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特許7469857カソード電極触媒用担持体、及びカソード電極触媒用担持体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】カソード電極触媒用担持体、及びカソード電極触媒用担持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/42 20060101AFI20240410BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20240410BHJP
   B01J 35/45 20240101ALI20240410BHJP
   C23C 14/32 20060101ALI20240410BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240410BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B01J23/42 M ZNM
B01J37/34
B01J35/45
C23C14/32 G
H01M4/86 B
H01M4/88
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019128011
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2020015034
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018131209
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沼 明
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 航太
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 敦
(72)【発明者】
【氏名】角山 寛規
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-149247(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135136(WO,A1)
【文献】特開2016-101570(JP,A)
【文献】特開2003-245563(JP,A)
【文献】特開2010-018610(JP,A)
【文献】特表2015-513449(JP,A)
【文献】特開2015-116553(JP,A)
【文献】特開2010-207773(JP,A)
【文献】BARET, B. et al.,Nanocomposite electrodes based on pre-synthesized organically capped platinum nanoparticles and carbon nanotubes. Part I: Tuneable low platinum loadings, specific H upd feature and evidence for oxygen reduction,Electrochim. Acta,英国,Elsevier Ltd.,2009年04月21日,Vol. 54, No. 23,pp. 5421-5430,DOI: 10.1016/j.electacta.2009.04.033
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C23C 14/00-14/58
H01M 4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子数以上13以下のPtのクラスターを担体に担持してなり、
田中貴金属工業(株)製の標準触媒であるTEC10E50Eを上回る質量活性を有する、カソード電極触媒用担持体であって、
前記クラスターの担持量が215ng/cm以上2926ng/cm以下であるカソード電極触媒用担持体。
【請求項2】
前記担体は、導電性材料からなる請求項1に記載のカソード電極触媒用担持体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカソード電極触媒用担持体を製造する製造方法であって、
マグネトロンスパッタリング法によって、原子数以上13以下のPtの前記クラスターを生成する生成工程と、
前記クラスターを前記担体にランディングして担持する担持工程と、
を備えたカソード電極触媒用担持体の製造方法。
【請求項4】
前記クラスターのうち特定範囲の質量を有する特定質量クラスターを選別する選別工程を備え、
前記担持工程では、前記特定質量クラスターを前記担体にランディングする請求項3に記載のカソード電極触媒用担持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、担持体、及び担持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電極触媒として白金(Pt)が広く利用されている。ところが、Ptは非常に高価な貴金属である。しかも、Ptは埋蔵量が十分ではない。よって、燃料電池のコスト低減、及び燃料電池の普及を実現するためには、触媒活性を向上させて、Ptの使用量を低減することが重要である。
これまでに、所定のデンドリマー(樹状高分子)に包含されているPtナノ微粒子等を多孔質炭素材料に担持して、これを触媒として利用する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-159588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記技術で得られる担持体では、以下の4点において工業的に不利であった。
すなわち、
(1)デンドリマーの合成のために各種試薬(有機溶媒を含む)が必要であり、工業的に不利である。
(2)そもそもデンドリマーの量産化技術は、未だに確立されていない。
(3)合成後のPt粒子と、炭素材料を組み合わせる工程が別途必要であり、煩雑である。
(4)Pt粒子の表面に高分子が存在しており、Pt粒子同士を直に結合させることは困難である。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、工業的に量産可能な、クラスター又は単原子を担体に担持した担持体を提供することを目的とする。なお、本発明では、Pt以外の種々の元素のクラスター又は単原子を有する担持体を提供することも目的とする。Pt以外の種々の元素を用いた場合にも工業的に量産可能であり、幅広い分野での応用が期待される、
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕原子数1以上100以下のクラスター又は単原子を担体に担持した担持体であって、
前記クラスター又は前記単原子の担持量が1×10-14ng/cm以上1×10ng/cm以下である担持体。
【0006】
〔2〕前記担体は、導電性材料からなる〔1〕に記載の担持体。
【0007】
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載の担持体を製造する製造方法であって、
原子数1以上100以下の前記クラスター又は前記単原子を生成する生成工程と、
前記クラスター又は前記単原子を前記担体にランディングして担持する担持工程と、
を備えた担持体の製造方法。
【0008】
〔4〕前記クラスター又は前記単原子のうち特定範囲の質量を有する特定質量クラスター又は特定質量単原子を選別する選別工程を備え、
前記担持工程では、前記特定質量クラスター又は前記特定質量単原子を前記担体にランディングする〔3〕に記載の担持体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の担持体は、比較的容易に製造できるため、工業的に量産できる。
本発明の担持体の製造方法は、従来法に比べて容易であり、工業的な量産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明する。
図1】推定される最大層数の計算方法を説明するための説明図である。
図2】接合したクラスターを有するクラスター担持体を示す説明図である。
図3】クラスター担持体の製造方法を実施する装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0013】
1.担持体
担持体は、原子数1以上100以下のクラスター又は単原子を担体に担持した担持体である。クラスター担持体では、クラスター又は単原子の担持量が1×10-14ng/cm以上1×10ng/cm以下である。
【0014】
(1)クラスター又は単原子を構成する元素
クラスター又は単原子を構成する元素は、特に限定されない。クラスター又は単原子を構成する元素は担持体の実用性の観点から、導電性材料を構成し得る元素であることが好ましく、Pt(白金)、Au(金)、Ag(銀)、Pd(パラジウム)、Si(ケイ素)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(スズ)、In(インジウム)、Cd(カドミウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Cu(銅)、Ru(ルテニウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、V(バナジウム)、Mn(マンガン)、Y(イットリウム)、Tc(テクネチウム)、Ga(ガリウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Zr(ジルコニウム)、Rh(ロジウム)、Os(オスミウム)、Re(レニウム)、Al(アルミニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0015】
(2)クラスター又は単原子の原子数
クラスター又は単原子の原子数は、1以上100以下であるが、効率的な触媒反応の観点から2以上80以下が好ましく、3以上50以下がより好ましい。本発明におけるクラスターは、ナノクラスター又はサブナノクラスターである。
【0016】
(3)クラスター又は単原子の担持量
クラスター又は単原子の担持量は、1×10-14ng/cm以上1×10ng/cm以下である。担持量がこの範囲内であると、担持体を触媒として用いた場合の活性が高い傾向にある。
導電性材料を構成し得る元素がPt(白金)の場合に、クラスター又は単原子の担持量を、1×10-12ng/cm以上6000ng/cm以下とすると、質量活性が高くなる。1×10-12ng/cm以上500ng/cm未満の場合に質量活性が高い理由は、小サイズ化による比表面積の増加による寄与があるものと推測される。なお、「質量活性」とは、酸素還元反応(ORR:Oxygen Reduction Reaction)に対する質量活性(Pt(または触媒全元素)1gあたりの酸素還元電流密度)を意味する(以下同じ)。また、500ng/cm以上6000ng/cm以下の場合に質量活性が高い理由は、クラスター同士の接合部分において触媒反応が特異的に進行している可能性があると推測される。
【0017】
(4)クラスター又は単原子の質量活性(Ptクラスター又は単原子の質量活性)
導電性材料を構成し得る元素がPt(白金)の場合には、クラスター又は単原子の質量活性は200A/gよりも大きいことが好ましく、300A/g以上がより好ましく、400A/g以上が更に好ましい。なお、通常、質量活性の上限値は、1×10A/gである。
クラスター又は単原子の質量活性が、この範囲であると、燃料電極等の電極触媒として有用である。
【0018】
(5)担体
担体は、特に限定されない。例えば、カーボン、酸化チタン、ビスマステルル、ビスマスセレン、アルミニウム、コンスタンタン、金、銀、銅、黄銅、白金、ニクロム、鉄、チタン、タングステン、酸化タングステン、酸化インジウムスズ、チタン酸ストロンチウム、モリブデン、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、シリコン、炭化ケイ素、ステンレス、マグネシウム、コバルト、リチウム、クロム、マンガニン、ポリアニリン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)〔PEDOT/PSS〕、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、イオン液体等が例示される。また、これらの例示のうち、他の元素をドーピング可能なものについては、他の元素をドーピングしたものも含まれる。
【0019】
(6)推定される最大層数
下記式で計算される推定される最大層数Lは、特に限定されないが、3×10-15~12が好ましく、1~10がより好ましく、2~7が更に好ましい。この範囲内であると、クラスターの小サイズ化による比表面積の増加、及び/又はクラスター若しくは単原子同士の接合部分における触媒反応の特異的な進行が期待でき、質量活性が高くなる。

<クラスター又は単原子の推定される最大層数Lの計算>
ここで、クラスター又は単原子の推定される最大層数Lの計算方法について説明する。
クラスター又は単原子を構成する原子を、担体のクラスター又は単原子担持面に最密充填の状態で、原子が上下に重ならずに1層となるように配置した場合に、クラスター又は単原子担持面において原子1個を配置するために必要な面積(専有面積)をS1とする。
担体のクラスター又は単原子担持面全体の面積をS2とする。
そして、次の式(1)から、原子が1層の場合にクラスター又は単原子担持面に担持される原子の総数N(mоlにて表す)を求める。

N=S2÷S1 …(1)

次に、原子が1層の場合の電気量Mを次の式(2)により求める。なお、式中、Kは、原子がイオンになったときのイオンの価数である。

M=ファラデー定数×N×K …(2)

そして、クラスター又は単原子担持体の作製時にイオン検出器により測定された電気量Iを用いて、次の式(3)から推定される最大層数Lを求める。

L=I×(1つのクラスター若しくは単原子に含まれる原子数)÷M
【0020】
ここで、クラスター又は単原子の推定される最大層数Lの計算を、Ptの場合を例に、詳細に説明する。図1では、白丸(〇)は、Pt原子を示している。
図1に示すように、担体のクラスター又は単原子担持面に最密充填の状態(Pt(111))で、原子が上下に重ならずに1層となるように配置した場合に、クラスター又は単原子担持面において原子1個を配置するために必要な面積(専有面積)をS1とする。S1は、図1に示された平行四辺形の面積となる。
この場合に、S1は、6.645Åと計算される。
担体のクラスター又は単原子担持面の面積S2を0.196cmと仮定する。
Nは、次のように計算される。

N=0.196cm÷6.645Å
=2.950×1014
=4.900×10-10mol

次に、原子が1層の場合の電気量Mは、Ptとして次のように計算される。イオンの価数は1である。

M=9.649×10C/mol×4.900×10-10mol×1
=47.3μC

仮に単原子担持体の作製時にイオン検出器により測定された電気量Iが47.3μCの場合には、次式からLは1.0(層)と計算できる。

L=47.3μC×1÷47.3μC
=1.0

仮に単原子担持体の作製時にイオン検出器により測定された電気量Iが18.9μCの場合には、次式からLは0.4(層)と計算できる。

L=18.9μC×1÷47.3μC
=0.4

仮に単原子担持体の作製時にイオン検出器により測定された電気量Iが23.7μCの場合には、次式からLは0.5(層)と計算できる。

L=23.7μC×1÷47.3μC
=0.5

仮に単原子担持体の作製時にイオン検出器により測定された電気量Iが56.8μCの場合には、次式からLは1.2(層)と計算できる。

L=56.8μC×1÷47.3μC
=1.2

仮に単原子担持体の作製時にイオン検出器により測定された電気量Iが279.1μCの場合には、次式からLは5.9(層)と計算できる。

L=279.1μC×1÷47.3μC
=5.9

仮に原子数10のクラスター担持体の作製時にイオン検出器により測定された電気量Iが47.3μCの場合には、次式からLは10.0(層)と計算できる。

L=47.3μC×10÷47.3μC
=10.0
【0021】
(7)担体に担持されたクラスター又は単原子同士の関係
担体に、複数のクラスター又は単原子が担持されている場合において、クラスター又は単原子同士は接合されていても、接合されていなくてもよい。一部のクラスター又は単原子同士が接合され、その他のクラスター又は単原子は独立していてもよい。
図2には、原子数4のクラスターを担持したクラスター担持体の概念図を示す。すなわち、図2のクラスター担持体1は、4個の原子3からなるクラスター2が担体5に担持されている。そして、図2では、クラスター2と4個の原子3からなるクラスター6が接合されている様子が概念的に示されている。
【0022】
2.担持体の製造方法
担持体の製造方法は、特に限定されない。ここでは、担持体の好適な製造方法を説明する。
この担持体の製造方法は、原子数1以上100以下のクラスター又は単原子を生成する生成工程と、クラスター又は単原子を担体にランディングして担持する担持工程と、を備える。
【0023】
(1)生成工程
生成工程では、クラスター又は単原子を生成(発生)する生成方法であれば、特に限定されず、幅広い方法を採用できる。例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンスパッタリング法、イオンビームスパッタ法、レーザ蒸発法等を利用できる。この中でも、イオン量およびその安定性の観点からマグネトロンスパッタリング法が好適に利用される。
生成工程で生成するクラスター又は単原子は、原子数が1以上100以下であり、効率的な触媒反応の観点から、好ましくは原子数が2以上80以下であり、より好ましくは5以上50以下である。
【0024】
クラスターイオン又は単原子イオンを構成する元素は、特に限定されない。クラスターイオン又は単原子イオンを構成する元素は、直流マグネトロンスパッタリング法ではターゲットの導電性があることが好ましく、Pt(白金)、Au(金)、Ag(銀)、Pd(パラジウム)、Si(ケイ素)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(スズ)、In(インジウム)、Cd(カドミウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Cu(銅)、Ru(ルテニウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、V(バナジウム)、Mn(マンガン)、Y(イットリウム)、Tc(テクネチウム)、Ga(ガリウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Zr(ジルコニウム)、Rh(ロジウム)、Os(オスミウム)、Re(レニウム)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)などが好適である。レーザー蒸発法や高周波マグネトロンスパッタリング法では、ターゲットの導電性の有無によらず、クラスターイオン又は単原子イオンを生成することが可能である。
【0025】
(2)担持工程
担持工程では、クラスター又は単原子を担体にランディングして担持する。
クラスター又は単原子を担持する担体については、上述の「1.(5)担体」の記載を、そのまま適用することができる。
クラスター又は単原子の担体へのランディングは、いわゆるソフトランディングが採用される。すなわち、衝突エネルギーが1eV/原子以下が好ましい。このように、クラスター又は単原子をソフトランディングさせることで、クラスターが破壊されることを抑制できる。
【0026】
(3)その他の工程
担持体の製造方法では、クラスター又は単原子のうち特定範囲の質量を有する特定質量クラスター又は特定質量単原子を選別する選別工程を備えることができる。選別工程を備えることで、特定質量クラスター又は特定質量単原子が担体にランディングすることになる。この選別工程により、担持体には特定質量クラスター又は特定質量単原子が担持され、担持体の利用価値が向上する。
【0027】
選別工程は、特に限定されない。選別工程は、イオン偏向器及び四重極質量分析器を用いることが好ましい。イオン偏向器を用いて特定の電荷状態のイオンを選別し、更に、四重極質量分析器を用いて特定サイズのクラスターを選別できる。
【0028】
(4)クラスター担持体の製造方法を実施する装置の一例
ここで、上記製造方法を実施するクラスター担持体の製造装置7の一例を説明する(図3)。
クラスター担持体の製造装置7は、クラスター生成装置10を備えている。クラスター生成装置10は、真空引きされるチャンバ11と、チャンバ11内に設置されるクラスター成長セル12と、クラスター成長セル12内に設置されるスパッタ源13(マグネトロンスパッタ源)を備える。クラスター成長セル12は、その周囲を液体窒素ジャケット14で囲まれており、液体窒素ジャケット14内を液体窒素(N)が流通するように構成されている。クラスター生成装置10は、更に、制御システムの構成要素として、制御装置15、スパッタ源用パルス電源16を備える。
【0029】
クラスター生成装置10は、第1不活性ガス供給パイプ17及び第2不活性ガス供給パイプ18を備える。第1不活性ガス供給パイプ17は、プラズマを発生させるための第1不活性ガス(例えば、アルゴンガス(Ar))をスパッタ源13に対して供給する。第2不活性ガス供給パイプ18は、スパッタ源13から発生した金属原子や金属イオンを冷却し凝集させ、クラスターとして成長させるための第2不活性ガス(例えばヘリウムガス(He))をクラスター成長セル12内へ供給する。第2不活性ガス供給パイプ18は、その主要部が、液体窒素ジャケット14内に格納され、液体窒素ジャケット14の内部を螺旋状に周回して、その端部が、クラスター成長セル12の内側に突出している。
【0030】
こうして、液体窒素により冷却されたヘリウム等の第2不活性ガスをクラスター成長セル12内に導入することができる。クラスター成長セル12内の圧力が約10~40Paに維持されるようにする。なお、圧力制御のためにクラスター成長セル12に備えられる圧力計、ガス供給系に備えられるマスフローコントローラ等の装置については、図示を省略している。
クラスター生成装置10は、更にターボ分子ポンプ等からなる排気装置19を備え、この排気装置19により、チャンバ11内が所定の真空度(例えば10-1~10-4Pa)まで排気される。
【0031】
スパッタ源13は、ターゲット131、アノード132、磁石ユニット133から構成され、ターゲット131はカソードとしてスパッタ源用パルス電源16に接続される。第1不活性ガス供給パイプ17からクラスター成長セル12内にArガスが供給され、スパッタ源用パルス電源16からパルス状の電力が供給されることにより、ターゲット131及びアノード132間にグロー放電が生じる。すなわち、ターゲット131とアノード132の間に高電圧がパルス状に印加されることにより、ターゲット131及びアノード132間にグロー放電が生じる。また、磁石ユニット133によりターゲット131の表面付近に磁場を印加することで、本実施形態のクラスター生成装置10はマグネトロンスパッタを行い、更に強いグロー放電を生成することが可能である。
【0032】
第1不活性ガス供給パイプ17の先端は、第1不活性ガスをスパッタ源13のターゲット131とアノード132との間の一箇所または複数の箇所から噴射するように構成されている。ただし、このような構成に限らず、第1不活性ガスを、ターゲット131に向かうように供給できる構成である限り、任意の構成を採用可能である。
スパッタ源13は、クラスター成長セル12内に、管軸方向に移動自在に収容される。これにより、クラスター成長領域の管軸方向の延伸距離を規定する。なお、管軸方向の延伸距離は、成長領域長、すなわち、ターゲット131面からビーム取出し口121までの距離を意味する。
【0033】
クラスターを生成するためには、液体窒素温度に冷却された第2不活性ガスをクラスター成長セル12内に導入した状態で、スパッタ源13に第1不活性ガスを供給するとともに、スパッタ源用パルス電源16からパルス電力を供給する。パルス電力が供給されると、ターゲット131から第2不活性ガス中に、ターゲット131由来の中性原子及びイオン等のスパッタ粒子が集団として放出される。
【0034】
この集団は、スパッタ源13に印加されるパルス電力の繰り返し周波数の間隔で放出されて第2不活性ガスの流れに沿って移動する。このとき、集団を構成する中性の原子及びイオン等のスパッタ粒子は第2不活性ガス中において互いに結合して種々のサイズのクラスターを生成する。生成したクラスターはクラスター成長セル12のビーム取出し口121を通過した後、後段のイオン検出装置等へ進入する。
【0035】
イオン検出装置20は、クラスター成長セル12のビーム取出し口121の近傍外側にイオンガイド電極21を有し、これにより、クラスター成長セル12のビーム取出し口121から放出されるクラスターイオンをガイドする。図3に示すように、イオン検出装置20は、イオンガイド電極21のビーム取出し口側に設けられる四重極形イオン偏向器22を備える。四重極形イオン偏向器22は、クラスターの内の正イオン又は負イオンの一方のみを偏向させて取り出す。
【0036】
イオン検出装置20は、取り出されたクラスターの質量を分析する四重極質量分析計23を有し、特定の質量のクラスターのみを取り出して、その生成量をバイアスの印加ができるイオン検出器24(ピコアンメーター)により測定する。例えば、イオン検出器24で測定された100pAの電流は、クラスター量としては、0.6×10個/秒(=1fmol/秒)に相当する。イオン検出器24の上に担体を配置して、特定の質量のクラスターのみを担体上に堆積させることができる。
【0037】
3.本実施形態の効果
本実施形態の担持体は、比較的容易に製造できるため、工業的に量産できる。
本実施形態の担持体の製造方法は、デンドリマーを用いた従来法に比べて容易であり、工業的な量産に適している。
【実施例
【0038】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
【0039】
1.クラスター担持体の作製、及び評価方法
図3に記載のクラスター担持体の製造装置7を用いてクラスター担持体を作製した。
詳細には、クラスター生成装置10を用いて、マグネトロンスパッタリング法により、Ptクラスターを生成した。装置諸元及び実験パラメータは以下のようである。

スパッタ源: Angstrom Sciences社製 ONYX-2
パルス電源: Zpulser社製 AXIA-150
ターゲット: Pt(直径2インチ、純度99.99%)
Arガス流量: 40-200sccm
Heガス流量: 60-400sccm
成長セル内圧力: 10-40Pa
成長セル内径: 110 mm
成長領域長さ: 190-290mm
ビーム取出し口径:12 mm
【0040】
Ptクラスターは、四重極形イオン偏向器22によって特定の電荷状態を選別し、四重極質量分析計23(四重極質量分析器)によってサイズを選別した。その後、Ptクラスターイオンを、グラッシーカーボン(ガラス状炭素)の電極(本発明の担体に相当)の上にランディングさせた。電極の直径は、5mmであった。なお、グラッシーカーボンの電極は、バフ上でアルミナ懸濁液(粒子径0.05μm)を用いて研磨し、研磨後に超純水中で超音波を照射して清浄化して、速やかに真空槽内に導入して、Ptクラスターを担持した。担持量は、イオン検出装置20によって測定された電流値から算出した。クラスター担持体におけるクラスターの質量活性(触媒活性)は、回転ディスク電極(RDE(rotating disk electrode))を用いて評価した。
【0041】
2.評価結果
表1に、上述のクラスターの推定される最大層数が、1.0層未満(0.4~0.5層)のクラスターを担持した場合の結果を示す。この場合には、クラスター同士の接合は抑制されており、独立したクラスターが多いと推測される。
表1の結果から、いずれの原子数においても、質量活性は、標準触媒(TEC10E50E:田中貴金属工業(株)製)の質量活性227A/gを上回る結果であった。これは、クラスターの小サイズ化による比表面積の増加の寄与があるものと推測される。また、いずれの原子数においても、クラスター担持体は、マグネトロンスパッタリング法を用いたクラスター担持体の製造装置7により製造できるので、デンドリマーを用いる場合よりも工業的に有利に量産できる。
【0042】
【表1】
【0043】
表2に、上述のクラスターの推定される最大層数が、1.0層以上(1.2~5.9層)のクラスターを担持した場合の結果を示す。この場合には、クラスター同士は接合しているものと推測される。
表2の結果から、いずれの原子数においても、質量活性は、標準触媒(TEC10E50E:田中貴金属工業(株)製)の質量活性227A/gを上回る結果であった。また、表2の結果を検討すると、表1の結果と比較して、更に高い質量活性が認められることが分かる。よって、クラスター同士の接合部分における触媒反応の特異的な進行により、質量活性が高くなっている可能性があると推測される。また、表2のいずれの原子数においても、クラスター担持体は、マグネトロンスパッタリング法を用いたクラスター担持体の製造装置7にて製造できるので、デンドリマーを用いる場合よりも工業的に有利に量産できる。
【0044】
【表2】
【0045】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0046】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の担持体は、幅広い技術分野において広範な用途で使用できる。例えば、本発明の一例であるPtクラスター担持体は、燃料電池電極触媒、有機合成反応触媒、排ガス触媒等に好適に使用できる。Ptクラスター担持体は、触媒活性が高いため、Ptの使用量を削減でき、しかも量産可能であるためコストの削減効果が高く、広く普及させることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 …クラスター担持体
2 …クラスター
3 …原子
5 …担体
6 …クラスター
7 …クラスター担持体の製造装置
10 …クラスター生成装置
11 …チャンバ
12 …クラスター成長セル
13 …スパッタ源
14 …液体窒素ジャケット
15 …制御装置
16 …スパッタ源用パルス電源
17 …第1不活性ガス供給パイプ
18 …第2不活性ガス供給パイプ
19 …排気装置
20 …イオン検出装置
21 …イオンガイド電極
22 …四重極形イオン偏向器
23 …四重極質量分析計
24 …イオン検出器
121…ビーム取出し口
131…ターゲット
132…アノード
133…磁石ユニット
図1
図2
図3