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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】多能性幹細胞の分化促進方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240411BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240411BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N5/0735
C12N5/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020515575
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017703
(87)【国際公開番号】W WO2019208713
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2018085591
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018232436
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実現拠点ネットワークプログラム 幹細胞・再生医学イノベーション創出プログラム、「多能性幹細胞を用いた膵β細胞の成熟化機構解明」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】粂 昭苑
(72)【発明者】
【氏名】白木 伸明
(72)【発明者】
【氏名】千葉 明
(72)【発明者】
【氏名】榎本 孝幸
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536686(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125662(WO,A1)
【文献】細胞培養カタログ2012-2013 [online],ライフテクノロジーズジャパン株式会社,2012年,pp. 83, 91-92, 108, 118,https://www.thermofisher.com/content/dam/LifeTech/Documents/PDFs/jp/catalogs/dl-GIB028-A1205S.pdf,[検索日2019.07.22], Retrieved from the Internet
【文献】CHO, Young-Eun et al.,Cellular Zn depletion by metal ion chelators (TPEN, DTPA and chelex resin) and its application to osteoblastic MC3T3-E1 cells,Nutrition Research and Practice,2007年,Vol. 1,pp. 29-35
【文献】SHAHJALAL, HM et al.,Generation of insulin-producing β-like cells from human iPS cells in a defined and completely xeno-free culture system,Journal of Molecular Cell Biology,2014年,Vol. 6, No. 5,pp. 394-408, Supplementary material
【文献】PAGLIUCA, FW et al.,Generation of Functional Human Pancreatic β Cells In Vitro,Cell,2014年10月09日,Vol. 159,pp. 428-439, Supplemental Information
【文献】ARAKAWA, A et al.,Speciation of Intracellular Zn, Fe and Cu within both iPS Cells and Differentiated Cells Using HPLC Coupled to ICP-MS,Journal of Analytical & Bioanalytical Techniques,2016年,Vol. 7, No. 1, 1000295
【文献】古田奈央ほか,未分化iPS細胞および分化過程おける亜鉛の役割,第39回日本分子生物学会年会プログラム・要旨集 [online],3P-0498,2016年,https://www.aeplan.co.jp/mbsj2016/,[検索日2016.12.06], Retrieved from the Internet
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞を培地で培養する工程を含む多能性幹細胞の分化促進方法であって、前記培地がa)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物を含む培地であること、及び亜鉛を除去した後、1μM以下の濃度になるように亜鉛を添加した培地であることを特徴とする多能性幹細胞の分化促進方法。
【請求項2】
多能性幹細胞を培養する培地が、インスリンを含まない培地であることを特徴とする請求項1に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【請求項3】
多能性幹細胞を培養する培地が、多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる培地であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【請求項4】
多能性幹細胞を未分化維持培地で培養する工程を含み、前記未分化維持培地がメチオニンを含まない培地であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【請求項5】
多能性幹細胞を培養する培地が、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【請求項6】
アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤が、ヒトアクチビンAであり、その濃度が6~150ng/mLであることを特徴とする請求項5に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【請求項7】
多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法であって、以下の工程(1)~(6)を含むことを特徴とするインスリン産生細胞の分化誘導方法
(1)多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、a)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物を含む培地であって、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含み、亜鉛を除去した後、1μM以下の濃度になるように亜鉛を添加した培地で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、FGF及びヘッジホッグシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(4)工程(3)で得られた細胞を、レチノイン酸受容体アゴニスト、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(5)工程(4)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(6)工程(5)で得られた細胞を、ニコチンアミドを含む培地で培養する工程。
【請求項8】
アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤が、ヒトアクチビンAであり、その濃度が6~150ng/mLであることを特徴とする請求項7に記載のインスリン産生細胞の分化誘導方法。
【請求項9】
工程(1)~(6)における培地が、ゼノフリー培地であることを特徴とする請求項7又は8に記載のインスリン産生細胞の分化誘導方法。
【請求項10】
多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法であって、以下の工程(1)~(9)、又は(1)~(3)及び(5)~(9)を含むことを特徴とするインスリン産生細胞の分化誘導方法
(1)多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、a)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物を含む培地であって、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含み、亜鉛を除去した後、1μM以下の濃度になるように亜鉛を添加した培地で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、FGF及びヘッジホッグシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(4)工程(3)で得られた細胞を、KGFを含む培地で培養する工程、
(5)工程(3)又は工程(4)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程、
(6)工程(5)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、レチノイン酸受容体アゴニスト、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(7)工程(6)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程、
(8)工程(7)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程であって、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度が工程(7)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度である工程、
(9)工程(8)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤を含む培地で培養する工程。
【請求項11】
アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤が、ヒトアクチビンAであり、その濃度が6~150ng/mLであることを特徴とする請求項10に記載のインスリン産生細胞の分化誘導方法。
【請求項12】
多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法であって、以下の工程(1)~(7)を含むことを特徴とするインスリン産生細胞の分化誘導方法
(1)多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、a)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物を含む培地であって、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含み、亜鉛を除去した後、1μM以下の濃度になるように亜鉛を添加した培地で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、KGFを含む培地であって、1μM以下の濃度の亜鉛を含む培地であるか、又は亜鉛を含まない培地で培養する工程、
(4)工程(3)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程、
(5)工程(4)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程であって、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度が工程(4)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度である工程、
(6)工程(5)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程、
(7)工程(6)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程であって、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度が工程(6)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度である工程。
【請求項13】
アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤が、ヒトアクチビンAであり、その濃度が6~150ng/mLであることを特徴とする請求項12に記載のインスリン産生細胞の分化誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞の分化促進方法、多能性幹細胞を培養する培地、及びインスリン産生細胞の分化誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、その分化多能性のため、発生期の遺伝子機能の研究に有用なモデルであるとともに、医療用の移植可能な細胞源となる可能性があるため再生医療への応用が期待されている。しかし、例えば、糖尿病などの疾患において細胞補充療法や組織移植にES細胞やiPS細胞を用いるためには、分化を制御する必要がある。
【0003】
そこで、近年、未分化細胞から組織細胞への分化を制御する研究が盛んに行われている。例えば、インビトロで、マウスやヒトのES細胞からの、内胚葉細胞やインスリン産生細胞の作製が報告されている(Kubo A et al. Development, 131: 1651-1662, 2004、D'Amour KA et al. Nat Biotechnol 24: 1392-1401, 2006)。
【0004】
さらに、マウス胎仔由来中腎細胞株(mouse mesonephric cell line)M15細胞を支持細胞として用いて、かつアクチビン・FGF(fibroblast growth factor)・レチノイン酸を培地に加えることにより、ES細胞から膵前駆細胞を効率よく分化誘導する方法(WO2006/126574号公報、Shiraki, N. et al. Stem Cells, 26: 874-885, 2008)や、mmcM15細胞を支持細胞として用いて、特定の分泌成長因子(FGFやBMP(Bone Morphogenetic Proteins))を加除する培養条件により、マウス及びヒトのES細胞から肝臓細胞を効率よく分化誘導する方法(WO2008/149807号公報、Yoshida T. et al. Genes Cells, 13: 667-678, 2008)が報告されている。
【0005】
しかしながら、ES細胞やiPS細胞から様々な細胞を分化誘導した場合には、一部に未分化な幹細胞が残存・混入してしまう。再生医療においては、このような細胞が癌化する可能性が指摘されるなどその安全性に関する懸念がある。そのため、分化の誘導効率を上げて未分化細胞の混入を防ぐ技術が必要とされている。
【0006】
このような背景の下、本発明者はこれまで多能性幹細胞から膵臓、肝臓、腸などの消化器官細胞への分化誘導を促進する方法の研究を行ってきたが、メチオニンを除去した培地で培養することにより、多能性幹細胞の分化を促進できることを見出し、以前に特許出願を行った(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2015/123662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多能性幹細胞からの分化誘導の際に残存する未分化な幹細胞は、上述したように、再生医療の安全性を確保する上での懸念材料となっている。
【0009】
本発明は、このような背景の下になされたものであって、多能性幹細胞の分化誘導効率を向上させる新しい手段を提供し、分化誘導の際に残存する未分化な幹細胞の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、メチオニン除去による分化促進の作用機序を明らかにする過程で、メチオニン除去によって生じる細胞内亜鉛の動態に焦点を絞り解析した。その結果、細胞内亜鉛は、未分化細胞の増殖を促進する作用があり、分化に対して阻害的に働く作用を示すことを見出した。
【0011】
一方、多能性幹細胞からインスリン陽性細胞などの細胞を分化誘導する際には、成長増殖因子として一般的にインスリンが添加される。通常6量体が形成されているインスリンの結晶の核には亜鉛が存在している。従って、6量体を形成しているインスリン製剤を添加すると亜鉛が培地に含まれてしまう。そこで、本発明者は、亜鉛を培地に含まないようにし、尚且つ細胞増殖を阻害しない方法としてインスリンの代わりにインスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor、IGF)を添加する方法を考案し、実際に試した結果、IGFを使用した培地で内胚葉への分化誘導効率が著しく上昇することを見出した。
【0012】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔18〕を提供するものである。
〔1〕多能性幹細胞を培地で培養する工程を含む多能性幹細胞の分化促進方法であって、前記培地がa)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物を含む培地であることを特徴とする多能性幹細胞の分化促進方法。
【0013】
〔2〕多能性幹細胞を培養する培地が、インスリンを含まない培地であることを特徴とする〔1〕に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【0014】
〔3〕多能性幹細胞を培養する培地が、1μM以下の濃度の亜鉛を含む培地であるか、又は亜鉛を含まない培地であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【0015】
〔4〕多能性幹細胞を培養する培地が、多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる培地であることを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【0016】
〔5〕多能性幹細胞を未分化維持培地で培養する工程を含み、前記未分化維持培地がメチオニンを含まない培地であることを特徴とする〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【0017】
〔6〕多能性幹細胞を培養する培地が、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含み、1μM以下の濃度の亜鉛を含むか、又は亜鉛を含まない培地であることを特徴とする〔1〕に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【0018】
〔7〕アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤が、ヒトアクチビンAであり、その濃度が6~150ng/mLであることを特徴とする〔6〕に記載の多能性幹細胞の分化促進方法。
【0019】
〔8〕多能性幹細胞を培養する培地であって、a)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物を含むことを特徴とする培地。
【0020】
〔9〕インスリンを含まないことを特徴とする〔8〕に記載の培地。
【0021】
〔10〕1μM以下の濃度の亜鉛を含むか、又は亜鉛を含まないことを特徴とする〔8〕又は〔9〕に記載の培地。
【0022】
〔11〕多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる培地であることを特徴とする〔8〕乃至〔10〕のいずれかに記載の培地。
【0023】
〔12〕多能性幹細胞を培養する培地が、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含み、1μM以下の濃度の亜鉛を含むか、又は亜鉛を含まない培地であることを特徴とする〔8〕に記載の培地。
【0024】
〔13〕アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤が、ヒトアクチビンAであり、その濃度が6~150ng/mLであることを特徴とする〔12〕に記載の培地。
【0025】
〔14〕多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法であって、以下の工程(1)~(6)を含むことを特徴とするインスリン産生細胞の分化誘導方法、
(1)多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、〔12〕又は〔13〕に記載の培地で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、FGF及びヘッジホッグシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(4)工程(3)で得られた細胞を、レチノイン酸受容体アゴニスト、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(5)工程(4)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(6)工程(5)で得られた細胞を、ニコチンアミドを含む培地で培養する工程。
【0026】
〔15〕工程(1)~(6)における培地が、ゼノフリー培地であることを特徴とする〔14〕に記載のインスリン産生細胞の分化誘導方法。
【0027】
〔16〕多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法であって、以下の工程(1)~(9)、又は(1)~(3)及び(5)~(9)を含むことを特徴とするインスリン産生細胞の分化誘導方法、
(1)多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、〔12〕又は〔13〕に記載の培地で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、FGF及びヘッジホッグシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(4)工程(3)で得られた細胞を、KGFを含む培地で培養する工程、
(5)工程(3)又は工程(4)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程、
(6)工程(5)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、レチノイン酸受容体アゴニスト、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する工程、
(7)工程(6)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程、
(8)工程(7)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程であって、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度が工程(7)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度である工程、
(9)工程(8)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤を含む培地で培養する工程。
【0028】
〔17〕膵臓前駆細胞から膵臓β細胞への分化方法であって、膵臓前駆細胞がPDX1陽性又はNKX6.1陽性であり、レチノイン酸受容体アゴニスト、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、KGF、γ-セクレターゼ阻害剤、BMPシグナル伝達阻害剤、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びEGF受容体アゴニストからなる群から選択される因子を含む培地で、膵臓前駆細胞を培養することを特徴とする分化方法。
【0029】
〔18〕多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法であって、以下の工程(1)~(7)を含むことを特徴とするインスリン産生細胞の分化誘導方法、
(1)多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、〔12〕又は〔13〕に記載の培地で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、KGFを含む培地であって、1μM以下の濃度の亜鉛を含む培地であるか、又は亜鉛を含まない培地で培養する工程、
(4)工程(3)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程、
(5)工程(4)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程であって、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度が工程(4)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度である工程、
(6)工程(5)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程、
(7)工程(6)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する工程であって、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度が工程(6)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度である工程。
【0030】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願(特願2018-085591及び特願2018-232436)の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、多能性幹細胞の新規な分化促進方法を提供する。この方法により、多能性幹細胞から膵臓、肝臓、腸などの細胞への分化誘導効率、特に分化の初期段階における分化誘導効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】メチオニン除去前処理は、ヒトiPS細胞のインスリン発現β細胞への後期分化を増強した。分化前に短期間メチオニン除去による前処理をした場合、Toe及びRPChiPS771ヒトiPS細胞は、分化能の増加を示し、ヒト膵島の活性と類似した活性を持つグルコース応答性β細胞を生成した。A)分化方法の概略図。解離させ、スフェアを形成するように培養された未分化のToe(B-G)又はRPChiPS771(H-J)hiPSCを、メチオニン除去処理した(又は処理しなかった。)。その後、分化培地に切り替えることによって分化を誘発させ、膵臓β細胞への分化のための5段階分化方法を行った。B)メチオニン前処理直後(5hr)、分化3日目、分化13日目、分化25日目の細胞の代表的な明視野画像を示す。上のパネルは対照の完全培地で培養し、下のパネルはメチオニン除去培地で培養した場合を示す。C)未分化hiPSC(D0)、分化3日目のDE、分化5日目のPG、分化11日目のPP、分化13日目のEP、及び分化25日目のECの遺伝子アレイ分析を主成分分析によって分析した。D)分化したiPSCにおける成熟及び分化関連遺伝子の発現は、ヒートマップによって示される。ヒト膵島で得られた結果も示されている。E)分化3日目におけるOCT3 / 4又はSOX17陽性についての免疫細胞化学分析を示す。N = 3である。F、G)分化19日目の代表的なC-ペプチド陽性染色画像を示す(Fの上パネル)。分化19日目(Fの下パネル)又は分化25日目(G)におけるC-ペプチド陽性の定量的結果を示す。N = 3である。H-J)RPChiPS771 hiPSCについても試験した。H)メチオニン除去処理をすると、RPChiPS771 hiPSCは、分化3日目に有意にOCT3 / 4発現が減少したが、SOX17陽性の増加は明白ではなかった。 N = 3である。I)メチオニン除去処理をすると、分化25日目にINS + / PDX1 +細胞の増加が観察された。 N = 3である。J)RPChiPS771 hiPSC由来の細胞及びヒト膵島のGSIS活性を示す。メチオニン除去による前処理をしたヒトiPSC由来β細胞(中央パネル、n = 6)は、対照の細胞(左パネル、Compl、n = 5)と比較して、グルコース刺激C-ペプチド分泌を改善し、低グルコースに対する高グルコースの比がヒト膵島の比(右パネル、n = 3)と類似したものになった。データは平均±SEMとして表す。グループ間の差をスチューデントのt検定によって分析した。有意性は* p <0.05又は** p <0.01として示す。
図2】メチオニン除去前処理細胞の遺伝子発現解析により、多能性細胞マーカーであるNANOGのダウンレギュレーション及び分化関連遺伝子のアップレギュレーションが明らかになった。A、B)胚体内胚葉への分化のための分化方法の概略図。RPChiPS771 hiPSCを単一のアミノ酸を欠失させて、5時間前処理した。その後、異なる条件下で、概略図に示すように分化培地に切り替えることによって分化を誘発させた:Medium 1における分化は、(A)アクチビンを加え(CHIR99021を含まない)、3日間行った、又は(B)アクチビン及びCHIR99021を加え、1日間行い、その後、CHIR99021を含まないが、アクチビンを含む条件で2日間行った。どちらのプロトコールでも、Met又はThr除去の前処理をした細胞では分化の増強が観察されたが、他のアミノ酸除去では分化の増強が観察されなかった。C)未分化のRPChiPS771又は201B7 hiPSCを、対照の完全培地又はメチオニン除去で5時間処理したことを示す実験の概略図。D)メチオニン除去処理又は他のアミノ酸単一除去処理された細胞を、胚性幹細胞用のプライマーアレイセットを用いて遺伝子発現分析に供した。結果を主成分分析を用いて比較した。E)結果をヒートマップとして表示する。F)発現がメチオニン除去により最も影響を受けた遺伝子を示す。NANOGは多分化能マーカーであるが、その発現はMet除去により減少する。GATA6、COL1A1及びPAX6は分化マーカー遺伝子であるが、その発現は、メチオニン除去により増加する。データは平均±SEMとして表す。 N = 3である。グループ間の差異は、一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定によって分析した。有意性は、一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定によって、* P <0.05又は** P <0.01として示される。
図3-1】遺伝子アレイ解析により、SLC30A1がメチオニン除去時に特異的に増加した遺伝子であることが確認された。A)hESC khES3及びhiPSC 201B7を用いて、メチオニン除去又は対照の完全培地で処理したhiPSCの遺伝子発現アレイ解析の3つの実験を行った。メチオニン除去群においてアップレギュレートされることが観察された9の遺伝子が抽出され、Bに列挙された。B)その結果、SLC30A1はメチオニン除去時に特異的に増加した遺伝子であり、他の8遺伝子とともに同定された。C)未分化hiPSC又はhiPSC由来分化膵臓細胞におけるSLC30A及びSLC39Aファミリー遺伝子のメンバーの発現を、本発明者の遺伝子アレイ分析結果から抽出する。発現が検出されたSLC30A及びSLC39A遺伝子のみが示されている。
図3-2】遺伝子アレイ解析により、SLC30A1がメチオニン除去時に特異的に増加した遺伝子であることが確認された。D)個々の単一アミノ酸欠失時にけるSLC30A及びSLC39A遺伝子発現のリアルタイムPCR分析を示す。SLC30A1のみがメチオニン除去時に発現の特異的変化を示した。他の遺伝子はそのような変化を示さなかった。N = 3である。但し、Thr除去及びTrp除去では、N = 2である。データは平均±SEMとして表す。グループ間の差異は、一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定によって分析した(C)。有意性は、一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定によって、* P <0.05又は** P <0.01として示される。
図4-1】メチオニン除去は、iPSCにおいて細胞内タンパク質結合Znの減少をもたらし、これはZn除去培地中でiPSCを培養することによって模倣された。A)RPChiPS771を、メチオニン除去又は他のアミノ酸の単一除去処理を5時間行い、その後、hiPSC中のZn、Cu及びFeの重金属の分析に供した。タンパク質結合Znは、メチオニン除去下で培養したiPSCでは有意に減少したが、他のアミノ酸除去下では減少しなかった。Fe又はCuは、メチオニン除去によって特異的な影響を受けなかった。B)ΔZn未分化培地を、Chelex 100処理を用いて調製した。重金属(Zn、Co、Fe、Mg及びCa)の濃度を測定し、ΔZn又は対照の完全培地(Znも添加した)を調製するために添加した。C)対照の完全培地又はΔZn培地で24時間、48時間又は72時間培養した未分化RPChiPS771細胞の明視野像を示す。データは平均±SEMとして表す。N = 3である。グループ間の差をスチューデントのt検定によって分析した。有意性は* p <0.05又は** p <0.01として示す。
図4-2】メチオニン除去は、iPSCにおいて細胞内タンパク質結合Znの減少をもたらし、これはZn除去培地中でiPSCを培養することによって模倣された。D)相対細胞数とE)細胞内Zn濃度は、ΔZnで培養した時間の増加と共に減少した。F、G)多分化能と増殖の遺伝子マーカー(F)及び分化の遺伝子マーカー(G)の発現が示されている。H)メチオニン除去処理された細胞で遺伝子マーカーの発現を調べた。データは平均±SEMとして表す。N = 3である。グループ間の差をスチューデントのt検定によって分析した。有意性は* p <0.05又は** p <0.01として示す。
図5】分化培地からのZnの除去は、DE細胞への分化を増強した。A)この実験で使用した培地中のZn濃度を示す。B)StmeFit AKM(=StemFitAK03N培地にSupplement C を加えないもの) で培養した細胞間の比較を行うためプライマーアレイ分析を行った。比較は、インスリンを補充したStmeFit AKMで培養した未分化iPSC(AKM(INS)、赤い円)、IGF1を補充したStmeFit AKMで培養した未分化iPSC(AKM(IGF1)、青い円)、分化1日目のiPSC(黄色の円)、及び分化3日目のDE細胞(濃い黄色の円)間で行った。未分化細胞間では明らかな違いは見られない。C)HLAホモ接合体ドナーに由来する8のhiPSC系統をM1-AKM(INS)下でDEに分化させた培養条件の概略図を示す。D)Zn濃度を操作するために、ΔZnAKM培地を用い、IGF1を用いてインスリンと置き換えた。ZnO; Znを除去した基本培地。OCT3 / 4及びSOX17陽性が示されている。OCT3 / 4 +細胞は、インスリンの代わりにIGF1を使用した場合に減少し、IGF1及びZn 0でさらに減少する。N = 3である。E)hiPSCを分化させるためのZn除去条件は、HLAホモ接合体患者由来の8つのhiPSC系に適用可能である。この条件では、Zn 0及びIGF1を含有するM1において、OCT4 +細胞が最小レベルまで減少する。データは平均±SEMとして表す。グループ間の差をスチューデントのt検定によって分析した。有意性は* p <0.05又は** p <0.01として示す。
図6】メチオニンとZnの除去が膵臓の運命への分化を増強した。A)インスリン陽性EC細胞を得るためのゼノフリー培養方法の概略図を示す。B)実験の概略図を左側に示す。Znを添加してMedium 1(M1-IGF1 / Zn0)中の最終濃度を0、0.5、及び3μMに調整した。Met除去が低下したZn濃度と共に作用してOCT3 / 4 +細胞をさらに減少させることができるかどうかを試験するために、メチオニン前処理を行った。右側に示す結果は、Medium 1における0.5μM又は3μMの高いZnでの分化がOCT3 / 4 +細胞を増加させ、Met除去前処理がOCT3 / 4 +細胞をさらに減少させ、逆にSOX17 +細胞を増加させることを明らかにした。これは、分化13日目にPDX1陽性細胞の生成にも有効であった。M1期における0.5μMのZnは、分化13日目のEP細胞でPDX1陽性細胞の最大誘導を示した。C)HLAホモ接合体ドナー由来iPSCからインスリン陽性EC細胞を得るための異種非含有培養方法の概略図を示す。HLAホモ接合体ドナー由来iPSCを、メチオニン除去処理した(又は処理しなかった。)後に、IGF1 / Zn 0.5培地で内胚葉へ分化させた。次いで3日目からAに記載のようにAKM培地に切り替え、22日目まで分化を続けた。D) PDX1+細胞はメチオニン除去処理の有無で差がなかったE) 培養終了時(22日目)にメチオニン除去細胞でより多くのINS +、Nkx6.1 +を生じた。
図7】メチオニン除去及び低Zn処理は、膵内分泌β細胞への分化を増強した。(A)インスリン陽性細胞を得るための改訂された分化方法の概略図。Met除去前処理及び低Zn AKM培地を、M1期間及びM2期間中に使用した。(B)本研究で試験した条件。(C)条件a及びbの下で、示された日のスフェアの形態を示す明視野画像。(D)条件a及びbの3日目のDE細胞に対する免疫細胞化学分析。両方の条件において、高いSOX17陽性細胞が観察される。(E)条件a及びbの14日目EP(内分泌前駆細胞)に対するPDX1(青色)、NKX6.1(赤色)及びINS(緑色)の免疫細胞化学分析。陽性細胞のパーセンテージが示されている。 データは平均±SEMとして表す。 N = 3である。 スケールバー、0.5mm(C)、200μm(D、E)。
図8】メチオニン除去及び低Zn処理は、膵内分泌β細胞への分化をもたらした。(A)条件a及びbの21日目EC(内分泌細胞)に対するPDX1(青色)、NKX6.1(赤色)、及びINS(緑色)の免疫細胞化学分析。陽性細胞のパーセンテージをグラフに示す。(B)条件a及びbの21日目EC(内分泌細胞)に対するINS(緑色)、グルカゴン(GCG;赤色)、及び核(DAPI、青色)の免疫細胞化学分析。(C)グルコース刺激性インスリン分泌活性を26日目に測定する。各時点(低グルコース(LG、2.5mM)暴露後、高グルコース(HG、20mM)暴露10分後、30分後、及び60分後)での正規化C-ペプチド測定値を示す。条件a(3回行った)及びb下で分化した細胞を示す。(D)INS(緑色)、NKX6.1(赤色)、MAFA(青色)、及びDAPI(白色)の免疫細胞化学分析の蛍光画像を示す。(E)INS(緑色)、GCG(赤色)及びDAPI(青色)の免疫細胞化学分析の蛍光画像を示す。データは平均±SEMとして表す。 N = 3である。 スケールバー、200μm(A)、100μm(B、D、E)。
図9】メチオニン除去及び低Znの方法は膵臓内分泌前駆細胞への分化を増強した。(A)インスリン陽性細胞を得るための改訂された分化方法の概略図。M1及びS2期間中、Met除去前処理及び低Zn AKM培地を使用した。その後、S3からS5まで、細胞は、S6段階の前に、条件#1又は#2のいずれかで培養された。(B)本研究において試験されたS6段階の条件。(C)条件#1及び#2の3日目のDE細胞における免疫細胞化学分析。高SOX17+及び低OCT3 / 4+細胞が両方の条件で観察される。(D)条件#1、#2の7日目のPP(膵臓前駆体)細胞におけるSOX9(緑色)、PDX1(赤色)、OCT3 / 4(白色)及びDAPI(青色)の免疫細胞化学分析。陽性細胞の割合が示されている(写真中及び右側のグラフ)。(E)条件#1及び#2の12日目のEP(内分泌前駆体)細胞におけるPDX1(赤)、NKX6.1(緑)、INS(白)及びDAPI(青)の免疫細胞化学分析。陽性細胞の割合が示されている(右側のグラフ)。データは平均±SEMとして表す。 N = 3。 スケールバー、200μm(C、D、E)。
図10】メチオニン除去及び低Znの方法は、膵内分泌β細胞への増強された分化をもたらした。(A)条件#1、#2のINS(緑色)、NKX6.1(赤色)、MAFA(白色)及びDAPI(青色)の免疫細胞化学分析を示す。陽性細胞の割合が示されている(右側のグラフ)。(B)グルコース刺激性インスリン分泌活性を、S6の終わりの29日目にアッセイする。(C)正規化C-ペプチド測定値を各時点で示す(低グルコース(LG、2.5mM)への曝露後、高グルコース(HG、20mM)への曝露後10、30、及び60分後)。条件#1(B)及び#2(C)の下で、S6の間に異なる条件で分化した細胞が示される。(D-G)C-Pep、グルカゴン(GCG)、若しくはPDX1、又はNS、NKX6.1、若しくはMAFAの三重染色による免疫細胞化学分析を行った。全細胞中のマーカー陽性細胞の割合が示されている(D、F)。3つのマーカーのうちのマーカー+細胞の割合が計算される。データは平均±SEMとして表す。 N = 3。 スケールバー、200μm。
図11】未分化iPSCに対する低Zn濃度の影響。未分化のFf-I01s01 HLAホモ接合体患者由来iPSCを、IGF1又はINS *(Znを含まない変異INS)を添加したAKM培地を用いて、Znの段階的濃度下で、3日間培養し、細胞生存率及び遺伝子発現をアッセイする。A)実験の概略図。B)細胞生存率アッセイから得られた相対細胞数を示す。コントロールのZn 3μMに対し、Zn0μMで、未分化iPS細胞数の有意な減少が観察される。C)多能性幹細胞マーカー(NANOG、OCT3 / 4)及び細胞増殖マーカー(DNMT3、FGF4、CCL2、CRABP2、HCK、GRB7)、D)分化マーカー(GATA4、PECAM1、EOMES、MNX1、PAX6)、並びにE)LEFTY1の発現をリアルタイムPCR分析によって分析した。白色バーはZnの濃度が3μMであり、黒色バーはZn濃度が0μMである。Bについては、N = 3である。データは平均±SEMとして表す。グループ間の差をスチューデントのt検定によって分析した。有意性は* p <0.05として示す。
図12】INSの代わりにIGF1、IGF2およびINS*[glulisine(アピドラ)]を用い、低Zn条件下で、Ff-I01s01 HLA iPS細胞の内胚葉への分化促進。A)実験の概略図。ヒトiPS細胞は、コントロールStemFit Basic03、又はM1-AKM(IGF1、IGF2、INS *)、Zn(0、0.5、1、3)若しくは(INS *はZnを含まないインスリン)下で、3日間培養することによって内胚葉に分化する。B-E、b-e)POU5F1、SOX2、NANOG若しくはGBX2の相対的発現レベル、又はF-I)CD34、PAX76、GATA4若しくはGATA6の相対的発現レベルをリアルタイムPCRによって分析する。N = 3。データは平均±SEMとして表す。グループ間の差をスチューデントのt検定によって分析した。有意性は、M1-AKM(INS)との比較では* p <0.05又は** p <0.01として示し、M1-AKM [IGF1 (0_0_0)] との比較では§p < 0.05又は§§p < 0.01として示す。
図13】Ff-I14s04細胞は、Zn除去条件下で内胚葉細胞及び膵臓前駆細胞に分化するように増強される。A)実験の概略図。ヒトiPSCは、対照StmeFit Basic03、M1-AKM(IGF / Zn0又はZn3)、又はM1-AKM(INS * / Zn0又はZn3)(INS *はZnを含まないインスリン)で培養することによって内胚葉に分化する。B)OCT3 / 4若しくはSOX17発現細胞の比率、又はC)PDX1発現細胞の比率を免疫細胞化学によって評価する。N = 3である。データは平均±SEMとして表す。グループ間の差をスチューデントのt検定によって分析した。有意性は* p <0.05、** p <0.01、又は*** p <0.005として示す。B)については、IGF / Zn3又はINS * / Zn3と比較して有意でないもののみが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)多能性幹細胞の分化促進方法
本発明の多能性幹細胞の分化促進方法は、多能性幹細胞を培地で培養する工程を含むものであって、前記培地がインスリン様成長因子(IGF)を含む培地であることを特徴とするものである。
【0034】
多能性幹細胞を培養する培地は、多能性幹細胞を中胚葉細胞や外胚葉細胞に分化させる培地であってもよいが、好ましくは、内胚葉細胞に分化させる培地である。
【0035】
「多能性幹細胞」とは、自己複製能を有し、in vitroにおいて培養することが可能で、かつ、個体を構成する細胞に分化しうる多分化能を有する細胞をいう。具体的には、胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(GS細胞)、体細胞由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体性幹細胞等を挙げることができるが、本発明で好ましく用いられるのはiPS細胞又はES細胞であり、特に好ましくは、ヒトiPS細胞及びヒトES細胞である。
【0036】
ES細胞は、哺乳類動物由来のES細胞であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル又はヒト等を挙げることができ、好ましくは、マウス又はヒトであり、さらに好ましくはヒトである。
【0037】
ES細胞は、一般的には、胚盤胞期の受精卵をフィーダー細胞と一緒に培養し、増殖した内部細胞塊由来の細胞をばらばらにして、さらに、植え継ぐ操作を繰り返し、最終的に細胞株として樹立することができる。
【0038】
また、iPS細胞とは、分化多能性を獲得した細胞のことで、体細胞(例えば、線維芽細胞など)へ分化多能性を付与する数種類の転写因子(分化多能性因子)遺伝子を導入することにより、ES細胞と同等の分化多能性を獲得した細胞のことである。「分化多能性因子」としては、多くの因子が報告されており、特に限定しないが、例えば、Octファミリー(例えば、Oct3/4)、Soxファミリー(例えば、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15及びSox17など)、Klfファミリー(例えば、Klf4、Klf2など)、Mycファミリー(例えば、c-Myc、N-Myc、L-Mycなど)、Nanog、LIN28などを挙げることができる。iPS細胞の樹立方法については、多くの報告がなされており、それらを参考にすることができる(例えば、Takahashi et al., Cell, 2006, 126:663-676;Okita et al., Nature, 2007, 448:313-317:Wernig et al., Nature, 2007, 448:318-324;Maherali et al., Cell Stem Cell, 2007, 1:55-70;Park et al., Nature, 2007, 451:141-146;Nakagawa et al., Nat Biotechnol 2008, 26:101-106;Wernig et al., Cell Stem Cell, 2008, 10:10-12;Yu et al., Science, 2007, 318:1917-1920;Takahashi et al., Cell, 2007, 131:861-872;Stadtfeld et al., Science, 2008, 322:945-949など)。
【0039】
多能性幹細胞は、後述するようにメチオニン除去培地で培養及び維持することもできるが、当該分野で通常用いられている方法にて培養及び維持してもよい。ES細胞の培養方法は常法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を用い、白血病阻害因子、KSR(ノックアウト血清代替物)、ウシ胎仔血清(FBS)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ピルビン酸、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM培地を用いて維持することができる。iPS細胞の培養も定法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてMEF細胞を用いて、bFGF、KSR(ノックアウト血清代替物)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM/F12培地を用いて維持することができる。
【0040】
多能性幹細胞を培養する培地は、IGFを含む。IGFには、IGF1とIGF2があるが、本発明においては、IGF1を使用するのが好ましい。IGFはいずれの動物に由来するものであってもよいが、多能性幹細胞と同じ動物に由来するものが好ましい。例えば、ヒトの多能性幹細胞を培養するのであれば、ヒトIGFを使用するのが好ましい。培地中のIGF濃度は、多能性幹細胞の分化を促進できるのであれば特に限定されないが、好ましくは10~200ng/mLであり、より好ましくは50~150ng/mL、更に好ましくは80~120ng/mLである。
【0041】
多能性幹細胞を培養する培地は、IGFの代わりに、亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤又は低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤を含んでもよい。ここで、「インスリンアナログ」とは、天然のインスリンのアミノ酸配列を一部変更したペプチドであって、天然のインスリンと同様の生理作用を持つペプチドをいう。また、「インスリンアナログ製剤」とは、インスリンアナログそのもの、又はインスリンアナログに他の成分を添加したものをいう。インスリンアナログ製剤は、亜鉛を含有しないことが好ましいが、低濃度の亜鉛を含有してもよい。ここでいう「低濃度」とは、インスリン(天然のインスリン)製剤と比較して、製剤中の亜鉛濃度が低いという意味である。インスリン製剤中では、6分子のインスリンが2原子の亜鉛と結晶構造を形成するが、インスリンアナログに対する亜鉛の存在比が、これより低い場合(即ち、1/3未満である場合)、「低濃度」であるということができる。亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤の具体例としては、インスリングルリジン製剤(商品名:アピドラ)を挙げることができる。多能性幹細胞を培養する培地に含まれるインスリンアナログは、インスリンと同様の作用を示すと考えられるので、培地中のインスリンアナログの濃度も、インスリンの濃度と同様でよいと考えられる。多能性幹細胞を培養する培地に加えられるインスリンの濃度は、当業者によく知られているので、それに従って、培地中のインスリンアナログの濃度も決めることができる。
【0042】
また、多能性幹細胞を培養する培地は、IGFの代わりに、インスリン様作用を示す化合物を含んでもよい。インスリン様作用を示す化合物は数多く知られており、本発明においては、そのような公知の化合物を使用することができる。インスリン様作用を示す化合物の具体例としては、化合物M(Qureshi SA, et al., J Biol Chem. 2000 Nov 24;275(47):36590-5に記載されているCompound 2)、L-783281(Zhang B, et al., Science. 1999 May 7;284(5416):974-7)、TLK-19781(Cheng M, et al., J Cell Biochem. 2004 Aug 15;92(6):1234-45及びLum RT, et al., J Med Chem. 2008 Oct 9;51(19):6173-87)、Na3VO4(Green A., Biochem J. 1986 Sep 15;238(3):663-9)、ertiprotafib(WO1999/061435号公報)等のPTP1B(protein tyrosine phosphatase 1B)阻害剤を挙げることができる。また、WO2017/188082号公報の請求項1に記載されている化合物、特に実施例に記載されている化合物1~5も、インスリン様作用を示す化合物として使用することができる。
【0043】
IGFやインスリンアナログ製剤やインスリン様作用を示す化合物はインスリンの代わりに使用するものなので、多能性幹細胞を培養する培地はインスリンを含まないことが好ましい。
【0044】
多能性幹細胞を培養する培地は、1μM以下の濃度の亜鉛を含むか、又は亜鉛を含まないことが好ましい。亜鉛濃度は、1μM以下であればよいが、0.9μM以下、0.8μM以下、0.7μM以下、0.6μM以下、又は0.5μM以下であってもよい。培地中には微量の亜鉛が含まれていることが多いので、培地に添加した亜鉛の量がそのまま培地中に含まれる亜鉛の量とはならないこともある。このため、後述する実施例に示すように、培地を亜鉛キレート剤(例えば、Chelex 100)で処理し、亜鉛を除去した後、所定の濃度になるように亜鉛を添加してもよい。また、培地を亜鉛キレート剤で処理した後、亜鉛を加えない培地を「亜鉛を含まない培地」としてもよい。なお、亜鉛をキレートするキレート剤は、通常、亜鉛以外の金属(例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、カルシウムなど)もキレートするので、亜鉛キレート剤で処理後、除去された金属を培地に添加する。
【0045】
多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる培地は、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含むものであることが好ましい。
【0046】
アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)-4,7の活性化剤は、ALK-4及び/又はALK-7に対し活性化作用を有する物質から選択される。使用されるアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤の例としては、アクチビン、Nodal、Myostatinが挙げられ、好ましくはアクチビンである。アクチビンは、アクチビンA、B、C、D及びABが知られているが、そのいずれのアクチビンも用いることができる。用いるアクチビンとしては、特に好ましくはアクチビンAである。また、用いるアクチビンとしては、ヒト、マウス等いずれの哺乳動物由来のアクチビンをも使用することができるが、分化に用いる幹細胞と同一の動物種由来のアクチビンを用いることが好ましく、例えばヒト由来の多能性幹細胞を出発原料とする場合、ヒト由来のアクチビン、特にはヒト由来のアクチビンAを用いることが好ましい。これらのアクチビンは商業的に入手可能である。培地中のアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)-4,7の活性化剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、ヒトアクチビンAを使用する場合は、好ましくは3~500ng/mLであり、より好ましくは5~200ng/mLであり、更に好ましくは6~150ng/mLである。アクチビンは、ジメチルスルホキシドの存在下では、低濃度でも多能性幹細胞を内胚葉に分化させることができるが(Ogaki S et al. Sci Rep 5: 17297, 2015)、ジメチルスルホキシドが存在しない条件では、濃度を高くしなければ多能性幹細胞を内胚葉に分化させることができない。従って、培地中にジメチルスルホキシドが含まれていない場合は、ヒトアクチビンAの濃度は、高い濃度に設定することが好ましい。具体的には、20~500ng/mLが好ましく、50~200ng/mLがより好ましい。
【0047】
培地中には、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤のほかに、GSK3阻害剤も含まれていてもよい。また、培養を2段階に分け、前半の培養ではアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤とGSK3阻害剤を含む培地を使用し、後半の培養ではアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含み、GSK3阻害剤を含まない培地を使用してもよい。
【0048】
GSK3阻害剤は、GSK3α阻害活性を有する物質、GSK3β阻害活性を有する物質、及びGSK3α阻害活性とGSK3β阻害活性とを併せ持つ物質からなる群より選択される。GSK3阻害剤としては、GSK3β阻害活性を有する物質又はGSK3α阻害活性とGSK3β阻害活性とを併せ持つ物質が好ましい。上記GSK3阻害剤として、具体的にはCHIR98014、CHIR99021、ケンパウロン(Kenpaullone)、AR-AO144-18、TDZD-8、SB216763、BIO、TWS-119及びSB415286等が例示される。これらは市販品として購入可能である。また、市販品として入手できない場合であっても、当業者であれば既知文献に従って調製することもできる。また、GSK3のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNA等もGSK3阻害剤として使用することができる。これらはいずれも商業的に入手可能であるか既知文献に従って合成することができる。用いられるGSK3阻害剤は、好ましくはCHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)、SB216763(3-(2,3-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、及びSB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)からなる群から選択され、特に好ましくはCHIR99021である。培地中のGSK3阻害剤の濃度は、用いるGSK3阻害剤の種類によって適宜設定されるが、GSK3阻害剤としてCHIR99021を使用する場合の濃度は、好ましくは1~10μMであり、より好ましくは2~5μMである。
【0049】
多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる培地は、公知の基礎培地をもとに作製することができる。このような公知の基礎培地としては、例えば、BME培地、BGjB培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagles MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、William’s E培地、及びこれらの混合培地等を挙げることができるが、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0050】
多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる培地は、血清代替物を含んでいてもよい。血清代替物としては、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えばセレン)、B-27サプリメント、E5サプリメン、E6サプリメン、N2サプリメント、ノックアウトシーラムリプレースメント(KSR)、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロール、又はこれらの均等物が挙げられる。これらの血清代替物は、市販されている。好ましくは、ゼノフリーB-27サプリメント又はゼノフリーノックアウトシーラムリプレースメント(KSR)を挙げることができ、例えば、0.01~10重量%、好ましくは0.1~2.0重量%の濃度にて、培地中に添加できる。また、この培地は、他の添加物、例えば、脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、抗生物質(例えばペニシリンやストレプトマイシン)又は抗菌剤(例えばアンホテリシンB)等を含有してもよい。
【0051】
多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる培地での培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1日~5日であり、好ましくは、3日~4日である。また、培養期間は、培養中の多能性幹細胞が内胚葉細胞に分化したことを確認し、それによって決めてもよい。多能性幹細胞が内胚葉細胞に分化したことの確認は、内胚葉細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子(内胚葉マーカー)の発現変動を評価することによって行うことができる。内胚葉マーカーの発現変動の評価は、例えば、抗原抗体反応を利用したタンパク質の発現評価方法、定量RT-PCRを利用した遺伝子発現評価方法等によって行うことができる。内胚葉マーカーの例としては、SOX17、FOXA2を挙げることができる。
【0052】
多能性幹細胞は、内胚葉細胞、中胚葉細胞、又は外胚葉細胞に分化させる前に、公知の方法(WO2015/125662)に従い、メチオニンを含まない未分化維持培地で培養してもよい。これにより、更に多能性幹細胞の分化効率を促進することができる。ここで、「メチオニンを含まない」とは、メチオニンを培地中に、全く含まない場合の他、10μM以下、好ましくは5μM以下、より好ましくは1μM以下、更に好ましくは0.1μM以下含有することを意味する。メチオニンを含まない培地での培養時間は特に限定されないが、好ましくは3~24時間であり、より好ましくは少なくとも5~24時間であり、更に好ましくは少なくとも10~24時間である。
【0053】
多能性幹細胞から分化した内胚葉細胞は、内胚葉由来の細胞、例えば、膵細胞(例えば、インスリン産生細胞)、肝細胞、腸細胞などに更に分化させる。これらの分化は、公知の方法に従って行うことができる。
【0054】
多能性幹細胞から分化した中胚葉細胞は、中胚葉由来の細胞、例えば、血管細胞、造血系細胞、間葉系細胞などに更に分化させる。これらの分化は、公知の方法に従って行うことができる。
【0055】
多能性幹細胞から分化した外胚葉細胞は、外胚葉由来の細胞、例えば、神経細胞などに更に分化させる。これらの分化は、公知の方法に従って行うことができる。
【0056】
(B)第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法
本発明の第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法は、多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導するものであって、下記の工程(1)~(6)を含むことを特徴とものである。なお、工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)は、通常、この順序で連続して行うが、各工程の間に別の工程が含まれていてもよい。
【0057】
工程(1)では、多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する。この工程は、上述したメチオニンを含まない未分化維持培地で培養する方法と同様に行うことができる。
【0058】
工程(2)では、工程(1)で得られた細胞を、a)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物、及びアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含む培地であって、1μM以下の濃度の亜鉛を含むか、又は亜鉛を含まない培地で培養する。この工程は、上述した本発明の多能性幹細胞の分化促進方法と同様に行うことができる。
【0059】
工程(3)では、工程(2)で得られた細胞を、FGF及びヘッジホッグシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する。
【0060】
本工程に用いられるFGFとしては、FGF1、FGF2(bFGF)、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、FGF9、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF15、FGF16、FGF17、FGF18、FGF19、FGF20、FGF21、FGF22、FGF23等をあげることができ、好ましくは、FGF2(bFGF)、FGF5、FGF7、FGF10であり、さらに好ましくはFGF10である。これらは、天然型であってもよいしまた組換タンパクであってもよい。
【0061】
本工程で用いられるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤は、ヘッジホッグシグナル伝達の阻害活性を有する物質であれば特に制限されず、天然に存在する物質であっても、化学的に合成された物質であってもよい。ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の好ましい例としては、シクロパミン、KAAD-シクロパミン(28-[2-[[6-[(3-フェニルプロパノイル)アミノ]ヘキサノイル]アミノ]エチル]-17β,23β-エポキシベラトラマン-3-オン)、KAAD-シクロパミンの類似体、ジェルビン(17,23β-エポキシ-3β-ヒドロキシベラトラマン-11-オン)、ジェルビンの類似体、SANT-1、ヘッジホッグ経路遮断抗体等が挙げられ、SANT-1が特に好ましい。
【0062】
工程(3)の培地としては、基礎培地にFGF及びヘッジホッグシグナル伝達阻害剤が添加されている培地を使用することができる。培地中のFGFの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、FGF10を使用する場合は、好ましくは10~100ng/mLであり、より好ましくは30~80ng/mLである。培地中のヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、SANT-1を使用する場合は、好ましくは0.1~0.5μMであり、より好ましくは0.2~0.3μMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(3)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0063】
工程(3)の培地は、亜鉛を含んでいてもよい。培地中の亜鉛濃度は、好ましくは0.1~1μMであり、より好ましくは0.3~0.8μMである。
【0064】
工程(3)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~5日であり、好ましくは、1~3日である。
【0065】
工程(4)では、工程(3)で得られた細胞を、レチノイン酸受容体アゴニスト、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する。
【0066】
本工程で用いられるレチノイン酸受容体(RAR)アゴニストは、天然に存在するレチノイドであっても、化学的に合成されたレチノイド、レチノイド骨格を持たないレチノイン酸受容体アゴニスト化合物やレチノイン酸受容体アゴニスト活性を有する天然物であってもよい。RARアゴニストとしての活性をもつ天然レチノイドの例としては、レチノイン酸(異性体が存在するが、それらも包含する)をあげることができる。レチノイン酸の例としては、これに限定されないが、オール・トランス異性体(トレチノン)、9-シス-レチノイン酸(9-シスRA)をあげることができる。また、化学的に合成されたレチノイドは当技術分野で公知である。レチノイド骨格を持たないレチノイン酸受容体アゴニスト化合物の例としては、Am80、AM580、TTNPB、AC55649が挙げられる。レチノイン酸受容体アゴニスト活性を有する天然物の例としては、ホノキオール、マグノロールが挙げられる。本工程で用いられるRARアゴニストは、好ましくはレチノイン酸、AM580(4-[[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル]カルボキシアミド]ベンゾイック アシッド)、TTNPB(4-[[E]-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル]-1-プロペニル]ベンゾイックアシッド)、AC55649(4’-オクチル-[1,1’-ビフェニル]-4-カルボキシリックアシッド)であり、さらに好ましくはレチノイン酸である。
【0067】
本工程で用いられるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の例としては、工程(3)で例示したヘッジホッグシグナル伝達阻害剤があげられ、SANT-1が特に好ましい。本工程において用いるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤は、工程(3)で用いたものと同じであっても異なってもよい。
【0068】
本工程で用いられるBMPシグナル伝達阻害剤とは、BMPとBMP受容体(I型又はII型)との結合を介するBMPシグナル伝達の阻害活性を有する化合物を意味し、該阻害剤には、タンパク質性阻害剤及び低分子阻害剤が包含される。タンパク質性阻害剤としては、天然の阻害剤であるNOGGIN、CHORDIN、FOLLISTATIN、CERBERUS、GREMLIN等を挙げることが出来る。NOGGINは、BMP受容体へのBMP4の結合を阻害することによってBMPシグナル伝達を阻害することが知られている。また、低分子阻害剤としては、転写因子SMAD1、SMAD5又はSMAD8を活性化する能力をもつBMP2、BMP4、BMP6又はBMP7を阻害する化合物である、例えばDORSOMORPHIN(6-[4-(2-ピペリジン-1-イルエトキシ)フェニル]-3-ピリジン-4-イルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン)及びその誘導体をあげることができる。この他にも、BMPシグナル伝達阻害剤としてLDN-193189(4-(6-(4-ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリジン-3-イル)キノリン)及びその誘導体をあげることができる。これらの化合物は市販されており入手可能であるが、市販品として入手できない場合には、既知文献に従って調製することもできる。本工程において用いられるBMPシグナル伝達阻害としては、上記のうち特にLDN-193189が好ましい。
【0069】
工程(4)の培地としては、基礎培地にレチノイン酸受容体アゴニスト、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びBMPシグナル伝達阻害剤が添加されている培地を使用することができる。培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、レチノイン酸を使用する場合は、好ましくは0.5~5μMであり、より好ましくは1~3μMである。培地中のヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、SANT-1を使用する場合は、好ましくは0.1~0.5μMであり、より好ましくは0.2~0.3μMである。培地中のBMPシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、LDN193189を使用する場合は、好ましくは0.01~0.5μMであり、より好ましくは0.05~0.3μMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(4)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0070】
工程(4)の培地は、ビタミンC及び/又はY27632を含んでいてもよい。培地中のビタミンC濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは20~70μg/mLである。培地中のY27632濃度は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。
【0071】
工程(4)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、3~10日であり、好ましくは、5~7日である。
【0072】
工程(5)では、工程(4)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する。
【0073】
本工程で用いられるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤は、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)-4、ALK-5及びALK-7からなる群より選択される少なくとも一種のALKに対し阻害活性を有する化合物から選択される。本工程で用いるALK-4,5,7の阻害剤としては、SB-431542、SB-505124、SB-525334、A-83-01、GW6604、LY580276、TGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤II、TGFβRIキナーゼ阻害剤VIII及びSD-208等が挙げられる。これらは市販品として入手可能であるが、市販品として入手できない場合には、既知文献に従って調製することもできる。また、ALK-4,5,7のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNA等もALK-4,5,7の阻害剤として使用することができる。本工程で用いるALK-4,5,7の阻害剤としては、SB-431542(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド又はその水和物)、A-83-01(3-[6-メチル-2-ピリジニル]-N-フェニル-4-[4-キノリニル]-1H-ピラゾル-1-カルボチオアミド)、TGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤II(2-[3-[6-メチルピリジン-2-イル]-1H-ピラゾル-4-イル]-1,5-ナフチリジン)、TGFβRIキナーゼ阻害剤VIII(6-[2-tert-ブチル-5-[6-メチル-ピリジン-2-イル]-1H-イミダゾル-4-イル]-キノキサリン)が好ましく、TGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤IIがさらに好ましい。
【0074】
本工程で用いられるプロテインキナーゼC活性化因子は、プロテインキナーゼCシグナル伝達を活性化し、内胚葉系の細胞を膵臓特殊化に向かわせる活性を有していれば時に制限なく用いることができる。例えば、インドラクタムV、(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタム、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート、及びホルボール-12,13-ジブチレート(PdBU)をあげることができるが、好ましくは、インドラクタムV、又はホルボール-12,13-ジブチレートである。
【0075】
本工程で用いられるBMPシグナル伝達阻害剤の例としては、工程(4)で例示したBMPシグナル伝達阻害剤があげられ、LDN193189が特に好ましい。本工程において用いるBMPシグナル伝達阻害剤は、工程(4)で用いたものと同じであっても異なってもよい。
【0076】
工程(5)の培地としては、基礎培地にTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、及びBMPシグナル伝達阻害剤が添加されている培地を使用することができる。培地中のTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、TGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤IIを使用する場合は、好ましくは1~10μMであり、より好ましくは3~8μMである。培地中のプロテインキナーゼC活性化因子の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、インドラクタムVを使用する場合は、好ましくは0.1~0.5μMであり、より好ましくは0.2~0.4μMである。培地中のBMPシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、LDN193189を使用する場合は、好ましくは0.01~0.5μMであり、より好ましくは0.05~0.3μMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(5)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0077】
工程(5)の培地は、ビタミンC、EGF(epidermal growth factor)受容体アゴニスト、ニコチンアミド、及びT3からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0078】
本工程で用いられるEGF受容体アゴニストとしては、EGF、TGF-α、HB-EGF、アンフィレグリン、ベータセルリン、エピレグリンなどを挙げることができる。これらの中では、EGF、又はベータセルリンが好ましい。
【0079】
培地中のビタミンCの濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは20~70μg/mLである。培地中のEGF受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、EGFを使用する場合は、好ましくは10~500ng/mLであり、より好ましくは30~300ng/mLである。培地中のニコチンアミドの濃度は、好ましくは1~50mMであり、より好ましくは5~30mMである。培地中のT3の濃度は、好ましくは0.1~5μMであり、より好ましくは0.5~3μMである。
【0080】
工程(5)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~5日であり、好ましくは、1~3日である。
【0081】
工程(6)では、工程(5)で得られた細胞を、ニコチンアミドを含む培地で培養する。
【0082】
工程(6)の培地としては、基礎培地にニコチンアミドが添加されている培地を使用することができる。培地中のニコチンアミドの濃度は、好ましくは1~50mMであり、より好ましくは5~30mMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(6)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0083】
工程(6)の培地は、GLP-1受容体アゴニスト、ビタミンC、N-アセチル-L-システイン、亜鉛、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びT3からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0084】
本工程で用いられるGLP-1受容体アゴニストは、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の受容体に対する作動薬としての活性を有する物質である。GLP-1受容体アゴニストとしては、例えば、GLP-1、GLP-1MR剤、NN-2211、AC-2993(エキセンディン-4)、BIM-51077、Aib(8,35)hGLP-1(7,37)NH2、CJC-1131等をあげることができるが、特に、エキセンディン-4が好ましい。これらの物質は市販されており入手可能でありが、市販品として入手できない場合には、既知文献に従って調製することもできる。他にも、多くのGLP-1受容体作動薬が市販されており、それらも本工程で用いることができる。
【0085】
本工程で用いられるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の例としては、工程(5)で例示したTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤があげられ、TGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤IIが特に好ましい。本工程において用いるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤は、工程(5)で用いたものと同じであっても異なってもよい。
【0086】
培地中のGLP-1受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、エキセンディン-4を使用する場合は、好ましくは10~100ng/mLであり、より好ましくは30~80 ng/mLである。培地中のビタミンCの濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは20~70μg/mLである。培地中のN-アセチル-L-システインの濃度は、好ましくは0.1~5mMであり、より好ましくは0.5~3mMである。培地中のTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、TGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤IIを使用する場合は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。培地中の亜鉛の濃度は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。培地中のT3の濃度は、好ましくは0.1~5μMであり、より好ましくは0.5~3μMである。
【0087】
工程(6)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、5~15日であり、好ましくは、7~12日である。
【0088】
工程(1)~(6)において使用される培地は、ゼノフリー培地であることが好ましい。
【0089】
(C)第二のインスリン産生細胞の分化誘導方法
本発明の第二のインスリン産生細胞の分化誘導方法は、多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法であって、下記の工程(1)~(9)、又は(1)~(3)及び(5)~(9)を含むことを特徴とするものである。なお、工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)又は工程(1)、(2)、(3)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)は、通常、この順序で連続して行うが、各工程の間に別の工程が含まれていてもよい。
【0090】
工程(1)では、多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する。この工程は、第一インスリン産生細胞の分化誘導方法の工程(1)と同様に行うことができる。
【0091】
工程(2)では、工程(1)で得られた細胞を、a)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物、及びアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含む培地であって、1μM以下の濃度の亜鉛を含むか、又は亜鉛を含まない培地で培養する。この工程は、第一インスリン産生細胞の分化誘導方法の工程(2)と同様に行うことができる。
【0092】
工程(3)では、工程(2)で得られた細胞を、FGF及びヘッジホッグシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する。この工程は、第一インスリン産生細胞の分化誘導方法の工程(3)と同様に行うことができる。
【0093】
工程(4)では、工程(3)で得られた細胞を、KGF(keratinocyte growth factor)を含む培地で培養する。この工程は省略してもよい。工程(2)において、工程(1)で得られた細胞を、インスリン様成長因子を含む培地で培養する場合は、この工程を省略しないことが好ましい。一方、工程(2)において、工程(1)で得られた細胞を、亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤を含む培地で培養する場合は、この工程を省略してもよい。
【0094】
工程(4)の培地としては、基礎培地にKGFが添加されている培地を使用することができる。培地中のKGFの濃度は、好ましくは10~100ng/mLであり、より好ましくは30~80ng/mLである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(4)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0095】
工程(4)の培地は、ビタミンCを含んでいてもよい。培地中のビタミンCの濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは20~70μg/mLである。
【0096】
工程(4)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~5日であり、好ましくは、1~3日である。
【0097】
工程(5)では、工程(3)又は工程(4)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する。
【0098】
本工程で用いられるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したヘッジホッグシグナル伝達阻害剤があげられ、SANT-1が特に好ましい。
【0099】
本工程で用いられるプロテインキナーゼC活性化因子の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したプロテインキナーゼC活性化因子があげられ、インドラクタムVが特に好ましい。
【0100】
本工程で用いられるレチノイン酸受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したレチノイン酸受容体アゴニストがあげられ、レチノイン酸が特に好ましい。
【0101】
工程(5)の培地としては、基礎培地にKGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、及びレチノイン酸受容体アゴニストが添加されている培地を使用することができる。培地中のKGFの濃度は、好ましくは10~100ng/mLであり、より好ましくは30~80ng/mLである。培地中のヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、SANT-1を使用する場合は、好ましくは0.1~0.5μMであり、より好ましくは0.2~0.3μMである。培地中のプロテインキナーゼC活性化因子の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、インドラクタムVを使用する場合は、好ましくは10~100nMであり、より好ましくは30~80nMである。培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、レチノイン酸を使用する場合は、好ましくは0.5~5μMであり、より好ましくは1~3μMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(5)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0102】
工程(5)の培地は、ビタミンCを含んでいてもよい。培地中のビタミンCの濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは20~70μg/mLである。
【0103】
工程(5)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~5日であり、好ましくは、1~3日である。
【0104】
工程(6)では、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、レチノイン酸受容体アゴニスト、及びBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地で培養する。
【0105】
本工程で用いられるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したヘッジホッグシグナル伝達阻害剤があげられ、SANT-1が特に好ましい。ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤は工程(5)でも用いられるが、本工程において用いるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤は、工程(5)で用いたものと同じであっても異なってもよい。
【0106】
本工程で用いられるレチノイン酸受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したレチノイン酸受容体アゴニストがあげられ、レチノイン酸が特に好ましい。レチノイン酸受容体アゴニストは工程(5)でも用いられるが、本工程において用いるレチノイン酸受容体アゴニストは、工程(5)で用いたものと同じであっても異なってもよい。
【0107】
本工程で用いられるBMPシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したBMPシグナル伝達阻害剤があげられ、LDN193189が特に好ましい。
【0108】
工程(6)の培地としては、基礎培地にKGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、レチノイン酸受容体アゴニスト、及びBMPシグナル伝達阻害剤が添加されている培地を使用することができる。培地中のKGFの濃度は、好ましくは10~100ng/mLであり、より好ましくは30~80ng/mLである。培地中のヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、SANT-1を使用する場合は、好ましくは0.1~0.5μMであり、より好ましくは0.2~0.3μMである。培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、レチノイン酸を使用する場合は、好ましくは10~500nMであり、より好ましくは50~300nMである。培地中のBMPシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、LDN193189を使用する場合は、好ましくは10~500nMであり、より好ましくは50~300nMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(6)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0109】
工程(6)の培地は、ビタミンCを含んでいてもよい。培地中のビタミンCの濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは30~80μg/mLである。
【0110】
工程(6)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、3~7日であり、好ましくは、4~6日である。
【0111】
工程(7)では、工程(6)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニスト、を含む培地で培養する。
【0112】
本工程で用いられるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤があげられ、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤II(ALK5i)が特に好ましい。
【0113】
本工程で用いられるEGF受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したEGF受容体アゴニストがあげられ、EGFが特に好ましい。
【0114】
本工程で用いられるγ-セクレターゼ阻害剤としては、例えば、アリールスルホンアミド、ジベンズアゼピン、ベンゾジアゼピン、DAPT、L-685458、MK0752、又はγ-セクレターゼ阻害剤XXI(GSXXi)を挙げることができる。これらは市販品として購入可能である。また、市販品として入手できない場合であっても、当業者であれば既知文献に従って調製することもできる。好適なγ-セクレターゼ阻害剤としては、DAPT、又はγ-セクレターゼ阻害剤XXIを挙げることができる。
【0115】
本工程で用いられるレチノイン酸受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したレチノイン酸受容体アゴニストがあげられ、レチノイン酸が特に好ましい。レチノイン酸受容体アゴニストは工程(5)及び(6)でも用いられるが、本工程において用いるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤は、工程(5)及び(6)で用いたものと同じであっても異なってもよい。
【0116】
工程(7)の培地としては、基礎培地にTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストが添加されている培地を使用することができる。培地中のTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤IIを使用する場合は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。培地中のEGF受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、EGFを使用する場合は、好ましくは10~50ng/mLであり、より好ましくは30~40ng/mLである。培地中のγ-セクレターゼ阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、DAPTを使用する場合は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、レチノイン酸を使用する場合は、好ましくは10~500nMであり、より好ましくは50~300nMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(7)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0117】
工程(7)の培地は、トリヨードサイロニン及び/又はビタミンCを含んでいてもよい。培地中のトリヨードサイロニンの濃度は、好ましくは0.1~5μMであり、より好ましくは0.5~3μMである。培地中のビタミンCの濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは30~80μg/mLである。
【0118】
工程(7)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~5日であり、好ましくは、2~4日である。
【0119】
工程(8)では、工程(7)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する。この工程では、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、工程(7)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度とする。
【0120】
工程(8)は、レチノイン酸受容体アゴニストの濃度以外は、工程(7)で使用した培地と同様の培地で培養することができる。工程(8)の培地は、ビタミンCを含んでいなくてもよい。
【0121】
培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、工程(7)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低ければ特に限定されないが、例えば、レチノイン酸を使用する場合であれば、好ましくは10~50nMであり、より好ましくは20~30nMである。
【0122】
工程(8)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、2~6日であり、好ましくは、3~5日である。
【0123】
工程(9)では、工程(8)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤を含む培地で培養する。
【0124】
本工程で用いられるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤があげられ、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤II(ALK5i)が特に好ましい。TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤は工程(7)及び(8)でも用いられるが、本工程において用いるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤は、工程(7)及び(8)で用いたものと同じであっても異なってもよい。
【0125】
工程(9)の培地としては、基礎培地にTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤が添加されている培地を使用することができる。培地中のTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤IIを使用する場合は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(9)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0126】
工程(9)の培地は、トリヨードサイロニンを含んでいてもよい。培地中のトリヨードサイロニンの濃度は、好ましくは0.1~5μMであり、より好ましくは0.5~3μMである。
【0127】
工程(9)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~20日であり、好ましくは、3~15日である。
【0128】
(D)膵臓前駆細胞から膵臓β細胞への分化方法
本発明の膵臓前駆細胞から膵臓β細胞への分化方法は、膵臓前駆細胞がPDX1陽性又はNKX6.1陽性であり、レチノイン酸受容体アゴニスト、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、KGF、γ-セクレターゼ阻害剤、BMPシグナル伝達阻害剤、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びEGF受容体アゴニストからなる群から選択される因子を含む培地で、膵臓前駆細胞を培養することを特徴とするものである。
【0129】
本発明の分化方法で用いられるレチノイン酸受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したレチノイン酸受容体アゴニストがあげられ、レチノイン酸が特に好ましい。
【0130】
本発明の分化方法で用いられるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したヘッジホッグシグナル伝達阻害剤があげられ、SANT-1が特に好ましい。
【0131】
本発明の分化方法で用いられるγ-セクレターゼ阻害剤の例としては、第二のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したγ-セクレターゼ阻害剤があげられ、DAPTが特に好ましい。
【0132】
本発明の分化方法で用いられるBMPシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したBMPシグナル伝達阻害剤があげられ、LDN193189が特に好ましい。
【0133】
本発明の分化方法で用いられるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤があげられ、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤II(ALK5i)が特に好ましい。
【0134】
本工程で用いられるEGF受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したEGF受容体アゴニストがあげられ、EGFが特に好ましい。
【0135】
膵臓前駆細胞を培養する培地としては、基礎培地に、レチノイン酸受容体アゴニスト、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、KGF、γ-セクレターゼ阻害剤、BMPシグナル伝達阻害剤、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びEGF受容体アゴニストからなる群から選択される因子が添加されている培地を使用することができる。培地中の各因子の濃度は、多能性幹細胞の分化促進方法、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法、又はで第二のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示した濃度と同様の濃度でよい。
【0136】
(E)第三のインスリン産生細胞の分化誘導方法
本発明の第三のインスリン産生細胞の分化誘導方法は、多能性幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導するものであって、下記の工程(1)~(7)を含むことを特徴とものである。なお、工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)は、通常、この順序で連続して行うが、各工程の間に別の工程が含まれていてもよい。
【0137】
工程(1)では、多能性幹細胞を、メチオニンを含まない培地で培養する。この工程は、上述したメチオニンを含まない未分化維持培地で培養する方法と同様に行うことができる。
【0138】
工程(2)では、工程(1)で得られた細胞を、a)インスリン様成長因子、b)亜鉛を含有しないインスリンアナログ製剤、c)低濃度の亜鉛を含有するインスリンアナログ製剤、又はd)インスリン様作用を示す化合物、及びアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含む培地であって、1μM以下の濃度の亜鉛を含むか、又は亜鉛を含まない培地で培養する。この工程は、上述した本発明の多能性幹細胞の分化促進方法と同様に行うことができる。
【0139】
工程(3)では、工程(2)で得られた細胞を、KGFを含む培地であって、1μM以下の濃度の亜鉛を含む培地であるか、又は亜鉛を含まない培地で培養する。
【0140】
工程(3)の培地としては、基礎培地にKGFが添加されている培地を使用することができる。培地中のKGFの濃度は、好ましくは10~100ng/mLであり、より好ましくは30~80ng/mLである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(3)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0141】
工程(3)の培地は、1μM以下の濃度の亜鉛を含むか、又は亜鉛を含まない。亜鉛濃度は、1μM以下であればよいが、0.9μM以下、0.8μM以下、0.7μM以下、0.6μM以下、又は0.5μM以下であってもよい。培地中には微量の亜鉛が含まれていることが多いので、培地に添加した亜鉛の量がそのまま培地中に含まれる亜鉛の量とはならないこともある。このため、後述する実施例に示すように、培地を亜鉛キレート剤(例えば、Chelex 100)で処理し、亜鉛を除去した後、所定の濃度になるように亜鉛を添加してもよい。また、培地を亜鉛キレート剤で処理した後、亜鉛を加えない培地を「亜鉛を含まない培地」としてもよい。なお、亜鉛をキレートするキレート剤は、通常、亜鉛以外の金属(例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、カルシウムなど)もキレートするので、亜鉛キレート剤で処理後、除去された金属を培地に添加する。
【0142】
工程(3)の培地は、ビタミンCを含んでいてもよい。培地中のビタミンC濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは20~70μg/mLである。
【0143】
工程(3)の培地にSANT-1などのヘッジホッグシグナル伝達阻害剤を添加すると、得られるインスリン産生細胞のグルコース刺激性インスリン分泌能が低下してしまう可能性があるので、この培地は、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤を含まないことが好ましい。
【0144】
工程(3)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~5日であり、好ましくは、2~4日である。
【0145】
工程(4)では、工程(3)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する。
【0146】
本工程で用いられるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したヘッジホッグシグナル伝達阻害剤があげられ、SANT-1が特に好ましい。
【0147】
本工程で用いられるレチノイン酸受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したレチノイン酸受容体アゴニストがあげられ、レチノイン酸が特に好ましい。
【0148】
工程(4)の培地としては、基礎培地にKGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストが添加されている培地を使用することができる。培地中のKGFの濃度は、好ましくは10~100ng/mLであり、より好ましくは30~80ng/mLである。培地中のヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、SANT-1を使用する場合は、好ましくは0.1~0.5μMであり、より好ましくは0.2~0.3μMである。培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、レチノイン酸を使用する場合は、好ましくは0.5~5μMであり、より好ましくは1~3μMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(4)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0149】
工程(4)の培地は、BMPシグナル伝達阻害剤、プロテインキナーゼC活性化因子、ビタミンC、及びY27632からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0150】
本工程で用いられるBMPシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したBMPシグナル伝達阻害剤があげられ、LDN193189が特に好ましい。
【0151】
本工程で用いられるプロテインキナーゼC活性化因子の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したプロテインキナーゼC活性化因子があげられ、インドラクタムV又はホルボール-12,13-ジブチレートが特に好ましい。
【0152】
培地中のBMPシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、LDN193189を使用する場合は、好ましくは10~500nMであり、より好ましくは50~300nMである。培地中のプロテインキナーゼC活性化因子の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、インドラクタムVを使用する場合は、好ましくは10~500nMであり、より好ましくは30~200nMであり、ホルボール-12,13-ジブチレートを使用する場合は、好ましくは100~1000nMであり、より好ましくは300~800nMである。培地中のビタミンC濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは20~70μg/mLである。培地中のY27632濃度は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。
【0153】
工程(4)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~3日であり、好ましくは、1~2日である。
【0154】
工程(5)では、工程(4)で得られた細胞を、KGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する。この工程では、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、工程(4)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度とする。
【0155】
本工程で用いられるヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したヘッジホッグシグナル伝達阻害剤があげられ、SANT-1が特に好ましい。
【0156】
本工程で用いられるレチノイン酸受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したレチノイン酸受容体アゴニストがあげられ、レチノイン酸が特に好ましい。
【0157】
工程(5)の培地としては、基礎培地にKGF、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストが添加されている培地を使用することができる。培地中のKGFの濃度は、好ましくは10~100ng/mLであり、より好ましくは30~80ng/mLである。培地中のヘッジホッグシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、SANT-1を使用する場合は、好ましくは0.1~0.5μMであり、より好ましくは0.2~0.3μMである。培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、工程(4)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低ければ特に限定されないが、例えば、レチノイン酸を使用する場合であれば、好ましくは10~500nMであり、より好ましくは50~300nMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(5)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0158】
工程(5)の培地は、BMPシグナル伝達阻害剤、ビタミンC、Y27632、及びアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0159】
本工程で用いられるBMPシグナル伝達阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したBMPシグナル伝達阻害剤があげられ、LDN193189が特に好ましい。
【0160】
本工程で用いられるアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤の例としては、多能性幹細胞の分化促進方法で例示したアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤があげられ、アクチビンAが特に好ましい。
【0161】
培地中のBMPシグナル伝達阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、LDN193189を使用する場合は、好ましくは10~500nMであり、より好ましくは50~300nMである。培地中のビタミンC濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは20~70μg/mLである。培地中のY27632濃度は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。培地中のアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、アクチビンAを使用する場合は、好ましくは10~500μg/mlであり、より好ましくは50~300μg/mlである。
【0162】
工程(5)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、3~7日であり、好ましくは、4~6日である。
【0163】
工程(6)では、工程(5)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する。
【0164】
本工程で用いられるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤があげられ、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤II(ALK5i)が特に好ましい。
【0165】
本工程で用いられるレチノイン酸受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したレチノイン酸受容体アゴニストがあげられ、レチノイン酸が特に好ましい。
【0166】
工程(6)の培地としては、基礎培地にTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストが添加されている培地を使用することができる。培地中のTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤IIを使用する場合は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、レチノイン酸を使用する場合は、好ましくは10~500nMであり、より好ましくは50~300nMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(6)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0167】
工程(6)の培地は、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、トリヨードサイロニン、及びビタミンCからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0168】
本工程で用いられるEGF受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したEGF受容体アゴニストがあげられ、EGF又はベータセルリンが特に好ましい。
【0169】
本工程で用いられるγ-セクレターゼ阻害剤の例としては、第二のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したγ-セクレターゼ阻害剤があげられ、DAPT又はγ-セクレターゼ阻害剤XXIが特に好ましい。
【0170】
培地中のEGF受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、EGFを使用する場合は、好ましくは10~50ng/mLであり、より好ましくは30~40ng/mLであり、ベータセルリンを使用する場合は、好ましくは5~100ng/mLであり、より好ましくは10~50ng/mLである。培地中のγ-セクレターゼ阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、DAPTを使用する場合は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMであり、γ-セクレターゼ阻害剤XXIを使用する場合は、好ましくは0.1~10μMであり、より好ましくは0.5~5μMである。培地中のトリヨードサイロニンの濃度は、好ましくは0.1~5μMであり、より好ましくは0.5~3μMである。培地中のビタミンCの濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは30~80μg/mLである。
【0171】
工程(6)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、2~6日であり、好ましくは、3~5日である。
【0172】
工程(7)では、工程(6)で得られた細胞を、TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストを含む培地で培養する。この工程では、培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、工程(6)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低い濃度とする。
【0173】
本工程で用いられるTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤があげられ、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤II(ALK5i)が特に好ましい。
【0174】
本工程で用いられるレチノイン酸受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したレチノイン酸受容体アゴニストがあげられ、レチノイン酸が特に好ましい。
【0175】
工程(7)の培地としては、基礎培地にTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤、及びレチノイン酸受容体アゴニストが添加されている培地を使用することができる。培地中のTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、TGF-βI型受容体様キナーゼ阻害剤IIを使用する場合は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMである。培地中のレチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、工程(6)におけるレチノイン酸受容体アゴニストの濃度よりも低ければ特に限定されないが、例えば、レチノイン酸を使用する場合であれば、好ましくは2~100nMであり、より好ましくは10~50nMである。基礎培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様のものを使用することができる。また、工程(7)の培地は、本発明の多能性幹細胞の分化促進方法で使用する培地と同様に血清代替物や他の添加物を含んでいてもよい。
【0176】
工程(7)の培地は、EGF受容体アゴニスト、γ-セクレターゼ阻害剤、トリヨードサイロニン、及びビタミンCからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0177】
本工程で用いられるEGF受容体アゴニストの例としては、第一のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したEGF受容体アゴニストがあげられ、EGF又はベータセルリンが特に好ましい。
【0178】
本工程で用いられるγ-セクレターゼ阻害剤の例としては、第二のインスリン産生細胞の分化誘導方法で例示したγ-セクレターゼ阻害剤があげられ、DAPT又はγ-セクレターゼ阻害剤XXIが特に好ましい。
【0179】
培地中のEGF受容体アゴニストの濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、EGFを使用する場合は、好ましくは10~50ng/mLであり、より好ましくは30~40ng/mLであり、ベータセルリンを使用する場合は、好ましくは5~100ng/mLであり、より好ましくは10~50ng/mLである。培地中のγ-セクレターゼ阻害剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、DAPTを使用する場合は、好ましくは1~50μMであり、より好ましくは5~30μMであり、γ-セクレターゼ阻害剤XXIを使用する場合は、好ましくは0.1~10μMであり、より好ましくは0.5~5μMである。培地中のトリヨードサイロニンの濃度は、好ましくは0.1~5μMであり、より好ましくは0.5~3μMである。培地中のビタミンCの濃度は、好ましくは10~100μg/mLであり、より好ましくは30~80μg/mLである。
【0180】
工程(7)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1~5日であり、好ましくは、2~4日である。
【実施例
【0181】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0182】
(A)結果
(1)メチオニン除去前処理は、ヒトiPS細胞のインスリン発現β細胞への後期分化を増強する。
【0183】
本発明者は、多能性幹細胞がメチオニン代謝を必要とする特別な代謝状態を示すことを以前に報告した。培地からのメチオニンの除去は、多能性幹細胞を分化への遷移状態にし、誘導シグナルによって分化の増強が観察された。
【0184】
次に本発明者はメチオニン前処理が膵臓β細胞への後期分化を増強できるかどうかを調べた。
【0185】
本発明者は、以前に報告されたインスリン発現β細胞を生成するための方法(Nakashima et al., 2015; Shahjalal et al., 2014)にいくつか修正を加えた方法を用いてToe hiPSCを分化させた。膵内分泌細胞への分化のために、本発明者は、分化していないhiPSCを解離させ、細胞がスフェアを形成するように多能性細胞維持培地で24時間培養した。
【0186】
スフェアの形成後、hiPSCを、メチオニンを除去(ΔMet、又はcontr)した同じ培地で5時間処理し、次いで分化培地に切り替えることによって分化を誘発させた(図1A)。分化開始とメチオニン除去処理のためのこのプロトコールは、本研究を通して使用される。3日目及び13日目における分化した細胞の形態は、2つの群間で類似していたが、25日後には、2つの群間で差異が明らかになった。即ち、大きなスフェアが対照群に見られたが、ΔMe処理群のスフェアは均一なサイズであった(図1B)。
【0187】
本発明者は、マイクロアレイ分析を行うことにより、異なる分化段階でメチオニン除去処理群と対照群との間の遺伝子発現を比較した(図1C、D)。初代ヒト膵島(islets)を対照として含めた。最も高い分散を有する遺伝子発現の主成分分析(PCA)から、ΔMet(赤色)と完全型(青色)の差は、胚体内胚葉(DE)又は原始腸(PG)期ではあまり大きくないが、13日目(D13)及び25日目(D25)の分化細胞においてはPC1に従って増大することが明らかとなった(図1C)。hiPSC由来の細胞における個々の遺伝子発現の分析は、ΔMetで前処理した分化11日目の膵臓前駆細胞(PP)、分化13日目の内分泌前駆細胞(EP)及び分化25日目の内分泌細胞(EC)スフェアにおいて、対照と比較して分化及び成熟マーカーが増加したことを明らかにする(図1D)。
【0188】
分化した細胞の免疫細胞化学分析から、OCT3 / 4発現細胞の割合がΔMet処理群の分化3日目のDE細胞において有意に減少することが明らかとなった(図1E)。SOX17陽性の増加は明らかではなかったが、これは対照の完全培地処理条件においてSOX17陽性率が高いことが原因である可能性がある。ΔMet処理細胞では、Cペプチド陽性細胞は、分化19日目の初期EC細胞(図1F)で有意に増加しており、その後も増加し、分化25日目のEC細胞ではCペプチド陽性細胞の割合は約50%に達した(図1G)。メチオニン除去プロトコールは、合成自己複製RNAを用いて確立された別のhiPS細胞株であるRPChiPS771(Yoshioka et al., 2013)にも適用することができた。対照の未処理細胞と比較して、メチオニン除去処理細胞は、分化3日目におけるOCT3 / 4陽性細胞の割合の減少(図1H)や分化25日目のINS + / PDX1 +細胞の割合の増加(図1I)を伴う分化の強化を示した。対照の未処理細胞と比較して、得られたiPS由来β細胞は、グルコース刺激性インスリン分泌(GSIS)の能力の改善を示した。その結果、低グルコースに対する高グルコースの比は、対照の完全培地処理細胞と比較して増加しており(図1J)、従って、このiPS由来β細胞は、実験に用いたヒト初代膵島の細胞と同様に高グルコースに応答する。
【0189】
(2)メチオニン除去前処理は分化を増強する。
次に、メチオニン除去が分化を増強する分子メカニズムを明らかにする。ヒトRPChiPS771細胞を、アミノ酸を単独で除去する処理に供し、次いで2つの異なるプロトコールの下でDEに分化させた(図2A、B)。 その後の分化がCHIR99021なしで行われたプロトコールAでは、特にΔMet前処理の下でSOX17 +細胞が高い割合で得られた。CHIR99021を添加したプロトコールBでは、全体としてSOX17 +細胞の割合が高く、ΔMet処理下ではさらに高い割合のSOX17 +が観察された。CHIR99021の有無にかかわらず、スレオニン除去もまたSOX17 +細胞の有意な増加を明らかにしたが、その増加の程度はメチオニン除去よりも小さかった(図2A、B)。
【0190】
分化の増強の分子メカニズムを調べるために、本発明者は、短時間(5時間)メチオニン又は他のアミノ酸除去処理をした後のヒトiPSCの遺伝子発現プロファイルを分析した。この実験では、RPChiPS771及び201B7 hiPSCを使用した。遺伝子発現をリアルタイムPCR及びPCAによって分析した(図2C)。この分析では、多能性及び分化に関連する88の既知の遺伝子と8のハウスキーピング遺伝子とからなるプライマーセットを用いた。PCAから、多能性幹細胞のメチオニン除去(図2D、赤色の円)は、完全培地(図2D、青色の円)又は他のアミノ酸欠失(図2D、灰色の円)のものとは異なる発現プロフィールを示すことが明らかとなった。アップレギュレート又はダウンレギュレートされた遺伝子は、図2Eのヒートマップとして示されている。RPChiPS771及び201B7 hiPSCの両方でダウンレギュレート又はアップレギュレートされた遺伝子のうち、本発明者は多能性マーカーであるNANOG(Mitsui et al., 2003)がメチオニン除去時にダウンレギュレートされていることに気づいた。これに対し、内胚葉分化に関与することが最近報告された内胚葉性遺伝子であるGATA6(Shi et al., 2017)、中胚葉マーカー遺伝子であるCOL1A1、及び外胚葉マーカー遺伝子であるPAX6は、両方のhiPSCにおいてメチオニン除去下でアップレギュレートされる。この結果は、未分化hiPSCが、分化へ向かうように、遺伝子発現の変化を示すことを示唆している。現在の結果は、メチオニン除去で前処理された細胞が3つの胚葉への増強された分化を示したことを説明する。
【0191】
(3)SLC30A1発現はメチオニン除去下でアップレギュレートされる。
多能性幹細胞の短期間(5時間)のメチオニン除去時にアップレギュレートされる遺伝子を探索するために、ヒトkhES3 ESC及び201B7 hiPSCを完全又はメチオニン除去CSTI7又はStemFit無血清培地で5時間培養し、RNAを抽出し、3つの異なるアレイセットを用いて遺伝子アレイプロファイリング分析を行った(図3A)。3つの実験の全てにおいてアップレギュレートされることが観察された9の遺伝子を図3Bに列挙する。メチオニン除去処理細胞でアップレギュレートされた遺伝子の1つは、細胞膜に局在するZn排出輸送体であるZnT1タンパク質をコードするSLC30A1遺伝子であった(Andrews et al., 2004)。SLC30A1は、細胞からの亜鉛排出又は細胞内小胞中への亜鉛排出を促進し、細胞内Znを減少させる溶質結合担体(SLC)遺伝子ファミリーのメンバーである。次に、本発明者は、Znの摂取を促進して細胞内Znを増加させるZIPタンパク質をコードする溶質結合担体遺伝子ファミリーのメンバーであるSLC30A2-10、SLC39A1-14遺伝子のアレイ解析データを再検討した。その結果、SLC30A又はSLC39Aのいくつかのメンバーが、本発明者のアレイ分析において未分化及び分化hiPSCで発現することが明らかにされた(図3C)。次に、hiPSCで発現するSLC30A及びSLC39A遺伝子ファミリーメンバーの発現に焦点を当て、それらの発現レベルがメチオニン又は他のアミノ酸の短期間(5時間)除去によって特異的に影響を受けるかどうかを、RPChiPS771細胞を用いて調べた。その結果、SLC30A1は、メチオニン除去下で特異的にアップレギュレートされたが(>6倍)、他のアミノ酸の除去ではアップレギュレートされなかった。SLC39A1もメチオニン除去により少しアップレギュレートされた(>1.5倍)(図3D)。
【0192】
(4)メチオニン欠乏下での減少したタンパク質結合Znは、多能性hiPSCのメチオニン除去処理によって誘発される分化への遷移状態を説明する可能性がある。
SLC30A1は、細胞膜で発現するZnT1をコードし、Znを排出して細胞内Zn含量を低下させる機能を有する。本発明者は、5時間のメチオニン除去又は他のアミノ酸除去で処理された多能性幹細胞において、重金属であるZn、Cu及びFeの含量(易動性又はタンパク質結合形態)をさらに測定した(図4A)。その結果、細胞内タンパク質結合Znの減少は、メチオニン除去時に特異的に観察されたが、他のアミノ酸の単独除去では観察されなかった(図4A)。
【0193】
次に、本発明者は、メチオニン除去による細胞内Zn濃度の低下が、多能性幹細胞の分化を引き起こす効果を説明するという仮説を立てた。この可能性を調べるために、本発明者は、Zn除去培地中で多能性hiPSCを培養することによって、細胞内Zn濃度を低下させようと試みた。キレート試薬であるChelex 100で処理することにより、維持培地であるStemFit AK培地からZnを除いた。Chelex 100はZnのみならず、銅、鉄、マグネシウム、カルシウムなどの他の重金属も培地からキレートするので、他の重金属イオンを添加して Zn除去培地を作製した(ΔZn、図4B)。次に、多能性iPS細胞をChelex(ΔZn)処理培地で24時間、48時間及び72時間培養し、細胞増殖及び細胞内Zn濃度をアッセイした。
【0194】
対照の完全培地下では、細胞数は時間と共に増加した。しかし、ΔZn条件下で培養した場合、細胞数は減少し、72時間で最小の増加を示した。これは対照の完全培地条件よりも有意に低い(図4C、D)。細胞内タンパク質結合Zn含量は、ΔZn条件下で48時間及びさらに72時間で有意に減少した(図4E)。結果は、ΔZn条件下での培養が細胞内Zn含量の漸減を引き起こし、細胞増殖の停止を引き起こしたことを示唆している。次に、上記と同じプライマーアレイセットを用いて、リアルタイムPCRで遺伝子発現を分析した。ΔZn条件下で培養された多能性幹細胞は、LIN28、DNMT3A、TERT(テロメラーゼ逆転写酵素をコードする)及びZFP42(REX2としても知られているジンクフィンガープロテイン)の発現の減少を示した(図4F)。これらの遺伝子は、iPSCの多能性状態を維持するために重要なマーカーである。分化細胞のマーカーとなるEOMES(Eomesodermin又はT-box brain protein 2をコードする)、SOX17、CDH5、GATA4及びISL1の発現の増大も観察された(図4G)。
【0195】
ΔZnとΔMetで処理されたiPSC間で影響を受けた遺伝子を比較するために、図4F、Gで使用したのと同じプライマーアレイを用いて、ΔMet条件下で培養した多能性幹細胞における遺伝子の発現も調べた。完全培地下で培養されたものと比較して、iPSCにおける上記の遺伝子の発現も同様の傾向を示すことが明らかとなった。すなわち、DNMT3B、TERT及びZFP42などの未分化能状態のマーカーとなる遺伝子がダウンレギュレートされ、EOMES、SOX17、GATA4、及びISL1などの分化細胞のマーカーとなる遺伝子がアップギュレートされていた。従って、この結果は、細胞内Znの減少はメチオニン除去を模倣し、分化の効力を増加させたことを示唆する。以上をまとめると、本発明者の結果は、細胞内Znの減少がメチオニン除去の下流の標的である可能性を強く示唆している(図4H)。
【0196】
(5)未分化iPS細胞の維持におけるZnの役割
本発明者の上記の結果は、SLC30A1(ZnT1)を介した細胞内Znの減少が、ΔMet処理による分化の増強の基礎となる機構の1つである可能性を示唆している。ΔMet処理は多能性幹細胞の維持に影響を与えたので(Shiraki et al., 2014)、培地中のZn濃度の減少が未分化多能性幹細胞の増殖又は多分化能に影響するかどうかを検討した。
【0197】
インスリン溶液は安定剤としてZnを含み、未分化iPSCの自己複製を維持するために培地中のサプリメントとしてよく使用される。培地中のサプリメントとしてインスリンを使用した場合、StemFit AK03NにおけるZnの最終濃度は3μMとなった。培地中のZn含量を操作するために、本発明者は、StemFit AK03 [Undiff-AKM(INS / Zn0)]からZnを除去し、インスリンをIGF1で置換した[Undiff-AKM(IGF1 / Zn0)]。多能性hiPSCの維持培養のため、Zn濃度を3μMに調整した(図5A)。
【0198】
IGF1がhiPSCの多分化能を維持できることを確認するために、インスリン又はインスリンの代わりのIGFを補充した培地でhiPSCを培養し、プライマーアレイ分析を行い、プライマーアレイを用いてその発現を比較した。undiff-AKM (INS) (Zn3)(=StemFit AK03N)又はundiff-AKM (IGF1)(Zn3)で培養された未分化iPSCは、類似の発現プロファイルを示した(図5B)。また、これらの発現プロファイルは、1日目又は3日目のDE細胞に分化した細胞が示す発現プロファイルとは対照的なものであった(図5B)。従って、この結果は、IGF1の存在下で培養されたhiPSCが、インスリンを含有する従来の培地で培養されたものと異ならないことを示している。
【0199】
このundiff-AKM(IGF)培地を用いて、iPSCの増殖に対するZn濃度の影響を調べた。未分化のFf-I01s01細胞を、6種類の異なる濃度のZnを含む維持培地undiff-AKM(IGF1)中で3日間培養し、次いでそれらの生存率を調べた。0μMのZn下で培養されたiPSCは、細胞数の急激な減少を示した(図11A、B)。0μMのZn下で培養された細胞は、細胞死を示し、それは2日目から明らかになった。0.5μMのZn下で培養された細胞においてもいくつかの死細胞が観察されたが、0.5、1、3、10μMのZnの条件下では細胞増殖が確認された(図11A)。IGF1の影響を調べるために、本発明者は、未分化iPSCのリアルタイムPCR分析によって、IGF1の使用を、Zn結合部位を含まない速効型インスリンアナログであるインスリングルリシン(INS *)とさらに比較した。3日目に、多能性維持又は分化に関連する遺伝子の発現についてiPSCを分析した。AKM(IGF1)における0、0.5、及び1μMのZnを含む培地で培養された未分化iPSCは、3μMのZnを含むAKM(IGF1)で培養されたものと比較して、NANOG、OCT3 / 4などの多能性に関連する遺伝子のダウンレギュレーションを示した。同様に、DNMT3、FGF7、CCL2、CRABP2、HCK(造血細胞キナーゼ)及びGRB7(成長因子受容体結合タンパク質7)などの細胞増殖に関連する遺伝子は、3μMのZnを含むAKM(IGF1)と比較して、0μMのZn下で培養したものにおいて、発現が低下していた(図11C)。この結果は、AKM(INS *)よりもAKM(IGF1)条件下において一貫性があった。
【0200】
分化マーカーに対する影響については、試験されたほとんどの分化マーカーは、コントロールである3μMのZnを含むAKM(IGF1)と比較して、0μMのZnを含むAKM(IGF1)又はAKM(INS *)中で培養された細胞においてアップレギュレートされていた(図11D)。このような分化マーカーは、例えば、GATA4(内胚葉マーカー)、PECAM(血小板内皮細胞接着分子;中胚葉マーカー)、EOMES、MNX1、PAX6(対ボックスタンパク質;外胚葉 マーカー)である。対照的に、分化マーカーLEFTY1の発現は、3μMのZn濃度のAKM(INS *)条件で特異的に増加した(図11E)。
【0201】
以上の結果は、0μMのZn濃度のAKM(IGF1)条件で培養されたiPS細胞が、細胞増殖の減少及び分化の増強を示したことを示唆している(図11)。インスリンシグナル伝達は、0μMのZn条件下であっても、多能性又は細胞増殖マーカーのいくつかの発現を増加させる強い効果を発揮するようである。
【0202】
(6)分化培地からのZnの除去は、DE細胞への分化を増強した。
分化のために、適切なZn濃度を決定しようとするために、Zn除去AKM培地(AKM Zn 0)及びZn濃度が0.5又は3μMに調整されたAKM培地を使用した。この研究で用いた培地中のZn濃度を図5Aに示す。
【0203】
次に、HLAホモ接合体ドナー(Sugita et al., 2016)由来の8のhiPSC系統をDE細胞に分化させた。分化には、分化培地M1として、異種非含有StemFit AKM培地を用いた。この培地には、インスリンが補充されている(M1-AKM(INS))(図5C)。 しかし、免疫細胞化学的分析により、かなり大きな割合の細胞がOCT3 / 4発現を保持していることが明らかとなった(図5D)。本発明者は、これを3μMのZn濃度が分化に適していない可能性があると解釈した。そこで、本発明者は、Ff-I01s01、Ff-I01s04、Ff-I14s03、Ff-I14s04、Ff-MH09s01、Ff-MH15s01、Ff-MH15s02、及びFf-MH23s01 iPSCを用い、M1中のZnを減らそうとした。これらのhiPSC系統に関して、インスリンに代わるIGF1の存在下での分化及び基礎培地M1-AKMからのZnの除去(IGF1 / Zn 0)は、OCT4 +細胞を効果的に減少させた(図5E)。
【0204】
(7)Znとメチオニンの除去は膵臓の運命への分化を増強した。
本発明者はさらに、メチオニン除去前処理と組み合わせて、膵臓の運命への分化におけるZn濃度依存性を試験した。図6Aは、膵臓分化に使用される本発明の異種非含有培養方法を示す。
【0205】
本発明者はFf-I01s01 iPSCを使用し、分化の前にメチオニン除去下で5時間培養した。3日目のDE細胞への分化のために、M1-AKM(IGF1)培地中のZn濃度を0、0.5、又は3μMで試験した。完全培地下では、OCT3 / 4 + DE細胞がZn 0.5μMで現れ、Zn 3μMで増加し、SOX17 +細胞が逆に減少した。分化前にΔMet処理を行ったところ、OCT3 / 4 +細胞はZn 0、0.5、又は3μMのいずれにおいても除去され、逆にSOX17 +細胞の増加が観察された(図6B、上のパネル)。DE細胞を13日目のEP細胞にさらに分化させると、ΔMet処理なしでは、M1分化培地が0.5μMのZnを含有する場合(IGF1 / Zn 0.5)にPDX1陽性細胞が最も高いことが明らかとなった。対照的に、M1がIGF1 / Zn0又はIGF1 / Zn3を含む場合、PDX1の割合の減少が観察された。しかし、分化前にΔMet処理を行った場合、PDX1陽性細胞への分化はZn 3μMでも増加した。従って、この結果は、M1-AKMのZn濃度は膵臓分化に重要であり、ΔMetは分化を促進することを示唆する。
【0206】
別のHLAホモ接合体由来iPSC系統であるFf-I14s04についても試験した(図13)。Ff-I14s04細胞は、0、0.5又は3μMのZn濃度のM1-AKM(IGF1)又はM1-AKM(INS *)中で分化した。この実験では、インスリングルリジン、すなわちZnを含まない速効型インスリンアナログを使用した。3日目に、SOX17又はOCT3 / 4-陽性についてDE細胞をアッセイした。その結果、M1でZnが存在しない場合(AKM(IGF1 / Zn0))、OCT3 / 4陽性細胞の有意な減少及びSOX17陽性細胞の増加が観察された。Znを3μMに増加させると、OCT3 / 4陽性細胞が増加した。IGF1がINS *で置換された場合、OCT3 / 4はZn濃度が0μMでも増加し、Zn濃度が3μMではより高いレベルになり、SOX17陽性の減少を伴った(図13B)。その後のPDX1+細胞への膵臓分化は、M1-AKMが3μMのZn濃度で行われた場合に低下し、0μM又は3μMのZn濃度でINS *が使用された場合に、さらに低下した。この結果は、OCT3 / 4の発現を維持し、内胚葉の分化を阻害するというインスリンシグナルやZnの予想外の役割を明らかにした。INS及びZnの組み合わせ作用は、OCT3 / 4発現を維持し、内胚葉とそれに続く膵臓分化を阻害する強いシグナルであり、これは上記の図11の結果と一致する。
【0207】
内胚葉分化のためのZn濃度を最適化するために、HLAホモ接合体由来iPS細胞株Ff-I01s01細胞を、3日間、日ごとに段階的用量のZn(0、0.5、1、3μM)を加えた培地で分化させた(図12A)。培地は、M1-AKM(IGF1)、M1-AKM(IGF2)、M1-AKM(INS *)、及び対照M1-AKM(INS)[Basic03(INS_3)]を使用した。
【0208】
M1-AKM(IGF1)又はM1-AKM(IGF2)を対照M1-AKM(INS)[Basic03(INS_3)]と比較した場合、多能性に関連する遺伝子(例えば、POU5F1、SOX2、NANOG、又はGBX2)や細胞増殖に関連する遺伝子の発現は、ダウンレギュレートされた(図12B-E)。Zn除去条件下で3日間培養した細胞(M1-AKM[IGF1(0_0_0)])と比較して、M1-AKM[IGF1(3_3_3)]又はM1-AKM[IGF1(05_1_3)]は、多能性マーカー又は細胞増殖マーカーの発現において、わずかであるが有意な増加を示した(図12b-e)。従って、この結果は、インスリンが多能性の維持及び未分化hiPS細胞の増殖の持続に強い活性を示すことを表している。更に、1μMを超えるZn濃度は、hiPS細胞の増殖を有意に増加させた。
【0209】
対照的に、CD34(中胚葉)、PAX6(神経外胚葉)及びGATA6(胚体内胚葉)などの分化マーカーの発現は、M1-AKM[IGF1(3_3_3)]を使用した場合、対照M1-AKM(INS)[Basic03(INS_3)]と比較して、アップレギュレートされた。INS *を使用した場合、Zn濃度を低下させること自体は、これらの分化マーカーをアップレギュレートしなかった。M1-AKM[IGF1(0_0_0)]と比較して、M1-AKM(IGF1、IGF2)においてZn濃度の増加と共にCD34又はPAX6発現のダウンレギュレーションが観察された。
【0210】
以上をまとめると、インスリンは強い多能性維持活性を示し、Zn濃度も多能性を維持するように作用することがわかった。インスリンの使用及びZn濃度の増加により、多能性の維持及びiPS細胞の増殖は持続する。
【0211】
次に、iPSC由来の膵臓細胞の大規模培養のためにスピナーフラスコを用い、M1-AKM(IGF1 / Zn 0.5)条件下での培養と組み合わせたΔMet処理の効果を試験した。図6Aに示された方法に従い、分化11日目の膵臓PPと分化22日目のEC細胞を得た。PDX1陽性の免疫細胞化学的分析は、この培養条件下で、11日目の分化細胞が完全又はΔMet条件でそれぞれ又は83%又は87%PDX1陽性になることを明らかにした(図6D)。しかし、分化22日目のEC細胞では、ΔMet処理細胞においては約21%のINS +NKX6.1+の二重陽性細胞が観察されたものの、対照の完全条件下で増殖された細胞においては3%のINS +細胞しか得られなかった(図6E)。この結果は、INS +NKX6.1+の二重陽性細胞への分化にZnが早期に必要であることを示唆している。ΔMet及び0.5μM Znは、PDX1陽性EC細胞への分化を増強するように作用する。
【0212】
以上をまとめると、本発明者の結果は、ΔMet処理が分化を増強し、その下流標的の1つがZn輸送体であるZnT1のアップレギュレーションであり、これが細胞内Zn含量を減少させることを示している。初期の分化におけるZn含量の減少は、DE細胞への分化を促進し、ΔMetを模倣した。 しかし、Znの減少は、膵臓の運命への効率的な分化には不十分であり、ΔMet処理との併用が膵臓の分化を促進する。
【0213】
(8)Zn及びメチオニンの除去はベータ細胞への分化を増強した。
次に、本発明者は、ΔMetΔZnの新規条件を、以前記述されたプロトコール(Pagliuca et al., 2014)に適応させようと試みた。実験スキームを図7A及び7Bに示す(「材料と方法」も参照のこと)。本発明者は、膵内分泌β細胞への分化のための2つの条件を行った(図7B)。それらの条件では、M1、S2のステップが変更されている。指示された段階における分化した細胞の形態は、図7Cに示されている。免疫細胞化学的分析により、2つの条件すべてが3日目のDEにおいて同様に高いSOX17陽性を示したことが明らかとなった(図7D)。EP(内分泌前駆細胞)(14日目)段階で、NKX6.1陽性細胞が現れ、PDX1 + / NKX6.1 +二重陽性細胞は、条件a、bにおいて増加した。次に、EC(内分泌細胞)段階で、インスリン細胞が増加した。インスリン細胞では、PDX1 + / NKX6.1 + / INS +三重陽性細胞が、条件a、bにおいて高かった(図8A)。
【0214】
次いで、分化細胞の機能性を試験するためにグルコース刺激性インスリン分泌アッセイを行った。結果は、条件a及びbともにGSIS活性を示したことを明らかにした。注目すべきは、条件aは、26日目にインスリン分泌の迅速な応答である第1相を有する明確な二相性GSIS活性を示したことである。33日目の免疫細胞化学的分析によって、インスリン染色は条件a、bにおいて細胞はインスリン、NKX6.1及びMAFAについて陽性であることが明らかとなった。
【0215】
本発明者の結果は、メチオニン除去及び低Zn処理が、GSIS活性を持ち得る膵内分泌ベータ様細胞の生成に適用可能であることを明らかにした。2つの条件に関する研究は、低RA及びビタミンが分化細胞の生存に必要と思われることを確認し、したがって、機能的β様細胞への分化のための条件を最適化する助けとなる。
【0216】
更に、本発明者は、ΔMetΔZnの新しい条件を以前に記載されたプロトコール(Pagliuca et al., 2014; Velazco-Cruz et al., 2018)に適合させることを試みた。実験スキームを図9A及び9Bに示す(「材料と方法」も参照)。本発明者は、膵臓内分泌性β細胞に分化するための2つの条件を実施した(図9A)。ここでは、S3、S4、S5-1、及びS5-2の工程が改変されている。条件#1及び#2から得られた細胞を、それぞれ図9Bに示す8種類及び6種類の条件で培養した。免疫細胞化学的分析から、2つの条件が、同様に、3日目のDEで高いSOX17陽性(図9C)を、そして、7日目の膵臓前駆体(PP)段階で高いPDX1+又はSOX9+膵臓前駆細胞(図9D)を与えることが明らかとなった。内分泌前駆体(EP)段階の12日目に、NKX6.1+細胞が出現し、PDX1+又はNKX6.1+陽性細胞が両方の条件で増加した(図9E)。その後、内分泌細胞(EC)期の19日目にインスリン細胞が増加した。インスリン細胞におけるNKX6.1+/INS+二重陽性細胞の比率は、どちらの条件でも約20%に達した(図10A)。
【0217】
次いで、得られた細胞をS6において8又は6の異なる条件で培養した。S6の終わりに、条件#1(図10B)又は条件#2(図10C)の下、これらの異なるS6条件下で培養された分化細胞の機能性を試験するためにグルコース刺激性インスリン分泌アッセイを行った。結果は、条件#1及び#2の両方において、特に条件a-2、c、d、及びA-3の下で培養された細胞が、高いGSIS活性を示す細胞を生じることを明らかにした。これらの条件下で、iPS由来β細胞は、10分以内の曝露で高グルコースに迅速に応答し、C-ペプチドを分泌した。これは、60分以上持続した。注目すべきは、インスリン分泌の迅速応答性第1相を伴う明らかな二相性GSIS活性が、条件#1及びcの下で培養された細胞において観察されたことである。
【0218】
30日目の免疫細胞化学分析は、細胞がインスリン、NKX6.1、及びMAFAについて陽性であることを明らかにした。#1及び#2の条件a-2、c、d、及びA-3は、Cpep+細胞の約半分がNKX6.1又はMAFAを共発現するCpep+細胞を生じた(図10D、E、F、G)。以上の結果は、本発明者のメチオニン除去及び低Znの方法が、GSIS活性が可能である膵臓内分泌性β細胞様細胞の生成に適用可能であることを明らかにした。
【0219】
(B)材料と方法
(1)ヒトiPS細胞株
ToeヒトiPS細胞(hiPSC)系統は、Toyoda M.、Kiyokawa N.、Okita H.、Miyagawa Y.、Akutsu H.及びUmezawa A.(National Center for Child Health and Development, Tokyo)によって樹立された。RPChiPS771細胞は、株式会社リプロセル(Tokyo)(Yoshioka et al., CSC 201)から入手した。 201B7、HLAホモ接合体ドナー由来iPSCであるFf-I01s01、Ff-I14s03、Ff-I01s04、Ff-I14s04、Ff-MH09s01、Ff-MH15s01、Ff-MH15s02及びFf-MH23s01は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から入手した。
【0220】
(2)未分化hiPSCの維持培養
未分化のToe及びRPChiPS771細胞をStemFit AK02N培地(Ajinomoto, Tokyo)で維持し、HLAホモ接合体ドナー由来iPSCをStemFit AK03Nで維持した。StemFit培地にペニシリン及びストレプトマイシンを補充した。ヒトiPSCを凍結融解し、10μMのY27632(Wako Cat No.251-00514)を補充した維持培地中でSynthemax II(Corning Cat No.3535)で一晩プレコートした100mm CellBINDディッシュ(Corning)上で培養した。
【0221】
(3)培地
StemFit KA01培地は、StemFit AK培地のメチオニン除去培地である。
StemFit(登録商標)Basic03は、component CなしのStemFit AK03Nである。
他にZn濃度が示されていない場合、AKM培地は、StemFit Basic03のZn除去、インスリン除去培地である。
AKM(INS)培地は、AKM培地に100ng / mLのインスリンを加えた培地である。
AKM(IGF)培地は、AKM培地に100ng / mLのIGF1(インスリンを置換する)を加えた培地である。
AKM(INS *)培地は、AKM培地に100ng / mLインスリングルリシン(Apidra(登録商標))を加えた培地である。
Undiff-AKM培地は、AKM培地にcomponent Cを加えた培地である。
【0222】
(4)三次元スフェア形成、メチオニン除去前処理
SynthemaxIIで予めコートした二次元プレート上で培養した未分化hiPSCを解離させた。この細胞を5×10 6細胞/ウェル(Greiner Bio One#657185)の密度で6ウェル懸濁培養プレートに再プレーティングし、37℃で24時間培養し、回転軌道シェーカー(95rpm)上でスフェアを形成させた。次に、メチオニン除去StemFit KA01培地又は対照の完全培地(StemFit KA01 +100μMメチオニン)(Ajinomoto, Tokyo)で細胞を5時間培養し、分化開始前にメチオニン除去前処理を行った。
【0223】
(5)様々なZn濃度の培地で培養された未分化iPS細胞による細胞生存率アッセイ及びRT-PCR分析
未分化のFf-I01s01細胞を解凍し、AK03N中で培養した。80~90%の細胞密集度に達した後、AK03N中の96ウェルプレートに、2000細胞/ウェルで細胞をプレーティングした。翌日、6種類の濃度のZnとcomponent Cを加えたAKM(IGF1)に培地を切り替え、さらに3日間培養し、次いで、PrestoBlue(商標)細胞生存率試薬(Invitrogen)を用いて細胞生存率を測定した。リアルタイムPCR分析のために、未分化Ff-I01s01細胞を、維持培地AK03N中の6ウェルプレートに1×105細胞/ウェルで播種した。翌日、培地を、5種類の濃度のZnを加えたAKM(IGF1)又は3種類の濃度のZnとcomponent Cを加えたAKM(INS *; Apidra(Zn結合部位を持たないインスリン類似体))に変え、3日間培養した。3日目に細胞を回収し、mRNAを抽出し、PrimerArray(登録商標)Embryonic Stem Cells(Takara Bio Inc.)を用いてリアルタイムPCR分析に供した。
【0224】
(6)iPS細胞の膵臓系統細胞への分化
最初に、本発明者は分化のために以下のプロトコールを使用した(図1)。分化の開始は、5時間の完全又はメチオニン除去前処理の後に行った。Toe及びRPChiPS771 hiPSCの分化のために、分化に使用した培地は以下の通りである。
【0225】
5段階のβ細胞分化プロトコールに使用された培地は、基本的にShahjalal らとNakashimaらによって報告されたプロトコールに多少修正を加えたものに従った。
【0226】
Medium 1(M1):分化の開始は培地をMedium 1で置き換えることによって行った。Medium 1は、4,500mg / Lのグルコースを含み、3μMのCHIR99021(Stemgent)、100ng / mLの組換えヒトアクチビン-A(Cell Guidance Systems)、及び2%のB27インスリン(+)サプリメント(Life Technologies)を補充したDMEMからなる。1日目及び2日目に、培地をCHIR99021を含まないMedium 1と交換した。
【0227】
Medium 2(M2):3日目及び4日目に培地をMedium 2に置き換えた。Medium 2は、0.25 μMのSANT-1 (Sigma)、50 ng/mLの組換えヒトFGF10 (Pepro Tech, Inc.)、及び2%のB27 インスリン(-)サプリメント(Life Technologies)を補充したRPMI(Life Technologies)を含む。
【0228】
Medium 3(M3):5日目から培地をMedium 3に置き換えた。Medium 3は、4,500mg / Lのグルコースを含み、0.25 μMのSANT-1、0.1 μMのLDN193189 (Sigma)、2 μM のレチノイン酸(Stemgent)、及び1%のB27インスリン(+)サプリメントを補充したDMEMを含む。
【0229】
Medium 4(M4):11日目から、培地をMedium 4に変えた。Medium 4は、4,500mg / Lのグルコースを含み、0.1μMのLDN193189、5μMのTGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤II(Wako)、0.3 μMの(-)-インドラクタムV(Sigma)、1%のB27インスリン(+)サプリメントを補充したDMEMからなる。
【0230】
Medium 5(M5):13日目から25日目まで、細胞をMedium 5中で培養した。Medium 5は、50 ng/mLのエキセンディン-4(Cell Sciences, Inc.)、10mMのニコチンアミド(Sigma)、1mMのN-アセチル-L-システイン(NAC)(Nacalai Tesque)、10μMのZnSO4(Sigma)、及び1%の B27インスリン(+)サプリメントを補充したKnockout DMEM/F-12 (Life Technologies)を含む。5日目から、2日ごとに培地を新鮮培地及び増殖因子に交換した。
【0231】
ペニシリン-ストレプトマイシン(PS; Nacalai Tesque)、MEM非必須アミノ酸(NEAA; Life Technology)、及び2-メルカプトエタノール(2-ME; Sigma)をすべての培地(Medium 1-4)に補充した。
【0232】
HLAホモ接合体ドナーからのhiPSCの分化のために、分化に使用した培地は以下の通りである(バージョン0、図6)。
【0233】
Medium 1 (M1-AKM):分化の開始は培地をMedium 1で置き換えることによって行った。Medium 1は、0.5又は3 μMのZnSO4、3μMのCHIR99021 (Stemgent)、100 ng/mLの組換えヒトアクチビン-A(Cell Guidance Systems)、100 ng/mL の組換えヒトIGF1 (Cell Guidance Systems)を補充したStemFit AKM (Zn 0.5) (Ajinomoto Inc)である。AKM培地とは、Supplement Cを加えないStemFit AK03N 培地である。StemFit AKM (Zn0)は、さらにStemFit AKM培地よりZnを除去したものである。
【0234】
Medium 2(M2-AKM):3日目及び4日目に培地をMedium 2に置き換えた。Medium 2は、0.5μMのZnSO4、0.25μMのSANT-1 (Sigma)、50 ng/mLの組換えヒトFGF10 (Pepro Tech, Inc.)を補充したStemFit AKM (Zn 0)を含む。
【0235】
Medium 3 (M3-AKM):5日目から11日目まで培地をMedium 3に置き換えた。Medium 3は、25 μM のSANT-1、0.1 μMのLDN193189 (Sigma)、2 μMのレチノイン酸(Stemgent)、44 μg/mLのビタミンC (Sigma Cat No. A4544)、及び10 μMのY27632を補充したStemFit(登録商標)Basic03を含む。
【0236】
Medium 4 (M4-AKM): 11日目から12日目まで培地をMedium 4に置き換えた。Medium 4は、0.1μMのLDN193189、5μMのTGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤II(Wako)、0.3μMの(-)-インドラクタムV (Sigma)、100 ng/mLの組換えヒトEGF (Oriental Yeast Co., ltd.)、10 mMのニコチンアミド (Sigma)、44μg/mLのビタミンC、及び1μMのT3 (Sigma Cat No. T6397)を補充したStemFit(登録商標)Basic03(Ajinomoto)を含む。
【0237】
Medium 5(M5-AKM): 13日目から22日目まで、細胞をMedium 5中で培養した。Medium 5は、50 ng/mLのエキセンディン-4(Cell Sciences, Inc.)、10mMのニコチンアミド、1mMのN-アセチル-L-システイン(NAC)(Nacalai Tesque)、10μMのZnSO4(Sigma)、44μg/mLのビタミンC、10μMのTGF-βI型受容体キナーゼ阻害剤II、及び1μMのT3を補充したStemFit(登録商標)Basic03を含む。
【0238】
(7)単一アミノ酸の除去
単独で各アミノ酸が除去されたカスタムメイドのStemFit AK01培地を使用した(Ajinomoto, Inc., Tokyo)。
【0239】
(8)Chelex 100を用いた培地からのZn除去
Chelex 100樹脂を製造元の説明書(BioRad Laboratories)に従って予め洗浄した。ヒトiPSC維持培地40mLに予め洗浄したChelex 100樹脂1.2gを添加し、回転させながら2時間45分インキュベートし、ろ過(0.22μm)した。味の素社が金属を定量した。対照の完全培地はすべての重金属、即ち、ZnSO4 7H2O (SIGMA)、Fe(NO3)3 9H2O (Wako, Tokyo)、CaCl2 (Nacalai Tesque, Kyoto)、及びMgSO4 (SIGMA)を添加して作製した。Zn除去培地は、重金属のうちZnSO4 7H2Oだけを除いて添加することにより作製した。
【0240】
201B7未分化hiPSCを解離させ、SynthemaxIIでコートした6ウェルプレート(Corning)上に1×10 5細胞/ウェルで播種し、37℃で24時間培養した。次に、細胞をPBS(-)で洗浄し、培地を上記のZn除去又は対照の完全培地と交換し、24時間、48時間又は72時間培養した後、細胞を解離させ、計数し、回収した。
【0241】
(9)膵臓分化のための改訂プロトコール(バージョン1、図7、8)
本発明者は、膵臓分化のためのM et、Zn除去培地であるAKM(IGF1 / Zn0.5)又はAK03Basic03を用いて、以前に公開されたプロトコール(Pagliuca et al., 2014)を試験した。使用した培地は以下の通りであった。
【0242】
維持培地をM1-AKMに置き換えることによって分化を開始させた。3日目に、培地をM2-AKMと交換した。5日目に、培地をS2-2培地と交換し、2日間培養した(又はS2培地での培養を省略した。)。次いで、7日目にS3培地に切り替え、2日間培養した。その後、9日目に、S4培地に切り替えた。14日目にS5-1培地に切り替え、17日目にS5-2培地に切り替えた。21日目にS6培地に切り替えた。培地の成分は以下の通りである。
S2-2培地:StemFit(登録商標)Basic03(FitB)に、50ng / mlのKGF(Wako)及び44μg/ mlのビタミンCを加えた。
S3培地:StemFit(登録商標)Basic03 に、50ng / mlのKGF、0.25μMのSANT、50nMのインドラクタム V、2μMのレチノイン酸(RA)、及び44μM/ mlのビタミンCを加えた。
S4培地:StemFit(登録商標)Basic03に、50ng / mlのKGF、0.25μMのSANT、100nMのRA、44μg/ mlのビタミンC、及び100nMのLDN193189を加えた。
S5-1培地:StemFit(登録商標)Basic03に、10μMのAlk5i II、33.3ng/mlのEGF、10μMのDAPT (WAKO, 049-33583)、1μM のL-3,30,5-トリヨードサイロニン(T3)、100 nMのRA、及び44μg/mlのビタミンCを加えた。
S5-2培地:StemFit(登録商標)Basic03に、10μMのAlk5i II、33.3ng / mlのEGF、10μMのDAPT(N-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル-L-アラニル)]-S-フェニルグリシンtert-ブチルエステル)、1μMのT3、及び25nMのRAを加えた。
S6培地:StemFit(登録商標)Basic03に10μMのAlk5i II、及び1μMのT3を加えた。
本発明者は、図7Bに示すように2つの条件を行った。M1については、条件aでは、M1-AKM(IGF1)を用い、条件bでは、M1-AKM(INS *)(INS *; Znを含まないApidraインスリン)を用いた。条件bでは、S2段階を省略し、5日目に直ちにS3培地に切り替えた。
【0243】
(10)膵臓分化のための改訂プロトコール(バージョン2、図9、10)
本発明者は、膵臓分化のためのMet、Zn除去培地であるAKM(IGF1 / Zn0.5)又はAK03Basic03 [AKM(INS)]を用いて、2つの公開されたプロトコール(Pagliuca et al., 2014、Velazco-Cruz 2019)を試験した。使用した培地は以下の通りであった。
【0244】
分化の開始は、5時間の完全又はメチオニン除去前処理の後、維持培地をM1-AKMと交換することによって行われた。3日目に、培地をS2-AKMと交換した。6日目に、S3-AKM培地と交換し、細胞を1日間培養した。その後7日目にS4-AKM培地に切り替えて5日間培養した。更にその後、12日目に、S5 AKM培地に切り替えた。19日目にS6培地に切り替えた。
【0245】
図9Aに示すように2つの条件を実施した。条件#1及び#2について、培地成分は以下の通りである。
S2 AKM培地: AKM (IGF1/Zn0.5)に、50 ng/mlのKGF (Wako)及び44 μg/mlのビタミンCを加えた。
S3 AKM培地: StemFit(登録商標)Basic03に、50ng/mlのKGF、0.25μMのSANT、2μMのレチノイン酸(RA)、及び 44 μ/ml ビタミンCを加えた。条件#1については、 500 nMのPdBU、100 nMのLDN193189、及び 10 μMのY27632を加えた。条件2については、代わりに50 nMのインドラクタムVを加えた。
S4 AKM培地: StemFit(登録商標)Basic03に、50 ng/mlのKGF、0.25 μMのSANT、100nMのRA、及び 44 μg/mlのビタミンCを加えた。条件#1については、100 μg/mlのアクチビンA、10μMのY27632を加えた。条件#2については、代わりに100 nMのLDN193189を加えた。
S5-1 AKM培地: StemFit(登録商標)Basic03に、10μMのAlk5i II、1μMのL-3,30,5-トリヨードサイロニン(T3)、100 nMのRA、及び44μg/mlのビタミンCを加えた。条件#1については、20 ng/mlのベータセルリン、1μMのGSXXiを加えた。条件#2については、代わりに33.3ng/mlのEGF、10μMのDAPTを加えた。
S5-2 AKM培地: StemFit(登録商標)Basic03に、10μMのAlk5i II、1 μMのT3、25nMのRA、及び44 μg/mlのビタミンCを加えた。条件#1については、20 ng/mlのベータセルリン、1μMのGSXXiを加えた。件#2については、代わりに33.3 ng/mlのEGF、10 μMのDAPTを加えた。
【0246】
S6 AKM培地については、6~8条件を試験した。
a-1: StemFit(登録商標)Basic03に10μMのAlk5i、1μMのT3を加えた。
a-2: StemFit(登録商標)Basic03 に10μMのZnSO4、Trace Element A & Bを加えた。
A-3: AKM (INS *)に、10 μMのZnSO4を加えた。
A-4: AKM (INS *)に、10 μMのZnSO4、1mMのNAC、10 μMのY27632、50 ng/mLのエキセンディン-4、Trace Element A & Bを加えた。
b-1: CMRLに、ウシ胎仔血清、10 μMのAlk5i、1 μMのT3を加えた。
b-2: CMRLに、ウシ胎仔血清、10 μMのZnSO4、Trace Element A & Bを加えた。
c: Essential 6に、10 μMのAlk5i、1 μMのT3、10 mMのニコチンアミド、 1mMのN-アセチル-L-システイン(NAC)、50 ng/mL のエキセンディン-4、10 μMのZnSO4を加えた。
d: MCDBに、0.046%のグルコース、ウシ血清アルブミン(BSA)、Glutamax、NEAA、10 μMの ZnSO4、 10 μg/mlのヘパリン、44 μg/mlのビタミンC、Trace Element A & Bを加えた。
【0247】
(11)IGF1、IGF2又はインスリンを含有するAKM培地中の異なるZn濃度下でのヒトiPS細胞の内胚葉分化
AK03Nを用いてSynthemaxIIコートプレート上で培養した未分化Ff-I01s01を解離し、6ウェル懸濁培養プレート上に5×10 6 cells /ウェルの密度で播種した。37℃で24時間、スフェアを形成するように、回転オービタルシェーカー上で95 rpmで回転させながら培養した。分化の開始は、AK03NをM1-StemFit(登録商標)Basic03又はM1-AKMと交換することによって行った。M1-StemFit(登録商標)Basic03又はM1-AKMは、IGF1、IGF2又はINS *を含み、異なるZn濃度のZnが補充されている。
【0248】
1日目、2日目及び3日目に使用されたZnの濃度は、(x_y_z)μMとして示される。遺伝子発現分析のために、3日目に細胞を集め、mRNAを抽出し、リアルタイムPCR分析に供した。リアルタイムPCR分析では、PrimerArray(登録商標)Embryonic Stem Cells (ACTB、GAPDH、POU5F1、SOX2、NANOG、CD34、PAX6、GATA4、及びGATA6) に列挙される特異的プライマー、又はカスタムオーダーで(GBX 2)Takara社によって作られた特異的プライマーを用いた。GBX2のプライマー配列は、以下の通りであった:フォワードプライマー、CAGGCAATGCCAATTCCAAG(配列番号29);リバースプライマー、CCTGTTCTAGCTGCTGATGCTGAC(配列番号30)。
【0249】
(12)ヒト膵島
非糖尿病性ヒト膵島は、Prodo Laboratoriesから入手し、Prodo Islet Medium(Prodo Laboratories)で培養した。ドナー情報は以下の通りである。年齢、56歳;性別、男性;民族性、白人;体重指数、13.7;糖尿病、病歴なし;ヘモグロビンA1c、5.0%。
【0250】
(13)Zn及び重金属含量分析
以前記述したように(Arakawa et al, 2016)、味の素社におけるICP-MS(Inductively Coupled Plasma -Mass Spectrometry)に連結した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(HPLC-ICP-MS)を用いて、細胞内遊離及びタンパク質結合重金属(Zn、Co、Fe、Mg、Ca)含量を測定した。培地中の重金属の含量をchelex100処理の前後で測定し、その後、重金属を加えた。但し、ΔZn培地の作製では、Znを加えなかった。
【0251】
(14)免疫細胞化学
細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒド(Nacalai Tesque)で固定し、0.1%Triton X-100(Nacalai Tesque)で透過処理し、次いで、PBST(PBS中に0.1%Tween-20を含む)中の20%Blocking One(Nacalai Tesque, Japan)でブロッキングを行った。抗体をPBST(PBS中に0.1%Tween-20を含む)中の20%Blocking One(Nacalai tesque, Japan)で希釈した。細胞を6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(Roche Diagnostics, Switzerland)で対比染色した。
【0252】
以下の一次抗体を使用した:マウス抗Oct3 / 4(Santa Cruz)、ヤギ抗Sox17(R&D Systems)、ヤギ抗PDX1(R&D Systems)、モルモット抗インスリン(Dako)、ウサギ抗C- ペプチド(Cell Signaling)、マウス抗Nkx6.1(Developmental Studies Hybridoma Bank)。使用した二次抗体は、Alexa488結合ロバ抗マウスIgG抗体、Alexa488結合ロバ抗モルモットIgG抗体、Alexa488標識ロバ抗ウサギIgG抗体、Alexa568標識ロバ抗ヤギIgG抗体、及びAlexa 568標識ロバ抗マウスIgG抗体(Invitrogen)である。陽性細胞対全細胞(DAPI-陽性細胞)を、ImageXpress Micro細胞イメージングシステム(Molecular Devices)を用いて定量した。
【0253】
(15)リアルタイムRT-PCR分析
RNeasyマイクロキット又はAll prep(DNA / RNA)マイクロキット(Qiagen, Germany)を用いてiPS細胞からRNAを抽出し、DNase(Qiagen)で処理した。逆転写反応のために、PrimeScript(登録商標)RT Master Mix(Takara, Japan)を用いて1μgのRNAを逆転写した。リアルタイムPCR分析のために、mRNA発現をStepOne Plus(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いてSyberGreenで定量した。PCR条件は以下の通りであった:95℃で30秒間の初期変性、続いて95℃で5秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング及び伸長、40サイクル行った。標的mRNAレベルは任意単位として表され、ΔΔCT法を用いて決定された。
【0254】
PrimerArray Embryonic Stem Cells (Human) (TaKaRa #PH016, Kyoto)を使用した。このプライマーセットは、胚性幹細胞の多能性と自己増殖に関連する88の遺伝子と8のハウスキーピング遺伝子のリアルタイムRT-PCR分析に最適化されたプライマー対を含む。
【0255】
SLC30A及びSLC39A遺伝子のプライマー配列は、下表及び配列番号1~28に記載されている。
【表1】
【0256】
(16)Affymetrixマイクロアレイ分析
GeneChip(登録商標)Human Gene 2.0 STアレイ(Applied Biosystems)を用いて、ヒトiPSC由来の分化細胞である分化3日目のDE細胞、分化5日目のPG細胞、分化11日目のPP細胞、及び分化25日目のEC細胞を比較した。 GeneChip(登録商標)Human Genome U133 Plus 2.0 Array(Applied Biosystems)、GeneChip(登録商標)Human Gene 2.0 ST Array(Applied Biosystems)、又はHuman Transcriptome Array (HTA) 2.0 (Applied Biosystems)を用いて、メチオニン除去又は対照の完全培地下で培養した未分化ヒトESC(KhES3)又は201B7 hiPSCの発現プロフィールを比較した。#1 201B7_CSTI7_ST Array及び#2 khES3_CSTI7_U133 Array (GSE55285)の比較:細胞を、ReproFF(ReproCELL)を含むマトリゲルコートディッシュ上で培養し、対照の完全CSTI-7培地(Cell Science&Technology Institute)又はMet除去CSTI-7培地で5時間培養した。#3 201B7_StemFit_HTAの比較:細胞を、SynthemaxIIコーティングディッシュ上で、対照の完全AK02N又はMet除去StemFit培地(KA01)中で培養した。
【0257】
(17)主成分分析
結果を視覚化し、未分化細胞、hiPSC由来分化細胞(分化3日目のDE細胞、分化5日目のPG細胞、分化11日目のPP細胞、分化25日目のEC細胞)における発現プロファイルをマッピングするために、Principal Component Analysis(PCA)を行った(図1C)。図2Dは、アミノ酸単独除去培地中で5時間培養した未分化細胞のうち、胚性幹細胞の多能性及び自己複製に関連する88の遺伝子及び8のハウスキーピング遺伝子を用いたPCA分析を示す。PCAはJMPソフトウェア(SAS Institute Japan)を用いて行った。
【0258】
(18)C-ペプチド放出及び含量アッセイ
C-ペプチド放出及び含量アッセイは、以前に記載された方法(Sakano et al., 2014)にわずかな変更を加えた方法に従って実施した。簡潔に述べると、分化した細胞を、低グルコース培地、即ち、3mMグルコース及び0.2%BSAを含むDMEM(Life Technologies)を用いて37℃で2時間プレインキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、次いで低グルコース培地を用いて37℃で1時間インキュベートした。培養液を回収し、同じ細胞を高グルコース培地、即ち、20mMグルコース及び0.2%BSAを含むDMEMを用いて37℃でさらに1時間インキュベートした。培養液を回収し、分析まで-80℃で保存した。次に、細胞を溶解し、AllPrep DNA / RNA Micro Kit(Qiagen)を用いてRNA及びDNAの両方を精製した。
【0259】
ヒトC-ペプチドELISAキット(Shibayagi, Japan)を用いて培地へのC-ペプチド分泌を測定した。C-ペプチドの量を、対応する細胞溶解物中の全DNA量の量に対して正規化した。
【0260】
(19)新しいGSISの方法
分化した細胞をトランスウェル(Corning#3415)に入れ、次いで、オービタルシェーカー(70rpm)上、0.2%BSAを含む低グルコース(3mM)HKRB緩衝液(HEPES Krebs-Ringer bicarbonate緩衝液、Cosmo Bio)中、37℃で、4×10分+30分、プレインキュベートした。緩衝液を回収し(低グルコース)、同じ細胞を、オービタルシェーカー(70rpm)上、0.2%BSAを含む高グルコース(20mM)HKRB緩衝液中、37℃で、さらに1時間インキュベートした。高グルコース緩衝液中での1時間のインキュベーションの間、10分及び30分において、10%の上清を回収し、次いで同じ容量の高グルコース緩衝液を戻した。回収した培養上清を分析まで-30℃で保存した。次に、細胞を溶解し、RNA及びDNAをAllPrep DNA / RNA Micro Kit(Qiagen)を用いて精製した。
C-ペプチド分泌を、ヒトC-ペプチドELISAキット(Mercodia)を用いて測定した。C-ペプチドの量を、対応する細胞溶解物中の全DNAの量に対して正規化した。
【0261】
(20)統計
データは平均±SEMとして表す。グループ間の差は、スチューデントのt検定又は一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定によって分析した。それぞれの統計分析及びP値は、各図の説明に記載されている。スチューデントのt検定による*p<0.05、**p<0.01、又は***p<0.005;一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定による§P<0.05又は§§P<0.01が有意であるとみなされる。
【0262】
〔参考文献〕
Andrews, G.K., Wang, H., Dey, S.K., and Palmiter, R.D. (2004). Mouse zinc transporter 1 gene provides an essential function during early embryonic development. Genesis 40, 74-81.
Mitsui, K., Tokuzawa, Y., Itoh, H., Segawa, K., Murakami, M., Takahashi, K., Maruyama, M., Maeda, M., and Yamanaka, S. (2003). The homeoprotein Nanog is required for maintenance of pluripotency in mouse epiblast and ES cells. Cell 113, 631-642.
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Shahjalal, H.M., Shiraki, N., Sakano, D., Kikawa, K., Ogaki, S., Baba, H., Kume, K., and Kume, S. (2014). Generation of insulin-producing β-like cells from human iPS cells in a defined and completely xeno-free culture system. J. Mol. Cell Biol. 0, 1-15.
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Yoshioka, N., Gros, E., Li, H.R., Kumar, S., Deacon, D.C., Maron, C., Muotri, A.R., Chi, N.C., Fu, X.D., Yu, B.D., et al. (2013). Efficient generation of human iPSCs by a synthetic self-replicative RNA. Cell Stem Cell 13, 246-254.
Zhu, S., Russ, H.A., Wang, X., Zhang, M., Ma, T., Xu, T., Tang, S., Hebrok, M., and Ding, S. (2016). Human pancreatic beta-like cells converted from fibroblasts. Nat. Commun. 7, 10080.
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0263】
本発明は、多能性幹細胞から膵臓、肝臓、腸などの細胞への分化を促進する方法なので、このような細胞を使用する産業分野において利用可能である。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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