(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】アセトヒドロキシ酸シンターゼ新規変異体及びこれを含む微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 9/10 20060101AFI20240410BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240410BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240410BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240410BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240410BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240410BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240410BHJP
C12P 13/06 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
C12N15/54
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P13/06 C
(21)【出願番号】P 2022520587
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(86)【国際出願番号】 KR2020007529
(87)【国際公開番号】W WO2021101000
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0151672
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12415P
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョンリム
(72)【発明者】
【氏名】キム,テ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リ,イムサン
(72)【発明者】
【氏名】リ,カン ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒヨン
(72)【発明者】
【氏名】シン,カン ソ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-506030(JP,A)
【文献】特表2016-519949(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013532(WO,A2)
【文献】特表2017-523787(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0037224(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を有し、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質変異体であって、
配列番号1のアミノ酸配列においてアミノ酸配列の136番目のアミノ酸であるグルタミン(Glutamine)がアスパラギン(Asparagine)、アルギニン(Arginine)、フェニルアラニン(Phenylalanine)、セリン(Serine)、チロシン(Tyrosine)、システイン(Cystenine)、プロリン(Proline)、ヒスチジン(Histidine)、ロイシン(Leucine)、イソロイシン(Isoleucine)、トレオニン(Threonine)、リジン(Lysine)、バリン(Valine)、アラニン(Alanine)、アスパラギン酸(Aspartic acid)、グルタミン酸(Glutamic acid)、グリシン(Glycine)またはトリプトファン(Tryptophan)に置換された
、タンパク質変異体。
【請求項2】
前記タンパク質変異体が、配列番号12、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62または配列番号63のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質変異体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項1または2に記載のタンパク質変異体を含む微生物。
【請求項6】
前記微生物が、L-イソロイシンを生産する、請求項5に記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物が、コリネバクテリウム(Corynebacterium sp.)属またはエシェリキア属(Escherichia sp.)である、請求項5に記載の微生物。
【請求項8】
請求項5に記載の微生物を培地で培養する段階を含む、L-イソロイシンの生産方法。
【請求項9】
前記培養された微生物または培地からL-イソロイシンを回収する段階をさらに含む、請求項8に記載のL-イソロイシンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、アセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質の新規変異体、これをコードするポリヌクレオチド、前記変異体を含む微生物及び前記微生物を用いたL-イソロイシンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分岐鎖アミノ酸、すなわちL-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシンは個体においてタンパク質を増加させる作用をし、運動時のエネルギー源として重要な役割を果たすことが知られており、医薬品、食品などに使用されている。
【0003】
分岐鎖アミノ酸生産微生物として、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)と大腸菌(Escherichia coli)が代表的な微生物として用いられている。これらの微生物において、分岐鎖アミノ酸のうちL-イソロイシンは、他の分岐鎖アミノ酸であるL-バリン、L-ロイシンと主な生合成経路を共有している。L-イソロイシンの生合成経路を見ると、解糖過程(Glycolysis)で生成されるピルビン酸(pyruvate)とアスパラギン酸(Aspartate; Aspartic acid)由来のアミノ酸であるL-トレオニンから生成された2-ケト酪酸(2-ketobutyrate)が前駆体として用いられる。2つの前駆体からアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)という酵素の作用を通じて2-アセト-2-ヒドロキシ酢酸(2-aceto-2-hydroxyacetate)が合成された後、アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ(acetohydroxy acid isomeroreductase)を介して2、3-ジヒドロキシ-3-メチル吉草酸(2,3-dihydroxy-3-methylvalerate)が生成される。その後、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ (dihydroxy acid dehydratase)を介して2-ケト-3-メチル吉草酸(2-keto-3-methylvalerate)を経てアミノトランスフェラーゼ(aminotransferase)反応により、最終的にL-イソロイシンが生産される。また、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼは、ピルビン酸(pyruvate)のジカルボキシル化(decarboyxlation)と他のピルビン酸分子との縮合反応を触媒して、バリン及びロイシンの前駆体であるアセト乳酸を生成する。
【0004】
生合成経路を共有する分岐鎖アミノ酸の中で、特にL-イソロイシンとL-バリンは化学構造と特性が非常に類似しており、ノルバリン(Norvaline)とアミノブチル酸(Alpha amino butyric acid、AABA)などの副産物もL-イソロイシンと生合成経路を共有しているため、L-イソロイシンの生産が増加すると副産物も多量生成されることになる。この理由で、L-イソロイシンを高収率、高純度で生産するためには多くの精製コストが要求されるため、副産物の生成は最大に低減されながら目的産物の生成は増加した能力を有する菌株の開発が必須的である。
【0005】
アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)は、分岐鎖アミノ酸の生合成経路において重要な役割を果たす酵素であって、微生物の種類に応じてilvBN、ilvGM、ilvIH遺伝子によって暗号化され、コリネバクテリウム・グルタミカムの場合、ilvBN遺伝子によって暗号化される。ilvBNは最終産物である分岐鎖アミノ酸のうちL-イソロイシンによって遺伝子発現と酵素活性が阻害されるフィードバック抑制作用を受けるため、この遺伝子の発現を最適化し酵素の活性を調節することがL-イソロイシンの高収率生産菌株を作るのに非常に重要であるが、これに関する先行研究は主に小さな小サブユニット(acetohydroxy acid synthase small subunit;IlvNタンパク質)の変異によるフィードバック解除に関する研究がほとんどであり(非特許文献1、特許文献1~4)、関連研究が不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US2014-0335574
【文献】US2009-496475
【文献】US2006-303888
【文献】US2008-245610
【文献】大韓民国登録特許第10-0620092号
【文献】大韓民国登録特許第10-1783170号
【文献】大韓民国登録特許第10-1632642号
【文献】大韓民国登録特許第0924065号
【文献】大韓民国登録特許10-1996769号
【文献】大韓民国登録特許第10-0057684号
【文献】大韓民国特許公開第2000-0002407号
【文献】大韓民国登録番号10-1335789号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Protein Expr Purif. 2015 May;109:106-12
【文献】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358(1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Takeda et al., Hum. Mutation, 2, 112-117 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景下で、本発明者らはL-イソロイシン生産能が増加した微生物を開発するために鋭意努力した結果、アセトヒドロキシ酸シンターゼの変異体、具体的には、大きい小サブユニット(ilvB)変異体を開発した。これにより、前記変異体を含む微生物からL-イソロイシン生産の増加を確認し、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願の一つの目的は、配列番号1のアミノ酸配列において136番目のアミノ酸であるグルタミンがグルタミン以外の他のアミノ酸に置換された、アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体を提供することにある。
【0010】
本出願の他の目的は、前記タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド及びこれを含むベクターを提供することにある。
【0011】
本出願のまた他の目的は、前記タンパク質変異体を含むL-イソロイシンを生産する微生物を提供することにある。
【0012】
本出願のまた他の目的は、L-イソロイシンを生産する微生物を培地で培養する段階を含むL-イソロイシン生産方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0013】
本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体を含む微生物を培養する場合、高収率のL-イソロイシン生産が可能である。これにより、産業的な面で生産の利便性及び製造コスト削減の効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本出願をさらに詳細に説明する。
【0015】
一方、本出願で開示される各説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用されることができる。つまり、本出願で開示された様々な要素の全ての組み合わせが、本出願の範囲に属する。なお、下記の具体的な記述によって本出願のカテゴリが制限されるとは言えない。
【0016】
また、当該技術分野の通常の知識を有する者は、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定態様に対する多数の等価物を認知したり確認することができる。さらに、このような等価物は本出願に含まれるものと意図される。
【0017】
本出願の一態様は、配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸配列位置136番目のアミノ酸がグルタミン以外の他のアミノ酸に置換されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体を提供する。前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体は、変異体タンパク質、変異型タンパク質、アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体、変異体アセトヒドロキシ酸シンターゼまたは変異型アセトヒドロキシ酸シンターゼなどとして混用して使用することができる。
【0018】
具体的には、前記ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列において前記136番目のアミノ酸であるグルタミンがアスパラギン、アルギニン、フェニルアラニン、セリン、チロシン、メチオニン、システイン、プロリン、ヒスチジン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、リジン、バリン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシンまたはトリプトファンに置換されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を有するタンパク質変異体であってもよいが、これに制限されない。
【0019】
本出願において、用語、「アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)」または「アセトヒドロキシ酸シンターゼ」は、分岐鎖アミノ酸の生合成に関与する酵素であり、分岐鎖アミノ酸生合成の第一段階に関与しうる。具体的には、アセトヒドロキシ酸シンターゼはピルビン酸(pyruvate)のデカルボキシル化(decarboyxlation)と他のピルビン酸分子との縮合反応を触媒し、バリンの前駆体であるアセト乳酸を生産したり、ピルビン酸のデカルボキシル化と2-ケト酪酸(2-ketobutyrate)との縮合反応を触媒してイソロイシンの前駆体であるアセトヒドロキシブチレートを生産することができる。生産されたアセトヒドロキシブチレートから出発し、アセトヒドロキシ酸イソメロリダクターゼ(acetohydroxy acid isomeroreductase)、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(dihydroxy acid dehydratase)、トランスアミナーゼB(transaminase B)により触媒された反応を順次に経るとL-イソロイシンが生合成されうる。
【0020】
したがって、アセトヒドロキシ酸シンターゼは分岐鎖アミノ酸の生合成経路にとって重要な酵素である。アセトヒドロキシ酸シンターゼはilvB及びilvN、両方の遺伝子によってコードされ、ilvB遺伝子はアセトヒドロキシ酸シンターゼの大きい小サブユニット(large subunit;IlvB)を、ilvN遺伝子はアセトヒドロキシ酸シンターゼの小さい小サブユニット(small subunit;IlvN)をそれぞれコードする。
【0021】
本出願の用語、「分岐鎖アミノ酸」とは、側鎖に分岐アルキル基を有するアミノ酸をいい、バリン、ロイシン及びイソロイシンを含む。具体的には、本出願において前記分岐鎖アミノ酸は、L-イソロイシン、L-バリンまたはL-ロイシンであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0022】
本出願において、アセトヒドロキシ酸シンターゼは、コリネバクテリウム属微生物由来であってもよく、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来であってもよい。コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来のアセトヒドロキシ酸シンターゼの大きい小サブユニットilvBタンパク質は、例えば、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。前記配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と混用して使用してもよい。
【0023】
また、本出願におけるアセトヒドロキシ酸シンターゼの大きい小サブユニットilvBタンパク質は、配列番号1のアミノ酸を含むタンパク質と定義したが、配列番号1のアミノ酸配列の前後に無意味な配列の追加または自然に発生できる突然変異、またはその潜在性突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質と互いに同一または相応する活性を有する場合であれば、本願のアセトヒドロキシ酸シンターゼの大きい小サブユニットilvBタンパク質に該当することは当業者には自明である。具体的な例として、本願のアセトヒドロキシ酸シンターゼの大きい小サブユニットilvBタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列またはそれと80%、90%、95%、97%または99%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。また、このような相同性または同一性を有し、前記タンパク質に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、本出願の変異対象になるタンパク質の範囲内に含まれるのは自明である。
【0024】
すなわち、本出願において、「特定配列番号で記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチド」、「特定配列番号で記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質またはポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一または相応する活性を有する場合であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願で使用できることは自明である。例えば、「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」は、これと同一または相応する活性を有する場合であれば、「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」に属しうることは自明である。
【0025】
本出願で提供するアセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体は、前記で説明したアセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質のうち特異的位置のアミノ酸が置換され、アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性が変異前のタンパク質と比較して100%超過されるか、L-イソロイシンまたはそのアナログ類似体によるフィードバック阻害が解除された変異体を意味しうる。
【0026】
本出願において、用語、「変異体(variant)」は、1つ以上のアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/または変形(modification)において前記列挙された配列(the recited sequence)と異なるが、前記タンパク質の機能(functions)または特性(properties)が維持されるタンパク質を指す。変異体は、数個のアミノ酸の置換、欠失または付加によって識別される配列(identified sequence)とは相違する。そのような変異体は、一般的に前記タンパク質のアミノ酸配列のうちの1つ以上のアミノ酸を変形し、前記変形されたタンパク質の特性を評価することによって識別されうる。
【0027】
つまり、変異体の能力は天然のタンパク質(native protein)に比べて増加されたり、変化してなかったり、または減少されうる。他の変異体は、成熟タンパク質(mature protein)のN末端及び/またはC末端から一部が除去された変異体を含みうる。前記用語、「変異体」は、変異型、変形、変異されたタンパク質、変異型ポリペプチド、変異などの用語(英語表現としては、modifiation, modified protein, modified polypeptide, mutant, mutein, divergent, variantなど)を用いられてもよく、変異された意味で使用される用語であれば、これに制限されない。本出願の目的上、前記変異体は天然の野生型または非変形タンパク質と比較してタンパク質の活性が増加したり、フィードバック阻害が解除されたものであってもよいが、これに制限されない。
【0028】
本出願において、用語、「保存的置換(conservative substitution)」は、一つのアミノ酸を類似の構造的及び/または化学的性質を有する別のアミノ酸に置換することを意味する。このようなアミノ酸置換は一般的に残基の極性、電荷(塩基性、酸性)、溶解度、疎水性、親水性及び/または両親媒性(amphipathic nature)の類似性に基づいて発生しうる。
【0029】
また、変異体はポリペプチドの特性及び二次構造に最小の影響を有するアミノ酸の欠失または付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは翻訳同時(co-translationally)または翻訳後(post-translationally)のタンパク質の移行(transfer)に関与するタンパク質N末端のシグナル(またはリーダー)配列とコンジュゲートしてもよい。さらに、前記ポリペプチドはポリペプチドを確認、精製または合成できるように他の配列またはリンカーとコンジュゲートしてもよい。
【0030】
前記「他のアミノ酸に置換」は、置換前のアミノ酸と異なるアミノ酸であれば制限されない。すなわち、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から136番目のアミノ酸であるグルタミンがグルタミン以外の他のアミノ酸残基に置換されたものであれば制限されない。一方、本出願において「特定アミノ酸が置換された」と表現する場合、他のアミノ酸に置換されたと別に表記しなくても、置換前のアミノ酸と異なるアミノ酸に置換されることは自明である。
【0031】
または、前記タンパク質変異体は配列番号1のアミノ酸配列において、N末端から136番目のアミノ酸が、アスパラギン(Asparagine)、アルギニン(Arginine)、フェニルアラニン(Phenylalanine)、セリン(Serine)、チロシン(Tyrosine)、メチオニン(Methionine)、システイン(Cystenine)、プロリン(Proline)、ヒスチジン(Histidine)、ロイシン(Leucine)、イソロイシン(Isoleucine)、トレオニン(Threonine)、リジン(Lysine)、バリン(Valine)、アラニン(Alanine)、アスパラギン酸(Aspartic acid)、グルタミン酸(Glutamic acid)、グリシン(Glycine)またはトリプトファン(Tryptophan)に置換された変異体であってもよいが、これに制限されない。
【0032】
このような本出願のタンパク質変異体は、変異前タンパク質に比べて活性が強化されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有する。
【0033】
本出願の配列番号1の配列においてN末端から136番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたタンパク質変異体は、前記136番に相応する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたタンパク質変異体を含むことは自明である。
【0034】
前記配列番号1の配列において、N末端から136番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたタンパク質変異体は、配列番号12、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52 、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62または配列番号63のうちのアミノ酸配列を含むものであってもよく、具体的には、配列番号12、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56 、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62及び配列番号63のいずれか一つのアミノ酸配列で必須的に構成される(consisting essentially of)ものであってもよく、より具体的には、配列番号12、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62及び配列番号63のいずれか一つのアミノ酸配列からなるものであってもよいが、これに制限されない。
【0035】
また、前記タンパク質変異体は、配列番号12、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62及び配列番号63のいずれか一つのアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列において、N末端から136番目のアミノ酸は固定され、これと80%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよいが、これに制限されるものではない。具体的には、本出願の前記変異型ポリペプチドは、配列番号12、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62及び配列番号63のいずれか一つ、及び前記配列番号12、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61 、配列番号62及び配列番号63のいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の相同性または同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。さらに、このような相同性または同一性を有し、前記タンパク質に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、136番のアミノ酸位置の他に一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願の範囲内に含まれるのは自明である。
【0036】
本出願において、用語、「相同性」または「同一性」は2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列に関連する程度を意味し、百分率として表してもよい。用語、相同性及び同一性はしばしば相互交換的に用いられてもよい。保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は標準配列アルゴリズムによって決定され、使用されるプログラムによって確立されたデフォルトギャップペナルティが一緒に用いられてもよい。実質的に、相同性を有するか(homologous)または同一の(identical)配列は、一般的に配列全体または全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%または90%に沿った中間または高い厳しい条件(stringent conditions)でハイブリッドしてもよい。ハイブリッド化は、ポリヌクレオチドでコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0037】
任意の2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が、相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、非特許文献2と同じデフォルトのパラメータを用いて「FASTA」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを利用して決定してもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite、非特許文献3)(バージョン5.0.0またはそれ以降のバージョン)で実行されるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定してもよい。(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic AcidsResearch 12: 387(1984))、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403(1990);Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994、及び[CARILLO ETA/.](1988)SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定してもよい。
【0038】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、非特許文献5に公知されたように、例えば、非特許文献4のようなGAPコンピュータプログラムを利用して配列情報を比較することによって決定してもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち、より短いものからのシンボルの全体数で同様の配列されたシンボル(つまり、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を割った値として定義する。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)一進法の比較マトリックス(同一性のための1及び非同一性のための0の値を含有する)及び非特許文献6に開示されたように、非特許文献7の加重された比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップの各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);及び(3)末端ギャップのための無ペナルティを含んでもよい。
【0039】
さらに、任意の2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、定義された厳しい条件下でサザン混成化実験によって配列を比較することにより確認することができ、定義される適切な混成化は当該技術分野の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989; FM Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons、Inc.、New York)で決定してもよい。
【0040】
本出願の他の態様は、前記タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0041】
本出願において、用語、「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合によって長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)で一定の長さ以上のDNAまたはRNA鎖であり、より具体的には、前記タンパク質変異型をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0042】
本出願のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドには、アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド配列であれば制限なく含んでもよい。
【0043】
本出願において、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子はilvB遺伝子であってもよく、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来であってもよく、具体的には、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列であってもよいが、これに制限されない。
【0044】
本出願のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、具体的には、配列番号1のアミノ酸配列において136番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド配列であれば制限なく含んでもよい。例えば、本出願のポリヌクレオチドは、本出願のタンパク質変異体、具体的には、前記配列番号12、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62及び配列番号63のいずれか一つのアミノ酸配列を含むタンパク質またはそれと相同性または同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であってもよいが、これに制限されない。前記相同性または同一性については前述の通りである。
【0045】
また、前記タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)によって、または前記ポリペプチドを発現しようとする生物において好ましいコドンを考慮して、ポリペプチドのアミノ酸配列を変化させない範囲内でコード領域に様々な変形を行うことができる。
【0046】
さらに、前記タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から調製することができるプローブ、例えば、前記ポリヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列と厳しい条件下でハイブリット化できる配列番号1のアミノ酸配列の136番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたタンパク質変異体をコードする配列に相応する配列を含むプローブであれば、制限なく含んでもよい。
【0047】
前記「厳しい条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的混成化を可能にする条件を意味する。これらの条件は、文献(例えば、J. Sambrook et al.,同上)に具体的に記載されている。例えば、相同性または同一性が高い遺伝子同士、40%以上、具体的には、90%以上、より具体的には、95%以上、さらに具体的には、97%以上、特に具体的には、99%以上の相同性を有する遺伝子同士でハイブリッド化する。そして、それより相同性が低い遺伝子同士はハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1×SSC 、0.1%SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には、2回~3回洗浄する条件を挙げられる。しかし、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者によって適切に調節されてもよい。
【0048】
混成化は、たとえ混成化の厳密度によって塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することを要求する。用語、「相補的」は、互いに混成化が可能であるヌクレオチド塩基間の関係を記述するために用いられる。例えば、DNAに関すると、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願は、また、実質的に類似のポリヌクレオチド配列だけでなく、全体配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片を含みうる。
【0049】
具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値で混成化段階を含む混成化条件を用い、上述した条件を用いて探知してもよい。また、前記Tm値は、60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者によって適切に調節されてもよい。
【0050】
ポリヌクレオチドを混成化する適切な厳密度は、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野でよく知られている(非特許文献8参照)。
【0051】
本出願の他の態様は、前記タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0052】
本出願で用いられた用語、「ベクター」は、適合した宿主内で目的タンパク質を発現できるように、適合の調節配列に作動可能に連結された前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA製造物を意味する。前記調節配列は、転写を開始しうるプロモーター、このような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適合のmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含んでもよい。ベクターは、適切な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムとは無関係に複製されたり機能することができ、ゲノムそのものに統合されてもよい。
【0053】
本出願で用いられる用語、「作動可能に連結された」というのは、本出願の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するようにするプロモーター配列と、前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されていることを意味する。作動可能な連結は、当業界の公知の遺伝子組換え技術を利用して製造してもよく、部位特異的DNA切断及び連結は当業界の切断及び連結酵素などを用いて製作してもよいが、これに制限されない。
【0054】
本出願で用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されず、当業界に知られている任意のベクターを用いてもよい。通常用いられるベクターの例としては、天然の状態であるか、組換えされた状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いてもよく、プラスミドベクターとして、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いてもよい。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いてもよい。
【0055】
一例として、 細胞内の染色体挿入用ベクターを介して染色体内に目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異されたポリヌクレオチドに交替してもよい。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界で知られている任意の方法、例えば、相同組換えによって行われてもよいが、これに限定されない。前記染色体に挿入されたかどうかを確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、すなわち目的核酸分子が挿入されたかどうかを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能な表現型を付与するマーカーが用いられてもよい。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみ生存したり他の表現形質を示すので、形質転換された細胞を選別できる。
【0056】
本出願において、用語、「形質転換」は、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入して、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは宿主細胞内で発現することさえできれば、宿主細胞の染色体内に挿入され位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、これらをすべて含んでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNA及びRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、あらゆる形態で導入されるものであっても構わない。例えば、前記ポリヌクレオチドは、それ自体で発現されるのに必要なすべての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含んでもよい。前記発現カセットは、それ自体の複製が可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入されて、宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されない。前記形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入するあらゆる方法も含まれており、宿主細胞に応じて当分野で公知のように適合した標準技術を選択して行ってもよい。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(Ca(H2PO4)2、CaHPO4、またはCa3(PO4)2)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、 DEAEデキストラン法、陽イオンリポソーム法、及び酢酸リチウムDMSO法などがあるが、これに制限されない。
【0057】
本出願の他の態様は、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体を含む微生物を提供する。具体的には、前記微生物は本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体を発現するL-イソロイシンを生産する微生物であってもよい。
【0058】
本出願において、用語、タンパク質が「発現するように/される」とは、目的のタンパク質が微生物内に導入されるか、微生物内で発現されるように変形された状態を意味する。前記目的タンパク質が微生物内に存在するタンパク質である場合、内在的または変形前に比べてその活性が強化された状態を意味する。本出願の目的上、「目的タンパク質」は、前述したアセトヒドロキシ酸シンターゼの活性を有するタンパク質の変異体であってもよい。
【0059】
具体的には、「タンパク質の導入」とは、微生物が本来有していない特定タンパク質の活性を示すようになること、または当該タンパク質の内在的活性または変形前の活性に比べて向上した活性を示すようになることを意味する。例えば、特定のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが微生物内の染色体に導入されるか、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが微生物内に導入されてその活性が示されるものであってもよい。また、「活性の強化」は、微生物が有する特定タンパク質の活性がその内在的活性または変形前の活性に比べて向上したり、特定タンパク質に対するフィードバック阻害効果が解除され、その内在的活性または変形前の活性に比べて活性が阻害されなくなることを意味する。「内在的活性」とは、自然的または人為的な要因による遺伝的変異で微生物の形質が変化する場合、形質変化前の親菌株が本来有していた特定タンパク質の活性をいう。
【0060】
具体的には、本出願において活性の強化は目的とするタンパク質をコードするポリヌクレオチドの細胞内にコピー数の増加、目的とするタンパク質を暗号化するポリヌクレオチドの発現調節配列に変異を導入する方法、目的とするタンパク質を暗号化するポリヌクレオチド発現調節配列を活性が協力な配列に交替する方法、染色体上の目的とするタンパク質をコードするポリヌクレオチドを活性が強化されたタンパク質変異体を暗号化するポリヌクレオチドで代替するか変異をさらに導入させれることと同じようなポリヌクレオチド配列を変形させる方法及び微生物にタンパク質変異体を導入する方法からなる群から選択されるいずれか一つ以上の方法で成ってもよいが、これに制限されない。前記目的とするタンパク質をコードするポリヌクレオチドは目的遺伝子を意味してもよい。
【0061】
前記ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれに制限されないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることによって行なわれてもよい。具体的には、本出願のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結されて宿主と無関に複製及び機能しうるベクターが宿主細胞に導入されるものであってもよい。または、前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入させうるベクターが宿主細胞の染色体内に導入されるものであってもよい。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界に公知の任意の方法、例えば、相同組換えによって行われてもよい。
【0062】
次に、ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列を変形するのは、特にこれに制限されないが、前記発現調節配列の活性をさらに強化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで配列上の変異を誘導して行うか、さらに強い活性を有する核酸配列に交替することによって行われてもよい。前記発現調節配列は、特にこれに制限されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び解読の終結を調節する配列などを含んでもよい。
【0063】
前記発現調節配列の活性をさらに強化するためにより強い活性を有する核酸配列に交替することは本来のプロモーターの代わりにより強力なプロモーターが連結されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。公知の強力なプロモーターの例としては、CJ1~CJ7プロモーター(特許文献5)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(特許文献6)、O2プロモーター(特許文献7)、tktプロモーター及びyccAプロモーターなどがあるが、これに限定されものではない。
【0064】
また、染色体上のポリヌクレオチド配列の変形は、特にこれに制限されないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性をさらに強化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせで発現調節配列上の変異を誘導して行うか、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に交替することによって行われてもよい。
【0065】
このようなタンパク質活性の導入及び強化は、相応するタンパク質の活性または濃度が野生型または非変異微生物株におけるタンパク質の活性または濃度を基準として、一般的に最小1%、10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%または500%、最大1000%または2000%まで増加するものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0066】
本出願において、用語、「L-イソロイシンを生産する微生物」とは、培地中の炭素源からL-イソロイシンを野生型や非変型微生物と比較して過量に生産できる微生物をいう。また、前記L-イソロイシンを生産する微生物は組換え微生物であってもよい。具体的には、L-イソロイシンを生産することができれば、その種類が特に制限されないが、エンテロバクター(Enterbacter)属、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物であってもよい。より具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属またはエシェリキア(Escherichia)属に属する微生物であってもよい。
【0067】
より具体的には、エシェリキア属(Escherichia)微生物は大腸菌(Escherichia coli)であってもよく、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよいが、アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質が導入または強化されてL-イソロイシン生産量を増加させうるエシェリキア属またはコリネバクテリウム属に属する微生物は制限なく含まれてもよい。
【0068】
本出願においてアセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体が発現されるように変形されたL-イソロイシンを生産する微生物の親菌株は、L-イソロイシンを生産する微生物であれば特に限定されない。L-イソロイシンを生産する微生物は天然型微生物自体または外部L-イソロイシン生産機序に関連する遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性を強化させたり不活性化させて向上されたL-イソロイシン生産能を有するようになった微生物であってもよい。
【0069】
本出願の他の態様は、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体を発現するL-イソロイシンを生産する微生物を培地で培養することを含む、L-イソロイシンの生産方法に関する。
【0070】
前記L-イソロイシン、配列番号1のアミノ酸配列を含むアセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質、タンパク質の発現、及び微生物については、上述した通りである。
【0071】
本出願の「L-イソロイシン」は、L-イソロイシン自体の形態だけでなく、その塩形態の両方を含むことができる。
【0072】
本出願において、用語、「培養」は、前記微生物を適当に調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は当業界に知られている適当な培地と培養条件によって行ってもよい。このような培養過程は、選択される菌株によって当業者が容易に調整して用いてもよい。具体的には、前記培養は、回分式、連続式及び流加式であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0073】
本出願において、用語、「培地」は、前記微生物を培養するために必要とする栄養物質を主成分と混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水を含む栄養物質及び発育因子などを供給する。具体的には、本出願の微生物の培養に用いられる培地及びその他の培養条件は、通常の微生物培養に使用される培地であれば特に制限なくいずれも用いられてもよいが、本出願の微生物を適当な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/またはビタミンなどを含有する通常の培地内で好気性条件下、温度、pHなどを調節しながら培養することができる。
【0074】
本出願において、前記炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物;マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸;グルタミン酸、メチオニン、リジンなどのアミノ酸などが含まれてもよい。また、澱粉加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米ぬか、キャッサバ、バガス及びトウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源が用いられてもよく、具体的には、グルコース及び殺菌された前処理糖蜜(すなわち、還元糖に転換された糖蜜)などの炭水化物が用いられてもよく、その他の適正量の炭素源を制限なく多様に用いてもよい。これら炭素源は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、これに限定されるものではない。
【0075】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源;グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類またはその分解生成物、脱脂大豆ケーキまたはその分解生成物などの有機窒素源が用いられてもよい。これら窒素源は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、これに限定されるものではない。
【0076】
前記リン源としては、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、またはそれに対応するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどが用いられてもよく、その他にアミノ酸、ビタミン及び/または適切な前駆体などを含んでもよい。これらの構成成分または前駆体は、培地に回分式または連続式で添加されてもよい。しかし、これに限定されるものではない。
【0077】
本出願において、微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に適切な方法で添加して、培地のpHを調整してもよい。また、培養中には脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。また、培地の好気状態を維持するために、培地内に酸素または酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気状態を維持するために気体の注入なしにあるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入してもよいが、これに限定されるものではない。
【0078】
培地の温度は20℃~50℃、具体的には、30℃~37℃であってもよいが、これに制限されない。培養期間は、有用物質の所望の生成量が得られるまで継続させてもよく、具体的には、10時間~100時間であってもよいが、これに制限されない。
【0079】
前記生産方法は、前記培養による培地または前記微生物からL-イソロイシンを回収することをさらに含んでもよい。
【0080】
前記L-イソロイシンを回収することは、本出願の微生物の培養方法、例えば回分式、連続式または流加式培養方法などにより当該技術分野で公知の適切な方法を用いて培地から目的とするL-イソロイシンを回収してもよい。例えば、遠心分離、ろ過、結晶化タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外ろ過、透析法、分子体クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親和度クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLC及びこれら方法を組み合わせて用いてもよいが、これらの例に限定されるものではない。
【0081】
前記生産方法は精製工程を含んでもよい。前記精製工程は当該技術分野で公知の適切な方法を用いて、回収されたL-イソロイシンを精製することができる。
【0082】
本出願の他の態様は、配列番号1のアミノ酸配列において136番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、アセトヒドロキシ酸シンターゼ活性を有するタンパク質変異体が発現されるように微生物を変形することを含む、L-イソロイシン生産性を増加させる方法を提供する。
【0083】
本出願の他の態様は、前記タンパク質変異体のL-イソロイシン生産能の増加のための使用を提供する。
【0084】
前記タンパク質変異体、他のアミノ酸については上述の通りである。
【実施例】
【0085】
以下、本出願の実施例に通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれらの実施例により制限されるものではない。
【0086】
実施例1.人工変異法によるランダム突然変異株の選別
【0087】
本実施例では、L-イソロイシンの生産能が向上された微生物変異株を得るために、下記方法を用いて微生物の変異を誘導した。
【0088】
まず、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032菌株にイソロイシン生合成において重要な酵素として作用するL-threonine dehydratase(ilvA)のフィードバック阻害(feedback inhibition)解消のためのilvA(F383A)変異を導入するため、配列番号72、配列番号73、配列番号74、及び配列番号75のプライマーを製作した。
【0089】
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC 13032のゲノムDNAを鋳型として配列番号72と配列番号73及び、配列番号74と配列番号75のプライマーを用いてPCRを行った。PfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いてPCRし、PCR条件は、変性、95℃で30秒;アニーリング、55℃で30秒;及び重合反応、72℃で1分を25回繰り返した。その結果、1000bpのilvA遺伝子の上端部位と1000bp ilvA遺伝子の下端部位の遺伝子断片をそれぞれ獲得し、QIAGEN社のPCR Purification kitを用いて各増幅産物を精製し、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。制限酵素smaIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZ(特許文献8)ベクターとDNA断片をモル濃度(M)1:2となるようにタカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用い、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることによりF383A変異を染色体上に導入するためのベクターpDZ-F383Aを製作した。
【0090】
製作したベクターを電気穿孔法によりコリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032に形質転換し、二次交差過程を経て染色体上でそれぞれ変異型塩基に置換された菌株を得た。適切な置換の有無は、下記のプライマー組み合わせを用いてMASA(Mutant Allele Specific Amplification)PCR技法(非特許文献9)を用い、変異型配列に付合するプライマーの組み合わせ(配列番号68及び配列番号76)から増幅された菌株を選別することにより一次決定し、選別された菌株のilvA配列分析は、配列番号77及び配列番号78のプライマー組み合わせを用いて変異型配列分析することにより二次確認した。
【0091】
次に、前記ilvA(F383A)変異が導入された菌株にhom(R407H)(特許文献9)変異がさらに導入された菌株を製作するために、配列番号64、配列番号65、配列番号66及び配列番号67のプライマーを製作した。
【0092】
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032から抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号64と配列番号65及び配列番号66と配列番号67のプライマーを用いてPCRを行った。PfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いてPCRし、PCR条件は、変性、95℃で30秒;アニーリング、55℃で30秒;及び重合反応72℃で1分を25回繰り返した。その結果、1000bpのhom遺伝子上端部位と1000bp hom遺伝子下端部位の遺伝子断片をそれぞれ獲得した。増幅産物をQIAGEN社のPCR Purification kitを用いて精製し、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。一方、制限酵素smaIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZ(特許文献8)ベクターと前記PCRを介して増幅した挿入DNA断片のモル濃度(M)比が1:2となるようにタカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、R407H変異を染色体上に導入するためのベクターpDZ-R407Hを製作した。
【0093】
製作したベクターを電気穿孔法によりコリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032 ilvA(F383A)に形質転換し、二次交差過程を経て染色体上でそれぞれ変異型塩基に置換されている菌株を得た。適切な置換の有無は、下記のプライマー組み合わせを用いてMASA(Mutant Allele Specific Amplification)PCR技法(非特許文献9)を用いて変異型配列に付合するプライマー組み合わせ(配列番号68及び配列番号69)から増幅された菌株を選別することにより一次決定し、選別された菌株のhom配列分析は、配列番号70及び配列番号71のプライマー組み合わせを用いて変異型配列分析することにより二次確認した。
【0094】
具体的には、親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032 hom(R407H)ilvA(F383A)を活性化培地で16時間培養し活性化された菌株を121℃で15分間滅菌した種培地に接種して14時間培養後、培養液5mlを回収した。回収した培養液を100mMクエン酸緩衝溶液(citric buffer)で洗浄した後、NTG(N-Methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)を最終濃度200mg/Lになるように添加した後、20分間処理し、100mMリン酸緩衝溶液(phosphate buffer)で洗浄した。NTGが処理された菌株を最小培地に塗抹して死滅率を求めたところ、死滅率は85%であり、生存した細胞を種培地に接種培養、最終的に優れたイソロイシン生産能を示す変異株を選別してコリネバクテリウム・グルタミカム CJILE-42(Corynebacterium glutamicum、CJILE‐42)と命名した。
【0095】
実施例1で使用した培地の組成は下記の通りである。
【0096】
<活性化培地>
牛肉抽出物1%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.5%、酵母抽出物1%、寒天2%、pH7.2
【0097】
<種培地>
グルコース5%、バクトペプトン1%、塩化ナトリウム0.25%、酵母抽出物1%、尿素0.4%、pH7.2
【0098】
<最小培地>
グルコース1.0%、硫酸アンモニウム0.4%、硫酸マグネシウム0.04%、リン酸第1カリウム0.1%、尿素0.1%、チアミン0.001%、ビオチン200μg/L、寒天2%、pH7.2
【0099】
実施例2:L-イソロイシン生産用ランダム突然変異株のL-イソロイシン生産性調査
【0100】
前記実施例1で得られた変異株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJILE-42のL-イソロイシン生産性を確認するために、下記の方法で培養した。生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに親菌株及び前記変異株を接種した後、32℃で60時間、200rpmで振とう培養してL-イソロイシンを製造した。
【0101】
本実施例2で用いた生産培地の組成は下記の通りである。
【0102】
<生産培地>
グルコース10%、酵母抽出物0.2%、硫酸アンモニウム1.6%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水塩0.1%、硫酸鉄7 水塩 10mg/L、硫酸マンガン1水塩10mg/L、ビオチン200μg/L 、pH7.2
【0103】
培養終了後、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)を用いてL-イソロイシンの生産量を測定し、実験した各菌株に対する培養液中のL-イソロイシン濃度を下記表1に示す。
【0104】
【表1】
その結果、前記表1に示すように、親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032hom(R407H)ilvA(F383A)は0.2g/Lの濃度でL-イソロイシンを生産したが、本出願における変異株コリネバクテリウム・グルタミカムCJILE-42は1.8g/Lの濃度でL-イソロイシンを生産し、親菌株に比べて約9倍以上L-イソロイシン生産性が増加したことを確認した。
【0105】
前記の結果に基づいてL-トレオニンからL-イソロイシンが合成される経路にある遺伝子をゲノムシークエンシングした結果、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を示すilvBNのilvB遺伝子でランダム変位が確認され、変異型ilvB遺伝子を配列番号2で示した。
【0106】
前記の結果でランダム突然変異法により得られた変異株は結果的にフィードバック阻害を受けず、L-イソロイシンを高効率及び高収率で生産できることを確認した。
【0107】
実施例3:アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を比較するためのilvBNC欠損株の製作
【0108】
アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を有する変異型ilvBの活性を評価するために、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性がなくてピルビン酸(pyruvate)と2-ケト酪酸(2-ketobutyrate)を基質として2-アセト-2-ヒドロキシアセテート(2-aceto-2-hydroxyacetate)に転換不可能なilvBNCが欠損された菌株を製作した。ilvBの活性を測定するものであるが、コリネバクテリウム・グルタミカムは、ilvB、ilvC、ilvN遺伝子がオペロンに互いに隣接しているため、3つの遺伝子の発現が統一的に調節される。したがって、ilvBNC遺伝子を欠損するためにWT由来のilvBNC遺伝子の塩基配列情報に基づいてilvBNC遺伝子の5’上端部位を増幅するためのプライマー対(配列番号3及び4)、及び3’下端部位を増幅するためのプライマー対(配列番号5及び6)を考案した。配列番号3及び6のプライマーは、各末端にXbaI制限酵素部位(下線で示す)を挿入した。各配列を下記表2に示した。
【0109】
【表2】
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032hom(R407H)ilvA(F383A)の染色体を鋳型として、配列番号3及び配列番号4、配列番号5及び配列番号6のプライマーを用いてPCRを行った。重合酵素はSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼ(SolGent co.,Ltd.)を用い、PCR条件は、95℃で10分間変性した後、95℃ 変性、56℃ アニーリング、72℃で45秒重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。その結果、ilvBNC遺伝子の5’上端部位500bpのDNA断片と3’下端部位500bpのDNA断片を収得した。
【0110】
増幅された2つのDNA断片を鋳型として、配列番号3及び配列番号6のプライマーでPCRを行った。重合酵素はSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼ(SolGent co.,Ltd.)を用い、PCR条件は、95℃で10分間変性した後、95℃ 変性、56℃ アニーリング、72℃で1分重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。その結果、ilvBNC遺伝子が欠損され、上端と下端のみを含む1006bpのDNA断片が増幅された。
【0111】
pDZベクターと1006bpのDNA断片を制限酵素XbaIで処理した後、DNAコンジュゲート酵素を用いて連結した後、クローニングすることによりプラスミドを獲得し、これをpDZ-ΔilvBNCと命名した。
【0112】
pDZ-△ilvBNCベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032 hom(R407H) ilvA(F383A)菌株に電気パルス法で導入した後、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含む選別培地で形質転換菌株を獲得した。二次組換え過程(cross-over)で染色体上に挿入されたDNA断片によりilvBNC遺伝子が欠損した菌株であるWTΔilvBNCを獲得した。
【0113】
実施例4:アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を有する野生型ilvBNCプラスミドの製作
【0114】
アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)(ilvBNC)をコードする遺伝子を増幅するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032 hom(R407H)ilvA(F383A)由来の配列(配列番号7)に基づいて、プロモーター部位(開始コドン上端約300bp)からターミネーター部位(終止コドン下端約100bp)まで増幅するためのプライマー(配列番号8及び9)の両末端にBamHI(下線で示す)制限酵素部位を挿入して考案した。当該の配列を以下の表3に示した。
【0115】
【表3】
重合酵素はSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼ(SolGent co.,Ltd.)を用い、PCR増幅条件は、95℃で10分間変性した後、95℃で30秒変性、56℃で30秒アニーリング、72℃で4分重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。その結果、ilvBNC遺伝子のコード部位4010bpのDNA断片を収得した。pECCG117(特許文献10)ベクターとilvBN DNA断片を制限酵素BamHIで処理し、DNAコンジュゲート酵素を用いて連結した後、クローニングすることによりプラスミドを獲得し、これをpECCG117-ilvBNC WTと命名した。
【0116】
実施例5:アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を有する変異型ilvBNCプラスミドの製作
【0117】
L-イソロイシンを過量生産する変異型ilvBの活性を比較するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032 hom(R407H) ilvA(F383A)由来のアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid syntha、AHAS)(配列番号7)をコードするilvB遺伝子を対象に変異導入ベクターを製作するために、変異位置を中心に5’上端部位を増幅するためのプライマー対(配列番号8及び10)と、3’下端部位を増幅するためのプライマー対(配列番号11及び9)を考案した。配列番号8及び9のプライマーは各末端にBamHI制限酵素部位(下線で示す)を挿入し、配列番号10及び11のプライマーは互いに交差するように考案した部位にヌクレオチド置換変異(下線で示す)が位置するようにした。
【0118】
【表4】
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032hom(R407H)ilvA(F383A)の染色体を鋳型とし、配列番号8及び配列番号10、配列番号11及び配列番号9のプライマーを用いてPCRを行った。重合酵素はSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼ(SolGent co.,Ltd.)を用い、PCR条件は、95℃で10分間変性した後、95℃で30秒変性、56℃で30秒アニーリング、72℃で3分重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。その結果、ilvB遺伝子の変異を中心に、5’上端部位の712bp DNA断片と3’下端部位の3310bpDNA断片を収得した。
【0119】
増幅した2つのDNA断片を鋳型として、配列番号8及び配列番号9のプライマーでPCRを行った。 PCR条件は、95℃で10分間変性した後、95℃で30秒変性、56℃で30秒アニーリング、72℃で4分重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。
【0120】
その結果、136番目のグルタミンがアスパラギンに置換されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)変異体(配列番号12)をコードするilvB遺伝子の変異(配列番号2)を含む4010bpのDNA断片端が増幅された。
【0121】
pECCG117(特許文献10)ベクターとilvBN DNA断片を制限酵素BamHIで処理し、DNAコンジュゲート酵素を用いて連結した後、クローニングすることによりプラスミドを獲得し、これをpECCG117-ilvB(Q136N)NCと命名した。
【0122】
実施例6:アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を有する野生型及び変異型ilvBの活性比較実験
【0123】
前記の実施例4及び5で製作したpECCG117-ilvBNC WT、pECCG117-ilvB(Q136N)NCベクターを実施例3で製作したWT△ilvBNC菌株に電気パルス法で導入した後、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した選択培地に塗抹し、それぞれの形質転換株を獲得した。
【0124】
前記に製作された菌株のL-イソロイシン生産能を比較するため、以下のような方法で培養し、培養液中のL-イソロイシン濃度を分析した。
【0125】
下記の培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに菌株を1白金耳を接種し、32℃で50時間、200rpmで振とう培養した。HPLCを用いてL-イソロイシン濃度を分析し、分析した濃度は表5のようであった。
【0126】
<培地組成(pH 7.0)>
グルコース100g、(NH4)2SO4 40g、 大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids)5g、尿素3g、KH2PO4 1g、MgSO4・7H2O 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド3000μg、CaCO3 30g( 蒸留水1リットルあたり)。
【0127】
【表5】
前記表5を参照すると、対照群ilvBNC WTプラスミドが導入された菌株対比、ilvB(Q136N)変異プラスミドが導入された菌株の場合、L-イソロイシンを13倍以上生産することを確認した。すなわち、前記変異が導入された菌株は結果としてアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)の活性が良くなり、L-イソロイシンを高効率及び高収率で生産できることが確認できた。前記変異Q136Nが導入された菌株をCA10-3106と命名した。前記CA10-3106はブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センターに2018年12月3日付で寄託し、受託番号KCCM12415Pを付与された。
【0128】
KCCM11248P株は、コリネバクテリウム・グルタミカムKFCC 11040(Corynebacterium glutamicum KFCC 11040、特許文献11)にL-トレオニン誘導体であるα-アミノ-β-ヒドロキシノルバリン(α-amino-β-hydroxynorvaline)とL-イソロイシン誘導体である4-チアイソロイシン(4‐thiaisoleucine)及びイソロイシン-ヒドロキサメート(isoleucine‐hydroxamate)の共通耐性を示す変異株(Corynebacterium glutamicum KCJI-38、KCCM11248P、特許文献12)であって、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032 hom(R407H) ilvA(F383A)より高い収率でL-イソロイシンを生産することが確認された。
【0129】
より多量のL-イソロイシンを生産する菌株におけるilvB変異体の効果を確認するため、前記実施例3と同様の方法でKCCM11248PΔilvBNC菌株を製作した。また、前記の実施例4及び5で製作したpECCG117-ilvBNC WT、pECCG117-ilvB(Q136N)NCベクターをイソロイシン生産能が増大した菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCJI-38(KCCM11248P)に電気パルス法で導入した後、カナマイシン25mg/Lを含む選別培地に塗抹し、それぞれの形質転換株を獲得した。
【0130】
前記製作した菌株のL-イソロイシン生産能を比較するため、実施例6と同様の方法で培養して、培養液中のL-イソロイシン濃度を分析し、分析した濃度は表6の通りである。
【0131】
【表6】
前記表6を参照すると、対照群ilvBNC WTプラスミドが導入された菌株に比べてilvB(Q136N)変異プラスミドが導入された菌株の場合、L-イソロイシンを約6倍高く生産することを確認した。すなわち、前記変異が導入された菌株は結果的にアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)の活性が良くなり、L-イソロイシンを高効率及び高収率で生産できることを確認した。
【0132】
実施例7:アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を有する変異型ilvBNCプラスミドの製作
【0133】
前記実施例6を通して、L-イソロイシン生産能の高いilvB変異位置である136番目の位置が生産能増加に重要な位置であることを確認するために、他のアミノ酸が置換された変異型を製作してその効果を確認した。ilvBの136番目のアミノ酸位置に他のアミノ酸が置換された17種をさらに製作し、実施例4で製作したプラスミドを鋳型として用いた。それぞれの変異型、置換されたアミノ酸及び各変異型に用いられたプライマー配列番号を以下の表7に示す。
【0134】
【表7】
具体的には、前記表7に示したプライマーを用いてPCRを行った。重合酵素はSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼ(SolGent co.,Ltd.)を用い、PCR条件は、95℃で10分間変性した後、95℃で30秒変性、56℃で30秒アニーリング、72℃で3分重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。その結果、ilvB遺伝子の変異を中心に、5’上端部位の712bp DNA断片と3’下端部位の3310bp DNA断片を収得した。
【0135】
増幅した2つのDNA断片を鋳型として、配列番号8及び配列番号9のプライマーでPCRを行った。PCR条件は、95℃で10分間変性した後、95℃で30秒変性、56℃で30秒アニーリング、72℃で4分重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。その結果、136番目のグルタミンが表7の各アミノ酸に置換されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)変異体をコードするilvB遺伝子の変異を含む4010bpのDNA断片が増幅された。pECCG117(特許文献10)ベクターとPCRにより収得した4010bpのilvBNC DNA断片を制限酵素BamHIで処理し、DNAコンジュゲート酵素を用いて連結した後、クローニングすることによりプラスミドを獲得した。これにより、136番目のグルタミンが表7に示されたアミノ酸に置換された17種のilvB変異ベクターが製作され、表8のように命名した。
【0136】
【表8】
実施例8:アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase、AHAS)活性を有する変異型ilvBのL-イソロイシン生産能の評価
【0137】
実施例7で製作した変異プラスミド17種を実施例3で製作したWT△ilvBNC菌株に電気パルス法で導入した後、カナマイシン25mg/Lを含む選別培地に塗抹し、各々の形質転換株を獲得した。その後、実施例6と同様の方法でフラスコ評価を行った。その結果を下記表9の通りである。
【0138】
【表9】
前記表9に示されたように、ilvBの136番目のアミノ酸は変異された変異体を含む全ての変異株において、それぞれ野生型より高いレベルでL-イソロイシンを生成することを確認した。このような結果でilvBの136番目の位置は他のアミノ酸に置換された場合、L-イソロイシンの生産能を増加させる重要な位置であることを確認した。
【0139】
前記結果を見ると、本出願の変異体がL-イソロイシンの生産を増加させることを確認した。
【0140】
以上の説明から、本出願が属する技術分野の当業者は、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。本出願の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
寄託機関名:韓国微生物保存センター
受託番号:KCCM12415P
受託日:20181203
【配列表】