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特許7470242焼鈍分離剤の製造方法及び焼鈍分離剤並びに方向性電磁鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】焼鈍分離剤の製造方法及び焼鈍分離剤並びに方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/00 20060101AFI20240410BHJP
   C01F 5/08 20060101ALI20240410BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240410BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C23C22/00 A
C01F5/08
C21D8/12 B
C21D9/46 501B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023172996
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2022534836の分割
【原出願日】2021-09-27
(65)【公開番号】P2023178338
(43)【公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】202110675696.8
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】王 興東
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-531107(JP,A)
【文献】特公昭45-014162(JP,B1)
【文献】特開2004-353054(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103140446(CN,A)
【文献】国際公開第2017/169854(WO,A1)
【文献】特開2019-173173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00
C01F 5/08
C21D 8/12
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上であり、
S=(100-V)/100
(ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。)
平均粒径が0.5~5.0μmであり、
酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、
平均細孔径が45~100nmであり、
酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、
B:500~1300ppm;
Cl:100~350ppm;
CaO:0.2~0.6wt%;
焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項2】
CAA70%/CAA40%の比が1.8~4.0の範囲である、請求項1に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項3】
更にNaを含有し、前記Naの含有量が20~50ppmである、請求項1又は2に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項4】
更にSiO の形態で存在するSiを含有し、前記Siの含有量が0.2~5.0wt%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項5】
鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項6】
更にAl を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項7】
更にP を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項8】
更にAl 及びP の含有量が、0.1~3wt%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項9】
複数の球状粒子が連結し構造を有し、かつ複数の孔を表面に有した全体として六角板状である、請求項1~8のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍分離剤の製造方法及び焼鈍分離剤並びに方向性電磁鋼板に関する。本方法で得られた焼鈍分離剤は、純度が高く、分散性及び密着強度に優れ、方向性電磁鋼板の表面に均一で緻密なフォルステライト層を形成することができる。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板の製造過程は、一般的に、成分を調整した鋼片(鋼塊)に熱間圧延、焼鈍、冷間圧延及び再結晶焼鈍(脱炭焼鈍)を行い、その後に最後の仕上げ焼鈍を行う。上記製造過程において、最後の仕上げ焼鈍は1200℃以上の高温で行われるため、この時にロール状に巻いた鋼ロールの間の接着を防止するために、一般的にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布する。
【0003】
上記の機能に加えて、焼鈍分離剤中のMgOと、再結晶焼鈍(脱炭焼鈍)において鋼板表面に析出した主成分とが、SiOの酸化物層と反応してフォルステライト層を生成する。同時に、鉄の結晶成長を阻害する抑制因子と呼ばれる析出物(例えば、AlN、MnS、TiN、Si、TiC等)を最後の仕上げ焼鈍工程で除去することで、それらの成長を抑制することができる。これは、厚さが均一なフォルステライト層を形成するのに極めて重要である。フォルステライト層は、鋼板表面に張力を付与し、鉄損を低減し、磁気特性を向上させ、また、鋼板に絶縁性を付与する役割を果たす。また、後続の工程において、形成されたフォルステライト層にリン酸塩系の絶縁層を塗布するため、フォルステライト層は、この時に鋼基体と緊密に結合する接着剤の作用を果たす。したがって、焼鈍分離剤は、電磁鋼板の製造において非常に重要である。
【0004】
焼鈍分離剤に対して様々な方案及び技術が提案されている。具体的に、例えば特許文献1には、基材鋼板表面を滑らかにしつつ、鋼板表面を張力に富み、鉄損を大幅に低減させる技術が開示されている。しかしながら、特許文献1における材料は、反応活性に不利な元素が含まれている。
【0005】
特許文献2には、アルカリ土類金属2~40質量部を混合する焼鈍分離剤の製造技術が開示されている。これは、MgOの物性及び成分等を調整することにより、形成されたフォルステライト層の性能を向上させ、また、塩化物を添加することにより、SiOの分解を促進し、それによりケイ酸塩化合物の生成を阻止するものである。しかし、特許文献2は、その所期の目的を完全に達成しているとはいえない。
【0006】
特許文献3には、高い凝集性の焼鈍分離剤に関する技術が開示されている。該技術は、凝集体微粒子MgOの製造技術である。しかし、方向性電磁鋼板の製造過程においては、水分及びOの含有量をできるだけ低くする必要があるが、凝集体微粒子MgOは、微量の水の残留を引き起こしやすく、高品質の方向性電磁鋼板の製造に不利である。
【0007】
特許文献4には、非フォルステライト系の焼鈍分離剤が開示されている。この特許文献は、アルミナを主成分とする懸濁液のコーティングに関するものである。しかし、アルミナコーティングに水分が残留するため、高温焼鈍中に鋼板表面に酸化物層を生成する。
【0008】
特許文献5には、ホウ素元素が0.04~0.30質量%であり、同時に配位数4のホウ素元素の含有量が55~95%の範囲にある焼鈍分離剤が開示されている。焼結温度、乾燥時間及び吸湿を調整することにより、配位数が4であるホウ素元素の割合を制御し、それにより方向性電磁鋼板の性能を向上させるものである。しかしながら、特許文献5に記載の4配位のホウ素元素とフォルステライト生成の原理には矛盾があり、期待される効果が完全に達成される可能性はない。
【0009】
特許文献6には、ホウ素元素が0.04~0.15質量%であり、塩素元素が0.05質量%以下であり、ブレーン比表面積が2.0×10~7.0×10/kgの焼鈍分離剤が開示されている。しかし、ブレーン法比表面積は、中国国家標準(GB/T 8074-2008)によると、セメントの比表面積及び比表面積が0.2~0.6 m/gの範囲にある様々な粉末状材料、例えばフライアッシュ、粒化高炉スラグ粉末などの測定のみに適用される。該方法は、焼鈍分離剤のような多孔質材料及び超微粉状材料を測定・特徴づけることに適用されない。
【0010】
特許文献7には、海水をマグネシウム源とし、水酸化カルシウムをアルカリ源とし、低温で合成した(50℃で20時間)高凝集体の水酸化マグネシウムを前駆体とし、ブレーン粒径とBET粒径比RBlaine/RBETが3.0-5.5の間にある凝集体の焼鈍分離剤の技術が開示されている。しかし、上記のように、ブレーン法比表面積は、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムなどの多孔質微粒子に対する誤差が大きすぎるため、適用できるとはいえない。したがって、このような方法を利用して得られた数値は、確実ではない。また、該文献の記載によると、酸化マグネシウムの凝集度が3より低い場合は、反応が速すぎて、分離剤に適しない。この点も常識に相違する。一次粒子の粒子径が適度に大きい場合は、凝集度が低くても、方向性電磁鋼板に適用できる。逆に、一次粒子の粒子径が小さい場合は、凝集度が低く、酸化マグネシウムの焼成温度を適切に調整することにより、酸化マグネシウムの反応活性、すなわち反応速度を効果的に制御することができる。したがって、技術の面からいえば、該文献も妥当ではない。
【0011】
また、現在市販されている一部の焼鈍分離剤製品には、“座突”、すなわちコイル上端及び下端における軽度の陥没、が発生するという問題がある。
【0012】
上記のように、十分な性能を有する焼鈍分離剤に対する需要が、依然として存在している。現状は、性能が十分に満足されている焼鈍分離剤は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特公昭52-24499号公報
【文献】特開昭64-62476号公報
【文献】PCT/JP01/09354
【文献】特開2003-268450号公報
【文献】特開2017-128773号公報
【文献】特開2017-179459号公報
【文献】PCT/JP2017/010691
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の従来の技術に存在する問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼鈍分離剤の製造方法及び焼鈍分離剤並びに方向性電磁鋼板を提供することにある。本方法で得られた焼鈍分離剤は、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れ、方向性電磁鋼板の表面に均一で緻密なフォルステライト層を形成することができる。それにより、優れた絶縁及び電磁特性を有する方向性電磁鋼板を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究し、焼鈍分離剤を製造するための水酸化マグネシウム前駆体に対して高温熟成及び低温熟成を行うことにより、得られる焼鈍分離剤の物性を制御し、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れた焼鈍分離剤を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
具体的には、本発明は以下を提供する。
1.酸化マグネシウムとアンモニウム塩溶液とを混合・反応して、マグネシウム塩溶液及びアンモニアを調製した後、精製した上記マグネシウム塩溶液と上記アンモニアとを反応させて水酸化マグネシウムを得る工程(1)と、
得られた上記水酸化マグネシウムの一部を155~230℃で高温熟成させ、得られた上記水酸化マグネシウムの他の一部を10~100℃で低温熟成させる工程(2)と、
上記各々の条件で熟成させた上記水酸化マグネシウムを混合して、焼成し、酸化マグネシウムを得て焼鈍分離剤に用いる工程(3)と、を含む、焼鈍分離剤の製造方法。
【0017】
2.上記工程(1)における上記酸化マグネシウムが天然ブルーサイト、マグネサイト、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、海水又は苦汁に由来する水酸化マグネシウムを軽焼することによって得られ、
上記工程(1)における上記アンモニウム塩が硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムのうちのいずれかである、1に記載の製造方法。
【0018】
3.上記高温熟成は、160~180℃の温度で120~180分間加熱することで行われ、上記低温熟成は、50~90℃の温度で120~180分間加熱することで行われる、1又は2に記載の製造方法。
【0019】
4.上記高温熟成させた水酸化マグネシウム及び上記低温熟成させた水酸化マグネシウムの比率が、水酸化マグネシウムの質量で1:8~8:1である、1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
5.上記焼成の温度が820~1150℃である、1~4のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
6.上記工程(3)で得られた焼成酸化マグネシウムに、焼成酸化マグネシウムの重量で0~25wt%の非活性酸化マグネシウム及び/又は0~10wt%の二酸化チタンを更に混合することを更に含む、1~5のいずれかに記載の製造方法。
【0022】
7.Na含有量が20~50ppmであり、
沈降係数Sが0.90以上であり、
鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であって、主に酸化マグネシウムを含む、焼鈍分離剤。
【0023】
8.上記焼鈍分離剤の平均細孔径が45~100nmである、7に記載の焼鈍分離剤。
【0024】
9.上記焼鈍分離剤の30℃の水溶液のCAA70%/CAA40%の比が1.8~4.0の範囲である、7又は8に記載の焼鈍分離剤。
【0025】
10.上記酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記の少なくともいずれかを更に含有する、7~9のいずれかに記載の焼鈍分離剤。
B:500~1300ppm;
Cl:100~350ppm;
CaO:0.2~0.6wt%;
SiO:0.2~5.0wt%;
TiO:0~10.0wt%;又は
非活性酸化マグネシウム:0~25.0wt%。
【0026】
11.上記焼鈍分離剤の粒子の平均粒径が0.5~5.0μmである、7~10のいずれかに記載の焼鈍分離剤。
【0027】
12.7~11のいずれかに記載の焼鈍分離剤を利用して得られる、フォルステライト層を表面に有する方向性電磁鋼鈑。
【0028】
13.酸化マグネシウムと硝酸アンモニウム溶液とを混合・反応して、硝酸マグネシウム溶液及びアンモニアを調製し、上記硝酸マグネシウム溶液を純化精製して、上記アンモニアを回収濃縮してアンモニア水とした後、精製した上記硝酸マグネシウム溶液と上記アンモニア水とを反応させて水酸化マグネシウムを得る工程(1)と、
得られた上記水酸化マグネシウムの一部を160~180℃の温度で120~180分間加熱することで高温熟成させ、得られた上記水酸化マグネシウムの他の一部を50~90℃の温度で120~180分間加熱することで低温熟成させる工程(2)と、
上記各々の条件で熟成させた上記水酸化マグネシウムを水酸化マグネシウムの質量比で1:8~8:1の比率で混合して、860~1050℃で焼成し、酸化マグネシウムを得て焼鈍分離剤に用いる工程(3)と、を含む、焼鈍分離剤の製造方法。
【0029】
14.Na含有量が20~50ppmであり、
沈降係数Sが0.90以上であり、
鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であり、
平均細孔径が45~100nmであって、主に酸化マグネシウムを含む、焼鈍分離剤。
【発明の効果】
【0030】
本発明の方法により得られた焼鈍分離剤は、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れ、方向性電磁鋼板の表面に均一で緻密なフォルステライト層を形成することができ、それにより優れた絶縁及び電磁特性を有する方向性電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例4で調製した焼鈍分離剤の電界放射走査型電子顕微鏡(FE-SEM、10万倍)の電子写真を示す。
図2】本発明の実施例4の焼鈍分離剤の平均細孔径測定曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[焼鈍分離剤の製造方法]
本発明の焼鈍分離剤の製造方法は、以下の工程を含む。
工程(1):酸化マグネシウムとアンモニウム塩溶液とを混合・反応して、マグネシウム塩溶液とアンモニアとを調製する。次に、精製されたマグネシウム塩溶液とアンモニアとを反応させて水酸化マグネシウムを得る。
工程(2):得られた水酸化マグネシウムの一部を155~230℃で高温熟成させ、且つ得られた水酸化マグネシウムの他の一部を10~100℃で低温熟成させる。
工程(3):上記各条件で熟成させた水酸化マグネシウムを混合して、焼成し、酸化マグネシウムを得て、焼鈍分離剤(以下、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」と称される場合がある)に用いられる。
【0033】
本発明の製造方法は、化学反応によって原料の酸化マグネシウムを純化することにより、純度の高い原料を得る。さらに、それを反応させて、水酸化マグネシウム前駆体を得る。そして、得られた水酸化マグネシウム前駆体に対してそれぞれ高温熟成及び低温熟成を行い、高温熟成させた水酸化マグネシウムと低温熟成させた水酸化マグネシウムとを混合して焼成し、得られる焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの物性を制御することができる。それにより、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れ、方向性電磁鋼板の表面に均一な緻密なフォルステライト層を形成することができる焼鈍分離剤を得ることができる。さらに、優れた絶縁性及び電磁特性を有する方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0034】
本発明の製造方法において、酸化マグネシウム源は特に制限されず、本分野で公知の一般的に使用される酸化マグネシウム源を使用することができる。例えば、海水又は苦汁に由来する水酸化マグネシウムを軽焼して得られる酸化マグネシウムを使用することができる。しかし、入手しやすく且つ純度の観点から、天然ブルーサイト、マグネサイト、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム(例えば、4MgCO・Mg(OH)・4HO又はMg(CO(OH)・4HO)等の原料を軽焼して得られる、軽焼酸化マグネシウムを使用することができる。なかでも、天然ブルーサイト、マグネサイト及び塩基性炭酸マグネシウム源は、広く流通しており、酸化マグネシウムの含有量が高いので、これらの材料を原料として簡単な軽焼(800~1000℃の焼成)を行うことにより、高含有量の酸化マグネシウムを得ることができる。また、原料を軽焼することにより、原鉱石中の水酸化物イオン及び炭酸イオンを除去し、一定の活性の酸化マグネシウム原料を得ることができる。
【0035】
本発明の製造方法において、酸化マグネシウムと反応するアンモニウム塩は特に制限されず、例えば、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムの溶液が挙げられる。なかでも硝酸アンモニウムが好ましい。
【0036】
さらに、硝酸アンモニウム溶液を例として、以下に本発明の製造方法を説明する。
【0037】
硝酸アンモニウム溶液を例とする場合、本発明の製造方法に係る具体的な化学反応式は、以下のとおりである。
MgO+2NHNO → Mg(NO+2NH↑+HO (1)
Mg(NO+2NH・HO → Mg(OH)+2NHNO (2)
Mg(OH) → MgO+HO (3)
【0038】
本発明の製造方法では、まず水酸化マグネシウム前駆体を製造する。具体的には、酸化マグネシウムを硝酸アンモニウム溶液に溶解させて、酸化マグネシウムと硝酸アンモニウム溶液とを混合して反応させることにより、硝酸マグネシウム溶液とアンモニアガスとを調製する。硝酸マグネシウム溶液を濾過で純化して、精製されたマグネシウム源とし、次に、精製された硝酸マグネシウム溶液をアンモニア水と反応させて、水酸化マグネシウムを得る。上記の化学反応式(1)及び(2)で表される化学反応により、原料の酸化マグネシウムを純化して、その不純物含有量を低減し、純度が非常に高い水酸化マグネシウムを得る。上記アンモニア水は、生成したアンモニアガスを回収濃縮することにより得ることができる。該反応で生成されたアンモニアをアルカリ源とすることにより、それをシステム内に循環して繰り返し利用することができ、原料コストを低減することができ、工業化を実現することに寄与する。
【0039】
本発明の製造方法において、酸化マグネシウムと反応する硝酸アンモニウム溶液は、そのモル濃度が0.5~8.0mol/Lであってもよく、好ましくは1.0~7.0mol/Lであり、最も好ましくは1.5~6.0mol/Lである。
【0040】
本発明の製造方法において、酸化マグネシウムは、粉末又はスラリーの形態で使用することができる。スラリーの形態で使用する場合、そのモル濃度は0.5~4.0mol/Lであってもよく、好ましくは0.8~3.8mol/Lであり、より好ましくは1.0~3.5mol/Lである。
【0041】
本発明の製造方法において、酸化マグネシウムと硝酸アンモニウム溶液との反応仕込み比は特に制限されないが、反応速度を速くし、生成物の生産量を向上させる観点から、硝酸アンモニウム/酸化マグネシウムのモル比は、1.6~2.40であってもよく、好ましくは1.7~2.30であり、最も好ましくは1.8~2.20である。具体的には、例えば工業スケールの製造において、酸化マグネシウム粉体を1000~1200kg/時間の添加量で、硝酸アンモニウム溶液に添加して、硝酸アンモニウムと酸化マグネシウムとのモル比を上記の比率にすることができる。酸化マグネシウムと硝酸アンモニウム溶液との反応過程において、必要に応じて反応を促進する目的で加熱処理を行うことができる。該加熱処理の条件は特に制限されず、本分野の一般的に用いられる加熱処理条件を採用することができる。例えば、90~140℃の条件下で加熱することができる。
【0042】
本発明の製造方法では、上記反応により得られた硝酸マグネシウム溶液を濾過し、未反応の酸化マグネシウム及び他の不溶物を除去し、高純度の硝酸マグネシウム溶液を得てマグネシウム源とする。上記反応により生成されたアンモニアは、水で回収し、例えば5~15.0mol/Lに濃縮して、アルカリ源とすることができる。
【0043】
本発明の製造方法では、得られた硝酸マグネシウム溶液とアンモニア水とを反応させて、水酸化マグネシウム前駆体を得る。該反応において、混合(反応)温度は特に制限されず、反応を進行させることができればよい。例えば、該反応温度は5~60℃であってもよい。反応温度が該範囲内にあると、温度が高すぎることで生成物前駆体の凝集性が強くなりすぎて、得られる焼鈍分離剤の反応性に影響を及ぼすようなことを回避することができ、又は、温度が低すぎることで反応が緩やかになり、反応温度を制御するためのエネルギー消費が大きく、大規模な工業化生産に不利であるという問題を回避することができる。該反応温度は、より好ましくは20~30℃であり、より好ましくは25℃である。
【0044】
本発明の製造方法では、次に水酸化マグネシウム前駆体の熟成を行う。従来の製造方法では、一般的に低温で水酸化マグネシウム前駆体を製造するが、低温では粒子の凝集が激しくなる。本発明では、得られた水酸化マグネシウム前駆体の一部を155~230℃の温度で高温熟成し、他の一部を10~100℃の温度で低温熟成する。異なる温度を採用して熟成することにより、二種の水酸化マグネシウム前駆体の結晶成長及び前駆体粒子の分散程度が互いに異なり、それにより得られる焼鈍分離剤の物性を制御することができる。
【0045】
上記のように、従来の製造方法では、一般的に低温で水酸化マグネシウム前駆体を製造するが、低温では粒子の凝集が激しく、物性が安定した粒子を得にくい。これに対して、本発明では、低温及び高温で水酸化マグネシウム前駆体を熟成させた後に、この両者を混合することにより、粒子の凝集を大幅に改善することができると同時に、粒子の分散性及び安定性も良好に制御することができる。したがって、鋼板に塗布する時のMgOとSiOとの接触性を改善し、フォルステライト層の成長を促進することができる。
【0046】
上記高温熟成では、水酸化マグネシウムスラリーを155~230℃の温度で120~600分間加熱することができる。該高温熟成により、水酸化マグネシウム前駆体粒子が十分に成長し、前駆体粒子の分散性を改善する等の作用を果たすことができる。該高温熟成の温度は好ましくは155~200℃であり、より好ましくは160~180℃である。該高温熟成の温度が230℃より高いと、製造コストが高く、大規模工業化生産に不利である。該高温熟成の温度が155℃未満であると、前駆体粒子の成長が好ましくない。該高温熟成の時間は、好ましくは120~450分間であり、より好ましくは120~240分間であり、特に好ましくは120~180分間である。上記時間範囲で高温熟成を行うことにより、前駆体粒子の成長が不十分であるという問題や、前駆体粒子が高い分散性を有して後期焼結に不利であると同時にエネルギー消費も高いという問題を更に回避することができる。
【0047】
上記低温熟成では、10~100℃の温度で60~300分間熟成することができる。該低温熟成により、水酸化マグネシウムが緩やかに成長し、一次粒子に適切な凝集を発生させる作用を果たすことができる。これは、後続の焼結に有利であり、生産性を向上させる。該低温熟成の温度は、好ましくは30~90℃であり、より好ましくは50~90℃である。該低温熟成の温度が100℃より高いと、水酸化マグネシウムの成長が速くなり、二次粒子の分散性が高くなりすぎて、二次粒子の凝集度を低くしやすく、その後に生成される酸化マグネシウムの細孔径と沈降性が制御しにくくなる。該低温熟成の温度が10℃より低いと、冷却する必要があるため、エネルギー消費が高くなりすぎ、工業化大規模生産に不利である。該低温熟成の時間は、好ましくは80~180分間であり、より好ましくは120~180分間である。上記時間範囲で低温熟成を行うことにより、分散性の制御に不利であるという問題や、前駆体粒子の分散性が高くなりすぎるという問題を更に回避することができる。
【0048】
上記の化学反応(1)~(2)並びに低温熟成及び高温熟成は、具体的な状況に応じて本分野の一般的な高圧反応釜などの反応器を用いて行うことができ、必要に応じて冷却、加熱又は撹拌などの処理を行うことができる。
【0049】
本発明の製造方法では、次に、高温熟成させた水酸化マグネシウムと低温熟成させた水酸化マグネシウムとを混合し、混合物を焼成する。上記混合において、高温熟成させた水酸化マグネシウムと低温熟成させた水酸化マグネシウムとの比率は、水酸化マグネシウムの質量比で、1:8~8:1であり、好ましくは1:5~2:1であり、最も好ましくは1:5~1:2である。両者の比率を上記の範囲に制御することにより、得られる焼鈍分離剤の物性を制御して、粒子の分布、凝集、沈降性及び塗布性を改善することができる。両者の比率が上記範囲外である場合、凝集体粒子の含有量が少なくなりすぎて又は多くなりすぎて、粒子の構成バランスを崩す可能性があり、分離剤の物性を最適化することができない。
【0050】
上記高温熟成させた水酸化マグネシウムと低温熟成させた水酸化マグネシウムとを混合した後、焼成する前に、必要に応じて混合された水酸化マグネシウムを更に100℃以下で加熱処理することができる。
【0051】
該焼成の温度は、820~1150℃であってもよく、好ましくは840~1100℃であり、より好ましくは860~1050℃である。焼成温度をこの範囲に制御することにより、活性、凝集性、分散性(懸濁性)がより良好な酸化マグネシウムを得ることができる。上記温度範囲内であれば、反応活性が大きくなりすぎて、含水量が高くなりすぎる場合が発生するという問題や、得られる酸化マグネシウムの活性が低くなりすぎて、懸濁液の安定性が低くなり、焼鈍分離剤に作用しにくくなって、満足できるフォルステライト層を形成しにくいという問題を回避することができる。焼成は、直火式ロータリーキルン等のロータリーキルンにおいて行うことができる。
【0052】
本発明の製造方法により、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れた酸化マグネシウムを、焼鈍分離剤として得ることができる。
【0053】
上記方法で得られた焼鈍分離剤は、主に酸化マグネシウムを含む。酸化マグネシウムの含有量は99.5wt%以上であってもよい。また、約20~50ppmのナトリウムを含有する。上記焼鈍分離剤の低ナトリウム含有量は、本発明の特徴の一つである。上記方法により、原料に含まれる不純物や反応過程で導入されるナトリウムの含有量を低く抑えることができる。低ナトリウム含有量は、本発明の焼鈍分離剤の純度の指標とすることもできる。
【0054】
本発明の製造方法により、得られる焼鈍分離剤の細孔径も制御することができる。焼鈍分離剤の平均細孔径は45~100nmであってもよい。このような適切な物性を有することにより、焼鈍分離剤中の水分の残留を最適化することができ、塗布後及び焼成後の焼鈍分離剤の残留水分を低レベルに低下させ、それにより満足できるフォルステライト層を得ることができる。
【0055】
上記焼成により得られる酸化マグネシウムは、そのまま焼鈍分離剤として使用することができる。しかし、焼鈍分離剤に更に良好な性質を発現させるために、上記焼成の前に、必要に応じて様々な微量含有物を助剤又は添加剤として添加することができる。微量含有物としては、例えば、カルシウム(Ca)、リン(P)、ホウ素(B)、硫黄(S)、フッ素(F)、塩素(Cl)、ケイ素(Si)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。これらの微量含有物は、その酸化物、塩、酸等の様々な形態で添加又は存在することができる。例えば、カルシウムを添加する場合、カルシウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びリン酸塩類を使用することができる。リンを添加する場合、リン酸、メタリン酸、ホスホン酸及び亜ホスホン酸、並びにこれらの物質のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩等の一般的な塩類を使用することができる。ホウ素を添加する場合、ホウ酸、アルカリ金属ホウ酸塩、ホウ酸アンモニウム塩及びアルカリ金属メタホウ酸塩類、並びに二酸化ホウ素などを使用することができる。硫黄を添加する場合、硫酸、亜硫酸、並びにそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩類を使用することができる。フッ素を添加する場合、フッ化マグネシウム等を用いることができる。塩素を添加する場合、塩化マグネシウム等を使用することができる。シリコンを添加する場合、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ土類金属ケイ酸塩及びコロイダルシリカ類を使用することができる。
【0056】
また、焼成して得られる焼鈍分離剤に、更に0~25wt%の不活性酸化マグネシウム及び/又は0~10wt%の二酸化チタンを添加することにより、焼鈍分離剤に更に良好な性質を発現させることができる。不活性酸化マグネシウムとは、上記の本発明の範囲を超える温度で高温焼成された酸化マグネシウムである。その焼成温度が高すぎるため、少なくとも部分的に反応活性を失う。
【0057】
以上では、硝酸アンモニウム溶液を例として本発明の製造方法を説明したが、上記説明は、上記の他のアンモニウム塩にも適用し得ることが理解できる。
【0058】
より具体的には、本発明の一実施形態において、焼鈍分離剤の製造方法は以下を含む。
工程(1):酸化マグネシウムと硝酸アンモニウム溶液とを混合して反応させ、硝酸マグネシウム溶液とアンモニアとを調製する。硝酸マグネシウム溶液を純化して精製し、アンモニアを回収し濃縮してアンモニア水とする。次に、精製された硝酸マグネシウム溶液をアンモニア水と反応させて水酸化マグネシウムを得る。
工程(2):得られた水酸化マグネシウムの一部を160~180℃の温度で120~180分間加熱することで高温熟成させる。得られた水酸化マグネシウムの他の一部を50~90℃の温度で120~180分間加熱することで低温熟成させる。
工程(3):上記各条件で熟成させた水酸化マグネシウムを、水酸化マグネシウム質量比で1:8~8:1の比率で混合して、860~1050℃で焼成し、酸化マグネシウムを得て、焼鈍分離剤に用いる。
【0059】
[焼鈍分離剤]
本発明の焼鈍分離剤は、上記方法により製造することができるが、本発明の焼鈍分離剤は上記製造方法に限定されるものではない。以下、本発明の焼鈍分離剤について詳細に説明する。
【0060】
本発明の焼鈍分離剤は、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れている。本発明の焼鈍分離剤を用いることにより、方向性電磁鋼板の表面に均一で緻密なフォルステライト層を形成することができる。それにより、優れた絶縁及び電磁特性を有する方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0061】
本発明の焼鈍分離剤は、上記の本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムで構成されてもよく、又は本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを主に含むものでもよい。そのような場合、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上であってもよく、その他は、不可避的不純物(例えば、Na)である。
【0062】
以上のように、本発明の焼鈍分離剤は、純度が高い。具体的には、本発明の焼鈍分離剤は、不純物含有量が低く、特にナトリウム(Na)の含有量が低く、例えばナトリウム含有量が20~50ppmであってもよい。上記のように、低ナトリウム含有量は、本発明の特徴の一つである。適量のナトリウムが存在すると、酸化物の融点を低下させることができる。これにより、固相反応を促進することができるので、フォルステライト層の形成に有利となる。ナトリウム含有量が20ppmより低い場合は、反応促進効果が著しくなく、ナトリウム含有量が50ppmより高い場合は、反応速度が速くなりすぎ、緻密なフォルステライト絶縁層の形成に不利となる。ナトリウム含有量は、好ましくは25~50ppmであり、より好ましくは35~45ppmである。本発明の焼鈍分離剤中のナトリウムは、主に原料に含まれる不純物と反応過程で導入される不純物に由来する。低ナトリウム含有量は、本発明の焼鈍分離剤の純度の指標とすることもできる。
【0063】
また、本発明の焼鈍分離剤は、下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上である。
S=(100-V)/100
ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。例えば上澄みの体積が15mlである場合、15となる。
【0064】
該沈降係数の具体的な測定方法は、例えば以下のとおりであってもよい。
10wt%の焼鈍分離剤分散液を配置して均一に分散した後、直ちに100mlの該分散液を取り出して、100mlのメスシリンダーに入れ、所定時間静置する。次に、上記式に従って沈降係数を求める。
【0065】
上記範囲内の沈降係数を有することにより、本発明の焼鈍分離剤は、良好で安定した分散性及び沈降性を有し、非常に安定した状態で存在し、凝集しにくい。本発明の焼鈍分離剤は、塗布液として塗布する際に、塗布に適した良好な分散状態を長時間保持することができ、得られる塗布層の塗布ムラを低減し、フォルステライト層の均一性を向上させることができる。
【0066】
また、本発明の焼鈍分離剤は、鋼板表面に塗布した後の下記式で定義される密着強度が80%以上である。
【0067】
密着強度=[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]×100%
【0068】
上記密着強度を有することにより、本発明の焼鈍分離剤は、密着強度が高く、鋼板との結合性が高いので、鋼板から離脱しにくく、それにより方向性電磁鋼板の製造過程において良好な反応を促進するという効果を果たすことができる。密着強度が80%より低い場合は、仕上げの焼鈍処理後に形成されるフォルステライト層が不均一になるという現象が発生する可能性があり、方向性電磁鋼板の品質や外観に影響を与える。該密着強度は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上である。密着強度のより具体的な測定方法は、実施例部分を参照することができる。
【0069】
さらに、本発明の焼鈍分離剤粉末の平均細孔径は45~100nmであってもよい。このような細孔径を有することにより、焼鈍分離剤中の残留水分を最適化することができ、塗布及び焼結後の焼鈍分離剤の残留水分を低レベルに低下させ、それにより満足できるフォルステライト塗布層を得ることができる。この平均細孔径は、より好ましくは45~75nmである。
【0070】
さらに、該焼鈍分離剤の30℃水溶液のCAA70%/CAM40%の比率は、1.8~4.0の範囲内にある。CAA活性度は、酸化マグネシウム粒子と酸の反応速度に基づく活性度、すなわちクエン酸活性度(CAA:Citric Acidity)を示す。CAAは、所定温度(例えば30℃)の0.4Nのクエン酸水溶液に指示薬のフェノールフタレインを混合し、最終反応当量の酸化マグネシウムを投入して撹拌し、クエン酸水溶液が中性になるまでの時間で表す。CAAは、方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤の活性評価指標とすることができる。1.8~4.0の範囲内のCAA70%/CAA40%の比を有することにより、該焼鈍分離剤は、適切且つ良好な反応性を有し、良好な被膜特性を得ることができる。具体的には、焼鈍分離剤のCAA70%は90~360秒であってもよい。CAA40%は50~90秒であってもよい。
【0071】
さらに、該焼鈍分離剤の平均粒径は0.5~5.0μmである。このような平均粒径を有することにより、焼鈍分離剤は、適度に凝集することができ、これにより良好な被膜特性を得ることができる。
【0072】
また、上記のように、本発明の焼鈍分離剤の製造過程では、上記焼成の前に、必要に応じて様々な微量含有物を助剤又は添加剤として添加することができる。このとき、本発明の焼鈍分離剤には、更に以下の一種又は複数種の微量含有物を含むことができる:カルシウム(Ca)、リン(P)、ホウ素(B)、硫黄(S)、フッ素(F)、塩素(Cl)、ケイ素(Si)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)。ここで、以下の具体的な説明における含有量は、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの重量に基づくものである。
【0073】
Bの含有量は500~1300ppmであってもよい。Bが存在すると、酸化物の融点を低下させて反応を促進することができるが、Bの含有量が高すぎると、酸化マグネシウムの焼結を加速し、酸化マグネシウム粒子のSiO層への拡散に影響を与え、鋼板表面にピット等の欠陥を発生させる。
【0074】
Clの含有量は100~350ppmであってもよい。Clは、混合酸化物の融点を適切に低下させることができ、それにより焼鈍分離剤の反応性を促進するという作用を果たす。しかし、Clの含有量が上記下限より低い場合は、効果が著しくなく、上記上限を超える場合は、基板の酸化反応を促進し、密着性の高いフォルステライトの形成が損なわれる。
【0075】
CaOに関して、Ca含有量は0.2~0.6wt%であってもよい。CaOの形態で適量に存在するCaは、基板と絶縁層との間に凹凸界面を形成し、それにより塗布層の密着性を向上させることができるが、含有量が高すぎると、品質問題をもたらす。
【0076】
SiOに関して、Si含有量は0.2~5.0wt%であってもよい。SiOの融点は低く、SiOの形態で存在するSiは、固相反応を促進することができ、他の二価金属とSiO層との反応を阻止することができる。
【0077】
また、本願の焼鈍分離剤は、更に適量のAlの形態でのAlや、Pの形態でのPを含むことができる。Alが生成するスピネル化合物の張力は、フォルステライトの二倍であり、それにより塗布層の密着性及び製品の磁性を向上させることができる。Al及びPの含有量は0.1~3wt%であってもよい。
【0078】
また、本願の焼鈍分離剤に含まれ得る他の微量含有物は、一般的に添加量を0.5wt%以下に制御する。その含有量が高すぎると、これらの金属酸化物とマグネシウムが競合して、マグネシウム以外のケイ酸塩を形成し、フォルステライトの形成に不利となり、最終的に方向性電磁鋼板の性能に影響を与える。
【0079】
また、本願の焼鈍分離剤においては、更に二酸化チタン及び/又は不活性酸化マグネシウムを含むことができ、これらは上記焼成後に添加することができる。不活性酸化マグネシウムとは、上記の本発明の範囲を超える高温で焼成された酸化マグネシウムである。その焼成温度が高すぎるため、少なくとも部分的に反応活性を失う。
【0080】
二酸化チタンの添加量は0~10.0wt%であってもよい。焼鈍過程において、二酸化チタンは適量の酸素を放出し、均一で緻密なフォルステライト層を形成することに寄与する。同時に、Ti3+は、マグネシウムと共にSiO層に拡散し、絶縁層の延伸強度を向上させ、鉄損などの物性を改善する。二酸化チタンの含有量が高すぎると、Ti+4のTi+3への移行過程において過剰な遊離酸素が発生し、方向性電磁鋼板の表面に黒ずみ等の不具合が発生する。
【0081】
不活性酸化マグネシウムの添加量は0~25.0wt%であってもよい。不活性酸化マグネシウムを添加することにより、形成されるフォルステライト絶縁層と基板との結合力をより強固にすることができる。これは、不活性酸化マグネシウムが部分的にしか反応に関与せず、それ自体の変化が小さいので、生成されるフォルステライト層と基板との間の膨張係数差が大きいという悪影響を改善することができるためである。これにより、不活性酸化マグネシウムを添加する場合は、その添加割合に応じて上記の他の助剤の割合を増加させることができるので、すべての酸化マグネシウムにおいて上記含有量の範囲を維持することができる。
【0082】
本発明の焼鈍分離剤は、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れ、方向性電磁鋼板の表面に均一で緻密なフォルステライト層を形成することができる。それにより、優れた絶縁及び電磁特性を有する方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0083】
より具体的には、本発明の一実施形態に係る焼鈍分離剤は、主に酸化マグネシウムを含み、ナトリウム含有量が20~50ppmであり、沈降係数Sが0.90以上であり、鋼板表面に塗布した後の密着強度が80%以上であり、平均細孔径が45~100nmである。
【0084】
[方向性電磁鋼板]
上記の焼鈍分離剤を用いることにより、本発明の方向性電磁鋼板を得ることができ、その表面は、本発明の焼鈍分離剤を使用して得られたフォルステライト層を有する。
【0085】
本発明の方向性電磁鋼板は、下記の方法により製造することができる。シリコン(Si)を2.5~4.5%含有するケイ素鋼片に対して、熱間圧延、焼鈍及び冷間圧延を公知の方法で行って所定の厚さに調整し、その後、湿潤雰囲気で脱炭焼鈍を行う。このとき、鋼板表面にシリカを主成分とする酸化被膜が形成される。次に、本発明の焼鈍分離剤を水に均一に分散させてスラリーを得る。該スラリーを鋼板に連続的に塗布し、焼付けた後、1200℃で20時間程度の仕上げ焼鈍を行い、鋼板表面にフォルステライト層(MgSiO被膜)を形成する。
【0086】
本発明の方向性電磁鋼板は、本発明の焼鈍分離剤から形成されたフォルステライト層を有するため、優れた絶縁及び電磁特性を有する。
【実施例
【0087】
以下に、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明する。ただし、本発明は、これらの合成例、実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0088】
まず、測定方法について説明する。
【0089】
1.平均粒径の測定
80mlのエタノールを100mlのビーカーに入れ、次に、0.8gの乾燥した下記実施例及び比較例で調製された焼鈍分離剤を入れ、超音波で4分間分散させた後、レーザー回折散乱粒度分布装置(商品名:MT3000、日機装社製)を用いて、焼鈍分離剤の平均粒径を測定した。
【0090】
2.沈降係数の測定
1000mlのビーカーに10℃の水900mlを量り取り、次に、100gの乾燥した下記実施例及び比較例で調製された焼鈍分離剤を添加し、IKA RW20 digital撹拌器(ドイツIKA社製)を用いて、2000rpm/minの回転数で60分間分散処理した。さらに、100mlの分散液を直ちに取り出して、100mlのメスシリンダーに入れ、1時間静置した。そして、以下の式に従って沈降係数を求めた。
沈降係数=(100-V)/100
V:上澄みの体積(ml);100:メスシリンダー体積(ml)
【0091】
また、沈降係数測定においては、合わせて24時間静置した後の沈降係数を測定して参考とした。
【0092】
3.密着強度の測定
厚さを0.5mmとしたこと以外は、下記の「5.フォルステライト被膜の評価」部分における評価用鋼板と同様にして鋼板を製造し、サイズが150mm×80mm×0.5mmの鋼板の重量を正確に秤量した。20gの乾燥した下記実施例及び比較例で調製された焼鈍分離剤を正確に称量して、20℃の150mlの水に入れ、IKA RW20 digital撹拌器(ドイツIKA社製)を用いて、2000rpmで1分間激しく撹拌分散し、塗布液を得た。該塗布液を、上記の既知の重量の鋼板にロール塗布機を用いて塗布した。次に、塗布後の鋼板を500℃のマッフル炉に入れて30秒間焼結し、冷却して秤量した後、鋼板を振動回転機(日本株式会社飯田製作所製の回転ハンマー型振動器)に置いた。さらに、鋼板に400gの海砂を置いた後、30秒振動回転処理(研磨)をした(回転数60Hz/290rpm)。処理後の鋼板重量を秤量し、下記式に従って密着強度を算出した。四枚の鋼板を測定し、その平均値を取得して密着強度とした。
密着強度=[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]×100%
【0093】
4.元素の定量分析
関連する元素の定量分析を、日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計を用いて行った。
【0094】
5.フォルステライト被膜の評価
方向性電磁鋼板用ケイ素鋼片に対して、公知の方法で熱間圧延及び冷間圧延を行い、その板厚を0.23mmとし、次に、湿潤雰囲気下(25%N+75%H)で脱炭焼鈍を行って、評価用鋼板を製造した。脱炭焼鈍前の鋼板の組成は、質量%でSi:3.2%、C:0.06%、Mn:0.02%、Al:100ppm、N:0.008%であり、残部が鉄及び不可避的不純物である。
【0095】
実施例及び比較例で得られた焼鈍分離剤を100g/Lの懸濁液(スラリー)に調製し、且つ二酸化チタンの含有量が焼鈍分離剤に含まれるすべての酸化マグネシウムの7wt%となるように、懸濁液に二酸化チタンを添加した。均一に混合したスラリーを10℃の水中で水和した後、焼鈍後の鋼板に塗布し、鋼板の両面の乾燥後の塗布量を15g/mとした。鋼板を焼付けた後、ロール状に巻き取り、1200℃で20時間焼鈍した後、熱間引っ張りで平坦にして完成品鋼板を製造し、それを以下のように評価した。
【0096】
被膜評価:全ロールの鋼板表面のフォルステライト被膜の状態を肉眼で観察した。全ロールが濃い灰色を呈し、明らかな色差がなく、且つ被膜欠陥部分が総面積の2%未満である場合を◎と評価し;全ロールが濃い灰色を呈し、明らかな色差がなく、且つ被膜欠陥部分が総面積の2~4%未満である場合を○と評価し;被膜欠陥部分が総面積の4~6%である場合を△と評価し;被膜欠陥部分が総面積の6%を超える場合を×と評価する。
【0097】
板型評価:焼鈍分離剤の反応性が不良である場合、鋼板の縁部に波状被膜を形成する。肉眼で全ロール鋼板の板型を観察し、鋼板の長さ方向の縁部における板面の凹凸(波状被膜)の長さが全ロール鋼板の長さの2%未満である場合を◎と評価し;板面の凹凸の長さが全ロール鋼板の長さの2~4%未満である場合を○と評価し;板面の凹凸の長さが全ロール鋼板の長さの4~6%である場合を△と評価し;板面の凹凸の長さが全ロール鋼板の長さ6%を超える場合を×と評価する。
【0098】
6.折り曲げ回数評価
上記「5.フォルステライト被膜の評価」部分で得られた完成品鋼板から、20cm×20cm×0.23mmの鋼板を試験片として切り取り、手作業で二つ折りに90度曲げ、被膜が脱落し始めるまでの曲げ回数を計算した。
【0099】
7.露晶評価
上記「5.フォルステライト被膜の評価」部分で得られた完成品鋼板から、20cm×20cm×0.23mmの鋼板を切り取って試験片とし、肉眼で観察して露晶の個数を計量した。露晶の個数が0~2個であるものを◎と評価し;露晶の個数が3~4個であるものを○と評価し;露晶の個数が5~7個であるものを△と評価し;露晶の個数が7個以上であるものを×と評価する。ここで、露晶は、完成品鋼板表面に肉眼で観察できる直径が0.1mm以上の“小さい穴”(塗布層の欠陥)を指し、MgOとSiOが十分に反応しないことによるものである。
【0100】
8.CAA70%/CAM40%の測定
0.4Nのクエン酸溶液1×10-4及び指示薬として適量(2×10-6)の1%フェノールフタレイン液を2×10-4のビーカーに添加し、液温を30℃に調整し、マグネチックスターラーを用いて700rpmで撹拌すると同時に、クエン酸溶液に40%又は70%の最終反応当量の焼鈍分離剤を添加し、最終反応までの時間、すなわちクエン酸が消費され、中性になるまでの時間を測定した。これによりCAA70%/CAA40%の比を計算した。
【0101】
9.平均細孔径の測定
実施例及び比較例で得られた焼鈍分離剤について、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、モデル:BELSORP-max)を使用して、下記条件で平均細孔径を測定した。
使用ガス:N
吸着条件:-196℃
前処理条件:105℃で1時間加熱
解析プログラム:BJH
【0102】
10.座突の測定
上記「5.フォルステライト被膜の評価」部分で得られた完成品鋼板に対して、座突現象の有無を目視で判断する。ここで、具体的に座突とは、完成品鋼板の冷却過程において、鋼板の縁部近傍と中間部分に発生する応力が異なることに起因する、縁部の応力集中による陥没現象を指す。
【0103】
合成例、実施例及び比較例
【0104】
水酸化マグネシウム前駆体の調製
撹拌器、冷却器、温度計及びガス吸引口が設けられた反応器において、100℃の加熱下で、軽焼酸化マグネシウム粉体(遼寧海城後英集団製、焼成温度が950℃であり、MgO含有量が92.9wt%であり、SiO含有量が2.39wt%であり、CaO含有量が2.36wt%であり、Al含有量が0.19wt%であり、Fe含有量が0.55wt%である)を、NHNO/MgO=2のモル比で、硝酸アンモニウム(河南開封晋開化工有限会社製)の水溶液に投入して撹拌し、軽焼酸化マグネシウムを硝酸アンモニウム溶液に溶解させて、両者を反応させ、硝酸マグネシウム溶液を生成させるとともにアンモニアガスを放出した。生成したアンモニアガスを水に入れて水で回収し、10.0mol/Lに濃縮してアルカリ源とした。生成された硝酸マグネシウム溶液を濾過して回収し、それを3.5mol/Lに調整して、マグネシウム源とした。
【0105】
上記の精製された硝酸マグネシウム溶液、アンモニア水及び水を、25℃で1.46molのMg(NO(417.14ml):2.92molのNH・HO(292.0ml):16.14molのHO(290.86ml)の割合で混合して、硝酸マグネシウムとアンモニアとを反応させ、濃度が85g/L(1.46mol/L)の水酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0106】
得られた水酸化マグネシウムスラリーを二つの部分に分け、一部は反応器において70℃で150分間加熱し、A液と記し、他の部分はオートクレーブ中において160℃で150分間加熱し、B液と記した。
【0107】
合成例1
A液中の水酸化マグネシウムを濾過し、水洗した後、純水に再分散し、焼成後の酸化マグネシウム中のCaOの含有量が0.45wt%となり、Bの含有量が0.075wt%となり、Clの含有量が0.02wt%となり、SiOの含有量が0.40wt%となるように、分散液に適量のCaCO、B、MgCl及びSiOを添加し、撹拌して分散させた。
【0108】
分散液を脱水して、水洗し、乾燥した。乾燥後の粉末は、大気雰囲気下でロータリーキルンにて1200℃で240分間焼成し、酸化マグネシウムを得た。さらに、それをハンマーミルで粉砕した後、合成例1と記した。
【0109】
得られた合成例1の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥及び焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0110】
合成例2
A液とB液を、水酸化マグネシウムの質量比で83.33%:16.67%(すなわち両者の合計が100%であり、以下同じである。)で混合した後、脱水、水洗し、純水に再分散させた。次に、混合液にCaCO、B、MgCl及びSiOを添加した。添加割合は合成例1と同じである。撹拌分散した後、脱水、水洗し、乾燥させた。乾燥後の粉末を、大気雰囲気下でロータリーキルンにて940℃で25分間焼成し、酸化マグネシウムを得た。さらに、ハンマーミルで粉砕した後、合成例2と記した。
【0111】
得られた合成例2の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、分散された水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥、焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0112】
合成例3
A液とB液を、水酸化マグネシウムの質量比で66.67%:33.33%で混合した後、脱水、水洗し、純水に再分散させた。次に、混合液にCaCO、B、MgCl及びSiOを添加した。添加割合は合成例1と同じである。撹拌分散した後、脱水、水洗し、乾燥させた。乾燥後の粉末を、大気雰囲気下でロータリーキルンにて940℃で25分間焼成し、酸化マグネシウムを得た。さらに、ハンマーミルで粉砕した後、合成例3と記した。
【0113】
得られた合成例3の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、分散された水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥、焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0114】
合成例4
A液とB液を、水酸化マグネシウムの質量比で33.33%:66.67%で混合した後、脱水、水洗し、純水に再分散させた。次に、混合液にCaCO、B、MgCl及びSiOを添加した。添加割合は合成例1と同じである。撹拌分散した後、脱水、水洗し、乾燥させた。乾燥後の粉末を、大気雰囲気下でロータリーキルンにて940℃で25分間焼成し、酸化マグネシウムを得た。さらに、ハンマーミルで粉砕した後、合成例4と記した。
【0115】
得られた合成例4の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、分散された水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥、焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0116】
合成例5
A液とB液を、水酸化マグネシウムの質量比で62.5%:37.5%で混合した後、脱水、水洗し、純水に再分散させた。次に、混合液にCaCO、B、MgCl及びSiOを添加した。添加割合は合成例1と同じである。撹拌分散した後、脱水し、乾燥させた。乾燥後の粉末を、大気雰囲気下でロータリーキルンにて940℃で25分間焼成し、酸化マグネシウムを得た。さらに、ハンマーミルで粉砕した後、合成例5と記した。
【0117】
得られた合成例5の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、分散された水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥、焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0118】
合成例6
A液とB液を、水酸化マグネシウムの質量比で37.5%:62.5%で混合した後、脱水、水洗し、純水に再分散させた。次に、混合液にCaCO、B、MgCl及びSiOを添加した。添加割合は合成例1と同じである。撹拌分散した後、脱水、水洗し、乾燥させた。乾燥後の粉末を、大気雰囲気下でロータリーキルンにて940℃で25分間焼成し、酸化マグネシウムを得た。さらに、ハンマーミルで粉砕した後、合成例6と記した。
【0119】
得られた合成例6の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、分散された水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥、焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0120】
合成例7
940℃で25分間焼成したこと以外は、“合成例1”における条件に従って、酸化マグネシウム粉末を製造し、合成例7と記した。
【0121】
得られた合成例7の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥、焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0122】
合成例7は、低温熟成のみを行った例である。
【0123】
合成例8
特許文献3(PCT/JP01/09354)の実施例2の方法に従って、酸化マグネシウム粉末を得て、合成例8と記した。
【0124】
具体的には、ロータリーキルンを用いて、マグネサイトを1100℃で1時間焼成し、BET比表面積が5.2×10・kg-1の酸化マグネシウムを製造した。この酸化マグネシウムを、スラリー濃度が2mol・kg-1となるように水に投入し、90℃で2時間反応させ、BET比表面積7.5×10・kg-1の水酸化マグネシウムを製造した。さらに、ロータリーキルンを用いて、980℃で、0.2時間、0.5時間、0.8時間及び2時間の各々の時間で焼成した後、衝撃式粉碎機で粉砕し、焼成度の異なる酸化マグネシウム粒子集合体を製造した。その後、4種の酸化マグネシウム粒子集合体を、混合比率25:30:15:30で混合して、合成例8の酸化マグネシウム粒子集合体を得た。
【0125】
得られた合成例8の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、この時の酸化マグネシウムの含有量を、助剤を添加する前のMgO含有量として表1に記載した。
【0126】
合成例9
B液中の水酸化マグネシウムを濾過し、水洗した後に、純水に再分散させ、分散液に適量のCaCO、B、MgCl及びSiOを添加した。添加割合は合成例1と同じである。撹拌分散した後、脱水、水洗し、乾燥させた。乾燥後の粉末を、大気雰囲気下でロータリーキルンにて940℃で25分間焼成し、酸化マグネシウムを得た。さらに、ハンマーミルで粉砕した後、合成例9と記した。
【0127】
得られた合成例9の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥、焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0128】
合成例9は、高温熟成のみを行った例である。
【0129】
合成例10
A液とB液を、水酸化マグネシウムの質量比で94.44%:5.56wt%で混合した後、脱水し、水洗し、純水に再分散させた。次に、混合液にCaCO、B、MgCl及びSiOを添加した。添加割合は合成例1と同じである。撹拌分散した後、脱水、水洗し、乾燥させた。乾燥後の粉末を、大気雰囲気下でロータリーキルンにて940℃で25分間焼成し、酸化マグネシウムを得た。さらに、ハンマーミルで粉砕した後、合成例10と記した。
【0130】
得られた合成例10の酸化マグネシウム粉末を元素分析し、結果を表1に記載した。また、上記の助剤を添加する前に、水酸化マグネシウムをサンプリングし、同様に脱水、水洗、乾燥、焼成を行い、得られた酸化マグネシウムを元素分析してその含有量を測定し、結果を表1に併記した。
【0131】
実施例1
合成例2の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を9:1の質量比で均一に混合した後、実施例1と記した。実施例1の配合割合を表2に記載した。
【0132】
実施例1の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0133】
実施例2
合成例3の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を9:1の質量比で均一に混合した後、実施例2と記した。実施例2の配合割合を表2に記載した。
【0134】
実施例2の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0135】
実施例3
合成例4の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を9:1の質量比で均一に混合した後、実施例3と記した。実施例3の配合割合を表2に記載した。
【0136】
実施例3の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0137】
実施例4
合成例5の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を8:2の質量比で均一に混合した後、実施例4と記す。実施例4の配合割合を表2に記載した。
【0138】
実施例4の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0139】
また、実施例4の焼鈍分離剤を電界放射走査型電子顕微鏡(FE-SEM、10万倍)により撮影し、得られた写真を図1に示した。
【0140】
本発明の実施例4の焼鈍分離剤の細孔径測定曲線を図2に示した。
【0141】
実施例5
合成例6の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を8:2の質量比で均一に混合した後、実施例5と記した。実施例5の配合割合を表2に記載した。
【0142】
実施例5の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0143】
実施例6
合成例3の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を7.5:2.5の質量比で均一に混合した後、実施例6と記す。実施例6の配合割合を表2に記載した。
【0144】
実施例6の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0145】
比較例1
合成例7の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を9:1の質量比で均一に混合し、比較例1と記した。比較例1の配合割合を表2に記載した。
【0146】
比較例1の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0147】
比較例2
合成例9の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を9:1の質量比で混合し、比較例2と記した。比較例2の配合割合を表2に記載した。
【0148】
比較例2の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0149】
比較例3
合成例8の酸化マグネシウム粉末を比較例3として用いた。
【0150】
比較例3の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0151】
比較例4
合成例10の酸化マグネシウム粉末と合成例1の酸化マグネシウム粉末を9:1の質量比で混合し、比較例4と記した。比較例4の配合割合を表2に記載した。
【0152】
比較例4の焼鈍分離剤に対して、上記の方法で平均粒径の測定、沈降係数の測定、密着強度の測定、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数評価、露晶評価、CAA70%/CAM40%の測定、細孔径の測定及び座突の測定をそれぞれ行い、結果をそれぞれ表3に記載した。
【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
【表3】
【0156】
以上のデータから分かるように、本発明を満たす焼鈍分離剤は、沈降係数、密着強度、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数、露晶評価及び座突の測定において、いずれも優れており、工業的に非常に大きな利用価値を有している。これに対して、本発明の範囲以外の焼鈍分離剤は、沈降係数、密着強度、フォルステライト被膜の評価、折り曲げ回数、露晶評価及び座突の測定のうちの少なくとも一つにおいて要求を満たさず、本発明の焼鈍分離剤に劣っている。
図1
図2