IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシーの特許一覧 ▶ ダウ ケミカル コリア リミテッドの特許一覧

特許7470048リチウムイオン電池製造で使用するための溶媒システム
<>
  • 特許-リチウムイオン電池製造で使用するための溶媒システム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池製造で使用するための溶媒システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240410BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240410BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/62 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020556223
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 CN2018084773
(87)【国際公開番号】W WO2019205080
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-13
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】520048263
【氏名又は名称】ダウ ケミカル コリア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】チャン、シン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チー
(72)【発明者】
【氏名】レン、ホア
(72)【発明者】
【氏名】ム-、チェンハイ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウンキュウ
(72)【発明者】
【氏名】大場 薫
(72)【発明者】
【氏名】キム、チョンチョル
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】山本 章裕
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-164993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池のカソードまたはアノードを作製するプロセスであって、前記プロセスが、活物質、導電剤、バインダーポリマー、および溶媒のスラリーを形成するステップを含み、前記溶媒が、本質的に式1の第1の化合物のうちの1つ以上であって、
【化1】
式中、RおよびRが、水素またはC1-4直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであり、Rが、C1-10直鎖または分岐鎖アルキルまたはアルコキシであるが、但しRおよびRが、両方とも水素ではない、式1の第1の化合物のうちの1つ以上であって、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルブチルアミドおよびこれらの混合物からなる群から選ばれたもの、あるいは
式2の第2の化合物のうちの1つ以上であって、
【化2】
式中、R’が、それぞれがC1-2アルキルまたはアルコキシ分岐を有することができる2~9個の環炭素原子であり、R’が、C2-8直鎖または分岐鎖アルキルまたはアルコキシである、式2の第2の化合物のうちの1つ以上、あるいは
式4の第4の化合物のうちの1つ以上であって、
【化3】
式中、R’’’が、それぞれがC1-2アルキルまたはアルコキシ分岐を有することができる5~9個の環炭素であり、R’’’が、水素またはC1-3直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシである、式4の第4の化合物のうちの1つ以上から本質的になる、プロセス。
【請求項2】
前記溶媒が、式1の化合物からなる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記溶媒が、N,N-ジメチルプロピオンアミドである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記溶媒が、式2の化合物からなる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記溶媒が、N,N-ジエチルアセトアミドである、請求項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記溶媒が、式4の化合物からなる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記溶媒が、N,N-ジメチルブチルアミドである、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記バインダーポリマーが、ポリフッ化ビニリデンである、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
リチウムイオン電池のカソードまたはアノードを作製するプロセスであって、前記プロセスが、活物質、導電剤、バインダーポリマー、および3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド溶媒からなるスラリーを形成するステップを含むプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池としても知られる充電式電池、例えば、リチウムイオン電池の製造において有用な環境に優しい溶媒(「エコ溶媒」)に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車およびポータブル電子デバイスの大幅な成長により、充電式電池、特に様々なタイプのリチウムイオン電池の需要が増加している。小型軽量の現代のトレンドでは、これらの充電式電池が高いエネルギー密度を有するだけでなく、環境にも優しいことが要求される。環境に配慮した要件は、電池製品自体だけでなく、それが作製される製造プロセスにも適用される。
【0003】
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)は現在、リチウムイオン電池の製造に使用するのに最適な溶媒である。NMPは、スラリーが活物質(例えば、コバルト酸リチウム)、導電剤(例えば、カーボンブラック)、およびバインダーポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))から作製されるプロセスのステップで使用される。NMPは、PVDFを溶解し、得られた溶液を使用して、活物質および導電剤をスラリー化する。NMPは、PVDFを容易に溶解し、揮発性および引火点が低く、熱安定性が高く、極性が高く、かつ非プロトン性の非腐食性である。しかしながら、その毒性の問題に加えて、NMPは、沸点が高いため、スラリーをカソードまたはアノードのホイルに塗布すると、蒸発によってスラリーからそれを完全に除去するために比較的高い温度が必要になる。最終電池製品に少量のNMP残留物が残っていても、電池が電気自動車または携帯電話)などの民生用デバイスで使用されている場合、安全性の問題を引き起こす場合がある。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態では、リチウムイオン電池のカソードまたはアノードを作製するプロセスが提供され、このプロセスは、活物質、導電剤、バインダーポリマー、および溶媒のスラリーを形成するステップを含み、溶媒は、本質的に式1の第1の化合物のうちの1つ以上であって、
【化1】
式中、RおよびRは、水素またはC1-4直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであり、Rは、C1-10直鎖または分岐鎖アルキルまたはアルコキシであるが、但しRおよびRは、両方とも水素ではない、式1の第1の化合物のうちの1つ以上、あるいは
式2の第2の化合物のうちの1つ以上であって、
【化2】
式中、R’は、それぞれがC1-2アルキルまたはアルコキシ分岐を有することができる2~9個の環炭素原子であり、R’は、C2-8直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシである、式2の第2の化合物のうちの1つ以上、あるいは
式3の第3の化合物のうちの1つ以上であって、
【化3】
式中、R”およびR”は、水素またはC1-2アルキルもしくはアルコキシであり、R”は、それぞれがC1-2アルキルまたはアルコキシ分岐を有することができる2~4個の環炭素であり、R”は、水素またはC1-3直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシである、式3の第3の化合物のうちの1つ以上、あるいは
式4の第4の化合物のうちの1つ以上であって、
【化4】
式中、R’’’は、それぞれがC1-2アルキルまたはアルコキシ分岐を有することができる5~9個の環炭素であり、R’’’は、水素またはC1-3直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシである、式4の第4の化合物のうちの1つ以上から本質的になる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】活物質、導電剤、およびバインダーからのカソードおよびアノードスラリーの形成においてNMPが溶媒として使用されるリチウムイオン電池を作製するための従来の製造プロセスを説明するブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
定義
米国特許実務の目的のため、任意の参照される特許、特許出願、または公開の内容は、特に定義の開示(本開示に具体的に提供されるあらゆる定義と矛盾しない程度に)および当該技術分野における一般的知識に関して、それらの全体が参照により組み込まれる(またはその同等の米国版が参照によりそのように組み込まれる)。
【0007】
本明細書に開示される数値範囲は、下限値から上限値(これら上限値および下現値を含む)までのすべての値を含む。範囲が明示的な値(例えば、1~7)を含む場合、任意の2つの明示的な値の間の任意の部分範囲が含まれる(例えば、1~2、2~6、5~7、3~7、5~6など)。
【0008】
「活物質」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、リチウムイオンの供給源であるか、またはリチウムイオンを受容および受け取ることができる物質を意味する。リチウムイオンセルのカソードの文脈では、活物質は、リチウムイオンの供給源、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどである。リチウムイオンセルのアノードの文脈では、活物質は、リチウムイオンの受容体、例えば、グラファイトである。活物質は、典型的には、100ナノメートル~100マイクロメートルの直径を有する非常に小さな粒子の形態である。
【0009】
「アルコキシ」は、-OZラジカルを指し、代表的なZには、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、シリル基、およびそれらの組み合わせが含まれる。好適なアルコキシラジカルには、例えば、メトキシ、エトキシ、ベンジルオキシ、t-ブトキシなどが含まれる。関連用語は、「アリールオキシ」であり、代表的なZには、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、およびそれらの組み合わせが含まれる。好適なアリールオキシラジカルの例には、フェノキシ、置換フェノキシ、2-ピリジノキシ、8-キナリノキシなどが含まれる。
【0010】
「アルキル」は、飽和した線状、環状、または分岐の炭化水素基を指す。好適なアルキル基の非限定的な例には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、i-ブチル(または2-メチルプロピル)などが含まれる。一実施形態では、アルキルは、1~20個の炭素原子を有する。
【0011】
「アノード」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、放電サイクルにおける負極を意味する。アノードは、放電中に電池内で酸化が起こる電極であり、すなわち電子が解放されて電池から流れ出す。
【0012】
「電池」および同様の用語は、すぐに使用できるセルまたはセルアセンブリの集合を意味する。電池は、典型的には、適切なハウジング、電気的相互接続、および場合によってはセルを制御して故障、例えば、火災、熱暴走、爆発、充電の喪失などから保護するための電子機器を含有する。最も単純な電池は、単一セルである。電池は、一次、すなわち非充電式および二次、すなわち充電式であり得る。
【0013】
「バインダーポリマー」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、リチウムイオン電池の電極内に活物質粒子を一緒に保持して、電極と接点との間の強力な接続を維持するポリマーを意味する。バインダーポリマーは、通常、放電、充電、および保管中にリチウムイオン電池内で接触する物質に対して不活性である。
【0014】
「カソード」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、放電サイクルにおける正極を意味する。リチウムイオン電池中のリチウムは、正極にある。カソードは、放電中に電池内で還元が起こる電極である。
【0015】
「セル」および同様の用語は、電極、セパレータ、および電解質を含有する基本的な電気化学ユニットを意味する。
【0016】
「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する」という用語、およびそれらの派生語は、任意の追加の構成要素、ステップ、または手順が、具体的に開示されているか否かに関わらず、それらの存在を除外するよう意図されない。疑義が生じないようにするために、「含む」という用語の使用を通じて主張されるすべての組成物は、相反する記載がない限り、ポリマーであるか、ポリマーでないかに関わらず、任意の追加の添加剤、アジュバント、または化合物を含み得る。
【0017】
「導電剤」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、セルの電極間のイオンの流れを促進する物質を意味する。炭素系化合物および材料、例えば、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、炭素系ポリマーなどは、リチウムイオン電池で使用される典型的な導電剤である。
【0018】
対照的に、「本質的に~からなる」という用語は、操作性に必須ではないものを除いて、あらゆる後続の記載の範囲から、任意の他の構成要素、ステップ、または手順を除外する。「からなる」という用語は、明確に描写またはリストされていない任意の構成要素、工程、または手順を除外する。「または」という用語は、特に明記しない限り、列挙されたメンバーを個別に、ならびに任意の組み合わせで指す。単数形の使用には、複数形の使用が含まれ、逆の場合も同じである。
【0019】
「電解質」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、セパレータを通じてアノードからカソードに、またその逆に、正に帯電したリチウムイオンを運ぶ物質を意味する。
【0020】
相反して述べられていないか、文脈から暗黙的であるか、または当該技術分野で習慣的でない限り、すべての部分およびパーセントは、重量に基づき、すべての試験方法は、本開示の出願日の時点で最新のものである。
【0021】
「リチウムイオン電池」および同様の用語は、リチウムイオンが放電中に負極から正極に移動し、充電時に元に戻る充電式(すなわち、二次)電池を意味する。リチウムイオン電池は、非-充電式リチウム電池(一次電池としても知られる)で使用される金属リチウムとは対照的に、インターカレートリチウム化合物を1つの電極材料として使用する。イオンの移動を可能にする電解質および2つの電極は、リチウムイオン電池セルを構成する構成要素である。
【0022】
「セパレータ」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、アノードとカソードとを物理的に分離する薄い多孔性膜を意味する。セパレータの主な機能は、セル内でのリチウムイオンの輸送を促進しながら、アノードとカソードとの間の物理的な接触を防ぐことである。セパレータは、典型的には、リチウムイオンの通過を可能にするように設計された孔径を有する単純なプラスチックフィルム、例えば、ポリエチレンもしくはポリプロピレン、またはセラミックである。
【0023】
「溶媒」および同様の用語は、別の物質(すなわち、溶質)を溶解させて、分子レベルまたはイオンサイズレベルで本質的に均一に分散する混合物(すなわち、溶液)を形成することができる物質を意味する。
【0024】
リチウムイオン電池のための製造プロセス
図1は、NMPが溶媒として使用されるリチウムイオン電池のための従来の製造プロセスのフロー図を示す。NMPは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のようなバインダーポリマーを溶解するための溶媒として使用され、その後導電剤、活物質、および他の添加剤のスラリーを形成するために使用される。代替的なバインダーポリマーには、セルロースならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)グラフェンおよび/またはフラーレンが含まれるが、これらに限定されない。導電剤には、カーボンブラック、カーボンナノチューブが含まれるが、これらに限定されない。活物質には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケルマンガン酸コバルトリチウム(LiNiMnCoOまたはNMC)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAlO)、およびチタン酸リチウム(LiTi12)が含まれるが、これらに限定されない。次いで、スラリーをホイル、典型的にはカソードにはアルミニウム、アノードには銅上にコーティングし、次いで、コーティングされたホイルを乾燥させる。
【0025】
乾燥プロセス(典型的には、オーブン内)では、NMPは、残留物なしに蒸発し、乾燥したホイルは、50~200マイクロメートルの厚さを有し、バインダーポリマー、導電剤、活性物質、および他の添加剤を含む乾燥したスラリーである固体成分を含む微細フィルムを備える。次いで、乾燥したホイルを、取り付けできるカレンダー機でカレンダー掛けし、次いでリールに収集する。最終的には、カソードおよびアノードのフィルムが組み合わされて電極スタックになり、電解質を追加してセルが完成する。
【0026】
溶媒
本開示の実施において使用される溶媒は、図1に示されるようなリチウムイオン電池製造プロセスにおけるNMPの代替溶媒である。これらの溶媒は、本明細書にさらに記載されるような式1、2、3、または4の化合物のうちの1つ以上からなる、または本質的にそれらからなる。一実施形態では、溶媒は、式1、2、3、または4の任意の化合物のうちの1つのみからなる。一実施形態では、溶媒は、式1、2、3、または4の任意の2つの化合物の混合物からなる。一実施形態では、溶媒は、式1、2、3、または4の任意の3つの化合物の混合物からなる。一実施形態では、溶媒は、式1、2、3、または4の4つすべての化合物の混合物からなる。溶媒が、式1、2、3、または4の2つ以上の化合物の混合物からなるそれらの実施形態では、混合物中の化合物のいずれか1つの量は、混合物の重量の1~99、または10~90、または20~80、または30~70、または40~60重量パーセント(重量%)の範囲であり得る。一実施形態では、溶媒の混合物中の各溶媒は、混合物中の他の溶媒のそれぞれの20、または15、または10、または5、または3、または1重量%以内の量で存在する。
【0027】
一実施形態では、本開示の実施形態の実施において使用される溶媒は、式1の化合物からなる。
【化5】
式中、RおよびRは、水素またはC1-4直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであり、Rは、C1-10直鎖または分岐鎖アルキルまたはアルコキシであるが、但しRおよびRは、両方とも水素ではない。
【0028】
一実施形態では、使用される溶媒は、式1の2つ以上の化合物からなる。一実施形態では、式1の溶媒は、N,N-ジメチルプロピオンアミド(DMPA)、N,N-ジエチルプロピオンアミド、N,N-ジプロピルプロピオンアミド、N,N-ジブチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルエチルプロピオンアミド、および3-ブトキシ-N-メチルプロピオンアミドのうちの1つ以上である。一実施形態では、式1の溶媒は、DMPAである。
【0029】
一実施形態では、本開示の実施形態の実施において使用される溶媒は、式2の化合物からなる。
【化6】
式中、R’は、それぞれがC1-2アルキルまたはアルコキシ分岐を有することができる2~9個の環炭素原子であり、R’は、C2-8直鎖または分岐鎖アルキルまたはアルコキシである。
【0030】
一実施形態では、使用される溶媒は、式2の2つ以上の化合物からなる。一実施形態では、式2の溶媒は、N,N-ジエチルアセトアミド(DEAC)およびN-エチル-ε-カプロラクタムのうちの1つ以上である。一実施形態では、式2の溶媒は、DEACである。
【0031】
一実施形態では、本開示の実施形態の実施において使用される溶媒は、式3の化合物からなる。
【化7】
式中、R”およびR”は、水素またはC1-2アルキルもしくはアルコキシであり、R”は、それぞれがC1-2アルキルまたはアルコキシ分岐を有することができる2~4個の環炭素であり、R”は、水素またはC1-3直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシである。
【0032】
一実施形態では、使用される溶媒は、式3の2つ以上の化合物からなる。一実施形態では、式3の溶媒は、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(M3DMPA)およびN-アセチルモルホリンのうちの1つ以上である。一実施形態では、式3の溶媒は、M3DMPAである。
【0033】
一実施形態では、本開示の実施形態の実施において使用される溶媒は、式4の化合物からなる。
【化8】
式中、R’’’は、それぞれがC1-2アルキルまたはアルコキシ分岐を有することができる5~9個の環炭素であり、R’’’は、水素またはC1-3直鎖もしくは分岐鎖アルキルもしくはアルコキシである。
【0034】
一実施形態では、使用される溶媒は、式4の2つ以上の化合物からなる。一実施形態では、式4の溶媒は、N,N-ジメチルブチルアミド(DMAA)およびN-プロピオニル-ε-カプロラクタムのうちの1つ以上である。一実施形態では、式4の溶媒は、DMAAである。
【0035】
本開示の実施形態の実施において使用される個々の溶媒は、周囲条件(23℃および大気圧)で液体である既知の化合物であり、一般に市販されている。式1、2、3、もしくは4のいずれかの2つ以上の溶媒、または式1、2、3、もしくは4の2つ以上の溶媒の混合物を形成するために、個々の溶媒は、従来の混合装置および標準的なブレンディングプロトコルを使用して、互いに簡単に混合することができる。個々の溶媒は、同時を含む任意の順序で互いに添加することができる。
【0036】
溶媒は、エコ溶媒であり、すなわち、それらは、NMPに関連する毒物学の問題を有さないか、または低減したレベルで有する。一実施形態では、溶媒は、リチウムイオン電池のための製造プロセスにおけるNMPの代替品として意図されている。したがって、それらは、そのようなプロセス(例えば、図1に示されるプロセスなど)でNMPが使用されるのと同じように使用される。典型的には、このプロセスは、バインダーを溶媒で溶解し、次いで溶解したバインダー、活物質、および導電剤からスラリーを形成するステップを含む。次いで、スラリーをホイルに塗布し、ホイルを乾燥させ、その間に溶媒が蒸発により除去される。
【0037】
本開示の実施形態の実施において使用される溶媒は、N,N-ジメチルプロピオンアミド(DMPA)、N,N-ジエチルアセトアミド(DEAC)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(M3DMPA)、N,N-ジメチルブチルアミド(DMAA)、および/またはそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。これらの溶媒は、NMPよりも速くバインダーポリマーを溶解することができ、それにより、電池の製造効率を改善することができる。本開示の実施形態の実施において使用される溶媒に基づくバインダーポリマー溶液はまた、NMPに基づくバインダーポリマー溶液よりも低い粘度を示し、それにより、電池の製造効率も改善する。さらに、本開示の実施形態に従って使用される溶媒の多くは、NMPよりも低い沸点およびより高い蒸発速度を有し、これは、それらがより低いエネルギー消費でより速く蒸発することができ、残る残留物がより少ないことを意味する。NMPは、典型的にはリサイクルされるので、本開示の実施形態の実施において使用される溶媒は、それらのより低い沸点およびより高い蒸発速度により、リサイクルがより容易であり、電池製造プロセスにとって全体的なコストの節約になる。
【0038】
一例として、これに限定されないが、本開示のいくつかの実施形態を以下の実施例で詳細に説明する。
【実施例
【0039】
材料
バインダーポリマーは、Kurehaから入手可能なポリフッ化ビニリデン(PVDF)であるKUREHA(商標)7200であった。
【0040】
溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(Sinopharma、99%)、N,N-ジエチルアセトアミド(Xinxing Chemical、99.5%)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(Tianhua Pharmaceutical、98%)、およびN,N-ジメチルプロピオンアミド(XIngxin、99.5%)であった。
【0041】
試験手順
95グラム(g)の比較または発明の溶媒サンプルを別々のビーカーに入れ、60℃に加熱する。5gのPVDF粉末を計量し、個々の加熱した溶媒に添加する。溶媒とPVDFとの混合物をビーカー内で60℃で撹拌し、PVDFが溶媒に完全に溶解した時間を記録する。次いで、PVDF溶液をブルックフィールド粘度計(no.#62スピンドル)で試験する。結果を表1に報告する。
【表1】
【0042】
発明のサンプルDMPAおよびM3DMPAは、バインダーPVDFの溶解速度が速いため、電池製造のための製造効率が改善し得る。NMPと比較して、本発明の溶媒はまた、PVDFを溶解した後、はるかに低い粘度を示す。電池製造者は、スラリー配合物中の溶媒使用レベルを低減でき、これにより製造コストを節約することができる。本発明のサンプル(M3DMPAを除く)は、NMPよりも低い沸点およびより高い蒸発速度を有し、したがって、それらは、乾燥プロセス中により低い温度で蒸発させることができる。それらはまた、製造プロセスのためのコストの節約を意味する低いエネルギー消費でリサイクルすることができる。
【0043】
本開示が、本明細書に含有される実施形態および例示に限定されないが、以下の特許請求の範囲内にある実施形態の一部、および異なる実施形態の要素の組み合わせを含むこれらの実施形態の修正された形態を含むことが明確に意図される。
図1