(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】偏心揺動型歯車装置、偏心揺動型歯車装置の組立方法
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240410BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H55/17 A
(21)【出願番号】P 2020035195
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】志津 慶剛
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-105366(JP,A)
【文献】特開2019-183909(JP,A)
【文献】特開2012-057661(JP,A)
【文献】特開昭61-088072(JP,A)
【文献】特開2009-052743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心体軸と、を備えた偏心揺動型歯車装置であって、
前記偏心体軸に設けられ、入力歯車から回転が入力される偏心体軸歯車を有し、
前記偏心体軸歯車は、第1偏心体軸歯車と第2偏心体軸歯車とを有し、
前記入力歯車は、前記第1偏心体軸歯車と噛合う第1入力歯車と、前記第2偏心体軸歯車と噛合う第2入力歯車と、を有し、
前記第1偏心体軸歯車と前記第2偏心体軸歯車は、ヘリカル歯車により構成され、
前記第1入力歯車および前記第2入力歯車を有する入力軸を備え、
前記第1入力歯車および前記第2入力歯車は、ヘリカル歯車により構成され、
前記入力軸は、モータ軸を挿入する挿入口を有し、
前記第1入力歯車および前記第2入力歯車の少なくとも一方は、前記入力軸と一体に形成され、
前記一体に形成された前記第1
入力歯車および前記第2
入力歯車の少なくとも一方は、前記モータ軸を挿入する挿入口と径方向に重なることを特徴とする偏心揺動型歯車装置。
【請求項2】
前記第1入力歯車と前記第1偏心体軸歯車との噛合いにより発生するスラスト力と、前記第2入力歯車と前記第2偏心体軸歯車との噛合いにより発生するスラスト力とが反対方向に発生するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項3】
前記入力軸は当該偏心揺動型歯車装置内において支持されていることを特徴とする請求項2に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項4】
前記入力軸を支持する一対の入力軸軸受を有し、前記入力軸軸受のうち前記挿入口に近い方の軸受は、遠い方の軸受よりも内径が大きいことを特徴とする請求項3に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項5】
前記入力軸を支持する一対の入力軸軸受を有し、前記入力軸軸受のうち前記挿入口に近い方の軸受はニードル軸受により構成されることを特徴とする請求項4に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項6】
前記第1入力歯車および前記第2入力歯車の少なくとも一方は、前記入力軸と別体に構成されていることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項7】
前記第1偏心体軸歯車および前記第2偏心体軸歯車は、前記偏心体軸の一端側に隣接して設けられることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項8】
内歯歯車と、外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心体軸と、前記偏心体軸に設けられ第1入力歯車から回転が入力される第1偏心体軸歯車と、前記偏心体軸に設けられ第2入力歯車から回転が入力される第2偏心体軸歯車と、を備えた偏心揺動型歯車装置の組立方法であって、
前記第1偏心体軸歯車および前記第2偏心体軸歯車は、ヘリカル歯車により構成されるとともに前記偏心体軸の一端側に隣接して設けられ、
入力軸に設けられた第1入力歯車に噛み合い状態で前記第1偏心体軸歯車を前記偏心体軸に取り付ける工程と、
前記第2入力歯車と前記第2偏心体軸歯車が噛み合い状態となるように、前記第1偏心体軸歯車が取り付けられた前記偏心体軸に前記第2偏心体軸歯車を取り付け、前記第2入力歯車を前記入力軸に取り付ける工程と、
を含むことを特徴とする偏心揺動型歯車装置の組立方法。
【請求項9】
内歯歯車と、外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心体軸と、前記偏心体軸に設けられ第1入力歯車から回転が入力される第1偏心体軸歯車と、前記偏心体軸に設けられ第2入力歯車から回転が入力される第2偏心体軸歯車と、を備えた偏心揺動型歯車装置の組立方法であって、
前記第1偏心体軸歯車および前記第2偏心体軸歯車は、ヘリカル歯車により構成されるとともに前記偏心体軸の両端に離れて設けられ、
入力軸に設けられた第1入力歯車に噛み合い状態で前記第1偏心体軸歯車を前記偏心体軸に取り付ける工程と、
前記第2入力歯車と前記第2偏心体軸歯車が噛み合い状態となるように、前記偏心体軸に前記第2偏心体軸歯車を取り付け、前記第2入力歯車を前記入力軸に取り付ける工程と、
を含むことを特徴とする偏心揺動型歯車装置の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型歯車装置および偏心揺動型歯車装置の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの回転を減速する歯車装置が知られている。例えば、特許文献1には、中央の歯車が別の歯車に包囲される構成を採る揺動内接式遊星歯車装置が記載されている。この歯車装置は、中心に配置されたインプットギアと、中心からオフセットした位置に配置され、インプットギアと噛み合う3つのスパーギアを備える。インプットギアおよび3つのスパーギアそれぞれは、位相が異なる2枚の歯車から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、駆動力の伝達損失を抑えるために噛合い率を向上させうる2段式の歯車ユニットを開示しているが、この歯車ユニットでは、騒音低減効果は十分でなかった。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、騒音を低減可能な偏心揺動型歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型歯車装置は、内歯歯車と、外歯歯車と、外歯歯車を揺動させる偏心体軸と、を備えた偏心揺動型歯車装置であって、偏心体軸に設けられ、入力歯車から回転が入力される偏心体軸歯車を有し、偏心体軸歯車は、第1偏心体軸歯車と第2偏心体軸歯車とを有し、第1偏心体軸歯車と第2偏心体軸歯車は、ヘリカル歯車により構成される。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、騒音を低減可能な偏心揺動型歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る偏心揺動型歯車装置を概略的に示す側面断面図である。
【
図2】
図1の偏心揺動型歯車装置を概略的に示す分解図である。
【
図3】
図1の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第1工程図である。
【
図4】
図1の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第2工程図である。
【
図5】
図1の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第3工程図である。
【
図6】
図1の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第4工程図である。
【
図7】
図1の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第5工程図である。
【
図8】第2実施形態に係る偏心揺動型歯車装置を概略的に示す側面断面図である。
【
図9】
図8の偏心揺動型歯車装置を概略的に示す分解図である。
【
図10】
図8の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第1工程図である。
【
図11】
図8の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第2工程図である。
【
図12】
図8の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第3工程図である。
【
図13】
図8の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第4工程図である。
【
図14】
図9の偏心揺動型歯車装置の組立順序を示す第5工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、騒音低減の観点から偏心揺動型歯車装置を研究し以下の知見を得た。歯車装置の騒音には、入力歯車と、この入力歯車から回転が入力される偏心体軸歯車との噛み合いにより発生するものが含まれる。騒音を低減するために、入力歯車と偏心体軸歯車とにヘリカル歯車を採用して噛合い率(総歯数に占める、同時にかみ合う歯数の比率)を高めることが考えられる。しかし、ヘリカル歯車を採用すると、偏心体軸歯車にスラスト力(アキシャル荷重)が発生し、この荷重により軸受負荷が増大し、寿命が短くなることが判明した。
【0011】
これらを踏まえ、本発明者は、スラスト力を低減するために、複数のヘリカル歯車を組み合わせて偏心体軸歯車に用いる構成を案出した。この構成によれば騒音を低減可能な歯車装置を提供できる。以下、これらの知見に基づく本開示を、実施形態をもとに説明する。
【0012】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0014】
[第1実施形態]
図1を参照して、本開示の第1実施形態に係る偏心揺動型歯車装置100の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る偏心揺動型歯車装置100を概略的に示す側面断面図である。本実施形態の歯車装置100は、クランク軸(偏心体軸)が内歯歯車の軸心からオフセットした位置に配置されるいわゆる振り分け型の偏心揺動型の歯車機構である。
【0015】
偏心揺動型歯車装置100は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材から被駆動装置に出力するように構成される。
【0016】
偏心揺動型歯車装置100は、主に、偏心体軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26と、入力軸40と、入力歯車42、44と、入力軸軸受46、48と、偏心体軸歯車52、54とを主に備える。以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0017】
キャリヤ18、20は、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14の入力側の側部に配置される第2キャリヤ20とを含む。主軸受24、26は、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される第1主軸受24と、外歯歯車14の入力側の側部に配置される第2主軸受26とを含む。この例では、主軸受24、26はころ軸受である。ケーシング22は、中空の筒状をなし、第1主軸受24の外輪を収容する凹部22mと、第2主軸受26の外輪を収容する凹部22nと、を有する。キャリヤ18、20は、第1主軸受24、第2主軸受26を介してケーシング22に回転自在に支持されている。キャリヤ18、20は全体として中空の円盤状または円筒状をなしている。キャリヤ18、20は、偏心体軸軸受34を介して偏心体軸12を回転自在に支持する。
【0018】
キャリヤ18、20は、その径方向中心に形成された中央孔18j、20jを有する。中央孔18j、20jは、全体として円形をなし、軸方向に貫通する。キャリヤ18、20は、偏心体軸軸受34を収容するために、偏心体軸孔18h、20hを有する。偏心体軸孔18h、20hは、全体として円形をなし、軸方向に貫通する。キャリヤ18は、径方向中心からオフセットした位置に配設される3つの偏心体軸孔18hを有する。3つの偏心体軸孔18hは、周方向に120°の等間隔に配置される。キャリヤ20は、径方向中心からオフセットした位置に配設される3つの偏心体軸孔20hを有する。3つの偏心体軸孔20hは、周方向に120°の等間隔に配置される。
【0019】
(偏心体軸)
偏心体軸12は、内歯歯車16の中心軸線Laからオフセットした位置に3つ配設される。3つの偏心体軸12は、周方向に120°の等間隔に配置される。
図1では一つの偏心体軸12のみを示す。偏心体軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心部12aを有する。偏心部12aの軸芯は、偏心体軸12の回転中心線に対して偏心している。本実施形態では2個の偏心部12aが設けられ、隣り合う偏心部12aの偏心位相は180°ずれている。偏心体軸12は、偏心体軸歯車52、54の中央部に挿通され、偏心体軸歯車52、54を支持する。
【0020】
偏心体軸12は、一対の偏心体軸軸受34を介して第1キャリヤ18および第2キャリヤ20に支持される。反入力側の偏心体軸軸受34は、外歯歯車14の反入力側の側部において、偏心体軸12と、第1キャリヤ18の偏心体軸孔18hとの間に設けられる。入力側の偏心体軸軸受34は、外歯歯車14の入力側の側部において、偏心体軸12と、第2キャリヤ20の偏心体軸孔20hとの間に設けられる。この例の偏心体軸軸受34は、円すいころ軸受けである。
【0021】
(偏心体軸歯車)
本実施形態では、偏心体軸歯車52、54は、軸方向で、各偏心体軸12の一端側に隣接して設けられる。偏心体軸歯車52、54は、各偏心体軸12に例えばスプライン連結され、回転方向に一体化される。
図1では一つの偏心体軸歯車52、54のみを示す。偏心体軸歯車52、54は、入力側の偏心体軸軸受34の入力側に配置される第1偏心体軸歯車52と、第1偏心体軸歯車52の入力側に隣接する第2偏心体軸歯車54とを含む。偏心体軸歯車52、54は、中心軸線La上に設けられる入力軸40に設けられた入力歯車42、44と噛み合う。
【0022】
騒音低減のため、偏心体軸歯車52、54はヘリカル歯車で構成される。この場合、平歯車の場合と比べて、噛合い率が高まり、歯当たりが分散されるので音が静かで、トルクの変動が少ない。噛合い率を高めるために偏心体軸歯車52、54の歯の傾斜角を大きくすると、軸受に与えるスラスト力が増加し、寿命が短くなる。そこで、本実施形態は、第1入力歯車42と第1偏心体軸歯車52との噛合いにより発生するスラスト力と、第2入力歯車44と第2偏心体軸歯車54との噛合いにより発生するスラスト力とが反対方向に発生するように構成されている。この場合、スラスト力を大幅に低減できる。具体的には、偏心体軸歯車52、54は、同じ傾斜でねじれ方向が逆向きのヘリカル歯車で構成される。
【0023】
入力歯車42、44は、中心軸線La上に設けられる入力軸40に設けられ、偏心体軸歯車52、54と噛み合うヘリカル歯車で構成される。具体的には、入力歯車42、44は、同じ傾斜でねじれ方向が逆向きのヘリカル歯車で構成される。入力歯車42、44は、第1偏心体軸歯車52と噛み合う第1入力歯車42と、第2偏心体軸歯車54と噛み合う第2入力歯車44とを含む。第2入力歯車44は、第1入力歯車42の入力側に隣接して配置されている。
【0024】
第1入力歯車42および第2入力歯車44は、入力軸40と一体的に構成されてもよいし、入力軸40と別体に構成されてもよい。
図1の例では、第1入力歯車42は、入力軸40と一体的に構成されており、第2入力歯車44は、入力軸40と別体に構成されている。これらを別体にすることにより、加工や組立が容易になる。
【0025】
第1入力歯車42および第2入力歯車44を有する入力軸40を備える。入力軸40は、歯車装置100内において支持されている。この場合、入力軸40を歯車装置100に組み込んだ状態で顧客に納入できるため、顧客の被駆動装置への組み込み作業が簡素化される。
図1の例では、入力軸40は、後述するキャリヤ18の中央孔18j、外歯歯車14の中央孔14hおよびキャリヤ20の中央孔20jを貫通して、軸方向に延びている。入力軸40は、一対の入力軸軸受46、48を介してキャリヤ18、20に回転可能に支持される。
【0026】
入力軸40には、駆動装置(不図示)から回転動力が伝達され、入力歯車42、44の回転により偏心体軸歯車52、54が偏心体軸12と一体的に回転する。駆動装置は、たとえば、モータである。
図1の例では、入力軸40は、入力側の端部から軸方向に形成され挿入口40dを有する。挿入口40dにはモータ軸30が挿入される。挿入口40dには、モータ軸30入力軸40を連結するための連結溝40sが形成される。連結溝40sは、概ね挿入口40dの軸方向にわたって設けられる。連結溝は、ギアシェーパによって形成されてもよい。この例では、連結溝は、複数の溝を含むスプライン溝である。挿入口40dにモータ軸30を連結する構成により、例えばモータ軸30を入力軸受48と径方向から見て重なる位置まで挿入できるので、モータから減速機までの軸方向長を短縮できる。また、挿入口40dの連結をストレートなスプライン溝とすることにより、モータ軸30の連結時に打痕や傷が生じることを抑制できる。なお、入力軸40に挿入口40dを設けることなく、例えばカップリングによりモータ軸30と連結したり、歯車やプーリを介してモータ軸30の回転を入力してもよい。
【0027】
一対の入力軸軸受46、48は、互いに軸方向に離れて配置される第1入力軸軸受46と、第2入力軸軸受48とを含む。第1入力軸軸受46は、入力軸40の反入力側の端部近傍と、キャリヤ18の中央孔18jとの間に配置される。第2入力軸軸受48は、入力軸40の挿入口40dの近傍と、キャリヤ20の中央孔20jとの間に配置される。
【0028】
一対の入力軸軸受46、48のうち、反入力側の端部に近い方の近傍の第1入力軸軸受46は、玉軸受けにより構成される。一対の入力軸軸受46、48のうち、挿入口40dに近い方の第2入力軸軸受48はニードル軸受により構成され、第1入力軸軸受46よりも内径が大きく、径方向厚みが小さい。入力軸40の第2入力軸軸受48に環囲される領域と、入力軸40の挿入口40dが形成される領域とが径方向に視て重なっている(この重なっている部分を「重複部分」という)。第2入力軸軸受48として径方向に薄いニードル軸受を採用することにより、入力軸40の重複部分の肉厚を確保できる。
【0029】
(内歯歯車)
内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う。内歯歯車16は、ケーシング22の内周部に設けられる。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22に一体化された内歯歯車本体16aと、外ピン17とを有している。外ピン17は、内歯歯車本体16aに周方向に間隔を空けて複数形成された各ピン溝に配置されている。外ピン17は、内歯歯車本体16aに回転自在に支持される円筒状のピン部材である。外ピン17は、中空部材であってもよいが、本実施形態では中実部材である。外ピン17は、内歯歯車16の内歯を構成している。内歯歯車16の外ピン17の数(内歯の数)は、外歯歯車14の外歯数よりもわずかだけ(この例では1だけ)多い。
【0030】
(外歯歯車)
外歯歯車14は、複数の偏心部12aのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車14は、偏心ころ32を介して対応する偏心部12aに回転自在に支持される。外歯歯車14には、その軸心からオフセットされた位置に3つのシャフト孔14pと、3つの揺動孔14jと、が所定の間隔で形成されている。
【0031】
シャフト孔14pは、互いに同じ半径方向位置において、120°間隔で設けられる。シャフト孔14pは、軸方向に貫通しており、シャフト部18sが挿通される。シャフト孔14pは、シャフト部18sの外径より大きく形成され、シャフト部18sに接触しない大きさを有する。
【0032】
揺動孔14jは、互いに同じ半径方向位置において、120°間隔で設けられる。揺動孔14jは、軸方向に貫通しており、偏心体軸12の偏心部12aが挿通される。揺動孔14jは、偏心部12aの外径より大きく形成され、揺動孔14jと偏心部12aとの間には複数の偏心ころ32が介在する。複数の偏心ころ32は、偏心部12aの周りに略等間隔で配列され、偏心部12aの偏心運動を揺動孔14jに円滑に伝える。
【0033】
外歯歯車14には、入力軸40が貫通する中央孔14hが設けられる。中央孔14hは、外歯歯車14の径方向中央に設けられる孔で、入力軸40の最外径より大きく形成され、入力軸40と接触しない大きさを有する。中央孔14hの形状に限定はないが、この例の中央孔14hは円形である。
【0034】
外歯歯車14の外周には波形の歯が形成されており、この歯が内歯歯車16と接触しつつ移動することで、中心軸を法線とする面内で外歯歯車14が揺動できるようになっている。
【0035】
第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とは、シャフト部18sを介して連結される。シャフト部18sは、外歯歯車14の軸芯から径方向にオフセットした位置に設けられる。
図1のシャフト部18sは、第1キャリヤ18から第2キャリヤ20に向かって軸方向に延びる部分であり、第1キャリヤ18と一体的に形成される。シャフト部18sは、外歯歯車14に貫通形成されたシャフト孔14pに隙間を有した状態で挿通される。
【0036】
シャフト部18sは、その先端部が第2キャリヤ20の反入力側の端面に接しており、第2キャリヤ20に固定される。シャフト部18sは、第2キャリヤ20に固定される際、位置決めピン18qにより位置決めされ、ボルト18pによって固定される。シャフト部18sは、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20の間の連結に寄与する連結部として機能する。
【0037】
第1キャリヤ18とケーシング22の間には、オイルシール22sが設けられる。オイルシール22sは、第1主軸受24の反入力側に配置される。
【0038】
第1キャリヤ18とケーシング22の一方は、被駆動装置に回転動力を出力する出力部材として機能し、他方は偏心揺動型歯車装置100を支持するための外部部材に固定される被固定部材として機能する。本実施形態では、出力部材は第1キャリヤ18であり、被固定部材はケーシング22である。ケーシング22を出力部材とし、第1キャリヤ18を被固定部材としてもよい。
【0039】
以上のように構成された偏心揺動型歯車装置100の動作を説明する。モータ軸30から入力軸40に回転動力が伝達されると、入力軸40の入力歯車42、44を介して偏心体軸歯車52、54に回転動力が振り分けられ、3つの偏心体軸歯車52、54が同じ位相で回転する。3つの偏心体軸歯車52、54が回転すると、偏心体軸12の偏心部12aが偏心体軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の外ピン17の噛合位置が順次ずれる。この結果、偏心体軸12が一回転する毎に、外歯歯車14の歯数と内歯歯車16の外ピン17の数との差に相当する分、外歯歯車14および内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態では、外歯歯車14が自転し、第1キャリヤ18から減速回転が出力される。
【0040】
図2~
図7を参照して、本実施形態の偏心揺動型歯車装置100を組み立てる方法を説明する。
図2は、歯車装置100を概略的に示す分解図である。
図3~
図7は、歯車装置100の組立順序を示す第1~第5工程図である。一例として、歯車装置100は、
図3~
図7に示す順序により組み立てることができる。ここでは、説明に重要でない工程は省略する。
【0041】
(1)
図3に示すように、入力軸40、入力歯車42、44、第2入力軸軸受48および偏心体軸歯車52、54が装着されていない状態の歯車装置100(以下、「中間アッセンブリ」という)を組み立てる。
【0042】
(2)
図4に示すように、第1入力歯車42を入力軸40に取り付け(本実施形態のように第1入力歯車42が入力軸40に一体形成されている場合は取り付け工程は不要)、入力軸40に第2入力軸軸受48を装着して入力軸アッセンブリを構成し、構成された入力軸アッセンブリを、中間アッセンブリに入力側から挿入し、中間アッセンブリに装着されている第1入力軸軸受46に入力軸40の先端を支持させる。
【0043】
(3)
図5に示すように、入力軸40に取り付けられた第1入力歯車42に噛み合い状態で第1偏心体軸歯車52を偏心体軸12の入力側の端部に取り付ける。この工程では、リング状のスペーサ52sと、第1偏心体軸歯車52とがこの順で入力側から偏心体軸12に装着される。第1偏心体軸歯車52の内周に形成された連結溝52nを偏心体軸12の外周に形成された連結溝12nに連結することにより、第1偏心体軸歯車52は偏心体軸12に連結される。このとき、第1偏心体軸歯車52と第1入力歯車42とは噛み合った状態で連結が行われる。連結溝12nおよび連結溝52nは、例えばスプライン溝である。
【0044】
(4)
図6に示すように、第1偏心体軸歯車52が取り付けられた偏心体軸12に第2偏心体軸歯車54を取り付ける。この工程では、第2偏心体軸歯車54と、抜け止めワッシャ(あるいは止め輪)54wとがこの順で入力側から偏心体軸12に装着される。第2偏心体軸歯車54の内周に形成された連結溝54nを偏心体軸12の外周に形成された連結溝12nに連結することにより、第2偏心体軸歯車54は偏心体軸12に連結される。連結溝54nは、例えばスプライン溝である。抜け止めワッシャ54wは偏心体軸12の外周に形成された周溝12pに装着される。
【0045】
(5)
図7に示すように、偏心体軸12に取り付けられた第2偏心体軸歯車54に噛み合い状態で第2入力歯車44を入力軸40に取り付ける。この工程では、第2入力歯車44と、抜け止めワッシャ(あるいは止め輪)44wとがこの順で入力側から入力軸40に装着される。第2入力歯車44の内周に形成された連結溝44pを入力軸40の外周に形成された連結溝40pに連結することにより、第2入力歯車44は入力軸40に連結される。このとき、第2偏心体軸歯車54と第2入力歯車44とは噛み合った状態で連結が行われる。抜け止めワッシャ44wは入力軸40の外周に形成された周溝40qに装着される。
【0046】
上述の組立方法はあくまでも一例であって、他の工程を追加したり、工程の一部を変更したり、工程の一部を削除したり、工程の順序を入れ替えてもよい。例えば、(5)の工程が(4)の工程の前に実行されてもよい。
【0047】
この工程によれば、第1偏心体軸歯車52、第2偏心体軸歯車54、第2入力歯車44、スペーサ52sおよびワッシャ44w、54wを同一の方向から装着できるので、組み立て途中の歯車装置を反転させる回数が減り、作業性が向上する。
【0048】
本実施形態に係る偏心揺動型歯車装置100によれば、第1偏心体軸歯車52と第2偏心体軸歯車54とがヘリカル歯車により構成されるので、噛合い率が向上して騒音が低減される。また、第1偏心体軸歯車52と第1入力歯車42の噛合いにより発生するスラスト力と、第2偏心体軸歯車54と第2入力歯車44の噛合いにより発生するスラスト力とが反対方向となるように構成され、これらのスラスト力が相殺されて低減されるので、スラスト力による影響が低減され、耐久性が向上する。以上が第1実施形態の説明である。
【0049】
[第2実施形態]
図8を参照して、本開示の第2実施形態に係る偏心揺動型歯車装置100の構成を説明する。
図8は、本実施形態に係る偏心揺動型歯車装置100を概略的に示す側面断面図である。本実施形態の歯車装置100は、第2入力歯車44および第2偏心体軸歯車54が、軸方向で外歯歯車14の反入力側に設けられている点で第1実施形態と相違し他の構成は同様である。重複する説明を省き、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0050】
第2入力歯車44は、
図8に示すように、入力軸40の反入力側の端部に連結されている。つまり、入力軸40の一端側に第1入力歯車42が設けられ、入力軸40の他端側に第2入力歯車44が設けられる。第2偏心体軸歯車54は、
図8に示すように、偏心体軸12の反入力側の端部に連結されている。つまり、偏心体軸12の一端側に第1偏心体軸歯車52が設けられ、偏心体軸12の他端側に第2偏心体軸歯車54が設けられる。第1実施形態と同様に、入力歯車42、44は、同じ傾斜でねじれ方向が逆向きのヘリカル歯車で構成され、偏心体軸歯車52、54は、同じ傾斜でねじれ方向が逆向きのヘリカル歯車で構成される。
【0051】
図9~
図14を参照して、本実施形態の偏心揺動型歯車装置100を組み立てる方法を説明する。
図9は、歯車装置100を概略的に示す分解図である。
図10~
図14は、歯車装置100の組立順序を示す第1~第5工程図である。一例として、歯車装置100は、
図10~
図14に示す順序により組み立てることができる。ここでは、説明に重要でない工程は省略する。
【0052】
(1)
図10に示すように、入力軸40、入力歯車42、44、第2入力軸軸受48および偏心体軸歯車52、54が装着されていない状態の歯車装置100(以下、「中間アッセンブリ」という)を組み立てる。
【0053】
(2)
図11に示すように、第1入力歯車42を入力軸40に取り付け(本実施形態のように第1入力歯車42が入力軸40に一体形成されている場合は取り付け工程は不要)、入力軸40に第2入力軸軸受48を装着して入力軸アッセンブリを構成し、構成された入力軸アッセンブリを、中間アッセンブリに入力側から挿入し、中間アッセンブリに装着されている第1入力軸軸受46に入力軸40の先端を支持させる。
【0054】
(3)
図12に示すように、入力軸40に取り付けられた第1入力歯車42に噛み合い状態で第1偏心体軸歯車52を偏心体軸12の入力側の端部に取り付ける。この工程では、リング状のスペーサ52sと、第1偏心体軸歯車52と、抜け止めワッシャ(あるいは止め輪)52wとがこの順で入力側から偏心体軸12に装着される。第1偏心体軸歯車52の内周に形成された連結溝52nを偏心体軸12の外周に形成された連結溝12nに連結することにより、第1偏心体軸歯車52は偏心体軸12に連結される。このとき、第1偏心体軸歯車52と第1入力歯車42とは噛み合った状態で連結が行われる。連結溝12nおよび連結溝52nは、例えばスプライン溝である。抜け止めワッシャ52wは偏心体軸12の外周に形成された周溝12mに装着される。
【0055】
(4)
図13に示すように、第1偏心体軸歯車52が取り付けられた偏心体軸12の反入力側の端部に第2偏心体軸歯車54を取り付ける。この工程では、リング状のスペーサ54sと、第2偏心体軸歯車54と、抜け止めワッシャ(あるいは止め輪)54wとがこの順で反入力側から偏心体軸12に装着される。第2偏心体軸歯車54の内周に形成された連結溝54nを偏心体軸12の外周に形成された連結溝12sに連結することにより、第2偏心体軸歯車54は偏心体軸12に連結される。連結溝12sおよび連結溝54nは、例えばスプライン溝である。抜け止めワッシャ54wは偏心体軸12の外周に形成された周溝12pに装着される。
【0056】
(5)
図14に示すように、偏心体軸12に取り付けられた第2偏心体軸歯車54に噛み合い状態で第2入力歯車44を入力軸40に取り付ける。この工程では、第2入力歯車44と、抜け止めワッシャ(あるいは止め輪)44wとがこの順で反入力側から入力軸40に装着される。第2入力歯車44の内周に形成された連結溝44pを入力軸40の外周に形成された連結溝40pに連結することにより、第2入力歯車44は入力軸40に連結される。このとき、第2偏心体軸歯車54と第2入力歯車44とは噛み合った状態で連結が行われる。抜け止めワッシャ44wは入力軸40の外周に形成された周溝40qに装着される。
【0057】
上述の組立方法はあくまでも一例であって、他の工程を追加したり、工程の一部を変更したり、工程の一部を削除したり、工程の順序を入れ替えてもよい。例えば、(5)の工程が(4)の工程の前に実行されてもよい。例えば、(4)および(5)の工程が(3)の工程の前に実行されてもよい。つまり、(3)、(4)および(5)の工程は、(1)および(2)の工程の後であれば、任意の順序で実行されてもよい。
【0058】
第2実施形態は、第1実施形態と同様に動作し、同様の作用と効果を奏する。
【0059】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0060】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0061】
[変形例]
実施形態の説明では、第1偏心体軸歯車52と第2偏心体軸歯車54の一方に発生するスラスト力が他方に発生するスラスト力によって略打ち消される例を示したが、本発明はこれに限定されない。歯車装置は、一方に発生するスラスト力の一部が他方に発生するスラスト力によって打ち消される構成であってもよい。
【0062】
実施形態の説明では、歯車装置100がいわゆる振り分け型の歯車機構である例を示したが、歯車装置100の歯車機構はこれに限定されない。例えば、本開示の偏心揺動型歯車装置は、偏心体軸(クランク軸)が内歯歯車の回転中心軸線上に配置されるセンタークランク型の歯車機構にも適用できる。
【0063】
第1実施形態の説明では、偏心体軸歯車52、54が、同じ傾斜でねじれ方向が逆向きの2つのヘリカル歯車で構成される例を示したが、本発明はこれに限定されない。偏心体軸歯車52、54は、一体に形成されていてもよい。例えば、偏心体軸歯車52、54は、一体のやまば歯車で構成されてもよい。
【0064】
第1実施形態の説明では、入力歯車42、44が、同じ傾斜でねじれ方向が逆向きの2つのヘリカル歯車で構成される例を示したが、本発明はこれに限定されない。入力歯車42、44は、一体のやまば歯車で構成されてもよい。
【0065】
実施形態の説明では、偏心体軸歯車の数が2である例を示したが、本発明はこれに限定されない。偏心体軸歯車の数は3以上であってもよい。例えば、歯車装置は、偏心体軸の一端側に互いに隣接して設けられる複数の偏心体軸歯車と、偏心体軸の他端側に設けられる偏心体軸歯車とを有してもよい。
【0066】
実施形態の説明では、偏心体軸12および入力歯車の数が3である例を示したが、偏心体軸12および入力歯車の数は1、2または4以上であってもよい。
【0067】
実施形態の説明では、外歯歯車14の数が2である例を示したが、外歯歯車14の数は1または3以上であってもよい。
【0068】
歯車装置の各軸受の構成に限定はなく。各軸受は、実施形態とは別構成の軸受であってもよい。
【0069】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0070】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0071】
12 偏心体軸、 14 外歯歯車、 16 内歯歯車、 30 モータ軸、 40 入力軸、 40d、40h 挿入口、 42 入力歯車、 42 第1入力歯車、 44 第2入力歯車、 52 第1偏心体軸歯車、 54 第2偏心体軸歯車、 100 偏心揺動型歯車装置。