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特許7470246焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/00 20060101AFI20240410BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240410BHJP
   C01F 5/06 20060101ALI20240410BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C23C22/00 A
C21D8/12 B
C01F5/06
C21D9/46 501B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023202207
(22)【出願日】2023-11-29
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】松川 周矢
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 大介
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201528(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114561512(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103415486(CN,A)
【文献】国際公開第2013/051270(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
C01F 5/00-5/42
C21D 8/12
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの含有量は20~300ppmであり、かつ、
前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項2】
結晶子の平均の大きさは25~60mmである、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項3】
Cl、Mn、Fe、Cuから選択される少なくとも1種以上の元素を更に含む、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項4】
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法であって、
アルミニウムを含有する水酸化マグネシウム原料、及び、アルカリ原料を、それぞれ連続的に反応槽へ供給しながら、前記水酸化マグネシウム原料と前記アルカリ原料とを乱流が生じている状態で反応させつつ、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に前記反応槽から取り出す反応工程と、
取り出された前記水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを形成する形成工程と、
を備え、
前記酸化マグネシウム中の前記アルミニウの含有量は20~300ppmであり、
前記酸化マグネシウム中の前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法。
【請求項5】
方向性電磁鋼板の製造方法であって、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する塗布工程と、
前記スラリーを塗布された前記鋼板を焼鈍する焼鈍工程と、
を備え、
前記酸化マグネシウム中のアルミニウの含有量は20~300ppmであり、
前記酸化マグネシウム中の前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である、
方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板におけるフォルステライト被膜の平滑性を高めることを目的とした焼鈍分離剤が知られている。例えば、特許文献1には、方向性電磁鋼板用の焼鈍分離剤が開示されている。その焼鈍分離剤は、Cl:0.01~0.05mass%、B:0.05~0.15mass%、CaO:0.1~2mass%およびP:0.03~1.0mass%を含み、マグネシアを主体とする。そのマグネシアでは、クエン酸活性度が40%CAAで30~120秒、BET法による比表面積が8~50m/g、強熱減量による水和量が0.5~5.2mass%および、粒径45μm以上の粒子の含有量が0.1mass%以下である。さらに、その焼鈍分離剤は、粒径45μm以上150μm以下の非水溶性化合物を0.05mass%以上20mass%以下にて含有する。特許文献1では、その焼鈍分離剤を用いることで、均一でかつ平滑なフォルステライト被膜を容易に形成することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/051270号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、平滑なフォルステライト被膜を形成するために、焼鈍分離剤のマグネシア、すなわち酸化マグネシウムにおける微量元素の含有量を規定している。しかし、特許文献1には、酸化マグネシウム中の微量元素の濃度のばらつきについては記載されていない。したがって、平滑なフォルステライト被膜を形成する技術には、更に改善する余地がある。
【0005】
本発明は、方向性電磁鋼板の表面に平滑なフォルステライト被膜を形成できる焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の各開示を含むものである。
【0007】
(第1の開示)
第1の開示は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムである。上記酸化マグネシウムはアルミニウムを含む。上記酸化マグネシウム中の上記アルミニウムの含有量は、20~300ppmである。上記酸化マグネシウム中の上記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である。
【0008】
(第2の開示)
第2の開示では、第1の開示において、上記酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは、25~60nmである。
【0009】
(第3の開示)
第3の開示では、第1の開示又は第2の開示において、上記酸化マグネシウムは、Cl、Mn、Fe、Cuから選択される少なくとも1種以上の元素を更に含む。
【0010】
(第4の開示)
第4の開示は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法である。上記酸化マグネシウムの製造方法は、反応工程と、形成工程と、を備える。反応工程は、アルミニウムを含有する水酸化マグネシウム原料、及び、アルカリ原料を、それぞれ連続的に反応槽へ供給しながら、上記水酸化マグネシウム原料と前記アルカリ原料とを乱流が生じている状態で反応させる。そして、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に上記反応槽から取り出す。形成工程は、取り出された上記水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを形成する。上記酸化マグネシウムはアルミニウムを含む。上記酸化マグネシウム中の上記アルミニウムの含有量は、20~300ppmである。上記酸化マグネシウム中の上記アルミニウムの濃度の変動係数は、0.25以下である。
【0011】
(第5の開示)
第5の開示は、方向性電磁鋼板の製造方法である。上記方向性電磁鋼板の製造方法は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する塗布工程と、上記スラリーを塗布された上記鋼板を焼鈍する焼鈍工程と、を備える。上記酸化マグネシウムはアルミニウムを含む。上記酸化マグネシウム中のアルミニウムの含有量は、20~300ppmである。上記酸化マグネシウム中の上記アルミニウムの濃度の変動係数は、0.25以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、方向性電磁鋼板の表面に平滑なフォルステライト被膜を形成できる焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法における好適な実施形態について説明する。
【0014】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム]
本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、酸化マグネシウムを主成分とする粉体であるが、他の微量元素を含み得る。ただし、微量元素を「含む」とは、微量元素を、酸化マグネシウムの粒子の内部及び/又は外部に含むことをいう。焼鈍分離剤の酸化マグネシウムの含有量は少なくとも95質量%以上であり、好ましくは98質量%以上である。したがって、焼鈍分離剤の微量元素の含有量は5質量%未満であり、好ましくは2質量%未満である。以下では、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを、単に、酸化マグネシウムとも記す。
【0015】
酸化マグネシウムは、微量元素としてアルミニウム(Al)を含む。焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムと鋼板表面の二酸化ケイ素との反応によりフォルステライト被膜を形成する場合には、アルミニウムは、フォルステライト相(MgSiO)の融点を下げる効果を有する。それにより、フォルステライト相のフロー性を向上させることができるので、形成されるフォルステライト被膜全体の外観の平滑性を向上させることが出来る。
【0016】
酸化マグネシウム中のアルミニウムの含有量が少な過ぎると、フォルステライト相の融点を下げる効果が生じ難くなる。一方、アルミニウムの含有量が多過ぎても融点を下げる効果が低下し易くなる。したがって、酸化マグネシウムにおけるアルミニウムの含有量は、20~400ppmが好ましい。酸化マグネシウムが20ppm以上のアルミニウムを含有することで、フォルステライト相の融点を下げる効果が生じ易くなる。それにより、フォルステライト相のフロー性が向上するので、フォレステライト被膜を平滑にすることができる。酸化マグネシウムが400ppm以下のアルミニウムを含有することで、過剰なアルミニウムによるフォルステライト相の融点を下げる効果の低下を抑制できる。それにより、フォルステライト相のフロー性が向上するので、フォレステライト被膜を平滑にすることができる。また、アルミニウムの分布が不均一になり難く、フォレステライト被膜のムラの発生を抑制できる。アルミニウムの含有量の下限としては、25ppmが好ましい。アルミニウムの含有量の上限は、300ppmが好ましい。
【0017】
上記のように、酸化マグネシウムにおけるアルミニウム含有量により、フォルステライト相の融点を下げる効果が変化し得る。すなわち、アルミニウムの含有量により、フォレステライト被膜の平滑性が変化し得る。そのため、アルミニウムの含有量が上記所定の範囲内にあるだけでなく、アルミニウムの分布が均一であることが好ましい。言い換えると、アルミニウムの含有量が上記所定の範囲内にあるだけでなく、アルミニウムの濃度のばらつきも低いことが好ましい。そこで、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムでは、アルミニウムの濃度のばらつきの程度を示す変動係数は、0.30未満が好ましい。その変動係数は0.25以下がより好ましい。ただし、その変動係数は、酸化マグネシウムにおける複数の酸化マグネシウム粒子において、個別の酸化マグネシウム粒子が含有するアルミニウムの濃度のばらつきに相当する係数である。変動係数の求め方については、後述される。
【0018】
上記の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、少なくとも、アルミニウムの含有量が所定の数値範囲内にあり、そのアルミニウムの濃度のばらつきが抑制されている。そのため、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを鋼板上に均一に塗布することで、アルミニウムを所定の数値範囲内の含有量で均一に鋼板に分布させることができる。それにより、フォルステライト相全体で、均一に、融点が下がり、フロー性が向上し、フォルステライト被膜の全体の平滑性を向上させることが出来る。すなわち、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、方向性電磁鋼板の表面に平滑なフォルステライト被膜を形成することができる。
【0019】
酸化マグネシウムの粒子の結晶子の平均の大きさは、酸化マグネシウムの反応性を調節できれば、特に限定されるものではない。結晶子の平均の大きさとしては、25~60nmが好ましい。結晶子の平均の大きさが25nm以下であると、反応性が過剰に大きく、塗布スラリー調製時に水和したり、フォルステライトの形成が局所的に進んだりする。結晶子の平均の大きさが60nm以上であると、酸化マグネシウムの反応性が低下し、フォルステライトが形成されにくくなる。結晶子の平均の大きさの求め方は、後述される。
【0020】
酸化マグネシウム粒子の形状は、微量元素の含有量が所定の範囲内にでき、微量元素の濃度のばらつきが粒子間で少なくできれば、特に限定されるものではない。粒子の平面形状としては、例えば、多角形、矩形、多角形状、楕円形、円形、不定形、それらの組み合わせが挙げられる。粒子の形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率20000倍で写真撮影を行い、得られた画像で確認できる。
【0021】
酸化マグネシウムの粒度分布は、微量元素の含有量や微量元素の濃度のばらつきが粒子間で少なくできれば、特に限定されるものではない。D10は、好ましくは、0.5~2.0μmである。D50は、好ましくは、1.5~4.0μmである。D90は、好ましくは、6.0~14μmである。体積平均径MVは、例えば、2.0~7.0μmが挙げられる。酸化マグネシウムの粒度分布では、比較的小さいが小さ過ぎない範囲に粒子径に分布しているため、スラリー中の粒子の凝集を抑えつつ、分散性を高められる。粒度分布の求め方は、後述される。
【0022】
酸化マグネシウムは、方向性電磁鋼板での被膜形成の促進、被膜特性の改善及び/又は磁気特性の改善に資することが知られている種々の微量元素を含んでもよい。そのような微量元素としては、例えば、塩素(Cl)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、銅(Cu)、リン(P)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、及びカルシウム(Ca)から選択される少なくとも一種以上の元素、又は、その化合物が挙げられる。
【0023】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法]
酸化マグネシウムの製造方法としては、上記構成、特に微量元素の濃度のばらつきの少ない酸化マグネシウムを製造可能であれば特に制限はない。その製造方法としては、例えば、以下の三つの方法が挙げられる。
【0024】
第一の方法では、微量元素を含む水酸化マグネシウム原料の水溶液とアルカリ原料の水溶液とを連続的に反応槽へ供給しながら、乱流が生じている状態で反応させつつ、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に反応槽から取り出す。そして、その取り出された水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る。ただし、微量元素の原料の水溶液と、水酸化マグネシウム原料の水溶液と、アルカリ原料の水溶液とを、それぞれ連続的に反応槽へ供給しながら、反応を進めてもよい。
【0025】
第二の方法では、反応槽中の微量元素を含む水酸化マグネシウム原料の水溶液に、アルカリ原料の水溶液を連続的に供給しながら、乱流が生じている状態でバッチ反応にて水酸化マグネシウムを合成する。そして、その合成された水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る。ただし、反応槽中の水酸化マグネシウム原料の水溶液に、微量元素の原料の水溶液と、アルカリ原料の水溶液とを、それぞれ連続的に供給しながら、反応を進めてもよい。
【0026】
第三の方法では、微量元素の原料の粉末と水酸化マグネシウムの粉末とを混合し、焼成して、酸化マグネシウムを得る。ただし、酸化マグネシウムの粉末は、例えば、第一又は第二の方法において、水酸化マグネシウムを生成するとき、微量元素の原料を添加しない方法で得ることができる。
【0027】
逆に、水酸化マグネシウム原料中に微量元素が過剰に含まれている場合、水酸化マグネシウム原料に、当該微量元素に適したキレート剤を添加してもよい。
【0028】
ただし、水酸化マグネシウム原料としては、例えば、水溶性マグネシウム塩又はその水和物が挙げられ、具体的には、塩化マグネシウム六水和物、塩化マグネシウム二水和物、塩化マグネシウム無水和物が好適である。この他、水酸化マグネシウム原料として、海水、潅水、苦汁を用いてもよい。
【0029】
目的とする微量元素の原料、すなわち目的微量元素原料としては、例えば、微量元素そのもの、及び、微量元素の化合物が挙げられる。微量元素の化合物としては、例えば、微量元素を含む酸、塩基及びそれらの塩、微量元素の酸化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩が挙げられる。微量元素がアルミニウムの場合、アルミニウム原料であるアルミニウムの化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、及び酸化アルミニウムが挙げられる。
【0030】
アルカリ原料としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムが挙げられる。なお、水酸化マグネシウムを焼成するとき、その焼成雰囲気としては、例えば、空気、窒素が挙げられる。
【0031】
キレート剤としては、目的微量元素原料に対してキレート錯体を形成可能であれば、特に限定されない。微量元素がアルミニウムの場合、キレート剤としては、例えば、トリエタノールアミン、が挙げられる。
【0032】
第一の方法では、例えば、まず、目的微量元素原料と水酸化マグネシウム原料とを脱イオン水に添加して、目的微量元素原料及び水酸化マグネシウム原料を含む水溶液、すなわち水酸化マグネシウム原料水溶液を形成する。一方、アルカリ原料を脱イオン水に添加して、アルカリ原料を含む水溶液、すなわちアルカリ原料水溶液を形成する。次に、水酸化マグネシウム原料水溶液と、アルカリ原料水溶液とを、反応槽にそれぞれ所定の流量で連続的に注加する。そして、反応槽内で、目的微量元素原料を添加された水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを、攪拌により乱流が生じている状態で反応させつつ、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に反応槽から取り出す(反応工程)。そのとき、MgとOHとの比が概ね1:2になるような流量で、水酸化マグネシウム原料水溶液とアルカリ原料水溶液とを反応槽に注加する。「概ね」とは、流量の誤差が±50%の範囲をいう。その際、必要に応じて、反応槽内を所定圧力及び所定温度に保持する。このように、目的微量元素原料を添加された水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを乱流が生じている状態で連続的に反応させることにより、目的とする微量元素を添加された水酸化マグネシウムを合成する。必要に応じて、水洗、ろ過、乾燥を行う。その後、その微量元素を添加された水酸化マグネシウムを所定温度で焼成して、微量元素を添加された酸化マグネシウムを得る(形成工程)。
【0033】
第二の方法では、例えば、まず、目的微量元素原料と水酸化マグネシウム原料とを脱イオン水に添加して、目的微量元素原料及び水酸化マグネシウム原料を含む水溶液、すなわち水酸化マグネシウム原料水溶液を形成する。一方、アルカリ原料を脱イオン水に添加して、アルカリ原料を含む水溶液、すなわちアルカリ原料水溶液を形成する。次に、反応槽内の水酸化マグネシウム原料水溶液中に、アルカリ原料水溶液を所定の流量で注加して、反応槽内で、目的微量元素原料を添加された水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを、攪拌により乱流が生じている状態で反応させる(反応工程)。その際、必要に応じて、反応槽内を所定圧力及び所定温度に保持する。このように、目的微量元素原料を添加された水酸化マグネシウム原料に、アルカリ原料を少しずつ乱流が生じている状態で反応させることにより、目的とする微量元素を添加された水酸化マグネシウムを合成する。必要に応じて、水洗、ろ過、乾燥を行う。そして、その微量元素を添加された水酸化マグネシウムを所定温度で焼成して、微量元素を添加された酸化マグネシウムを得る(形成工程)。
【0034】
第三の方法では、例えば、まず、水酸化マグネシウム原料を脱イオン水に添加して、水酸化マグネシウム原料を含む水溶液、すなわち水酸化マグネシウム原料水溶液(微量元素なし)を形成する。一方、アルカリ原料を脱イオン水に添加して、アルカリ原料を含む水溶液、すなわちアルカリ原料水溶液を形成する。次に、反応槽内の水酸化マグネシウム原料水溶液(微量元素なし)中に、アルカリ原料水溶液を所定の流量で注加して、反応槽内で、水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを反応させる。その際、必要に応じて攪拌しつつ、反応槽内を所定圧力及び所定温度に保持する。このように、水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを反応させることにより、微量元素を含まない水酸化マグネシウムを合成する(反応工程)。この微量元素を有さない水酸化マグネシウムの粉末に、目的微量元素原料の粉末を混合する。そして、目的微量元素原料の粉末が混合された水酸化マグネシウムの粉末を、所定温度で焼成して、微量元素を添加された酸化マグネシウムを得る(形成工程)。
【0035】
別の製造方法の例としては、例えば、鉱物マグネサイトを焼成して得られた酸化マグネシウムを用いる方法が挙げられる。その製造方法は、まず、鉱物マグネサイトから得られた酸化マグネシウムを水和させ、水酸化マグネシウムの粉末を得る。次いで、その水酸化マグネシウムの粉末を用いて上記の第三の方法を実施して、酸化マグネシウムを得る方法である。
【0036】
ここで、本明細書で用いる、水酸化マグネシウムのサンプルの焼成に関する用語の意味は、以下のとおりである。「昇温時間」とは、サンプルを焼成する際、室温から加熱して目的とする最高温度に達するまでの時間を意味する。「保持温度」とは、サンプルを焼成する際、目的とする最高温度を意味する。焼成温度ともいう。「保持時間」とは、サンプルを焼成する際に、保持温度を維持する時間を意味する。「降温時間」とは、サンプルを焼成する際に、保持時間が経過した後に保持温度から冷却して室温に達するまでの時間を意味する。なお、冷却は、冷却手段を用いた積極的な冷却のほか、放冷のような緩やかな冷却も含む。
【0037】
<焼成条件>
酸化マグネシウムは、酸化マグネシウムを得る際の最終的な焼成の条件と、最終的な焼成に供される前駆体中に含まれる微量元素を調製することで制御できる。焼成の条件は、昇温時間、保持温度、保持時間及び降温時間を含む。
【0038】
酸化マグネシウムを得る条件としては、例えば、昇温時間は、0.5時間~3時間が好ましく、1時間~2時間がより好ましい。保持温度は、600℃~1300℃が好ましく、700℃~1200℃がより好ましい。保持時間は、0.1時間~15時間が好ましく、0.2時間~13時間がより好ましい。降温時間は、0.1時間~6時間が好ましく、0.2時間~5時間がより好ましい。
【0039】
昇温時間、保持時間及び降温時間が上記範囲より短いと、水酸化マグネシウムの焼成が完了しなかったり、フォルステライト被膜形成時に酸化マグネシウムの反応性が高すぎたりするため、フォルステライトが均一に形成されにくくなる。一方、昇温時間、保持時間及び降温時間が上記範囲より長いと、酸化マグネシウムの反応性が低くなりすぎるため、フォルステライトが形成されにくくなる。
【0040】
酸化マグネシウムに含まれるホウ素は、焼成の際の保持温度が約1200~1300℃において、焼成対象の物質の融点を低くする効果がある。酸化マグネシウムに含まれるホウ素の含有量は0.05~0.15質量%であることが好ましい。このような数値範囲のホウ素の含有量を有する酸化マグネシウムを焼鈍分離剤として用いた場合、フォルステライト被膜の特性を向上でき、方向性電磁鋼板の磁気特性と絶縁特性を良好にすることができる。
【0041】
酸化マグネシウムに含まれるナトリウムの含有量は0.1~200ppmであることが好ましい。このような数値範囲のナトリウムの含有量を有する酸化マグネシウムを焼鈍分離剤として用いた場合、フォルステライト被膜の特性を向上でき、方向性電磁鋼板の磁気特性と絶縁特性を良好にすることができる。
【0042】
<焼成雰囲気>
焼成の際の雰囲気は窒素でも空気でも良い。焼成対象の物質に熱が均一に当たればよい。焼成中に焼成対象の物質を均一に攪拌しても良い。そのような焼成を行う装置としては、例えば、ロータリーキルンが挙げられる。
【0043】
<酸化マグネシウム中の微量元素の含有量の制御>
酸化マグネシウム中の微量元素の含有量の制御は、以下のようにして行うことができる。まず、酸化マグネシウムの製造用の原料に含まれる微量元素の含有量を測定する。そして、その結果に基づいて、酸化マグネシウムに含まれる微量元素の含有量が所望の含有量になるよう、原料や中間生成物において微量元素を添加し、又は除去する。原料としては、例えば、マグネシウム原料、鉱物マグネサイト、マグネシウム原料に反応させるアルカリが挙げられる。中間生成物としては、例えば、水酸化マグネシウムが挙げられる。
【0044】
微量元素を添加する方法は、特に限定されるものではない。例えば、制限対象となる微量元素を含む化合物を原料や中間生成物に混合する方法が挙げられる。混合の方法は、湿式であっても乾式であっても良い。なお、中間生成物には上述の前駆体を含む。
【0045】
微量元素を除去する方法は、特に限定されるものではない。その方法については、例えば、原料や中間生成物を洗浄する方法、目的微量元素に対してキレート剤を添加する方法が挙げられる。洗浄の具体的な例としては、水洗が挙げられる。
【0046】
異なる組成の中間生成物を混合して微量元素の過不足を調製した後、最終焼成をして、微量元素の含有量が所望の含有量となった酸化マグネシウムを得ることもできる。又は、異なる組成の最終焼成後の酸化マグネシウムを混合し、微量元素の過不足を調製して、微量元素の含有量が所望の含有量となった酸化マグネシウムを得ることもできる。
【0047】
酸化マグネシウムの製造工程において、被膜特性、磁気特性を改善する働きが知られている種々の添加物を効果的に添加してもよい。その添加物としては、例えば、銅(Cu)、リン(P)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、及びそれらの化合物が挙げられる。
【0048】
<酸化マグネシウムの粒度分布(D10、D50、D90、MV)の制御>
酸化マグネシウムの粒度分布は、以下の方法で制御できる。
その一つの方法は、マグネシウム原料とアルカリ原料とを反応させて水酸化マグネシウムを合成するときの、反応温度、反応率、攪拌条件の少なくとも一つを調整する方法である。他の方法は、最終焼成前の前駆体を粉砕する方法である。他の方法は、水酸化マグネシウムの焼成条件を制御する方法である。他の方法は、最終焼成後の酸化マグネシウムを再焼成する又は粉砕する方法である。
【0049】
上記のような条件により、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムが製造される。この酸化マグネシウムは、上記所定の構成を有しているので、酸化マグネシウム中の微量元素の含有量のばらつきを抑制できる。
【0050】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いた方向性電磁鋼板の製造方法]
次に、上述された焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いた方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。製造方法は、上記された酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する塗布工程と、酸化マグネシウムを塗布された鋼板を焼鈍する高温焼鈍工程と、を備えている。
【0051】
<塗布工程>
上記された酸化マグネシウムを液体に均一に分散させ、酸化マグネシウムを含むスラリーを形成する。液体は、例えば、水が挙げられる。このとき、酸化マグネシウムが水和しないように、5℃のような低温でスラリーを形成する。
【0052】
酸化マグネシウムの濃度は、例えば、5~30質量%が挙げられる。酸化マグネシウムの濃度の下限は、スラリーを鋼板に斑なく塗布し易くする観点から、好ましは7質量%である。焼鈍分離剤の濃度の上限は、スラリーを塗布し易い粘度にする観点から、好ましくは25質量%である。
【0053】
5℃におけるスラリーの粘度は、例えば、2.2~5.2mPa・sが挙げられる。5℃におけるスラリーの粘度の下限は、十分な塗布量を確保する観点から、好ましくは2.6mPa・sである。5℃におけるスラリーの粘度の上限は、スラリーを塗布し易くする観点から、好ましくは4.6mPa・sである。
【0054】
そのスラリーを、ロールコーティング装置又はスプレー装置を用いて、脱炭焼鈍された鋼板に連続的に塗布する。ただし、酸化マグネシウムが水和しないように、5℃のような低温でスラリーを塗布する。このとき、上記の構成を有する酸化マグネシウムを用いているので、その酸化マグネシウムを含むスラリーを鋼板上に均一に塗布することで、塗布されたスラリー中の微量元素の含有量のばらつきを抑制できる。その後、塗布されたスラリーを、例えば、300~500℃程度の温度で乾燥させる。
【0055】
<高温焼鈍工程>
上記されたスラリーが塗布され、したがって、酸化マグネシウムが塗布された鋼板を焼鈍する。焼鈍の条件としては、例えば、1000~1200℃、10~20時間が挙げられる。それにより、鋼板の表面には、フォルステライト被膜が形成され、その後、必要に応じて公知の所定の処理を行うことにより、上述された焼鈍分離剤を用いた方向性電磁鋼板が形成される。
【0056】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法では、上記所定の構成を有しているので、酸化マグネシウムを鋼板上に均一に塗布することで、鋼板上に、微量元素の含有量のばらつきが抑制されたフォルステライト被膜を形成できる。それにより、磁気特性が改善された方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0057】
なお、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法は、上述の実施形態や後述の実施例に制限されず、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更が可能である。
【0058】
<測定方法・試験方法>
各種の測定方法・試験方法については、以下のとおりである。
【0059】
1.微量元素の濃度と、その平均値、標準偏差及び変動係数
微量元素の濃度、その平均値、標準偏差及び変動係数については以下の方法で求めた。
(1)測定対象の酸化マグネシウム(粉体)を準備した。
(2)その酸化マグネシウムを、縦4mm×横4mmのペレットに成形して、試料とした。
(3)試料を、アルバック・ファイ社製のD-SIMS(Dynamic Secondary Ion Mass Spectrometry)PHI ADEPT-1010にセットする。そして、一次加速電圧が5.0kVの条件で、試料の表面から深さ約5μmまで、深さ方向に250点の測定点での微量元素の濃度を測定した。
(4)測定された250点の微量元素の濃度に基づいて、微量元素の濃度の平均値(μ)及び標準偏差(σ)を求めた。
(5)変動係数を、標準偏差(σ)/平均値(μ)により算出した。
なお、D-SIMSの各測定点での微量元素の濃度は、粒子一個一個の微量元素の濃度とは必ずしも言えない。測定点が5μm/250=0.02μm毎に存在し、その測定間隔は概ね酸化マグネシウムの粒子径よりも小さい。したがって、各測定点での微量元素の濃度は、粒子一個一個よりも詳細な微量元素の濃度に近似できる。
【0060】
2.微量元素の含有量
微量元素の含有量については以下の方法で求めた。測定対象の試料0.5gを30%HNO溶液5mlに溶解した後、超純水で100mlに定容して、試験液とした。その試験液を、発光分光分析装置SPS3520-DD(株式会社 日立ハイテクサイエンス製)を用いて検量線法で測定し、微量元素の含有量を得た。
【0061】
3.結晶子の平均の大きさ
結晶子の平均の大きさについては以下の方法で求めた。
(1)測定対象の酸化マグネシウム(粉体)を準備した。
(2)その酸化マグネシウムを、粉末X線回折装置(マルバーン・パナリティカル製X線回折装置Empyrean)にセットし、粉末X線回折の測定を行い、回折データを得た。ただし、測定条件は、X線出力:45kV、40mA、走査速度:40度/分、ステップ幅:0.02度、X線:CuKα線、とした。
(3)回折データに基づいて、構成成分の同定を行うと共に、酸化マグネシウムの(200)面に帰属されるピークの半値幅から結晶子の平均の大きさを求めた。ただし、XRD解析ソフトウェアは、統合粉末X線解析ソフトウェアHighScore Plusを用いた。ただし、結晶子の平均の大きさは、酸化マグネシウムの(200)面に帰属される回折ピークを用いて、下記シェラーの式により求めた。
L(200)=(K・λ)/(β・cosθ)
(L:結晶子の平均の大きさ、λ:1.542Å(CuKα)、θ:ブラッグ回折角、β:半値幅、K:0.94)
なお、酸化マグネシウムの(200)面に帰属される回折ピークは、2θ=42.80°~42.90°付近に観察される。
【0062】
4.粒度分布
粒度分布は、粒度分布測定装置MT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。まず、粒度分布測定装置内をエタノールで満たし、その溶媒を循環させた。そこへ、測定対象の試料を、適量、添加して、適正範囲に入っていることを確認した。その後、試料を含む溶媒を1分間循環させてから、粒度分布を測定した。測定時間は30秒間とした。
【0063】
5.被膜特性
評価対象の酸化マグネシウム3.5gを30ml、5℃の水に懸濁しスラリーを得た。得られたスラリーを縦150mm、横80mm、厚み0.5mmの鋼板に塗布し、ゴムロールを通して均一化したのち焼成して、酸化マグネシウムを焼き付けた。目視により、鋼板上の酸化マグネシウム膜の被膜特性、すなわち、つや・密着性・平滑性を評価した。
【実施例
【0064】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0065】
(1)試料について
実施例1~5、比較例1~3の試料は以下のようにして製造された。
【0066】
[実施例1]
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬)386gと塩化アルミニウム6水和物(和光純薬)0.05gを1.9Lの脱イオン水に溶解させ、マグネシウム1mol/L、アルミニウム1.1×10-4mol/Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃において、この水溶液1.9L及び2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lをオーバーフロー容量220mLの容器にそれぞれ注加し、連続的に反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度450rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を45℃に設定し、400rpmの撹拌条件下で5.0時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して、重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを700℃で0.5時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムの粒度分布を測定したところD10は1.0μm、D50は2.0μm、D90は8.0μmであった。
【0067】
[実施例2]
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬)386gと塩化アルミニウム6水和物(和光純薬)0.35gを1.9Lの脱イオン水に溶解させ、マグネシウム1mol/L、アルミニウム7.6×10-4mol/Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃において、この水溶液1.9L中に2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lを170mL/minの速度で注加し、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度500rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を40℃に設定し、400rpmの撹拌条件下で5.0時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して、重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを900℃で5時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムの粒度分布を測定したところD10は1.5μm、D50は3.0μm、D90は12μmであった。
【0068】
[実施例3]
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬)386gと塩化アルミニウム6水和物(和光純薬)0.1gを1.9Lの脱イオン水に溶解させ、マグネシウム1mol/L、アルミニウム2.2×10-4mol/Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃において、この水溶液1.9L及び2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lをオーバーフロー容量220mLの容器にそれぞれ注加し、連続的に反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度500rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を40℃に設定し、350rpmの撹拌条件下で5.5時間熱処理を行った。さらに、水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して、重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを900℃で1時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムの粒度分布を測定したところD10は0.6μm、D50は1.6μm、D90は6.0μmであった。
【0069】
[実施例4]
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬)386gと塩化アルミニウム6水和物(和光純薬)0.1gを1.9Lの脱イオン水に溶解させ、マグネシウム1mol/L、アルミニウム2.2×10-4mol/Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃において、この水溶液1.9L中に2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lを170mL/minの速度で注加し、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度500rpmで撹拌を行った。次に、水浴の温度を40℃に設定し、350rpmの撹拌条件下で5.5時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分対して、重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを800℃で1時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムの粒度分布を測定したところD10は1.4μm、D50は3.2μm、D90は13μmであった。
【0070】
[実施例5]
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬)386gを1.9Lの脱イオン水に溶解させ、マグネシウム1mol/Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃において、この水溶液1.9L中に2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lを170mL/minの速度で注加し、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度500rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を40℃に設定し、350rpmの撹拌条件下で5.5時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して、重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウム110gに塩化アルミニウム6水和物(和光純薬)0.3gを混合し、1000℃で3時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムの粒度分布を測定したところD10は1.9μm、D50は4.0μm、D90は14μmであった。
【0071】
[比較例1]
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬)386gを1.9Lの脱イオン水に溶解させ、マグネシウム1mol/Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃において、この水溶液1.9L及び2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lをオーバーフロー容量220mLの容器にそれぞれ注加し連続的に反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度400rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を40℃に設定し、350rpmの撹拌条件下で5.0時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して、重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウム110gに塩化アルミニウム6水和物(和光純薬)0.05gを混合し、800℃で1.5時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムの粒度分布を測定したところD10は2.0μm、D50は3.8μm、D90は13μmであった。
【0072】
[比較例2]
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬)386gと塩化アルミニウム6水和物(和光純薬)0.05gを1.9Lの脱イオン水に溶解させ、マグネシウム1 mol/L、アルミニウム1.1×10-4mol/Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃において、この水溶液1.9L及び2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lをオーバーフロー容量220mLの容器にそれぞれ注加し連続的に反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度400rpmで撹拌を行った。次に、水浴の温度を40℃に設定し、350rpmの撹拌条件下で5.5時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して、重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを1000℃で3.0時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムの粒度分布を測定したところD10は0.8μm、D50は1.8μm、D90は10μmであった。
【0073】
[比較例3]
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬)386gを1.9Lの脱イオン水に溶解させ、マグネシウム1mol/Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃において、この水溶液1.9L及び2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lをオーバーフロー容量220mLの容器にそれぞれ注加し連続的に反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度400rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を40℃に設定し、350rpmの撹拌条件下で5.0時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して、重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウム110gに塩化アルミニウム6水和物(和光純薬)0.8gを混合し、900℃で2.0時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムの粒度分布を測定したところD10は1.8μm、D50は3.8μm、D90は14μmであった。
【0074】
上記の実施例1~5及び比較例1~3の製造条件を表1にまとめた。
【表1】
【0075】
(2)評価項目について
実施例1~5、比較例1~3の酸化マグネシウムについて、結晶子の平均の大きさ、アルミニウムの濃度の変動係数、アルミニウムの含有量、酸化マグネシウム膜の被膜特性、すなわち、つや・密着性・平滑性を評価した。
【0076】
(3)評価結果について
(a)実施例1
完成した酸化マグネシウムのアルミニウムの含有量は25ppmであった。D-SIMSを用いた酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の測定から求めたアルミニウムの濃度の変動係数は0.10であった。X線回折法により測定した酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは20nmであった。被膜特性のうち、つやに関しては、被膜が不均一であり、つやがない状態であった。密着性に関しては、被膜がやや不均一であるが、剥離部位が存在しない状態であった。平滑性に関しては、被膜表面の平滑性が良い状態であった。総合的には、良好な状態であった。
【0077】
(b)実施例2
完成した酸化マグネシウムのアルミニウムの含有量は298ppmであった。D-SIMSを用いた酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の測定から求めたアルミニウムの濃度の変動係数は0.25であった。X線回折法により測定した酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは65nmであった。被膜特性のうち、つやに関しては、被膜がやや不均一であるが、つやがある状態であった。密着性に関しては、被膜が不均一であり、ピンホール状の剥離部位が存在する状態であった。平滑性に関しては、被膜表面の平滑性が良い状態であった。総合的には、良好な状態であった。
【0078】
(c)実施例3
完成した酸化マグネシウムのアルミニウム含有量は123ppmであった。D-SIMSを用いた酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の測定から求めたアルミニウムの濃度の変動係数は0.09であった。X線回折法により測定した酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは25nmであった。被膜特性のうち、つやに関しては、被膜が均一であり、とてもつやがある状態であった。密着性に関しては、被膜が均一であり、剥離部位が存在しない状態であった。平滑性に関しては、被膜表面の平滑性が非常に良い状態であった。総合的には、非常に良好な状態であった。
【0079】
(d)実施例4
完成した酸化マグネシウムのアルミニウムの含有量は100ppmであった。D-SIMSを用いた酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の測定から求めたアルミニウムの濃度の変動係数は0.20であった。X線回折法により測定した酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは20nmであった。被膜特性のうち、つやに関しては、被膜がやや不均一であるが、つやがある状態であった。密着性に関しては、被膜が均一であり、剥離部位が存在しない状態であった。平滑性に関しては、被膜表面の平滑性が良い状態であった。総合的には、非常に良好な状態であった。
【0080】
(e)実施例5
完成した酸化マグネシウムのアルミニウムの含有量は292ppmであった。D-SIMSを用いた酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の測定から求めたアルミニウムの濃度の変動係数は0.25であった。X線回折法により測定した酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは60nmであった。被膜特性のうち、つやに関しては、被膜がやや不均一であるが、つやがある状態であった。密着性に関しては、被膜がやや不均一であるが、剥離部位が存在しない状態であった。平滑性に関しては、被膜表面の平滑性が非常に良い状態であった。総合的には、非常に良好な状態であった。
【0081】
(f)比較例1
完成した酸化マグネシウムのアルミニウムの含有量は35ppmであった。D-SIMSを用いた酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の測定から求めたアルミニウムの濃度の変動係数は0.30であった。X線回折法により測定した酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは60nmであった。被膜特性のうち、つやに関しては、被膜が不均一であり、下地の鋼板が一部露出した状態であった。密着性に関しては、被膜が不均一であり、ピンホール状の剥離部位が存在する状態であった。平滑性に関しては、被膜表面の平滑性が良い状態であった。総合的には、不良な状態であった。
【0082】
(g)比較例2
完成した酸化マグネシウムのアルミニウムの含有量は15ppmであった。D-SIMSを用いた酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の測定から求めたアルミニウムの濃度の変動係数は0.20であった。X線回折法により測定した酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは60nmであった。被膜特性のうち、つやに関しては、被膜が不均一であり、つやがない状態であった。密着性に関しては、被膜が不均一であり、明らかな剥離部位が存在する状態であった。平滑性に関しては、被膜表面の平滑性が悪い状態であった。総合的には、不良な状態であった。
【0083】
(h)比較例3
完成した酸化マグネシウムのアルミニウムの含有量は620ppmであった。D-SIMSを用いた酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の測定から求めたアルミニウムの濃度の変動係数は0.32であった。X線回折法により測定した酸化マグネシウムの結晶子の平均の大きさは40nmであった。被膜特性のうち、つやに関しては、被膜が不均一であり、つやがない状態であった。密着性に関しては、被膜が不均一であり、明らかな剥離部位が存在する状態であった。平滑性に関しては、被膜表面の平滑性が非常に悪い状態であった。総合的には、非常に不良な状態であった。
【0084】
上記の実施例1~5及び比較例1~3の評価結果を表2にまとめた。
【表2】
ただし、表中のつや・密着性・平滑性の表示の意味は以下のとおりである。
・つや
◎:被膜が均一であり、とてもつやがある状態
〇:被膜がやや不均一であるが、つやがある状態
△:被膜が不均一であり、つやがない状態
×:被膜が不均一であり、下地の鋼板が一部露出した状態
・密着性
◎:被膜が均一であり、剥離部位が存在しない状態
○:被膜がやや不均一であるが、剥離部位が存在しない状態
△:被膜が不均一であり、ピンホール状の剥離部位が存在する状態
×:被膜が不均一であり、明らかな剥離部位が存在する状態
・平滑性
◎:被膜表面の平滑性が非常に良い状態
○:被膜表面の平滑性が良い状態
△:被膜表面の平滑性が悪い状態
×:被膜表面の平滑性が非常に悪い状態
【0085】
以上のデータから分かるように、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、少なくとも、アルミニウムの含有量が所定の数値範囲内にあり、そのアルミニウムの濃度のばらつきが抑制されている。そのため、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを鋼板上に均一に塗布することで、アルミニウムを所定の数値範囲内の含有量で均一に鋼板に分布させることができる。それにより、フォルステライト相全体で、均一に、融点が下がり、フロー性が向上し、フォルステライト被膜の全体の平滑性を向上させることが出来る。すなわち、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、方向性電磁鋼板の表面に平滑なフォルステライト被膜を形成することができる。よって、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いて製造された方向性電磁鋼板の磁気特性を改善することができる。
【要約】
【課題】方向性電磁鋼板の表面に平滑なフォルステライト被膜を形成できる焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを提供する。
【解決手段】焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、アルミニウムを含む。上記酸化マグネシウム中の上記アルミニウの含有量は、20~300ppmである。上記酸化マグネシウム中の上記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である。上記酸化マグネシウムは、方向性電磁鋼板の表面に平滑なフォルステライト被膜を形成できる。
【選択図】なし