(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】動物用飼料、食品素材、および酵母細胞壁の抽出方法
(51)【国際特許分類】
A23K 10/35 20160101AFI20240411BHJP
A23L 31/15 20160101ALI20240411BHJP
A23K 50/10 20160101ALI20240411BHJP
A23K 50/30 20160101ALI20240411BHJP
A23K 50/75 20160101ALI20240411BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20240411BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A23K10/35
A23L31/15
A23K50/10
A23K50/30
A23K50/75
A23K50/80
C12N1/16 D
(21)【出願番号】P 2023001962
(22)【出願日】2023-01-10
【審査請求日】2023-10-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】592172574
【氏名又は名称】明治飼糧株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 善則
(72)【発明者】
【氏名】大谷 喜永
(72)【発明者】
【氏名】岩下 有宏
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-035005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/35
A23L 31/00-33/29
A23K 50/10-50/80
C12N 1/16
C12P 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁である動物用飼料であって、
前記動物が、乳牛、肉牛、羊、豚、鶏、および魚類からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、下記数式(F1)および下記数式(F2)で示す両方の条件を満たす、
動物用飼料。
G
YPD/G > 1 ・・・(F1)
C
YPD/C < 1 ・・・(F2)
G:前記酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C:前記酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
G
YPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C
YPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
【請求項2】
請求項1に記載の動物用飼料において、
前記G
YPD/Gの値が、1.19以上であり、
前記C
YPD/Cの値が、0.98以下である、
動物用飼料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の動物用飼料において、
前記芋類が、ジャガイモ、サツマイモ、キクイモ、アピオス、タロイモ、サトイモ、コンニャクイモ、ヤムイモ、キャッサバ、ナガイモ、およびヤマノイモからなる群から選択される少なくとも1つである、
動物用飼料。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の動物用飼料において、
前記動物が、乳牛、肉牛、羊、
および豚からなる群から選択される少なくとも1つである、
動物用飼料。
【請求項5】
芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁である食品素材であって、
前記酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、下記数式(F1)および下記数式(F2)で示す両方の条件を満たす、
食品素材。
G
YPD/G > 1 ・・・(F1)
C
YPD/C < 1 ・・・(F2)
G:前記酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C:前記酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
G
YPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C
YPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
【請求項6】
芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を、でんぷん分解酵素と酵母とでエタノール発酵しつつ、前記酵母を培養して、エタノール発酵物を得る工程と、
前記エタノール発酵物から前記酵母を分離する工程と、
前記酵母から、下記条件1を満たす酵母細胞壁を抽出する工程と、を備え
、
前記酵母細胞壁が、動物用飼料または食品素材であり、
前記動物が、乳牛、肉牛、羊、豚、鶏、および魚類からなる群から選択される少なくとも1つである、
酵母細胞壁の抽出方法。
(条件1)
前記酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、下記数式(F1)および下記数式(F2)で示す両方の条件を満たす。
G
YPD/G > 1 ・・・(F1)
C
YPD/C < 1 ・・・(F2)
G:前記酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C:前記酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
G
YPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C
YPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用飼料、食品素材、および酵母細胞壁の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芋類からでんぷんを取り出した後の残渣の利用方法として、動物用飼料などが検討されている。例えば、特許文献1には、キャッサバ残渣をでんぷん分解酵素と微生物とで発酵処理する、動物または魚類用飼料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の動物または魚類用飼料の製造方法によれば、従来は用途のなかったキャッサバ残渣などを利用した動物用飼料を得られる。しかしながら、特許文献1においては、この動物用飼料中の有効成分についての知見はなかった。
【0005】
本発明は、免疫細胞の増殖、または、免疫を調節できる動物用飼料、食品素材、および酵母細胞壁の抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、以下の動物用飼料、食品素材、および酵母細胞壁の抽出方法が提供される。
[1] 芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁である動物用飼料であって、
前記酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、下記数式(F1)および下記数式(F2)で示す両方の条件を満たす、
動物用飼料。
GYPD/G > 1 ・・・(F1)
CYPD/C < 1 ・・・(F2)
G:前記酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C:前記酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
GYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
CYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
[2] [1]に記載の動物用飼料において、
前記GYPD/Gの値が、1.19以上であり、
前記CYPD/Cの値が、0.98以下である、
動物用飼料。
[3] [1]または[2]に記載の動物用飼料において、
前記芋類が、ジャガイモ、サツマイモ、キクイモ、アピオス、タロイモ、サトイモ、コンニャクイモ、ヤムイモ、キャッサバ、ナガイモ、およびヤマノイモからなる群から選択される少なくとも1つである、
動物用飼料。
[4] [1]から[3]のいずれかに記載の動物用飼料において、
前記動物が、乳牛、肉牛、羊、豚、鶏、および魚類からなる群から選択される少なくとも1つである、
動物用飼料。
[5] 芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁である食品素材であって、
前記酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、下記数式(F1)および下記数式(F2)で示す両方の条件を満たす、
食品素材。
GYPD/G > 1 ・・・(F1)
CYPD/C < 1 ・・・(F2)
G:前記酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C:前記酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
GYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
CYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
[6] 芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を、でんぷん分解酵素と酵母とでエタノール発酵しつつ、前記酵母を培養して、エタノール発酵物を得る工程と、
前記エタノール発酵物から前記酵母を分離する工程と、
前記酵母から、下記条件1を満たす酵母細胞壁を抽出する工程と、を備える、
酵母細胞壁の抽出方法。
(条件1)
前記酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、下記数式(F1)および下記数式(F2)で示す両方の条件を満たす。
GYPD/G > 1 ・・・(F1)
CYPD/C < 1 ・・・(F2)
G:前記酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C:前記酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
GYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
CYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、免疫細胞の増殖、または、免疫を調節できる動物用飼料、食品素材、および酵母細胞壁の抽出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1および比較例1で得られた酵母細胞壁(CPおよびYPD)中のβ-グルカンの含量を示すグラフである。
【
図2】実施例2および比較例2で得られた酵母細胞壁(SPおよびYPD)中のβ-グルカンの含量を示すグラフである。
【
図3】実施例1および比較例1で得られた酵母細胞壁(CPおよびYPD)中のキチンの含量を示すグラフである。
【
図4】実施例2および比較例2で得られた酵母細胞壁(SPおよびYPD)中のキチンの含量を示すグラフである。
【
図5】実施例1で得られた酵母細胞壁(P.Kudriavzevii)と、試薬(Concanavalin AおよびZymosan)を用いて、末梢血単核細胞(PBMC)を生育したときの細胞増殖の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1で得られた酵母細胞壁(P.Kudriavzevii)と、酵母細胞壁の試薬(Zymosan)を用いた場合におけるサイトカイン(腫瘍壊死因子、TNFa)への影響を評価した結果を示すグラフである。
【
図7】実施例1で得られた酵母細胞壁(P.Kudriavzevii)と、酵母細胞壁の試薬(Zymosan)を用いた場合におけるサイトカイン(インターロイキン-1β、IL-1b)への影響を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[動物用飼料]
まず、本実施形態に係る動物用飼料について説明する。本実施形態に係る動物用飼料は、芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁である動物用飼料である。
そして、この酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、下記数式(F1)および下記数式(F2)で示す両方の条件を満たすことが必要である。
GYPD/G > 1 ・・・(F1)
CYPD/C < 1 ・・・(F2)
G:前記酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C:前記酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
GYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
CYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
【0010】
GYPD/Gの値が1以下の場合には、動物用飼料における免疫細胞の増殖効果が不十分となる。また、同様の観点から、GYPD/Gは、1.05以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.19以上であることが特に好ましい。GYPD/Gの値の上限値は、特に制限されない。例えば、GYPD/Gの値は、10以下であってもよく、5以下であってもよい。
【0011】
なお、CYPD/Cの値は、0.98以下であることが好ましく、0.94以下であることがより好ましい。CYPD/Cの下限値は、特に制限されない。例えば、CYPD/Cの値は、0.1以上であってもよく、0.2以上であってもよい。
【0012】
GYPD/Gの値とCYPD/Cの値を前記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述する本実施形態に係る酵母細胞壁の抽出方法を採用することが挙げられる。
【0013】
本実施形態に係る動物用飼料は、乳牛、肉牛、羊、豚、鶏、および魚類からなる群から選択される少なくとも1つの動物に使用することが好ましい。
【0014】
本実施形態に用いる芋残渣は、芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である。
芋類としては、ジャガイモ、サツマイモ、キクイモ、アピオス、タロイモ、サトイモ、コンニャクイモ、ヤムイモ、キャッサバ、ナガイモ、およびヤマノイモなどが挙げられる。これらの中でも、原料入手の観点から、サツマイモ、またはキャッサバが好ましい。
【0015】
本実施形態に用いる酵母は、特に限定されない。酵母としては、ピキア・クドリアブゼビ(P.kudriavzevii)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、およびクリベロミセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)などが挙げられる。
【0016】
[酵母細胞壁の抽出方法]
次に、本実施形態に係る酵母細胞壁の抽出方法について説明する。本実施形態に係る酵母細胞壁の抽出方法は、芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を、でんぷん分解酵素と酵母とでエタノール発酵しつつ、前記酵母を培養して、エタノール発酵物を得る工程(以下、「第一工程」とも称する)と、前記エタノール発酵物から前記酵母を分離する工程(以下、「第二工程」とも称する)と、前記酵母から、下記条件1を満たす酵母細胞壁を抽出する工程(以下、「第三工程」とも称する)と、を備える方法である。
(条件1)
前記酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、前記数式(F1)および前記数式(F2)で示す両方の条件を満たす。
【0017】
本実施形態に係る酵母細胞壁の抽出方法によれば、前述の本実施形態に係る動物用飼料を効率よく、作製できる。
【0018】
第一工程においては、まず、芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を準備する。
芋類としては、前述のとおりである。
芋残渣の水分含有量は、特に限定されない。ただし、糖化発酵の観点からは、芋残渣の水分含有量は、30質量%以上であることが好ましい。
芋残渣としては、乾燥した芋残渣を使用してもよい。乾燥した芋残渣を使用する場合は、水を加え、芋残渣の水分含有量を調整すればよい。また、乾燥した芋残渣を、でんぷん搾取後の高水分含有の芋残渣に混合して使用してもよい。
【0019】
第一工程においては、次に、芋残渣を、でんぷん分解酵素と酵母とでエタノール発酵しつつ、酵母を培養して、エタノール発酵物を得る。
芋残渣は、そのまま発酵処理してもよいが、芋残渣に残存するでんぷんを糊化するため、発酵処理の前に加熱処理することが好ましい。加熱条件としては、加熱温度が60℃以上であることが好ましく、加熱時間が5分間以上であることが好ましい。加熱温度が60℃以上であれば、芋残渣に残存するでんぷんの糊化効率を高めることができる。加熱時間は、特に限定されず、加熱温度を考慮して適宜設定できる。
【0020】
でんぷん分解酵素による処理と、酵母による発酵処理とは、別々に行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0021】
酵母は、前述のとおりである。
でんぷん分解酵素は、特に限定されるものではなく、でんぷんを分解する酵素であればよい。でんぷん分解酵素としては、α-アミラーゼ、およびグルコアミラーゼなどが挙げられる。また、芋残渣の粘性を下げるために、でんぷん分解酵素以外に、ペクチナーゼ、またはセルラーゼなどを併用してもよい。
【0022】
α-アミラーゼの添加量は、芋残渣固形分1g当たり、9×10-5ユニット(以下、「U」とも称する)以上600U以下であることが好ましく、8×10-3U以上20U以下であることがより好ましい。グルコアミラーゼは、芋残渣固形分1g当たり、3×10-4U以上200U以下であることが好ましく、3×10-2U以上0.2U以下であることがより好ましい。
セルラーゼを用いる場合、その添加量は、芋残渣固形分1g当たり、1×10-4U以上100U以下で添加することが好ましい。ペクチナーゼを用いる場合、その添加量は、芋残渣固形分1g当たり、1×10-3U以上1000U以下であることが好ましく、1×10-1U以上1U以下であることがより好ましい。
【0023】
第二工程においては、エタノール発酵物から酵母を分離する。
エタノール発酵物に含まれるエタノールなどの液体成分は、エタノール発酵物を圧搾する方法、および、エタノール発酵物を加熱する方法の少なくとも一方を行うことにより、除去できる。
エタノール発酵物から液体成分を除去すれば、酵母を分離できる。
【0024】
第三工程においては、酵母から、酵母細胞壁を抽出する。
酵母細胞壁を抽出するためには、まず、温度50℃で10時間以上インキュベートすることで自己融解を生じさせた後、酵母を粉砕して、粉砕物を得ることが好ましい。
粉砕方法は、乾式粉砕であってよく、湿式粉砕であってもよい。粉砕装置としては、ビーズミル、ボールミル、およびコロイドミルなどが挙げられる。
そして、得られた粉砕物を、エタノールなどで洗浄し、その後、固形分を沈殿させることで、酵母細胞壁を画分して、酵母細胞壁を抽出できる。
以上のようにして、前記条件1を満たす酵母細胞壁を抽出できる。
【0025】
[食品素材]
次に、本実施形態に係る食品素材について説明する。本実施形態に係る食品素材は、前述の本実施形態に係る動物用飼料と同様のものである。
前述のとおり、本実施形態に係る動物用飼料は、免疫細胞の増殖、または、免疫を調節できる。そのため、食品素材としても、健康増進などの効果が見込める。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
乾燥したキャッサバ残渣20gと純水80gを混合して、水分含有量80質量%のキャッサバ残渣を得た。得られたキャッサバ残渣に、キャッサバ残渣固形分1gあたり、8~10ユニットのα-アミラーゼを添加し、温度30~100℃、0.4~1時間の条件で加熱処理を行い、その後、冷却して、培地を得た。
得られた培地に、酵素カクテル(グルコアミラーゼ1.28ユニット、ペクチナーゼ4.0ユニット、セルラーゼ0.46ユニット、および窒素源(酵母エキス+ペプトン)を添加し、さらに、酵母としてピキア・クドリアブゼビ(P.kudriavzevii)を接種して、温度30~40℃、攪拌回転数50~150rpm、24~40時間の条件で酵母を培養して、エタノール発酵物を得た。
次に、得られたエタノール発酵物を圧搾して、エタノールを含む液体を除去して、酵母を分離した。そして、分離した酵母を、自己融解してビーズミルを用いて、粉砕した後に、エタノールで洗浄し、その後、固形分を沈殿させることで、酵母細胞壁を画分して、酵母細胞壁を抽出した。
【0028】
[実施例2]
乾燥したキャッサバ残渣20gに代えて、乾燥したサツマイモ残渣20gを用いた以外は、実施例1と同様にして、培地および酵母細胞壁を得た。
【0029】
[比較例1]
培地として、YPD培地を用いた以外は、実施例1と同様にして、酵母細胞壁を得た。
【0030】
[比較例2]
培地として、YPD培地を用いた以外は、実施例2と同様にして、酵母細胞壁を得た。
【0031】
[酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量の測定]
実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で得られた酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を、次のようにして、測定した。
β-グルカンは、Megazyme社製のEnzymatic yeast beta glucan assay procedure(K-EBHLG)を用いて測定した。
キチンは、下記参考文献1および2に従って、MBTH(3-methyl-benzothiazolinone hydrazone hydrochloride)法を用いて測定した。
参考文献1:Tsuji A, Kinoshita T, Hoshino M. 1969. Analytical chemical studies on amino sugars. II. Determination of hexosamines using 3-methyl-2-benzothiazolone hydrazone hydrochloride. Chem Pharm Bull (Tokyo)17:1505-1510.
参考文献2:Tsuji A, Kinoshita T, Hoshino M. 1969. Microdetermination of hexosamines. Chem Pharm Bull (Tokyo) 17:217-218.
【0032】
実施例1および比較例1で得られた酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量を、
図1に示す。また、実施例2および比較例2で得られた酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量を、
図2に示す。
実施例1および比較例1で得られた酵母細胞壁中のキチンの含量を、
図3に示す。実施例2および比較例2で得られた酵母細胞壁中のキチンの含量を、
図4に示す。
なお、
図1~
図4において、実施例1は、キャッサバ残渣を原料とする培地を用いているので、CPと表記し、実施例2は、サツマイモ残渣を原料とする培地を用いているので、SPと表記した。また、比較例1および比較例2は、YPD培地を用いているので、YPDと表記した。
また、
図1、
図2および
図4では、エラーバーで結果を表記した。
図3では、1回目の試験結果を左側に記載し、2回目の試験結果を右側に記載した。
【0033】
図1および
図3に示す結果から、実施例1で得られた酵母細胞壁においては、G
YPD/Gの値が1超であり、C
YPD/Cの値が1未満であることが確認された。
また、
図2および
図4に示す結果から、実施例2で得られた酵母細胞壁においては、G
YPD/Gの値が1超であり、C
YPD/Cの値が1未満であることが確認された。
【0034】
[末梢血単核細胞の生育の評価]
実施例1で得られた酵母細胞壁、Concanavalin A(富士フイルム和光純薬株式会社製)、およびZymosan(富士フイルム和光純薬株式会社製)について、これらの末梢血単核細胞(以下、「PBMC」とも称する)の生育への影響を、以下のようにして評価した。
すなわち、ウシ血液からPBMCを分離し、培養したものを試料とした。この試料に、酵母細胞壁や試薬を添加し、温度37℃、72時間の条件で、PBMCを増殖させた。そして、増殖後の試料について、Cell Counting Kit 8(同仁化学研究所社製)を加えて450nmの吸光度(A450)を測定することで、PBMCの生育を評価した。
【0035】
得られた結果を、
図5に示す。なお、
図5において、実施例1は、酵母としてピキア・クドリアブゼビを用いているので、P.kudriavzeviiと表記し、試料に酵母細胞壁や試薬を添加しなかった例はControlと表記し、それ以外は、それぞれ試薬名の略称を表記した。なお、略称は、以下のとおりである。
ConA: Concanavalin A(3μg/mL)
Zymosan: β-glucan 標品(100ug/mL)
CP:キャッサバ残渣
図5に示す結果から、実施例1で得られた酵母細胞壁は、酵母細胞壁の試薬であるZymosanと比較して、PBMCの増殖効果がかなり高いことが確認された。また、実施例1で得られた酵母細胞壁は、免疫細胞の活性化試薬であるConcanavalin Aと比較して、PBMCの増殖効果が高いことが確認された。
【0036】
[サイトカインへの影響の評価]
実施例1で得られた酵母細胞壁、およびZymosan(富士フイルム和光純薬株式会社製)について、これらのサイトカインへの影響を、以下のようにして評価した。なお、サイトカインとして、腫瘍壊死因子(TNFα)と、インターロイキン-1β(IL-1b)について、評価を行った。
すなわち、ウシ血液から分離したPBMCに酵母細胞壁およびZymosanを添加し、温度37℃、6時間の条件で刺激を行い、RNAを抽出した後に定量PCR法にて標準遺伝子であるβ-Actinに対する各サイトカインの遺伝子発現量を測定することで、酵母細胞壁のサイトカイン産生に対する影響を評価した。
【0037】
実施例1で得られた酵母細胞壁と、酵母細胞壁の試薬を用いた場合における腫瘍壊死因子(TNFα)への影響を評価した結果を、
図6に示す。
実施例1で得られた酵母細胞壁と、酵母細胞壁の試薬を用いた場合におけるインターロイキン-1β(IL-1b)への影響を評価した結果を、
図7に示す。
なお、
図6および
図7において、実施例1は、酵母としてピキア・クドリアブゼビを用いているので、P.kudriavzeviiと表記し、Zymosanは、試薬名を表記した。また、酵母細胞壁を使用しなかった例は、Controlと表記した。
【0038】
図6および
図7に示す結果から、実施例1で得られた酵母細胞壁は、酵母細胞壁の試薬であるZymosanと比較して、遺伝子発現が抑制できることが確認された。また、実施例1で得られた酵母細胞壁は、酵母細胞壁を使用しなかった場合(Control)と比較して、遺伝子発現が抑制できることが確認された。よって、実施例1で得られた酵母細胞壁によれば、免疫を調節できることが確認された。
【要約】
【課題】免疫細胞の増殖、または、免疫を調節できる動物用飼料を提供すること。
【解決手段】芋類からでんぷんを取り出した後の残渣である芋残渣を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁である動物用飼料であって、前記酵母細胞壁中のβ-グルカンおよびキチンの含量を測定した場合に、下記数式(F1)および下記数式(F2)で示す両方の条件を満たす、動物用飼料。
GYPD/G > 1 ・・・(F1)
CYPD/C < 1 ・・・(F2)
G:前記酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
C:前記酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
GYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のβ-グルカンの含量(質量%)
CYPD:YPD培地を用いて培養した酵母から抽出した酵母細胞壁中のキチンの含量(μmol/mg)
【選択図】なし