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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】トロイダル無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/38 20060101AFI20240410BHJP
   B64D 41/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
F16H15/38
B64D41/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019185623
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021060099
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢司
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 吉平
【審査官】川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-250423(JP,A)
【文献】特開2013-204604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
B64D 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の回転軸線周りに配置され、互いに対向配置される少なくとも一対のディスクと、
前記少なくとも一対のディスクの間に傾転可能に挟まれた少なくとも1つのパワーローラと、
前記回転軸とケーシングとの間に配置される少なくとも1つの軸受であって、外輪、内輪及び転動体を有する軸受と、を備え、
前記一対のディスクのうち少なくとも一方のディスクは、前記パワーローラに対向する凹面を有するディスク本体部と、前記ディスク本体部から前記回転軸線に沿って前記パワーローラとは反対側に突出した円筒部と、を有し、
前記ディスク本体部と前記軸受の前記内輪との間には、前記回転軸線が延びる軸線方向に隙間があり、
前記円筒部は、前記軸受の前記内輪と前記回転軸との間に挿入されている、トロイダル無段変速機。
【請求項2】
前記円筒部は、前記回転軸線方向において前記軸受の外輪よりも前記ディスク本体部とは反対側に突出している、請求項1に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項3】
回転軸と、
前記回転軸の回転軸線周りに配置され、互いに対向配置される少なくとも一対のディスクと、
前記少なくとも一対のディスクの間に傾転可能に挟まれた少なくとも1つのパワーローラと、
前記回転軸の回転軸線周りに配置され、前記一対のディスクの一方に対して動力伝達可能に接続されるギヤと、
前記回転軸とケーシングとの間に配置される少なくとも1つの軸受と、を備え、
前記一対のディスクのうち少なくとも一方のディスクは、前記パワーローラに対向する凹面を有するディスク本体部と、前記ディスク本体部から前記回転軸線に沿って前記パワーローラとは反対側に突出した円筒部と、を有し、
前記円筒部は、前記軸受と前記回転軸との間に挿入されており、
前記少なくとも一対のディスクは、前記回転軸線方向に並んだ二対のディスクを含み、
前記少なくとも1つのパワーローラは、前記二対のディスクに挟まれた一対のパワーローラを含み、
前記二対のディスクは、互いに隣接した一対の中央ディスクと、前記一対の中央ディスクに対して前記回転軸線方向の外側に配置された一対の外ディスクとを有し、前記中央ディスクと前記外ディスクとの間で前記パワーローラが挟まれており、
前記円筒部は、前記中央ディスクに設けられており、
前記少なくとも1つの軸受は、前記ギヤの前記回転軸線方向の両側に設けられた一対の軸受を含み、
前記一対の軸受の各々は、外輪、内輪及び転動体を有し、
前記中央ディスクの前記円筒部と、前記内輪と、前記ギヤとは、互いに圧入されている、トロイダル無段変速機。
【請求項4】
前記内輪は、前記外輪と径方向に対向する内輪本体部と、前記回転軸線方向において前記内輪本体部から前記外輪よりも前記ギヤに向けて突出した内輪延長部と、を有し、
前記ギヤは、前記内輪延長部に対向する凹部を有し、
前記円筒部は、前記内輪に圧入され、
前記内輪延長部は、前記ギヤの前記凹部に圧入されている、請求項3に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項5】
前記内輪は、前記円筒部の端面と前記凹部の底面とに挟まれるように前記内輪延長部から径方向内側に突出した端壁部を更に有する、請求項に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項6】
回転軸と、
前記回転軸の回転軸線周りに配置され、互いに対向配置される少なくとも一対のディスクと、
前記少なくとも一対のディスクの間に傾転可能に挟まれた少なくとも1つのパワーローラと、
前記回転軸とケーシングとの間に配置される少なくとも1つの軸受と、を備え、
前記一対のディスクのうち少なくとも一方のディスクは、前記パワーローラに対向する凹面を有するディスク本体部と、前記ディスク本体部から前記回転軸線に沿って前記パワーローラとは反対側に突出した円筒部と、を有し、
前記円筒部は、前記軸受と前記回転軸との間に挿入されており、
前記円筒部は、前記回転軸に径方向内側から支持された支持部と、前記支持部よりも前記ディスク本体部側に位置して前記支持部よりも薄肉であり前記回転軸から径方向外側に離間した薄肉部と、を有する、トロイダル無段変速機。
【請求項7】
回転軸と、
前記回転軸の回転軸線周りに配置され、互いに対向配置される少なくとも一対のディスクと、
前記少なくとも一対のディスクの間に傾転可能に挟まれた少なくとも1つのパワーローラと、
前記回転軸とケーシングとの間に配置される少なくとも1つの軸受と、を備え、
前記一対のディスクのうち少なくとも一方のディスクは、前記パワーローラに対向する凹面を有するディスク本体部と、前記ディスク本体部から前記回転軸線に沿って前記パワーローラとは反対側に突出した円筒部と、を有し、
前記円筒部は、前記軸受と前記回転軸との間に挿入されており、
前記円筒部は、前記ディスク本体部の径方向内側の端よりも径方向外側に配置されている、トロイダル無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
トロイダル無段変速機では、一対のディスクの間にパワーローラが挟まれ、パワーローラを傾転させることで変速比が連続的に変更される(例えば、特許文献1参照)。トロイダル無段変速機には、ディスクと同軸周りに回転するカム板と、ディスクとカム板との間に挟まれて径方向に並ぶ複数のローラからなるローラ群とを有するローディングカム式の押圧装置(軸力発生装置)が設けられている。ローディングカム式の押圧装置では、伝達トルクが増加するにつれてカム作用によってディスクがカム板から離れるように押圧されることで、入力ディスクと出力ディスクとが互いに近づく向きに付勢され、パワーローラが十分な接触圧で挟まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-158400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ディスクは、その周方向の一部でパワーローラに接触している。そのため、押圧装置によって回転軸線方向に押圧された状態でディスクが回転する際に、ディスクが微小な弾性変形を繰り返し、微小振動が発生する。そうすると、ディスクの背面側の端面において、回転軸線方向に隣接する軸受との間に微小往復滑りが作用し、フレッティング摩耗が生じ得る。
【0005】
そこで本発明は、ディスクの背面側の端面においてフレッティング摩耗の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るトロイダル無段変速機は、回転軸と、前記回転軸の回転軸線周りに配置され、互いに対向配置される少なくとも一対のディスクと、前記少なくとも一対のディスクの間に傾転可能に挟まれた少なくとも1つのパワーローラと、前記回転軸とケーシングとの間に配置される少なくとも1つの軸受と、を備え、前記一対のディスクのうち少なくとも一方のディスクは、前記パワーローラに対向する凹面を有するディスク本体部と、前記ディスク本体部から前記回転軸線に沿って前記パワーローラとは反対側に突出した円筒部と、を有し、前記円筒部は、前記軸受と前記回転軸との間に挿入されている。
【0007】
前記構成によれば、ディスクの円筒部が軸受と回転軸との間に挿入されるようにディスク本体部から長く突出しているので、変速機全体が回転軸線方向に大型化するのを防ぎながらも、円筒部の端面をディスク本体部の凹面から遠く離すことが可能となる。そのため、ディスク本体部がパワーローラからの反力で弾性変形を繰り返しても、その変形がディスクの円筒部の端面に及び難くなる。よって、ディスクの背面側の端面(円筒部の端面)において、隣接する部品との間に生じる微小往復滑りが低減され、フレッティング摩耗の発生を抑制できる。
【0008】
一例として、前記円筒部は、前記回転軸線方向において前記外輪よりも前記ディスク本体部とは反対側に突出している構成としてもよい。
【0009】
前記構成によれば、円筒部がディスク本体部から十分に長く突出しているので、ディスク本体部の変形が円筒部の端面に更に及び難くなる。
【0010】
一例として、前記回転軸の回転軸線周りに配置され、前記一対のディスクの一方に対して動力伝達可能に接続されるギヤを更に備え、前記少なくとも一対のディスクは、前記回転軸線方向に並んだ二対のディスクを含み、前記少なくとも1つのパワーローラは、前記二対のディスクに挟まれた一対のパワーローラを含み、前記二対のディスクは、互いに隣接した一対の中央ディスクと、前記一対の中央ディスクに対して前記回転軸線方向の外側に配置された一対の外ディスクとを有し、前記中央ディスクと前記外ディスクとの間で前記パワーローラが挟まれており、前記円筒部は、前記中央ディスクに設けられており、前記少なくとも1つの軸受は、前記ギヤの前記回転軸線方向の両側に設けられた一対の軸受を含み、前記一対の軸受の各々は、外輪、内輪及び転動体を有し、前記中央ディスクの前記円筒部と、前記内輪と、前記ギヤとは、互いに圧入されている構成としてもよい。
【0011】
前記構成によれば、中央ディスクの円筒部と軸受の内輪とギヤとが互いに圧入されていることで、互いに一体となって変形するため、中央ディスクと軸受とギヤとの間の微小往復滑りの発生を防止できる。また、一対の中央ディスクから軸受を介してギヤに向かう荷重は中央のギヤにおいて相殺されるので、その観点からも振動発生を抑制できる。
【0012】
一例として、前記内輪は、前記外輪と径方向に対向する内輪本体部と、前記回転軸線方向において前記内輪本体部から前記外輪よりも前記ギヤに向けて突出した内輪延長部と、を有し、前記ギヤは、前記内輪延長部に対向する凹部を有し、前記円筒部は、前記内輪に圧入され、前記内輪延長部は、前記ギヤの前記凹部に圧入されている構成としてもよい。
【0013】
前記構成によれば、シンプルな構成で中央ディスクと内輪とギヤとを一体化できる。
【0014】
一例として、前記内輪は、前記円筒部の端面と前記凹部の底面とに挟まれるように前記内輪延長部から径方向内側に突出した端壁部を更に有する構成としてもよい。
【0015】
前記構成によれば、円筒部と内輪との接触面積が増えると共に内輪とギヤとの接触面積も増え、円筒部と内輪とギヤとを良好に一体化できる。
【0016】
一例として、前記円筒部は、前記回転軸に径方向内側から支持された支持部と、前記支持部よりも前記ディスク本体部側に位置して前記支持部よりも薄肉であり前記回転軸から径方向外側に離間した薄肉部と、を有する構成としてもよい。
【0017】
前記構成によれば、円筒部が薄肉部で変形し易くなって支持部で変形し難くなるので、ディスク本体部の変形が円筒部の端面に及び難くなる。よって、ディスクの円筒部の端面において、隣接する部品との間に生じる微小往復滑りを更に低減できる。
【0018】
一例として、前記円筒部は、前記ディスク本体部の径方向内側の端よりも径方向外側に配置されている構成としてもよい。
【0019】
前記構成によれば、円筒部によるディスク本体部の支持が径方向外側に位置されるので、パワーローラからの反力によるディスク本体部の変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ディスクの背面側の端面においてフレッティング摩耗の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態に係るトロイダル無段変速機を備える駆動機構一体型発電装置の断面図である。
図2図2は、図1に示すトロイダル無段変速機の中央ディスク及びその近傍の拡大図である。
図3図3は、図1に示すトロイダル無段変速機の外ディスク及びその近傍の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0023】
図1は、実施形態に係るトロイダル無段変速機10を備える駆動機構一体型発電装置1の断面図である。図1に示すように、駆動機構一体型発電装置1(Integrated Drive Generator:以下、「IDG」という)は、航空機の交流電源に用いられるものであって、航空機のエンジンに取り付けられるケーシング2を備える。ケーシング2には、入力機構3と、トロイダル無段変速機10(以下、「変速機」という)と、動力伝達機構4と、発電機5とが収容されている。なお、トロイダル無段変速機10は、駆動機構一体型発電装置の一部とした構成でなくてもよく、用途も航空機に限られない。
【0024】
変速機10は、変速機同軸上に配置されて相対回転可能な変速機入力軸11及び変速機出力軸12(回転軸)を備える(以下、変速機入力軸11及び変速機出力軸12の軸線を「回転軸線A1」という。)。本実施形態では、変速機入力軸11が変速機入力軸の役目を果たすが、互いに別体の入力ギヤ及び入力軸が動力伝達可能に結合された構成であってもよい。変速機入力軸11は、入力機構3を介してエンジン回転軸(図示せず)に接続される。入力機構3は、エンジン回転軸からの回転動力が入力される装置入力軸3aと、装置入力軸3aと一体回転するギヤ3bとを含む、変速機入力軸11には、それと一体回転するギヤ6が設けられている。本実施形態では、ギヤ6と変速機入力軸11とは、互いに一体に形成されたワンピースである。変速機出力軸12は、動力伝達機構4(例えば、ギア列)を介して発電機5の発電機入力軸5aに接続されている。
【0025】
エンジン回転軸から取り出された回転動力は、入力機構3を介して変速機入力軸11に入力され、変速機入力軸11の回転動力が入力ディスク13に伝達される。変速機10は、変速機入力軸11の回転を変速して変速機出力軸12に出力する。変速機出力軸12の回転動力は、動力伝達機構4を介して発電機入力軸5aに伝達される。発電機入力軸5aが回転駆動されると、発電機5が交流電力を発生する。変速機10の変速比は、エンジン回転軸の回転速度の変動に関わらず発電機入力軸5aの回転速度を適値(航空機の電装品の作動に適した周波数に対応する値)に保つように連続的に変更される。
【0026】
変速機10は、一例として、ハーフトロイダル型かつダブルキャビティ型であり、二組の入力ディスク13,13及び出力ディスク14,15を備える。入力ディスク13,13は、変速機入力軸11と一体回転するよう変速機入力軸11に嵌合されている。出力ディスク13~15は、変速機出力軸12と一体回転するよう変速機出力軸12に嵌合されている。二組のディスク13~15は、回転軸線A1回りに回転するように回転軸線A1方向に隣接配置されている。入力ディスク13,13と出力ディスク14,15とは、変速機10の回転軸線A1方向に互いに対向配置され、互いに対向する凹面21a,31aを有する。入力ディスク13,13及び出力ディスク14,15は、凹面21a,31aによって回転軸線A1回りに円環状のキャビティを形成する。なお、変速機は、ダブルキャビティ型に限定されず、例えば、シングルキャビティ型でもよい。
【0027】
変速機10は、一例として、中央入力型である。変速機出力軸12は、変速機入力軸11内に挿通され、変速機入力軸11から両側に突出する。一対の入力ディスク13,13は、変速機入力軸11上で背中合わせに配置された中央ディスクである。一対の出力ディスク14,15は、一対の入力ディスク13,13の回転軸線A1方向の外側に配置された外ディスクである。変速機入力軸11と一体回転するギヤ3bは、変速機入力軸11の外周面上に設けられ、一対の入力ディスク13,13間に配置されている。
【0028】
一方側の出力ディスク14は、変速機出力軸12の径方向に突出した凸部12aによって回転軸線A1外方に変位することが規制されている。他方側の出力ディスク15は、プリロードバネ16によって入力ディスク13に向けて付勢され、かつ、回転駆動時には押圧装置17によって入力ディスク13に向けて付勢される。押圧装置17は、例えばローディングカム式であり、出力ディスク14,15は、押圧装置17を介して動力伝達機構4に動力伝達可能に接続されている。変速機10は、キャビティ内に配置された複数のパワーローラ18と、複数のパワーローラ18をそれぞれ傾転可能に支持する複数のトラニオン19とを備える。
【0029】
トラニオン19は、傾転軸線A2周りに傾転可能かつ傾転軸線A2方向に変位可能な状態でケーシング2に支持されている。傾転軸線A2は、回転軸線A1とねじれの位置にある。パワーローラ18は、傾転軸線A2に対して垂直な回転軸線A3回りに回転自在にトラニオン19に支持されている。トラニオン19は、油圧駆動機構(図示せず)に接続されており、その油圧駆動機構がトラニオン19をパワーローラ18とともに傾転軸線A2方向に往復変位させる。
【0030】
入力ディスク13,13が回転駆動されると、パワーローラ18を介して出力ディスク14,15が回転駆動され、変速機出力軸12が回転駆動される。トラニオン19及びパワーローラ18が傾転軸線A2方向に変位すると、パワーローラ18の傾転軸線A2周りの傾転角が変更され、変速機10の変速比が傾転角に応じて連続的に変更される。パワーローラ18は、傾転軸線A2回りに傾転可能な状態で、入力ディスク13,13の凹面21aと出力ディスク14,15の凹面31aとの間に挟まれ、入力ディスク13の回転駆動力を傾転角に応じた変速比で変速して出力ディスク14,15に伝達する。出力ディスク14の回転トルクが増加すると、押圧装置17によって出力ディスク15が入力ディスク13に近づく向きに押圧され、入力ディスク13,13及び出力ディスク14,15がパワーローラ18を挟む圧力が増加する。
【0031】
図2は、図1に示すトロイダル無段変速機10の入力ディスク13(中央ディスク)及びその近傍の拡大図である。なお、入力ディスク13,13は、回転軸線A1方向におけるギヤ6の両側に一対配置されているが、一対の入力ディスク13,13及びの支持構造は、回転軸線A1方向において互いに対称である。図2に示すように、入力ディスク13は、パワーローラ18に対向する凹面21aを有するディスク本体部21と、ディスク本体部21から回転軸線A1に沿ってパワーローラ18とは反対側に突出した円筒部22とを有する。ディスク本体部21は、円弧形状の断面を有する。円筒部22は、回転軸線A1方向において、ディスク本体部21の背面21b(ギヤ6側の面)よりも凹面21a側に延びてディスク本体部21に接続されている。なお、入力ディスク13は、軸受40を介して変速機出力軸12に回転自在に支持されている。
【0032】
円筒部22は、ディスク本体部21の径方向内端よりも径方向外側に配置されている。即ち、円筒部22の径方向内端の内径は、ディスク本体部21の径方向内端の内径よりも大きい。これにより、円筒部22によるディスク本体部21の支持が径方向外側に位置されるので、パワーローラ18からの反力によるディスク本体部21の変形が抑制される。
【0033】
回転軸線A1方向におけるディスク本体部21とギヤ6との間には、軸受41が配置されている。軸受41は、ケーシング2(図1参照)に対して変速機入力軸11を回転自在に間接支持する。具体的には、軸受41と変速機入力軸11との間には、円筒部22が挿入されており、軸受41は、変速機入力軸11と共回転する入力ディスク13の円筒部22を回転自在に直接支持する。円筒部22のうち回転軸線A1方向に向いて隣接部品と接触する端面22aは、ディスク本体部21の背面21bのうちパワーローラ18から回転軸線A1方向に最も離れた端よりも凹面21aから離れた位置にある。
【0034】
入力ディスク13の円筒部22は、軸受41と変速機入力軸11との間に挿入されるようにディスク本体部21から長く突出しているので、変速機10全体が回転軸線A1方向に大型化するのを防ぎながらも、円筒部22の端面22aをディスク本体部21の凹面21aから遠く離すことが可能となる。そのため、ディスク本体部21がパワーローラ18からの反力で弾性変形を繰り返しても、その変形が円筒部22の端面22aに及び難くなる。
【0035】
ディスク本体部21の背面21bは、円筒部22に近づくにつれて凹面21a側に向けて窪んだ窪み部S1を有する。円筒部22の内周面は、回転軸線A1方向における変速機入力軸11よりも凹面21a側において、ディスク本体部21に近づくにつれて径方向外方に向けて窪んだ窪み部S2を有する。
【0036】
軸受41は、外輪42と、内輪43と、外輪42と内輪43との間に回転自在に挟まれた転動体44とを有する。内輪43は、内輪本体部43a、内輪延長部43b及び端壁部43cを有する。内輪本体部43aは、内輪43のうち外輪42と径方向に対向する円筒部分である。内輪延長部43bは、回転軸線A1方向において内輪本体部43aから外輪42よりもギヤ6に向けて突出した円筒部分である。端壁部43cは、内輪延長部43bから径方向内側に突出したフランジ状の部分である。
【0037】
円筒部22は、回転軸線A1方向において軸受41の外輪42よりもディスク本体部21とは反対側(ギヤ6側)に突出している。これにより、円筒部22がディスク本体部21から十分に長く突出することになり、ディスク本体部21の変形が円筒部22の端面2aに更に及び難くなる。
【0038】
入力ディスク13の円筒部22は、軸受41の内輪43に対して圧入状態で内嵌されている。回転軸線A1方向におけるギヤ6の両側面には、内輪延長部43bに対向する凹部6aが形成されている。内輪43の内輪延長部43bは、ギヤ6の凹部6aに圧入状態で内嵌されている。このように、入力ディスク13の円筒部22と軸受41の内輪43とギヤ6とが互いに圧入されていることで、互いに一体となって変形する。
【0039】
内輪43の端壁部43cは、入力ディスク13の円筒部22の端面22aとギヤ6の凹部6aの底面(回転軸線A1方向の法線を有する面)とに挟まれている。これにより、円筒部22と内輪43との接触面積が増えると共に、内輪43とギヤ6との接触面積も増え、円筒部22と内輪43とギヤ6とが更に良好に一体化される。
【0040】
このように、円筒部22と内輪43とギヤ6とが一体化されることで、互いの接触界面における微小往復滑りの発生が防止される。また、ギヤ6の両側に配置された一対の入力ディスク13から軸受41を介してギヤ6に向かう各荷重は、ギヤ6において相殺されるので、その観点からも振動発生が抑制される。
【0041】
なお、軸受41の内輪43は、入力ディスク13の円筒部22が兼ねる構成としてもよい。その場合には、内輪を兼ねる円筒部22が、ギヤ6の凹部6aに圧入されるとよい。また、軸受41の内輪43は、ギヤ6と一体に成形した構成としてもよい。その場合には、入力ディスク13の円筒部22が、ギヤ6と一体の内輪43に圧入されるとよい。
【0042】
円筒部22は、先端部22b、支持部22c及び薄肉部22dを有する。先端部22bは、円筒部22の回転軸線A1方向の先端側(ギヤ6側)の円筒部分である。支持部22cは、先端部22bよりもディスク本体部21側に位置し、先端部22bよりも厚肉の円筒部分である。ここでは、支持部22cは、その内周面において変速機入力軸11に共回転するように結合されるスプラインが形成されている。薄肉部22dは、支持部22cよりもディスク本体部21側に位置し、支持部22cよりも薄肉の円筒部分である。支持部22cは、変速機入力軸11に径方向内側から支持されているが、薄肉部22dは、変速機入力軸11から離間している。
【0043】
円筒部22は、薄肉部22dで変形し易くなって支持部22cで変形し難くなるので、ディスク本体部21の変形が円筒部22の先端部22bに及び難くなる。よって、円筒部22の端面22a(先端部22bの端面)と端壁部43cとの間に生じる微小往復滑りが低減され、端壁部43cとギヤ6との間に生じる微小往復滑りも低減される。
【0044】
以上のような構成によれば、回転する入力ディスク13がパワーローラ18から周期的な反力を受けてディスク本体部21が弾性変形を繰り返しても、その変形が入力ディスク13の円筒部22の端面22aに及び難くなる。よって、入力ディスク13の円筒部22の端面22aにおいて微小往復滑りが低減され、フレッティング摩耗の発生が抑制される。
【0045】
図3は、図1に示すトロイダル無段変速機10の出力ディスク14(外ディスク)及びその近傍の拡大図である。なお、出力ディスク14,15は、回転軸線A1方向における入力ディスク13,13の両側に一対配置されているが、出力ディスク15は従来と同じ形状を有し、出力ディスク14はそれと異なる形状を有する。図3に示すように、出力ディスク14は、パワーローラ18に対向する凹面31aを有するディスク本体部31と、ディスク本体部31から回転軸線A1に沿ってパワーローラ18とは反対側に突出した円筒部32とを有する。ディスク本体部31は、円弧形状の断面を有する。円筒部32は、回転軸線A1方向において、ディスク本体部31の背面31b(凹面31aと反対側の面)よりも凹面31a側に延びてディスク本体部31に接続されている。
【0046】
変速機出力軸12の凸部12aの径方向外方には、軸受51が配置されている。軸受51は、ディスク本体部31よりも回転軸線A1方向の外側に配置されている。軸受51は、外輪52と、外輪52と円筒部32との間に回転自在に挟まれた転動体54とを有する。即ち、軸受51は内輪を有さず、円筒部32が内輪を兼ねている。なお、軸受51は、内輪を有するものとしてもよい。その場合には、軸受51の内輪が、出力ディスク14の円筒部32に圧入される構成とするとよい。
【0047】
軸受51は、ケーシング2(図1参照)に対して変速機出力軸12を回転自在に間接支持する。具体的には、軸受51と変速機出力軸12との間には、円筒部32が挿入されており、軸受51は、変速機出力軸12と共回転する出力ディスク14の円筒部32を回転自在に直接支持する。円筒部32のうち回転軸線A1方向に向いて隣接部品と接触する端面32aは、ディスク本体部31の背面31bのうちパワーローラ18から回転軸線A1方向に最も離れた端よりも凹面31aから離れた位置にある。なお、円筒部32の先端部32bの回転軸線A1方向に向いた端面は、何れの部品にも接触していない。
【0048】
出力ディスク14の円筒部32は、軸受51と変速機出力軸12との間に挿入されるようにディスク本体部31から長く突出しているので、変速機10全体が回転軸線A1方向に大型化するのを防ぎながらも、円筒部32の端面32aをディスク本体部31の凹面31aから遠く離すことが可能となる。そのため、ディスク本体部31がパワーローラ18からの反力で弾性変形を繰り返しても、その変形が円筒部32の端面32aに及び難くなる。
【0049】
ディスク本体部31の背面31bは、円筒部32に近づくにつれて凹面31a側に向けて窪んだ窪み部S3を有する。円筒部32は、先端部32b、支持部32c及び薄肉部32dを有する。先端部32bは、円筒部32の回転軸線A1方向の先端側の円筒部分であり、変速機出力軸12の凸部12aに外嵌されている。ここでは、先端部32bは、その内周面において変速機出力軸12に共回転するように結合されるスプラインが形成されている。支持部32cは、先端部32bよりもディスク本体部21側に位置し、先端部32bよりも厚肉の円筒部分である。支持部32cの回転軸線A1方向に向いた端面32aが、変速機出力軸12の凸部12aの側面に接触している。
【0050】
薄肉部32dは、支持部32cよりもディスク本体部21側に位置し、支持部32cよりも薄肉の円筒部分である。薄肉部32dは、回転軸線A1方向において窪み部S3と重なる位置に配置されている。支持部32cは、変速機出力軸12に径方向内側から支持されているが、薄肉部32dは、変速機出力軸12から離間している。
【0051】
円筒部32は、薄肉部32dで変形し易くなって、支持部32cで変形し難くなるので、ディスク本体部31の変形が円筒部32の支持部32cに及び難くなる。よって、円筒部32の端面32a(支持部32cの端面)と変速機出力軸12の凸部12aの側面との間に生じる微小往復滑りが低減される。
【0052】
以上のような構成によれば、回転する出力ディスク14がパワーローラ18から周期的な反力を受けてディスク本体部31が弾性変形を繰り返しても、その変形が出力ディスク14の円筒部32の端面32aに及び難くなる。よって、出力ディスク14の円筒部32の端面32aにおいて微小往復滑りが低減され、フレッティング摩耗の発生が抑制される。
【0053】
なお、本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。例えば、変速機は、中央入力型に限定されず、中央出力型でもよい。中央出力型の場合には、前述した入力ディスク13と出力ディスク14との位置関係が逆転し、出力ディスクが中央ディスクとなり、入力ディスクが外ディスクとなる。
【符号の説明】
【0054】
6 ギヤ
6a 凹部
10 トロイダル無段変速機
11 変速機入力軸(回転軸)
12a 凸部
12 変速機出力軸(回転軸)
13 入力ディスク
14,15 出力ディスク
18 パワーローラ
21,31 ディスク本体部
21a,31a 凹面
22c,32c 支持部
22d,32d 薄肉部
22,32 円筒部
22a,32a 端面
41,51 軸受
42,52 外輪
43 内輪
43a 内輪本体部
43b 内輪延長部
43c 端壁部
44,54 転動体
図1
図2
図3