(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】エアバッグ用多層複合体
(51)【国際特許分類】
B60R 21/235 20060101AFI20240410BHJP
B60R 21/232 20110101ALI20240410BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B60R21/235
B60R21/232
B32B5/02 Z
(21)【出願番号】P 2022579631
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004551
(87)【国際公開番号】W WO2022168961
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2021017390
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英毅
(72)【発明者】
【氏名】伊東 己行
(72)【発明者】
【氏名】壁谷 拓海
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-123296(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157733(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/157725(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203858(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203835(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/067141(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0203732(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0060104(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/235
B60R 21/232
B32B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、外層及び前記基布の一表面に接合した接着層を含む多層フィルムと、からなるエアバッグ用多層複合体であって、
前記エアバッグ用多層複合体の前記基布側表面の界面展開面積比Sdr2に対する、前記エアバッグ用多層複合体の前記多層フィルム側表面の界面展開面積比Sdr1の割合(Sdr1/Sdr2)が0.986~1.1であることを特徴とする、エアバッグ用多層複合体。
【請求項2】
前記多層フィルムの厚さが10~30μmである、請求項1に記載のエアバッグ用多層複合体。
【請求項3】
前記多層フィルムと前記基布との間の複合体の空隙長さが6μm以下である、請求項1又は2に記載のエアバッグ用多層複合体。
【請求項4】
基布と、外層及び接着層を含む多層フィルムとを、前記基布の一方の表面上に前記接着層を重ねて加熱ラミネート加工する熱ラミ工程、
熱ラミ工程後に再度加熱する後加熱工程、
を含むことを特徴とする、エアバッグ用多層複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエアバッグ用多層複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグの代表的な用途には車載用途がある。この用途では、衝突時にインフレータが瞬時に作動し、折り畳まれた状態のエアバッグを膨張させ、乗員の運動エネルギーを吸収することで重症化を防ぐことができる。近年、車輛の安全規制や安全意識の高まりからエアバッグを搭載する車輛が増えている。
【0003】
この車輛用エアバッグには、正面衝突を想定したフロントエアバッグをはじめ、側面衝突や横転を想定したサイドエアバッグ及びサイドカーテンエアバッグ、更には歩行者を保護するための車外エアバッグ等、様々な種類がある。これらのエアバッグに求められる性能としては、狭いスペースにコンパクトに収納するための柔軟性、膨張時の圧力に耐えうる強度特性、収納時、膨張時の摩擦に耐える耐スクラブ性、膨張を一定時間保持するための気密性等が挙げられる。特にサイドカーテンエアバッグに関しては、側面衝突とそれに伴う車輛の横転から乗員を守るため、フロントエアバッグよりも長時間膨張を維持する必要があり、より高い気密性が求められている。
【0004】
エアバッグを構成する素材としては、合成繊維織物(本明細書において「基布」とも言う)を支持層として、その表面には気密性を持たせるため、バリア性素材が被覆される。このバリア性素材には、シリコーンゴム(コーティング方式)や多層フィルム(熱ラミネート方式)が要求特性に応じて使用されている。
【0005】
上記熱ラミネートに用いる多層フィルムは、基布と接着する層を接着層、接着層に対し反対側に位置する側の層を外層とし、融点、ガラス転移点の異なる樹脂を用いてそれぞれの層が形成される。
上記多層フィルムとして、特許文献1には、高融点の樹脂層と低融点の樹脂層からなる多層フィルムに関する技術が開示されている。これによれば、基布と接着する低融点の樹脂層には、85~105℃の融点を有する変性ポリオレフィンを用いることが記載されている。また、特許文献2には、ガラス転移温度が異なる樹脂層よりなる多層フィルムに関する技術が開示されている。これによれば、基布と接着する第一の樹脂層にガラス転移温度が-10℃以下の共重合ポリアミド、共重合ポリエステル、ポリアミドエラストマーを用いることが記載されている。また、特許文献3には、接着層をガラス転移温度と融点とが特定範囲の樹脂を含む接着層とし、外層を接着層に含まれる上記樹脂よりも融点が20℃高い樹脂を含む層とした多層フィルムに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4965757号公報
【文献】欧州特許出願公開第1518761号明細書
【文献】国際公開第2020/032032号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、基布と接着する接着層に変性ポリオレフィンを用いるため、ポリアミド繊維やポリエステル繊維よりなる基布との親和性が乏しく、接着強度が十分とはいえなかった。また、接着強度が不足することで、エアバッグが膨張した際、基布から多層フィルムが剥離し、十分な機能を果たせなくなる恐れがあった。
【0008】
また、特許文献2のバリア性素材は、ガラス転移温度が-10℃以下の共重合ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーのいずれかを接着層に用いることで、柔軟性、接着性には優れるものの、分子構造的な立体規則性が乏しいために結晶性が低く、その結果、ブロッキング(融着)が起こり易いと言った欠点を有していた。このため、例えば、バリア性素材の生産方法に、生産性に優れたインフレーション法(
図3)を採用した場合には、ブローアップ後のピンチロール部でブロッキングが発生し、その後の剥離工程において二枚重ねのフィルムを単独で引き剥がすことが困難となり、フィルム破断や剥離位置の変動によるシワや巻ズレが発生し、安定的に生産することが困難であった。また、ブロッキングが起こり易いフィルムを巻いた製品では、巻張力や保管中の温湿度条件等により、ブロッキングが発生し、フィルムを引き出すことができなくなると言った保存性にも問題があった。
特許文献3の多層フィルムは、ブロッキング性は解決するものの、十分な接着強度を得るためには、ラミネート時の圧力に高圧を必要とする等、設備が高額となる問題があり、又は低圧でラミネートする場合には、長時間加熱を必要とする低速ラミネートが必要となり、生産性に劣る等の問題点があった。また、耐スクラブ性と柔軟性(収納性)の両立に問題があった。
【0009】
本発明は、耐スクラブ性と柔軟性の双方を両立させたエアバッグ用多層複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
基布と、外層及び前記基布の一表面に接合した接着層を含む多層フィルムと、からなるエアバッグ用多層複合体であって、
前記エアバッグ用多層複合体の前記基布側表面の界面展開面積比Sdr2に対する、前記エアバッグ用多層複合体の前記多層フィルム側表面の界面展開面積比Sdr1の割合(Sdr1/Sdr2)が0.986~1.1であることを特徴とする、エアバッグ用多層複合体。
[2]
前記多層フィルムの厚さが10~30μmである、[1]に記載のエアバッグ用多層複合体。
[3]
前記多層フィルムと前記基布との間の空隙長さが6μm以下である、[1]又は[2]に記載のエアバッグ用多層複合体。
[4]
基布と、外層及び接着層を含む多層フィルムとを、前記基布の一方の表面上に前記接着層を重ねて加熱ラミネート加工する熱ラミ工程、
熱ラミ工程後に再度加熱する後加熱工程、
を含むことを特徴とする、エアバッグ用多層複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐スクラブ性と柔軟性の双方を両立させたエアバッグ用多層複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のエアバッグ用多層複合体の一例を示す断面図である。(a)は断面の写真であり、(b)は断面の模式図である。
【
図2】本実施形態のエアバッグ用多層複合体の一例の基布と多層フィルムとの接合部を拡大した模式図である。
【
図4】本実施形態のエアバッグ用多層複合体の製造方法の一例を示す概略図である。
【
図5】ループスティフネス試験を示す概略図である。
【
図6】複合体の空隙長さを測定する際の切断面を説明する概略図である。A-A’断面は切断面に径糸、緯糸を共に含むように切断した断面で、B-B’断面は切断面に径糸のみを含むように切断した断面である。他の織り方(綾織等)の繊維であっても、上記の定義で切断した断面をA-A’断面、B-B’断面と定義する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明が実施するための形態の詳細を説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及び均等の範囲を逸脱しない範囲で任意に変更可能である。
【0014】
[エアバッグ用多層複合体]
本実施形態のエアバッグ用多層複合体は、基布と、外層及び上記基布の一表面に接合した接着層を含む多層フィルムと、のみからなる複合体である。
本実施形態のエアバッグ用多層複合体は、上記エアバッグ用多層複合体の上記基布側表面の界面展開面積比Sdr2に対する、上記エアバッグ用多層複合体の上記多層フィルム側表面の界面展開面積比Sdr1の割合(Sdr1/Sdr2)が0.986以上である。
【0015】
本明細書において、本実施形態のエアバッグ用多層複合体を、単に「複合体」と称する場合がある。
また、上記多層フィルムは、少なくとも二つの層より構成され、その内、上記基布と接着する層(即ち、基布側の表面を含む層)が接着層であり、エアバッグ用多層複合体の外側に露出する複合体表面を含む層が外層である。
以下の本実施形態の多層フィルムについて説明する。
【0016】
(多層フィルム)
上記多層フィルムは、接着層と外層とが積層した接着層/外層の2層構成であってもよいし、接着層/中間層/外層の3層構成、接着層/Glue層/中間層/Glue層/外層の5層構成であってもよい。また、上記以外の他の層をさらに含んでいてもよい。なお、上記接着層および上記外層は、上記多層フィルムの両表面の表層であることが好ましい。
上記多層フィルムは、さらに、ブロッキング性が抑制されることから保存性にも優れると共に、基布との接着性にも優れていることが好ましく、このような多層フィルムを用いることにより、一層品質が安定した信頼性の高いエアバッグ用多層複合体を得ることができる。
【0017】
-接着層-
結晶性樹脂のブロッキング性は、結晶性(結晶化度、結晶化速度)が支配的であることが知られていたが、ガラス転移温度によってもブロッキング性を抑制することができることが、本発明者らの先の検討で明らかとなっている。さらに、接着層にガラス転移温度と融点とが特定の範囲である樹脂を用いることにより、耐ブロッキング性と接着性のバランスがより優れたエアバッグ用多層フィルムが得られることを先の検討で明らかにしている。
【0018】
上記接着層は、ガラス転移温度が-80~80℃であり、融点が100~160℃の樹脂(本明細書において、「樹脂A」と称する場合がある)を含むことが好ましい。上記接着層は、上記樹脂A以外に、他の樹脂(本明細書において、「樹脂B」と称する場合がある)を含んでいてもよい。上記樹脂A及び上記樹脂Bは、1種であってもよいし、複数種であってもよい。
上記接着層は、樹脂Aのみから構成されていてもよいし、さらに上記樹脂B、後述の添加剤を含んでいてもよし、樹脂Aと樹脂Bと添加剤とのみから構成されていてもよいし、樹脂Aと添加剤とのみから構成されていてもよい。
【0019】
上記樹脂Aのガラス転移温度は、-80~80℃であることが好ましく、より好ましくは0~80℃、さらに好ましくは10~70℃、特に好ましくは20~60℃である。ガラス転移温度の範囲は、耐ブロッキング性と融点の観点より定められる範囲であり、ガラス転移温度が0℃以上では、耐ブロッキング性が一層抑制され、ガラス転移温度を80℃以内にすることで後述する融点を適切な範囲にすることができる。
なお、上記ガラス転移温度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
樹脂Aが複数種である場合、各樹脂Aのガラス転移温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
上記樹脂Aの融点は、100~160℃であることが好ましく、より好ましくは110~150℃、さらに好ましくは120~140℃である。融点を100℃以上にすることで高温の使用環境下でも基布との接着強度が維持できると共に、ラミネート加工時の温度、圧力、時間等の条件の範囲(プロセスウィンドウとも言う)を広くすることができ、品質の安定した多層フィルムが得られる。一方、160℃以下にすることで、適度な柔軟性が得られる。
なお、上記融点は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
樹脂Aが複数種含まれる場合、各樹脂Aの融点は同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、樹脂Aが複数種含まれ、複数の融解ピークがある場合、樹脂Aの高温側の融解ピーク温度が、100~160℃であることが好ましく、より好ましくは110~150℃、さらに好ましくは120~140℃である。
【0021】
上記樹脂A及び樹脂Bは、単独樹脂又は複数の樹脂をブレンドした混合物でもよい。
上記樹脂Aとしては、使用環境での温湿度変化に対し、柔軟性、接着性などの特性変化が小さい点で、ポリアミド系樹脂が好ましい。中でも上記ポリアミド系樹脂としては、共重合ポリアミド(a-1)、ダイマー酸系ポリアミド(a-2)、熱可塑性ポリアミドエラストマー(a-3)が好ましく、柔軟性、接着性、コストの観点から、共重合ポリアミド(a-1)がより好ましい。
【0022】
上記共重合ポリアミド(a-1)としては、脂肪族系ポリアミドを構成するモノマー成分として知られるモノマー成分(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12を構成するモノマー成分)を2種以上用いて共重合した共重合ポリアミドが挙げられ、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12、ポリアミド6/11、ポリアミド6/66/11等が挙げられる。
上記ダイマー酸系ポリアミド(a-2)としては、天然植物油の脂肪酸(炭素数18の不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、リノール酸等))を2量化した原料を用いたものが挙げられる。
上記熱可塑性ポリアミドエラストマー(a-3)としては、ソフトセグメント(非晶相)にポリエーテル、ハードセグメント(結晶相)にポリアミド成分を含む熱可塑性ポリアミドエラストマー(ダイマー酸系熱可塑性ポリアミドエラストマーも含む)が挙げられる。
中でも、柔軟性及び接着性に特に優れる観点から、ポリアミド6/12が好ましい。
【0023】
上記接着層は、上記樹脂A以外に上記樹脂Bを含む混合樹脂層であっても良い。この場合に用いる樹脂Bは、好ましくは酸変性ポリオレフィン、アイオノマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー等が挙げられる。低温環境下での柔軟性、接着性の観点より、ガラス転移温度が0℃未満であり、融点が80~160℃の範囲であることが好ましい。
【0024】
上記接着層は、アンチブロッキング剤、滑剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、充填剤等の各種添加剤を、接着性等の実用特性を損なわない範囲で適宜含んでいてよい。中でも、接着層の耐ブロッキング性が一層向上する観点から、アンチブロッキング剤、結晶核剤、及び/又は滑剤を含むことが好ましく、アンチブロッキング剤及び/又は結晶核剤を含むことがより好ましく、アンチブロッキング剤及び結晶核剤を含むことがさらに好ましい。
【0025】
上記アンチブロッキング剤としては、架橋ポリスチレン、架橋アクリル(PMMA)樹脂、フッ素(PTFE)粒子等の有機系粒子やシリカ系粒子、カオリン、炭酸カルシウム等の無機系粒子等が挙げられる。
上記結晶核剤としては、タルク、アルミナ、カオリン、高融点ポリアミド(例えば、融点が160℃超のポリアミド)等が挙げられる。
上記滑剤としては、脂肪族系アマイド、金属石鹸等が挙げられる。
【0026】
上記接着層の平均厚さは、接着強度及び柔軟性の観点から、0.5~20μmであることが好ましくより好ましく1~15μm、さらに好ましくは2~10μmである。
【0027】
-外層-
上記外層は、樹脂を含むことが好ましく、樹脂のみからなることがより好ましい。
上記外層に用いられる上記樹脂は、上記樹脂Aの融点よりも融点が高い樹脂であることが好ましい。また、外層に用いられる樹脂は、上記接着層の融点よりも融点が高い樹脂であることが好ましい。
上記外層に用いられる上記樹脂の融点は、上記樹脂Aの融点よりも20℃以上高いことが好ましく、25℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことがさらに好ましい。上記外層に用いられる上記樹脂の融点は、基布とのラミネート工程で使用する加熱ロールへの融着(貼り付き)のしやすさにより定められ、樹脂Aの融点よりも20℃以上高い融点の樹脂を用いることで熱ロールへの融着が起こり難く、安定したラミネートが達成できる。
上記外層に用いられる上記樹脂の融点は、150~240℃であることが好ましく、より好ましくは160~230℃、さらに好ましくは170~220℃である。融点が150℃以上であることにより、熱ラミ加工時等においてロールへの融着が抑制され、ピンホールが抑制される。
なお、接着層中に樹脂Aが複数種含まれる場合、及び/又は外層中に樹脂が複数種含まれる場合、混合樹脂の上記融点とは層中に含まれる混合樹脂に帰属する融解ピーク温度の内、最も高温側に現れる融解ピーク温度として良い。
【0028】
上記外層に用いられる上記樹脂のガラス転移温度は、柔軟性の観点から、80℃以下であることが好ましく、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0029】
外層に用いられる上記樹脂としては、気密性、耐摩耗性、柔軟性、強度、デッドフォールド性(折り畳まれた時に発生する応力への耐性を意味する)、難燃性、滑り性等の特性に優れる外層が得られる観点から、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。
上記ポリアミド系樹脂としては、上記接着層に含まれる樹脂Aとして例示したポリアミド系樹脂(a-1、a-2、a-3)が挙げられ、単独又は複数をブレンドした組成物が好適に使用できる。
上記ポリエステル系樹脂としては、熱可塑性ポリエステルエラストマーが好ましく、例えばソフトセグメントにポリエーテル成分を用いたタイプ(ポリエーテル-ポリエステル型)、ソフトセグメントにポリエステル成分を用いたタイプ(ポリエステル-ポリエステル型)等が挙げられる。
【0030】
上記多層フィルムの接着層、外層等の各層において、各層中に含まれる成分を特定する方法の例としては、赤外分析法、NMR法により特定する方法等が挙げられる。また、融点、結晶化温度を求める他の方法として、多層フィルムが接着層と外層よりなる2種2層フィルムの場合は、直接、多層フィルムを所望の大きさにサンプリングし、上述の融点の測定方法に従い、求めることもできる。多層フィルムが接着層と外層との間に中間層を有する3種3層以上の多層フィルムの場合、接着層のみ抽出可能な溶媒(ヘキサフルオロ-2-プロパノール等)に浸漬し、得られた溶液をエバボレータにて溶媒と固形分を分離し、固形分を上述の融点の測定方法に従い、求めることもできる。
【0031】
上記外層の平均厚さは、耐久性、柔軟性、熱ラミ加工時のピンホール抑制の観点から、0.5~20μmであることが好ましくより好ましく1~15μm、さらに好ましくは2~10μmである。
【0032】
-中間層-
上記中間層としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン共重合樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、酸変性ポリオレフィン系エラストマー等を単独又は複数をブレンドした組成物からなる層が挙げられ、柔軟性の観点より、酸変性ポリオレフィン系樹脂(好ましくは酸変性ポリエチレン)、ポリオレフィン共重合樹脂又は/及びポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを含むことが好ましく、酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン共重合樹脂又は/及びポリオレフィン系熱可塑性エラストマーのみからなることがより好ましく、酸変性ポリオレフィン系樹脂のみからなることがさらに好ましい。
【0033】
上記中間層の平均厚さは、柔軟性、機械的強度の観点から、1~30μmであることが好ましくより好ましく2~28μm、さらに好ましくは3~25μmである。
【0034】
-Glue層-
上記Glue層は、各層を接着させるための層であり、例えば、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン等の極性のある官能基を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂又は/及びポリオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる層等が挙げられ、使用される用途での耐熱性等に対する要求を勘案し、選定することが望ましい。
上記Glue層は、1種の樹脂のみからなる層であってもよいし、複数種の樹脂を含む層であってもよい。
【0035】
-特性-
以下、上記多層フィルムの特性について説明する。
【0036】
上記多層フィルムは、少なくとも2層のフィルムである。上記多層フィルムの総平均厚さは5~100μmであることが好ましく、より好ましくは10~80μm、さらに好ましくは15~40μmである。これらの範囲は、フィルム強度、耐スクラブ性、柔軟性とのバランスにより定められ、厚さ5μm以上では強度が良好となり、100μm以下では柔軟性が良好となり、40μm以下では耐スクラブ性と柔軟性のバランスに優れる。
【0037】
上記多層フィルムにおいて、上記接着層の平均厚さ(100%)に対する上記外層の平均厚さの割合は、柔軟性と耐スクラブ性とのバランスの観点から、20~500%であることが好ましく、より好ましくは50~400%である。
また、上記多層フィルムが、外層/Glue層/中間層/Glue層/接着層の5層構成である場合、上記接着層の平均厚さ(100%)に対する上記各層の平均厚さの割合としては、Glue層は10~500%であることが好ましく、中間層は50~10000%であることが好ましく、外層は10~5000%であることが好ましい。
【0038】
多層フィルムが、基布に対して高い接着性を発現するためには、基布を構成する単糸との化学的な結合(例えば水素結合)と接触面積が広いことが好ましい。この化学的な結合による接着強度は、接触面積が少なければ、エアバッグ用多層複合体が展開する時に生じる内圧に耐えられず、エアバッグに求められる機能を十分発揮できなくなる可能性がある。
上記多層フィルムと上記基布との十分な接着強度を得る観点から、多層フィルムの平均厚さ100%に対して、上記接着層の厚さ割合の下限は、1%であることが好ましく、より好ましくは5%、更に好ましくは10%である。また、接着層の厚さ割合の上限は、柔軟性の観点より、50%であることが好ましく、より好ましくは40%、更に好ましくは30%である。
また、多層フィルムの平均厚さ100%に対して、上記外層の厚さ割合の下限は、5%であることが好ましく、より好ましくは10%、更に好ましくは20%である。また、外層の厚さ割合の上限は、柔軟性の観点から、50%であることが好ましく、より好ましくは40%、更に好ましくは30%である。
【0039】
-製造方法-
上記多層フィルムの製造方法としては、例えば、多層サーキュラーダイで各層を含む溶融樹脂を共押し出しし、インフレーション法により製造する方法、Tダイから溶融樹脂を共押し出しし、キャストロールでフィルムを冷却固化するTダイ法等が挙げられる。中でもインフレーション成形は、生産性に優れる事から好ましく使用できる。
インフレーション法を使用した場合、ダイ温度としては、170~280℃が挙げられる。また、サーキュラーダイのリップ外形としては50~500mm、リップクリアランスとしては0.5~10mmが挙げられる。また、ブローアップ比としては1~10倍、エアリング温度としては-30~50℃、サーキュラーダイとピンチロール間の距離としては1~100m、引取速度としては1~200m/分が挙げられる。
【0040】
(基布)
上記基布は、エアバッグ用多層複合体における多層フィルムを支持する支持体であり、エアバッグが展開したときに特定の三次構造を維持させる。
上記基布は、インフレ-ターからの高温ガスに耐えうる耐熱性、展開性、急速膨張又は衝撃に耐えうる強度、気密性及び収納性等が要求されるため、合成繊維から形成されていることが好ましく、合成繊維織物(例えば、合成繊維のみからなる織物)であることが好ましい。
上記基布の総量(100質量%)に対する合成繊維の質量割合は、20質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50~100質量%である。
【0041】
上記基布又は上記合成繊維織物を構成する合成繊維としては、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン系繊維、含塩素系繊維、含フッ素系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリサルフォン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン系繊維(PEEK)、全芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール系繊維(PBO)、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維、炭化珪素系繊維、アルミナ系繊維、ガラス系繊維、カーボン系繊維、スチール系繊維等が挙げられ、中でも、上記接着層に含まれる樹脂(好ましくは、上記接着層に最も多く含まれる樹脂)と水素結合能を有する繊維が好ましく、強度、比重、コスト、多層フィルムとの接着強度等の観点から、ポリアミド繊維又はポリエステル繊維がより好ましい。
【0042】
上記基布を構成する繊維の総繊度は、100~1000dtexであることが好ましく、より好ましくは210~570dtex、更に好ましくは330~490dtexである。総繊度を100dtex以上にすることにより、展開・膨張時の張力に耐えられることができる。総繊度を1000dtex以下にすることにより、織物が柔軟になり、収納性が向上し、高速展開も可能となる。
【0043】
上記基布を構成する単糸繊度は、0.5~8dtexであることが好ましく、より好ましくは1.5~3.7dtexである。単糸繊度を0.5dtex以上にすることにより、製織時の縦糸毛羽を抑制することができる。また、単糸繊度を8dtex以下にすることにより、柔軟性を有した織物とすることができる。
【0044】
上記基布の繊維密度は、多層フィルムと基布との接着面積が増える観点から、40~80本/2.54cmであることが好ましい。また、接着性とエアバッグ用多層複合体とした場合の引裂き強度に優れるにも優れる観点から、50~80本/2.54cmであることがより好ましい。
なお、上記繊密度は、JIS L 1096に準拠して測定される値である。
【0045】
上記基布のカバーファクター(CF)は、機械物性と硬さとの両立の観点から、1800~2400が好適であり、より好ましくは1900~2300であり、更に好ましくは1900~2200である。CFが1800以上であると、基布強度に優れる。一方、CFが2400以下のように、CFが小さいほど基布が柔らかくなる。また、CFが小さいほど織物目付が軽くなるので、2300以下が好ましい。
通常、CFが小さいほど織糸間に通気間隙が生じるが、ラミネート被覆を有することによって通気を抑制することができる。尚、CFは下記の数式(1)で表される。
CF=(0.9×d)1/2×(2×W) 数式(1)
(上記数式(1)中、dは構成糸の経緯平均の総繊度(dtex)であり、Wは経緯平均の織密度(本/2.54cm)である。)
【0046】
上記基布の平均厚さは、好ましくは0.15~0.45mm、より好ましくは0.17~0.40mm、更に好ましくは0.20~0.35mmである。基布の平均厚さが0.15mm以上であると、展開・膨張時の熱又は応力に耐えることができる。基布の平均厚さが0.40mm以下であると、収納性が向上する。なお、厚さはISO5084に準拠し、設定圧力1kPa、測定子φ10.5mmにおいて測定される値である。
【0047】
(複合体の特性)
本実施形態のエアバッグ用多層複合体の特性について説明する。
【0048】
本実施形態のエアバッグ用多層複合体は、上記エアバッグ用多層複合体の上記基布側表面の界面展開面積比Sdr2に対する、上記エアバッグ用多層複合体の上記多層フィルム側表面の界面展開面積比Sdr1の割合(Sdr1/Sdr2)が0.986~1.1であり、下限値は好ましくは0.988、より好ましくは0.990であり、上限値は好ましくは1.08、より好ましくは1.05である。Sdr1/Sdr2が上記範囲であることにより、収納時の摩耗や膨張時の摩擦に対する耐久性(耐スクラブ性)が向上し、また、多層フィルムと基布との剥離を一層抑制することができる。また、Sdr1/Sdr2は1超であってもよい。
熱ラミネートにより多層フィルムを基布と接着する際、基布の凹凸が原因でフィルムと基布との間に空隙が生じることがあるが、空隙が多い複合体の場合には上記エアバッグ用多層複合体の上記基布側表面の界面展開面積比Sdr2に対する、上記多層フィルム側表面の界面展開面積比Sdr1の割合(Sdr1/Sdr2)が0.986未満となる。逆にフィルムと基布との間の空隙を少なくすることで(Sdr1/Sdr2)を大きくすることが可能となる
この理由として、例えば空隙のあるフィルムを熱処理すると空隙が消失する際に、空隙部分に多層フィルムが引き込まれることで、熱処理後の多層フィルム表面側の凹凸が大きくなると考えられる。そのため、Sdr2に対してSdr1が大きくなる。
なお、界面展開面積比の割合(Sdr1/Sdr2)は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
エアバッグ用多層複合体の界面展開面積比の測定(データ処理)に用いる、カットオフ値(λcおよびλf)は基布の繊維密度の範囲が40~80(本/2.54cm)であれば、λc=200μ、λf=500μ)を用いるのが好ましい。
熱ラミネート後のSdr1/Sdr2が低い場合には後加熱処理を行うこと等で、Sdr1/Sdr2を高くすることができる。また、上述の好適な多層フィルムを用いたり、後述の製造条件で製造したりすること等により、Sdr1/Sdr2を上述の範囲に制御することができる。多層フィルムが薄いとSdr1/Sdr2を0.986以上にすることが容易になるため、多層フィルムの厚さは39μm以下であることが好ましく、10~30μmとすることがより好ましい。また、基布の総繊度が小さいほど、フィルムと繊維間の空隙が小さくなるため、Sdr1/Sdr2を大きくすることが出来るので好ましい。
【0049】
本実施形態の複合体において、多層フィルム側の表面に凹凸を付与する処理をすることで、Sdr1をSdr2より大きくすることも可能である。凹凸を付与する手段としては、多層フィルム表面に凹凸のある固体で押圧する等があげられる。
【0050】
本実施形態の複合体は、上記多層フィルムと上記基布との空隙が少ないほど好ましい。空隙が少ないと、接着強度に優れ、耐スクラブ性が向上する。(
図2)
上記多層フィルムと上記基布との間の複合体の空隙長さとしては、6μm以下であることが好ましく、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。なお、上記空隙長さは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
ラミネートを高温、高圧、長時間加熱を実施したり、後加熱処理をしたりすること等により、空隙を少なくすることができる。中でも、生産性の向上の観点から、低圧、短時間加熱でラミネートした後、複合体を後加熱処理することで、フィルムと基布間の空隙を減少させることが好ましい。
【0051】
本実施形態の複合体のスクラブ回数は、耐スクラブ性の観点から、1000~3000回であることが好ましく、より好ましくは1500~3000回である。
上記スクラブ回数は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。また、スクラブ回数は、上記Sdr1/Sdr2を上述の範囲としたり、上記多層フィルムと上記基布との間の空隙を上述の範囲としたりすることにより、上記範囲にすることができる。
【0052】
本実施形態の複合体のループスティフネスは、100~300mN/cmであることが好ましく、より好ましくは100~250mN/cmである。
「ループスティフネス」とは、フィルム等の膜体のサンプルをループ状に折り曲げて、ループの直径方向に所定量圧縮するために要する応力であり、当該ループスティフネスの値によって、複合体のコシの強弱を評価するものである。ループスティフネスは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。また、ループスティフネスは、上記Sdr1/Sdr2を上述の範囲としたり、上記多層フィルムと上記基布との間の空隙を上述の範囲としたりすることにより、上記範囲にすることができる。
【0053】
本実施形態の複合体において、多層フィルムと基布との接着強度が一層向上し、本実施形態の複合体の強度が一層向上する観点から、ラミネート後の複合体平均フィルム厚さは、ラミネート前の平均フィルム厚さよりも小さくなってもかまわない。平均フィルム厚さが小さくなる理由の1つに、ラミネート時にフィルムが溶融して基布の凹部の空隙を埋めたり、基布の繊維間に浸透することがあげられる。このとき
図6に示すA-A’断面の樹脂が溶融して、B-B’断面の空隙を埋めるように樹脂の移動が起こるため、フィルム厚さのばらつきは大きくなる。
上記複合体の平均フィルム厚さの測定方法は、A-A’断面及びB-B’断面それぞれ同数の厚さ方向断面において、厚さ方向に直交する方向100μm毎に、多層フィルムの厚さ値を測定する。この測定は、例えば、厚さ方向に直交する方向10mmで行い、100個の厚さ値を得てよい。そして得られた厚さ値(例えば、100個の厚さ値)の相加平均を複合体の平均フィルム厚さとする。
【0054】
(複合体の製造方法)
本実施形態のエアバッグ用多層複合体の製造方法について説明する。
【0055】
本実施形態のエアバッグ用多層複合体の製造方法としては、基布と、外層及び接着層を含む多層フィルムとを、上記基布の一方の表面上に上記接着層を重ねて加熱ラミネート加工する熱ラミ工程が好ましい。さらに、熱ラミ工程後に再度加熱する後加熱工程、を含むことがより好ましい。
【0056】
上記複合体の製造方法としては、多層フィルムと基布を重ね合わせ、加熱ロールを用い、Roll to Rollで連続的にラミネートするロール式熱ラミネート法、多層フィルムと基布を重ね合わせたのち、1対の加熱されたベルトの間に供給して加圧しながら加熱ラミネートするベルト式熱ラミネート法、減圧してラミネートする真空ラミネート法、熱プレスによるラミネート法等が挙げられる。
熱ラミネート時の加熱条件としては、接着層に含まれる樹脂(好ましくは、接着層に最も多く含まれる樹脂)の融点~融点+40℃の温度範囲で実施することが好ましい。
熱ラミネート時の加圧条件としては、ロール式:1~30N/cm、ベルト式、熱プレス式:1~20N/cm2であることが好ましく、より好ましくはロール式10~20N/cm、ベルト式、熱プレス式:5~20N/cm2である。
速度条件は、ロール式:0.1m/min~10m/min、ベルト式:0.1m/min~30m/minが好ましく、より好ましくは、ロール式:0.1m/min~5m/min、ベルト式:0.5m/min~10m/minである。
熱プレスの好ましい加熱時間は1秒~180秒でより好ましくは5秒~60秒、更に好ましくは10秒~60秒である。
【0057】
本実施形態のエアバッグ用多層複合体は、後加熱処理をしなくても製造することができる。
後加熱処理を行わない場合の例としてロール式ラミネートでは、圧力が10~20N/cmが好ましく、より好ましくは10~15N/cmであり、速度が0.1m/min~5m/minが好ましく、より好ましくは、0.1m/min~0.3m/minであり、温度が接着層に含まれる樹脂(好ましくは接着層に最も多く含まれる樹脂)の融点~融点+40℃であることが好ましく、より好ましくは融点+10℃~融点+40℃である。ベルト式ラミネート、熱プレスラミネートでは圧力が1~30N/cm2が好ましく、より好ましくは3~8N/cm2であり、加熱時間が1秒~90秒が好ましく、より好ましくは30秒~60秒であり、温度が接着層に含まれる樹脂(好ましくは接着層に最も多く含まれる樹脂)の融点~融点+40℃であることが好ましくより好ましくは融点+10℃~融点+40℃である。
【0058】
本実施形態の複合体は後加熱処理することが好ましい。後加熱処理により、Sdr1/Sdr2を高くし、フィルム-基布間の空隙を少なくすることができる。
上記後加熱処理の方法としては、複合体を連続的に熱ロールに接触させて処理する方法、連続的に熱風や赤外線ヒーターを用いて複合体に非接触で熱処理する方法等があげられる。
好ましい後加熱処理温度は、接着層が融解してより強固に基布に接着し、且つ基布と多層フィルムとの空隙を少なくする観点、及び外層は融解せずに多層フィルムの強度を保つことで、ピンホールを抑制する観点から、多層フィルムの接着層に含まれる樹脂(好ましくは接着層に最も多く含まれる樹脂)の融点以上外層に含まれる樹脂(好ましくは外層に最も多く含まれる樹脂)の融点未満が好ましい。例えば、上記後加熱処理温度は、外層に含まれる樹脂(好ましくは外層に最も多く含まれる樹脂)の融点未満であって、多層フィルムの接着層に含まれる樹脂(好ましくは接着層に最も多く含まれる樹脂)の融点+10℃以上であることが好ましい。
上記後加熱処理温度は、より好ましくは外層に含まれる樹脂(好ましくは外層に最も多く含まれる樹脂)の融点-40℃以上外層に含まれる樹脂(好ましくは外層に最も多く含まれる樹脂)の融点-10℃以下、更に好ましくは外層に含まれる樹脂(好ましくは外層に最も多く含まれる樹脂)樹脂の融点-30℃以上外層に含まれる樹脂(好ましくは外層に最も多く含まれる樹脂)樹脂の融点-10℃以下である。
また、上記後加熱処理温度は、上記熱ラミネート時の加熱温度よりも高いことが好ましく、より好ましくは上記熱ラミネート時の加熱温度+10℃以上、さらに好ましくは上記熱ラミネート時の加熱温度+20℃以上である。
【0059】
上記後加熱処理の時間としては、接着層に含まれる樹脂が融解でき、多層フィルムが長時間加熱されることで基布繊維中までフィルム樹脂が浸透することで、耐スクラブ性が低下したり、ループスティフネスが増加することを抑制する観点から、0.5~10分であることが好ましく、より好ましくは1~5分、さらに好ましくは2~4分である。
【0060】
(エアバッグ)
本実施形態のエアバッグ用多層複合体は、エアバッグとして用いることができる。上記エアバッグは、上記多層フィルムと合成繊維織物(基布)の複合体含むことが好ましい。上記エアバッグは、上記多層フィルムにおける上記接着層と、上記合成繊維織物とが積層していることが好ましい。
【0061】
上記エアバッグは、フロントエアバッグ、サイドエアバッグ、サイドカーテンエアバッグ、車外エアバッグ等の車輛用のエアバッグとして用いることができる。中でも、サイドカーテンエアバッグは側面衝突の時の衝撃から乗員を守ることに加えて、横転時には乗員がサイドルーフより放出させない機能が求められている。このため、サイドカーテンエアバッグには、サイドルーフ全体を瞬時に塞ぐと同時にフロントエアバッグに比べて長時間、膨張状態を持続させる必要があり、気密性は勿論、バリア性素材と基布との接着強度がより一層高いものが望ましく、上記バリア素材には本発明の多層フィルムが、より好適に使用できる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により、本発明を説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(原料)
実施例及び比較例に用いた原料とその表記を以下に示す。また、各原料のガラス転移温度(Tgと記載することがある)及び融点(Tmと記載することがある)は後述する動的粘弾性測定機及びDSCを用いて得られた値である。
【0064】
<接着層>
(樹脂)
CoPA1:商品名「Ube Nylon 7128B」(宇部興産製)共重合ポリアミド6/12 (Tg=47℃、Tm=128℃)
m-PE:商品名「Admer NF587」(三井化学製)酸変性ポリエチレン (Tg=-24℃、Tm=121℃)
(添加剤)
接着層に添加した添加剤を以下に示す。尚、樹脂に添加するにあたっては、予め添加剤を5質量%含むマスターバッチを東芝機械製二軸押出機「TEM-18SS」により、温度180℃、スクリュ回転数100rpmの条件で溶融混練し、ペレタイズしたものを準備し、このペレット(マスターバッチ)と樹脂とドライブレンドした。その後、後述の方法でインフレーション法により多層フィルムを製膜した。
・アンチブロッキング剤(AB剤):商品名「シルトンJC-70」(水澤化学製)、成分名:ソジウムカルシウムアルミノシリケート、形状:球状、平均粒子径:7μm
・結晶核剤(NA剤):商品名「ミクロエースP-8」(日本タルク製)、成分名:タルク、形状:鱗片状、平均粒子径:3.3μm
【0065】
<中間層>
m-PE:商品名「Admer NF587」(三井化学製)酸変性ポリエチレン(Tg=-24℃、Tm=121℃)
【0066】
<外層>
TPAE:商品名「UBESTA XPA 9063F1」(宇部興産社製)高融点熱可塑性ポリアミドエラストマー(Tg=24℃、Tm=172℃)
CoPA4:商品名「NAV503X10」(宇部興産社製)共重合ポリアミド6/66 (Tg=43℃、Tm=190℃)
【0067】
以下に、各物性の測定方法を説明する。
【0068】
(融点)
東洋精機製作所製プレス成形機「P2-30T-400」にて150μm厚さのシートを作製し、DSC(パーキングエルマー製「ダイアモンドDSC」)を用い、10℃/分の昇温速度で得られた融解ピーク温度を融点とした。尚、プレス成形条件は以下の条件に従ってサンプルを採取した。
【0069】
(ガラス転移温度)
東洋精機製作所製プレス成形機「P2-30T-400」にて0.9mm厚さのシートを作製し、動的粘弾性測定機(アントンパール製「MCR301」)にて損失正接tanδを測定し、損失正接tanδのピーク温度をガラス転移温度とした。
・測定モード:トーション (測定アタッチメント:SRF10)
・サンプル:厚さ=0.9mm 幅=10mm 測定スパン=38mm
・ノーマルフォース:-0.3N
・振り角:0.1%
・周波数:1Hz
・昇温速度:2℃/分
【0070】
(界面展開面積比割合(Sdr1/Sdr2))
非接触三次元測定機(Hyper Quick Vision:ミツトヨ製)を用いてフィルム面及び基布面の3次元データを測定したのち、カットオフ値(λc=200μ、λf=500μ)を用いて多層フィルム面、基布面のうねり曲線算出した後、多層フィルム面の界面展開面積比(Sdr1)および基布面の界面展開面積比(Sdr2)をJIS B 0681-6(2014)に従い算出した。Sdr1/Sdr2について以下の基準で評価した。
なお、多層フィルム面とは、複合体表面であって多層フィルムの基布側と反対側の表面をいう(
図1)。また、基布面とは、複合体表面であって基布の多層フィルム側と反対側の表面をいう(
図1)。多層フィルムが基布表面に追随した形状であるほど、Sdr1とSdr2とが近い値となる(
図1(b))。なお、
図1(a)は、エアバッグ用多層複合体の任意の厚さ方向断面を、包埋剤処理し、顕微鏡撮影したものである。
-基準-
◎(優れる):Sdr1/Sdr2が、0.988以上
〇(良好):Sdr1/Sdr2が、0.986以上0.988未満
×(不良):Sdr1/Sdr2が、0.986未満
【0071】
(耐スクラブ性)
スクラブテスター(井元製作所製)を用い、ISO5981に準じて試験を実施し、実施例及び比較例のエアバッグ用多層複合体から多層フィルムが剥離し始めた時の試験回数をカウントした。各サンプルについて4回テストを繰り返し、平均値を求めた。
<スクラブテスターの仕様及び試験条件>
・試験荷重 フット(10mm幅)=5N、追加荷重=10N付加
・往復移動速度 2.3回/sec
・サンプルの状態調整 23℃-50%RH-24時間以上
・試験環境 23℃-50%RH
スクラブ回数(平均値)の判定基準
×(極めて劣る):0回以上500回未満
△(劣る):500回以上1000回未満
〇(良好):1000回以上1500回未満
◎(優れる):1500回以上
スクラブ回数が多いほど、摩擦時に基布と多層フィルムとが剥離しにくく、耐摩擦性に優れている。
【0072】
(フィルム-基布間の空隙長さ)
実施例及び比較例で得られた複合体を厚さ方向に
図6に示すA-A’位置およびB-B’位置で切断し、切断面をSEM観察した。切断面における多層フィルムと基布との間の空隙の長さについて以下の基準に基づき評価を行った。
-基準-
A-A’断面空隙長さとB-B’断面空隙長さとの平均を複合体の空隙長さとし、
◎(優れる):複合体の空隙長さが2μm未満
〇(良好):複合体の空隙長さが2μm以上6μm未満
×(劣る):複合体の空隙長さが6μm以上
また、上記切断面から、以下の方法で多層フィルムと基布との間の空隙長さを以下の方法で測定した。
上記基布と上記接着層とが接合した面における、上記基布と上記多層フィルムとの間の厚さ方向の距離(
図2の多層フィルム2と基布3との間の空隙4の長さ)を測定する。即ち、空隙がない場合は、該距離は0となり、空隙がある場合にのみ該空隙の厚さ方向の長さを測定する。切断面の厚さ方向に直交する方向の長さ10mmについて、上記の距離を連続して測定し、その相加平均値を、多層フィルムと基布との間の空隙長さとし、A-A’断面における空隙長さ、B-B’断面における空隙長さを測定した。そして、上記A-A’断面における空隙長さと、上記B-B’断面における空隙長さとの平均値を複合体の空隙長さとした。結果を表1、2に記載した。
【0073】
(ループスティフネス)
実施例、比較例で得られたエアバッグ用多層複合体からTD方向(Ny66基布の緯方向)に20mm、MD方向(Ny66基布の経方向)に120mmのサイズのサンプルを5枚採取し、ループスティフネステスター(東洋精機製)にて多層フィルム側がループの外側になるようにサンプル台にセットし、ループ30mmの潰れ応力を測定した(
図5参照)。なお、ループスティフネスの値は、場所を変えて測定した5枚の値の平均値を求め、1cm幅に換算した。
<測定条件>
・サンプルの状態調整:23℃、50%RH、24時間以上
・試験環境:23℃、50%RH
・サンプルサイズ:20mm幅×120mm長さ
・測定速度:3.3mm/sec
<評価基準>
◎(優れる):250mN/cm未満
〇(良好):250mN/cm以上300mN/cm未満
△(劣る):300mN/cm以上、350mN/cm未満
×(不良):350mN/cm以上
【0074】
[フィルム1]
層構成が「外層/中間層/接着層=20/70/10」よりなる3種3層の多層フィルムであり、接着層には上記添加剤を混合したCoPA1、中間層にはm-PE、外層にはCoPA4を用いて、多層サーキュラーダイより押し出し、インフレーション法(
図3)により、厚さ10~40μmの3種3層の多層フィルムを得た。製膜条件は以下の通りである。
・ダイ温度設定:210℃
・サーキュラーダイ:リップ外形=95mm、リップクリアランス=3mm
・ブローアップ比:1.1倍
・エアリング温度:22℃
・ピンチロール直前のフィルム表面温度:32℃
・サーキュラーダイ~ピンチロール間距離:2.4m
・引取速度:12m/分
【0075】
[フィルム2]
層構成が「外層/接着層=20/80」よりなる2種2層の多層フィルムであり、ここで、接着層には上記添加剤を混合したm-PE、外層にTPAEを用いて多層サーキュラーダイより押し出し、インフレーション法により、厚さ30μmの2種2層の多層フィルムを得た。
【0076】
[基布1]
基布材質(ナイロン66)、総繊度470dtex、繊維密度(径50本/inch、緯50本/inch)、カバーファクター2060
[基布2]
基布材質(ナイロン66)、総繊度230dtex、繊維密度(径72本/inch、緯72本/inch)、カバーファクター2070
[基布3]
基布材質(ポリエステル)、総繊度550dtex、繊維密度(径51本/inch、緯51本/inch)、カバーファクター2270
【0077】
[実施例1]
上記フィルム1(厚さ10μm)と、上記基布1とを用いて、基布表面と上記フィルム1の上記接着層とが向かい合うようにして重ね合わせ、熱ロールラミネーター(
図4)を用い、シリコーンゴムロール側に多層フィルムが接するようにして接着し、積層体を得た。この時の熱ラミネート条件は以下の通りである。
温度:160℃
線圧:15N/cm
ロール速度:3m/分
続いて、得られた積層体を、室温まで冷却したのち、精密恒温器FineOven(DH62:ヤマト科学社製)中で温度190℃で3分間静置することで後加熱処理し、多層複合体を得た後、評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例2]
厚さ20μmのフィルム1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層複合体を得た。
【0079】
[実施例3]
厚さ30μmのフィルム1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層複合体を得た。
【0080】
[実施例4]
厚さ30μmのフィルム2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層複合体を得た。
【0081】
[比較例1]
後加熱処理をしなかったこと以外は、実施例1と同様にして多層複合体を得た。
【0082】
[比較例2]
後加熱処理をしなかったこと以外は、実施例2と同様にして多層複合体を得た。
【0083】
[比較例3]
後加熱処理をしなかったこと以外は、実施例3と同様にして多層複合体を得た。
【0084】
[比較例4]
厚さ40μmのフィルム1を用いたこと以外は、比較例1と同様にして多層複合体を得た。
【0085】
[比較例5]
厚さ40μmのフィルム1を用い、熱ラミネート時のロール速度を0.3m/分とし、後加熱処理条件を150℃、3分としたこと以外は、実施例1と同様にして多層複合体を得た。
【0086】
[比較例6]
厚さ30μmのフィルム2を用い、後加熱処理をしなかったこと以外は実施例5と同様にして多層複合体を得た
【0087】
[比較例7]
厚さ40μmのフィルム1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層複合体を得た。
【0088】
[実施例5]
上記フィルム1(厚さ20μm)と、上記基布1とを用いて、基布表面と上記フィルム1の上記接着層とが向かい合うようにして重ね合わせ、ラボプレス(P2-30T-400:東洋精機製)を用いて熱プレスを行い、多層複合体を得た。この時の熱プレス条件は以下の通りである。
温度:170℃
面圧:5N/cm2
時間:0.5分
【0089】
[実施例6]
熱プレス時間を1分としたこと以外は、実施例5と同様にして、多層複合体を得た。
【0090】
[実施例7]
厚さ30μmのフィルム1を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、多層複合体を得た。
【0091】
[実施例8]
熱プレス条件を、温度170℃、面圧18N/cm2、時間0.3分としたこと以外は実施例5と同様にして多層複合体を得た。
【0092】
[比較例8]
厚さ40μmのフィルム1を用い、熱プレス条件を、温度170℃、面圧5N/cm2、時間1分としたこと以外は、実施例5と同様にして、多層複合体を得た。
【0093】
[比較例9]
熱プレス条件を面圧18N/cm2、時間1分としたこと以外は、比較例8と同様にして、多層複合体を得た。
【0094】
[比較例10]
熱プレス時間を2分としたこと以外は、比較例9と同様にして、多層複合体を得た。
【0095】
[実施例9]
基布1の代わりに基布2を用いたこと以外は、実施例2と同様にして多層複合体を得た。
【0096】
[実施例10]
基布1の代わりに基布3を用いたこと以外は、実施例2と同様にして多層複合体を得た。
【0097】
実施例、比較例で得られた多層複合体の評価を行い、結果を表1、表2、表3に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
表1~3の結果より明らかなように、Sdr1/Sdr2の割合が0.986~1.1の範囲であると、耐スクラブ性が向上した複合体が得られた。更に多層フィルム厚さが10~30μmの範囲であると耐スクラブ性と柔軟性が両立した複合体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のエアバッグ用多層複合体は、耐スクラブ性と柔軟性とに優れていることからエアバッグ用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0103】
1・・・・エアバッグ用多層複合体
2・・・・多層フィルム
21・・・外層
22・・・他の層
23・・・接着層
3・・・・基布
31・・・単糸
4・・・・空隙
51・・・多層ダイ
52・・・エアリング
53・・・デフレータ(フリーロール)
54・・・第一ピンチ駆動ロール
55・・・ガイドロール(フリーロール)
56・・・第二ピンチ駆動ロール
57・・・タッチロール(フリーロール)
58・・・巻取駆動ロール
61・・・加圧ロール(シリコーンゴムライニング加工)
62・・・金属製加熱ロール(鏡面加工)
71・・・圧子
72・・・ループスティフネスのチャック
73・・・サンプル台