(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】導電性材料
(51)【国際特許分類】
C09D 5/24 20060101AFI20240410BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20240410BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240410BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240410BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240410BHJP
B64D 15/12 20060101ALI20240410BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C09D5/24
C01B32/194
C09D201/00
C09D7/63
C01B32/168
B64D15/12
H01B1/12 G
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022072207
(22)【出願日】2022-04-26
(62)【分割の表示】P 2017159295の分割
【原出願日】2017-08-22
【審査請求日】2022-05-25
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ジェイ.キンレン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル エー.チャールズ
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-124029(JP,A)
【文献】特表2014-503387(JP,A)
【文献】特表2007-534780(JP,A)
【文献】特開2008-001884(JP,A)
【文献】国際公開第2016/126827(WO,A1)
【文献】特表2012-526724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/15-32/198
H01B 1/12
C09D 5/24
B64D 15/12
C09K 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素同素体材料、ポリマー、及びスルホン酸を含むコーティング材料に電圧を印加することを含み、前記コーティング材料は、輸送体部品の表面に設けられている、輸送体部品の表面を加熱する方法であって、
前記スルホン酸は、ナフチルスルホン酸、アントラセニルスルホン酸、ピレニルスルホン酸、又はこれらの混合物を含み、
前記ポリマーは、ポリアニリン、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(スチレンスルホネート)、及びこれらの混合物からなる群より選択される第1ポリマーを含み、
前記ポリマーは、ポリビニルブチラール、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、これらの混合物、及びこれらの塩からなる群より選択される第2ポリマーをさらに含む、方法。
【請求項2】
前記コーティング材料の表面に電圧を印加することで、前記輸送体部品の表面に付着した固相の水が少なくとも部分的に溶融する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記輸送体部品は、ノーズ、燃料タンク、テールコーン、パネル、2つ以上のパネル間の被覆ラップジョイント、翼と胴体部のアセンブリ、航空機複合構造材、胴体部ジョイント、翼リブと外皮のジョイント、及び/又はその他の内部部品からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電圧は、約10ヘルツから約2000ヘルツ、及び/又は約10ボルトから約2000ボルトの交流電圧である、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記炭素同素体材料はシート材料である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記炭素同素体材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種類のポリマーと、
少なくとも1種類のスルホン酸と、
炭素同素体材料と、を含む、導電性コーティング材料であって、
前記スルホン酸は、ナフチルスルホン酸、アントラセニルスルホン酸、ピレニルスルホン酸、又はこれらの混合物を含み、
前記少なくとも1種類のポリマーは、ポリアニリン、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(スチレンスルホネート)、及びこれらの混合物からなる群より選択される第1ポリマーを含み、
前記少なくとも1種類のポリマーは、ポリビニルブチラール、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、これらの混合物、及びこれらの塩からなる群より選択される第2ポリマーをさらに含む、導電性コーティング材料。
【請求項8】
前記炭素同素体材料は、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項7に記載の導電性コーティング材料。
【請求項9】
前記導電性
コーティング材料のオーム/平方値は、前記炭素同素体材料のオーム/平方値より約1.2倍から約20倍大きい、請求項7又は8に記載の導電性コーティング材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の態様は、導電性材料とその製造及び利用方法を含む。
【背景技術】
【0002】
航空機などの移動中の輸送体の表面には、静電荷が蓄積する。例えば、航空機のノーズの後方には、1つ以上のレーダーが配置されている。ノーズには、プレシピテーションスタチック(precipitation static)(Pスタチック:P-static)と呼ばれる、ある種の静電気が蓄積しうる。
【0003】
航空機部品の表面を保護するために、航空機部品に表面塗膜が塗布されることがある。しかしながら、航空機の機体部品の従来の表面塗膜は、通常、高導電性ではなく、その抵抗率は数百キロΩ~数十メガΩであった。したがって、従来の航空機の表面塗膜は、航空機の表面(や他の部品)上に電荷の蓄積を引き起こすことがあった。従来の塗膜は、蓄積電荷を放散できないことに加えて、理想的な特性を持っていないこともある。例えば、従来の表面塗膜の耐久性パラメーターに関する性能、例えば、雨による侵食、紫外光耐性、高温耐性、不十分な可撓性、低温耐性、砂や雹による損傷への耐性に関する性能は、過酷な条件にさらされる、航空機などの輸送体表面上のものとしては、理想的な「耐空性」を有しているとは言い難い。また、戦闘ジェット機のキャノピー(canopy)や、民間航空機もしくは戦闘ジェット機の風防ガラスや窓の塗膜の場合、これらの塗膜は、当該表面を介する可視性を高めるために、実質的に透明でなければならない。
【0004】
また、従来の表面塗膜を他の化学物質と混合して、塗膜の1つ以上の所望の物理特性を向上させる場合に、この塗膜は、しばしばこの他の化学物質と相性がよくなく、塗膜に添加された他の化学物質の望ましい物理特性を阻害するものであった。従来の表面塗膜はまた、下層の表面/塗膜と親和性が悪い場合が多く、塗膜-塗膜界面で接着性の低下を引き起こしていた。
【0005】
また、寒冷な気象条件は、機体表面上での氷の成長を促進する。氷を除去するために、しばしば、大量の化学物質が融解のため氷に吹き付けられる。大量の化学物質は、輸送体のユーザーにとってコスト的な重荷となる。
【0006】
導電性かつ耐空性を有する材料、及び、これらの材料を製造し使用する方法が、当業界で必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
少なくとも一態様において、導電性の炭素同素体材料を形成する方法は、ポリマーとスルホン酸とを含む第1材料を炭素同素体材料に塗布して第2材料を形成することを含む。本方法は、前記第2材料を硬化させることを含む。
【0008】
少なくとも一態様において、輸送体部品の表面を加熱する方法は、炭素同素体材料、ポリマー、及びスルホン酸を含む材料に電圧を印加することを含む。前記材料は、輸送体部品の表面に設けられている。
【0009】
少なくとも一態様において、導電性材料は、少なくとも1種類のポリマーと、少なくとも1種類のスルホン酸と、炭素同素体材料と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
上述の本開示の特徴が詳細に理解できるように、上に簡単に要約した本開示のより具体的な説明を、態様を参照しながら行う。なお、そのうちのいくつかは添付図面に図示する。しかしながら、添付図面は本開示の典型的な態様を示すのみであって、その範囲を制限するものと考えるべきではない。本開示には、同様に効果的な他の態様が存在しうるからである。
【0011】
【
図1】本開示のいくつかの態様における抵抗値測定のための可能な電極配列を示す。
【
図2】本開示のいくつかの態様におけるファンデルパウ測定チップの一例を示す。
【
図3】本開示のいくつかの態様におけるカーボンナノチューブ材料の電流/電圧曲線を示す。
【
図4】本開示のいくつかの態様における可視近赤外域でのPANI材料の吸収を示す。
【
図5】本開示のいくつかの態様におけるPEDOT:PSS材料の抵抗値/厚みを示す。
【
図6A】本開示のいくつかの態様におけるPANI:DNNSA(ポリウレタン中40%)の抵抗値/材料厚みを示す。
【
図6B】本開示のいくつかの態様におけるIPAで洗浄したPANI:DNNSA(ポリウレタン中40重量%)の抵抗値/材料厚みを示す。
【
図7】本開示のいくつかの態様における未処理PANI:DNNSA材料のインピーダンス/周波数としてプロットしたインピーダンススペクトルのボードプロットを示す。
【
図8】本開示のいくつかの態様における櫛型電極に塗布されて洗浄剤で処理されたPANI:DNNSA材料の相対的な導電率を示す棒グラフである。
【
図9】本開示のいくつかの態様におけるトルエンから流延されたPANIPOL材料の抵抗値(kΩ)/アニーリング温度を示す。
【
図10】本開示のいくつかの態様におけるいろいろな洗浄剤で処理されたエポキシ塗膜中のPANI:DNNSAの抵抗率/エポキシ中の%PANIを示す。
【
図11】本開示のいくつかの態様における、材料中に異なる量のPEDOT:PSSを含むPEDOT:PSS材料の抵抗率を示す。
【
図12】本開示のいくつかの態様におけるスピン速度/材料厚みを示す。
【
図13】本開示のいくつかの態様における、基材上に塗布直後のPANI:DNNSAフィルムの導電率/厚みを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
理解を容易にするため、可能な場合は、これらの図中で共通する同一の部品を示すのに同一の引用番号を使用した。一態様における要素や特徴は、特に言及しなくても、他の態様に有益に編入されるものである。
【0013】
本開示の材料は、ポリマー、炭素同素体材料、及びスルホン酸からなる。少なくとも一態様において、本開示の材料は、第2ポリマーを含む。
【0014】
本開示は、使用中に静電気が帯電する部品に有用な静電除去材料などの導電性材料に関する。一般に、導電性材料は、その他の理想的な耐空性に加えて、高い導電性を有している。少なくとも一態様において、導電性材料は、炭素同素体材料、第1ポリマー、及びスルホン酸(例えば、DNNSA)からなる。第1ポリマー及び/又はスルホン酸は、炭素同素体材料上に(例えば、層として)塗布してもよいし、及び/又は炭素同素体材料の中に配置してもよい(例えば、炭素同素体材料の空隙中に存在)。炭素同素体材料は、多層のカーボンナノチューブを含み、例えば単層カーボンナノチューブ(SWNT)及び/又は二層カーボンナノチューブ(DWNT)、グラフェン、ポリカーボネート、フラーレン
、及び/又はこれらの混合物を含む。本開示の炭素同素体材料は、材料の電気的、機械的、及び/又は熱的特性の追加的な制御を可能とする。少なくとも一態様において、炭素同素体材料は、織布(規則性)又は不織布(非規則性)からなる導電性で多孔性の有機物及び/又は無機物のシートである。少なくとも一態様において、炭素同素体材料が、金属でコートされた炭素同素体材料であり、例えば金属でコートされたカーボンナノチューブである。金属には、ニッケル及び/又は銅が含まれる。
【0015】
少なくとも一態様において、前記炭素同素体材料は、炭素同素体材料のシートである。このシート材料は、材料の柔軟性と引張強度を改善する。シート材料は、複数のシート材料を含む多層物であってもよい。例えば、1つ以上のグラフェン層を塗布し、次いで導電性ポリマーを1種類以上とスルホン酸とをグラフェン層の上に塗布し、及び/又はグラフェン層の間に含侵させる。
【0016】
少なくとも一態様において、本開示の材料はさらに繊維材料を含む。繊維材料には、グラファイト、炭素繊維、ガラス繊維、ナイロン、アラミドポリマー、ポリエチレン、又はこれらの混合物が含まれる。例えば、ガラス繊維ベールは、カーボンナノチューブ塗膜を含み、この塗膜のそれぞれが1種類以上の導電性ポリマーと1種類以上のスルホン酸を含む。前記繊維材料は織布又は不織布である。不織布繊維には、例えば、ガラス繊維、ガラス繊維クロス、炭素繊維、及び/又はこれらの混合物が含まれる。織布材料及び/又は不織布材料は、本開示の材料の電気的及び機械的特性をさらに調整することを可能とする。
【0017】
少なくとも一態様において、炭素同素体材料を含む材料は、炭素同素体材料単独及び/又は炭素同素体材料を含まない材料の導電率値(例えば、オーム/平方)の約1.2倍~約20倍の大きな導電率値(オーム/平方)、例えば約1.5倍~約10倍、例えば約2倍~約5倍、例えば約2倍、約3倍、約4倍、約5倍大きな導電率値を持つ。少なくとも一態様において、炭素同素体材料を含む材料は、炭素同素体材料単独及び/又は炭素同素体材料を含まない材料の機械強度値(例えば、引張強度:MPa)の約1.2倍~約20倍の大きな機械強度値、例えば約1.5倍~約10倍、例えば約2倍~約5倍、例えば約2倍、約3倍、約4倍、約5倍大きな機械強度値を持つ。少なくとも一態様において、炭素同素体材料を含む材料は、炭素同素体材料単独及び/又は炭素同素体材料を含まない材料の熱伝導値の約1.2倍~約20倍の大きな熱伝導値、例えば約1.5倍~約10倍、例えば約2倍~約5倍、例えば約2倍、約3倍、約4倍、約5倍大きな熱伝導値をもつ。少なくとも一態様において、材料は、約20重量%~約80重量%の炭素同素体材料を含み、例えば約40重量%~約60重量%、例えば約40重量%、約45重量%、約50重量%、約55重量%、約60重量%の炭素同素体材料を含む。少なくとも一態様において、材料は、約10重量%~約25重量%の炭素同素体材料を含み、例えば10重量%、15重量%、20重量%、25重量%の炭素同素体材料を含む。
【0018】
少なくとも一態様において、第1ポリマーは、ポリアニリン(PANI)、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリアクリレート、エポキシ、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリスルフィド、これらの混合物、又はこれらの塩である。ポリアニリンは、材料の約0.1重量%~約25重量%を構成することができる。少なくとも一態様において、材料は、約20重量%~約80重量%、例えば約40重量%~約60重量%、例えば約40重量%、約45重量%、約50重量%、約55重量%、約60重量%を含む。第1ポリマーは、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホネート)の混合物であってよく、この混合物は、材料の約1重量%~約50重量%であってよく、例えば約10重量%~約25重量%、例えば、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%であってよい。
【0019】
少なくとも一態様において、導電性材料は、炭素同素体材料、第1ポリマー、第2ポリマー、及びスルホン酸からなる。炭素同素体材料と第1ポリマーは、すでに上述した。第2ポリマーは、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリアクリレート、エポキシ、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリスルフィド、これらの混合物、又はこれらの塩である。
【0020】
炭素同素体材料、第1ポリマー、及び/又は第2ポリマーは、無置換であっても、一置換又は多置換(例えば、二置換、三置換、又は四置換)であってもよく、その置換基の例はそれぞれアルキル(例えば、C1-C20アルキル)、アリール、アミノ、ニトロ、ハロ-(-F、-Cl、-Br、-I)から選択される。本開示において、「無置換体」とは、置換基を持つことが可能である分子で、各位置に水素原子を持っている分子である。本開示において、「置換体」は、炭素原子又は窒素原子に結合した水素以外の置換基を持つ分子である。少なくとも一態様において、材料は、約20重量%~約80重量%の第2ポリマー、例えば約40重量%~約60重量%、例えば約40重量%、約45重量%、約50重量%、約55重量%、約60重量%の第2ポリマーを含む。第2ポリマーは、ポリウレタンであってもポリビニルブチラールであってもよい。ポリビニルブチラールは、材料の約10重量%~約40重量%、例えば約10重量%~約25重量%、例えば10重量%、15重量%、20重量%、25重量%を構成することができる。
【0021】
スルホン酸は、本開示の導電性材料の抵抗率を低下させる。
【0022】
スルホン酸は、次式1のナフチルスルホン酸であってもよい。
【化1】
【0023】
式1のベンゼン環はそれぞれ、無置換であっても、必要なら、R
1又はR
2で一置換、二置換、三置換又は四置換されていてもよい。R
1は、独立して、アルキル(例えば、C1
-C20アルキル)、アリール、アミノ、ニトロ、ハロ-(-F、-Cl、-Br、-I)から選ばれ、R
2は、独立して、アルキル(例えば、C1-C20アルキル)、アリー
ル、アミノ、ニトロ、ハロ-(-F、-Cl、-Br、-I)から選ばれる。C1-C20アルキルで置換されたナフチルスルホン酸には、ジノニルナフチルスルホン酸、メチルナフチルスルホン酸、エチルナフチルスルホン酸、プロピルナフチルスルホン酸、ブチルナフチルスルホン酸、ペンチルナフチルスルホン酸、ヘキシルナフチルスルホン酸、ヘプチルナフチルスルホン酸、オクチルナフチルスルホン酸、ノニルナフチルスルホン酸、デシルナフチルスルホン酸、ジメチルナフチルスルホン酸、ジエチルナフチルスルホン酸、ジプロピルナフチルスルホン酸、ジブチルナフチルスルホン酸、ジペンチルナフチルスルホン酸、ジヘキシルナフチルスルホン酸、ジヘプチルナフチルスルホン酸、ジオクチルナフチルスルホン酸、ジデシルナフチルスルホン酸が含まれる。
【化1a】
【化1b】
【化1c】
【化1d】
【化1e】
【化1f】
【化1g】
【化1h】
【化1i】
【化1j】
【化1k】
【化1l】
【化1m】
【化1n】
【化1o】
【化1p】
【化1q】
【化1r】
【化1s】
【化1t】
【0024】
導電性材料は、ナフチルスルホン酸を約1重量%~約50重量%の量、例えば約3重量%~約25重量%、例えば約10重量%~約15重量%、例えば5重量%、10重量%、15重量%の量で含むことができる。他のスルホン酸には、フェニルスルホン酸、アントラセニルスルホン酸、ピレニルスルホン酸が含まれ、これらはそれぞれ、無置換であっても、一置換又は多置換であってもよく、その置換基の例はそれぞれ、独立してアルキル(例えば、C1-C20アルキル)、アリール、アミノ、ニトロ、又はハロ-(-F,-Cl,-Br,-I)である。
【0025】
少なくとも一態様において、基材は、部品、例えば輸送体部品(vehicle component)
であってよく、本開示の1つ以上の材料がこの部品に塗布される。基材に(例えば、層として)塗布される材料の厚みは、約0.1μm~約100μmであり、例えば約1μm~約8μm、例えば約2μm~約6μm、例えば約0.1μm、約lμm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmである。少なくとも一態様では、材料の抵抗値が、約1e+4Ω/□~約1e+8Ω/□あり、例えば約1e+4Ω/□、約1e+5Ω/□、約1e+6Ω/□、約1e+7Ω/□、約1e+8Ω/□である。導電率(これは抵抗率の逆数である)は、静電気放電を可能にする。
【0026】
輸送体(vehicle)は、任意の適当な交通輸送機器であってよい。輸送体には、航空機
、自動車、船舶、オートバイ、衛星、ロケット、ミサイルなどが含まれ、したがって、有人及び無人の航空機、有人及び無人の宇宙船、有人及び無人の地上輸送体、有人及び無人の非地上輸送体、さらには、有人及び無人の水上又は水中輸送体、物体、構造体を含む。
【0027】
輸送体部品は、当該輸送体部品の1つ以上の表面上に設けられた本開示の材料を1つ以上含む。上述したように、材料は、炭素同素体材料、第1ポリマー、及びスルホン酸を含む。また、上述したように、炭素同素体材料、第1ポリマー、第2ポリマー及びスルホン酸を含む材料もある。炭素同素体材料、第1ポリマー及び/又は第2ポリマーは、導電性である。輸送体部品は、輸送体における任意の部品を含み、例えば、航空機や自動車など
のパネル又はジョイント(joint)といった構造部品がある。輸送体部品は、航空機のノ
ーズ、燃料タンク、テールコーン、パネル、2つ以上のパネル間の被覆ラップジョイント、翼と胴体部のアセンブリ、航空機の複合構造体、胴体部ジョイント、翼リブと外皮のジョイント、及び/又は、その他の内部部品を構成する。
【0028】
導電性材料は、溶媒中における固体含量が約0.1重量%~約30重量%の第1ポリマー、ポリオール、イソシアネート、炭素同素体材料、スルホン酸の1つ以上の反応生成物を含む。第1ポリマーは、上述の通りである。少なくとも一態様において、ポリマーは溶媒中に百分率固体含量として約0.1重量%~約30重量%、例えば約1重量%~約15重量%で存在し、例えば、約1重量%、約2重量%、約3重量%、約4重量%、約5重量%、約6重量%、約7重量%、約8重量%、約9重量%、約10重量%、約11重量%、約12重量%、約13重量%、約14重量%、約15重量%で存在する。溶媒は、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジメチルスルホキシド、水、又はこれらの混合物を含む。スルホン酸はナフチルスルホン酸を含む。
【0029】
後述する方法において、第1ポリマー及び第2ポリマーは、上述の通りである。
【0030】
少なくとも一態様において、導電性材料の形成方法は、カーボンナノチューブ、グラフェン、ポリカーボネート及び/又はフラーレンなどの炭素同素体材料を基材上に塗布することと、次いで硬化させてシート材料を形成することを含む。本方法はさらに、このシート材料に第1ポリマー及び/又は第2ポリマーを塗布して、基材上に設けられた第1材料を形成することを含む。基材は、輸送体部品であってもよく、第1材料は、塗布及び/又は硬化後の厚みが約0.1μm~約10μmとなる層を構成してもよく、この厚みは、例えば約1μm~約8μm、例えば約2μm~約6μm、例えば約0.1μm、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmでもよい。本方法は、第1材料を硬化することを含む。本方法は、第1ポリマー及び/又は第2ポリマーを炭素同素体材料の上に塗布する前に、第1ポリマー及び/又は第2ポリマーを溶媒に溶解することを含んでいてもよい。少なくとも一態様において、前記炭素同素体材料はシート材料である。溶媒は、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジメチルスルホキシド、水、又はこれらの混合物を含む。塗布方法には、ドロップキャスティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、スロットダイコーティング、フローコーティング及び/又はインクジェット印刷が含まれる。炭素同素体材料の長さ(導電率に関連する)と炭素同素体材料の面密度(aerial density)と炭素同素体材料の重量密度に影響が出ないようにして塗布条件を調整してもよい(例えば、塗布の厚み及び/又は分散をより小さくする)。
【0031】
少なくとも一態様において、導電性材料の形成方法は、第1ポリマーを炭素同素体材料の上に塗布して、基材上に設けられた第1材料を形成することを含む。少なくとも一態様において、炭素同素体材料はシート材料である。基材は、輸送体部品であってもよく、第1材料は、塗布後の厚みが約0.1μm~約10μmであってよく、例えば約1μm~約8μm、例えば約2μm~約6μm、例えば約0.1μm、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmであってよい。本方法は、第1材料を硬化することを含む。本方法は、第1ポリマーを炭素同素体材料の上に塗布する前に、第1ポリマーを溶媒に溶解することを含んでいてもよい。溶媒は、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジメチルスルホキシド、水、又はこれらの混合物を含む。塗布方法には、ドロップキャスティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、スロットダイコーティング、フローコーティング及び/又はインクジェット印刷が含まれる。
【0032】
少なくとも一態様において、導電性材料の形成方法は、基材上に設けられた炭素同素体
材料の上に、第1ポリマー及び/又は第2ポリマーを塗布して、基材上に設けられた第1材料を形成することを含む。少なくとも一態様において、炭素同素体材料はシート材料である。基材は、輸送体部品であってもよく、第1材料は、塗布及び/又は硬化後の厚みが約0.1μm~約10μmとなる層を構成してもよく、この厚みは、例えば約1μm~約8μm、例えば約2μm~約6μm、例えば約0.1μm、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmでもよい。本方法は、第1材料を硬化することを含んでいてもよい。本方法は、第1ポリマー及び/又は第2ポリマーを炭素同素体材料の上に塗布する前に、第1ポリマー及び/又は第2ポリマーを溶媒に溶解することを含んでいてもよい。溶媒は、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジメチルスルホキシド、水、又はこれらの混合物を含む。塗布方法には、ドロップキャスティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、スロットダイコーティング、フローコーティング及び/又はインクジェット印刷が含まれる。本方法は、さらにカーボンナノチューブ、グラフェン、ポリカーボネート及び/又はフラーレンなどの炭素同素体材料を第1材料の上に塗布することと、次いで硬化させて炭素同素体材料を有する第2材料を形成することを含む。塗布用の炭素同素体材料の長さ(導電率に関連する)と塗布用の炭素同素体材料の面密度と塗布用の炭素同素体材料の重量密度に影響が出ないようにして、塗布条件を調整してもよい(例えば、塗布の厚み及び/又は分散をより小さくする)。このように、材料の電気特性は、材料の含有物により、例えばポリマーやスルホン酸、溶媒などの量と種類によりコントロールできる。
【0033】
少なくとも一態様において、導電性材料の形成方法は、第1ポリマーと第2ポリマーを混合して第1材料を形成することを含む。本方法は、基材上に設けられた炭素同素体材料の上に第1材料を塗布して、基材上に設けられた第2材料を形成することを含む。少なくとも一態様において、炭素同素体材料はシート材料である。基材は、輸送体部品であってもよく、第2材料は、塗布後の厚みが約0.1μm~約10μmであってもよく、例えば約1μm~約8μm、例えば約2μm~約6μm、例えば約0.1μm、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmであってもよい。本方法は、第2材料を硬化することを含む。本方法は、第1ポリマーを第2ポリマーと混合する前に、第1ポリマーを溶媒に溶解することを含む。溶媒は、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジメチルスルホキシド、水、又はこれらの混合物を含む。
【0034】
少なくとも一態様において、導電性材料の形成方法は、炭素同素体材料、第1ポリマー及び第2ポリマーを混合して第1材料を形成することを含む。本方法は、第1材料を基材上に塗布して、基材上に設けられた第1材料を形成することと、次いで硬化させて炭素同素体材料を有する第2材料を形成することを含む。少なくとも一態様において、前記炭素同素体材料はシート材料である。基材は、輸送体部品であってもよく、第1材料及び/又は第2材料は、塗布後の厚みが約0.1μm~約10μmであってもよく、例えば約1μm~約8μm、例えば約2μm~約6μm、例えば約0.1μm、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmであってもよい。本方法は、炭素同素体材料、第1ポリマー及び第2ポリマーを相互に混合する前に、第1ポリマー及び/又は第2ポリマーを溶媒に溶解させることを含んでいてもよい。この溶媒は、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジメチルスルホキシド、水、又はこれらの混合物を含む。
【0035】
本開示の方法は、第1材料及び/又は第2材料を洗浄剤で洗浄することを含んでいてもよい。洗浄剤は、イソプロピルアルコール、パラトルエンスルホン酸、アセトン、メタノール、これらの水和物、これらの溶媒和物、又はこれらの混合物を含む。洗浄は、第1材料及び/又は第2材料の表面に洗浄剤を約1秒~約10分間、例えば約1分から5分間、吹き付けることを含んでいてもよい。洗浄は、材料の表面に、洗浄剤を約1mL~約25
kLの量、例えば約1L~約100L、例えば約1L~約5L、例えば1L、2L、3L、4L、5Lの量だけ吹き付けることを含んでいてもよい。洗浄は、第1材料及び/又は第2材料を第2の洗浄剤で、すなわちイソプロピルアルコール、パラトルエンスルホン酸、アセトン、メタノール、これらの水和物、これらの溶媒和物、又はこれらの混合物で洗浄することを含んでいてもよい。少なくとも一態様において、洗浄剤はパラトルエンスルホン酸であり、ブトキシエタノール中1重量%のパラトルエンスルホン酸混合物である。少なくとも一態様において、洗浄は、第1材料及び/又は第2材料を洗浄剤中に約1秒~約1分の間浸漬することを含む。
【0036】
本明細書に記載の方法において、第1材料及び/又は第2材料の硬化は、材料の温度をピーク硬化温度にまで上げることと、約1秒~約48時間の間、例えば約1時間~約10時間の間、ピーク硬化温度に維持することを含んでいてもよい。ピーク硬化温度は、略室温~約200℃であってよく、例えば約50℃~約90℃、例えば50℃、60℃、70℃、80℃、90℃であってよい。
【0037】
本明細書に記載の方法では、第1材料及び/又は第2材料の基材上への塗布は、輸送体部品などの基材の表面に第1材料を、約100rpm~約4,000rpmの速度、例えば約500rpm~約2,000rpmの速度、例えば約500rpm、約1,000rpm、約1,500rpm、約2,000rpmの速度でスピンコーティングすることにより実施してもよい。
【0038】
少なくとも一態様において、輸送体部品の表面を加熱する方法は、輸送体部品上に設けられた本開示の材料の表面に電圧を印加することを含む。前記材料は、炭素同素体材料及び第1ポリマーを含む。少なくとも一態様において、炭素同素体材料はシート材料である。材料は、第2ポリマー及び/又はスルホン酸をさらに含む。材料の表面に電圧を印加すると、輸送体部品の表面に付着した固相の水(氷)が少なくとも部分的に溶融する。電圧は、約10ヘルツ~約2000ヘルツの交流(AC)電圧であってよく、例えば約500ヘルツ~約1,000ヘルツ、例えば500ヘルツ、600ヘルツ、700ヘルツ、800ヘルツ、900ヘルツの交流電圧であってよい。電圧は、約10ボルト~約2000ボルトの交流(AC)電圧であってよく、例えば約100ボルト~約500ボルト、例えば約100ボルト、約200ボルト、約300ボルト、約400ボルト、約500ボルトの電圧であってよい。
【0039】
輸送体部品は、ノーズ、燃料タンク、テールコーン、パネル、2つ以上のパネル間の被覆ラップジョイント、翼と胴体部のアセンブリ、航空機複合構造材、胴体部ジョイント、翼リブと外皮のジョイント、及び/又は、その他の内部部品を含む。第1ポリマーは、ポリアニリン、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(スチレンスルホネート)、又はこれらの混合物を含み、第2ポリマーは、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリアクリレート、エポキシ、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリスルフィド、及びこれらの混合物を含む。炭素同素体材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、ポリカーボネート、フラーレン、及びこれらの混合物を含む。スルホン酸は、ナフチルスルホン酸、アントラセニルスルホン酸、及び/又はピレニルスルホン酸を含み、これらはそれぞれ、無置換であっても、一置換又は多置換であってもよく、その置換基の例はそれぞれ、独立してアルキル(例えば、C1-C20アルキル)とアリール、アミノ、ニトロ、又はハロ-(-F,-Cl,-Br,-I)である。
【0040】
本開示の材料は、例えば輸送体部品の表面などの基材上に、いずれか適当な堆積法で、例えばドロップキャスティング、浸漬、吹き付け、ブラシコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、ドクターブレードコーティングで、あるいはこれらを併用して塗布してもよい。本開示の材料は、輸送体部品の1つ以上の表面上に、例えば、航空機
部品の内表面(例えば、内部空洞)、外表面、又はその両方に塗布できる。
【0041】
少なくとも一態様において、本開示の材料は、炭素同素体材料と第1ポリマーとスルホン酸からなる導電性材料であってもよい。本開示の材料は、さらに第2ポリマーを含んでもよい。炭素同素体材料は、多層のカーボンナノチューブを含み、例えば単層カーボンナノチューブ(SWNT)及び/又は二層カーボンナノチューブ(DWNT)、グラフェン、ポリカーボネート、フラーレンを含む。第1ポリマーは、ポリアニリン(PANI)、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、アクリレート、エポキシ、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂、フェノキシ樹脂などの樹脂、ポリスルフィドなどの封止材、及びこれらの混合物を含む。第2ポリマーは、ポリアニリン(PANI)、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、アクリレート、エポキシ、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂、フェノキシ樹脂などの樹脂、ポリスルフィドなどの封止材、及びこれらの混合物を含む。エポキシには、部分硬化エポキシと特定種のエポキシ、触媒を含む二成分系エポキシ樹脂(例えば、ヘンケル社(Henkel Corporation)(ベイポイント、カリフォルニア:Bay Point, California)から入手可能なHYSOL(登録商標)EA956エポキシ樹脂)、樹脂と硬化剤の両方を含む二液体システム(例えば、ストルアス社(Struers A/S)(バ
レルプ、デンマーク: Ballerup, Denmark)から入手可能なEPOFIX樹脂)、アミノ
フェノールのトリグリシジルエーテル(例えば、ハンツマンアドバンスドマテリアルズ(Huntsman Advanced Materials)(モンテー、スイス: Monthey, Switzerland)のアラル
ダイト(Araldite)MY0500又はMY0510))、N、N、N’、N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミンなどの四官能のエポキシ(例えば、ハンツマンアドバンスドマテリアルズ(モンテー、スイス)のアラルダイトMY0720又はMY0721)、及びこれらの混合物が含まれる。エポキシにはまた、ビスフェノール-A(ビス-A)又はビスフェノール-F(ビス-F)などの二官能性エポキシ系のエポキシが含まれる。ビス-Aエポキシ樹脂は、アラルダイトGY6010(ハンツマンアドバンスドマテリアルズ)又はDER331(ダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Company)(ミッドランド、ミシガン:Midland, Michigan)から入手可能)として市販されている。ビス
-Fエポキシ樹脂は、アラルダイトGY281とGY285(ハンツマンアドバンスドマテリアルズ)として市販されている。エポキシは耐性が高いので、例えば、航空機外側の熱硬化性樹脂として適当である。
【0042】
ポリアニリンには、例えば、式2:
【化2】
(式中、xは正の整数、例えば約10~約10,000の整数)のポリアニリン、ロイコエメラルジン、エメラルジン、(ペル)ニグラニリン、これらの混合物、これらの塩類、及びこれらの塩基が含まれる。ポリアニリンは、無置換、一置換又は多置換(例えば、二置換、三置換、又は四置換)であり、その置換基の例は、それぞれ独立してアルキル(例えば、C1-C20アルキル)、アリール、アミノ、ニトロ、又はハロ-(-F、-Cl、-Br、-I)である。
【0043】
ポリ(エチレンジオキシチオフェン)には、例えば、式3:
【化3】
(式中、xは正の整数、例えば約10~約10,000の整数)のポリ(エチレンジオキシチオフェン)、及び/又はこれらの塩類が含まれる。ポリ(エチレンジオキシチオフェン)は、無置換、一置換又は多置換(例えば、二置換、三置換又は四置換)であり、その置換基の例は、それぞれアルキル(例えば、C1-C20アルキル)、アリール、アミノ、ニトロ、ハロ-(-F、-Cl、-Br、-I)から選ばれる。
【0044】
ポリ(スチレンスルホネート)には、例えば、式4:
【化4】
(式中、xは正の整数、例えば約10~約10,000の整数)のポリ(スチレンスルホネート)、及び/又はこれらの塩が含まれる。ポリ(スチレンスルホネート)は、無置換、一置換又は多置換(例えば、二置換、三置換又は四置換)を含み、その置換基の例は、それぞれアルキル(例えば、C1-C20アルキル)とアリール、アミノ、ニトロ、ハロ-(-F、-Cl、-Br、-I)から選ばれる。
【0045】
アクリレートには、例えば、式5:
【化5】
(式中、xは正の整数、例えば約10~約10,000の整数)のポリアクリレート、及び/又はこれらの塩が含まれる。R
1とR
2は、独立してC1-C20アルキル又はC1-C20ヒドロキシアルキルである。少なくとも一態様において、R
2はメチルである。ア
クリレートには、ヒドロキシアルキルポリアクリレート、ヒドロキシアルキルポリメタクリレート、アルキルポリアクリレート、及びアルキルポリメタクリレートが含まれる。適
当なヒドロキシアルキルポリアクリレート又はヒドロキシアルキルポリメタクリレートの例には、ポリ(2-ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシ-1-メチルエチルアクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(3-ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシブチルアクリレート)、ポリ(4-ヒドロキシブチルアクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシ-1-メチルエチルメタクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(3-ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシブチルメタクリレート)、ポリ(4-ヒドロキシブチルメタクリレート)等や、エチレングリコールとプロピレングリコールのアクリル酸又はメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(ジエチレングリコールアクリレート))などが挙げられる。不飽和酸、例えばマレイン酸やフマル酸、イタコン酸などのヒドロキシ含有エステル及び/又はアミドも有用である。少なくとも一態様において、ヒドロキシ-アクリル系ポリマーは、総アクリレート重量に対して5%~35%(重量換算)のモノエチレン性不飽和ヒドロキシ含有モノマーを含み、特定の実施態様では、10%~25%(重量換算)のモノエチレン性不飽和ヒドロキシ含有モノマーを含む。アルキルポリアクリレートとポリメタクリレートには、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(プロピルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(ブチルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、ポリ(ヘキシルアクリレート)、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ポリ(ノニルアクリレート)、ポリ(ラウリルアクリレート)、ポリ(ステアリルアクリレート)、ポリ(シクロヘキシルアクリレート)、ポリ(イソデシルアクリレート)、ポリ(フェニルアクリレート)、ポリ(イソボルニルアクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(プロピルメタクリレート)、ポリ(イソプロピルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(2-エチルヘキシルメタクリレート)、ポリ(ノニルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(ステアリルメタクリレート)、ポリ(シクロヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、及びポリ(イソボルニルメタクリレート)などが含まれる。
【0046】
ポリウレタンには、例えば、式6:
【化6】
(式中、xは約10~約10,000の整数)のポリウレタンが含まれる。R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5の例は、それぞれ独立して、水素あるいはC1-C20アルキルである
。ポリウレタンには、例えば、アプテク(Aptek)2100A/Bとアエロジュール(Aerodur)3002(アルゴシーインターナショナル社(Argosy International, Inc.)から入手可能)が含まれる。ポリウレタンは、無置換、一置換又は多置換(例えば、二置換、三置換又は四置換)であり、置換基の例は、それぞれ独立して、アルキル(例えば、C1-C20アルキル)、アリール、アミノ、ニトロ、又はハロ-(-F、-Cl、-Br、-I)である。
【0047】
<ポリマー合成、特性評価と物性測定>
本開示の材料のポリマー及び炭素同素体材料は、市販製品であっても合成品であってもよい。市販されているポリマーには、PANI、PEDOT:PSS、ポリウレタン、及びエポキシがあり、例えば、ヘレウス(Heraeus)又はシグマアルドリッチ(SigmaAldric
h)から入手可能である。本開示のポリマーは、複数のモノマーを混合して混合物とし、
次いで加熱してこれらモノマーを重合して合成してもよい。1つ以上の重合触媒を混合物に添加して生成するポリマーの分子量(Mn及び/又はMw)の増加を促進してもよい。「Mn」は、数平均分子量であり、「Mw」は重量平均分子量である。市販の炭素同素体材料には、カーボンナノチューブシートが含まれる。少なくとも一態様において、ポリマーは、いずれか適当な溶媒又は溶媒混合物中、例えば、n-ブタノール、n-ヘキサノール、ジエチルエーテル、又はこれらの混合物中で合成される。
【0048】
本開示の材料が、スルホン酸としてのDNNSAを含む場合、例えば生産されるポリアニリンは、高い分子量(例えば、>22,000)と適度な導電率(10-5S/cm)を持ち、様々な溶媒に対して高い溶解度を示す。少なくとも一態様において、4級アンモニウム塩又は溶媒、例えばメタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、パラトルエンスルホン酸、これらの塩、及びこれらの混合物で処理/洗浄することで、合成されたポリマーの材料の導電率が約5桁増加することがある。理論に縛られるものではないが、洗浄による導電率の増加は、過剰スルホン酸の除去、ポリマーの緻密化、またこの結果としての結晶化度の増加によるものである。
【0049】
<ポリアニリンジノニルナフタレンスルホン酸塩の製造例>
0.1モルのDNNSA(2-ブトキシエタノール中の50%w/w溶液)を0.06molのアニリンと200mLの水とに混合して、2-ブトキシエタノールを含む乳白色のエマルジョンを形成した。このエマルジョンを、5℃に冷却して機械的に攪拌し、窒素雰囲気置換した。前記混合物に約1時間かけてペルオキシ二硫酸アンモニウム(40mLの水中に0.074mol)を滴下した。この反応を約17時間進行させた。この間に、エマルジョンが緑色の2-ブトキシエタノール相と無色の水相とに相分離した。合成の進行度は、pHとOCP(開放回路電位、mV)と温度で追跡した。
【0050】
得られた有機相を100mLの水で3度洗浄し、2-ブトキシエタノール中に高濃縮された暗緑色のポリアニリン相を得た。この濃縮物はキシレンに可溶であった。この溶液から薄膜材料を形成することが可能である。前記の濃縮物の一部にアセトンを添加すると、ポリアニリン塩が緑色粉末として析出した。この粉末をアセトンで徹底的に洗浄して乾燥した後、元素分析した結果、スルホン酸:アニリンの化学量論比は1:2であった。
【0051】
出発混合物中のアニリンのDNNSAに対するモル比を調整して、合成ポリマー中のPANI:DNNSAモル比を変えてもよい。例えば、ペルオキシ二硫酸/アニリンモル比率を1.23:1と一定にして、DNNSA/アニリンモル比を1:1、1:2、及び1:5としてPANI:DNNSA塩を合成してもよい。DNNSA/アニリンモル比率が1.7で、Mw(SEC/粘度)値の31,250が得られる。DNNSA/アニリンモル比率が0.5で、Mw(SEC/粘度)値の25,300が得られる。DNNSA/アニリンモル比率が0.2と低いと、Mw(SEC/粘度)値の5,690が得られる。
【0052】
<分子量測定>
分子量分布平均は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で測定できる。クロマトグラムは、SECシステムで得ることができ、例えば、150-CV型SEC/粘度測定(SEC/VISC)システム(ウォーターズクロマトグラフィー社:Waters Chromatography Inc.)や、590型ポンプと712型オートインジェクター、410型示差屈折計、TCH型カラムヒーターを備える複合SECシステム(ウォーターズクロマトグラフィー社)により得られる。両SECシステムは、45℃で運転でき、平均透過度が105と103Åである2本のスチラゲルSECカラム(styragel SEC columns)(ウォーターズクロマトグラフィー社)を直列に使用することができる。0.02MのNH4HCO2(フルカケミカル社:Fluka Chemical Co.)で変性されたUVグレードのN-メチルピロリド
ン(NMP)(バーディック・アンド・ジャクソン社:Burdick & Jackson Co.)を、移
動相とポリマー溶媒として使用してもよい。流速の設定値として0.5mL/minを使用できる。
【0053】
SECの校正は、分子量が1.1×10
6~2698の範囲の単分散ポリスチレン標準
試薬(東ソー株式会社)で行うことができる。ポリスチレン校正試薬の固有粘度は、前記SEC/粘度検出器で測定してよい。これらの値は、ユニバーサルキャリブレーション(universal calibration)によるサイズ排除クロマトグラフ校正用の、NMP/0.02
M-NH
4HCO
2中のポリスチレンに対する45℃でのマーク・ホーウィンク式(Mark-Houwink expression)を与える。
【数1】
【0054】
ユニバーサル校正曲線又はポリスチレン系の分子量校正曲線を作るのに、線形最小二乗法を用いてもよい。
【0055】
ポリアニリンに対するマーク・ホーウィンク定数は、設定された分子量分布平均とSEC/VISCクロマトグラムの個々のデータ点について計算された固有粘度とから計算することができる。データの取得と整理は、TRISECソフトウェア(ビスコテック社:Viscotek Corp.)で行うことができる。報告された分子量分布平均は、2回の測定の平均であってもよい。
【0056】
脱プロトン化ポリアニリン塩のSEC/VISCクロマトグラムは、典型的には単峰形(unimodal)であり、PANIとそのスルホン酸成分との間でベースライン分離に近い解像度が得られる。スルホン酸成分は、ポリアニリンピークから分離され、分子量計算には含まれない。少なくとも一態様において、これらのポリアニリン塩が、Mw/Mn(多分散性)が>1.5のブロードなサイズ排除クロマトグラムを与える。PANI-DNNSA(1:2)のマーク・ホーウィンク(M-H)プロットは、線状であり、R=0.671であり、logK=-3.146であった。
【0057】
<吸収>
吸収の測定は、大気下で汎用の測定付属品(UMA:Universal Measurement Attachment)を用いCary5000スペクトロメータで行うことができる。溶液試料は、1cmの石英キュベット中でトルエンの希薄溶液として測定できる。サンプリング周波数は、測定する波長幅によるが1nmと2nmの間であってよい。試料測定の前に溶媒のバックグラウンドを測定し、後でそれを除く必要がある。乾燥フィルムの測定は、ガラススライド上に1000rpmのスピン回転速度で30秒間、キシレン又はトルエンの溶液からスピンコートし、このようにして得られた試料として測定できる。ガラス基材上でバックグラウンド透過を測定する必要がある。不均一な試料表面からの光散乱効果を最小に抑えるために、試料をガラス基材側とともに光の導入口に向けて配列する必要がある。
【0058】
<抵抗値>
抵抗値の測定は、電極と測定装置、例えばケースレー4200SCS(Keithley 4200SCS)とを適切に組み合わせて実施できる。抵抗値の測定はファンデルパウの方法(van der Pauw method)を用いて行うことが好ましい。この四点法は、試料表面を横断する電流
と電圧の平行的なソース・センス測定を用いて行う。二極性をテストするため各接点に加わる電流と電圧の極性を切り替える。試料の直接比較を可能とするために、試料の形状を一定とする必要がある。表1と
図1に示すように、電荷方向性の差を考慮して、可能な配列のそれぞれで電流と電圧の測定を回転切替させる。
図1は、抵抗値測定に可能な電極配
列を示す。
【表1】
【0059】
ファンデルパウ抵抗値の測定は、2枚の隣接する電極間に電流を流し、電極に平行な配列にある試料による電圧降下を測定して行った。
【0060】
シート抵抗は、測定材料からのVとIの比から計算できる。真に等方的な抵抗を示す試料の場合、R
A=R
B=R
C=R
Dである。等方的な抵抗(例えば、R
A=R
Bのような)の場合、シート抵抗は、下の式1に示されるように、2つの測定された抵抗値の平均により決められる。異方的な抵抗を持つ(x方向とy方向が異なる抵抗値を示す)試料の場合、シート抵抗の計算がより複雑となる。これについては、次の段落で説明する。R
A≠R
CでR
B≠R
Dであるすべての試料については、測定を行わなかった。式2は、材料の厚みdが既知の場合(典型的に抵抗率はΩ・cmで報告され、d(cm)を使用する)の、バルク抵抗率ρの決定方法を示す。なお、これは元のファンデルパウの定理から導かれるものである。次いで、バルク抵抗率ρを用いて、導電率σ(S・cm-1)を計算する。これはバルク抵抗率の逆数である(式2)。
【数2】
【数3】
【0061】
R
A≠R
Bの場合、ファンデルパウ式から導電率値を得るのがより難しくなる。導電率が等方的でない場合、前記導電率値は、xとyとzの次元を持つテンソル値となる。非常に薄い材料の場合、正確な導電率値は、下の式3に示すように、直交する導電率測定値の積の平方根を計算して得ることができる。この計算は、測定方向が導電率のテンソル軸に整列している場合にのみ有効である。
図2に示すように、前記方法で測定された2つの抵抗値の大きい方が最低導電率テンソルに正確に沿うものであり、抵抗測定値の小さい方が最大導電率テンソルに沿うものであると仮定したものである。
図2に、ファンデルパウ測定チップの一例を示す。
図2の右側に示すように、導電率テンソルが電極/試料の配置にうまく整列していない場合、不正確な導電率値が得られることとなろう。
【数4】
【0062】
図2のファンデルパウ測定チップでは、数字が測定軸に対応し、σXの記号(σA、σB、σC)が導電率テンソル方向を示す。右側の図の試料のように、試料軸とテンソル軸が一致しないと、不正確に測定された導電率が与えられることとなる。ファンデルパウ・プリント電極とケースレー4200SCSの組み合わせが、試料の測定に適当な装置テストベッドを提供する。
【0063】
測定への湿度の影響を抑えるために、小さな試料プローブステーションを使用してもよく、これにより、ケースレー4200SCSにきっちりと結合させて、ドロップセンス(Dropsens)組み立て式電極上で正確なファンデルパウ測定を行うようにできる。
【0064】
<電気化学インピーダンス分光法(EIS)>
EISでは、異なる周波数での試料のインピーダンスの変化を調べるために可変周波数交流源を使用する。抵抗体と同様に、インピーダンスは、印加される交流と測定される電圧変化の間の遅れである。電気回路の部品は周波数に依存して応答するが、これを測定対象塗膜に特異な特性を見つけるのに使用できる。真のオーム抵抗体は、直流(DC)源と交流(AC)源に同様に応答し、このため周波数依存性の抵抗応答を示さない。キャパシター(また、より複雑な電気部品)は、周波数依存性の応答をもつ。低周波数ではインピーダンスが非常に高く、高周波数では電気インピーダンスが低い。EISデータの解析においては、予測モデル(等価回路モデルとして知られる)は、厳密に試料システムを近似するため、真正電気部品と疑似電気部品とから構成される。次いで、このモデルで計算されるインピーダンススペクトルが、測定されたスペクトルと比較される。
【0065】
材料のインピーダンス応答とそのキャパシター及び抵抗体としての複合応答を測定してよい。フィッティングをよくするために、フィッティングを、ガムリー内蔵スペクトルフィッティングソフトウェア(Gamry built in spectral fitting software)を用いて得ることができる。このガムリープログラムは、χ
2フィッティング式(式4)を使用する。
【数5】
【0066】
完全にマッチした予測及び測定インピーダンススペクトルの場合、χ2=0となる。少
なくとも一態様において、χ2の値が<10-4なら、許容可能な「良いフィッティング」
となる。少なくとも一態様において、2つの異なる等価回路モデルを比較するにあたり、この数値の1/3より小さな差は、区別不能とみなされる。
【0067】
<ポリマー材料>
本開示の材料は、第1ポリマーを炭素同素体材料に塗布して形成することができる。また、材料は、第1ポリマーと第2ポリマーを混合して第1材料を形成し、第1材料を炭素同素体材料に塗布して形成することもできる。また、材料は、第1ポリマーを炭素同素体材料に塗布して第1材料を作り、第1材料の上に第2ポリマーを塗布して第2材料を作って形成することもできる。また、スルホン酸を、第1ポリマー、第2ポリマー、及び/又は炭素同素体材料と混合してもよい。本開示の材料には、硬化処理、及び/又は、イソプロピルアルコール及び/又はパラトルエンスルホン酸などの洗浄剤で洗浄処理した材料であってもよい。
【0068】
本開示の材料は、表面、例えば輸送体部品の表面に、ドロップキャスティング、浸漬、吹き付け、ブラシコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、ドクターブレードコーティングで、あるいはこれらを併用するいずれか適当な方法で塗布してもよい。輸送体部品の表面への塗布前にあるいは塗布後に、材料を硬化させてもよい。例えば、材料を、輸送体部品に塗布し、塗布後、材料を約70℃で約3~約4時間加熱し、これにより材料を硬化させてもよい。この硬化プロセスを早めるためにより高い温度を使用してもよい。硬化により、材料中の1つ以上の溶媒、例えばキシレン類、トルエン、及び/又は水が揮散する。
【0069】
<微細構造と材料の厚み>
材料の厚みは、白色光干渉分光法により、カットステップ高さから求められる。材料表面の微細構造は、いずれか適当な3Dレーザー走査型共焦点顕微鏡により、例えばキーエンスVK-X(Keyence VK-X)により観察できる。
【0070】
〔実施例1:PANI:DNNSA+カーボンナノチューブシート〕
カーボンナノチューブシート(製品ID:GN-N8-LD10)をジェネラルナノ社(General Nano Corp.)から入手した。ポリアニリンジノニルナフタレンスルホン酸(PANI-DNNSA)は、上述のようにして合成した。銀インク(AG530)はコンダクティブコンパウンズ社(Conductive Compounds Corp.)から入手し、電気接続に使用した。8663HSポリウレタン保護テープは、3M社(3M Company)より入手した。
【0071】
<抵抗値の測定>
2.5cm×2.5cmの角型カーボンナノチューブシートに、マイクロピペットを用いて0.5mLのPANI-DNNSA溶液を塗布して、入念にその面を覆った。このポリマー溶液は均一な塗膜を与えた。電気接続のためこのシートの両端に銀インクをブラシで塗布した。この塗布シートを対流炉中大気下で60℃で乾燥させた。このシートの抵抗値は、ケースレー4200-SCSシステムを用いて作成した電流/電圧曲線から計算した。
【0072】
<電気加熱>
21cm×7.5cmのカーボンナノチューブシートを、1mm厚のガラス繊維パネルの上に置いた。このCNTシート上にPANI-DNNSA溶液を滴下塗布し、このシートの両端に銀インクを塗布した。このパネルを90℃で空気乾燥させた。次いで、この塗布パネルに保護層としてポリウレタンテープを貼り付けた。自動オン/オフタイマー(422ARR100S0X、オートマチック・タイミング・アンド・コントロールズ社(Automatic Timing and Controls Co.))を用いて、所定間隔でこのパネルに電力を印加し
た。タイマーにより、60Hzのバリアック電源を、30秒間オン、60秒間オフのサイクルで印加した。印加電圧と測定電流は、HP34401Aマルチメータで同時に測定した。ファンを取り付けて空気を直接このパネルに吹き付けて、過熱を防止した。
【0073】
図3に、本開示のいくつかの態様のカーボンナノチューブ材料の電流/電圧曲線を示す。
図3に示すように、グラフ300には、カーボンナノチューブシートのみの電流/電圧曲線(ライン302)と、PANI-DNNSA塗布のカーボンナノチューブシートの曲線(ライン304)と、PANI-DNNSA塗布のカーボンナノチューブシートでIPAで洗浄したものの曲線(ライン306)が示されている。これらの結果は、PANI-DNNSAが塗布されたカーボンナノチューブシートでできた材料の直線的なオーム応答を示すとともに、カーボンナノチューブシート単独(9.9オーム/平方)(ライン306)に対する、PANI-DNNSAが塗布されたカーボンナノチューブシートである材料(5.6オーム/平方)(ライン304)の大きな(例えば、2倍)導電率増加/抵抗率低下を示している。上述のようにして製造した21cm×7.5cmのパネル(ライン304)は、抵抗値が13.8Ωであった。このパネルに印加される電圧が27.8ボルトACであるため、流れる電流は2.18A又は60.6ワット電力(0.38W/cm
2又は2.7W/in
2)である。また、材料をIPAで洗うと、無洗浄のPANI-カーボンナノチューブ(5.6オーム/平方)(ライン308)に対して、さらなる導電率増加/抵抗率低下(4.9オーム/平方)(ライン306)が起こる。第2の2.5cm×2.5cmのPANI-DNNSAカーボンナノチューブ試料は、ポリカーボネート基材の上に作成した。測定された5オーム/平方の抵抗値は、本方法の再現性を示す。総括すると、PANI-DNNSAがカーボンナノチューブシートに適切に取り込まれることにより、PANI-DNNSA又はカーボンナノチューブシート単体に対して電気的及び機械的特性が改善された導電率と柔軟性を持つシステムが得られる。PANI-DNNSA
-カーボンナノチューブシートを含む材料は、2.7W/in
2の発熱を示し、30秒間
で約51℃~約62℃の温度を達成することが示された。また、PANI-DNNSA-カーボンナノチューブシート材料を水で洗っても、この材料からDNNSAが脱ドープすることはない。実際、湿潤条件への感受性は、輸送体用途向け静電除去材料としての既知材料の実用性を阻害していた。
【0074】
〔比較例:PANI-カーボンナノチューブ-HCl〕
PANI-カーボンナノチューブ-HClは、前記カーボンナノチューブシートの存在下で過硫酸アンモニウムを酸化剤として用いて酸性溶液浴(1M-HCl)中でアニリンを反応容器中重合(in situ polymerization)して製造した。シート対アニリンの重量比は1:5であり、アニリンモノマー対酸化剤のモル比は1:1であった。CNT単体のDC導電率は、342±37S/cmであったが、PANI-カーボンナノチューブシート-HClの導電率は621±10S/cmであった。この材料を水で洗浄すると材料の電気特性が大きく変わり、このような材料の実用性をさらに低下させた。また、HClは、いくつかの硬化温度で、また、航空機部品の表面が晒される典型的な温度で揮発性であるので、材料の電気特性を大きく変動させ、このような材料の実用性をさらに低下させる。
【0075】
〔実施例2:PANI:DNNSA+ポリウレタン〕
本開示の材料は、炭素同素体材料の上及び/又は中に設けられたいずれか適当な導電性ポリマーを含む。実施例2の材料を表2に示す。成分Aは、2個以上のヒドロキシル基をもつポリオールである。成分Bは、2個以上のイソシアネート基をもつイソシアネートである。成分Cは、キシレン及び/又はトルエンで固体含量が約8%にまで稀釈されたPANI/DNNSAである。
【表2】
【0076】
<実施例2の混合方法>
PANI:DNNSA濃縮物をキシレン又はトルエン中で百分率固体含量を約8%にまで稀釈して、成分Cを得た。成分Cを成分Aとよく混合して実質的に凝集物又は粒子を含まない均一な溶液として成分A/成分Cの混合物を得た。次いで、成分Bをこの成分A/成分Cの混合物に添加してよく混合した。実施例2のPANI:DNNSA濃縮物はキシレン又はトルエン中で百分率固体含量を約8%にまで稀釈したが、少なくとも一態様において、ポリマーは溶媒中に百分率固体含量として約0.1重量%~約30重量%、例えば約1重量%~約15重量%で存在する。イソシアネートには、アリールイソシアネートと脂肪族のイソシアネート、脂環式イソシアネートが含まれる。少なくとも一態様において、イソシアネートは、トルエンジイソシアネート(TDI)、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、及びこれらの混合物を含む。ポリオールには、アリールポリオールと脂肪族ポリオール、脂環式ポリオールが含まれる。少なくとも一態様では、ポリオールはC1-C15のポリオールを含む。少なくとも一態様において、成分Aと成分Bが合成されるか、アプテク社(Aptek
)(例えばアプテク2100:Aptek 2100)、ハンツマン・コーポレーション(Huntsman
Corporation)(例えば、ハンツマン5750:Huntsman 5750)、BASF、バイエル
社(Bayer AG)などから商業的に入手される。
【0077】
この材料を炭素同素体材料上に滴下塗布して、輸送体部品の表面などの基材表面に設けられた第2材料を形成する。これに加えてあるいはこれに代えて、この材料が、炭素同素体材料の上に、浸漬、吹き付け、ブラシコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、ドクターブレードコーティング、又はこれらを併用して塗布される。塗布後、この材料を約70℃で約3~約4時間加熱し、これにより材料を硬化させる。少なくとも一態様において、硬化プロセスを早めるためにより高い温度が使用できる。
【0078】
材料を硬化させると、溶媒(トルエン、キシレン等)が蒸発して、溶媒が残した適当な空隙を持つ制御された架橋状態にあるポリマーが得られる。
【0079】
図4に、可視領域及び近赤外領域でのPANI材料の吸収を示す。ライン402は、PANI:DNNSA:PTSAを含む材料の吸収を示し、ライン404は、PANI:DNNSAを含む材料の吸収を示す。
図4に示すように、約500nmでの鋭いピーク(ライン402とライン404のピーク)は、バイポーラロン吸収(bipolaron absorption)に相当し、約1000~2500nmのブロードな吸収は、移動性空孔による赤外吸収の結果である。約500nmのPANIの鋭いピークは、DNNSAカウンターイオン(counterion)をもつポーラロン(polaron)に起因するものである。スペクトルの自由キャ
リア部分、例えば赤外領域にまで移動するS字状の部分は、自由キャリアテール(free carrier tail)と呼ばれ、ポリマーの導電率に関わっている。小さな自由キャリアテール
(又は自由キャリアテールの不存在)は、ポリマーが(あるとしても)低い導電率を持つことを示す。
図4に示すように、PANI:DNNSA:PTSAを含む材料の自由キャリアテール(ライン402)はPTSA不存在下でのPANI:DNNSAを含む材料の自由キャリアテール(ライン404)より小さい。
【0080】
ドープされたPANIの材料(例えば、ライン404)は、赤外ウインドウでの非常にブロードなスペルトル特性、例えばキャリアテールがあることにおいて、溶液のもの(ドープされたPANIが不存在下)と異なる。可視領域でのバイポーラロン的な吸収特性は、溶液吸収中のそれと同一の構造物に由来するものであるが、約0.45eVだけブルーシフトしている。理論に縛られるものではないが、このシフトは、鎖間相互作用、例えば隣接するポリマー鎖の上で発色団ダイポールの平行整列によるH型の凝集(これは発光分光法で観察可能である)によるものである。これらの材料を、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、及びこれらの組み合わせなどの炭素同素体材料の上に及び/又は中に配置すると、改善された電気的及び機械的特性を持つ第2材料が形成される。
【0081】
〔実施例3:アクリレートポリマー中のPEDOT:PSS〕
PEDOT:PSSは、水やDMSOなどの極性溶媒に可溶なポリマー系である。この溶解性のため、エポキシ及び/又はポリウレタンなどの第2ポリマーとともに水溶性分散液を形成する。
【0082】
実施例3の抵抗値は、約500Ω/□から始まり、薄いままで、第3層により約100Ω/□にまで低下する。PEDOT:PSSの含有量が少なくてもこの材料は静電除去用途に利用可能である。材料の抵抗値をさらに下げるためにPEDOT:PSSの濃度を上げることもできる。少なくとも一態様において、材料は、約0.1重量%~約50重量%、例えば約1重量%~約25重量%、例えば約1重量%~約10重量%、例えば約5重量%のPEDOT:PSSを含む。
【0083】
図5に、PEDOT:PSS材料の抵抗値/厚みを示す。
図5に示すように、PEDOT:PSSは暗青色の材料で、その抵抗値(ライン502)の約70~80Ω/□と低く
始まり、厚みが増えると低下し、約6μmの厚みの暗青色の材料になると約20Ω/□に減少する。
【0084】
これらの材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、これらの組み合わせなどの炭素同素体材料の上及び/又は中に配置され、改善された電気的及び機械的特性をもつ第2材料を形成す
【0085】
<抵抗値低下のための洗浄>
本開示の材料は、例えば表面に塗布した後で硬化の前又は後に、1つ以上の洗浄剤で洗ってもよい。洗浄剤には、イソプロピルアルコール(IPA)、パラトルエンスルホン酸、アセトン、メタノール、これらの塩類、及びこれらの混合物が含まれる。少なくとも一態様において、材料で基材を被覆し、1つ以上の洗浄剤を含む溶液中に浸漬される。少なくとも一態様において、洗浄は、基材に塗布された材料の表面への洗浄剤の吹き付けを含む。少なくとも一態様において、洗浄剤は材料の表面に約1秒~約10分、例えば約30秒~約2分の間、噴霧される。少なくとも一態様において、洗浄剤は材料の表面上に、約1mL~約25kLの量、例えば約100L~約1kLの量で噴霧される。少なくとも一態様において、ある用途にはより大きな抵抗値をもつ材料が適当であることがあり、したがって洗浄剤による洗浄を省いてもよい。例えば、特定の用途には、無洗浄のPANI:DNNSA:カーボンナノチューブ塗膜の抵抗値が適切であり、このPANI:DNNSA:カーボンナノチューブ塗膜を無洗浄のまま硬化させることができる。
【0086】
IPA洗浄は、例えば、過剰なスルホン酸、例えばDNNSAのいくらかを除去する。スルホン酸の除去により、材料のポリマー鎖間の接触を増加させ材料の抵抗値の低下を促進する。洗浄剤による洗浄はさらに、様々な溶媒への材料の溶解度を増加させる。この溶解度の増加により、無洗浄の材料と比べると塗布に使用される溶媒がより少量で済むため、材料の基材への塗布が容易となる。塗布に必要な溶媒の量が低下すると硬化時間が短縮され、製造コストが低下する。
【0087】
PANI材料のインピーダンスに対する洗浄剤での洗浄の効果の定量化するため、EISが使用された。材料の容量性は、追加的な洗浄(例えば、浸漬)により低下し、IPAに浸漬した場合が最も低くなり、PTSA/PTSA溶液に浸漬した場合が次に低くなる。エポキシ材料中に導入されたPANI:DNNSAとカーボンナノチューブを含む材料は、洗浄を施すことによって、導電性材料として有望となる。また、PEDOT:PSSは、(典型的なPANI:DNNSAと比べて)より低い投入量で導入しても、導電性材料を製造することができる。
【0088】
〔実施例4:IPAで洗浄したポリウレタン中の40重量%のPANI:DNNSA〕
図6Aは、PANI:DNNSA(ポリウレタン中40%)の抵抗値/材料厚みを示し、
図6Bは、PANI:DNNSA(ポリウレタン中40重量%)をIPAで洗浄した場合の抵抗値/材料厚みを示す。
図6Aに示すように、IPAで洗浄されていないPANI:DNNSA(ポリウレタン中40%)を含む材料(ライン602と604と606)の抵抗値は、厚みが約3μm~約5μmでMΩ/□である。しかし
図6Bに示すように、IPA洗浄の後のこれらの材料の抵抗値(ライン608と610と612)は、IPA洗浄により、厚みが約2μm~約5μmでkΩ/□に大幅に低下する。
図6Aと6Bに示すように、材料厚みが増加すると、材料の抵抗値(ライン602、604、606、608、610及び612)もまた低下する。これらの材料を、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、及びこれらの組み合わせなどの炭素同素体材料の上に及び/又は中に配置すると、改善された電気的及び機械的特性を持つ第2材料が形成される。
【0089】
〔実施例5:いろいろな洗浄剤で洗浄されたPANI:DNNSA〕
図7に、未処理のPANI:DNNSA材料(neat PANI:DNNSA material)の、インピーダンス/周波数特性としてプロットしたインピーダンススペクトルのボード線図(Bode
plot)を示す。
図7用のデータはEISにより決定した。浸漬処理は、前記洗浄剤への
浸漬又は二次ドーパント処理からなり、各々について10秒間行った。
図7に示すように、インピーダンスは、無洗浄のPANI:DNNSA(ライン702)とパラトルエンスルホン酸(PTSA)で洗浄したPANI:DNNSA(ライン704)が最高であった。IPAで洗浄したPANI:DNNSA(ライン706)は、ライン702と704の材料と比較して低いインピーダンスをもつ材料を与える。また、IPAで洗浄し、空気乾燥し、次いでブトキシエタノール中1%のPTSA/PTSAM溶液で洗浄したPANI:DNNSA(ライン708)は、ブトキシエタノール中1%のPTSA/PTSAM溶液で洗浄し、空気乾燥し、次いでIPAで洗浄したPANI:DNNSA(ライン710)より、また、ライン702と704と706の材料より小さなインピーダンスを与える。
【0090】
図7に示すように、PANI:DNNSA材料で測定された高いインピーダンス(y軸:Ω)は、高いDC抵抗率と同様である。各材料の出発点となる無洗浄の試料(ライン702)では、周波数が増加するとインピーダンスが大きく低下する。これは、リーキーキャパシターモデル(leaky capacitor model)に特徴的なものである(高結晶性領域間の
高R領域によりトリクルスルー電流(trickle through current)が制限される)。
【0091】
材料インピーダンスのレジスターとリーキーキャパシターとしての作動から真に抵抗システムとしての作動への変化は、この浸漬が、
図7に示すように、(孤立した島状のPANI結晶ではなく)より相互結合したポリマーシステムを生成させ、このためにPANIの領域間の電子移動に対する抵抗がより小さくなっているという観察に一致する。PANIの高導電性領域間の距離収縮は、このため、EISデータへのRp値の一致を低下させる。このことは、二次浸漬、例えばIPAの後のPTSA浸漬で起こる材料の収縮(厚み)を考えるとこのことがさらに支持される。
【0092】
図7に含まれていない1つの試料は、DNNSAのIPA溶液に浸漬された材料であり、これは非常に低い(約1Ω)またフラットなインピーダンスを持っている。このため、この材料は非常に導電性であり、真に、CPE特性を持たない導体として応答する。この材料はその無浸漬前駆体より導電性が高いが、EISが示すように、これが実質的に優れているのではない。
【0093】
図8は、櫛型電極上に塗布されて洗浄剤で処理されたPANI:DNNSA材料の導電率を示す棒グラフである。
図8に示すように、無洗浄のPANI:DNNSA(棒702)は、IPAで洗浄したPANI:DNNSA(棒706)や、PTSAで洗浄したPANI:DNNSA(棒704)、IPA次いでPTSAで洗浄したPANI:DNNSA(棒708)、PTSA次いでIPAで洗浄したPANI:DNNSA(棒710)、DNNSAとIPAの混合物で洗浄したPANI(棒802)、チモール洗浄物(Thymol rinse)(棒804)と比べて低い導電率をもつ。これらの材料を、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、及びこれらの組み合わせなどの炭素同素体材料の上に及び/又は中に配置すると、改善された電気的及び機械的特性を持つ第2材料が形成される。少なくとも一態様において、材料を、炭素同素体材料の上に及び/又は中に配置して第2材料を形成し、次いで、この第2材料を任意の適当な洗浄剤で洗浄する。全体として、本開示の材料のインピーダンスと導電率は、材料の表面に洗浄剤を塗布することで望ましいインピーダンスと導電率に一致させることができる。
【0094】
〔比較例:PANIPOLとPANIPLAST〕
PANIPOLは、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)でドープされた高導電性ポリマー(PANI:DNNSAとは異なり材料洗浄の前)であり、トルエンに少し可溶で、ポリウレタン塗液中で使用可能である。PANIPOLを含む材料は、トルエンとキシレン中のポリマー分散物から形成できる。これらの分散物のシート抵抗はそれぞれ12.8と16.2Ωである。このポリマーは、複数の溶媒、例えばキシレン類やトルエンにほんの少し可溶であり、このため塗布すると基材上に粗い材料を与える。これらの材料の表面粗さは、PANIPOL材料の「耐空性」を損なうこととなる。これは、これらの材料がクラッキングを受けやすく、下層/基材が化学的損傷やUVによる損傷を受けやすくなるためである。
図9に、トルエン溶液の形態で塗布形成したPANIPOL材料の抵抗値(kΩ)/アニーリング温度を示す。
図9に示すように、アニーリング温度の上昇で、PANIPOL材料の抵抗値が上昇する(データポイントを黒ダイアモンド印で示す)。
【0095】
PANIPOLの合成に、PANI:DBSAの不溶性絶縁性粉末の単離が含まれていてもよい。あるいは、PANIPOLの合成に、溶液からポリマーを沈殿分離するのでなく、p-キシレンから溶解ポリマーの材料を塗布することが含まれていてもよい。通常これらの材料のシート抵抗値の測定値は、数kΩ~数百kΩである。
【0096】
上述のPANI:DNNSA合成に類似した2-ブトキシエタノール中での合成試験において、ポリマーが(キシレン溶液から沈殿分離するのでなく)溶液から完全に乾燥させられた。しかしこれらの固体はいろいろな溶媒に不溶であることが分かった。しかしながら、多量のキシレンに再懸濁し濾過により単離すると、この材料は、市販のPANIPOLとよく似ており、14Ωの材料として利用された。
【0097】
この合成PANIPOLは、市販のPANIPOLより導電率が低いかもしれない。これは、溶液から水中にポリマーを投入すると、臨界量のカウンターイオンとDBSAが除かれるためである。もう一つの合成は、ポリアニリンベースを作成し、次いでDBSAで再ドープするように設計された。この合成により、十分に導電性のあるポリマーペーストが得られた。これらの材料の導電率値を表3に示す。
【表3】
【0098】
市販のPANIPOLは、トルエンに少し可溶であり、トルエン中に懸濁させ、溶解ポリマーをデカンテーションで除いて分離できる。この溶液を稀釈し、上述のように新たに懸濁されたPANI:DBSAの高稀釈濾過溶液の吸収と比較した。PANIPOLは、新たに合成したPANI:DBSAよりも高いエネルギーで吸収する。その吸収ピークはまた、新たに合成したPANI:DBSAよりブロードであり、ドーパントの消失を示唆した。単独ドープポーラロン状態は、Ω1eVの低いエネルギー吸収と、CB-Ω1の状態への光学的に許容される遷移を引き起こし、ダブルドープバイポーラロンは、Ω1’の少
し高いエネルギー吸収を持つ。このように、この吸収を考えると、PANI:DBSAフィル(PANI:DBSA fill)での低エネルギー遷移へのブロードニング(broadening)は、バイポーラロン遷移のいくつかの単独ポーラロンへの変換(脱ドープ)であると考えてよい。これは、この材料がDBSAを失い、これが導電率の差の原因であることを意味するのであろう。
【0099】
PANI:DBSA材料を洗浄してみたが、表4に示すように、ほんの小さな導電率の増加が観測されたのみである。なお、水浸漬試料は高抵抗値材料である。材料の水中での処理は大きな変化を示したが、これもまた、水に可溶なDBSAの除去によるものと考えられる。
【表4】
【0100】
PANIPOLと同様に、PANIPLASTは、ポリアニリンとポリアミン/アミドドーパントとを含む材料である。PANIPLASTもまた、エチレングリコールやキシレン、水、メタノールへの溶解度に制限がある。PANIPLASTは、0.25ミクロンフィルターでは濾過が難しい懸濁液である。PANIPLASTのような塗膜は導電性ではあるが、表面をブラシでこする必要がある。6.4グラムの水中の7.7グラムの懸濁液から形成された塗膜を、4インチ×6インチのパネルに塗布し、70℃で乾燥させた。このPANIPLASTは、約1kΩ~約2.2kΩの抵抗値を与えた。
【0101】
全体として、この塗布されたPANIPOLとPANIPLAST材料の粗さが、これらの材料の「耐空性」を低下させる。これは、これらの材料がクラッキングを受けやすく、このため下層/基材が化学的損傷やUVによる損傷を受けやすくなるからである。また、PANIPOL材料の洗浄は、ほんの少し材料の抵抗値を低下させるだけで、材料の密度を増加させない
【0102】
〔実施例6:ポリアニリンをエポキシ中に〕
従来の表面塗膜は、下層の表面及び/又は表面塗膜の他成分の混合したポリマーとの親和性に欠ける。例えば、エポキシ樹脂は多くの望ましい物理特性を持つが、それでも多数の求核性化合物、例えばPANIなどのアニリンと反応する。望ましくない反応性の結果、副産物の析出及び/又は凝集が起こる。反応性種、例えばポリアニリンを、適合した溶媒へ溶解すると、分散性を改善し、これが、反応性の表面及び/又は反応種と混合されたポリマー、例えばポリウレタンとの望まざる反応を減少させることが明らかとなっている。反応種の溶解は、適合した耐空性のある材料であって、輸送体部品の表面、又は輸送体部品上に設けられた炭素同素体材料の上及び/又は中に利用可能な材料の形成を促進する。このことは、耐空性のための所望の物理特性を持つことに加えて、表面塗膜の周辺の材料との適合性が重要であることを示す。ポリアニリンに適当な溶媒には、キシレン類、トルエン、ベンゼンや、これらの混合物が含まれる。PEDOT:PSSに適当な溶媒には、高極性プロトン性溶媒(例えば水)やDMSOが含まれる。
【0103】
例えば、PANI:DNNSAが、高温硬化型エポキシに混合された。溶液を手作業で混合し、次いで1000rpmのシンキーミキサー(Thinky mixer)に10分間かけた。PANI:DNNSAが、可視的に、エポキシ溶液(非常に低粘度の溶液)から析出してきた。溶液を、4-pt電極(電極間隔が2mm、長さが6mm)上に滴下塗布し、120℃の大気下で1時間乾燥させた。単純な2点抵抗値測定を行い、材料の厚みを測定して、材料の抵抗率を計算した。
図10に、いろいろな洗浄剤で処理されたエポキシ塗膜中のPANI:DNNSAの抵抗率とエポキシ中の百分率PANI含有量を示す。
図10に示すように、PANI:DNNSA:エポキシ材料の抵抗率は、塗布直後の材料(黒丸)からIPA浸漬材料(白丸)、IPA浸漬材料でさらにPTSA浸漬したもの(黒四角)、
IPA洗浄でさらに第2のIPA洗浄したもの(白四角)と減少する。
【0104】
二次処理の前は、PANI:DNNSA:エポキシ材料は、ポリマー添加量と導電率が関係するという明白な傾向を示さない。PANI:DNNSA添加量が約20%で二次処理がない場合でも、いくつかの静電除去塗膜では、導電性が十分な導電率閾値内に入ることがある。材料をIPAに浸漬すると、これらの材料は、PANI:DNNSA添加量の増加につれて導電率が増加する傾向を示す。
【0105】
また、PTSA浸漬の後で、PANIを含まないエポキシ塗膜で、測定可能な導電率が得られた。これは電気伝導性によるものでなく、イオン伝導性によるものであろう。
【0106】
硬化エポキシ塗膜中でPANI:DNNSAは移動可能であるのかもしれない。材料の処理、例えば浸漬により、より高い材料導電率を得ることができる。理論に縛られるものではないが、このPANI:DNNSA:エポキシ塗膜の増大した導電率は、過剰のアニリン、酸の除去及び/又は塗布材料の微細構造への洗浄剤で誘起された変化によるものかもしれない。
【0107】
ポリアニリンのエポキシとの反応性を加減するもう別の方法は、ポリアニリンをエポキシ表面にゆっくりと添加し、次いで最終の硬化温度に至るまでゆっくりと硬化温度を上げることである。全体としてPANI:DNNSAのエポキシとの反応性は、ピーク硬化温度及び/又は硬化時間によりさらに制御し得る。
【0108】
これらの材料は、カーボンナノチューブやグラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、これらの組み合わせなどの炭素同素体材料の上及び/又は中に設けられ、改善された電気的及び機械的特性を持つ第2材料を形成する。
【0109】
〔実施例7:ブトバーB90中の熱可塑性樹脂:PANI:DNNSAとブトバーB90中のPEDOT:PSS〕
ブトバーB90(Butvar B90)は、下式のように、ポリビニルブチラール(PVB)とポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルを含むトリブロックポリマーであり、式中、x、
y、zは、それぞれ正の整数である。
【化7】
【0110】
ブトバーB90を熱可塑性塗膜中の基本樹脂として用いてもよく、また熱硬化性材料と混合して熱硬化性樹脂を作ってもよい。実施例7では、PVBをPEDOT:PSSとPANI:DNNSAに混合し、表面抵抗(Ω/□)と鉛筆硬度を測定した。いくつかの試料には、また、ブトバーB90のアルコール基と反応する反応性エポキシ成分(例えば、EPON1007-CT-55:ジグリシジルエーテルビスフェノールA)が添加されており、これが塗膜に強度を与えている。
【0111】
PVBの溶液は、10重量%のPVBを、事前調製した40/60のメタノール/トルエン溶液に溶解して調製した。テフロンコートした金属撹拌子を平底ジャーに加え、そこで溶解するまで室温で1~3時間攪拌した。
【0112】
試料は、PVB溶液をフラスコに入れ、EPON又はH3PO4をいくらか加え、シンキーミキサー又はボルテックスミキサー(vortexer)で混合し、30分間静置して調製した。特定の添加量のPANI:DNNSAを添加し、試料をボルテックス混合した。次いで、この塗液をガラススライド上に小さな塗料ブラシで塗布して試料を作成した。
【0113】
初期の組成はPEDOT:PSSで始めた。これらはすべて非常に高い抵抗値を示す塗膜であった。このB90/EPON/界面活性剤混合物にPANI:DNNSAを20重量%の量で添加すると、抵抗値は3.3MΩとなった。続く試験で他の材料も試験した。試験した材料を、下記の表5に示す。
【表5】
【0114】
したがって本開示の材料の硬度は、1つ以上の材料にポリビニルブチラールを含めることで調製でき、材料硬度の増加により材料の例えば表面塗膜の「耐空性」を少なくとも部分的に改善することができる。少なくとも一態様では、本開示の材料は、約25重量%のPANI:DNNSAと約75重量%のポリビニルブチラール、例えばブトバーB90とを含む。少なくとも一態様では、本開示の材料は、ポリビニルブチラール中に約6%のPANI:DNNSAを含み、EPON又はリン酸を含まない。
【0115】
これらの材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、及びこれらの組み合わせなどの炭素同素体材料の上及び/又は中に設けられ、改善され
た電気的及び機械的特性を持つ第2材料を形成する。
【0116】
〔実施例8:ゾル-ゲル中のポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)〕
PEDOTは、高い固有導電率を持つ導電性ポリマーである。これは、有機薄膜太陽電池中の電子選択的輸送材料として使用可能であり、静電気拡散性塗膜中で使用可能である。例えば、実施例8では、市販のPEDOT:PSSを、例えばアルクラッド表面(Alclad surfaces)用の接着促進前処理剤であるグリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル(glycidyl-Si-Zr-containing solgel)であるボーゲル(Boegel)に加えた。
【0117】
PEDOT:PSSを添加し、ボルテックスミキサーで混合して、このゾルゲルの新たに混合調製した溶液とした。高添加量のPEDOT:PSSのいくつかでは、このゾルゲルが速やかにゲル化したことから、このゾルゲルのエポキシ基と導電性ポリマーの間の反応が示唆される。
【0118】
図11は、材料中に異なる量のPEDOT:PSSを含むPEDOT:PSS材料の抵抗率を示す。
図11に示すように、エポキシ系材料の抵抗率(黒丸)は、PEDOT:PSSの量が増加すると急激に低下する。ゾル-ゲル系材料(ボーゲル)の抵抗率(白丸)も、PEDOT:PSS含量の増加とともに減少するが、その程度は、エポキシ系材料ほどシャープではない。
【0119】
このデータ中にいくつかの傾向が認められる。(1)PEDOT:PSSを含むエポキシは、ずっと小さな添加量閾値において測定可能な導電率を示す(16%未満のIPNを示す)。(2)純粋なPEDOTの導電率は、100S/cm近くである。(3)PEDOT:PSS試料は、二次処理(例えば、IPA洗浄)を必要とせず、導電性塗膜の形成に必要な添加量がずっと小さくなる。
【0120】
これらの材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、及びこれらの組み合わせなどの炭素同素体材料の上及び/又は中に設けられ、改善された電気的及び機械的特性を持つ第2材料を形成する。
【0121】
<エポキシ中の界面活性剤とPEDOT:PSS>
高温硬化型エポキシ樹脂を用いて、多数の市販の分散剤のPEDOT:PSSを分散させる効力を試験した。ルーブリゾール社(Lubrizol)製ソルプラスR700(Solplus R700)分散剤を含むエポキシ中の添加量レベルが0.1%~2.0%であるPEDOT:PSSの試料と分散剤を含まない試料との比較を行った。全ての試料中のPEDOT:PSSに相分離が認められたが、ソルプラス含有試料は、粒子凝集が劇的に減少した。ソルプラスR700を含む試料は、特に低添加量レベルで反応性が低い。
【0122】
同一のPEDOT:PSS添加量レベル(1.0%)の分散剤の比較: 比較対象の分散剤は、全てルーブリゾール社のものであり、ソルプラスR700とR710とDP700である。試料は上述のようにして調製した(実施例8)。R700とR710を含む試料は、最良のPEDOT:PSS分散性(目視)を示し、R710は、最も低い抵抗値(6.73MΩ/□)を示した。PEDOT:PSS水溶液では、R710は有機相塗膜樹脂中にポリマーを分散させるのに充分であった。
【0123】
塗布直後の材料としてより高い導電率を与えるポリマーブレンド:エポキシ中のPANI:DNNSA-PTSA、も検討した。これらの試料は、添加量レベルが0.02~0.2%で調製されたが、いずれも測定可能な抵抗値を持たなかった。
【0124】
これらの材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、及びこれらの組み合わせなどの炭素同素体材料の上及び/又は中に設けられ、改善された電気的及び機械的特性を持つ第2材料を形成する。
【0125】
<多層スタック>
本開示の態様には、基材上に複数の層として形成されて多層スタックを形成する材料が含まれる。少なくとも一態様において、多層スタックは、同一材料で同一厚みの単層と比べて、全体として低い電気抵抗値を与える。多層スタックはまた、例えば輸送体部品の塗膜/表面に全体としてより大きな強度を与える。
【0126】
多層スタックは、1枚以上のポリマー層を含み、各層は独立して、PANI:DNNSA、PEDOT:PSS、ポリウレタン、アクリレート、ポリビニルブチラール、又はこれらの混合物から選ばれる。この1枚以上の層は、DNNSAなどのスルホン酸を含む。この1枚以上の層は、例えばカーボンナノチューブやグラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、及び、これらの組み合わせなどの、炭素同素体材料を含む。
【0127】
多層スタックはまた、下に詳述するように、例えば除氷のための加熱層として使用するための1枚以上の導電層を提供する。少なくとも一態様において、多層スタックは、導電層の上に設けられた外部保護層を含む。本開示において、「外部」層は、この外部層の上に他の層が設けられていない層であり、外部環境に直接露出されている層である。
【0128】
〔実施例9:多層スタック〕
実施例9は、4層の多層スタックであり、各層は、各層塗布後にIPAで洗浄されたPANI:DNNSAである。各々の塗布と洗浄後の多層スタックの厚みと表面抵抗値を、下表6に示す。IPA処理された試料では、100Ω/□より小さな抵抗値が達成された。
【表6】
【0129】
少なくとも一態様において、これらの1枚以上の層が、炭素同素体材料、例えばカーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ポリカーボネート、又はこれらの組み合わせを含む。
【0130】
<材料の用途>
本開示の材料の用途の非限定例には、熱可塑性材料としての用途及び/又はプリプレグ材料の成分としての用途が含まれる。プリプレグ材料用途では、本開示の材料が、グラファイトやガラス繊維、ナイロン、ケブラー(登録商標)等の材料(例えば、他のアラミドポリマー)、ポリエチレン等からなる繊維材料の上及び/又は中に設けられてもよい。
【0131】
本開示の材料を、炭素同素体材料の上に配置して、輸送体部品などの基材の表面に設けられた第2材料を形成してもよい。輸送体部品には、例えば、航空機、自動車などのパネルやジョイントなどの構造部品がある。輸送体部品は、ノーズ、燃料タンク、テールコー
ン、パネル、2つ以上のパネル間の被覆ラップジョイント、翼と胴体部のアセンブリ、航空機複合構造材、胴体部ジョイント、翼リブと外皮のジョイント、及び/又は、その他の内部部品を含む。
【0132】
限定的ではないが、塗布には、浸漬、吹き付け、ブラシコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、ドクターブレードコーティング、及びこれらの併用が含まれる。本開示の材料を塗布して、基材上に層を、例えば、輸送体部品の表面に層を形成するのことができ、層の厚みは、例えば約0.1μm~約20μm、例えば約1μm~約10μm、例えば約1μm~約8μm、例えば約2μm~約6μmの範囲で形成する。材料の厚みは、塗布材料の導電率や抵抗値が調整に利用される。材料の厚みは、また、材料や最終の塗膜基板の「耐空」性能(例えば、雨による浸食や砂や雹による傷害への耐性)をさらに調整するのに利用できる。
【0133】
材料を基材に塗布した後、例えば溶媒を揮散させるため、いずれか適当な温度で材料を、硬化させてもよい。硬化は、いずれか適当な硬化装置を用いて実施できる。硬化のために、材料の温度を徐々にピーク硬化温度にまで上げ、そのピーク硬化温度である期間維持する。ピーク硬化温度は、略室温~約200℃であり、例えば約70℃~約150℃であってよい。材料は、約1秒~約48時間、例えば約1分~約10時間の間、硬化させてよい。
【0134】
<吹き付けによるシート材料の上及び/又は中への材料の塗布>
シート材料を、基板上に配置し、1種類以上のポリマーを適当な溶媒(例えば、キシレン類、トルエン、水等)と混合し、十分な層厚になるまでシート材料の上及び/又は中に噴霧して望ましい表面抵抗を得る。次いで、溶媒を室温(又はより高温)で蒸発させると、基材の表面に硬化した材料層が形成される。
【0135】
これに加えてあるいはこれに代えて、炭素同素体材料と1種類以上のポリマーとを、適当な溶媒(例えば、キシレン類、トルエン、水等)と混合し、十分な層厚になるまで基材に噴霧して、望ましい表面抵抗を得る。次いで、溶媒を室温(又はより高温)で蒸発させ、導電材料層を形成する。この導線材料層を、基材上に配置する。
【0136】
<スピンコーティングによる基材への材料の塗布>
材料の厚みを利用して、塗布材料の導電率や抵抗値を精密に調整することができ、そのために、例えば、基材にPANI:DNNSAシートを異なるチャック回転数(chuck rotations)でスピンコートする。
図12に、スピン速度と材料厚みとを示す。
図12に示
すように、未処理の材料(黒丸)は、塗布スピン速度に大きく依存する。面白いことに、最終材料の厚みの差異は、材料を処理(洗浄剤に浸漬)すると低減する(白丸)。少なくとも一態様では、本開示の材料は、約100rpm~約4,000rpm、例えば約1,000rpm~約3,000rpmのスピン速度にてスピンコーティングにより塗布される。少なくとも一態様において、材料は、シート材料からなる。
【0137】
図13に、基材上に塗布した直後のPANI:DNNSAフィルムの導電率と厚みを示す。ここでも導電率は、測定寸法に合わせたスクエア抵抗値として測定した。
図13に示すように、導電率は、直線的な傾向をもち、塗布材料の厚みの増加とともに上昇する(データ点は黒ダイアモンド印で表示)。また、洗浄剤で処理した(例えば、IPA洗浄)した試料での導電率と厚みの間の相関の欠如も観測された(
図13に図示せず)。少なくとも一態様において、材料は炭素同素体材料を含む。少なくとも一態様では、これらの材料は炭素同素体材料にスピンコーティングで塗布される。
【0138】
<除氷>
輸送体部品に1つ以上の本開示の材料を塗布し(必要なら硬化させ)ることにより、例えば過酷な気候条件の結果として1つ以上の輸送体部品上に氷が堆積した場合、この輸送体部品を「除氷」することができる。本開示の材料は導電性であるため、材料を含む表面に電圧を印加すると、この表面の温度が上昇し、この表面に堆積した氷の一部が溶融する。少なくとも一態様において、この導電性材料層は電極である。これに加えてあるいはこれに代えて、この導電性材料層に電極が取り付けられる。
【0139】
少なくとも一態様において、本開示の1つ以上の材料を含む表面に電圧を印加すると、その表面に堆積した氷が完全に融解する。少なくとも一態様において、本開示の1つ以上の材料を含む表面に電圧を印加すると、その表面に堆積した氷の部分的な融解をもたらし、その結果、部分的に融解した堆積氷が輸送体部品から滑り落ちる。
【0140】
少なくとも一態様において、除氷は、本開示の1つ以上の材料を含む表面に任意の適当なAC/DC電圧発生機を接触させて、1つ以上の材料に電圧を与えることを含む。交流電圧発生機を、例えば本開示の1つ以上の材料を(抵抗体として)含む表面に接触させると、少なくともその表面が抵抗加熱して、輸送体部品の1枚以上の層が抵抗加熱することになる。少なくとも一態様において、除氷は、航空機の発電部品により、1つ以上の本開示の材料を含む表面に電圧を印加することを含む。例えば、航空機エンジンを作動モードにスイッチすると、航空機エンジンにより与えられるAC電力が航空機表面に伝搬して、航空機の輸送体部品の1つ以上の表面を除氷する。これらの態様によれば、航空機の輸送体部品の表面に外部電圧発生機を取り付けることなく、航空機に除氷機能を内在させることができる。
【0141】
少なくとも一態様において、方法は、約10ヘルツ~約2000ヘルツ、例えば約200ヘルツ~約600ヘルツ、例えば約400ヘルツの交流電圧を表面に印加することを含む。少なくとも一態様では、方法は、10ボルト~約2000ボルト、例えば約100ボルト~約400ボルト、例えば約200ボルトの交流電圧を表面に与えることを含む。方法は、1台以上の変圧器で交流電圧を調整することを含む。方法は、1台以上の整流器で交流電圧を直流電圧に変換することを含む。方法は、1台以上の発振器で直流電圧を交流電圧に変換することを含む。
【0142】
<レドーム等の静電気放電>
航空機には、航空機のノーズの後方にレーダーが存在する。ノーズには、プレシピテーションスタチック(precipitation static)(Pスタチック:P-static)と呼ばれるある種の静電気が蓄積することが多い。
【0143】
本開示の1つ以上の材料を輸送体部品に塗布(必要なら硬化)すると、この1つ以上の材料が、静電気を、例えば航空機のある位置、例えば航空機機首に蓄積したP-スタチックを放散させる。この静電気の放電により、航空機レーダーへの静電干渉が減少あるいは消失し、またブラシ放電現象が減少あるいは消失し、結果として航空機の外表面上の塗膜のダメージが減少又は消失する。本開示の材料はさらに、航空機の他の部品、例えばアンテナなどの部品への静電干渉を減少あるいは消失させる。
【0144】
<耐空性>
従来の塗膜は、蓄積電荷を放散できないことに加えて、「耐空性」があるとはいえない。例えば、航空機などの輸送体の表面に用いられてきた従来の表面塗膜では、雨による侵食、紫外光耐性、高温耐性、低温耐性、砂や雹によるダメージへの耐性などの耐久性パラメーターに関する性能が、不十分である。また、戦闘用ジェット機のキャノピーの塗膜、及び/又は、民間航空機や戦闘用ジェット機の風防ガラスや窓の塗膜の場合、これらの表面の塗膜は、当該表面越しの可視性を高めるために、実質的に透明でなければならない。
本開示の材料は「耐空性」があり、例えば雨による侵食、紫外光耐性、高温耐性、低温耐性、砂や雹によるダメージへの耐性、改善された柔軟性、及び改善された視認性など、1つ以上の耐空性パラメーターが(従来の塗膜と比べて)改善されている。
【0145】
また、従来の塗膜を他の化学物質と混合して、塗膜の1つ以上の所望の物理特性、例えば導電率を向上させる場合に、従来の塗膜は、しばしば他の化学物質と相性がよくなく、塗膜に添加された他の化学物質の望ましい物理特性を阻害するものであった。従来の塗膜はまた、下層の表面/塗膜と親和性が悪く、塗膜-塗膜界面で接着の劣化を引き起こしていた。前述の用途や利点に加えて、本開示の材料や方法は、静電気放電性で耐空性の材料を制御下での形成を可能にする。
【0146】
本開示の材料や方法は、少なくとも部分的には過剰スルホン酸の除去や材料の高密度化とこの結果としての電気的濾過のために、低抵抗材料(いろいろな洗浄剤で洗浄されたもの)を与える。DNNSAを用いた結果とは反対に、材料の塗布の前に過剰のDBSAを除去すると、高抵抗の材料が得られる。
【0147】
PANIとPEDOT:PSSは、輸送体部品上に塗布される材料中に配合可能な導電性ポリマーとして有望である。PVB(ポリビニルブチラール)を含む本開示の材料は、堅牢で、作業性がよく、目的の静電除去抵抗値を満たし、様々の用途の塗布に利用可能である。
【0148】
また、従来のイオン系塗膜と比べると、本開示の材料や方法では、経時的な界面活性剤の溶出が低下する。これは部分的には、本開示の材料中の界面活性剤の量が、従来のイオン系塗膜と比べて少ないことによる。また、本開示のスルホン酸は、従来のイオン系塗膜の従来の界面活性剤より、材料から溶出する量がより少ない。
【0149】
本開示の材料はまた、湿った環境での利用可能性や高温での利用可能性、既知の材料と比べて改善された電気特性や機械特性(例えば、改善された柔軟性)を与える。
【0150】
本開示のいろいろな態様を、説明を目的として記述してきたが、これらは網羅的なものではなく、ここに開示の態様に限定されるのではない。当業者には、記載の態様の範囲から逸脱することなく多くの変更や改変が可能であることは明らかである。本明細書で使用した用語は、実施形態の原理や市場で認められる実用的な用途や技術改良を最もよく説明できるように選ばれており、あるいは当業者が本明細書に開示の態様を理解できるように選ばれている。
【0151】
本開示において、「炭素同素体材料」は、2つ以上の異なる三次元分子配置、例えばナノチューブ状、平面状、又は球状の三次元分子配置を持つことのできる炭素からなる材料を含む。
【0152】
本開示において、「シート材料」は、実質的に平面状な広がりを持つ炭素同素体材料を含む。
【0153】
本開示において、「輸送体部品」は、限定されることなく、輸送体における任意の部品、例えば、航空機、自動車などのパネルやジョイントなどの構造的部品を含む。輸送体部品は、ノーズ、燃料タンク、テールコーン、パネル、2つ以上のパネル間の被覆ラップジョイント、翼と胴体部のアセンブリ、航空機複合構造材、胴体部ジョイント、翼リブと外皮のジョイント、及び/又は、その他の内部部品を含む。また、輸送体部品は、限定されることなく、自動車、船舶、ウインドタービン、住居/地上構造物(housing/ground structure)、掘削装置などの任意の部品を含む。
【0154】
本開示において、用語「材料」は、限定されることなく、表面、例えば輸送体部品の表面上に配置することが可能な混合物や反応生成物、フィルム/層、例えば薄膜を含む。
【0155】
本開示において、「無置換体」とは、置換基を持つことが可能である分子で、各位置に水素原子を持っている分子である。
【0156】
本開示において、「置換体」は、炭素原子又は窒素原子に結合した水素以外の置換基を持つ分子である。
【0157】
本開示において、「層」は、表面を少なくとも部分的に覆う厚みを持つ材料である。
【0158】
他の態様を、以下の付記に記載する:
【0159】
付記1.ポリマーとスルホン酸とを含む第1材料を炭素同素体材料に塗布して第2材料を形成することと、
前記第2材料を硬化させることと、
を含む、導電性の炭素同素体材料を形成する方法。
【0160】
付記2.前記炭素同素体材料はシート材料である、付記1に記載の方法。
【0161】
付記3.前記炭素同素体材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、又はこれらの組み合わせを含む、付記1又は2に記載の方法。
【0162】
付記4.前記第2材料を洗浄剤で洗浄することをさらに含む、付記1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0163】
付記5.前記洗浄剤は、イソプロピルアルコール、パラトルエンスルホン酸、アセトン、メタノール、これらの水和物、これらの溶媒和物、及びこれらの混合物からなる群から選択される、付記4に記載の方法。
【0164】
付記6.洗浄は、前記第1材料の表面に前記洗浄剤を約1秒から約10分の間、吹き付けることを含む、付記4又は5に記載の方法。
【0165】
付記7.イソプロピルアルコール、パラトルエンスルホン酸、アセトン、メタノール、これらの水和物、これらの溶媒和物、及びこれらの混合物からなる群から選択される第2洗浄剤で、前記第2材料を洗浄することをさらに含む、付記1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0166】
付記8.洗浄は、前記第1材料を前記洗浄剤中に約1秒から約1分の間、浸漬することを含む、付記4~6のいずれか1つに記載の方法。
【0167】
付記9.洗浄は、約1mLから約25kLの量の前記洗浄剤を材料の表面に噴霧することを含む、付記4~6のいずれか1つに記載の方法。
【0168】
付記10.前記ポリマーを溶媒に溶解することをさらに含み、前記溶媒は、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジメチルスルホキシド、水、及びこれらの混合物からなる群から選択される、付記1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0169】
付記11.前記基材は輸送体部品であり、前記第2材料は、厚みが約0.1μmから約
10μmの層である、付記1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0170】
付記12.硬化は、前記材料の温度を略室温からピーク硬化温度に上げることと、約1秒から約48時間の間、前記ピーク硬化温度に維持することと、を含む、付記1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0171】
付記13.ピーク硬化温度は、略室温から約200℃である、付記12に記載の方法。
【0172】
付記14.前記炭素同素体材料を基材に塗布することをさらに含み、この塗布は、前記炭素同素体材料を輸送体部品の表面に約100rpmから約4,000rpmの速度でスピンコーティングすることにより行う、付記1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0173】
付記15.前記ポリマーは、ポリアニリン、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(スチレンスルホネート)、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリアクリレート、エポキシ、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリスルフィド、又はこれらの混合物を含む、付記1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0174】
付記16.炭素同素体材料、ポリマー、及びスルホン酸を含む材料に電圧を印加することを含み、前記材料は、輸送体部品の表面に設けられている、
輸送体部品の表面を加熱する方法。
【0175】
付記17.前記材料の表面に電圧を印加することで、前記輸送体部品の表面に付着した固相の水が少なくとも部分的に溶融する、付記16に記載の方法。
【0176】
付記18.前記輸送体部品は、ノーズ、燃料タンク、テールコーン、パネル、2つ以上のパネル間の被覆ラップジョイント、翼と胴体部のアセンブリ、航空機複合構造材、胴体部ジョイント、翼リブと外皮のジョイント、及び/又はその他の内部部品からなる群から選択される、付記16又は17に記載の方法。
【0177】
付記19.前記電圧は、約10ヘルツから約2000ヘルツ、及び/又は約10ボルトから約2000ボルトの交流電圧である、付記17に記載の方法。
【0178】
付記20.前記ポリマーは、ポリアニリン、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(スチレンスルホネート)、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリアクリレート、エポキシ、グリシジル-Si-Zr-含有ゾルゲル、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリスルフィド、又はこれらの混合物を含む、付記16~19のいずれか1つに記載の方法。
【0179】
付記21.少なくとも1種類のポリマーと、
少なくとも1種類のスルホン酸と、
炭素同素体材料と、
を含む、導電性材料。
【0180】
付記22.前記炭素同素体材料は、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、又はこれらの組み合わせを含む、付記21に記載の組成物。
【0181】
付記23.前記材料のオーム/平方値は、前記炭素同素体材料のオーム/平方値より約1.2倍から約20倍大きい、付記21又は22に記載の組成物。
【0182】
付記24.前記スルホン酸は、ナフチルスルホン酸、アントラセニルスルホン酸、ピレニルスルホン酸、又はこれらの混合物を含む、付記21~23のいずれか1つに記載の組成物。
【0183】
付記25.前記ポリマーは、ポリアニリン、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(スチレンスルホネート)、又はこれらの混合物を含む、付記21~24のいずれか1つに記載の組成物。
【0184】
付記26.第2ポリマーをさらに含む、付記21~25のいずれか1つに記載の組成物。
【0185】
上記では、本開示の態様について説明したが、その基本的な範囲から逸脱することなく本開示の他のさらなる態様を考案することが可能である。また、上記では、航空字宙産業に利用されるポリマー、材料、及び方法について説明したが、本開示の態様は、航空機とは無関係の他の用途、例えば自動車産業や海洋産業、エネルギー産業、ウインドタービン等の用途にも適用可能である。