(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】燃料電池およびその絶縁構造
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2484 20160101AFI20240410BHJP
H01M 8/0267 20160101ALI20240410BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240410BHJP
【FI】
H01M8/2484
H01M8/0267
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020167115
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕磨
(72)【発明者】
【氏名】菊池 勇
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087424(JP,A)
【文献】特開2005-158629(JP,A)
【文献】特開2002-164075(JP,A)
【文献】特開2005-149919(JP,A)
【文献】中国実用新案第208580806(CN,U)
【文献】特開平06-068897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/2484
H01M 8/0267
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単セル電池が積層された燃料電池積層体と、
前記単セル電池の積層方向に直交する方向の前記燃料電池積層体の側面に配置されたマニホールドであって、前記マニホールドに設けられた供給口を通して前記マニホールドの内部に供給された水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水を前記燃料電池積層体に供給し、または、前記燃料電池積層体から排出された前記水素含有ガス、前記酸素含有ガスまたは前記冷却水を前記マニホールドに設けられた排出口を通して前記マニホールドの外部に排出するマニホールドと、を備え、
前記燃料電池積層体から前記供給口または前記排出口までの最短流路距離は、絶縁距離以上であ
り、
前記マニホールドは、絶縁材料で構成され、
前記マニホールドは、前記最短流路距離を前記絶縁距離以上にするための流路誘導板を備え、
前記流路誘導板は、前記燃料電池積層体の側面に沿って前記燃料電池積層体側の一端から前記供給口または前記排出口側の他端まで延び、
前記最短流路距離は、前記流路誘導板を経由した前記燃料電池積層体から前記供給口または前記排出口までの流路の距離である、燃料電池。
【請求項2】
前記マニホールドは、前記単セル電池の積層方向に直交する方向の前記燃料電池積層体の4つの側面に配置されている、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記流路誘導板は、複数設けられている、請求項
1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記流路誘導板は、前記水素含有ガス、前記酸素含有ガスまたは前記冷却水の流路を塞ぐように配置され、前記流路を部分的に開放する貫通孔が設けられている、請求項
1または
3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記貫通孔は、複数設けられている、請求項
4に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記貫通孔は、前記供給口または前記排出口に対して前記積層方向に直交する方向に離れて配置されている、請求項
4または
5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記流路誘導板は、前記マニホールドと一体成型されている、請求項
1~
6のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項8】
複数の単セル電池が積層された燃料電池積層体と、
前記単セル電池の積層方向に直交する方向の前記燃料電池積層体の側面に配置されたマニホールドであって、前記マニホールドに設けられた供給口を通して前記マニホールドの内部に供給された水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水を前記燃料電池積層体に供給し、または、前記燃料電池積層体から排出された前記水素含有ガス、前記酸素含有ガスまたは前記冷却水を前記マニホールドに設けられた排出口を通して前記マニホールドの外部に排出するマニホールドと、を備えた燃料電池に設けられ、
前記燃料電池積層体から前記供給口または前記排出口までの最短流路距離を絶縁距離以上にする、燃料電池の絶縁構造
であって、
前記マニホールドは、絶縁材料で構成され、
前記絶縁構造は、前記最短流路距離を前記絶縁距離以上にするための流路誘導板を備え、
前記流路誘導板は、前記燃料電池積層体の側面に沿って前記燃料電池積層体側の一端から前記供給口または前記排出口側の他端まで延び、
前記最短流路距離は、前記流路誘導板を経由した前記燃料電池積層体から前記供給口または前記排出口までの流路の距離である、絶縁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、燃料電池およびその絶縁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池では、発電部である燃料電池積層体から発生するリーク電流が凝縮水や冷却水を介して外部に伝導することで地絡や感電などを起こすことを防止するため、燃料電池積層体と、水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水の供給配管または排出配管との間に、絶縁材料で形成された絶縁配管が設置されていた。絶縁配管を設置することで、絶縁距離を確保して、燃料電池と外部との絶縁を図っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の燃料電池は、絶縁配管の設置によって配管の接続箇所が増加するため、接続箇所を介した水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水のリークが発生する箇所が増加してしまう。また、部品点数や施工箇所などが増加することにより、コストも増加してしまう。さらに、絶縁配管を設置すると、燃料電池への水素含有ガスまたは酸素含有ガスの供給を停止する遮断弁の設置位置が、絶縁配管の長さ分、燃料電池から離れて設置されることになる。つまり、水素含有ガスまたは酸素含有ガスの供給を停止する場合、絶縁配管の長さ分の水素含有ガスまたは酸素含有ガスが燃料電池に残留することになる。残留した酸素含有ガスが燃料電池の劣化を進行させないように、残留した酸素含有ガスを水素含有ガスと反応させて消費させることができるが、このときの燃料電池の発電によって発生した電気は利用されないため、水素含有ガスを不必要に消費してしまう。また、水素含有ガスと酸素含有ガスが消費されると、消費された分の燃料電池の圧力低下が発生する。圧力低下による燃料電池の変形を防ぐには、燃料電池に冷却水または水素含有ガスを供給すればよいが、この場合、冷却水を供給するために冷却水タンクの容量を増加させること、または、水素含有ガスの供給量を増加させることが必要となる。このように、従来の燃料電池には、絶縁配管の設置にともなう諸問題がある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、絶縁配管を設けずに外部との絶縁を確保することができる燃料電池およびその絶縁構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態による燃料電池は、燃料電池積層体と、マニホールドとを備える。燃料電池積層体は、複数の単セル電池が積層されている。マニホールドは、単セル電池の積層方向に直交する方向の燃料電池積層体の側面に配置されている。マニホールドは、マニホールドに設けられた供給口を通してマニホールドの内部に供給された水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水を燃料電池積層体に供給し、または、燃料電池積層体から排出された水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水をマニホールドに設けられた排出口を通してマニホールドの外部に排出する。燃料電池積層体から供給口または排出口までの最短流路距離は、絶縁距離以上である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態による燃料電池を示す概略斜視図である。
【
図2】第2の実施形態による燃料電池を示す概略斜視図である。
【
図3】第3の実施形態による燃料電池を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で参照する模式図は、各構成の位置関係を示す図であり、各構成の寸法比等は実際のものと必ずしも一致するものではない。また、各実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による燃料電池1を示す概略斜視図である。第1の実施形態による燃料電池1は、燃料電池積層体2と、マニホールド3とを備える。
【0010】
燃料電池積層体2は、複数の単セル電池21が積層されて構成されている。単セル電池21は、水素含有ガスと酸素含有ガスとの反応によって発電し、発電で生じた熱を冷却水で冷却するように構成されている。例えば、単セル電池21は、高分子電解質膜と、高分子電解質膜を挟むように配置されたアノード電極およびカソード電極と、アノード電極に接する水素含有ガス流路、カソード電極に接する酸素含有ガス流路および冷却水流路が設けられたセパレータとを有する。この他にも、燃料電池積層体2は、隣接する単セル電池21同士を電気的に接続する集電体を有している。燃料電池積層体2は、複数の単セル電池21を電気的に直列接続した構造である。
【0011】
マニホールド3は、単セル電池21の積層方向に直交する方向の燃料電池積層体2の側面に配置されている。マニホールド3は、燃料電池積層体1を周囲から絶縁するために絶縁材料で構成されている。
図1には、燃料電池積層体2の1つの側面に配置された1つのマニホールド3が代表的に示されているが、実際は、燃料電池積層体2の4つの側面に4つのマニホールド3が配置されている。
【0012】
マニホールド3には、外部からマニホールド3内に水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水を供給する供給口、または、マニホールド3から外部に水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水を排出する排出口が設けられている。
図1に示されるマニホールド3には、マニホールド3から外部に冷却水を排出する排出口31が設けられている。マニホールド3は、供給口を通してマニホールド3の内部に供給された水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水を燃料電池積層体2に供給し、または、燃料電池積層体2から排出された水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水を、排出口を通してマニホールド3の外部に排出する。
図1に示されるマニホールド3は、燃料電池積層体2から排出された冷却水を、排出口31を通してマニホールド3の外部に排出する。なお、
図1に示されるマニホールド3において、冷却水を排出する部分3aには、他の流体(例えば、酸素含有ガス)を供給または排出する部分3bが隔壁3cを隔てて隣接している。
【0013】
燃料電池1と外部との絶縁を確保するため、燃料電池1の発電部である燃料電池積層体2から供給口または排出口までの最短流路距離は、絶縁距離以上である。
図1に示されるマニホールド3において、燃料電池積層体2から冷却水の排出口31までの最短流路33の距離(流路長)は、絶縁距離以上である。
【0014】
より具体的には、マニホールド3の内部には、燃料電池1の絶縁構造の一例として、最短流路距離を絶縁距離以上にするための流路誘導板32が設けられている。流路誘導板32は、絶縁材料で形成されている。
図1に示される流路誘導板32は、燃料電池積層体2の1つの側面(
図1における上面)に平行な平板形状を有している。より詳しくは、
図1に示される流路誘導板32は、単セル電池21の積層方向の両端がそれぞれ隔壁3cおよびこれに対向するマニホールド3の側面3dに接続され、単セル電池21の積層方向に直交する方向の一端が排出口31側のマニホールド3の側面3eに接続され、単セル電池21の積層方向に直交する方向の他端が排出口31と反対側のマニホールド3の側面3fから離れている。
【0015】
しかしながら、流路誘導板32の具体的な態様は
図1に示したものに限定されず種々変更可能である。例えば、
図1には1つの流路誘導板32が設けられているが、流路誘導板32の個数は2個以上であってもよい。
【0016】
第1の実施形態によれば、マニホールド3の内部の水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水の最短流路距離が絶縁距離以上の流路距離になることから、マニホールド3に絶縁材料を用いた絶縁配管を接続して絶縁を取らずとも、燃料電池1と外部とを絶縁することができる。また、絶縁材料を用いた絶縁配管が不要になることから、配管の接続箇所を削減することができ、部品点数の抑制やリークが発生する箇所を低減できる。あわせて、絶縁配管分の容積が減少することで残留する水素含有ガス及び酸素含有ガスを低減することができる。
【0017】
また、第1の実施形態によれば、流路誘導板32による簡易な構成によって、水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水の最短流路距離を絶縁距離以上にすることができる。
【0018】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態による燃料電池1を示す概略斜視図である。以下の説明において、第1の実施形態と基本構成が同一または類似の箇所には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0019】
第2の実施形態において、流路誘導板32は、水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水の流路を塞ぐように配置されている。
図2に示される流路誘導板32は、冷却水の流路を塞ぐように配置されている。
図2に示す例において、流路誘導板32は、単セル電池21の積層方向の両端がそれぞれ隔壁3cおよびこれに対向するマニホールド3の側面3dに接続され、単セル電池21の積層方向に直交する方向の両端がそれぞれ排出口31側のマニホールド3の側面3eおよび排出口31と反対側のマニホールド3の側面3fに接続されている。流路誘導板32には、水素含有ガス、酸素含有ガスまたは冷却水の流路を部分的に開放する貫通孔が設けられている。
図2に示される流路誘導板32には、冷却水の流路を部分的に開放する貫通孔321が設けられている。貫通孔は、供給口または排出口31に対して単セル電池21の積層方向に直交する方向に離れて配置されている。
図2に示される流路誘導板32には1つの貫通孔321が設けられているが、貫通孔321の個数は2個以上であってもよい。
【0020】
絶縁距離は、流路上の断面積が小さくなるほど、電気抵抗が大きくなるため、絶縁に必要な流路距離が短くなる。第2の実施形態によれば、貫通孔321を設けることで流路上の断面積を小さくすることができるので、絶縁に必要な流路距離を短くすることができる。これにより、マニホールド3の小型軽量化を図ることができる。
【0021】
(第3の実施形態)
図3は、第2の実施形態による燃料電池1を示す概略斜視図である。以下の説明において、第1の実施形態と基本構成が同一または類似の箇所には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0022】
第3の実施形態において、流路誘導板32は、マニホールド3と一体成型されている。
【0023】
第3の実施形態によれば、マニホールド3と流路誘導板32とを一体成型するため、部品点数と流路誘導板32の取付け工数を削減することができる。また、流路誘導板32がマニホールド3とは別部品のために発生する可能性があるマニホールド3と流路誘導板32の接触部からの通ガスまたは通水を防ぐことができる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0025】
1 燃料電池、2 燃料電池積層体、21 単セル電池、3 マニホールド、31 排出口、33 最短流路