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  • 特許-タクロリムスを含む徐放性薬剤学的製剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】タクロリムスを含む徐放性薬剤学的製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/453 20060101AFI20240410BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
A61K31/453
A61P37/06
A61K47/38
A61K47/26
A61K47/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022135597
(22)【出願日】2022-08-29
(62)【分割の表示】P 2021518413の分割
【原出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2022162149
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】10-2018-0071811
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518208484
【氏名又は名称】チョン クン ダン ファーマシューティカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】キム ミン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム ミン ス
(72)【発明者】
【氏名】パク シン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リム ジョン レ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/049863(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/41553(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としての、タクロリムス、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその水和物崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びエチルセルロースを含む、徐放性薬剤学的製剤であって、前記崩壊剤が、製剤の総重量に対して、0.02~0.5重量%の範囲で含まれるクロスカルメロースナトリウムであり、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びエチルセルロースの重量が同一である、前記徐放性薬剤学的製剤
【請求項2】
タクロリムス、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその水和物を活性成分として含む、徐放性薬剤学的製剤の調製方法であって、以下のステップを含み
-有機溶媒に、タクロリムス水和物、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、乳糖、及びクロスカルメロースナトリウムを添加して、固体分散体を調製するステップ、及び
-調製した固体分散体、乳糖及びステアリン酸マグネシウムを混合するステップ
前記クロスカルメロースナトリウムが、製剤の総重量に対して、0.02~0.5重量%の範囲で含まれる、前記調製方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タクロリムス、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその水和物を活性成分として含む徐放性薬剤学的製剤に関する。具体的に、本発明は、タクロリムスの生物学的利用能を改善するための崩壊剤を含む薬剤学的製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タクロリムス(Tacrolimus)は、下記一般式(1)の構造を有するストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)によって産生される、マクロライド(macrolide)系免疫抑制剤である。
【0003】
【化1】
【0004】
タクロリムスは、免疫抑制剤として現在広く使用されているシクロスポリンA(Cyclosporin A)とは構造的に異なるものの、その作用機構は類似であることが知られている。タクロリムスは、腎臓や肝臓の移植手術を行う際に生じる組織移植拒絶反応に対する一次療法または緩和療法に用いられており、急性組織移植拒絶反応を予防するか、あるいはコルチコステロイド(corticosteroid)の使用量を減らすための一次治療に用いられる場合、シクロスポリンA(Cyclosporin A)と比較してより高い効能を示すものと評価されている。さらに、タクロリムスは、移植における拒絶反応、骨髄移植による移植片対宿主疾患、自己免疫疾患、感染性疾患などの治療または予防に有用な薬物としても知られている。
【0005】
ただし、タクロリムスは、水に対して非常に難溶性であり(25℃の水に約1.58μM溶解)、溶解速度が非常に遅いため、経口で服用する時の生物学的利用能は非常に低く、さらに、その生物学的利用能の偏差範囲もまた5~65%と非常に広い。
【0006】
そこで、タクロリムス成分の溶解速度を上げる方法として、特許文献1には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性重合体を用いて固体分散体を調製する方法が開示されており、さらに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの重合体及び崩壊剤を用いて即放性固体分散体を調製する方法は、すでに広く用いられている。
【0007】
一般に、タクロリムスの即放性製剤は、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを含むが、それに対して、徐放性製剤は、徐放を妨害する虞があるので崩壊剤を含まず、徐放化基剤としてエチルセルロースを含む。
【0008】
特許文献2でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びエチルセルロースは含むが、崩壊剤を含まず、固体分散体の形態を有する徐放性製剤が開示されている。
【0009】
しかしながら、崩壊剤を含まない製剤の場合、主成分と添加剤の物性・調製工程(混合時間、硬度など)のわずかな違いなどによっても、崩壊速度及び溶解速度に大きな影響を受けるため、製剤間で崩壊速度及び溶解速度の偏差が生じる可能性が比較的に高い。一方、崩壊剤を使用する場合、製剤の崩壊速度及び溶解速度は、崩壊剤の使用量によって最も大きく影響されるため、製剤間の偏差は、崩壊剤を使用しない場合よりも低く、崩壊速度及び溶解速度の一貫した値を再現することが可能になる。
【0010】
タクロリムスの徐放性製剤は、薬物投与後の最高血中濃度が即放性製剤と比較して約20~30%低いものの、常にAUCを維持することで、薬物の持続的吸収を可能にするという特徴を有する。
【0011】
さらに、臓器移植患者の服薬遵守を改善するためには、服用法を簡素化する必要があり、服薬遵守を改善することは、治療効果を向上させるためにも必須である。
【0012】
従って、本発明者らは、該当製剤を服用する臓器移植患者の服薬遵守を改善するために、体内吸収への偏差が低いタクロリムスの徐放性製剤を開発することを目的とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】韓国特許第1995-7210号公報
【文献】韓国登録特許第10-0440533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
タクロリムスは、水に対して非常に難溶性であり(25℃の水に約1.58μM溶解)、溶解速度が非常に遅く、投与量と実際の血中濃度との相関が低く、治療指数(therapeutic index)も小さいため、製剤設計において様々な問題を抱えている。
【0015】
これらの問題を解決するために、本発明者らは、改善された溶解速度を有するのみならず、同時に薬物動態(pharmacokinetics;PK)試験における優れた血中濃度及び低い相対標準偏差を有する徐放性製剤を開発することを目的とし、崩壊剤の種類及び含有量を調整することで、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、活性成分としての、タクロリムス、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその水和物、及び崩壊剤を含む徐放性薬剤学的製剤に関する。
【0017】
本発明において、タクロリムスは、下記一般式(1)の構造を有する。
【0018】
【化2】
【0019】
さらに、本発明のタクロリムスは、ストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)の微生物によって産生されるか、あるいは化学的に合成された物質であってもよく、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩、及びN-ベンジル-N-メチルアミン塩などのアミン塩のような無毒性で薬学的に許容可能な塩の形態であってもよい。
【0020】
または、本発明のタクロリムスは、配座異性体(conformer)であるか、あるいは非対称炭素原子または二重結合による光学及び幾何異性体などの1つ以上の立体異性体であってもよい。さらに、タクロリムスは、水和物またはエタノール溶媒化合物であってもよく、好ましくは、水和物であってもよい。
【0021】
本発明に用いられる崩壊剤は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、またはデンプングリコール酸ナトリウムであってもよく、好ましくは、クロスカルメロースナトリウムである。
【0022】
前記崩壊剤は、製剤の総重量に対して、0.005~1.000重量%含まれてもよい。
【0023】
本発明によれば、前記崩壊剤の範囲を制限することにより、活性成分であるタクロリムスの徐放放出に影響を与えることなく、生物学的利用能の偏差を低減することができる。
【0024】
本発明は、(i)有機溶媒に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、乳糖、及びクロスカルメロースナトリウムを添加して固体分散体を調製するステップ、及び(ii)調製した固体分散体、乳糖及びステアリン酸マグネシウムを混合するステップを含む、タクロリムス、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその水和物を活性成分として含む徐放性薬剤学的製剤の調製方法に関する。
【0025】
前記クロスカルメロースナトリウムは、崩壊剤として、製剤の総重量に対して、0.005~1.000重量%の範囲で含まれてもよい。また、本発明は、タクロリムス及び崩壊剤を含む免疫抑制用の徐放性薬剤学的製剤に関する。従って、本発明のタクロリムス及び崩壊剤を含む製剤は、免疫抑制効果を奏し、それによって移植における拒絶反応、骨髄移植による移植片対宿主疾患、自己免疫疾患、感染性疾患などの治療及び予防に好適に用いることができる。
【0026】
前記本発明に従って調製された製剤は、経口投与用の薬剤として用いられてもよく、必要に応じて、薬学的に許容可能な添加剤、例えば、安定化剤、界面活性剤、滑沢剤、可溶化剤、緩衝液、甘味剤、結合剤、酸化防止剤、充填剤などがさらに含まれてもよい。
【0027】
本発明による薬剤学的製剤の投与量及び投与回数は、患者の年齢、状態、体重、及び治療しようとする疾患の重さなどの要因を考慮して調整してもよいが、前記製剤はタクロリムスを含み、1日1回服用することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、改善された溶解速度及び生物学的利用能を有するのみならず、同時に薬物動態(pharmacokinetics;PK)試験における優れた血中濃度及び低い相対標準偏差を有する徐放性製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】比較例及び実施例1~5の溶解試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提供する。しかしながら、以下の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、実施例により本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0031】
[実施例1~5]
タクロリムスを含む徐放性製剤の調製
以下の調製方法に従い、タクロリムスを含む徐放性製剤を調製した。有機溶媒に、タクロリムス水和物、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、乳糖、及びクロスカルメロースナトリウムを入れて顆粒を調製した後、乾燥させ、ふるいに通して固体分散体を調製した。調製した固体分散体、乳糖及びステアリン酸マグネシウムを均一に混合してから、ゼラチンカプセルに充填した。
【0032】
崩壊剤であるクロスカルメロースナトリウムの含有量を以下の表1のように変更することで、実施例1~5のカプセルを調製した。
【0033】
【表1】

【0034】
[試験例1]
溶解試験
実施例1~5のカプセルを用いて、以下の溶解試験条件に従って溶解試験を実施した。比較例として、アステラス製薬コリア製のADVAGRAF徐放性カプセル5mgを使用した。
【0035】
<溶解試験の条件>
1)溶解法:韓国薬局方の一般試験、溶解試験の第2法(パドル法)
2)試験溶液:希リン酸(3→50)でpH4.5に調整した0.07%SLSに0.005%ヒドロキシプロピルセルロース(分子量:約100,000)が含有されるように添加してから十分に撹拌した溶液、900mL
3)溶解温度:37.0±0.5℃
4)回転速度:50rpm
【0036】
<クロマトグラフィーシステムの条件>
1)検出器:紫外吸光光度計(測定波長:205nm)
2)カラム:Merck-RP18(4.0×55mm、3μM)またはそれに相当するカラム
3)注入量:100μL
4)流量:1.2mL/min
5)カラム温度:60℃前後の一定温度
6)サンプル温度:10℃前後の一定温度
7)移動相:アセトニトリル、tert-ブチルメチルエーテル、及び6mMリン酸の混合液(430:50:520)
【0037】
前記溶解試験の結果を以下の表2及び図1に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
前記表2及び図1に示すように、実験を行った溶解試験の条件は、徐放性製剤の溶解パターンを確認できる条件(韓国薬局方に記載されている経口用医薬品の溶解規格設定ガイドラインに従って設定)であり、その溶解試験の条件は、約20~30%、50%、80%前後の溶解速度が確認されなければならない。従って、実施例1~3は、徐放性溶解パターンを有していることが確認できるが、実施例4及び5は、速い初期溶解速度を示しているため、徐放性溶解パターンとして適切ではないことが分かる。
【0040】
[試験例2]
薬物動態(pharmacokinetics;PK)試験
実施例1及び比較例に対して、pK試験を実施した。
1)比較例:アステラス製薬コリア製ADVAGRAF徐放性カプセル5mg
2)被験者数:合計50人
3)試験デザイン:2×2交差試験
4)試験方法:被験者全員は、8時30分から20分以内に、900Kcal以上、脂肪35%以上に設計された高脂肪の朝食をとり、食事を開始してから30分が経過したときに150mLの水と共に試験薬を服用
5)採血ポイント:薬物投与直前、薬物を投与してから1、2、2.5、3、3.5、4、5、6、8、10、12、24、48、72、96、及び120時間後の合計17ポイント
6)分析対象:血中タクロリムス濃度の測定
【0041】
前記結果を以下の表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
前記の表3に示すように、実施例1のAUC及びCmaxの偏差は、比較例の偏差と比較して低いことが分かった。タクロリムスは、患者の体重及び症状に応じて投与法と投与量が調整される薬物であるため、他の薬物と比較して、均一な体内吸収がさらに重要である。
【0044】
比較例のAUC相対標準偏差及びCmax相対標準偏差は、実施例1に対して、それぞれ約16%、23%の高い値を示しているため、実施例1は、比較例と比較して均一な体内吸収を奏することが分かる。
【0045】
タクロリムスは、投与量と実際の血中濃度との相関が低く、治療指数(therapeutic index)も小さいため、相対標準偏差の低い製剤を提供することが非常に重要である。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 活性成分としての、タクロリムス、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその水和物、及び崩壊剤を含む、徐放性薬剤学的製剤。
2. 前記崩壊剤が、製剤の総重量に対して、0.005~1.000重量%の範囲で含まれることを特徴とする、上記1に記載の徐放性薬剤学的製剤。
3. 前記崩壊剤が、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、及びデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から1種以上選択されることを特徴とする、上記1に記載の徐放性薬剤学的製剤。
4. 前記崩壊剤が、クロスカルメロースナトリウムであることを特徴とする、上記3に記載の徐放性薬剤学的製剤。
5. 以下のステップを含み、タクロリムス、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその水和物を活性成分として含む、徐放性薬剤学的製剤の調製方法:
-有機溶媒に、タクロリムス水和物、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、乳糖、及びクロスカルメロースナトリウムを添加して、固体分散体を調製するステップ、及び
-調製した固体分散体、乳糖及びステアリン酸マグネシウムを混合するステップ。
6. 前記クロスカルメロースナトリウムが、製剤の総重量に対して、0.005~1.000重量%の範囲で含まれることを特徴とする、上記5に記載の徐放性薬剤学的製剤の調製方法。
図1