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特許7470049窒化物系半導体発光素子及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】窒化物系半導体発光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20240410BHJP
   H01S 5/22 20060101ALI20240410BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20240410BHJP
【FI】
H01S5/343 610
H01S5/22
H01L33/32
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020558316
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2019044457
(87)【国際公開番号】W WO2020110719
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018223483
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】井上 昇
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真治
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-268769(JP,A)
【文献】特開2005-101483(JP,A)
【文献】特開2005-303278(JP,A)
【文献】特開2012-079967(JP,A)
【文献】特開2012-253205(JP,A)
【文献】国際公開第2018/035322(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00- 5/50
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IV族n型不純物を含む第1のn型窒化物系半導体層と、
前記第1のn型窒化物系半導体層に接するn側電極とを備え、
前記第1のn型窒化物系半導体層は、
前記n側電極に接し、ハロゲン元素を含む表層領域と、
前記表層領域の、前記n側電極の反対側に位置する内部領域とを有し、
前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度は、1.0×1021cm-3以上であり、
前記表層領域における前記ハロゲン元素のピーク濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度の10%以上であり、
前記内部領域における前記IV族n型不純物の濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物の濃度より低く、
前記表層領域の、前記n側電極に接する面は、(000-1)面である、
窒化物系半導体発光素子。
【請求項2】
前記表層領域の厚さは、1nm以上100nm未満である
請求項1に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項3】
前記n側電極は、Ti、Al、Pt、Au、Mo、Sn、In、Ni、Cr、Nb、Ba、Ag、Rh、Ir、Ru及びHfからなる群から選択される少なくとも1種類の金属、又は、少なくとも2種類の合金を含む
請求項1又は2に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項4】
前記IV族n型不純物は、Siである
請求項1からのいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項5】
前記ハロゲン元素は、Clである
請求項1からのいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項6】
さらに、積層方向において前記内部領域を基準にして前記表層領域とは反対側に位置する主面を有し、
前記主面は、サブマウントに接続されている
請求項1から5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項7】
前記第1のn型窒化物系半導体層は、n型窒化物系半導体基板である
請求項1からのいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項8】
前記n型窒化物系半導体基板の板厚は、50μm以上150μm以下である
請求項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項9】
さらに、前記n型窒化物系半導体基板の、前記表層領域とは反対側に、順に積層された第2のn型窒化物系半導体層、p型窒化物系半導体層及びp側電極を備える
請求項又はに記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項10】
IV族n型不純物とハロゲン元素とを含むプラズマにより、n型窒化物系半導体層をドライエッチングする工程と、
前記ドライエッチングする工程で前記プラズマに晒された前記n型窒化物系半導体層の表面に、n側電極を形成する工程とを含み、
前記n型窒化物系半導体層の、前記表面を含む表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度は、1.0×1021cm-3以上であり、
前記表層領域における前記ハロゲン元素のピーク濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度の10%以上であり、
前記ドライエッチングする工程では、前記IV族n型不純物の供給源として、Siトレイが用いられ、かつ、前記ハロゲン元素の供給源としてClガスが用いられる
窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記ドライエッチングする工程では、前記n型窒化物系半導体層の(000-1)面をドライエッチングする
請求項10に記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
IV族n型不純物とハロゲン元素とを含むプラズマにより、n型窒化物系半導体層の(000-1)面をドライエッチングする工程と、
前記ドライエッチングする工程で前記プラズマに晒された前記n型窒化物系半導体層の表面にn側電極を形成する工程とを含み、
前記n型窒化物系半導体層は、Gaを含み、
前記ドライエッチングする工程の終了時の前記プラズマの発光スペクトルでは、Gaに起因する第1発光ピークのピーク強度が、前記IV族n型不純物又は前記ハロゲン元素に起因する第2発光ピークのピーク強度より小さい
窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記IV族n型不純物は、Siであり、
前記ハロゲン元素は、Clであり、
前記第1発光ピークは、Gaの原子若しくはイオン、又は、Gaを含む分子若しくは分子イオンに起因し、
前記第2発光ピークは、Si及びClの少なくとも一方の原子若しくはイオン、又は、Si及びClの少なくとも一方を含む分子若しくは分子イオンに起因する
請求項12に記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1発光ピークの中心波長は、294nm以上295nm以下の範囲に位置し、
前記第2発光ピークの中心波長は、390nm以上391nm以下の範囲に位置している
請求項12又は13に記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記n型窒化物系半導体層は、n型窒化物系半導体基板を含み、
前記製造方法は、さらに、
前記ドライエッチングする工程の前に、前記n型窒化物系半導体基板を研磨する工程を含み、
前記ドライエッチングする工程では、前記n型窒化物系半導体基板の研磨された面をドライエッチングし、
前記n型窒化物系半導体基板のドライエッチングされた面の転位密度は、1×10cm-2以下である
請求項10から14のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物系半導体発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化ガリウム(GaN)を利用した発光素子が知られている。例えば、特許文献1に記載の半導体発光素子では、n型半導体の、電極との接触部分の不純物濃度を高くすることで、良好なオーミック特性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-148533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、チップサイズの小型化及び高出力化に伴い、電流密度の増加及び高温動作が求められている。しかしながら、上記従来の半導体発光素子では、大電流密度での動作時又は高温動作時において素子電圧が上昇するという問題がある。
【0005】
そこで、本開示は、大電流密度での動作時又は高温動作時に安定した電圧特性を有する窒化物系半導体発光素子及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、IV族n型不純物を含む第1のn型窒化物系半導体層と、前記第1のn型窒化物系半導体層に接するn側電極とを備え、前記第1のn型窒化物系半導体層は、前記n側電極に接し、ハロゲン元素を含む表層領域と、前記表層領域の、前記n側電極の反対側に位置する内部領域とを有し、前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度は、1.0×1021cm-3以上であり、前記表層領域における前記ハロゲン元素のピーク濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度の10%以上であり、前記内部領域における前記IV族n型不純物の濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物の濃度より低い。
【0007】
また、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法は、IV族n型不純物とハロゲン元素とを含むプラズマにより、n型窒化物系半導体層をドライエッチングする工程と、前記ドライエッチングする工程で前記プラズマに晒された前記n型窒化物系半導体層の表面に、n側電極を形成する工程とを含み、前記n型窒化物系半導体層の、前記表面を含む表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度は、1.0×1021cm-3以上であり、前記表層領域における前記ハロゲン元素のピーク濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度の10%以上である。
【0008】
また、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法は、IV族n型不純物とハロゲン元素とを含むプラズマにより、n型窒化物系半導体層をドライエッチングする工程と、前記ドライエッチングする工程で前記プラズマに晒された前記n型窒化物系半導体層の表面にn側電極を形成する工程とを含み、前記n型窒化物系半導体層は、Gaを含み、前記ドライエッチングする工程の終了時の前記プラズマの発光スペクトルでは、Gaに起因する第1発光ピークのピーク強度が、前記IV族n型不純物又は前記ハロゲン元素に起因する第2発光ピークのピーク強度より小さい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、大電流密度での動作時又は高温動作時に安定した電圧特性を有する窒化物系半導体発光素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の構成を示す断面図である。
図2図2は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子のn側電極とn型半導体との界面近傍のSi濃度を示す図である。
図3図3は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子のn側電極とn型半導体との界面近傍のCl濃度を示す図である。
図4図4は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の大電流密度での動作時の電圧増加率を示す図である。
図5図5は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の高温動作時の電圧増加率を示す図である。
図6図6は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子のp側電極とp型半導体との界面近傍のCl濃度を示す図である。
図7図7は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法を示すフローチャートである。
図8A図8Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれる、半導体膜の積層工程を説明するための断面図である。
図8B図8Bは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれる、リッジの形成工程を説明するための断面図である。
図8C図8Cは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれる、電流ブロック層の形成工程を説明するための断面図である。
図8D図8Dは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれる、p側電極の形成工程を説明するための断面図である。
図8E図8Eは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれる、密着補助層の形成工程を説明するための断面図である。
図8F図8Fは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれる、p側パッド電極の形成工程を説明するための断面図である。
図8G図8Gは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれる、n型窒化物系半導体基板の研磨工程を説明するための断面図である。
図8H図8Hは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれる、n型窒化物系半導体基板のドライエッチング工程を説明するための断面図である。
図9図9は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれるドライエッチング工程における原子又はイオンの出入りを模式的に示す図である。
図10図10は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれるドライエッチング工程の終了時のプラズマの発光スペクトルを示す図である。
図11図11は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれるドライエッチング工程における発光ピークのピーク強度の時間変化を示す図である。
図12図12は、比較例に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれるドライエッチング工程における発光ピークのピーク強度の時間変化を示す図である。
図13図13は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子のサブマウントへの実装例を示す断面図である。
図14図14は、実施の形態2に係る発光ダイオード素子の断面図である。
図15図15は、実施の形態2に係る発光ダイオード素子の製造方法を示すフローチャートである。
図16A図16Aは、実施の形態2に係る発光ダイオード素子の製造方法に含まれる、半導体層の積層工程を説明するための断面図である。
図16B図16Bは、実施の形態2に係る発光ダイオード素子の製造方法に含まれる、半導体層のドライエッチング工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の概要)
本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、IV族n型不純物を含む第1のn型窒化物系半導体層と、前記第1のn型窒化物系半導体層に接するn側電極とを備え、前記第1のn型窒化物系半導体層は、前記n側電極に接し、ハロゲン元素を含む表層領域と、前記表層領域の、前記n側電極の反対側に位置する内部領域とを有し、前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度は、1.0×1021cm-3以上であり、前記表層領域における前記ハロゲン元素のピーク濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度の10%以上であり、前記内部領域における前記IV族n型不純物の濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物の濃度より低い。
【0012】
これにより、表層領域に含まれるハロゲン元素のピーク濃度が高いので、内部領域に含まれるIV族n型不純物のn側電極への拡散を抑制することができる。IV族n型不純物の拡散が抑制されることにより、第1のn型窒化物系半導体層とn側電極と接続部分における高抵抗化が抑制されて良好なオーミックコンタクトを実現することができる。このため、大電流密度での動作時又は高温動作時に安定した電圧特性を有する窒化物系半導体発光素子が実現される。
【0013】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、前記表層領域の電流密度が0.47kAcm-2以上で使用されてもよい。
【0014】
0.47kAcm-2以上の大電流密度での動作の場合、大電流による窒化物系半導体発光素子の発熱が増加し、発熱による内部領域に含まれるIV族n型不純物のn側電極への拡散も増加する。本開示の構造を窒化物系半導体発光素子に適用することで、IV族n型不純物のn側電極へ拡散が抑制されることにより、0.47kAcm-2以上の大電流密度での動作時においても、動作電圧を安定させることができる。
【0015】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、67℃以上の動作温度で使用されてもよい。
【0016】
67℃以上の高温動作において内部領域に含まれるIV族n型不純物のn側電極への拡散も増加する。本開示の構造を窒化物系半導体発光素子に適用することで、IV族n型不純物のn側電極への拡散が抑制されることにより、67℃以上の高温動作時においても、動作電圧を安定させることができる。
【0017】
また、例えば、前記表層領域の厚さは、1nm以上100nm未満であってもよい。
【0018】
これにより、表層領域の厚さが1nm以上であることで、n型不純物のn側電極への拡散を抑制するための表層領域の厚さを十分に確保することができる。また、表層領域の厚さが100nm未満であることで、ハロゲン元素に起因する第1のn型窒化物系半導体層の欠陥の増大が抑制され、オーミックコンタクトの劣化を抑制することができる。
【0019】
また、例えば、前記n側電極は、Ti、Al、Pt、Au、Mo、Sn、In、Ni、Cr、Nb、Ba、Ag、Rh、Ir、Ru及びHfからなる群から選択される少なくとも1種類の金属、又は、少なくとも2種類の合金を含んでもよい。
【0020】
これにより、第1のn型窒化物系半導体層とn側電極との良好なオーミックコンタクトを実現することができる。
【0021】
また、例えば、前記IV族n型不純物は、Siであってもよい。
【0022】
Siは、Geなどと比較して、イオン半径が小さいため、結晶格子間にSiが入りやすく、第1のn型窒化物系半導体層への添加を高濃度にすることができる。特に、Siを含む表層領域は、不純物濃度の制御性が高いドライエッチング工程などによって容易に形成することができる。このため、窒化物系半導体発光素子の動作電圧を低くすることができ、信頼性が高く良好な電圧特性を有する窒化物系半導体発光素子を実現することができる。
【0023】
また、例えば、前記ハロゲン元素は、Clであってもよい。
【0024】
Clは、Brなどと比較して、イオン半径が小さいため、結晶格子間にClが入りやすく、第1のn型窒化物系半導体層への添加を高濃度にすることができる。特に、Clを含む表層領域は、不純物濃度の制御性が高いドライエッチング工程などによって容易に形成することができる。このため、窒化物系半導体発光素子の電圧増加率を低減することができ、安定した電圧特性を有する窒化物系半導体発光素子を実現することができる。
【0025】
また、例えば、前記表層領域の、前記n側電極に接する面は、(000-1)面であってもよい。
【0026】
これにより、窒化物系半導体発光素子を縦型構造で実現することができるので、(0001)面にn側電極を形成する場合と比較して、縦伝導にすることで、n側電極面積に応じて電流経路の面積を十分に確保することができるため、素子の動作電圧を低減することができる。
【0027】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、さらに、積層方向において前記内部領域を基準にして前記表層領域とは反対側に位置する主面を有し、前記主面は、サブマウントに接続されていてもよい。
【0028】
これにより、発光領域に近い側で窒化物系半導体発光素子はサブマウントに接続されるので、放熱性を高めることができる。
【0029】
また、例えば、前記第1のn型窒化物系半導体層は、n型窒化物系半導体基板であってもよい。
【0030】
これにより、耐熱性に優れたn側電極を形成することができる。このため、信頼性が高く良好なオーミックコンタクトを実現することができる。
【0031】
また、例えば、前記n型窒化物系半導体基板の板厚は、50μm以上150μm以下であってもよい。
【0032】
これにより、基板の厚みを大きく確保することで、表層領域を安定して形成することができる。このため、信頼性が高く良好なオーミックコンタクトを実現することができる。
【0033】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、さらに、前記n型窒化物系半導体基板の、前記表層領域とは反対側に、順に積層された第2のn型窒化物系半導体層及びp型窒化物系半導体層を備えてもよい。
【0034】
これにより、例えば、発光ダイオード素子などのpn接合を有する素子においても、動作電圧を安定させることができる。
【0035】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、さらに、基板を備え、前記第1のn型窒化物系半導体層は、前記基板上に設けられ、前記第1のn型窒化物系半導体層は、前記基板とは反対側に前記表層領域を備えてもよい。
【0036】
これにより、第1のn型窒化物系半導体層がn型基板ではない横方向に電流を流す窒化物系半導体発光素子においても、動作電圧が安定した窒化物系半導体発光素子を実現することができる。
【0037】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、さらに、前記第1のn型窒化物系半導体層の、前記基板とは反対側に順に積層されたp型窒化物系半導体層及びp側電極を備えてもよい。
【0038】
これにより、例えば、発光ダイオード素子などのpn接合を有する素子においても、動作電圧を安定させることができる。
【0039】
また、例えば、前記表層領域における前記ハロゲン元素のピーク濃度は、前記p側電極と前記p型窒化物系半導体層との界面における前記ハロゲン元素のピーク濃度よりも高くてもよい。
【0040】
これにより、p型窒化物系半導体のアクセプタに対する補償欠陥になりうるハロゲン元素の濃度がp側電極とp型窒化物系半導体との界面で低くなるので、動作電圧を更に安定させることができる。
【0041】
また、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法は、IV族n型不純物とハロゲン元素とを含むプラズマにより、n型窒化物系半導体層をドライエッチングする工程と、前記ドライエッチングする工程で前記プラズマに晒された前記n型窒化物系半導体層の表面に、n側電極を形成する工程とを含み、前記n型窒化物系半導体層の、前記表面を含む表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度は、1.0×1021cm-3以上であり、前記表層領域における前記ハロゲン元素のピーク濃度は、前記表層領域における前記IV族n型不純物のピーク濃度の10%以上である。
【0042】
これにより、IV族n型不純物の添加とハロゲン元素の添加とをドライエッチング工程によって同時に行うことができるので、容易に表層領域を形成することができる。表層領域に含まれるハロゲン元素のピーク濃度が高いので、内部領域に含まれるIV族n型不純物のn側電極への拡散を抑制することができる。IV族n型不純物の拡散が抑制されることにより、n型窒化物系半導体層とn側電極と接続部分における高抵抗化が抑制されて良好なオーミックコンタクトを実現することができる。このように、大電流密度での動作時又は高温動作時に安定した電圧特性を有する窒化物系半導体発光素子を簡単に製造することができる。
【0043】
また、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法は、IV族n型不純物とハロゲン元素とを含むプラズマにより、n型窒化物系半導体層をドライエッチングする工程と、前記ドライエッチングする工程で前記プラズマに晒された前記n型窒化物系半導体層の表面にn側電極を形成する工程とを含み、前記n型窒化物系半導体層は、Gaを含み、前記ドライエッチングする工程の終了時の前記プラズマの発光スペクトルでは、Gaに起因する第1発光ピークのピーク強度が、前記IV族n型不純物又は前記ハロゲン元素に起因する第2発光ピークのピーク強度より小さくてもよい。
【0044】
これにより、発光スペクトルを確認しながらドライエッチング工程を行うことで、IV族n型不純物及びハロゲン元素の添加量を調整することができる。したがって、n側電極とn型窒化物系半導体層との界面におけるIV族n型不純物及びハロゲン元素の濃度を容易に調整することができ、界面におけるハロゲン元素のピーク濃度を高めることができる。これにより、大電流密度での動作時又は高温動作時に安定した電圧特性を有する窒化物系半導体発光素子を簡単に製造することができる。
【0045】
また、例えば、前記IV族n型不純物は、Siであり、前記ハロゲン元素は、Clであり、前記第1発光ピークは、Gaの原子若しくはイオン、又は、Gaを含む分子若しくは分子イオンに起因し、前記第2発光ピークは、Si及びClの少なくとも一方の原子若しくはイオン、又は、Si及びClの少なくとも一方を含む分子若しくは分子イオンに起因してもよい。
【0046】
これにより、Si及びClを含む表層領域を、不純物濃度の制御性が高いドライエッチング工程などによって容易に形成することができる。
【0047】
また、例えば、前記第1発光ピークの中心波長は、294nm以上295nm以下の範囲に位置し、前記第2発光ピークの中心波長は、390nm以上391nm以下の範囲に位置してもよい。
【0048】
これにより、第1発光ピークの変化が大きくなるので、発光スペクトルを確認しながらのドライエッチング工程の制御を容易に行うことができる。
【0049】
また、例えば、前記n型窒化物系半導体層は、n型窒化物系半導体基板を含み、前記製造方法は、さらに、前記ドライエッチングする工程の前に、前記n型窒化物系半導体基板を研磨する工程を含み、前記ドライエッチングする工程では、前記n型窒化物系半導体基板の研磨された面をドライエッチングし、前記n型窒化物系半導体基板のドライエッチングされた面の転位密度は、1×10cm-2以下であってもよい。
【0050】
これにより、研磨工程を含むことで、窒化物系半導体発光素子を容易に薄型化することができる。また、研磨工程で受けたダメージをドライエッチング工程で容易に除去することができる。つまり、ダメージの除去とn型不純物及びハロゲン元素の添加とを同時に行うことができるので、工程数を削減することができる。
【0051】
また、例えば、前記ドライエッチングする工程は、前記n型窒化物系半導体層の(000-1)面をドライエッチングしてもよい。
【0052】
これにより、縦型構造の窒化物系半導体発光素子を製造することができる。
【0053】
以下では、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0054】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0055】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0056】
また、本明細書において、要素間の関係性を示す用語、及び、要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0057】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0058】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の構成を示す断面図である。
【0059】
半導体レーザ素子1は、窒化物系半導体発光素子の一例である。なお、本実施の形態では、窒化物系半導体は、III-V族窒化物系半導体である。例えば、窒化物系半導体は、GaN、AlGaN及びInGaNなどのGaNを主成分とする半導体である。なお、窒化物系半導体は、PやAsなどのV族元素を少量含んでいてもよい。
【0060】
図1に示されるように、半導体レーザ素子1は、基板10と、n型クラッド層12と、n型ガイド層14と、発光層16と、p側ガイド層18と、電子ブロック層20と、p型クラッド層22と、p型コンタクト層24と、p側電極26と、電流ブロック層28と、密着補助層30と、パッド電極32と、n側電極34とを備える。半導体レーザ素子1は、リッジ構造を有する。本実施の形態では、説明の都合上、発光層16に対してn側電極34が位置する方向を「下方(下層側)」とし、発光層16に対してp側電極26(及びリッジ)が位置する方向を「上方(上層側)」としている。
【0061】
以下に示される表1は、半導体レーザ素子1を構成する主な層の具体的な構成の一例を示している。各層の具体的な構成は一例に過ぎず、材料、膜厚、不純物濃度及び層数などは適宜変更可能である。
【0062】
【表1】
【0063】
基板10は、IV族n型不純物を含む第1のn型窒化物系半導体層の一例である。具体的には、基板10は、n型窒化物系半導体基板の一例である。基板10は、例えば、n型のGaN基板である。基板10の板厚は、例えば50μm以上150μm以下である。本実施の形態では、基板10の面方位は(0001)面である。
【0064】
基板10には、IV族n型不純物が添加されている。IV族n型不純物は、例えば、シリコン(Si)である。なお、基板10に含まれるIV族n型不純物は、ゲルマニウム(Ge)などであってもよい。表1に示されるように、基板10の不純物濃度(具体的には、Si濃度)は、例えば1.40×1018cm-3である。
【0065】
図1に一部が模式的に拡大されて示されるように、基板10は、表層領域10aと、内部領域10bとを有する。
【0066】
表層領域10aは、基板10の一部であり、n側電極34に接する部分である。表層領域10aの、n側電極34に接する面10cは、(000-1)面である。つまり、基板10を構成するGaNの結晶構造における(000-1)面に、n側電極34が設けられている。表層領域10aは、例えば、基板10の面10cの、n側電極34に接する範囲、又は、面10cの全体を含む所定の厚さの領域である。表層領域10aの厚さは、例えば1nm以上100nm未満である。表層領域10aは、ハロゲン元素を含んでいる。ハロゲン元素は、例えば、塩素(Cl)である。
【0067】
表層領域10aにおけるIV族n型不純物のピーク濃度は、1.0×1021cm-3以上である。また、表層領域10aにおけるハロゲン元素のピーク濃度は、表層領域10aにおけるIV族n型不純物のピーク濃度の10%以上である。表層領域10aに含まれるIV族n型不純物及びハロゲン元素の濃度の深さ方向における分布の一例は、図2及び図3を用いて後で説明する。なお、ピーク濃度とは、深さ方向における濃度分布における濃度の極大値を意味する。
【0068】
内部領域10bは、基板10の一部であり、表層領域10aの、n側電極34の反対側に位置する。内部領域10bは、例えば、基板10の表層領域10a以外の部分である。内部領域10bの上面にn型クラッド層12が設けられている。内部領域10bにおけるIV族n型不純物の濃度は、表層領域10aにおけるIV族n型不純物の濃度より低い。
【0069】
n型クラッド層12は、基板10の表層領域10aとは反対側の(0001)面に積層された第2のn型窒化物系半導体層の一例である。n型クラッド層12は、基板10とn型ガイド層14との間に各々に接して設けられている。n型クラッド層12は、例えば、表1に示されるように、膜厚が3μmのAlGaN層である。Alの組成比は、例えば2.6%である。n型クラッド層12には、IV族n型不純物の一例であるSiが添加されている。n型クラッド層12の不純物濃度は、基板10の不純物濃度より低く、例えば5.00×1017cm-3である。
【0070】
n型ガイド層14は、基板10の表層領域10aとは反対側に積層された第2のn型窒化物系半導体層の一例である。n型ガイド層14は、n型クラッド層12と発光層16との間に各々に接して設けられている。n型ガイド層14は、例えば、表1に示されるように、膜厚が127nmのGaN層である。n型ガイド層14には、IV族n型不純物の一例であるSiが添加されている。n型ガイド層14の不純物濃度は、n型クラッド層12の不純物濃度と同等であり、基板10の不純物濃度より低く、例えば5.00×1017cm-3である。
【0071】
発光層16は、半導体レーザ素子1の発光部を形成する層である。発光層16は、n型ガイド層14とp側ガイド層18との間に各々に接して設けられている。
【0072】
本実施の形態では、発光層16は、多重量子井戸構造を有する。具体的には、発光層16は、1層ずつ交互に積層された複数の井戸層及び複数の障壁層を有する。より具体的には、表1に示されるように、発光層16は、2層の井戸層と、3層の障壁層とを有する。2層の井戸層はいずれも、膜厚が7.5nmのアンドープInGaN層である。井戸層のInの組成比は、発振波長が405nmになるように調整されている。3層の障壁層は、いずれもアンドープIn0.08Ga0.92N層であり、表1に示されるように、膜厚は互いに異なっている。
【0073】
p側ガイド層18は、第2のn型窒化物系半導体層に積層されたp型窒化物系半導体層の一例を含んでいる。p側ガイド層18は、発光層16と電子ブロック層20との間に各々に接して設けられている。p側ガイド層18は、例えば、表1に示されるように、膜厚40nmのアンドープInGaN層と、膜厚6nmのアンドープGaN層と、膜厚3nmのp型GaN層との積層構造を有する。アンドープInGaN層のInの組成比は、例えば0.3%である。p型GaN層は、p型窒化物系半導体層の一例であり、p型不純物としてMgが添加されている。p型GaN層の不純物濃度は、基板10の不純物濃度よりも高く、例えば1.50×1019cm-3である。
【0074】
電子ブロック層20は、発光層16からp側電極26に移動する電子をブロックする。電子ブロック層20が設けられていることで、発光層16に対する電子の注入効率を高めることができ、発光効率を高めることができる。電子ブロック層20は、p側ガイド層18とp型クラッド層22との間に各々に接して設けられている。電子ブロック層20は、例えば、表1に示されるように、複数のp型AlGaN層の積層構造を有する。複数のp型AlGaN層は、膜厚及びAlの組成比が互いに異なっている。p側ガイド層18に接するp型AlGaN層(下層側)は、膜厚が5nmであり、Alの組成比が、p側ガイド層18からp型クラッド層22に向かう方向に沿って4%から36%まで漸増している。p型クラッド層22に接するp型AlGaN層(上層側)は、膜厚が2nmであり、Alの組成比が36%である。2つのp型AlGaN層には、p型不純物としてMgが添加されている。p型AlGaN層の不純物濃度は、p側ガイド層18のp型GaN層の不純物濃度と同等であり、例えば1.50×1019cm-3である。
【0075】
p型クラッド層22は、第2のn型窒化物系半導体層に積層されたp型窒化物系半導体層の一例である。p型クラッド層22は、電子ブロック層20とp型コンタクト層24との間に各々に接して設けられている。図1に示されるように、p型クラッド層22は、n側電極34からp側電極26に向かう方向に突出した凸部22aを有する。具体的には、凸部22aは、半導体レーザ素子1の[1-100]方向に延びるリッジの一部である。凸部22aの高さは、例えば680nmである。
【0076】
p型クラッド層22は、例えば、表1に示されるように、複数のp型AlGaN層の積層構造を有する。複数のp型AlGaN層は、膜厚及び不純物濃度が互いに異なっている。複数のp型AlGaN層の各々のAlの組成比は、互いに等しく、例えば2.6%である。複数のp型AlGaN層には、p型不純物としてMgが添加されている。電子ブロック層20に接するp型AlGaN層(下層側)の不純物濃度は、電子ブロック層20の不純物濃度より低く、例えば2.00×1018cm-3である。p型コンタクト層24に接するp型AlGaN層(上層側)の不純物濃度は、電子ブロック層20に接するp型AlGaN層の不純物濃度より高く、かつ、電子ブロック層20の不純物濃度より低く、例えば1.00×1019cm-3である。
【0077】
p型コンタクト層24は、p型クラッド層22とp側電極26との間に各々に接して設けられている。本実施の形態では、p型コンタクト層24は、p型クラッド層22の凸部22a上に設けられている。つまり、p型コンタクト層24は、半導体レーザ素子1のリッジの一部である。
【0078】
p型コンタクト層24は、例えば、表1に示されるように、複数のp型GaN層の積層構造を有する。複数のp型GaN層は、膜厚及び不純物濃度が互いに異なっている。複数のp型GaN層には、p型不純物としてMgが添加されている。p型クラッド層22に接するp型GaN層(下層側)の不純物濃度は、p型クラッド層22の不純物濃度より高く、例えば2.00×1019cm-3である。p側電極26に接するp型GaN層(上層側)の不純物濃度は、p型クラッド層22に接するp型GaN層の不純物濃度より高く、例えば2.00×1020cm-3である。つまり、p側電極26に接するp型GaN層は、p型不純物がヘビードープされた状態である。
【0079】
p側電極26は、p型コンタクト層24に接して設けられている。p側電極26は、金属材料を用いて形成されている。例えば、表1に示されるように、p側電極26は、膜厚が40nmのPd膜と、膜厚が35nmのPt膜との積層構造を有する。Pd膜が下層側に位置し、p型コンタクト層24と接している。p側電極26の平面視における面積は、例えば4.4×10-5cmである。なお、平面視とは、基板10の主面(例えば、GaNの結晶構造の(0001)面)に直交する方向から見ることを意味している。
【0080】
電流ブロック層28は、パッド電極32とp型クラッド層22との間に位置しており、パッド電極32からn側電極34に向かって流れる電流を抑制する。電流ブロック層28は、図1に示されるように、半導体レーザ素子1のリッジの側方に設けられている。具体的には、電流ブロック層28は、p型クラッド層22の凸部22aの側面と、p型クラッド層22の凸部22a以外の上面とを覆っている。なお、電流ブロック層28は、p型コンタクト層24の側面を覆っていてもよい。電流ブロック層28は、絶縁性を有する材料を用いて形成されている。例えば、電流ブロック層28は、膜厚が300nmのシリコン酸化膜である。
【0081】
密着補助層30は、パッド電極32の電流ブロック層28に対する密着性を高めるために設けられている。密着補助層30は、パッド電極32と電流ブロック層28との間に各々に接して設けられている。密着補助層30は、例えば、リッジの両側に設けられている。密着補助層30は、金属材料を用いて形成されている。具体的には、密着補助層30は、膜厚が10nmのTi膜と、膜厚が50nmのPt膜との積層構造を有する。Ti膜が下層側に位置し、電流ブロック層28に接している。
【0082】
パッド電極32は、p側電極26に接して設けられている。パッド電極32は、図1に示されるように、p側電極26、p型コンタクト層24、電流ブロック層28及び密着補助層30を覆っている。パッド電極32は、例えば、表1に示されるように、膜厚が1.6μmの金属膜であり、Auを用いて形成されている。
【0083】
n側電極34は、第1のn型窒化物系半導体層に接するn側電極の一例である。n側電極34は、基板10の表層領域10aに接している。n側電極34は、金属材料を用いて形成されている。具体的には、n側電極34は、Ti、Al、Pt、Au、Mo、Sn、In、Ni、Cr、Nb、Ba、Ag、Rh、Ir、Ru及びHfからなる群から選択される少なくとも1種類の金属、又は、当該群から選択される少なくとも2種類の合金を含んでいる。例えば、表1に示されるように、n側電極34は、膜厚300nmのAu膜と、膜厚35nmのPt膜と、膜厚10nmのTi膜との積層構造を有する。Ti膜が上層側に位置し、表層領域10aに接している。n側電極34の平面視における面積は、例えば1.0×10-3cmである。
【0084】
以上の構成を有する半導体レーザ素子1は、例えば、発振波長が405nmのレーザ光(青紫色)を出射する。半導体レーザ素子1のチップ幅は150μmであり、共振器長は800μmであり、リッジ幅(ストライプ幅)は7μmである。半導体レーザ素子1の光出力は、連続発振で0.7Wである。半導体レーザ素子1の最大動作電流は、0.47Aである。このときのp側電極26の電流密度は、1.1kAcm-2であり、n側電極34の電流密度は、0.47kAcm-2である。また、n側電極34の電極面積は、1.0×10-3cmである。半導体レーザ素子1の動作電圧は、4.7Vであり、動作時の最大ジャンクション温度は、91℃である。なお、これらの数値は一例に過ぎず、各値は適宜設計変更されてもよい。
【0085】
また、表1では、発光層16が多重量子井戸構造を有する例を説明したが、発光層16は、表2に示されるように、単一量子井戸構造を有してもよい。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示される変形例に係る半導体レーザ素子1は、表1に示される構造と比較して、発光層16の層構成と、p側ガイド層18の下層側のInGaN層、p側電極26のPt膜及びパッド電極32の各々の膜厚とが相違している。また、表1及び表2には示されていないが、密着補助層30のPt膜の膜厚も相違している。具体的には、密着補助層30のPt膜の膜厚は、表1に示される場合よりも大きく、例えば100nmである。
【0088】
本変形例に係る発光層16は、1層の井戸層と2層の障壁層を有する。井戸層は、膜厚が7.5nmのアンドープInGaN層である。井戸層のInの組成比は、例えば、発振波長が405nmになるように調整されている。2層の障壁層は、いずれもアンドープIn0.08Ga0.92N層であり、表1に示されるように、膜厚は互いに異なっている。
【0089】
n型ガイド層14に接するInGaN層(下層側)の膜厚は、190nmである。また、p側ガイド層18のInGaN層の膜厚が、表1に示される場合よりも大きく、60nmである。これにより、積層方向における井戸層への光閉じ込め効果を高めることができ、かつ、2.9cm-1という導波路の低損失化を実現することができる。
【0090】
本変形例に係る半導体レーザ素子1は、例えば、発振波長が405nmのレーザ光を出射する。本変形例に係る半導体レーザ素子1のチップ幅は150μmであり、共振器長は1200μmであり、リッジ幅は30μmである。本変形例に係る半導体レーザ素子1の光出力は、連続発振で3.5Wである。本変形例に係る半導体レーザ素子1の最大動作電流は、2.4Aである。このときのp側電極26の電流密度は、6.2kAcm-2であり、n側電極34の電流密度は、1.8kAcm-2である。また、n側電極34の電極面積は、1.3×10-3cmである。本変形例に係る半導体レーザ素子1の動作電圧は、4.9Vであり、動作時の最大ジャンクション温度は、140℃以上150℃以下である。なお、これらの数値は一例に過ぎず、各値は適宜設計変更されてもよい。
【0091】
本変形例では、リッジ幅が30μm以上であることで、レーザの光密度を低減することができ、半導体レーザ素子1の端面におけるレーザ自身の光吸収による端面破壊を抑制することができる。また、共振器長が1200μm以上であることで、半導体レーザ素子1の放熱性を高めることができる。なお、発光層16が単一量子井戸構造を有するので、共振器長の増大に伴う、発振電流閾値の増大、及び、電流-光出力特性におけるスロープ効率の低下を抑制することができる。このように、本変形例に係る半導体レーザ素子1では、発振電流閾値の低減、及び、動作電流の低減を実現することができる。
【0092】
発光層16が単一量子井戸構造を有する場合、多重量子井戸構造の場合に比べて、動作時のキャリア密度が大きくなる。このため、動作中の半導体レーザ素子1の自己発熱による影響で発光層16からp型クラッド層22への漏れ電流が発生しやすいという問題がある。
【0093】
これに対して、本変形例では、n側電極34に接触する表層領域10aにIV族n型不純物とハロゲン元素とを多く含むので、大電流密度での動作時及び高温動作時において、安定した電圧特性を実現することができる(詳細は後述する)。このため、半導体レーザ素子1を長期間動作させたとしても、動作電圧の変動が小さく、電圧増加に基づく自己発熱の増大を抑制することができる。したがって、発光層16が単一量子井戸構造を有する場合においても、安定した低動作電流特性を実現することができる。この結果、レーザの光出力が3Wを超えるような超高出力動作においても、長期間に亘って信頼性の高い動作が保証でき、低動作電流の半導体レーザ素子1を実現することができる。
【0094】
なお、半導体レーザ素子1の発振波長は、405nmに限らない。例えば、半導体レーザ素子1は、発振波長が445nmのレーザ光(青色)を出射してもよい。青色光の半導体レーザ素子1は、表2に示される変形例に係る半導体レーザ素子1と同様の構成で実現することができる。具体的には、発光層16の井戸層のInの組成比を調整することで、青色のレーザを出力するレーザ素子が実現される。
【0095】
続いて、表層領域10aの近傍のIV族n型不純物及びハロゲン元素の濃度の具体例について、図2及び図3を用いて説明する。
【0096】
図2は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1のn側電極34と基板10(n型半導体)との界面近傍のSi濃度を示す図である。図2は、実施例及び比較例に係る半導体レーザ素子の各々をSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析した結果を示している。
【0097】
図2に示されるように、Si濃度は、n側電極34と基板10との界面の近傍にピークを有する山型のグラフで表されている。つまり、Siは、n側電極34と基板10との両側に含まれている。Siのピーク濃度は、実施例では約3×1021cm-3であり、比較例よりも大きい。
【0098】
基板10の表層領域10aにおけるSi濃度は、1.0×1021cm-3以上である。表層領域10aにおけるSi濃度は、実施例が比較例より大きくなっている。また、内部領域10bにおけるSi濃度は、表層領域10aにおけるSi濃度より低い。
【0099】
n側電極34に含まれるSiは、基板10の表層領域10aに添加されたSiが拡散したものである。n側電極34の基板10から離れた部分(例えば、深さが5nm~45nmの範囲)では、実施例に係るSi濃度が1.0×1018cm-3より低くなっており、比較例に係るSi濃度よりも一桁以上低くなっている。言い換えると、n側電極34におけるSi濃度の最低値は、基板10の表面からの深さが5nm以上45nm以下の範囲内にあり、その値は1.0×1018cm-3より低い。
【0100】
図3は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1のn側電極34と基板10(n型半導体)との界面近傍のCl濃度を示す図である。図3は、実施例及び比較例に係る半導体レーザ素子の各々をSIMS分析した結果を示している。
【0101】
図3に示されるように、Cl濃度は、n側電極34と基板10との界面の近傍にピークを有する山型のグラフで表されている。つまり、Clは、n側電極34と基板10との両側に含まれている。Clのピーク濃度は、実施例では約4×1020cm-3であり、比較例よりも大きい。また、Clのピーク濃度は、Siのピーク濃度の10%(すなわち、約3×1020cm-3)以上である。Clのピーク濃度は、例えば、Siのピーク濃度の100%未満であり、50%以下であってもよい。
【0102】
n側電極34に含まれるClは、基板10の表層領域10aに添加されたClが拡散したものである。Clは、n側電極34と基板10との界面を境に、両側に略均等に拡散している。具体的には、界面から約25nm離れた深さにおいて、Cl濃度は約1.0×1018cm-3になっており、ピーク濃度よりも二桁以上低くなっている。
【0103】
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1では、図2及び図3に示されるように、表層領域10aにSi及びClが高い濃度で含まれている。Siを多く含むことで、表層領域10aの低抵抗化が実現される。一方で、Siがn側電極34に拡散した場合、n側電極34が高抵抗化する恐れがある。本実施の形態では、表層領域10aに多く含まれるClが、n側電極34へのSiの拡散を抑制すると推測される。これにより、n側電極34と基板10との良好なオーミックコンタクトが実現される。良好なオーミックコンタクトが実現されることにより、大電流密度での動作時及び高温動作時において、安定した電圧特性を実現することができる。
【0104】
図4は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の大電流密度での動作時に電圧増加率を示す図である。図4において、横軸は、表層領域10aに含まれるSiのピーク濃度を表している。縦軸は、半導体レーザ素子1を動作させているときの動作電圧の増加率(電圧増加率)を表している。電圧増加率は、動作開始時の開始電圧と、動作開始から所定時間経過後の電圧との差分の、開始電圧に対する割合である。図4では、47時間経過後の電圧増加率を示している。
【0105】
図4に示されるように、表層領域10aの電流密度が0.47kAcm-2である大電流密度での動作では、Si濃度が5.0×1020cm-3の場合に電圧増加率が3%と高くなっている。これに対して、Si濃度が1.0×1021cm-3以上の場合には、電圧増加率が1%以下に抑制されている。
【0106】
なお、電流密度が0.35kAcm-2であって大きくない場合には、Si濃度が5.0×1020cm-3の場合でも、電圧増加率が1%に抑制されている。つまり、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1は、電流密度が0.47kAcm-2以上で使用されることで、安定した電圧特性をより効果的に利用することができる。なお、電流密度が0.35kAcm-2であって大きくない場合も、電圧増加率が1%よりも低く抑制されている。つまり、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1は、安定した動作が可能な電流密度の範囲が広く、様々な環境下で利用することができる。
【0107】
図5は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の高温動作時の電圧増加率を示す図である。図5において、横軸は、動作時間を表している。縦軸は、半導体レーザ素子1の電圧増加率を表している。図5に示される実施例及び比較例は、図2及び図3に示される実施例及び比較例と同じである。具体的には、比較例に係る半導体レーザ素子は、表層領域10aのSiのピーク濃度が1.0×1021cm未満であり、かつ、Clのピーク濃度がSiのピーク濃度の10%未満である素子である。ここでの動作温度は、67℃である。
【0108】
図5に示されるように、比較例に係る半導体レーザ素子では、動作時間の経過とともに電圧増加率が上昇している。具体的には、比較例に係る半導体レーザ素子では、30時間経過時点で電圧増加率が4%になっている。これに対して、実施例に係る半導体レーザ素子1では、40時間以上経過した後であっても、電圧増加率が0.2%に抑制されている。このように、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1は、67℃以上の動作温度で使用された場合であっても、動作電圧が安定した状態で動作させることができる。
【0109】
本実施の形態では、p側電極26と、p側電極26が接触するp型窒化物系半導体層(具体的にはp型コンタクト層24)との界面にもハロゲン元素が含まれている。ここでのハロゲン元素は、表層領域10aに含まれるハロゲン元素と同じであり、例えば、Clである。なお、p側電極26とp型コンタクト層24との界面に含まれるハロゲン元素は、表層領域10aに含まれるハロゲン元素とは異なっていてもよい。
【0110】
図6は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1のp側電極26とp型コンタクト層24(p型半導体)との界面近傍のCl濃度を示す図である。図6は、実施例に係る半導体レーザ素子1をSIMS分析した結果を示している。
【0111】
p側電極26とp型コンタクト層24との界面近傍には、ハロゲン元素の一例であるClが含まれている。具体的には、図6に示されるように、Cl濃度は、p側電極26とp型コンタクト層24との界面からp型コンタクト層24の内部に向かって漸減している。なお、界面は、p側電極26の表面からの深さが75nmの位置に位置している。Cl濃度は、界面近傍で約1.0×1019cm-3であり、界面からの深さが約80nm以上では約2.0×1019cm-3以下になっている。
【0112】
本実施の形態では、n側電極34に接触する表層領域10aにおけるClのピーク濃度は、p側電極26とp型コンタクト層24との界面におけるClのピーク濃度よりも高い。具体的には、図3に示されるように、表層領域10aにおけるClのピーク濃度は約4.0×1020cm-3であるので、一桁以上、p側電極26とp型コンタクト層24との界面におけるClのピーク濃度よりも高くなっている。
【0113】
これにより、p型コンタクト層24のアクセプタに対する補償欠陥になりうるClの濃度がp側電極26とp型コンタクト層24との界面で低くなるので、動作電圧をさらに安定させることができる。
【0114】
続いて、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法について、図7及び図8A図8Hを用いて説明する。
【0115】
図7は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法を示すフローチャートである。図8A図8Hはそれぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法に含まれる各工程を説明するための断面図である。
【0116】
まず、図7に示されるように、窒化物系半導体膜及び保護膜を形成する(S10)。具体的には、図8Aに示されるように、基板11上に、複数の窒化物系半導体膜を順に成膜する。窒化物系半導体膜の成膜は、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、又は、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法などのエピタキシャル成長法を用いて行われる。これにより、基板11上に、n型クラッド層12、n型ガイド層14、発光層16、p側ガイド層18、電子ブロック層20、p型窒化物系半導体膜23及びp型窒化物系半導体膜25がこの順で形成される。
【0117】
ここで、基板11は、基板10より厚いn型窒化物系半導体基板である。後の工程で、基板11の下面が研磨及びドライエッチングされることにより、基板11は、基板10になる。また、p型窒化物系半導体膜23及び25はそれぞれ、リッジ構造を形成するためにパターニングされることで、p型クラッド層22及びp型コンタクト層24になる。
【0118】
窒化物系半導体膜を成膜した後、図8Aに示されるように、p型窒化物系半導体膜25上に保護膜40を形成する。保護膜40は、例えば、シリコン酸化膜などの絶縁膜であり、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などにより形成される。保護膜40が設けられることで、p型窒化物系半導体膜23及び25のパターニングの際のダメージからp型窒化物系半導体膜25(p型コンタクト層24)の表面を保護することができる。
【0119】
次に、図7に示されるように、半導体レーザ素子1のリッジを形成する(S12)。具体的には、保護膜40、p型窒化物系半導体膜25及びp型窒化物系半導体膜23の各々の、平面視において所定領域に位置する部分を除去することで、リッジを形成する。例えば、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ及びエッチングを行うことによって、除去対象部分を除去する。
【0120】
具体的には、図8Bに示されるように、保護膜40を所定形状にパターニングすることで、保護層41を形成した後、感光性レジストを除去し、形成した保護層41をマスクとして用いてp型窒化物系半導体膜25及び23をエッチングする。p型窒化物系半導体膜25及び23のエッチングは、ドライエッチングであるが、ウェットエッチングでもよい。ドライエッチングの際にチャンバー内に導入されるガスは、例えば、BCl及びClを含む塩素系ガスである。これらの塩素系ガスが保護層41を介してp型窒化物系半導体膜25(すなわち、p型コンタクト層24)の表層部分に添加される。
【0121】
これにより、図8Bに示されるように、p型コンタクト層24及びp型クラッド層22の凸部22a、すなわち、リッジが形成される。凸部22a以外の領域において保護層41及びp型コンタクト層24は、積層方向において全て除去され、p型クラッド層22は、電子ブロック層20が露出しないように一部のみが除去されている。凸部22aの幅がリッジ幅に相当する。リッジを形成した後、保護層41は除去されてもよい。
【0122】
なお、リッジを形成する前、又は、リッジを形成した後に、半導体レーザ素子1を分離するための分離溝を形成してもよい。例えば、平面視において半導体レーザ素子1の素子領域以外の領域に位置する、p型窒化物系半導体膜25からn型クラッド層12の少なくとも一部までを除去することで、分離溝を形成することができる。また、リッジと分離溝との間に、ダミーリッジ(p側電極26が設けられていないリッジ)が設けられてもよい。
【0123】
次に、図7に示されるように、p側電極26及びパッド電極32を形成する(S14)。具体的には、図8Cに示されるように、まず、p型コンタクト層24とp型クラッド層22の露出部分との全体を覆うように絶縁膜42を形成する。絶縁膜42は、例えばシリコン酸化膜であり、プラズマCVD法などにより形成される。次に、図8Dに示されるように、絶縁膜42を所定形状にパターニングすることで、電流ブロック層28を形成する。絶縁膜42のパターニングは、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ及びエッチングによって行われる。絶縁膜42のエッチングは、ドライエッチングであるが、ウェットエッチングまたはドライエッチングとウェットエッチングの組合せでもよい。シリコン酸化膜のドライエッチングは、例えば、導入ガスとしてCF及びCHFを含むフッ素系ガスが用いられる。
【0124】
さらに、図8Dに示されるように、所定形状のp側電極26をp型コンタクト層24上に形成する。具体的には、感光性レジストの塗布及びフォトリソグラフィを行うことで、リッジの上部(すなわち、p型コンタクト層24の一部)のみに開口を有するレジスト層を形成する。次に、形成したレジスト層上に、Pd膜及びPt膜を順に成膜する。Pd膜及びPt膜などの金属膜の成膜は、例えば蒸着法又はスパッタリング法によって行われる。金属膜の成膜後、リフトオフ法により、p型コンタクト層24上にp側電極26を形成する。なお、全面に金属膜を形成した後、エッチングなどで金属膜をパターニングすることでp側電極26を形成してもよい。
【0125】
さらに、図8Eに示されるように、電流ブロック層28上に所定形状の密着補助層30を形成する。具体的には、p側電極26と同様に、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ、金属膜の成膜、及び、リフトオフ法による金属膜のパターニングを順に行うことで、密着補助層30を形成する。金属膜の成膜は、Ti膜及びPt膜の積層膜であり、蒸着法又はスパッタリング法によって行われる。密着補助層30は、電流ブロック層28上のみに形成され、p型コンタクト層24、p側電極26には接触しない。
【0126】
次に、図8Fに示されるように、p側電極26、密着補助層30及び電流ブロック層28を覆うようにパッド電極32を形成する。具体的には、p側電極26と同様に、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ、金属膜の成膜、及び、リフトオフ法による金属膜のパターニングを順に行うことで、パッド電極32を形成する。金属膜の成膜は、Au膜であり、蒸着法、スパッタリング法またはメッキ法によって行われる。
【0127】
次に、図7に示されるように、基板11の研磨を行う(S16)。研磨は、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)によって行われる。これにより、図8Gに示されるように、基板11の板厚が小さくなり、薄型化された基板10が形成される。この際、基板10の研磨面には、ダメージが形成され、例えば、10×1010cm-2程度の密度で転位が形成される。
【0128】
次に、図7に示されるように、基板10の研磨された面10cを洗浄する(S18)。具体的には、有機物を用いた洗浄、及び、酸素プラズマを用いたアッシング処理を行うことで、研磨された面10cに付着した有機物を除去する。
【0129】
次に、研磨された面10cに残るダメージの除去を行う(S20)。さらに、基板10の面10c側からIV族n型不純物とハロゲン元素との共添加を行う(S22)。これにより、基板10には、IV族n型不純物とハロゲン元素とを含む表層領域10aが形成される。ここで、表層領域10aの転位密度は、10×10cm-2以下、例えば10×10cm-2以下に低減される。
【0130】
本実施の形態では、ダメージの除去(S20)及び共添加(S22)を、ISM(Inductively Super Magnetron)方式のドライエッチングによって同時に行う。具体的には、IV族n型不純物とハロゲン元素とを含むプラズマにより、基板10をドライエッチングする。
【0131】
例えば、図8Hに示されるように、研磨後のn側電極34が形成される前の半導体レーザ素子1を、研磨された面10cが表出するようにシリコントレイ50に載せた状態で、面10c側からドライエッチングを行う。ドライエッチングを行うことで、研磨にダメージを受けた領域を除去するとともに、その表面(及び表層領域10a)にSi及びClを添加することができる。ドライエッチングの詳細については、後で説明する。
【0132】
最後に、図7に示されるように、ドライエッチングによってプラズマに晒された面10cにn側電極34を形成する(S24)。具体的には、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ、金属膜の成膜、及び、リフトオフ法による金属膜のパターニングを順に行うことで、n側電極34を形成する。金属膜の成膜は、例えば、Ti膜、Pt膜及びAu膜であり、蒸着法又はスパッタリング法によって行われる。
【0133】
以上の工程を経て、図1に示される半導体レーザ素子1が製造される。
【0134】
続いて、基板10のドライエッチング工程の詳細について、図9図12を用いて説明する。
【0135】
図9は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法に含まれるドライエッチング工程における原子又はイオンの出入りを模式的に示す図である。ここでのドライエッチングでは、Clガスが用いられる。Clガスの供給量は、例えば45sccmである。
【0136】
図9に示されるように、シリコントレイ50の上方に発生するプラズマによってイオン化したClイオンが、半導体レーザ素子1の基板10の表層領域10aの表面をエッチングする。表層領域10aをエッチングすることで、Gaがイオン又は分子として放出される。このとき、Clイオンの一部は表層領域10aに取り込まれる。
【0137】
また、ClイオンまたはClラジカルは、シリコントレイ50の表面もエッチングする。シリコントレイ50は、半導体レーザ素子1を備える支持台であり、かつ、表層領域10aに添加するSiの供給源として機能する。シリコントレイ50から放出されたSiイオンが表層領域10aに取り込まれる。
【0138】
本実施の形態では、シリコントレイ50は、エッチングされてSiイオンが放出されやすくなるように表面処理されている。具体的には、シリコントレイ50の表面は、フッ酸処理されている。これにより、シリコントレイ50の表面に形成される酸化膜を除去し、表面に露出するSiを多くすることができ、放出されるSiイオンの量を増やすことができる。また、フッ酸処理に加えて、又は、フッ酸処理の代わりに、シリコントレイ50を平滑化してもよい。この場合も、放出されるSiイオンの量を増やすことができる。Siイオンの量を増やすことで表層領域10aに添加されるSiの量を増やすことができる。
【0139】
ドライエッチング工程において、プラズマの発光スペクトルは、プラズマに含まれる物質に起因する特有のピークを有する。当該特有のピークの時間変化を確認することにより、ドライエッチングの進行具合、すなわち、IV族n型不純物及びハロゲン元素の添加量を制御することができる。
【0140】
図10は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法に含まれるドライエッチング工程の終了時のプラズマの発光スペクトルを示す図である。なお、終了時とは、終了直前のことを意味し、例えば、プラズマを発生させるための電力の供給を停止時点の直前の1秒間に含まれるタイミングを意味する。図10において、横軸は、発光波長を表している。縦軸は、対応する波長の光の強度を表している。
【0141】
図10に示されるように、プラズマの発光スペクトルは、複数のピークを有する。複数のピークには、Gaに起因する第1発光ピーク、及び、IV族n型不純物又はハロゲン元素に起因する第2発光ピークが含まれる。
【0142】
第1発光ピークは、具体的には、Gaの原子若しくはイオン、又は、Gaを含む分子若しくは分子イオンに起因するピークである。例えば、中心波長が294nm以上295nm以下の範囲に位置するピークが第1発光ピークの一例である。Gaは基板10から放出されるので、第1発光ピークの強度が大きい場合には、基板10のエッチングが順調に行われており、第1発光ピークの強度が小さい場合には、基板10のエッチングがあまり行われていないことを意味する。
【0143】
第2発光ピークは、具体的には、Si及びClの少なくとも一方の原子若しくはイオン、又は、Si及びClの少なくとも一方を含む分子若しくは分子イオンに起因するピークである。例えば、中心波長が390nm以上391nm以下の範囲に位置するピークは、Siに起因する代表的な発光ピークであり、第2発光ピークの一例である。Siはシリコントレイ50から放出されるので、Siに起因する第2発光ピークの強度が大きい場合には、シリコントレイ50のエッチングが順調に行われており、Siに起因する第2発光ピークの強度が小さい場合には、シリコントレイ50のエッチングがあまり行われていないことを意味する。
【0144】
以上のことから、第1発光ピーク及び第2発光ピークの強度の時間変化を確認することにより、ドライエッチングの進行具合を把握し、制御することが可能になる。
【0145】
図11は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法に含まれるドライエッチング工程における発光ピークのピーク強度の時間変化を示す図である。図11では、中心波長が294.7nmのGaに起因するピークを第1発光ピークとし、中心波長が390.7nmのSiに起因するピークを第2発光ピークとして、各々の強度の時間変化を示している。ここで、各ピーク強度はエッチングレートに対応しており、例えばGaに起因する294.7nmのピーク強度が大きいと基板10のエッチングレートは速く、ピーク強度が小さいと基板10のエッチングレートが遅いことを意味している。
【0146】
図11に示されるように、ドライエッチングの開始直後では、Gaに起因する第1発光ピークの強度が、Siに起因する第2発光ピークの強度よりも大きくなっている。第2発光ピークの強度は、終了時点まで僅かに増加しているが、略一定で維持されている。つまり、Siイオンがシリコントレイ50から安定して放出されていることが分かる。
【0147】
一方で、第1発光ピークの強度は、開始直後にピークに達した後、終了時点まで漸減している。終了時点において、第1発光ピークの強度は、第2発光ピークの強度よりも小さい。つまり、開始直後では、基板10のエッチングによってGaを含む分子などが多く放出されているのに対して、終了直前には、Gaの放出が少なくなっている。終了直前では、シリコントレイ50から放出されたSiイオンが表層領域10aに多く添加されていることが分かる。
【0148】
このように、開始直後では、基板10のエッチングが支配的であり、Siの添加があまり行われていないのに対して、終了直前では、Siの添加が支配的であり、基板10のエッチングがあまり行われていないことが、発光ピークの時間変化により判定可能になる。
【0149】
図12は、比較例に係る半導体レーザ素子の製造方法に含まれるドライエッチング工程における発光ピークのピーク強度の時間変化を示す図である。図12に示される比較例に係る半導体レーザ素子は、図2及び図3に示される比較例に係る半導体レーザ素子である。具体的には、比較例に係る半導体レーザ素子の製造方法では、シリコントレイ50の表面処理がされていない。また、比較例に係る半導体レーザ素子の製造方法では、Clガスの導入量が実施例に係る半導体レーザ素子1の製造方法よりも多い。
【0150】
図12に示されるように、比較例に係る半導体レーザ素子のドライエッチング工程では、開始直後から終了直前まで第1発光ピークの強度が第2発光ピークの強度よりも大きくなっている。つまり、ドライエッチング工程の略全体において、基板10のドライエッチングが支配的であり、Siの添加があまり行われていない。この結果として、図2及び図3に示されるように、比較例に係る半導体レーザ素子では、Siのピーク濃度が低く、かつ、Clのピーク濃度も低くなっている。
【0151】
なお、確認する発光ピークの中心波長は、上述した例に限らない。例えば、図10に示されるように、262nmの近傍に位置するGaに起因する発光ピークを第1発光ピークとして利用してもよい。あるいは、290nmの近傍に位置するSiに起因する発光ピークを第2発光ピークとして利用してもよい。また、720nmから800nmに出現するClに起因する一連の発光ピークのいずれか1つを第2の発光ピークとして利用してもよい。
【0152】
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1は、サブマウントに接続されて使用される。図13は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1のサブマウント60への実装例を示す断面図である。
【0153】
図13に示されるように、半導体レーザ素子1は、p側電極26に接続されたパッド電極32がサブマウント60に接続されている。つまり、パッド電極32の主面32aがサブマウント60に接続されている。主面32aは、半導体レーザ素子1が有する主面であって、積層方向において内部領域10bを基準にして表層領域10aとは反対側に位置している。
【0154】
半導体レーザ素子1では、発光層16が発熱源となる。発生した熱を効率良くサブマウント60に逃がすことで、半導体レーザ素子1の動作電圧を安定させることができる。例えば、表1に示されるように、発光層16とn側電極34との間には、他の層に比べて部厚い基板10及びn型クラッド層12が位置している。このため、サブマウント60がパッド電極32に接続された場合の発光層16からサブマウント60までの距離は、サブマウント60がn側電極34に接続された場合の発光層16からサブマウント60までの距離よりも短い。
【0155】
したがって、図13に示されるように、p側でサブマウント60に接続することで、半導体レーザ素子1の放熱性を高めることができ、動作電圧を更に安定させることができる。
【0156】
なお、半導体レーザ素子1は、パッド電極32を備えていなくてもよく、p側電極26が直接サブマウント60に接続されていてもよい。また、光出力が小さく、放熱量が少ない場合には、半導体レーザ素子1のn側電極34がサブマウント60に接続されてもよい。
【0157】
なお、本実施の形態では、基板としてGaN(0001)面基板を用いて、(0001)面に窒化物系半導体層を形成し、基板の裏面の(000-1)面にn側電極を形成したが、異なる面方位のGaN基板を用いてもよい。無極性面にn側電極を形成してもよい。例えば、a面基板に窒化物系半導体層を形成し、基板の裏面の{11-20}面にn側電極を形成する場合、又はm面基板に窒化物系半導体層を形成し、基板の裏面の{1-100}面にn側電極を形成する場合にも、本開示の方法を適用することができる。あるいは、半極性面にn側電極を形成してもよい。例えば、{11-22}面基板に窒化物系半導体層を形成し、基板の裏面の{-1-12-2}面にn側電極を形成する場合、又は{1-101}面基板に窒化物系半導体層を形成し、基板の裏面の{-110-1}面にn側電極を形成する場合にも、本開示の方法を適用することができる。
【0158】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。
【0159】
実施の形態1では、窒化物系半導体発光素子の一例として、基板10を挟んでn側電極34とp側電極26とが設けられた縦型構造の半導体レーザ素子について説明した。これに対して、実施の形態2では、基板の一方の面側にn側電極及びp側電極が設けられた発光ダイオード素子を、窒化物系半導体発光素子の一例として説明する。なお、以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0160】
図14は、本実施の形態に係る発光ダイオード素子100の断面図である。図14に示されるように、発光ダイオード素子100は、基板110と、第1のn型窒化物系半導体層114と、発光層116と、p型窒化物系半導体層118と、p側電極126と、絶縁膜128と、金属バンプ132と、n側電極134とを備える。本実施の形態では、説明の都合上、発光層116に対して基板110が位置する方向を「下方(下層側)」とし、その反対方向を「上方(上層側)」としている。
【0161】
基板110の上面には、IV族n型不純物を含む第1のn型窒化物系半導体層が設けられている。基板110は、例えば、絶縁性のC面のサファイア基板であるが、他の面方位のサファイア基板、又は、窒化物系半導体基板、Si基板若しくはSiC基板などの半導体基板であってもよい。基板110の板厚、形状及び大きさは、特に限定されない。
【0162】
第1のn型窒化物系半導体層114は、IV族n型不純物を含むn型窒化物系半導体の一例である。第1のn型窒化物系半導体層114は、例えば、IV族n型不純物の一例であるSiを含んでいる。第1のn型窒化物系半導体層114は、基板110の一方の主面に接触して設けられている。なお、第1のn型窒化物系半導体層114と基板110との間には、バッファ層が設けられていてもよい。第1のn型窒化物系半導体層114は、例えばn型GaN層である。第1のn型窒化物系半導体層114の膜厚及び不純物濃度は、例えば、実施の形態1に係るn型クラッド層12と同じであってもよい。
【0163】
図14に示されるように、第1のn型窒化物系半導体層114は、凹部114dを有する。凹部114dは、平面視において発光層116に重ならない領域に設けられている。これにより、第1のn型窒化物系半導体層114は、平面視において発光層116に重なる領域と、発光層116に重ならない領域とで厚みが異なっている。例えば、凹部114dの側面と、発光層116及びp型窒化物系半導体層118の端面とは面一である。第1のn型窒化物系半導体層114の一部である凹部114dの底面114c上にn側電極134が設けられている。
【0164】
図14に一部が模式的に拡大されて示されるように、第1のn型窒化物系半導体層114は、平面視において凹部114dと重複する位置に、表層領域114aと、内部領域114bとを有する。
【0165】
表層領域114aは、第1のn型窒化物系半導体層114の一部であり、n側電極134に接する部分である。表層領域114aの、n側電極134に接する面、すなわち、底面114cは、(0001)面である。表層領域114aは、例えば、底面114cのn側電極134に接する範囲、又は、底面114c全体を含む所定の厚さの領域である。表層領域114aの厚さは、例えば、1nm以上100nm未満の範囲である。表層領域114aは、例えば、ハロゲン元素の一例であるClを含んでいる。
【0166】
内部領域114bは、第1のn型窒化物系半導体層114の一部であり、表層領域114aの、n側電極134の反対側に位置する。つまり、内部領域114bは、表層領域114aと基板110との間に位置している。
【0167】
表層領域114a及び内部領域114bはそれぞれ、実施の形態1に係る表層領域10a及び内部領域10bに相当している。つまり、表層領域114a及び内部領域114bのSi濃度及びCl濃度の関係は、表層領域10a及び内部領域10bのSi濃度及びCl濃度の関係と同じであり、実施の形態1において説明した通りである。
【0168】
発光層116は、発光ダイオード素子100の発光部を形成する層である。発光層116は、第1のn型窒化物系半導体層114とp型窒化物系半導体層118との間に各々に接して設けられている。発光層116は、所定形状にパターニングされており、平面視においてn側電極134に重複していない。発光層116は、多重量子井戸構造又は単一量子井戸構造を有する。発光層116は、例えば実施の形態1に係る発光層16と同じ構成を有してもよい。
【0169】
p型窒化物系半導体層118は、第1のn型窒化物系半導体層の、基板110とは反対側に積層されたp型窒化物系半導体層の一例である。p型窒化物系半導体層118は、発光層116とp側電極126との間に各々に接して位置している。p型窒化物系半導体層118は、所定形状にパターニングされており、平面視においてn側電極134に重複していない。p型窒化物系半導体層118は、発光層116と同じ平面視形状及び同じ大きさを有する。p型窒化物系半導体層118は、例えば、p型不純物の一例であるMgが添加されたAlGaN層である。p型窒化物系半導体層118の膜厚及び不純物濃度は、例えば、実施の形態1に係るp型クラッド層22と同じであってもよい。また、p型窒化物系半導体層118のp側電極126に接する上層部は、実施の形態1に係るp型コンタクト層24と同じ構成を有してもよい。
【0170】
p側電極126は、p型窒化物系半導体層118に接して設けられている。p側電極126は、金属材料を用いて形成されている。p側電極126は、例えば、実施の形態1に係るp側電極26と同じ構成を有する。p側電極126の平面視における面積は、例えば4.8×10-3cmである。p側電極126は、平面視において、表層領域114aとは重複していない。
【0171】
絶縁膜128は、p型窒化物系半導体層118の上面の、p側電極126に覆われていない部分と、p型窒化物系半導体層118及び発光層116の各々の端面と、凹部114dのn側電極134に覆われていない部分とを覆っている。つまり、絶縁膜128は、平面視においてp側電極126とn側電極134との間に位置しており、p側電極126とn側電極134との間の短絡を抑制する。絶縁膜128は、例えばシリコン酸化膜であり、実施の形態1に係る電流ブロック層28と同じ構成を有する。
【0172】
金属バンプ132は、p側電極126に接して設けられている。金属バンプ132は、発光ダイオード素子100がサブマウント60(図13を参照)に接続される際に、サブマウント60に設けられた配線パターンとp側電極126とを電気的に接続する。金属バンプ132は、例えば、Auバンプ又は半田バンプである。
【0173】
n側電極134は、第1のn型窒化物系半導体層に接するn側電極の一例である。n側電極134は、第1のn型窒化物系半導体層114の表層領域114aに接している。n側電極134は、例えば、実施の形態1に係るn側電極34と同じ構成を有する。n側電極134の平面視における面積は、例えば、6.0×10-4cmである。
【0174】
以上の構成を有する発光ダイオード素子100は、例えば、青色光を出射する。発光ダイオード素子100のチップ幅は784μmである。発光ダイオード素子100の最大動作電流は、1.4Aである。このときのp側電極126の電流密度は、0.3kAcm-2であり、n側電極134の電流密度は、2.3kAcm-2である。発光ダイオード素子100の動作電圧は、3.8Vであり、動作時の最大ジャンクション温度は、150℃である。なお、これらの数値は一例に過ぎず、各値は適宜設計変更されてもよい。
【0175】
本実施の形態においても、n側電極134が接する表層領域114aには、IV族n型不純物及びハロゲン元素が多く含まれている。これにより、第1のn型窒化物系半導体層114とn側電極134と接続部分における高抵抗化が抑制されて良好なオーミックコンタクトを実現することができる。このため、大電流密度での動作時又は高温動作時に安定した電圧特性を有する発光ダイオード素子100が実現される。
【0176】
続いて、本実施の形態に係る発光ダイオード素子100の製造方法について、図15図16A及び図16Bを用いて説明する。
【0177】
図15は、本実施の形態に係る発光ダイオード素子100の製造方法を示すフローチャートである。図16A及び図16Bはそれぞれ、本実施の形態に係る発光ダイオード素子100の製造方法に含まれる各工程を説明するための断面図である。
【0178】
図15に示されるように、基板110上に複数の窒化物系半導体膜を形成する(S30)。具体的には、図16Aに示されるように、基板110上に、図示しない低温バッファ層を形成したのち、n型窒化物系半導体膜115、窒化物系半導体膜117及びp型窒化物系半導体膜119をこの順で形成する。窒化物系半導体膜の形成は、例えば、MOCVD法又はMBE法などのエピタキシャル成長法を用いて行われる。
【0179】
次に、図15に示されるように、形成した複数の窒化物系半導体膜の一部を除去する(S32)。具体的には、p型窒化物系半導体膜119、窒化物系半導体膜117及びn型窒化物系半導体膜115の、平面視において所定の領域に位置する部分をこの順で、ドライエッチングにより除去する。これにより、図16Bに示されるように、所定形状にパターニングされたp型窒化物系半導体層118及び発光層116、並びに、第1のn型窒化物系半導体層114の凹部114dが形成される。
【0180】
本実施の形態では、ドライエッチングは、ハードマスクを形成した後に行われる。ハードマスクは、シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜などを成膜した後、感光性レジストの塗布、フォトレジスト、エッチング及びレジストの剥離を順に行うことで形成される。
【0181】
さらに、図15に示されるように、窒化物系半導体膜の一部を除去することで露出した面である、凹部114dの底面114cにIV族n型不純物とハロゲン元素との共添加を行う(S34)。これにより、第1のn型窒化物系半導体層114には、IV族n型不純物とハロゲン元素とを含む表層領域114aが形成される。共添加の後、p側電極126を形成する(S36)。その後、n側電極134を形成する(S38)。
【0182】
本実施の形態では、IV族n型不純物とハロゲン元素との共添加を、実施の形態1と同様に、ドライエッチングによって行う。つまり、窒化物系半導体膜の一部の除去(S32)と共添加(S34)とを同一のチャンバー内で連続して行う。具体的には、ドライエッチング工程の途中でエッチング条件を変更する。
【0183】
本実施の形態では、石英トレイ上に基板110を載置する。シリコントレイを用いた場合には、シリコントレイから放出されるSiがp型窒化物系半導体膜119のp型を打ち消す方向に働く、又は、アンドープの窒化物系半導体膜117をp型化させるため、少なくともp型窒化物系半導体膜119及びアンドープの窒化物系半導体膜117のエッチングには用いない。石英トレイを利用することにより、トレイからのIV族n型不純物イオンの放出を抑制することができる。
【0184】
最初のエッチング条件(第1条件)では、導入ガスがBClガスとClガスとの混合ガスである。具体的には、BClガスのガス流量は13.2sccmであり、Clガスのガス流量は4.8sccmであり、チャンバー内の圧力を0.6Paにする。投入電力は150Wであり、基板110に印加するバイアスは34Wである。n側電極134が形成される領域のp型窒化物系半導体膜119及び窒化物系半導体膜117を除去し、n型窒化物系半導体膜115の一部を除去するまで、第1条件でエッチングを行う。具体的には、n型窒化物系半導体膜115の除去された深さが、凹部114dの深さに略一致するまで第1条件が維持される。
【0185】
第1条件でのエッチングの終了後、エッチング条件を第2条件に変更する。第2条件では、導入ガスがSiClガスであり、ガス流量は30sccmである。チャンバー内の圧力は、第1条件と同じである。投入電力は、第1条件より小さく、例えば120Wである。基板110に印加するバイアスは、第1条件より大きく、例えば100Wである。
【0186】
同一のチャンバー内で第1条件でのエッチングと第2条件でのエッチングとを連続して行う場合、上述したように、実施の形態1ではSiの供給源として機能したシリコントレイを用いることができない。このため、第2条件では、SiとClとの両方を含むガスを利用することにより、導入ガスをSi及びClの供給源としている。これにより、ドライエッチングのプラズマに晒される底面114cから表層領域114aに、Si及びClが効率良く供給される。
【0187】
なお、第1条件及び第2条件の各々の具体的な数値は、一例に過ぎない。例えば、第1条件として、窒化物系半導体膜が適切に除去されればいかなる条件を用いてもよい。同様に、第2条件として、Si及びClが供給されればいかなる条件を用いてもよい。また、Si以外のIV族n型不純物(例えば、Ge)又はCl以外のハロゲン元素(例えば、F)を表層領域114aに供給する場合には、これらの元素を含むガスを導入ガスとして用いればよい
【0188】
(他の実施の形態)
以上、1つ又は複数の態様に係る窒化物系半導体発光素子について、各実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を各実施の形態に施したもの、及び、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0189】
例えば、上記の形態では、n側電極を形成する窒化物系半導体として、GaNを例に挙げて説明したが、AlGaN又はInGaNにn側電極を形成する場合にも、本開示の方法を適用することができる。
【0190】
また、表層領域に含まれるハロゲン元素は、フッ素(F)又は臭素(Br)であってもよい。フッ素の場合はエッチングガスとして例えばCFを、臭素の場合はエッチングガスとして例えばHBrを用いることができる。
【0191】
また、上記の各実施の形態は、請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本開示は、大電流密度での動作時又は高温動作時に安定した電圧特性を有する窒化物系半導体発光素子及びその製造方法として利用でき、例えば、レーザ装置、照明装置及び表示装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0193】
1 半導体レーザ素子
10、11、110 基板
10a、114a 表層領域
10b、114b 内部領域
10c 面
12 n型クラッド層
14 n型ガイド層
16、116 発光層
18 p側ガイド層
20 電子ブロック層
22 p型クラッド層
22a 凸部
23、25、119 p型窒化物系半導体膜
24 p型コンタクト層
26、126 p側電極
28 電流ブロック層
30 密着補助層
32 パッド電極
32a 主面
34、134 n側電極
40 保護膜
41 保護層
42、128 絶縁膜
50 シリコントレイ
60 サブマウント
100 発光ダイオード素子
114 第1のn型窒化物系半導体層
114c 底面
114d 凹部
115 n型窒化物系半導体膜
117 窒化物系半導体膜
118 p型窒化物系半導体層
132 金属バンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8A
図8B
図8C
図8D
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図8F
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図8H
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図12
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図14
図15
図16A
図16B