(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ポリマーグレードのアクリル酸の生成
(51)【国際特許分類】
C07C 51/44 20060101AFI20240410BHJP
C07C 57/07 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C07C51/44
C07C57/07
(21)【出願番号】P 2021558956
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(86)【国際出願番号】 FR2020050607
(87)【国際公開番号】W WO2020201661
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-06
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トレチャク, サージ
(72)【発明者】
【氏名】シャルフ, ベロニク
(72)【発明者】
【氏名】ユヴェ, オーレリアン
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/118702(WO,A1)
【文献】特開昭46-006515(JP,A)
【文献】特表2017-509613(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185423(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒド化合物を低含有量で含む工業用アクリル酸から、外部溶媒を用いるまたは用いない精製プロセスによって得られる精製アクリル酸を製造するプロセスであって、アルデヒドを処理する
ための化学試薬の非存在下での追加の蒸留ユニットにおける蒸留、蒸留ユニットの側面出口を通して引き抜かれるポリマーグレードのアクリル酸流、蒸留ユニットの頂上で抽出される本質的に軽量の化合物を含む流、および蒸留ユニットの底で回収される重量の化合物
を含む工業用アクリル酸の流を生成すること
からなり、前記ポリマーグレードのアクリル酸流が、99.5重量%超のアクリル酸を含有することを特徴とし、前記蒸留ユニットの底で回収された前記流が、追加の処理なしにエステル化ユニットに提供されることを特徴とする、前記プロセス。
【請求項2】
前記蒸留ユニットが、15と30との
間の理論
プレート数を含
み、副流ドローオフを備えた単一蒸留塔E12を含むことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記理論プレート数が、20と25との間であることを特徴とする、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記蒸留ユニットが、第1の蒸留塔E1を含み、頂上で生じた流が副流ドローオフを備えた第2の蒸留塔E2に供給
され、前記塔E1および前記塔E2のそれぞれが8と15との
間の理論
プレート数を含むこ
とを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記理論プレート数が、10と12との間であることを特徴とする、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記蒸留ユニットが、少なくとも1つの頂上リフラックスを含むことを特徴とする、請求項1から
5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記蒸留ユニットが、完全または部分凝縮器で
ある凝縮器を頂上に備含むことを特徴とする、請求項1から
6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記
アルデヒド化合物を低含有量で含む工業用アクリル酸が、石油化学由来のも
のであることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記アルデヒド化合物を低含有量で含む工業用アクリル酸が、プロピレンまたはプロパンを原料として使用する石油化学由来のものであることを特徴とする、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記
アルデヒド化合物を低含有量で含む工業用アクリル酸が、少なくとも一部は再生可能な起源のものであることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記
精製アクリル酸が、アクリル酸の水溶液の形態での向流吸収によるアクリル酸の抽出を含む精製プロセスに由来することを特徴とする、請求項1から
10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記
精製アクリル酸が、外部の有機溶媒を用いない精製プロセスに由来することを特徴とする、請求項1から
10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
請求項1から
12のいずれか一項に記載のプロセスに
より得られるポリマーグレードのアクリル酸
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常は精製アクリル酸(Glacial acrylic acid)と呼ばれる、ポリマーグレードのアクリル酸の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸をプロピレンから生成するプロセスでは、プロピレン酸化反応器を出た後に、さまざまな精製工程:
-非凝縮性ガスおよび非常に軽量の化合物の大部分、特にアクリル酸の合成の中間体であるアクロレインの除去(クルードAA)、)
-水およびホルムアルデヒドを除去する脱水(脱水AA)、
-軽量の化合物(特に酢酸)の除去、次いで
-重量の化合物の除去(テクニカルAA)
が行われ、これらはプロセスによって順序が異なり得る。
【0003】
したがって、各工程により、その中に残っている残留不純物の含有量が異なるアクリル酸品質がもたらされる。これらの不純物の量および性質に基づいて、得られるアクリル酸は特定の一タイプの用途に限られる。アクリル酸がさまざまな形で、バルクとして、溶液として、懸濁液として、または乳濁液として実施される重合プロセスにおける使用を意図されたとき、アクリル酸(AA)の品質、すなわちそのさまざまな不純物の含有量は後続の重合プロセスにおいて大きな役割を果たす。次いで、このアクリル酸を製造する製造業者は、工業用アクリル酸(TAA)を通常精製アクリル酸(GAA)またはポリマーグレードのアクリル酸と呼ばれる「標準」アクリル酸に変換するために、追加の精製工程を利用する。
【0004】
高分子量ポリマーの合成を可能にする精製アクリル酸品質を達成するために、テクニカルAA中のある種の不純物を極めて低い含有量に至るまで除去することが特に重要である。これらは、特にフルフラルデヒド(またはフルフラール)、ベンズアルデヒドもしくはアクロレインなどのある種のアルデヒド、またはプロトアネモニン、アクリル酸の合成中に生じる化合物、そうでなければアクリル酸の合成中に導入しておくことができるフェノチアジンなどの非フェノール性重合阻害剤などの他の不純物である。これらの化合物は、精製AAが高分子量ポリマーを生成することを目標とした重合反応において使用されるとき、反応を減速または阻害することによって精製AAの反応性にかなりの影響を及ぼす。
【0005】
したがって、それは、通常、化学作用剤の存在下における蒸留などの精製操作または結晶化操作によって、98.5重量%より高い純度を有し、依然としてアルデヒド:フルフラール:<0.05%;ベンズアルデヒド:<0.05%、プロトアネモニン:<0.05%などの重い不純物を含有する工業用アクリル酸をポリマーグレードのアクリル酸に変換するという問題になる。
【0006】
ポリマーグレードのアクリル酸は、以下の通り特徴づけることができる。
-純度99.5重量%超、
-水0.05重量%未満、
-酢酸0.075%未満、
-フルフラール含有量<2ppm、
-ベンズアルデヒド含有量<2ppm、
-プロトアネモニン含有量<2ppm、
-全アルデヒド重量含有量<10ppm。
【0007】
工業用アクリル酸を得るプロセスは周知である。したがって、「無溶媒」技術に基づく文献EP2 066 613、WO2015/126704、WO2008/033687には、外部水または共沸溶媒を使用することなくアクリル酸を回収するプロセスが記載されている。このプロセスでは、冷却されたガス状反応混合物を精製するために2本の蒸留塔が使用される:a)脱水塔、b)脱水塔から底流の一部分が補充される仕上塔。これらの特許に記載されている無溶媒プロセスを使用して、精製アクリル酸を得ることは、本発明の文脈で想定されえない。具体的に、次いで、使用される仕上塔は、軽い生成物(水、酢酸)をアクリル酸流から分離し、さらに同じ塔で重量の化合物(フルフラール、ベンズアルデヒド)もこのアクリル酸流から分離しなければならない。次いで、分離段数、ひいては二系統流れ棚の数は、大幅に増加し、塔底における圧力低下および温度上昇が生じ、アクリル酸の感熱性と適合性ではない。
【0008】
精製アクリル酸を得るために、文献EP2 066 613またはWO2008/033687は、それらのプロセスにより得られる工業用アクリル酸を、Sulzerによる特許US5504247または再生可能な起源のポリマーグレードのアクリル酸の生成に関連する本出願企業による文献WO2011/010035に記載されている分別晶出による追加の処理にかけることができることを示す。それにもかかわらず、この技術は、蒸留プロセスより高いことを示すことができる投資コストおよび運転コスト(電力消費量)を必要とする。
【0009】
追加の蒸留操作を化学処理と組み合わせて、アルデヒドを除去することによって、精製アクリル酸を得ることも可能である。特許US3,725,208またはUS7,393,976に記載されているように、使用することができる試薬のうち、アミン、さらに詳細にはヒドラジンファミリーの化合物を使用することができる。一般に、これらの化合物は、そのままの状態でまたはその塩もしくは水和物の形で使用することができる。
【0010】
文献WO2017/050583は、脱水塔および仕上塔(または精製塔)を好ましくは精製セクションの内側に備える前記精製セクションあるいは1本または2本の蒸留塔を用いた蒸留による追加の精製セクションにおいて実施される化学作用剤を使用するアルデヒド処理工程の追加を提案し、精製アクリル酸品質をもたらすことを可能にすることによって、WO2015/126704およびWO2008/033687に記載されている無溶媒プロセスを補足する。
【0011】
先行技術に記載されている化学処理はすべて、アルデヒドと化学試薬との反応中に水を生じさせるという欠点を有する。
【0012】
アクリル酸中に水が存在していることは、非水性媒体中におけるポリマーの製造に有害であり得る。こういう訳で、例えば文献WO2010/031949に記載されているように、水および軽量の化合物を頂上で除去することを目標とした蒸留工程中にこのアルデヒド化学処理操作を、重量の化合物を分離することを意図したアクリル酸の蒸留工程の前に実施することが有利であり得る。しかし、この方法は、少なくとも2本の蒸留塔の使用を必要とする。
【0013】
アミノ化合物によりアルデヒドを除去するための化学処理の別の欠点は、それらのアクリル酸自体に対する反応性であり、媒体の安定性の著しい低減が生じる。
【0014】
このモノマーの蒸留に通常使用される阻害剤の使用にもかかわらず、ポリマー沈着物が、特に塔プレートおよび/またはボイラーの高温壁に観察される。これらの固体沈着物の形成は、熱交換の遮断物または修正の問題を直ちに招き、洗浄にはプラントの操業停止が必要とされる。
【0015】
アルデヒドの化学処理を使用するプロセスの別の欠点は、精製AAの分離後に得られる残留流中のアクリル酸の損失である。化学作用剤(例えば、ヒドラジン)とアルデヒドの所望の反応は選択的ではないので、処理されるべきアルデヒドに対して大過剰の試薬を使用しなければならず、アクリル酸を主成分とする残留流には、試薬とアルデヒドおよびアクリル酸の反応生成物が存在するため、例えばエステル製造の原料として再循環または使用することができない。したがって、これは、アクリル酸回収率の減少を引き起こす。
【0016】
最後に、アルデヒドの化学処理に関する主な欠点の1つは、CMR(発がん物質1B)と分類される製品であるヒドラジンやその誘導体、またはやはりCMR(生殖毒性1B)と分類されるアミノグアニジンもしくはその誘導体などの一般的に使用される化合物の性質から生じる。健康、安全性および環境(HSE)上の理由で、このタイプの物質の使用は、工業プラントにおいてできるときにはいつでも避けるべきであることは明白である。この製品が使用される場合、普通の操作または漏出の場合における流出液の格納、取扱いおよび管理の厳重な対策が厳しい形で導入されなければならず、運転コストが高くなる。
【0017】
さらに最近では、文献WO2018/185423に、外部の有機溶媒の非存在下に2本の蒸留塔を使用するアクリル酸を回収するプロセスにおいて隔壁塔の精製/仕上塔としての使用が記載された。隔壁塔の特定の構成により、すなわち分離壁が頂上部においては塔の上方ドームと近接し、底部においては塔底と近接していないとき、回収されるアクリル酸のテクニカル品質を改善しながら、プロセスのエネルギー収支を改善することが可能になる。隔壁塔頂で抽出される工業用アクリル酸を、分別晶出または場合によっては残留アルデヒドと反応する化合物の存在下における蒸留により追加の処理にかけることができ、ポリマーグレードのアクリル酸品質が生じる。テクニカル品質が改善されるため、ポリマーグレードを生成するためのさらなる精製は単純化される。さらに、隔壁塔のいくつかの使用条件下で、フルフラールまたはベンズアルデヒドなどのアルデヒド、およびプロトアネモニンの残留含有量に関連する規格を満たすポリマーグレードのアクリル酸を、隔壁塔頂で直接抽出できることが観察された。それにもかかわらず、隔壁蒸留塔の使用は複雑で特殊なままである。実際に、この文献に記載されている精製を、大幅な修正なしに、グリセロールからのアクリル酸の合成に関連する文献WO10/031949およびWO11/114051に記載されているものなどの外部の有機溶媒を使用してアクリル酸を回収する従来プロセスに適応させることはできない。
【0018】
したがって、アルデヒドを処理するための化学作用剤または隔壁蒸留塔を使用する技術などの高価な技術が介在することなく、工業用アクリル酸中のフルフラールやベンズアルデヒド、さらにはアクロレインなどのアルデヒド、またはプロトアネモニンなどの他の不純物を除去し、ポリマーグレードの(または精製)アクリル酸品質を導くために、使用するのが単純で、急速で、容易である方法を提供する必要性が依然としてある。
【0019】
本発明者らは、今回、この必要性に、特定の条件下で適用され、工業用アクリル酸の品質またはその生成方法にかかわりなく適している、工業用アクリル酸を蒸留する簡単な操作が応じることができることを発見した。
【0020】
さらに、本発明は、プロピレンおよび/またはプロパンから生成されるアクリル酸に、さらに再生可能な原料に由来するアクリル酸にも適用され得ることが本発明者らに明らかになった。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、アルデヒド化合物を低含有量で含む工業用アクリル酸から精製アクリル酸を製造するプロセスであって、アルデヒドを処理する化学試薬の非存在下で蒸留ユニットにおいて実施される蒸留からなり、蒸留ユニットの側面出口を通して引き抜かれるポリマーグレードのアクリル酸流、蒸留ユニットの頂上で抽出されている本質的に軽量の化合物を含む流、および蒸留ユニットの底部で回収されている重量の化合物を含む工業用アクリル酸流を生成する、プロセスに関する。
【0022】
有利なことには、本発明のプロセスは、隔壁蒸留塔を使用しない。
【0023】
本発明の第1の実施形態によれば、蒸留ユニットは、副流ドローオフを装備した単一蒸留塔E12を備える。一般的に、塔E12は、15と30との間、好ましくは20と25との間の理論数のプレートを含む。
【0024】
本発明の第2の実施形態によれば、蒸留ユニットは、第1の蒸留塔E1を備え、頂上で生じた流が副流ドローオフを装備した第2の蒸留塔E2に供給される。一般的に、塔E1および塔E2のそれぞれは、8と15との間、好ましくは10と12との間の理論数のプレートを含む。
【0025】
これらの2つの実施形態によれば、本発明によるプロセスにかけられたアクリル酸は、重量含有量が99.5%より高い工業グレードのアクリル酸であり、低グレードのフルフラール、ベンズアルデヒドおよびアクロレインなどのアルデヒドを含み、アクロレイン、酢酸または水などの軽量の化合物を含むことがある。本発明によるプロセスにより、アルデヒドを処理するための化学化合物を添加せずに、高分子量アクリル系ポリマーの製造における使用を可能にする高品質の基準に合う精製アクリル酸流を生成することが可能になる。
【0026】
特に、本発明の方法に従って得られるポリマーグレードのアクリル酸は、以下の通り特徴づけることができる。
-全アルデヒド(フルフラール、ベンズアルデヒド、アクロレイン)の重量含有量:<10ppm、好ましくは<4ppm、
-プロトアネモニン含有量:<2ppm、
-水の重量含有量:<0.1%、好ましくは<0.05%、
-酢酸の重量含有量:<0.1%、好ましくは<0.08%。
【0027】
したがって、本発明により、工業グレードのアクリル酸からのポリマーグレードのアクリル酸の製造においてCMRと分類される製品の使用をなくすことによって、先行技術のプロセスの欠点を克服することが可能になる。その結果、ヒドラジンなどのアミノ化合物とアルデヒドまたは不飽和酸との間の反応に関連した水の形成は避けられ、化学試薬の使用が原因である汚損問題は生じない。
【0028】
さらに、蒸留ユニットの底で回収されるポリマーグレードのアクリル酸を得る目的で工業用アクリル酸の蒸留によって生ずる残留生成物は、有利なことには、アルデヒドの化学処理のための作用剤が使用された場合であれば必須である追加の精製なしに、C1~C8アクリル酸エステルを製造するエステル化プラントに再循環させることができる。
【0029】
いくつかの特定の実施形態によれば、本発明は、以下に列挙する有利な特徴も1個または好ましくは数個有する。
-蒸留ユニットは、少なくとも1つの頂上リフラックス、特に蒸留塔E12または副流ドローオフを装備した塔E2の頂上にリフラックスを備える。
-蒸留ユニットは、頂上に、完全または部分凝縮器とすることができる凝縮器を備え、それにより、軽量の化合物に富む蒸留流を少なくとも部分凝縮することが可能になる。凝縮流は少なくとも一部、副流ドローオフを装備した塔E12または塔E2の頂上に送り戻される。未凝縮部分は、大気への最終放出の前に、例えばそれを焼却炉に送ることによって除去され、またはプロセスの上流に、例えば反応ガスからのアクリル酸の吸収のための塔に再循環させることができる。塔におけるリフラックスとして再循環させていない凝縮流の一部分は、除去することができ、または好ましくは精製プロセスの上流で再循環させることができ、あるいはアクリル酸エステルの製造のために使用することができる。
-アクリル酸の副流ドローオフは、気相または液相において実施することができる。好ましくは、液相において、その中に存在しているアクロレインの量を限定するために実施される。
-副流ドローオフは、アクリル酸を貯蔵前に30℃程度の温度に冷却する凝縮器を備える。
-少なくとも1つのフェノール性重合阻害剤、優先的にヒドロキノンメチルエーテル(MEHQ)が、副流ドローオフと関連づけられた凝縮器に、凝縮流を凝縮器中、貯蔵槽中およびアクリル酸の使用前の輸送中における重合から保護するのに適した量で導入され、重合反応性要件を満たす。
-副流ドローオフは、好ましくは塔E12または塔E2の頂上の始めの3分の1で実施される。
-少なくとも1つのフェノール性重合阻害剤、好ましくはMEHQが、塔E2および塔E12の頂上において凝縮器の上流に、塔頂に送り戻された液体リフラックス中にこの阻害剤が存在しているために蒸留ガス混合物の凝縮時、塔中におけるポリマー形成を防止するように導入される。
-さらに、重合阻害剤、特に非フェノール性重合阻害剤は単独でまたは組み合わせて、塔E2もしくは塔E12の副流ドローオフの下および/または塔E1の頂上に位置するプレートに送ることができる。使用される阻害剤は、当業者がアクリル酸の精製のために利用する阻害剤である。
-空気または希薄な空気が、塔E12または塔E1において蒸留ユニットの底で、好ましくは蒸留AAの全流量に対して0.1%~0.5%の酸素という体積の割合で注入される。
-副流として引き抜かれる流と供給流との間の重量比は、60%と90%との間、好ましくは70%と80%との間である。
-塔底物として引き抜かれる流と供給流との間の重量比は、10%と40%との間、好ましくは20%と30%との間である。
-蒸留ユニットの底で回収される流は、有利なことには追加の処理なしにエステル化ユニットに再循環される。
-副流ドローオフの割合に対する塔頂から塔に再循環させる割合と定義することができるリフラックス比は、1.5と4との間、好ましくは2と3との間であり、例えば2.5に等しい。これらの条件下で、使用されるべき塔サイズおよび分離段数とこの分離を確実にするために使用されるべきエネルギーとの良好な妥協点を得ることができる。
-本発明によるプロセスにかけられる工業用アクリル酸は、含有する全アルデヒド(フルフラール、ベンズアルデヒドおよびアクロレイン)の重量含有量が0.1%未満である。
-本発明によるプロセスは、連続的または半連続的モード、好ましくは連続的モードで実施される。
【0030】
本発明の他の特性および効果は、付属の
図1および
図2を参照しながら後続の詳細な説明を読むとよりはっきりとわかる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるプロセスを示すブロック図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態によるプロセスを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
後続の説明において、用語「ポリマーグレード」および用語「精製(glacial)」は同じ意味を有し、アクリル酸が高分子量(メタ)アクリル系ポリマーの製造におけるその使用を可能にする高品質の基準を満たすことを示す。
【0033】
用語「アルデヒドの化学処理のための作用剤」または「アルデヒドを処理するための化学試薬」は、アルデヒドと共に、蒸留によってアクリル酸からより容易に分離可能になる、より重量の反応生成物を形成する化学化合物を意味する。
【0034】
用語「化学処理」は、アルデヒドの化学処理のための作用剤を使用して実施される処理を意味すると理解される。
【0035】
このタイプの処理および使用することができる化合物は、先行技術において周知であるが、使用される反応または錯体化は完全には特定されていない。作用機序の目的は、主に処理されるべきアルデヒドより重量である反応生成物を形成することである。
【0036】
アルデヒドの化学処理のための作用剤というこの用語は、アルデヒドに対して重要でない効果を及ぼすことがあるが、一般的に重合に対してアクリル酸誘導体を含む流を安定化するだけの目的で導入される重合阻害剤を除外し、これらの重合阻害剤は、本発明によるプロセスにかけられたアクリル酸中に存在することができる。
【0037】
副生化合物を説明する用語「軽量」は、考慮した使用圧力下で沸点がアクリル酸の沸点より低い化合物を表し、類推によって、用語「重量」は、沸点がアクリル酸の沸点を超える化合物を表す。
【0038】
用語「外部の有機溶媒」は、アクリル酸が可溶型であり、起源がプロセスと無関係であり、吸収、抽出または共沸蒸留溶媒として使用される、任意の有機化合物を表す。
【0039】
用語「共沸溶媒」は、水と共に共沸混合物を形成する特性を有する任意の有機溶媒を表す。
【0040】
用語「非凝縮性」は、沸点が大気圧下で20℃を下回る温度である化合物を表す。
【0041】
本発明によるポリマーグレードのアクリル酸の生成
本発明によれば、ポリマーグレードのアクリル酸は、アルデヒドの化学処理を必要とすることなく、工業用アクリル酸を蒸留する簡単な操作によって得ることができる。この蒸留操作は、例えば文献EP2 066 613、WO2015/126704、WO2008/033687に記載されている溶媒を用いず、またはWO2010/031949などの外部溶媒を使用して、工業用アクリル酸を製造するさまざまなプロセスに従うことができる。
【0042】
さらに、本発明は、プロピレンおよび/またはプロパン原料から生成されるアクリル酸に、さらに再生可能な原料に由来するアクリル酸にも適用できることが明らかになった。
【0043】
本発明によるプロセスにかけられる工業用アクリル酸の品質は、以下の通り定義することができる(重量含有量)。
水<0.2%、好ましくは<0.05%、例えば<0.01%
酢酸<0.25%、好ましくは<0.10%、例えば<0.05%
フルフラール<0.05%、好ましくは<0.03%、例えば<0.005%
ベンズアルデヒド<0.05%、好ましくは<0.02%、例えば<0.005%
アクロレイン<0.02%、好ましくは<0.01%
プロトアネモニン<0.02%、好ましくは<0.01%、例えば<0.005%。
【0044】
本発明によれば、前記工業用アクリル酸流は、単一蒸留ユニットに送られ、そこから残留アルデヒドの大部分が取り除かれたアクリル酸が、副流として引き抜かれ、そのアクリル酸は、以下の通り定義される所望のポリマーまたは精製グレードに対応する。
-純度99.5重量%超、
-水0.05重量%未満、
-酢酸0.075%未満、
-フルフラール含有量<2ppm、
-ベンズアルデヒド含有量<2ppm、
-プロトアネモニン含有量<2ppm、
-全アルデヒドの重量含有量<10ppm。
【0045】
蒸留ユニット
アルデヒド化合物を低含有量で含む工業用アクリル酸から精製アクリル酸を製造するプロセスは、隔壁蒸留塔がない単一蒸留ユニットにおいて実施される蒸留からなる。
【0046】
本発明の第1の実施形態を表す
図1を参照して、塔E12は副流ドローオフを装備し、15~30、好ましくは20と25との間の理論数のプレートを含む。この単一塔は、一般的に20mmHgと150mmHgとの間、好ましくは30mmHgと100mmHgとの間の減圧下で操作する。
【0047】
塔E12は、混合物の精留に利用可能であり、重合性化合物の蒸留に適している任意のタイプのプレートおよび/またはランダムインターナルおよび/または構造充填物からなる。それは、少なくとも1つの充填物、例えばランダム充填物、および/もしくはランダム充填物と構造充填物を装備したセクションの組合せ、ならびに/またはプレート、例えば多孔プレート、固定弁プレート、可動弁プレート、バブルプレート、もしくはそれらの組合せを備えることができる通常の蒸留塔とすることができる。好ましくは、塔E12は多孔プレートを装備する。
【0048】
塔E12の安定化は、一般的に当業者に周知である安定剤を使用して、場合によっては空気または酸素欠乏空気を注入して実施される。
【0049】
塔E12は、塔底の最初の4分の1において、好ましくはプレート2~7、好ましくはプレート3~5で供給される。
【0050】
アルデヒドの化学処理の非存在下に、アクロレイン、酢酸および水などの軽量の化合物に富むガス状画分は、塔頂で蒸留され、凝縮および場合によっては追加の処理後に除去され、または精製プロセスの上流で再循環され、またはアクリル酸エステルの製造のために使用される。部分凝縮が実施されると、これらの未凝縮の軽量化合物をガス状の形でベント処理ユニットに直接送ることができる。
【0051】
ポリマーグレードのアクリル酸は、液相または気相において、好ましくは塔E12の頂上の最初の3分の1から、特に塔頂の下に位置する1~5の理論数のプレート間で引き抜かれる。好ましくは、ポリマーグレードのアクリル酸は液相において引き抜かれる。
【0052】
塔E12の底で、塔E12に供給されるアクリル酸流から分離される重量の不純物(特にフルフラール、ベンズアルデヒド、プロトアネモニンおよび非フェノール性阻害剤)の大部分を含むアクリル酸流は、有利なことには追加の精製なしにアクリル酸の工業グレードとしてエステル化ユニットに再循環させることができる。
【0053】
塔E12の副流として引き抜かれる流と供給流との重量比は、60%と90%との間、好ましくは70%と80%との間である。
【0054】
塔E12の塔底物として引き抜かれる流と供給流との重量比は、10%と40%との間、好ましくは20%と30%との間である。
【0055】
特定の一実施形態によれば、塔E12は、頂上に塔における液体リフラックスを確実にする凝縮器および液体供給装置を装備する。副流ドローオフの割合に対する塔頂から塔に再循環させる割合として定義することができるリフラックス比は、1.5と4との間、好ましくは2と3との間であり、例えば2.5に等しい。これらの条件により、使用されるべき塔サイズ/分離段数と効果的な蒸留を確実にするために使用されるべきエネルギーとの最善の妥協点を導くことが可能になる。
【0056】
塔頂の軽量の化合物は、部分凝縮操作後に優先的に気相において除去される。
【0057】
本発明の第2の実施形態を示す
図2を参照して、蒸留ユニットは、塔E1の頂上で蒸留され、塔E2の底に供給されるガス流により互いに流体接続されている2本の蒸留塔E1および蒸留塔E2を備える。
【0058】
塔E1および塔E2のそれぞれは、8と15との間、好ましくは10と12との間の理論数のプレートを含む。
【0059】
塔E1および塔E2は、一般的に少なくとも1つの充填物、例えばランダム充填物および/もしくは構造充填物、ならびに/またはプレート、例えば多孔プレート、固定弁プレート、可動弁プレート、バブルプレート、もしくはそれらの組合せを備えることができる通常の蒸留塔である。好ましくは、塔E1および塔E2は多孔プレートを装備する。
【0060】
塔E1および塔E2は、一般的に当業者に周知である安定剤を使用して、場合によっては空気または酸素欠乏空気を注入して、重合に対して安定化されている。
【0061】
塔E1および塔E2は、一般的に20mmHgと150mmHgとの間、好ましくは30mmHgと100mmHgとの間の減圧下で操作する。
【0062】
塔E1は、好ましくは塔底の最初の4分の1において、好ましくは、プレート2~7、好ましくはプレート3~5のプレートで供給される。
【0063】
塔E1の頂上で生じる気相は、塔E2に塔底の最初の4分の1において、好ましくはこの塔のプレート1~3に位置するプレートで供給される。
【0064】
アルデヒドの化学処理を行わずに、アクロレイン、酢酸および水などの軽量の化合物を本質的に同伴するガス状画分は、塔E2の頂上で蒸留され、生物学的プラントで処理するために凝縮後に回収され、またはパーシャル凝縮器のみ使用されるとき、これらの軽量の化合物は、ベント処理ユニットに直接送られる。
【0065】
一実施形態によれば、塔E2の頂上で凝縮される流の少なくとも一部分がリフラックスとして塔E2、ひいては塔E1に送られる。
【0066】
塔E2からの副流ドローオフの割合に対する塔E2の頂上から塔E2に再循環させる割合として定義することができるリフラックス比は、1.5と4との間、好ましくは2と3との間であり、例えば2.5に等しい。これらの条件により、使用されるべき塔サイズ/分離段数と効果的な蒸留を確実にするために使用されるべきエネルギーとの間の最善の妥協点を導くことが可能になる。
【0067】
ポリマーグレードのアクリル酸は、液相または気相において、好ましくは塔E2の頂上の最初の3分の1から、特に塔頂の下の理論的なプレート1~5間で引き抜かれる。好ましくは、ポリマーグレードのアクリル酸は液相において引き抜かれる。塔E2から副流として引き抜かれる流と塔E1の供給流との間の重量比は、60%と90%との間、好ましくは70%と80%との間である。
【0068】
塔E1の底で引き抜かれる流と塔E1の供給流との間の重量比は、10%と40%との間、好ましくは20%と30%との間である。塔E2からの底流は、液体の形で塔E1の頂上に送られる。
【0069】
塔E1の底で、塔E1に供給されるアクリル酸流から分離される重量の不純物(特に、フルフラール、ベンズアルデヒド、プロトアネモニンおよび非フェノール性阻害剤)の大部分を含むアクリル酸流は、有利なことには追加の精製なしにアクリル酸の工業グレードとしてエステル化ユニットに再循環させることができる。
【0070】
本発明によるプロセスにおけるエネルギー消費は、一般的にアルデヒドを処理するためにヒドラジンまたはその誘導体を使用する分離において必要とされるエネルギー消費より高い。しかし、この追加のエネルギーコストは、アミノ化合物の使用に関連づけられる汚損に続く生成操業停止ならびに清掃およびメンテナンス操作がないために、とりわけCMR製品およびその制限的産業環境の非存在によって得られる利益によって概ね相殺される。
【0071】
次に、付属の特許請求の範囲で定められる本発明の範囲を限定する目的をもたない以下の実施例によって、本発明を説明する。
【0072】
実験セクション
百分率は、重量百分率として表す。
【0073】
以下の略語を表において使用する。
AA:アクリル酸
ACO:アクロレイン
ACOH:酢酸
フルフラール:フルフラルデヒド
ベンザル:ベンズアルデヒド
PTA:プロトアネモニン
HZ:ヒドラジン水和物
【0074】
熱力学的モデルおよびASPENソフトウェアを使用するシミュレーションを使用して、先行技術によるプロセスおよび本発明によるプロセスを説明する。
【0075】
プロトアネモニンは、この不純物が不安定であり、既存の熱力学的モデルで説明されないので、これらの実施例では出現しない。しかし、不純物フルフラール(120ppm)、ベンズアルデヒド(80ppm)およびプロトアネモニン(50ppm)を含むアクリル酸の混合物の実験的蒸留は、プロトアネモニンの揮発性がベンズアルデヒド(最も揮発性の低い化合物)の揮発性とフルフラルデヒド(最も揮発性の高い化合物)の揮発性との間にあることを示している。したがって、プロトアネモニンの濃度は、(熱力学的モデルでうまく説明される)フルフラルデヒドの濃度より必ず低いと結論づけることができる。
【実施例】
【0076】
実施例1(比較)
先行技術のプロセスによれば、工業グレードのアクリル酸流を、ヒドラジン水和物の存在下で直列に存在する2本の塔E3および塔E4を使用する蒸留操作にかける。
【0077】
第1の塔E3(理論段12、45mmHgの圧力下で操作)に、精製されるべきアクリル酸流および、アルデヒドと反応するアミノ化合物としてヒドラジンが、塔底から数えて理論的なプレート3で供給される。塔E3(トッピング塔)の頂上で、ヒドラジンとアルデヒド不純物および酢酸との反応中に生じた水などの軽量の不純物を除去する。この塔の質量リフラックス比/留出液流速は0.5と0.7との間に設定する。
【0078】
トッピング塔E3からの底流は、第2の蒸留塔E4(理論段12、8500Paの圧力下で操作)に供給される。塔E4は、頂上で精製アクリル酸の蒸留を実施し、底で特にヒドラジンとアルデヒド不純物およびアクリル酸(過剰試薬)との反応生成物を含む重量の化合物の除去を実施する。この塔は、塔底において第1のプレート下で供給される。
【0079】
【0080】
ヒドラジン水和物の存在下で実施されるこのプロセスによれば、ポリマーグレードの規格を満たすアクリル酸は、第2の塔E4の頂上で、補充される工業用アクリル酸22525kg当たり17510kgの割合で得られる。2本の塔の操作に対する総エネルギーコストは、4.54Gcal/時と見積もられた。アクリル酸の含有量は99.9%であり、不純物のフルフラルデヒド、ベンズアルデヒドおよびアクロレインは1ppm未満の含有量で存在する。塔E4の底からの流は、ヒドラジンとアルデヒドの反応およびアクリル酸との副反応によって生じる化合物を含む。アクリル酸に富むこの流は、エステルの製造には適していない。
【0081】
実施例2(比較)
実施例1のプロセスの構成が使用されるが、ヒドラジン水和物の添加は実施されない。
【0082】
【0083】
先行技術によるプロセスの構成において、アミノ試薬の非存在下に、第2の塔の頂上で蒸留されるアクリル酸は、残留アルデヒド、特に5ppm未満の規格に対して85ppmの含有量を有するフルフラールのポリマーグレードの規格を満たさない。
【0084】
実施例3(本発明による)
図1に表される構成は、本発明によるプロセスのシミュレーションに使用される。
【0085】
塔E12は、理論的なプレート24を備え、頂上にパーシャル凝縮器および塔頂から数えて5番目のプレートに副流ドローオフを装備する。塔E12に、アルデヒド処理剤を添加せずに、工業用アクリル酸流が供給される。塔は、100mmHgの圧力下で操作する。副流ドローオフにおける温度は90℃であり、底における温度は111℃である。
【0086】
【0087】
副流として引き抜かれる流は、ポリマーグレードのアクリル酸に相当する。
【0088】
実施例1の通常のプロセスにおいて得られる生成と同じ生成では、この構成のエネルギー消費は、ボイラーで7.15Gcal/時である。エネルギーのこの過剰消費は、アミノ化合物の使用に関連づけられる汚損に続く生成操業停止および清掃操作がないために、かつ生成設備およびそのメンテナンス(塔、交換器、ポンプ、フィルター)への投資の観点から行われる節約のために、得られる利益によって相殺される。
【0089】
さらに、アルデヒドとヒドラジンなどのアミノ化合物との反応生成物を含まない、塔E12の底で回収されるアクリル酸流は、追加の精製を必要とすることなく、エステル化ユニットに直接格上げすることができる。