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特許7470162CNF分散組成物の製造方法、及びCNF分散樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】CNF分散組成物の製造方法、及びCNF分散樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/21 20060101AFI20240410BHJP
   C08J 3/03 20060101ALI20240410BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20240410BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C08J3/21 CEP
C08J3/03
C08K5/05
C08L1/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022148445
(22)【出願日】2022-09-16
(65)【公開番号】P2023044677
(43)【公開日】2023-03-30
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2021151947
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591023642
【氏名又は名称】中越パルプ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095740
【弁理士】
【氏名又は名称】開口 宗昭
(74)【代理人】
【識別番号】100225141
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 安司
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 慶郎
(72)【発明者】
【氏名】萩原 総平
(72)【発明者】
【氏名】大熊 章
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121340(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235669(WO,A1)
【文献】特開2019-198871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/21
C08J 3/03
C08K 5/05
C08L 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CNF水分散液、と溶媒(ただし、水を除く)との混合物中の溶媒の重量比率Srを、
以下の算出方法によって求める前記混合物中の溶媒の重量比率Srの算出方法
まず、CNF分散液中のCNFの量Cnと水の溶媒量Vaを算出する。
次に、CNF固着水Hを以下の式(1)により算出する。
C=Cn×(100-a)/a ・・・(1)(式(1)中(a≦19)は、CNF水分散液内で一部CNFの凝集が始まる時点のCNF固形分濃度であり、CNF固着水中のCNF固形分濃度とする。)
次に、CNF分散液中の実質水溶媒量Vを以下の式(2)により算出する。
b=V-HC ・・・(2)
次に、溶媒の重量Vsと実質水溶媒量Vbとから、以下の式(3)により溶媒の重量比率Sを算出する。
Sr=Vs/(Vs+Vb)・・・(3)
【請求項2】
成分(1):水、成分(2):セルロースナノファイバー、成分(3):有機溶媒とからなる混合物を共沸する工程を行い、前記成分(1)及び前記成分(3)を除去して得るCNF分散組成物の製造方法であって、
請求項1に記載の方法によって求める前記混合物中の有機溶媒重量比率Orが56.8%以上であることを確認する工程を有する、CNF分散組成物の製造方法。
【請求項3】
成分(1):水、成分(2):セルロースナノファイバー、成分(3):有機溶媒、成分(4):樹脂とからなる混合物を共沸する工程を行い、前記成分(1)及び前記成分(3)を除去して得るCNF分散樹脂組成物の製造方法であって、
請求項1に記載の方法によって求める前記成分(3)の有機溶媒重量比率Orが56.8%以上であることを確認する工程を有する、CNF分散樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CNF分散組成物とその製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の補強材としてセルロースナノファイバー(以下、CNFということもある。)や変性セルロースナノファイバーを用いた樹脂複合材が知られている。
【0003】
このCNF/樹脂複合材では、CNF等の補強材としての機能を発揮させるために樹脂中にCNF等を均一に分散させることが重要である。しかし、水に分散させたCNFは水を除去する際に水素結合により凝集して強固な凝集体を作るため、ナノレベルの分散状態で樹脂中に均一に混合させることが困難であった。
そこで、特許文献1には、CNF分散液に、アセトンなどの親水性有機溶媒を加えた後、吸引濾過して、CNF分散液中の水分及び前記親水性有機溶媒を除去した後に、疎水性有機溶媒を加えて分散させた後、吸引濾過することで、疎水性有機溶媒へ置換する、2段置換法置換法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-183153号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“FTIR によるアルコール消毒剤中に含まれる成分量の迅速分析”、[online]、[令和3年9月14日検索]、インターネット<URL:https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/ftir/an_a630.pdf>
【文献】X-ray and electron microscope studies of the degradation of cellulose by sulphuric acid Mukherjee, S. M.; Woods, H. J.: Biochim. Biophys. Acta, 10, 499501(1953)
【文献】Characterization of Amphiphilic Janus-Type Surface in Cellulose Nanofibril Prepared by Aqueous Counter-CollisionTsubasa Tsuji, Kunio Tsuboi, Shingo Yokota, Satomi Tagawa, and Tetsuo KondoBiomacromolecules 2021, 22, 2, 620-628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、吸引ろ過時の初期段階から、ろ布上に細かなCNF薄膜が形成され、これが除去したい溶媒の通過を阻害するため、溶媒を除去したCNFのマットを得るまでに多大なろ過時間を要する。さらに、CNFマットの中でも表面とその内部には水分差が生じ、表面側の固形分濃度が高くなる傾向にあり水素結合による凝集が進んでしまうため、CNF水分散液を溶媒と均一に混合することは困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、水分を含むCNFであっても、CNF同士が凝集することなく、樹脂中に均一に分散させることのできるCNF分散組成物とその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、CNF水分散液に他の溶媒を添加して混合物とし、その混合物中の他の溶媒とCNF分散液中の水分との重量比率を算出する際に、CNF水分散液中の水分量を測定し、その水分量と他の溶媒の重量とから混合物中の他の溶媒の重量比率を算出することに疑問があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、CNF水分散液に他の溶媒を添加したときに、混合物中の他の溶媒の重量比率を測定する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題に鑑み、鋭意研究を行ってきたところ、CNF分散液に特定の割合のイソプロピルアルコールを加えて、共沸させることにより得られるCNF分散組成物が、CNF同士が凝集することなく樹脂中に均一に分散できることを見出した。
【0011】
また、本発明者等は、前記課題に鑑み、鋭意研究を行ってきたところ、CNFは、水の保水性が非常に強い繊維であるため、ある一定の値の水分を吸着して固定水とし、それ以上の水分のみが自由水として流動性を確保する溶媒として機能することに着目し、混合物中の他の溶媒の重量比率を測定する方法を見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水分を含むCNFであっても、CNF同士が凝集することなく樹脂中に均一に分散させることのできるCNF分散組成物とその製造方法が提供される。
【0013】
本発明によれば、CNF水分散液に他の溶媒を添加したときに、混合物中の他の溶媒の重量比率を測定する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】IPAと水の混合液体における気液平衡曲線である。
図2】実施例4におけるCNFをエポキシ樹脂に均一分散させた状態を示す写真である。
図3】実施例13におけるCNF18%含有ペースト品を示す写真である。
図4】CNF5%が均一に分散したナイロン樹脂を示す写真である。
図5】実施例15におけるCNF分散ロジン樹脂を鉄板に広げている様子を示す写真である。
図6】実施例15において、CNF分散ロジン樹脂が150℃程度に達した後に、攪拌を継続しながら冷却をしている様子を示す写真である。
図7】示差走査熱量測定の結果を示す図である。
図8】CNF含有率1%品(a)、2%品(b)5%品(c)のスラリーを希釈調製し、11日間放置後の様子を示す図である。
図9図8の一部の拡大写真である。
図10】汎用小型チップ抵抗を実装した基板の写真である。
図11】汎用小型チップ抵抗を実装した基板についての抵抗値推移の結果を示す図である。
図12】800サイクル後の接合部を示す図である。
図13】シェア強度の推移を示す図である。
図14】セラコン部品下のはんだ厚みを示す図である。
図15】ヒートサイクル試験前後の状態を比較観察したFE-SEM像を示す図である。
図16】一般的なAgSnの効果模式図である。
図17】はんだ内部の金属組成を確認するためEDSを用いて元素分析を行った結果を示す図である。
図18】はんだ内部の組成について配向状態を確認するためX線回析装置を用いてX線測定を行った結果を示す図である。
図19】生産性評価用の実装基板を示す写真である。
図20】純水とIPAとから検量線を作成した図である。
図21】CNFスラリーとIPAとから検量線を作成して図16に載せた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。ただし、以下の実施形態は、発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0016】
(用語の定義)
ここで本発明で用いる主な用語の定義づけをする。
本明細書における「CNF」との用語は、CNFとCNCを含み、平均太さ3~200nmであり、平均長さ300nm以上のセルロース繊維のことをいい、平均幅3~4nmのいわゆるシングルセルロースナノファイバー、およびシングルセルロースナノファイバーが、いくつか集合し複数層となっている平均幅10~200nmのシングルセルロースナノファイバー集合体や硫酸等で非結晶部を除去したセルロースナノクリスタル(CNC)を包含する。また、セルロース繊維の長さ方向に枝分かれのないものだけではなく、枝分かれしているものも存在する。
本明細書における「CNF分散組成物」との用語は、成分(1)水、成分(2)セルロースナノファイバー及び成分(3)有機溶媒との混合物を共沸して得られるもののことをいい、広義には、成分(1)、成分(2)及び成分(3)を含有し、未だ共沸していない後述する有機溶媒重量比率Orが56.8%以上の物もCNF分散組成物に含まれ得るし、成分(1)が蒸発して成分(2)及び成分(3)となったものもCNF分散組成物に含まれる。
本明細書における「CNF分散樹脂組成物」との用語は、成分(1)水、成分(2)セルロースナノファイバー、成分(3)有機溶媒及び成分(4)樹脂との混合物を共沸して得られるもののことをいい、前記「CNF分散組成物」に成分(4)を加えた物や溶媒が全て除去された後の成分(2)に成分(4)を加えたものもCNF分散樹脂組成物に含まれる。
本明細書における「CNF固着水」との用語は、CNFの水素結合力や分子間力などによりCNFに強く吸着された水のことをいう。
これは、以下の思想により導き出され、定義されるものである。
CNFと水とからなる系であっても、CNFとCNF固着水のみからなる系である場合には、その物は、流動性がなく、あたかも固体のように振る舞う。そのため、溶媒をCNF分散液に添加した場合、溶媒とCNFとの間には、CNF固着水が存在していることになる。そこで、溶媒添加後のCNF分散液のCNF固形分濃度を算出する場合には、CNF固着水を省いて計算した方が実際のCNF分散液の挙動に近くなる。
【0017】
(混合物中の溶媒の重量比率Srの算出方法)
本発明におけるCNF分散液と溶媒(ただし、水を除く)との混合物中の溶媒の重量比率Srの算出方法は、以下の算出方法により求める。
まず、CNF分散液中のCNFの固形分量Cと、水の溶媒量Vaを算出する。
次に、CNF固着水Hを以下の式(1)により算出する。
=C×(100-a)/a ・・・(1)(式(1)中aは、CNF水分散液内で一部CNFの凝集が始まる時点のCNF固形分濃度であり、CNF固着水中のCNF固形分濃度とする。)
次に、CNF分散液中の実質水溶媒量Vbを以下の式(2)により算出する。
b=Va-H ・・・(2)
最後に、溶媒の重量Vと実質水溶媒量Vとから、以下の式(3)により溶媒の重量比率Sを算出する。
=V/(V+V) ・・・(3)
【0018】
まず、本願発明に用いることのできるCNF分散液について説明する。
CNF分散液としては、特許第6867613号公報に記載の微細状繊維の製造方法、特許第6704551号公報に記載の天然高分子としてセルロースを用いたセルロースナノファイバー及び非特許文献2に記載の調製方法や各公報に記載の他の原料等を由来成分とする微細状繊維の製造方法を参照することができる。
【0019】
これらCNF分散液の原料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。また原料の多糖としてはα-セルロース含有率60%~99質量%のパルプを用いるのが好ましい。α-セルロース含有率60質量%以上の純度であれば繊維径及び繊維長さが調整しやすく、α-セルロース含有率60質量%未満のものを用いた場合に比べ、熱安定性が高く、着色抑制効果が良好である。一方、99質量%以上のものを用いた場合、繊維をナノレベルに解繊することが困難になる。
【0020】
CNFの結晶化度は結晶化度50以上が好ましい。結晶化度については、X線回折法等によって測定することができ、結晶化度50未満の場合は、セルロースの天然結晶が有する特性を十分に引き出せなくなるほか、腐敗等による保管時の経時劣化を引き起こす虞がある。
【0021】
特許第6704551号の0018段落に記載のACC法(水中対向衝突法)により、平均太さ3~200nmであり、平均長さ0.1μm以上であるCNFが得られる。平均太さと平均繊維長さの測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等を適宜選択し、CNFを観察・測定し、得られた写真から20本以上を選択し、これをそれぞれ平均化することにより求める。なお、非特許文献3に記載の蛍光増幅を利用する蛍光顕微鏡観察する方法を採用してもよい。
【0022】
次に、本願発明に用いることのできる溶媒(ただし、水を除く)について説明する。
本願発明においては、水以外であれば全ての溶媒を使用することができる。換言すれば、液体状態をとる全ての物質を用いることが可能である。
【0023】
次に、CNF分散液中のCNFの量Cnと水の溶媒量Vaを算出する方法について説明する。
CNF分散液中のCNFの量Cnと水の溶媒量Vaを算出するには、乾燥重量法等の各種公知の方法を用いて測定・算出することができる。
具体的には、CNF分散液の重量を測定し、これを完全乾燥させ、残留した物をCNFとし、この重量を測定して、Cnとする。次いで、CNF分散液の重量からCnを引くことによって水の溶媒量Vaを算出する。
【0024】
次に、CNF固着水Hを以下の式(1)により算出する方法について説明する。
=C×(100-a)/a (1) (式(1)中aは、CNF系内で一部凝集が始まる時点のCNF固形分濃度であり、CNF固着水中のCNF固形分濃度とする。)
CNF固着水Hは、前述のaを用いて算出する。
CNFは非常に保水性の強い繊維である。これは、以下のような事実から裏付けられる。公知の油圧プレス機等を使用し非常に高い圧力を加えてCNF分散液を脱水したとしても、高々、CNF固形分濃度が30%程度にまでしか脱水することができない。また、一般的な空圧プレス機等を用いてCNF分散液を脱水した場合においては、CNF固形分濃度は、15%程度となるのが一般的である。
一方、CNF固形分濃度が概ね18%以上となってしまうと、CNF分散液中のCNF同士の水素結合が生じ始めてしまうため、均一なCNFとして存在することができない。そのため、15~19%がCNFに固着する水として存在すると想定できる。この水の量をCNF固着水中固形分濃度aとする。
そうすると、これらの値以上の水分のみが、CNF水分散液中の自由な水分としてCNF分散液の流動性を担保する溶媒として機能するといえる。
【0025】
このような思想に基づき導き出されたCNF固着水中固形分濃度aを用いると、CNFを100とした場合の水の量は100×(100-a)/aにより求めることができる。ここで、CNF固形分量をCnとすれば、式(1)が導き出される。
【0026】
次に、CNF分散液中の実質水溶媒量Vbを以下の式(2)により算出する方法について説明する。
b=Va-H ・・・(2)
前述したCNF分散液の水の溶媒量Vaから、CNF固着水Hの値を引くことによって、CNF分散液中の実質水溶媒量Vb を求めることができる。ここで、実質水溶媒量Vb が意味するところは、各々のCNF水分散液中のCNFの含量値に応じた各々のCNF分散液中の流動性に関与する自由な水分量を評価することができるところにある。
【0027】
最後に、溶媒の重量Vsと実質水溶媒量Vb とから、以下の式(3)により添加溶媒の重量比率Srを算出する方法について説明する。
=V/(V+V) ・・・(3)
添加溶媒の重量Vを前述したCNF分散液中の実質水溶媒量Vbと添加溶媒の重量Vとの和で除することによって得られる。
【0028】
以上の方法により、CNF水分散液に他の溶媒を添加したときの混合物中の他の溶媒の重量比率を算出することが可能となる。
なお、同様の方法に分子量を勘案することにより、CNF水分散液に他の溶媒を添加したときの混合物中の他の溶媒のモル比率を算出することも可能である。
【0029】
(CNF分散組成物の製造方法)
本願発明に係るCNF分散組成物の製造方法は、成分(1):水、成分(2):セルロースナノファイバー、成分(3):有機溶媒とからなる混合物を加熱混合攪拌しながら共沸する工程を行うことで、前記成分(1)及び前記成分(3)を除去して得られ、
前記成分(3)の前記混合物中の有機溶媒の重量比率は、前記混合物中の溶媒(ただし、水を除く)の重量比率の算出方法によって、算出された前記混合物中の有機溶媒重量比率Orが57%以上である。なお、前述の混合物中の溶媒の重量比率Srの算出方法において、溶媒を有機溶媒としたときの有機溶媒の重量比率をOrとしている。
【0030】
本願発明においては、成分(1)、成分(2)及び成分(3)を同時に加えて混合物としてから、加熱混合攪拌しながら共沸する工程を行って、成分(1)及び成分(3)の一部を除去して有機溶媒重量比率Orが57%以上となるようにしてもよい。また、成分(1)、成分(2)を加熱混合攪拌しながら、成分(3)を添加し、加熱混合攪拌しながら共沸する工程を行ってもよい。さらに、前記成分(3)を添加することを複数回添加する工程を行ってもよい。
【0031】
なお、加熱混合撹拌する手段として、マントルヒーター等の公知の加熱装置を用いて、ミキサー等の公知の撹拌装置を用いて撹拌する方法等が挙げられる。
【0032】
(成分(1)、成分(2))
本願発明における成分(1)と成分(2)は、前述したCNF水分散液を用いることで、成分(1)と成分(2)として用いることができる。また、前記CNF水分散液に、別途、成分(1)や、成分(2)を別々に、又は同時に追加することによっても、成分(1)と成分(2)として用いることができる。
【0033】
本発明に用いる成分(2)の量、すなわち、CNF水分散液中のCNF濃度は、特に限定されないが、1~18質量%が好ましく、より好ましくは5~15質量%である。1質量%以下であると、成分(3)の量が過剰に必要となり、溶媒回収負担増及びコストが高くなる。また、18質量%以上であると、一部凝集が生じているため、強力なエネルギーを付加しないと分散できなくなるおそれがあり、均一性の低下及びコストが高くなる。
【0034】
(成分(3))
本願発明における成分(3)は、水と共沸する有機溶媒である。成分(3)は、CNF分散液から成分(1)と共に共沸させ成分(1)を除去又は減じる目的で用いられる。なお、成分(3)は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0035】
成分(3)の具体例としては、アルコール類を例示することができ、グリセロール、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、セカンダリーブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1,3-ブタンジオール及びヘキシルジグリコール等が挙げられる。これらの中でも、エタノール、2-プロパノール、n-プロパノールが好ましく、より好ましくは、2-プロパノールが好ましい。2-プロパノールを使うことで成分(1)との共沸温度を下げることができる。さらに、液相比を変動させた時の気相比の変化が少なく、水に対する溶媒の量を抑えることができ、容易に安定して成分(1)の除去を行うことができる。
【0036】
他には、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等も使用することができる。
【0037】
以上のようにして得られたCNF分散組成物を加熱温度条件下で液体として存在する高分子樹脂を追加し攪拌混合することによって、CNF分散樹脂組成物を得ることができる。
また、他の観点からは、本願発明のCNF分散組成物の製造方法は、CNF水分散液を有機溶媒に変換する方法と評価することも可能である。
【0038】
(CNF分散樹脂組成物の製造方法)
本願発明に係るCNF分散樹脂組成物の製造方法は、前述のCNF分散組成物の製造方法において、成分(4)樹脂を添加して、同様の方法により得られる。
すなわち、成分(1):水、成分(2):セルロースナノファイバー、成分(3):有機溶媒及び成分(4)樹脂とからなる混合物を加熱混合攪拌しながら共沸する工程を行うことで、前記成分(1)及び前記成分(3)を除去して得られ、
前記成分(3)の前記混合物中の有機溶媒の重量比率は、前記混合物中の溶媒(ただし、水を除く)の重量比率の算出方法によって、算出された前記混合物中の有機溶媒重量比率Orが56.8%以上である。なお、前述の混合物中の溶媒の重量比率Srの算出方法において、溶媒を有機溶媒としたときの有機溶媒の重量比率をOrとしている。
【0039】
また、本願発明においては、成分(1)、成分(2)、成分(3)及び成分(4)を同時に加えて、混合物としてから、加熱混合攪拌しながら共沸する工程を行ってもよい。また、成分(1)、成分(2)を加熱混合攪拌しながら、成分(3)を添加し、加熱混合攪拌しながら共沸する工程を行った後、成分(4)を加えてもよい。さらに、前記成分(3)を添加することを複数回添加する工程を行ってもよい。
【0040】
このとき、成分(4)の添加タイミングは、成分(3)が系内に残存している状態であることが必要である。成分(3)が存在しない場合は成分(2)の凝集が進んでおり分散できない。成分(1)と成分(3)の合計に対する成分(2)の濃度が1%~18%のタイミングで添加するとよく、さらに好ましくは2%~15%、さらに好ましくは5%~10%である。1%以下のタイミングの場合は、添加する樹脂の粘性により、系の粘度が高くなり強い攪拌力が必要となり分散不良の恐れがある。さらに攪拌容器の容積が必要以上に大きくなり設備コストおよび運転コストが過剰となる。18%以上のタイミングで添加した場合には、成分(2)の凝集が始まっており、均一不良となり易い。
【0041】
(成分(4))
本願発明における成分(4)流動樹脂は、特に制限なく用いることができるが、混合時に流動性を示す物であればよい。溶媒に溶ける場合は溶解して利用でき、加熱により軟化する場合は系を加熱しながら利用すればよい。
例えば、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性樹脂ポリイミドなどが挙げられ、熱可塑性樹脂としては、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂の場合はグリセリンなどの高沸点溶媒に分散させることで、樹脂を軟化させて均一に分散することができる。
また、成分(4)は樹脂に限らず、沸点が製造時の温度より高い溶媒でも同様に利用できる。例えば、ターピネオール、炭素数8個以上のオクタンなどの炭化水素類、プロピレングリコール、炭素数4個以上のペンタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、グリセリンなどの2価以上のアルコール類、フェノール、キシレン、ピリジン、酢酸イソペンチル、炭素数3個以上の2メトキシエタノールなどのグリコールエーテル類、2,6―ルチジン、ホルミアミド、2-ブトキシエタノールアセテート、ジメチルスルホキシド、N、N-ジメチルホルムアミド、ブチルカルビトールアセテート、クレゾール等である。
【0042】
本発明に用いる前記成分(4)の量は、特に限定されないが、CNF分散樹脂組成物中のCNF固形分が、1~20質量%が好ましく、より好ましくは2~15質量%である。1%質量以下であると、最終添加目的のCNF必要量が補えない。20質量%以上であると、粘度が高くなり過ぎて取扱性に劣る。
【0043】
CNF分散樹脂組成物は、はんだ(ソルダペースト)へ利用できる。はんだ合金89%と樹脂からなるソルダペーストで、ロジン系樹脂およびエポキシ系樹脂を用いたソルダペーストに対して、CNF分散樹脂組成物添加した場合に以下のような効果を確認した。高温ダレ防止、濡れ性の改善、凝集性の改善、はんだ内部のボイド(欠陥)の低減、はんだ金属内部組織の微細化による強度向上、銅の分散性改善によるはんだ合金の均質化、溶融時の吸熱量の低減による省エネなどの効果を確認した。これらの成果により品質管理や生産管理コストの抑制、および接合信頼性などへ対応できる。
【0044】
(CNF分散組成物及びCNF分散樹脂組成物中の有機溶媒の定量方法)
有機溶媒として、エタノール若しくはイソプロピルアルコールを用いた場合には、非特許文献1に示される方法を用いて、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、以下の手順により、CNF分散組成物及びCNF分散樹脂組成物中のこれらの値を算出することができる。
1.標準試料を用いて、0~100%の濃度範囲において検量線を作成する。
2.CNF分散組成物及びCNF分散樹脂組成物をろ過して、CNF及びCNF固着水を分離する。
3.得られた濾液をFT-IRを用いて測定する。
【実施例
【0045】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1~3、比較例1)
CNF水分散液(nanoforest-S BB-C 中越パルプ工業株式会社製)1%品及びイソプロピルアルコール(2-プロパノール キシダ化学株式会社)を下記の表1に記載の量となるように調整した。
次いで、CNF水分散液を加熱攪拌しながら、複数回に分けて、イソプロピルアルコールを添加し、加熱混合撹拌を行い、CNF分散組成物を得た。次いで、エポキシ樹脂(リカレジン 新日本理化株式会社)中のCNF固形分濃度が4%となる量のエポキシ樹脂を添加して、CNF分散樹脂組成物を得た。目視にて、蒸気が確認できなくなった時点を終点とした。
得られたCNF分散樹脂組成物を目視により以下の評価基準を用いて評価した。結果を以下の表1に示す。なお、粘性はレオメーター測定により評価した。
◎:凝集物がなく高い粘性を付与できている。
〇:凝集物がなく粘性を付与できている。
△:粘性を付与できているが、一部凝集物がある。
×:ほとんどのCNFが凝集している。
【0047】
【表1】
【0048】
(実施例4~5、比較例2,3)
CNF水分散液(nanoforest-S BB-C 中越パルプ工業株式会社製)5%品及びイソプロピルアルコール(2-プロパノール キシダ化学株式会社)を下記の表2に記載の量となるように調整した。
次いで、表2に記載の量と、エポキシ樹脂(リカレジン 新日本理化株式会社)中のCNF固形分濃度が3%となる量を全て1Lビーカーに投入して、添加して、加熱混合攪拌しながら、共沸してCNF分散樹脂組成物を得た。目視にて、蒸気が確認できなくなり、150℃に達した時点を終点とした。
得られたCNF分散樹脂組成物を目視により前述の評価基準を用いて評価した。結果を以下の表2に示す。また、図2に、実施例4におけるCNFをエポキシ樹脂に均一分散させた状態を示す写真を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
(実施例6~9)
CNF水分散液(nanoforest-S BB-C 中越パルプ工業株式会社製)10%品及びイソプロピルアルコール(2-プロパノール キシダ化学株式会社)を下記の表3に記載の量となるように調整した。
次いで、表3に記載の量とエポキシ樹脂(リカレジン 新日本理化株式会社)中のCNF固形分濃度が5%及び4%となる量を全て300mlビーカーに投入して、加熱混合攪拌しながら、共沸してCNF分散樹脂組成物を得た。目視にて、蒸気が確認できなくなった時点を終点とした。実施例6の粘性が高過ぎてレオメーター測定が出来なかったため、その他はCNF4%配合エポキシ樹脂とした。
得られたCNF分散樹脂組成物を目視及びレオメーター測定により前述の評価基準を用いて評価した。結果を以下の表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表1~3より、IPAの重量比率Orを56.8%以上とすることによって、良好なCNF分散樹脂組成物が得られることが明らかとなった。
これから、有機溶媒重量比率Orが56.8%以上となるように成分(1)、成分(2)及び成分(3)を混合し、CNF分散組成物とし、これに樹脂を加えて加熱混合攪拌しながら、共沸することによって、良好なCNF分散樹脂組成物が得られることが明らかとなった。
また、有機溶媒重量比率Orが56.8%以上となるように成分(1)、成分(2)及び成分(3)を調整して、成分(1)及び成分(2)のみが存在するところへ、すなわち、CNF水分散液に、成分(3)を複数回添加し、かつ、任意のタイミングで成分(4)を加えることによってもまた、良好なCNF分散樹脂組成物が得られることが明らかとなった。
すなわち、水分を含むCNFであっても、CNF同士が凝集することなく樹脂中に均一にCNFを分散させることのできるCNF分散組成物、及び樹脂中に均一にCNFが分散されたCNF分散樹脂組成物が得られることが明らかとなったといえる。
【0053】
(実施例10~12)
実施例10~12は、実施例1~9及び比較例1~3において明らかとなった、有機溶媒重量比率Orが56.8%以上であるCNF分散組成物を用いた場合に、良好なCNF分散樹脂組成物が得られるという点を踏まえつつ、有機溶媒重量比率Orの値を変化させた時に、CNF分散組成物の成分(1)と成分(3)の挙動に係る実施例である。
【0054】
図1は、IPAと水の混合液体におけるIPA液相組成を横軸に、当該混合液体を蒸発させた際に生成されるIPA蒸気と水蒸気の混合蒸気におけるIPA気相組成を縦軸に示した気液平衡曲線である。
また、式(4)は、図1より、IPA液相組成0.05~0.9に対応するIPA気相組成の値として読み取った値をグラフ上にプロットして得たものである。表4に読み取った値を示す。
【0055】
y = 0.6543x3 - 0.5245x2 + 0.4005x + 0.4462 ・・・(4)
【0056】
【表4】
【0057】
CNF水分散液(nanoforest-S BB-C 中越パルプ工業株式会社製)及びイソプロピルアルコール(2-プロパノール キシダ化学株式会社)を下記の表5に記載の量となるように調整した。
【0058】
次いで、図1及び式(4)を用いて、水が蒸発したと仮定した時のIPAの残量を求め、さらに、CNF分散組成物中のCNF濃度を以下の計算方法により求めた。表5にCNF分散組成物中のCNF濃度を示し、表6~表8に実施例10~実施例12についての前記計算結果を示す。
1.CNF分散組成物中のIPA液体モル比を式(4)に代入してIPAの気相比を算出する。
2.IPAの気相比から水の気相比を算出する。
3.これらの値と水とIPAの分子量とから重量比を算出する。
4.これらの値から重量比率を計算する。
5.水が全て蒸発したとした時のIPAの蒸発量を求める。
6.IPAが残っている場合に、CNF固形分CnをCnとIPA残量との和で除してCNF分散組成物中のCNF濃度を求める。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
次いで、実施例10~12に記載の量をビーカーに投入して、CNF濃度4%となる量のエポキシ樹脂(リカレジン 新日本理化株式会社)を加えて、加熱混合攪拌しながら共沸して、CNF分散樹脂組成物を得た。得られたCNF分散樹脂組成物は、CNFが均一に分散した高粘度のペースト状態であった。
また、実施例10~12に記載の量をビーカーに投入して、加熱混合攪拌しながら共沸して、CNF分散組成物中のCNF濃度が10%程度であるCNF分散組成物を得た。
次いで、得られた前記CNF分散組成物(実施例11,12)の一部をそれぞれろ過して得られた濾液と標準試料として100%濃度のIPAをFT-IRを用いて測定し、1131cm-1の振動吸収スペクトルを比較したところ、同程度の強度であった。この結果により、得られたCNF分散組成物には、水が含まれていないことが明らかとなった。すなわち、CNFとIPAとからなるCNF分散組成物が得られることが明らかとなった。
次いで、前記CNF分散組成物(実施例10)の一部をろ過して得られた濾液を用いて、同様にFT-IR測定を行い、ピーク強度が低下していることを確認した。有機溶媒重量比率Orが56.8%以上であるCNF分散組成物は、水、CNF、IPAが存在するCNF分散組成物であることも明らかとなった。
【0064】
(実施例13)
1Lビーカー中に、CNF水分散液(nanoforest-S BB-C 中越パルプ工業株式会社製)10%品300g、及びイソプロピルアルコール(2-プロパノール キシダ化学株式会社)400gを3度に分けて添加混合した。一度目の添加後にガラス棒で攪拌しながら下部ヒーターによる加熱で共沸を開始し、溶媒が半分ほど蒸発した時に、2度目のイソプロパノールを添加した。
さらに、食添用グリセリンを添加してイソプロパノールおよびグリセリンに分散したCNF18%含有ペースト品を調製した。固着水以外の水溶媒が全て蒸発したと想定した際の計算上の重量値を表9に示す。また、CNF18%含有ペースト品の写真を図2に示す。
【0065】
【表9】
【0066】
次いで、上記CNF18%含有ペースト:5.2gを食添用グリセリン61gに混合して攪拌し、200℃に加熱した。
次いで、ナイロン樹脂PA-66(ポチコン 大塚化学株式会社)17gを混合して全てのナイロン樹脂を溶解させた。この時点の粘性は手攪拌から100~1,000cp程度の範囲と思われた。溶解後に300℃まで加熱し、食添用グリセリンを蒸発させた後、鉄板上に流して冷却し、図3に示すCNF5%が均一に分散したナイロン樹脂を得た。
【0067】
(比較例4)
実施例11において用いたCNF18%含有ペースト品を用いて同じナイロン樹脂への分散を検討した。
まず、ナイロン樹脂54gをビーカー底に均一に敷き詰めヒーター温度を400℃にして加熱した。薬さじでペレットを押さえつけることで、ビーカー底のナイロンに熱が伝わり、ナイロンは徐々に軟化し、8割程度のナイロンが軟化したが流動性のない状態であった。ここに、上記CNFペーストを添加した。添加した瞬間に、ビーカーの底部に触れて一部が焦げ始めて白い煙をあげた。ナイロンの流動性もさらに低下して混ぜることができなかった。ここにグリセリンを20g追加で添加した。ナイロンの溶解につれて透明なグリセリンが黒く変色するが、グリセリンに浸った状態のナイロンの一部しか溶けなかった。ナイロン樹脂が全て溶解する量のグリセリンが必要であり、均一に熱を伝えて溶解することが重要であることが分かった。
【0068】
(実施例14)
実施例11において用いたCNF18%含有ペースト品を用いて同じナイロン樹脂への分散を別の方法で検討した。
まず、ナイロン樹脂44.5gを簡易混練機(井元製作所製)に入れて270℃で軟化させた、そこに上記ペースト2.5gを4回に分けて投入した。各投入後は各5分間以上の混錬を行った。最終4回目投入して混練後の混錬樹脂を取り出して、熱プレスでシートとした。
透過させて凝集物を評価したが、凝集物は見えなかった。ナイロンは溶媒に溶かさずとも混練押出機などでCNF分散樹脂組成物を得られることが分かった。
【0069】
(実施例15)
CNF水分散液(nanoforest-S BB-C 中越パルプ工業株式会社製)11.14%品40gにイソプロピルアルコール(2-プロパノール キシダ化学株式会社)100gを添加混合してCNFスラリーを得た。
次いで、ロジン樹脂(水素添加ロジンハイペール 荒川化学工業株式会社)115gをイソプロパノール387gに添加して室温で攪拌して溶解させて、ロジンが完全に溶解したロジン溶解液を調製した。
前記CNFスラリーに対して、上記ロジン溶解液を添加して加熱攪拌しながら共沸させてイソプロパノールと水を蒸発させた。なお、ロジン液の添加は共沸により反応液が100cc程度蒸発する毎に、4回に分けて112g、110g、101g、および残存液104gの順に添加した。
ロジン溶解液を最後に添加した後、溶媒の蒸発と伴に液温が上昇し105℃程度で自由水が蒸発を終えてから沸騰量は減少し、130℃で固着水が完全に蒸発後に蒸気は確認できなくなり、150℃程度に達した後に攪拌を継続しながら冷却し、CNFが均一分散したCNF3.7%分散ロジン樹脂が得られた。
得られたCNF分散ロジン樹脂は100℃程度では粘張状のペースト状態であったが、鉄板上に移して室温まで冷却して固体状のロジン樹脂とした。
図5に、得られたCNF分散ロジン樹脂を鉄板に広げている様子を示す写真を示す。また、図6に、150℃程度に達した後に、攪拌を継続しながら冷却をしている様子を示す写真を示す。
【0070】
(実施例16)
CNF水分散液(nanoforest-S BB-C 中越パルプ工業株式会社製)11.14%品50gにイソプロピルアルコール(2-プロパノール キシダ化学株式会社)103gを添加混合してCNFスラリーを得た。
次いで、これを攪拌させながら、ターピネオール(製品コード RCI-YS-0130、整理番号 YSCHEM354-3、濃度100%、ヤスハラケミカル株式会社製)100gを追加した。このスラリーを加熱攪拌しながら共沸させてイソプロパノールと水を蒸発させた。溶媒の蒸発と伴に液温が上昇し135℃程度で自由水と固着水が完全に蒸発し、蒸気は確認できなくなるまで加熱攪拌後、攪拌を継続しながら冷却し、CNFが均一分散したCNF5%分散ターピネオール92gが得られた。なお、加熱攪拌過程においては、水とイソプロパノールの共沸以外にも多少のターピネオールの揮発があったと思われる芳香を感じた。
さらにターピネオールを加えて、CNF含有率1%品(a)および2%品(b)のスラリーを希釈調製した。11日間放置後の様子を図8に、さらに拡大写真を図9に示す。これらの図より、CNF5%のターピネオールスラリー(c)は11日経過後も安定分散している様子が確認できた。一方、CNF含有率2%品では多少の離油が生じ、CNF含有率1%品では明確に離油し下部にCNFスラリーが沈降している様子が確認できた。本技術を用いることでCNFは凝集することなくターピネオール中で分散しているが、CNFの表面に存在する水酸基は化学修飾などの官能基導入を行っていない天然セルロースであり、オイル吸着能力以上に存在するオイル分は吸着することができず、比重0.934のターピネオールの過剰分は表面に浮いていることが確認できる。
【0071】
(実施例17)
CNF水分散液(nanoforest-S BB-C 中越パルプ工業株式会社製 6.45%、400g)を、プラネタリーミキサー(PLM-2 株式会社井上製作所社製)に投入し、64rpm(低速)で攪拌しながら、IPA(2-プロパノール キシダ化学株式会社700g)を4回に分けて徐々に投入した(IPAモル比35.9%、有機溶媒重量比率Sr=75.4%)。
次いで、エポキシ樹脂(リカレジン 新日本理化株式会社)230gを投入して、90℃に設定し、加温を開始した。実温度70℃となったときに減圧を開始し、最大温度110℃、0.099MPaにて水分を完全に揮発させてCNFを10%配合させたCNF分散樹脂組成物を得た。
【0072】
(実施例18~実施例21)
次いで、得られたCNF分散樹脂組成物を表10に記載のソルダペースト処方へそれぞれ添加率が、ソルダペースト500g当りに、0.005g、0.01g、0.05g、0.1gの乾燥固形分重量となるように(表11)添加し、自転公転ミキサー(UM-102 株式会社ジャパンユニックス社製)を用いて、公転1000rpm自転250rpmの条件で2分間攪拌して得た。尚、係る処理でソルダペーストの温度は10℃から25℃程度まで上昇した。
【0073】
【表10】
【0074】
【表11】
【0075】
(ソルダペーストの熱特性)
実施例18と実施例20と比較例5を用いて、窒素ガス雰囲気中(30ml/min)、示差走査熱量測定(DSC-60、株式会社島津製作所社製)を行った。結果を図7に示す。図7の結果から、ソルダペーストに温度を付与する過程においては、溶け始める温度が上がり、また、総吸熱量を少なく抑えられることが明らかとなった。これは、熱がCNF繊維軸を伝わることで、熱伝達速度が高まりソルダペースト全体が均一な温度状態となったためと考えられる。換言すれば、比較例5の場合は表面部分の温度が先に上がることで表面から溶けて内部が遅れて溶けていると推察される。
また、ソルダペーストを冷却固化する過程では、比較例5の結果から、CNFが存在しないと過冷却を経て結晶化が始まり、この時に放熱が生じていることが明らかとなった。これは、CNFを添加することで過冷却が抑えられ、スムーズに結晶化が進むことが明らかとなった。これは、熱がCNF繊維軸を伝わり放出されているためと考えられる。
【0076】
(実施例22~25、比較例6)
(電子実装基板の作製と信頼性評価及び生産性評価)
(i)電子実装基板の作製
実施例18~21、比較例5で得られたソルダペーストの生産性、および信頼性を評価するための実装基板の図面をCADにより設計し、製作仕様書を作成した後、電子部品実装基板を作成し、それぞれ実施例18~21に対応するものを実施例22~25、比較例6とした。次いで、得られた電子部品実装基板を用いて信頼性評価及び生産性評価を行った。
(ii)信頼性評価
信頼性評価は、以下の2種類((A)及び(B))の基板を用いた1000サイクルのヒートサイクル試験とした。
(A)汎用小型チップ抵抗を実装した基板(図10(下図))を用いて、電気抵抗値測定によりこれらの差異を評価した。
(B)2つ目は大型のセラミックコンデンサー(セラコン)を実装した基板(図10(上図))を用いて、シェア強度測定による評価をした。
【0077】
(電気抵抗測定による信頼性評価の結果)
図11に、前記(A)についての抵抗値推移の結果を示す図を示す。図11から、汎用小型チップ抵抗を実装した電気抵抗測定では、明確な違いは確認できなかった。また、き裂による接合面の絶縁破断が生じたチップは1個も存在していなかったことから、はんだ部の大きな劣化は生じていないことが明らかとなった。
【0078】
(シェア強度測定による信頼性評価の結果)
図12と13に、上記(B)について、800サイクル後の接合部を示す図と、シェア強度の変化率推移の結果を示す図を示す。図12から、大型のセラミックコンデンサーを実装した基板の部品接合部では、800サイクル段階で、目視で確認できるき裂が生じていた。また、図13から、CNFを添加した実施例22~25では、シェア強度の低下ペースが遅いことが分かる。これから、CNFの存在により信頼性評価が高まっているといえる。特にCNF添加率0.01%(実施例20)、0.002%(実施例19)では1000サイクル終了時点で未添加品800サイクル(比較例5)を上回り、良好な成果を得た。
次いで、セラコン部品下のはんだ厚みを調査した。結果を図14に示す。ヒートサイクル試験後のセラコン部品の両側2点を断面観察し平均厚みとした。実施例22~25では、比較例5と比べて厚みが薄く、添加率の増加に伴い厚みが薄くなっていることが明らかとなった。
これらの結果から、以下のことが推察される。
まず前提として、基板上に塗布したソルダペーストは、その上にセラコン部品等がセット(固定されることなく載せられている状態)され、リフロー炉内で溶融される。その熱溶融の際に、部品の自重落下や濡れ性等の影響を受けて部品が動き、結果として厚みが変化する。従って各接合部品の厚みにはバラつきが生じることとなる。
その上で、CNFの処方の有無によって、セラコン部品下のはんだ厚みの薄肉化が生じる可能性を、溶融はんだの粘性に焦点を当てて考察する。実施例に係るソルダペーストは、せん断応力を受け続けると粘度が次第に低下し、静止すると粘度が次第に上昇し、最終的に固体状になる性質であるチキソトロピー性を有するCNFが配合されており、この性質がソルダペーストに付与されることによって、セラコン部品下のはんだ厚みの薄肉化が生じると考えられる。
これは、リフローシュミレーターに設置したカメラにより、はんだ溶融時の状態を観察すると、対流運動している様子が観察できたことからも裏付けされる。この熱運動により、溶融はんだにせん断応力が負荷され続けると、粘度が低下すると考えられる。そのため、セラコン部品が重力により沈み込み易くなり、結果として薄肉化した可能性があると推察できる。
次に、前記はんだ厚みが信頼性評価の結果に与える影響については以下のように推察される。
ヒートサイクル試験環境下では、熱による伸縮の小さいセラコン部品と大きい樹脂基板との間隙の接合はんだ部に、せん断ひずみが生じる。より正確には塑性ひずみに加え、非線形の時間依存クリープひずみもあり、単純な線形式ではないものの、厚みが薄くなることは、せん断ひずみが大きくなることを意味し、厚みが薄いほど厳しい条件で評価されていると解釈できる。従って、ソルダペーストの処方を変更し、接合厚みの維持とCNFによる強度向上効果を両立させることができれば、電子基板の信頼性に大きな改善効果を生むことも期待できる。また、添加すると粘度上昇する種類の添加剤の利用も可能となり、処方幅が広がることとなる。
【0079】
(ヒートサイクル試験後の断面観察)
実施例25と比較例6とを用いて、ヒートサイクル試験前後の断面観察を行うことによりCNFの有無による熱疲労の差異を評価した。それぞれのヒートサイクル試験前後の状態を比較観察したFE-SEM像を図15(左側:比較例6、右側:実施例25)に示す。
一般的には、はんだ内部では、β-Snの粒界周囲にネットワーク状に存在するAgSn共晶部が、クラックの発生・進展を防止するとされている(図16)。そして、熱サイクルによりβ-Snの微細化やAgSnの拡散移動および再結晶化が進み、上記ネットワークによるき裂進展防止効果が低下するとされている 。
ヒートサイクル試験前(冷却サイクル未処理)の観察結果(実施例25)から、方向性凝固による柱状晶帯の成長が顕著となり、デンドライト状セルからデンドライト結晶成長し、2次アームも明確に成長していることが明らかとなった。これは、前述の示差熱分析結果から明らかとなったはんだ融解後の冷却過程において、過冷却を抑制しスムーズな結晶化を促進する効果があることの裏付けであるといえる。
一方、ヒートサイクル試験(冷却1000サイクル)後の結果から、ヒートサイクル試験後の電顕観察において、き裂の前兆となるクラックの発生が抑えられている可能性を確認することができた。
また、比較例5の結果から、熱疲労によりβ-Sn結晶部とその周囲のAg3Sn共晶部との伸縮の違いなどによると思われる微細なき裂が生じて、深い溝に仕切られたような状態が観察された。さらに、β-Snの微細化、およびAg3Snがβ-Snの結晶粒内に点在している状態が確認できる。この程度はCNF添加により低下しており、CNFの存在が信頼性向上に繋がっていることを示唆する結果である。
【0080】
ソルダペーストを用いて接合した試料中における、はんだ内部の金属組成を確認するため、せん断試験後の破断面を、EDS(ProX、Rhenom社製)を用いて元素分析を行った結果を図17に示す。図17から、CNF添加により、金属間化合物であるAg3Sn組織の形状が、針状から粒状のような形体に変化、微細化していることが確認できた。
次に同じくはんだ内部の組成について、せん断試験後の破断面の配向状態などを確認するため、X線回析装置(UltimIV、株式会社リガク製)を用いてX線測定を行った。結果を図18に示す。図18から、Ag3Sn組成において明確な違いが観察でき、(200)面、(101)面、(211)面のピークは小さくなっている一方で、(220)面のピークは大きくなっており、CNF添加によりAg3Sn組成の(220)面に配向していることが確認できた。
このことから、接合時に(220)面に配向していた可能性、及びまたは、せん断変形を加えたことにより(220)面に配向した可能性がある。セルロースを添加することにより、凝固時の結晶配向を整える効果があり、ボイドを排出する際に(220)面に結晶配向する可能性があることが、X線回折結果から推察できる。(220)面に配向することにより、接合強度が向上した可能性が考えられる。
【0081】
(生産性評価の結果)
生産性評価用の実装基板を用いて、はんだボイド面積率評価を行うことで生産性の確認を行った。生産性評価用の実装基板を図19に示す。
はんだボイド:JISC61191-6(表A.4-LGAはんだ接合部のボイド評価基準)に準じ、X線CT観察を行い、はんだ層のみの画像を2値化して求めたボイド面積値で評価した。
ここで、内部のボイドは、接合面積の低下による接合強度低下、電気流路減少による電気抵抗の増大による発熱、さらに電流の乱れによるノイズ発生要因となり、ひいては、電気信号の不安定化の要因となる。結果を表12に示す。CNFの添加率が増えるとボイド面積率は減る傾向であることが確認でき、CNF配合率0.02wt%の実施例25ではボイド発生の削減率が23%となった。また、異なる大きさの部品と各種ソルダペーストを用いてボイド発生率の変化を調べた結果を表13に示す。内部のボイドの低減はボイド削減率には差があるものの最大で50%の内部ボイド削減となっていることが明らかとなった。これは、流動性が向上したことにより揮発ガスを逃がしやすい或いは、CNFが気体を担持して浮上して逃がすなどのメカニズムが想定される。
また、ブローホールの確認を行った。ここで、ブローホールとは、はんだ内に発生したガスによってできたボイドが表面に開口したものであって、はんだ表面(界面)に存在するゴルフボールのディンプル状のような穴のことである。溶融はんだ内部からのガスが系外に抜けきるとブローホールは、解消するが、ガスの抜けが遅いと存在したまま残る。また、酷い場合は目視でも観察される。ブローホールは、使用される環境によっては、これを起点に亀裂が発生し、実装した部品が正常に動作しなくなることもあるため、市場にてトラブルが発生する可能性が高くなるとされる。さらに、表面に存在するブローホールは、インラインカメラなどで容易に検知されクレームとなり易く、生産ロスとなる問題がある。表13で準備した参考例2の基板を用いて、2D外観検査装置+目視評価(50倍拡大鏡)により、ブローホールの検査を行ったところ、従来5%以上の頻度で発生しているブローホールが解消していることも確認できた。
【0082】
【表12】
【0083】
【表13】
【0084】
(検量線の作製)
純水とIPAを以下の表14に記載の濃度で混合した後、フーリエ変換赤外分光光度計(Spectrum One PerkinElmer社製)を用いて吸光度測定を行った。次いで、1127cm-1と1075cm-1の吸光度値(I1127 +及びI1075)を用いて、下記の式により、1127cm-1の吸光度比率を算出した。
式 I1127 / ( I1127 + I1075 ) × 100
次いで、これらの値を用いて検量線を作成した。結果を図20に示す。
【0085】
【表14】
【0086】
IPA濃度の低いNo.5まで含めた相関係数は、0.9469であった。一方、IPA濃度37wt%(2.2mol%)以上の検量線の相関係数0.989であった。これらの結果から、高い相関があることが確認できた。
【0087】
1.2%濃度のCNFスラリーとIPAを以下の表15の濃度で混合し、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて同様に測定を行った。結果を図21に示す。図20図21より、CNFが存在した溶液であっても、図20の検量線と略同一の直線上にあることを確認した。したがって、前述の「CNF分散組成物及びCNF分散樹脂組成物中の有機溶媒の定量方法」の手順2においてCNFを完全に除去できなくとも溶媒中のIPAの含有率を確定できることになる。
【0088】
【表15】
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