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  • 特許-好中球走化性の検出方法 図1
  • 特許-好中球走化性の検出方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】好中球走化性の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240411BHJP
   C12N 5/0787 20100101ALI20240411BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/0787
G01N33/49 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023532113
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 CN2020117066
(87)【国際公開番号】W WO2022061570
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523103996
【氏名又は名称】蘇州市立医院
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【弁理士】
【氏名又は名称】譚 粟元
(74)【代理人】
【識別番号】100207561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳元 八大
(72)【発明者】
【氏名】孫 ▲エ▼偉
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0160611(US,A1)
【文献】American Journal of Pathology,1974年,Vol. 77,No. 1,p. 41-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
C12Q 1/00 - 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液サンプルEDTA抗凝固チューブに入れ、血液サンプルと等体積のグルコースを加えて均一に混合した後に静置するステップと、
静置された前記血液サンプルの上澄液を遠心分離管に入れ、遠心分離処理を行うステップと、
遠心分離処理が行われた後の前記血液サンプルの上清を捨て、1×Hanks平衡塩溶液を加えて底部細胞集塊を再懸濁するステップと、
再懸濁された前記底部細胞集塊を吹き飛ばすことにより、前記底部細胞集塊の細胞を分散させ、前記遠心分離管の底部からポリスクロース溶液をゆっくりと加え、密度勾配遠心分離処理を行うステップと、
密度勾配遠心分離が行われた後の前記溶液が3層に分割され、上層の澄液及び中間層のPBMC層を吸引して、底層の細胞集塊を得るステップと、
滅菌用水を用いて前記細胞集塊における赤血球を分解処理した後に順に2×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液、1×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液を加えて均一に混合し、再び遠心分離処理を行い、好中球を得るステップと、
前記好中球を計数し、前記好中球の濃度を調整し、前記好中球の懸濁液を培養皿に吸い取って走化を行うステップとを含む、
ことを特徴とする好中球走化性の検出方法。
【請求項2】
静置された前記血液サンプルの上澄液を遠心分離管に入れ、遠心分離処理を行うステップでは、
前記血液サンプルを室温で20分間静置した後に前記上澄液を前記遠心分離管に入れ、400gの遠心分離力で、20℃の条件下で10分間遠心分離する、
ことを特徴とする請求項1に記載の好中球走化性の検出方法。
【請求項3】
密度勾配遠心分離処理では、
400gの遠心分離力で、20℃の条件下で35分間遠心分離する、
ことを特徴とする請求項1に記載の好中球走化性の検出方法。
【請求項4】
前記細胞集塊における赤血球を2回分解する、
ことを特徴とする請求項1に記載の好中球走化性の検出方法。
【請求項5】
再び遠心分離処理を行うステップでは、
400gの遠心分離力で、20℃の条件下で7分間遠心分離する、
ことを特徴とする請求項1に記載の好中球走化性の検出方法。
【請求項6】
前記培養皿は、好中球の遷移運動を直接観察可能な透明培養皿である、
ことを特徴とする請求項1に記載の好中球走化性の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好中球走化性の検出方法に関する
【背景技術】
【0002】
好中球は、人体が病原体の侵入に抵抗する重要な先天性免疫細胞であり、骨髄造血幹細胞から生成され、骨髄において分化して発育し、血液又は組織に入り、生体末梢血における数が最も多い白血球であり、正常な生理学的状態で白血球の総数の40%~75%を占める。好中球は、ライト染色血液塗抹標本において、細胞質が無色又は極めて浅い淡赤色を呈し、細胞核がロッド状又は2~5分葉状を呈し、葉と葉との間にフィラメントが接続されるため、常に多形核白血球(polymorphonuclear leukocyte、PMN)とも呼ばれ、走化性、貪食、殺菌の機能を有する。人体が病原体の侵襲を受ける場合、好中球は、感染部位に走化し、細菌を細胞内に飲み込み、かつ様々な方法で細菌を死滅させることができ、人体が細菌感染に抵抗する防御の第一線であり、人体の非特異的免疫システムにおいて非常に重要な役割を果たす。
【0003】
近年、中国国内外の大量の研究によると、感染、重症、腫瘍及び糖尿病などの様々な疾患は、いずれも好中球と密接に関連しており、患者の好中球の走化性が異常になると、好中球が感染部位に到達して病原微生物を除去することができないだけでなく、多く過ぎる好中球が非炎症部位に集まって器官の損傷を引き起こす。したがって、好中球の走化性機能に対する検出及び分析は、患者の免疫状況の正確な診断及び治療に新たな方向を提供し、非常に重要な臨床的意義を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、好中球の抽出の時間を節約し、抽出された好中球に高い走化性機能を持たせる好中球走化性の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の技術手段を提供する。診断及び治療を目的としない好中球走化性の検出方法は、
血液サンプルを添加してEDTA抗凝固チューブに入れ、血液サンプルと等体積のグルコースを加えて均一に混合した後に静置するステップと、
静置された前記血液サンプルの上澄液を遠心分離管に入れ、遠心分離処理を行うステップと、
遠心分離処理が行われた後の前記血液サンプルに1×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液を加えて底部細胞集塊を再懸濁するステップと、
再懸濁された前記底部細胞集塊を均一に吹き飛ばし、前記遠心分離管の底部からポリスクロース溶液をゆっくりと加え、密度勾配遠心分離処理を行うステップと、
密度勾配遠心分離が行われた後の前記溶液が3層に分割され、上層の澄液及び中間層のPBMC層を吸引して、底層の細胞集塊を得るステップと、
滅菌用水を用いて前記細胞集塊における赤血球を分解処理し、柔らかく吹いて吸引した後に順に2×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液、1×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液を加えて均一に混合し、再び遠心分離処理を行い、好中球を得るステップと、
前記好中球を計数し、前記好中球の濃度を調整し、前記好中球の懸濁液を走化性モデルに吸い取って走化を行うステップとを含む。
【0006】
更に、静置された前記血液サンプルの上澄液を遠心分離管に入れ、遠心分離処理を行うステップでは、
前記血液サンプルを室温で20分間静置した後に前記上澄液を前記遠心分離管に入れ、400gの遠心分離力で、20℃の条件下で10分間遠心分離する。
【0007】
更に、密度勾配遠心分離処理では、
400gの遠心分離力で、20℃の条件下で35分間遠心分離する。
【0008】
更に、前記細胞集塊における赤血球を2回分解する。
【0009】
更に、再び遠心分離処理を行うステップでは、
400gの遠心分離力で、20℃の条件下で7分間遠心分離する。
【0010】
更に、前記走化性モデルは、培養皿であり、前記培養皿は、好中球の遷移運動を直接観察可能な透明培養皿である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有益な効果は、以下のとおりである。血液サンプルを遠心分離し、分解するなどの処理により、好中球を迅速に取得し、抽出速度を向上させ、検出時間を短縮し、そして当該方法は、使用しやすく、高効率で迅速であり、好中球の性能を向上させる。
【0012】
上記説明は、本発明の技術手段に対する概要に過ぎず、本発明の技術手段をより明確に理解し、明細書の内容に基づいてそれを実施するために、以下、本発明の好ましい実施例を用いて図面を参照して以下のように詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本願の好中球走化性の検出方法のフローチャートである。
図2】本願で抽出された好中球の走化概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の技術手段を明確かつ完全的に説明し、明らかに、説明される実施例は、本発明の実施例の一部であり、全てではない。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的な労力を行わない前提で得られる他の全ての実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0015】
なお、本発明の説明において、用語「中心」、「上」、「下」、「左」、「右」、「垂直」、「水平」、「内」、「外」などで示す方位又は位置関係は、図面に示す方位又は位置関係に基づくものであり、本発明を容易に説明し説明を簡略化するためのものに過ぎず、示された装置又は部品が特定の方位を有するとともに、特定の方位で構成されて動作しなければならないことを示すか又は示唆するものではないため、本発明を限定するものであると理解すべきではない。また、用語「第1」、「第2」、「第3」は、説明の目的のためのみに用いられ、相対的な重要性を示すか又は示唆するものと理解すべきではない。
【0016】
なお、本発明の説明において、別に明確な規定及び限定がない限り、用語「取り付け」、「連結」、「接続」は、広義に理解されるべきであり、例えば、固定接続、着脱可能な接続又は一体的な接続であってもよく、機械的な接続、電気的な接続であってもよく、直接的な接続、中間媒体を介した接続であってもよく、2つの部品の間の連通であってもよい。当業者であれば、具体的な状況に応じて本発明における上記用語の具体的な意味を理解することができる。
【0017】
また、以下に説明する本発明の異なる実施形態に係る技術的特徴は、互いの間に衝突がない限り互いに結合することができる。本発明の説明において、軸線方向は、高さ方向と一致する。
【0018】
図1に示すように、本発明の好ましい実施例における好中球走化性の検出方法は、以下を含む。
【0019】
血液サンプルを添加してEDTA抗凝固チューブに入れ、血液サンプルと等体積のグルコースを加えて均一に混合した後に静置する。本実施例では、EDTA抗凝固チューブの色は、紫色であり、そして血液サンプルとグルコースの体積は、2mlであり、グルコースの濃度は、3%である。当然のことながら、他の実施例では、血液サンプルとグルコースの体積が他であってもよく、グルコースの濃度が他であってもよく、ここで具体的に限定せず、実際の状況に応じて決定される。
【0020】
静置された血液サンプルの上澄液を遠心分離管に入れ、遠心分離処理を行う。具体的には、血液サンプルを室温で20分間静置し沈殿させる必要があり、その後に上澄液を遠心分離管に入れ、400gの遠心分離力で、20℃の条件下で10分間遠心分離する。当然のことながら、他の実施例では、遠心分離処理の条件は、他であってもよく、ここで具体的に限定せず、実際の状況に応じて決定される。
【0021】
遠心分離処理後の血液サンプルに1×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液を加えて底部細胞集塊を再懸濁する。1×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液は、予め調製された原液であり、この場合、当該原液に対して任意の希釈を行う必要がなく、遠心分離処理後の血液サンプルに当該原液を直接的に加えればよい。上記のように、1×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液の体積は、3mlである。
【0022】
再懸濁された底部細胞集塊を均一に吹き飛ばし、遠心分離管の底部からポリスクロース溶液をゆっくりと加え、密度勾配遠心分離処理を行う。前記「密度勾配遠心分離処理」では、具体的には、400gの遠心分離力で、20℃の条件下で35分間遠心分離する。
【0023】
密度勾配遠心分離が行われた後の溶液が3層に分割され、上層の澄液及び中間層のPBMC層を吸引して、底層の細胞集塊を得る。PBMC層は、(Peripheral Blood Mononuclear Cell、末梢血単球)層であり、大量の単球及びリンパ球などを含み、底部に赤血球及び成熟した好中球がある。
【0024】
滅菌用水を用いて細胞集塊における赤血球を分解処理し、本実施例では、前記細胞集塊における赤血球を2回分解する必要があり、そして滅菌用水の体積は、3mlである。柔らかく吹いて吸引した後に順に2×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液、1×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液を加えて均一に混合し、再び遠心分離処理を行い、好中球を得て、前記「再び遠心分離処理を行う」ステップでは、具体的には、400gの遠心分離力で、20℃の条件下で7分間遠心分離する。ここでは、2×カルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液とは、2倍浸透圧のカルシウム・マグネシウムイオンのないHanks平衡塩溶液である。
【0025】
図2に示すように、好中球を計数し、好中球の濃度を調整し、好中球の懸濁液を走化性モデルに吸い取って走化を行う。前記走化性モデルは、培養皿であり、前記培養皿は、好中球の遷移運動を直接観察可能な透明培養皿である。具体的には、当該培養皿は、中国特許CN105062865Bに開示された細胞透過膜移動試験用装置及び製造用ダイであり、ここで説明を省略する。
【0026】
好中球を抽出するのに必要な時間は、一般的に約2hであり、上記方法に従って好中球を抽出するのに必要な時間を半分短縮し、ステップを簡略化し、抽出速度を向上させ、検出時間を短縮するという効果を達成する。
【0027】
図2に示すように、そして、最後に走化試験結果に示すように、本方法で採取された好中球の走化性モデルにおける走化結果を利用して国際的に初めて正確な分析の指標を確立し、各指標は、以下のとおりである。
1、走化距離(Chemotaxis Distance、CD)は、好中球がアガロースの走化性モデルにおいて2時間走化して到達できる最遠距離であり、当該最遠距離は、1755.85μm以上である。
2、走化細胞の百分率(Chemo Cell Ratio、CCR)は、全ての走化細胞数が走化細胞総数(10個)に占める百分率であり、当該百分率は、3.34%以上である。該百分率の計算式は、以下のとおりである。
CCR=(全ての走化細胞数/走化細胞総数)×100%
3、走化指数(Chemo Index、CI)は、I領域とII領域の走化細胞数が全ての走化細胞数に占める比の値であり、当該比の値は、39.63以上であり、かつ当該比の値の公式は、以下のとおりである。
CI=[(I領域の細胞数+II領域の細胞数)/全ての走化細胞数]×100
4、最大走化速度(Maximum Speed of Chemotaxis、Vmax)は、好中球が2時間走化して到達できる最遠距離と走化時間(120min)との比の値であり、当該比の値は、14.63μm/min以上であり、計算式は、以下のとおりである。
Vmax=走化距離/走化時間=CD/120
【0028】
以上より、血液サンプルを遠心分離し、分解するなどの処理により、好中球を迅速に取得し、抽出速度を向上させ、検出時間を短縮し、そして当該方法は、使用しやすく、高効率で迅速であり、好中球の性能を向上させる。
【0029】
上述した実施例の各技術的特徴を任意に組み合わせることができ、説明を簡潔にするために、上記実施例における各技術的特徴の全ての可能な組み合わせについて記載しないが、これらの技術的特徴の組み合わせに矛盾がない限り、いずれも本明細書に記載の範囲であると考えられるべきである。
【0030】
上述した実施例は、本発明のいくつかの実施形態を示し、その説明が具体的で詳細であるが、本発明の特許範囲を限定するものと理解すべきではない。なお、当業者にとっては、本発明の構想から逸脱しない前提で、さらにいくつかの変形及び改善を行うことができ、これらは、いずれも本発明の保護範囲に属する。したがって、本発明の特許の保護範囲は、添付された特許請求の範囲を基準とすべきである。
図1
図2