(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20240410BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20240410BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240410BHJP
A23L 2/68 20060101ALI20240410BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240410BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240410BHJP
A23L 2/54 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C12G3/04
C12C5/02
A23L2/00 B
A23L2/00 D
A23L2/38 A
A23L2/38 C
A23L2/52
A23L2/54
(21)【出願番号】P 2020009859
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 梓
(72)【発明者】
【氏名】蛸井 潔
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082895(JP,A)
【文献】特開2017-012175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G、C12C、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キハダおよび/またはキハダ抽出物と、水溶性大豆多糖類と、大豆ペプチドと、を含有し、
前記キハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量が0.005~0.1w/v%であり、
前記水溶性大豆多糖類の含有量が0.025~0.22w/v%であり、
前記大豆ペプチドの含有量が0.05~0.35w/v%である、
ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記キハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量が
0.01~0.1w/v%である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
ベルベリンの含有量が0.0001~0.002w/v%である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
苦味価(BU)が5未満である、請求項
1~3のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
キハダおよび/またはキハダ抽出物を
0.005~0.1w/v%含有させる工程と、
水溶性大豆多糖類を0.025~0.22w/v%含有させる工程と、
大豆ペプチドを0.05~0.35w/v%含有させる工程と、
を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
ビールテイスト飲料において、キハダおよび/またはキハダ抽出物
の含有量を0.005~0.1w/v%とし、さらに、水溶性大豆多糖類の含有量を0.025~0.22w/v%とし且つ大豆ペプチドの含有量を0.05~0.35w/v%とすることを特徴とする、ビールテイスト飲料における味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールテイスト飲料は、ビールらしい香味(ビール様の香味)を有する飲料であって、酒税法により定義されるビール、発泡酒、その他醸造酒、またはリキュールのいずれかに属するビールテイストアルコール飲料や、ノンアルコールビールテイスト飲料などが販売されている。
【0003】
そして、近年では、ホップを使用しなくてもビールらしい香味を有する飲料を得ることができる技術の開発も進められている。例えば、特許文献1には、ビールらしい苦味と後キレを有するビールテイスト飲料として、0.3~5ppmのクワシンおよび/または0.5~5ppmのキニーネを含んでなるビールテイスト飲料が開示され、ホップ由来のイソα酸を実質的に含有しない構成も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ビールテイスト飲料に求められる香味は多様であり、ホップを使用しなくてもビールらしい香味を有するビールテイスト飲料においても、例えば、味の落差感、後切れのある酸味、ボリューム感のある渋味などの香味についてはさらなる改善の余地がある。
【0006】
そこで本発明は、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上が向上したビールテイスト飲料、およびその製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ビールテイスト飲料においてキハダおよび/またはキハダ抽出物を含有させ、さらに所定量の水溶性大豆多糖類および大豆ペプチドを含有させることにより、上記課題を解決できることを見出した。つまり、キハダおよび/またはキハダ抽出物と、水溶性大豆多糖類と、大豆ペプチドと、を含有し、水溶性大豆多糖類の含有量が0.025~0.22w/v%であり、大豆ペプチドの含有量が0.05~0.35w/v%であるビールテイスト飲料とすることにより、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上が向上したビールテイスト飲料となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(5)である。
(1)キハダおよび/またはキハダ抽出物と、水溶性大豆多糖類と、大豆ペプチドと、を含有し、前記水溶性大豆多糖類の含有量が0.025~0.22w/v%であり、前記大豆ペプチドの含有量が0.05~0.35w/v%である、ビールテイスト飲料。
(2)前記キハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量が0.005~0.1w/v%である、(1)に記載のビールテイスト飲料。
(3)苦味価(BU)が5未満である、(1)または(2)に記載のビールテイスト飲料。
(4)キハダおよび/またはキハダ抽出物を含有させる工程と、水溶性大豆多糖類を0.025~0.22w/v%含有させる工程と、大豆ペプチドを0.05~0.35w/v%含有させる工程と、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
(5)ビールテイスト飲料において、キハダおよび/またはキハダ抽出物を含有させ、さらに、水溶性大豆多糖類の含有量を0.025~0.22w/v%とし且つ大豆ペプチドの含有量を0.05~0.35w/v%とすることを特徴とする、ビールテイスト飲料における味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上の向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上が向上したビールテイスト飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例におけるサンプル1-1~1-5のNIBEM値測定結果である。
【
図2】実施例におけるサンプル2-1~2-5およびサンプル3-1のNIBEM値測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、キハダおよび/またはキハダ抽出物と、水溶性大豆多糖類と、大豆ペプチドと、を含有し、水溶性大豆多糖類の含有量が0.025~0.22w/v%であり、大豆ペプチドの含有量が0.05~0.35w/v%であるビールテイスト飲料(以下においては「本発明のビールテイスト飲料」という場合もある)、ならびに、キハダおよび/またはキハダ抽出物を含有させる工程と、水溶性大豆多糖類を0.025~0.22w/v%含有させる工程と、大豆ペプチドを0.05~0.35w/v%含有させる工程と、を含むビールテイスト飲料の製造方法(以下においては「本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法」という場合もある)である。
【0012】
まず、本発明のビールテイスト飲料について詳細に説明する。
なお、本発明において「ビールテイスト飲料」とは、ビールらしい香味、つまりビール様の香味を有する飲料を意味する。したがって、本発明の「ビールテイスト飲料」には、酒税法(昭和二十八年法律第六号)により定義される発泡性酒類(ビール、発泡酒、その他醸造酒、ならびにリキュール)に属するビール様の香味を有するアルコール飲料や、上記した酒税法により定義される発泡性酒類には属さないがビール様の香味を有するアルコール飲料(例えば非発泡性アルコール飲料)、ビール様の香味を有する清涼飲料水(例えばノンアルコールビールテイスト飲料)などが包含される。
また、本発明のビールテイスト飲料がアルコール飲料である場合、その製造において、酵母によるアルコール発酵工程(酵母が糖類などの有機物から代謝産物であるアルコールを生成する工程)を経て製造された発酵飲料であってもよく、あるいは、その製造において、アルコール発酵工程を行うことなく製造された非発酵飲料(例えば蒸留酒等の酒類を原料として用いて調合により製造されたアルコール飲料など)であってもよい。
【0013】
そして、本発明のビールテイスト飲料は、苦味物質であるキハダおよび/またはキハダ抽出物を含有する。キハダは、黄膚、黄檗、黄柏とも呼ばれるミカン科キハダ属(Phellodendron amurense)の落葉高木であり、本発明のビールテイスト飲料には、このキハダの樹皮を乾燥、微粉末化したものなどを使用することができる。また、キハダ抽出物は、キハダ(例えばキハダの樹皮など)より水、熱水、およびエタノールからなる群から選ばれる1以上を溶媒として用いて抽出して得られた抽出物であり、本発明のビールテイスト飲料には、このキハダ抽出物や、その溶媒の少なくとも一部が除去された濃縮物や乾燥物、上記溶媒により希釈された希釈物なども使用することができる。さらに、市販品等を使用することもでき、例えば、香料などのキハダおよび/またはキハダ抽出物含有原料を使用してもよい。
本発明のビールテイスト飲料は、このキハダおよび/またはキハダ抽出物を含有することにより、ホップを使用しなくてもビール特有の苦味を有するものとなる。
【0014】
さらに、本発明のビールテイスト飲料は、水溶性大豆多糖類を0.025~0.22w/v%含有する。水溶性大豆多糖類は、おからなどの大豆原料から弱酸性の条件において抽出された水溶性の多糖類(食物繊維)であり、ペクチン性多糖類の一種である。本発明のビールテイスト飲料においては、その総容量に対する水溶性大豆多糖類の含有量を0.025~0.22w/v%とすることにより、前述したキハダおよび/またはキハダ抽出物、ならびに後述する大豆ペプチドとの相乗的な作用などによって、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上を向上させることができる。また、本発明のビールテイスト飲料が発泡性飲料である場合には、飲料の粘度を高めることなくその泡持ちを向上させることもできる。例えば、ホップを使用しなくても、後述する実施例に記載の測定方法により測定されるNIBEM値が75sec以上である発泡性ビールテイスト飲料とすることもでき、さらには、このNIBEM値が85sec以上である発泡性ビールテイスト飲料とすることもできる。
なお、この水溶性大豆多糖類は、市販品などを使用して含有させることができる。
【0015】
そして、本発明のビールテイスト飲料においては、この水溶性大豆多糖類の含有量を0.03w/v%以上とするのが好ましく、0.035w/v%以上とするのがより好ましく、0.04w/v%以上とするのがさらに好ましく、0.045w/v%とするのがさらに好ましく、0.05w/v%以上とするのがさらに好ましい。味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味がいずれもより好ましいビールテイスト飲料を得ることができ、発泡性飲料である場合には泡持ちもより向上させることができるからである。
【0016】
また、本発明のビールテイスト飲料においては、この水溶性大豆多糖類の含有量を、好ましくは0.2w/v%以下、より好ましくは0.15w/v%以下、さらに好ましくは0.12w/v%以下、さらに好ましくは0.1w/v%以下とすると、特に、味の落差感および後切れのある酸味がより好ましいビールテイスト飲料を得ることができるため好適である。
【0017】
本発明のビールテイスト飲料は、さらに大豆ペプチドを0.05~0.35w/v%含有する。大豆ペプチドは、大豆タンパク質を原料として酵素分解により得られたペプチドである。本発明のビールテイスト飲料においては、その総容量に対する大豆ペプチドの含有量を0.05~0.35w/v%とすることにより、前述したキハダおよび/またはキハダ抽出物、ならびに水溶性大豆多糖類との相乗的な作用などによって、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上を向上させることができる。また、本発明のビールテイスト飲料が発泡性飲料である場合には、水溶性大豆多糖類との相乗的な作用により泡持ちなどをより向上させることもできる。
なお、この大豆ペプチドも、市販品などを使用して含有させることができる。
【0018】
さらに、本発明のビールテイスト飲料においては、この大豆ペプチドの含有量を0.06w/v%以上とするのが好ましく、0.07w/v%以上とするのがより好ましく、0.08w/v%以上とするのがさらに好ましく、0.09w/v%とするのがさらに好ましく、0.1w/v%以上とするのがさらに好ましい。これも、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味がいずれもより好ましいビールテイスト飲料を得ることができ、発泡性飲料である場合には水溶性大豆多糖類との相乗的な作用により泡持ちなどをさらに向上させることができるからである。
【0019】
また、本発明のビールテイスト飲料においては、この大豆ペプチドの含有量を、好ましくは0.3w/v%以下、より好ましくは0.25w/v%以下、さらに好ましくは0.22w/v%以下、さらに好ましくは0.2w/v%以下とすると、特に、味の落差感および後切れのある酸味がより好ましいビールテイスト飲料を得ることができるため好適である。
【0020】
そして、このような構成である本発明のビールテイスト飲料においては、前述したキハダおよび/またはキハダ抽出物を、ビールテイスト飲料の総容量に対する含有量として好ましくは0.003w/v%以上、より好ましくは0.005w/v%以上、さらに好ましくは0.008w/v%以上、さらに好ましくは0.01w/v%以上、さらに好ましくは0.015w/v%以上、さらに好ましくは0.02w/v%以上となるようにしてもよい。また、好ましくは0.2w/v%以下、より好ましくは0.15w/v%以下、さらに好ましくは0.13w/v%以下、さらに好ましくは0.1w/v%以下となるようにしてもよい。キハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量がこのような範囲であると、ビール特有の苦味等がより好適なビールテイスト飲料とすることができる。
例えば、本発明のビールテイスト飲料におけるキハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量の好適範囲の一例としては、0.005w/v%以上0.1w/v%以下の範囲が挙げられる。
【0021】
そして、本発明のビールテイスト飲料は、ベルベリン(Berberine:C20H18NO4
+)を含有するのが好ましい。ベルベリンは、下記式(1)で表される化合物であって、キハダには主要な苦味成分としてこのベルベリンが含まれている。
なお、本発明のビールテイスト飲料におけるベルベリンの含有量は、ビールテイスト飲料の総容量に対する含有量として好ましくは0.0001w/v以上、より好ましくは0.0002w/v以上、さらに好ましくは0.0003w/v以上、さらに好ましくは0.0004w/v以上であってよく、また、好ましくは0.002w/v以下、より好ましくは0.0015w/v以下、さらに好ましくは0.0012w/v以下、さらに好ましくは0.001w/v以下であってよい。
【0022】
【0023】
なお、本発明のビールテイスト飲料においては、キハダおよび/またはキハダ抽出物と水溶性大豆多糖類との比率が、キハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量(w/v%):水溶性大豆多糖類の含有量(w/v%)として1:0.8~8であることが好ましく、1:1~6であることがより好ましく、1:1.5~4であることがさらに好ましい。味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味のバランスがより好ましくなるからである。
【0024】
また、本発明のビールテイスト飲料においては、キハダおよび/またはキハダ抽出物と大豆ペプチドとの比率が、キハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量(w/v%):大豆ペプチドの含有量(w/v%)として1:1~12であることが好ましく、1:1.5~10であることがより好ましく、1:3~7であることがさらに好ましい。これも、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味のバランスがより好ましくなるからである。
【0025】
さらに、本発明のビールテイスト飲料においては、水溶性大豆多糖類と大豆ペプチドとの比率が、水溶性大豆多糖類の含有量(w/v%):大豆ペプチドの含有量(w/v%)として1:1~8であることが好ましく、1:1.2~5であることがより好ましく、1:1.5~4であることがさらに好ましい。これも同様に、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味のバランスがより好ましくなるからである。
【0026】
ここで、本発明のビールテイスト飲料における水溶性大豆多糖類の含有量、大豆ペプチドの含有量、ならびにキハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量は、いずれもその添加量から算出される値である。
また、本発明のビールテイスト飲料におけるベルベリンの含有量は、第十七改正日本薬局方に基づき測定される値である。
【0027】
なお、本発明のビールテイスト飲料は、ホップ由来成分を含有していてもよいが、前述した構成であることにより、ホップ由来成分を含有していなくてもビール特有の苦味等を有することが特徴である。例えば、本発明のビールテイスト飲料は、苦味価(BU)が5未満であってもよく、4.5以下であってもよく、4.0以下であってもよく、3.5以下であってもよく、3.0以下であってもよく、2.5以下であってもよく、2.0以下であってもよく、1.5以下であってもよく、1.0以下であってもよく、0.5以下であってもよい。この苦味価は、ホップ等の使用量、品種、種類、添加タイミングなどによって調整することができる。ここで、この苦味価(BU)は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.15 苦味価」に記載されている方法によって測定される値である。
【0028】
本発明のビールテイスト飲料においてホップを使用する場合には、使用するホップの種類としては、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスなどが例示される。また、使用するホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよく、特段限定されない。
【0029】
そして、本発明のビールテイスト飲料は、前述したキハダおよび/またはキハダ抽出物、水溶性大豆多糖類、および大豆ペプチドに加えて、原料として麦または麦加工物、米、とうもろこし、豆類、果実、香辛料などを任意に使用することができる。また、発酵飲料を製造する場合などにおいては、アルコール発酵促進等のために、原料として糖類を使用してもよい。なお、この「原料」とは、本発明のビールテイスト飲料の製造に用いられる全原料のうち、水およびホップ以外のものを指す。
【0030】
ここで、上記した麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦が挙げられる。また、麦加工物としては、例えば、麦エキス、麦芽、モルトエキスが挙げられる。この麦エキスは、麦から糖分および窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。また、麦芽は、麦を発芽させ焙燥した後に根を除くことにより得られる。そして、モルトエキスは、麦芽から糖分および窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。なお、本発明のビールテイスト飲料は、麦芽由来成分を実質的に含有しない構成であってもよく、さらには、麦および麦加工物に由来する成分を実質的に含有しない構成であってもよい。
【0031】
さらに、本発明のビールテイスト飲料には、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、飲料に通常配合され得る原料、例えば酸味料、着色料、甘味料、酸化防止剤、香料、塩類等を含んでいてもよい。酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、乳酸ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウムなどが挙げられる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素などが挙げられる。甘味料としては、例えば、高甘味度甘味料が挙げられる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、リチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどが挙げられる。塩類としては、例えば、食塩(塩化ナトリウム)、酸性リン酸カリウム、酸性リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
また、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば、前述したキハダおよび/またはキハダ抽出物以外の苦味物質、水溶性大豆多糖類以外の食物繊維、ならびに大豆ペプチド以外のペプチドを含んでいてもよい。
【0032】
さらに、本発明のビールテイスト飲料においては、本発明の効果に影響を与えない範囲において、上記以外の任意の成分をさらに含んでもよい。
【0033】
また、本発明のビールテイスト飲料は、アルコール飲料(ビールテイストアルコール飲料)であってもよい。その場合のアルコール度数は特に限定されないが、一例としては、下限は1v/v%以上、より好ましくは2v/v%以上、さらに好ましくは3v/v%以上、さらに好ましくは4v/v%以上、さらに好ましくは5v/v%以上が示され、上限は好ましくは20v/v%以下、より好ましくは15v/v%以下、さらに好ましくは10v/v%以下、さらに好ましくは9v/v%以下、さらに好ましくは8v/v%以下、さらに好ましくは7v/v%以下、さらに好ましくは6v/v%以下が示される。
あるいは、本発明のビールテイスト飲料は、アルコール度数1v/v%未満、より好ましくは0.5v/v%未満、さらに好ましくは0.1v/v%未満、さらに好ましくは0.05v/v%未満であるノンアルコール飲料(ノンアルコールビールテイスト飲料)であってもよい。
【0034】
ここで、本発明において「アルコール度数(v/v%)」とは、改訂BCОJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.3 アルコール」に記載されている方法(8.3.6アルコライザー法)によって測定される値である。そして、本発明において「アルコール」とは、エタノールを意味する。
【0035】
なお、本発明のビールテイスト飲料のアルコール度数は、その製造工程において、アルコール発酵条件を制御する方法や、各種スピリッツ(ウォッカ等)、焼酎、ブランデー、発泡酒、醸造用アルコールなどを添加する方法、発酵液を蒸留または希釈する方法等によって調整することができる。
【0036】
さらに、前述したように、本発明のビールテイスト飲料は発泡性であると、泡持ち向上効果なども発揮されるためより好ましい。ここで、本発明において「発泡性」とは、20℃における炭酸ガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることを意味する。そして、この炭酸ガス圧は、0.294MPa(3.0kg/cm2)以下としてもよい。なお、炭酸ガスは、発酵により生成されたものであってもよいし、炭酸水やカーボネーション(炭酸ガス圧入)工程により付与されたものであってもよい。そして、このカーボネーション工程は、バッチ式で行ってもよいし、配管路に炭酸ガス圧入システム(カーボネーター)が組み込まれたインライン方式で連続的に行ってもよい。また、このカーボネーション工程は、フォーミング(泡噴き)の発生等を避けるために、液温を10℃以下(より好ましくは4℃以下)として行うのが好適である。
なお、本発明のビールテイスト飲料は、20℃における炭酸ガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)未満である非発泡性ビールテイスト飲料としてもよい。
【0037】
次に、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法について詳細に説明する。
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、キハダおよび/またはキハダ抽出物を含有させる工程と、水溶性大豆多糖類を0.025~0.22w/v%含有させる工程と、大豆ペプチドを0.05~0.35w/v%含有させる工程とを含めば、その他の工程については常法にしたがえばよく、特段限定はされない。また、キハダおよび/またはキハダ抽出物の含有量を所定の範囲内とする工程をさらに備えていてもよい。そして、上記した各工程は、2工程以上を1工程において併せて行ってもよく、あるいは各工程をそれぞれ2工程以上に分けて行ってもよい。
【0038】
なお、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法においては、上記した各工程を備えることによりビール特有の苦味等を有するビールテイスト飲料を製造することができるため、ホップを添加する工程を備えていなくてもよい。つまり、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、ホップを添加する工程を含まない構成であってもよい。
あるいは、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法がホップを添加する工程を含む構成である場合でも、苦味価(BU)を5未満とする工程を備えていてもよい。
【0039】
さらに、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法においては、上記した各工程を備えることによりビール特有の苦味を有し、且つ、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上が向上したビールテイスト飲料を製造することができるため、麦芽を原料として使用しなくてもよい。
【0040】
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法の一例としては、まず、キハダおよび/またはキハダ抽出物、ならびに所定量の水溶性大豆多糖類および大豆ペプチドを含む調合液を調製し、必要であればホップ由来成分などをこの調合液に添加し、これも必要に応じてスピリッツや発泡酒などの添加等によるアルコール度数の調整工程や、炭酸水の添加、カーボネーション等による炭酸ガス圧の調整工程などを行い、さらに濾過工程(フィルター濾過、ストレーナー濾過等)、殺菌工程(プレート殺菌等)などを行って、最終的に、キハダおよび/またはキハダ抽出物を含み、且つ水溶性大豆多糖類の含有量および大豆ペプチドの含有量が前述した範囲内である製品とする。また、この製品をアルミニウムやスチールなどの金属製容器、ガラス製容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ(プラスチックパウチ)容器などに充填して密封する容器充填工程を行ってもよい。特に、気体、水分、光線などの遮断性が高く、長期間常温において品質を維持することが可能であることから、金属製容器に充填され密封された構成とするのがより好ましい。
【0041】
また、別の例としては、まず発酵前工程として、麦芽、大麦等を使用して常法により仕込液(糖化液)を調製し、さらに必要であればホップなどをこの仕込液に添加して煮沸し、沈殿物を除去して発酵前液を取得し、この発酵前液にビール酵母を添加して所定の条件においてアルコール発酵工程を行う方法が示される。アルコール発酵後は、発酵後工程として、得られた発酵液にキハダおよび/またはキハダ抽出物、ならびに所定量の水溶性大豆多糖類および大豆ペプチドを添加し、さらに貯酒(熟成)、濾過などを行って、最終的に、キハダおよび/またはキハダ抽出物を含み、且つ水溶性大豆多糖類の含有量および大豆ペプチドの含有量が前述した範囲内である製品とする。これも必要であれば、発酵後工程などにおいて、スピリッツや発泡酒などの添加やアルコールの除去等によるアルコール度数の調整や、炭酸ガス圧の調整を行ってもよい。また、これも同様に、製品を金属製容器などに充填して密封する容器充填工程を行ってもよい。
【0042】
そして、上記したいずれの製造方法の例においても、キハダおよび/またはキハダ抽出物、水溶性大豆多糖類、および大豆ペプチドの添加は、他の工程、例えば発酵前工程(仕込工程や煮沸工程)、アルコール発酵工程、アルコール度数や炭酸ガス圧の調整工程、熟成工程、濾過工程、殺菌工程などにおいても可能である。
【0043】
なお本発明は、ビールテイスト飲料において、キハダおよび/またはキハダ抽出物を含有させ、さらに、水溶性大豆多糖類の含有量を0.025~0.22w/v%とし且つ大豆ペプチドの含有量を0.05~0.35w/v%とする、ビールテイスト飲料における味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味から選ばれる1以上の向上方法を提供するものであるとも言える。
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例】
【0045】
<ビールテイスト飲料の調製および官能評価>
まず、ベースとなる純水にキハダ抽出物、水溶性大豆多糖類および大豆ペプチドを最終サンプルの含有量として下記表1上段に記載の含有量となるように添加し、さらに、酸味料、カラメル色素、および酸化防止剤を所定量添加した。そして、炭酸ガス圧が2.2kg/cm2となるように炭酸水により調整した。このようにして、下記表1に示す10種類の発泡性ノンアルコールビールテイスト飲料サンプル(1-1~1-5、2-1~2-5)を作製した。
さらに、スピリッツも添加して最終サンプルのアルコール度数を5.0v/v%とした以外は上記と同様の方法により、下記表1に示す発泡性ビールテイストアルコール飲料サンプル(3-1)も作製した。
【0046】
そして、この得られた各サンプルにおける、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味について、訓練され官能的識別能力を備えた5名のパネリストにより、以下に示す評価基準を用いて各サンプルを官能評価した。
【0047】
[味の落差感の評価基準]
サンプル1-1、およびサンプル2-1における味の落差感を1(味の落差感がない)とし、サンプル1-2~1-5はサンプル1-1と、サンプル2-2~2-5およびサンプル3-1はサンプル2-1との対比として、1(味の落差感がない)、2(味の落差感がややある)、3(味の落差感がある)、4(より味の落差感がある)、5(極めて味の落差感がある)の5段階により比較官能評価を行った。
【0048】
[後切れのある酸味の評価基準]
サンプル1-1、およびサンプル2-1における後切れのある酸味を1(後切れのある酸味がない)とし、サンプル1-2~1-5はサンプル1-1と、サンプル2-2~2-5およびサンプル3-1はサンプル2-1との対比として、1(後切れのある酸味がない)、2(後切れのある酸味がややある)、3(後切れのある酸味がある)、4(後切れのある酸味がよりある)、5(後切れのある酸味が極めてある)の5段階により比較官能評価を行った。
【0049】
[ボリューム感のある渋味の評価基準]
サンプル1-1、およびサンプル2-1におけるボリューム感のある渋味を1(ボリューム感のある渋味がない)とし、サンプル1-2~1-5はサンプル1-1と、サンプル2-2~2-5およびサンプル3-1はサンプル2-1との対比として、1(ボリューム感のある渋味がない)、2(ボリューム感のある渋味がややある)、3(ボリューム感のある渋味がある)、4(よりボリューム感のある渋味がある)、5(極めてボリューム感のある渋味がある)の5段階により比較官能評価を行った。
【0050】
この官能評価結果(5名のパネリストの評価平均値)を下記表1下段に示した。
これらの結果から、キハダ抽出物を含有し、さらに、水溶性大豆多糖類の含有量が0.025~0.1w/v%であり且つ大豆ペプチドの含有量が0.05~0.2w/v%であるサンプル1-2~1-4、サンプル2-2~2-4、およびサンプル3-1は、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味が向上し、特に味の落差感が好ましいビールテイスト飲料であることが明らかとなった。
特に、サンプル1-3~1-4、サンプル2-3~2-4、およびサンプル3-1は、味の落差感、後切れのある酸味、およびボリューム感のある渋味がいずれも優れたビールテイスト飲料であった。
【0051】
【0052】
さらに、この得られた各サンプルにおける、泡持ちについても測定および評価を行った。
具体的には、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.29. 泡 NIBEM-Tを用いた泡持ち測定方法」に記載されている方法によって、各サンプルにつき2回NIBEM値(泡面が所定の位置から3cm下がるまでにかかる時間:sec)を測定し、その平均値を出して泡持ちを評価した。
【0053】
この結果を
図1および
図2に示した。ここで、
図1はサンプル1-1~1-5の結果のグラフであり、
図2はサンプル2-1~2-5および3-1の結果のグラフである。なお、サンプル1-1については、そのNIBEM値が上記方法で用いる装置の測定可能範囲下限を下回り数値測定ができなかったため、データを示していない。
これらの結果から、上記した構成を有するビールテイスト飲料中において水溶性大豆多糖類の含有量および大豆ペプチドの含有量から選ばれる少なくとも1つを増加させることにより泡持ちがより向上することが明らかとなった。