(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】良性発作性頭位めまい症の検査治療器具
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
A61B10/00 W
(21)【出願番号】P 2019231700
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】518194246
【氏名又は名称】株式会社ジャパン・メディカル・カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(72)【発明者】
【氏名】藤坂 実千郎
(72)【発明者】
【氏名】將積 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀則
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀晃
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-264213(JP,A)
【文献】特開平09-285468(JP,A)
【文献】中国実用新案第206324911(CN,U)
【文献】特許第5827918(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 9/00-10/06
A61F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頭部に装着される平衡機能検査機器と、前記平衡機能検査機器に装着された前庭模型とを備え、
前記前庭模型は三半規管と前記三半規管に接続された耳石器とを含み、かつ透明の合成樹脂から中空に形成されており、
前記前庭模型の内部には液体が封入されていると共に前記液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型が移動自在に収容されており、
前記三半規管の膨大部には前記液体の通過を許容すると共に前記耳石模型の通過を阻止する阻止片が配置されて
おり、
前記三半規管の反膨大部方向に見て総脚の少なくとも上流端には反膨大部方向に突出する突出壁が設けられており、且つ前記突出壁は開口を有している、
良性発作性頭位めまい症の検査治療器具。
【請求項2】
前記平衡機能検査機器には前記前庭模型が着脱自在に装着されている、請求項1に記載の良性発作性頭位めまい症の検査治療器具。
【請求項3】
前記平衡機能検査機器には左右一対の前記前庭模型が装着されている、請求項1または2に記載の良性発作性頭位めまい症の検査治療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良性発作性頭位めまい症の検査治療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
良性発作性頭位めまい症(BPPV:benign paroxysmal positional vertigo)は、頭の向きを変える動作をして特定の頭位をとった時に短時間の回転性めまいを感じる良性疾患である。めまい発作が起きた際には異常な眼球運動(眼振)が生じることから、BPPVの診療においては、フレンツェル眼鏡等の平衡機能検査機器を患者に装着させ、頭位変化により現れる眼振を観察することが行われている。
【0003】
BPPVを発症する原因は内耳の前庭の障害である。平衡感覚を司る前庭は、回転加速度を感受する三半規管と、重力等の直線加速度を感受する耳石器とを含む。三半規管は、互いにほぼ直交する前半規管、後半規管および外側半規管の3個の半周状の管の総称である。各半規管の両側端部は耳石器に接続され、各半規管の内部はリンパ液で満たされている。耳石器の内面には炭酸カルシウムからなる多数の微小な耳石が固定されているが、何らかの原因(たとえば加齢)により耳石器から耳石が剥離して半規管(特に後半規管が多い。)の内部に入り込んでしまうことがある。半規管内に耳石が入り込んだ状態で頭の向きを変えると、重力の影響で耳石が移動することにより、半規管内において異常なリンパ液の流れが生じる。これによって、半規管内の神経受容体が過剰に刺激され、めまい症状が出現する。
【0004】
BPPVの病因が半規管内に存在する耳石であることから、頭部の運動により半規管内から耳石器に耳石を移動させる理学頭位療法がBPPVの患者に対して行われている。理学頭位療法は、半規管に入り込んだ耳石の位置に応じて頭の向きを所定の順序で変えることで、半規管内の耳石を重力の影響により耳石器に移動させる治療方法である。理学頭位療法を行う際に医師は、各頭位における患者の眼振を確認することにより耳石の位置を推定しているが、三半規管は互いに直交する3個の半周状の管であると共に左右対称に一対存在することから、各頭位における半規管と耳石器との位置関係や、耳石の移動方向および耳石の位置をイメージすることは容易ではない。
【0005】
下記特許文献1には、各頭位における半規管と耳石器との位置関係や、耳石の移動方向および耳石の位置を理学療法士や若手の医師、医学部生等に理解させることができると共に、理学頭位療法の内容を事前に患者に理解させることができる良性発作性頭位めまい症の治療教育用器具が開示されている。
【0006】
下記特許文献1に開示されている治療教育用器具は、可動耳石付三半規管モデルを内蔵する頭部実態模型である。三半規管モデルは人体の三半規管の2~20倍拡大模型であり、頭部実態模型は人体頭部の1.0~1.7倍拡大模型である。透明樹脂からなる中空環状体の三半規管モデルの内部には液体が封入されていると共に液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型が移動自在に収容されている。三半規管のクプラに対応する位置には、液体の通過は許容すると共に耳石模型の通過は阻止する阻止片が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1に開示されている治療教育用器具は、頭部実態模型であるので患者に装着させることはできず、理学頭位療法を行う際に用いるのは困難である。このため、上述の治療教育用器具においては、理学頭位療法を行っている際に各頭位における半規管と耳石器との位置関係や、耳石の移動方向および耳石の位置を確認することができないという問題がある。
【0009】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、理学頭位療法の際に各頭位における半規管と耳石器との位置関係、耳石の移動方向および耳石の位置ならびに患者の眼振を使用者が確認することができる良性発作性頭位めまい症の検査治療器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために以下の良性発作性頭位めまい症の検査治療器具を提供する。すなわち、患者の頭部に装着される平衡機能検査機器と、前記平衡機能検査機器に装着された前庭模型とを備え、前記前庭模型は三半規管と前記三半規管に接続された耳石器とを含み、かつ透明の合成樹脂から中空に形成されており、前記前庭模型の内部には液体が封入されていると共に前記液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型が移動自在に収容されており、前記三半規管の膨大部には前記液体の通過を許容すると共に前記耳石模型の通過を阻止する阻止片が配置されている良性発作性頭位めまい症の検査治療器具を本発明は提供する。
【0011】
前記平衡機能検査機器には前記前庭模型が着脱自在に装着されているのが好ましい。前記平衡機能検査機器には左右一対の前記前庭模型が装着されているのが好適である。反膨大部方向に見て前記総脚の少なくとも上流端には反膨大部方向に突出する突出壁が設けられているのが好都合である。前記突出壁は開口を有しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の良性発作性頭位めまい症の検査治療器具を用いることにより、理学頭位療法の際に各頭位における半規管と耳石器との位置関係、耳石の移動方向および耳石の位置ならびに患者の眼振を使用者が確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成された検査治療器具の正面図。
【
図3】
図1に示す右側前庭模型を
図1におけるA方向に見た側面図。
【
図4】
図1に示す右側前庭模型の
図1におけるB方向に見た側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された良性発作性頭位めまい症の検査治療器具の好適実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1に全体を符号2で示す良性発作性頭位めまい症の検査治療器具は、患者の頭部に装着される平衡機能検査機器4と、平衡機能検査機器4に装着された前庭模型6とを備える。なお、
図1には、後述のレンズ8を上下方向に沿わせて位置づけた状態における検査治療器具2の正面図が示されている。
【0016】
平衡機能検査機器4は、患者の眼振を観察するための機器であり、たとえば、レンズおよび照明ランプを備えるフレンツェル眼鏡や、患者の両目を覆う遮光ゴーグルに赤外線CCDカメラ等の撮像手段が内蔵された機器、ビデオ式眼振計測装置(VOG)等が挙げられる。
図1に示す平衡機能検査機器4は、一対のレンズ8と、一対のレンズ8を支持するフレーム10と、フレーム10を患者に固定するためのバンド(図示していない。)とを含むフレンツェル眼鏡である。患者の両目の周囲を覆うフレーム10は、一対のレンズ8が設けられている前面壁12と、前面壁12の上端から後方(
図2において紙面奥側)に延びる上面壁14と、前面壁12の左右両側端部から後方に延びる一対の側面壁16と、前面壁12の下端から後方に延びる下面壁18とを有する。なお、フレーム10は合成樹脂製でよい。
【0017】
人体の前庭の少なくとも一部が再現されている前庭模型6は、人体頭部の断層撮影情報から生成される3次元画像データに基づき光造形法により、透明の合成樹脂から中空に形成され得る。光造形法については、公知の造形法であるので本明細書においては詳細な説明を省略する。前庭模型6を形成するための材料としては、レーザ光の照射により硬化する光重合性樹脂を用いることができ、たとえば、エポキシアクリレート系、エステルアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系のオリゴマー等が挙げられる。なお、前庭模型6は、患者本人の前庭が再現されたものでなくてよい。
【0018】
前庭模型6は、患者が検査治療器具2を装着した際に、患者の前庭の向きと前庭模型6の向きとが一致するように平衡機能検査機器4に装着されている。
図1に示すとおり、図示の実施形態の前庭模型6は平衡機能検査機器4の側面壁16に左右一対固定されているが、前面壁12や上面壁14等に前庭模型6が固定されていてもよく、前庭模型6は左右いずれか1個でもよい。
【0019】
前庭模型6は、ネジ(図示していない。)や接着剤等を介して平衡機能検査機器4に固定され得るが、平衡機能検査機器4に着脱自在に装着されているのが好ましい。たとえば、平衡機能検査機器4と前庭模型6とのいずれか一方に突起(図示していない。)が付設され、平衡機能検査機器4と前庭模型6とのいずれか他方に上記突起に対応する孔(図示していない。)が形成されており、上記突起を上記孔に差し込むことによって、ドライバー等の工具を用いることなく平衡機能検査機器4に前庭模型6が着脱自在に装着されるのが好ましい。
【0020】
前庭模型6のサイズは、人体の前庭の1~10倍程度のサイズでよく、検査および治療の際における観察の容易性や、平衡機能検査機器4への装着容易性の観点から3~5倍程度であるのが好ましい。
【0021】
中空の前庭模型6の内部には、液体が封入されていると共に液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型CP(
図2ないし
図4参照。)が移動自在に収容されている。前庭模型6の内部に封入される液体としては、人体の前庭内のリンパ液の粘性に近い粘性を有する液体が好ましく、たとえばシリコンオイルや食用油等を用いることができる。耳石模型CPは、たとえば、粒径0.5~5mm程度のガラスビーズが用いられ得る。視認性向上の観点からガラスビーズは赤色等に着色されているのが好適である。
【0022】
図2ないし
図4を参照して説明すると、前庭模型6は、互いにほぼ直交する前半規管20a、後半規管20bおよび外側半規管20cの3個の半周状の管を有する三半規管20と、各半規管20a、20b、20cの両側端部に接続された耳石器22とを含む。各半規管20a、20b、20cは、少なくとも人体の骨半規管が再現されたものであればよいが、人体の骨半規管および膜半規管が再現されたものであってもよい。
【0023】
各半規管20a、20b、20cの片側端部は、他の部分よりも膨らんだ膨大部24a、24b、24cとなっている。各膨大部24a、24b、24cには、液体の通過を許容すると共に耳石模型CPの通過を阻止する阻止片26a、26b、26cが配置されている。阻止片26a、26b、26cは、人体の三半規管のクプラの位置に対応する位置に配置されている。なお、耳石模型CPは、耳石器22の内部と各半規管20a、20b、20cの内部との間を各半規管20a、20b、20cの他側端部(膨大部の反対側の端部)を通って移動することができるようになっている。
【0024】
阻止片26a、26b、26cは、たとえば、耳石模型CPの通過を阻止することができる程度の大きさの開口を有する板状ないし網状の部材、多孔質のフィルタ部材、あるいは人体のクプラの形状を模したクプラ状部材から構成され得る。クプラ状部材は、人体のクプラの形状が正確に再現されていなくてもよい。阻止片26a、26b、26cの材質には適宜の合成樹脂(三半規管20の材質と同一の材質を含む。)、金属またはセラミックスを用いることができる。
【0025】
三半規管20においては、前半規管20aの内部と後半規管20bの内部とが総脚28において合流している。また、
図3および
図4に示すとおり、三半規管20においては、反膨大部方向に見て総脚28の少なくとも上流端には反膨大部方向に突出する突出壁30が設けられているのが好都合である。
【0026】
突出壁30は、耳石模型CPの通過を阻止することができる程度の大きさの開口を有する板状ないし網状の部材、あるいは多孔質のフィルタ部材から構成され得る。突出壁30の材質には適宜の合成樹脂(三半規管20の材質と同一の材質を含む。)、金属またはセラミックスを用いることができる。突出壁30は、反膨大部方向に見て総脚28の上流端から下流端まで延びていてもよい。なお、反膨大部方向とは、
図2ないし4において矢印a、b、cで示す方向であり、各半規管20a、20b、20cにおいて膨大部24a、24b、24cから遠ざかる方向である。
【0027】
反膨大部方向に見て総脚28の少なくとも上流端に突出壁30が設けられていることによって、前半規管20a内を反膨大部方向(a方向)に移動する耳石模型CPが総脚28において後半規管20b内に入り込むのが防止されると共に、後半規管20b内を反膨大部方向(b方向)に移動する耳石模型CPが総脚28において前半規管20a内に入り込むのが防止される。したがって、人体の半規管内における耳石の移動が一層正確に再現されることになる。
【0028】
ここで、人体の三半規管について述べておくと、人体においては、前半規管の骨半規管の内側に膜半規管が存在すると共に後半規管の骨半規管の内側に膜半規管が存在することによって、人体の前半規管の内部を反膨大部方向に移動する耳石が総脚において後半規管の内部に入り込むことはなく、また、人体の後半規管の内部を反膨大部方向に移動する耳石が総脚において前半規管の内部に入り込むことはない。
【0029】
前庭模型6の耳石器22は、人体の各半規管の両側端部に接続されている卵形嚢の少なくとも一部が再現されたものであればよく、球形嚢は再現されていなくてもよい。図示の実施形態の耳石器22の下端は平坦面に形成されている。この耳石器22の下端には、液体および耳石模型CPを前庭模型6の内部に封入するための封入開口(図示していない。)が形成されており、封入開口は栓(図示していない。)が着脱自在に装着されている。
【0030】
BPPVの検査の際に医師は、めまい症状を訴える患者に対して上述したとおりの検査治療器具2を装着させ、頭の向きを変える動作をした時に誘発される眼振の有無を平衡機能検査機器4により確認することができる。検査においては、誘発された眼振の性状により、患側が推定されると共に、いずれの半規管に耳石が入り込んでいるかが推定される。
【0031】
理学頭位療法の際には、まず、耳石が入り込んでいると推定された半規管に対応する前庭模型6の半規管20a、20bまたは20cに複数の耳石模型CPを移動させる。次いで、患者に検査治療器具2を装着させた後、患者の頭の向きを所定の順序で変えていく。そうすると、頭の向きを変える動作に応じて、前庭模型6の向きが変わると共に耳石模型CPが重力の影響により前庭模型6の内部を移動する。前庭模型6は、患者が検査治療器具2を装着した際に、患者の前庭の向きと前庭模型6の向きとが一致するように平衡機能検査機器4に装着されているので、医師や理学療法士等の使用者は、理学頭位療法を行っている際に前庭模型6を観察することにより、各頭位における患者の三半規管と耳石器との位置関係、耳石の移動方向および耳石の位置を確認することができると共に、平衡機能検査機器4により各頭位における患者の眼振を確認することができる。したがって、図示の実施形態の検査治療器具2においては、良性発作性頭位めまい症の検査および治療に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
2:良性発作性頭位めまい症の検査治療器具
4:平衡機能検査機器
6:前庭模型
20:三半規管
20a:前半規管
20b:後半規管
20c:外側半規管
22:耳石器
24a:前半規管の膨大部
24b:後半規管の膨大部
24c:外側半規管の膨大部
26a:前半規管の阻止片
26b:後半規管の阻止片
26c:外側半規管の阻止片
28:総脚
30:突出壁
CP:耳石模型