(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】身体器官または腫瘤を包むためのカプセル器具およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61B 17/00 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
A61B17/00
(21)【出願番号】P 2021524398
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 US2019058605
(87)【国際公開番号】W WO2020096815
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-09-15
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521191090
【氏名又は名称】キャプスラケアー エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】ベイ、 キョンテ
(72)【発明者】
【氏名】ベイ、 ジュヌ
(72)【発明者】
【氏名】ベイ、 ソヌ
(72)【発明者】
【氏名】長尾 静子
(72)【発明者】
【氏名】熊本 海生航
(72)【発明者】
【氏名】吉村 文
(72)【発明者】
【氏名】山口 太美雄
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-144179(JP,A)
【文献】特開2013-183995(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02510896(EP,A1)
【文献】特開2016-005570(JP,A)
【文献】特開昭59-067941(JP,A)
【文献】特表2002-532189(JP,A)
【文献】特開2016-139069(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109391(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0144074(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00-17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓を包むための内部空洞を有する本体を含むカプセル器具
であって、
腎臓に近似した形状を有し、
腎臓の総体積の増加を抑制するように設計されており、
多発性嚢胞腎症の治療または予防のために使用される、
カプセル器具。
【請求項2】
前記カプセル器具が
腎臓の成長を減速または停止させるために使用される、請求項
1に記載のカプセル器具。
【請求項3】
前記カプセル器具が、
腎臓に接続された構造を妨げないための開口を有するように構成されている、請求項1~
2のいずれか1項に記載のカプセル器具。
【請求項4】
前記カプセル器具の生体適合性材料、弾性特性、構成および/またはサイズが、患者の年齢、患者の性別、患者のアレルギー反応特性、
腎臓の解剖学的構造、および
腎臓の予測成長率からなる群より選択される個々の患者の医療情報に基づいて決定される、請求項1~
3のいずれか1項に記載のカプセル器具。
【請求項5】
前記カプセル器具が、前記カプセル器具の移植のための手術手順を考慮して、前記器具内に所定の外科的開閉縫合線を含むように構成されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載のカプセル器具。
【請求項6】
前記カプセル器具が、
腎臓を包むために、配置時に少なくとも一部が裂開するように設計されている、請求項1~
5のいずれか1項に記載のカプセル器具。
【請求項7】
前記カプセル器具が、裂開した部分の閉鎖手段を含んでいる、請求項
6に記載のカプセル器具。
【請求項8】
前記閉鎖手段が、交差した紐、ボタン、フック、ファスナー、および面ファスナーから成る群より選択される、請求項
7に記載のカプセル器具。
【請求項9】
前記カプセル器具が低侵襲手術または腹腔鏡下手術によって移植されることのできる液体または可撓性のインジェクタブルな材料から作製される、請求項1~
8のいずれか1項に記載のカプセル器具。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項記載のカプセル器具の製造方法であって、以下を含む方法:
患者の
腎臓の形状を測定する工程;
腎臓に適合したカプセル器具を設計する工程;および
カプセル器具を製造する工程。
【請求項11】
前記測定工程が、MRI、CT、超音波画像、透視画像、または腹腔鏡画像を使用して行われる、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記製造工程が3Dプリンティングまたは手作業の製造を用いて行われる、請求項
10または
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2018年11月6日に出願された「身体器官または腫瘤を包むためのカプセル装置およびその使用」と題する米国仮出願シリアル番号62/756,358の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、腎臓、肝臓、および卵巣などの身体器官または腫瘤を包むためのカプセル器具ならびにその製造方法に関する。より詳細には、身体器官または腫瘤の異常な成長を減速または停止させるために使用されるカプセル器具ならびにその製造方法に関する。また、本発明は、身体器官の異常な成長または腫瘤を伴う疾患の治療または予防におけるカプセル器具の使用、ならびに身体器官の異常な成長または腫瘤を伴う疾患の治療または予防方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
背景
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)
常染色体優性多発性嚢胞腎症(ADPKD)は、最も一般的な遺伝性の腎障害であり、あらゆる民族で発症が見られる。罹患率は、出生児400~1,000人に1人の割合(つまり、全世界で1,250万人)であり、慢性腎疾患(CKD)の中では世界的に第4位の主要原因となっている(非特許文献1~3)。ADPKDはPKD1(ポリシスチン1をコードする)およびPKD2(ポリシスチン2をコードする)の変異を原因とする先天性疾患であり、胎児が子宮内にいる時点から既に進行が始まる。PKD1が症例の85%を占め、残りはPKD2が占める。この疾患は、表現型としては、多数の嚢胞が腎臓に生じて、拡大した腎臓が左右両方に生じることを特徴とする。平均的には、ADPKDを有する患者の半数が60歳までに末期腎疾患(ESRD)に進行する。しかし、表現型には顕著に高い変動性が見られ、巨大な嚢胞腎を有する新生児から、腎機能が老齢においても比較的正常に維持される患者まで、様々である。PKD1の変異はPKD2よりも重症の疾患につながる(PKD1のESRDの平均年齢58.1歳に対し、PKD2のESRDの平均年齢79.7歳)。遺伝的要因とは別に、多くの臨床上の変動因子(性別、早期の高血圧症および泌尿器系有害事象の病歴、妊娠回数)と、環境上の変動因子が、疾患の重症度に影響を及ぼす。
【0004】
ESRDに加えて、ADPKDの患者は、高血圧、腹痛、嚢胞の拡大、血尿、および生活の質の低下を含む、病気の進行に関連する多くの症状を患う。これらの症状の軽減、進行に伴う腎機能の喪失の遅延、ESRDの発症の遅延は、ADPKD患者の生活の質を改善する上で重要である。したがって、完治療法が見出されるまでは、これらの患者の疾患管理の目標は、臨床転帰に有意な変化を生じさせ、疾患の進行を遅らせる個別化ケア戦略の開発に焦点が当てられることになる。
【0005】
ADPKDおよび腎容積のイメージング
ADPKDの診断において、特に疾患の家族歴が陽性である場合には、放射線学的な画像化は不可欠である。場合によっては、診断は遺伝子検査によって行うこともできる。ADPKDの患者に対するイメージングでは、典型的に、嚢胞のために肥大化した左右の腎臓が認められ、この嚢胞のサイズと数は疾患の進行に伴い次第に増加していく。画像診断は、画像化の様式、ADPKDの家族歴、患者の年齢、および腎嚢胞の数などの因子を考慮して、判断される。疾患の重症度には、腎臓全体の体積を膨張させる嚢胞の数およびサイズが反映している(非特許文献4)。ADPKDの副次合併症(例えば、痛み、高血圧、ひどい血尿など)は、小児期に始まり、最終的には50歳頃までにほとんどの患者に影響を及ぼす。これらの合併症は、より大きな腎臓を有する患者において頻度が増加する。
【0006】
定量的放射線画像法は、疾患進行の速度および治療への応答をモニターするためのマーカーとして、ADPKDにおける腎臓および嚢胞の拡大を測定するための貴重なツールとなる(非特許文献4)。特に、嚢胞および腎臓の大きさを測定することは、異常な成長を減少させるための措置の有効性を評価する重要な指標となる。超音波検査ならびにCTおよびMRIを用いた放射線画像法を用いて、腎臓体積の成長速度を定量化することができる。CTとMRIは体積測定イメージングの最も正確なテクニックであるが、超音波検査も初期スクリーニングとサイズ推定には役立つ。放射線画像から得られた腎臓体積情報は、ADPKDに関連するリスク評価などのADPKD患者の臨床管理をガイドするために使用することができる。正確なリスク分析は、治療の便益が費用および副作用という治療上の負担よりも優れているかどうかを判断し、治療を決定するために必要とされる。
【0007】
薬剤によるADPKDの治療
現在、ADPKDの完治療法は存在していない。ADPKDの予防または進行を遅延させる治療も十分に確立されていない。低塩、低タンパク食および高水摂取など、様々な食事療法が調査されたが、有効性は限定的と判定されている。アンギオテンシン変換酵素阻害剤およびアンギオテンシン受容体遮断薬などの腎保護薬から、嚢胞の形成および拡大に関与する分子経路、例えば、バソプレシン受容体遮断薬、ソマトスタチン、ラパマイシン(mTOR)経路を特異的に標的化する薬剤まで、複数の標的化医薬が試験され、様々な程度に有望な結果を示したものの、有害な薬物効果や、患者による継続的な服薬の必要性のために、広くは受け入れられていない。
【0008】
薬学的治療の有効性を評価する上でのさらなる難点は、この疾患がしばしば子宮内のうちに既に始まり、生涯を通して非常にゆっくりと進行することである。ADPKD症状の発症および腎機能障害の発症は、何十年にも及ぶ可能性がある。尿アルブミンや糸球体濾過率(GFR)などの腎機能バイオマーカーは、疾患の初期段階では予測価値がなく、腎機能に大きな不可逆的損傷が生じた後になってようやく、腎機能の有用な指標となる。標的化ADPKD治療の有望な候補についても、潜在的な治療が疾患の初期段階で試験されることを可能とする疾患進行のマーカーは存在しない。そのようなマーカーの欠如は、ADPKD患者の治験をGFRの低下の明確な兆候が見られる疾患プロセスの後期に集中させることを強いる。しかしながら、この段階では、ほとんどの末期腎障害において見られる炎症や線維症のような他の二次的過程が、特定のADPKD病因標的に向けられた治療の効果を不明瞭にしてしまう。潜在的な新規療法を試験するためには、小児および成人で安全に使用できる腎臓体積測定のようなADPKD進行の定量可能なマーカーを見出すことが必要である。
【0009】
手術によるADPKDの治療
ADPKDの外科的治療は主に、疾患または腎不全の進行の予防ではなく、疾患の臨床合併症の短期的な管理に焦点を当てている(非特許文献5)。腎嚢胞に感染が生じた場合、または腹痛を引き起こすほどに著しく拡大している場合は、硬化療法の有無にかかわらず、嚢胞の画像誘導経皮吸引が第一選択治療である。再発性または吸引抵抗性の嚢胞は、外壁を切除して排液するために、開腹または腹腔鏡下での外科的剥離を必要とする場合がある。嚢胞の外科的剥離は、大部分のADPKD患者の疾患関連慢性疼痛の管理において非常に有効であることが示されている(非特許文献6)。しかし、外科的嚢胞剥離による高血圧症の軽減、腎機能の維持について、その役割は十分に確立されていない。さらに、腎臓の髄質部分に症候性のアクセス困難な嚢胞を有するADPKD患者は、皮質嚢胞の外科的剥離によって痛みを軽減することができない。このような患者では、腎切除術が疼痛を抑制する最後の手段となる。腎臓が大規模に拡大したAPDKD患者の一部では、腎臓同種移植のための腎切除も行われる。さらに、血液透析を受けている腎症のADPKD患者においては、腎臓体積を減少させ、肺機能を改善させるために、経カテーテル腎動脈塞栓術が用いられる(非特許文献7)。
【0010】
その他の臓器嚢胞性疾患および腫瘤
多嚢胞腎疾患に加えて、嚢胞の異常な形成および成長は、肝臓および卵巣を含む他の臓器の完全性および機能にも影響を及ぼし得る。特に、多嚢胞性肝疾患(PCLD)は、ADPKDの患者において一般に起こりうる。PCLDは、肝実質の複数のびまん性嚢胞病変を特徴とする。肝臓および肝臓の嚢胞の体積は、多嚢胞性肝疾患の重症度を評価するための重要な疾患バイオマーカーとなる。嚢胞は数とサイズが大きく変動し、肝臓の著しい拡大を引き起こす可能性がある。大きな肝臓肥大を有する患者は、腹部および背部の痛み、腹部の膨張、呼吸困難、早期の満腹感、および早期の食後の満腹感、下大静脈または肝静脈の流出の閉塞など、周囲の臓器の圧迫に関連する症状を発症し得る。症候性PCLD患者の主な治療法は、多嚢胞性肝臓の大きさを有意に減少させ、肝機能を損なうことなく症状を長期的に緩和することを目的とした、腹腔鏡術または開窓術を含む外科療法である(非特許文献8)。一部の患者は、衰弱症状を緩和するために、肝臓の部分切除または肝臓移植を受けることがある。多嚢胞性肝臓の体積成長を減少させる新規な方法は、症候性PCLDの患者に対する現在の外科的療法に代替するアプローチを提供し得る。
【0011】
多嚢胞性卵巣疾患もまた、複数の末梢嚢胞の存在下に拡大した両側性の卵巣によって特徴付けられる。臨床管理には、ライフスタイルの変更、薬物療法、外科的介入が含まれる。多嚢胞性卵巣疾患の外科的管理は、主として排卵の回復を目的としている。卵巣皮質および間質の処置のために、電気焼灼およびレーザー穿孔のような様々な腹腔鏡的方法が用いられる。外科的合併症には、癒着の形成や卵巣の萎縮などが含まれる。また、ヒトを含む哺乳動物の体や臓器の一部に、腫瘤(mass)と呼ばれる瘤、塊が生じることがある。腫瘤には、腫瘍、炎症性病変、血管の膨らみや、その他不特定の塊状物が含まれうる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Grantham, J.J., Clinical practice. Autosomal dominant polycystic kidney disease. N Engl J Med, 2008. 359(14): p. 1477-85.
【文献】Grantham, J.J., S. Mulamalla, and K.I. Swenson-Fields, Why kidneys fail in autosomal dominant polycystic kidney disease. Nat Rev Nephrol, 2011. 7(10): p. 556-66.
【文献】Chebib, F.T. and V.E. Torres, Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease: Core Curriculum 2016. Am J Kidney Dis, 2016. 67(5): p. 792-810.
【文献】Bae, K.T. and J.J. Grantham, Imaging for the prognosis of autosomal dominant polycystic kidney disease. Nat Rev Nephrol, 2010. 6(2): p. 96-106.
【文献】Akoh, J.A., Current management of autosomal dominant polycystic kidney disease. World J Nephrol, 2015. 4(4): p. 468-79.
【文献】Millar, M., et al., Surgical cyst decortication in autosomal dominant polycystic kidney disease. J Endourol, 2013. 27(5): p. 528-34.
【文献】Yamakoshi, S., et al., Transcatheter renal artery embolization improves lung function in patients with autosomal dominant polycystic kidney disease on hemodialysis. Clin Exp Nephrol, 2012. 16(5): p. 773-8.
【文献】Russell, R.T. and C.W. Pinson, Surgical management of polycystic liver disease. World J Gastroenterol, 2007. 13(38): p. 5052-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、腎臓、肝臓、および卵巣などの身体器官または腫瘤を包むためのカプセル器具ならびにその製造方法を提供することを目的の一つとする。また、本発明は、身体器官の異常な成長または腫瘤を伴う疾患の治療または予防におけるカプセル器具の使用、ならびに身体器官の異常な成長または腫瘤の治療または予防方法を提供することを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、腎臓、肝臓、および卵巣などの身体器官または腫瘤を包むためのカプセル器具を開発した。このようなカプセル器具を使用することにより、身体器官の異常な成長または腫瘤を伴う疾患、例えば、多発性嚢胞腎症(例えばADPKD)などを治療または予防することが可能となる。本発明は、以下の態様を包含する:
[態様1]身体器官または腫瘤を包むための内部空洞を有する本体を含むカプセル器具。
[態様2]身体器官または腫瘤に近似した形状を有する、態様1記載のカプセル器具。
[態様3]前記身体器官が腎臓、肝臓、および卵巣からなる群より選択される、態様1または2記載のカプセル器具。
[態様4]前記カプセル器具が身体器官または腫瘤の異常な成長を減速または停止させるために使用される、態様1~3のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様5]前記カプセル器具が、身体器官または腫瘤に接続された構造を妨げないための開口を有するように構成されている、態様1~4のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様6]前記身体器官が腎臓である、態様1~5のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様7]前記カプセル器具が多発性嚢胞腎症の治療または予防のために使用される、態様6に記載のカプセル器具。
[態様8]前記カプセル器具が実質的に腎臓全体を覆うように設計されている、態様6または7に記載のカプセル器具。
[態様9]前記カプセル器具が腎臓の総体積の増加を抑制するように設計されている、態様6~8のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様10]前記カプセル器具が腎動脈、腎静脈、および尿管を妨げないように設計されている、態様6~9のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様11]前記カプセル器具が患者の医用画像データに基づいて個別化された三次元製造によって製造される、態様1~10のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様12]前記個別化された三次元製造が、自動化された3Dプリンティングまたは手作業の製造を用いて行われる、態様11に記載のカプセル器具。
[態様13]前記医用画像データがMRI、CT、超音波画像、透視画像、または腹腔鏡画像を使用して取得される、態様11または12に記載のカプセル器具。
[態様14]前記カプセル器具の生体適合性材料、弾性特性、構成および/またはサイズが、患者の年齢、患者の性別、患者のアレルギー反応特性、標的器官の解剖学的構造、および標的器官の予測成長率からなる群より選択される個々の患者の医療情報に基づいて決定される、態様1~13のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様15]前記カプセル器具が、前記カプセル器具の移植のための手術手順を考慮して、前記器具内に所定の外科的開閉縫合線を含むように構成されている、態様1~14のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様16]前記カプセル器具が、前記器官を包むために、配置時に少なくとも一部が裂開するように設計されている、態様1~15のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様17]前記カプセル器具が、裂開した部分の閉鎖手段を含んでいる、態様16に記載のカプセル器具。
[態様18]前記閉鎖手段が、交差した紐、ボタン、フック、ファスナー、および面ファスナーから成る群より選択される、態様17に記載のカプセル器具。
[態様19]前記カプセル器具が低侵襲手術または腹腔鏡下手術によって移植されることのできる液体または可撓性のインジェクタブルな材料から作製される、態様1~14のいずれかに記載のカプセル器具。
[態様20]前記インジェクタブルな材料が、低侵襲性手術または腹腔鏡下手術によって移植されることができる、態様19に記載のカプセル器具。
[態様21]態様1~18のいずれかに記載のカプセル器具の製造方法であって、以下を含む方法:
患者の身体器官または腫瘤の形状を測定する工程;
器官または腫瘤に適合したカプセル器具を設計する工程;および
カプセル器具を製造する工程。
[態様22]前記測定工程が、MRI、CT、超音波画像、透視画像、または腹腔鏡画像を使用して行われる、態様21に記載の方法。
[態様23]前記製造工程が3Dプリンティングまたは手作業の製造を用いて行われる、態様21または22に記載の方法。
[態様24]前記設計工程が、患者の年齢、患者の性別、患者のアレルギー反応特性、標的器官の解剖学的構造、および標的器官の予測成長率からなる群より選択される個々の患者の医療情報に基づいて、前記カプセル器具の生体適合性材料、弾性特性、構成および/またはサイズを決定することを含む、態様21~23のいずれかに記載の方法。
[態様25]前記設計工程が、前記器具の移植のための効率的な手術手順を考慮して、前記器具内に所定の外科用開閉縫合線を含めることを含む、態様21~24のいずれかに記載の方法。
[態様26]前記設計工程が、前記器官または腫瘤を包むために、前記カプセル器具の少なくとも一部が裂開するように設計することを含む、態様21~25のいずれかに記載の方法。
[態様27]前記設計工程が、前記器具の裂開部を閉じるための手段を含めることを含む、態様26に記載の方法。
[態様28]器具の裂開部を閉じるための手段が、交差した紐、ボタン、フック、ファスナー、および面ファスナーからなる群より選択される、態様27に記載の方法。
[態様29]前記設計工程が、低侵襲手術または腹腔鏡下手術によって前記カプセル器具を移植および製造するための液体または可撓性のインジェクタブルな材料を選択することを含む、態様21~24のいずれかに記載の方法。
[態様30]身体器官の異常な成長または腫瘤を治療または予防するための方法であって、以下を含む方法:
患者の身体器官または腫瘤を被包するために態様1~20のいずれかに記載のカプセル器具を移植する工程。
[態様31]該身体器官が、腎臓、肝臓、および卵巣からなる群より選択される、態様30記載の方法。
[態様32]前記身体器官が腎臓である、態様30または31に記載の方法。
[態様33]前記異常な成長がADPKDまたはARPKDによって引き起こされる、態様32に記載の方法。
[態様34]身体器官の異常な成長または腫瘤の治療または予防における態様1~20のいずれかに記載のカプセル器具の使用。
[態様35]前記身体器官が腎臓、肝臓、および卵巣からなる群より選択される、態様34記載の使用。
[態様36]前記身体器官が腎臓である、態様35に記載の使用。
[態様37]前記異常な成長がADPKDまたはARPKDによって引き起こされる、態様36に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、腎臓を対象としたカプセル器具1の全体像を示している。このカプセル器具は、内部は空洞で、腎臓を包み込むのに適合した大きさを有しており、また、腎臓に接続した管構造を妨げないための開口部2を有している。さらに、カプセル器具には、腎臓を包み込む際に使用する縫合線3が設けられていてもよい。
【
図1B】
図1Bは、対向する拡張された周縁部4を有するカプセル器具1の全体像を示している。この例示的な図では、縫合線3に沿って器具が開裂されており、重なり合う周縁部4が、例えば、縫合、針穿刺を伴わない糸通し、または接着によって開裂部の閉鎖を強化するために利用される。この図は、周縁部4に縫合を容易にするための穴5が設けられており、縫合糸6によって開裂部が閉鎖されうることを示している。
【
図1C】
図1Cは、対向する拡張された周縁部4を有するカプセル器具1の開裂した状態の全体像を示している。この例示的な図では、縫合線3に沿って器具が開裂されており、重なり合う周縁部4が、例えば、縫合または接着によって開裂部の閉鎖を強化するために利用される。また、この図は、縫合または針穿刺を伴わない糸通しを容易にするために、拡張された周縁部4に穴5が設けられうることを示している。
【
図1D】
図1Dは、対向する拡張された周縁部を有する、開裂状態のシリコンゴム製カプセル器具を示している。
【
図2】
図2は、ADPKDの治療方法を例にした全体的なスキームを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、カプセル器具の折り畳みについて示している。まず、標的の腎臓にカプセル器具を送達するために体腔に挿入されるカテーテル内に折り畳まれたカプセル器具が格納される。折り畳まれたカプセルデバイスは、続いて、カテーテルからリリースされ、標的の腎臓上に配置される前に、腹腔内で拡張される。
【
図4】
図4は、カプセル器具による腎臓の包み込みを示している。弾性で伸縮性のあるカプセル器具は、その開口部を伸張して広げることができる。腎臓の下部極を挿入した後、器具を移動させ、さらに伸張させて、腎臓の全体を包む。
【
図5】
図5は、カプセル器具上の縫合線の例を示している。この例では、カプセル器具は、腎臓全体の包み込みを容易にするために、あらかじめ縦横に切り込みが入れられており、それをつなぎ合わせる紐が靴紐のような形で取り付けられている。腎臓にカプセル器具を配置した後、紐を引っ張ることで、各部をつなぎ合わせて、腎臓全体を覆うことができる。
【
図6】
図6は、3Dプリンティングにより作製したカプセル器具を示している。2つの異なるサイズ(中型および大型)のラット腎臓カプセル器具が示されている。
【
図7】
図7は、PKDラットの左腎に取り付けたカプセル器具と、同ラットから摘出した左右の腎臓を示している。
【
図8】
図8は、3匹のPKDラットから摘出した左右の腎臓を示している。上段:両側の腎臓にカプセル器具を取り付けたPKDラット由来の腎臓。中段:左腎のみにカプセル器具を取り付けたPKDラットに由来する腎臓。下段:両側とも偽手術を施したPKDラット由来の腎臓。
【
図9】
図9は、カプセル器具を取り付ける前(左)と取り付けた後(右)の野生型ラット右腎を示している。
【
図10】
図10は、カプセル器具を取り付けなかったCy/+ラットの右腎(左)と、カプセル器具を取り付けた同ラットの左腎(右)を示している。右腎と左腎の重さはそれぞれ、6.14gと3.91gであった。
【
図11】
図11は、カプセル器具を取り付けていないCy/+ラットの右腎(左)とカプセル器具を取り付けた同ラットの左腎(右)の縦断面切片(H&E染色)を示している。
【
図12】
図12は、カプセル器具を取り付けていないCy/+ラットの右腎(左)とカプセル器具を取り付けた同ラットの左腎(右)の縦断面切片(H&E染色)の腎皮質部分を拡大した画像を示している。カプセル器具を取り付けた左腎では、腎皮質部分が肥厚化している。
【
図13】
図13は、カプセル器具を取り付けていないCy/+ラットの右腎(左)とカプセル器具を取り付けた同ラットの左腎(右)の組織切片(H&E染色)の画像を示している。カプセル器具を取り付けた左腎では、嚢胞の大きさが抑制されている。
【
図14】
図14は、カプセル器具を取り付けていないCy/+ラットの右腎(左)とカプセル器具を取り付けた同ラットの左腎(右)の切片においてKi67を標識した画像を示している。カプセル器具を取り付けた左腎では、Ki67(矢印部分)の存在が低下している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のとおり、本発明者らは、異常な成長を含む、身体器官または腫瘤の成長を減速または停止させるために使用可能な、生体内に移植して身体器官または腫瘤を包むためのカプセル器具(カプセルデバイス)を開発した。本発明に係るカプセル器具の適用の対象となりうる臓器には、腎臓、肝臓、および卵巣が含まれる。また、腫瘤(mass)とは、体や臓器の一部に生じた瘤、塊を指し、腫瘍、炎症性病変、血管の膨らみや、その他不特定の塊状物を含みうる。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
ADPKDの治療方法およびそれに用いる器具
腎臓に適用するための例示的なカプセル器具を
図1に示す。この図は、腎臓を対象としたカプセル器具1の全体像を示している。このカプセル器具は、内部は空洞で、腎臓を包み込むのに適合した大きさを有しており、また、腎臓に接続した管構造を妨げないための開口部2を有している。さらに、カプセル器具には、腎臓を包み込む際に使用する縫合線3が設けられていてもよい。このように、本発明に係るカプセル器具は、身体器官または腫瘤を包むための内部空洞を有する本体を有しうる。また、本発明に係る身体器官の異常な成長を治療または予防するための方法の全体的スキームをADPKDの治療方法を例にして、
図2に示した。
【0018】
腎臓の体積膨張を制限することによるADPKD治療の根拠
上述のように、動物の身体器官の異常な成長を伴う疾患がいくつか知られている。例えば、腎臓の体積の異常な増加を生じる疾患として、嚢胞性腎疾患(嚢胞腎)が知られている。 多発性嚢胞腎症(PKD)は、常染色体優性多発性嚢胞腎症(ADPKD)と常染色体劣性多発性嚢胞腎症(ARPKD)に大別される遺伝性疾患であり、腎臓(100%)や肝臓(男性60~70%、女性80%)をはじめとし、膵臓、脾臓、子宮、睾丸、精嚢に嚢胞が発現し、異常な細胞増殖、炎症、線維化および嚢胞内液の蓄積が認められる。常染色体優性多発嚢胞腎症(ADPKD)は、腎尿細管由来の無数の嚢胞が無秩序に拡大することを特徴とする疾患であり、この嚢胞性の成長は、しばしば異常な腎臓の肥大をもたらす。嚢胞は疼痛、高血圧および肉眼的血尿を含む二次合併症を引き起こす。腎不全は通常、年齢が50~60代に達するまで検出されない。疾患の動物モデルにおいて、分子および病態生理学的異常を標的とする治療によって、嚢胞の成長を遅らせ、腎機能を保護できることが示されている。しかし、残念なことに、これらの治療の臨床試験への移行は進んでいない。その理由は、腎疾患進行の通常のバイオマーカーである糸球体濾過率が、非嚢胞性実質への広範な不可逆的損傷が生じるまで実質的に低下しないことによる。一方、ADPKD患者の腎臓体積の増加を定量化するために、超音波検査、CTおよびMRIが長年使用されてきた。これらの技術を用いたイメージングは、患者の腎臓および全嚢胞体積の増加率を正確に定量化するためにも用いられている。
【0019】
腎臓の容積は、ADPKD患者における臨床症状および腎機能の重症度と密接に関連している。構造的な疾患進行の観点から、腎臓体積を減少させることは、たとえそれが器官の異常な拡大を妨げるだけであっても、ADPKD患者の疾患関連症状のいくつかを緩和するのに有益であると考えられる。異なる遺伝子型の多発性嚢胞腎疾患を有する動物における実験研究から、疾患の進行中に早期に開始される嚢胞成長の薬剤および食事による阻害が、腎機能の低下を著しく遅らせることが示されている(Grantham, J.J., A.B. Chapman, and V.E. Torres, Volume progression in autosomal dominant polycystic kidney disease: the major factor determining clinical outcomes. Clin J Am Soc Nephrol, 2006. 1(1): p. 148-57.)。総腎体積(TKV)は、ヒトにおけるADPKDの重症度および進行の評価のための重要なバイオマーカーであり、GFRの低下に関連することも知られている(Grantham, J.J., et al., Volume progression in polycystic kidney disease. N Engl J Med, 2006. 354(20): p. 2122-30; Perrone, R.D., et al., Total Kidney Volume Is a Prognostic Biomarker of Renal Function Decline and Progression to End-Stage Renal Disease in Patients with Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease. Kidney Int Rep, 2017. 2(3): p. 442-450; Yu, A.S.L., et al., Baseline total kidney volume and the rate of kidney growth are associated with chronic kidney disease progression in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease. Kidney Int, 2018. 93(3): p. 691-699)。
【0020】
ADPKDにおける腎嚢胞の成長は、複数の分子経路に関与している(Chebib, F.T. and V.E. Torres, Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease: Core Curriculum 2016. Am J Kidney Dis, 2016. 67(5): p. 792-810.)。ADPKDの遺伝的変異は、環状アデノシン一リン酸(cAMP)の増加、プロテインキナーゼAの活性化、およびバソプレシンの強壮作用に対する集合管の感度の増加にカスケードする細胞内カルシウムの減少をもたらす。バソプレシンは一日を通して腎集合管の細胞中のcAMPの形成を刺激することによって、流体の再吸収と尿の濃縮を促進する。バソプレシンv2受容体ブロッカーの投与による、または単純な水分摂取量の増加によるバソプレシン活性の遮断は、齧歯類における腎嚢胞の成長を有意に遅延させることが示されている(Nagao, S., et al., Increased water intake decreases progression of polycystic kidney disease in the PCK rat. J Am Soc Nephrol, 2006. 17(8): p. 2220-7.)。さらに、異常な上皮の塩化物分泌がcAMP依存性トランスポーターを介して起こり、ADPKDにおける流体充填嚢胞の生成および維持に寄与する。
【0021】
腎臓の体積と機能との間の関連は、複雑で多因子的であるように見える。例えば、腎移植後のADPKD患者の元々の多嚢胞腎において、腎機能の改善に伴うTKVの実質的な低下が観察される(Yamamoto, T., et al., Kidney volume changes in patients with autosomal dominant polycystic kidney disease after renal transplantation. Transplantation, 2012. 93(8): p. 794-8; Jung, Y., et al., Volume regression of native polycystic kidneys after renal transplantation. Nephrol Dial Transplant, 2016. 31(1): p. 73-9.)。移植後のどの因子がTKVの減少に影響を与えるのかは明らかでないが、移植後の腎機能が良好な患者におけるTKVの大きな減少は、尿細管の管状上皮の増殖に対する影響の効果的な排除、および元からある腎臓への血流の大きな減少に関連している可能性がある。
【0022】
ADPKDの新規治療法に用いるために、本発明者らは、腎臓の構造的な進行を阻害するために腎臓に解剖学的に適合する機械的立体器具を開発した。特定の理論に拘束されることは望まないが、本発明者らは、腎臓の体積成長を制限するために適用される外部からの力学的制約が、嚢胞の成長および拡張を助長する経上皮浸透圧勾配に対して競合する水圧を生成すると考えている。多嚢胞腎に構造的制約を課すと、バソプレシンの強壮効果が抑制され、腎嚢胞の進行および発達が阻害される可能性がある。さらに、多嚢胞腎の拡張に必要な空間の解剖学的意義は、右腎が左腎よりも狭くなる傾向があることから明らかである。右腎は左腎よりも、腹腔内において肝臓およびその周囲の器官によって空間内に閉じ込められている。
【0023】
カプセル器具の構成および構築
カプセル器具の構成および手術計画のための腎臓の画像化
ADPKD患者における腎臓のサイズおよび形状については、変動性が非常に高い。したがって、本発明に係る腎臓カプセル器具を設計および製造するためには、腎臓の高分解能3D画像を取得することが重要であり、好ましい。また、放射線イメージングは、器具の移植のための手術計画にも重要となる。腎臓およびその周辺構造の3D解剖学的構造を正確に視覚化するためにも、MRIまたはCTなどの高分解能3D放射線イメージング様式が重要である。これらのイメージング技術は、例えば、腎臓移植のための生体ドナーの精密検査のために、日常的な臨床状況において一般的に使用されている。MRIまたはCTイメージングは、移植前の評価に不可欠な解剖学的情報を豊富に提供するが、これには腎臓の形態、腎血管の数および大きさ、異常な解剖学的構造、外科的アクセス可能性などが含まれる。また、器具の設計および外科手術計画にとって重要なのは、大きな外方増殖性の嚢胞などといった腎嚢胞の構成である。外方増殖性の嚢胞の一部は、カプセル器具を配置する前に外科的に除去することで、嚢胞の全体的な負担を軽減し、腎臓への器具の適合性を改善することができる。手術前の画像から、大きな外方増殖性の嚢胞を画像処理によってグラフィカルに取り除くことができる。処理された画像に従って手術計画に適合するよう構成された器具は、器具と腎臓との間の解剖学的な整合性を改善し、ADPKDの構造的進行を抑制する上での有効性を高めることができる。
【0024】
本発明の一部の態様は、腎臓を包むカプセル器具に関する。腎臓を包むカプセル器具は、例えば多発性嚢胞腎症などの疾患に伴う、腎臓の異常な成長を減速または停止させるために使用されうる。腎臓を包むカプセル器具は、実質的に腎臓全体を覆うように設計されうる。ここで、腎臓全体を実質的に覆うとは、腎臓の体積の大部分を覆うことを意味し、例えば、腎臓の表面積の70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または98%以上を覆うことを意味する。腎臓を包むカプセル器具は、腎臓の総体積の増加を抑制するように設計される。
【0025】
解剖学的に、腎臓には腎動脈、腎静脈、および尿管が接続している。腎臓を包むカプセル器具は、腎臓に接続された腎動脈、腎静脈、および尿管などの重要な解剖学的構造を妨げずに、腎臓を実質的に覆うように、開口部を備えることができる。別の言い方をすれば、カプセル器具は、身体器官に接続された構造の通過を可能とする開口を有するように構成されていてもよい。腎臓を包むカプセル器具に備えられた開口部は、カプセル器具を移植する患者の腎臓のサイズ、形状に合わせて個別化された位置、大きさを有するように構成することができる。個別化された腎臓を包むカプセル器具の設計には、MRI、CT、超音波画像、透視画像、および腹腔鏡画像を含む、カプセル器具を移植する患者の医用画像データを用いることができる。個別化された腎臓を包むカプセル器具の製造には、自動化された3Dプリンティング技術やマニュアル(手作業)の製造技術などの三次元製造技術を用いて行うことができる。3Dプリンティングには、例えば、Stratasys社製CONNEX 3 OBJET500を使用することができる。なお、カプセル器具は必ずしも個別化されている必要はなく、一般的な腎臓のサイズおよび形状に基づき設計された器具を患者に移植してもよい。
【0026】
カプセル器具の材料および製造
腹部の放射線画像において、腎臓領域を周囲の内臓器官から区分することができる。画像の区分プロセスは、専門家によって手作業で、またはコンピュータプログラムによって半自動または全自動で、画像セットの各スライス上の腎臓の境界を描写することにより実行することができる。カプセル器具の大きさおよび形状は、画像において区分された腎臓領域を囲むようにして設計することができる。カプセル器具を配置する前に大きな外方増殖性の嚢胞を除去する場合、これらの嚢胞は、器具の基本モデルとなる腎臓領域から画像上で除外されてもよい。さらに、カプセル器具は、腎臓に接続された血管、採取系、および尿管などの解剖学的構造が器具によって妨害されずに、腎臓の残りの部分を包むことができるように、解剖学的に適切な開口部または間隙部を含むように設計することができる。カプセル器具は、身体器官に接続された血管、導管および管を含む重要な解剖学的構造が、器具によって干渉されないことを確実にするために、患者ごとに個別化された解剖学的開口を持つように構成することができる。
【0027】
区分された腎臓に対するカプセルの3D画像化モデルに基づき、3Dプリンティング技術を使用して、または器具構成において熟練した専門家による手作業で、器具を製造することができる。器具の材料特性および厚さは、患者の年齢、性別、アレルギー感受性プロファイル、現在の腎臓サイズ、腎嚢胞パターン、ADPKD分類、人口統計学的情報および臨床情報を含む、腎臓の成長予測を考慮して決定される。例えば、腎臓の急速な成長が予測される患者は、腎臓の成長が遅いと予測されるものよりも、成長を抑制するために、より大きな力を必要とし、より固く厚いカプセルが必要となる可能性がある。材料の選択肢には、生体適合性、優れた温度および化学薬品耐性、優れた機械的および電気的特性、および自然な透明性を有することから医療製品用途に広く使用されてきたシリコーンゴム(シリコーンエラストマー)が含まれうる。その他、利用されうる材料には、天然ゴム、ウレタン樹脂、セルロース、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、シルク、ポリエステル等の繊維、コラーゲン等のタンパク質などが含まれる。シリコンのような弾性材料の代わりに、外科用メッシュなどの剛性材料を使用して、体の器官または腫瘤を包み込み、成長を制限してもよい。外科用メッシュに使用される基本材料には、合成ポリマー、生物学的無細胞コラーゲン、および複合材料が含まれる。さらに、単一の種類の材料または構成のみを使用する代わりに、シリコンゴムや外科用メッシュのサンドイッチ層などを並置する構成で、弾性および剛性の材料を組み合わせて使用してもよい。複合材料および構成は、カプセルの構造的な完全性および外科的閉鎖を維持しつつ、身体器官または腫瘤を拘束するために必要なバランスのとれた引張および圧縮強度を提供し得る。適切な材料は、ヒトの組織および体液との優れた適合性、移植時の組織応答が極めて低いこと、無菌性の保持、より広い温度範囲での許容性、高い引裂きおよび引張強度、良好な伸びおよび柔軟性を有することが好ましい。例えば、シリコーンゴム(シリコーンエラストマー)には、押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、ブロー成形、回転成形、真空成形または熱成形、マッチド成形および低圧成形を含む種々の製造方法がある。放射線画像から得られる3D腎臓構造を鋳型あるいはモールドとして使用することにより、適切な成形および製造プロセスを臨床的および最終的な製品設計基準を考慮して選択することができる。
【0028】
本発明の一部の態様は、身体器官を包むためのカプセル器具の製造方法であって、患者の身体器官の形状を測定する工程;身体器官に適合したカプセル器具を設計する工程;および、カプセル器具を製造する工程を含む方法に関する。患者は動物、特に哺乳動物、より具体的にはヒトでありうる。例示的な身体器官は、腎臓、肝臓、および卵巣を含む。測定工程は、MRI、CT、超音波画像、透視画像、または腹腔鏡画像を使用して行うことができる。製造工程は3Dプリンティングまたは手作業の製造などの三次元製造技術を用いて行うことができる。設計工程は、患者の年齢、患者の性別、患者のアレルギー反応特性、標的器官の解剖学的構造、および標的器官の予測成長率からなる群より選択される個々の患者の医療情報に基づいて、前記カプセル器具の生体適合性材料、弾性特性、構成および/またはサイズを決定することを含むことができる。例えば、カプセル器具は、標的身体器官に近似した形状を有しうる。設計工程は、器具の移植のための効率的な手術手順を考慮して、器具内に所定の外科用開閉縫合線を含めることを含んでいてもよい。設計工程は、器具の裂開部を閉じるための機構または手段を含めることを含んでいてもよい。ここで、器具の裂開部を閉じる機構または手段は、交差した紐、ボタン、フック、ファスナー、面ファスナーまたは器具の裂開部を交差する他の閉鎖機構からなる群より選択されることができる。設計工程は、開裂部の周囲に沿って、例えば直角に、器具の周縁部を外側に拡張して、拡張された対向する周縁部が互いに並置され重なり合うようにすることを含みうる。重なり合う周縁部は、例えば、縫合、糸通し、または接着によって開裂部の閉鎖を強化するために利用される。設計工程には、低侵襲手術または腹腔鏡下手術によって前記カプセル器具を移植および製造するための液体または可撓性のインジェクタブル(注入可能)な材料を選択することを含めることができる。
【0029】
外科的移植を容易にするためのカプセル器具の設計およびパッケージング
カプセル器具を腎臓に移植するには、標的腎臓へのアクセスと、カプセル器具を用いて標的の腎臓を包むことの2つの重要な外科的処置が必要となる。標的腎臓は、開腹手術または低侵襲腹腔鏡外科処置を介して、外科的にアクセスすることができる。一般的に、切開部が小さくてすみ、回復が早いことから、開腹手術よりも腹腔鏡手術が好ましい。しかし、腹腔鏡手術は技術的に要求がより厳しく、一部の患者では臨床的に適切ではない場合がある。開腹手術と比較して、腹腔鏡手術処置では、標的腎臓へのカプセル器具のアクセスおよび送達のための空間がより制限される。小さな外科的切開部を介してカプセル器具を腎周囲空間に導入するために、カプセル器具を折り畳み、体腔に挿入されるカテーテルに充填することができる(
図3)。カテーテルが腎周囲の空間に達したのち、送達されたカプセル器具がカテーテルからリリースされる。続いて、配置されたカプセル器具を腹腔内で展開、拡張し、腎臓上に取り付けることができる。カプセル器具の別の形態は、腎臓表面を包囲するようにカテーテルを介して腎周囲空間に注入される液体またはフレキシブルな注入可能(インジェクタブル)な材料で作られていてもよい。腎臓を包囲した材料がスクリーン層のように凝固すると、腎周囲空間から出る腎臓の膨張を抑制するために機械的な制約を加えることができる。
【0030】
開腹手術または腹腔鏡下の外科的処置を介して、カプセル器具を標的腎臓の周囲の空間に送達した後、カプセル器具中に標的腎臓の全体を収容する。例えば、伸縮性のある素材で作られたカプセル器具の場合は、手動で開口部を引き伸ばして腎臓を覆うことができる(
図4)。カプセル器具の弾性開口部を十分に広げ、一方の極(腎臓の下部極または上部極)を取り囲んだ後、カプセル器具をさらに引き伸ばして、カプセル器具内に腎臓全体が包含されるように動かすことができる。カプセル器具が全体にわたって剛性または非伸張性である場合は、腎臓の部分的な包み込みを容易にするために、器具を開裂するか、分割して構成することが好ましい。この場合、腎臓全体の成長を物理的に制限するために、腎臓を包囲した後、器具中の分割された部分を閉鎖する必要がある。分割部分の閉鎖の効率は、器具内に所定の外科用開閉縫合線を含めることによって改善することができる。分割部分は、閉鎖を補強するために利用される、互いに重なり合うように拡張された周縁部を有していてもよい。カプセル器具による腎臓の全体の包み込みに続いて、器具の分割された開放線を閉じる際、例えば、交絡ストリングを引っ張ること、ボタン、フック、ファスナー、面ファスナーまたは開放線を交差する他の閉鎖機構によって、包み込みを完了することができる(
図5)。分割部分の閉鎖には、接着剤や、熱による融合を用いてもよい。腎臓を包み込む際および分割されたカプセル器具を閉じる際の効率を改善することで、外科手術の時間および技術的複雑さが軽減される。なお、カプセル器具は、布、例えば、伸張性の高い、中程度、または低い布(ファブリック、繊維)によって形成されていてもよい。
【0031】
本発明の一部の実施形態において、腎臓を包むカプセル器具は、上述のように、カプセル器具の移植のための手術手順を考慮して、器具内に所定の外科的開閉縫合線を含むように構成することができる。例えば、カプセル器具は、腎臓を包むために、配置時に裂開するように設計されていてもよい。腎臓を包むカプセル器具は、交差した紐、ボタン、フック、ファスナー、面ファスナーまたは器具の裂開部を交差する他の閉鎖機構を用いることによって、包み込みの完了後に裂開部が閉じられるように設計することができる。腎臓を包むカプセル器具は、低侵襲手術または腹腔鏡下手術によって移植されることのできる液体または可撓性のインジェクタブルな材料から作製されることができる。インジェクタブルな材料は、低侵襲性手術または腹腔鏡下手術によって移植されることができる。本発明の一部の態様において、カプセル器具は、交差した紐、ボタン、フック、ファスナー、および面ファスナーを含む閉鎖手段を用いることによって、包み込みの完了後に閉じられるように設計されることができる。
【0032】
配置後のモニタリングを容易にするためのカプセル器具の構成
カプセル器具の配置後、腎臓のサイズおよび成長ならびにカプセルの構造変化を、定量的イメージングによるフォローアップによって評価および監視することができる。構造変化の評価を容易にするために、幾何学的に整列され、取得された画像上で視覚化される基準マーカーをカプセル器具に縫い付けるか、または埋め込んでおいてもよい。あるいは、器具の分割した開口部に交差させる紐、ボタン、フックなどの、器具の開口部の閉鎖機構に役立つ既存の構造を基準マーカーとして使用することもできる。放射線不透過性の金属マーカーはX線イメージングマーカーに一般的に使用されているが、アーティファクトを引き起こし、CTまたはMRI画像の画質に悪影響を与える可能性がある。CTの場合、ヨウ素ベースの放射線不透過性物質を基準マーカーとして使用することができる。ヨウ素に加えて、カプセルの構造的変化を画像化し、記録するために、高いX線減弱を示す物質をCT画像化のための基準マーカーとして使用することができる。MRIでは、MRコントラストを強調して画像化するために臨床的に使用されているガドリニウムまたはマンガン系材料を基準マーカーに使用することができる。連続画像検査で基準マーカーの位置および腎臓の大きさおよび形状の変化をモニタリングすることは、カプセル器具の治療有効性を評価するための重要な情報を提供し、カプセル器具で治療されたADPKD患者の臨床管理を改善する。
【0033】
カプセル器具の配置
腎周囲の解剖学的空間
腹腔は、前部(腹腔)と後部(後腹膜腔)の2つの部分に細分化される。後腹膜腔は、腎臓および隣接する腎門血管、腎盂および近位尿管、副腎、および腹膜脂肪などの腎臓に隣接する構造を含む、腎周囲空間を含む。これらの内容物は、腎筋膜層の間に封入されている。腎臓は、腎筋膜内に包まれた腎周囲脂肪の外被に封入されている。腎周囲腔は、腰椎の側方に位置し、前腎筋膜および後腎筋膜によって限定される逆円錐状の組織である。これらの筋膜は、厚さ2mm未満の高密度な弾性の結合組織である。これらの筋膜は、腹腔の前方および後方の境界を画定している。腎周囲腔は、多数の薄い中隔を含んでいる。内側腎周囲腔は、門部血管を介して大血管空間と連絡している。周囲の空間の前方の後腹膜の前部は、前腎傍腔と呼ばれ、後腹膜の後部は、後腎傍腔と呼ばれる。
【0034】
カプセル器具の外科的移植に向けたアプローチ
カプセル器具は、開腹または腹腔鏡による外科的アプローチのいずれかを介して配置することができる。開腹手術アプローチは、経腹膜または後腹膜であり得るが、後者が好ましい。腹腔鏡下の外科的アプローチは、経腹膜または後腹膜であり、手作業によっても、ロボットの利用によっても良い。腹腔鏡下手術アプローチは開放アプローチよりも侵襲性が低いが、より複雑な手術操作が関係しうる。
【0035】
CT血管造影またはMR血管造影を含む術前の腹部CTまたはMR造影検査は、手術計画にとって不可欠である。腹部の解剖学的構造、腎臓の形態、腎臓の血管、集合尿細管系および尿管の評価は、標的腎臓へのアクセスおよびカプセル器具の移植へのアプローチのためのガイドを提供する。大動脈および下大静脈が、腎臓への主な流入および流出血管に寄与している。各腎臓は、通常、単一の腎動脈および静脈によって血液が供給されるが、腎血管系の解剖学的変異は一般的であり、手術計画のために、付属的な血管の位置、数および存在を慎重に評価しなければならない。
【0036】
腎臓は、2つの別々の面、すなわち、前胸腔および後胸腔から外科的にアクセスすることができる。前胸膜腔は、しばしば空であり、前腎筋膜を通って後壁側腹膜を切開することによってアプローチされる。内側前腎筋膜の切開により、腎門および結腸脱転にアクセスすることが可能になる。後近腎腔は通常、脂肪が充満し、後腎筋膜と後腹壁を覆う横隔膜筋膜との間を切開することによって展開される。後腎筋膜の内面の切開は、腎門を前方に導く。ADPKDの患者の一部では、腹腔鏡的アプローチのために十分な腹腔空間の創出を容易にするために、連続的な嚢胞吸引および除去を必要とすることがある。
【0037】
外科的アプローチおよび皮膚切開の選択は、腎臓の位置、患者の体型、および医師の好みなどの多数の因子に依存する。一般的に使用される切開部は、側腹部、胸腹部および経腹部の切開部を含む。側面アプローチでは、後腹壁の筋肉から腎筋膜の後部層を切開することにより、傍腎腔が展開される。その後、腹膜および結腸腸間膜から離れた腎筋膜の前部層の切開は、腎臓、副腎および腹膜脂肪を含む筋膜区画を露出させる。腹部脂肪は、切開および電気焼灼を用いて腎臓から押し退けられる。腎臓の上部極からの副腎の分離と、脾臓、膵臓、および肝臓への腎臓の上部の付着のさらなる分離は、腎臓の安全な取り出しを可能にする。腎臓の下部極を脱転した後、尿管を同定し、切開部の腹膜側で分離することができる。腎臓の後部側面の後退は、腎門の内膜を視覚化することを可能にする。胸腹部のアプローチでは、肋骨上の切開は、後腋窩線の内側に始まり、肋軟骨の縁から正中線に至り、それから、正中線を臍にまで下がる。腹腔は、腹壁の筋肉を腹膜に向けて切開することによって展開される。胸膜腔には、横隔膜の分割を含めて、アクセスすることができる。腹腔内アプローチでは、切開部を肋骨の縁の下に作成し、剣状突起の内側、それから、正中に沿って延ばす。腹腔は、腹壁筋を切開することによってアクセスされる。
【0038】
外科的アプローチの選択とは無関係に、傍側腔および筋膜区画の展開後に、カプセル器具の配置のために腎臓を曝露するためには、胸部脂肪および副腎の慎重な分離が重要となる。腎臓にアクセスして脱転した後、器具を腎臓上に配置することができる。器具の配置完了により、腎臓の主要体積が器具によって包まれ、その一方、集合尿細管系、尿管、腎動脈および静脈を含む腎臓の門構造は、器具の開口部を通過して、妨害されないようにすることができる。
【0039】
腎臓以外の臓器に対するカプセル器具の設計と配置に関する考察
カプセル器具の設計および製造は、目的の器官に関係する形態および疾患の進行を正確に評価することを必要とする。この目的のために、MRI、CT、および超音波イメージングのような3D医用イメージング法を使用して、器官および隣接する身体構造の解剖学的構造を画像化することができる。関連する画像が得られた後、カプセル器具によって拘束される標的の臓器または部分に相当する領域を周囲の解剖学的構造から区分することができる。例えば、多嚢胞性肝疾患の治療のためには、肝臓全体または肝臓の一部が標的領域となり得る。標的肝臓領域は、肝動脈、門脈、肝静脈、および胆管のような重要な血管および管構造を含む隣接構造を考慮して、手動で画定するか、または画像から自動で区分することができる。横隔膜、右腎、脾臓、十二指腸、胃および右結腸を含む隣接構造もまた、標的肝臓領域の区分、および製造されたカプセル器具の配置計画において考慮されるべきである。より大きなサイズとより複雑な解剖学的構造のために、肝臓のカプセル器具は設計、製造、および配置において、腎臓のカプセル器具よりも複雑となりうる。さらに、カプセル器具の材料および厚さの選択は、肝臓の成長予測および影響を受けた嚢胞体積を考慮して決定することができる。考慮されうる追加の変数には、患者の年齢、性別、アレルギー感受性プロファイル、人口統計学的情報および臨床情報が含まれる。
【0040】
身体器官の異常な成長または腫瘤を伴う疾患の治療および予防方法
本発明の一部の態様は、カプセル器具を移植して患者の身体器官または腫瘤を被包する工程を含む、身体器官の異常な成長または腫瘤を伴う疾患の治療および予防方法に関する。患者は動物、特に哺乳動物、具体例としては、ヒトでありうる。身体器官には腎臓、肝臓、および卵巣が含まれる。身体器官の異常な成長を伴う疾患は、例えば、腎臓、肝臓、または卵巣の疾患であることができ、腎臓の疾患としては、例えば、多発性嚢胞腎症、特にADPKDまたはARPKDであることができる。本発明の一部の態様では、身体器官の異常な成長または腫瘤を伴う疾患の治療および予防方法は、身体器官または腫瘤を測定する工程、カプセル器具を設計する工程、カプセル器具を製造または選択する工程、および移植したカプセル器具をモニタリングする工程のうちの少なくとも1つをさらに含みうる。
【0041】
カプセル器具の使用
本発明の一部の態様は、腎臓、肝臓および卵巣からなる群から選択される身体器官の異常な成長の治療または予防における、身体器官を包むためのカプセル器具の使用に関する。対象は動物、特に哺乳動物、具体例としては、ヒトでありうる。身体器官には腎臓、肝臓、および卵巣が含まれる。身体器官の異常な成長を伴う疾患は、例えば、腎臓、肝臓、または卵巣の疾患であることができ、腎臓の疾患としては、例えば、多発性嚢胞腎症、特にADPKDまたはARPKDであることができる。
【0042】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【実施例】
【0043】
例1:動物
多発性嚢胞腎を有するHan:SPRD-Cy/+ラットを、以前に報告されているようにして、藤田医科大学のヒト疾患動物モデル動物教育研究施設にて繁殖させて維持した(Yu, A.S.L., et al., Baseline total kidney volume and the rate of kidney growth are associated with chronic kidney disease progression in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease. Kidney Int, 2018. 93(3): p. 691-699; Nagao, S., et al., Increased water intake decreases progression of polycystic kidney disease in the PCK rat. J Am Soc Nephrol, 2006. 17(8): p. 2220-7.)。これらのラットの使用のためのプロトコールは、藤田医科大学の動物実験委員会によって承認されている。
【0044】
オスおよびメスのヘテロ接合体(Cy/+)ラットの繁殖により、Cy/+、Cy/Cy、または+/+遺伝子型を含む同腹仔が産生する。寿命が3週間のCy/Cy動物は、本研究には使用されなかった。本研究のために使用するCy/+動物を選択するために、変異分析を行い、Cyの原因遺伝子であるPkdr1(Anks6)におけるCからTへの変異を調べた。4週齢において、+/+およびCy/+ラットを以前の研究に記載されているようにして、PCR-RFLP法を用いて区別した(Brown, J.H., et al. Missense mutation in sterile alpha motif of novel protein SamCystin is associated with polycystic kidney disease in (cy/+) rat. J Am Soc Nephrol 16, 3517-3526 (2005).)。PCR産物を得る際にはApplied Biosystems GeneAmp PCR System 9700を用いた。正常な腎臓を有する4週齢の野生型Sprague-Dawley(SD)ラットをCharles River Japan(Kanagawa, Japan)から購入した。
【0045】
例2:カプセル器具の製造
28週齢の野生型ラットおよび22週齢のHan:SPRD-Cy/+ PKDラットを麻酔し、R-mCT2マイクロCTスキャナー(Rigaku Corporation, Tokyo, Japan)を用いてスキャンした。ヨード造影剤の投与後、腹部のCT画像を取得した。各CT画像セットから、左右の腎臓領域を同定し、独自の画像分割プログラムを使用して半自動的にセグメント化した。野生型ラットの腎臓領域は小さな鋳型を提供し、一方、PKDラットの腎臓領域は大きな鋳型に対応した。これら2つの鋳型を使用して、小さい鋳型(すなわち0パーセント)と大きい鋳型(すなわち100パーセント)の間の3D体積データポイントの数学的補間によって3つの中間サイズの鋳型を生成した:体積測定データの50%に対応する中型の鋳型、25%に対応する小さめの鋳型、75%に対応する大きめの鋳型(
図6)。5種類の異なるサイズの鋳型に基づき、ラット腎臓の3D体積測定モデルを作製した。3Dボクセルの寸法は等方性0.15×0.15×0.15mmとした。各3D体積測定モデルは、各腎臓領域の全体積を囲むように設計した。さらに、腎門領域に開口部を含むように3D体積測定モデルを構成し、腎臓の残りの部分を包み込みながら、腎臓に接続された血管、集合管、および尿管が妨げられずに通過できるようにした。
【0046】
腎臓領域を区分して作製した3D体積測定モデルを使用して、3Dプリンティング技術(CONNEX 3 OBJET500, Stratasys, MN, USA)を用いて腎臓カプセル器具を製作した。3Dプリンタにより、液体フォトポリマーをビルドトレイ上に噴射し、紫外線で硬化させた(Mitsouras, D., et al. Medical 3D Printing for the Radiologist. RadioGraphics 35, 1965-1988 (2015).)。腎臓カプセル器具材料のための1セットと、支持材料のための1セットの2つの噴射ヘッドが、部品の層をスプレイした。3D構造をプリントするために、トレイを層ごとに段階的に下降させた。腎臓カプセル器具は、複雑な形状を有する貝殻状の構造であったため、オーバーハングを維持し、カプセル器具の空きスペースの内部を満たす支持材料(SUP705, Object, Inc., MA, USA)が必要であった。プリンティングが完了した後、加圧水スプレイを用いて支持材料を除去し、腎臓カプセル器具を露出させたスプレイル器具用の3Dプリンティング材料については、屈曲の反復に耐えられる耐久性のあるゴム様の感光性樹脂(Agilus30, Stratasys, MN, USA)を使用した。この材料は、インビボでラット腎臓を包む目的で、カプセル器具の外科的配置を容易にするのに適している。
【0047】
例3:カプセル器具の動物への移植
合計6回の手術セッションを14ヶ月の期間にわたり、7~8週齢の7匹の野生型ラットと、6匹の6.5週齡のHan:SPRD-Cy/+ PKDラットを用いて行った。主にカプセル器具の外科移植の実現可能性を試験するための一連の実験の最初のセッションでは、8週齢の野生型SDラットの左腎に小型のカプセルを配置した。ラットを0.375mg/kgのメデトミジン、2.0mg/kgのミダゾラム、および2.5mg/kgのブトルファノールで調製した3種類の混合麻酔剤で麻酔し、ラットの左腹部を準備し、切開して、後腹膜および腹膜腔にアクセスした。周囲の脂肪組織を注意深く分離した後、左腎を同定し、完全に曝露させた。小型カプセル器具の開口部から円周の約3分の1から半分まで、横方向に切り込みを入れ、切断面に沿って、カプセル器具を中央で後方に曲げて器具の下部極を開いた。露出した腎臓を下部極から器具に入れた。腎臓の下部極を配置した後、器具を慎重に引き伸ばし、腎臓の残りの部分に被せた。こうして、腎臓の全体がカプセル器具によって包まれたが、腎門構造は、器具の門開口内にあるため覆われず、妨げられなかった。器具の分割線を縫合し、外科用接着剤の適用によって密封した。カプセル化された腎臓を周囲の組織および後腹膜によって覆い、切開した後腹膜筋膜および皮膚を縫合した。このセッションの間に、別の野生型ラットには、カプセル器具を埋め込まない偽手術を施した。5.4~5.6週の追跡調査の後、ラットを屠殺し、カプセル化された腎臓およびカプセル化されていない腎臓の両方を回収した。また、血液サンプルを採取した。
【0048】
第2のセッションでは、6.5週齢のCy/+ PKDラットの左腎臓に、中型のサイズのカプセル器具を移植した。小型および小さ目のカプセルは、PKDラットの腎臓に適合するには小さすぎると思われたため、中型のサイズのカプセル器具を選択することが適切であると判断された。外科的処置は、第1のセッションと同様にして行った。このラットを7.1週間追跡し、屠殺してカプセル化された腎臓およびカプセルを付けていない腎臓の両方を回収した。
【0049】
第3のセッションでは、6.5週齢の同腹仔野生SDラット2匹に手術を施した(第1ラットは両側とも偽手術、第2ラットは中型のカプセル器具を右腎へ移植)。外科処置は以前のセッションと同様にして行った。両ラットを12週間追跡し、屠殺して、カプセル化された腎臓およびカプセル化していない腎臓の両方を回収した。
【0050】
第4のセッションでは、7週齢の同腹仔野生型SDラット3匹に対して処置を行った(第1のラットは両側とも偽手術、第2のラットは中型カプセル器具を左腎に移植、第3のラットは右腎に中型カプセルデバイスを移植)。外科処置は以前のセッションと同様にして行った。ラットを12週間追跡し、屠殺して、カプセル化された腎臓およびカプセル化していない腎臓の両方を回収した。
【0051】
第5のセッションでは、6.5週齢の同腹仔Cy/+ PKDラット3匹に手術を施した(第1のラットは両側とも偽手術、第2のラットは大型カプセル器具を左腎に移植、第3のラットは大型カプセル器具を両側の腎臓に移植)。これらのPKDラットは、第2セッションで使用したPKDラットよりも体重が重かったため、大型のカプセル器具を選択した。外科的処置は、左腎のみにカプセル器具を埋め込んだラットは第1セッションおよび第2セッションのものと同様であった。他の2匹のラットの外科手術は、両側の腎臓について行った。3匹のラット全てを12週間追跡し、屠殺して、カプセル化した腎臓とカプセル化していない腎臓の両方を回収した。
【0052】
第6のセッションでは、6.5週齢の同腹仔Cy/+ PKDラット2匹に手術を施した(第1のラットは両側とも偽手術、第2のラットは大型カプセル器具を左腎へ移植)。外科処置は以前のセッションと同様にして行った。両ラットを12週間追跡し、屠殺して、カプセル化した腎臓とカプセル化していない腎臓の両方を回収した。
【0053】
例4:カプセル器具の移植の効果
ADPKDの進行を止めるための機械的解剖学的方法の有効性を調べるために、本発明者らはHan:SPRD-Cy/+(Cy/+)ラットモデルを使用した。このラットは、多発性嚢胞腎疾患を発症する。3Dカプセル介入器具は、ラットの腎臓を囲むように設計し、構築した。28週齢の野生型ラットおよび22週齢のCy/+ラットから得たマイクロCT画像を用いて、3D腎臓カプセルの構成のための解剖学的参照鋳型を作製した。解剖学的参照鋳型の数学的補間により、ラット腎臓カプセルの3D画像化モデルを5つの異なるサイズ(小、小さめ、中、大きめ、大)で生成した。3D画像化モデルを3Dプリントし、インビボでラットの腎臓を囲むように設計された腎臓カプセル器具を製造した(
図6)。
【0054】
カプセル器具を野生型およびPKDラットの腎臓に外科的に移植した(
図9)。ラットは、無作為に選択して、カプセル器具を片側または両側の腎臓に移植した。また、偽手術を野生型ラットおよびPKDラットの両方で行った。ラットは外科的処置に十分に耐え、回復した。施術した腎臓が成長するのに充分と考えられる期間の経過後、ラットを屠殺し、腎臓およびカプセルを回収した。異なるセッションにおける個々のラットの結果を表1に示す。カプセル化されていないPKD腎臓と比較して、腎臓サイズの有意な減少が、カプセル器具によって包まれたPKD腎臓において一貫して認められた。
【0055】
野生型ラットでは、カプセル化された腎臓とカプセル化していない腎臓の腎臓サイズに、実質的な違いは観察されなかった。これは、これらの野生型の腎臓が、フォローアップ期間中に、移植した小型カプセルの容量を超えて成長しなかったためであると考えられる。野生型ラットに移植した小型カプセル器具は、28週齡の野生型ラットのマイクロCT画像に基づいて構築されたが、カプセル化された野生型ラットは剖検時、13.4~13.6週齡であった。野生型ラットの追跡調査を剖検時に28週を超えるよう延長した場合は、野生型腎臓の正常な成長を制限し、カプセル化された腎臓とカプセル化されていない腎臓のサイズに違いが観察されたであろうと考えられる。
【0056】
PKDラットでは、カプセル化された腎臓のサイズは、カプセル化されていない腎臓のものよりも一貫して有意に小さかった(21~36%減少していた)(
図7、8および10)。PKDラットの腎臓サイズの成長には、若干の変動がみられた。例えば、第2セッションのPKDラットは、第3のセッション(非カプセル化:4.23g、カプセル化:2.79~3.73 g;追跡期間12週間)のものよりも短い追跡期間(7.1週間)にもかかわらず、腎臓サイズの絶対値(非カプセル化:6.14g、カプセル化:3.91 g)が大きかった。これは、同腹仔の第3セッションの3匹のラットは、同様な腎臓サイズ分布であったことから、ラットの個体差に関係づけられ得る。
【0057】
ラットの遺伝子型および体重に応じて、異なるサイズのカプセルを移植した。カプセル器具のために考慮する必要がある別の要因は、器具の材料特性および厚さ、ならびに拘束される腎臓の成長予測である。例えば、急速に予測される成長を伴う腎臓は、予測される成長が遅いものよりも、成長を抑制する大きな機械的な力を達成するために、より硬質で厚いカプセルを必要としうる。
【0058】
例5:腎臓の組織学的評価
野生型およびCy/+ラットから手術後に回収された腎臓の組織学的評価を
図11~14に示す。左腎に移植されたカプセル器具を有する野生型ラットでは、カプセル化されていない右腎とカプセル化された左腎は、目に見える組織学的相違を示さず、特に、動的な炎症性細胞の浸潤は見られなかった。擬似手術およびカプセル移植を施したCy/+ラットでは、すべての腎臓が数多くの腎嚢胞を示したが、カプセル化された腎臓の嚢胞は、カプセル化されていない腎臓よりもサイズが小さく、これはおそらく、全体的な腎臓サイズの差を反映している(
図11および13)。さらに、カプセル器具を用いていない腎臓の天然の腎被膜と比較して、カプセル器具を移植した腎臓の腎被膜には、かなりの肥厚化が見られた(
図12)。組織学的評価において見られた肥厚した腎被膜は、線維変化に対応するようである。本発明者らは、カプセル器具の存在によって誘発された機械的拘束または炎症の変化が、天然の腎被膜における反応性の線維変化につながったと考えている。
【0059】
Cy/+ラットの腎臓からの組織標本は、腎嚢胞の間に散在する多数の単核細胞の存在を実証した。カプセル器具のない腎臓は、カプセル器具を有する腎臓よりも、より多くのより大きな腎嚢胞、より多くの単核細胞、および、より多くの刺激された細胞増殖を含んでいた。加えて、非嚢胞性腎組織の比率は、カプセル器具のない腎臓よりも、カプセル器具を有する腎臓において高くなっていた。
【0060】
Cy/+ラットの嚢胞性の尿細管および正常様の腎尿細管の腎上皮細胞における細胞増殖マーカーのKi67およびホスホ-ERKのレベルが、カプセルを取り付けた腎臓では、カプセル化されていない腎臓のものと比較して低下していた(
図14)。また、組織損傷を媒介することが知られているM1マクロファージを識別するためのバイオマーカーとしてCCR7を用いた。M1マクロファージは、主に嚢胞の上皮に存在し、カプセル化されていないCy/+腎臓と比較して、カプセル化したCy/+腎臓において減少していた。野生型ラットでは、カプセル化した腎臓とカプセル化していない腎臓は、細胞増殖マーカーのKi67およびホスホ-ERKについて実質的な差異を示さなかった。
【0061】
カプセル化された腎臓を有するCy/+ラットの血清クレアチニンレベルは、偽手術を施したラットよりも一貫して低くなっていた(表1)。以下の表1に3回の異なる実験セッションにおけるCy/+ラットの特性と結果をまとめた。
【0062】
【0063】
本明細書には、本発明の好ましい実施態様を示してあるが、そのような実施態様が単に例示の目的で提供されていることは、当業者には明らかであり、当業者であれば、本発明から逸脱することなく、様々な変形、変更、置換を加えることが可能であろう。本明細書に記載されている発明の様々な代替的実施形態が、本発明を実施する際に使用されうることが理解されるべきである。また、本明細書中において参照している特許および特許出願書類を含む、全ての刊行物に記載の内容は、その引用によって、本明細書中に明記された内容と同様に取り込まれていると解釈すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明者らは、腎臓、肝臓、および卵巣などの身体器官を包むためのカプセル器具の開発に成功した。このようなカプセル器具を使用することにより、身体器官の異常な成長を伴う疾患、例えば、多発性嚢胞腎症などを治療または予防することが可能となる。多発性嚢胞腎症には有効な治療法が存在しておらず、本発明が提供する治療法は、極めて有用となりうるものである。