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特許7469868制動距離予測システムおよび制動距離予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】制動距離予測システムおよび制動距離予測方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20240410BHJP
   G01L 5/16 20200101ALI20240410BHJP
   B60W 30/16 20200101ALI20240410BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20240410BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20240410BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B60W30/09
G01L5/16
B60W30/16
B60W40/06
B60W50/14
G08G1/16 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019218317
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021088226
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩人
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-112967(JP,A)
【文献】特開2002-013424(JP,A)
【文献】特開平09-323628(JP,A)
【文献】特開2020-122753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
G01L 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤに配設されたセンサによって計測される3軸方向の加速度を含むタイヤの物理量を取得するセンサ情報取得部と、
前記センサ情報取得部によって取得したタイヤの物理量を演算モデルに入力して3軸方向のタイヤ力、およびタイヤと路面との間の最大摩擦係数を算出するタイヤ力算出部と、
前記タイヤ力算出部によって算出された鉛直方向の前記タイヤ力および前記最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力を算出する限界タイヤ力算出部と、
前記限界タイヤ力算出部によって算出された限界タイヤ力を発揮した際の車両の制動距離を算出する制動距離算出部と、を備え、
前記タイヤ力算出部は、3軸方向のタイヤ力および最大摩擦係数を教師データとして用いて学習された学習型の前記演算モデルによって前記タイヤ力を算出することを特徴とする制動距離予測システム。
【請求項2】
前記制動距離算出部は、車両の制動操作における応答遅れによる走行距離を含む制動距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の制動距離予測システム。
【請求項3】
前記制動距離算出部は、車両の制動操作における車両の荷重移動を含む制動距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の制動距離予測システム。
【請求項4】
前記限界タイヤ力算出部によって算出された限界タイヤ力によって車両を制御する車両制御部を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の制動距離予測システム。
【請求項5】
前方車両との間の位置関係を計測する外界センサを更に備え、
前記車両制御部は、前記制動距離算出部によって算出された制動距離よりも、前記外界センサで計測された位置関係に基づく車間距離が大きくなるように車両を制御することを特徴とする請求項4に記載の制動距離予測システム。
【請求項6】
前記車両制御部は、車間距離が制動距離以下であるとの情報を外部へ報知することを特徴とする請求項4に記載の制動距離予測システム。
【請求項7】
制動距離予測システムが、タイヤに配設されたセンサによって計測される3軸方向の加速度を含むタイヤの物理量を取得するセンサ情報取得ステップと、
制動距離予測システムが、前記センサ情報取得ステップによって取得したタイヤの物理量を演算モデルに入力して3軸方向のタイヤ力、およびタイヤと路面との間の最大摩擦係数を算出するタイヤ力算出ステップと、
制動距離予測システムが、前記タイヤ力算出ステップによって算出された鉛直方向の前記タイヤ力および前記最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力を算出する限界タイヤ力算出ステップと、
制動距離予測システムが、前記限界タイヤ力算出ステップによって算出された限界タイヤ力を発揮した際の車両の制動距離を算出する制動距離算出ステップと、を備え、
前記タイヤ力算出ステップは、3軸方向のタイヤ力および最大摩擦係数を教師データとして用いて学習された学習型の前記演算モデルによって前記タイヤ力を算出することを特徴とする制動距離予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動距離予測システムおよび制動距離予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行を支援するために、路面の摩擦値および車両の制動距離などを推定し、車両におけるアクセル操作、ブレーキ操作、操舵などを運転者に代わって自動的に制御することが検討されている。
【0003】
特許文献1には従来の運転限界速度を決定する方法が記載されている。この従来の方法は、タイヤと路面との間のグリップ潜在力を影響パラメータの関数として推定し、間近に迫った経路イベント上でのグリップ要求がグリップ潜在力を超えないように運転限界速度を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-517978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の運転限界速度の決定方法では、グリップ要求であるタイヤ力が車両の分析モデルに基づき車両で発生している加速度から決定される。本発明者は、タイヤで発生しているタイヤ力および最大摩擦係数を用いて車両の制動距離をより精度よく推定することで、緊急時に安全に停止可能な車間距離を確保し得ることに気付いた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、緊急時に停止可能な車間距離の確保を支援することができる制動距離予測システムおよび制動距離予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は制動距離予測システムである。制動距離予測システムは、タイヤに配設されたセンサによって計測されるタイヤの物理量を取得するセンサ情報取得部と、前記センサ情報取得部によって取得したタイヤの物理量を演算モデルに入力してタイヤ力、およびタイヤと路面との間の最大摩擦係数を算出するタイヤ力算出部と、前記タイヤ力算出部によって算出された前記タイヤ力および前記最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力を算出する限界タイヤ力算出部と、前記限界タイヤ力算出部によって算出された限界タイヤ力を発揮した際の車両の制動距離を算出する制動距離算出部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は制動距離予測方法である。制動距離予測方法は、タイヤに配設されたセンサによって計測されるタイヤの物理量を取得するセンサ情報取得ステップと、前記センサ情報取得ステップによって取得したタイヤの物理量を演算モデルに入力してタイヤ力、およびタイヤと路面との間の最大摩擦係数を算出するタイヤ力算出ステップと、前記タイヤ力算出ステップによって算出された前記タイヤ力および前記最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力を算出する限界タイヤ力算出ステップと、前記限界タイヤ力算出ステップによって算出された限界タイヤ力を発揮した際の車両の制動距離を算出する制動距離算出ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、緊急時に停止可能な車間距離の確保を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る制動距離予測システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】演算モデルの学習について説明するための模式図である。
図3】限界タイヤ力に対するマージンを説明するための模式図である。
図4】タイヤ力推定装置による制動距離等の算出処理の手順を示すフローチャートである。
図5】変形例に係る制動距離予測システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図5を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る制動距離予測システム100の機能構成を示すブロック図である。制動距離予測システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20によってタイヤ10で発生している加速度、空気圧および温度等のタイヤ物理量を車両の走行時に計測する。
【0013】
制動距離予測システム100は、取得したタイヤ10の物理量を演算モデル32aに入力し、タイヤ力Fおよび最大摩擦係数を算出する。演算モデル32aは、例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルである。演算モデル32aは、タイヤ10において実際に計測したタイヤ力F、および学習中に用いられる路面とタイヤ10との間の最大摩擦係数を教師データとし、演算の実行と演算モデルの更新による学習を繰り返すことによって精度が高められる。
【0014】
制動距離予測システム100は、演算モデル32aによって算出したタイヤ力Fおよび最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力を算出する。限界タイヤ力は、タイヤ10が路面上で滑り始める直前のタイヤ力であり、タイヤ10の鉛直方向の荷重に、路面との最大摩擦係数を掛けた値である。
【0015】
制動距離予測システム100は、限界タイヤ力を発揮させた際の車両の制動距離を算出する。また、制動距離予測システム100は、車両の制動操作における応答遅れによって生じる走行距離を含めて制動距離を算出する。制動距離予測システム100は、算出した限界タイヤ力がタイヤ10に作用するように車両の走行速度を制御し、車両を停止させる。また、制動距離予測システム100は、算出した制動距離よりも車間距離が大きくなるように車両を制御する。
【0016】
制動距離予測システム100は、センサ20およびタイヤ力推定装置30を備える。センサ20は、加速度センサ21、圧力センサ22および温度センサ23等を有し、加速度、タイヤ空気圧およびタイヤ温度などタイヤ10における物理量を計測する。センサ20は、タイヤ10に生じる歪を計測するために歪ゲージを有していてもよい。これらのセンサは、タイヤ10の物理量として、タイヤ10の変形や動きに関わる物理量を計測している。
【0017】
加速度センサ21は、タイヤ10のゴム材料等で形成されたタイヤ本体部分またはタイヤ10の一部をなすホイール15に配設されており、タイヤ10とともに機械的に運動しつつ、タイヤ10に生じる加速度を計測する。加速度センサ21は、タイヤ10の周方向、軸方向および径方向の3軸における加速度を計測する。圧力センサ22および温度センサ23は、例えばタイヤ10のエアバルブへの装着やホイール15への固定によって配設されており、それぞれタイヤ10の空気圧および温度を計測する。また圧力センサ22および温度センサ23は、タイヤ10のインナーライナー等に配設されていてもよい。
【0018】
センサ20は、タイヤ10における加速度および歪、タイヤ空気圧、並びにタイヤ温度などタイヤ10の物理量を計測しており、計測したデータをタイヤ力推定装置30へ出力する。タイヤ力推定装置30は、センサ20で計測されたデータに基づいてタイヤ力Fおよび最大摩擦係数を推定する。
【0019】
タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID11等が取り付けられていてもよい。例えば、タイヤ10に取り付けたRFID11の固有情報に応じて、演算モデル32aを予め用意したデータ群の中から選択して設定してもよいし、またはサーバ装置などで提供されるデータベースから選択するようにしてもよい。また、RFID11の固有情報に対してタイヤ10の仕様が記録され、更にタイヤ10の仕様に応じた演算モデル32aがデータベースで提供されてもよい。RFID11の固有情報からタイヤ10の仕様を呼び出し、演算モデル32aを設定してもよいし、呼び出したタイヤ10の仕様に応じた演算モデル32aをデータベースから選択するようにしてもよい。
【0020】
タイヤ力推定装置30は、センサ情報取得部31、タイヤ力算出部32、限界タイヤ力算出部33、制動距離算出部34および通信部35を有する。タイヤ力推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。タイヤ力推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0021】
センサ情報取得部31は、無線通信等によりセンサ20で計測された加速度、タイヤ空気圧およびタイヤ温度等のタイヤ物理量を取得する。タイヤ力算出部32は、演算モデル32aおよび補正処理部32bを有する。タイヤ力算出部32は、センサ情報取得部31から入力されたタイヤ物理量を演算モデル32aに入力し、タイヤ力F、およびタイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を算出する。
【0022】
図1に示すように、タイヤ力Fは、タイヤ10の前後方向の前後力Fx、横方向の横力Fy、および鉛直方向の荷重Fzの3軸方向成分を有する。タイヤ力算出部32は、これら3軸方向成分のすべてを算出してもよいし、少なくともいずれか1成分の算出または任意の組合せによる2成分の算出を行うようにしてもよい。
【0023】
演算モデル32aは、ニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。演算モデル32aは、例えばCNN(Convolutional Neural Network)型であり、その原型であるいわゆるLeNetで使用された畳み込み演算およびプーリング演算を備える学習型モデルなどを用いる。演算モデル32aは、入力層に入力されたデータに対して畳み込み演算およびプーリング演算などを用いて特徴量を抽出して中間層の各ノードへ伝達し、中間層の各ノードに対して線形演算等を実行して全結合し、出力層の各ノードへ結び付ける。全結合では、線形演算に加えて、活性化関数などを用いて非線形演算を実行するようにしてもよい。演算モデル32aの出力層の各ノードには、3軸方向のタイヤ力Fおよび最大摩擦係数が出力される。
【0024】
図2は演算モデル32aの学習について説明するための模式図である。演算モデル32aへの入力データは、センサ情報取得部31によって取得されたタイヤ物理量のほか、外部領域情報等を用いることができる。タイヤ物理量には、加速度、タイヤ空気圧、タイヤ温度およびタイヤに生じる歪などを用いる。外部領域情報としては、天候、気温および降水量などの気象情報、並びに、路面の凹凸、温度および凍結状態等の路面情報を用いる。入力データは、これらの他、車両に搭載されたデジタルタコグラフのデータによる車重、速度などを用いてもよい。
【0025】
演算モデル32aの学習の際には、演算結果としてのタイヤ力Fおよび最大摩擦係数と、教師データとを比較して演算モデル32aの更新を繰り返すことによって演算モデル32aの精度が高められる。タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数の教師データは、学習中に用いられる種々の路面について既知であるものとする。演算モデル32aは、タイヤ10とタイヤ10を接地させる接地面の最大摩擦係数を変えて回転試験を行って学習させるとよい。さらには、実際の車両にタイヤ10を装着し、該車両を最大摩擦係数の異なる路面を試験走行させて演算モデル32aの学習を実行することもできる。
【0026】
演算モデル32aは、基本的にタイヤ10の仕様に応じて例えばモデル内の全結合部における階層数等の構成や重みづけが変わるが、各仕様のタイヤ10(ホイールを含む)での回転試験において演算モデル32aの学習を実行することができる。
【0027】
但し、厳密にタイヤ10の仕様ごとに演算モデル32aの学習を実行する必要性はない。例えば乗用車用タイヤ、トラック用タイヤなどのタイプ別に演算モデル32aを学習させて構築し、タイヤ力Fおよび最大摩擦係数が一定の誤差範囲内で推定されるようにすることで、複数の仕様に含まれるタイヤ10に対して1つの演算モデル32aを共用し、演算モデル数を低減してもよい。また演算モデル32aは、実際の車両にタイヤ10を装着し、該車両を試験走行させて演算モデル32aの学習を実行することもできる。タイヤ10の仕様には、例えばタイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。
【0028】
補正処理部32bは、タイヤ10の状態に基づいて演算モデル32aを補正する。タイヤ10は、車両への装着時にアライメント誤差が生じ、経時的にゴム硬度等の物性値が変化し、走行することによって摩耗が進行する。アライメント誤差、物性値や摩耗等の要素を含むタイヤ10の状態が使用状況によって変化し、演算モデル32aによるタイヤ力Fおよび最大摩擦係数の算出に誤差が生じる。補正処理部32bは、演算モデル32aの誤差を低減するためにタイヤ10の状態に応じた補正項を演算モデル32aに付加する処理を行う。
【0029】
限界タイヤ力算出部33は、タイヤ力算出部32によって算出したタイヤ力Fおよび最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力を算出し、制動距離算出部34へ出力する。限界タイヤ力は、タイヤ10が路面上で滑り始める直前のタイヤ力であり、タイヤ力Fの鉛直方向成分Fzに、最大摩擦係数を掛けた値である。
【0030】
制動距離算出部34は、限界タイヤ力で車両を制動させたときの制動距離を算出する。図3は、限界タイヤ力に対するマージンを説明するための模式図である。図3では、横軸にタイヤ力Fの前後力Fx、縦軸にタイヤ力Fの横力Fyをとり、原点を中心とする円で限界タイヤ力を示している。図3に示すタイヤ力F1およびF2では、限界タイヤ力よりも小さくマージンがあり、タイヤ10がスリップすることなく車両が走行できる。タイヤ力Fが限界タイヤ力を超えると、タイヤ10が路面に対してスリップすることになる。
【0031】
タイヤ力Fが限界タイヤ力を超えると、タイヤ10が路面に対してスリップすることになる。制動距離算出部34は、限界タイヤ力の範囲内で、タイヤ10がスリップすることなく車両が制動できる制動距離を算出する。制動距離算出部34は、下記の数式1によって、車両の制動距離Xを算出する。ここで、mは車重、Voは現在の車速、gは重力加速度、μiは各タイヤの限界摩擦係数、Fziは各タイヤの鉛直方向のタイヤ力であり、μi×Fziは限界タイヤ力に相当する。
【0032】
【数1】
【0033】
また制動距離算出部34は、車両の制動操作における応答遅れによる走行距離を含む制動距離を算出する。応答遅れは、前方の車両や障害物を認識してからブレーキング操作に移行するまでの時間であり、制動距離算出部34は、応答遅れの間に車両が現在の速度で走行する距離を加えて制動距離を算出する。また制動距離算出部34は、制動の際の車両の荷重移動を含んで考慮し、タイヤ力Fを補正するなどして、制動距離を算出する。
【0034】
限界タイヤ力算出部33によって算出した限界タイヤ力、および制動距離算出部34によって算出した制動距離の情報は、通信部35を介して車両を制御する車載制御装置60へ送出する。尚、通信部35は、CAN等の通信方式に基づいて車両に搭載された車載制御装置6との間で通信する。
【0035】
車載制御装置60は、前方に停止車両や障害物を認識し車両を停止させる場合に、限界タイヤ力算出部33によって算出した限界タイヤ力が作用するようにブレーキングを自動的に制御し、車両を停止させる。また、車載制御装置60は、運転者に対して安全運転のために、制動距離算出部34によって算出した制動距離の情報をディスプレイ装置に表示し、或いはスピーカから音声出力するなどして報知し、運転者の注意を喚起するようにしてもよい。
【0036】
次に制動距離予測システム100の動作を説明する。図4は、タイヤ力推定装置30による制動距離等の算出処理の手順を示すフローチャートである。タイヤ力推定装置30のセンサ情報取得部31は、センサ20で計測されたタイヤ10における加速度、タイヤ空気圧およびタイヤ温度などのタイヤ物理量の取得を開始する(S1)。
【0037】
タイヤ力算出部32は、タイヤ物理量を演算モデル32aに入力し、タイヤ力F、およびタイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を算出する(S2)。限界タイヤ力算出部33は、タイヤ力算出部32によって算出したタイヤ力Fおよび最大摩擦係数に基づいて、タイヤ力Fの鉛直方向成分Fzに最大摩擦係数を掛けて限界タイヤ力を算出する(S3)。
【0038】
制動距離算出部34は、限界タイヤ力算出部33によって算出した限界タイヤ力で車両を制動させたときの制動距離を算出し(S4)、処理を終了する。また制動距離算出部34は、応答遅れの間に車両が現在の速度で走行する距離を加えて制動距離を算出するようにしてもよい。
【0039】
制動距離予測システム100は、タイヤ10で計測されるタイヤ物理量を演算モデル32aに入力し、タイヤ力F、およびタイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を精度良く算出する。制動距離予測システム100は、タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力および制動距離を算出することで、緊急時に停止可能な車間距離の確保を支援することができる。また、制動距離予測システム100は、制動距離算出部34において応答遅れの間に車両が現在の速度で走行する距離を加えて制動距離を算出することによって、車間距離を安全側に確保することができる。
【0040】
制動距離予測システム100は、車両を停止させる場合に、限界タイヤ力算出部33によって算出した限界タイヤ力が作用するように、車載制御装置60によってブレーキングを自動制御することで、安全かつ速やかに車両を停止させることができる。
【0041】
図5は、変形例に係る制動距離予測システム100の機能構成を示すブロック図である。図5に示す制動距離予測システム100は、外界センサ50を備えて車載制御装置60によって車間距離を調整する。
【0042】
外界センサ50は例えばLiDAR(Light Detection and Ranging)、カメラ、ミリ波レーダなどによって構成され車両と車両周囲に存在する物体との位置関係を認識する。車載制御装置60は、外界センサ50に基づいて位置関係が既知となった前方車両との間の車間距離が制動距離算出部34によって算出された制動距離よりも大きくなるように車両を制御する。
【0043】
制動距離予測システム100は、車間距離が制動距離以下である場合には、車載制御装置60によって車両のブレーキングを制御し、制動距離よりも大きい車間距離を確保する。また、車載制御装置60は、車間距離が制動距離以下であるとの情報を、ディスプレイ装置に表示し、或いはスピーカから音声出力するなどして報知し、運転者の注意を喚起するようにしてもよい。
【0044】
次に実施形態および変形例に係る制動距離予測システム100の特徴について説明する。
実施形態に係る制動距離予測システム100は、センサ情報取得部31、タイヤ力算出部32、限界タイヤ力算出部33および制動距離算出部34を備える。センサ情報取得部31は、タイヤ10に配設されたセンサ20によって計測されるタイヤ10の物理量を取得する。タイヤ力算出部32は、センサ情報取得部31によって取得したタイヤの物理量を演算モデル32aに入力してタイヤ力F、およびタイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を算出する。限界タイヤ力算出部33は、タイヤ力算出部32によって算出されたタイヤ力Fおよび最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力を算出する。制動距離算出部34は、限界タイヤ力算出部33によって算出された限界タイヤ力を発揮した際の車両の制動距離を算出する。これにより、制動距離予測システム100は、タイヤ力Fおよびタイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を精度良く算出し、限界タイヤ力および制動距離を算出することで、緊急時に停止可能な車間距離の確保を支援することができる。
【0045】
また制動距離算出部34は、車両の制動操作における応答遅れによる走行距離を含む制動距離を算出する。これにより、制動距離予測システム100は、制動開始前の応答遅れによる走行距離を加えて制動距離を算出し、車間距離を安全側に確保することができる。
【0046】
また制動距離算出部34は、車両の制動操作における車両の荷重移動を含む制動距離を算出する。これにより、制動距離予測システム100は、車両の荷重移動によるタイヤ力Fの発生を考慮して制動距離を算出し、車間距離を安全側に確保することができる。
【0047】
また限界タイヤ力算出部33によって算出された限界タイヤ力によって車両を制御する車両制御部としての車載制御装置60を更に備える。これにより、制動距離予測システム100は、限界タイヤ力算出部33によって算出した限界タイヤ力が作用するように、車載制御装置60によってブレーキングを自動制御し、安全かつ速やかに車両を停止させることができる。
【0048】
また車載制御装置60は、制動距離算出部34によって算出された制動距離よりも車間距離が大きくなるように車両を制御する。これにより、制動距離予測システム100は、車間距離が制動距離以下である場合には、車載制御装置60によって車両のブレーキングを制御し、制動距離よりも大きい車間距離を確保することができる。
【0049】
制動距離予測方法は、センサ情報取得ステップ、タイヤ力算出ステップ、限界タイヤ力算出ステップおよび制動距離算出ステップを備える。センサ情報取得ステップは、タイヤ10に配設されたセンサ20によって計測されるタイヤ10の物理量を取得する。タイヤ力算出ステップは、センサ情報取得ステップによって取得したタイヤの物理量を演算モデル32aに入力してタイヤ力F、およびタイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を算出する。限界タイヤ力算出ステップは、タイヤ力算出ステップによって算出されたタイヤ力Fおよび最大摩擦係数に基づいて限界タイヤ力を算出する。制動距離算出ステップは、限界タイヤ力算出ステップによって算出された限界タイヤ力を発揮した際の車両の制動距離を算出する。この制動距離予測方法によれば、タイヤ力Fおよびタイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を精度良く算出し、限界タイヤ力および制動距離を算出することで、緊急時に停止可能な車間距離の確保を支援することができる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0051】
10 タイヤ、 20 センサ、 31 センサ情報取得部、
32 タイヤ力算出部、 32a 演算モデル、 33 限界タイヤ力算出部、
34 制動距離算出部、 60 車載制御装置(車両制御部)、
100 制動距離予測システム。
図1
図2
図3
図4
図5