(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 3/20 20060101AFI20240410BHJP
B29B 7/28 20060101ALI20240410BHJP
B29B 7/14 20060101ALI20240410BHJP
C04B 35/634 20060101ALI20240410BHJP
C04B 35/626 20060101ALI20240410BHJP
C04B 35/185 20060101ALN20240410BHJP
B28B 1/24 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
B28B3/20 K
B29B7/28
B29B7/14
C04B35/634
C04B35/626 050
C04B35/185
B28B1/24
(21)【出願番号】P 2020023250
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神谷 壮宏
(72)【発明者】
【氏名】麻生 怜那
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真史
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-019401(JP,A)
【文献】特開2006-282412(JP,A)
【文献】特開2011-105520(JP,A)
【文献】特開平08-332618(JP,A)
【文献】特開平07-223879(JP,A)
【文献】特開平01-261265(JP,A)
【文献】特開2013-112888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/634
B28B 1/24
B29B 7/00-7/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末と、樹脂と、を含む複合材を製造する方法であって、
前記樹脂の出発原料である樹脂粉末の粒径を調整する工程と、
前記樹脂粉末の粒径を調整した後に、前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する工程とを有し、
前記セラミック粉末は、一次粒子が凝集した顆粒状粉末であり、
前記セラミック粉末は、ムライトを主成分として含み、
前記樹脂粉末の粒径を調整する際に、前記顆粒状粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比を、1/2倍~3倍の範囲に調整す
る複合材の製造方法。
【請求項2】
セラミック粉末と、樹脂と、を含む複合材を製造する方法であって、
前記樹脂の出発原料である樹脂粉末の粒径を調整する工程と、
前記樹脂粉末の粒径を調整した後に、前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する工程とを有し、
前記セラミック粉末は、一次粒子が凝集せずに分散している微粉末であり、
前記セラミック粉末は、ムライトを主成分として含み、
前記樹脂粉末の粒径を調整する際に、前記微粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比を、15倍~300倍の範囲に調整す
る複合材の製造方法。
【請求項3】
セラミック粉末と、樹脂と、を含む複合材を製造する方法であって、
前記樹脂の出発原料である樹脂粉末の粒径を調整する工程と、
前記樹脂粉末の粒径を調整した後に、前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する工程とを有し、
前記セラミック粉末は、一次粒子が凝集した顆粒状粉末を解砕して得られる解砕粉末であり、
前記セラミック粉末は、ムライトを主成分として含み、
前記樹脂粉末の粒径を調整する際に、前記解砕粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比を、3/2倍~30倍の範囲に調整す
る複合材の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂粉末のメディアン径は、樹脂ペレットを粉砕することで調整する請求項1~3のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂粉末のメディアン径は、300μm以下である請求項1~4のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項6】
前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する前に、前記樹脂粉末とワックスとを予め混合する工程をさらに有し、
前記樹脂粉末における樹脂がポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、アタクチックポリプロピレン、アクリルポリマー、ポリスチレン(PS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)から選択される1種または2種以上であり、
前記ワックスがカルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋、パラフィンワックス、ウレタン配合ワックス、ポリエチレングリコール、マイクロクリスタリンワックスから選択される1種または2種以上である請求項1~5のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項7】
前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する際に、ワックスを添加し、
前記樹脂粉末における樹脂がポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、アタクチックポリプロピレン、アクリルポリマー、ポリスチレン(PS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)から選択される1種または2種以上であり、
前記ワックスがカルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋、パラフィンワックス、ウレタン配合ワックス、ポリエチレングリコール、マイクロクリスタリンワックスから選択される1種または2種以上である請求項1~5のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項8】
前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合した後に、得られた混合物を混練する工程をさらに有する請求項1~7のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項9】
前記混合物の混練では、二軸押出機を用いる請求項8に記載の複合材の製造方法。
【請求項10】
前記複合材は、さらに、焼結助剤を含み、
前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する前に、前記セラミック粉末に前記焼結助剤を添加する請求項1~9のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項11】
前記複合材は、さらに、焼結助剤を含み、
前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する際に、前記焼結助剤を添加する請求項1~9のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項12】
前記焼結助剤は、マグネシウムおよびアルカリ土類金属から選択される少なくとも1種の元素を有する化合物を含む請求項10または11に記載の複合材の製造方法。
【請求項13】
前記焼結助剤は、マグネシウム化合物を含む請求項12に記載の複合材の製造方法。
【請求項14】
前記マグネシウム化合物は、マグネシウムの有機塩である請求項13に記載の複合材の製造方法。
【請求項15】
前記マグネシウム化合物は、酸化マグネシウム(MgO)、または、焼成後にマグネシウムを含む酸化物となるマグネシウムの無機塩である請求項13に記載の複合材の製造方法。
【請求項16】
前記酸化マグネシウムには、ステアリン酸処理を施す請求項15に記載の複合材の製造方法。
【請求項17】
請求項1~3のいずれかに記載の方法で製造されたセラミックと樹脂との複合材。
【請求項18】
請求項1~16のいずれかに記載の方法で製造されたセラミックと樹脂との複合材であって、
前記セラミック粉末の含有量が、72wt%~87wt%である複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成形体の製造に用いるセラミックと樹脂との複合材を製造する方法、および当該方法によって製造された複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック成型体は、優れた熱的性質、機械的性質、電気的性質、磁気的性質などを有しており、様々な分野で利用されている。このようなセラミック成型体は、特許文献1および2に示すように、セラミック射出成形(CIM:Ceramic Injection Molding)で製造することができる。
【0003】
射出成形では、一般的に、セラミック粉末とバインダとを含むセラミックと樹脂との複合材(混練物またはフィードストックとも呼ばれる)を加熱してスラリーとし、このスラリーを金型に充填することで、目的形状を得る。この射出成形では、機械プレス成形よりも、複雑形状や小サイズの成形体を製造することが可能であるとともに、高品質かつ高精度の成形体を自動的に大量生産することが可能である。
【0004】
ただし、この射出成形において、使用するセラミック粉末の分散性が悪い場合、得られる成形体の内部にセラミック粉末の凝集が発生することがある。この凝集は、ボイドやクラックなどの内部欠陥の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-213585号公報
【文献】特開2006-282412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、セラミック成形体の製造において凝集の発生を抑制できる複合材の製造方法、および当該方法で製造したセラミックと樹脂との複合材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る製造方法は、
セラミック粉末と、樹脂と、を含む複合材を製造する方法であって、
前記樹脂の出発原料である樹脂粉末の粒径を調整する工程(以下、粒径調整工程と呼ぶ)と、
前記樹脂粉末の粒径を調整した後に、前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する工程(以下、混合工程と呼ぶ)とを有し、
前記樹脂粉末の粒径を調整する際に、前記セラミック粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比を、所定の比率に調整する。
【0008】
従来、セラミック成形体の原料として用いられる複合材の製造では、樹脂成分の出発原料として、大きさが数mm程度の樹脂ペレットを、そのままの形態で用いることが一般的であった。本発明者等は、鋭意検討した結果、樹脂成分の出発原料を樹脂ペレットよりも粒径が細い粉末状の樹脂とし、その樹脂粉末のメディアン径を調整することで、複合材中のセラミック粉末の分散性が向上することを見出した。本発明の方法で製造した複合材を用いてセラミック成形体を製造すると、成形体の内部においてセラミック粉末の凝集が発生することを抑制できる。
【0009】
本発明において、樹脂粉末のメディアン径は、セラミック粉末のメディアン径(D50)に対して、所定の比率となるように調整する。具体的に、粒径調整工程では、前記セラミック粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比を、1/2倍~300倍の範囲に調整することが好ましい。
【0010】
また、本発明において、セラミック粉末は複数の形態を取り得る。具体的に、前記セラミック粉末は、一次粒子が凝集した顆粒状粉末とすることができる。この顆粒状粉末は、流動性が良くハンドリング性が高い。そのため、セラミック粉末として顆粒状粉末を用いることで、原料粉を混合機または混練機に投入する際に、原料粉が搬入口であるホッパに滞留することを防止できる。
【0011】
なお、セラミック粉末として顆粒状粉末を用いる場合、粒径調整工程では、前記顆粒状粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比を、1/2倍~3倍の範囲に調整することが好ましい。
【0012】
また、前記セラミック粉末は、一次粒子が凝集せずに分散した微粉末とすることができる。この場合、粒径調整工程では、前記微粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比を、15倍~300倍の範囲に調整することが好ましい。
【0013】
また、前記セラミック粉末は、一次粒子が凝集した顆粒状粉末を解砕して得られる解砕粉末とすることができる。この場合、粒径調整工程では、前記解砕粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比を、3/2倍~30倍の範囲に調整することが好ましい。
【0014】
好ましくは、前記樹脂粉末のメディアン径は、樹脂ペレットを粉砕することで調整する。また、好ましくは、前記樹脂粉末のメディアン径は、1000μm以下であり、より好ましくは、150μm~300μmである。
【0015】
本発明では、バインダが樹脂成分とワックス成分とで構成してあることが好ましい。なお、ワックスとは、樹脂よりも分子量が少なく、分解温度および軟化点が低い有機成分を意味する。このワックスは、混合工程の前に、樹脂粉末と混ぜ合わせてもよいし、混合工程で添加されてもよい。すなわち、本発明に係る複合材の製造方法は、混合工程の前に、前記樹脂粉末とワックスとを予め混合する工程をさらに有する(以下、ワックス添加工程と呼ぶ)。もしくは、本発明に係る複合材の製造方法では、前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合する際に、ワックスを添加する。
【0016】
また、本発明では、前記セラミック粉末と前記樹脂粉末とを混合した後に、混合工程で得られた混合物を混練する工程をさらに有する(以下、混練工程と呼ぶ)。この混練工程により、樹脂成分中にセラミック粉末が均一に分散した複合材(混練物またはフィードストック)が得られる。
【0017】
なお、好ましくは、前記混合物の混練では、二軸押出機を用いる。混練機として二軸押出機を使用する場合、セラミック粉末に対する樹脂粉末の配合比を高めることができる。この場合、本発明の方法で得られた複合材を加熱してスラリー(可塑状態)とした際に、スラリーの粘度を低くすることができ、射出成形における成形性が向上する。
【0018】
好ましくは、前記セラミック粉末の主成分は、ムライト、アルミナ、コーディライト、ステアタイト、フォルステライトから選ばれる少なくとも1種である。これらを主成分とするセラミック粉末は、フェライト粉末よりも分散し難い性質を有する。特に、ムライトの粉末が最も分散し難く、ムライトの成形体では、一般的に凝集が発生し易い。本発明では、これらを主成分とする場合であっても、セラミック粉末の分散性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明において、目的物である複合材は、さらに焼結助剤を含むことができる。この焼結助剤は、混合工程の前段階で、セラミック粉末に添加されてもよいし、混合工程において、セラミック粉末や樹脂粉末と一緒に添加されてもよい。
【0020】
なお、上記において、焼結助剤は、セラミック成形体の焼結温度を下げる性質を有していればよい。例えば、セラミック粉末が主成分としてムライトを含む場合、前記焼結助剤は、マグネシウム(Mg)およびアルカリ土類金属(主にカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba))から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物であることが好ましく、マグネシウム化合物であることがより好ましい。
【0021】
ここで、焼結助剤であるマグネシウム化合物とは、マグネシウムの有機塩とすることができる。もしくは、マグネシウム化合物とは、酸化マグネシウム(MgO)、または、焼成後にマグネシウムを含む酸化物(複合酸化物を含む)となるマグネシウムの無機塩とすることができる。
【0022】
また、好ましくは、焼結助剤として酸化マグネシウムを添加する場合、前記酸化マグネシウムには、ステアリン酸処理を施す。ステアリン酸処理とは、酸化マグネシウムの粉末とステアリン酸の粉末とを混合し、酸化マグネシウム粒子の表面にステアリン酸を付着させる処理を意味する。焼結助剤として添加する酸化マグネシウムに上記の処理を施すことで、酸化マグネシウムの分散性がより向上する。
【0023】
上記のような方法で製造されたセラミックと樹脂との複合材は、セラミック成形体用の原料、特に、射出成形で使用する原料として用いられる。本発明に係る複合材は、前記セラミック粉末のメディアン径に対する前記樹脂粉末のメディアン径の比が、1/2倍~300倍の範囲内となるように調合してある。上記のような構成を有することで、本発明に係る複合材は、スラリー化した際に、そのスラリー内でセラミック粉末が均一に分散し、成形体の内部に凝集が発生することを抑制できる。
【0024】
また、本発明に係る複合材は、複合材中に含まれるセラミック粉末の含有量を、72wt%~87wt%とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明に係る製造方法で使用する樹脂粉末の一例を示す模式図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明に係る製造方法で使用するセラミック粉末の一例を示す模式図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明に係る製造方法で使用するセラミック粉末の一例を示す模式図である。
【
図2C】
図2Cは、本発明に係る製造方法で使用するセラミック粉末の一例を示す模式図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の混合工程により得られる混合物の一例を示す模式図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の混合工程により得られる混合物の一例を示す模式図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明に係る複合材の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0027】
第1実施形態
(複合材)
図4Aは、本実施形態の製造方法によって得られる複合材2(混練物、フィードストック)を示す模式図である。この複合材2は、セラミック成形体の原料として用いられる。
図4Aでは、複合材2を円柱状のペレットとして示しているが、複合材2の形態はこれに限定されない。たとえば、複合材2の形態は、球状や角柱状のペレット、もしくは、シートを不規則に細断した不定形状の小片であってもよい。また、複合材2の1粒単位での寸法は、射出成形などの成形機に投入し易い大きさであればよく、特に限定されない。
【0028】
本実施形態の複合材2は、
図4Bに示すように、少なくともバインダ4とセラミック成分6とで構成され、バインダ4にセラミック粉末が分散した内部構造を有する。また、複合材6には、その他に焼結助剤8が含まれることが好ましく、図示しない空隙なども含まれ得る。
【0029】
セラミック成分6には、最終目的物であるセラミック成形体の母材成分が含まれる。例えば、セラミック成分6は、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物、および、これらのうち2種以上を含む複合物などであり、好ましくは、ムライト(3Al2O3・2SiO2~2Al2O3・SiO2)、アルミナ(Al2O3)、コーディライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、フォルステライト(2MgO・SiO2)から選ばれる少なくとも1種を主成分として含む。
【0030】
バインダ4は、樹脂41とワックス42とで構成される。本実施形態において、樹脂41とは、熱可塑性樹脂などの高分子化合物を意味し、ワックス42とは、樹脂41よりも分子量が少なく、分解温度および軟化点が低い有機成分を意味する。
【0031】
樹脂41としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、アタクチックポリプロピレン、アクリルポリマー、ポリスチレン(PS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの熱可塑性樹脂が例示され、これらのうちの1種、または2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
一方、ワックス42としては、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋などの天然ワックス、もしくは、パラフィンワックス、ウレタン配合ワックス、ポリエチレングリコール、マイクロクリスタリンワックスなどの合成ワックスが例示され、これらのうちの1種、または2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
また、焼結助剤8としては、セラミック成形体の焼結温度を下げる性質を有する化合物を用いる。ここでいう化合物とは、酢酸塩、クエン酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩などの有機塩、もしくは、酸化物、塩化物、水酸化物、およびオキソ酸塩(炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等)などの無機塩が挙げられる。これらの有機塩および無機塩は、焼成後に、酸化物(複合酸化物を含む)となる。
【0034】
焼結助剤8の具体的な材質は、セラミック成分6の主成分によって異なる。たとえば、セラミック成分6がムライトを主成分とする場合、焼結助剤8は、マグネシウム(Mg)およびアルカリ土類金属(主にカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba))から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物であることが好ましく、マグネシウム化合物であることがより好ましい。なお、マグネシウム化合物とカルシウム化合物とを混合して用いてもよい。
【0035】
本実施形態の複合材2では、上述した構成要素の他に、最終目的物であるセラミック成形体の加工方法(成形法)や所望の特性に応じて、他の成分が含まれていてもよい。他の成分とは、たとえば、可塑剤、潤滑剤、酸化防止剤、セラミック副成分、カップリング剤などが例示される。
【0036】
(複合材の製造方法)
以下、複合材2の製造方法の詳細について、説明する。複合材2の製造方法は、大別して、粒径調整工程と、混合工程と、混練工程とを有する。
【0037】
粒径調整工程は、樹脂成分の出発原料である樹脂粉末41bのメディアン径D4bを調整する工程である。特にこの粒径調整工程で、セラミック粉末のメディアン径D6に対する樹脂粉末41bのメディアン径D4bを、所定の比率に調整する。以下、粒径調整工程について説明する。
【0038】
まず、粒径調整工程では、セラミック成分6の出発原料(セラミック粉末)と、バインダ4に含まれる樹脂41の出発原料とを準備する。本実施形態において、セラミック成分6の出発原料は、
図2Aに示すような顆粒状粉末61とする。この顆粒状粉末61は、主として、一次粒子が凝集した顆粒6aで構成される。ここで「主として」とは、粉末61に含まれる粒(構成単位)の大半が顆粒6aであって、その他に一次粒子が含まれていてもよいことを意味する。より具体的に、この顆粒状粉末61の粒度分布において、累積度数が50%となる顆粒6aの粒径(メディアン径)D6aは、100μm~300μmとすることが好ましい。
【0039】
一方、樹脂41の出発原料は、
図1の右側に示すような粉末状の樹脂(樹脂粉末41b)を用いる。一般的に、前述したような熱可塑性樹脂は、異物を除去したりハンドリング性を付与したりすることを目的として、その製造過程で、重合後に造粒される。そのため、熱可塑性樹脂は、通常、大きさが数mm程度の樹脂ペレット41aとして流通している(シートとして流通する場合を除く)。本実施形態においては、樹脂41の出発原料として、この樹脂ペレット41aをそのままの形態で使用するわけではなく、樹脂ペレット41aよりも大きさが細かい樹脂粉末41bを使用する。
【0040】
より具体的に、本実施形態では、粒径調整工程において、樹脂ペレット41aを粉砕して、樹脂粉末41bを得る。粉砕の方法としては、低温(冷凍、凍結)粉砕を採用することが好ましい。低温粉砕とは、粉砕対象物である樹脂ペレット41aを、少なくとも樹脂の軟化温度よりも低い温度に冷却したうえで、ボールミルやカッターミルなどで粉砕する方法である。この低温粉砕では、延性破壊よりも脆性破壊が支配的であり、溶けやすく粘り気のある樹脂材料の粉砕に適する。
【0041】
粉砕に使用する樹脂ペレット41aは、一般的に流通しているペレットを用いることができ、その平均粒径D4aは、たとえば、3~4mm程度とすることができる。この樹脂ペレット41aの粉砕では、粉砕後に得られる樹脂粉末41bのメディアン径D4bを、セラミック粉末のメディアン径D6に対して、1/2倍~300倍の範囲となるように調整することが好ましい。特に、本実施形態では、セラミック粉末として顆粒状粉末61を使用するため、顆粒状粉末61のメディアン径D6aに対する樹脂粉末41bのメディアン径D4bの比を、1/2倍~3倍の範囲に調整することがより好ましい。
【0042】
具体的に、樹脂粉末41bのメディアン径D4bは、好ましくは、1000μm以下、より好ましくは150μm~300μmに調整する。樹脂粉末41bは、より細かいことが好ましいが、当該粉末は可燃性粉末であり、粒径が細かくなりすぎると粉塵爆発の危険性が増す。そのため、メディアン径D4bの下限値は、150μm程度とすることが好ましい。また、樹脂粉末41bの単位粒子は、鱗片状または針状よりも、球体状もしくは直方体状に近い形状とすることが好ましく、このような形状は、低温粉砕を採用することで実現できる。なお、メディアン径D4bは、粉砕時間や、カッターの回転数などの各種粉砕条件を調整することで制御する。また、粉砕後の樹脂粉末41bは、ふるい分級や気流分級などで整粒してもよい。
【0043】
粒径調整工程では、上記のような方法により、セラミック粉末(顆粒状粉末61)と樹脂粉末41bとの粒径比を調整する。なお、バインダ4に含まれる樹脂41が複数の成分で構成される場合(たとえば、PEとPOMなど)には、各成分についてそれぞれ上述した粉砕を行い、成分ごとに樹脂粉末41bを得る。また、本実施形態において「粒径を調整する」とは、上記のような粉砕による調整方法の他に、広範な粒度分布を有する一次粉体から、所定の分布を有する二次粉体を分級により選別する方法も含まれ得る。たとえば、粒度分布が0.1mm~3mmの樹脂材料(一次粉体)を分級して、粒度が0.15mm~0.30mmの樹脂粉末41b(二次粉体)を選別してもよい。
【0044】
ここで、粒径調整工程で得られる各粉末(セラミック粉末および樹脂粉末41b)の粒度分布は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定できる。たとえば、SEMまたはTEMにより、測定対象粉末に含まれる構成粒子の投影面積を測定し、当該投影面積から円相当径を算出する。当該計測は、少なくとも1000個以上の構成粒子に対して行い、円相当径での粒度分布を得る。そして、円相当径での粒度分布において、累積度数が50%となる値を、メディアン径(D6,D6a,D4d)とする。なお、各粉末の粒度分布は、X線回折装置(XRD)を用いて測定することも可能である。XRDを用いた場合であっても、上記の投影面積による算定方法と実質的に等しい測定結果が得られる。
【0045】
次に、混合工程について説明する。混合工程は、粒径調整工程で得られたセラミック粉末(顆粒状粉末61)と樹脂粉末41bとを混合する工程である。混合の方式は、特に制限されない。たとえば、当該工程では、容器自体が回転する容器回転型の混合機(V型混合機など)、容器内部に取り付けられたパドルや羽根が回転する容器固定型の混合機(ヘンツェルミキサなど)、もしくは、容器内部に回転羽を有すると共に容器自体も開店する複合型の混合機などを使用できる。ただし、混合工程では、混合する内容物にワックス42が含まれ得るため、温度制御が可能な混合機を使用することが好ましい。
【0046】
本実施形態の混合工程では、混合の条件を、顆粒状粉末61の顆粒6aが崩れない条件とすることが好ましい。たとえば、回転羽を備えたミキサを使用する場合には、回転羽の回転数を200~500rpmとし、混合時間を3~5minとすることが好ましい。また、混合時の温度は、内包するワックス42が溶融しない温度、たとえば35℃以下とすることが好ましい。
【0047】
また、混合工程において、セラミック粉末(顆粒状粉末61)の投入量を100重量部とすると、樹脂粉末41bの添加量は、8~22重量部とすることができる。なお、樹脂粉末41bの配合比率の最適範囲は、混練工程の条件によっても変化する。そのため最適範囲については、後述する混練工程において説明する。
【0048】
また、この混合工程では、セラミック粉末(顆粒状粉末61)と樹脂粉末41bの他に、ワックス42と、焼結助剤8とを同時に添加し混合してもよい。ただし、ワックス42は、混合工程の前に、樹脂粉末41bに予め混合してあってもよい(ワックス添加工程)。同様に、焼結助剤8も、混合工程の前に、セラミック粉末(顆粒状粉末61)に添加してあってもよい。
【0049】
混合する際のワックス42の形態は、粉末状、ブロック状、液体状などとすることができる。粉末状のワックス42を添加する場合は、混合工程で、セラミック粉末と樹脂粉末41bとワックス42とを一緒に混合することができる。一方、粗大な塊であるブロック状のワックス42を添加する場合は、バインダ4中にワックス42の成分を均一に混ぜ合わせるために、ワックス42をある程度解砕しておくことが好ましい。そのため、ブロック状のワックス42を使用する場合には、ワックス添加工程で、予めワックス42と樹脂粉末41bとを混合しておくことが好ましい。混合工程でブロック状のワックス42を解砕しようとすると、顆粒状粉末61の顆粒6aも崩れてしまうためである。液体状のワックスを添加する場合は、混合工程ではなく後述する混練工程で添加する方が好ましい。混合工程で液体状のワックス42を添加しようとすると、顆粒状粉末61の顆粒6aも崩れてしまうためである。
【0050】
ワックス添加工程を実施する場合、温度制御が可能で、かつ、ワックス42を解砕するための回転羽などを有する混合機を使用することが好ましい。回転羽を備えたミキサを使用する場合には、回転数を700~800rpmと混合工程よりも高く設定し、混合時間を1~2minとすることが好ましい。なお、ワックス添加工程での温度は、混合工程と同様に、ワックス42が溶融しない温度、たとえば35℃以下とすることが好ましい。ワックス42の添加量は、顆粒状粉末61の投入量を100重量部とすると、7~20重量部とすることができ、樹脂粉末41bの添加量に対するワックス42の添加量の比(ワックス42/樹脂粉末41b)は、0.8倍~2.0倍とすることが好ましい。
【0051】
焼結助剤8については、粉末状であることが通常であり、そのメディアン径は、1μm以下であることが好ましい。また、焼結助剤8の添加量は、顆粒状粉末61の投入量100重量部に対して、0.5~5重量部とすることができ、0.5~1.0重量部とすることが好ましい。
【0052】
なお、顆粒状粉末61がムライトを主成分とする場合には、前述したように、酸化マグネシウムを焼結助剤8とすることが好ましい。この場合、酸化マグネシウムには、ステアリン酸処理を施しておくことが好ましい。ステアリン酸処理とは、酸化マグネシウムの粉末とステアリン酸の粉末とを混合し、酸化マグネシウム粒子の表面にステアリン酸を付着させる処理を意味する。
【0053】
酸化マグネシウムは、メディアン径が0.04~0.5μm程度の微粉末であって、この酸化マグネシウム自体が凝集し易い。複合材2の内部において、酸化マグネシウムの凝集が発生していると、成形体を焼成する際に酸化マグネシウムの凝集体が何らかの理由(焼失など)で抜け落ち、得られた成形体(焼結体)の内部にボイドが発生する。本実施形態では、焼結助剤8として添加する酸化マグネシウムにステアリン酸処理を施すことで、酸化マグネシウムの分散性が向上し、成形体(焼結体)内部にボイドが発生することを抑制できる。
【0054】
混合工程では、上記のような条件で、複合材2の構成要素(顆粒状粉末61,樹脂粉末41b,ワックス42,焼結助剤8)を混ぜ合わせる。この混合工程により、
図3Aに示すような混合物2aが得られる。
【0055】
次に、混練工程について説明する。混練工程では、混合工程で得られた混合物2aを加熱しながら、さらによく混ぜ、各構成要素を練り合わせる。すなわち、この混練工程で、樹脂粉末41bおよびワックス42が溶融してバインダ4となり、バインダ4中にセラミック成分6と焼結助剤8とが練りこまれる。
【0056】
この混練工程では、二軸押出機やロールミルなどの加熱式混練機を使用することができる。当該工程では、まず、漏斗型のホッパなどを用いて、前工程で得られた混合物2aを、混練機に投入する。この際、投入口となるホッパにおいて、投入する材料が滞留せずに混練容器側に円滑に流れるようにすることが求められる。本実施形態では、セラミック粉末として、流動性が良く、かつ、ハンドリング性が高い顆粒状粉末61を使用しているため、混合物2aがホッパに滞留することを防止できる。なお、前工程において顆粒状粉末61を混合機に投入する場合も、上記と同様の事由により、投入口などに原料が付着することを防止できる。ただし、混合物2aに含まれる顆粒状粉末61は、混練機に投入した後、すなわち混練時において、十分に解砕される必要がある。混練時における顆粒状粉末61の解砕具合は、使用する混練機の種類、および、混合物2aに含まれる樹脂粉末41bの割合などに依存する。
【0057】
二軸押出機では、ヒータが設置された混練室内に、特殊な形状を有する2本のスクリュが取り付けてあり、この2本のスクリュが同方向にかみ合いながら回転することで、投入した材料を混練する。混練工程において二軸押出機を使用する場合、スクリュ間には、強いせん断力および攪拌力が発生し、これらの力により顆粒6aが容易に解砕される。そのため、二軸押出機を使用する場合には、混合物2aに含まれる樹脂粉末41bの割合を多くすることができる。具体的に、混合物2a中の樹脂粉末41bの添加量は、顆粒状粉末61の投入量100重量部に対して、10~22重量部とすることが好ましい。
【0058】
一方、ロールミルは、加熱可能な2本(もしくは3本)のロールを有しており、異方向に回転するロール間に材料を投入することで、混練を行う。このロールミルを使用する場合、混合物2aは、狭いロール間を通過する際に加わる圧縮力によって混練される。この圧縮力は、一過性の力であって、二軸押出機で発生するせん断力に比べて、解砕効率が悪い。そのため、ロールミルを使用する場合には、混合物2aに含まれる樹脂粉末41bの割合を少なくしないと、顆粒状粉末61が十分に解砕されない。具体的に、混合物2a中の樹脂粉末41bの添加量は、顆粒状粉末61の投入量100重量部に対して、8~11重量部とすることが好ましい。
【0059】
上記のように、樹脂粉末41bの添加量の最適範囲は、使用する混練機の種類によって異なるが、本実施形態においては、特に二軸押出機を用いて混練することが好ましい。樹脂成分41の含有量(樹脂粉末41bの添加量)が多いほど、複合材2をスラリーとした際の粘度が低下し、成形性が良好となるためである。ただし、樹脂成分41の含有量が多すぎる場合、成形体の製造時において、脱バインダ処理に時間を要するとともに、脱バインダ処理により割れや空隙が発生することがある。そのため、樹脂成分41の含有量は、二軸押出機を使用する場合であっても、上限値を14重量部程度とすることがより好ましい。
【0060】
なお、二軸押出機を使用する場合、スクリュの先端に設置された金型から混練物が押し出され、押し出された混練物を適宜切断することで、
図4Aに示すペレット状の複合材2が得られる。一方、ロールミルを使用する場合、シート状の混練物が得られ、その混練物を適度な大きさに細断することで、複合材2が得られる。
【0061】
上記の製造方法により得られた複合材2は、前述したように、セラミック粉末のメディアン径D6に対する樹脂粉末41bのメディアン径D4bの比が、1/2倍~300倍となるように調合してある。特に本実施形態の複合材2は、顆粒状粉末61のメディアン径D6aに対する樹脂粉末41bのメディアン径D4bの比が、1/2~3倍となるように調合してある。
【0062】
また、本実施形態の複合材2において、セラミック成分6の含有量は、72wt%~87wt%とすることができる。特に、二軸押出機を使用した場合、複合材2に含まれるセラミック成分6の含有量は、79wt%~84wt%であることが好ましい。なお、上記の含有量は、複合材2の全構成要素(顆粒状粉末61,樹脂粉末41b,ワックス42,焼結助剤8)の合計重量に対する、顆粒状粉末61の投入量の比として表される。
【0063】
なお、セラミック成分6の含有量は、得られた複合材2の断面を観察することによっても把握し得る。この場合、複合材2の任意の断面において、断面写真を撮影し、画像解析ソフトにより、任意の断面に占めるセラミック成分6の面積比を算出する。セラミック成分6の含有量が重量比で72wt%~87wt%の範囲内である場合、断面観察における当該面積比は、45~69%程度となり、セラミック成分6の含有量が重量比で79wt%~84wt%の範囲内である場合、当該面積比は、55~63%程度となる。複合材2には、一定の割合で、空隙が存在し得るため、重量換算の含有量と、断面における面積比とでは、上記のように若干の誤差が生じる。
【0064】
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態の製造方法により得られた複合材2は、セラミック成形体を機械プレス法や射出成形法で製造する際の原料として用いられる。特に、本実施形態の複合材2は、射出成形の原料として好適に用いられる。射出成形では、本実施形態の複合材2を加熱してスラリー(可塑状態)とし、圧力を加えながらそのスラリーを金型に充填することで、一次成形体を得る。そして、この一次成形体に、適宜、脱バインダ処理や、焼成処理などを施すことで二次成形体(焼結体)が得られる。
【0065】
本実施形態の複合材2を用いてセラミック成形体を製造すると、成形体の内部において、セラミック成分6の凝集が発生することを抑制できる。凝集が抑制される理由は、必ずしも明らかではないが、たとえば、以下の事由が考えられる。
【0066】
従来、セラミック成形体の原料の製造では、樹脂成分の出発原料(樹脂原料)として、大きさが数mm程度の樹脂ペレット41aをそのままの形態で用いることが一般的であった。樹脂原料として樹脂ペレット41aをそのままの形態で使用した場合、セラミック粉末に対する樹脂原料の粒径比が極端に大きくなる。この場合、混練工程において、樹脂原料の内部まで熱が伝わり難くなると考えられる。つまり、この場合、樹脂原料が完全に溶融する前に、樹脂成分とセラミック粉末とが練り合わされることとなり、セラミック成分6の分散性が悪くなると考えられる。
【0067】
本実施形態では、樹脂原料として、樹脂ペレット41aよりも粒径が細かい樹脂粉末41bを使用しているが、この樹脂粉末41bが樹脂ペレット41aよりも遥かに溶融し易いため、セラミック成分6の分散性が向上すると考えられる。また、本実施形態では、セラミック粉末と樹脂粉末41bとで粒径比(D4b/D6,D4b/D6a)が所定の範囲内となるように調整してある。このように粒径比を調整することで、混練工程において、セラミック成分6と樹脂成分41との物理的距離が短くなり、バインダ4中にセラミック成分6が均一に分散されやすくなると考えられる。
【0068】
また、本実施形態の製造方法では、セラミック粉末として分散性の悪い材質を使用する場合であっても、複合材2の内部においてセラミック成分6を均一に分散させることができ、凝集の発生を抑制できる。本発明者等の実験によれば、フェライトの粉末は、分散性が良く凝集が発生し難いが、ムライト、アルミナ、コーディライト、ステアタイト、フォルステライトを主成分とする粉末は、分散性が悪く凝集が発生し易いことが明らかとなった。主成分の材質によって粉末の分散性が異なる理由は、明らかではないが、特にムライト粉末は分散性が悪い。本実施形態の製造方法では、上記のような分散性が悪い粉末(特にムライト粉末)を使用した場合であっても、セラミック成分6の凝集を抑制することができる。
【0069】
(第2実施形態)
以下、
図2Bおよび
図3Bに基づいて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態における第1実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同様の符号を使用する。
【0070】
第2実施形態では、セラミック成分6の出発原料として、第1実施形態の顆粒状粉末61とは異なり、
図2Bに示すような微粉末62を使用する。この微粉末62は、一次粒子6bが凝集せずに分散した粉末であって、微粉末62に含まれる粒(構成単位)が、主として一次粒子6bで構成される。なお、微粉末62には、凝集した粒が含まれていてもよい。より具体的に、微粉末62のメディアン径D6bは、1μm~10μmとすることが好ましい。一方、樹脂41の出発原料は、第1実施形態と同様に、
図1に示す樹脂粉末41bを使用する。
【0071】
第2実施形態では、顆粒状粉末61よりも細かい微粉末62を使用するため、粒径調整工程において、微粉末62のメディアン径D6bに対する樹脂粉末41bのメディアン径D4bの比を、15~300倍の範囲に調整することがより好ましい。
【0072】
また、第2実施形態において、混合工程は、第1実施形態と同様の方法および条件で実施することができる。ただし、第2実施形態では、セラミック粉末が極めて細かい微粉末62であるため、混合工程の前段階において、事前にワックス添加工程を実施する必要はない。すなわち、粗大な塊のペレット状またはペースト状のワックス42を使用する場合であったとしても、混合工程で、微粉末62と、樹脂粉末41bと、ワックス42と、焼結助剤8とを、一度に混合することができる。この際、混合の条件は、ワックス42が溶融しない温度条件で、かつ、ワックス42が解砕する回転条件とすればよい。第1実施形態と異なり、混合工程の条件を、セラミック粉末の解砕を防ぐ条件とする必要はない。第2実施形態において、混合工程後に得られる混合物2bは、
図3Bに示すように、一次粒子6bが分散した混合粉となる。
【0073】
また、第2実施形態では、混練工程で混練機に混合物2bを投入する際に、ホッパに投入材料が付着することを防止する措置を施す必要がある。第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、混合物2b中に微粉末62が含まれ、この微粉末62がホッパに付着し、滞留し易いためである。ホッパへの付着防止措置としては、ホッパ内壁へ表面処理を施すこと、または、ホッパを振動させることが例示される。
【0074】
さらに、第2実施形態では、混合物2bに含まれるセラミック粉末が、既に一次粒子6aの状態となっているため、ロールミルで混練する場合であっても、ある程度樹脂粉末41bの添加量を多くすることができる。具体的に、第2実施形態においてロールミルで混練する場合、樹脂粉末41bの添加量は、微粉末62の投入量100重量部に対して、8~12重量部とすることが好ましい。なお、第2実施形態において二軸押出機を使用する場合、樹脂粉末41bの添加量は、第1実施形態と同様とすることができる。
【0075】
第2実施形態において、上記以外の製造条件は、第1実施形態と共通しており、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0076】
(第3実施形態)
以下、
図2Cおよび
図3Bに基づいて、本発明の第3実施形態について説明する。なお、第3実施形態における第1または第2実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同様の符号を使用する。
【0077】
第3実施形態では、セラミック成分6の出発原料として、
図2Cに示すような解砕粉末63を使用する。この解砕粉末63は、第1実施形態の顆粒状粉末61を解砕することで得られる。解砕の方法は、特に制限されないが、たとえば、ボールミル、アトライタ、ジェットミル、ハンマーミルなどの各種粉砕方法が適用できる。なお、解砕粉末63は、
図2Bに示すような一次粒子6bになるまで、完全に解砕した状態としてもよいが、完全には解砕しきらない状態としてもよい。つまり、解砕粉末63に含まれる解砕粒子6cは、第2実施形態の一次粒子6bと同義となり得るが、顆粒6aがある程度瓦解した中間体であってもよい。より具体的に、解砕粉末63のメディアン径D6cは、10μm~100μmとすることができる。一方、樹脂41の出発原料は、第1実施形態と同様に、
図1に示す樹脂粉末41bを使用する。
【0078】
第3実施形態では、顆粒状粉末61よりも細かい解砕粉末63を使用するため、粒径調整工程において、解砕粉末63のメディアン径D6cに対する樹脂粉末41bのメディアン径D4bの比を、3/2~30倍の範囲に調整することがより好ましい。
【0079】
なお、第3実施形態において、混合工程は、第2実施形態と同様の方法および条件で実施することができ、混合工程で得られる混合物2bは、
図3Bに示すように解砕粒子6bが分散した混合粉となる。また、第3実施形態において、混練工程は、第2実施形態と同様とすることができ、解砕粒子6cの粒径が小さい場合には、ホッパへの付着防止措置が必要となる。
【0080】
第3実施形態において、上記以外の製造条件は、第1実施形態と共通しており、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
実験1
実験1では、セラミック成分6の出発原料として、ムライトを主成分とするセラミック粉末を用い、樹脂41として、ポリエチレン(PE)およびポリアセタール(POM)の混合物、もしくはポリプロピレン(PP)単体を用いて、複合材2を製造した。なお、本実験1に係る複合材2には、上記の他に、ワックス42として、粉末状のパラフィンワックスを添加し、焼結助剤8として、酸化マグネシウムを添加した。
【0083】
なお、本実験1では、粒径調整工程において、ムライト粉末のメディアン径D6と、各樹脂成分(PE,POM, PP)のメディアン径D4bとを変更して実験を行い、試料1~12に係る複合材2を製造した。すなわち、試料1~12では、ムライト粉末のメディアン径D6に対する各樹脂成分のメディアン径D4bの比(D4b/D6)が異なっている。各試料1~12における粒径D4bおよびD6を表1に示す。
【0084】
具体的に試料1および2では、ムライト粉末として顆粒状粉末61を使用し、樹脂41の出発原料として、PEおよびPOMの樹脂ペレット41aをカッターミルで粉砕した樹脂粉末41bを使用した。また、試料3~6では、樹脂41の出発原料として、上記と同様に樹脂粉末41bを使用したうえで、ムライト粉末として顆粒状粉末61をボールミルで解砕した解砕粉末63を使用し、ムライト粉末の解砕具合を調整することで、粒径比を制御した。また、試料7~10では、セラミック粉末として微粉末62を使用したうえで、樹脂ペレット41aの粉砕具合を調整することで、粒径比を制御した。一方、試料11および12については、セラミック粉末として微粉末62を使用し、樹脂41の出発原料として樹脂ペレット41aをそのまま形態で使用した。なお、試料9,10,および12については、樹脂41の材質として、PPを使用した。
【0085】
また、本実験1では、混合工程において、回転羽を備えたミキサを使用し、ムライト粉末100重量部に対して、樹脂41を11重量部(PEとPOMの合計添加量)、ワックス42を9.5重量部、焼結助剤8を0.5重量部、添加した。なお、ムライト粉末の含有量は、混合物の全重量に対して、82.6wt%とした。そして、この混合工程で得られた混合物を、二軸押出機を用いて混練し、各試料1~12に係る複合材2を製造した。
【0086】
また、本実験1では、各試料1~12の複合材2を用いて、射出成形を行い、各試料1~12に対応する焼結前の一次成形体を、それぞれ20個製造した。なお、得られた一次成形体は、外径4mm、内径2mm、長さ11mmの中空円筒状の成形品とした。そして、これらの一次成形体について、以下に示す評価を実施した。
【0087】
凝集発生数の調査
本実験1で得られた各試料1~12に係る一次成形体を、X線CT(コンピュータ断層撮影)で検査し、成形体内部での凝集発生数(単位;個)を評価した。X線CTでは、15μm間隔で断面写真を撮影し、円相当径での直径、もしくは、最大長さが50μm以上の塊を、セラミック成分6の凝集と判断した。なお、上記のX線CT検査は、各試料1~12につき3個の成形体に対して実施した。また、凝集発生数は、20個以下を良好と判断する。
【0088】
実験2
本実験2では、セラミック成分6の主成分をフェライトに変更し、試料21~24に係る複合材2を製造した。本実験2の上記以外の条件は、実験1と共通しており、実験1と同様の評価を行った。なお、実験2の各試料21~24では、粒径比D4b/D6が異なっており、各試料21~24における粒径D4bおよびD6を表1に示す。
【0089】
【0090】
評価結果
実験1の試料1~12および実験2の試料21~24について、凝集発生数を評価した結果を表1に示す。
【0091】
表1に示すように、ムライトを主成分とする場合(実験1)と、フェライトを主成分とする場合(実験2)とを比較すると、ムライトのほうがフェライトよりも遥かに凝集が発生し易いことが確認できる。試料21~24の結果から、フェライト粉末を主成分とする場合、樹脂ペレット41aをそのままの形態で使用したとしても、凝集がほとんど発生していないことが確認できる。一方、試料11および試料12の結果から、ムライト粉末を主成分とする場合には、樹脂ペレット41aをそのままの形態で使用すると凝集が多発することが確認できる。
【0092】
また、試料1~12の結果を比較すると、樹脂粉末41bを使用した試料1~10は、試料11および試料12よりも凝集発生数が低下していることが確認できる。この結果から、分散性が悪いムライト粉末を使用する場合であっても、樹脂の出発原料として、樹脂ペレット41aを粉砕した樹脂粉末41bを用いることで、凝集の発生を抑制できることが確認できた。また、試料1~10は、いずれも粒径比D4b/D6が1/2倍~300倍の範囲内にあり、凝集発生数が20個以下であった。この結果から、セラミック粉末と樹脂粉末41bとの粒径比を所定の範囲内に制御することで、セラミック成分6の分散性が向上し、凝集の発生を有効に抑制できることが確認できた。
【0093】
なお、上述した実験1および実験2の他に、セラミック成分6の主成分をアルミナ、コーディライト、ステアタイト、フォルステライトとした実験も実施した。その結果、上記のセラミック成分の場合でも、ムライトと同様の結果が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0094】
2 … 複合材(混練物,フィードストック)
4 … バインダ
41 … 樹脂成分
41a … 樹脂ペレット
41b … 樹脂粉末
42 … ワックス
6 … セラミック成分
61 … 顆粒状粉末
6a … 顆粒
62 … 微粉末
6b … 一次粒子
63 … 解砕粉末
6c … 解砕粒子
8 … 焼結助剤