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特許7470238乗客コンベアの安全システム、乗客コンベアおよび乗客コンベアの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】乗客コンベアの安全システム、乗客コンベアおよび乗客コンベアの運転方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 29/02 20060101AFI20240410BHJP
   B66B 27/00 20060101ALI20240410BHJP
   B66B 31/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B66B29/02 Z
B66B27/00 B
B66B31/00 A
B66B31/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023143006
(22)【出願日】2023-09-04
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】名取 新
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-45930(JP,A)
【文献】特開2014-80268(JP,A)
【文献】特開2012-171698(JP,A)
【文献】特開平7-257867(JP,A)
【文献】国際公開第2020/053004(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの安全システムであって、
乗客コンベアに乗り込む乗客が、基準長さ以上の長さを有する長尺物を保有しているか否かを判定する長尺物判定部と、
前記長尺物判定部により前記乗客が前記長尺物を保有していると判定された場合、踏段を循環移動させる駆動モータのモータ電流上昇率を取得する上昇率取得部と、
前記駆動モータのモータ電流値が所定の過負荷電流値に達した場合、前記モータ電流値が前記過負荷電流値に達した際に前記上昇率取得部により取得された前記モータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かを判定する上昇率判定部と、
前記上昇率判定部により前記モータ電流上昇率が前記基準上昇率以上であると判定された場合、ブレーキを動作させて前記踏段の循環移動を停止させるブレーキ制御部と、
を備えた、乗客コンベアの安全システム。
【請求項2】
前記乗客コンベアに乗り込む乗客が保有する荷物の長さ情報を取得する乗り口長さ情報取得部を更に備え、
前記長尺物判定部は、前記乗り口長さ情報取得部により取得された前記長さ情報に基づいて、前記荷物が前記長尺物であるか否かを判定する、
請求項1に記載の乗客コンベアの安全システム。
【請求項3】
前記乗り口長さ情報取得部は、前記荷物を撮像する第1撮像部と、前記第1撮像部とは異なる方向で前記荷物を撮像する第2撮像部と、含む、
請求項2に記載の乗客コンベアの安全システム。
【請求項4】
前記乗客コンベアから降りる乗客が、前記長尺物を保有しているか否かを判定する降車判定部を更に備え、
前記降車判定部により前記乗客が前記長尺物を保有していると判定された場合、前記上昇率取得部は、前記モータ電流上昇率の取得を停止する、
請求項1に記載の乗客コンベアの安全システム。
【請求項5】
前記長尺物判定部により前記乗客が前記長尺物を保有していると判定された場合、前記長尺物の取り扱いに注意を促す報知を行う報知部を更に備えた、
請求項1に記載の乗客コンベアの安全システム。
【請求項6】
前記長尺物判定部により前記乗客が前記長尺物を保有していると判定された場合、前記踏段の移動速度を低下させる速度制御部を更に備えた、
請求項1に記載の乗客コンベアの安全システム。
【請求項7】
前記長尺物判定部により前記乗客が前記長尺物を保有していると判定された場合、前記乗客コンベアの照明の態様を変更する照明制御部を更に備えた、
請求項1に記載の乗客コンベアの安全システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の乗客コンベアの安全システムを備えた、
乗客コンベア。
【請求項9】
乗客コンベアの運転方法であって、
乗客コンベアに乗り込む乗客が、基準長さ以上の長さを有する長尺物を保有しているか否かを判定するステップと、
前記乗客が前記長尺物を保有していると判定された場合、踏段を循環移動させる駆動モータのモータ電流上昇率を取得するステップと、
前記駆動モータのモータ電流値が所定の過負荷電流値に達した場合、前記モータ電流値が前記過負荷電流値に達した際の前記モータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かを判定するステップと、
前記モータ電流上昇率が前記基準上昇率以上であると判定された場合、ブレーキを動作させて、前記踏段の循環移動を停止させるステップと、
を備えた、乗客コンベアの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施の形態は、乗客コンベアの安全システム、乗客コンベアおよび乗客コンベアの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアに、長さが長い長尺物を持った乗客が乗り込む場合がある。この乗客が、踏段に立ち止まって長尺物を踏段上で縦置きにすると、長尺物の上端が建物の天井に干渉する恐れがある。長尺物が踏段と天井に挟まると踏段は拘束され得る。この状態で踏段が更に駆動力を受けると、踏段が破損する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-45930号公報
【文献】特開2020-189715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施の形態は、乗客が保有する長尺物が踏段と天井に挟まった場合であっても踏段の破損を防止することができる乗客コンベアの安全システム、乗客コンベアおよび乗客コンベアの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施の形態による乗客コンベアの安全システムは、長尺物判定部と、上昇率取得部と、上昇率判定部と、ブレーキ制御部と、を備えている。長尺物判定部は、乗客コンベアに乗り込む乗客が、基準長さ以上の長さを有する長尺物を保有しているか否かを判定する。上昇率取得部は、長尺物判定部により乗客が長尺物を保有していると判定された場合、踏段を循環移動させる駆動モータのモータ電流上昇率を取得する。上昇率判定部は、駆動モータのモータ電流値が所定の過負荷電流値に達した場合、モータ電流値が過負荷電流値に達した際に上昇率取得部により取得されたモータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かを判定する。ブレーキ制御部は、上昇率判定部によりモータ電流上昇率が基準上昇率以上であると判定された場合、ブレーキを動作させて踏段の循環移動を停止させる。
【0006】
実施の形態による乗客コンベアは、上述した乗客コンベアの安全システムを備えている。
【0007】
実施の形態による乗客コンベアの運転方法は、乗客コンベアに乗り込む乗客が、基準長さ以上の長さを有する長尺物を保有しているか否かを判定するステップと、乗客が長尺物を保有していると判定された場合、踏段を循環移動させる駆動モータのモータ電流上昇率を取得するステップと、駆動モータのモータ電流値が所定の過負荷電流値に達した場合、モータ電流値が過負荷電流値に達した際のモータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かを判定するステップと、モータ電流上昇率が基準上昇率以上であると判定された場合、ブレーキを動作させて、踏段の循環移動を停止させるステップと、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施の形態による乗客コンベアの全体概略構成を示す図である。
図2図2は、本実施の形態による乗客コンベアの安全システムを示す図である。
図3図3は、図2に示す乗り口長さ情報取得部を説明するための図である。
図4図4は、図2に示す降り口長さ情報取得部を説明するための図である。
図5図5は、乗客が徐々に増えていく場合におけるモータ電流値の変化の様子を示す図である。
図6図6は、乗客が持つ長尺物が踏段と天井に挟まれた状態を示す図である。
図7図7は、乗客が持つ長尺物が踏段と天井に挟まれた場合におけるモータ電流値の変化の様子を示す図である。
図8図8は、本実施の形態による乗客コンベアの運転方法におけるフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本実施の形態による乗客コンベアの安全システム、乗客コンベアおよび乗客コンベアの運転方法について説明する。
【0010】
まず、図1を参照して、本実施の形態による乗客コンベア1について説明する。ここでは、乗客コンベア1として、エスカレータを例にとって説明するが、本実施の形態による乗客コンベア1は、動く歩道であってもよい。
【0011】
図1に示すように、乗客コンベア1は、複数の踏段2と、駆動装置3と、一対の欄干4と、一対のスカート5と、一対の手摺デッキ6と、一対の手摺ベルト7と、を備えている。
【0012】
踏段2は、無端状の踏段チェーン8によって連結されている。踏段2は、案内レール9によって案内されながら下階の乗り口10と上階の降り口11との間で循環移動する。本実施の形態においては、踏段2は、乗客が下階の乗り口10から上階の降り口11に向かう方向に移動する例で説明する。
【0013】
駆動装置3は、手摺ベルト7と共に踏段2を循環移動させる。駆動装置3は、駆動モータ12及び減速機13を含んでいてもよい。駆動装置3には、ブレーキ14が設けられている。ブレーキ14は、駆動モータ12の回転を停止させ、停止状態を保持可能に構成されている。
【0014】
踏段2を循環移動させる構成についてより具体的に説明する。図1に示すように、建物の床下にトラス15が設置されている。トラス15の上階側には、上機械室16が設けられ、上機械室16に、駆動装置3と共に駆動スプロケット17が収容されている。駆動装置3の回転は、駆動チェーン18によって駆動スプロケット17に伝達される。トラス15の下階側には、下機械室19が設けられ、下機械室19に従動スプロケット20が収容されている。駆動スプロケット17と従動スプロケット20に、上述した踏段チェーン8が掛け渡されている。駆動装置3の駆動モータ12が駆動されると、駆動スプロケット17が回転し、踏段チェーン8が循環移動する。このようにして、踏段2は、乗り口10と降り口11との間を循環移動し、乗客を搬送する。
【0015】
欄干4は、踏段2の左右両側に垂直に設けられている。欄干4は、透過性を有する部材で形成されており、例えばガラスで形成されている。欄干4は、下階の乗り口10から上階の降り口11まで延びている。スカート5は、対応する欄干4の下部を覆っている。スカート5は、欄干4と同様に乗り口10から降り口11に向かって延びている。手摺デッキ6は、欄干4の外周縁に沿って延びている。手摺デッキ6は、手摺レールと称する場合もある。手摺ベルト7は、手摺デッキ6に案内されながら移動する。手摺ベルト7は、踏段2と同期して移動方向Dに移動する。手摺ベルト7は、トラス15内に設けられた手摺ベルトシーブ21に掛け渡されている。手摺ベルトシーブ21は、駆動スプロケット17と同期して回転するように構成されており、手摺ベルトシーブ21の回転によって手摺ベルト7は循環移動する。
【0016】
手摺デッキ6には、照明装置22が設けられている。照明装置22は、手摺デッキ6に沿うように形成されている。スカート5には、スピーカ23が設けられている。スピーカ23は、下階側および上階側にそれぞれ配置されている。
【0017】
乗り口10には、一対の乗り口ポール24が設けられている。降り口11には、一対の降り口ポール25が設けられている。
【0018】
本実施の形態による乗客コンベア1は、安全システム30を更に備えている。以下、本実施の形態による乗客コンベアの安全システム30について説明する。
【0019】
図2に示すように、安全システム30は、乗り口長さ情報取得部31と、降り口長さ情報取得部32と、安全装置40と、を備えていてもよい。
【0020】
乗り口長さ情報取得部31は、乗客コンベア1に乗り込む乗客が保有する荷物の長さ情報を取得する。図3に示すように、乗り口長さ情報取得部31は、乗り口ポールカメラ33と、乗り口天井カメラ34と、を含んでいてもよい。
【0021】
乗り口ポールカメラ33は、第1撮像部の一例であり、一方の乗り口ポール24に設けられていてもよい。乗り口ポールカメラ33は、乗り口ポール24の上部に配置されていてもよい。乗り口ポールカメラ33は、第1の方向で荷物を撮像し、画像を作成する。例えば、乗り口ポールカメラ33は、水平方向であって、斜め前方から荷物を撮像する。前方とは、乗客の進行方向の前方を意味する。作成された画像には荷物が撮像されており、この荷物の画像が、荷物の長さ情報を含んでいる。
【0022】
乗り口天井カメラ34は、第2撮像部の一例であり、乗り口10の天井26に設けられていてもよい。乗り口天井カメラ34は、第1の方向とは異なる方向である第2の方向で荷物を撮像し、画像を作成する。例えば、乗り口天井カメラ34は、鉛直方向であって、上から荷物を撮像する。この荷物の画像が、荷物の長さ情報を含んでいる。
【0023】
降り口長さ情報取得部32は、乗客コンベア1から降りる乗客が保有する荷物の長さ情報を取得する。図4に示すように、降り口長さ情報取得部32は、降り口ポールカメラ35と、降り口天井カメラ36と、を含んでいてもよい。
【0024】
降り口ポールカメラ35は、第3撮像部の一例であり、一方の降り口ポール25に設けられていてもよい。降り口ポールカメラ35は、降り口ポール25の上部に配置されていてもよい。降り口ポールカメラ35は、第3の方向で荷物を撮像し、画像を作成する。例えば、降り口ポールカメラ35は、水平方向であって、斜め後方から荷物を撮像する。後方とは、乗客の進行方向の後方を意味する。作成された画像には荷物が撮像されており、この荷物の画像が、荷物の長さ情報を含んでいる。
【0025】
降り口天井カメラ36は、第4撮像部の一例であり、降り口11の天井26に設けられていてもよい。降り口天井カメラ36は、第3の方向とは異なる方向である第4の方向で荷物を撮像し、画像を作成する。例えば、降り口天井カメラ36は、鉛直方向であって、上から荷物を撮像する。この荷物の画像が、荷物の長さ情報を含んでいる。
【0026】
次に、安全装置40について説明する。安全装置40は、長尺物判定部41と、降車判定部42と、電流計測部43と、電流判定部44と、上昇率取得部45と、上昇率判定部46と、ブレーキ制御部47と、報知部49と、を含んでいてもよい。安全装置40は、乗客コンベア1の図示しない制御装置に組み込まれていてもよい。
【0027】
図2に示すように、長尺物判定部41は、乗客コンベア1に乗り込む乗客が、基準長さ以上の長さを有する長尺物60を保有しているか否かを判定する。例えば、長尺物判定部41は、乗り口長さ情報取得部31により取得された荷物の長さ情報に基づいて、荷物が長尺物60であるか否かを判定してもよい。長尺物60とは、上述したように基準長さ以上の長さを有する荷物を意味する。
【0028】
本実施の形態による長尺物判定部41は、乗り口ポールカメラ33により作成された画像と、乗り口天井カメラ34により作成された画像とから、荷物の長さを算出してもよい。例えば、各画像上での荷物の長さから、三平方の定理によって荷物の現実の長さを算出してもよい。
【0029】
また、長尺物判定部41は、算出された荷物の長さと基準長さとを比較して、荷物の長さが基準長さ以上であるか否かを判定してもよい。長尺物判定部41は、荷物の長さが基準長さ以上である場合、乗客コンベア1に乗り込む乗客が、長尺物60を保有していると判定してもよい。基準長さは、乗客コンベア1の踏段2と天井26の最小距離であってもよい。最小距離は、踏段2に対して垂直な距離であってもよい。基準長さは、当該最小距離に対してマージンを含めた値であってもよい。
【0030】
降車判定部42は、乗客コンベア1から降りる乗客が、長尺物60を保有しているか否かを判定する。例えば、降車判定部42は、降り口長さ情報取得部32により取得された荷物の長さ情報に基づいて、荷物が長尺物60であるか否かを判定してもよい。
【0031】
降車判定部42は、降り口ポールカメラ35により作成された画像と、降り口天井カメラ36により作成された画像とから、荷物の長さを算出してもよい。例えば、各画像上での荷物の長さから、三平方の定理によって荷物の現実の長さを算出してもよい。
【0032】
また、降車判定部42は、算出された荷物の長さと基準長さとを比較して、荷物の長さが基準長さ以上であるか否かを判定してもよい。降車判定部42は、荷物の長さが基準長さ以上である場合、乗客コンベア1から降りる乗客が、長尺物60を保有していると判定してもよい。このことにより、降車判定部42は、長尺物判定部41により判定された長尺物60を保有する乗客が、乗客コンベア1から降りたと判定してもよい。基準長さは、上述した長尺物判定部41が用いる基準長さと等しくてもよい。
【0033】
あるいは、降車判定部42は、算出された荷物の長さと、上述した長尺物判定部41により算出された長尺物60の長さとを比較することにより、乗客コンベア1から降りる乗客が保有する長尺物60が、長尺物判定部41により判定された長尺物60と同一であるか否かを判定してもよい。このことにより、降車判定部42は、長尺物判定部41により判定された長尺物60を保有する乗客が、乗客コンベア1から降りたと判定してもよい。
【0034】
電流計測部43は、踏段2を循環移動させる駆動モータ12に流れるモータ電流値を計測する。電流計測部43は、長尺物判定部41により乗客コンベア1に乗り込む乗客が長尺物60を保有していると判定される前から、モータ電流値を継続的に計測してもよい。また、電流計測部43は、降車判定部42により乗客コンベア1から降りる乗客が長尺物60を保有していると判定した後にも、モータ電流値を継続的に計測してもよい。
【0035】
電流判定部44は、電流計測部43により計測されたモータ電流値が、所定の過負荷電流値に達したか否かを判定する。過負荷電流値は、乗客数が定員に達したときに駆動モータ12に流れる電流値として設定されていてもよく、あるいは、駆動モータ12および駆動モータ12への電流供給系統を保護可能な電流値として設定されていてもよい。
【0036】
上昇率取得部45は、長尺物判定部41により乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、踏段2を循環移動させる駆動モータ12に流れるモータ電流上昇率を取得してもよい。例えば、上昇率取得部45は、上述した電流計測部43により計測された駆動モータ12のモータ電流値から、モータ電流上昇率を算出してもよい。モータ電流上昇率は、所定の時間間隔におけるモータ電流値の変化率として算出されてもよい。
【0037】
また、上昇率取得部45は、上述した降車判定部42により乗客コンベア1から降りる乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、モータ電流上昇率の取得を停止してもよい。
【0038】
上昇率判定部46は、駆動モータ12のモータ電流値が所定の過負荷電流値に達した場合、モータ電流値が過負荷電流値に達した際に上昇率取得部45により取得されたモータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かを判定する。言い換えると、上昇率判定部46は、モータ電流値が過負荷電流値に達したタイミングで、直前に算出された(あるいは、最後に算出された)モータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かを判定する。上昇率判定部46は、電流判定部44によりモータ電流値が過負荷電流値に達したと判定された場合にモータ電流上昇率の判定を行う。
【0039】
モータ電流上昇率について、図5図7を用いて、より具体的に説明する。図5は、乗客コンベア1の乗客が徐々に増えた場合におけるモータ電流値の変化の様子を示している。図6は、乗客が持つ長尺物60が踏段2と天井26に挟まれた状態を示す図である。図7は、長尺物60が踏段2と天井26に挟まれた場合におけるモータ電流値の変化の様子を示している。
【0040】
図5に示すように、乗客コンベア1の乗客が徐々に増えた場合、モータ電流値は、徐々に緩やかに増えていき、やがて過負荷電流値に達する。この場合、モータ電流値が過負荷電流値に達した際のモータ電流上昇率は比較的小さい。
【0041】
一方、長尺物60が踏段2と天井26に挟まれた場合には、モータ電流上昇率は比較的大きくなる。より具体的には、図6に示すように、踏段2に立ち止まった乗客が、長尺物60を踏段2上で縦置きする場合を想定する。この長尺物60が基準長さ以上である場合、踏段2の移動に伴って、長尺物60の上端が水平な天井26に徐々に近づき、やがて天井26に衝突する。この場合、長尺物60が踏段2と天井26に挟まれることが考えられる。この場合、図7に示すように、モータ電流値は、短時間で急激に上昇して過負荷電流値に達する。
【0042】
このように、モータ電流値が過負荷電流値に達した場合であっても、図7に示すモータ電流値の上昇の様子は、図5に示すモータ電流値の上昇の様子とは異なる。このモータ電流値の上昇率の相違を、本実施の形態による安全システム30は利用している。このため、モータ電流値が過負荷電流値に達した際のモータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かの判定に基づいて、長尺物60が踏段2と天井26に挟まれたか否かを判定することができる。
【0043】
図2に示すように、ブレーキ制御部47は、上昇率判定部46によりモータ電流上昇率が基準上昇率以上であると判定された場合、ブレーキ14を動作させて踏段2の循環移動を停止させる。この場合、ブレーキ14は、駆動モータ12の回転を停止させることにより、踏段2の循環移動を停止させる。ブレーキ14を動作させることにより、モータ電流を遮断した場合よりも急速に踏段2を停止させることができる。
【0044】
電流制御部48は、上昇率判定部46によりモータ電流上昇率が基準上昇率未満であると判定された場合、駆動モータ12へのモータ電流の供給を停止する。例えば、電流制御部48は、図示しないブレーカーを動作させて、モータ電流を遮断してもよい。このことにより、駆動モータ12の回転が停止する。また、電流制御部48は、モータ電流上昇率が基準上昇率以上であると判定された場合にも、駆動モータ12へのモータ電流を遮断してもよい。
【0045】
報知部49は、上述した長尺物判定部41により乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、長尺物60の取り扱いに注意を促す報知を行ってもよい。例えば、報知部49は、長尺物60の取り扱いに注意を促すアナウンスを上述したスピーカ23から行ってもよい。
【0046】
また、報知部49は、上述した降車判定部42により乗客コンベア1から降りる乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、上述した報知を停止してもよい。
【0047】
なお、本実施の形態による安全装置40は、速度制御部50を更に含んでいてもよい。速度制御部50は、長尺物判定部41により乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、踏段2の移動速度を低下させてもよい。このことにより、長尺物60を保有している乗客は、安全に乗車することができる。速度制御部50は、上述した駆動装置3の駆動モータ12を制御することにより、踏段2の移動速度を低下させてもよい。速度制御部50は、上述した報知部49による報知の開始および報知の停止と同様のタイミングで、踏段2の移動速度を低下させてもよい。
【0048】
また、本実施の形態による安全装置40は、照明制御部51を更に含んでいてもよい。照明制御部51は、長尺物判定部41により乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、乗客コンベア1の照明の態様を変更してもよい。照明制御部51は、上述した照明装置(図1参照)を制御することにより、照明の態様を変更してもよい。例えば、照明制御部51は、照明装置22の照明の色を変更してもよく、あるいは、照明装置22の照明を点灯から点滅に変更してもよい。照明制御部51は、上述した報知部49による報知の開始および報知の停止と同様のタイミングで、乗客コンベア1の照明の態様を変更してもよい。乗客コンベア1の照明の態様を変更することにより、長尺物60を保有している乗客に注意を促すことができ、長尺物60が天井26に干渉することを防止できる。また、聴覚障害者に対しては、効果的に注意を促すことができる。
【0049】
次に、このような構成からなる本実施の形態による乗客コンベアの運転方法について説明する。ここでは、一例として、図8のフローチャートに示す運転方法について説明する。
【0050】
図8に示すように、乗客コンベア1の運転開始後、ステップS1として、乗り口長さ情報取得部31により、乗客コンベア1に乗り込む乗客が保有する荷物の長さ情報が取得される。例えば、乗り口ポールカメラ33および乗り口天井カメラ34により画像が撮像される。撮像された各画像は、安全装置40に送信される。
【0051】
ステップS1の後、ステップS2として、長尺物判定部41により、乗客コンベア1に乗り込む乗客が、基準長さ以上の長さを有する長尺物60を保有しているか否かが判定される。例えば、各画像から荷物の長さが算出され、基準長さと比較される。長尺物60と判定された荷物の長さは、図示しない記憶部に記憶されてもよい。乗客が長尺物60を保有していないと判定された場合には、上述したステップS1に戻る。
【0052】
ステップS2において乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、ステップS3として、上昇率取得部45により、踏段2を循環移動させる駆動モータ12に流れるモータ電流上昇率を取得する。例えば、上述した電流計測部43により計測された駆動モータ12のモータ電流値から、モータ電流上昇率が算出される。算出されたモータ電流上昇率は、図示しない記憶部に記憶されてもよい。
【0053】
また、ステップS3において、報知部49により、長尺物60の取り扱いに注意を促す報知が行われる。例えば、スカート5に設けられた各スピーカ23から、長尺物60の取り扱いに注意を促すアナウンスを行う。
【0054】
ステップS3の後、ステップS4として、降り口長さ情報取得部32により、乗客コンベア1から降りる乗客が保有する荷物の長さ情報が取得される。例えば、降り口ポールカメラ35および降り口天井カメラ36により画像が撮像される。撮像された各画像は、安全装置40に送信される。
【0055】
ステップS4の後、ステップS5として、降車判定部42により、乗客コンベア1から降りる乗客が、長尺物60を保有しているか否かが判定される。例えば、各画像から荷物の長さが算出され、基準長さと比較される。
【0056】
ステップS5において、乗客コンベア1から降りる乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、ステップS6として、上昇率取得部45によるモータ電流上昇率の取得を停止する。乗客コンベア1から降りる乗客が長尺物60を保有していると判定された場合には、ステップS2において判定された長尺物60を保有している乗客が乗客コンベア1から降りたと見なすことができる。このため、乗客コンベア1には、長尺物60を保有した乗客が存在しないと見なすことができる。また、ステップS6において、報知部49による長尺物60の取り扱いに注意を促すアナウンスを停止する。
【0057】
ステップS6の後、上述したステップS1に戻る。
【0058】
ステップS5において、乗客コンベア1から降りる乗客が長尺物60を保有していないと判定された場合、ステップS7として、電流判定部44により、モータ電流値が過負荷電流値に達したか否かが判定される。乗客コンベア1から降りる乗客が長尺物60を保有していないと判定された場合、長尺物60を保有した乗客が、乗客コンベア1に依然として乗車していると見なすことができる。ステップS7においてモータ電流値が過負荷電流値に達していないと判定された場合、上述したステップS4に戻る。
【0059】
ステップS7において、モータ電流値が過負荷電流値に達したと判定された場合、ステップS8として、上昇率判定部46により、モータ電流値が過負荷電流値に達した際に取得されたモータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かが判定される。
【0060】
ステップS8において、モータ電流上昇率が基準上昇率以上であると判定された場合、ステップS9として、ブレーキ制御部47により、ブレーキ14が動作して踏段2の循環移動が停止する。図7に示すようにモータ電流上昇率が基準上昇率以上である場合、図6に示すように、踏段2上の乗客が保有する長尺物60が、踏段2と天井26に挟まって踏段2が拘束されていると見なすことができる。このため、ブレーキ14を動作させて踏段2を急速に急停止させる。このことにより、乗客コンベア1の運転が停止する。
【0061】
一方、ステップS8において、モータ電流上昇率が基準上昇率未満であると判定された場合、ステップS10として、電流制御部48により、駆動モータ12へのモータ電流の供給を停止する。例えば、電流制御部48により、図示しないブレーカーを動作させて、モータ電流が遮断される。このことにより、駆動モータ12の回転が停止し、乗客コンベア1の運転が停止する。モータ電流上昇率が基準上昇率未満である場合には、長尺物60によって踏段2が拘束されているのではなく、乗客コンベア1の定員に達したと見なすことができる。この場合、ブレーキ14は動作させなくてもよい。
【0062】
このように本実施の形態によれば、乗客コンベア1に長尺物60を保有する乗客が乗り込むとともに駆動モータ12のモータ電流値が所定の過負荷電流値に達した場合、モータ電流値が過負荷電流値に達した際のモータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かが判定される。モータ電流上昇率が基準上昇率以上である場合、ブレーキ14を動作させて踏段2の循環移動を停止させる。この場合、長尺物60が、踏段2と乗客コンベア1が設置された建物の天井26とに挟まれて、踏段2が拘束されていると見なすことができる。このため、ブレーキ14を作動させて踏段2の循環移動を急速に停止させることができ、踏段2が破損することを防止することができる。
【0063】
また、本実施の形態によれば、乗客コンベア1に乗り込む乗客が保有する荷物の長さ情報が取得され、この長さ情報に基づいて、荷物が長尺物60であるか否かが判定される。このことにより、乗客コンベア1に乗り込む乗客が、長尺物60を保有しているか否かを判定することができる。
【0064】
また、本実施の形態によれば、乗り口長さ情報取得部31は、互いに異なる方向で荷物を撮像する乗り口ポールカメラ33および乗り口天井カメラ34を含んでいる。このことにより、荷物の長さを精度良く取得することができる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、乗客コンベア1から、長尺物60を保有している乗客が降りたか否かを判定することができる。長尺物60を保有している乗客が降りたと判定された場合、駆動モータ12のモータ電流上昇率の取得が停止される。このことにより、乗客コンベア1の運転を元の運転状態に戻すことができる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、乗客コンベア1に乗り込んだ乗客が長尺物60を保有していると判定された場合、長尺物60の取り扱いに注意を促すアナウンスが行われる。このことにより、長尺物60を保有している乗客に注意を促すことができ、長尺物60が天井26に干渉することを防止できる。このため、長尺物60が踏段2と天井26に挟まることを未然に防止することができる。
【0067】
なお、上述した本実施の形態においては、乗り口長さ情報取得部31が、乗り口ポールカメラ33と、乗り口天井カメラ34と、を含んでいる例について説明した。しかしながら、本実施の形態は、このことに限られることはない。乗り口長さ情報取得部31は、互いに異なる2つの方向で乗客の荷物を撮像することができれば、2つのカメラの位置および撮像方向は任意である。降り口長さ情報取得部32についても同様である。
【0068】
以上述べた実施の形態によれば、乗客が保有する長尺物が踏段と天井に挟まった場合であっても踏段の破損を防止することができる。
【0069】
本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1:乗客コンベア、2:踏段、12:駆動モータ、14:ブレーキ、22:照明装置、26:天井、30:安全システム、31:乗り口長さ情報取得部、32:降り口長さ情報取得部、33:乗り口ポールカメラ、34:乗り口天井カメラ、35:降り口ポールカメラ、36:降り口天井カメラ、40:安全装置、41:長尺物判定部、42:降車判定部、43:電流計測部、44:電流判定部、45:上昇率取得部、46:上昇率判定部、47:ブレーキ制御部、49:報知部、50:速度制御部、51:照明制御部、60:長尺物
【要約】
【課題】実施の形態は、乗客が保有する長尺物が踏段と天井に挟まった場合であっても踏段の破損を防止することができる乗客コンベアの安全システムを提供する。
【解決手段】実施の形態によるエレベータの安全システムは、長尺物判定部と、上昇率取得部と、上昇率判定部と、ブレーキ制御部と、を備えている。長尺物判定部は、乗客コンベアに乗り込む乗客が、長尺物を保有しているか否かを判定する。上昇率取得部は、踏段を循環移動させる駆動モータのモータ電流上昇率を取得する。上昇率判定部は、駆動モータのモータ電流値が所定の過負荷電流値に達した場合、モータ電流値が過負荷電流値に達した際のモータ電流上昇率が基準上昇率以上であるか否かを判定する。ブレーキ制御部は、モータ電流上昇率が基準上昇率以上であると判定された場合、ブレーキを動作させて踏段の循環移動を停止させる。
【選択図】図2
図1
図2
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図8