(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】位置決め装置、露光装置、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 9/00 20060101AFI20240410BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240410BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20240410BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
G03F9/00 H
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H01L21/68 G
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2019192133
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 将人
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-141190(JP,A)
【文献】特開平05-283313(JP,A)
【文献】特開2004-241478(JP,A)
【文献】特開2012-209401(JP,A)
【文献】特開2010-161116(JP,A)
【文献】特開2017-111243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
H01L 21/027、21/30、21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートの位置決めを行う位置決め装置であって、
前記プレートを保持して第1方向に移動可能なステージと、
前記第1方向に光を射出し、前記ステージの上面に設けられた反射部材で反射された光に基づいて、前記第1方向における前記ステージの位置を計測する計測部と、
前記ステージの上面において前記第1方向における前記プレートと前記反射部材との間に設けられ
、前記ステージの上面と平行な面内で前記第1方向に垂直な第2方向に沿って伸びる部分と2つの端部とを有する壁部と、
を有し、
前記壁部は、その上端が前記プレートの上面より高く構成され、且つ、前記プレートおよび前記反射部材から離間して配置さ
れ、前記第2方向における前記2つの端部間の距離は前記第2方向における前記プレートの長さ以上であることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記壁部は、前記第1方向において、前記プレートと前記反射部材との中間位置より前記プレート側に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記反射部材は、前記ステージの上面から突出した支持部によって支持され、
前記壁部は、前記支持部から離間して配置されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の位置決め装置。
【請求項4】
前記ステージの上面は、前記プレートを保持する保持面を含む面である、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項5】
前記第2方向において、前記壁部の長さは前記プレートの長さ以上である、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記ステージは、前記計測部の光路の一部を取り囲むカバー部材を有し、
前記カバー部材と前記壁部との間には、前記カバー部材の内部から気体を排出するための隙間が形成されている、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項7】
プレートの位置決めを行う位置決め装置であって、
前記プレートを保持して第1方向に移動可能なステージと、
前記第1方向に光を射出し、前記ステージの上面に設けられた反射部材で反射された光に基づいて、前記第1方向における前記ステージの位置を計測する計測部と、
前記ステージの上面において前記第1方向における前記プレートと前記反射部材との間に設けられた壁部と、
を有し、
前記壁部は、その上端が前記プレートの上面より高く構成され、且つ、前記プレートおよび前記反射部材から離間して配置され、
前記ステージは、前記計測部の光路の一部を取り囲むカバー部材を有し、
前記カバー部材と前記壁部との間には、前記カバー部材の内部から気体を排出するための隙間が形成され、
前記カバー部材は、その内部から気体を排出するための開口部を、前記第1方向と垂直な第2方向側の側面に有する、ことを特徴とす
る位置決め装置。
【請求項8】
前記カバー部材は、前記第1方向における前記反射部材と前記壁部との間に前記開口部を有する、ことを特徴とする請求項7に記載の位置決め装置。
【請求項9】
前記ステージは、粗動ステージと、前記プレートを保持するとともに前記粗動ステージに対して相対移動する微動ステージとを含み、
前記壁部は、前記微動ステージによって支持されている、ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項10】
プレートの位置決めを行う位置決め装置であって、
前記プレートを保持して第1方向に移動可能なステージと、
前記第1方向に光を射出し、前記ステージの上面に設けられた反射部材で反射された光に基づいて、前記第1方向における前記ステージの位置を計測する計測部と、
前記ステージの上面において前記第1方向における前記プレートと前記反射部材との間に設けられた壁部と、
を有し、
前記壁部は、その上端が前記プレートの上面より高く構成され、且つ、前記プレートおよび前記反射部材から離間して配置され、
前記ステージは、粗動ステージと、前記プレートを保持するとともに前記粗動ステージに対して相対移動する微動ステージとを含み、
前記壁部は、前記粗動ステージによって支持されている、ことを特徴とす
る位置決め装置。
【請求項11】
前記計測部の光路において前記第1方向に沿った気体の流れが形成されるように、前記ステージに向けて気体を吹き出す吹出部を更に含む、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項12】
原版と基板とを走査しながら前記基板を露光する露光装置であって、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の位置決め装置を含み、
前記位置決め装置は、前記プレートとして、前記原版および前記基板の少なくとも一方の位置決めを行う、ことを特徴とする露光装置。
【請求項13】
請求項12に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記工程で露光を行われた前記基板を現像する工程と、を含み、
現像された前記基板から物品を製造することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレートの位置決めを行う位置決め装置、それを含む露光装置、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルや半導体デバイスの製造工程(リソグラフィ工程)で用いられる装置の1つとして、原版と基板とを相対的に走査しながら基板を露光する露光装置が知られている。このような露光装置では、基板上にパターンを精度よく形成するため、原版や基板を保持するステージの位置決め精度の向上が要求されており、それにはステージの位置を精度よく計測することが必要である。
【0003】
ステージの位置の計測には、一般にレーザ干渉計が用いられうるが、レーザ干渉計では、計測光路上における気体の温度や圧力、湿度等のゆらぎに起因する計測光路上の屈折率の変化が計測精度の低下(計測誤差)の要因になりうる。例えば、原版では、基板の露光中に照明されて温度が上昇するため、原版に生じた熱が、原版ステージの移動に伴って周囲に拡がって計測光路に侵入すると、原版ステージの位置の計測精度が低下しうる。また、原版の曇り防止のため、原版の配置空間を、その周囲より低湿度の気体(パージガス)で満たす場合がある。この場合においても、原版ステージの移動に伴って低湿度の気体が計測光路に侵入すると、原版ステージの位置の計測精度が低下しうる。
【0004】
特許文献1には、ステージの側面に設けられた反射ミラーに向けて光を射出し、反射ミラーで反射された光と参照光との干渉光を受けてステージの位置を検出する干渉計を備えた計測装置が開示されている。特許文献1で開示された計測装置では、気体吹き出し部からステージに向けて吹き出される気体を干渉計の光路へ整流して効率よく導くための構造体(整流板)が、当該光路の一部および反射ミラーを上下から挟み込むように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示されたように反射ミラーおよび構造体がステージの側面に設けられた構成では、ステージの移動に伴ってステージ上(例えば原版上)の気体がステージの側面に流入することがある。この場合、ステージの側面の近傍における計測光路では、気体吹き出し部から吹き出されて構造体で導かれた気体とステージ上から流れてきた気体とで乱流(気体のゆらぎ)が生じてしまい、ステージの位置の計測精度が低下しうる。
【0007】
そこで、本発明は、ステージの位置を精度よく計測するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの側面は、プレートの位置決めを行う位置決め装置に係り、前記位置決め装置は、前記プレートを保持して第1方向に移動可能なステージと、前記第1方向に光を射出し、前記ステージの上面に設けられた反射部材で反射された光に基づいて、前記第1方向における前記ステージの位置を計測する計測部と、前記ステージの上面において前記第1方向における前記プレートと前記反射部材との間に設けられ、前記ステージの上面と平行な面内で前記第1方向に垂直な第2方向に沿って伸びる部分と2つの端部とを有する壁部と、を有し、前記壁部は、その上端が前記プレートの上面より高く構成され、且つ、前記プレートおよび前記反射部材から離間して配置され、前記第2方向における前記2つの端部間の距離は前記第2方向における前記プレートの長さ以上である。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、ステージの位置を精度よく計測するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】第1実施形態の位置決め装置の構成を示す概略図
【
図3】第1実施形態の位置決め装置の効果を説明するための図
【
図5】第2実施形態の位置決め装置の構成を示す概略図
【
図6】第3実施形態の位置決め装置の構成を示す概略図
【
図7】第4実施形態の位置決め装置の構成を示す概略図
【
図8】第4実施形態の位置決め装置の変形例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
<第1実施形態>
[露光装置の構成]
本発明に係る第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の露光装置100の全体構成を示す概略図である。本実施形態の露光装置100は、原版Mと基板Wとを走査しながら基板Wを露光することにより原版Mのパターンを基板上に転写するステップ・アンド・スキャン方式の露光装置である。このような露光装置100は、走査露光装置やスキャナとも呼ばれる。本実施形態では、原版Mは、例えば石英製のマスク(レチクル)であり、基板Wにおける複数のショット領域の各々に転写されるべき回路パターンが形成されている。また、基板Wは、フォトレジストが塗布されたウェハであり、例えば単結晶シリコン基板等が用いられうる。
【0014】
露光装置100は、照明光学系IOと、原版Mを保持して移動可能な原版ステージ11と、投影光学系POと、基板Wを保持して移動可能な基板ステージ21と、制御部CNTとを含みうる。制御部CNTは、例えばCPUやメモリを有するコンピュータによって構成されるとともに、装置内の各部に電気的に接続され、装置全体の動作を統括して制御する。ここで、以下の説明では、照明光学系IOから射出されて原版Mに入射する光の光軸に平行な軸方向をZ軸方向とし、該光軸に垂直な面内において互いに直行する2つの軸方向をX軸方向およびY軸方向とする。
【0015】
照明光学系IOは、水銀ランプ、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザなどの光源LSから射出された光を、例えば帯状や円弧状のスリット光に整形し、そのスリット光で原版Mの一部を照明する。原版Mの一部を透過した光は、当該原版Mの一部のパターンを反映したパターン光として投影光学系POに入射する。投影光学系POは、所定の投影倍率を有し、パターン光により原版Mのパターンを基板上(具体的には、基板上のレジスト)に投影する。原版Mおよび基板Wは、原版ステージ11および基板ステージ21によってそれぞれ保持されており、投影光学系POを介して光学的に共役な位置(投影光学系POの物体面および像面)にそれぞれ配置される。制御部CNTは、原版ステージ11および基板ステージ21を、互いに同期しながら投影光学系POの投影倍率に応じた速度比で相対的に走査する(本実施形態では、原版Mおよび基板Wの走査方向をY軸方向(第1方向)とする)。これにより、原版Mのパターンを基板上に転写することができる。
【0016】
[位置決め装置の構成]
次に、プレートの位置決めを行う位置決め装置について説明する。本実施形態では、プレートとして原版Mの位置決めを行う位置決め装置10について説明するが、プレートとして基板Wの位置決めを行う場合においても同様の構成の位置決め装置を適用することができる。
【0017】
図2は、本実施形態の位置決め装置10Aの構成を示す概略図である。
図2(a)は、位置決め装置10Aの側面図を示しており、
図2(b)は、位置決め装置10Aの上面図を示している。位置決め装置10Aは、例えば、原版Mを保持して少なくともY軸方向(第1方向)に移動可能な原版ステージ11と、Y軸方向における原版ステージ11の位置を計測する計測部12とを含みうる。
【0018】
計測部12は、例えばレーザ干渉計で構成され、原版ステージ11に設けられた反射部材13(ミラー)に向けて光を射出し、当該反射部材13からの反射光と参照光との干渉に基づいて、Y軸方向における原版ステージ11の位置を計測することができる。
図2に示す例では、複数(2個)の計測部12がX軸方向に離間して配置されている。このように複数の計測部12を用いることで、θ方向(Z軸周りの回転方向)における原版ステージ11の回転を計測することもできる。また、反射部材13は、原版ステージ11の上面Sの上に設けられうる。本実施形態の場合、反射部材13は、
図2に示すように、原版ステージ11の上面Sから+Z方向に突出した支持部16によって支持される。ここで、原版ステージ11の上面Sとは、例えば、原版ステージ11において原版Mを保持する保持面を含む面のことである。
【0019】
位置決め装置10Aでは、計測部12から射出される光の光路(計測光路)12aにおいて気体の温度や湿度等のゆらぎ(雰囲気ゆらぎ)が生じると、それに起因して計測光路12aの屈折率が変化し、計測精度の低下(計測誤差)が生じることがある。そのため、本実施形態の位置決め装置10Aには、計測光路12aの雰囲気を安定化するための気体14aを吹き出す吹出部14が設けられうる。吹出部14は、例えば、計測部12の計測光路12aにおいてY軸方向に沿った気体の流れが形成されるように、原版ステージ11に向けて気体を吹き出すように構成されうる。吹出部14から吹き出される気体14aは、計測光路12aの雰囲気を安定化することに加えて、原版Mの曇りを防止したり、原版ステージ11を冷却したりするためにも用いられることがある。吹出部14から吹き出される気体14aとしては、例えば、クリーンエア、クリーンドライエア、窒素ガスなど、温度や湿度が所定範囲内に保たれた(調整された)クリーンな気体が用いられるとよい。
【0020】
ところで、原版Mは、基板Wの露光中に照明されて温度が上昇するため、原版Mに生じた熱が原版ステージ11の移動に伴って周囲に拡がり計測光路12aに侵入すると、計測部12による原版ステージ11の位置の計測精度が低下しうる。また、原版Mの曇り防止のため、原版Mの配置空間を、その周囲より低湿度の気体(パージガス)で満たす場合がある。この場合においても、原版ステージ11の移動に伴って低湿度の気体が計測光路に侵入すると、計測部12による原版ステージ11の位置の計測精度が低下しうる。なお、以下では、原版Mからの熱を帯びた気体と原版Mの配置空間に供給された気体(パージガス)とを総称して「原版Mの周囲気体」と呼ぶことがある。
【0021】
そこで、本実施形態の位置決め装置10Aでは、原版ステージ11の上面Sにおける反射部材13(支持部16)と原版Mとの間に壁部17が設けられる。このように壁部17を設けることにより、原版ステージ11の移動に伴って原版Mの周囲気体が移動して計測光路12aに侵入することを低減することができる。具体的には、
図3に示すように、矢印Vに従って原版ステージ11が移動すると、原版Mの周囲気体は、計測光路12aに向かう方向(-X方向)へ移動を開始する。しかしながら、移動を開始した原版Mの周囲気体は、矢印Aに示すように壁部17にぶつかり、その移動方向(流れの向き)が、計測光路12aから離れる方向に変えられる。そのため、原版Mの周囲気体が計測光路12aに侵入することを低減(防止)することができる。
【0022】
壁部17は、その高さ(Z軸方向)が原版Mの上面より高くなるように構成される。壁部17の高さは、高いほど、原版Mの周囲気体の移動方向を計測光路12aから離れる方向に誘導(変換)して当該周囲気体の流れと計測光路12aとの間の距離を増加させることができる。このように原版Mの周囲気体の流れと計測光路12aとの間の距離を増加させれば、原版Mの周囲気体が計測光路12aに侵入することを低減することができる。そして、この場合、吹出部14から吹き出された気体14aにより原版Mの周囲気体の流れを計測光路12aから更に離すことができるため、原版Mの周囲気体が計測光路12aに侵入することを更に低減することができる。
【0023】
また、壁部17は、その幅(X軸方向の長さ)が原版Mの幅(X軸方向の長さ)以上であるとよい。壁部17の幅は、広いほど、移動する原版Mの周囲気体を計測光路12aから離れる方向に誘導して当該周囲気体の流れと計測光路12aとの間の距離を増加させることができる。なお、X軸方向は、原版ステージ11の上面Sと平行な面内で走査方向(X軸方向、第1方向)に垂直な方向(第2方向)と定義することができる。ここで、上記のように、壁部17の高さは高いほどよく、壁部17の幅は広いほどよいが、壁部17の高さおよび幅は、例えば原版ステージ11のサイズまたは原版ステージ11が移動可能な空間のサイズに応じて決定されうる。
【0024】
壁部17は、Z軸方向から見て(平面視において)、矩形形状に限られるものではなく、原版Mの周囲気体の移動方向を変える効果を増加させることができる他の形状を有してもよい。
図4(a)~(d)は、壁部17の形状例を示している。
図4(a)に示す壁部17は、X軸方向側の端部が原版Mから遠ざかる方向(+Y方向)に「L字」状に折れ曲がった形状を有している。
図4(b)に示す壁部17は、X軸方向側の端部が原版Mに向かう方向(-Y方向)に「L字」状に折れ曲がった形状を有している。
図4(c)に示す壁部17は、X軸方向側の端部が原版Mから遠ざかる方向(+Y方向)に「くの字」状に折れ曲がった形状を有している。
図4(d)に示す壁部17は、X軸方向側の側面が傾斜した形状を有している(即ち、平面視での形状が台形形状を有している)。なお、壁部17の形状は、曲率を有していたり厚さが部分的に異なっていたり等、
図4に示す形状に限定されるものではない。また、壁部17での空気抵抗により原版ステージ11の移動に影響を与える場合には、当該空気抵抗が所望値より小さくなるように壁部17を傾斜形状としてもよい。
【0025】
一方、吹出部14から吹き出された気体14aの流れも、壁部17によって変化しうる。気体14aは、上述したように、計測光路12aの雰囲気を安定化して計測精度の低下を低減するために計測光路12aに供給される。そのため、計測光路12aにおいて部分的に気体14aの流れが変化してしまうと、その部分で屈折率が変化して計測精度が低下しうる。例えば、吹出部14から吹き出された気体14aが壁部17にぶつかると、壁部17の近傍では、気体14aの流れが変化しうる。また、壁部17の近傍の気体14aは、原版ステージ11の移動に伴って、壁部17により押し出されたり引っ張られたりするため、乱れた流れ(乱流)となることがある。このような気体14aの流れの変化や乱流が、計測光路12aで生じてしまうと、計測精度の低下が引き起こされうる。
【0026】
そのため、本実施形態の壁部17は、反射部材13(支持部16)からY軸方向に離間して配置されている。例えば、壁部17は、Y軸方向において、原版Mと反射部材13(支持部16)との中間位置より原版側(プレート側)に配置されるとよい。このように壁部17を反射部材13(支持部16)から離間して配置することにより、壁部17の近傍における気体14aの流れの変化や乱流が計測光路12aに与える影響を低減し、計測精度の低下を低減することができる。さらに、壁部17によって気体14aの流れが変化する方向は、計測光路12aから離れる方向となるため、このような変化後の気体14aの流れにより、壁部17を超えてきた原版Mの周囲気体を計測光路12aから遠ざける効果を増加させることができる。
【0027】
次に、原版Mと反射部材13(支持部16)との間に壁部17を設ける効果をシミュレーションで確認した結果について説明する。シミュレーションでは、原版Mのサイズを152mm×152mmとした。また、壁部17を、180mm幅(X軸方向の長さ)および26mm高さとし、原版ステージ11の上面Sにおける原版Mの端部から35mmの位置に設けた。この場合において、基板Wの露光中に原版Mの温度が1.4℃上昇したとき、壁部17を設けていない場合と比較して、原版Mの温度起因による計測光路12aのゆらぎが45%改善された結果となった。
【0028】
上述したように、本実施形態の位置決め装置10Aでは、原版ステージ11の上面における原版Mと反射部材13との間に壁部17が設けられる。また、壁部17は、その上端が原版Mの上面より高く構成され、原版Mおよび反射部材13(支持部16)から離間して配置される。この構成により、露光中に原版Mに生じた熱や原版Mに対して供給されたパージガスなど、原版Mの周囲気体が計測部12の計測光路12aに侵入することを低減することができる。そのため、計測光路12aの雰囲気ゆらぎに起因する計測部12の計測誤差を低減し、原版Mを精度よく位置決めすることができる。ここで、本実施形態の構成において、計測部12および反射部材13の位置を入れ換えてもよい。つまり、本実施形態では原版ステージ11の上面Sに反射部材13を設けたが、原版ステージ11の上面Sに計測部12を設けてもよい。
【0029】
<第2実施形態>
本発明に係る第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであるが、計測部12の計測光路12aの一部を取り囲むカバー部材18を更に有する点で第1実施形態と異なる。以下に、カバー部材18を有する本実施形態の位置決め装置10Bについて説明する。
【0030】
図5は、本実施形態の位置決め装置10Bの構成を示す概略図である。
図5(a)は、位置決め装置10Bの側面図を示しており、
図5(b)は、位置決め装置10Bの上面図を示している。本実施形態の原版ステージ11は、その上面Sにおいて計測光路12aの一部を取り囲む(覆う)カバー部材18を有する。カバー部材18は、壁部17を超えてきた原版Mの周囲気体が計測光路12aに与える影響を更に低減するため、即ち、原版ステージ11上での気体の流れを整えて計測光路12aの雰囲気の安定化を図るために設けられうる。
【0031】
本実施形態のカバー部材18は、カバー部材18と壁部17との間に隙間19が形成されるように、原版ステージ11の上面Sに配置されうる。このように壁部17から隙間19をあけてカバー部材18を配置することにより、吹出部14から吹き出されてカバー部材18を通過した気体14aを、当該隙間19から排出し、壁部17に沿って流すことができる。つまり、壁部17を超えて移動してきた原版Mの周囲気体を計測光路12aから遠ざける効果を更に増加させることができる。
【0032】
カバー部材18と壁部17との間の隙間19は、狭いほど、当該隙間19から排出される気体14aの流速を増加させ、原版Mの周囲気体を計測光路12aから遠ざける効果を増加させることができる。その一方で、隙間19を狭くすると、吹出部14から吹き出された気体14aがカバー部材18の内部で淀んでしまい、計測光路12aの雰囲気ゆらぎを引き起こすことがある。そのため、本実施形態のカバー部材18は、X軸方向側の側面に、内部を通過した気体を排出するための開口部18aを有する。開口部18aは、壁部17側に形成されるとよく、好ましくは、Y軸方向における反射部材13と壁部17との間に形成されるとよい。また、開口部18aは、Y軸方向において、可能な限り反射部材13から離れた位置に配置されることが好ましい。これは、原版Mの周囲気体が、壁部17を超えて開口部18aからカバー部材18の内部に侵入したとしても、計測光路12aに影響を与えることを低減するためである。
【0033】
ここで、カバー部材18は、壁部17と一体に構成されてもよい。この場合においても、当該一体構成の部材に対して、隙間19および開口部18aに対応する開口や切り欠き等が形成されうる。また、開口部18aは、カバー部材18と壁部17との間の隙間19の狭さに関わらずに形成されてもよい。さらに、本実施形態のカバー部材18は、
図5に示すように、X軸方向に離間して配置された複数の反射部材13(計測光路12a)を取り囲むように構成されているが、それに限られず、複数の反射部材13の各々を個別に取り囲むように構成されてもよい。
【0034】
上述したように、本実施形態の位置決め装置10Bは、壁部17に対して隙間19をあけて原版ステージ11の上面Sに設けられたカバー部材18を有する。また、カバー部材18は、X軸方向側の側面に形成された開口部18aを有してもよい。この構成により、吹出部14から吹き出されてカバー部材18を通過した気体14aを、当該隙間19から排出し、壁部17に沿って流すことができるため、原版Mの周囲気体が計測部12の計測光路12aに侵入することを更に低減することができる。
【0035】
<第3実施形態>
本発明に係る第3実施形態について説明する。本実施形態では、原版Mが配置される空間(以下、原版Mの配置空間)にパージガスを供給するように構成された位置決め装置10Cの構成例について説明する。なお、本実施形態は、特に言及されない限り、第1~第2実施形態を基本的に引き継ぐものである。
【0036】
図6は、本実施形態の位置決め装置10Cの構成を示す概略図である。
図6(a)は、位置決め装置10Cの側面図を示しており、
図6(b)は、位置決め装置10Cの上面図を示している。本実施形態の位置決め装置10Cは、例えば、原版Mの配置空間にパージガス(一例として低湿度の気体)を供給する場合に有用である。
【0037】
本実施形態の位置決め装置10Cは、第1面部材31と第2面部材32との間を原版ステージ11が移動するように構成される。第1面部材31は、例えば照明光学系IOにより支持されてXY方向に広がる部材であり、第2面部材32は、例えば投影光学系POにより支持されてXY方向に広がる部材である。第1面部材31および第2面部材32は、原版ステージ11に対する隙間が可能な限り狭くなるように配置される。これにより、原版Mの配置空間に供給されたパージガス33が、第1面部材31と原版ステージ11との隙間、および、第2面部材32と原版ステージ11との隙間から抜け出すことを低減することができる。
【0038】
また、原版ステージ11は、反射部材13(支持部16)と、壁部17と、カバー部材18と、隙間規定部材34とを有する。反射部材13(支持部16)および壁部17は、第1~第2実施形態で説明したように原版ステージ11の上面Sの上に設けられる。カバー部材18は、第2実施形態で説明したように、壁部17に対して隙間19が形成されるように原版ステージ11の上面Sに設けられ、X軸方向側の側面に開口部18aを有する。そして、本実施形態の場合、カバー部材18は、第1面部材31に対して狭隙間を形成するように壁部17と同じ高さに構成されうる。隙間規定部材34は、第1面部材31に対して狭隙間を形成するための部材であり、原版Mの配置空間を基準(中心)として壁部17およびカバー部材18の反対側(原版Mの配置空間の-Y方向側)に配置される。隙間規定部材34は、壁部17およびカバー部材18と同じ高さに構成されうる。
【0039】
このように、原版ステージ11を構成することにより、原版Mの配置空間に供給されたパージガス33が抜け出すことを低減することができる。また、壁部17と第1面部材31との隙間、および壁部17とカバー部材18との隙間を介してパージガス33が計測光路12aに侵入することを低減することができる。ここで、カバー部材18の開口部18aの面積(総面積)は、壁部17とカバー部材18との隙間の面積(総面積)より大きいことが好ましい。本実施形態の構成では、壁部17とカバー部材18との隙間から気体14aが排出されにくいため、カバー部材18の内部において気体14aが淀んでしまい、計測光路12aの雰囲気ゆらぎを引き起こしやすくなるからである。また、開口部18aは、Y軸方向において、反射部材13と壁部17との間に形成されるとよい。この場合、開口部18aは、Y軸方向において、可能な限り反射部材13から離れた位置に形成されることが好ましい。これは、反射部材13の近傍の計測光路12aにおいて、気体14aの急激な流速変化を抑え、計測光路12aの雰囲気ゆらぎを低減するためである。
【0040】
<第4実施形態>
本発明に係る第5実施形態について説明する。本実施形態では、原版ステージ11が粗動ステージ11aと微動ステージ11bとを含むように構成された位置決め装置10Dの構成例について説明する。なお、本実施形態は、特に言及されない限り、第1実施形態を基本的に引き継ぐものである。また、本実施形態は、第2実施形態で説明したカバー部材18を含む構成、および/または、第3実施形態で説明した第1面部材31と第2面部材32とを含む構成を適用してもよい。
【0041】
図7は、本実施形態の位置決め装置10Dの構成を示す概略図である。
図7(a)は、位置決め装置10Dの側面図を示しており、
図7(b)は位置決め装置10Dの上面図を示している。本実施形態の位置決め装置10Dにおける原版ステージ11は、粗動ステージ11aと微動ステージ11bとを含みうる。
【0042】
粗動ステージ11aは、ベース41に対して少なくともY軸方向に相対移動するための駆動機構42(アクチュエータ)を有する。そして、Y軸方向における粗動ステージ11aの位置は、第2計測部43によって計測される。第2計測部43は、例えばレーザ干渉計で構成され、粗動ステージ11aに設けられた反射部材44に向けて光を射出し、当該反射部材44からの反射光と参照光との干渉に基づいて、Y軸方向における粗動ステージ11aの位置を計測することができる。
図7では、第2計測部43の計測光路43aが示されている。ここで、本実施形態では、反射部材44は、粗動ステージ11aの側面に設けられているが、粗動ステージ11aの上面に設けられてもよい。
【0043】
また、微動ステージ11bは、原版Mを保持するとともに、粗動ステージ11aに対して少なくともY軸方向に相対移動するための駆動機構45(アクチュエータ)を有する。本実施形態の場合、反射部材13(支持部16)および壁部17は、微動ステージ11bの上面Sに設けられている。そして、壁部17は、反射部材13(支持部16)と原版Mとの間において、反射部材13および原版Mと離間するように微動ステージ11bによって支持されている。
【0044】
ここで、壁部17は、
図8に示すように、微動ステージ11bではなく、粗動ステージ11aによって支持されていてもよい。
図8は、壁部17が粗動ステージ11aによって支持された構成の位置決め装置10Eの構成を示す概略図である。
図8(a)は、位置決め装置10Eの側面図を示しており、
図8(b)は位置決め装置10Eの上面図を示している。
図8に示す位置決め装置10Eでは、壁部17は、支持部材46を介して粗動ステージ11aによって支持されている。具体的には、壁部17は、反射部材13(支持部16)と原版Mとの間において、反射部材13および原版Mと離間するように、支持部材46を介して粗動ステージ11bによって支持されている。
【0045】
本実施形態の位置決め装置10D~10Eの構成によっても、原版Mの周囲気体が計測部12の計測光路12aに侵入することを低減することができる。そのため、計測光路12aにおける雰囲気ゆらぎに起因する計測部12の計測誤差を低減し、原版Mを精度よく位置決めすることができる。
【0046】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態にかかる物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品の製造方法は、基板に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像(加工)する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0047】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0048】
10:位置決め装置、11:原版ステージ、12:計測部、13:反射部材、16:支持部、17:壁部、18:カバー部材