(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】水処理用不織布シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/26 20060101AFI20240410BHJP
D04H 1/4291 20120101ALI20240410BHJP
D21H 13/14 20060101ALI20240410BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20240410BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B01D71/26
D04H1/4291
D21H13/14
D21H15/02
B01D69/10
(21)【出願番号】P 2020026549
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 純也
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-128769(JP,A)
【文献】特公昭48-002681(JP,B1)
【文献】特開2016-216862(JP,A)
【文献】国際公開第2011/049231(WO,A1)
【文献】特開2012-106177(JP,A)
【文献】特開平10-219521(JP,A)
【文献】特開2003-328233(JP,A)
【文献】特開2012-250223(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0127715(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
D04H 1/00 - 18/04
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式不織布からなる水処理用不織布シートであって、
前記湿式不織布の繊維原料がポリオレフィン系繊維のみからなり、前記ポリオレフィン系繊維の5~50質量%がフィブリル化ポリエチレン繊維であり、
前記ポリオレフィン系繊維の50~95質量%がフィブリル化されていないバインダー繊維であり、通気度が0.20~100.0cm
3/cm
2・secである、水処理用不織布シート。
【請求項2】
JIS P 8113:2006に基づいて測定した前記水処理用不織布シートの横方向における引張強度S
Yが3.0kN/m以上である、請求項1に記載の水処理用不織布シート。
【請求項3】
前記水処理用不織布シートの横方向における引張強度S
Yと縦方向における引張強度S
Tとの比S
Y/S
Tが0.25以上である、請求項1または2に記載の水処理用不織布シート。
【請求項4】
前記水処理用不織布シートの坪量が40.0~150.0g/m
2である、請求項1~3のいずれかに記載の水処理用不織布シート。
【請求項5】
前記繊維原料が、芯部及び鞘部がポリオレフィン系樹脂からなる芯鞘型複合繊維を含む、請求項1~4のいずれかに記載の水処理用不織布シート。
【請求項6】
水処理用不織布シートの製造方法であって、
ポリオレフィン系繊維のみからなる繊維原料であって、フィブリル化ポリエチレン繊維を5~50質量%
と、フィブリル化されていないバインダー繊維を50~95質量%とを含有する繊維原料を含む抄紙原料を湿式抄紙する工程と、
湿式抄紙したシートをカレンダーロールを用いてカレンダー処理し、通気度が0.20~100.0cm
3/cm
2・secである水処理用不織布シートを得る工程とを含む、水処理用不織布シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理膜またはその支持体として使用される水処理用不織布シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
また、近年、排水を浄化する手法として、活性汚泥法と膜濾過とを組み合わせた膜分離活性汚泥法(MBR法)と呼ばれる技術が知られている。膜分離活性汚泥法では、排水を活性汚泥で処理した後、処理水と活性汚泥とを平膜等の分離膜を用いて分離する。
【0003】
産業排水にはアルカリ性物質が含まれている場合がある。ポリエステル系繊維で形成した分離膜はアルカリに弱いため、産業排水の処理用途では、ポリオレフィン系繊維で形成した分離膜が種々検討されている。例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系主体繊維とポリオレフィン系バインダー繊維とを含む繊維シートを熱処理してなる半透膜支持体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の半透膜支持体は、ポリオレフィン系主体繊維及びポリオレフィン系バインダー繊維からなる繊維原料の比重が水より小さいため、抄紙原料中における繊維原料の分散が不均一になりやすいという問題があった。さらに、ポリオレフィン系主体繊維及びポリオレフィン系バインダー繊維からなる繊維原料は、疎水性が高く、濾水の進行が極めて速いため、シート化が難しいという問題もあった。また、ポリオレフィン系バインダー繊維の融点のピークがシャープであるため、乾燥工程で加熱温度が変動するとバインダー繊維が溶けてドライヤーに貼り付く場合があった。すなわち、ポリオレフィン系主体繊維及びポリオレフィン系バインダー繊維を繊維原料とした湿式の不織布は、アルカリ性物質等への耐薬品性を維持して安定的に生産することが困難であった。
【0006】
それ故に、本発明は、アルカリ性物質等への耐薬品性及び生産の安定性に優れる水処理用不織布シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る水処理用不織布シートは、湿式不織布からなり、湿式不織布の繊維原料がポリオレフィン系繊維のみからなり、ポリオレフィン系繊維の5~50質量%がフィブリル化ポリエチレン繊維であり、ポリオレフィン系繊維の50~95質量%がフィブリル化されていないバインダー繊維であり、通気度が0.20~100.0cm3/cm2・secである。
【0008】
本発明に係る水処理用不織布シートの製造方法は、ポリオレフィン系繊維のみからなる繊維原料であって、フィブリル化ポリエチレン繊維を5~50質量%と、フィブリル化されていないバインダー繊維を50~95質量%とを含有する繊維原料を含む抄紙原料を湿式抄紙する工程と、湿式抄紙したシートをカレンダーロールを用いてカレンダー処理し、シート通気度が0.20~100.0cm3/cm2・secである水処理用不織布シートを得る工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐薬品性及び生産の安定性に優れる水処理用不織布シート及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態に係る水処理用不織布シート(以下、単に「不織布シート」という場合がある)は、繊維原料としてポリオレフィン系繊維のみで抄紙した湿式不織布からなり、繊維原料であるポリオレフィン系繊維の一部にフィブリル化ポリエチレン繊維を用いたことを特徴とするものである。
【0011】
不織布シートは、主原料に合成繊維を用いて、製紙過程と同様に水に分散させた原料を抄紙機により抄紙することにより製造された不織布である。本実施形態に係る湿式不織布は、フィブリル化ポリエチレン繊維と、フィブリル化されていないポリオレフィン系繊維とを繊維原料として抄紙したものである。
【0012】
フィブリル化ポリエチレン繊維の配合割合は、繊維原料の全量の5~50質量%とする。フィブリル化ポリエチレン繊維の配合割合が繊維原料の全量の5質量%を下回ると、繊維原料の比重が小さくなるために抄紙原料中における繊維原料の分散が不均一になったり、濾水性が高すぎるためにシート化が難しくなったり、乾燥工程で加熱温度が変動するとシートがドライヤーに貼り付いたりして、不織布シートの生産性が低下する。一方、フィブリル化ポリエチレン繊維の配合割合が繊維原料の全量の50質量%を超えると、得られる不織布シートの目が詰まりすぎ、水処理用のフィルターとしての要求性能を満たさなくなる。フィブリル化ポリエチレン繊維の配合割合は、不織布シートの生産性とフィルターとしての目の詰まり程度をバランス良く実現するため、繊維原料の全量の10~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。フィブリル化ポリエチレン繊維としては、高密度ポリエチレンからなるものを用いることが好ましい。フィブリル化ポリエチレン繊維としては、三井化学(株)製のSWP E620等を好適に用いることができる(「SWP」は登録商標)。
【0013】
フィブリル化されていないポリオレフィン系繊維としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂の単一材料からなる繊維や、芯部及び鞘部がポリオレフィン系樹脂からなる芯鞘型複合繊維等を使用することができる。芯鞘型複合繊維とは、繊維の構造が芯鞘構造を有する繊維をいう。本実施形態においては、芯部がポリプロピレンで、鞘部が高密度ポリエチレンである芯鞘型複合繊維や、芯部がポリプロピレンで、鞘部が低密度ポリエチレンである芯鞘型複合繊維や、芯部及び鞘部がポリプロピレンである芯鞘型複合繊維や、芯鞘構造を有しないポリプロピレンのバインダー繊維を単独で、または、2種類以上組み合わせて使用することができる。ポリオレフィン系繊維の平均繊維径は、0.3~3.0dtexであることが好ましく、ポリオレフィン系繊維の平均繊維長は、3.0~12.0mmであることが好ましい。
【0014】
尚、不織布シートの抄紙原料には、上記の繊維原料の他に、例えば、顔料、界面活性剤、ワックス、サイズ剤、填料、防錆剤、導電剤、消泡剤、分散剤、粘性調整剤、凝集剤、凝結剤、紙力向上成分、歩留まり向上剤、紙粉脱落防止剤、嵩高剤、増粘剤等の内添剤を適宜内添させることができる。
【0015】
本実施形態に係る不織布シートは、上記の繊維原料と必要に応じて添加される各種添加剤を含む繊維原料を湿式抄紙する工程と、湿式抄紙したシートをカレンダーロールを用いてカレンダー処理し、通気度が0.20~100.0cm3/cm2・secである水処理用不織布シートを得る工程(カレンダー工程)とを含む。
【0016】
不織布シートのカレンダー工程は、例えば、ハードニップカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダー等のカレンダー設備を用いて行うことができる。金属ロールと弾性ロールを組み合わせたカレンダー設備で乾燥工程を行っても良い。金属ロールとは、鋳鋼製であり、加熱されるカレンダーロールのことである。弾性ロールとは、コットン、エポキシ樹脂、特殊ポリエステル、アラミド等の材質からなり、非加熱側のカレンダーロールのことである。弾性ロールのショア硬さは、D80以上D95以下が好ましい。D80未満であると、加圧時のニップ幅が広く圧力が分散するため、繊維同士の接着性が不十分となる可能性がある。D95超えると、弾性ロールそのものが熱を保持しやすく、不織布シートが剥離し難くなり外観不良になる可能性がある。
【0017】
カレンダー工程の線圧は、50kg/cm以上350kg/cm以下であることが好ましい。不織布シートの厚さの均一性を向上させる観点から、カレンダー工程の線圧は120kg/cm以上180kg/cm以下がより好ましい。カレンダー工程の線圧が50kg/cm未満であると繊維同士の接着が不十分となる可能性がある。また、350kg/cmを超えると不織布シートの繊維間の接合が破壊され、引裂強度の低下が大きくなり、更に外観不良となる可能性がある。
【0018】
カレンダー工程の金属ロールの表面温度(加熱温度)は、90℃以上180℃以下であることが好ましい。不織布シートの引裂強度の低下を抑える観点から、カレンダー工程の金属ロールの表面温度は、100℃以上140℃以下であることがより好ましい。金属ロールの表面温度が90℃未満であると繊維同士の接着が不十分となる可能性がある。また、180℃を超えると、不織布シートが溶融し、通気度が著しく低下する可能性がある。
【0019】
本実施形態に係る不織布シートの坪量(米坪)は、30.0~180.0g/m2であり、50.0~100.0g/m2であることが好ましい。尚、不織布シートの坪量は、「紙及び板紙-坪量の測定方法」JIS P8124(2011)に準拠して測定した数値である。坪量が、30.0g/m2未満の場合、不織布シートに求められる強度を得ることができない。一方、坪量が180.0g/m2を越える場合、不織布シートの目が詰まりすぎ、水処理用のフィルターとしての要求性能を満たさなくなる。
【0020】
本実施形態に係る不織布シートの横方向における引張強度SYは、0.8kN/m以上であり、2.0kN/m以上であることが好ましい。尚、不織布シートの引張強度は、「紙及び板紙-引張特性の試験方法」JIS P 8113(2006)に基づいて測定した数値である。不織布シートの横方向における引張強度SYを0.8kN/m以上とすることにより、不織布シートを水処理用濾過膜の支持体や分離膜としての使用時に、高い水圧が加えられても破断を抑制することができる。
【0021】
また、本実施形態に係る不織布シートの横方向における引張強度SYと縦方向における引張強度STの比SY/ST(「横縦比」ともいう)は、0.25以上であることが好ましく、0.50以上であることがより好ましい。SY/STの値が0.25以上であれば、水処理用濾過膜の支持体や分離膜としての使用時に十分な強度を発揮することができる。SY/STの値が高くなるほど、不織布シートの繊維間に空隙が生じやすく、通気度を高くすることができる。また、強度の均等性を保つことができ、高圧処理時にも破れ難くすることができる。
【0022】
また、不織布シートの通気度が0.20~100.0cm3/cm2・secある。好ましくは、0.50~30.0cm3/cm2・secである。不織布シートの通気度が0.20~100.0cm3/cm2・secであれば、膜分離活性汚泥法(MBR法)に用いるフィルターとして必要な透水性を有する。尚、不織布シートの通気度は、「織物及び編物の生地試験方法」JIS L 1096 A法で規定されるフラジール通気度に基づいて測定した数値である。
【0023】
以上説明したように、本実施形態に係る水処理用不織布シートは、繊維原料としてポリオレフィン系繊維のみを用いて製造されるため、酸やアルカリ等の薬剤に対する耐性に優れる。また、繊維原料の5~50質量%にフィブリル化ポリエチレン繊維を用いることにより、繊維原料の比重及び濾水性を適切な範囲に調整してシート化を容易とし、乾燥工程における加熱温度の変動に起因する金属ロールへの不織布シートの貼り付きを抑制することができるため、不織布シートの生産性を向上させることができる。したがって、本実施形態に係る水処理用不織布シートは、膜分離活性汚泥法等で薬品を含有する排水を処理するためのフィルターとして好適に利用できる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明に係る水処理用不織布シート及びその製造方法を具体的に実施した実施例を説明する。但し、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
主成分がポリエチレンのフィブリル化繊維を20質量%、芯部がポリプロピレンで鞘部が高密度ポリエチレンである芯鞘型複合繊維(繊度0.8dtex・繊維長5mm)を60質量%、芯部がポリプロピレンで鞘部が低密度ポリエチレンである芯鞘型複合繊維(繊度2.2dtex・繊維長10mm)を20質量%混合して、各種添加剤を添加して原料スラリーを得た。
【0026】
原料スラリーを円網に供給し、金属ロールと弾性ロール(ショア硬さD90)の組み合わせを用いた1組のカレンダー工程にてカレンダー処理し、米坪50.0g/m2の水処理用不織布シートを得た。カレンダー工程においては、金属ロールの温度を130℃、線圧を150kg/cmの条件とした。
【0027】
(実施例2~18、比較例1~4)
表1に示す原料繊維の組み合わせ、カレンダー加工条件で、実施例2~18及び比較例1~4の不織布シートを得た。表1の比較例3の「NBKP」は針葉樹晒クラフトパルプを示す。
【表1】
【0028】
表2に、得られた不織布シートの坪量、厚み、引張強度(縦・横・Y/T比)及び通気度の測定値、並びに、地合の評価を合わせて示す。
【表2】
【0029】
(地合の評価方法)
得られた不織布シートで遮光して透かし、目視にて以下のように評価した。
○:シートに、結束繊維、穴、ムラなどの欠点がほとんどなく、水処理用不織布シートとして、問題なく使用できる。
△:シートに、結束繊維、穴、ムラなどの欠点があるが、水処理用不織布シートとして、使用できるレベルである。
×:シートに、結束繊維、穴、ムラなどの欠点が目立ち、水処理用不織布シートとして、使用できない。
【0030】
地合の評価は、抄紙性と相関性があることが判明した。地合が良い(評価値が○、△)と抄紙性も良く、地合が悪い(評価値が×)と抄紙性が悪く連続生産できなかった。
【0031】
表2に示すように、実施例1~18に係る不織布シートは、表1に記載の割合で各材料を配合し、得られた不織布シートは、坪量、厚み、引張強度、Y/T比及び通気度のいずれも好ましい範囲内であり、地合の評価も使用可能なレベル以上であった。また、実施例1~18は、繊維原料としてポリオレフィン系繊維のみを用いているためアルカリ性物質等の耐薬品性に優れる。したがって、実施例1~18に係る不織布シートは、耐薬品性と抄紙性を兼ね備え、通水性に優れていた。
【0032】
これに対して、比較例1に係る不織布シートは、フィブリル化繊維が60質量%であるため、通気度が低く、目的の通水性が得られなかった。
【0033】
比較例2に係る不織布シートは、フィブリル化繊維を含まず、ポリオレフィン繊維のみからなるため、地合が実用レベルに達せず、抄紙性も悪かった。
【0034】
比較例3に係る不織布シートは、フィブリル化繊維を含まず、パルプ繊維を含むため、通気度が低く、目的の通水性が得られなかった。
【0035】
比較例4に係る不織布シートは、カレンダー加工が施されていないため、通気度が高く、透水性が高すぎるため、水処理におけるフィルターとしての用途に適さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る不織布シートは、排水処理に用いる水処理膜として利用できる。