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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 19/08 20060101AFI20240410BHJP
   F02B 19/14 20060101ALI20240410BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
F02B19/08 G
F02B19/08 E
F02B19/14 A
F02F3/26 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020217121
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102412
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健介
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮
(72)【発明者】
【氏名】金子 莉菜
(72)【発明者】
【氏名】末廣 貴一
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-257714(JP,A)
【文献】特開2005-048717(JP,A)
【文献】特開2019-113007(JP,A)
【文献】特開2019-007456(JP,A)
【文献】特開2020-106022(JP,A)
【文献】特開平08-004532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10
F02F 3/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主燃焼室と、前記主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、前記噴孔は、前記副室から前記主燃焼室の中央部に向かう傾斜孔に形成され、ピストンの天井壁における前記噴孔から前記主燃焼室へ噴出される燃焼流が吹き付けられる箇所に受止めリセスが形成され
燃焼が開始されるときである燃焼開始時に、前記噴孔の軸心方向視において前記受止めリセスの始端部と前記噴孔とが一致する一致構造が採られ、
前記噴孔の両脇それぞれに、前記副室に臨む補助噴孔の開口が設けられ、
前記噴孔の形状及び前記受止めリセスの形状は、共に燃焼流の流れ方向で下流側ほど横幅が大きくなる先拡がり形状に設定されるとともに、前記受止めリセスの拡がり角は前記噴孔の拡がり角よりも小さい角度に設定されているディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記一致構造は、前記偏心の方向に対する横方向視において前記噴孔の軸心に沿う噴孔壁面のうちのピストン軸心から遠い側の壁面のピストン側への延長線上に、前記受止めリセスの始端が位置する構成とされている請求項1に記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記燃焼開始時は、前記噴孔から燃焼流が出る時である請求項1又は2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記燃焼開始時は、前記副室での着火時である請求項1又は2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項5】
前記受止めリセスの始端の前記偏心の方向に対する横方向視における傾斜角は、前記噴孔の傾斜角に等しい又は±10度の誤差を含んで等しい設定とされている請求項1~4の何れか一項に記載のディーゼルエンジン。
【請求項6】
前記噴孔は、主噴孔と、前記主噴孔の両脇に配置される一対の副噴孔とが連なる複葉形状の孔に形成されている請求項1~5の何れか一項に記載のディーゼルエンジン。
【請求項7】
前記主燃焼室に隣り合う状態でシリンダヘッド壁に嵌着される口金が設けられ、前記口金に、前記副室を形成するための副室形成用凹部が形成される胴部と、前記噴孔とが形成されている請求項1~6の何れか一項に記載のディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主燃焼室に噴孔を介して連なる副室が設けられた構造のディーゼルエンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主燃焼室(主室)の他に副燃焼室(副室)を設けたディーゼルエンジン、即ち副室(IDI:Indirect Injection)式ディーゼルエンジンは、副室内に燃料を噴射して着火させ、副室の燃焼ガスが噴孔(絞り)を通じて主室内に噴出して燃焼が完了する。IDIでは、燃焼室表面積が大きいため、絞り損失と熱損失が大きいという弱点があるため、近年では直噴(DI:Direct Injection)式ディーゼルエンジンに置き換えられてきている。
【0003】
しかしながら、IDIは、限られた副室内で燃料を噴射するので、火炎の流速を高くできて低圧の噴射弁でも確実に着火できる良さがある。また、副室内は空気量が少なく燃焼圧と燃焼温度が低いため、DIに比べて、ディーゼルノックが発生しづらく、NOx生成量が少ないという利点もある。従って、IDIは低速型のエンジンに適したシステムであることから、農機や建機、発電機、或いは後進国向けの各種産業機器などには、まだまだニーズがあると考えられる。
【0004】
IDI型のディーゼルエンジンにおいては、実質的に燃焼室となる副室での渦流を強めることや、副室から主燃焼室への火炎伝播速度を速めることが重要なポイントであると考えられる。例えば、特許文献1では、渦流を弱めることなく始動性の改善が可能となる技術が開示され、特許文献2においては、ピストンの天井壁に設けられるリセスの構造工夫によって燃焼速度を速める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-180744号公報
【文献】特開2002-276369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、噴孔とリセスとの関係に着目してのさらなる鋭意研究により、燃焼速度を速めることによって燃焼効率に優れるように改善されるIDI型(副室型)のディーゼルエンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ディーゼルエンジンにおいて、主燃焼室と、前記主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、前記噴孔は、前記副室から前記主燃焼室の中央部に向かう傾斜孔に形成され、ピストンの天井壁における前記噴孔から前記主燃焼室へ噴出される燃焼流が吹き付けられる箇所に受止めリセスが形成され
燃焼が開始されるときである燃焼開始時に、前記噴孔の軸心方向視において前記受止めリセスの始端部と前記噴孔とが一致する一致構造が採られ、
前記噴孔の両脇それぞれに、前記副室に臨む補助噴孔の開口が設けられ、
前記噴孔の形状及び前記受止めリセスの形状は、共に燃焼流の流れ方向で下流側ほど横幅が大きくなる先拡がり形状に設定されるとともに、前記受止めリセスの拡がり角は前記噴孔の拡がり角よりも小さい角度に設定されていることを特徴とする。
【0008】
前記一致構造は、前記偏心の方向に対する横方向視において前記噴孔の軸心に沿う噴孔壁面のうちのピストン軸心から遠い側の壁面のピストン側への延長線上に、前記受止めリセスの始端が位置する構造とされていると好都合であり、前記燃焼開始時は、前記噴孔から燃焼流が出る時や前記副室での着火時であればさらに好都合である。
【0009】
本発明に関して、上述した構成(手段)以外の特徴構成や手段ついては、請求項5~7を参照のこと。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、燃焼が開始されるときである燃焼開始時に、噴孔の軸心方向視において受止めリセスの始端部と噴孔とが一致する一致構成とされたものであり、その一致構造により、噴孔から出る燃焼流は、従来の構造のものに比べて、流れが乱れることなく受止めリセスの始端部から主燃焼室に円滑に流れて行くようになる。
【0011】
つまり、副室から排出される燃焼流(噴流)が受止めリセスの形状に沿って速度を落とすことなく、従来よりも速い速度で主燃焼室内を流れて進んで行くようになり、燃焼効率が向上するようになる。従って、受止めリセスでの空気を効率よく取り込んで主燃焼室での素早い燃焼が得られ、燃焼効率向上によって燃費の向上やスモーク低減の効果が発揮されるようになる。
【0012】
その結果、噴孔とリセスとの関係に着目してのさらなる鋭意研究により、燃焼速度を速めることによって燃焼効率に優れるように改善されるIDI型(副室型)のディーゼルエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】産業用ディーゼルエンジンの副室付近の構造を示す要部の縦断面図
図2】口金とピストンとの関係構造を示す平面図
図3図2のZ-Z線で切った断面図(上死点の状態)
図4】噴孔と受止めリセスとの関係構造を示す平面図
図5】(A)は図3に示すY部分の拡大図、(B)は別実施形態による噴孔受止めリセスとの関係を示す要部の拡大断面図
図6】副室からの燃焼流の流れ方を示し、(A)は従来例、(B)は本発明
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明によるディーゼルエンジンの実施の形態を、農用トラクタなどに適用される産業用ディーゼルエンジンの場合について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1に過流式の産業用ディーゼルエンジンの副室周辺部の断面図が示されている。1はシリンダ(シリンダブロック)、2はシリンダヘッド、3はインジェクタ、4はグロープラグ、5は主燃焼室(主室)、6は副室(副燃焼室)、7は副室形成用の口金、8はピストン、9は口金7に形成された噴孔、10はウォータジャケット(冷却水の通路)、19はガスケットである。なお、ピストンの圧縮上死点においては主燃焼室5の体積は殆どないため、副室6が実質的に燃焼室である、といってもよい。
【0016】
シリンダヘッド2にはインジェクタ3が貫通装備され、インジェクタ3の先端噴射部3aが副室6に臨むように配置されている。副室6は、シリンダ1内に形成される主燃焼室5に、その主燃焼室5の偏心箇所に設けられる噴孔9を介して連通されている。噴孔9は、副室6の壁面(内周面)hの略接線方向で、かつ、主燃焼室5の中央部(ピストン8の軸心8P)に向かい、シリンダヘッド底面2a(水平線)に対して傾斜角τで傾いた傾斜孔(図5を参照)に形成されている。インジェクタ3は、先端噴射部3aからの噴射燃料が噴孔9に向かう状態となるように配置されている。
【0017】
図1に示されるように、シリンダヘッド2におけるピストン8の軸心8Pからシリンダ周壁側に偏心した位置に、シリンダ1に開口する状態の副室形成穴2Aが形成され、副室形成穴2Aには副室形成用の口金(チャンバー)7が収容されている。副室形成穴2Aは、シリンダヘッド2の主燃焼室5に臨むシリンダヘッド底面2aから順に、大径の開口部12と、小径の胴部収容部13と、胴部収容部13よりも奥に位置する空洞部14とを有して構成されている。
【0018】
開口部12には、カップ状に形成された口金7の底部7Aが収容されている。胴部収容部13は、口金7の胴部7Bが収容される箇所であって開口部12よりも小径である。空洞部14は半球よりも少し大きい略半球形に凹んだ箇所に形成され、胴部収容部13とは段付き面(符記省略)で繋がる構成とされている。
【0019】
図1図3に示されるように、口金7は、円柱状の胴部7Bと底部7Aとを含んだ段付円柱状の金具で形成されている。底部7Aは胴部7Bの一端側を胴部7Bの外径よりも大径で周方向に張り出たフランジ状の部位として形成されている。胴部7Bの他端側には、胴部7Bの上端面から半球よりも少し小さい略半球形の副室形成用凹部11が形成されている。
【0020】
球形(卵球形、まゆ形)の副室6は、空洞部14と副室形成用凹部11とで構成され、噴孔9は、副室形成用凹部11と主燃焼室5とを連通させる部位として底部7Aから胴部7Bにかけて形成されている。つまり、シリンダヘッド2における主燃焼室5に隣り合う状態でシリンダヘッド壁2bに嵌着される口金7には、副室6を形成するための副室形成用凹部11が形成される胴部7Bと、噴孔9とが形成されている。
【0021】
図2図4に示されるように、噴孔9は、副室6側の開口である上開口部9A及びシリンダ側の開口である下開口部9Bを有し、中央の主噴孔15と、その両脇に張り出し形成された一対の副噴孔17,17とを備え、ピストン軸心8Pの方向視で三つ葉形状(複葉形状の一例)を呈する複合孔に形成されている。つまり、滑らかに3つに分割された先端部を持ち、かつ、基端が丸められた扇形を呈する噴孔9に形成されている。なお、主噴孔15の両脇それぞれで副噴孔17の近傍となる箇所に、細径の孔である補助噴孔18,18を設けてもよい。
【0022】
図1に示されるように、副室6から噴孔9を通って主燃焼室5へ噴出するのは燃焼流(燃焼気流)w(図1に仮想線で示す矢印)であり、ピストン8の上昇移動による圧縮工程時には、主燃焼室5から噴孔9を通って副室6へ圧縮された空気流(圧縮空気流)eが流れ込む。副室6に流れ込む空気流(圧縮空気流)eにより、副室6ではその壁面hに沿って流れる縦向きの渦流(タンブル)uが生じる構成とされている。
【0023】
図2図5に示されるように、ピストン8の天井壁8Aにおける噴孔9から主燃焼室5へ噴出される燃焼流wが吹き付けられる箇所、即ち、噴孔9の直下となる位置から燃焼流wの流れの下流側に相当する箇所に亘る扇形の凹みである受止めリセス20が形成されている。また、吸排気弁(図示省略)に対する凹みである共に円形の吸気弁リセス21と排気弁リセス22とが天井壁8Aに形成されている。
【0024】
図4に示されるように、噴孔9の形状及び受止めリセス20の形状は、共に燃焼流wの流れ方向で下流側ほど横幅が大きくなる先拡がり形状、即ち扇形に設定されるとともに、受止めリセス20の拡がり角αは噴孔9の拡がり角βよりも小さい角度に設定されている。加えて、噴孔9の始端位置〔ピストン軸心8P側と反対側(偏心方向)で先端の位置〕と、受止めリセス20の始端位置とが、噴孔9の軸心p方向視(又はピストン軸心8P方向視)で合致されている(図5参照)。
【0025】
一例として、各拡がり角α,βの値は、ピストン軸心8Pの方向視で、噴孔9の拡がり角βは65度~80度(好ましくは70度~75度)に設定され、受止めリセス20の拡がり角αは35度~55度(好ましくは40度~50度、より好ましくは45度前後)に設定されている。そして、受止めリセスの拡がり角αは、噴孔9の拡がり角βの50%~70%(0.5β≦α≦0.7β)に設定されている。
【0026】
図3及び図5に示されるように、一対の側縁23,23を有する扇形の受止めリセス20(図4参照)の深さについて、一例としては次のとおりである。即ち、噴孔9の直下となる始端20aから燃焼流wの下流側に進むに従って徐々に深くなって、主噴孔15の先端部15aの直下の辺りである直下リセス部20bで最も深くなり、それから燃焼流wの下流側に進むに従って徐々に浅くなり、先端縁20cではピストン上面8aに合流する状態に設定されている。
【0027】
次に、主燃焼室5における燃焼流wの速度を促進させる構造について説明する。図5(A)及び図6(B)に示されるように、副室6での燃焼が開始されるときである燃焼開始時に、噴孔9の軸心p方向視において受止めリセス20の始端部20Aと噴孔9とが一致する一致構造が採られている。一致構造は、図5に示されるよう、主燃焼室5に対する副室6の偏心の方向(矢印Qの方向)に対する横方向(矢印Rの方向:図2参照)視において噴孔9の軸心pに沿う噴孔壁面h1(h),h2(h)のうちのピストン軸心8Pから遠い側の最遠壁面h1のピストン8側への延長線f上に、受止めリセス20の始端20aが位置する構造とされている。
【0028】
図5(A)に示されるように、上死点におけるピストン上面8aの位置は、シリンダヘッド底面2aから縦方向(ピストン軸心8P方向)の距離aで下に離れた仮想線で示される位置にあり、副室6での着火時期におけるピストン上面8aの位置は、上死点の僅か手前の位置、即ち、シリンダヘッド底面2aから距離bで下に離れた位置にある。前述の一致構造は、ピストン上面8aがシリンダヘッド底面2aから縦方向(ピストン軸心8P方向)の距離bで離れた位置にあるときに出現される設計になっている。つまり、上死点の位置では、受止めリセス20の始端20aは、ピストン上面8aと延長線fとの交点から水平方向に距離c離れる(オフセット)位置関係に設置されている。
【0029】
つまり、図5(A)及び図6(B)に示されるように、実際に燃焼流wが噴孔9から噴出するときのシリンダ1に対する上下位置にあるピストン8において、最遠壁面h1の延長線f上に始端20aが位置するように受止めリセス20が天井壁8Aに形成されている。従って、最遠壁面h1に沿って噴孔9の下開口部9Bから噴出される燃焼流wは、流れの乱れを生じることなく受止めリセス20の始端部20Aに流れ、円滑に向きを横方向に変えながらピストン軸心8P方向に進んで行く。
【0030】
エンジンが高回転型になるに従って、着火時期は早まる傾向にある。従って、ピストン8が上死点にあるときの距離c(オフセット量)は、低回転型エンジンでは短い目〔図6(B)の実線のピストン8を参照〕に、そして高回転型エンジンでは長い目〔図6(B)の一点破線のピストン8を参照〕に設定されれば好都合である。なお、図6(A),(B)における「TDC」は、上死点でのピストン上面8aの位置を示している。
【0031】
〔作用効果について〕
従来のディーゼルエンジンでは、図6(A)に示されるように、ピストン8の天井壁8Aに噴孔9に対応した受止めリセス20を設ける場合、噴孔9と受止めリセス20との位置関係は上死点(圧縮上死点:TDC)において最適となるように(最遠壁面h1の延長線f上に始端20aが位置するように)設計されていた。
【0032】
内燃機関における着火時期(火花点火式エンジンでは点火時期)は、正確にはピストン8の上死点(圧縮上死点)位置ではなく、その僅か手前の状態、即ちピストン8が上昇し切る前、即ち、着火の進角である(火花点火式エンジンでは「点火進角」と言われる)。しかしながら、農機や建機、或いは発電機などに用いられる産業用ディーゼルエンジンは、低回転型又は極低回転型エンジン(トルク型エンジン)であって着火時期(噴射時期)を早める割合(着火の進角)は小さいので、噴孔9と受止めリセス20との位置関係は上死点を基本とするセッティングで事足りると考えられていた。
【0033】
しかしながら、近年では、燃費向上、出力アップなどの性能向上や排ガス規制の強化がより強く求められていることから、よりきめ細かな改善を行う必要があり、その一環として、噴孔と受止めリセスとの関係構造についても見直しが行われた。そこで、本発明は、燃焼が開始されるときである燃焼開始時に、噴孔9の軸心p方向視において受止めリセス20の始端部20Aと噴孔とが一致する構成としたことを特徴とする。
【0034】
従来の構造では、図6(A)に示されるように、噴孔9の最遠壁面h1に沿って流れる燃焼流wは、受止めリセス20に差し掛かったときには既に始端20aから主燃焼室5の中央側に離れた位置関係になっている。そのため、受止めリセス20の始端部20Aにおいて、乱流である回り込み燃焼流(渦状燃焼流)wrが発生して流れが乱れ、従って、主燃焼室5においては燃焼流wの流速が落ち易い傾向があった。
【0035】
本発明のディーゼルエンジンでは、一致構造の採用により、図6(B)に示されるように、低回転型で説明するに、燃焼開始時には最遠壁面h1の延長線f上に始端20aが位置する受止めリセス20とされている。故に、噴孔9から出る燃焼流wは、流れの乱れなく受止めリセス20の始端部20Aから主燃焼室5に円滑に流れて行く。
【0036】
従って、副室6から排出される燃焼流(噴流)wが受止めリセス20の形状に沿って速度を落とすことなく、従来よりも速い速度で流れて行く。その結果、受止めリセス20での空気を効率よく取り込んで主燃焼室5での素早い燃焼が得られ、燃焼効率向上によって燃費の向上やスモーク低減の効果を奏することができる。
【0037】
〔別実施形態〕
図5(B)に示されるように、受止めリセス20の始端20aの前記偏心の方向に対する横方向視における傾斜角θは、噴孔9の傾斜角δに等しい(θ=δ)又は±10度の誤差を含んで等しい設定とされていても良い。即ち、受止めリセス20の始端部20Aに、始端20aを含む短い直線傾斜壁24が形成されており、その直線傾斜壁24の傾斜角θが、最遠壁面h1の傾斜角δの±10度、即ち、δ-10≦θ≦δ+10(例:40度≦θ≦60度)に設定されている。なお、最遠壁面h1の傾斜角δと噴孔9(噴孔軸心p)の傾斜角τとは、δ≧τとなる場合が多い。
【0038】
このように、燃焼開始時に、噴孔9の軸心p方向視において受止めリセス20の始端部20Aと噴孔9とが一致する一致構造に、始端部20Aの傾斜角θと噴孔9の傾斜角δとが互いに等しい(ほぼ等しい)構成も加えれば、燃焼流wがより円滑に主燃焼室5に流れて進んで行くので、より一層の燃費向上やスモーク低減の効果が期待できる。
【0039】
また、図示は省略するが、オフセット量cを図5(A)に示される長さよりも極僅かに長くして、着火時ではなく、着火後に実際に噴孔9から燃焼流wが出る時を燃焼開始時とする一致構造が採られたディーゼルエンジンとしてもよい。
[まとめ]
この発明では、図2に示すように、前記噴孔9の両脇それぞれに、前記副室6に臨む補助噴孔18・18の開口18a・18aが設けられ、図4に示すように、前記噴孔9の形状及び前記受止めリセス20の形状は、共に燃焼流wの流れ方向で下流側ほど横幅が大きくなる先拡がり形状に設定されるとともに、前記受止めリセス20の拡がり角αは前記噴孔9の拡がり角βよりも小さい角度に設定されている。
【符号の説明】
【0040】
2 シリンダヘッド
2b シリンダ壁
5 主燃焼室
6 副室
7 口金
7B 胴部
8 ピストン
8A 天井壁
8P 軸心(ピストン軸心)
9 噴孔
11 副室形成用凹部
15 主噴孔
17 副噴孔
20 受止めリセス
20A 始端部
20a 始端
f 遠い側の壁面のピストン側への延長線
h1 遠い側の壁面(最遠壁面)
p 噴孔の軸心
w 燃焼流
θ 受止めリセスの傾斜角
δ 噴孔の傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5
図6