(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】古紙原料を解繊するための乾式解繊機および古紙パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21B 1/08 20060101AFI20240410BHJP
B02C 7/06 20060101ALI20240410BHJP
B02C 7/14 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
D21B1/08
B02C7/06
B02C7/14
(21)【出願番号】P 2021011617
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 明広
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特許第5816395(JP,B1)
【文献】特許第4481661(JP,B2)
【文献】米国特許第05425508(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21H11/00-11/22
B02C 7/00- 7/18
19/00-19/22
B27N 1/00- 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のケーシングの内側に固定刃ディスクと回転刃ディスクを有し、
固定刃ディスクの面に対して、古紙原料を供給するための隙間を開けて同軸芯状に回転刃ディスクが設けられ、固定刃ディスクと回転刃ディスクは、それぞれに面する面に古紙原料を解繊するための刃溝形状を有し、回転刃ディスクは同軸芯を中心に回転し、
回転刃ディスクの刃溝形状が、回転刃ディスクが回転することにより生じる遠心力により古紙原料由来の解繊された古紙パルプが前記ディスク間の外縁の隙間から外部に放出される形状を有する乾式解繊機を使用する古紙原料を乾式解繊するための方法であって、
当該乾式解繊機中のディスクの中央部から固定刃ディスクと回転刃ディスクの隙間に、古紙原料を供給する工程、
当該乾式解繊機の回転刃ディスクを上記とは逆方向に同軸芯を中心に回転させることにより、
古紙原料を解繊し古紙パルプとし、古紙パルプを固定刃ディスクと回転刃ディスクの間の隙間に滞留させる工程、
その後、固定刃ディスクと回転刃ディスクの間の隙間に滞留し溢れ出た古紙パルプを吸引により取り出す工程を含
み、
前記回転刃ディスクの刃溝形状が、ディスクの上記の逆方向の回転方向と同方向に曲線の内側が位置するように形成された複数の曲線状形態を有する、前記方法。
【請求項2】
前記固定刃ディスクと回転刃ディスクの隙間の大きさ(クリアランス)を1.5~6.0mmとする、請求項1に記載の古紙原料を乾式解繊するための方法。
【請求項3】
前記回転刃ディスクの刃溝形状の曲線状形態が円弧状の形状である、請求項1または2に記載の古紙原料を乾式解繊するための方法。
【請求項4】
回収された古紙から古紙パルプを製造する方法であって、
回収された古紙を圧縮し古紙ベールとする工程、
古紙ベールを粉砕し古紙片とする工程、
古紙ベールを請求項
1~3のいずれか一つに記載の
乾式解繊するための方法によって解繊し古紙パルプとする工程を含む、前記方法。
【請求項5】
古紙ベールを粉砕し古紙片とする工程において、
古紙ベールを粉砕し20~80mm角の古紙片とする、
請求項
4に記載の古紙パルプを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、古紙パルプの製造方法、特に、古紙を解繊するための方法、および、乾式解繊機、並びに、回収された古紙から古紙パルプを製造するための方法および設備に関する。
【背景技術】
【0002】
古紙パルプは、回収された古紙(古紙原料とも示す)から圧縮、粉砕、分配、解繊、梱包等の工程を経て得ることができる。具体的には、工場、店舗、一般家庭等から回収された古紙からプラスチックなどの異物を除去した後に、古紙原料は油圧シリンダーなどの圧縮機によって運送効率の高い古紙ベールに圧縮される。当該古紙ベールはコンベアに投入され、多くの場合、解繊の効率を上げるために粉砕機により粉砕される。粉砕機により粉砕された古紙片は、分配され解繊機に送られ、そこで解繊され、さらに梱包され古紙パルプを得ることができる。
【0003】
上記の工程にあるように、古紙パルプを得るためには、古紙をほぐして繊維状にする解繊処理により、古紙を処理するのが一般的である。当該解繊処理には、主に湿式法と乾式法がある。湿式法は、古紙に水を加えて湿潤状態した古紙を解繊処理する方法である。当該方法においては、古紙パルプをシート化して巻き取り状することや積み上げることが可能となり運搬などの取り扱いに優れるが、湿式解繊法は古紙を水性スラリーにするため多量の水を使用することになり、解繊後に水分を除去する脱水乾燥工程でエネルギーを必要とし、また、多量に出る廃水の浄化処理を必要とするため環境負荷が高いという欠点がある。さらには、乾燥させる脱水乾燥工程において、繊維間結合が強固となるために、紙を製造する際の原料として水に分散させるためにも多くのエネルギーが必要となるとういう欠点もある。一方、乾式解繊は水を使用しないため、エネルギー効率が高く、排水処理を考慮せずに済むという利点がある(例えば、特許文献1~5)。さらに、繊維間結合も強固ではなく、嵩の高いフワフワの綿上のパルプになり、原料としての水分散性も良好となる。従って、水への分散が必要な脱墨処理などの特別な処理が必要ない場合には、乾式解繊による古紙パルプ製造が通常有利である。
【0004】
乾式解繊処理には、水を加えずに物理的衝撃を与えて古紙原料(古紙片)を解繊処理する乾式解繊機を使用する。乾式解繊機は、円筒状のケーシングの内側に固定刃と回転刃を有し、内周面に刃溝を有する円筒状の固定刃に対して、わずかな隙間を開けて同軸芯状に円筒状である刃溝を有する回転刃が設けられ、そのわずかな隙間に解繊する古紙片を投入する。すなわち、乾式解繊機は、回転刃を回転させることで互いに向かい合う固定刃と回転刃により古紙片をすり潰すような構造を有している。回転刃を回転させることで、固定刃と回転刃の刃溝により古紙原料に物理的衝撃を与え、すり潰し、解繊させ、古紙パルプとする。
【0005】
乾式解繊機の固定刃と回転刃の刃溝形状は、回転刃が回転することによる遠心力により古紙片由来の解繊された内容物はケーシングの外枠に押し出され、自然と排出される構造を有している。固定刃と回転刃の刃溝形状がそのような構造を有する乾式解繊機においては、回転の速度を調整することにより、遠心力も調整され、排出の速度を適度に調整され、それにより解繊された内容物を適切に取り出すことができる。しかしながら、当該乾式解繊機を使用した方法では十分に解繊されないままケーシングの系外に排出される古紙パルプが多いという問題があった。また、十分にすり潰して解繊するために低速で運転しても、多くの時間とエネルギーが必要となりエネルギー効率が悪いうえに、依然として十分に解繊されないままケーシングの系外に排出される古紙パルプが一定量存在するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-285890号公報
【文献】特開平6-293360号公報
【文献】特開平11-293578号公報
【文献】特開2000-120000号公報
【文献】特開2013-147772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明においては、当該従来技術の課題に鑑み、十分に解繊することができ、かつエネルギー効率に優れた古紙を解繊するための方法、古紙パルプを製造するための方法を提供することを課題とする。さらに当該方法において適切に使用することができる古紙パルプ用の乾式解繊機を提供することを課題とする。さらに、エネルギー効率よく、古紙原料を十分に解繊することができ、かつ、運送が容易な古紙パルプを得ることができる古紙原料から古紙パルプを製造するための方法および設備を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、円筒状のケーシングの内側に固定刃ディスクと回転刃ディスクを有する古紙原料を解繊するための乾式解繊機に関し、
固定刃ディスクの面に対して、古紙原料を供給するための隙間を開けて同軸芯状に回転刃ディスクが設けられ、固定刃ディスクと回転刃ディスクは、それぞれに面する面に古紙原料を解繊するための刃溝形状を有し、回転刃ディスクは同軸芯を中心に回転し、
回転刃ディスクの刃溝形状が、回転刃ディスクが回転することにより生じる遠心力により古紙片由来の解繊された古紙パルプが前記ディスク間の外縁の隙間から外部に放出されない形状を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の乾式解繊機は、前記ディスク間の外縁の隙間から外部に押し出された古紙パルプを吸引するための吸引装置をさらに有することが好ましく、さらに、前記回転刃ディスクの刃溝形状が、ディスクの回転方向と同方向に曲線の内側が位置するように形成された複数の曲線状形態を有することが好ましい。さらに、本発明の乾式解繊機においては、前記固定刃ディスク3と回転刃ディスク2の隙間の大きさ(クリアランス)が1.5~6.0mmであることが好ましい。
【0010】
本発明は、上記本発明の乾式解繊機を使用する古紙原料を乾式解繊するための方法に関し、
当該乾式解繊機中のディスクの中央部から固定刃ディスクと回転刃ディスクの隙間に、古紙原料を供給する工程、
当該乾式解繊機の回転刃ディスクを同軸芯を中心に回転させることにより古紙原料を解繊させ、固定刃ディスクと回転刃ディスクの間の隙間に滞留させる工程、
その後、固定刃ディスクと回転刃ディスクの間の隙間に滞留し溢れ出た解繊された古紙パルプを吸引により取り出す工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の乾式解繊機およびそれを使用する解繊方法であれば、古紙原料はディスク間の隙間に長い時間滞留することにより十分に解繊され、かつエネルギー効率よく解繊されることができるという利点がある。
【0012】
本発明は、円筒状のケーシングの内側に固定刃ディスクと回転刃ディスクを有し、
固定刃ディスクの面に対して、古紙原料を供給するための隙間を開けて同軸芯状に回転刃ディスクが設けられ、固定刃ディスクと回転刃ディスクは、それぞれに面する面に古紙原料を解繊するための刃溝形状を有し、回転刃ディスクは同軸芯を中心に回転し、
回転刃ディスクの刃溝形状が、回転刃ディスクが回転することにより生じる遠心力により古紙原料由来の解繊された古紙パルプが前記ディスク間の外縁の隙間から外部に放出される形状を有する乾式解繊機を使用する古紙原料を乾式解繊するための方法に関し、
当該乾式解繊機中のディスクの中央部から固定刃ディスクと回転刃ディスクの隙間に、古紙原料を供給する工程、
当該乾式解繊機の回転刃ディスクを上記とは逆方向に同軸芯を中心に回転させることにより古紙原料を解繊し古紙パルプとし、古紙パルプを固定刃ディスクと回転刃ディスクの間の隙間に滞留させる工程、
その後、固定刃ディスクと回転刃ディスクの間の隙間に滞留し溢れ出た古紙パルプを吸引により取り出す工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の乾式解繊方法においては、古紙原料はディスク間の隙間に長い時間滞留することにより十分に解繊され、かつエネルギー効率よく解繊されることができるという利点があり、さらには、新たな設備投資を必要とすることなく、回転刃ディスクの回転方向を逆にすることにより従来から使用された乾式解繊機をそのまま使用できる点で有利である。さらに、従来の乾式解繊機の回転方向を逆にすることにより、上記の本発明の乾式解繊機と同様のものを得ることができる。
【0014】
本発明は、回収された古紙から古紙パルプを製造する方法に関し、
回収された古紙(古紙原料)を圧縮し古紙ベールとする工程、
古紙ベールを粉砕し古紙片とする工程、
上記の本発明の乾式解繊機または乾式解繊のための方法により解繊し古紙パルプとする工程
を含むことを特徴とする。
本発明の当該製造方法において、古紙ベールを粉砕し古紙片とする工程において、
古紙ベールを粉砕し20~80mm角の古紙片とすることが好ましい。
【0015】
本発明は、古紙パルプを製造するための設備本発明は、
回収された古紙(古紙原料)を圧縮し古紙ベールとするための圧縮機、
古紙ベールを粉砕し古紙片とする粉砕機、
上記の本発明の乾式解繊機を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の古紙原料から古紙パルプを製造するための方法および設備であれば、エネルギー効率よく、古紙原料を十分に解繊することができ、かつ、運送が容易な古紙パルプを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の乾式解繊機の模式図であり、ケーシング部分を断面図として示す。矢印は古紙原料および古紙パルプの進行方向を示す。
【
図2】
図2は、本発明の乾式解繊機の回転刃ディスクとその回転方向、および古紙原料である古紙片と古紙パルプの進行方向を示した模式図である。
【
図3】
図3は、従来の乾式解繊機の回転刃ディスクとその回転方向、および古紙原料である古紙片と古紙パルプの進行方向を示した模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の回収された古紙古から紙パルプを製造する方法およびそのための設備を示すフロー図である。
【
図5】
図5は比較例(
図5、(a))および実施例(
図5、(b)~(d))により得られた古紙パルプの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の最初の実施形態は、円筒状のケーシング4の内側に固定刃ディスク3と回転刃ディスク2を有する古紙原料を解繊するための、例えば
図1に示されるような、乾式解繊機1に関する。
図1に示されるように、乾式解繊機の円筒状のケーシング4においては、円筒状である固定刃ディスク3の面に対して、古紙原料を供給するためのわずかな隙間を開けて同軸芯状に回転刃ディスク2が設けられる。固定刃ディスク3と回転刃ディスク2は通常平行に設置され、固定刃ディスク3と回転刃ディスク2は、通常同様の円筒状を有し、それぞれに面する面に古紙原料を解繊するための一定の高さと厚みを有する複数の刃溝形状を同心円状に連続的に有する。
【0019】
回転刃ディスク2は同軸芯10を中心に回転する。その回転により固定刃ディスク3と回転刃ディスク2のわずかな隙間の中において固定刃ディスク3と回転刃ディスク2の刃溝形状が古紙原料に対して物理的な衝撃を連続的に与えることができ、それにより水を加えることなく古紙原料を解繊処理することができる。通常、固定刃ディスクは開閉扉7側に固定されていることが多く、開閉扉は開け閉めが可能となり、取り外しおよび交換が可能な回転刃ディスクおよび固定刃ディスクはそれにより容易に取り換えることができる。
【0020】
本発明の乾式解繊機においては、回転刃ディスクの刃溝形状が、回転刃ディスクが回転することにより生じる遠心力により古紙原料由来の解繊された古紙パルプがディスクの外縁の隙間から外部に放出されないような形状を有している。回転刃ディスクの刃溝形状としては、古紙パルプがディスク内部に蓄積されるような形状であり、例えば、
図2に示されるように、ディスクの回転方向と同じ方向に曲線(円弧)の内側が位置するように形成された複数の曲線状、例えば、円弧状の形状を有する形状を有している。このような曲線状の刃溝形状21は外周縁の部分(外縁部ともいう)にのみに円周状に設けられることが好ましい。曲線状の刃溝形状は一つではなく、外縁部に切れ目のないように複数設けることが好ましい。当該外縁部の刃溝形状は、古紙パルプがディスクの外縁の隙間から外部に放出されないようにすると共に古紙原料をすり潰す機能も有するとよい。なお、固定刃ディスクの外縁部には刃溝形状が存在しなくてもよい。
【0021】
それに対して、内周縁の部分(内縁部ともいう)においては単に古紙原料をすり潰すのに適切な形状とするとよい。固定刃ディスク3と回転刃ディスク2の内周縁側の刃溝形状は一定の高さを有し、固定刃ディスク3が回転したときに、固定刃ディスク3と回転刃ディスク2が重なり合わないように互い違いに配置されているとよい。古紙原料に効率的に衝撃を与えることができるからである。固定刃ディスク3と回転刃ディスク2の内周縁部分の刃溝形状としては、周知のあらゆる形状であってよく、例えば、三角錐状、四角錐状などの錐状の形状、柱状の形状などの形状でよい。このように内縁側を外縁側で異なる刃溝形状とすることで、ディスクの中央部に供給された古紙原料を内縁側においてすり潰して解繊処理を行うことができ、回転刃ディスクの回転により生じる遠心力により解繊された古紙パルプは外縁側に移動する。
【0022】
さらに、本願発明の実施形態において、回転刃ディスク2の刃溝形状、好ましくは回転刃ディスク2の外縁部の刃溝形状として古紙パルプがディスク内部の隙間に蓄積されるような形状を有している。ここで、
図1に示されるように、投入口6から投入された古紙原料(古紙片)は原料押し込みスクリュー5により、ディスクの中央部から固定刃ディスク3と回転刃ディスク2のわずかな隙間に供給され(
図1および
図2の矢印23)、固定刃ディスク3と回転刃ディスク2の刃溝形状により、特に内周縁側において、古紙原料がすりつぶされ、解繊される。さらに解繊され綿状となった古紙パルプは、回転刃ディスク2の遠心力にしたがって、徐々にディスク間の隙間の外縁部に押し出されていくが、回転刃ディスク2の外縁部の刃溝形状がその進行方向を防止する形状をしているために、そこで滞留することになる(
図2)。これにより、古紙原料および/または解繊された古紙パルプは、回転刃ディスク2の回転の遠心力によって系外に排出されることなく、ディスク間のわずかな隙間内に滞留し、さらに、古紙原料を供給し続けると、古紙原料および/または解繊された古紙パルプは十分にディスク間の隙間に滞留しそこで高密度になりさらに解繊されることになる。基本的には、ディスク間の隙間に古紙パルプが溢れるまで滞留し解繊されることになる。
【0023】
この後もさらに古紙原料が連続的に供給され、ディスク間の隙間に綿状の古紙パルプが溢れ、それにより古紙パルプはディスクの外縁方向に押し出される。すなわち、本発明においては、回転刃ディスク2の遠心力ではなく、単に古紙パルプが充満することにより解繊された古紙パルプがディスクの外縁方向に押し出され、系外に送られることになる。例えば、原料押し込みスクリュー5の押し込む力によって、古紙パルプは押し出されることになる。当該解繊機であれば、古紙原料はディスク間の隙間に長い時間滞留することにより十分に解繊され、かつエネルギー効率よく解繊されることができるという利点がある。
【0024】
やがて解繊された古紙パルプはディスク間のわずかな隙間からケーシングの系外に出て、排出口8を介して排出経路に押し出され排出される。本発明の乾式解繊機においては、ケーシングの系外に押し出されたこのような古紙パルプを吸引するための吸引装置、例えば吸引ファンをさらに有することが好ましい。それによってより効率的に排出することができ、また自然排出されにくくなった古紙パルプの詰まりを防止するとともに、処理量を確保することができる。さらに、解繊機と吸引ファンを結ぶダクトの途中に分離機を設置し古紙パルプとエアーを分けることが好ましい。さらに、エアーから分離された古紙パルプはコンベアを介して圧縮梱包機に送られることになる。
【0025】
さらに、別の実施形態においては、本発明は、上記に記載された本発明の乾式解繊機を使用する、古紙原料を解繊して古紙パルプを得るための乾式解繊のための方法に関する。
当該方法は、当該乾式解繊機中のディスクの中央部から固定刃ディスクと回転刃ディスクの隙間に、古紙原料を供給する工程、
当該乾式解繊機の回転刃ディスクを同軸芯を中心に回転させることにより古紙原料を解繊させ古紙パルプとし、固定刃ディスクと回転刃ディスクの間の隙間に滞留させる工程、
その後、固定刃ディスクと回転刃ディスクの間の隙間に滞留し、ディスク間の隙間の外縁から溢れ出てケーシングの系外に出た古紙パルプを吸引により取り出す工程を含む。
【0026】
上記においては、本発明による乾式解繊機それを使用する方法について述べたが、本発明の他の実施形態においては、このような新たな乾式解繊機を必要とすることなく、従来から使用されている乾式解繊機の使用形態を変えることで従来の乾式解繊機をそのまま使用できる。以下に従来の乾式解繊機を使用する古紙原料を乾式解繊のための方法について述べる。
【0027】
本発明の方法において使用できる乾式解繊機としては、円筒状のケーシングの内側に固定刃ディスクと回転刃ディスクを有する古紙原料を解繊するための乾式解繊機であって、回転刃ディスクが回転することにより生じる遠心力により古紙原料由来の解繊された古紙パルプがディスク外部に放出されるような形状を有している。回転刃ディスクの刃溝形状としては、回転刃ディスクの回転の遠心力によって古紙パルプがディスク外部に放出されるような形状である乾式解繊機であってもよい。すなわち、当該乾式解繊機においては、固定刃ディスクの面に対して、古紙原料を供給するための隙間を開けて同軸芯状に回転刃ディスクが設けられ、固定刃ディスクと回転刃ディスクは、それぞれに面する面に古紙原料を解繊するための刃溝形状を有し、回転刃ディスクは同軸芯を中心に回転する。当該乾式解繊機においては、回転刃ディスクの刃溝形状が、回転刃ディスクが回転することにより生じる遠心力により古紙原料由来の解繊された古紙パルプがディスク外部に放出されるような形状を有している。回転刃ディスクの刃溝形状としては、古紙パルプが前記ディスク間の外縁の隙間から外部に放出されるような形状であれば良い。例えば、
図3に示されるように、回転刃ディスク2の回転方向とは反対方向に曲線(円弧)の内側が位置するように形成された複数の曲線状の形状22、例えば、円弧状の形状を有する形状を有している。このような曲線状の刃溝形状は外周縁にのみに切れ目なく複数かつ円周状に設けられることが好ましい。当該外縁部の刃溝形状は、古紙原料をすり潰すとともに、古紙パルプがディスクの外縁の隙間から外部に放出しやすくする。固定刃ディスクと回転刃ディスクの他の刃溝形状は、本発明の上記の乾式解繊機と同様であってよい。また、当該乾式解繊機の構成は、回転刃の外縁部の刃溝形状を除き、同様の構成を有していてよい。
【0028】
このような乾式解繊機においては、回転刃ディスクの刃溝形状として古紙パルプが外縁からディスク外部に放出されるような形状を有している。すなわち、ディスクの中央部から古紙原料が固定刃ディスクと回転刃ディスクのわずかな隙間に供給され(
図3の矢印23)、固定刃ディスクと回転刃ディスクの刃溝形状により古紙原料がすりつぶされ、解繊される。さらに解繊された古紙パルプは、回転刃ディスクの遠心力にしたがって、徐々に外縁部の押し出されていき、やがてディスクの外縁からケーシングの系外に出て、排出経路に押し出され排出される(
図3参照)。このような乾式解繊機および解繊方法においては、排出に余分なエネルギーを使用することなく、さらに連続的に操業でき運用できる反面、十分に解繊されないままケーシングの系外に排出される古紙パルプが多いという問題があった。また、十分にすり潰して解繊するために低速で運転しても、多くの時間とエネルギーが必要となりエネルギー効率が悪いうえに、依然として十分に解繊されないままケーシングの系外に排出される古紙パルプが存在するという問題があった。
【0029】
そこで本発明においては、従来から使用されている当該乾式解繊機において、回転刃ディスクを従来の方法とは逆回転させることにより、乾式解繊を行う。これにより、古紙原料である古紙片および/または解繊された古紙パルプは、回転刃ディスクの回転の遠心力によって系外に排出されることなく、ケーシング内のディスクの隙間に滞留することになる。すなわち、本発明の乾式解繊機と同じく(
図2参照)、古紙原料および/または解繊された古紙パルプは十分にケーシング内に滞留することになり、基本的には、ディスク間の隙間に古紙原料および/または解繊された古紙パルプが溢れるまで滞留することになる。この後、古紙原料が連続的に供給され、ディスク間の隙間に古紙パルプが溢れ、それにより古紙パルプは押し出される。すなわち、本発明の当該方法においても、前記の本発明の乾式解繊機を使用した場合と同じく、回転刃ディスクの遠心力ではなく、単に古紙パルプが充満することにより解繊された古紙パルプがディスクの外縁から押し出され、系外に送られることになる。当該方法においても、古紙原料はディスク間の隙間に長時間滞留することになり、古紙原料は十分に解繊され、かつ効率よく解繊されることができるという利点がある。
【0030】
本発明において使用される乾式解繊機には、上記本発明の乾式解繊機と同じく、ディスクの外縁の隙間から外部に押し出されたこのような古紙パルプを吸引するための吸引装置、例えば吸引ファンをさらに有することが好ましい。それによってより効率的に排出することができ、また自然排出されにくくなった古紙パルプの詰まりを防止するとともに、処理量を確保することができる。さらに、解繊機と吸引ファンを結ぶダクトの途中に分離機を設置し古紙パルプとエアーを別けることが好ましい。さらに、エアーから分離された古紙パルプはコンベアを介して圧縮梱包機に送られることになる。
【0031】
本発明の乾式解繊方法においては、古紙原料はディスク間の隙間に長い時間滞留することにより十分に解繊され、かつエネルギー効率よく解繊されることができるという利点があり、さらに、このように新たな設備投資を必要とすることなく、回転刃ディスクの回転方向を逆にすることにより従来から使用された乾式解繊機をそのまま使用できる点でも有利である。さらに、従来の乾式解繊機の回転方向を逆にすることにより、上記の本発明の乾式解繊機と同様のものを得ることができる。また、吸引ファンおよび分離機を接続することにより、古紙原料をより十分に解繊することができ、かつ効率よく解繊されることができるという利点がある。
【0032】
本発明に上記乾式解繊機および乾式解繊のための方法において使用される古紙材料は、広い意味では回収された古紙を意味するが、通常は古紙材料としては古紙片であればよい。ここで古紙片は、一定の大きさに粉砕された古紙片であるとよく、さらには回収された古紙が圧縮され、粉砕された古紙片であることが好ましい。例えば、20~80mm角の古紙片であることが好ましい。ここで、20~80mm角の古紙片とは、一辺の平均の長さが20~80mm程度の範囲ある四角形(正方形や長方形など)またはそれらと同程度の大きさ(面積)のあらゆる形状の紙としての厚みを有する古紙片を指す。さらには、30~70mm、40~60mm角の範囲の同様の古紙片であることがさらに好ましい。そのような古紙片を使用すれば効率よく古紙パルプを得ることができるからである。このような古紙片を得るためには、回収された古紙を圧縮した古紙ベールを使用し、それをさらに粉砕機により粉砕し古紙片とすることが好ましい。
【0033】
本発明の乾式解繊機および乾式解繊の方法においては、固定刃ディスク3と回転刃ディスク2のわずかな隙間の大きさ(クリアランス)を調整することで、排出される古紙パルプの量を調整することができ、最終的には古紙原料の処理量、処理速度と解繊処理の度合いを調整することができる。ここでいうクリアランスとは、固定刃ディスク3と回転刃ディスク2の刃の溝形状を除いた隙間の平均の距離である。使用する古紙原料や古紙片の大きさにも依存するが、一般的にはクリアランスは1.5~6.0mm程度とするとよい。1.5mm未満とするとよく解繊された古紙パルプが得られる一方で、処理速度が遅く処理のためのエネルギー消費が大きくなってしまう。また、6.0mmを超えると処理速度が速くなりエネルギー消費が抑えられる一方で、解繊処理が不十分になってしまう。本発明においては、好ましくは2.5~3.5mm程度のクリアランスとすることで、エネルギー消費を抑えつつ、迅速に、よく解繊された古紙パルプを得ることができる。また、3.5~5.5mm程度とすることで、大幅にエネルギー消費を抑えつつ、より迅速に、実用可能な古紙パルプを得ることできる。また、1.5~2.5mm程度のクリアランスとすることで、十分な解繊処理がなされたキメの細かい嵩高の古紙パルプを得ることができる。
【0034】
本発明の他の実施形態は、上記本発明の古紙原料を乾式解繊する方法を含む回収された古紙から古紙パルプを製造する方法、および、乾式解繊機を含む古紙パルプを製造するための
図4に示されるような設備に関する。古紙パルプは、回収された古紙から圧縮、粉砕、分配、解繊、梱包等の工程を経て得ることができる。また、本発明の設備としては、回収された古紙原料を圧縮し古紙ベールとするための圧縮機、古紙ベールを粉砕し古紙片とする粉砕機、および上記に記載された本発明の解繊機を含む構成であればよい。さらに、本発明においては、
図4に示されるように、上流から順に古紙ベールを粉砕機に投入するためのコンベア、粉砕機、分配器、解繊機、古紙パルプとエアーを分離するための分離機、梱包機を含む設備であることが好ましい。これらのコンベア、粉砕機、分配器、分離機、梱包機は、一般に利用されている周知のものを使用すればよい。
【0035】
本発明の古紙パルプを製造するための方法においては、工場、店舗、一般家庭等から回収された古紙原料からプラスチックなどの異物を除去した後に、古紙原料を油圧シリンダーなどによって運送効率の高い古紙ベールに圧縮する。本発明において、当該古紙ベールはコンベアに投入され、解繊の効率を上げるために粉砕機により粉砕される。本発明の設備における前記粉砕機が、20~80mm角の古紙片とすることができる粉砕機であることが好ましい。また、本発明においては、20~80mm角程度、一辺の平均の長さが20~80mm程度の範囲ある正方形や長方形またはそれらと同程度の大きさ(面積)にまで古紙ベールを粉砕すればよい。解繊の際のエネルギー効率と解繊の度合いのバランスが良くなるからである。一辺の平均の長さが20mm未満とするには必要以上の粉砕が必要となり効率が悪くなり、また、80mmを超えると解繊処理が不十分となり解繊のエネルギー効率等が悪くなるからである。30~70mm、40~60mm角の範囲の古紙片、好ましくは一辺の長さが、30~70mm、40~60mmの範囲ある古紙片を古紙材料として使用することが好ましい。
【0036】
粉砕機により粉砕された古紙は、分配器により分配され本発明の解繊機に送られ、そこで解繊され、さらに梱包され古紙パルプを得ることができる。または、従来からの乾式解繊機を使用し、回転刃を設定とは逆回転させる本発明の上記解繊方法により、従来の解繊機を使用して解繊してもよい。解繊された古紙パルプはケーシングの系外に出て、排出経路に押し出され排出される。乾式解繊機においては、ディスクの隙間外部に押し出された古紙パルプを吸引するための吸引装置、例えば吸引ファンをさらに有することが好ましい。それによってより効率的に排出することができ、また自然排出されにくくなった古紙パルプの詰まりを防止するとともに、処理量を確保することができる。さらに、解繊機と吸引ファンを結ぶダクトの途中に分離機を設置し古紙パルプとエアーを分けることが好ましい。さらに、エアーから分離された古紙パルプはコンベアを介して圧縮梱包機に送られることになる。圧縮梱包機においては綿状の古紙パルプをベール状に圧縮成形し番線で締め付け固定する。このように固定されることで、型崩れすることはなく、輸送に於いて作業に支障が生じない古紙パルプベールを得ることができる。以上のように、本発明の古紙パルプを製造するための方法および設備であれば、過剰なエネルギーを使用することなくエネルギー効率よく、古紙原料を十分に解繊することができ、かつ、運送、輸送が簡便な古紙パルプを得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例、比較例によって本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0038】
以下の実施例および比較例においては回収された古紙を圧縮され古紙ベールとし、粉砕機により粉砕し平均で約50mm角にされた古紙片を使用し、乾式解繊装置(相川鉄工社製、CR-30型、ディスク径34インチ)および電動機(45kW×6P×200V)を使用し周速54.2m/s(60Hz)で乾式解繊した。刃型としては889および890(相川鉄工社製)タイプを使用した。当該刃型のうちの回転刃の外縁部分の刃型は、回転刃ディスクを設計通りに正回転させると、その回転の遠心力により古紙パルプが排出される形状を有している。さらに、ダクトを介して吸収ファンを設置し、古紙パルプとエアーを分離するための分離機を設置した。
【0039】
<比較例1>
上記構成の解繊装置を使用して、クリアランスを2.0mm(ここでいうクリアランスとは刀溝構造を除いた回転刃ディスクと固定刃ディスクの平均距離である。)で、原料の投入量を24kg/分とし、回転刃ディスクを設計と正回転させて1日操業した。電動機の負荷は90~130アンペア(最大170アンペア)であった。その結果、24時間あたり35トンの古紙パルプを得ることができた。
図5(a)に示したとおり、得られた古紙パルプの解繊の度合いが少し荒く実用は可能であるが、エネルギー効率に優れない。
【0040】
<実施例1>
上記構成の解繊装置を使用して、クリアランスを5.0mmで、原料の投入量を30kg/分とし、回転刃ディスクを設計と逆回転させて1日操業した。電動機の負荷は80~130アンペア(最大170アンペア)であった。その結果、24時間あたり43トンの古紙パルプを得ることができた。
図5(b)に示したとおり、得られた古紙パルプの解繊の度合いは比較例1と同様であったが、比較例1よりもエネルギー効率に優れ、処理できる量が増加した。
【0041】
<実施例2>
上記構成の解繊装置を使用して、クリアランスを3.0mmで、原料の投入量を24kg/分とし、回転刃ディスクを設計と逆回転させて1日操業した。電動機の負荷は80~140アンペア(最大180アンペア)であった。その結果、24時間あたり35トンの綿状の古紙パルプを得ることができた。。
図5(c)に示したとおり、得られた古紙パルプの解繊の度合いは比較例1と比較して良好であり実用できるものであった。
【0042】
<実施例3>
上記構成の解繊装置を使用して、クリアランスを2.0mmで、原料の投入量を12kg/分とし回転刃ディスクを設計と逆回転させて1日操業した。電動機の負荷は140~180アンペア(最大200アンペア)であった。その結果、24時間あたり17トンのキメの細かい綿状の古紙パルプを得ることができた。
図5(d)に示したとおり、得られた古紙パルプの解繊の度合いは比較例1と比較して非常に良好であり実用できるものであった。
【0043】
以上の結果から、本発明の乾式解繊機または解繊方法であれば、従来の技術と比較して(比較例1)、エネルギー効率に優れ、解繊処理の度合いが同程度で、より多量の古紙原料を解繊処理できることが分かった(実施例1)。さらに、同じ処理量であっても、従来と同様のエネルギー使用量により、より解繊された解繊パルプを得られることがわかった(実施例2)。さらに、処理量を減らして十分に解繊処理を行うことで、解繊が非常によくなされた高品質の嵩高の古紙パルプを得ることができることも明らかになった(実施例3)。
【符号の説明】
【0044】
1 乾式解繊機
2 回転刃ディスク
3 固定刃ディスク
4 ケーシング
5 原料押し込みスクリュー
6 投入口
7 開閉扉
8 排出口
10 (仮想)同軸芯
11 軸受け駆動装置
12 電動機
13 ランナー
21 曲線状の刃溝形状(本発明)
22 曲線状の刃溝形状(従来技術)
23 古紙原料の供給方向