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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 33/47 20200101AFI20240410BHJP
   D06F 37/42 20060101ALI20240410BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240410BHJP
【FI】
D06F33/47
D06F37/42 A
H02M7/48 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020185098
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074766
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】細糸 強志
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-061164(JP,A)
【文献】特開2016-197940(JP,A)
【文献】特開2017-205286(JP,A)
【文献】特開2005-312570(JP,A)
【文献】特開平11-169582(JP,A)
【文献】特開2015-208391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/47
D06F 37/42
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣類が収容される回転槽と、
前記回転槽の内部に回転可能に設けられるパルセータと、
前記回転槽を回転駆動するとともに減速ギアを介して前記パルセータを回転駆動する三相ブラシレスDCモータであるモータと、
前記モータを駆動するPWM制御方式のインバータ回路と、
前記モータの三相の電流を個別に検出する電流検出部と、
前記インバータ回路を介して前記モータをベクトル制御する制御部と、
前記モータの断線を検出する断線検出部と、
前記断線検出部により断線が検出されると前記モータの回転を停止させるとともに異常報知を行う異常処理部と、
を備え、
前記断線検出部は、前記モータが前記減速ギアを介して前記パルセータを回転駆動する期間中に前記電流検出部により検出された電流値について平滑化する平滑化処理を実行し、前記三相の電流のうち一相の電流値が他の二相の電流値のうち少なくとも一方の電流値に比較して所定値以下となる状態が所定時間継続した場合に断線を検出する洗濯機。
【請求項2】
前記断線検出部は、前記インバータ回路の出力電圧が所定電圧以上であり、且つ前記モータの三相の電流値の全てが所定値以下である場合に断線を検出する請求項1に記載の洗濯機。
【請求項3】
前記断線検出部は、前記電流検出部により検出された電流値について移動平均を求めることにより平滑化するようになっており、
前記移動平均の時間は、前記モータの回転に伴う電流の変化周期の整数倍に設定されている請求項1または2に記載の洗濯機。
【請求項4】
前記断線検出部は、前記モータの回転数が所定の閾値回転数以上であるときに断線を検出する請求項1から3のいずれか一項に記載の洗濯機。
【請求項5】
前記モータの電流が所定の判定電流より大きいときに前記モータに過大な電流が流れている過電流状態を検知する過電流検知部と、
前記モータの回転数が所定の判定回転数未満であるときに前記モータの回転が異常である回転異常を検知する回転異常検知部と、
を備え、
前記異常処理部は、前記過電流検知部により前記過電流状態が検知された場合または前記回転異常検知部により前記回転異常が検知された場合にも前記モータの回転を停止させるとともに前記異常報知を行う請求項4に記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
洗濯機において、衣類が収容される回転槽を回転駆動するための三相ブラシレスDCモータであるモータの断線検出を行う技術として、次のような従来技術が挙げられる。第1の従来技術は、モータを駆動するインバータ回路の入力電流の最大値と平均値との差により断線を検出するものである。第2の従来技術は、三相個別に検出されるモータの相電流を平滑したうえで、それら三相の電流のうち一相の電流値と他の二相の電流値との比較結果に基づいて断線を検出するものである。
【0003】
第3の従来技術は、モータの各相間の線間電圧が基準値以上であり且つモータの相電流が閾値以下である状態が所定時間継続した場合に断線と判定するものである。第4の従来技術は、断線が疑われる場合に特別なモータ通電を行うことにより検出精度を向上させるものである。第5の従来技術は、瞬時断線で発生するモータ過電流をコンパレータにより素早い応答でもって検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-145960号公報
【文献】特開2009-61164号公報
【文献】特開2015-213666号公報
【文献】特開2017-205286号公報
【文献】特開2019-72175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第1の従来技術では、負荷変動が大きい場合には、断線が発生していない状態であっても入力電流の最大値と平均値との差が大きくなることから誤検知が発生し易いという課題がある。第2の従来技術では、相電流を平滑する必要があることから応答時間が比較的長くなるという課題があり、また、半断線や回転揺れ時の瞬時断線を検出することができないという課題がある。
【0006】
第3の従来技術では、運転などの状況によっては、線間電圧および相電流に位相ずれが生じるため、誤検知が発生し易いという課題がある。第4の従来技術は、実際の運転動作中に行うことができる方法ではなく、あくまでも補完的なものとなっている。第5の従来技術では、モータの高速回転中には断線が発生した状態であってもモータ電流が増加し難いことから、コンパレータによる判定が困難になるという課題がある。
【0007】
そこで、回転槽を回転駆動するモータの断線を精度良く検出しつつ断線検出に要する時間を短くすることができる洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の洗濯機は、衣類が収容される回転槽と、前記回転槽の内部に回転可能に設けられるパルセータと、前記回転槽を回転駆動するとともに減速ギアを介して前記パルセータを回転駆動する三相ブラシレスDCモータであるモータと、前記モータを駆動するPWM制御方式のインバータ回路と、前記モータの三相の電流を個別に検出する電流検出部と、前記インバータ回路を介して前記モータをベクトル制御する制御部と、前記モータの断線を検出する断線検出部と、前記断線検出部により断線が検出されると前記モータの回転を停止させるとともに異常報知を行う異常処理部と、を備える。前記断線検出部は、前記モータが前記減速ギアを介して前記パルセータを回転駆動する期間中に前記電流検出部により検出された電流値について平滑化する平滑化処理を実行し、前記三相の電流のうち一相の電流値が他の二相の電流値のうち少なくとも一方の電流値に比較して所定値以下となる状態が所定時間継続した場合に断線を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る洗濯機の構成を模式的に示す一部の縦断側面図
図2】第1実施形態に係る制御ユニットを中心とした洗濯機の電気的構成を模式的に示す機能ブロック図
図3】第1実施形態に係る洗濯機の電気的構成を模式的に示す回路図
図4】第1実施形態に係るモータのステータの構成を模式的に示す図
図5】第1実施形態に係るモータのロータの構成を模式的に示す図
図6】第1実施形態に係る水流形状を模式的に示す図
図7】第1実施形態に係る平滑化処理を実施する前後のモータの三相の電流値を模式的に示すタイミングチャート
図8】第2実施形態に係る断線検出の流れを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1図7を参照して説明する。
【0011】
<洗濯機の構成>
図1に示すように、洗濯機100は、その外郭を構成する外箱101の内部に、上面が開放した有底円筒状の水槽102が弾性吊持機構103によって弾性的に支持されている。水槽102の内部には、上面が開放した有底円筒状の回転槽104が回転可能に設けられている。回転槽104は、その内部に洗濯物となる衣類を出し入れ可能に収容されるものである。
【0012】
回転槽104の底部には、当該回転槽104の底部を補強するための補強部材105が設けられている。回転槽104は、垂直な軸線を中心に回転するように構成されており、洗濯物を洗う洗い運転が行われる洗い行程および洗濯物をすすぐすすぎ運転が行われるすすぎ行程における洗濯槽、および、洗濯物を脱水する脱水運転が行われる脱水行程における脱水槽として兼用される。つまり、洗濯機100は、回転槽104の回転中心軸が垂直方向に延びるいわゆる縦軸型洗濯機である。
【0013】
回転槽104は、その周壁部に多数の孔106を有している。これらの孔106は貫通しており、通水および通気が可能である。なお、図1には多数の孔106のうち一部だけを示している。回転槽104の上部には、例えば塩水などの液体が封入された合成樹脂製のバランスリング107が取り付けられている。回転槽104の内部、具体的には内底部には、撹拌体として例えば合成樹脂で形成されたパルセータ108が回転可能に設けられている。水槽102の下部には排水経路109が設けられている。排水経路109には排水弁110が設けられており、排水弁110が開放されることにより、水槽102内の水が機外に排出される。また、水槽102の底部には、水位検知用のエアトラップ111が設けられている。
【0014】
水槽102の下部の中央部には駆動機構部112が設けられている。駆動機構部112は、モータ113およびクラッチ兼減速ギアが含まれたクラッチ機構部112aなどを備えている。駆動機構部112は、洗い行程時またはすすぎ行程時においては、クラッチ機構部112aにより回転力をパルセータ108に伝達する。このため、洗い行程時またはすすぎ行程時に回転槽104は回転駆動されず、パルセータ108だけが回転駆動される。このとき、パルセータ108は、1/5減速されて回転駆動されるとともに、正転方向および反転方向に交互に回転される。
【0015】
また、駆動機構部112は、脱水行程時においては、モータ113の回転力をクラッチ機構部112aによりパルセータ108および回転槽104に伝達する。このため、脱水行程時にパルセータ108は、回転槽104と一体に回転駆動される。このとき、回転槽104は減速無しで回転駆動される。このように、モータ113は、回転槽104を回転駆動するとともに減速ギアを介してパルセータ108を回転駆動する。
【0016】
外箱101の上部には、トップカバー114が設けられている。トップカバー114には、洗濯物出入口を開閉する例えば二つ折り式の蓋115が開閉可能に設けられている。なお、水槽102の上部には、図示しない槽カバーが開閉可能に取り付けられている。トップカバー114の前部には、操作パネル116が設けられている。操作パネル116の裏側には、洗濯機100の動作全般を制御する制御ユニット117が配置されている。トップカバー114内の後部には、水源からの水を水槽102内に供給する給水機構部118が設けられている。給水機構部118は、図示しない給水弁や水槽102に連通する図示しない給水経路などを備えており、制御ユニット117が給水弁の開閉を制御することにより、水槽102内への給水が制御される。
【0017】
<制御ユニット>
図2に示すように、制御ユニット117は、例えばマイコンを主体に構成されたものであり、洗濯機1の動作全般を制御する機能を備えている。制御ユニット117には、操作パネル116に含まれる操作入力部116a、水槽102内の水位を検出する水位センサ121、安全スイッチ122、モータ113の回転数を検出する回転数センサ123、モータ113が有するロータの回転位置を検出する回転位置センサ9などから信号が入力される。
【0018】
安全スイッチ122は、トップカバー114の下部から水槽102の外周面と外箱101の内面との間に位置するように垂下する状態に設けられる図示しない安全レバーによって操作されるものである。安全スイッチ122は、水槽102が揺れて水槽102の外面が上記安全レバーに当接することに伴い操作されることで、水槽102の揺れが大きいことを検出する。制御ユニット117は、これらの入力信号と、予め備えた制御プログラムに基づき、操作パネル116に含まれる表示部116b、給水機構部118に含まれる給水弁118a、モータ113、切替用モータ124などを制御する。
【0019】
切替用モータ124は、クラッチ機構部112aおよび排水弁110を、連動して切り替え操作するためのものである。具体的には、切替用モータ124により排水弁110を開放動作させた場合には、クラッチ機構部112aは、モータ113によりパルセータ108と回転槽104を一体的に回転させるように切り替えられる。また、排水弁110を閉鎖動作させた場合には、クラッチ機構部112aは、モータ113によりパルセータ108だけを独立させて回転させるように切り替えられる。なお、切替用モータ124の代わりに電磁ソレノイドを用いる構成とすることもできる。
【0020】
<洗濯機の制御系に係る電気的構成>
図3は、モータ113の駆動制御系を示す機能ブロック図である。この場合、制御ユニット117は、モータ113を駆動するPWM制御方式のインバータ回路1を備えている。なお、PWMは、Pulse Width Modulationの略称である。インバータ回路1は、半導体スイッチング素子である6個のIGBT2a~2fを三相ブリッジ接続して構成されており、各IGBT2a~2fのコレクタ-エミッタ間には、フライホイールダイオード3a~3fが接続されている。インバータ回路1の各相出力端子は、モータ113の各モータ巻線113u、113v、113wにそれぞれ接続されている。本実施形態では、モータ113として、例えばアウタロータ型の三相ブラシレスDCモータを採用している。
【0021】
下アーム側のIGBT2dのエミッタは、電流検出素子であるシャント抵抗4aを介してグランドに接続されるとともに、抵抗素子5aおよびコンデンサ6aを介してグランドに接続されている。抵抗素子5aおよびコンデンサ6aの共通接続点は、マイコンである制御回路7のA/D入力2端子に接続されているとともに、過電流判定回路8の入力端子に接続されている。下アーム側のIGBT2eのエミッタは、電流検出素子であるシャント抵抗4bを介してグランドに接続されるとともに、抵抗素子5bおよびコンデンサ6bを介してグランドに接続されている。抵抗素子5bおよびコンデンサ6bの共通接続点は、制御回路7のA/D入力3端子に接続されているとともに、過電流判定回路8の入力端子に接続されている。
【0022】
下アーム側のIGBT2fのエミッタは、電流検出素子であるシャント抵抗4cを介してグランドに接続されるとともに、抵抗素子5cおよびコンデンサ6cを介してグランドに接続されている。抵抗素子5cおよびコンデンサ6cの共通接続点は、制御回路7のA/D入力4端子に接続されているとともに、過電流判定回路8の入力端子に接続されている。過電流判定回路8は、3つのコンパレータを含む構成であり、3相の電流を独立して判定する構成となっている。過電流判定回路8の出力信号は過電流検出に基づく緊急停止信号となり、制御回路7は、緊急停止入力端子を介して緊急停止信号の入力があるとインバータ回路1に対するPWM信号の出力を停止する。
【0023】
モータ113には、ロータの回転位置を検出する1つの回転位置センサ9が配置されている。回転位置センサ9は、磁気センサであり、例えばホールICで構成され、回転位置の検出結果に対応するデジタル信号であるセンサ信号を出力する。回転位置センサ9から出力されるセンサ信号は、NOTゲート10を介して制御回路7のセンサ入力端子に入力される。NOTゲート10の出力端子は、コンデンサ11を介してグランドに接続されている。
【0024】
インバータ回路1の入力側には駆動用電源回路12が接続されている。駆動用電源回路12は、100Vの交流電源13を、ダイオードブリッジで構成される全波整流回路14および直列接続された2個のコンデンサ15a、15bにより倍電圧全波整流し、約280Vの直流電圧をインバータ回路1に供給する。第1電源回路16は、インバータ回路1に供給される約280Vの駆動用電源を降圧して15V電源を生成すると、モータ113を駆動する駆動回路17、高圧ドライバ19および第3電源回路20に供給する。
【0025】
第2電源回路18は、上記駆動用電源を降圧して5Vの制御用電源を生成し、制御回路7、回転位置センサ9などに供給する三端子レギュレータである。高圧ドライバ19は、インバータ回路1における上アーム側のIGBT2a~2cを駆動するために配置されている。第3電源回路20は、第1電源回路16により生成される15V電源より5V電源を生成し、その電源を過電流判定回路8に供給する。制御回路7のA/D入力2端子、AD入力3端子およびAD入力4端子は、抵抗素子21a、21bおよび21cによりそれぞれ5V電源にプルアップされている。
【0026】
駆動用電源回路12の出力端子、インバータ回路1の正側直流母線とグランドとの間には、抵抗素子22a、22bの直列回路が接続されており、両者の共通接続点は、制御回路7のA/D入力1端子に接続されている。制御回路7は、シャント抵抗4a、4b、4cの各端子電圧に基づきモータ113に通電される3相電流を検出し、ベクトル制御を行うことで電圧率が正弦波状に変化する三相上下分のPWM信号を生成する。制御回路7は、PWW信号を、駆動回路17および上側については高圧ドライバ19をも介して、インバータ回路1を構成する各IGBT2a~2fのゲートに出力する。このように、制御回路7は、駆動回路17の動作を制御することにより、各IGBT2a~2fからなるインバータ回路1によるモータ113の駆動を制御する。
【0027】
駆動回路17において各PWM信号を入力するための各入力端子は、抵抗素子23によりグランドにプルダウンされている。上記構成において、下アーム側のIGBT2d、2e、2fの各エミッタと、高圧ドライバ19との間には、ブートストラップコンデンサ24d、24e、24fがそれぞれ接続されている。上記構成では、IGBT2a~2fのスイッチング動作に伴ってブートストラップコンデンサ24d~24fが充電されることで、高圧ドライバ19が上アーム側のIGBT2a~2cのゲートを駆動するための電源電圧が生成されるようになっている。上記構成では、モータ113の巻線113u、113v、113wには、280V程度の電圧が印加されるとともに、5~10A程度の電流が流れる。
【0028】
このように、本実施形態において、制御回路7は、モータ113の三相の電流を個別に検出する電流検出部として機能するとともに、インバータ回路1を介してモータ113をベクトル制御する制御部として機能する。また、本実施形態において、制御回路7は、モータ113の断線を検出する断線検出部として機能するとともに、後述するような動作を行う異常処理部として機能する。制御回路7による断線検出部としての機能は、具体的には次のようなものとなる。
【0029】
すなわち、制御回路7は、モータ113が減速ギアを介してパルセータ108を回転駆動する期間中に検出されたモータ113の三相の電流値について平滑化する平滑化処理を実行し、三相の電流のうち一相の電流値が他の二相の電流値のうち少なくとも一方の電流値に比較して所定値以下となる状態が所定時間継続した場合に断線を検出する。このような制御回路7による断線検出は、モータ113の起動後で回転数が安定しているときに実施される。具体的には、制御回路7は、モータ113の回転数が所定の閾値回転数以上であるときに上記したようにして断線を検出する。なお、閾値回転数は、例えば500rpmに設定されている。
【0030】
上記した平滑化処理は、具体的には次のように行われる。すなわち、制御回路7は、検出されたモータ113の三相の電流値について移動平均を求めることにより平滑化するようになっている。この場合、上記した移動平均の時間は、モータ113の回転に伴う電流の変化周期の整数倍に設定される。本実施形態では、上記した移動平均の時間は、電流の変化周期の10倍、つまり電流の10周期に設定されている。また、制御回路7は、インバータ回路1の出力電圧が所定電圧以上であり、且つモータ113の三相の電流値の全てが所定値以下である場合に断線を検出する。
【0031】
さらに、本実施形態において、制御回路7は、モータ113の電流が所定の判定電流より大きいときにモータ113に過大な電流が流れている過電流状態を検知する過電流検知部として機能するとともに、モータ113の回転数が所定の判定回転数未満であるときにモータ113の回転が異常である回転異常を検知する回転異常検知部として機能する。制御回路7による異常報知部としての機能は、具体的には次のようなものとなる。
【0032】
すなわち、制御回路7は、断線検出部としての機能により断線が検出されるとモータ113の回転を停止させるとともに異常報知を行う。異常報知は、操作パネル116の表示部116bおよび図示しないブザーなどによりユーザに対して異常を報知する処理である。また、制御回路7は、過電流検知部としての機能により過電流状態が検知された場合または回転異常検知部としての機能により回転異常が検知された場合にもモータ113の回転を停止させるとともに上記異常報知を行う。
【0033】
<モータの構成>
モータ113の具体的な構成としては、例えば図4および図5に示すような構成を採用することができる。モータ113は、図4に示すステータ31を備えている。ステータ31は、ステータコアおよびステータ巻線をモールド樹脂により一体化した構成となっている。この場合、ステータ31には、その1周にわたって等間隔で18個のスロット32が設けられている。つまり、ステータ31は、18スロットの構成となっている。なお、図4では、一部のスロット32だけが図示されている。
【0034】
また、モータ113は、図5に示すロータ33を備えている。ロータ33は、フレーム、ロータコアおよび複数の磁石34をモールド樹脂により一体化した構成となっている。この場合、ロータ33には、その1周にわたって等間隔で12個の永久磁石である磁石34が設けられている。つまり、ロータ33は、12極の構成となっている。
【0035】
<水流形状>
上記構成の洗濯機100では、洗い行程時またはすすぎ行程時、つまりモータ113が減速ギアを介してパルセータ108を回転駆動する期間、水槽102内の水の水流形状は、図6に示すように変化する。なお、図6において、縦軸は、モータ113の回転数、ひいては水槽102内の水の水流形状を示しており、0を境界に上側が正転方向、下側が反転方向となっている。すなわち、モータ113の回転数が正転方向に大きくなると水流形状も同様に正転方向に大きくなる。このとき、モータ113の回転数は、約0.2秒かけて所定の回転数まで漸増し、その状態が約0.8秒継続され、その後は0rpmとなるように低下する。
【0036】
その後、モータ113の回転数が反転方向に大きくなると水流形状も同様に反転方向に大きくなる。このとき、モータ113の回転数は、約0.2秒かけて所定の回転数まで漸増し、その状態が約0.8秒継続され、その後は0rpmとなるように低下する。このように、上記構成の洗濯機100では、モータ113が減速ギアを介してパルセータ108を回転駆動する期間、水槽102の水の水流形状は、約1秒毎に正転および反転を繰り返すような形状となる。
【0037】
次に、上記構成の制御回路7により行われる断線検出に関する具体的な処理内容について、図7のタイミングチャートを参照して説明する。
この場合、洗い行程時にモータ113およびパルセータ108の回転数が洗い時の安定回転数で一定とされている状態において、モータ113のV相の巻線113vが0.3秒間の瞬時断線したケースを想定している。なお、本実施形態において、洗い時の安定回転数としては、モータ113の回転数が850rpmとなっており、パルセータ108の回転数が170rpmとなっている。
【0038】
図7の(a)、(b)、(c)に示すように、モータ113の各巻線113u、113v、113wに流れる電流Iu、Iv、Iwは、交流電流であるため、それらを検出した電流値そのままでは値を判定することができない。そこで、制御回路7は、検出した三相の電流値について、絶対値処理を行い、その後にモータ電流の10周期区間で移動平均を求めることにより平滑化する平滑化処理を行う。このようにして得られる電流Iu、Iv、Iwの検出値の平滑後の値は、図7(d)に示すように、変動の少ない一定値となる。
【0039】
なお、以下の説明および図7では、電流Iu、Iv、Iwの検出値の平滑後の値のことを、それぞれ平均電流Iua、Iva、Iwaと称することとする。なお、図7(d)では、平均電流Iuaを実線で示し、平均電流Ivaを一点鎖線で示し、平均電流Iwaを点線で示している。この場合、V相の巻線113vが瞬時断線すると、電流Ivが0となり、それにより、平均電流Ivaは、上記した一定値から0に向けて低下し始め、電流Ivが0となった時点から0.1秒程度遅れた時点において0となる。
【0040】
その後、V相の巻線113vの瞬時断線が解消されると、電流Ivが定常時の値となり、それにより、平均電流Ivaは、0から上記した一定値に向けて上昇し始め、電流Ivが定常時の値となった時点から0.1秒程度遅れた時点において上記した一定値となる。これに対し、平均電流Iuaおよび平均電流Iwaは、上記した一定値のまま変動していない。このようなことから、制御回路7は、平均電流Ivaと、平均電流Iua、Iwaの一方または双方と比較し、それらの差が所定値以下となる状態が所定時間継続した場合に、V相の巻線113vの断線を検出することができる。
【0041】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
本実施形態の洗濯機100において、モータ113は、回転槽104を回転駆動するとともに、減速ギアを介してパルセータ108を回転駆動する。このような構成において、モータ113の駆動を制御する制御回路7は、モータ113が減速ギアを介してパルセータ108を回転駆動する期間中に検出された三相の電流値について平滑化する平滑化処理を実行し、三相の電流のうち一相の電流値が他の二相の電流値のうち少なくとも一方の電流値に比較して所定値以下となる状態が所定時間継続した場合に断線を検出する。
【0042】
このような構成によれば、平滑化処理に要する時間は、同様に三相の電流値について平滑化を行う第2の従来技術に比べ、大幅に短縮することができる。なぜなら、この場合、減速ギアを介してパルセータ108を回転駆動する期間中におけるモータ113の回転数、ひいてはモータ113の電流の周波数は、減速ギアを介さずに回転槽104を回転駆動する期間中におけるモータ113の電流の周波数に比べ、大幅に高くなる。そのため、上記構成によれば、モータ113の電流値について平滑化する平滑化処理に要する時間は、減速ギアの存在しない第2の従来技術における平滑化処理に要する時間に比べ、大幅に短縮される。
【0043】
したがって、本実施形態によれば、回転槽104を回転駆動するモータ113の断線を精度良く検出しつつ断線検出に要する時間を短くすることができるという優れた効果が得られる。また、本実施形態によれば、上述したように断線検出に要する時間が短縮される、つまり、断線検出における検知速度が向上することから、半断線や回転揺れ時などの瞬時断線を検出することができる。
【0044】
モータ113に断線が生じるとモータ113の回転数が低下することから、モータ113の回転数に基づいて断線検出を行う方法を採用することも考えられる。しかし、このような断線検出には、次のような課題がある。すなわち、モータ113は断線したとしてもしばらくは惰性で回転する。このような惰性での回転は、本実施形態のように、減速ギアを有する構成では特に顕著に表れる。そのため、回転数に基づいて断線検出を行う方法では、素早く断線を検出することができず、また、瞬時断線には対応することができない。これに対し、本実施形態の制御回路7による平滑化処理後の三相の電流値に基づく断線検出によれば、回転数に基づいて断線検出を行う方法に比べ、より素早く断線を検出することができるうえ、その断線検出の精度を高くすることができ、さらには、瞬時断線にも対応することができる。
【0045】
制御回路7は、インバータ回路1の出力電圧が所定電圧以上であり、且つモータ113の三相の電流値の全てが所定値以下である場合に断線を検出する。このようにすれば、モータ113の三相のうち一相だけの断線に限らず、二相以上の断線についても検知することができる。また、制御回路7は、検出されたモータ113の三相の電流値について移動平均を求めることにより平滑化するようになっており、その移動平均の時間は、モータ113の回転に伴う電流の変化周期の整数倍に設定されている。このようにすれば、三相の電流値についての平滑に要する時間を短く抑えつつ移動平均後の電流値の変動リップルが小さく抑えられるため、断線検出の精度を一層高めることができる。
【0046】
上記構成では、モータ113の回転数が高い領域でモータ113の三相のうち一相だけが断線した場合、他の二相の電流は、誘起電圧によりインバータ回路1の動作が妨げられることなどから急激には増加し難いことから、モータ電流に基づいた判定が困難となる。そこで、本実施形態では、制御回路7による平滑化処理後の三相の電流値に基づく断線検出は、モータ113の起動後で回転数が安定しているときに実施される。具体的には、制御回路7は、モータ113の回転数が所定の閾値回転数以上であるとき、つまりモータ113の回転数が高い領域にあるとき、上記したようにして断線を検出する。
【0047】
このようにすれば、モータ113の回転数が高い領域にあるときについて、モータ113の三相のうち一相だけの断線を精度良く検出することができる。また、制御回路7は、モータ113の電流が所定の判定電流より大きいときにモータ113に過大な電流が流れている過電流状態を検知する過電流検知部として機能するとともに、過電流状態が検知された場合にも断線が検出された場合と同様にモータ113の回転を停止させるとともに異常報知を行う。このようにすれば、次のような効果が得られる。
【0048】
すなわち、モータ113の回転数が所定の閾値回転数未満であるとき、つまりモータ113の回転数が低い領域にあるとき、制御回路7による平滑化処理後の三相の電流値に基づく断線検出は行われない。しかし、このとき、モータ113の三相のうち一相だけが断線すると他の二相の電流が急激に増加するため、過電流状態が検知され、その結果、モータ113の回転数が低い領域にあるときにおける一相だけの断線についても確実に検出することができる。
【0049】
モータ113の三相のうち二相以上に断線が生じると、モータ113は、回転できなくなり、やがては停止する。そこで、制御回路7は、モータ113の回転数が所定の判定回転数未満であるときにモータ113の回転が異常である回転異常を検知する回転異常検知部として機能するとともに、回転異常が検知された場合にもモータ113の回転を停止させるとともに異常報知を行う。このようにすれば、モータ113の回転数が低い領域および高い領域のいずれにあるときでも、モータ113の三相のうち一相だけの断線に限らず、二相以上の断線についても検知することができる。
【0050】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について図8を参照して説明する。
本実施形態では、第1実施形態に対し、制御回路7における断線検出に関する処理内容に変更が加えられている。本実施形態の制御回路7は、例えば図8に示すような内容の処理を行うようになっている。図8に示すように、ステップS100では、異常検出が実施される。異常検出には、平滑化処理後の三相の電流値に基づく断線検出による瞬時断線の検出、過電流の検出、過電圧の検出、回転不良の検出などが含まれる。ステップS100の実行後はステップS200に進み、例えば3回連続など、複数回連続して異常が検出されたか否かが判断される。
【0051】
ここで、複数回連続して異常が検出されていない場合、ステップS200で「NO」となり、ステップS100に戻る。これに対し、複数回連続して異常が検出された場合、ステップS200で「YES」となり、ステップS300に進む。ステップS300では、モータ113に瞬時断線などの異常が生じたと判断され、モータ113の回転が停止される。ステップS300の実行後はステップS400に進み、モータ113に対して所定の検査用電流を流す制御が行われ、その検査用電流による断線検出が実施される。このようなステップS400は、完全断線を検出する処理となる。
【0052】
ステップS400の実行後はステップS500に進み、断線が検出されたか否かが判断される。ここで、断線が検出されない場合、ステップS500で「NO」となり、ステップS600に進む。ステップS600では、検出された異常の要因をユーザに対して報知する異常要因報知処理が実施される。異常の要因とは、前述した瞬時断線、過電流、過電圧、回転不良などである。これに対し、断線が検出された場合、ステップS500で「YES」となり、ステップS700に進む。
【0053】
ステップS700では、モータ113に完全断線が生じたと判断され、完全断線が発生した旨をユーザに対して報知する完全断線報知処理が実施される。ステップS600またはS700の実行後、本処理が終了となる。このような本実施形態の断線検出によれば、実際には断線が生じていないにもかかわらず断線を検知してしまう誤検知の発生を抑制しつつ、実際に断線が生じた場合にはその断線を確実に検知することができるため、安全性を向上することができる。
【0054】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
制御回路7は、三相の電流のうち一相の電流値と他の二相の電流値の双方の電流値と比較するための具体的な手法として、三相の電流のうち一相の電流値と三相の合計の電流値とを比較することもできる。
【0055】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
図面中、1はインバータ回路、7は制御回路、100は洗濯機、104は回転槽、108はパルセータ、113はモータを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8