけるよりも1.1倍、より好ましくは1.2倍、1.5倍、2倍、5倍、10倍、20倍、25倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、10000倍または100000倍高いかどうかが決定され得る。
【0040】
ボルナウイルス、好ましくはVSBV-1またはBoDV-1を含む群からのボルナウイルスに対する抗体が検出され得る場合、このことは、患者がボルナウイルスに感染している可能性が高いことを示すか、または、脳炎、好ましくは辺縁系脳炎が、自己免疫疾患によってではなく、ウイルス感染によって引き起こされることを示す。さらに、脳炎に罹患している患者におけるこのような抗体の検出は、前記患者がPNS、したがってPNS関連がん、例えば小細胞肺がんに罹患していないことを示す。
【0041】
ボルナウイルスに対する抗体の検出、およびそれから推測されるボルナウイルスによる感染は、抗ウイルス薬またはそれぞれの治療作用による治療的または予防的処置の根拠となる。例えば、リバビリンがボルナウイルスに対して有効であることを示すことが可能である。他方で、免疫抑制剤の投与は、重大な副作用と関連するだけでなく、ウイルスおよび日和見感染に対する患者の免疫系を弱めるので、完全に失敗するであろう。ボルナウイルスに対する抗体の不在および/または好ましくはNMDARに対する自己抗体の存在は、例えば、リツキシマブ、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、静注用免疫グロブリン、タクロリムス、シクロスポリン、メトトレキサートおよびアザチオプリンを含む群からの免疫抑制剤による治療的または予防的処置の根拠となる。
【0042】
好ましい実施形態では、診断される患者が、ボルナウイルスに対する、1つまたは複数の、好ましくは2つ以上または3つ以上の異なる抗体を有するかどうかが識別され、抗体は、任意選択で、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-X、より好ましくはBoDV-1-N、BoDV-1-P、VSBV-NおよびVSBV-Pに対する抗体の群から選択される。より特には、前記群からの抗原に対する抗体の検出は、患者が初期または潜伏感染に罹患していることを示し得、一方、前記群からの1つより多い抗原、好ましくは2つ、3つまたは4つの抗原に対する抗体の検出は臨床的に明らかな感染を示す。
【0043】
当業者は、このような検出が一般にそれ自体では総合診断を可能にせず、さらなる態様、例えば、試料、病歴、臨床症状、既往歴またはイメージング法、例えばMRIからの結果において決定されるさらなるパラメータを考慮しなければならないことを理解する。当業者は、本発明による方法の価値は間接診断または鑑別診断を実施することが可能であることであり得、ここで、ある疾患を除外することは、患者が同様の症状を有する別の疾患に罹患していることを示すことをさらに理解する。好ましい実施形態では、ボルナウイルスに対する抗体の検出は、患者が自己免疫疾患ではない辺縁系脳炎に罹患していることを示し得る。さらに、そのような検出は、患者が腫瘍随伴症候群および/またはがん、好ましくは小細胞肺がんに罹患していないことを示し得る。反対に、NMDA受容体に対する自己抗体の検出は、患者がウイルスによって引き起こされる脳炎、特に辺縁系脳炎に罹患していないことを示し得る。
【0044】
好ましい実施形態では、当業者は、優先日における関連する教科書、例えば、Simon/Greenberg/Aminoff, Clinical Neurology,7th edition,2009から明らかなように、本明細書に言及されている臨床症状を重視する。
【0045】
ボルナウイルスは、好ましくは哺乳動物に影響を及ぼすボルナウイルスである。さらにより好ましくは、ボルナウイルスはヒトに影響を及ぼすボルナウイルスである。特に好ましい実施形態では、ボルナウイルスは、哺乳類2型ボルナウイルス、さらにより好ましくはVSBV-1、および哺乳類1型ボルナウイルス、さらにより好ましくはBoDV-1を含む群から選択される。
【0046】
好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「哺乳類1型ボルナウイルス」は、AJ311524_BoDV-2_1998、AJ311522_BoDV-1_1980、BDU04608_BoDV-1_1929、AJ311523_BoDV-1_1994、AB246670_BoDV-1_2004、およびAB258389_BoDV-1_1997を包含する。原稿が提出された、Tappe et al.(2018)Fatal limbic encephalitis in a zoo animal caretaker caused by variegated squirrel bornavirus: Zoonotic bornaviruses as occupational riskを参照のこと。
【0047】
好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「哺乳類2型ボルナウイルス」は、LT594387_BH122/15-2_C.prevostii_2015、KY488724_BH22/16-36_C.prevostii_2016、KY488723_BH22/16-37_C.prevostii_2016、KY488727_BH22/16-16_T.swinhoei_2016、LT594389_BH49/15-1_C.prevostii_2015、KY488726_BH22/16-34_C.prevostii_2016、LT594388_BH133/15_C.prevostii_2015、KY488722_BH22/16-38_C.prevostii_2016、KY488725_BH22/16-35_C.finlaysonii_2016、LT594383_BH3/16-2_C.prevostii_2016、LT594381_BH122/15-1_C.prevostii_2015、LT594382_BH48/15-1_S.variegatoides_2015、LN713681_H.sapiens_2015、LN713680_S.variegatoides_2015、LT594386_BH3/16-1_C.prevostii_2016、LT594384_BH49/15-6_S.variegatoides_2015、LT594385_BH49/15-11_S.variegatoides_2015、LT594391_BH48/15-2_S.variegatoides_2015、LT594390_BH75/15_S.variegatoides_2015、KY488728_BH21/16_C.prevostii_2016、MF597762_BH55/16_H.sapiens_2016およびKY488729_BH12/16_C.prevostii_2016を包含する。原稿が提出された、Tappe et al.(2018)Fatal limbic encephalitis in a zoo animal caretaker caused by variegated squirrel bornavirus: Zoonotic bornaviruses as occupational riskを参照のこと。
【0048】
全てのボルナウイルスは、原稿が提出された、Tappe et al.(2018)Fatal limbic encephalitis in a zoo animal caretaker caused by variegated squirrel bornavirus: Zoonotic bornaviruses as occupational riskによって公開されているデータと組み合わせて、Shahhosseini N, Luhken R, Jost H, Jansen S, Borstler J, Rieger T, Kruger A, Yadouleton A, de Mendonca Campos R, Cirne-Santos CC, Ferreira DF, Garms R, Becker N, Tannich E, Cadar D, Schmidt-Chanasit J.(2017)Infect Genet Evol.;55:260-268に記載されている方法論を使用して全ゲノムシークエンシングによって同定された。
【0049】
試験される試料は、抗体が検出される場合、患者由来の抗体の代表的なセットを含有する試料である。好ましくは、それは、血清、血漿、唾液およびCSFを含む群から選択される。
【0050】
特に好ましい実施形態では、ウイルスはまた、ボルナウイルス特異的プライマーおよびプローブを使用する分子遺伝学的手段、好ましくはPCRにより、さらにより好ましくは逆転写PCRによって同定され、検出される。プライマーおよび/またはプローブはBoDV-1および/またはVSBV-1に特異的であり得る。VSBV-1を検出するための例示的なプライマー、プローブおよび対応するプロトコールは、Hoffmann et al.(2015)A variegated squirrel bornavirus associated with fatal human encephalitis, N Engl J Med 2015;373,pages 154-162に記載されている。全ての既知の哺乳動物ボルナウイルスおよび鳥類に影響を及ぼすボルナウイルスの大部分を検出するための広範囲の試験のための適切な試薬および方法、ならびにBoDV-1を検出するための試薬および方法は、Bourg et al.(2016)Virology Journal;13:151に記載されている。
【0051】
要するに、ボルナウイルスは、市販のキット[MagMAX(商標) Viral RNA Isolation Kit (Life Technologies, Carlsbad, California, USA)]を使用して試料からウイルス核酸を最初に抽出することによって、分子遺伝学的手段によりヒト試料中で検出され得る。その後、ウイルスゲノムは、シークエンシング[Schlottau et al.,2018]、および得られた配列と文献からの既知の配列、例えば[Schlottau et al.,2018;GenBank:VSBV-1についてLN713681;BoDV-1についてKU748787、AJ311521、AY374521、AY374519;BoDV-2についてAJ311524]との比較によって、決定され得る。
【0052】
あるいは、ボルナウイルスはRT-PCRによって検出され得る。この目的のために、ウイルスRNAは、Viral Mini Kit(Qiagen)などの適切なキットを使用して抽出され得る。ボルナウイルスの検出は、Bourg et al.(2016)に記載されている、プライマー:「フォワードプライマーBorna-2048-F」:5’-CGC GAC CMT CGA GYC TRG T-3’および「リバースプライマーBorna-2118-R」:5’-GAC ARC TGY TCC CTT CCK GT-3’を使用した、P遺伝子の61bp断片およびX遺伝子の末端の増幅によって達成され得る。検出はアガロースゲル電気泳動によって達成される。BODV-1の定量的検出は、以下のプライマーおよびプローブ:BoDV1-1288-F TAGTYAGGAGGCTCAATGGCA、BoDV-1449-R GTCCYTCAGGAGCTGGTC、BoDV1-1346-プローブ FAM-AAGAAGATCCCCAGACACTACGACG-BHQ1(Schlottau et al.,2018)を使用した、XおよびP遺伝子の161bp断片の増幅によって達成され得る。BODV-1の定量的検出は、以下のプライマーおよびプローブ:BoDV1-2262-F CAATYAATGCAGCYTTCAATGTCTT、BoDV1-2336-R GAATGTCYGGGCCGAGAG、BoDV-2316-プローブ FAM-CCARCACCAATGTTCCGAAGCCG-BHQ1(Schlottau et al.,2018)を使用した、MおよびG遺伝子の74bp断片の増幅によって達成され得る。
【0053】
ウイルスはまた、組織切片の検査による免疫組織化学的手段によって検出され得る。これは、血液試料がないときにドナー臓器を検査する場合の選択肢である。
【0054】
好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「移植後合併症」という用語は、身体部分、好ましくは組織または固形臓器、さらにより好ましくは、肝臓、腎臓、肺、腸、膵臓および心臓を含む群から選択される固形臓器の移植後の合併症を意味することが理解される。特に好ましい実施形態では、合併症は、神経学的症状の発症を包含し、脳炎、好ましくは辺縁系脳炎を包含し得る。さらに特に好ましい実施形態では、感染は、「移植後合併症」の場合に発症する。好ましい実施形態では、神経学的症状は、四肢麻痺、神経障害、意識混濁、構音障害、運動緩慢、振戦、不安定歩行、認知能力および記憶の障害ならびに神経炎を含む群から選択される。特に好ましい実施形態では、移植後合併症は、視覚機能の障害、好ましくは神経学的眼科症状および/または疾患、特に好ましくは視神経萎縮を包含する。
【0055】
時間の観点から、「移植後合併症」は、好ましくは、受容者に対する外科処置の後、好ましくは1カ月まで、処置後の最初の6カ月または6カ月より後に発症する合併症である。
【0056】
臓器ドナーまたはドナー臓器のスクリーニングのために、移植が実施される前に、適切な試料がドナーまたはそれらの臓器から採取され得る。ドナーの場合、血液、唾液またはCSF試料が好ましい。臓器の場合、試験されるものは、血液または組織残留物、それぞれ試料である。組織は、肝臓、腎臓、肺、腸、膵臓、心臓および脳を含む群から選択される臓器に由来し得る。
【0057】
好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「自己免疫性脳炎」は、1つまたは複数の自己抗体の発生に関連する脳炎を意味することが理解される。自己抗体は、好ましくは神経自己抗原に対する自己抗体であり、好ましくは、NMDAR(欧州特許第2057466B1)、GABA(A)(欧州特許第2863231A1)、GABA(B)(欧州特許第2483417B1)、DPPX(米国特許第9719993BB)、LgI1またはCASPR2(米国特許第9250250BB)、IGLON5(欧州特許第2905622A1)、SNARE(欧州特許第17001205)、NBC1(欧州特許第3026434A1)、フロチリン(欧州特許第3101424A1)、DAGLA(欧州特許第18196867)、SNARE(欧州特許第17001205)およびITPR(欧州特許第3018478A1)を含む群から選択される。自己抗原の適切な配列は括弧内に示された特許明細書に開示されている。
【0058】
好ましい実施形態では、ボルナウイルスは試料中で検出される。このことは、ウイルスもしくはそれに由来する分子またはウイルスもしくはそれに由来する分子に対する患者抗体が試料中で検出されることを意味する。
【0059】
ボルナウイルスによる感染によって引き起こされる脳炎ではなく、自己免疫により引き起こされる脳炎、より特にはNMDA受容体脳炎は、高い頻度で腫瘍の発症と関連する。好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「PNS」(神経学的腫瘍随伴症候群)という用語は、腫瘍の存在によって、例えば、エピトープを形成するか、またはホルモンなどの物質を放出するか、またはそれらを増加した量で放出する腫瘍(その腫瘍が由来する細胞は同等の状況下で放出しないか、またはそのような量で放出しない)によって、間接的に引き起こされる全身性疾患を意味することが理解される。直接的または間接的な結果は、神経系の構造または部分に対して優先的に指向され、いずれの場合にも神経学的症状の発症に直接的または間接的に関連し、それらを優先的に引き起こす自己抗体の形成であり得る。NMDA受容体脳炎は、卵巣の奇形腫の発症と関連し得ることが知られている。腫瘍は、自己免疫によって引き起こされる脳炎の場合、検出できないことがある。
【0060】
本発明による検出は、ボルナウイルスに特異的なポリペプチドまたはボルナウイルスに対する抗体、好ましくはボルナウイルスに対する抗体の検出によって達成され得る。抗体は、好ましくはBoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-X、好ましくはBoDV-1-N、BoDV-1-P、VSBV-NおよびVSBV-Pを含む群からのウイルスポリペプチドに対する抗体である。特に好ましい実施形態では、患者が、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-Xを含む群からのウイルスポリペプチドに対する1つ、2つ、3つ、4つまたは1つより多い、2つより多い、3つより多い、4つより多い、5つより多いもしくは6つより多い抗体を有するかどうかを検出する。
【0061】
好ましい実施形態では、担体は、捕捉手段として、ボルナウイルスの約40kDaの核タンパク質を含む。好ましい実施形態では、担体は、捕捉手段として、ボルナウイルスの約23kDaのリンタンパク質を含む。好ましい実施形態では、担体は、捕捉手段として、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-X、好ましくはBoDV-1-N、BoDV-1-P、VSBV-NおよびVSBV-P、またはそれらのバリアントを含む群からの1つまたは複数の、2つより多い、3つより多い、4つより多い、5つより多いもしくは6つより多いポリペプチドを含む。好ましい実施形態では、担体は、BoDV-1-NおよびBoDV-1-Pまたはそのバリアントを含む。好ましい実施形態では、担体は、VSBV-NおよびVSBV-Pまたはそれらのバリアントを含む。好ましい実施形態では、担体は、BoDV-1-PおよびVSBV-Pまたはそれらのバリアントを含む。好ましい実施形態では、担体は、VSBV-NおよびBoDV-1-Nまたはそれらのバリアントを含む。
【0062】
好ましい実施形態では、「BoDV-1-N」、「BoDV-1-P」、「VSBV-N」および「VSBV-P」は、本特許出願の優先日において、それぞれ、Uniprot entries P0C796(BoDV-1-N)、P0C798(BoDV-1-P)、A0A0H5BWD6(VSBV-N)およびA0A0H5BWK0(VSBV-P)に記載されている配列を意味すると理解される。VSBV-Xは、好ましくは配列ART67059.1を有し、BoDV-1-Xは、好ましくは配列AIK27011.1を有する。全ての項目について、優先日に利用可能であったデータベースのバージョンおよび当該日に検索可能であったデータの状態が関連する。好ましい実施形態では、ボルナウイルスのN、PまたはXタンパク質は、配列P0C796、P0C798またはAIK27011.1に対して少なくとも60、70、80、85、90、95、98または99%の配列同一性を有するタンパク質、特に好ましくはそれらのバリアントを意味すると理解される。
【0063】
好ましい実施形態では、本発明に従って使用される担体は、1つまたは複数の抗体を捕捉するための手段を含む、医療機器、好ましくは診断機器である。本明細書に使用される場合、「抗体を捕捉するための手段」という用語は、別の抗体(特に、相同ポリペプチドに結合し偽陽性結果を優先的に誘発し得る別の抗体の形態である別の抗体)よりも強い結合を生じるような、検出しようとしている抗体と特異的に結合する薬剤を意味すると理解される。
【0064】
特に、神経学的症状を有する患者において、患者が自己免疫によって引き起こされる脳炎または感染によって引き起こされる脳炎、好ましくは辺縁系脳炎に罹患しているかどうかを区別することを目的とし得る鑑別診断に関しては、一方ではNMDARに対する抗体を、また感染において類似または混同しやすい症状を引き起こすBoDV-1-N、BoDV-1-P、VSBV-N、VSBV-Pまたはそれらに由来する他のウイルスもしくは抗原に対する抗体を、同時に捕捉および/または検出することが有利である。この目的に適した担体は、NMDARおよび/またはBoDV-1-N、BoDV-1-P、VSBV-N、VSBV-Pを含む群からの少なくとも1つの抗原に加えて、別のウイルスの少なくとも1つの抗原、好ましくは他のウイルスのいくつかの抗原を含み得る。さらなる自己抗体を検出することができる他の抗原も有用である。この場合、抗原による陽性結果は1つの試験手順内で達成され得、排除に基づく診断による作業をする必要がない可能性が高い。
【0065】
特に好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「特異的に結合する」という用語は、抗体の場合、1×10-5M、より好ましくは1×10-7M、より好ましくは1×10-8M、より好ましくは1×10-9M、より好ましくは1×10-10M、より好ましくは1×10-11M、より好ましくは1×10-12Mである解離定数、またはより強い結合反応によって特徴付けられる結合反応において、対応する抗原に対して結合することを意味する。好ましくは、解離定数は、この文脈において、25℃にてBiacore機器を使用し、pH7のPBS緩衝液中で表面プラズモン共鳴によって測定され、製造業者によって供給されるソフトウェアを使用して計算される。
【0066】
特に好ましい実施形態では、抗体を捕捉するための手段は、検出しようとしている抗体またはそのバリアントによって認識されるエピトープを有するポリぺプチドである。あるいは、検出しようとしている抗体に対して適切な結合能力を有するようなポリペプチド、例えば、ペプトイド、ベータ-ペプチドおよび非天然アミノ酸を含有するペプチドのペプチド模倣物を使用することも可能である。当業者は、このような分子およびそれらの設計に精通している(Pelay Gimeno M, Glas A, Koch O, Grossmann TN(2015).“Structure-based design of inhibitors of protein-protein interactions: Mimicking peptide binding epitopes”.Angewandte Chemie International Edition.54(31):8896-8927)。捕捉手段としての例示的なポリペプチドは、ヒトNMDA受容体のNR1サブユニット、その二量体またはNMDA受容体に対する抗体の捕捉のためのNR2A(欧州特許第2057466号からの配列番号3)もしくはNR2B(欧州特許第2057466号からの配列番号1)もしくはNR2C(欧州特許第2057466B1号からの配列番号5)などのNMDA受容体の他のサブユニットを有するその複合体に対する抗体の捕捉のための配列番号7、ヒトGABA(A)受容体に対する抗体の捕捉のための欧州特許第2863231A1号からの配列番号1および/または配列番号2、ヒトGABA(B)受容体に対する抗体の捕捉のための欧州特許第2483417B1号からの配列番号1、配列番号2または配列番号3、DPPXに対する抗体の捕捉のための国際公開第2014/041035A1号からの配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4、LgI1またはCASPR2(米国特許第9250250BB号)に対する抗体の捕捉のための米国特許第9250250BB号からの配列番号2、IGLON5に対する抗体の捕捉のための欧州特許第2905622A1号からの配列番号1、NSFに対する抗体の捕捉のための欧州特許第17001205号からの配列番号1、STX1Vに対する抗体の捕捉のための欧州特許第17001205号からの配列番号3、VAMP2に対する抗体の捕捉のための欧州特許第17001205号からの配列番号6、NBC1に対する抗体の捕捉のためのUniprotからの配列Q9Y6R1(欧州特許第3026434A1号を参照のこと)、フロチリンに対する抗体の捕捉のためのO75955(フロチリン1、Uniprot)および/またはQ14254(フロチリン2、Uniprot)(欧州特許第3101424A1号を参照のこと)ならびにITPRに対する抗体の捕捉のためのQ14643(Uniprot)(欧州特許第3018478A1号を参照のこと)ならびに各場合、それらのバリアントを包含する。捕捉手段は、ウイルス自体、好ましくは、ウイルスに感染している、細胞、より好ましくは哺乳動物細胞の形態であってもよい。細胞は、好ましくは単離および/または精製される。
【0067】
本発明に従う教示は、場合により暗に、今後まとめて「完全長ポリペプチド」と称される配列番号、またはデータベースコードもしくは他の何らかの手段の形態で、本明細書に指定される特定のポリペプチドの野生型配列または参照配列を使用することによって実施することができるだけではなく、前記配列のバリアントを使用することによっても実施することができる。
【0068】
特に好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「バリアント」という用語は、この文脈において、C末端および/またはN末端において1つまたは複数のアミノ酸によって完全長ポリペプチドに対して切断されている完全長ポリペプチドの少なくとも1つの断片を意味する。このような断片は、完全長ポリペプチドの配列由来の5、6、7、8、10、12、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500または600個の連続するアミノ酸、好ましくは10個またはそれ以上の長さを含有してもよい。
【0069】
さらなる好ましい実施形態では、本明細書に使用される場合、「バリアント」という用語は、断片だけではなく、選好度が増加していく順で、完全長ポリペプチドまたはその断片に対して少なくとも40、50、60、70、75、80、85、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有し、生物活性、例えば、完全長ポリペプチド抗原に特異的な抗体に結合する抗原の能力に必須の任意のアミノ酸の欠失または非保存的置換がない、アミノ酸配列を有するポリペプチドも包含する。先行技術は、例えば、Arthur Lesk(2008),Introduction to Bioinformatics, Oxford University Press,2008,third editionにおいてアミノ酸配列の配列同一性を確立するための方法を開示している。好ましい実施形態では、この目的のために標準的な設定を使用するClustalWソフトウェア(Larkin, M. A., Blackshields, G., Brown, N. P., Chenna, R., McGettigan, P. A., McWilliam, H., Valentin, F., Wallace, I. M., Wilm, A., Lopez, R., Thompson, J. D., Gibson, T. J., Higgins, D. G.(2007).Clustal W and Clustal X version 2.0. Bioinformatics,23,2947-2948)が使用される。
【0070】
さらに、本発明に従って使用されるポリペプチドまたはそのバリアントは、化学修飾、例えば、同位体標識、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、脱カルボキシル化、シトルリン化、メチル化、ヒドロキシル化などの共有結合修飾を有してもよい。
【0071】
バリアントはまた、他の既知のポリペプチドまたはそのバリアントとの融合タンパク質、好ましくは精製タグ、さらにより好ましくはHisタグ、チオレドキシン、マルトース結合タンパク質、ストレプトアビジン、グルタチオンS-トランスフェラーゼまたはそれらのバリアントを含む群からの精製タグとの融合タンパク質であってもよく、好ましくは、完全長ポリペプチドに対して少なくとも70、75、80、85、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する活性部分またはドメインであってもよいか、またはそれらを含んでもよい。好ましい実施形態では、「活性部分またはドメイン」という用語は、完全長ポリペプチドの断片またはバリアントを意味すると理解され、両方の場合、それらは、完全長ポリペプチドの生物活性の少なくともいくらかを保持する。
【0072】
完全長ポリペプチドのバリアントは生物活性を有することが必須である。好ましい実施形態では、生物活性は、完全長ポリペプチドに特異的に結合する抗体を捕捉する抗原の能力である。したがって、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-Xのバリアントは、それぞれ、BoDV-1-N、BoDV-1-P、BoDV-1-X、VSBV-N、VSBV-PおよびVSBV-Xに対する抗体を捕捉する能力を有する。好ましくは、抗体は、特定の疾患に罹患している患者の血液中に特異的に存在するものである。例えば、ボルナウイルスに対する抗体を捕捉するための抗原のバリアントは、ボルナウイルスの前記抗原に対する患者由来の抗体に特異的に結合する能力を有する。これが当てはまるかどうかは、実施例1に記載されるイムノブロットを使用して決定され得る。
【0073】
本発明によるバリアントは、例えば、配列番号1(VSBV-Nのバリアント)、配列番号3(VSBV-P)、配列番号4(BoDV-1-N)および配列番号5(BoDV-1-P)を包含する。
【0074】
好ましい実施形態では、捕捉手段は、特に好ましくは組換え体である単離されたおよび/または精製されたポリペプチドである。「単離された」ポリペプチドは、この文脈において、ポリペプチドがその天然環境から除去されたことを意味すると理解され得る。「精製された」ポリペプチドは、好ましい実施形態では、好ましくは、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーを含む群から選択されるクロマトグラフ法を使用して、その天然環境における濃度および/または純度に対して濃縮されたポリペプチドを意味すると理解される。特に好ましい実施形態では、ポリペプチドは、それが少なくとも40、50、60、70、80、90、95、98、99または99.5%の純度を有する場合、精製されており、これは、視覚的に、または好ましくはクマシー染色後のSDS-PAGEゲル上のバンドの強度の測定によって評価され得る。
【0075】
ポリペプチドは、組織または細胞、好ましくは組換え組織または組換え細胞の形態で提供され得る。細胞は、好ましくは真核細胞、より好ましくは昆虫、植物または哺乳動物細胞、さらにより好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくはヒト細胞である。
【0076】
ポリペプチドは、折り畳まれた形態または折り畳まれていない形態で提供され得る。好ましくは、折り畳みは、測定を可能にし、タンパク質がその三次元折り畳みをとることができる緩衝液中、例えばpH7の10mMリン酸ナトリウム中でのCD分光分析によって測定される(例えば、Banaszak L. J.(2008),Foundations of Structural Biology, Academics PressまたはTeng Q.(2013),Structural Biology:Practical Applications,Springerを参照のこと)。好ましくは、タンパク質は、検出しようとしている抗体によって認識される折り畳みをとる。
【0077】
捕捉手段は、好ましくは担体上に、さらにより好ましくは共有結合または非共有結合を介して固定化される。
【0078】
好ましい実施形態では、抗体は、捕捉後、免疫拡散、免疫電気泳動、光散乱、凝集、放射能、酵素活性、(電気)化学発光および免疫蛍光を含む群からの方法によって検出される。放射能、酵素活性、(電気)化学発光および免疫蛍光による検出の場合、検出可能な標識が使用され得る。それは、好ましくは検出しようとしている抗体に結合する二次抗体に付着される。検出方法は、例えば、Zane, H. D.(2001),Immunology - Theoretical & Practical Concepts in Laboratory Medicine, W. B. Saunders Company,特に14章に記載されている。
【0079】
好ましい実施形態では、検出しようとしている抗体は、免疫グロブリンクラスG(IgG)、免疫グロブリンクラスM(IgM)および免疫グロブリンクラスA(IgA)、好ましくはGまたはM、さらにより好ましくはGを含む群からの抗体である。さらなる好ましい実施形態では、免疫グロブリンクラスG、免疫グロブリンクラスMおよび免疫グロブリンクラスAを含む群からの抗体の2つ以上のクラス、好ましくはGおよびMが検出される。
【0080】
検出しようとしている抗体は定量され得る。好ましい実施形態では、検出しようとしている抗体は、1日を超えて検出され、そして好ましくは定量される。さらにより好ましくは、抗体はクラスG(IgG)のうちの1つである。このようにして、力価の経過を追跡することが可能である。この場合、経時的に上昇するIgG力価により、ボルナウイルスによる活動性感染の同定、およびボルナウイルスによる活動性感染と、受動免疫または接触、それぞれさらに過去からの病原体による感染との区別が可能になる。
【0081】
好ましい実施形態では、担体は、膜ベースのイムノブロット、好ましくはウェスタンブロット、ラテラルフローアッセイまたはラインブロット、1つまたは複数のビーズ、免疫蛍光のために配置されたバイオチップ、およびELISAマイクロタイタープレートを含む群から選択される。
【0082】
本発明は、本発明による担体、ならびにさらに任意選択で指示書および/または好ましくは洗浄溶液、捕捉された抗体を検出するための手段を含む溶液および陽性対照を含む溶液を含む群からの緩衝液および試薬を含むキットを提供する。溶液の代わりに、特定の試薬もまた、乾燥形態で、例えば粉末として、好ましくは必要に応じて溶解され得る溶液と共に提供されてもよい。陽性対照として、抗体が結合する抗原に特異的に結合する、検出しようとしている抗体またはそのバリアントを使用することができる。好ましくは、担体は、試料、好ましくは血清試料の存在を検出するための対照を含む。例えば、全ての血清試料中に存在するタンパク質が血清試料の存在を確認するために検出され得る。捕捉された抗体を検出するために使用される手段は、好ましくは検出可能な標識を有する二次抗体である。
【0083】
本特許出願において、新規ポリペプチドおよび/または核酸が列挙される。それらは以下の配列を有する:
配列番号1(VSBV-N(40kDa、Hisタグ))
MNITMPPKRRLLEDPDVMDDQEPEPTSPPMPKLPGKFLQYTVGGSDPHPGIGEEKDIKHNAVALLDSSRRDMFHPVTPSLVFLCLLIPGLHAAFLHGGVPKESYLSTPISRGEQTFVKVSRFYGERTASRELTELEISSIFNHCCSLLIGVVIGSSAKIRAGAEQIKKRFKTLMASLNRPSHGETATLLQMFNPHEAIDWINGQPWVGSLVLSLLTTDFESPGKEFMDQIKLVASYAQMTTYTTIKEYLAECMDATLTIPAVAHEIREFLEISAKLKNEHAELFPFLGAIRHPDAIKLAPRSFPNLASAAFYWSKKENPTMAGYRASTIQPGATVKETQLARYRRREVSRGEDGAELSGEISDIMKMIGVTGLVLEHHHHHH
配列番号2(VSBV-Nペプチド(30kDa、His-GSTタグ))
MSHHHHHHHHMSPILGYWKIKGLVQPTRLLLEYLEEKYEEHLYERDEGDKWRNKKFELGLEFPNLPYYIDGDVKLTQSMAIIRYIADKHNMLGGCPKERAEISMLEGAVLDIRYGVSRIAYSKDFETLKVDFLSKLPEMLKMFEDRLCHKTYLNGDHVTHPDFMLYDALDVVLYMDPMCLDAFPKLVCFKKRIEAIPQIDKYLKSSKYIAWPLQGWQATFGGGDHPPKLEVLFQGPAMFVKVSRFYGERTASR
配列番号3(VSBV-P(23kDa、Hisタグ))
MASRPSSLVESLEDEESLQTPRRVRSRSPRPKRIPQDALTQPVDRLLKNIKKNPSMISDPEQRTGREQLSNDELIKQLVTELAENSMIEAEGLRGALDDISSKVDSGLESISSLQVETLQTVQKTDYADSIKTLGENIKVLDRSMKTMMETMRLMMEKIDLLYASTAIGQSNTPMLPSHPAQPRLYPTLPSAPTADEWDILPLEHHHHHH
配列番号4(BoDV-1-N(40kDa、Hisタグ))
MNITMPPKRRLVDDADAMEDQDLYEPPASLPKLPGKFLQYTVGGSDPHPGIGHEKDIRQNAVALLDQSRRDMFHTVTPSLVFLCLLIPGLHAAFVHGGVPRESYLSTPVTRGEQTVVKTAKFYGEKTTQRDLTELEISSIFSHCCSLLIGVVIGSSSKIKAGAEQIKKRFKTMMAALNRPSHGETATLLQMFNPHEAIDWINGQPWVGSFVLSLLTTDFESPGKEFMDQIKLVASYAQMTTYTTIKEYLAECMDATLTIPVVAYEIRDFLEVSAKLKEEHADLFPFLGAIRHPDAIKLAPRSFPNLASAAFYWSKKENPTMAGYRASTIQPGASVKETQLARYRRREISRGEDGAELSGEVSAIMKMIGVTGLNLEHHHHHH
配列番号5(BoDV-1-P(23kDa、Hisタグ))
MATRPSSLVDSLEDEEDPQTLRRERSGSPRPRKIPRNALTQPVDQLLKDLRKNPSMISDPDQRTGREQLSNDELIKKLVTELAENSMIEAEEVRGTLGDISARIEAGFESLSALQVETIQTAQRCDHSDSIRILGENIKILDRSMKTMMETMKLMMEKVDLLYASTAVGTSAPMLPSHPAPPRIYPQLPSAPTADEWDIIPLEHHHHHH
配列番号6(VSBV-Nペプチド、A0A0H5BWD6のアミノ酸116~130)
FVKVS RFYGERTASR
配列番号7(NMDAR受容体のNR1サブユニット)
MSTMHLLTFALLFSCSFARAACDPKIVNIGAVLSTRKHEQMFREAVNQANKRHGSWKIQLNATSVTHKPNAIQMALSVCEDLISSQVYAILVSHPPTPNDHFTPTPVSYTAGFYRIPVLGLTTRMSIYSDKSIHLSFLRTVPPYSHQSSVWFEMMRVYNWNHIILLVSDDHEGRAAQKRLETLLEERESKAEKVLQFDPGTKNVTALLMEARELEARVIILSASEDDAATVYRAAAMLNMTGSGYVWLVGEREISGNALRYAPDGIIGLQLINGKNESAHISDAVGVVAQAVHELLEKENITDPPRGCVGNTNIWKTGPLFKRVLMSSKYADGVTGRVEFNEDGDRKFANYSIMNLQNRKLVQVGIYNGTHVIPNDRKIIWPGGETEKPRGYQMSTRLKIVTIHQEPFVYVKPTMSDGTCKEEFTVNGDPVKKVICTGPNDTSPGSPRHTVPQCCYGFCIDLLIKLARTMNFTYEVHLVADGKFGTQERVNNSNKKEWNGMMGELLSGQADMIVAPLTINNERAQYIEFSKPFKYQGLTILVKKEIPRSTLDSFMQPFQSTLWLLVGLSVHVVAVMLYLLDRFSPFGRFKVNSEEEEEDALTLSSAMWFSWGVLLNSGIGEGAPRSFSARILGMVWAGFAMIIVASYTANLAAFLVLDRPEERITGINDPRLRNPSDKFIYATVKQSSVDIYFRRQVELSTMYRHMEKHNYESAAEAIQAVRDNKLHAFIWDSAVLEFEASQKCDLVTTGELFFRSGFGIGMRKDSPWKQNVSLSILKSHENGFMEDLDKTWVRYQECDSRSNAPATLTFENMAGVFMLVAGGIVAGIFLIFIEIAYKRHKDARRKQMQLAFAAVNVWRKNLQDRKSGRAEPDPKKKATFRAITSTLASSFKRRRSSKDTSTGGGRGALQNQKDTVLPRRAIEREEGQLQLCSRHRES
【0084】
本発明は、図面を参照して以下の例示的な実施形態によって説明される。記載される実施形態は、あらゆる点において、単に例示であり、限定的であると理解されるべきではなく、述べられた特徴の様々な組み合わせが本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図1】実施例1において調製し、使用したボルナウイルス抗原を用いたラインブロットストリップの構造を示す図である。
【
図2】実施例1に従ったインキュベーション後の、実施例1において調製したボルナウイルス抗原を用いたラインブロットストリップを示す図である。
【
図3】実施例1において調製したラインブロットストリップを使用した辺縁系脳炎を有する患者由来の試料の試験結果を示す図である。
【
図4】実施例1において調製したさらなるラインブロットストリップを使用した辺縁系脳炎を有する患者由来の試料の試験結果を示す図である。
【
図5】2つの異なる倍率(左側200倍、右側400倍)における免疫蛍光による移植患者由来の試料の試験結果(実施例2を参照のこと)を示す図である。
【
図6】実施例1に従って調製したボルナウイルス抗原を用いたラインブロットストリップを使用した移植患者由来の試料の試験を示す図である。実施例2を参照のこと。
【実施例】
【0086】
[実施例1]
<カワリリスボルナウイルスI(VSBV1)および哺乳類I型ボルナウイルス(BoDV-1)に対する膜ベースの抗体検出>
(1.1.EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルの調製)
ニトロセルロース膜上の抗原のコーティング:
VSBV-Nタンパク質(配列番号1)、VSBV-Nペプチド(配列番号2)、BoDV-1-Nタンパク質(配列番号4)、BoDV-1-Pタンパク質(配列番号5)およびVSBV-Pタンパク質(配列番号3)を、大腸菌(E.coli)における組換え手段によってHisタグと融合し、標準的なプロトコールを使用したアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。精製したタンパク質を凍結状態(-70℃)で保存し、コーティングプロセスの前に解凍した。
【0087】
EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルaの調製のために、抗原を各場合において2つの希釈物中でコーティングした(各抗原について可変である9μg/ml~59μg/mlの濃度を有する)。
【0088】
続く第2のEUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルbにおいて、BoDV-1抗原の濃度は各場合において50%減少した。希釈した抗原を、接触チップディスペンサーを使用して機器によってコーティングした(Raphael Wong, Harley Tse:Lateral Flow Immunoassay;Humana Press;2008,page 137を参照のこと)。
図1は、EUROLINEの構造を示し、ここで、1はより高い抗原濃度を示し、2はより低い抗原濃度を示す。
【0089】
その後、コーティングした膜をブロックし、すすぎ、乾燥し、さらなる使用のために-20℃で保存した。
【0090】
担体フィルム上のコーティングの付着:
EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルを作製するために、各抗原の系統をプラスチックフィルム上に固定した。この後、個々の試験ストリップに分割した。
【0091】
(1.2 EUROLINEを使用した免疫学的検定の性能)
血清試料のインキュベーション:
1.前処理:
試験すべき患者試料の数に従って、インキュベーション槽を、各場合において、使用できる状態に希釈された1.5mlの汎用緩衝液(ZD1100-1050、EUROIMMUN AG)で満たした。必要量の試験ストリップを、ピンセットを使用してパッケージから取り出し、各場合において、緩衝液で満たしたインキュベーション槽に直接入れ、15分間室温にてロッカーシェーカー(rocker shaker)上でインキュベートした。その後、液体を槽から完全に除去した。
【0092】
2.試料インキュベーション:
汎用緩衝液中で1:51に希釈した1.5mlの患者試料を、試験ストリップで満たした各インキュベーション槽に満たし、30分間室温(+23℃)にてロッカーシェーカー上でインキュベートした。
【0093】
3.洗浄:
液体を各槽から完全に除去し、洗浄を、各場合において、使用できる状態の希釈した1.5mlの汎用緩衝液を用いて3×5分間ロッカーシェーカー上で実施した。
【0094】
4.コンジュゲートインキュベーション:
各場合において1.5mlの使用できる状態の希釈した酵素コンジュゲート(アルカリホスファターゼで標識した抗ヒトIgG;AE142-1030、EUROIMMUN AG)をインキュベーション槽にピペットで入れ、30分間室温(+23℃)にてロッカーシェーカー上でインキュベートした。
【0095】
5.洗浄:
液体を槽から完全に除去した。ステップ3を再び実施した。
【0096】
6.基質インキュベーション:
各場合において1.5mlの基質溶液(ZW 1020-0130、EUROIMMUN AG)をインキュベーション槽にピペットで入れた。この後、室温(+23℃)にてロッカーシェーカー上で10分インキュベーションを行った。
【0097】
7.停止:
各槽からの液体を完全に除去し、各試験ストリップを蒸留水または脱イオン水で3×1分の間、すすいだ。
【0098】
8.評価:
試験ストリップを風乾し、評価した。
【0099】
液体試料のインキュベーション:
1.前処理:
試験すべき患者試料の数に従って、インキュベーション槽を、各場合において、1.5mlの汎用緩衝液で満たした。必要量の試験ストリップを、ピンセットを使用してパッケージから取り出し、各場合において、緩衝液で満たしたインキュベーション槽に直接入れた。インキュベーションを、15分間室温(+23℃)にてロッカーシェーカー上で実施した。その後、液体を槽から完全に除去した。
【0100】
2.試料インキュベーション:
1.0mlの希釈した患者試料(液体希釈係数1:4、汎用緩衝液中で希釈した)を、試験ストリップで満たした各インキュベーション槽に満たした。この後、室温(+23℃)にてロッカーシェーカー上で3時間インキュベーションを行った。
【0101】
3.洗浄:
液体を各槽から完全に除去し、洗浄を、各場合において、使用できる状態の希釈した1.5mlの洗浄緩衝液を用いて、3×5分の間、ロッカーシェーカー上で実施した。
【0102】
4.コンジュゲートインキュベーション:
各場合において1.5mlの使用できる状態の希釈した酵素コンジュゲート(アルカリホスファターゼで標識した抗ヒトIgG)をインキュベーション槽にピペットで入れた。インキュベーションを、1時間室温(+23℃)にてロッカーシェーカー上で実施した。
【0103】
5.洗浄:
液体を槽から完全に除去し、洗浄を上記のように実施した。
【0104】
6.基質インキュベーション:
各場合において1.5mlの基質溶液をインキュベーション槽にピペットで入れた。インキュベーションを、20分間室温(+23℃)にてロッカーシェーカー上で実施した。
【0105】
7.停止:
液体を各槽から完全に除去し、各試験ストリップを蒸留水または脱イオン水で3×1分の間、すすいだ。
【0106】
8.評価:
試験ストリップを風乾し、評価した。
【0107】
図2はインキュベーション後の例示的なストリップを示す。
【0108】
評価:
EUROLINEScanソフトウェア(EUROIMMUN Medizinische Labordiagnostika AG、Lubeck)を使用して測定した強度を、下記の基準を考慮して、経験のあるスタッフのメンバーによって評価した。陽性結果に関して、各場合において特異的抗原コーティング(2つのコーティングした希釈物のうち濃度が低い方)を、カットオフより多く反応させなければならなかった。
【0109】
EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルaに関して、カットオフは以下のように規定した。数字はEUROLINE-Scanにおいて測定したバンド強度に対応する。
BoDV-1抗原:0~23=陰性;24~30=ボーダーライン;>30=陽性
VSBV抗原:0~13=陰性;14~20=ボーダーライン;>20=陽性
EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルbに関して、以下のカットオフを定義した。
全ての抗原:0~13=陰性;14~20=ボーダーライン;>20=陽性
【0110】
(1.3. 種々の試料群を使用した結果)
NMDA-R-IFTにより事前に特徴付けした患者血清:
辺縁系脳炎の症状に罹患している患者由来の非特定化血清試料を試験した。
【0111】
全体として、インキュベーションを、EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルaに対する第1の実験においてn=60の試料から実施し、EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルbに対する第2の研究においてさらなるn=49の試料から実施し、それらはこれらの要件を満たす。試料を、免疫蛍光によってNMDA受容体に対する自己抗体の存在について調べた(製品FA 112d-1003-51、EUROIMMUN Medizinische Labordiagnostika AG)。その後、それらを、1.1で調製したEUROLINE抗ボルナウイルスプロファイル上で試験した。
【0112】
免疫蛍光検査の場合、全部でn=109の試料からのn=7の試料が、抗NMDA-R-IFTにおいて陽性に反応した。したがって、これらの患者については、脳炎はNMDA受容体に対する自己抗体に起因し得る。n=7のNMDA-R-IFT陽性血清はいずれも、EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイル上で、陽性に反応しなかった。
【0113】
残りのn=102の患者については、その試料は抗NMDA-R-IFTにおいて陰性に反応し、疾患の原因は未解決のままである。この群では、とりわけ、ボルナウイルス感染が、可能性のある原因として予想され得る。
【0114】
これらのn=102の試料から、全部でn=14の試料が少なくとも1つのボルナウイルス抗原と陽性に反応した(これらのうち、第1の実験ではn=7、第2の実験ではn=7)。これは、ボルナウイルス感染によって引き起こされ得る脳炎の13.73%に相当する。
【0115】
多発性硬化症を有する患者由来の血清:
散在性脳脊髄炎(encephalomyelitis disseminata)の場合、正確な原因も依然として不明である。しかしながら、この脳炎は辺縁系脳炎とは異なるCNSの領域に影響を及ぼし、対照群として役立つ。試験は、EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルb上で、n=36の試料に対して行われ、そのうちのn=1の血清はEUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルと陽性に反応した。
【0116】
陽性対照:
陽性対照として、以下の試料をEUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルa上で使用した。
n=1の抗VSBV陽性液体
n=1の精神病患者由来の血清
n=2の血清学的に事前に特徴付けしたBoDV-1陽性血清
以下の陽性対照を、EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルbについてインキュベートした。
n=4のポリクローナルウサギ血清(VSBV-Nに対するもの、VSBV-Pに対するもの、BoDV-1-Nに対するもの、BoDV-1-Pに対するもの、実施例の項の1.1節に記載される配列を有するVSBV-Nタンパク質、VSBV-Nペプチド、BoDV-1-Nタンパク質、BoDV-1-Pタンパク質およびVSBV-Pタンパク質を使用した標準的なプロトコールに従ってウサギの免疫化によって調製した)
これらの全部でn=8の血清のうち全てがEUROLINE抗ボルナウイルスプロファイル上の少なくとも1つの抗原と陽性に反応し、ポリクローナル抗体は、各場合において、対応するコーティングされた抗原を認識した。
【0117】
陰性対照:
辺縁系脳炎が疑われる患者に由来しない液体試料を使用した。液体試料のいずれもEUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルと陽性に反応せず、これらのインキュベーション条件下での試験ストリップの特異性を示した。
【0118】
EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルaによる結果を
図3に示し、EUROLINE抗ボルナウイルスプロファイルbによる結果を
図4に示す。それらは、NMDAR受容体脳炎および関連するPNSまたは関連するがん型に罹患している患者がBoDV-1またはVSBV-1に対する抗体を有していないことを示す。
【0119】
[実施例2]
<移植後合併症を有する患者由来の試料中のボルナウイルスに対する抗体の検出>
患者:
患者1は臨床的に正常なドナーから臓器提供を受けた。移植後、受容者は脳炎に至る神経学的合併症を発症した。
【0120】
陰性対照として、健康な血液ドナー由来の264個の血液試料を試験した。
【0121】
抗体検出:
患者由来の血清試料を、EUROIMMUN Medizinische Labordiagnostika AG(注文番号FI 293a-1005G)からの抗チクングニアウイルスIIFTを使用して検査し、相違としては、使用した抗原は上述の試験において使用したもの(CHIKVにより感染したVero細胞)ではなく、Hoffmann et al.(2015)A variegated squirrel bornavirus associated with fatal human encephalitis, N Engl J Med 2015;373,pages 154-162および関連する補足用の付録(19ページ)に記載されているBoDV-1により感染した細胞株CRFK227であった。製造業者からの指示書のプロトコールに従った。
【0122】
移植後72日目から定期的に採取した試料を、BoDV-1-P、BoDV-1-N、VSBV-PおよびVSBV-Nに対する抗体の存在について試験した。これは、実施例1に記載されるブロットを使用し、前記実施例と同様の検出を実施することを含んだ。
【0123】
結果:
患者1からの連続した試料のいくつかを、間接免疫蛍光試験を使用して検査した。全ての試料は陽性反応を示し、すなわち、ボルナウイルスに感染した細胞における特異的蛍光パターンを同定することができた。これは
図5に例として示される。感染細胞の細胞核では、個々の顆粒からウイルス抗原を含有する複数の顆粒まで蛍光が存在する。これにより、患者試料中のボルナウイルス特異的抗体の存在が確認される。
【0124】
ラインブロットにおける血液試料の試験により、移植後72日目に依然として検出可能な抗体が存在しないことが示された(
図6)。84日目から、BoDV-1-Pに対する抗体を検出することができ、382日目から、VSBV-Nに対する抗体を検出することもできた。血液ドナーの98.5%がIIFTによると陰性であった。
【0125】
<結論>
したがって、臓器ドナーは臨床的に明らかな感染を発症せずに、BoDV-1に潜伏感染したと結論付けることができる。移植は、おそらく免疫抑制治療のために、臓器受容者において感染の突然発生を引き起こした。
【0126】
[実施例3]
<VSBV-1による感染に起因する辺縁系脳炎>
(方法)
事例研究:
2013年7月、Schleswig-Holstein出身の45歳の動物飼育者が、発熱、発声困難、咳嗽、咽頭炎、目眩および眼の下の感覚異常を発症した。これらの症状の後に、運動失調、昏睡および下垂体機能不全が続いた。患者は以前に知られていた状態はなかった。CSFの分析により、リンパ球増加が示された。末梢血における炎症パラメータは上昇し、相対的な好中球増加およびリンパ球減少を伴った。頭部の最初のMRI検査は正常な結果を示した。3週間後の追跡MRI検査により、基底核および上部脊髄において、両側辺縁系分布(内側側頭葉、前帯状束、島、海馬、視床下部、脳室周囲蓋)で病変が示された。形態学的に、辺縁系脳炎は1週間以内に進行すると診断された。中枢神経系の感染および自己免疫疾患に関する広範な臨床試験により、正常な結果が示された。内在する新生物は発見されなかった。反復された脳波図により、全般的に緩徐な活動および非痙攣性てんかん発作が示された。顕微鏡検査、培養またはPCRにより、向神経性細菌、真菌、寄生虫またはウイルスは全く示されなかった。免疫組織化学により、クロイツフェルト-ヤコブ病を除外することができた。両側性肺炎のため、患者は人工呼吸を必要とし、広範な抗感染療法(アシクロビルを含む)、抗痙攣剤および疾患の後期においてステロイドにより治療された。症状の発症後3カ月以内に、患者はその時点では未確定であった病因の骨髄脳炎により最終的に死亡した。
【0127】
PCR:
保存され、凍結されたCSFおよびホルマリン固定され、パラフィン包埋された脳組織、心筋、肺組織、腎組織、肝組織、脾臓組織、膵臓組織、骨髄および腸組織を分析のために準備した。VSBV-1特異的リアルタイムRT-PCRを、Hoffmann et al.(2015)に記載されているように実施した。
【0128】
免疫組織化学:
VSBV-1ならびにBoDV-1のNタンパク質およびPタンパク質に対するポリクローナル抗血清を、それぞれの組換え抗原により免疫化したウサギから得、それらをプロテインAアフィニティークロマトグラフィー(Davids Biotechnologie、Regensburg、ドイツ)によって精製した。ウサギ抗血清および免疫前血清の反応性を、免疫蛍光抗体試験(IFAT)によって、および実施例1に記載されるボルナウイルスイムノブロットを用いて試験した。10個の無関係なヒト脳組織試料を陰性対照として使用した。プロテイナーゼKによる前処理および内因性ペルオキシダーゼの遮断の後、患者からのFFPE切片を抗血清(PBS中に1:1000~1:5000、室温にて一晩)とインキュベートした。その後、それらを、ヤギ抗ウサギビオチン化ポリマー抗体、ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体、および3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)基質(DCS、Hamburg、ドイツ)とインキュベートした。
【0129】
血清学的試験:
血清およびCSF中のボルナウイルス特異的IgG抗体の検出のために、BoDV-1に安定に感染させた細胞株を標準的な間接免疫蛍光試験(IFAT)(Hoffmann et al.,2015)のために使用し、さらにELISAおよびイムノブロットを開発した。
【0130】
VSBV-1 IgG ELISAに関して、VSBV-1のNおよびPタンパク質の配列をクローニングし、大腸菌株BL21 GOLD(DE3)(Novagen-Merck、Darmstadt、ドイツ)内でマルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質の形態で発現させた。タンパク質を精製し、アミロースアフィニティークロマトグラフィーによって溶出した。N末端MBPタグを3Cプロテアーゼによって4℃にて一晩切断した。プロテアーゼの除去後、タンパク質試料をゲル濾過クロマトグラフィー(Superdex 200、Sigma-Aldrich、Munich、ドイツ)によってさらに精製した。マイクロタイタープレート(Polysorp、Nunc、Roskilde、デンマーク)を、2μg/mlのVSBV-1のNまたはPタンパク質を用いて4℃にて一晩コーティングした。6%BSAを用いて遮断した後、1%BSA希釈溶液中で希釈したヒト血清を添加した。37℃での2時間のインキュベーション後、100μlの抗ヒトIgG(Dako Cytomation、Hamburg、ドイツ、1:6000希釈)を添加し、プレートを37℃にて1時間インキュベートした。室温での3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンとの5分のインキュベーション後、反応を停止した。最後に、光学密度(OD)を450nmにて測定した(基準:620nm)。各血清試料についての最終OD値を、VSBV-1のNまたはPタンパク質を含有するウェルとMBPを含有するウェルとの間の差として測定した。1:400の血清希釈についての最終OD値を、平均ODが、平均ODプラス200人の健康な血液ドナーからの対照試料で得られた標準偏差の3倍を超えた場合に陽性と見なした。
【0131】
ボルナウイルスIgGイムノブロットのために、実施例1において調製したストリップを使用した。それらを室温にて血清(30分、1:51)またはCSF(3時間、1:4)とインキュベートし、続いて、アルカリホスファターゼコンジュゲート(30分または1時間、各場合において1:10)および基質としてのニトロブルーテトラゾリウムクロリド(10または20分)とインキュベートした。検出抗体の強度を、EuroLineScanソフトウェア(EUROIMMUN AG、Lubeck、ドイツ)を使用して自動的に評価した。検証のために、150人の健康な血液ドナーからの試料を試験した。
【0132】
(結果)
脳炎患者由来の試料を用いた血清学
ボルナウイルス特異的IgG抗体を、免疫蛍光(IgGエンドポイント力価1:2560)およびELISAによって核パターンの形態で患者のCSF中に高濃度で検出した。強力なIgG反応性が、VSBV-1のNポリペプチドに対するイムノブロットにおいて示され、VSBV-1-PおよびBoDV-1-P抗原に対しては、より少ない程度で示された(表1)。
【0133】
【0134】
動物飼育者の血清学的試験
全部で14人の動物飼育者からの血清を、ELISA、免疫蛍光およびイムノブロットにより試験した。6人の動物飼育者が定期的にカワリリスと接触し、5人の動物飼育者が不定期に接触していた。残りの人々は稀にしか接触しなかった。イムノブロットから判断すると、14人のうちの6人の血清はVSBV-1-Nと陽性にまたはわずかに陽性に反応し、4人はBoDV-1-Nと反応したが、対応するP抗原とはいずれも反応しなかった。免疫蛍光試験により、2つの症例で低力価が示されたが、ELISAの結果は陰性であった。血清学的反応性は、リスとの報告された接触強度と相関しなかった。イムノブロットによれば、血液ドナーの13.5%、4.5%、1.5%および6%が、それぞれVSBV-1-N、BoDV-1-N、VSBV-1-PおよびBoDV-1-P抗原と陽性にまたはわずかに陽性に反応した。血液ドナーの1人は1つより多いボルナウイルス抗原と反応した。
【配列表】