(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20240411BHJP
C08J 9/26 20060101ALI20240411BHJP
B29C 67/20 20060101ALI20240411BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240411BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20240411BHJP
H01G 11/06 20130101ALN20240411BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20240411BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20240411BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240411BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
C08J9/26 102
B29C67/20 B
H01M50/417
H01M50/449
H01G11/06
B29K23:00
B29K105:04
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2020016968
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019057946
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中谷 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真由美
(72)【発明者】
【氏名】大友 崇裕
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/018071(WO,A1)
【文献】特開平07-309965(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164056(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180713(WO,A1)
【文献】特開2017-119769(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132810(WO,A1)
【文献】特開2017-050149(JP,A)
【文献】特開2016-044184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
H01M 50/417
H01M 50/449
H01G 11/06
B29K 23/00
B29K 105/04
B29L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が10μm以下であり、長さ方向の引張強度が270MPa以上350MPa以下であり、幅方向の引張強度が220MPa以上280MPa以下であり、長さ方向の引張伸度が100%以上150%以下であり、幅方向の引張伸度が100%以上180%以下であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
空孔率が35%以上である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリオレフィン微多孔膜に多孔層を積層してなる電池用セパレータ。
【請求項4】
前記多孔層が、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、カルボキシメチルセルロース系樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂と無機粒子とを含む、請求項3に記載の電池用セパレータ。
【請求項5】
重量平均分子量2.0×10
6以上、4.0×10
6未満の超高分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂と可塑剤とを溶融混練してポリオレフィン溶液を調製する工程(a)と、
工程(a)にて調製されたポリオレフィン溶液を融点以上の温度で押出成形した後に、押出成形物を10℃/sec以上の冷却速度で結晶分散温度以下まで冷却してゲル状シートを成形する工程(b)と、
工程(b)にて成形されたゲル状シートを、前記結晶分散温度以上、前記融点以下の温度範囲にて縦方向に延伸した後に、10℃/sec以上の冷却速度で前記結晶分散温度以下まで冷却する工程(c)と、
工程(c)にて延伸されたゲル状シートを、前記結晶分散温度以上、前記融点以下の温度範囲にて横方向に延伸した後に、10℃/sec以上の冷却速度で前記結晶分散温度以下まで冷却する工程(d)と、
工程(d)にて延伸されたゲル状シートから前記可塑剤を抽出してポリオレフィン微多孔膜を得る工程(e)と、
工程(e)にて得られたポリオレフィン微多孔膜を乾燥する工程(f)と、
工程(f)にて乾燥されたポリオレフィン微多孔膜を、前記結晶分散温度以上、前記融点以下の温度範囲にて前記縦方向または前記横方向へ延伸した後に、10℃/sec以上の冷却速度で前記結晶分散温度以下まで冷却する工程(g)と、
工程(g)にて延伸されたポリオレフィン微多孔膜の捲回体をエージング処理する工程(h)とを実施することを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔層を積層した電池用セパレータに用いられるポリオレフィン微多孔膜、それを用いた電池用セパレータ、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、ろ過膜、透析膜などのフィルター、電池用セパレータや電解コンデンサー用のセパレータなどの種々の分野に用いられる。これらの中でも、ポリオレフィン微多孔膜は、耐薬品性、絶縁性、機械的強度などに優れ、シャットダウン特性を有するため、近年、二次電池用セパレータとして広く用いられる。
【0003】
特にリチウムイオン電池用セパレータは電池特性、電池生産性、電池安全性に関わっており、機械的特性、耐熱性、透過性、寸法安定性、孔閉塞特性(シャットダウン特性)、溶融破膜特性(メルトダウン特性)等が要求される。さらに、電池のサイクル特性向上のために電極材料との接着性向上、生産性向上のための電解液浸透性の向上などが要求される。
【0004】
そのため、これまでにポリオレフィン微多孔膜にさまざまな多孔層を積層することが検討されている。多孔層としては耐熱性及び電解液浸透性を併せ持つポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂や電極接着性に優れたフッ素系樹脂などが好適に用いられている。また、比較的簡易な水洗工程、乾燥工程を用いて多孔膜が積層できる水溶性または水分散性バインダーも広く用いられている。なお、本発明でいう多孔層とは、耐熱性、電極材料との接着性、電解液浸透性などの機能を少なくとも一つ以上、付与または向上させる樹脂を含む層をいう。
【0005】
さらに、電池用セパレータは電池容量の高容量化のため、容器内に充填できる面積を増加させる必要があり、薄膜化が進むことが予測されている。しかしながら、ポリオレフィン微多孔膜は薄膜化が進むと、その断面積が小さいところに高い張力がかかり幅方向の長さが小さくなる(ネックインという場合がある。)ため、ポリオレフィン微多孔質膜に多孔層を積層した電池用セパレータは加工中やスリット工程あるいは電池組み立て工程において、幅取り収率が悪化すると予想される。
【0006】
例えば特許文献1には縦方向延伸の後に冷却ロールを用いて冷却することが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には実施例1-12に微多孔膜の引張強度縦方向(以下MD)240MPa、横方向(以下TD)240MPa、引張伸度MD90%、TD110%のポリオレフィン微多孔膜が例示されている。
【0008】
特許文献3の実施例1には微多孔膜の引張強度MD2446kgf/cm2、TD2334kgf/cm2、引張伸度MD79%、TD246%、実施例4引張強度MD2140kgf/cm2、TD1450kgf/cm2、引張伸度MD126%、TD184%のポリオレフィン微多孔膜が例示されている。
【0009】
特許文献4には微多孔膜に張力をかけるとネックイン発生により端部にシワが発生し、幅取り収率が悪化することが記載されている。ネックインによるシワ発生を、エキスパンダーロールを使用して防止することが記載されている。
【0010】
特許文献5の比較例13に微多孔膜の引張強度MD260MPa、TD250MPa、引張伸度MD135%、TD140%のポリオレフィン微多孔膜が例示されている。
【0011】
特許文献6の実施例6に微多孔膜の引張強度MD216MPa、TD255MPa、引張伸度MD80%、TD64%のポリオレフィン微多孔膜が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特表2013-530261号公報
【文献】国際公開第2010/070930号
【文献】特開2017-119769号公報
【文献】特開2017-117783号公報
【文献】国際公開第2018/180714号
【文献】特願2016-529329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ポリオレフィン微多孔膜の引張強度、引張伸度と塗工時のネックインによる収率悪化の抑制という新規な課題に着目し、薄膜化、高速塗工化がさらに進んでも高張力下でのネックインが小さく、塗工性に優れるポリオレフィン微多孔膜を提供し、更に接着性や耐熱収縮性に優れる多孔層を積層する電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上述の目的を達成する為に鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン微多孔膜において、二律背反関係にある引張強度と引張伸度を後述する高度な製膜技術によって特定の範囲にすることにより、高張力での搬送・塗工におけるポリオレフィン微多孔膜のネックインを抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は下記の通りの構成を有する。
[1]膜厚が10μm以下であり、長さ方向の引張強度が270MPa以上350MPa以下であり、幅方向の引張強度が220MPa以上280MPa以下であり、長さ方向の引張伸度が100%以上150%以下であり、幅方向の引張伸度が100%以上180%以下であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
[2]空孔率が35%以上である、[1]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[3][1]または[2]に記載のポリオレフィン微多孔膜に多孔層を積層してなる電池用セパレータ。
[4]前記多孔層が、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、カルボキシメチルセルロース系樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂と無機粒子とを含む、[3]に記載の電池用セパレータ。
[5]重量平均分子量2.0×106以上、4.0×106未満の超高分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂と可塑剤とを溶融混練してポリオレフィン溶液を調製する工程(a)と、
工程(a)にて調製されたポリオレフィン溶液を融点以上の温度で押出成形した後に、押出成形物を10℃/sec以上の冷却速度で結晶分散温度以下まで冷却してゲル状シートを成形する工程(b)と、
工程(b)にて成形されたゲル状シートを、前記結晶分散温度以上、前記融点以下の温度範囲にて縦方向に延伸した後に、10℃/sec以上の冷却速度で前記結晶分散温度以下まで冷却する工程(c)と、
工程(c)にて延伸されたゲル状シートを、前記結晶分散温度以上、前記融点以下の温度範囲にて横方向に延伸した後に、10℃/sec以上の冷却速度で前記結晶分散温度以下まで冷却する工程(d)と、
工程(d)にて延伸されたゲル状シートから前記可塑剤を抽出してポリオレフィン微多孔膜を得る工程(e)と、
工程(e)にて得られたポリオレフィン微多孔膜を乾燥する工程(f)と、
工程(f)にて乾燥されたポリオレフィン微多孔膜を、前記結晶分散温度以上、前記融点以下の温度範囲にて前記縦方向または前記横方向へ延伸した後に、10℃/sec以上の冷却速度で前記結晶分散温度以下まで冷却する工程(g)と、
工程(g)にて延伸されたポリオレフィン微多孔膜の捲回体をエージング処理する工程(h)とを実施することを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高速塗工時において、高張力を掛けて塗工する際のネックインを低減し、幅取り生産性を改善したポリオレフィン微多孔膜を提供することができる。
【0017】
また、本発明によれば、耐熱性、電極材料との接着性や電解液浸透性に優れた電池用セパレータを収率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の態様について詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施態様に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
[1]ポリオレフィン樹脂
ポリオレフィン微多孔膜に用いられるポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンを主成分とするのが好ましい。シャットダウン特性を向上させる為には、ポリオレフィン樹脂全体を100質量%として、ポリエチレンの割合が80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、さらにポリエチレンを単独で用いることが好ましい。
【0020】
ポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。α-オレフィンとしてはプロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン等が挙げられる。
【0021】
ここで、ポリエチレンの種類としては、密度が0.94g/cm3を越えるような高密度ポリエチレン、密度が0.93~0.94g/cm3の範囲の中密度ポリエチレン、密度が0.93g/cm3より低い低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられるが、引張強度を高くするためには、高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。高密度ポリエチレンの重量平均分子量(以下、Mwという)は1.0×105以上、より好ましくは2.0×105以上であることが好ましい。高密度ポリエチレンのMwの上限は好ましくはMwが8.0×105以下、より好ましくはMwが7.0×105以下である。Mwが上記範囲であれば、最終的に得られる引張強度と引張伸度を両立させやすくすることができる。
【0022】
超高分子量ポリエチレン及び高密度ポリエチレンの重量平均分子量は、例えば下記の測定条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で求めることができる。検量線は単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作製する。
測定装置:Waters Corporation製GPC-150C
カラム:昭和電工株式会社製Shodex UT806M
カラム温度:135℃
溶媒(移動相):o-ジクロルベンゼン
溶媒流速:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%(溶解条件:135℃/1h)
インジェクション量:500μl
検出器:Waters Corporation製ディファレンシャルリフラクトメーター
【0023】
ポリエチレンには超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。超高分子量ポリエチレンは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα-オレフィンは上記と同じでよい。超高分子量ポリエチレンを添加することによって、引張強度を向上と伸度を両立させやすくなる。超高分子量ポリエチレンのMwとしては、2.0×106以上4.0×106未満であることが好ましい。Mwが2.0×106以上4.0×106未満の超高分子量ポリエチレンを使用することで、孔およびフィブリルを微細化することが可能であるため、膜構造が緻密になり引張強度を高めることが可能となる。また、超高分子量ポリエチレンを用いることにより、延伸による伸びきり鎖とならず、適度に非晶が保持され、引張伸度も保持することができる。超高分子量ポリエチレンのMwが4.0×106以上であると、溶融物の粘度が高くなりすぎるために、口金(ダイ)から樹脂を押し出せないなど製膜工程において不具合が出たり、熱収縮率が悪化したりするおそれがある。また、超高分子量ポリエチレンのMwが4.0×106以上であると、主成分とするポリエチレンと分離しやすいために、フィブリル形成が十分に行われず、引張強度が低下する恐れがある。超高分子量ポリエチレンの含有量はポリオレフィン樹脂全体を100質量%として、下限は10質量%であることが好ましく、より好ましくは20質量%、さらに好ましくは30質量%である。超高分子量ポリエチレンの含有量の上限は50質量%であることが好ましく、より好ましくは40質量%である。超高分子量ポリエチレンの含有量がこの範囲であると後述する製膜方法によって引張強度と引張伸度を両立させやすくなる。また、超高分子量ポリエチレンの含有量が既述の範囲内であると、超高分子量ポリエチレンが十分に分散するために、膜中の結晶性が制御しやすく、後述する製膜方法によって引張強度と引張伸度のバランスを適切に制御することが可能となる。
【0024】
低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、シングルサイト触媒により製造されたエチレン・α-オレフィン共重合体、重量平均分子量1000~4000の低分子量ポリエチレンを添加すると、低温でのシャットダウン機能を付与され、電池用セパレータとしての特性を向上させることができる。ただし、低分子量のポリエチレンが多いと、製造時の延伸工程において、微多孔膜の破断が起きやすくなるため、ポリオレフィン樹脂中0~10質量%が好ましい。
【0025】
また、ポリエチレンにポリプロピレンを添加すると、ポリオレフィン微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合にメルトダウン温度を向上させることができる。ポリプロピレンの種類は、単独重合体のほかに、ブロック共重合体、ランダム共重合体も使用することができる。ブロック共重合体、ランダム共重合体には、プロピレン以外の他のα-エチレンとの共重合体成分を含有することができ、当該他のα-エチレンとしては、エチレンが好ましい。ただし、ポリプロピレンを添加すると、ポリエチレン単独使用に比べて、ポリプロピレンのメチル基により分子配座が起こりやすく結晶化度が高くなるため、引張伸度が低下しやすい。そのため、ポリオレフィン樹脂中の濃度は0~10質量%が好ましい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量(以下Mwという)は1.0×105以上であるのが好ましい。Mwが1.0×105未満では延伸時に破断が起こりやすくなるおそれがある。
【0027】
その他、ポリオレフィン微多孔膜には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤や帯電防止剤、紫外線吸収剤、さらにはブロッキング防止剤や充填材等の各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリエチレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤や熱安定剤の種類および添加量を適宜選択することは微多孔膜の特性の調整又は増強として重要である。
【0028】
また、ポリオレフィン微多孔膜には、実質的に無機粒子を含まない。「実質的に無機粒子を含まず」とは、例えば蛍光X線分析で無機元素を定量した場合に300ppm以下、好ましくは100ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子をポリオレフィン微多孔膜に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはポリオレフィン微多孔膜製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、膜中に混入する場合があるためである。
【0029】
[2]ポリオレフィン微多孔膜の製造方法
次に、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法を具体的に説明するが、この態様に限定されるものではない。
【0030】
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、以下の工程(a)~(h)を含む。
工程(a):重量平均分子量2.0×106以上4.0×106未満の超高分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂と可塑剤とを溶融混練してポリオレフィン溶液を調製する工程
工程(b):工程(a)にて得られたポリオレフィン溶液を融点以上の温度で押出機より押し出して押出物を形成し、押出物の該温度から結晶分散温度以下までの冷却速度が10℃/sec以上となるように急速冷却してゲル状シートを成形する工程
工程(c):工程(b)にて得られたゲル状シートを、縦方向(機械方向)に[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度]~[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点]以内の温度範囲にて延伸後に、該温度から結晶分散温度以下まで10℃/sec以上で急速冷却する工程
工程(d):工程(c)にて得られたシートを、横方向(機械方向と直角方向)に[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度]~[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点]の温度範囲にて延伸後に、該温度から結晶分散温度以下まで10℃/sec以上で急速冷却する工程
工程(e):工程(d)にて得られた延伸膜から可塑剤を抽出する工程
工程(f):工程(e)にて得られたポリオレフィン微多孔膜を乾燥する工程
工程(g):工程(f)にて得られたポリオレフィン微多孔膜を縦方向または横方向へ[ポリオレフィン微多孔膜内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度]~[ポリオレフィン微多孔膜内ポリオレフィンの融点]の温度範囲にて延伸後に、該温度から結晶分散温度以下まで10℃/sec以上で急速冷却する工程
工程(h):得られたポリオレフィン微多孔膜捲回体をエージング処理する工程
【0031】
ここで、工程(c)及び工程(d)は、各々連続的に行われる。すなわち、いわゆるバッチ式(ある特定の量の樹脂を用いて特定の大きさの微多孔膜を製造した後、続いて別の原料を用いて先の一連の工程を繰り返す製造手法)ではなく、原料の調製工程から微多孔膜の巻き取り工程までを含めて連続的に定常的に行う製法を採っている。
【0032】
工程(c)~(h)の以前、途中、以降に親水化処理、除電処理等の他の工程を追加することもできる。
【0033】
[工程(a):ポリオレフィン溶液の調製]
ポリオレフィン樹脂を、可塑剤に加熱溶解させたポリオレフィン溶液を調製する。可塑剤としては、ポリエチレンを十分に溶解できる溶剤であれば特に限定されない。比較的高倍率の延伸を可能とするために、溶剤は室温で液体であるのが好ましい。液体溶剤として、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素、および沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体溶剤の含有量が安定なゲル状シートを得るために、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いるのが好ましい。溶融混練状態では、ポリエチレンと混和するが室温では固体の溶剤を液体溶剤に混合してもよい。このような固体溶剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。ただし、固体溶剤のみを使用すると、延伸ムラ等が発生する恐れがある。
【0034】
ポリオレフィン樹脂と可塑剤との配合割合はポリオレフィン樹脂と可塑剤との合計を100重量%として、押出物の成形性を良好にする観点から、ポリオレフィン樹脂10~60重量%が好ましい。ポリオレフィン樹脂の含有量の下限は、さらに好ましくは20重量%である。ポリオレフィン樹脂の含有量の上限はさらに好ましくは50重量%であり、より好ましくは40重量%である。ポリオレフィン樹脂の含有量が10重量%以上である場合、シート状に成形する際にダイの出口で押出しネックイン(ダイからシートを押し出す際に幅が狭くなることを押出しネックインと記す)が小さいために、シートの成形性および製膜性が良好となる。また、ポリオレフィン樹脂の含有量が50重量%以下の場合、厚み方向の収縮が小さいために、成形加工性および製膜性が良好となる。ポリオレフィン樹脂の含有量がこの範囲であると後述する製膜方法によって引張強度と引張伸度を両立させやすくなる。さらには、ポリオレフィン樹脂の含有量が既述の範囲であると、ポリオレフィン樹脂が延伸により伸びきり鎖とならず、非晶部分を保持し後工程での加工性も良好となるため、後述する製膜方法によって、引張強度と引張伸度のバランス制御も可能となる。
【0035】
上記ポリオレフィン溶液には耐熱性を向上させる場合はポリプロピレン樹脂を添加しても構わないが、添加するとポリプロピレンの分子形状により立体規則性が高く、膜の結晶化が促進されやすく、伸度が低下する可能性が高いため、10%以下が望ましい。またポリプロピレン樹脂の分子量についても、非晶部分を多く残すため、Mw5.0×105以上のものを使用することが望ましい。分子量の上限については、口金(ダイ)から樹脂を押し出せないなど製膜工程において不具合が出るおそれがあるため、Mw4.0×106以下が望ましい。
【0036】
可塑剤の粘度は40℃において20~200cStであることが好ましい。40℃における可塑剤の粘度を20cSt以上とすれば、ダイからポリオレフィン溶液を押し出したシートの厚みが不均一になりにくい。一方、可塑剤の粘度を200cSt以下とすれば可塑剤の除去が容易である。
【0037】
ポリオレフィン溶液の均一な溶融混練は、特に限定されないが、高濃度のポリオレフィン溶液を調製したい場合、押出機、特に二軸押出機中で行うことが好ましい。必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤等の各種添加材をポリオレフィン溶液に添加してもよい。特にポリエチレンの酸化を防止するために酸化防止剤を添加することが好ましい。
【0038】
押出機中では、ポリオレフィン樹脂が完全に溶融する温度で、ポリオレフィン溶液を均一に混合する。溶融混練温度は、使用するポリオレフィン樹脂によって異なるが、下限は(ポリオレフィン樹脂の融点+10℃)が好ましく、さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+20℃)である。溶融混練温度の上限は(ポリオレフィン樹脂の融点+120℃)とするのが好ましく、さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+100℃)である。ここで、融点とは、JIS K7121(1987)に基づき、DSCにより測定した値をいう(以下、同じ)。例えば、具体的には、ポリエチレン組成物は約130~140℃の融点を有するので、溶融混練温度の下限は140℃が好ましく、さらに好ましくは160℃、最も好ましくは170℃である。ポリエチレン組成物の溶融混練温度の上限は250℃が好ましく、230℃、最も好ましくは200℃である。
【0039】
また、ポリオレフィン溶液にポリプロピレンを含む場合の溶融混練温度は190~270℃が好ましい。
【0040】
樹脂の劣化を抑制する観点から溶融混練温度は低い方が好ましいが、上述の温度よりも低いとダイから押出された押出物に未溶融物が発生し、後の延伸工程で破膜等を引き起こす原因となる場合があり、上述の温度より高いと、ポリオレフィンの熱分解が激しくなり、得られる微多孔膜の物性、例えば、突刺強度、引張強度等が劣る場合がある。
【0041】
更にせん断発熱により樹脂の温度が上昇し、樹脂粘度が低下することにより、ダイからの押出し時の押出しネックイン量が増大し、ネックインするポリオレフィン微多孔膜の端部にMD方向の微延伸がかかる状態となり、配向結晶化が進みポリオレフィン微多孔膜の伸度が低下し、コート時にネックインが大きくなりやすい。
【0042】
二軸押出機のスクリュー長さ(L)と直径(D)の比(L/D)は良好な加工混練性と樹脂の分散性・分配性を得る観点から、20~100が好ましい。前記比の下限はより好ましくは35である。前記比の上限は、より好ましくは70である。L/Dを20以上にすると、溶融混練が十分となる。L/Dを100以下にすると、ポリオレフィン溶液の滞留時間が増大し過ぎない。混練する樹脂の劣化を防ぎながら良好な分散性・分配性を得る観点から、二軸押出機のシリンダ内径は40~100mmであるのが好ましい。
【0043】
押出物中にポリエチレンを良好に分散させて、優れた微多孔膜の厚み均一性を得るために、二軸押出機のスクリュー回転数(Ns)を100~500rpmとすることが好ましい。更に好ましくは150~400rpmである。さらに、Ns(rpm)に対するポリオレフィン溶液の押出量Q(kg/h)の比、Q/Nsは3.0kg/h/rpm以下にするのが好ましい。Q/Nsはさらに好ましくは2.0kg/h/rpm以下である。Q/Nsの下限は1.0kg/h/rpmである。
【0044】
Q/Nsを1.0~3.0、混練回転数を150~500rpmとすることにより、密度の異なる超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンをよく混練するほか、樹脂中に可塑剤を均等に分散できる。
【0045】
Q/Nsを1.0未満または回転数を500rpm以上にすると、せん断により特に高分子量域の分子鎖が断裂し、所望の強度・伸度を得難くなる可能性がある。更にせん断発熱により樹脂の温度が上昇し、樹脂粘度が低下することにより、ダイからの押出し時の押出しネックイン量が増大し、ネックインするポリオレフィン微多孔膜の端部にMD方向の微延伸がかかる状態となり、配向結晶化が進みポリオレフィン微多孔膜の伸度が低下し、コート時にネックインが大きくなりやすい。
【0046】
[工程(b):押出物の形成およびゲル状シートの成形]
押出機で溶融混練したポリオレフィン溶液を直接に、あるいはさらに別の押出機を介して、ダイから押出して、最終製品の微多孔膜の厚みが5~100μmになるように成形して押出物を得る。ダイは、長方形のTダイを用いてもよい。Tダイを用いた場合、最終製品の微多孔膜の厚みを制御しやすい観点から、ダイのスリット間隙は0.1~5mmが好ましく、押出時に140~250℃に加熱するのが好ましい。
【0047】
得られた押出物を冷却することによりゲル状シートが得られ、冷却により、溶剤によって分離されたポリエチレンのミクロ相を固定化することができる。冷却工程においてゲル状シートを結晶化終了温度以下まで冷却するのが好ましい。冷却はゲル状シートの表裏ともに、結晶化終了温度以下となるまで10℃/sec以上、60℃/sec以下の冷却速度で行うことが好ましく、より好ましくは10℃/sec以上、50℃/sec以下の冷却速度であり、更に好ましくは15℃/sec以上、40℃/sec以下の冷却速度である。
【0048】
冷却速度が上記範囲であれば、ゲルを形成する結晶が粗大化せず、緻密な高次構造を得ることができるとともに、伸度を得るための非晶部分を多く確保できる。また、冷却速度が上記範囲であれば、高次構造が細かいために、その後の延伸において分子配向を制御しやすく、引張強度と引張伸度を両立させることができる。さらに、冷却速度が上記範囲であれば、細かい結晶が緻密に存在し、結晶間に非晶部分が存在することによって、最終的に得られる微多孔膜の引張強度と引張伸度を目的とする強度と伸度バランスの制御が可能となる。冷却速度が低すぎる場合、結晶が粗大となりすぎるために、結晶化が進み、目的とする引張伸度が得られにくくなり、冷却速度が速すぎる場合、強度を出すのに必要な結晶の絡み合いが進まず、目的とする引張強度が得られにくいおそれがある。
【0049】
ここで、結晶化終了温度は、JIS K7121(1987)に従って測定した補外結晶化終了温度のことである。具体的には、ポリエチレンの場合は約70~90℃の補外結晶化終了温度を持つ。また、ここでの冷却速度は、押出機の出口から排出された樹脂の温度が結晶化完了温度となるまでの時間と、押出機出口の樹脂温度と結晶化完了温度との温度差によって求めることができる。したがって、冷却工程において、結晶化終了温度以下まで冷却する場合には、冷却速度は押出機出口の樹脂温度と冷却工程出口の表裏それぞれのゲル状シート温度との差分を、冷却工程をゲル状シートにおけるある任意の位置における部位が通過する時間で除したものとなる。また、ゲル状シートの一方の面(表面)の冷却速度ともう一方の面(裏面)の冷却速度の差は、10℃/sec未満であることが好ましい。冷却速度の差が10℃/sec以上である場合、冷却が遅い面の結晶化が促進するため、非晶部分の確保が難しく、目的とする伸度を達成することが難しい可能性がある。
【0050】
ゲル状シートの一方の面(表面)の冷却速度ともう一方の面(裏面)の冷却速度の差を10℃/sec未満にするためには冷却ロール面と反対の面に冷却風を当てる、または冷却ロール面と反対の面側に補助冷却ロールを配置する方法が効果的である。
【0051】
更に冷却ロール温度については、ポリオレフィンの結晶化が開始する付近の温度から速やかに冷却する温度に設定することが望ましい。具体的には20~80℃が望ましく、より望ましくは20℃~50℃である。ロール温度が20℃未満と低すぎる場合、周囲の空気温度との差によりロール上に結露が発生し、ゲル状シートがそのロール上を通過することによって冷却温度差により冷却ムラが発生し外観不良となる可能性が高い。80℃を超えると冷却材として用いる水の温度振れが大きくなり、冷却ロール温度を一定に保つことが難しい。冷却効率と冷却速度を考えると、キャストの冷却ロールは20~40℃とすることが最も望ましい。
【0052】
さらに、冷却速度を所定の範囲にするためには、ダイから押し出したポリエチレン樹脂溶液と接する部分の冷却ロール表面に付着している可塑剤を極力除去しておくことが効果的である。ポリエチレン樹脂溶液は回転する冷却ロールに巻きつくことにより冷却されゲル状シートとなるが、ゲル状シートとなって引き離された後の冷却ロール表面には可塑剤が付着しており、通常はそのままの状態で再びポリエチレン樹脂溶液と接触することになる。しかし、可塑剤が冷却ロール表面に多く付着しているとその断熱効果により、冷却速度が緩慢になる。そのため、冷却ロールが再びポリエチレン樹脂溶液と接触するまでに可塑剤を極力除去しておくと効果的である。
【0053】
可塑剤除去手段、すなわち可塑剤を冷却ロールから除去する方法は特に限定されないが、冷却ロール上にドクターブレードをゲル状シートの幅方向と平行になるようにあてて、ドクターブレードを通過した直後からゲル状シートが接するまでの冷却ロール表面に可塑剤が視認できない程度に掻き落とす方法が好ましく採用される。あるいは圧縮空気で吹き飛ばす、吸引する、またはこれらの方法を組み合わせる等の手段で除去することもできる。なかでもドクターブレードを用いて掻き落とす方法は比較的容易に実施できるため好ましく、ドクターブレードは1枚より複数枚用いるのが可塑剤の除去効率を向上させる上でさらに好ましい。
【0054】
ドクターブレードの材質は可塑剤に耐性を有するものであれば特に限定されないが金属製より樹脂製、あるいはゴム製のものが好ましい。金属製の場合、冷却ロールをキズつけてしまう恐れがあるためである。樹脂製ドクターブレードとしてはポリエステル製、ポリアセタール製、ポリエチレン製などが挙げられる。
【0055】
押出物の冷却方法としては、冷却風、冷却水、その他の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールに接触させる方法、キャスティングドラム等を用いる方法等があるが、目的とする冷却速度および冷却速度差を得るためには、キャスティングドラムと風冷を併用する方法が好ましい。しかし十分冷却できる場合には、キャスティングドラムまたは冷却風や冷却水、その他冷却媒体、冷媒で冷却したロールなどを単体で用いることもできる。なお、ダイから押し出された溶液は、冷却前あるいは冷却中に所定の引き取り比で引き取るが、引き取り比の下限は1以上が好ましい。上限は好ましくは10以下、より好ましくは5以下であることが好ましい。引き取り比が10以下であると、押出しネックインが小さくなり、延伸時に破断を起こしにくくなる。
【0056】
[ゲル状シートの冷却風条件]
冷却風温度については10~70℃が望ましく、より望ましくは15~60℃であり、さらにより望ましくは20~40℃である。10℃未満とすると周囲の空気からの結露がゲル状シート上に発生し、冷却ムラを引き起こして外観不良となる可能性が高い。70℃より高い温度では冷却効率が低いだけでなく、90℃以下まで冷却する時間が長くポリエチレンの結晶化が促進されるおそれがあるため、ゲル状シートの非晶量が低下し、伸度の低下に繋がる場合がある。冷却風はキャスティングドラムに引取られるゲル状シートに向けて吹き付ける形式が好ましく、更に冷却する際の風速については、15~50m/secが好ましく、より好ましくは20~45m/secであり、更に好ましくは30~40m/secである。15m/sec未満となるとゲル状シートを十分冷却することが難しく、50m/secより大きいとゲル状シートの平面性が悪くなり、延伸及び搬送の安定性を阻害するおそれがある。
【0057】
ゲル状シートの厚さの下限は0.5mmが好ましく、より好ましくは0.7mmである。ゲル状シートの厚さの上限は3mmであり、より好ましくは2mmである。ゲル状シートの厚さが3mm以下の場合、冷却過程において、ゲル状シートの最表層から内層にかけて構造のムラができにくく、厚さ方向全体にわたって高次構造を密にすることができる。また、ゲル状シートの厚さが3mm以下であれば、ゲル状シートの冷却速度を上述の好ましい範囲としやすい。
【0058】
これまで微多孔膜が単層の場合を説明してきたが、ポリオレフィン微多孔膜は、単層に限定されるものではなく、さらにいくつかの微多孔膜(層)を積層した積層体にしてもよい。追加して積層される層には、上述したようにポリエチレンの他に、本発明の効果を損なわない程度にそれぞれ所望の樹脂を含んでいてもよい。ポリオレフィン微多孔膜を積層体とする方法としては、従来の方法を用いることができるが、例えば、所望の樹脂を必要に応じて調製し、これらの樹脂を別々に押出機に供給して所望の温度で溶融させ、ポリマー管あるいはダイ内で合流させて、目的とするそれぞれの積層厚みでスリット状ダイから押出しを行う等して、積層体を形成する方法がある。
【0059】
[工程(c):縦延伸、工程(d):横延伸]
得られたゲル状シートの延伸方法については、同時二軸延伸、逐次延伸を問わないが、所望する引張強度と引張伸度を得るための配向結晶及び非晶部分のバランスを調整するためには、縦方向(機械方向)に延伸(工程(c))した後に急冷し、連続して横方向(機械方向と直角な方向)の延伸(工程(d))をした後に急冷する工程を経る逐次延伸を行うことが好ましい。
延伸はゲル状シートを加熱し、通常のテンター法、ロール法、もしくはこれらの方法の組み合わせによって所定の倍率で行う。また、このような延伸は、ゲル状シートを縦方向に延伸する縦延伸機と冷却機、横方向に延伸する横延伸機と冷却機とを、微多孔膜の製造方向(押出機側から微多孔膜の巻き取り側に向かう方向)に互いに隣接させて配置して、これら縦延伸機と横延伸機とを用いて連続的に行われる。
【0060】
縦延伸と横延伸を別々に行うため、各延伸工程において各方向にのみ延伸張力がかかることにより、分子配向が進みやすくなる。そのため、同時延伸に比べて同じ面積倍率においても分子配向を高くすることができ、高い引張強度、さらには高い突刺強度を達成することができる。
【0061】
塗工工程におけるネックインは、ポリオレフィン微多孔膜に高張力を掛けることにより、微多孔膜のラメラ解裂により起こる現象であると推察している。
延伸方向へ向いたラメラ配向つまり結晶部分が多いほど、よりネックインすると考えられる。
【0062】
本発明によれば、急冷により過剰な延伸配向及び熱配向を抑え、所望の伸度を確保するために必要な非晶部分を保持することができる。その結果、縦方向(MD)へ張力を掛けた際のネックイン量が抑制され、ポリオレフィン微多孔膜の収縮量を抑えることが出来たと推察している。
【0063】
[縦延伸]
縦方向の延伸倍率は、ゲル状シートの厚さによって異なるが、いずれの方向でも最終倍率3倍以上に延伸することが好ましい。縦方向の延伸は好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上で行うことが好ましい。また、縦方向の延伸の上限は好ましくは10倍、より好ましくは7倍で行うことが好ましい。縦方向の延伸が5倍以上であると、延伸配向により高い強度を付与することができる。また、縦方向の延伸が10倍以下であると、延伸による破れが発生しにくい。延伸については1段での延伸も多段での延伸も行うことができるが、1段での延伸では配向結晶化が進みやすく、伸度低下によるネックイン増加のおそれがあるため、多段で延伸するほうがよい。
【0064】
[縦延伸の歪み速度]
このときの歪み速度については、30%/sec以上で延伸することが望ましい。より好ましくは40%/sec以上であり、更に好ましくは50%/sec以上で行うことが好ましい。また歪み速度の上限は好ましくは600%/sec、より好ましくは500%/sec以下、更に好ましくは450%/secである。歪み速度が高すぎると配向結晶化が促進され、引張伸度が低下するおそれがあり、歪み速度が低すぎると十分な延伸配向が起こらず、引張強度が低下するおそれがある。
【0065】
[縦延伸の延伸温度]
また延伸温度については、[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度]~[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点]が好ましく、より好ましくは[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度+5℃]~[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点-5℃]、さらにより好ましくは[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度+10℃]~[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点-10℃]の温度範囲である。[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度]よりも高い温度で延伸することにより、急激な配向結晶化が促進され、引張伸度が所望の範囲より低下するおそれがあるほか、[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点]よりも低い温度で延伸することにより、製膜安定性が得られる。具体的には、ポリエチレン樹脂の場合は約90~100℃の結晶分散温度を有するので、横延伸温度は好ましくは80℃以上である。ポリエチレン樹脂を用いた場合の横延伸温度の上限は好ましくは135℃であり、より好ましくは130℃であり、さらに好ましくは125℃である。結晶分散温度TcdはASTM D 4065に従って測定した動的粘弾性の温度特性から求める。または、結晶分散温度TcdはNMRから求める場合もある。
【0066】
更に延伸後は速やかに冷却を行う。延伸による歪み速度を制御することにより、所望の引張強度を得るため必要な配向結晶を促進させ、速やかに急冷することにより、結晶間の非晶部分の絡み合いと弛みを残す処理を施すことにより、所望の引張伸度を得やすくなる。
【0067】
[縦延伸の冷却速度]
冷却については、冷却速度10℃/sec以上で90℃以下まで早急に冷却を行うことが望ましい。これは、一般的にポリエチレンが約90~100℃の結晶分散温度をもっているため、この温度以下とするためである。延伸後に熱固定を行う又は10℃/sec未満の冷却であると、ゲル状シートに残留している非晶が熱により結晶化が進行するため、所望の引張伸度より低下する恐れがある。また、ここでの冷却速度は、縦延伸終了時点のゲル状シート温度が結晶分散温度以下となるまでの時間と、縦延伸終了時点のゲル状シート温度と結晶分散温度以下との温度差によって求めることができる。したがって、冷却工程において、結晶分散温度以下まで冷却する場合には、冷却速度は縦延伸終了時点のゲル状シート温度と冷却工程出口の表裏それぞれのゲル状シート温度の平均値との差分を、冷却工程をゲル状シートにおけるある任意の位置における部位が通過する時間で除したものとなる。
【0068】
[縦延伸の冷却方法]
ゲル状シートの冷却方法は問わないが、搬送効率の観点からロール冷却と冷却風を併用することが望ましい。冷却速度を所定の範囲にするには冷却ロール面と反対の面に冷却風を当てる、または冷却ロール面と反対の面側に補助冷却ロールを配置する方法が効果的である。その際どちらを先にするかは問わない。
【0069】
[縦延伸の冷却ロール温度条件]
冷却ロール温度については、ポリオレフィンの結晶化が開始する付近の温度から速やかに冷却する温度に設定することが望ましい。具体的には20~80℃が望ましく、より望ましくは20~60℃である。ロール温度が20℃未満と低すぎる場合、周囲の空気温度との差によりロール上に結露が発生し、ゲル状シートがそのロール上を通過することによって冷却温度差により冷却ムラが発生し外観不良となる可能性が高い。80℃を超えると冷却材として用いる水の温度振れが大きくなり、冷却ロール温度を一定に保つことが難しい。
【0070】
[縦延伸の冷却風条件]
冷却風温度については10~70℃が望ましく、より望ましくは10~60℃である。10℃以下とすると周囲の空気からの結露がゲル状シート上に発生し、冷却ムラを引き起こして外観不良となる可能性が高い。70℃を超えると冷却効率が低いだけでなく、90℃以下まで冷却する時間が長くポリエチレンの結晶化が促進されるおそれがあるため、ゲル状シートの非晶量が低下し、伸度の低下に繋がる場合がある。更に冷却する際の風速については、15~25m/secが望ましい。15m/sec未満となるとゲル状シートを十分冷却することが難しく、25m/secより大きいとゲル状シートのバタつきが大きくなり、延伸及び搬送の安定性を阻害するおそれがある。なお、本明細書でいう風速とは、熱風吹き出しノズル出口に面した横延伸中のゲル状シート表面における風速を意味し、熱式風速計、例えば日本カノマックス株式会社製、アネモマスターモデル6161を用いて測定することができる。
【0071】
[横延伸]
横方向の延伸はテンターを用い好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上で行うことが好ましい。横方向の延伸の上限は好ましくは10倍であり、より好ましくは8倍である。横方向の延伸倍率が4倍以上であると、延伸配向によって一層高い強度を付与することができる。また、横方向の延伸倍率が10倍以下であれば、延伸による破れが発生しにくく、さらに延伸により膜表面の凹凸が潰れて表面が平滑となることを防ぐことができるために、目的とする引張強度が得られやすくなる。
【0072】
縦延伸と横延伸を総合した面積倍率では、20倍以上が好ましく、さらに好ましくは25倍以上である。総合した面積倍率の上限は好ましくは90倍であり、さらに好ましくは80倍である。20倍以上とすることにより高い強度を付与することができるほか、80倍未満とすることにより、高い伸度を保持することができる。
【0073】
[横延伸の延伸温度]
横延伸温度は[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度]~[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点]が好ましく、より好ましくは[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度+5℃]~[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点-5℃]、さらにより好ましくは[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度+10℃]~[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点-10℃]の温度範囲である。延伸温度が[ゲル状シート内ポリオレフィンの結晶の結晶分散温度]よりも高い温度であることにより、ポリオレフィン樹脂の軟化が十分であり、延伸張力が低いために製膜性が良好となり、延伸時に破膜しにくく高倍率での延伸が可能となる。さらに[ゲル状シート内ポリオレフィンの融点]よりも低い温度で延伸することにより、ポリオレフィン樹脂の溶融が防がれ製膜安定性が得られるとともに、延伸によって分子鎖を効率的に配向せしめることが可能となる。
【0074】
具体的には、ポリエチレン樹脂の場合は約90~100℃の結晶分散温度を有するので、横延伸温度は好ましくは80℃以上である。ポリエチレン樹脂を用いた場合の横延伸温度の上限は好ましくは135℃であり、より好ましくは130℃であり、さらに好ましくは125℃である。結晶分散温度TcdはASTM D 4065に従って測定した動的粘弾性の温度特性から求める。または、結晶分散温度TcdはNMRから求める場合もある。
【0075】
[横延伸の冷却速度]
横延伸後に速やかに90℃以下となるよう10℃/sec以上の速度で冷却する。これは、一般的にポリエチレンが約90~100℃の結晶分散温度をもっているため、この温度以下とするためである。延伸後に熱固定を行う又は10℃/sec未満の冷却であると、ゲル状シートに残留している非晶が熱により結晶化が進行するため、所望の引張伸度より低下する恐れがある。
【0076】
また、ここでの冷却速度は、縦延伸終了時点のゲル状シート温度が結晶分散温度以下となるまでの時間と、縦延伸終了時点のゲル状シート温度と結晶分散温度以下との温度差によって求めることができる。したがって、冷却工程において、結晶分散温度以下まで冷却する場合には、冷却速度は縦延伸終了時点のゲル状シート温度と冷却工程出口の表裏それぞれのゲル状シート温度の平均値との差分を、冷却工程をゲル状シートにおけるある任意の位置における部位が通過する時間で除したものとなる。
【0077】
[横延伸の冷却方法]
冷却方法については問わないが、冷却ロールで冷却、テンター出口付近で冷却風を当てる等の手法が好適であり、併用しても構わない。
【0078】
[横延伸の冷却ロール温度条件]
冷却ロール温度については、ポリオレフィンの結晶化が開始する付近の温度から速やかに冷却する温度に設定することが望ましい。具体的には20~80℃が望ましく、より望ましくは20~60℃である。ロール温度が20℃未満と低すぎる場合、周囲の空気温度との差によりロール上に結露が発生し、ゲル状シートがそのロール上を通過することによって冷却温度差により冷却ムラが発生し外観不良となる可能性が高い。80℃を超えると冷却材として用いる水の温度振れが大きくなり、冷却ロール温度を一定に保つことが難しい。
【0079】
[横延伸の冷却風条件]
冷却風温度については10~70℃が望ましく、より望ましくは10~60℃である。10℃未満とすると周囲の空気からの結露がゲル状シート上に発生し、冷却ムラを引き起こして外観不良となる可能性が高い。70℃超えると冷却効率が低いだけでなく、90℃まで冷却する時間が長くポリエチレンの結晶化が促進されるおそれがあるため、ゲル状シートの非晶量が低下し、伸度の低下に繋がる場合がある。更に冷却する際の風速については、15~25m/secが望ましい。15m/sec未満となるとゲル状シートを十分冷却することが難しく、25m/secより大きいとゲル状シートのバタつきが大きくなり、延伸及び搬送の安定性を阻害するおそれがある。
【0080】
[横延伸後の熱固定]
一般的にポリオレフィン樹脂のゲル状シートを延伸することにより、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮が延伸歪みにより上昇する。そのため、各延伸工程において結晶分散温度以上の温度にて熱固定を行い、延伸歪みを緩和させ熱収縮の低減を図る。通常のセパレータ製膜においては熱固定・熱緩和又は熱固定のみをするのが業界内の一般常識である。
【0081】
本発明ではポリオレフィン微多孔膜の強度と伸度を両立させるため、熱固定を行わないことが望ましい。熱固定を行うと熱配向が進行し、余分な配向が進み伸度が低下するおそれがある。熱固定を行わないことによってポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率は大きくなるが、無機粒子を含む多孔層の積層によって熱収縮は抑制できる。
【0082】
以上のような延伸によりゲル状シートに形成された高次構造に開裂が起こり、結晶相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。延伸により機械的強度が向上するとともに、細孔が拡大するので、電池用セパレータに好適になる。
【0083】
なお、逐次延伸はゲル状シート中の可塑剤を除去する前に行うことが重要である。可塑剤が十分にゲル状シート中に含まれるとポリオレフィンが十分に可塑化し軟化した状態であるために、可塑剤の除去前の延伸によって、高次構造の開裂がスムーズになり、結晶相の微細化を均一に行うことができる。
【0084】
[工程(e):延伸膜からの可塑剤の抽出(洗浄)]
次に、ゲル状シート中に残留する溶剤を、洗浄溶剤を用いて抽出・除去、すなわち洗浄する。ポリオレフィン相と溶媒相とは分離しているので、溶剤の除去によりポリオレフィン微多孔膜が得られる。洗浄溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、三フッ化エタン、C6F14、C7F16等の鎖状フルオロカーボン、C5H3F7等の環状ハイドロフルオロカーボン、C4F9OCH3、C4F9OC2H5等のハイドロフルオロエーテル、C4F9OCF3、C4F9OC2F5等のパーフルオロエーテル等の易揮発性溶剤が挙げられる。これらの洗浄溶剤は低い表面張力(例えば、25℃で24mN/m以下)を有する。低い表面張力の洗浄溶剤を用いることにより、ポリオレフィン微多孔を形成する網状構造が洗浄後に乾燥時に気-液界面の表面張力により収縮するのが抑制され、もって高い空孔率および透過性を有するポリオレフィン微多孔膜が得られる。これらの洗浄溶剤はポリオレフィン樹脂の溶解に用いた溶剤に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いる。
【0085】
洗浄方法は、ゲル状シートを洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、ゲル状シートに洗浄溶剤をシャワーする方法、またはこれらの組み合わせによる方法等により行うことができる。洗浄溶剤の使用量は洗浄方法により異なるが、一般にゲル状シート100重量部に対して300重量部以上であるのが好ましい。洗浄温度は15~30℃でよく、必要に応じて80℃以下に加熱する。この時、溶剤の洗浄効果を高める観点、得られるポリオレフィン微多孔膜の物性の横方向および/または縦方向のポリオレフィン微多孔膜物性が不均一にならないようにする観点、微多孔膜の機械的物性および電気的物性を向上させる観点から、ゲル状シートが洗浄溶剤に浸漬している時間は長ければ長い方が良い。
【0086】
上述のような洗浄は、洗浄後のゲル状シート、すなわちポリオレフィン微多孔膜中の残留溶剤が1重量%未満になるまで行うのが好ましい。
【0087】
[工程(f):微多孔膜の乾燥]
洗浄後、洗浄溶剤を乾燥して除去する。乾燥の方法は特に限定されないが、加熱乾燥法、風乾法等により乾燥する。乾燥温度は、ポリエチレン組成物の結晶分散温度Tcd以下であることが好ましく、特に、(Tcd-5℃)以下であることが好ましい。乾燥は、ポリオレフィン微多孔膜の乾燥重量を100重量%として、残存洗浄溶剤が5重量%以下になるまで行うのが好ましく、3重量%以下になるまで行うのがより好ましい。乾燥が不十分であると、後の熱処理でポリオレフィン微多孔膜の空孔率が低下し、透過性が悪化する。
【0088】
[工程(g):微多孔膜の急速冷却]
洗浄乾燥層で洗浄剤揮発時の収縮により緩和したTD方向の強度を、乾式延伸によりTD方向に再度延伸結晶化させることにより確保する。ここで、一般的に、突刺強度等の機械的強度を向上させるために、洗浄乾燥後にさらに縦、または横、あるいは両方向に1.05倍~2.00倍程度の延伸(以下、再延伸という)を行う場合がある。このような再延伸を行うと、突刺強度等の機械的強度が増加する。
【0089】
従って、できるだけ大きな機械的強度を持つポリオレフィン微多孔膜を得るためには既述の再延伸を行うことが好ましいが、引張強度と引張伸度を後述の範囲内に設定したポリオレフィン微多孔膜を得るためには、ポリオレフィン微多孔膜の乾燥工程(f)の後、再延伸を行い乾燥工程で緩和した配向を補うとともに、早急に冷却し非晶部分を保持させ、コアにポリオレフィン微多孔膜を巻き取ることが好ましい。
【0090】
再延伸の倍率についてはより好ましくは1.05倍~1.80倍以下である。1.80倍より大きく再延伸すると突刺強度等の機械的強度が増加するが、配向結晶が促進し、所望の引張伸度が得られない恐れがある。
【0091】
再延伸後、後工程(スリット、輸送等)での収縮によるポリオレフィン微多孔膜幅変化抑制のため、ポリオレフィン微多孔膜を0~10%収縮緩和させ、その後急冷する。
【0092】
急冷について、延伸後には連続するオーブンの温度を下げて調整及び冷却ロールを通過させ10℃/sec以上で冷却する。このとき25℃/sec以上であると、結晶化がより抑制される。また急冷方法は指定がないが、テンター延伸であればエアを吹き付ける形状で冷却し、その後金属ロールにて冷却することが望ましい。
【0093】
また、ここでの冷却速度は、縦延伸終了時点のポリオレフィン微多孔膜温度が結晶分散温度以下となるまでの時間と、縦延伸終了時点のポリオレフィン微多孔膜温度と結晶分散温度以下との温度差によって求めることができる。したがって、冷却工程において、結晶分散温度以下まで冷却する場合には、冷却速度は縦延伸終了時点のポリオレフィン微多孔膜温度と冷却工程出口の表裏それぞれのポリオレフィン微多孔膜温度の平均値との差分を、冷却工程をポリオレフィン微多孔膜におけるある任意の位置における部位が通過する時間で除したものとなる。
【0094】
一般的なセパレータ常識として、熱収縮低減のため再延伸時の熱緩和は10%以上行うことが望ましいことは既知である。但し本発明ではコーティングによりセパレータ全体として熱収縮が抑えられるため、高温域での熱収縮を抑制するような熱緩和を行い、ポリオレフィン微多孔膜の収縮を著しく低減させる必要はない。
【0095】
冷却は延伸後に速やかに90℃以下となるように行う。これは、一般的にポリエチレンが約90~100℃の結晶分散温度をもっているため、この温度以下とするためである。
【0096】
冷却方法は問わないが、搬送効率の観点からロール冷却と風冷を併用することが望ましい。その際どちらの冷却を先にするかは問わない。
【0097】
[再延伸のロール冷却条件]
冷却ロール温度については、ポリオレフィンの結晶化が開始する付近の温度から速やかに冷却する温度に設定することが望ましい。具体的には20~80℃が望ましく、より望ましくは20℃~60℃である。ロール温度が20℃未満より低すぎる場合、周囲の空気温度との差によりロール上に結露が発生し、ポリオレフィン微多孔膜がそのロール上を通過することによって冷却温度差により冷却ムラが発生し外観不良となる可能性が高い。80℃超えると冷却材として用いる水の温度振れが大きくなり、冷却ロール温度を一定に保つことが難しい。
【0098】
[再延伸の冷却風条件]
冷却風温度については10~90℃が望ましく、より望ましくは10~80℃である。10℃以下とすると周囲の空気からの結露がポリオレフィン微多孔膜上に発生し、冷却ムラを引き起こして外観不良となる可能性が高い。90℃を超えると冷却効率が低く、80℃まで冷却する時間が長く、ポリエチレンの結晶化が促進されるおそれがあるため、ポリオレフィン微多孔膜の非晶量が低下し、伸度の低下に繋がるおそれがある。更に風冷する際の風速については、15~25m/secが望ましい。15m/sec未満となるとポリオレフィン微多孔膜を十分冷却することが難しく、25m/secより大きいとポリオレフィン微多孔膜のバタつきが大きくなり、延伸及び搬送の安定性を阻害する可能性が高い。
【0099】
一般的にポリオレフィン微多孔膜の製膜において、延伸後の延伸膜またはポリオレフィン微多孔膜を熱固定処理及び/または熱緩和処理を行うが、これは熱緩和処理によって結晶が安定化し、ラメラ層が均一化され、細孔径が大きく、強度に優れたポリオレフィン微多孔膜を作製できる。熱固定処理は、ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の結晶分散温度以上~融点以下の温度範囲内で行う。熱固定処理は、テンター方式、ロール方式又は圧延方式により行う。
【0100】
熱緩和処理方法としては、例えば特開2002-256099号公報に開示の方法を利
用できる。
【0101】
できるだけポリオレフィン微多孔膜の熱収縮が小さいポリオレフィン微多孔膜を得るためには既述の熱緩和、熱固定処理を行うことが好ましいが、引張強度と引張伸度を後述の範囲内に設定したポリオレフィン微多孔膜を得るためには、必ずしも熱緩和、熱固定処理を行わず、早急に冷却し非晶部分を保持させ、コアにポリオレフィン微多孔膜を巻き取ることが好ましい。
【0102】
さらに、その他用途に応じて、延伸膜またはポリオレフィン微多孔膜に親水化処理を施してもよい。親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。
【0103】
界面活性剤処理の場合、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤および両イオン界面活性剤のいずれも使用できるが、ノニオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤を水またはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールに溶解してなる溶液中にポリオレフィン微多孔膜を浸漬するか、ポリオレフィン微多孔膜にドクターブレード法により溶液を塗布する。
【0104】
必要に応じ、延伸膜またはポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に空気あるいは窒素あるいは炭酸ガスと窒素の混合雰囲気中で、コロナ放電処理することもできる。
以上説明した各工程が終了したあと、コアにポリオレフィン微多孔膜を巻き取って捲回体を得る。
【0105】
[工程(h):エージング処理]
ポリオレフィン微多孔膜を巻き取った捲回体は、恒温庫でエージング処理を行う。非晶部分を保持する目的で急速冷却を行うため、このままでは後工程や輸送中に経時によるポリオレフィン微多孔膜の幅収縮が懸念される。そのため、ポリオレフィン微多孔膜の非晶部分を保持したまま、通常取り扱いでの幅収縮を抑えるため、結晶分散温度よりも低い温度で恒温保管するエージング処理を施すことが望ましい。
【0106】
エージング処理温度は40℃~80℃が好ましく、より好ましくは45℃~70℃であり、更に好ましくは50℃~70℃である。40℃未満であると夏場や船舶等での輸送中に外気温の熱により収縮するおそれがあり、80℃より大きいと結晶分散温度付近であるため過剰に収縮され、塗工工程での幅取り収率が低下するおそれがある。
【0107】
[多孔層]
本明細書でいう多孔層とは、耐熱性、電極材料との接着性、電解液浸透性などの機能を少なくとも一つを付与し、または向上させるものである。多孔層は無機粒子と樹脂で構成される。樹脂は前記機能を付与又は向上させるとともに無機粒子同士を結合させる役割、ポリオレフィン微多孔膜と多孔層とを結合させる役割を有するものである。
【0108】
樹脂としては、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロースエーテル系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられ、耐熱性の観点からはポリビニルアルコール系樹脂、セルロースエーテル系樹脂が好適であり、電極接着性、非水電解液との親和性の観点からはポリフッ化ビニリデン系樹脂が好適である。ポリビニルアルコール系樹脂としてはポリビニルアルコール又はその誘導体が挙げられる。セルロースエーテル系樹脂としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)又はその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロースなどが挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂としてはフッ化ビニリデン単独重合体、フッ化ビニリデン-フッ化オレフィン共重合体が挙げられる。樹脂はセルロースエーテル系樹脂及びポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であってもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は電極との接着性に優れ、非水電解液とも親和性も高く、非水電解液に対する化学的、物理的な安定性が高いため、高温下での使用にも電解液との親和性を十分維持できる。特に、なかでも電極接着性の観点からはポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好適である。
【0109】
樹脂を水溶液または水分散液として用いてもよいし、溶解可能な有機溶媒に溶解させて用いてもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解するために使用できる溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、リン酸ヘキサメチルトリアミド(HMPA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、3-クロロナフタレン、パラクロロフェノール、テトラリン、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられる。
【0110】
多孔層を積層したことによるセパレータのカールを低減させるために、多孔層には無機粒子が含まれることが好ましい。無機粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラス粒子、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカーアルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカ、ベーマイトなどが挙げられる。また、必要に応じて架橋高分子粒子を添加してもよい。架橋高分子粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子などが挙げられる。無機粒子の形状は真球形状、略球形状、板状、針状、多面体形状が挙げられるが特に限定されない。
【0111】
無機粒子の平均粒径は、ポリオレフィン微多孔膜の平均細孔径の1.5倍以上、50倍以下であることが好ましく、より好ましくは2倍以上、20倍以下である。粒子の平均粒径が上記好ましい範囲であると、耐熱性樹脂と粒子が混在した状態でポリオレフィン微多孔膜の細孔を塞ぐのを防ぎ、結果として透気抵抗度を維持できる。また、電池組み立て工程において粒子が脱落し、電池の重大な欠陥を招くのを防ぐ。
【0112】
多孔層に含まれる無機粒子の含有量は、上限は98vol%が好ましく、より好ましくは95vol%である。下限は50vol%が好ましく、より好ましくは60vol%である。粒子の添加量が上記好ましい範囲であるとカール低減効果が十分であり、多孔層の総体積に対して機能性樹脂の割合が最適である。
【0113】
多孔層の平均厚みは、下限は1μmが好ましく、より好ましくは1.5μm、さらに好ましくは2.0μmであり、上限は5μmが好ましく、より好ましくは4μm、さらに好ましくは3μmである。多孔層の膜厚が上記好ましい範囲であると、多孔層の厚み変動幅を抑制できる。多孔層を積層して得られた電池用セパレータは融点以上で溶融・収縮した際の破膜強度と絶縁性を確保できる。また、巻き嵩を抑制することができ電池の高容量化には適する。
【0114】
多孔層の空孔率は、35~90%が好ましく、より好ましくは38~70%である。所望の空孔率は、無機粒子の濃度、バインダー濃度などを適宜調整することで得られる。
【0115】
[ポリオレフィン微多孔膜への多孔層の積層方法]
長さ方向の引張強度が270~350MPaであり、幅方向の引張強度が220~280MPaであり、長さ方向の引張伸度が100~150%であり、幅方向の引張伸度が100~180%であるポリオレフィン微多孔膜に多孔層を積層することで電池用セパレータを得ることができる。本発明のポリオレフィン微多孔膜を用いることによって、高速で塗工する際の高張力下における10μm以下の薄膜セパレータのネックインが抑制でき、幅取り収率が向上する。
【0116】
ポリオレフィン微多孔膜へ多孔層を積層する方法は、湿式塗工法であれば特に限定されないが、例えば、後述する公知のロールコート法を用いて、樹脂、無機粒子及び分散溶媒を含む塗工液をポリオレフィン微多孔膜に所定の膜厚になるように塗工し、乾燥温度40~80℃、乾燥時間5秒から60秒の条件下で乾燥させる方法がある。
【0117】
ロールコート法としては、例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法などが挙げられ、これらの方法は単独又は組み合わせて行うことができる。なかでも塗工厚の均一化の観点からはグラビアコート法が好ましい。
【0118】
[3]ポリオレフィン微多孔膜の構造及び物性
ポリオレフィン微多孔膜の好ましい実施態様としては次の物性がある。
【0119】
(1)引張強度
ポリオレフィン微多孔膜は、長さ方向の引張強度が270MPa以上350MPa以下であり、かつ幅方向の引張強度が220MPa以上280以下である。上記範囲とすることでポリオレフィン微多孔膜の塗工時に高張力を掛けたときのポリオレフィン微多孔膜のネックイン量が小さく抑えられる。
【0120】
長さ方向、幅方向のいずれかの引張強度が上記範囲の上限よりも大きくなると、ポリオレフィン微多孔膜の粘弾性が低下し、搬送及び塗工での工程安定性が低下するおそれがある。また上記範囲の下限を下回ると搬送時のポリオレフィン微多孔膜の伸び量が大きく、ポリオレフィン微多孔膜にシワが発生し、塗工後の生産性が低下するおそれがある。
長さ方向・幅方向の引張強度は、引張試験機で測定することができる。
【0121】
MD/TDの強度比については、塗工時の搬送性向上の面からMD強度が大きいほうが好ましく、1.00以上1.50以下であることが好ましい。より好ましくは1.10以上1.45以下であり、更に好ましくは1.15以上1.40以下である。強度比が1.50より大きいと、MD方向とTD方向で衝撃が加わった際の膜保持力が大きく異なるため、ネックイン量が増大するおそれがある。
【0122】
(2)引張伸度
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、長さ方向の引張伸度が100%以上150%以下であり、かつ幅方向の引張伸度は100%以上180%以下である。上記範囲とすることでポリオレフィン微多孔膜の塗工時に高張力を掛けたときのポリオレフィン微多孔膜のネックイン量が小さく抑えられる。
【0123】
長さ方向、幅方向のいずれかの引張伸度が上限を超えると搬送時のポリオレフィン微多孔膜の伸び量が大きく、ポリオレフィン微多孔膜にシワが発生し、塗工後の生産性が低下するおそれがある。また引張伸度が長さ方向、幅方向のいずれかが100%を下回るとポリオレフィン微多孔膜の粘弾性が低下し、搬送及び塗工での工程安定性が低下するおそれがある。長さ方向・幅方向の引張伸度は、引張試験機で測定することができる。
【0124】
(3)ポリオレフィン微多孔膜の厚さ
ポリオレフィン微多孔膜の厚さの上限は10μmが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の厚さのより好ましい上限は9μmである。ポリオレフィン微多孔膜の厚さの下限は好ましくは4μm、より好ましくは5μm、さらに好ましくは7μmである。ポリオレフィン微多孔膜の厚さが上記の範囲であれば、実用的な突刺強度と孔閉塞機能を保有させることができ、高張力を掛けた際のネックイン抑制も十分発揮され、電池の高容量化にも適するものとなる。
【0125】
(4)空孔率
ポリオレフィン微多孔膜の空孔率については、上限は好ましくは60%、さらに好ましくは55%、最も好ましくは50%である。空孔率の下限は好ましくは35%、さらに好ましくは38%である。空孔率が60%以下であれば、十分な機械的強度と絶縁性が得られやすく、充放電時に短絡が起こりにくくなる。また、空孔率が35%以上であれば、イオン透過性がよく、良好な電池の充放電特性を得ることができる。
【0126】
(5)熱収縮
ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮は、常温(40℃以下)環境化で急激な寸法変化をしない限り、特に限定されず、例えば100℃/1hrや120℃/1hrでの熱収縮が10%以上など大きくても構わない。
【0127】
(6)高張力時の膜幅保持
ポリオレフィン微多孔膜のネックイン後の幅については、下のポリオレフィン微多孔膜幅100%に対し、下限は好ましくは65%、より好ましくは68%、更に好ましくは70%である。ネックインが大きいと、膜変形及びその影響による端部へのシワ発生等により、塗工後の幅取り収率が低下する。
【0128】
ここでいう高張力とは、10Nの荷重を幅10mm厚み10μmに対してかけることを意味し、100N/mm2の圧力をかけたときのことをいう。
【0129】
[4]用途
ポリオレフィン微多孔膜は電池やコンデンサーなどの電気化学反応装置のセパレータ(隔離材)として好適である。なかでも、非水電解液系二次電池、特にリチウム二次電池のセパレータとして好適に使用できる。
【0130】
[5]物性の測定方法
以下に各物性の測定方法を説明する。
【0131】
(1)厚み(平均膜厚)
微多孔膜の95mm×95mmの範囲内における5点の膜厚を接触厚み計(株式会社ミツトヨ製ライトマチックVl50 10R球面測定子を用いる)により室温23℃で測定し、平均値を求めた。
【0132】
(2)空孔率(%)
ポリオレフィン微多孔膜を5cm×5cmの大きさに切り出し、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。
空孔率=((体積-質量/膜密度)/体積)×100
【0133】
膜密度は、使用するポリエチレンの密度によって0.95~0.99とするが、ここでは膜密度は0.99とした。また、体積の算出には、前述の(1)で測定した厚みを使用した。
【0134】
(3)引張強度、引張伸度
各方向に対応する引張強度(MPa)及び引張伸度(%)については、インストロン製の引張試験機、インストロン5543を用いて、ASTM D882に準拠し、下記の条件で測定した。
・サンプル形状:縦100mm×横10mmの矩形
・測定方向:MD(長さ方向)、TD(幅方向)
・チャック間距離:20mm
・引張速度:100mm/min
・グリップ:インストロン製 2702-018 Jaw Faces for Flats(Rubber Coated,50×38mm)
・ロードセル:500N
・チャック圧:0.50MPa
・温度:23℃
【0135】
引張伸度(%)は、サンプル破断に至るまでの伸び量(mm)をチャック間距離(20mm)で除して、100を乗じることにより求めた。引張強度(MPa)は、サンプル破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除すことで求めた。引張強度及び引張伸度について各方向サンプルを5点測定した値の平均値を算出した。
【0136】
(4)高張力時の膜幅保持率
ポリオレフィン微多孔膜の縦方向への荷重に対する幅方向のネックイン率については、インストロン製の引張試験機、インストロン5543を用いて、下記の条件で測定した。
・サンプル形状:縦100mm×横10mmの矩形
・測定方向:MD(機械方向)
・チャック間距離:20mm
・引張速度:10mm/min
・クリープ保持荷重:10N
・グリップ:インストロン製 2702-018 Jaw Faces for Flats(Rubber Coated,50×38mm)
・ロードセル:500N
・チャック圧:0.50MPa
・温度:23℃
【0137】
10mm/minの速度でサンプルを引張り、10Nの加重がかかったところで荷重を保持し、その時のサンプル中央部におけるサンプル幅(横方向)を金尺で読み取り測定した。測定前の試験片の幅(L1=10mm)と荷重保持したときの試験片の幅方向の大きさ(L2)とを測定し、L1を100%としたときの、L2のネックイン率を式:[(L2/L1)×100](%)により算出した。ネックイン後の膜幅保持率65%以上を高張力時の膜幅保持率が良好と判断した。
【0138】
(5)塗工生産性評価
塗工前のポリオレフィン微多孔膜の幅方向の大きさ(L1)と塗工後のポリオレフィン微多孔膜の幅方向の大きさ(L2)とを測定し、L1を100%としたときの、L2のネックイン率を式:[(L2/L1)×100](%)により算出し、塗工生産性評価とした。塗工後の膜幅保持率95%以上を塗工性が良好と判断した。
【実施例】
【0139】
以下に実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0140】
実施例1
<ポリオレフィン微多孔膜>
重量平均分子量(Mw)が2.4×106の超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)40質量%と、Mwが5.4×105の高密度ポリエチレン(HDPE)60質量%とからなるポリエチレン(PE)組成物100質量部に、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.375質量部をドライブレンドし、混合物を得た。
【0141】
得られた混合物25.0質量部を強混練タイプの二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン75.0質量部を供給し、スクリュー回転数Nsを180rpmに保持しながら、210℃の温度で溶融混練して(Q/Ns:1.5kg/h/rpm)、ポリエチレン溶液を調製した。
【0142】
得られたポリエチレン溶液を、二軸押出機からTダイに供給し、シート状成形体となるように押し出した。Tダイに供給する際に最終的な膜厚が表1に記載の値になるように二軸押出機の回転数を調整した。押し出した成形体を、16℃/secの冷却速度で50℃になるまで急速に冷却固化するよう20℃の冷却ロールで引き取り、ゲル状シートを形成した。得られたゲル状シートを延伸温度115℃で6.5倍になるようにロール方式で歪み速度69%/sec、73%/sec、341%/secの3段階で縦延伸を行い、最終段の延伸後に、冷却ロール温度40℃で18℃/secの冷却速度で50℃までシートの急速冷却を行った。
【0143】
引き続いてテンターに導き、延伸温度123.0℃で延伸倍率6.8倍になるように横延伸を実施し、60℃の冷却風を上下から風速20m/secで幅方向に均一に吹きつけながら、冷却速度18℃/secで50℃までシートを冷却した。
【0144】
延伸後の膜を25℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽内にて洗浄し、流動パラフィンを除去した。洗浄した膜を70℃で乾燥し、テンター内に134.0℃にて延伸倍率1.5倍に再延伸した後、4.8%熱緩和し、80℃の冷却風を上下から風速20m/secで幅方向に均一に吹きつけながら、冷却速度33℃/secで80℃まで冷却し、巻き取った捲回体を60℃恒温庫に24時間入れてエージング処理を行い9μmのポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0145】
実施例2
ゲル状シート形成時の冷却、縦延伸後の冷却、横延伸後の冷却、再延伸後の冷却を表1に記載の条件に替え、縦延伸倍率と横延伸倍率を調整した以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0146】
実施例3
ゲル状シート形成時の冷却、縦延伸後の冷却、横延伸後の冷却、再延伸後の冷却を表1に記載の条件に替え、縦延伸倍率と横延伸倍率を調整した以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0147】
実施例4
ゲル状シート形成時の冷却において、さらに18℃の冷却風を吹き付け、冷却速度を23℃/secとした以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0148】
実施例5
縦延伸後の冷却において、さらに25℃の冷却風を吹き付け、冷却速度を25℃/secとした以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0149】
実施例6
横延伸後の冷却において、さらに25℃冷却ロールを用いて冷却速度を25℃/secとした以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0150】
実施例7
再延伸後の冷却において、さらに25℃冷却ロールを用いて冷却速度を36℃/secとした以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0151】
実施例8
超高分子量ポリエチレン26質量%と、高密度ポリエチレン64質量%と、ポリプロピレン10質量%とからなるポリエチレン組成物を用いた以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0152】
比較例1
超高分子量ポリエチレン30質量%と高密度ポリエチレン70質量%とからなるポリエチレン組成物を用いて、ゲル状シート形成時の冷却および縦延伸後の冷却において製膜速度等を調整して冷却速度を22℃/secとし、横延伸倍率を調整し、横延伸後の冷却において冷却風温度を100℃として冷却速度を4℃/secとする条件で冷却を行い、再延伸後の冷却を実施せず、再延伸した後に幅方向を把持して125℃で熱固定を実施した以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0153】
比較例2
ゲル状シート形成時の冷却において冷却ロール温度を50℃として冷却速度を9℃/secとし、縦延伸倍率を調整し、横延伸後の冷却において冷却風温度を80℃として冷却速度を7℃/secとした以外は比較例1と同様に微多孔膜を得た。
【0154】
比較例3
重量平均分子量が0.7×106の超高分子量ポリエチレン30質量%と高密度ポリエチレン70質量%とからなるポリエチレン組成物を用いて、ゲル状シート形成時の冷却および縦延伸後の冷却において製膜速度等を調整して冷却速度を22℃/secとし、横延伸後の冷却において冷却風温度を40℃として冷却速度を25℃/sec、再延伸後の冷却において、冷却風温度50℃として冷却速度を25℃/secとした以外は実施例1と同様に微多孔膜を得た。
【0155】
比較例4
重量平均分子量が2.4×106の超高分子量ポリエチレン21質量%と高密度ポリエチレン64質量%とポリプロピレン15質量%からなるポリエチレン組成物を用いた以外は比較例3と同様に微多孔膜を得た。
【0156】
【0157】
比較例5
重量平均分子量(Mw)が2.4×106の超高分子量ポリエチレン21質量%と、Mwが5.4×105の高密度ポリエチレン64質量%と、Mwが2.6×106のポリプロピレン15質量%からなるポリオレフィン組成物100質量部に、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)メタン0.375質量部をドライブレンドし、混合物を得た。
【0158】
得られた混合物25.0質量部を強混練タイプの二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン75.0質量部を供給し、スクリュー回転数Nsを180rpmに保持しながら、210℃の温度で溶融混練して(Q/Ns:1.5kg/h/rpm)、ポリエチレン溶液を調製した。
【0159】
得られたポリエチレン溶液を、二軸押出機からTダイに供給し、シート状成形体となるように押し出した。Tダイに供給する際に最終的な膜厚が表1になるように二軸押出機の回転数を調整した。押し出した成形体を、22℃/secの冷却速度で50℃になるまで急速に冷却固化するよう20℃の冷却ロールで引き取り、ゲル状シートを形成した。
【0160】
得られたゲル状シートを同時二軸テンター延伸機に導き、延伸温度を118℃で縦延伸倍率を5倍、横延伸倍率を5倍となるように同時二軸延伸した後に118℃で熱固定を行った。
【0161】
延伸後の膜を25℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽内にて洗浄し、流動パラフィンを除去した。洗浄した膜を70℃で乾燥した膜をテンター内に125℃で延伸倍率1.4倍に延伸した後、5.0%熱緩和し、冷却工程を経ず、120℃で熱固定を行った。得られた微多孔膜を巻取り、60℃24時間恒温庫に入れてエージング処理を行った。
【0162】
比較例6
超高分子量ポリエチレン40質量%と、高密度ポリエチレン60質量%からなるポリエチレン組成物を用い、130℃で熱固定を行った以外は比較例5と同様に微多孔膜を得た。
【0163】
(塗工液の作製)
参考例1
ポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度99%以上)と、アルミナ粒子(平均粒径0.5μm)と、イオン交換水とを重量比率6:54:40で配合して十分に攪拌し、均一に分散させた。これを濾過限界5μmのフィルターで濾過し、塗工液(a)を得た。
【0164】
参考例2
ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体(“POVACOAT”(登録商標)、日新化成株式会社製)と、アルミナ粒子(平均粒径0.5μm)と、溶媒(イオン交換水:エタノール=70:30(重量比))とを重量比率5:45:50で配合し、十分に攪拌し、均一に分散させた。これを濾過限界5μmのフィルターで濾過し、塗工液(b)を得た。
【0165】
参考例3
フッ素系樹脂として、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VdF/HFP=92/8(重量比)、重量平均分子量が100万)と、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VdF/HFP=88/12(重量比)、重量平均分子量60万)とを塗工液の溶液粘度が100mPa・sになるように配合して用いた。
【0166】
アルミナ粒子がフッ素系樹脂とアルミナ粒子の合計に対して50体積%のアルミナ粒子(平均粒径0.5μm)と、フッ素系樹脂と、N-メチル-2-ピロリドンを固形分濃度が10重量%となるように配合し、フッ素系樹脂成分を完全に溶解させ、さらに、アルミナ粒子を均一に分散させた。これを濾過限界5μmのフィルターで濾過し、塗工液(c)を得た。
【0167】
実施例9
実施例1で得られたポリオレフィン微多孔膜に塗工装置(グラビアコート法)を用いて搬送速度50m/minで塗工液(a)を塗工し、50℃の熱風乾燥炉を10秒間通過させることで乾燥させ、多孔層の厚み3μmの電池用セパレータを得た。塗工工程の張力は100N/mとした。
【0168】
実施例10
塗工液(a)を塗工液(b)に替えた以外は実施例9と同様にして電池用セパレータを得た。
【0169】
実施例11
塗工液(a)を塗工液(c)に替えた以外は実施例9と同様にして電池用セパレータを得た。
【0170】
比較例7
塗工基材を比較例1で得られたポリオレフィン微多孔膜に替えた以外は実施例9と同様にして電池用セパレータを得た。
【0171】
実施例1~8及び比較例1~6で得られたポリオレフィン微多孔膜の樹脂組成、製膜条件、物性について表1に、実施例9~11、比較例7で得られた塗工結果について表2に示す。
【0172】
【0173】
表1から、実施例1~8のポリオレフィン微多孔膜は、引張強度と引張伸度を両立させ、ネックイン量が少なく、高張力下での塗工においても優れた生産性を得ることができることがわかる。